(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】偏光サングラスレンズ
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20240711BHJP
G02C 7/10 20060101ALI20240711BHJP
G02C 7/12 20060101ALI20240711BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
G02B5/30
G02C7/10
G02C7/12
B29C45/14
(21)【出願番号】P 2019117466
(22)【出願日】2019-06-25
【審査請求日】2022-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】520303232
【氏名又は名称】三菱ガス化学トレーディング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148862
【氏名又は名称】赤塚 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179811
【氏名又は名称】石井 良和
(74)【代理人】
【識別番号】100120570
【氏名又は名称】中 敦士
(72)【発明者】
【氏名】穂苅 遼平
(72)【発明者】
【氏名】栗原 一真
(72)【発明者】
【氏名】高桑 恭平
(72)【発明者】
【氏名】山本 明孝
(72)【発明者】
【氏名】山口 祐介
【審査官】池田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-073484(JP,A)
【文献】特開2013-200482(JP,A)
【文献】国際公開第2015/056801(WO,A1)
【文献】特開2009-244312(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0283957(US,A1)
【文献】米国特許第06231183(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0234724(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
G02C 7/10
G02C 7/12
B29C 45/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤグリッド型の偏光素子シート(W)の裏面側と表面側の少なくともいずれか一の面に透明性を有するレンズ用樹脂層が積層されている、偏光サングラスレンズであって、
偏光素子シート(W)は、透明性を有するシート(A)を基材として用いて、その表面に同じ向きかつ同じ周期で一次元格子状に設けられた多数の溝部(C)に、金属反射体(B)が埋め込まれていて、該金属反射体(B)は、
シート(A)の表面側から裏面側への厚み方向において幅が一定である金属反射部(H)と、
該金属反射部(H)の厚み方向先端の突出開始部から先端方向に突出するように形成されていて、かつ前記一次元格子状
の配列の長手方向と垂直の断面、又は前記一次元格子状
の配列の長手方向と平行でシート(A)に垂直の断面の少なくともいずれか一方の断面における形状が最先端方向にいくほど突出開始部の幅から直線状に徐々に細くなっていって最先端部で交叉している形状である先端部(D)とからなり、
前記金属反射部(H)の平均幅(a)が200nm以下であり、
シート(A)の表面側から裏面方向の先端部(D)の最先端部までの金属反射体(B)の平均厚み(b)と前記金属反射部(H)の平均幅(a)の比(b/a)が4~25の範囲内であり、
前記先端部(D)における突出開始部から裏面方向の最先端部までの平均長さ(c)と、前記金属反射体(B)の平均厚み(b)との比(c/b)が0.127以上0.315以下であり、
前記先端部(D)における突出開始部から裏面方向の最先端部までの平均長さ(c)と突出開始部の平均幅(a)との比(c/a)が1.2以上4.7以下であり、
前記先端部(D)におけるいずれかの断面形状が、以下の(i)から(iii)に示すいずれかの略二等辺三角形状を有しており、
(i)前記一次元格子状
の配列の長手方向と垂直の任意の断面形状において、底辺が突出開始部に位置して頂点が最先端方向に位置する略逆二等辺三角形の形状、
(ii)前記一次元格子状
の配列の長手方向と平行でかつシート(A)表面と垂直の断面の形状において、前記一次元格子状
の配列の長手方向と平行方向に連続した三角波の形状で、該三角波の形状は底辺が突出開始部に位置して頂点が最先端方向に位置する、各三角波が略逆二等辺三角形の形状、又は、
(iii) 底面が突出開始部に位置し、かつ長辺が交差する頂点が最先端方向に位置する略正四角錐の形状体が前記一次元格子状
の配列の長手方向と平行方向に連続して配置されている形状、
かつ偏光素子シート(W)の裏面側が接眼側に配置されていることを特徴とする、
偏光サングラスレンズ。
【請求項2】
前記金属反射体(B)において、先端部(D)の形状は、
(i)先端部(D)の形状を、前記一次元格子状
の配列の長手方向と垂直の任意の断面形状において、底辺が突出開始部に位置して頂点が
最先端方向に位置する略逆二等辺三角形の形状とし、更に、
前記一次元格子状
の配列の長手方向と平行でかつシート(A)表面と垂直の断面形状において、各先端部(D)における突出開始部から最先端部までの長さが、前記一次元格子状
の配列の長手方向と平行方向に略一定である形状、もしくは規則的もしくは不規則的に連続して変化している形状、
(ii)先端部(D)の形状を、前記一次元格子状
の配列の長手方向と平行でかつシート(A)表面と垂直の断面の形状において、前記一次元格子状
の配列の長手方向と平行方向に連続した三角波の形状で、該三角波の形状は底辺が突出開始部に位置して頂点が最先端方向に位置する、各三角波が略逆二等辺三角形の形状とし、更に、
前記断面形状において、連続した三角波の形状における、突出開始部である底辺から最先端部までの長さが、前記一次元格子状
の配列の長手方向と平行方向に一定で連続している形状、もしくは不規則的に連続して変化している形状、又は
(iii)先端部(D)の形状を、底面が突出開始部に位置し、かつ長辺が交差する頂点が最先端方向に位置する略正四角錐の形状体が前記一次元格子状
の配列の長手方向と平行方向に連続して配置されている形状とし、更に、
連続した先端部(D)における、突出開始部である底面から最先端部までの長さが、各略正四角錐の形状体間で、前記一次元格子状
の配列の長手方向と平行方向で一定で連続して配置されている形状、もしくは規則的もしくは不規則的に連続して変化して配置されている形状である、
請求項1に記載の偏光サングラスレンズ。
【請求項3】
前記シート(A)が、ポリカーボネート系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリシクロオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、セルロース系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリアリレート系樹脂、及びポリサルフォン系樹脂から選択されるシートである、
請求項1
又は2に記載の偏光サングラスレンズ。
【請求項4】
前記金属反射体(B)がアルミニウム、ニッケル、クロム、白金、パラジウム、チタン、金、銀、銅、及びこれらの合金の内のいずれか1又は2以上の混合体である、
請求項1から
3のいずれか1項に記載の偏光サングラスレンズ。
【請求項5】
前記金属反射体(B)が金属微粒子の焼成体からなる金属反射体である、
請求項1から
4のいずれか1項に記載の偏光サングラスレンズ。
【請求項6】
前記偏光素子シート(W)の裏面側と表面側の両面に透明性を有するレンズ用樹脂層が積層されている、請求項1から
5のいずれか1項に記載の偏光サングラスレンズ。
【請求項7】
前記偏光サングラスレンズの凸面側と凹面側のそれぞれに外層としてハードコート層が設けられている、請求項1から
6のいずれか1項に記載の偏光サングラスレンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤグリッド型の偏光素子シートの片面又は両面に透明性を有するレンズ用樹脂層が積層された偏光サングラスレンズに関する。
【背景技術】
【0002】
偏光板は、優れた防眩性を有することから、サングラス、ゴーグル、眼鏡等に用いられている。このような偏光板には、吸収型の偏光素子として、一軸に延伸されたポリビニルアルコール等の高分子フィルムにヨウ素や二色性色素を吸着・配向させてなる偏光性薄膜の片面または両面にアクリル系シート又はセルロース系シートを保護層として積層一体化させたものが広く使用されてきた。
【0003】
サングラスやゴーグル等に用いられるプラスチック製偏光レンズは、吸収型の偏光素子を用いて、下記(i)~(iii)に示す方法で作られることが知られていた。
(i)吸収型の偏光素子の薄膜の両面に保護層としてトリアセチルセルロース(TAC)シートを粘着一体化させた偏光板を熱成形によりレンズ状に加工し、その後に、アリルジグリコールカーボネート(ADC、又はCR39と称される)モノマーなどで注型重合により積層一体化する。この方法で得られた偏光レンズは耐熱性に劣り、またADC樹脂を使用すると耐衝撃性が低下して破損が生ずるおそれがあった。
(ii)吸収型の偏光性薄膜の両面に保護層としてTACシートを粘着一体化させた偏光板の片面に粘着加工を施し、シート状又は熱成形により曲面状等レンズ状に加工を施した後、粘着加工面に熱可塑性樹脂を射出成形にて積層一体化する(特許文献1参照)。この方法で得られた偏光レンズは、射出する熱可塑性樹脂の種類により耐熱性、耐衝撃性は向上できるが、工程が多いことから生産性に劣り、粘着加工した偏光板面と射出成形した熱可塑性樹脂面との界面での剥離が生じて耐久性に劣るおそれがあった。
【0004】
(iii)吸収型の偏光性薄膜の両面に保護層としてポリカーボネートシートを貼着一体化させた偏光板を、熱成形により曲面状等レンズ状に加工、あるいは更に射出成形にてポリカーボネート樹脂を積層一体化する(特許文献2参照)。この方法で得られた偏光レンズは耐熱性、耐衝撃性に優れるが、太陽光が入射する側の着色干渉縞の発生や透過側から見た場合の偏光度低下の問題があった。これを防止するため特定の複屈折性を有するポリカーボネートシートを用いる必要があった(特許文献3参照)。
