(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】加熱装置、定着装置および画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20240711BHJP
G03G 21/00 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
G03G15/20 510
G03G21/00 530
(21)【出願番号】P 2020128405
(22)【出願日】2020-07-29
【審査請求日】2023-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100093997
【氏名又は名称】田中 秀佳
(72)【発明者】
【氏名】南野 茂夫
【審査官】内藤 万紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-044025(JP,A)
【文献】特開平07-219370(JP,A)
【文献】特開2020-071357(JP,A)
【文献】特開2017-191149(JP,A)
【文献】特開2008-298831(JP,A)
【文献】特開2007-322470(JP,A)
【文献】実開昭58-152651(JP,U)
【文献】特開2020-008766(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
G03G 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体を備え、長手方向を有すると共に互いに圧接してニップ部を形成する加熱部材と加圧部材が前記筐体内に収容され、前記加熱部材がシート部材を加熱する加熱装置において、
前記筐体には、前記加熱部材の長手方向両端部に対向するように設けられた一対の開口部と、当該一対の開口部を開閉するシャッター部材を有し、
当該シャッター部材は、前記加熱部材の長手方向に延びた軸線を中心として回動することで前記開口部を開閉し、
前記加熱部材が電圧の印加により発熱する抵抗発熱体を熱源とし、
前記加熱部材の温度を検知する温度検知手段を備え、
前記温度検知手段は、前記加熱部材の長手方向の中央部と端部の少なくとも2箇所の温度を検知可能であり、
前記抵抗発熱体が前記加熱部材の長手方向に複数配設され、当該複数の抵抗発熱体は、前記長手方向の両端部を除く中央側に配設された複数の第1の抵抗発熱体と、前記長手方向の両端部に配設された複数の第2の抵抗発熱体で構成され、
前記加熱部材の長手方向一端部に第1の電極及び第3の電極が配設されると共に、反対側の長手方向他端部に第2の電極が配設され、
前記第1の抵抗発熱体が、第1の導体を介して前記第1の電極と前記第2の電極に並列接続され、
前記第2の抵抗発熱体が、第2の導体を介して前記第2の電極と前記第3の電極に並列接続され、
前記筐体に形成された前記一対の開口部のうち、前記第1の電極及び第3の電極が配設された長手方向一端部の第1の開口部の開口面積をS1とし、前記第2の電極が配設された長手方向他端部の第2の開口部の開口面積をS2としたとき、前記第1の抵抗発熱体のみを加熱するときはS1>S2、前記第1の抵抗発熱体と前記第2の抵抗発熱体の両方を加熱するときはS1<S2の関係となるように、前記シャッター部材を回動することを特徴とする加熱装置。
【請求項2】
前記軸線が、前記加熱部材の長手方向に直交する方向における断面の内側領域に配設されると共に、前記シャッター部材が前記加熱部材の長手方向に直交する方向における外周面より外側で湾曲していることを特徴とする請求項1の加熱装置。
【請求項3】
前記シート部材を加熱している状態において、前記開口部が前記筐体の上部に設けられていることを特徴とする請求項1又は2の加熱装置。
【請求項4】
前記第1の開口部と前記第2の開口部にエアダクトが接続され、当該エアダクトに送風ファンが配設されていることを特徴とする請求項
1の加熱装置。
【請求項5】
請求項1から
4のいずれか1項の加熱装置を備え、前記シート部材に担持したトナー画像を前記ニップ部に通して加熱定着することを特徴とする定着装置。
【請求項6】
請求項
5の定着装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。
【請求項7】
請求項
4の加熱装置の前記ニップ部に、前記シート部材に担持したトナー画像を通して加熱定着する定着装置を備えた画像形成装置であって、前記シート部材を加熱している状態において、前記第1の開口部と前記第2の開口部が前記筐体の上部に設けられ、前記送風ファンで前記筐体内の空気を上方に排気することを特徴とする画像形成装置。
【請求項8】
前記シート部材を排紙する排紙路と、両面印刷を行うため前記シート部材を搬送する反転搬送路が、前記定着装置の前記筐体の上方の分岐部で分岐していることを特徴とする請求項
7の画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は加熱装置、定着装置および画像形成装置に係り、特に定着装置筐体に形成された冷却用開口部の開口面積をシャッター部材の回動で調整する加熱装置と、当該加熱装置を備えた定着装置および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成装置で使用される定着装置は種々の型式が知られており、その1つに省エネ性に優れウォームアップ時間も短いサーフ定着方式がある。このサーフ定着方式は低熱容量の薄肉定着ベルトを内側から面状ヒータで接触加熱し、定着ニップを通るシート部材を定着ベルトで加熱してシート部材に担持した未定着トナー画像を加熱定着する。
【0003】
このような定着装置で小サイズ紙を連続印刷すると、定着ベルトの長手方向端部(非通紙部)が過度に温度上昇する場合がある。端部温度が過度に上昇すると、定着ベルトの耐久性が低下する他、小サイズ紙の印刷から大サイズ紙の印刷に移行したときに、端部の定着熱供給量過多による端部過昇温で(高温)オフセットや定着ベルトへの用紙巻き付きによるジャムなどの不具合が発生することがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、特許文献1(特許5907594号公報)や特許文献2(特開2013-007777号公報)のように、端部過昇温の抑制策として定着ベルトの長手方向両端部(非通紙部)を送風ファンで冷却することが行われている。特許文献1、2の定着装置は、装置筐体の長手方向両端部に形成した開口部にシャッター部材を設け、当該シャッター部材を、筐体の長手方向中央部に設けたラック・アンド・ピニオン機構で長手方向にスライド移動することで冷却風量を調節する。ここで、ラック・アンド・ピニオン機構とは、ラックと呼ばれる円筒歯車の直径が無限大となった板状又は棒状の歯車と、ピニオンと呼ばれる小歯車(円筒歯車)を組み合わせたものである。
【0005】
しかし、ピニオンの駆動源は通常装置の長手方向端部側に配設されるので、当該駆動源からピニオンにかけて簡易・省スペースな駆動伝達系を構成するのが難しい。ピニオンの駆動源自体を装置の長手方向中央部に配置しようとしても、当該中央部に十分な配置スペースを確保しにくい。駆動源を中央部に配置しても、その電力供給系を省スペースで引き回すのは簡単ではない。そこで本発明は、シャッター部材の開閉を簡易・省スペースな駆動系で実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明の加熱装置は、筐体を備え、長手方向を有すると共に互いに圧接してニップ部を形成する加熱部材と加圧部材が前記筐体内に収容され、前記加熱部材がシート部材を加熱する加熱装置において、前記筐体には、前記加熱部材の長手方向両端部に対向するように設けられた一対の開口部と、当該一対の開口部を開閉するシャッター部材を有し、当該シャッター部材は、前記加熱部材の長手方向に延びた軸線を中心として回動することで前記開口部を開閉することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、シャッター部材の開閉を簡易・省スペースな駆動系で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1A】本発明実施形態に係る画像形成装置の概略構成図である。
