(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20240711BHJP
G03G 21/00 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
G03G15/20 555
G03G15/20 510
G03G21/00 318
G03G21/00 370
(21)【出願番号】P 2020153925
(22)【出願日】2020-09-14
【審査請求日】2023-07-14
(31)【優先権主張番号】P 2020058180
(32)【優先日】2020-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】穐山 翔
(72)【発明者】
【氏名】古市 祐介
(72)【発明者】
【氏名】足立 知哉
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-062024(JP,A)
【文献】特開2011-076074(JP,A)
【文献】特開2016-118597(JP,A)
【文献】特開2017-129832(JP,A)
【文献】特開2015-022231(JP,A)
【文献】特開2012-237808(JP,A)
【文献】特開2010-060839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
G03G 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱部材を有する加熱装置と、
表面に画像を担持する像担持体と、
前記像担持体の表面に供給される像担持体保護剤と、
を備える画像形成装置であって、
前記加熱部材は、基材と、発熱体と、電極部と、前記発熱体と前記電極部とを接続する導電部と、を有し、
前記電極部は、第1電極部及び第2電極部を有し、
前記導電部は、前記発熱体と前記第1電極部とを接続する第1導電部と、前記発熱体から前記基材の長手方向のうち第1方向側に伸びて前記第2電極部に接続される第2導電部と、前記第2導電部から分岐し、前記第1方向とは反対の第2方向側に伸びて前記第1導電部を介さずに前記第2導電部又は前記第2電極部に接続される分岐経路の少なくとも一部を構成する第3導電部と、を有し、
前記加熱部材における発熱領域の長手方向中央側の任意の位置に対応する前記像担持体保護剤の部分の密度をρ
X、前記長手方向中央側の任意の位置で前記加熱部材
の各位置に配置された前記導電部を流れる電流の二乗の合計値をI
X
2とし、
前記発熱領域の長手方向両端側の任意の位置に対応する前記像担持体保護剤の部分の密度をρ
Y、前記長手方向両端側の任意の位置で前記加熱部材
の各位置に配置された前記導電部を流れる電流の二乗の合計値をそれぞれI
Y
2とすると、
1≦(I
Y
2×ρ
Y)/(I
X
2×ρ
X)<7の関係を満たす画像形成装置。
【請求項2】
前記発熱領域の長手方向一端側の任意の位置に対応する前記像担持体保護剤の部分の密度をρ
V、前記長手方向一端側の任意の位置で前記加熱部材
の各位置に配置された前記導電部を流れる電流の二乗の合計値をI
V
2とし、
前記発熱領域の長手方向他端側の任意の位置に対応する前記像担持体保護剤の部分の密度をρ
W、前記長手方向他端側の任意の位置で前記加熱部材
の各位置に配置された前記導電部を流れる電流の二乗の合計値をI
W
2とすると、
1≦(I
V
2×ρ
V)/(I
W
2×ρ
W)≦1.4の関係を満たす請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記発熱領域の長手方向における特定位置に対応する前記像担持体保護剤の部分の密度をρ、前記特定位置で前記加熱部材に
配置された前記導電部を流れる電流の二乗の合計値をI
2とすると、
I
2とρとを乗算した値の逆数である1/(I
2×ρ)で示される値が、前記発熱領域の長手方向中央側と長手方向両端側のそれぞれの任意の位置よりも、これらの間の任意の中間位置で小さくなる請求項1又は2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
加熱部材を有する加熱装置と、
表面に画像を担持する像担持体と、
前記像担持体の表面に供給される像担持体保護剤と、
を備える画像形成装置であって、
前記加熱部材は、基材と、発熱体と、電極部と、前記発熱体と前記電極部とを接続する導電部と、を有し、
前記電極部は、第1電極部及び第2電極部を有し、
前記導電部は、前記発熱体と前記第1電極部とを接続する第1導電部と、前記発熱体から前記基材の長手方向のうち第1方向側に伸びて前記第2電極部に接続される第2導電部と、前記第2導電部から分岐し、前記第1方向とは反対の第2方向側に伸びて前記第1導電部を介さずに前記第2導電部又は前記第2電極部に接続される分岐経路の少なくとも一部を構成する第3導電部と、を有し、
前記加熱部材における発熱領域の長手方向中央側の任意の位置に対応する前記像担持体保護剤の部分の密度をρ
X、前記長手方向中央側の任意の位置に対応する部分の温度をT
Xとし、
前記発熱領域の長手方向両端側の任意の位置に対応する前記像担持体保護剤の部分の密度をρ
Y、前記長手方向両端側の任意の位置に対応する部分の温度をそれぞれT
Yとすると、
1≦(T
Y×ρ
Y)/(T
X×ρ
X)<7の関係を満たす画像形成装置。
【請求項5】
前記分岐経路上に、前記第3導電部と、前記第1電極部及び前記第2電極部とは別の第3電極部と、前記第3導電部を介して前記第3電極部に接続される発熱体と、が配置される請求項1から4のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記加熱部材の前記発熱体が設けられた面に沿って長手方向と交差する方向を、短手方向とすると、
前記加熱部材の短手方向寸法に対する前記発熱体の短手方向寸法の比が、25%以上80%未満である請求項
1から5のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記加熱部材の前記発熱体が設けられた面に沿って長手方向と交差する方向を、短手方向とすると、
前記加熱部材の短手方向寸法に対する前記発熱体の短手方向寸法の比が、40%以上80%未満である請求項1から
5のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項8】
前記像担持体保護剤に接触した状態で回転することにより、前記像担持体保護剤を前記像担持体の表面に供給する保護剤供給手段を備える請求項1から
7のいずれかに記載の画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機又はプリンタなどの画像形成装置として、トナーを用いて画像を形成する電子写真方式の画像形成装置が知られている。
【0003】
一般的に、電子写真方式の画像形成装置には、用紙に転写されたトナー画像を用紙に定着させる定着装置が搭載されている。定着装置は、用紙を加熱するヒータなどの加熱部材を備えている。用紙が定着装置を通過する際に、加熱部材によって用紙が加熱されることにより、用紙上のトナーが溶融し用紙に定着される。
【0004】
この種の定着装置として、例えば、特許文献1(特開2016-62024号公報)には、長手状の基板に、発熱体及び電気接点、これらを電気的に接続する導体パターンなどが設けられた板状の加熱部材(ヒータ)を備えるものが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このような導体パターンが基板に設けられている加熱部材においては、発熱体を発熱させる際、導体パターンへの通電により導体パターンでも発熱が生じる。このため、加熱部材全体の発熱分布は、導体パターンの発熱の影響を受けることになる。
【0006】
従って、導体パターンの発熱分布にばらつきがあると、それが原因で加熱部材の温度分布にもばらつきが生じる。さらに、このような加熱部材の温度分布のばらつきは、像担持体の表面に像担持体保護剤を供給する保護剤供給手段にも影響を与えるため、像担持体保護剤の供給量にもばらつきが生じる虞がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、加熱部材を有する加熱装置と、表面に画像を担持する像担持体と、前記像担持体の表面に供給される像担持体保護剤と、を備える画像形成装置であって、前記加熱部材は、基材と、発熱体と、電極部と、前記発熱体と前記電極部とを接続する導電部と、を有し、前記電極部は、第1電極部及び第2電極部を有し、前記導電部は、前記発熱体と前記第1電極部とを接続する第1導電部と、前記発熱体から前記基材の長手方向のうち第1方向側に伸びて前記第2電極部に接続される第2導電部と、前記第2導電部から分岐し、前記第1方向とは反対の第2方向側に伸びて前記第1導電部を介さずに前記第2導電部又は前記第2電極部に接続される分岐経路の少なくとも一部を構成する第3導電部と、を有し、前記加熱部材における発熱領域の長手方向中央側の任意の位置に対応する前記像担持体保護剤の部分の密度をρX、前記長手方向中央側の任意の位置で前記加熱部材の各位置に配置された前記導電部を流れる電流の二乗の合計値をIX