【0005】
また、ワイヤグリッド偏光素子は反射型の偏光素子であるために、偏光サングラスに使用すると両面ともに反射するために対物側だけでなく、接眼側からの入射光も反射して、装着者の眼や眼周辺、および背景が、接眼側の内面に映り込みする不都合が発生する。特許文献4には、対物側の反射型ワイヤグリッド偏光部分で赤外域の減衰と遮断を行い、接眼側に吸収型直線偏光機能部分を配列し、ワイヤグリッド偏光部分反射軸方向と吸収型偏光機能部分の吸収軸をほほ一致させて、ワイヤグリッド細線面を吸収型直線偏光板と貼合した偏光レンズが開示されている。この偏光レンズでは吸収型直線偏光素子には保護層が必要で、反射型ワイヤグリッド偏光素子層と吸収型直線偏光素子層を接着層で接合する必要があり、レンズ用透明樹脂層も含めると層構成が多くなって製造工程が必然的に複雑になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-237649号公報
【文献】特開平03-039903号公報
【文献】特開平08-254669号公報
【文献】特開2014-139964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題を解決して、耐衝撃性、耐熱性、及び耐久性に優れ、また保護層、接着層粘着層等を必ずしも必要とせず、良好な偏光度と必要な光線透過率を維持でき、更に裏面側(接眼側)の反射率を低減化した偏光サングラスレンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記従来技術に鑑みて、偏光サングラスレンズの偏光素子シートとして、偏光度の高いワイヤグリッド型の偏光素子シートを使用し、かつ該偏光素子シートのワイヤグリッド部分に相当する金属反射体において幅が一定である金属反射部と、該金属反射部先端の突出開始部から突出して徐々に細くなっていく形状である先端部とを設け、シート表面から前記先端部における最先端部までの厚みと前記金属反射部の幅との比を特定の範囲とし、先端部(D)における最先端方向の平均長さ(c)と金属反射体(B)の平均厚み(b)との比を特定の範囲とし、更に前記先端部において突出開始部の幅と先端部における裏面方向の最先端部までの長さとの比を特定の範囲とすることにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。即ち、本発明は、以下の(1)~(7)に記載する発明を要旨とする。
【0009】
(1)ワイヤグリッド型の偏光素子シート(W)の裏面側と表面側の少なくともいずれか一の面に透明性を有するレンズ用樹脂層が積層されている、偏光サングラスレンズであって、
偏光素子シート(W)は、透明性を有するシート(A)を基材として用いて、その表面に同じ向きかつ同じ周期で一次元格子状に設けられた多数の溝部(C)に、金属反射体(B)が埋め込まれていて、該金属反射体(B)は、
シート(A)の表面側から裏面側への厚み方向において幅が一定である金属反射部(H)と、
該金属反射部(H)の厚み方向先端の突出開始部から先端方向に突出するように形成されていて、かつ前記一次元格子状配列の長手方向と垂直の断面、又は前記一次元格子状の配列(以下、「前記一次元格子状の配列」を「前記一次元格子状配列」と略記することがあるので、「前記一次元格子状配列」の記載は「前記一次元格子状の配列」を意味する。また、同様に「一次元格子状の配列」を「一次元格子状配列」と略記することがあるので、「一次元格子状配列」の記載は「一次元格子状の配列」を意味する。)の長手方向と平行でシート(A)に垂直の断面の少なくともいずれか一方の断面における形状が最先端方向にいくほど突出開始部の幅から直線状に徐々に細くなっていって最先端部で交叉している形状である先端部(D)とからなり、
前記金属反射部(H)の平均幅(a)が200nm以下であり、
シート(A)の表面側から裏面方向の先端部(D)の最先端部までの金属反射体(B)の平均厚み(b)と前記金属反射部(H)の平均幅(a)の比(b/a)が4~25の範囲内であり、
前記先端部(D)における突出開始部から裏面方向の最先端部までの平均長さ(c)と、前記金属反射体(B)の平均厚み(b)との比(c/b)が0.127以上0.315以下であり、
前記先端部(D)における突出開始部から裏面方向の最先端部までの平均長さ(c)と突出開始部の平均幅(a)との比(c/a)が1.2以上4.7以下であり、
前記先端部(D)におけるいずれかの断面形状が、以下の(i)から(iii)に示すいずれかの略二等辺三角形状を有しており、
(i)前記一次元格子状配列の長手方向と垂直の任意の断面形状において、底辺が突出開始部に位置して頂点が最先端方向に位置する略逆二等辺三角形の形状、
(ii)前記一次元格子状配列の長手方向と平行でかつシート(A)表面と垂直の断面の形状において、前記一次元格子状配列の長手方向と平行方向に連続した三角波の形状で、該三角波の形状は底辺が突出開始部に位置して頂点が最先端方向に位置する、各三角波が略逆二等辺三角形の形状、又は、
(iii) 底面が突出開始部に位置し、かつ長辺が交差する頂点が最先端方向に位置する略正四角錐の形状体が前記一次元格子状配列の長手方向と平行方向に連続して配置されている形状、
かつ偏光素子シート(W)の裏面側が接眼側に配置されていることを特徴とする、
偏光サングラスレンズ。
【0010】
(2)前記金属反射体(B)において、先端部(D)の形状は、
(i)先端部(D)の形状を、前記一次元格子状配列の長手方向と垂直の任意の断面形状において、底辺が突出開始部に位置して頂点が最先端方向に位置する略逆二等辺三角形の形状とし、更に、
前記一次元格子状配列の長手方向と平行でかつシート(A)表面と垂直の断面形状において、各先端部(D)における突出開始部から最先端部までの長さが、前記一次元格子状配列の長手方向と平行方向に略一定である形状、もしくは規則的もしくは不規則的に連続して変化している形状、
(ii)先端部(D)の形状を、前記一次元格子状配列の長手方向と平行でかつシート(A)表面と垂直の断面の形状において、前記一次元格子状配列の長手方向と平行方向に連続した三角波の形状で、該三角波の形状は底辺が突出開始部に位置して頂点が最先端方向に位置する、各三角波が略逆二等辺三角形の形状とし、更に、
前記断面形状において、連続した三角波の形状における、突出開始部である底辺から最先端部までの長さが、前記一次元格子状配列の長手方向と平行方向に一定で連続している形状、もしくは不規則的に連続して変化している形状、又は
(iii)先端部(D)の形状を、底面が突出開始部に位置し、かつ長辺が交差する頂点が最先端方向に位置する略正四角錐の形状体が前記一次元格子状配列の長手方向と平行方向に連続して配置されている形状とし、更に、
連続した先端部(D)における、突出開始部である底面から最先端部までの長さが、各略正四角錐の形状体間で、前記一次元格子状配列の長手方向と平行方向で一定で連続して配置されている形状、もしくは規則的もしくは不規則的に連続して変化して配置されている形状である、
前記(1)に記載の偏光サングラスレンズ。
【0011】
(3)前記シート(A)が、ポリカーボネート系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリシクロオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、セルロース系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリアリレート系樹脂、及びポリサルフォン系樹脂から選択されるシートである、
前記(1)又は(2)に記載の偏光サングラスレンズ。
【0012】
(4)前記金属反射体(B)がアルミニウム、ニッケル、クロム、白金、パラジウム、チタン、金、銀、銅、及びこれらの合金の内のいずれか1又は2以上の混合体である、
前記(1)から(3)のいずれかに記載の偏光サングラスレンズ。
【0013】
(5)前記金属反射体(B)が金属微粒子の焼成体からなる金属反射体である、
前記(1)から(4)のいずれかに記載の偏光サングラスレンズ。
(6)前記偏光素子シート(W)の裏面側と表面側の両面に透明性を有するレンズ用樹脂層が積層されている、前記(1)から(5)のいずれかに記載の偏光サングラスレンズ。
(7)前記偏光サングラスレンズの凸面側と凹面側のそれぞれに外層としてハードコート層が設けられている、前記(1)から(6)のいずれかに記載の偏光サングラスレンズ。
【発明の効果】
【0014】
本発明の偏光サングラスレンズは、偏光素子シートとしてワイヤグリッド型偏光素子シート(W)を使用するので、保護層や接着層を必ずしも必要とせず、透明性を有するシート(A)と透明性を有するレンズ用透明樹脂の選択と組み合わせにより、容易に耐衝撃性、耐熱性、及び耐久性を向上することができる。また、本発明の偏光サングラスレンズは、偏光性能に優れていて必要な光線透過率を維持でき、裏面側から入射する光線の反射率を顕著に低減化することが可能である。本発明の偏光サングラスレンズは、金属反射体(B)がシート(A)の溝部(C)内に埋め込まれているため、金属反射体(B)の酸化が進行しにくく、引っ掻き耐性があり、擦ったり拭いたりしても偏光機能に影響は出にくく、表面耐久性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明のワイヤグリッド型偏光素子シート(R1)を示す、説明用の断面概念図
【
図2】
図1に示すワイヤグリッド型偏光素子シート(R1)を斜め上から見た説明用の概念図
【
図3】本発明のワイヤグリッド型偏光素子シート(R2)の例を、斜め上から見た説明用の断面を示す概念図
【
図4】本発明のワイヤグリッド型偏光素子シート(R3)の例を、斜め上から見た説明用の断面を示す概念図
【
図5】実施例1で使用した金型のほぼ正面の斜め上から観察した走査型電子顕微鏡(SEM)画像
【
図6】実施例1で使用した金型の斜め上から観察したSEM画像
【
図7】実施例1で作製したワイヤグリッド型偏光素子シート(R1)試験片の斜め上から観察したSEM画像
【
図8】実施例4で使用した金型のほぼ正面の斜め上から観察したSEM画像
【
図9】実施例6で使用した金型のほぼ正面の右側から観察したSEM画像
【
図10】実施例8で使用した金型のほぼ正面の斜め上から観察したSEM画像
【
図11】比較例2で使用した金型のほぼ正面の斜め上から観察したSEM画像
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の偏光サングラスレンズは、