【
図1B】本発明実施形態に係る画像形成装置の原理図である。
【
図2】画像形成装置に使用する定着装置の断面図である。
【
図3A】シャッター部材が開状態にある本発明実施形態に係る定着装置の(a)斜視図、(b)断面図、(c)正面図である。
【
図3B】シャッター部材が閉状態にある本発明実施形態に係る定着装置の(a)斜視図、(b)断面図、(c)変形例の斜視図である。
【
図3C】排熱に不利な横向きの開口部を有する比較例としての定着装置の断面図である。
【
図3D】シャッター部材が半開状態にある本発明実施形態に係る定着装置の断面図である。
【
図3E】エアダクトの入口側に送風ファンを配設した本発明変形実施形態に係る定着装置の断面図である。
【
図3F】エアダクトの出口側に送風ファンを配設した本発明変形実施形態に係る定着装置の断面図である。
【
図4】従来の定着装置の斜視図であって、シャッター部材が(a)開状態の斜視図、(b)閉状態の斜視図、(c)閉状態の断面図である。
【
図5】(a)(b)は両端の2つの電極に並列接続されたヒータの平面図である。
【
図6】3つの電極に並列接続されたヒータの平面図である。
【
図7】(a)~(c)は抵抗発熱体の通電発熱状態を示すヒータの平面図である。
【
図8A】中央部の抵抗発熱体が通電発熱状態のときの電流の流れを示すヒータの平面図である。
【
図8B】
図8Aの各抵抗発熱体と導体に流れる電流割合を示すヒータの平面図である。
【
図8C】
図8Bの電流割合に基づく発熱体ブロック毎の導体発熱量の大きさをグラフ化した図である。
【
図9A】全部の抵抗発熱体が通電発熱状態のときの各抵抗発熱体と導体に流れる電流割合を示すヒータの平面図である。
【
図9B】
図9Aの電流割合に基づく発熱体ブロック毎の導体発熱量の大きさをグラフ化した図である。
【
図10】左右独立のシャッター部材を有する本発明変形実施形態に係る定着装置の(a)斜視図と(b)筐体の左右の開口部にエアダクトを接続した状態の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明実施形態に係る定着装置及び画像形成装置(レーザプリンタ)について図面を参照して説明する。レーザプリンタは画像形成装置の一例であり、当該画像形成装置はレーザプリンタに限定されないことは勿論である。すなわち、画像形成装置は複写機、ファクシミリ、プリンタ、印刷機、及びインクジェット記録装置のいずれか一つ、またはこれらの少なくとも2つ以上を組み合わせた複合機として構成することも可能である。
【0010】
なお、各図中の同一または相当する部分には同一の符号を付し、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。また各構成部品の説明にある寸法、材質、形状、その相対配置などは例示であって、特に特定的な記載がない限りこの発明の範囲をそれらに限定する趣旨ではない。
【0011】
以下の実施形態ではシート部材(記録媒体)を「用紙」として説明するが、「記録媒体」は紙(用紙)に限定されない。「記録媒体」は紙(用紙)だけでなくOHPシートや布帛、金属シート、プラスチックフィルム、或いは炭素繊維にあらかじめ樹脂を含浸させたプリプレグシートなども含む。
【0012】
現像剤やインクを付着させることができる媒体、記録紙、記録シートと称されるものも、すべて「記録媒体」に含まれる。また「用紙」には、普通紙以外に、厚紙、はがき、封筒、薄紙、塗工紙(コート紙やアート紙等)、トレーシングペーパ等も含まれる。
【0013】
また、以下の説明で使用する「画像形成」とは、文字や図形等の画像を媒体に対して付与することだけでなく、パターン等の模様を媒体に付与することも意味する。
【0014】
(レーザプリンタの構成)
図1Aは、定着装置300を備えた画像形成装置100の一実施形態としてのカラーレーザプリンタの構成を概略的に示す構成図である。また
図1Bは当該カラーレーザプリンタの原理を単純化して図示する。
【0015】
画像形成装置100は、画像形成手段としての4つのプロセスユニット1K、1Y、1M、1Cを備える。これらプロセスユニットは、カラー画像の色分解成分に対応するブラック(K)、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)の各色の現像剤によって画像を形成する。
【0016】
各プロセスユニット1K、1Y、1M、1Cは、互いに異なる色の未使用トナーを収容したトナーボトル6K、6Y、6M、6Cを有する以外は、同様の構成となっている。このため、1つのプロセスユニット1Kの構成を以下に説明し、他のプロセスユニット1Y、1M、1Cの説明を省略する。
【0017】
プロセスユニット1Kは、像担持体2K(例えば感光体ドラム)と、ドラムクリーニング装置3Kと、除電装置を有している。プロセスユニット1Kはさらに、像担持体の表面を一様帯電する帯電手段としての帯電装置4Kと、像担持体上に形成された静電潜像の可視像処理を行う現像手段としての現像装置5K等を有している。そして、プロセスユニット1Kは、画像形成装置100の本体に対して着脱自在に装着され、消耗部品を同時に交換可能となっている。
【0018】
露光器7は、この画像形成装置100に設置された各プロセスユニット1K、1Y、1M、1Cの上方に配設されている。そして、この露光器7は、画像情報に応じた書き込み走査、すなわち、画像データに基づいてレーザダイオードからレーザ光Lをミラー7aで反射して像担持体2Kに照射するように構成されている。
【0019】
転写装置15は、この実施形態では各プロセスユニット1K、1Y、1M、1Cの下方に配設されている。この転写装置15は
図1Bの転写部TMに対応する。一次転写ローラ19K、19Y、19M、19Cは、各像担持体2K、2Y、2M、2Cに対向して中間転写ベルト16に当接して配置されている。
【0020】
中間転写ベルト16は、各一次転写ローラ19K、19Y、19M、19C、駆動ローラ18、従動ローラ17に掛け渡された状態で循環走行するようになっている。二次転写ローラ20は、駆動ローラ18に対向し中間転写ベルト16に当接して配置されている。なお、像担持体2K、2Y、2M、2Cが各色の第1の像担持体とすれば、中間転写ベルト16はそれらの像を合成した第2の像担持体である。
【0021】
ベルトクリーニング装置21は、中間転写ベルト16の走行方向において、二次転写ローラ20より下流側に設置されている。また、クリーニングバックアップローラが中間転写ベルト16に対してベルトクリーニング装置21と反対側に設置されている。
【0022】
用紙Pを積載するトレイを有する用紙給送装置200は、画像形成装置100の下方に設置されている。この用紙給送装置200は記録媒体供給部を構成するもので、記録媒体としての多数枚の用紙Pを束状で収容可能であり、用紙Pの搬送手段としての給紙ローラ60やローラ対210と共にユニット化されている。
【0023】
用紙給送装置200は用紙の補給等のために、画像形成装置100の本体に対して挿脱可能とされている。給紙ローラ60とローラ対210は用紙給送装置200の上方に配置され、用紙給送装置200の最上位の用紙Pを給紙路32に向けて搬送するようになっている。
【0024】
分離搬送手段としてのレジストローラ対250は、二次転写ローラ20の搬送方向直近上流側に配置され、用紙給送装置200から給紙された用紙Pを一旦停止させることができる。この一旦停止により用紙Pの先端側に弛みが形成されて用紙Pの斜行(スキュー)が修正される。
【0025】
レジストローラ対250の搬送方向直近上流側にはレジストセンサ31が配設され、このレジストセンサ31によって用紙先端部分の通過が検知されるようになっている。レジストセンサ31が用紙先端部分の通過を検知した後、所定時間が経過すると、当該用紙はレジストローラ対250に突き当てられて一旦停止する。
【0026】
用紙給送装置200の下流端には、ローラ対210から右側に搬送された用紙を上方に向けて搬送するための搬送ローラ240が配設されている。
図1Aに示すように、搬送ローラ240は用紙を上方のレジストローラ対250へ向けて搬送する。
【0027】