2とし、前記発熱領域の長手方向両端側の任意の位置に対応する前記像担持体保護剤の部分の密度をρY、前記長手方向両端側の任意の位置で前記加熱部材の各位置に配置された前記導電部を流れる電流の二乗の合計値をそれぞれIY
2とすると、1≦(IY
2×ρY)/(IX
2×ρX)<7の関係を満たすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、像担持体保護剤の供給量のばらつきを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る画像形成装置の概略構成図である。
【
図2】本実施形態に係る保護剤供給装置の概略構成図である。
【
図3】本実施形態に係る定着装置の概略構成図である。
【
図6】前記定着装置が備える加熱ユニットの斜視図である。
【
図10】前記ヒータにコネクタが接続された状態を示す斜視図である。
【
図12】全ての抵抗発熱体を発熱させた場合のブロックごとの給電線の発熱量を示す図である。
【
図13】一部の発熱部のみを発熱させた場合のブロックごとの給電線の発熱量を示す図である。
【
図14】ヒータの温度分布とブラシローラの温度分布との関係を示す図である。
【
図15】ヒータの発熱領域における長手方向中央、両端、中間位置を説明するための図である。
【
図16】抵抗発熱体ごとに区画された各ブロックに対応する部分の潤滑剤消費係数(1/I
2×ρ)を示すグラフである。
【
図17】本実施形態に係る潤滑剤の密度と電流の二乗の合計値又は温度との関係を説明するための図である。
【
図23】さらに別の定着装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付の図面に基づき、本発明について説明する。なお、本発明を説明するための各図面において、同一の機能もしくは形状を有する部材又は構成部品等の構成要素については、判別が可能な限り同一符号を付すことにより一度説明した後ではその説明を省略する。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態に係る画像形成装置の概略構成図である。
【0012】
図1に示す画像形成装置100は、画像形成部200と、転写部300と、定着部400と、記録媒体供給部500と、記録媒体排出部600と、を備えている。
【0013】
画像形成部200には、4つの作像ユニット1Y,1M,1C,1Bkと、露光装置6と、が設けられている。各作像ユニット1Y,1M,1C,1Bkは、画像形成装置本体に対して着脱可能に構成されている。また、各作像ユニット1Y,1M,1C,1Bkは、カラー画像の色分解成分に対応するイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの異なる色の現像剤を収容している以外、基本的に同様の構成である。具体的に、各作像ユニット1Y,1M,1C,1Bkは、表面に画像を担持する像担持体である感光体2と、感光体2の表面を帯電させる帯電手段である帯電ローラ3と、感光体2上にトナー画像を形成する現像手段である現像装置4と、感光体2の表面をクリーニングするクリーニング手段であるクリーニングブレード5と、感光体2の表面に像担持体保護剤を供給する保護剤供給装置7と、を備えている。露光装置6は、画像情報に基づいて感光体2の帯電面を露光して静電潜像を形成する潜像形成手段である。
【0014】
転写部300には、記録媒体である用紙に画像を転写する転写装置8が設けられている。なお、画像が形成(転写)される記録媒体は、紙(普通紙、厚紙、薄紙、コート紙、ラベル紙、封筒などを含む)のほか、OHPシートなどの樹脂製のシートであってもよい。転写装置8は、中間転写ベルト11と、4つの一次転写ローラ12と、二次転写ローラ13と、を有している。中間転写ベルト11は、表面に画像を担持してその画像を用紙に転写する転写部材であり、無端状のベルト部材で構成されている。各一次転写ローラ12は、中間転写ベルト11を介してそれぞれ別の感光体2に接触している。これにより、中間転写ベルト11と各感光体2との間に、中間転写ベルト11と各感光体2とが接触する一次転写ニップが形成されている。一方、二次転写ローラ13は、中間転写ベルト11を介して中間転写ベルト11を張架する複数のローラの1つに接触し、中間転写ベルト11との間に二次転写ニップを形成している。
【0015】
定着部400には、用紙を加熱する加熱装置であって、用紙を加熱することにより用紙上の画像を定着させる定着装置9が設けられている。
【0016】
記録媒体供給部500には、用紙Pを収容する給紙カセット14と、給紙カセット14から用紙Pを送り出す給紙ローラ15と、が設けられている。
【0017】
記録媒体排出部600には、用紙を画像形成装置外に排出する一対の排紙ローラ17と、排紙ローラ17によって排出された用紙を載置する排紙トレイ18と、が設けられている。
【0018】
次に、
図1を参照しつつ本実施形態に係る画像形成装置100の印刷動作について説明する。
【0019】
印刷動作開始の指示があると、各作像ユニット1Y,1M,1C,1Bkの感光体2、及び中間転写ベルト11が回転を開始する。また、給紙ローラ15が回転することにより、給紙カセット14から用紙Pが送り出される。送り出された用紙Pは、一対のタイミングローラ16に接触して一旦停止される。
【0020】
各作像ユニット1Y,1M,1C,1Bkでは、まず、帯電ローラ3によって感光体2の表面が均一な高電位に帯電される。次いで、原稿読取装置によって読み取られた原稿の画像情報、あるいは端末からプリント指示されたプリント画像情報に基づいて、露光装置6が各感光体2の表面(帯電面)に露光する。これにより、露光された部分の電位が低下して各感光体2の表面に静電潜像が形成される。そして、この静電潜像に対して現像装置4からトナーが供給され、各感光体2上にトナー画像が形成される。各感光体2上に形成されたトナー画像は、各感光体2の回転に伴って一次転写ニップ(一次転写ローラ12の位置)に達すると、回転する中間転写ベルト11上に順次重なり合うように転写される。かくして、中間転写ベルト11上にフルカラーのトナー画像が形成される。また、感光体2から中間転写ベルト11へトナー画像が転写された後、各感光体2上に残留するトナー及びその他の異物はクリーニングブレード5によって除去される。さらに、クリーニングされた各感光体2の表面に対して、保護剤供給装置7から像担持体保護剤である潤滑剤が供給され、感光体2は次の静電潜像の形成に備えられる。
【0021】
中間転写ベルト11上に転写されたトナー画像は、中間転写ベルト11の回転に伴って二次転写ニップ(二次転写ローラ13の位置)へ搬送され、タイミングローラ16によって搬送されてきた用紙P上に転写される。そして、トナー画像が転写された用紙Pは、定着装置9へと搬送され、定着装置9によって用紙Pにトナー画像が定着される。その後、用紙Pは排紙ローラ17によって排紙トレイ18へ排出され、一連の印刷動作が完了する。
【0022】
以上の印刷動作の説明は、フルカラー画像を形成するときの動作についてであるが、4つの作像ユニットのうち、いずれか1つを使用して単色画像を形成したり、2つ又は3つの作像ユニットを使用して、2色又は3色の画像を形成したりすることも可能である。
【0023】
図2は、本実施形態に係る保護剤供給装置7の概略構成図である。
【0024】
図2に示すように、本実施形態に係る保護剤供給装置7は、像担持体保護剤としての潤滑剤80と、潤滑剤80を感光体2へ供給する潤滑剤供給手段(保護剤供給手段)としてのブラシローラ81と、潤滑剤80をブラシローラ81へ付勢する潤滑剤付勢手段(保護剤付勢手段)としてのバネ82と、感光体2へ供給された潤滑剤を均一な薄層にする層状化部材としての塗布ブレード83と、塗布ブレード83を感光体2の表面へ接触するように付勢する層状化部材付勢手段としてのバネ84と、を備えている。
【0025】
ブラシローラ81は、感光体2の表面に接触しており、感光体2の回転方向とは反対方向に回転する。ブラシローラ81が回転すると、ブラシローラ81によって潤滑剤80が掻き取られると共に、掻き取られた潤滑剤80が感光体2の表面に供給される。そして、感光体2の表面に供給された潤滑剤80は、塗布ブレード83によって均一な厚さに薄層化される。潤滑剤80、ブラシローラ81及び塗布ブレード83は、感光体2上の最大画像形成領域以上の範囲に渡って長手状に配置されている。
【0026】
このように、感光体2の表面に薄層化された潤滑剤80が供給されることにより、感光体2のクリーニング性が向上し、クリーニング不良による異常画像の発生を抑制することが可能である。潤滑剤供給部材は、ブラシローラ81のほか、発泡ポリウレタンなどから成るウレタンローラであってもよい。
【0027】
潤滑剤80は、例えば、脂肪酸金属塩と無機潤滑剤とを少なくとも含有した粉体を圧縮して構成される。
【0028】