ワイヤグリッド型の偏光素子シート(W)の裏面側と表面側の少なくともいずれか一の面に透明性を有するレンズ用樹脂層が積層されている、偏光サングラスレンズであって、
偏光素子シート(W)は、透明性を有するシート(A)を基材として用いて、その表面に同じ向きかつ同じ周期で一次元格子状に設けられた多数の溝部(C)に、金属反射体(B)が埋め込まれていて、該金属反射体(B)は、
シート(A)の表面側から裏面側への厚み方向において幅が一定である金属反射部(H)と、
該金属反射部(H)の厚み方向先端の突出開始部から先端方向に突出するように形成されていて、かつ前記一次元格子状配列の長手方向と垂直の断面、又は前記一次元格子状配列の長手方向と平行でシート(A)に垂直の断面の少なくともいずれか一方の断面における形状が最先端方向にいくほど突出開始部の幅から直線状に徐々に細くなっていって最先端部で交叉している形状である先端部(D)とからなり、
前記金属反射部(H)の平均幅(a)が200nm以下であり、
シート(A)の表面側から裏面方向の先端部(D)の最先端部までの金属反射体(B)の平均厚み(b)と前記金属反射部(H)の平均幅(a)の比(b/a)が4~25の範囲内であり、
前記先端部(D)における突出開始部から裏面方向の最先端部までの平均長さ(c)と、前記金属反射体(B)の平均厚み(b)との比(c/b)が0.127以上0.315以下であり、
前記先端部(D)における突出開始部から裏面方向の最先端部までの平均長さ(c)と突出開始部の平均幅(a)との比(c/a)が1.2以上4.7以下であり、
前記先端部(D)におけるいずれかの断面形状が、以下の(i)から(iii)に示すいずれかの略二等辺三角形状を有しており、
(i)前記一次元格子状配列の長手方向と垂直の任意の断面形状において、底辺が突出開始部に位置して頂点が最先端方向に位置する略逆二等辺三角形の形状、
(ii)前記一次元格子状配列の長手方向と平行でかつシート(A)表面と垂直の断面の形状において、前記一次元格子状配列の長手方向と平行方向に連続した三角波の形状で、該三角波の形状は底辺が突出開始部に位置して頂点が最先端方向に位置する、各三角波が略逆二等辺三角形の形状、又は、
(iii) 底面が突出開始部に位置し、かつ長辺が交差する頂点が最先端方向に位置する略正四角錐の形状体が前記一次元格子状配列の長手方向と平行方向に連続して配置されている形状、
かつ偏光素子シート(W)の裏面側が接眼側に配置されていることを特徴とする。
【0017】
尚、本発明において、金属反射体(B)の形状は、いわゆる「ワイヤ状」ではないが、当該技術分野で金属反射体がワイヤ状ではない場合にも「ワイヤグリッド偏光素子」という用語が使用されているので、ワイヤグリッド型偏光素子という用語を使用する。
図1は、本発明
におけるワイヤグリッド型偏光素子シート1を説明するために模式的に示した断面図であり、シート(A)11は表面側12と裏面側13を有していて、その表面側12に金属反射体(B)が埋め込まれている。金属反射体(B)は、金属反射部(H)14とその先端に突出するように設けられた先端部(D)15とから形成されている。
図1における、平均幅(a)、平均厚み(b)、先端部(D)15の平均長さ(c)、及び周期(d)の表示は他の実施形態においても共通に使用することが可能である。
【0018】
図2は、ワイヤグリッド型偏光素子シート(R1)2を模式的に示す、説明用の概念図であり、先端部(D)15の形状が一次元格子状配列の長手方向と垂直の任意の断面形状で、頂点が先端方向に位置する略逆二等辺三角形の形状である。
図3は、ワイヤグリッド型偏光素子シート(R2)3を模式的に示す、説明用の断面図の例であり、先端部(D)17の形状は、一次元格子状配列の長手方向と平行でかつシート(A)と垂直の断面形状において、連続した三角波の形状で、該三角波の形状は頂点が先端方向に位置する、各三角波が略逆二等辺三角形の形状である。
図4は、ワイヤグリッド型偏光素子シート(R3)4を模式的に示す、説明用の断面図の例であり、先端部(D)19の形状は、底面が突出開始部に位置し、かつ長辺が交差する頂点が先端方向に位置する略
正四角錐が一次元格子状配列の長手方向と平行方向に連続している形状である。
図5~11は、本明細書の実施例、比較例で使用した金型、及び偏光素子試験片の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
図5,6は、実施例1で使用した金型、及び
図7は実施例1で得られた偏光素子試験片のSEM画像であり、
図8,9は実施例4、6でそれぞれ使用した金型のSEM画像であり、
図10は実施例8で使用した金型のSEM画像であり、
図11は、比較例2で使用した金型のSEM画像である。
以下に本発明について、〔1〕ワイヤグリッド型の偏光素子シート(W)と、該偏光素子シート(W)を用いた〔2〕偏光サングラスレンズ、に分けて説明する。
【0019】
〔1〕ワイヤグリッド型の偏光素子シート(W)
本発明の偏光サングラスレンズの偏光素子を構成する、偏光素子シート(W)は、
透明性を有するシート(A)を基材として用いて、その表面に同じ向きかつ同じ周期で一次元格子状に設けられた多数の溝部(C)に、金属反射体(B)が埋め込まれていて、
該金属反射体(B)は、
シート(A)の表面側から裏面側への厚み方向において幅が一定である金属反射部(H)と、
該金属反射部(H)の厚み方向先端の突出開始部から先端方向に突出するように形成されていて、かつ前記一次元格子状配列の長手方向と垂直の断面、又は前記一次元格子状配列の長手方向と平行でシート(A)に垂直の断面の少なくともいずれか一方の断面における形状が最先端方向にいくほど突出開始部の幅から直線状に徐々に細くなっていって最先端部で交叉している形状である先端部(D)とからなり、
前記金属反射部(H)の平均幅(a)が200nm以下であり、
シート(A)の表面側から裏面方向の先端部(D)の最先端部までの金属反射体(B)の平均厚み(b)と前記金属反射部(H)の平均幅(a)の比(b/a)が4~25の範囲内であり、
前記先端部(D)における突出開始部から裏面方向の最先端部までの平均長さ(c)と、前記金属反射体(B)の平均厚み(b)との比(c/b)が0.127以上0.315以下であり、
前記先端部(D)の平均長さ(c)と突出開始部の平均幅(a)との比(c/a)が1.2以上4.7以下であり、前記先端部(D)におけるいずれかの断面形状が、略二等辺三角形状を有している。
【0020】
(1)シート(A)について
(1-1)シート(A)の表面形状
一般に厚みが250μm以下ではフィルム、それ以上の厚みではシートとして区別される場合があるが、本発明のシート(A)はシートとフィルムを区別することなく、双方使用可能であるので、以下本明細書においては、シートとフィルムを併せてシートと称する。
シート(A)の表面形状は、実用的な見地から平坦であることが好ましく、緩やかな曲率をもって湾曲している形状でも良い。このようなシート(A)は、ナノインプリント法等によりシート(A)表面に溝部(C)を形成し易くなり、コーティングなど後処理工程も行い易い。また金属反射体(B)の外表面がシート(A)の表面とほぼ面一の状態で、溝部(C)に埋め込まれていると、引っ掻き耐性があり、擦ったり拭いたりしても偏光機能に影響は出にくい。
【0021】
(1-2)シート(A)の材料
本発明のワイヤグリッド型の偏光素子シート(W)の基材となる「透明性を有するシート(A)」は、可視光域や赤外域など対象とする波長の電磁波において透明性を有するシートで、かつシート(A)の表面に後述する一次元格子状(ストライプ状)の溝部を形成することが可能であれば、有機材料と無機材料のいずれも使用可能である。
上記透明性を有するシート(A)とは、無色ないし有色のシートで、かつ透明及び半透明のシートを含み、可視光域における波長の光線透過率が8%以上のシートを意味する。
尚、有色のシート(A)は、例えば有機材料の場合は着色剤を含むマスターバッチを配合して溶融状態で混錬する方法、無機材料の場合にはイオン添加による着色、ナノメートルサイズのコロイドによる着色等公知の方法により得ることができ、半透明のシート(A)は例えば屈折率の異なる2つの樹脂を溶融混錬等してヘイズ値を制御すること等により得ることができる。
【0022】
使用可能な有機材料としては、ポリカーボネート系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリシクロオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、セルロース系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリアリレート系樹脂、及びポリサルフォン系樹脂の使用が好ましいが、これらに限定されない。
尚、シート(A)としてポリカーボネート等を使用すると、耐熱性、耐衝撃性等を向上することができるが、太陽光が入射する側に着色干渉縞の発生や透過側から見た場合の偏光度低下の問題がある。この問題を解消する手段として、押出成形などによってポリカーボネートシートを得る際に、一方向に延伸してリタデーション値(シートの複屈折率と厚みとの積)をコントロールすることが好ましい。このリタデーション値は、特に限定はされないが、非常に低い値かもしくは、高い値が好ましく、高い値の場合には、基材であるシート(A)の延伸軸がワイヤグリッド型偏光の吸収軸に対して垂直にすることが好ましい。
【0023】
使用可能な無機材料としては、ガラス、シリコン、石英、セラミック材料等が挙げられるが、これらに限定されない。
上記材料の中でも、溝部(C)の形成などの加工性を考慮すると、有機材料の使用がより好ましい。また、シート(A)は、曲げ加工等の伸縮工程を考慮すると単層が好ましいが、複層であっても良い。
【0024】
(1-3)シート(A)における溝部(C)の形状
シート(A)の表面に形成される溝部(C)は、金属反射体(B)を埋め込むために形成される。このような金属反射体(B)の形状は、溝部(C)の形状がほぼそのまま型となって形成されることになるので、溝部(C)の形状については、金属反射体(B)の形状の項で、溝部(C)形状の作製方法については、ワイヤグリッド型の偏光素子シート(W)の製造方法の項で説明する。
【0025】
(2)金属反射体(B)について
(2-1)金属反射体(B)の構成材料