ローラ対210は上下一対のローラで構成されている。当該ローラ対210はFRR分離方式またはFR分離方式とすることができる。
【0028】
FRR分離方式は、駆動軸によりトルクリミッタを介して反給紙方向に一定量のトルクを印加された分離ローラ(戻しローラ)を給送ローラに圧接させてローラ間のニップで用紙を分離する。FR分離方式は、トルクリミッタを介して固定軸に支持された分離ローラ(摩擦ローラ)を給送ローラに圧接させてローラ間のニップで用紙を分離する。
【0029】
この実施形態ではローラ対210をFRR分離方式で構成している。すなわち、ローラ対210は、用紙をマシン内部に搬送する上側の給送ローラ220と、この給送ローラ220と逆方向にトルクリミッタを介して駆動軸により駆動力を与えられる下側の分離ローラ230で構成されている。
【0030】
分離ローラ230は給送ローラ220に向けてバネ等の付勢手段で付勢されている。なお、前記給紙ローラ60は、給送ローラ220の駆動力をクラッチ手段を介して伝達することで
図1Aで左回転するようになっている。
【0031】
レジストローラ対250に突き当てられて先端部に弛みが形成された用紙Pは、中間転写ベルト16上に形成されたトナー像が好適に転写されるタイミングに合わせ、二次転写ローラ20と駆動ローラ18との二次転写ニップ(
図1Bでは転写ニップN)に送り出される。そして、送り出された用紙Pは、二次転写ニップにおいて印加されたバイアスによって、中間転写ベルト16上に形成されたトナー像が所望の転写位置に高精度に静電的に転写されるようになっている。
【0032】
転写後搬送路33は、二次転写ローラ20と駆動ローラ18の二次転写ニップの上方に配設されている。定着装置300は、転写後搬送路33の上端近傍に設置されている。定着装置300は、発熱部材を内包する加熱部材としての定着ベルト310と、この定着ベルト310に対して所定の圧力で当接しながら回転する加圧部材としての加圧ローラ320を備えている。
【0033】
定着後搬送路35は、定着装置300の上方に配設され、定着後搬送路35の上端で、排紙路36と反転搬送路41に分岐している。この分岐部に切り替え部材42が配置され、切り替え部材42はその揺動軸42aを軸として揺動するようになっている。また排紙路36の開口端近傍には排紙ローラ対37が配設されている。
【0034】
反転搬送路41は、分岐部と反対側の他端で給紙路32に合流している。そして、反転搬送路41の途中には、反転搬送ローラ対43が配設されている。排紙トレイ44は、画像形成装置100の上部に、画像形成装置100の内側方向に凹形状を形成して、設置されている。
【0035】
粉体収容器10(例えばトナー収容器)は、転写装置15と用紙給送装置200の間に配置されている。そして、粉体収容器10は、画像形成装置100の本体に対して着脱自在に装着されている。
【0036】
本実施形態の画像形成装置100は、転写紙搬送の関係により、給紙ローラ60から二次転写ローラ20までの所定の距離が必要である。そして、この距離に生じたデッドスペースに粉体収容器10を設置し、レーザプリンタ全体の小型化を図っている。
【0037】
転写カバー8は、用紙給送装置200の上部で、用紙給送装置200の引出方向正面に設置されている。そして、この転写カバー8を開くことで、画像形成装置100の内部を点検可能にしている。転写カバー8には、手差し給紙用の手差し給紙ローラ45、及び手差し給紙用の手差しトレイ46が設置されている。
【0038】
(画像形成装置の原理)
次に、前述した画像形成装置100の原理図を
図1Bで説明する。画像形成装置100は像担持体2(例えば感光体ドラム)と、ドラムクリーニング装置3を有している。また像担持体の表面を一様帯電する帯電手段としての帯電装置4と、像担持体上に形成された静電潜像の可視像処理を行う現像装置5と、像担持体2の下方に配設された転写手段TMと、除電装置等を有する。
【0039】
露光器7は像担持体2の上方に配設されている。この露光器7は、画像情報に応じた書き込み走査、すなわち、画像データに基づいてレーザダイオードからのレーザ光Lbをミラー7aで反射して像担持体2に照射する。
【0040】
用紙Pを積載するトレイを有する用紙給送装置200は、画像形成装置100の下方に設置されている。この用紙給送装置200は記録媒体としての多数枚の用紙Pを束状で収容可能であり、用紙Pの搬送手段としての給紙ローラ60と共にユニット化される。
【0041】
給紙ローラ60の下流側に、分離搬送手段としてのレジストローラ対250が配設されている。用紙給送装置200から給紙された用紙Pをレジストローラ対250で一旦停止させる。この一旦停止により用紙Pの先端側に弛みが形成されて用紙Pの斜行(スキュー)が修正される。
【0042】
レジストローラ対250に突き当てられて先端部に弛みが形成された用紙Pは、像担持体2上のトナー像が好適に転写されるタイミングに合わせて転写手段TMの転写ニップNに送り出される。そして、送り出された用紙Pは、転写ニップNにおいて印加されたバイアスによって像担持体2上のトナー像が所望の転写位置に静電的に転写されるようになっている。
【0043】
転写ニップNの下流側に定着装置300が配設されている。定着装置300はヒータで加熱される定着ローラ310と、この定着ローラ310に対して所定の圧力で当接しながら回転する加圧ローラ320を備えている。
【0044】
(レーザプリンタの作動)
次に、本実施形態に係るレーザプリンタの基本的動作について
図1Aを参照して以下に説明する。最初に、片面印刷を行う場合について説明する。
【0045】
給紙ローラ60は、
図1Aに示すように、画像形成装置100の制御部からの給紙信号によって回転する。そして、給紙ローラ60は、用紙給送装置200に積載された束状用紙Pの最上位の用紙のみを分離し、給紙路32へ送り出す。
【0046】
給紙ローラ60およびローラ対210によって送り出された用紙Pは、その先端がレジストローラ対250のニップに到達すると、弛みを形成し、その状態で待機する。そして、中間転写ベルト16上に形成されたトナー画像をこの用紙Pに転写する最適なタイミング(同期)を図ると共に、用紙Pの先端スキューを補正する。
【0047】
手差しによる給紙の場合は、手差しトレイ46に積載された束状用紙が、最上位の用紙から一枚ずつ手差し給紙ローラ45によって反転搬送路41の一部を通り、レジストローラ対250のニップまで搬送される。以後の動作は用紙給送装置200からの給紙と同一である。
【0048】
ここで、作像動作については、1つのプロセスユニット1Kを説明し、他のプロセスユニット1Y、1M、1Cについてのその説明を省略する。まず、帯電装置4Kは、像担持体2Kの表面を高電位に均一に帯電する。そして、露光器7は、画像データに基づいたレーザ光Lを像担持体2Kの表面に照射する。
【0049】
レーザ光Lが照射された像担持体2Kの表面は、照射された部分の電位が低下して、静電潜像を形成する。現像装置5Kは、トナーを含む現像剤を担持する現像剤担持体を有し、トナーボトル6Kから供給された未使用のブラックトナーを、現像剤担持体を介して、静電潜像が形成された像担持体2Kの表面部分に転移させる。
【0050】
トナーが転移した像担持体2Kは、その表面にブラックトナー画像を形成(現像)する。そして、像担持体2K上に形成されたトナー画像を中間転写ベルト16に転写する。
【0051】
ドラムクリーニング装置3Kは、中間転写行程を経た後の像担持体2Kの表面に付着している残留トナーを除去する。除去された残留トナーは、廃トナー搬送手段によって、プロセスユニット1K内にある廃トナー収容部へ送られ回収される。また、除電装置は、クリーニング装置3Kによって残留トナーが除去された像担持体2Kの残留電荷を除電する。
【0052】
各色のプロセスユニット1Y、1M、1Cにおいても、同様にして像担持体2Y、2M、2C上にトナー画像を形成し、各色トナー画像が重なり合うように中間転写ベルト16に転写する。
【0053】
各色トナー画像が重なり合うように転写された中間転写ベルト16は、二次転写ローラ20と駆動ローラ18の二次転写ニップまで走行する。一方、レジストローラ対250は、それに突き当てられた用紙を所定のタイミングで挟み込んで回転し、中間転写ベルト16上に重畳転写して形成されたトナー像が好適に転写されるタイミングに合わせて、二次転写ローラ20の二次転写ニップまで搬送する。このようにして、中間転写ベルト16上のトナー画像をレジストローラ対250によって送り出された用紙Pに転写する。