潤滑剤80を構成する脂肪酸金属塩の例としては、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸鉛、ステアリン酸鉄、ステアリン酸ニッケル、ステアリン酸コバルト、ステアリン酸銅、ステアリン酸ストロンチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸カドミウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、オレイン酸亜鉛、オレイン酸マグネシウム、オレイン酸鉄、オレイン酸コバルト、オレインサン銅、オレイン酸鉛、オレイン酸マンガン、パルミチン酸亜鉛、パルミチン酸コバルト、パルミチン酸鉛、パルミチン酸マグネシウム、パルミチン酸アルミニウム、パルミチン酸カルシウム、カプリル酸鉛、カプリン酸鉛、リノレン酸亜鉛、リノレン酸コバルト、リノレン酸カルシウム、リシノール酸亜鉛、リシノール酸カドミウム及びそれらの混合物があるが、これに限るものではない。また、これらを混合して使用してもよい。
【0029】
また、潤滑剤80を構成する無機潤滑剤とは、その物質自身がへき開して潤滑する、又は内部滑りを起こすものを指す。この例としては、マイカ、窒化ホウ素、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、タルク、カオリン、モンモリロナイト、フッ化カルシウム、又はグラファイトなどがあるがこれに限るものではない。例えば窒化ホウ素は、原子がしっかりと組み合った六角網面が、広い間隔で重なり、層と層とをつなげるのは、弱いファンデルワールス力のみであるため、その層間は容易にへき開し、潤滑する。
【0030】
続いて、本実施形態に係る定着装置9の構成について説明する。
【0031】
図3に示すように、本実施形態に係る定着装置9は、定着ベルト20と、加圧ローラ21と、ヒータ22と、ヒータホルダ23と、ステー24と、温度センサ19と、を備えている。
【0032】
定着ベルト20は、回転可能に設けられた第1回転部材であって、用紙Pの未定着トナー担持面側(画像形成面側)に配置されて未定着トナーを用紙Pに定着させる定着部材である。定着ベルト20は、例えば、外径が25mmで厚みが40~120μmの筒状基材を有する無端状のベルト部材で構成される。基材の材料は、ポリイミドのほか、PEEKなどの耐熱性樹脂であってもよいし、ニッケル又はSUSなどの金属材料であってもよい。また、耐久性を高めると共に離型性を確保するため、基材の外周面に、PFA又はPTFEなどのフッ素樹脂から成る離型層が設けられてもよい。また、基材と離型層との間に、ゴムなどから成る弾性層が設けられてもよい。さらに、基材の内周面に、ポリイミド又はPTFEなどから成る摺動層が設けられてもよい。
【0033】
加圧ローラ21は、定着ベルト20とは別の回転可能な第2回転部材であって、定着ベルト20の外周面に対向するように配置された対向部材である。また、加圧ローラ21は、定着ベルト20の外周面に圧接されて、定着ベルト20との間にニップ部Nを形成する加圧部材でもある。加圧ローラ21は、例えば、外径が25mmであって、鉄製の芯金と、この芯金の外周面に設けられたシリコーンゴム製の弾性層と、弾性層の外周面に設けられたフッ素樹脂製の離型層とを有するローラなどにより構成される。
【0034】
ヒータ22は、定着ベルト20の内側に配置され、定着ベルト20及び定着ベルト20を介して用紙を加熱する加熱部材である。本実施形態では、ヒータ22が、板状の基材50と、基材50上に設けられた第1絶縁層51と、第1絶縁層51上に設けられた導体層52と、導体層52を被覆する第2絶縁層53と、により構成されている。導体層52は、発熱部60を有している。
【0035】
基材50は、例えば、ステンレス(SUS)、鉄、又はアルミニウム等の金属材料で構成される。また、基材50の材料として、金属材料のほか、セラミック又はガラス等を用いることも可能である。基材50にセラミックなどの絶縁材料を用いた場合は、基材50と導体層52との間の第1絶縁層51を省略することが可能である。一方、金属材料は、急速加熱に対する耐久性に優れ、加工もしやすいため、低コスト化を図るのに好適である。金属材料の中でも、特にアルミニウム又は銅は熱伝導性が高く、温度ムラが発生しにくい点で好ましい。また、ステンレスはこれらに比べて安価に製造できる利点がある。
【0036】
各絶縁層51,53は、例えば、耐熱性ガラスなどの絶縁性を有する材料で構成される。また、これらの材料として、セラミック又はポリイミドなどを用いてもよい。また、基材50の第1絶縁層51及び第2絶縁層53が設けられる面とは反対側の面に、別途絶縁層が設けられてもよい。
【0037】
本実施形態では、発熱部60が基材50よりもニップ部N側に配置されているが、これとは反対に、基材50が発熱部60よりもニップ部N側に配置されてもよい。ただしその場合は、発熱部60の熱が基材50を介して定着ベルト20に伝達されることになるため、基材50は窒化アルミニウムなどの熱伝導率の高い材料で構成されることが望ましい。
【0038】
また、本実施形態では、ヒータ22から定着ベルト20への熱伝達効率を高めるため、ヒータ22が定着ベルト20の内周面に対して直接接触するように配置されている。また、これに限らず、ヒータ22は、定着ベルト20に対して、非接触又は低摩擦シートなどを介して間接的に接触するように配置されてもよい。また、定着ベルト20に対するヒータ22の接触箇所は、定着ベルト20の外周面であってもよい。ただし、定着ベルト20の外周面の傷付きによる定着品質の低下を回避するため、ヒータ22が接触する面は、定着ベルト20の内周面であることが望ましい。
【0039】
ヒータホルダ23は、定着ベルト20の内側でヒータ22を保持する保持部材である。ヒータホルダ23は、ヒータ22の熱によって高温になりやすいため、耐熱性の材料で構成されることが望ましい。特に、ヒータホルダ23が、LCP又はPEEKなどの低熱伝導性の耐熱性樹脂で構成される場合は、ヒータホルダ23の耐熱性を確保しつつ、ヒータ22からヒータホルダ23への伝熱が抑制されるので、効率的に定着ベルト20を加熱することが可能である。
【0040】
ステー24は、定着ベルト20の内側に配置される補強部材である。ステー24によってヒータホルダ23のニップ部N側の面とは反対の面が支持されることにより、ヒータホルダ23が加圧ローラ21の加圧力によって撓むのが抑制される。これにより、定着ベルト20と加圧ローラ21との間に均一な幅のニップ部Nが形成される。ステー24は、その剛性を確保するため、SUS又はSECCなどの鉄系金属材料によって形成されることが好ましい。
【0041】
温度センサ19は、ヒータ22の温度を検知する温度検知手段である。温度センサ19の検知結果に基づいてヒータ22の出力が制御されることにより、定着ベルト20の温度が所望の温度(定着温度)となるように維持される。温度センサ19は、接触型又は非接触型のいずれでもよい。例えば、温度センサ19として、サーモパイル、サーモスタット、サーミスタ、又はNCセンサなどの公知の温度センサを適用可能である。
【0042】
本実施形態に係る定着装置9においては、印刷動作が開始されると、ヒータ22に電力が供給されることにより、発熱部60が発熱し、定着ベルト20が加熱される。また、加圧ローラ21が回転駆動され、定着ベルト20が従動回転を開始する。そして、定着ベルト20の温度が所定の目標温度(定着温度)に到達した状態で、
図3に示すように、未定着トナー画像が担持された用紙Pが、定着ベルト20と加圧ローラ21との間(ニップ部N)に搬送されることにより、未定着トナーが加熱及び加圧されてトナー画像が用紙Pに定着される。
【0043】
図4は、本実施形態に係る定着装置9の斜視図、
図5は、その分解斜視図である。
【0044】
図4及び
図5に示すように、本実施形態に係る定着装置9は、矩形の枠状に形成された装置フレーム40を備えている。装置フレーム40は、一対の側壁部28及び前壁部27を一体に有する第1装置フレーム25と、後壁部29を有する第2装置フレーム26と、によって構成されている。第1装置フレーム25と第2装置フレーム26は、一対の側壁部28に設けられた複数の係合突起28aが後壁部29に設けられた複数の係合孔29aに係合することにより組み付けられる。
【0045】
定着ベルト20及び加圧ローラ21は、一対の側壁部28によって支持される。このため、各側壁部28には、加圧ローラ21の回転軸などを挿通させるための挿通溝28bが設けられている。挿通溝28bは、その一端側(後壁部29側)で開口し、これとは反対側の端では開口しない突き当て部が形成されている。この突き当て部には、加圧ローラ21の回転軸を回転可能に支持する軸受30が設けられている。加圧ローラ21が各側壁部28によって支持された状態では、加圧ローラ21の軸方向の一端に設けられた駆動伝達部材としての駆動伝達ギヤ31が、側壁部28よりも外側に露出した状態で配置される。これにより、定着装置9が画像形成装置本体に搭載されると、駆動伝達ギヤ31が画像形成装置本体に設けられているギヤに連結され、駆動源からの駆動力を伝達可能な状態となる。また、駆動伝達ギヤ31に代えて、駆動伝達ベルトを張架するプーリ又はカップリング機構などの駆動伝達部材を用いてもよい。