本発明で用いる金属反射体(B)の構成材料は、利用する光の波長域において光を反射する機能を有する金属材料であれば特に制限なく使用可能であり、その具体例としては、高反射金属材料であるアルミニウム、ニッケル、クロム、白金、パラジウム、チタン、金、銀、銅、及びこれらの合金の内のいずれか1又は2以上の混合体、また低反射金属材料であるモリブデン、タングステン、タンタル、ジルコニウム、鉄、ニオブ、ハフニウム、コバルト等、またこれらの合金等が挙げられる。これらの中でも、偏光性を考慮すると高反射金属材料の使用が好ましい。また、金属反射体(B)が金属微粒子の焼成手段、又はめっき手段を用いて形成される場合には、これらの加工手段を考慮して選択することが望ましい。
【0026】
(2-2)金属反射体(B)の形状と構造
本発明のワイヤグリッド型の偏光素子シート(A)における金属反射体(B)の形状は、
シート(A)の表面側から裏面側への厚み方向において幅が一定である金属反射部(H)と、
該金属反射部(H)の厚み方向先端の突出開始部から先端方向に突出するように形成されていて、かつ前記一次元格子状配列の長手方向と垂直の断面、又は前記一次元格子状配列の長手方向と平行でシート(A)に垂直の断面の少なくともいずれか一方の断面における形状が最先端方向にいくほど突出開始部の幅から直線状に徐々に細くなっていって最先端部で交叉している形状である先端部(D)とからなり、
前記金属反射部(H)の平均幅(a)が200nm以下であり、
シート(A)の表面側から裏面方向の先端部(D)の最先端部までの金属反射体(B)の平均厚み(b)と前記金属反射部(H)の平均幅(a)の比(b/a)が4~25の範囲内であり、
前記先端部(D)における突出開始部から裏面方向の最先端部までの平均長さ(c)と、前記金属反射体(B)の平均厚み(b)との比(c/b)が0.127以上0.315以下であり、
前記先端部(D)の平均長さ(c)と突出開始部の平均幅(a)との比(c/a)が1.2以上4.7以下であり、前記先端部(D)におけるいずれかの断面形状が、略二等辺三角形状を有している。
【0027】
利用する波長の光に対して偏光性能を発揮させるために、シート(A)の溝部(C)内の各金属反射体(B)は、シート(A)の表面に同じ向きかつ同じ周期で一次元格子状(ストライプ状)に配置される必要がある。金属反射体(B)は以下に記載する形状と構造で、シート(A)の溝部(C)内に埋め込まれているため、引っ掻き耐性があり、擦ったり拭いたりしても偏光機能に影響は出にくく、表面耐久性に優れる。また、金属反射体(B)はシート(A)の溝構造で覆われているため、表面からの露出部分を少なくでき、その結果、金属反射体(B)の酸化が進行しにくく、屋外や高温高湿環境下でも偏光性能を長く維持できる。
(i)金属反射体(B)における金属反射部(H)の平均幅(a)
本発明の各金属反射体(B)おける金属反射部(H)は、
図2、3、4においてそれぞれ符号14、16、18で示されているが、シート(A)の表面側12から裏面側13への厚み方向において幅が一定の形状を有している。金属反射部(H)の平均幅(a)は、
図1、2に示されているが、偏光度と光線透過率を考慮すると200nm以下であり、25~100nmが好ましい。紫外域、近赤外域、赤外域、テラヘルツ域、マイクロ波域など可視光域ではない波長域の電磁波においても、溝幅を対象とする電磁波の波長の1/16~1/4程度が好ましいことが知られている。
【0028】
(ii)金属反射体(B)の一次元格子状配列の周期(d)と、平均幅(a)の比(d/a)
金属反射体(B)の一次元格子状配列の周期(d)は、ワイヤグリッド型偏光素子によって偏光を意図する光の波長によって決めることができ、例えば、周期(d)を意図する光の波長の1/5以下ないし1/2以下程度にすることができる。一方、表面側からワイヤグリッド型偏光素子に入射してくる光の透過率を考慮すると、周期(d)は、平均幅(a)に対して大きいほど光線透過率が高くなるので、金属反射体(B)の一次元格子状配列の周期(d)と平均幅(a)の比(d/a)が2~10であることが好ましく、更に、偏光度とのバランスを考慮すると、2~5がより好ましい。
【0029】
(iii)金属反射体(B)の平均厚み(b)
と、金属反射部(H)の平均幅(a)の比(b/a)
図2~4に示されている、シート(A)11の表面側12から裏面方向の先端部(D)15、17、19のそれぞれの最先端部までの金属反射体(B)の平均厚み(b)と金属反射部(H)14、16、18のそれぞれの平均幅(a)の比(b/a)は4~25である。該比(b/a)が4以上で偏光度が向上し、金型の加工と光線透過率等を考慮すると25以下であり、実用的な見地からは7~20が好ましい。
本発明のワイヤグリッド型の偏光素子シート(W)において、表面側12から入射する光の偏光度を向上するために、金属反射体(B)の平均厚み(b)を上記のように大きくすることが1つの特徴である。
(iv)先端部(D)の最先端方向平均長さ(c)と、金属反射体(B)の平均厚み(b)との比(c/b)
図1~4に示すように、金属反射体(B)は、シート(A)の裏面方向の平均厚みが(b-c)である金属反射部(H)と、該シートの裏面方向の最先端部までの平均長さが(c)である先端部(D)から構成されているが、前記先端部(D)の平均長さ(c)と、金属反射体(B)の平均厚み(b)との比(c/b)は0.127以上0.315以下である。
裏面側の光線反射率を低減するために該比(c/b)を0.127以上とし、他方、偏光性能を向上させるために0.315以下にする。
【0030】
(v)先端部(D)の最先端方向への平均長さ(c)と、突出開始部の平均幅(a)との比(c/a)
本発明のワイヤグリッド型偏光素子シート(W)においては、裏面側から入射する光線の反射率を低くするために、金属反射体(B)の先端部(D)において、突出開始部から最先端部にいくほど直線状で徐々に細くなっていく断面又は面における突出開始部から裏面方向の最先端部までの平均長さ(c)と前記突出開始部の平均幅の比(c/a)を1.2以上4.7以下とすることを更なる特徴とする。
尚、
図1、2に示す通り、ワイヤグリッド型偏光素子シート(R1)の場合には、該シートの形状から突出開始部の平均幅(a)は、金属反射部(H)の平均幅(a)と同じにな
る。
【0031】
先端部(D)の先端方向への平均長さ(c)と前記平均幅(a)の比(c/a)を1.2以上とすることにより、シート(A)の裏面側から入射する光線の反射率を低減化する効果が発揮されるようになり、一方、前記比(c/a)は4.7以下が望ましい。
【0032】
(
vi)先端部(D)の形状
金属反射体(B)の先端部(D)の形状は、
図2~4に示すように金属反射部(H)14、16、18の厚み方向先端である突出開始部から先端方向に突出するように形成されていて、かつ前記一次元格子状配列の長手方向と垂直、又は前記一次元格子状配列の長手方向と平行でシート(A)に垂直の少なくともいずれか一方の断面
又は面における形状が最先端方向にいくほど突出開始部の平均幅(
a)から直線状で徐々に細くなっていって最先端部で交叉している形状で
あり、更に先端部(D)おけるいずれかの断面形状が、以下の(vi-1)~(vi-3)
に示す略二等辺三角形の形状を有している。
【0033】
(
vi-1)ワイヤグリッド型偏光素子シート(R1)
前記ワイヤグリッド型偏光素子シート(R1)2における複数の金属反射体(B)5の先端部(D)15の形状は、
図2に示すように金属反射部(H)14の厚み方向先端である突出開始部
34から先端方向に突出するように形成されていて、一次元格子状配列の長手方向と垂直の任意の断面形状において、底辺が突出開始部に位置して突出開始部の幅(a)から最先端方向にいくほど直線状で徐々に細くなっていって最先端部
31で交叉している、頂点が
最先端方向に位置する略逆二等辺三角形の連続形状である。
尚、図1,2に示す通り、突出開始部の平均幅(a)は金属反射部(H)の平均幅(a)と同じになる。
ワイヤグリッド型偏光素子シート(R1)タイプの作製に使用可能な金型の具体例として、実施例1で使用した金型のSEM画像を
図5、6に、実施例4,6で使用した金型のSEM画像をそれぞれ
図8、9に、比較例2で使用した金型のSEM画像を
図11に示す。また、実施例1で作製した偏光素子試験片のSEM画像を
図7に示す。
(
vi-2)ワイヤグリッド型偏光素子シート(R2)
前記ワイヤグリッド型偏光素子シート(R2)3における、複数の金属反射体(B)6の先端部(D)17の形状は、
図3に示すように、前記一次元格子状配列の長手方向と平行でかつシート(A)表面と垂直の断面の形状において、
金属反射部(H)16の厚み方向先端である突出開始部
35から先端方向に突出するように形成されていて、突出開始部の幅(a)から最先端方向にいくほど直線状で徐々に細くなっていって最先端部
32で交叉している、一次元格子状配列の長手方向と平行方向に連続した三角波の形状で、該三角波の形状は頂点がそれぞれの最先端部に位置する、各三角波が略逆二等辺三角形の形状である。
図3において、
図4に示す形状と区別するために、A部分の拡大図として、A’として抜き出して、三角波の形状を立体的に示した。
尚、上記の通り、突出開始部の平均幅(a)は、裏面側から入射する光線の反射率を低くするために金属反射部(H)の平均幅(a)と同じサイズになる。
【0034】
(
vi-3)ワイヤグリッド型偏光素子シート(R3)
前記ワイヤグリッド型偏光素子シート(R3)4における、複数の金属反射体(B)の先端部(D)19の形状は、
図4に示すように、
底面が突出開始部
36に位置し、かつ長辺が交差する頂点が
最先端方向に位置する略
正四角錐が前記一次元格子状配列の長手方向と平行方向に連続して配置されている形状であり、より具体的には、各先端部(D)19の形状は、各金属反射部(H)18の厚み方向先端の突出開始部となる略正四角錐の底面より頂点方向に向かって直線状で徐々に細くなっていって最先端部
33で交叉している形状である。前記略
正四角錐の底面が正方形であるので、突出開始部の平均幅(a)が金属反射部(H)の平均幅(a)が同じになる。
図4において、
図3に示す形状と区別するために、B部分の拡大図として、B’として抜き出して、略
正四角錐を立体的に示した。ワイヤグリッド型偏光素子シート(R3)タイプの作製に使用可能な金型として、実施例8で使用した金型のSEM画像を
図10に示す。
前記(v-1)~(v-3)に示すいずれの形状においても、上記先端部(D)における突出開始部から裏面方向の最先端部までの平均長さ(c)と突出開始部の平均幅(a)との比(c/a)は、1.2以上
4.7以下であるので、最先端部の見掛け角度は共通する範囲内になることから、裏面側からの入射光の反射率は、いずれのワイヤグリッド型偏光素子シートにおいても共に低下することになる。