【0054】
トナー画像が転写された用紙Pは、転写後搬送路33を通って定着装置300へと搬送される。そして、定着装置300に搬送された用紙Pは、定着ベルト310と加圧ローラ320によって挟まれ、加熱・加圧することで未定着トナー画像が用紙Pに定着される。トナー画像が定着された用紙Pは、定着装置300から定着後搬送路35へ送り出される。
【0055】
切り替え部材42は、定着装置300から用紙Pが送り出されたタイミングでは、
図1Aの実線で示すように定着後搬送路35の上端近傍を開放している位置にある。そして、定着装置300から送り出された用紙Pは、定着後搬送路35を経由して排紙路36へ送り出される。排紙ローラ対37は、排紙路36へ送り出された用紙Pを挟み込み、回転駆動することで排紙トレイ44に排出することで片面印刷を終了する。
【0056】
次に、両面印刷を行う場合について説明する。片面印刷の場合と同様に、定着装置300は用紙Pを排紙路36へ送り出す。そして、両面印刷を行う場合、排紙ローラ対37は、回転駆動によって用紙Pの一部を画像形成装置100外に搬送する。
【0057】
そして、用紙Pの後端が、排紙路36を通過すると、切り替え部材42は、
図1Aの点線で示すように揺動軸42aを軸として揺動し、定着後搬送路35の上端を閉鎖する。この定着後搬送路35の上端の閉鎖とほぼ同時に、排紙ローラ対37は、用紙Pを画像形成装置100外へ搬送する方向と逆の方向に回転し、反転搬送路41へ用紙Pを送り出す。
【0058】
反転搬送路41へ送り出された用紙Pは、反転搬送ローラ対43を経て、レジストローラ対250に至る。そして、レジストローラ対250は、中間転写ベルト16上に形成されたトナー画像を用紙Pのトナー画像未転写面に転写する最適なタイミング(同期)を図り、用紙Pを二次転写ニップへ送り出す。
【0059】
そして、二次転写ローラ20と駆動ローラ18は、用紙Pが二次転写ニップを通過する際に用紙Pのトナー画像未転写面(裏面)にトナー画像を転写する。そして、トナー画像が転写された用紙Pは、転写後搬送路33を通って定着装置300へと搬送される。
【0060】
定着装置300は、定着ベルト310と加圧ローラ320によって、搬送された用紙Pを挟み、加熱・加圧することで未定着トナー画像を用紙Pの裏面に定着する。このようにして、表裏両面にトナー画像が定着された用紙Pは、定着装置300から定着後搬送路35へ送り出される。
【0061】
切り替え部材42は、定着装置300から用紙Pが送り出されたタイミングでは、
図1Aの実線で示すように定着後搬送路35の上端近傍を開放している位置にある。そして、定着装置300から送り出された用紙Pは、定着搬送路を経由して排紙路36へ送り出される。排紙ローラ対37は、排紙路36へ送り出された用紙Pを挟み、回転駆動し排紙トレイ44に排出することで両面印刷を終了する。
【0062】
中間転写ベルト16上のトナー画像を用紙Pに転写した後、中間転写ベルト16上には残留トナーが付着している。ベルトクリーニング装置21は、この残留トナーを中間転写ベルト16から除去する。また、中間転写ベルト16から除去されたトナーは、廃トナー搬送手段によって、粉体収容器10へと搬送され、粉体収容器10内に回収される。
【0063】
(定着装置)
次に、本発明実施形態に係る定着装置300について以下さらに説明する。定着装置300は
図2に示すように、低熱容量の薄肉の定着ベルト310と加圧ローラ320で構成されている。定着ベルト310は、例えば外径が25mmで厚みが40~120μmのポリイミド(PI)製の筒状基体を有している。
【0064】
定着装置300は
図2のように定着ベルト310を使用する方式のほか、ローラ定着方式やベルト定着方式でもよい。いずれの定着方式でも、小サイズ用紙Pに形成されたトナー像を加熱定着する場合、用紙Pが通過する領域ではヒータの熱が用紙Pに奪われるが、用紙Pが通過しない領域ではヒータの熱が用紙Pに奪われないため過昇温することがある。
【0065】
定着ベルト310の最表層には、耐久性を高めて離型性を確保するために、PFAやPTFE等のフッ素系樹脂による厚みが5~50μmの離型層が形成される。基体と離型層の間に厚さ50~500μmのゴム等からなる弾性層を設けてもよい。
【0066】
また、定着ベルト310の基体はポリイミドに限らず、PEEKなどの耐熱性樹脂やニッケル(Ni)、SUSなどの金属基体であってもよい。定着ベルト310の内周面に摺動層としてポリイミドやPTFEなどをコートしてもよい。
【0067】
加圧ローラ320は、例えば外径が25mmであり、中実の鉄製芯金321と、この芯金321の表面に形成された弾性層322と、弾性層322の外側に形成された離型層323とで構成されている。弾性層322はシリコーンゴムで形成されており、厚みは例えば3.5mmである。
【0068】
弾性層322の表面は離型性を高めるために、厚みが例えば40μm程度のフッ素樹脂層による離型層323を形成するのが望ましい。定着ベルト310に対して加圧ローラ320が付勢手段により圧接している。
【0069】
定着ベルト310の内側に、ステー350及びヒータホルダ340が軸線方向に配設されている。ステー350は金属製のチャンネル材で構成され、その両端部分が定着装置300の両側板に支持されている。ステー350は加圧ローラ320の押圧力を確実に受けとめて定着ニップSNを安定的に形成する。
【0070】
ヒータホルダ340は定着装置300のヒータ330の基材341を保持するためのもので、ステー350によって支持されている。ヒータホルダ340は好ましくはLCPなどの低熱伝導性の耐熱性樹脂で形成することができ、これによりヒータホルダ340への熱伝達が減って効率的に定着ベルト310を加熱することができる。
【0071】
ヒータホルダ340の形状は、基材341の高温部との接触を回避するために、基材341の短手方向両端部付近の各2箇所のみを支持する形状にしている。これにより、ヒータホルダ340へ流れる熱量をさらに低減して効率的に定着ベルト310を加熱することができる。
【0072】
基材341の裏面に、後述するヒータ330の抵抗部材370の温度を検出する温度検知手段としてのサーミスタTH1、TH2が配設されている。サーミスタTH1、TH2はバネ387によって基材341の裏面に押圧され、これによって抵抗部材370の正確な温度を検出可能にしている。
【0073】
一方のサーミスタTH1は小サイズ用紙の幅方向中央部に配置されている。他方のサーミスタTH2は、大サイズ用紙の幅方向外側の非通紙部に配置されている。両サーミスタTH1、TH2からの温度情報に基づいて、抵抗部材370に供給される電力や、後述するシャッター部材305の駆動機構が制御され、非通紙部の温度上昇を効果的に抑制することができる。
【0074】
サーミスタTH1又はTH2は、加圧ローラ320の外周面に対向配置したサーミスタで代替することも可能である。加圧ローラ320側のサーミスタを定着ベルト310の外側に配設することで、当該サーミスタのメンテナンスが容易になる。定着装置300は各種の型式が可能であって、前述した
図2の定着装置はその一例に過ぎない。
【0075】
(シャッター部材を有する定着装置)
次に、
図3A、
図3Bを参照してシャッター部材305を有する本発明実施形態に係る定着装置300を説明する。この定着装置300は、前述した加熱部材としての定着ベルト310と、加圧部材としての加圧ローラ320を、
図3A(b)のように断熱・保温のため筐体(カバー)301内に収容している。
【0076】
筐体301の形状は、内側に収容する定着ベルト310と加圧ローラ320の外側に無駄な空間ができないように、2つの円弧を水平方向で向かい合わせたコンパクトな断面形状とされている。そして筐体301の上下の平面部に入口302と出口303が形成されている。
【0077】
入口302と出口303は、定着ベルト310の長手方向(
図3A(b)で紙面に垂直な軸線方向)を横断する方向(
図3A(b)で上下方向)で互いに対向している。トナー画像を担持した用紙が、入口302から入り、定着ニップSNを通って出口303から出ていく。