【0046】
定着ベルト20の長手方向の両端には、定着ベルト20及びステー24などを支持する一対の支持部材32が設けられている。各支持部材32には、ガイド溝32aが形成されている。
図5に示すように、一対の支持部材32と、定着ベルト20、ステー24、ヒータホルダ23、及びヒータ22を組み付けた状態で、各支持部材32のガイド溝32aを各側壁部28の挿通溝28bの縁に沿わせながら各支持部材32を各側壁部28に組み付けることにより、定着ベルト20、ステー24、ヒータホルダ23及びヒータ22が、各側壁部28に支持される。また、各支持部材32が、後壁部29との間に設けられた付勢部材としての一対のバネ33によって付勢されることにより、定着ベルト20が加圧ローラ21へ加圧され、ニップ部が形成される。
【0047】
また、後壁部29には、画像形成装置本体に対する定着装置本体の位置決めを行う位置決め部としての孔部29bが設けられている。一方、画像形成装置本体には、位置決め部としての突起101(
図5参照)が設けられている。この突起101が、定着装置9の孔部29bに対して挿入されることで、突起101と孔部29bが嵌合し、画像形成装置本体に対する定着装置本体の位置決めがなされる。なお、孔部29bが設けられる位置は、後壁部29の長手方向の中央よりもいずれか一方の端寄りの位置であることが好ましい。このような位置に孔部29bが設けられることにより、孔部29bが設けられない端側では、温度変化に伴う長手方向の伸縮が許容され、装置フレーム40の歪を抑制することが可能である。
【0048】
図6は、ヒータ22などを一対の支持部材32によって支持した加熱ユニットの斜視図、
図7は、その加熱ユニットの分解斜視図である。
【0049】
図6に示すように、ヒータ22及びヒータホルダ23は、図の左右方向へ長く伸びる長手状の部材である。ヒータ22及びヒータホルダ23は、定着装置に組み込まれた状態で、定着ベルト20の長手方向又は加圧ローラ21の軸方向へ長手状に配置される。また、同様にステー24も、定着ベルト20の長手方向又は加圧ローラ21の軸方向へ長手状に配置される。
【0050】
図6及び
図7に示すように、ヒータホルダ23には、ヒータ22を収容するための矩形の収容凹部23aが設けられている。収容凹部23aは、ヒータ22とほぼ同等の形状及びサイズに形成されている。ただし、収容凹部23aの長手方向寸法L2はヒータ22の長手方向寸法L1よりも若干長く設定されている。このため、熱膨張によってヒータ22がその長手方向に伸びても、ヒータ22と収容凹部23aとの干渉を回避できる。
【0051】
一対の支持部材32は、定着ベルト20の内側に挿入されて定着ベルト20を支持するC字状のベルト支持部32bと、定着ベルト20の端面に接触して定着ベルト20の長手方向の移動(片寄り)を規制するフランジ状のベルト規制部32cと、ヒータホルダ23及びステー24の長手方向の両端近傍部分が挿入されてこれらを支持する支持凹部32dと、を有している。定着ベルト20は、その長手方向の両端にベルト支持部32bが挿入されることで、ベルト非回転時において基本的に周方向(ベルト回転方向)の張力が作用しない、いわゆるフリーベルト方式で支持される。
【0052】
また、
図6及び
図7に示すように、ヒータホルダ23の長手方向の中央よりも一端側には、位置決め部としての位置決め凹部23eが設けられている。この位置決め凹部23eに対して、
図6及び
図7における左側の支持部材32の嵌合部32eが嵌合することにより、ヒータホルダ23と支持部材32との位置決めがなされる。一方、
図6及び
図7における右側の支持部材32には、嵌合部32eは設けられておらず、ヒータホルダ23との長手方向の位置決めはされない。このように、支持部材32に対するヒータホルダ23の位置決めをヒータホルダ23の長手方向の片側のみとすることで、温度変化に伴うヒータホルダ23の長手方向の伸縮が許容される。
【0053】
また、
図7に示すように、ステー24の長手方向の両端近傍部分には、各支持部材32に対するステー24の移動を規制する段差部24aが設けられている。各段差部24aは支持部材32に突き当たることで支持部材32に対するステー24の長手方向の移動を規制する。ただし、これら段差部24aのうち少なくとも一方は、支持部材32に対して隙間(ガタ)を介して配置される。このように、少なくとも一方の段差部24aが支持部材32に対して隙間を介して配置されることにより、温度変化に伴うステー24の伸縮が許容される。
【0054】
図8は、本実施形態に係るヒータ22の平面図、
図9は、その分解斜視図である。
【0055】
図9に示すように、ヒータ22の基材50上には、第1絶縁層51を介して発熱部60を構成する複数の抵抗発熱体59が配置されている。各抵抗発熱体59は、基材50の長手方向Zに渡って一列に並んで配置されている。導体層52は、複数の抵抗発熱体59のほか、複数の電極部61と、複数の給電線(導電部)62と、が設けられている。各抵抗発熱体59は、複数の給電線62を介して複数の電極部61のいずれか2つに電気的に接続されている。
図8に示すように、各抵抗発熱体59の全体及び各給電線62の大部分は、第2絶縁層53によって覆われ、絶縁性が確保されている。また、各抵抗発熱体59は、互いに間隔をあけて配列されているため、隣り合う抵抗発熱体59同士の間は絶縁領域(第2絶縁層53)が介在している。一方、各電極部61は、後述のコネクタが接続できるように、第2絶縁層53によってほとんど覆われておらず露出した状態となっている。
【0056】
抵抗発熱体59は、例えば、銀パラジウム(AgPd)及びガラス粉末などを調合したペーストをスクリーン印刷などにより基材50に塗工し、その後、当該基材50を焼成することによって形成することができる。また、抵抗発熱体59の材料として、銀合金(AgPt)及び酸化ルテニウム(RuO2)の少なくとも一方を含む抵抗材料を用いてもよい。
【0057】
電極部61及び給電線62は、抵抗発熱体59よりも小さい抵抗値の導体で構成されている。例えば、電極部61及び給電線62は、銀(Ag)又は銀パラジウム(AgPd)などの材料を基材50上にスクリーン印刷することによって形成される。
【0058】
図10は、ヒータ22に給電部材としてのコネクタ70が接続された状態を示す斜視図である。
【0059】
図10に示すように、コネクタ70は、樹脂製のハウジング71と、ハウジング71に設けられた複数のコンタクト端子72と、を有している。各コンタクト端子72は、板バネで構成されている。また、各コンタクト端子72には、給電用のハーネス73が接続されている。
【0060】
図10に示すように、コネクタ70は、ヒータ22及びヒータホルダ23を一緒に挟むようにして取り付けられる。これにより、ヒータ22及びヒータホルダ23は、コネクタ70によって一緒に保持される。また、この状態で、コネクタ70の各コンタクト端子72の先端(接触部72a)が、それぞれ対応する電極部61に弾性的に接触(圧接)することにより、各コンタクト端子72と各電極部61とが電気的に接続される。また同様に、
図10に示すヒータ22の長手方向の端とは反対側の端にある電極部61に対しても、コネクタ70が接続される。これにより、コネクタ70を介して画像形成装置に設けられた電源から発熱部60へ電力が供給可能な状態となる。
【0061】
以下、
図11に基づき、本実施形態に係るヒータ22の構成についてさらに詳しく説明する。
【0062】
図11に示すように、本実施形態に係るヒータ22には、7つの抵抗発熱体59A~59Gと、3つの電極部61A~61Cと、これらを接続する4つの給電線62A~62Dと、が設けられている。3つの電極部61A~61Cのうち、2つの電極部61A,61Cは、各抵抗発熱体59A~59Gよりも基材50の長手方向Zの一端側(
図11における左側)に配置され、残りの1つの電極部61Bは、各抵抗発熱体59A~59Gよりも基材50の長手方向Zの他端側(
図11における右側)に配置されている。各抵抗発熱体59A~59Gは、一端側に配置される2つの電極部61A,61Cのうちのいずれかと、他端側に配置される1つの電極部61Bに対して、電気的に接続されている。
【0063】
詳しくは、7つの抵抗発熱体59A~59Gのうち、両端以外の各抵抗発熱体59B~59Fは、第1給電線62Aを介して第1電極部61Aに並列に接続されると共に、第2給電線62Bを介して第2電極部61Bに並列に接続されている。一方、両端の各抵抗発熱体59A,59Gは、第3給電線62C又は第4給電線62Dを介して第3電極部61Cに並列に接続されると共に、第2給電線62Bを介して第2電極部61Bに並列に接続されている。
【0064】