【0035】
(
vii)先端部(D)における最先端部の形状
金属反射体(B)における先端部(D)の好ましい形状については上記の通りであるが、更に上記先端部(D)における最先端部の好ましい形状を以下の(
vii-1)~(
vii-3)に記載する。
(
vii-1) ワイヤグリッド型偏光素子シート(R1)
図2に示すように、複数の金属反射体(B)5の先端部(D)の形状を、前記一次元格子状配列の長手方向と垂直の任意の断面形状において、底辺が突出開始部に位置して頂点が
最先端方向に位置する略逆二等辺三角形の形状(前記ワイヤグリッド型偏光素子シート(R1)2)とし、更に、
前記一次元格子状配列の長手方向と平行でかつシート(A)表面と垂直の断面形状において、各先端部(D)における突出開始部から最先端部までの長さが、前記一次元格子状配列の長手方向と平行方向に略一定である形状、もしくは規則的もしくは不規則的に連続して変化している形状とすることが可能である。
前記各先端部(D)における突出開始部から最先端部までの長さが前記一次元格子状配列の長手方向と平行方向に略一定の長さとなる場合に使用する金型の具体例として、実施例4、6、比較例2でそれぞれ使用した金型を
図8、9、11にSEM画像で示す。また、前記不規則的に連続した凹凸状となる場合に使用する金型の具体例として、実施例1で使用した金型を
図5、6にSEM画像で示し、該金型を使用して作製した偏光素子素子試験片のSEM画像を
図7に示す。
(
vii-2)ワイヤグリッド型偏光素子シート(R2)
図3に示すように、前記金属反射体(B)の先端部(D)17の形状を、前記一次元格子状配列の長手方向と平行でかつシート(A)表面と垂直の断面の形状において、前記一次元格子状配列の長手方向と平行方向に連続した三角波の形状で、該三角波の形状は底辺が突出開始部に位置して頂点が
最先端方向に位置する、各三角波が略逆二等辺三角形の形状
(前記ワイヤグリッド型偏光素子シート(R2)3)とし、更に、
前記断面形状において、連続した三角波の形状における、突出開始部である底辺から最先端部までの長さが、前記一次元格子状配列の長手方向と平行方向に一定で連続している形状、もしくは不規則的に連続して変化している形状とすることが可能である。前記一定の形状で連続している場合には互いに隣接する最先端部同士を線で結ぶと略直線状になり、また、前記不規則的に連続して変化する形状の場合には、互いに隣接する最先端部同士を線で結ぶと全体で連続した凹凸状になる。
(
vii-3)ワイヤグリッド型偏光素子シート(R3)
図4に示すように、金属反射体(B)の先端部(D)19の形状を、底面が突出開始部に位置し、かつ長辺が交差する頂点が最先端方向に位置する略
正四角錐の形状体が前記一次元格子状配列の長手方向と平行方向に連続して配置されている形状(前記ワイヤグリッド型偏光素子シート(R3)4)とし、更に、
連続した先端部(D)における、突出開始部である底面から最先端部までの長さが、各略
正四角錐
の形状体間で、前記一次元格子状配列の長手方向と平行方向で一定で連続して配置されている形状、もしくは規則的
もしくは不規則的に連続して変化している形状、とすることが可能である。
前記一定の長さで連続して配置されている形状の場合には互いに隣接する最先端部同士を線で結ぶと全体で略直線状になり、また、規則的もしくは不規則的に連続して変化する形状の場合には互いに隣接する最先端部同士を線で結ぶと連続した凹凸状になる。また、前記不規則的に連続して変化する形状の場合に使用する金型の具体例として、実施例8で使用した金型を
図10にSEM画像で示す。
このように先端部(D)における最先端部方向の長さに変化を持たせることにより、裏面側の反射率を更に低減することが可能になる。
【0036】
(viii)金属反射体(B)の溝部(C)内での構造
吸収型のワイヤグリッド偏光素子を製膜する方法として蒸着法やスパッタ法が知られているが、反射型のワイヤグリッド型偏光素子の製造方法として、透明性を有するシート(A)に設けられた格子状の溝部内にメッキ手段や、金属微粒子を含むインクを焼成する手段を用いて金属反射体(B)を形成することが可能であり、特に後述するように金属微粒子を含むインクを焼成する手段を用いて、金属反射体(B)を金属微粒子の焼成体からなる金属反射体とするのが好ましい。
【0037】
前記金属反射体(B)は、溝部(C)内に、上記の金属反射部(H)の平均幅(a)、平均厚み(b)、先端部(D)の最先端方向への平均長さ(c)、及び突出開始部の平均幅(a)の形状で埋め込まれているが、更にそれぞれの溝部(C)内で、単一の連続構造体として溝部(C)内に埋め込まれていてもよく、また複数のブロック状構造物が高い密度に積層された状態で溝部(C)内に埋め込まれていて、更に各ブロック状構造物は互いに独立した状態で積層されているかもしくは各ブロック状構造物の外表面の一部が接合された状態で積層されていてもよい。
金属反射体(B)の形成がメッキ手段による場合には、上記単一の連続構造体を形成することができ、金属微粒子の焼成手段よる場合には、焼成条件の制御により上記複数のブロック状構造物が溝部(C)内で、各ブロック状構造物は互いに独立した状態で積層されているか又は各ブロック状構造物の外表面の一部が接合された状態で積層された状態を形成することができる。
【0038】
(3)ワイヤグリッド型の偏光素子シート(W)の製造方法
ワイヤグリッド型偏光素子シート(W)は、透明性を有するシート(A)表面に同じ向きかつ同じ周期で一次元格子状に設けられた多数の溝部(C)を形成した後に、該溝部(C)に金属反射体(B)を埋め込むことにより製造することができる。上記溝部(C)の形成は、ナノインプリント法、射出成形、電子線リソグラフィ、集束イオンビーム、干渉露光などの露光技術、ナノ粒子などを用いた自己組織化技術等を使用することが可能であり、また、溝部(C)に金属反射体(B)を埋め込みする手段として、金属微粒子の焼成手段、めっき手段、更に物理蒸着法や化学蒸着法等の利用が可能である。
以下に、より簡便な方法との具体例として、ナノインプリント法を用いて、透明性を有するシート(A)表面に微細な溝部(C)を形成した後に、該溝部(C)に金属微粒子の焼成手段を用いて金属反射体(B)を埋め込む、ワイヤグリッド型偏光素子シート(W)の製造方法について、溝部(C)の形成工程(第1工程)と、該溝部(C)への金属反射体(B)の埋め込み工程(第2工程)に分けて説明する。
【0039】
(3-1)第1工程(シート(A)表面に溝部(C)の形成工程)
第1工程は、透明性を有するシート(A)の表面にナノインプリント法により同じ向きかつ同じ周期で一次元格子状に多数の溝部(C)を形成する工程であり、シート(A)に溝部(C)を形成する際に使用する金型における、溝部(C)を形成する各凸部の構造は、前記のワイヤグリッド型偏光素子シート(W)の金属反射体(B)と同様の形状を有しているので、ここでの説明は省略する。
【0040】
第1の工程においてシート(A)の表面に溝部(C)を形成する、ナノインプリント法は、プレス装置を用いて上記形状の金型に形成された数10nm程度の微小な凹凸構造でも加工対象となるシート(A)に写し取る(インプリントする)。金型の材料としてはシリコンが好ましいが、石英等のガラスや、アルミナや炭化ケイ素等のセラミックス、ニッケル等のある程度の強度を有するものが用いられる。金型は、上記材料を使用して、半導体やフォトマスク製造技術を利用して製造することができる。
【0041】
ナノインプリント法には、シート(A)が熱可塑性樹脂やガラスである熱式ナノインプリントと、加工対象材料が光硬化性樹脂である光硬化式ナノインプリントを利用して、金型の微細構造がそのまま凹凸反転して転写対象に写し取ることができる。ナノインプリント法において、金型に塗布して使用される離型剤としてはフッ素系離型剤の使用が好ましく、一方、モールド(金型)材料、又は成形する樹脂材料によってはシリコン系の離型剤を使用することもできる。
【0042】
(3-2)第2工程(溝部(C)への金属反射体(B)の埋め込み工程)
金属反射体(B)の埋め込み工程は、透明性を有するシート(A)の溝部(C)に金属微粒子を含むインク又はペースト(以下、インクとペーストを併せてインクという)を充填する工程(インクの充填工程)と、充填したインクを加熱して金属微粒子を焼成(firing)する工程である。
(i)インクの充填工程
インクは、少なくとも金属微粒子の表面を被覆するアミン化合物、ゼラチン等の分散剤と、高沸点の有機溶剤を含む溶媒中に、平均粒子径が金属反射体(B)の平均幅(a)以下、好ましくは平均幅(a)の1/2以下の金属微粒子が均一に分散しているインクで、該インク中の金属微粒子含有量が60~90質量%程度であるインクを使用するのが望ましい。
【0043】
本発明に使用可能なインクは実施例に示すように市販されているので、容易に入手可能である。金属微粒子は上記金属反射体(B)の構成材料と同様で、アルミニウム、ニッケル、クロム、白金、パラジウム、チタン、金、銀、銅、及びこれらの合金の内のいずれか1又は2以上の混合体であることが好ましい。上記成分を含有するインクは、微細なパターンを描画することができ、かつ金属微粒子を加熱焼成する際に、アミン化合物等の分散剤が金属微粒子表面から離脱して焼成が促進される。
【0044】
上記溝部(C)の幅がナノサイズであることから、インクをシート(A)の溝部(C)に充填する際に、毛細管現象を利用して充填することが可能である。更に、シート(A)の表面に、撥液膜を形成しておくのが望ましい。該撥液膜は、インクの溝部(C)への充填を促進するだけでなく、シート(A)上の不要箇所に焼成された金属微粒子が付着するのを防止する保護膜としての機能も発揮する。インクの溝部(C)内への充填方法としては、スキージやドクターブレード等を用いた方法が好ましい。上記溝部(C)へのインク充填後、シート(A)表面に残存した余剰のインクを選択的に除去するため、シート(A)表面を直接ワイピングする方法が好ましい。
【0045】
(ii)金属微粒子の焼成工程
溝部(C)にインクが充填されたシート(A)を加熱して、インクに含有されていた分散剤と有機溶媒等を蒸発させて、金属微粒子を焼成して、溝部(C)内に金属反射体(B)を形成する工程である。金属微粒子の焼成度を制御するためには、加熱オーブンを用いるのが好ましいが、ホットプレート、プラズマ焼成装置、マイクロ波焼成装置、ファラッシュランプ光焼成装置、レーザー焼成装置などの焼成装置を用いることも可能である。
焼成温度と焼成に要する時間は、金属微粒子の成分、粒子径、インクに使用した分散剤、有機溶媒にもよるが、一般に焼成温度は、好ましくは80~200℃、より好ましくは100~160°である。焼成時間は焼成温度を考慮して任意に決定することができる。