【0078】
筐体301の片側の円弧状側面の高さ方向半分から上端にかけて、
図3A(a)のように矩形状に開口した開口部304が形成されている。この開口部304は、筐体301の長手方向両端部に一対で形成され、定着ベルト310の長手方向両端部(非通紙部)に向かって開口している。
【0079】
そして開口部304に対して、
図3E、
図3Fで後述するようにエアダクト510が接続されている。ここで「接続」とは、空気の流れが形成されていればよく、開口部304とエアダクト510の間に隙間があってもよい。
【0080】
開口部304の外側のエアダクト510内には送風ファン520が配設されている。この送風ファン520によって、開口部304に冷却用エアが供給されるようになっている。エアダクト510と送風ファン520の組み合わせにより、非通紙部の温度上昇をより効率的に抑制することができる。
【0081】
(シャッター部材)
冷却用エアの供給量は、
図3A(a)のように、開口部304の外側に左右一対で配設されたシャッター部材305の開度で調節可能に構成されている。左右一対のシャッター部材305は、筐体301の長手方向に延びた連結部305aにより相互連結されている。連結部305aによりシャッター部材305を単一部材で構成可能となり、より低コストなシャッター機構を実現することができる。
【0082】
シャッター部材305は、
図3A(b)に示すように円弧状断面を有し、長手方向外側端部に扇状の腕部305bが連結されている。そして当該腕部305bの先端部に形成された軸部305cが、筐体301の端面に回動自在に軸支されている。
【0083】
軸部305cは
図3A(b)の側面視で定着ベルト310の内部(ほぼ中心)に配置している。これにより、シャッター部材305の開いた状態と閉じた状態の軸部305cを中心とする回動軌跡を最小化することが可能となり、画像形成装置全体の小型化が可能となる。
【0084】
シャッター部材305は定着ベルト310を覆うように湾曲した形状をしている。本実施形態ではシャッター部材305が全体的に軸部305cを曲率中心とする湾曲形状であるが、
図3B(c)に示すように、シャッター部材305が部分的に直線形状の平面部305d、305eを含んでいたり、または部分的に湾曲形状を含んでいたりしてもよい。なお、シャッター部材305の曲率の測定は、例えばキーエンスのレーザーマイクロスコープ(VK-X100)を用いて測定することができる。
【0085】
要するに、定着ベルト310を略覆うような形状で軸部305cを中心にコンパクトに回転移動して開閉できれば問題ない。このような湾曲形状を有することで、シャッター部材305の回動軌跡を小さくすることが可能となり、画像形成装置全体の小型化が可能となる。
【0086】
腕部305bの外側面には、前記軸部305cと同軸状に減速機付きモータの回転軸が連結されている。そしてモータの正転・逆転によりシャッター部材305が開閉するようになっている。モータは定着装置300の長手方向端部側に配置可能であるから、従来のようにラック・アンド・ピニオン機構を筐体の長手方向中央部に設けた場合に比べて、簡易・省スペースな駆動系にすることができる。
【0087】
図4は従来の駆動系を示すもので、
図4(a)はシャッター部材307が開いた状態を示し、
図4(b)はシャッター部材307が閉じた状態を示す。筐体の長手方向中央部にピニオン308が配設されているので、当該ピニオン308を駆動するために定着装置300の長手方向端部側から駆動伝達系を構成する必要があり、駆動伝達系の簡易化、省スペース化が困難であった。
【0088】
左右一対のシャッター部材307は定着装置300の筐体長手方向にスライド移動可能に配設され、シャッター部材307から長手方向中央側に延びたラック307aに、長手方向中央に配設されたピニオン308が噛み合っている。ピニオン308の回転により、左右のシャッター部材307が接近・離反することで、開口部304が開閉される。
【0089】
図4(c)はシャッター部材307が閉じた状態の断面図である。シャッター部材307は長手方向にスライド移動して開閉するので、半開状態では開口部304の長手方向の限られた領域から加温された空気が上昇する。このため、前述した分岐部の結露付着防止効果の範囲が限定的になる。
【0090】
これに対して本実施形態では、
図3Dの半開状態でも開口部304の長手方向全幅から加温された空気が上昇する。このため、分岐部の結露付着防止効果の範囲を最大化することができる。
【0091】
シャッター部材305は、耐熱性板金のプレス成形品とすることができる。シャッター部材305をプレス成形品とすることで、シャッター部材の寸法精度を向上することができる。
【0092】
シャッター部材305の内面には、断熱性向上のため、フェルトやスポンジ等の保温部材(断熱部材)を取り付けてもよい。またシャッター部材305を耐熱性樹脂で形成した場合でも、その裏面に保温部材(断熱部材)を取り付けることができる。
【0093】
開口部304の領域は、詳しくは
図3A(b)に示すように、用紙を加熱している状態において高さ方向では筐体301の円弧状側面の高さ方向中央から筐体301の天井に至る領域(上部)である。また筐体301の長手方向では、
図3A(c)に示すように、定着ベルト310の長手方向両端部に対向した領域である。
【0094】
したがって、開口部304は
図3A(b)のように用紙を加熱している状態において斜め上方に向かって開口している。開口部304は筐体301の真上から見るとほぼ全体が見えるが、筐体301の真下からは見えない。上方ないし斜め上方に向かって開口していることで、定着ベルト310の端部過昇温の原因となる余分な熱を、開口部304から効率的に筐体301外に排出することができる。
【0095】
すなわち、開口部304は定着装置300の真上から見て少しでも見える位置、開口部304を通して定着ベルト310が少しでも見える位置に形成していればよい。具体的には
図3A(b)における寸法Aが0(ゼロ)以上あれば良い。したがって、
図3Cに示すように筐体301の真上から定着ベルト310がまったく見えない横向きの開口部306は、定着ベルト310の端部過昇温の原因となる余分な熱を効率的に筐体301外に排出することができない。
【0096】
シャッター部材305は、
図3Dのように、半開状態においても、開口部304から効率的に筐体301外に排熱可能なように、上方に回動することで開口部304を閉塞するのがよい。軸部305cを中心に上下方向で約45°で開口部304を開口させると、シャッター部材305の中心角も約45°でよいから、
図3B(b)のように開口部304を隙間なく閉塞可能である。
【0097】
開口部304はシャッター部材305を半開または全開で開いているだけでも、定着ベルト310の端部過昇温の原因となる余分な熱を上方に向けて排熱可能である。定着ベルト310の端部冷却作用を高めるため、
図3Eのように開口部304に対してエアダクト510を水平方向に接続し、当該エアダクト510内に送風ファン520を配設してもよい。
【0098】
エアダクト510の上端出口は、煙突効果を生じさせるため開口部304から上方に向けて所定長さ延ばしておくのがよい。「煙突効果」とは、煙突の中に外気より高温の空気があるときに、高温の空気は低温の空気より密度が低いため煙突内の空気に浮力が生じる結果、煙突下部の空気取り入れ口から外部の冷たい空気を煙突に引き入れながら暖かい空気が上昇する現象のことをいう。エアダクト510と送風ファン520の配置は、画像形成装置本体のスペースを適宜有効活用して開口部304近傍に配置する。
【0099】
送風ファン520によって冷却用空気を強制的に定着ベルト310の端部に向けて筐体301内に吹き込むことで、定着ベルト310の端部を効果的に冷却して端部過昇温を抑制することができる。筐体301内に吹き込まれた空気は、定着ベルト310の端部によって昇温されて上方に向けて自然排気される。
【0100】
この際、エアダクト510の煙突効果で排気が促進される。なお、筐体301内に吹き込まれた空気の一部は、出口303からも上方に排気される。したがって、出口303から上方に搬送される用紙Pに結露が付着するのを抑制することができる。
【0101】
このようにして上方に排気された温かい空気は、分岐部の結露付着を防止するのに有効利用することができる。すなわち、