このような接続構造とすることで、本実施形態では、両端以外の各抵抗発熱体59B~59Fで構成される第1発熱部60Aと、両端の各抵抗発熱体59A,59Gで構成される第2発熱部60Bとを、互いに独立して発熱制御することが可能である。具体的に、第1電極部61A及び第2電極部61Bに電圧を印加して両電極部61A,61B間に電位差を生じさせた場合は、両端以外の各抵抗発熱体59B~59Fが通電し、第1発熱部60Aのみが発熱する。一方、第3電極部61C及び第2電極部61Bに電圧を印加して両電極部61C,61B間に電位差を生じさせた場合は、両端の各抵抗発熱体59A,59Gが通電するため、第2の発熱部60Bのみが発熱する。また、全ての電極部61A~61Cに電圧を印加して第1電極部61Aと第2電極部61の間及び第3電極部61Cと第2電極部61Bの間でそれぞれ電位差を生じさせた場合は、全ての抵抗発熱体59A~59Gが通電するため、第1の発熱部60A及び第2の発熱部60Bの両方が発熱する。例えば、A4サイズ(通紙幅:210mm)以下の比較的小さい幅サイズの用紙を通紙する場合は、第1の発熱部60Aのみを発熱させ、A3サイズ(通紙幅:297mm)以上の比較的大きい幅サイズの用紙を通紙する場合は、第1の発熱部60Aに加え第2の発熱部60Bも発熱させることで、用紙幅に応じた発熱領域とすることが可能である。
【0065】
ここで、本実施形態に係るヒータ22に生じる温度のばらつき(温度分布偏差)について説明する。
【0066】
一般的に、上記のような抵抗発熱体が給電線を介して電極部に接続されたヒータにおいては、抵抗発熱体を発熱させる際、給電線への通電により給電線でもわずかながら発熱が生じる。従って、給電線の発熱分布によっては、ヒータの温度分布にばらつきが生じる虞がある。特に、画像形成装置の高速化に伴い、発熱量を増大させるべく発熱体へ流れる電流を大きくすると、給電線で生じる発熱量も大きくなるため、その影響を無視できなくなる。
【0067】
図12では、全ての抵抗発熱体59A~59Gに対して電流が20%ずつ流れた場合に、抵抗発熱体59A~59Gごとに区画された各ブロック内で発生する各給電線62A,62B,62Dの発熱量とその合計値を示す。ここで、基材50の抵抗発熱体59が設けられている面に沿って長手方向Zと交差する方向Y(
図11参照)を、基材50の「短手方向」と称すると、本実施形態では、各給電線62A,62B,62Dの短手方向Yに伸びる部分は短く、その部分における発熱量はわずかであることから無視し、長手方向Zに伸びる部分で発生する発熱量のみを算出している。また、発熱量(W)は下記式(1)で表されることから、
図12の表に示す発熱量は、便宜的に各給電線に流れる電流(I)の二乗として算出している。よって、算出された発熱量の数値は、あくまで簡易的に算出された値であり、実際の発熱量とは異なるものである。
【0068】
【0069】
発熱量の算出方法について、
図12における第1ブロック及び第2ブロックを例に説明すると、第1ブロックにおいては、第1給電線62Aに流れる電流が100%、第4給電線62Dに流れる電流が20%であるので、それぞれの二乗の合計値である10400(10000+400)が第1ブロックにおける給電線の合計発熱量となる。また、第2ブロックにおいては、第1給電線62Aに流れる電流が80%、第2給電線62Bに流れる電流が20%、第4給電線62Dに流れる電流が20%であるので、これらの二乗の合計値である7200(6400+400+400)が第2ブロックにおける給電線の合計発熱量となる。また、他のブロックにおいても、同様にして発熱量を算出している。
【0070】
そして、各ブロックの合計発熱量を縦軸に表したものが、
図12中のグラフである。このグラフを見てわかるように、各給電線の合計発熱量は、両端側のブロックで大きく、反対に中央側のブロックでは低くなる。また、中央に対して対称のブロック同士(例えば、第1ブロックと第7ブロック)における各給電線の合計発熱量も異なっている。このように、給電線の発熱分布には基材の長手方向Zに渡ってばらつきがあるため、このばらつきによってヒータの発熱分布にもばらつきが発生する。
【0071】
また、このような給電線の発熱に起因する温度のばらつきは、全ての抵抗発熱体を発熱させる場合(
図12に示す例)だけに限らず、一部の抵抗発熱体を発熱させる場合でも発生し得る。特に、ヒータの小型化又は画像形成装置の高速化に伴って、給電線に意図しない分流が生じた場合は、温度のばらつきが顕著となる虞がある。また、意図しない分流は、ヒータを短手方向に小型化すべく、給電線の幅をヒータの短手方向に小さくした結果、給電線の抵抗値が大きくなった場合、あるいは画像形成装置を高速化するため、抵抗発熱体の発熱量を増加させるべく、抵抗発熱体の抵抗値を小さくした場合に、発生しやすくなる。すなわち、小型化又は高速化に伴って給電線の抵抗値と抵抗発熱体の抵抗値とが相対的に接近した場合は、これまで通電しなかった経路にも通電し得る(意図しない分流が発生し得る)状態となる。
【0072】
例えば、
図13に示すように、両端以外の各抵抗発熱体59B~59F(第1発熱部60A)のみに通電した場合に、図の左から2番目の抵抗発熱体59Bを通過した電流の一部が、その先の第2給電線62Bの分岐部Xにて第2電極部61B側とは反対側(図の左側)にも流れる意図しない分流が発生することがある。分流した電流は、
図13における左端の抵抗発熱体59Aを通過し、さらに、第3給電線62C、第3電極部61C、第4給電線62Dを介して右端の抵抗発熱体59Gを通過した後、第2給電線62Bに合流する。
【0073】
このように、意図しない分流は、分岐部Xから
図13中の一点鎖線K3で示す分岐経路を通って第2給電線62Bに至る。また、このような意図しない分流は、本実施形態に係るヒータ22のような、ヒータ22の導電経路が、両端以外の各抵抗発熱体59B~59F(第1発熱部60A)と第1電極部61Aとを接続する第1導電経路(第1導電部)K1と、両端以外の各抵抗発熱体59B~59Fからヒータ22の長手方向のうちの第1方向S1側(
図13における右方向)に伸びて第2電極部61Bに接続される第2導電経路(第2導電部)K2と、第2導電経路K2から分岐し、第1方向S1とは反対の第2方向S2側(
図13における左方向)に伸びて第1導電経路K1を介さずに第2導電経路K2又は第2電極部61Bに接続される第3導電経路(分岐経路)K3と、を少なくとも有する構成であれば生じ得る。なお、本実施形態では、第3導電経路(分岐経路)K3が、第2給電線62Bの一部(分岐部Xから
図13における左側の部分)と、第3給電線62Cと、第4給電線62Dとから成る第3導電部のほか、両端の各抵抗発熱体59A,59G(第2発熱部60B)と、第3電極部61Cと、を含む導電経路で構成されている。また、第3導電経路K3は、抵抗発熱体及び電極部を含まない給電線のみの導電経路であってもよい。そのような場合も、意図しない分流は生じる可能性がある。
【0074】
図13中の表及びグラフに、意図しない分流が発生した場合のブロックごとの各給電線62A,62B,62Dで生じる発熱量及びその合計値を示す。この例では、両端以外の各抵抗発熱体59B~59Fへ電流が20%ずつ均等に流れた場合に、そのうちの一部の電流が分岐部Xにおいて5%分流したとして、発熱させるブロック(第2ブロック~第6ブロック)ごとの各給電線62A,62B,62Dの発熱量を算出している。なお、発熱量の算出方法は、
図12に示す例で説明した方法と同様である。
【0075】
図13中の表及びグラフに示すように、この場合も、給電線の合計発熱量は、両端側のブロックで大きく、反対に中央側のブロックでは低くなり、ばらつきが発生する。ただし、
図13の場合は、
図12とは反対に、グラフの右側のブロックよりも左側のブロックの温度が高くなっている。なお、
図12及び
図13では、電流が一方向に流れる様子を示しているが、ヒータ22に流れる電流は直流でもよいし交流でもよい。
【0076】
以上のように、本実施形態に係る定着装置においては、ブロックごとの給電線の発熱量のばらつきに起因して、ヒータの温度分布も長手方向に渡ってばらつきが発生する。また、このようなヒータにおける温度分布のばらつきの影響は、定着装置に留まらず、画像形成装置内に搭載される他の装置にも影響を与える。従って、上述の潤滑剤を供給する保護剤供給装置7にもヒータの温度分布の影響が及び、これにより潤滑剤の供給量にばらつきが発生する虞がある。
【0077】
一般的に、潤滑剤供給量は、潤滑剤に対する潤滑剤供給部材(例えば、
図2に示すブラシローラ81)の摩擦力に応じて変化するため、潤滑剤供給部材の回転速度又は材質が潤滑剤供給量を特定する設計時のパラメータとなる。しかしながら、潤滑剤供給部材の硬度はその温度に応じて変化するため、潤滑剤供給部材の温度が変化すると潤滑剤供給量も変動する。すなわち、潤滑剤供給部材の温度が高いほど、潤滑剤供給部材が柔らかくなるため、潤滑剤供給量は低下する傾向にある。
【0078】
このため、潤滑剤供給部材が上記のようなヒータの温度分布のばらつきの影響を受けて、温度の高い部分と温度の低い部分とが生じると、これに伴って潤滑剤供給量にもばらつきが発生する。具体的に、上述のヒータ22のように、
図14に示す複数の抵抗発熱体59A~59Gが配列された発熱領域Hの長手方向中央c側よりも長手方向両端e側で温度が高くなる場合は、これに起因してブラシローラ81の温度も、発熱領域Hの長手方向両端e側に対応する部分で高くなるため、特に両端e側に対応する部分で潤滑剤供給量が少なくなる。なお、
図14では、