シート(A)表面に撥液膜が形成されているときには、焼成終了後に撥液膜を剥離して、本発明のワイヤグリッド型偏光素子シート(W)を得ることができる。
【0046】
〔2〕偏光サングラスレンズ
本発明の偏光サングラスレンズは、前記ワイヤグリッド型の偏光素子シート(W)の裏面側と表面側の少なくともいずれか一方の面に透明性を有するレンズ用樹脂層が積層されていて、かつ偏光素子シート(W)の裏面側が接眼側に配置されている、偏光サングラスレンズである。
本発明の偏光サングラスレンズにワイヤグリッド型の偏光素子シート(W)を使用することにより、保護層、接着層粘、粘着層等を必ずしも必要とせず、偏光度に優れ、必要な光線透過率を維持でき、裏面側(接眼側)からの反射を低減化して、優れた視認性を得ることができる。
【0047】
上記の通り、上記ワイヤグリッド型の偏光素子シート(W)を使用する、本発明の偏光サングラスレンズでは、吸収型の偏光素子フィルムを使用する偏光サングラスレンズと異なり、保護層、接着層、粘着層等を使用せずに、金型等を使用して透明性を有するレンズ用樹脂を偏光素子シート(W)の裏面側と表面側の少なくともいずれか一方の面に直接融着することができる。
偏光素子シート(W)の裏面側と表面側の少なくともいずれか一方の面に透明性を有するレンズ用樹脂層を積層する手段は特に制限されないが、実用的な成形法としては以下に記載する、熱可塑性樹脂の射出成形と、硬化性樹脂の注型重合が挙げられる。
尚、透明性を有するレンズ用樹脂層とは、前記透明性を有するシート(A)の項に記載したのと同様に、無色ないし有色で、かつ透明及び半透明のレンズ用樹脂層を含み、可視光域における波長の光線透過率が8%以上であるレンズ用樹脂層を意味する。有色のレンズ用樹脂層と半透明のレンズ用樹脂層については、前記有色のシート(A)と半透明のシート(A)での記載内容と同様である。
【0048】
(1)射出成形で成形される偏光サングラスレンズ
偏光サングラスレンズは、射出成形により偏光素子シート(W)に透明性を有するレンズ用樹脂層を融着して成形することができる。該射出成形法は公知の方法を採用できるが、その工程の具体例としては、先ず偏光素子シート(W)の不要部分を削除した後、レンズ形状への曲げ加工を行い、射出成型機の金型内に装着して、その後加熱された溶融樹脂を金型内のレンズ形状偏光素子の片面(又は両面)に射出してレンズ形状偏光素子シートと融着、金型冷却後成形した偏光サングラスレンズを金型から取り出す方法、が挙げられる。
【0049】
上記レンズ形状への曲げ加工の具体例としては、打ち抜き等で不要部分を削除した偏光素子シート(W)を熱プレス加工、真空圧空プレス加工等により所定の曲率球面形状体を作製する加工法が挙げられる。
また、上記射出成形の具体例としては、上記球面形状体の曲率の凹型可動側金型と、任意の曲率を有した凸型固定側金型を備えたインサート射出成形機を用い、上記曲げ加工で得られた球面形状体の偏光素子片のパターン面側(表面側)を、凹型可動側金型にセット・固定し、固定側金型を可動側金型に締め付けた後に、透明性を有するレンズ用樹脂を偏光素子片と固定側金型間に射出し、透明性を有するレンズ用樹脂層を裏面側に熱接着して、所定の厚みと曲面を有する透明な偏光サングラスレンズを得る、方法が挙げられる。尚、目的により、偏光素子のパターン面側を凸型固定側金型に密着し、裏面側を凹型可動側金型の方に向く配置とすることもできる。
レンズ表面の傷等を防止するために、偏光サングラスレンズの凸面側と凹面側のそれぞれに外層としてハードコート層を設けることが好ましいが、ハードコート膜の形成には、特に限定はなく、例えば熱硬化性、紫外線硬化性等のハードコートを使用することができる。
【0050】
前記インサート射出成形により形成される、透明性を有するレンズ用樹脂層は、熱可塑性樹脂から形成される層であるが、熱可塑性樹脂の中でも、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、セルロース系樹脂、ポリシクロオレフィン系樹脂、及びポリオレフィン系樹脂から選択された樹脂から形成される層が好ましい。
また、前記の通り、偏光素子シート(W)を作製する際に使用される、透明性を有するシート(A)は、ポリカーボネート系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリシクロオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、セルロース系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリアリレート系樹脂、及びポリサルフォン系樹脂から選択されることが望ましい。
【0051】
従って、透明性を有するレンズ用樹脂層を選択するに当たっては、シート(A)を形成する樹脂とレンズ用樹脂層を形成する樹脂との溶融温度、溶解パラメーター(Solubility Parameter、Sp値)等を考慮して、透明性を有するレンズ用樹脂層が得られるように樹脂の組み合わせ等を考慮する必要がある。それぞれの熱可塑性樹脂の溶融温度、Sp値等は公知であるので、好ましいシート(A)とレンズ用樹脂との組み合わせ、例えばポリカーボネート同士の組み合わせを選択することにより、裏面側の反射率を低減化できるばかりでなく、耐衝撃性、耐熱性、及び耐久性に優れた偏光サングラスを得ることができる。
【0052】
(2)注型重合で成形される偏光サングラスレンズ
偏光サングラスレンズは、注型重合により、偏光素子シート(W)をセットした成形型に重合性液状材料を注入後、重合硬化させて、偏光素子シート(W)の少なくとも片面に透明性を有するレンズ用樹脂層を積層して成形することができる。該注型重合では、偏光素子シートの基材の制約が緩和でき、かつ偏光サングラスレンズ内における層間の剥離を抑制できる特徴がある。
【0053】
注型重合法には、成形型と重合性液状材料について種々の提案がなされている。1つの具体例として、先ず表面が所定の曲率を有する下側と上側の2枚1組の金型を用意し、一方、重合性液状材料を調合する。偏光素子シート(W)を真空成形等にて、所定の曲率に曲率加工を行い、次に円形のプレス抜き加工等により賦形偏光シートとし、該賦形偏光シートを上記2枚1組の成形型の間にセット後、中心間隔を一定に保持した状態でテープを巻き回して成形型を調整する、その後上記成形型内に調合した重合性液状材料を注入し、所定の温度で加熱することにより、前記重合性液状材料を重合硬化させて偏光サングラスレンズの成形を行う方法、が挙げられる。尚、注型重合で得られた偏光サングラスレンズは、必要により形状加工される。また、偏光サングラスレンズの凸面側と凹面側のそれぞれに外層として、上記形成手段によりハードコート層を設けることが好ましい。
【0054】
前記注型重合に用いる重合性組成物は、種々の組成物が提案されているが一般に注型重合に使用することができる熱硬化性樹脂を使用することができる。好ましい、重合性組成物としては、チオウレタン系重合性組成物、ウレタン系重合性組成物、チオウレア系重合性組成物、ウレア系重合性組成物、チオエポキシ系重合性組成物、エポキシ系重合性組成物、メチルメタクリレート系重合性組成物、芳香族カーボネート系重合性組成物、脂肪族カーボネート系重合性組成物、サルファイド系重合性組成物、及びエピスルフィド系重合性組成物から選ばれる少なくとも1種を含有している、重合性組成物が挙げられる。尚、重合性組成物中には重合性モノマーの他に、硬化剤、離型剤、紫外線吸収剤等を配合することができる。
【0055】
また、上記の通り、偏光素子シート(W)を作製する際に使用される、透明性を有するシート(A)は、ポリカーボネート系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリシクロオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、セルロース系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリアリレート系樹脂、及びポリサルフォン系樹脂から選択されることが望ましいので、透明性を有するレンズ用樹脂を選択するに当たっては、注型重合後に透明性を有するレンズ用樹脂層が得られるよう、樹脂の組み合わせ等を考慮する必要がある。
【0056】
上記射出成形又は注型重合で成形された偏光サングラスレンズの片面又は両面に反射防止膜を外層として形成することができ、また凸面側に増反射膜、及び凹面側に反射防止膜をそれぞれ外層として形成することができる。また上記射出成形又は注型重合後に、偏光サングラスレンズの凸面側と凹面側のそれぞれに外層としてハードコート層が設けられている場合には、更にその片面又は両面に反射防止膜を最外層として形成することができ、またその凸面側に増反射膜、及び凹面側に反射防止膜がそれぞれ最外層として形成することもできる。
【実施例】
【0057】
次に本発明を明確にするために行った実施例、比較例について説明する。最初にワイヤグリッド型の偏光素子を作製して評価し、次に作製した偏光素子を用いて偏光サングラスを試作して評価を行った。以下の実施例等において、偏光素子シートを偏光素子と記載することがある。
本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
1.ワイヤグリッド型の偏光素子試験片の作製と評価
作製した試験片の偏光度、光線透過率、及び光線反射率の測定は、下記装置を用いて行った。
【0058】
(i)偏光度、光線透過率の測定
(株)島津製作所製、分光光度計(型式:SolidSpec-3700)を使用した。
作製した偏光素子に埋め込まれた金属反射体に対して、平行方向、垂直方向に振動する電場成分の入射光を用い、反射率測定では、ランダム偏光の入射光を用いた。偏光特性については、偏光度による評価を行った。金属反射体に対して平行方向の偏光光線のときの視感透過率をTp、垂直方向の偏光光線のときの視感透過率をTvとすると、偏光度VはV=((Tv-Tp)/(Tv+Tp))1/2となる。それぞれの偏光における視感透過率は、波長380~780nm(1nm刻み)のときのそれぞれの透過率(透過スペクトル)と視感度曲線から得ることができる。
(ii)光線反射率の測定
オリンパス(株)製、顕微分光器(型式:USPM-RU III)を使用した。
視感透過率Tは、T=(Tv+Tp)/2から求めることができる。反射率の場合の視感反射率Rは、ランダム偏光であるため、反射スペクトルと視感度曲線から得られる値を用いた。