図1Aに示すように、両面印刷時に用紙の反転搬送路41に分岐する切り替え部材42を定着装置300の上方に配置することで、当該切り替え部材42に結露が付着するのを防止することができる。結露付着を効果的に防止するためには、開口部304の垂直上方に切り替え部材42を配置するとよい。
【0102】
従来、用紙搬送路の結露対応として、結露が解消するまで画像形成装置を空転(暖気運転)したり、結露解消用に独立したファンを設けたりしていた。前者は印刷するまでの待ち時間が長くなる問題があり、後者はファンにより機構が複雑化して装置の大型化やコスト高になるという問題があった。
【0103】
また特許文献3(特開2017-215385号公報)のように、排紙トレイに続く排紙口に開閉自在な排気遮蔽部材を配設し、排紙時以外は排気遮蔽部材を閉めて保温効果を高めることで結露を防止するものも知られている。しかし、機構が複雑化して装置の大型化やコスト高になる問題は前述した専用ファンと同じである。本実施形態のように定着ベルト310の端部排熱を有効利用して積極的に結露部へ送り込むことで、前述した問題を解消する。
【0104】
送風ファン520は、
図3Eのようにエアダクト510の入口側に配設するほか、
図3Fのように上端出口側に配設してもよい。送風ファン(吸引ファン)520を
図3Fのように配置することで、切り替え部材42に対する加温作用と換気作用を高めることができるので、前述した結露防止効果をより確実にすることができる。
【0105】
(ヒータ)
前述した定着装置300は、
図2のようにヒータホルダ340に保持されたヒータ330を有する。このヒータ330は、基材341の上に抵抗発熱体(面状ヒータ)で構成された抵抗部材370を有する。抵抗部材370は、後述する
図5(a)(b)に一例を示すヒータ330のように、複数タイプで形成することができる。
【0106】
いずれのタイプでも、抵抗部材370は、細長の金属製薄板部材を絶縁材料で被覆した基材341の上に形成される。面状ヒータによって定着ニップSNを加熱する定着方式では、発熱体である抵抗部材を紙幅方向に複数に分割して個別に加熱制御することで、複数種類の紙幅を均一に加熱することができる。
【0107】
基材341の材料としては低コストなアルミやステンレスなどが好ましい。基材341は金属製に限定されたものではなく、アルミナや窒化アルミなどのセラミックや、ガラス、マイカなどの耐熱性と絶縁性に優れた非金属材料で構成することも可能である。
【0108】
ヒータ330の均熱性を向上し画像品位を高めるため、基材341を銅、グラファイト、グラフェンなどの高熱伝導率の材料で構成してもよい。本実施形態では、短手幅8mm、長手幅270mm、厚さ1.0mmのアルミナ基材を使用している。
【0109】
図5(a)(b)に示すように、ヒータ330は、抵抗発熱体371~378を電気的に並列接続したマルチタイプで構成することができる。ヒータ330は2つの電極370c、370dを有し、両端の電極370c、370d間の抵抗値を10Ωとすると、各発熱体371~378の抵抗値は並列接続のため80Ωと大きくなる。
【0110】
抵抗発熱体371~378にはPTC素子を使用することができる。PTC素子は、正の温度抵抗係数を有する材料で構成され、温度Tが上昇すると抵抗値が上昇する特徴がある(電流Iが低下してヒータ出力が低下)。温度抵抗係数(TCR=Temperature Coefficient of Resistance)は、例えば1500PPM(parts per million)とすることができる。
【0111】
図5(a)(b)の発熱体371~378は、基材341の長手方向で直線状かつ等間隔に配置されている。各発熱体371~378の短手方向両側には小抵抗値の導体370a、370bが直線状に互いに平行に配設され、この導体370a、370bに各発熱体371~378の両端が接続されている。そして、導体370a、370bの各一端部に形成された電極370c、370dにAC電源が供給される。
【0112】
発熱体371~378と導体370a、370bは薄い絶縁層385で覆われている。この絶縁層385は例えば厚さ75μmの耐熱性ガラスで構成することができる。絶縁層385によって発熱体371~378と導体370a、370bを絶縁・保護すると共に、定着ベルト310との摺動性を維持する。
【0113】
発熱体371~378は、例えば、銀パラジウム(AgPd)やガラス粉末などを調合したペーストをスクリーン印刷等により基材341に塗工し、その後、当該基材341を焼成することによって形成することができる。本実施形態では各発熱体371~378の抵抗値を常温で80Ωとした(総抵抗値は10Ω)。
【0114】
発熱体371~378の材料は、前述したもの以外に、銀合金(AgPt)や酸化ルテニウム(RuO2)の抵抗材料を用いてもよい。導体370a、370bや電極370c、370dの材料は、銀(Ag)もしくは銀パラジウム(AgPd)をスクリーン印刷等で形成することができる。
【0115】
発熱体371~378の絶縁層385側が定着ベルト310と接触して加熱し、伝熱により定着ベルト310の温度を上昇させ、定着ニップSNに搬送される未定着画像を加熱して定着する。発熱体371~378としてPTC素子を使用した場合、小サイズ通紙などで非通紙領域の発熱体の温度が上昇した際に、その温度抵抗依存性により当該PTC素子の発熱量が低下し、温度上昇を抑制することができる。
【0116】
この特徴により、例えば発熱体371~378の全幅よりも狭い紙(例えば発熱体373~376の幅内)を印刷した場合、紙幅より外側の発熱体371、372、377、378は紙に熱を奪われないため温度が上昇する。するとPTC素子による発熱体371、372、377、378の抵抗値が上昇する。
【0117】
発熱体371~378にかかる電圧は一定なので、用紙幅より外側の発熱体371、372、377、378の出力が相対的に低下し、端部温度上昇が抑制される。発熱体371~378を電気的に直列に接続した場合、連続印刷において紙幅よりも外側の発熱体371、372、377、378の温度上昇を抑制するには、印刷スピードを低下させる以外に方法がない。発熱体371~378を電気的に並列接続することで、印刷スピードを維持したまま非通紙部温度上昇を抑制することができる。
【0118】
発熱体371~378の相互間に短手方向に続く隙間があると、当該隙間部分で発熱量低下が発生し、それによって定着ムラが発生しやすい。そこで、
図5(a)(b)では発熱体371~378の端部同士を長手方向で互いにオーバーラップさせている。
【0119】
図5(a)は発熱体371~378の端部にL字状の切り欠きによる段部を形成し、当該段部を隣接する素子端部の段部とオーバーラップさせている。
図5(b)は発熱体371~378の端部に斜めの切り欠きによる傾斜部を形成し、当該傾斜部を隣接する素子端部の傾斜部とオーバーラップさせている。このように発熱体371~378の端部同士を互いにオーバーラップさせることで、素子間の隙間での発熱量低下の影響を抑制することができる。
【0120】
また電極370c、370dは発熱体371~378の両端に配置する他、発熱体371~378の片側に配置することも可能である。このように電極370c、370dを片側配置にすることで長手方向の省スペース化を図ることができる。
図5(a)(b)の各発熱体371~378は短冊状の面状発熱体で構成されているが、所望の出力(抵抗値)を得るために、線幅を細くして蛇行状に形成した複数の発熱体を電気的に並列接続したもので構成することもできる。
【0121】
(ヒータの変形例)
次にヒータ330の変形例を
図6に示す。この変形例のヒータ330は基材341の両端に配設された3つの電極370h、370i、370jと、基材341の長手方向で電極間に配設された7つの発熱体371~377を有する。そして、後述するように
図7(a)~(c)に示す3つの発熱パターンを選択可能にしてある。
【0122】
ヒータ330の長手方向中央の5つの発熱体372~376が、当該発熱体よりも低抵抗の導体370e、370fを介して第1の電極370hと第2の電極370iに並列接続されている。また長手方向両端の2つの抵抗発熱体371、377が、当該発熱体371、377よりも低抵抗の導体370f、370gを介して第2の電極370iと第3の電極370jに並列接続されている。