図12に示す全ての抵抗発熱体59を発熱させた場合のヒータ22の温度分布を例にしている。このように、ブラシローラ81の温度偏差によって両端側での潤滑剤供給量が少なくなると、感光体のクリーニング性が低下する虞がある。
【0079】
ところで、潤滑剤の消費量(潤滑剤供給量)は、上述の画像形成装置内の温度(特にブラシローラ81の温度)との間の相関関係のほか、潤滑剤の密度との間にも相関関係がある。すなわち、潤滑剤の密度が高いほど潤滑剤は消費されにくくなる。このように、潤滑剤の消費量は、画像形成装置内の温度又は潤滑剤の密度と相関関係があるため、画像形成装置内の温度に基づいて潤滑剤の密度を設定することにより、潤滑剤の消費量を調整することが可能である。
【0080】
そこで、本実施形態に係る画像形成装置においては、上記のような潤滑剤供給量のばらつきを抑制するため、潤滑剤の長手方向に渡る密度を以下のように設定している。なお、本明細書中において、「潤滑剤の長手方向」は、「ヒータの長手方向」又は「ヒータの基材の長手方向」と同じ方向を意味する。また、本発明おける潤滑剤の密度の絶対値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、一般的に1.190g/cm3以下であると、潤滑剤供給部材、特にウレタンスポンジ製のローラを用いて容易に潤滑剤を像担持体に塗布できることが知られている(特開2017-68225号公報参照)。像担持体保護剤である潤滑剤の密度は、像担持体保護剤の質量(W)を像担持体保護剤の体積(V)で割ることにより算出することができる。また、前記質量(W)は、分析天秤(装置名:AB204-S、メトラートレド株式会社製)、前記体積(V)は、マイクロメーター又はノギスを用いて算出することができる。
【0081】
まず、潤滑剤の密度の設定を検討するにあたって、密度と潤滑剤消費量との関係を調べる試験を行った。
【0082】
ここで、ヒータの特定位置における温度を「T」、その特定位置に対応する潤滑剤の部分の密度を「ρ」とすると、潤滑剤の消費量は、温度(T)又は密度(ρ)が高いほど少なくなるので、「T」と「ρ」を乗算した値の逆数である「1/T×ρ」が、潤滑剤の消費しやすさを表す指標(潤滑剤消費係数)となる。なお、ここでいう「ヒータの特定位置に対応する潤滑剤の部分」とは、ヒータの特定位置に対して通紙方向(記録媒体搬送方向)で同じ位置となる潤滑剤の長手方向における部分を意味し、以下で述べる「対応する部分」についても同様である。また、ヒータの温度(T)はヒータの各部分で流れる電流の二乗の合計値(I2)と相関関係があるので{上記式(1)参照}、潤滑剤の消費しやすさを決定するパラメータの1つとして、温度(T)に代えて電流の二乗の合計値(I2)を用いることが可能である。従って、ここでは、温度(T)に代えて電流の二乗の合計値(I2)を用いた「1/I2×ρ」を、潤滑剤消費係数として用いる。
【0083】
本試験では、
図15に示す潤滑剤80において、ヒータ22の発熱領域Hの長手方向中央cに対応する部分と、発熱領域Hの長手方向両端eに対応する部分と、中央cと両端eとの間の中間位置mに対応する部分とで、上記潤滑剤消費係数(1/I
2×ρ)を異ならせた複数の潤滑剤を用意した。その中の一部(実施例1~3)を、下記表1に示す。また、
図16のグラフに、表1に示す実施例1~3の、各抵抗発熱体59A~59Gに対応する部分J1~J7ごとの潤滑剤消費係数(1/I
2×ρ)を示す。
【0084】
【0085】
本試験に用いた各潤滑剤は、いずれも、ステアリン酸亜鉛と窒化ホウ素を成分に含む潤滑剤であり、圧縮成型により形成されたものである。ただし、各潤滑剤における滑剤消費係数(1/I2×ρ)は異なっている。具体的に、実施例1では、中央c、両端e1,e2及び中間位置mの各部分における潤滑剤消費係数(1/I2×ρ)が、ほぼ同等の値に設定され、実施例2では、中央cの潤滑剤消費係数(1/I2×ρ)がそれ以外の部分よりも高く、さらに、実施例3では、実施例2よりも中央cとそれ以外の部分の潤滑剤消費係数(1/I2×ρ)の差がより大きくなっている。すなわち、実施例1では、いずれの部分においても潤滑剤の消費しやすさが同等に設定され、実施例2では、中央cがそれ以外の部分よりも消費されやすく、さらに、実施例3では、中央cがそれ以外の部分よりもより一層消費されやすくなるように設定されている。そして、本試験では、このような各潤滑剤を、同じ構成の画像形成装置へ搭載し、同じ条件で画像形成を行った後、感光体のクリーニング性と、潤滑剤消費量のばらつき度合い(偏摩耗)を調べた。
【0086】
その結果、実施例1の場合よりも、両端eに対する中央cの潤滑剤消費係数の比(Ie2×ρe/Ic2×ρc)が小さくなると、感光体の軸方向中央領域でクリーニング性が低下することが分かった。すなわち、両端eに対する中央cの潤滑剤消費係数の比(Ie2×ρe/Ic2×ρc)が、実施例1の場合の「1」よりも小さくなると、潤滑剤が中央cよりも両端eで消費されやすくなり、感光体の軸方向中央領域でクリーニング性が低下した。また、本試験結果によれば、上記潤滑剤消費係数比(Ie2×ρe/Ic2×ρc)が、実施例3の場合の潤滑剤消費係数比である「7」以上となると、感光体の軸方向両端側での潤滑剤供給量が必要量を下回り、異常画像の発生原因となる、いわゆるフィルミングと称される現象が発生しやすくなった。すなわち、両端eと中央cとの潤滑剤の消費しやすさの差が、実施例3と同じかそれよりも大きい場合は、両端e側で潤滑剤が極端に消費されにくくなるため、感光体の軸方向両端部側で潤滑剤を十分に供給することができなくなった。
【0087】
上記試験結果からすると、まず、感光体の軸方向中央領域でクリーニング性を良好に確保するためには、両端eに対する中央cの潤滑剤消費係数比が、上記実施例1の場合の「1」以上となるように、潤滑剤の密度を設定する必要がある。
【0088】
そのため、
図17に示す潤滑剤80において、ヒータ22の発熱領域Hの長手方向中央c側の任意の位置に対応する部分の密度をρ
X、長手方向中央c側の任意の位置でヒータ22に流れる電流の二乗の合計値をI
X
2とし、さらに、発熱領域Hの長手方向両端e側の任意の位置α1,α2に対応する部分の密度をρ
Y、その任意の位置α1,α2でヒータ22に流れる電流の二乗の合計値をそれぞれI
Y
2とすると、下記式(2)を満たすように、潤滑剤80の密度を設定する必要がある。
【0089】
【0090】
なお、発熱領域Hの長手方向中央c側の任意の位置及び長手方向両端e側の任意の位置は、発熱領域H上の一点であってもよいし、抵抗発熱体ごとのブロック単位で特定される一定の範囲であってもよい。また、長手方向中央c側の任意の位置は、長手方向中央cであってもよいし、長手方向中央cから多少ずれた位置であってもよい。例えば、抵抗発熱体が偶数個配列され、発熱領域Hの長手方向中央cに抵抗発熱体が無い場合は、長手方向中央cからずれた位置(抵抗発熱体が配置されている位置)において、ヒータに流れる電流の二乗の合計値を算出すればよい。また、発熱領域Hの長手方向両端e側の任意の位置は、長手方向中央cよりも両端e側の位置であればよい。ただし、長手方向中央c側の位置が長手方向中央cからずれた位置である場合は、そのずれた位置と中央cとの間の距離よりも中央cから両端e側へ離れた位置が長手方向両端e側の位置となる。すなわち、長手方向両端e側の各位置は、発熱領域Hの両端eに対応する位置に限らず、中央c側の任意の位置よりも中央cから両端e側へ離れた位置であれば、中央cと両端eとの間の位置であってもよい。さらに、両端e側の各位置は、中央cを基準に互いに対称に配置される位置に限らず、互いに非対称に配置される位置であってもよい。
【0091】
このように、上記式(2)を満たすように潤滑剤80の各部分の密度を設定することにより、潤滑剤がその長手方向の中央側よりも両端側で消費されにくくなるので、反対に中央側では潤滑剤が消費されやすくなる。これにより、感光体の軸方向中央領域でのクリーニング性を良好に確保できるようになると共に、潤滑剤の姿勢を長手方向の両端側でバランス良く維持できるようになる。
【0092】
しかしながら一方で、潤滑剤の長手方向の中央側と両端側とで潤滑剤消費係数(1/I2×ρ)の差が大きくなり、中央c側に対する両端e側の潤滑剤消費しやすさが極端に低くなると、感光体の軸方向両端部側で潤滑剤を十分に供給することができなくなってフィルミングが発生する。さらに、その場合、潤滑剤が、経時的にブラシローラに対して主に長手方向両端側で接触するようになることに伴い、中央側では潤滑剤とブラシローラとが接触しにくくなるため、感光体の軸方向中央側において潤滑剤が十分に供給されにくくなる虞もある。
【0093】
そのため、両端e側の任意の位置に対する中央c側の任意の位置の潤滑剤消費係数比は、上記実施例3の場合の潤滑剤消費係数比である「7」未満となるようにする必要がある。従って、下記式(3)で示す関係を満たす必要がある。
【0094】
【0095】
要するに、潤滑剤の長手方向に渡る消費量のばらつきを抑制しつつ、感光体へ潤滑剤を良好に供給するには、上記式(2)の条件に上記式(3)の条件を加えた、下記式(4)で示す関係を満たすように潤滑剤の密度を設定すればよい。これにより、ヒータの温度分布にばらつきがある画像形成装置においても、潤滑剤の長手方向の中央側と両端側とで潤滑剤消費係数(1/I2×ρ)の差が大きくなるのを抑制しつつ、感光体2の表面に潤滑剤を良好に供給することが可能となる。