【0059】
(実施例1、2、3)
熱可塑性樹脂シート表面に、金型を使用して熱ナノインプリント法により微細溝構造を形成し、次いで該溝部内に銀微粒子を含むインクを充填し、その後加熱されたオーブン中でインクに含まれる銀微粒子の焼成を行い、前記ワイヤグリッド型偏光素子(R1)タイプで、一次元格子状配列の長手方向と平行でかつシート表面と垂直の断面の先端部における突出開始部から最先端部までの長さが前記一次元格子状配列の長手方向と平行方向に不規則的に連続して変化している形状の、偏光素子試験片を作製した。
【0060】
(1)シート表面に微細溝構造の形成
シートとして、ポリカーボネートシート(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、商品名:FE-2000、厚さ:400μm)を用いた。使用した金型は、4インチのシリコンウエハに微細加工を行ったものである。使用した金型の微細構造は、溝部を形成する凸部形状が、ワイヤグリッド型偏光素子(R1)タイプに形成される溝形状の反転形状を有していて、対応する平均幅(a’)、平均厚み(b’)、先端部(D’)の最先端方向への平均長さ(c’)、及び配列の周期(d’)は、表1に示す通りである。尚、突出開始部の平均幅(a)は、
図2に示す通り、金属反射部の平均幅(a)と同じになるので、表1中、突出開始部の平均幅は、a’で示してある。
また、シート表面と垂直の断面の先端部における突出開始部から最先端部までの長さが前記一次元格子状配列の長手方向と平行方向に不規則的に連続して変化している形状で、その凹凸形状の高低差が実施例1で100nm、実施例2で100nm、実施例3で80nmであり、実施例1、2、3における先端部(D’)の最先端方向の長さ(c’)と前記金属反射体(B)の
平均厚み(b’)との比(c’/b’)は、それぞれ0.202、0.202、0.205となる金型であった。これらの金型をそれぞれ用いて、熱ナノインプリント法によりシート表面に微細溝構造をそれぞれ転写した。
図5は、実施例1で使用した金型のほぼ正面の斜め上から観察した、
図6は、実施例1で使用した金型の斜め上から観察した走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【0061】
(2)シートの微細溝内にインクの充填
スキージング法により、ハリマ化成(株)製の銀ナノインク(商品名:NPS、銀微粒子含有率:85質量%、平均粒子径:12nm)を溝部内へ充填した。次いで、ワイピングにより、溝部内以外に付着した余分なインクを除去した。
(3)焼成による偏光素子の作製
溝部内に上記インクが充填されたシートを、130℃に加熱されたオーブン中で実施例1では12時間、実施例2では81時間、実施例3では12時間インクに含まれる銀微粒子の焼成を行い、偏光素子試験片を作製した。
【0062】
(4)評価結果
得られたワイヤグリッド型の偏光素子試験片について、偏光度、光線透過率、及び光線反射率を測定した。これらの結果をまとめて表1に示す。偏光度、裏面側の反射率共に良好な結果が得られた。また、実施例1で得られたワイヤグリッド型の偏光素子試験片の上面側からの走査型電子顕微鏡(SEM)画像を
図7に示す。溝の上部には、数十nmサイズに成長した銀ナノ粒子が溝に沿って並んでいることが確認できた。また、溝の内部には100nm程度まで成長した銀ナノ粒子が重なっていることも確認しており、溝内部でサイズに分布がある銀粒子で構成されたパターンが形成されていた。
【0063】
(実施例4,5、6)
熱可塑性樹脂シート表面に、金型を使用して熱ナノインプリント法により微細溝構造を形成し、次いで該溝部内に銀微粒子を含むインクを充填し、その後加熱されたオーブン中でインクに含まれる銀微粒子の焼成を行い、前記ワイヤグリッド型偏光素子(R1)タイプで、一次元格子状配列の長手方向と平行でかつシート(A)表面と垂直の断面形状において、各先端部(D)における突出開始部から最先端部までの長さが前記一次元格子状配列の長手方向と平行方向に略一定の長さである形状の偏光素子試験片を作製した。
【0064】
(1)偏光素子試験片の作製
実施例1で使用したと同様のシートを用いた。使用した金型の微細構造は、溝部を形成する凸部形状が、前記ワイヤグリッド型偏光素子(R1)タイプに形成される溝形状の反転形状を有していて、平均幅(a’)、平均厚み(b’)、先端部(D’)の最先端方向への平均長さ(c’)、及び配列の周期(d’)は表1に示す通りである。尚、実施例1~3と同様に、突出開始部の平均幅(a’)は、
図2に示す通り、金属反射部の平均幅(a’)と同じになるので、表1中、突出開始部の平均幅は、a’で示してある。
これらの金型をそれぞれ用いて、熱ナノインプリント法によりシート表面に微細溝構造を転写した。
図8は、実施例4で使用した金型のほぼ正面の斜め上から観察した、
図9は、実施例6で使用した金型のほぼ正面の右側から観察した走査型電子顕微鏡(SEM)画像であり、これらの金型形状から各先端部(D)における突出開始部から最先端部までの長さが前記一次元格子状配列の長手方向と平行方向に略一定の長さである形状の偏光素子試験片が得られることが確認された。
【0065】
その後、スキージング法により、実施例1で使用したと同様の銀ナノインクを溝部内へ充填し、充填後にワイピングにより、溝部内以外に付着した余分なインクを除去した。
次いで、溝部内に上記インクが充填されたシートを、130℃に加熱されたオーブン中で共に12時間、インクに含まれる銀微粒子の焼成を行い、偏光素子試験片を作製した。
(2)評価結果
得られた偏光素子試験片について、偏光度、光線透過率、及び光線反射率を測定した。これらの結果をまとめて表1に示す。実施例4,5において、偏光度、裏面側の反射率共に良好な結果が得られた。また、実施例6で、金属反射体の平均厚み(b’)と前記平均幅(a’)の比(b`/a’)が4.4で、該比が3.5である比較例1と比べて偏光度が向上していることが認められた。
【0066】
(実施例7、8、参考例1)
熱可塑性樹脂シート表面に、金型を使用して熱ナノインプリント法により微細溝構造を形成し、次いで該溝部内に銀微粒子を含むインクを充填し、その後加熱されたオーブン中でインクに含まれる銀微粒子の焼成を行い、前記ワイヤグリッド型偏光素子(R3)タイプの、偏光素子試験片を作製した。
【0067】
(1)偏光素子試験片の作製
実施例1で使用したと同様のシートを用いた。使用した金型の微細構造は、溝部を形成する凸部形状が、上記ワイヤグリッド型偏光素子(R3)タイプに形成される溝形状の反転形状を有していて、平均幅(a’)、平均厚み(b’)、先端部(D’)の
最先端方向への平均長さ(c’)、及び配列の周期(d’)は表1に示す通りである。尚、先端部に相当する部分の金型の形状は、突出開始部に相当する部分の平均幅(a’)は金属反射部に相当する部分の平均幅(a’)と同じであるので、平均幅(a’)で示した。
実施例7、8において、先端部(D’)の先端までの長さ(c’)が前記厚みの長さ(b’)のそれぞれ0.296倍、0.315倍であった。
これらの金型をそれぞれ用いて、熱ナノインプリント法によりシート表面に微細溝構造を転写した。
図10は、実施例8で使用した金型のほぼ正面の斜め上から観察した走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【0068】
その後、スキージング法により、実施例1で使用したと同様の銀ナノインクを溝部内へ充填し、充填後にワイピングにより、溝部内以外に付着した余分なインクを除去した。
次いで、溝部内に上記インクが充填されたシートを、130℃に加熱されたオーブン中において実施例7で128時間、実施例8と参考例1で81時間、インクに含まれる銀微粒子の焼成を行い、偏光素子試験片を作製した。
(2)評価結果
得られた偏光素子試験片について、偏光度、光線透過率、及び光線反射率を測定した。
これらの結果をまとめて表1に示す。偏光度、裏面側の反射率共に良好な効果が得られた。
【0069】
(比較例1,2)
熱可塑性樹脂シート表面に、金型を使用して熱ナノインプリント法により微細溝構造を形成し、次いで該溝部内に銀微粒子を含むインクを充填し、その後加熱されたオーブン中でインクに含まれる銀微粒子の焼成を行い、前記ワイヤグリッド型偏光素子(R1)タイプで、各先端部(D)における突出開始部から最先端部までの長さが前記一次元格子状配列の長手方向と平行方向に略一定の長さである形状の偏光素子試験片を作製した。
【0070】
(1)偏光素子試験片の作製
実施例1で使用したと同様のシートを用いた。使用した金型の微細構造は、溝部を形成する凸部形状が、前記ワイヤグリッド型偏光素子(R1)タイプに形成される溝形状の反転形状を有していて、平均幅(a’)、平均厚み(b’)、先端部(D’)の
最先端方向への平均長さ(c’)、及び配列の周期(d’)は表1に示す通りである。
これらの金型をそれぞれ用いて、熱ナノインプリント法によりシートに微細溝構造を転写した。また、
図11は、比較例2で使用した金型のほぼ正面の斜め上から観察した走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【0071】
その後、スキージング法により、実施例1で使用したと同様の銀ナノインクを溝部内に充填し、充填後にワイピングにより、溝部内以外に付着した余分なインクを除去した。
次いで、溝部内に上記インクが充填されたシートを、130℃に加熱されたオーブン中で、比較例1で12時間、比較例2で81時間、インクに含まれる銀微粒子の焼成を行い、偏光素子試験片を作製した。
(2)評価結果
得られた偏光素子試験片について、偏光度、透過率、及び反射率を測定した。これらの結果をまとめて表1に示す。比較例1から、金属反射体の平均厚み(b’)と平均幅(a’)の比(b`/a’)が3.5では偏光度が低下すること、比較例1、2から、先端部の最先端方向への平均長さ(c’)と平均幅(a’)の比(c’/a’)が1.0では裏面側の反射率がやや高くなり、0.89になると裏面側の反射率が高くなることが認められた。
【0072】
【表1】
*1:先端部平均長さ(c')と平均幅(a')との比(c'/a')を示す。
*2:周期(d')と平均幅(a')との比(d'/a')を示す。
*金属反射体の一次元格子状配列の周期(d'):140nm
*実施例1~3:ワイヤグリッド型偏光素子(R1)タイプで、最先端部断面が凹凸形状
*実施例4~6,比較例1,2:ワイヤグリッド型偏光素子(R1)タイプで、最先端部断面が略直線
*実施例7~8,参考例1:ワイヤグリッド型偏光素子(R3)タイプ