【0123】
ここで、長手方向中央の5つの発熱体372~376を第1の抵抗発熱体、長手方向両端の2つの抵抗発熱体371、377を第2の抵抗発熱体としたとき、第1の抵抗発熱体に接続する導体370e、370fを第1の導体、第2の抵抗発熱体に接続する導体370f、370gを第2の導体という。
【0124】
右側の第2の電極370iが常時AC電源に接続され、左側の第1の電極370hと第3の電極370jがスイッチの切換えにより選択的にAC電源に接続される。これにより、
図7(a)~(c)に示す3つの発熱パターンを選択できる。
【0125】
このように3つの発熱パターンを選択可能なヒータ330において、例えばヒータ330の長手方向中央部の連続する5つの発熱体372~376の長手方向長さをA4幅、両端を含む全7つの発熱体371~377の長手方向長さをA3サイズと同等にする。そして
図7(a)(b)の加熱状態を適切に制御することで、
図7(a)ではA4サイズ、
図7(b)ではA3サイズの用紙を均一に加熱することができる。
【0126】
ところで、
図7(b)の加熱状態において、両端の発熱体371、377は外側に熱伝導して温度が低くなりやすい。そこで、
図7(b)の加熱状態をメインにしつつ、時折
図7(c)の加熱状態も織り交ぜることでヒータ330を長手方向により均一に加熱するよう制御する。
図7(c)は第2の電極370iと第3の電極370jにのみ電圧を印加するもので、導体370f、370gを通じて両端の発熱体371、377にのみ電流が流れ当該発熱体371、377のみが発熱する。
【0127】
発熱体371~377の加熱制御には、所定の制御時間内の発熱体の点灯時間(点灯デューティ)を可変とすることで適正な発熱量を得る制御方法が一般的に用いられる。点灯デューティは、AC電源を制御手段としてのトライアックで位相制御することで調整する。デューティ比0%で電流がゼロになり、デューティ比100%で電流が最大になる。
図7(c)の加熱状態はこうした点灯デューティの中で瞬間的かつ間欠的に発生する。
【0128】
(ヒータの小型化に伴う導体の発熱量増加)
ところで、近年の画像形成装置の高速化に伴い、ヒータ330の発熱体371~377により大きな発熱量が求められている。オームの法則とジュールの法則を組合せると、発熱量W[J/sec]は、V:電圧[V]、R:抵抗[Ω]として、W=V2/R(式A)と表せる。
【0129】
式Aから、発熱量を増やすためには発熱体の抵抗を小さくする必要があることが分かる。さらに、電圧は一定(例えば100V)で抵抗値を小さくした場合、大きな電流が流れる。
【0130】
他方で、画像形成装置の小型化に伴い、定着ベルトの径、ひいてはヒータの短手方向の寸法は、より小さくする必要がある。ヒータ330の短手方向の寸法は、1)発熱体371~377、2)導体370e~370g、および3)残りの領域(基材341の空き領域)の合計からなる。以下、1)~3)を小さくする方法を検討する。
【0131】
1)発熱体の短手方向の寸法を小さくすると発熱密度が高くなり、ヒータの短手方向の温度分布がシャープになる(温度ピークが高くなる)。すると、ヒータから定着ベルトに伝熱しにくくなったり、ヒータ裏の部材(ヒータホルダやサーミスタ)の耐熱温度を超過したり、ヒータの過昇温を検知してヒータへの電力供給を遮断するサーモスタットやヒューズが誤作動を起こしやすくなる。このため、発熱体の短手方向の寸法を小さくするのは限界がある。
【0132】
2)一方、導体は幅を狭くすると断面積が小さくなるので抵抗値が大きくなる。導体幅を狭くしつつ厚みを大きくすれば、断面積を稼いで抵抗値をある程度抑えることができるが、スクリーン印刷の製法上厚み増大には限界がある。
【0133】
3)発熱体と導体が存在しない残りの領域は、導体と発熱体および周辺部品との絶縁性を確保するため所定の距離が必要となる。このため、ヒータの小型化すなわちヒータ短手方向の寸法を小さくするためには、導体幅を小さくすると共に、これにより抵抗大となった導体をヒータの一部として使いこなすことが現実的な解決方法であることが分かる。
【0134】
導体に流れる電流が従来のヒータよりも大きくなり、かつ導体の抵抗が大になると、導体発熱量Wは加速度的に大きくなる。このことは、導体発熱量W[J/sec]を前記式Aの変形でW=I2R…(式B)と表すことで容易に理解される(I:電流[A]、R:抵抗[Ω])。
【0135】
式Bでは導体発熱量Wは導体電流の二乗、導体抵抗の一乗に比例する。このため、導体発熱量Wが無視できないことが分かる。なお、導体発熱量Wを求める前述の式Aは電圧Vを含むが、導体と発熱体が直列接続された場合は導体にかかる電圧Vを測定するのに手間がかかる。そこで式Aではなく式Bを用いて導体発熱量Wを計算する。
【0136】
さらに導体の抵抗が大きくなると共に発熱体の抵抗が小さくなると、導体と発熱体の抵抗値が相対的に近づく。そのような抵抗値関係を有するヒータ330に、A4用紙を加熱すべく
図7(a)のように電圧を印加すると、
図8Aの白抜き矢印で示すように予期しなかった分流電流が発生した。
【0137】
つまり、発熱体とはいえ抵抗が小さくなると導体同様に電流を流してしまうことが分かった。なお、電極370h、370iにはAC電源が接続されるのであるが、ここでは便宜上、左側の電極370hから右側の電極370iに電流が流れるものとして矢印を付けている。
【0138】
(長手方向で非対称の発熱量)
分流電流が発生した
図8Aのヒータ330について、発熱体の位置に対応させてヒータ330を長手方向に7つのブロック1~7に分割し、それぞれのブロック区間の導体370e~370gによる発熱を見積もったものを
図8Bに示す。まず、左側の第1の電極370hから100%の電流が流れたとする。発熱体372~376の抵抗値が均等の場合、電流は各発熱体372~376に20%ずつ分流する。
【0139】
その結果、発熱体372~375の通紙上流側の分岐導体370eには長手方向ブロック区間にそれぞれ80%、60%、40%、20%の電流が流れる。そして、各発熱体372~376において通紙下流側に向けて20%ずつ電流が流れる。
【0140】
発熱体372の下流では、20%の電流がすべて右方向(第2の電極370i方向)に流れるわけではなく、
図8Aの白抜き矢印を参照して説明したように、一部は左方向(第3の電極370j方向)に分流する。便宜上、発熱体372を流れた20%の電流の内、15%が右に流れ、5%が左に流れたとする。そうすると、発熱体372~375の下流側では、長手方向に、それぞれ左に5%、右に15%、35%、55%、75%の電流が流れる。
【0141】
発熱体372の下流から左に5%分流した電流は、発熱体372→導体370f→発熱体371→第3の電極370jと流れた後、第3の電極370j→導体370gへと折り返して流れる。この折り返し電流の大きさは、導体370gに分岐がないので5%のまま変わらず、ブロック1~6のすべてで5%の電流による発熱がある。以下、各ブロック2~6における導体370e~370gの発熱量について説明する。
【0142】
式BよりW=I2Rであるから、各ブロックで長手方向に延びる導体370e~370gの抵抗(長さ、断面積、材料)が一定であるとすると、上式の抵抗Rは等しくなる。したがって、導体370e~370gを流れる電流の二乗の和を取れば、ブロック間の発熱量を相対比較することができる。
【0143】
ブロック2では、導体370e~370gの発熱量の大きさを、5%
2+80%
2+5%
2=6450と表すことができる。同様に、ブロック3~6の導体370e~370gの発熱量の大きさを計算すると、
図8Cのようになる。
【0144】
つまり、発熱体371~377(又は372~376)の長手方向の中心であるブロック4を基準に、導体370e~370gの発熱量が長手方向で非対称になることがわかった。なお、
図8Cで導体(上)(中)(下)とあるのは通紙方向で発熱量を並べたものであり、(上)=導体370g、(中)=導体370e、(下)=導体370fである。また「第1の方向」とあるのは、発熱体371~377の長手方向中央から右側の第2の電極370iに向かう方向である。
【0145】