【0096】
【0097】
また、潤滑剤の姿勢を長手方向に渡ってより良好に維持するには、潤滑剤の長手方向の一端側と他端側とにおけるそれぞれの潤滑剤消費係数(1/I2×ρ)の差が小さい方が好ましい。すなわち、一端側と他端側とのそれぞれの潤滑剤消費係数の比率が、「1」に近いほど好ましい。しかしながら、現実的には、潤滑剤の成型時の密度のばらつきなどにより、一端側と他端側とにおけるそれぞれの潤滑剤消費係数の差を完全に無くす(潤滑剤消費係数比を「1」にする)ことは困難である。従って、一端側に対する他端側の潤滑剤消費係数比は、1以上で1.4以下であることが好ましい。従って、一端側に対する他端側の潤滑剤消費係数比{(IV
2×ρV)/(IW
2×ρW)}は、下記式(5)の関係を満たせばよい。
【0098】
【0099】
上記式(5)中の、ρ
Vは、
図17に示す発熱領域Hの長手方向一端e1側の任意の位置に対応する潤滑剤80の部分の密度であり、I
V
2は、その長手方向一端側e1の任意の位置でヒータ22に流れる電流の二乗の合計値である。また、上記式(5)中の、ρ
Wは、
図17に示す発熱領域Hの長手方向他端e2側の任意の位置に対応する潤滑剤80の部分の密度であり、I
W
2は、その長手方向他端e2の任意の位置でヒータ22に流れる電流の二乗の合計値である。
【0100】
このように、一端側に対する他端側の潤滑剤消費係数比{(IV
2×ρV)/(IW
2×ρW)}を1以上で1.4以下にすることにより、一端側と他端側での潤滑剤消費量のばらつきを高度に抑制できるようになり、潤滑剤の姿勢をより良好に維持できるようになる。
【0101】
なお、この場合も、発熱領域Hの長手方向一端e1側と長手方向他端e2側のそれぞれの任意の位置は、発熱領域H上の一点であってもよいし、抵抗発熱体ごとのブロック単位で特定される一定の範囲であってもよい。また、長手方向一端e1側と長手方向他端e2側の各位置は、発熱領域Hの両端eに対応する位置に限らず、中央cよりも両端e側であれば、中央cと両端eとの間の位置であってもよい。さらに、一端e1側及び他端e2側の各位置は、中央cを基準に互いに対称に配置される位置に限らず、互いに非対称に配置される位置であってもよい。
【0102】
潤滑剤はその長手方向の中央よりも両端側で消費されにくい方が、潤滑剤の長手方向に渡る姿勢をバランス良く維持しやすいことは、すでに述べた通りである。しかしながら、ヒータの発熱態様は、
図12に示すような全ての抵抗発熱体59A~59Gを発熱させる場合に限らず、
図13に示すような両端以外の抵抗発熱体59B~59Fを発熱させる場合もある。特に、
図13に示す例の場合は、両端の各抵抗発熱体59A,59Gにおける発熱は積極的に行われないため(ただし、意図しない分流による発熱はある。)、第1ブロック及び第7ブロックでの温度が他のブロックに比べて低くなる。このため、第1ブロック及び第7ブロックに対応する潤滑剤の両端側の部分では、潤滑剤消費量が一時的に多くなる。仮に、このような発熱態様が継続されると、両端側の部分での潤滑剤消費量が多くなり、潤滑剤の姿勢バランスを経時的に維持できなくなる可能性がある。
【0103】
そのため、本実施形態に係る画像形成装置のように、通紙サイズに応じて発熱態様が
図12に示す態様と
図13に示す態様とに変わる構成においては、
図17に示す発熱領域Hにおける長手方向中央c側及び長手方向両端e側のそれぞれの任意の位置よりも、これらの間の任意の中間位置mで、潤滑剤が消費されにくくすることが好ましい。すなわち、発熱領域Hにおける長手方向中央c側及び長手方向両端e側のそれぞれの任意の位置よりも、これらの間の任意の中間位置mで、潤滑剤消費係数(1/I
2×ρ)が小さくなるようにすることが好ましい。ここで、任意の中間位置mに対応する潤滑剤80の部分の密度をρ
Z、その任意の中間位置mでヒータ22に流れる電流の二乗の合計値をI
Z
2とし、長手方向中央c側に対応する部分の密度をρ
X、長手方向中央c側でヒータ22に流れる電流の二乗の合計値をI
X
2とし、長手方向両端e側に対応する潤滑剤80の部分の密度をρ
U、その両端e側でヒータ22に流れる電流の二乗の合計値をI
U
2とすると、下記式(6)及び式(7)の関係を満たすようにすることが好ましい。
【0104】
【0105】
【0106】
なお、上記任意の中間位置mは、例えば、
図17に示すような第2ブロックB2及び第6ブロックB6を通る位置のほか、第3ブロックB3及び第5ブロックB5を通る位置であってもよい。また、任意の中間位置mは、発熱領域H上のその他の一点であってもよいし、抵抗発熱体ごとのブロック単位で特定される一定の範囲であってもよい。さらに、任意の中間位置mは、中央cを基準に互いに対称に配置される位置に限らず、互いに非対称に配置される位置であってもよい。
【0107】
このように、潤滑剤消費係数(1/I
2×ρ)が、発熱領域Hにおける長手方向中央c側及び長手方向両端e側のそれぞれの任意の位置よりも、これらの間の任意の中間位置mで小さくすることにより、通紙サイズに応じて発熱態様が
図12に示す態様と
図13に示す態様とに変わる構成においても、潤滑剤の姿勢を長手方向に渡ってバランス良く維持することができるようになる。これにより、潤滑剤消費量のばらつきをより効果的に抑制できるようになる。
【0108】
また、潤滑剤に含まれる脂肪酸金属塩としてステアリン酸亜鉛を用いた場合、あるいは潤滑剤に含まれる無機潤滑剤として窒化ホウ素を用いた場合は、感光体に対する潤滑剤供給量を経時的に安定確保することができるようになるので、感光体の磨耗による劣化又はフィルミングなどの抑制に効果的である。さらに、潤滑剤消費量のばらつきをより効果的に抑制できるので、潤滑剤の長寿命化も図れるようになる。
【0109】
上述の実施形態では、潤滑剤の消費しやすさを決定するパラメータの1つとして、ヒータの温度(T)に代えて電流の二乗の合計値(I2)を用いているが、温度(T)を用いて潤滑剤の消費しやすさ(潤滑剤消費係数)を決定してもよい。すなわち、上記式(4)中の電流の二乗の合計値である「IX
2」及び「IY
2」に代えて、発熱領域Hの長手方向中央c側の任意の位置でのヒータ22の温度(TX)と、長手方向両端e側の任意の位置でのヒータ22の温度(TY)を用いた下記式(8)の関係を満たすように、潤滑剤の各部分の密度を設定してもよい。
【0110】
【0111】
また、同様に、上記式(5)、式(6)及び式(7)においても、電流の二乗の合計値(I2)に代えてヒータの温度(T)を用いてもよい。さらに、ヒータの温度(T)に代えて、ヒータの温度分布の影響を受けて温度分布のばらつきが発生するブラシローラ81、潤滑剤80、又は定着ベルト20などの対応する部分の温度を用いることも可能である。
【0112】
以上のように、本発明によれば、加熱部材の温度分布にばらつきがある画像形成装置においても、像担持体保護剤の供給量のばらつきを抑制することができ、像担持体に対する像担持体保護剤の供給ムラ又は供給不足による異常画像の発生を抑制できるようになる。また、このような加熱部材の温度分布のばらつきに起因する像担持体保護剤の供給ムラの課題を改善できることにより、温度分布のばらつきが発生しやすい小型のヒータ、あるいは高速化のために発熱量を増大させたヒータを用いた構成にも対応できるようになる。
【0113】
ところで、ヒータをその短手方向に小さくする方法として、次の3つの方法が挙げられる。
【0114】
1つ目の方法は、発熱部(抵抗発熱体)を短手方向に小さくする方法である。しかしながら、この方法では、発熱部が短手方向に小さくなる結果、定着ベルトが加熱される加熱領域の幅が小さくなる。このため、定着ベルトに与える熱量をこれまでと同じ程度に確保しようとした場合に、昇温ピーク値が高くなるといった問題が生じる。昇温ピーク値が高くなると、ヒータの裏面に設けられているサーモスタット又はヒューズなどの過昇温検知装置の温度が耐熱温度を超えたり、過昇温検知装置が誤作動したりする虞がある。また、昇温ピーク値が高くなると、ヒータから定着ベルトへの伝熱効率も低下するため、エネルギー効率の観点からも好ましくない。このように、発熱部を短手方向に小さくする方法は採用し難い事情がある。
【0115】
2つ目の方法としては、発熱部と、電極部と、給電線のいずれも設けられていない部分を短手方向に小さくする方法がある。しかしながら、この方法では、発熱部と給電線との間又は電極部と給電線との間の間隔が小さくなるため、絶縁性の確保ができなくなる虞がある。現状のヒータの構造から鑑みれば、発熱部と給電線との間又は電極部と給電線との間の間隔をさらに小さくすることは厳しい状況にある。
【0116】