【0073】
2.偏光サングラスレンズの作製と評価
上記実施例7で作製したワイヤグリッド型の偏光素子等を用いて、以下の実施例10~12にて、曲げ加工後に、射出成形、又は注型重合にてそれぞれ偏光サングラスレンズを作製して光学的評価を行った。
【0074】
(実施例9)
上記実施例7で得られた偏光素子試験片を用いて、トリミング後、熱曲げ加工で球面形状体とし、次に金型内に配置してインサート射出成形を行って凹面側に熱成形樹脂層を形成し、偏光サングラスレンズを試作した。その後、得られた偏光サングラスレンズの両面にハードコート膜を形成した。前記各工程で得られた試験片について、光学評価を行った。
【0075】
(1)ワイヤグリッド型の偏光素子の熱プレス加工
上記実施例7で得られた偏光素子試験片の不要部分を除去後、公知の方法により球面形状の熱プレス加工(曲げ加工)を行って、曲率8C(曲率半径=66.81mm)の球面形状体を作製した。具体的には、金属反射体を形成した表面側を上向側、裏面側を下向側として、アンビル設定温度150℃で熱プレス成形(曲げ加工)を行い、射出成形に使用する球面形状の偏光素子試験片を作製した。得られた球面形状の偏光素子試験片について、(株)日立ハイテクサイエンス製、分光光度計(型式:U-4100)を用いて光学測定を行った。
その結果は、偏光度97.4%、光線透過率21.1%で、透明であり、曲げ加工による光学特性の劣化は観察されなかった。
【0076】
(2)試験用偏光成形体の作製
偏光成形体を以下の通りに作製した。使用したインサート射出成形機は、上記球面形状体の偏光素子試験片を固定できる同曲率の凹型可動側金型と、任意の曲率を有した凸型固定側金型を備えた装置である。この成形機を用い、上記で得られた球面形状体の偏光素子試験片を、凹型可動側金型にセットし、固定した。この場合、球面形状の偏光素子試験片のパターン面側が可動側金型に密着し、裏面側が固定側金型の方に向く配置をとった。固定側金型を可動側金型に締め付けた。熱成形樹脂層の形成に透明ポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、商品名:ユーピロンCLS3400)を用いた。
【0077】
樹脂の最高温度310℃で試験用偏光成形体を射出成形し、ポリカーボネートシートからなる裏面側と熱接着した。その後、試験用偏光成形体をインサート射出成形機から取り出した。得られた試験用偏光成形体は、パターン面を凸面側に配置し、透明ポリカーボネートの熱成形樹脂層を凹面側に一体配置した、厚さ2.2mmの8Cの偏光サングラスレンズである。
作製した偏光サングラスレンズの光学測定を行った結果は、偏光度97.3%、光線透過率21.1%で、インサート射出成形による光学特性の劣化は見られなかった。
【0078】
(3)ハードコート膜の形成
上記で得られた偏光素子試験片(偏光サングラスレンズ)の両面に、公知の方法により、膜厚2μmのシリコン系ハードコート膜を形成した。得られたハードコート付き偏光サングラスレンズについて、上記分光光度計((株)日立ハイテクサイエンス製)を用いて光学測定を行った。
その結果、偏光度96.6%、光線透過率25.2%で、ハードコートによる光学特性の劣化は見られなかった。試作したハードコート付き偏光サングラスレンズは、高偏光度、高透過率であり、凹面側(目元側又は接眼側)の反射率は3.7%で低反射であり、外観も良好であった。
各工程における偏光度と光線透過率を表2にまとめて示す。偏光度は各工程による低下はほぼ認められなかった。光線透過率も各工程による低下はほぼ認められなかったが、ハードコート形成後に光線透過率が多少向上しているが、この原因は不明であるが色素系の偏光素子を用いた場合にも認められる現象である。
【0079】
【0080】
(実施例10)
ポリアミドシートから作製した偏光素子試験片を用いて、真空曲げ加工で球面形状体とし、トリミング後、金型内に配置してインサート射出成形を行って凹面側に熱成形樹脂層を形成し、偏光サングラスレンズを試作した。その後、得られた偏光サングラスレンズの両面にハードコート膜を形成した。得られた試験片について、光学測定を行った。
【0081】
(1)ワイヤグリッド型偏光素子の真空プレス加工
ポリカーボネートシートを透明ポリアミドシート(EMS社製、グリルアミドTR90、厚み:100μm)に変えた以外は上記実施例7と同様にして作製したワイヤグリッド型偏光素子試験片を、公知の方法により球面形状の真空圧空プレス加工(曲げ加工)を行って、曲率6C(曲率半径=89.08mm)の球面形状体を作製した。具体的には、偏光素子のパターン面側を下、裏面側を上として、真空圧空プレス成形(曲げ加工)を行い、不要部分を除去することにより、射出成形に使用する球面形状の偏光素子を作製した。
【0082】
(2)試験用偏光成形体の調製
試験用偏光成形体は以下の通りに作製した。使用したインサート射出成形機は、上記球面形状体の偏光素子を固定できる同曲率の凹型可動側金型と、任意の曲率を有した凸型固定側金型を備えた装置である。この装置を用いて、得られた球面形状体の偏光素子を、凹型可動側金型にセットし、固定した。この場合、球面形状体の偏光素子のパターン面側が可動側金型に密着し、裏面側が固定側金型の方に向く配置をとった。固定側金型を可動側金型に締め付けた。熱成形樹脂層として、EMS社製の透明ポリアミド材(商品名:グリルアミドTR90)を用いた。樹脂の最高温度280℃で試験用偏光成形体を射出成形し、偏光素子の裏面と熱接着した。その後、試験用偏光成形体をインサート射出成形機から取り出した。得られた試験用偏光成形体は、パターン面を凸面側に配置し、熱成形樹脂層を偏光素子の凹面側に一体配置した、厚さ2.2mmの6Cの偏光サングラスレンズであった。
【0083】
(3)ハードコート膜の形成
上記で得られた試験用偏光成形体の両面に、公知の方法により膜厚2μmのシリコン系ハードコート膜を形成した。上記分光光度計((株)日立ハイテクサイエンス製)を用いて、作製したハードコート付き偏光サングラスレンズの光学測定を行った。測定結果は、偏光度96.2%、光線透過率27.4%であり、光学特性の劣化は見られなかった。作製したハードコート付き偏光サングラスレンズは、高偏光度、高透過率であり、裏面側(目元側又は接眼側)の反射率が3.6%で低反射であり、外観は良好であった。
【0084】
(実施例11)
ポリエステルシートから作製した偏光素子試験片を用いて、真空曲げ加工で球面形状体とし、次にプレス抜き加工後、金型内に配置して注型重合を行って凹面側に熱成形樹脂層を形成し、偏光サングラスレンズを試作した。その後、得られた、偏光サングラスレンズの両面にハードコート膜を形成した。得られた試験片について、光学測定を行った。
尚、モールド(金型)の作製と重合性液状材料の調合は、下記の通りに行った。
【0085】
(i)モールド(金型)の作製
ガラス製下型(第1モールドの本体)(外径80mm、使用面曲率66.16mm、中心厚5.0mm)とガラス製上型(第2モールドの本体)(外径80mm、使用面曲率65.59mm、中心厚5.0mm)の第1、2モールドを作製した。
【0086】
(ii)重合性液状材料の調合
2,5-ビシクロ〔2,2,1〕ヘプタンビス(メチルイソシアネート)100質量部に、硬化触媒としてジブチルチンジクロライド0.1質量部、内部離型剤としてアルキル燐酸エステル(アルコールの炭素原子数:8~12)塩0.3質量部、香気性付与剤としてカプロン酸エチル0.2質量部、更に、紫外線吸収剤として3-〔5-(2-ベンゾトリアゾイル)-3-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル〕プロピオン酸とポリエチレングリコールとのモノエステル2.0質量部をそれぞれ添加し、液温15℃、窒素ガス雰囲気下で1時間充分に攪拌した。次に、更にペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)50質量部と、4,7-ビス(メルカプトメチル)-3,6,9-トリチア-1,11-ウンデカンジチオール50質量部を添加し、液温15℃、窒素ガス雰囲気下で1時間充分に攪拌した。
その後、真空ポンプを用いて液温15℃、133Paで攪拌しながら1時間脱気した後、目開き1μmのフィルターで濾過し、屈折率1.60のポリチオウレタン系レンズの原料液(重合性液状材料)を調合した。
【0087】
(1)ワイヤグリッド型偏光素子の真空プレス加工
ポリカーボネートシートをポリエステルシート(東洋紡(株)製、ポリエステル(商品名:コスモシャイン A4300)、厚み:250μm)に変えた以外は上記実施例7と同様にして作製したワイヤグリッド型偏光素子試験片を真空成形にて、曲率66.00mmに曲率加工を行った。得られた偏光素子を外径79.0mmに円形のプレス抜き加工をして賦形偏光シートとした。
【0088】
(2)注型重合
この賦形偏光シートを上記各第1、第2モールド2枚1組の間にセット後、中心間隔3.0mmとなるように粘着テープを巻き回して成形型を調整した。粘着テープは、38μm厚PETフィルム上にシリコン系粘着剤が塗布されたものを使用した。上記成形型に重合性液状材料を注入後、下記温度条件で加熱し重合硬化させて偏光レンズの成形を行った。離型は、クサビ状工具で物理的(機械的)に行った。
(30℃で9時間保持)→(30℃から60℃まで2時間かけて昇温)→
(60℃から120℃まで2時間かけて昇温)→(120℃で2時間加熱)→
(120℃から40℃まで4時間かけて冷却)
【0089】
(3)ハードコート膜の形成
上記で得られた偏光レンズの両面に、公知の方法により、膜厚2μmのシリコン系ハードコート膜を形成した。上記分光光度計((株)日立ハイテクサイエンス製)を用いて、ハードコート付き偏光サングラスレンズの光学測定を行った。測定結果は、偏光度96.2%、光線透過率27.4%であり、光学特性の劣化は見られなかった。作製したハードコート付き偏光サングラスレンズは、高偏光度、高透過率であり、裏面側(目元側又は接眼側)の反射率が3.6%で低反射であり、外観良好であった。
【符号の説明】
【0090】
1、2 ワイヤグリッド型偏光素子(R1)
3 ワイヤグリッド型偏光素子(R2)
4 ワイヤグリッド型偏光素子(R3)
5、6、7 金属反射体(B)
11 シート(A)
12 シート(A)の表面側
13 シート(A)の裏面側
14、16、18 金属反射部(H)
15、17、19 先端部(D)
21 金型
22 金型の凸部
23 溝部(C)
24 金属微粒子を含むインク
25 金属微粒子の焼成体
31、32、33 最先端部
34、35、36 突出開始部