発熱量が長手方向で非対称になるということは、ヒータ330に接触して用紙を加熱する定着ベルト310の温度分布も、同様に長手方向で非対称になることを意味する。そして定着ベルト310の非対称温度分布は、グロスムラ、光沢ムラないし光沢段差と呼称される画像不良の原因となる。このような非対称温度分布ないし画像不良は、A4用紙の長時間連続印刷など、中央5つのブロック2~6を長時間加熱する場合により顕著になる。
【0146】
実験によると、ヒータ330の基材341の短手方向の寸法に対して、発熱体371~377の短手方向寸法が25%以上になると、前述した非対称温度分布ないし画像不良が発生しやすいことが分かった。発熱体371~377の短手方向寸法がヒータ330の基材341の短手方向寸法に対して40%以上になると、非対称温度分布ないし画像不良がさらに顕著になる。
【0147】
(A3用紙加熱の場合)
同様の方法で、
図7(b)のように電圧を印加してA3用紙を加熱した場合の各導体370e~370gで発生する発熱量を見積もると
図9Aのようになる。ここで、発熱体の抵抗値はすべてのブロック1~7で同じであるとし、電極370i-370h、370j間に交流100Vを印加するものとする。それぞれの発熱体371~377には
図8Bと同じ大きさの20%分の電流が流れる。
【0148】
図9Aの加熱状態では予期せぬ分流電流(
図8A白抜き矢印のような電流の回り込み)は発生せず、導体(下)すなわち導体370fの左端から右端に向けて電流が流れる。なお、電極370i-370h、370j間にはAC電源が接続されるのであるが、ここでは便宜上、左側の電極370h、370jから右側の電極370iに電流が流れるものとする。
【0149】
計算の結果、導体370e~370gの発熱量は
図9Bのように長手方向で非対称となったが、各ブロックにおける導体の発熱量∝電流^2の合計値は、第1の方向側が高くなった。すなわち、長手方向非対称が、
図9BのA3加熱状態と
図8CのA4加熱状態とは方向が逆転してしまうことが分かった。
【0150】
さらに、
図8Cと比べて
図9Bでは電流量が多くなるので、導体による発熱量非対称の絶対値と割合も増加してしまう。つまり、A3加熱状態では定着ベルト310の非対称温度分布ないし画像不良が最も顕著になる。
【0151】
なお、前述の説明ではA4とA3を均一に加熱できるようブロック1,7(端部ブロックと言う)とブロック2~6(中央ブロック)の長手方向長さと抵抗値を同じに揃えている。しかし、端部ブロックと中央ブロックの長さを変えて異なる紙サイズ(例えばA4とA3)を均一に加熱できるようにしてもよい。但し、長さが変わると抵抗値も変わるが、
図8C、
図9Bのように温度が長手方向で非対称となることは解消されない。
【0152】
(左右独立のシャッター部材)
そこで、一対のシャッター部材305を
図10(a)のように連結部305aをなくして左右独立にする。これにより、前述したA4紙加熱時とA3紙加熱時で方向が反対になる非対称温度を抑制するように、左右のシャッター部材305、305の開度を独立調整可能となる。
【0153】
この場合、
図10(b)に示すように、定着装置300の筐体301の左右の開口部304a、304bに、二股状に分岐したエアダクト511を接続することができる。ここで「接続」とは、空気の流れが形成されていればよく、開口部304a、304bとエアダクト511の間に隙間があってもよい。そしてエアダクト511の分岐上流側に送風ファン520を配置する。
【0154】
このように二股状に分岐するエアダクト511を使用することで、送風ファン520が1つで済む。したがって、装置の小型化が可能である。なお、左右のエアダクト511を独立型としてそれぞれに送風ファン520を配設することも可能であり、その場合は開口部304a、304b当たりの風力がアップするので冷却効果を高めることができる。
【0155】
A4・A3で方向が反対になる非対称温度の抑制を説明するにあたり、左右の開口部304a、304bのうち左側を第1の開口部304a、右側を第2の開口部304bと呼ぶことにする。そして、
図8A、
図8Bの左側の第1の電極370hと第3の電極370jが配設されたヒータ330の長手方向一端部を、第1の開口部304aに対向するように筐体301内に配置する。また、反対側の第2の電極370iが配設されたヒータ330の長手方向他端部を、第2の開口部304bに対向するように筐体301内に配置する。
【0156】
ここで、第1の開口部304aの開口面積をS1とし、第2の開口部304bの開口面積をS2とする。そして、A4紙加熱のため第1の抵抗発熱体372~376のみを加熱するときは、
図8Cの非対称発熱量分布を抑制すべく、S1>S2の関係となるようにシャッター部材305、305を回動する。
【0157】
また、A3紙加熱のため第1の抵抗発熱体372~376と第2の抵抗発熱体371、377の両方を加熱するときは、
図9Bの非対称発熱量分布を抑制すべく、S1<S2の関係となるようにシャッター部材305、305を回動する。これにより、A4加熱時とA3加熱時の定着ベルト310の端部過昇温と、
図8C、
図9Bの非対称発熱量分布によるグロスムラなどの画像不良をより効果的に防止することができる。
【0158】
以上、本発明を実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の技術的思想の範囲内で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、前記シャッター部材305は開口部304の外側に開閉可能に配置したが、シャッター部材305を開口部304の内側に開閉可能に配設することも可能である。
【0159】
また本発明の加熱装置は、前述した定着装置300に使用するほか、インクジェットプリンタの用紙乾燥装置にも使用可能である。また定着ベルト310を加熱する発熱体は、PTC素子を使用したヒータ330のほか、セラミックヒータなど他の発熱体も使用可能である。
【符号の説明】
【0160】
1K、1Y、1M、1C:プロセスユニット 2K、2Y、2M、2C:像担持体
3K、3Y、3M、3C:ドラムクリーニング装置 4K、4Y、4M、4C:帯電装置
5K、5Y、5M、5C:現像装置 6K、6Y、6M、6C:トナーボトル
7:露光器 7a:ミラー
8:転写カバー 10:粉体収容器
15:転写装置 16:中間転写ベルト
17:従動ローラ 18:駆動ローラ
19K、19Y、19M、19C:一次転写ローラ 20:二次転写ローラ
21:ベルトクリーニング装置 31:レジストセンサ
32:給紙路 33:転写後搬送路
35:定着後搬送路 36:排紙路
37:排紙ローラ対 41:反転搬送路
42:切り替え部材 42a:揺動軸
43:反転搬送ローラ対 44:排紙トレイ
45:給紙ローラ 46:トレイ
60:給紙ローラ 100:画像形成装置
200:用紙給送装置 210:ローラ対
220:給送ローラ 230:分離ローラ
240:搬送ローラ 250:レジストローラ対
300:定着装置 310:定着ベルト
301:筐体(カバー) 302:入口
303:出口 304、306:開口部
305:シャッター部材 305a:連結部
305b:腕部 305c:軸部
305d、305e:平面部 306:開口部
307:シャッター部材 307a:ラック
308:ピニオン 320:加圧ローラ
321:芯金 322:弾性層
323:離型層 330:抵抗部材
334:加圧ベルト 340:ヒータホルダ
341:基材 350:ステー
370:抵抗部材 370a、370b:導体
370c、370d:電極 370e~370g:導体
370h:第1の電極 370i:第2の電極
370j:第3の電極 371~378:抵抗発熱体
385:絶縁層 387:バネ
410、420:シャッター部材 510、511:エアダクト
520:送風ファン 401:入口
402:出口 L:レーザ光
N:転写ニップ P:用紙(シート部材)
SN:定着ニップ TH1~TH3:サーミスタ
TM:転写部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0161】
【文献】特許5907594号公報
【文献】特開2013-007777号公報
【文献】特開2017-215385号公報