残る3つ目の方法としては、給電線を短手方向に小さくする方法である。この方法は、上記2つの方法に比べて実現の余地がある。しかしながら、給電線を短手方向に小さくすると、給電線の抵抗値が大きくなるため、ヒータの導電経路上で意図しない分流が発生し、温度分布のばらつきが顕著になる虞がある。特に、画像形成装置の高速化に対応すべく発熱部の発熱量を増大させるために、発熱部の抵抗値を小さくすると、給電線の抵抗値と発熱部の抵抗値が相対的に近づくため、意図しない分流が発生しやすくなる。また、このような意図しない分流を回避する方法として、給電線を短手方向に小さくした分、反対に厚さ方向(長手方向及び短手方向に交差する方向)に大きくすることで、断面積を確保し、給電線の抵抗値が大きくなるのを抑制することも考えられる。しかしながら、その場合、給電線をスクリーン印刷することが困難になり、給電線の形成方法の変更を強いられることになるため、給電線を厚くする解決策は採用し難い。従って、ヒータの短手方向の小型化を実現するには、抵抗値が上昇するのを見越したうえで給電線を短手方向に小さくし、これに伴って発生し得る意図しない分流及び発熱分布のばらつきに対しては別途対策を講じる必要がある。そのため、本発明においては、上述のように、潤滑剤の各部分の密度を設定することにより、温度分布のばらつきに起因する潤滑剤の供給ムラを抑制し、小型化又は高速度化に対応できるようにしている。
【0117】
具体的に、本発明は、次のような小型のヒータを備える画像形成装置に適用された場合に特に大きな効果が期待できる。
【0118】
下記表2に、ヒータを短手方向に小型化した場合の発熱分布のばらつきを示す。表2に示す結果を得るための試験では、
図18に示す基材50の短手方向寸法Qに対する各抵抗発熱体59A~59Gの短手方向寸法Rの比(R/Q)を異ならせた場合の、各ヒータの発熱領域の長手方向中央と端の温度差を測定した。また、各ヒータの表面温度測定は、フリアシステムズ社製の赤外線サーモグラフィ(FLIR T620)を用いて行った。なお、短手方向寸法比(R/Q)が80%以上である場合は、基材50の短手方向寸法に対する各抵抗発熱体59A~59Gの短手方向寸法の割合が大きくなり過ぎ、給電線の設置スペースを確保することが現実的に困難であるため、測定を保留している。
【0119】
【0120】
表2に示すように、短手方向寸法比(R/Q)が大きくなるほど、発熱領域の長手方向中央と端の温度差が大きくなる。このため、短手方向寸法比(R/Q)が大きいヒータ、すなわち短手方向に小型化されたヒータにおいては、長手方向両端における温度のばらつきも顕著となる虞がある。特に、短手方向寸法比(R/Q)が25%以上又は40%以上となるヒータにおいては、発熱領域における長手方向中央と端の温度差が大きくなる(5℃以上になる)ため、長手方向両端における温度のばらつきも顕著となる虞がある。従って、本発明は、特にこのような短手方向寸法比(R/Q)が25%以上80%未満又は40%以上80%未満となるヒータを備える画像形成装置に適用された場合に、大きな効果を期待できる。
【0121】
また、定着装置が備えるヒータは、
図18に示すようなブロック状(四角形状)の抵抗発熱体59を有するヒータ22に限らず、
図19に示すような、直線を折り返したような形状の抵抗発熱体59を有するヒータ22であってもよい。なお、
図19に示すヒータ22の場合、上記抵抗発熱体59の短手方向寸法Rは、折り返されるように形成された抵抗発熱体59の1つの線状の部分の太さではなく、抵抗発熱体59全体の短手方向寸法を意味する。また、
図18又は
図19に示す例では、ヒータ22の基材50が長方形に形成されているため、基材50の短手方向寸法Qは、長手方向Zにおけるどの位置でも同じ寸法であるが、基材50は、長手方向Zの位置によって短手方向寸法Qが変化する形状であってもよい。ただし、その場合は、各抵抗発熱体59A~59Gが配置されている長手方向範囲内(発熱領域内)の基材50の最小の短手方向寸法を、上記基材50の短手方向寸法Qとする。
【0122】
さらに、定着装置が備えるヒータは、
図20に示すような1つの抵抗発熱体59が基材50の長手方向Zに伸びるように配置されたものであってもよい。この例では、基材50の長手方向Zに伸びる抵抗発熱体59の一辺(
図20における上側の辺)が第1給電線62Aを介して第1電極部61Aに接続され、基材50の長手方向Zに伸びる抵抗発熱体59の他の辺(
図20における下側の辺)が第2給電線62Bを介して第2電極部61Bに接続されている。また、各電極部61A,61Bは、いずれも基材50の長手方向Zの中央よりも一端側(同じ端側)に配置され、各給電線62A,62Bは基材50の長手方向Zに渡って折り返されることなく(屈曲することなく)配置されている。
【0123】
このようなヒータ22において、各電極部61A,61B間に電位差を生じさせ抵抗発熱体59を発熱させた場合、温度分布のばらつきが発生する。例えば、
図20に示す発熱領域Hの長手方向中央cとそれよりも両端e側の任意の対称位置α1,α2の各位置で、各給電線62A,62Bで流れる電流を、90%、50%、10%とすると、各給電線62A,62Bにおいて生じる発熱量は、
図20中の表に示すような値となる。なお、この場合も、発熱量は、便宜的に各給電線に流れる電流の二乗(I
2)として算出している。
【0124】
図20中の表に示すように、各給電線62A,62Bの合計発熱量は、長手方向の一端側(図の右端側)よりも他端側(図の左端側)で高くなるので、上記のようなヒータの温度分布のばらつきに起因する像担持体保護剤の供給ムラの課題が発生し得る。そのため、このようなヒータを備える定着装置においても上述の各実施形態に係る構成を適用することにより、潤滑剤の供給ムラを抑制できるようになる。
【0125】
また、ヒータにおける温度のばらつきを抑制するために、PTC特性を有する抵抗発熱体を用いてもよい。PTC特性とは、温度が高くなると抵抗値が高くなる(一定電圧をかけた場合に、ヒータ出力が下がる)特性である。PTC特性を有する発熱部とすることで、低温では高出力によって高速で立ち上がり、高温では低出力により過昇温を抑制することができる。例えば、PTC特性のTCR係数を300~4000ppm/度程度にすれば、ヒータに必要な抵抗値を確保しながら、低コスト化を図れる。より好ましくは、TCR係数を500~2000ppm/度とするのがよい。
【0126】
抵抗温度係数(TCR)は、下記式(9)を用いて算出することができる。式(7)中のT0は基準温度、T1は任意温度、R0は基準温度T0における抵抗値、R1は任意温度T1における抵抗値である。例えば、
図11に示す上述のヒータ22において、第1電極部61Aと第2電極部61Bとの間の抵抗値が、25℃(基準温度T0)で10Ω(抵抗値R0)であり、125℃(任意温度T1)で12Ω(抵抗値R1)であった場合は、式(9)から抵抗温度係数は2000ppm/℃となる。
【0127】
【0128】
また、画像形成装置が備える定着装置は、上述の定着装置に限らず、
図21~
図23に示すような定着装置であってもよい。以下、
図21~
図23に示す各定着装置の構成について簡単に説明する。
【0129】
図21に示す定着装置9は、定着ベルト20の加圧ローラ21側とは反対側に、押圧ローラ90が配置されている点において、上述の定着装置とは異なっている。この場合、押圧ローラ90とヒータ22とによって定着ベルト20を挟んで加熱するように構成されている。一方、加圧ローラ21側では、定着ベルト20の内周にニップ形成部材91が配置されている。ニップ形成部材91は、ステー24によって支持されており、ニップ形成部材91と加圧ローラ21とによって定着ベルト20を挟んでニップ部Nを形成している。
【0130】
次に、
図22に示す定着装置9では、上述の押圧ローラ90が省略されており、定着ベルト20とヒータ22との周方向接触長さを確保するために、ヒータ22が定着ベルト20の曲率に合わせて円弧状に形成されている。その他は、
図21に示す定着装置9と同じ構成である。
【0131】
続いて、
図23に示す定着装置9では、定着ベルト20のほかに加圧ベルト92が設けられ、加熱ニップ(第1ニップ部)N1と定着ニップ(第2ニップ部)N2とが分けて構成されている。すなわち、加圧ローラ21に対して定着ベルト20側とは反対側にも、ニップ形成部材91とステー93が配置され、ニップ形成部材91とステー93を内包するように加圧ベルト92が配置されている。その他は、
図3に示す定着装置9と同じ構成である。
【0132】
このような、
図21~
図23に示すような定着装置を備える画像形成装置においても、本発明を適用することにより、像担持体保護剤の供給ムラを抑制できるようになり、画質の向上を図って小型化又は高速度化に対応できるようになる。
【符号の説明】
【0133】
7 保護剤供給装置
9 定着装置(加熱装置)
22 ヒータ(加熱部材)
59 抵抗発熱体(発熱体)
60 発熱部
61 電極部
62 給電線(導電部)
62 給電線(導電部)
80 潤滑剤(像担持体保護剤)
81 ブラシローラ(保護剤供給手段)
100 画像形成装置
200 画像形成部
c 発熱領域の長手方向中央
e 発熱領域の長手方向両端
H 発熱領域
K1 第1導電経路
K2 第2導電経路
K3 第3導電経路(分岐経路)
m 発熱領域の中央と両端の間の中間位置
P 用紙(記録媒体)
S1 第1方向
S2 第2方向
Y ヒータ(基材)の短手方向
Z ヒータ(基材)の長手方向
【先行技術文献】
【特許文献】
【0134】