(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】香り測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/12 20060101AFI20240711BHJP
【FI】
G01N27/12 B
(21)【出願番号】P 2020192259
(22)【出願日】2020-11-19
【審査請求日】2023-09-04
(31)【優先権主張番号】P 2019214322
(32)【優先日】2019-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100196221
【氏名又は名称】上潟口 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 宏樹
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/031585(WO,A1)
【文献】特開2021-117134(JP,A)
【文献】実開昭63-070067(JP,U)
【文献】特開2008-096226(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/12
G01N 1/00
G01N 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面に対象物が載置される天板を有し、該天板の下方に内部空間が形成されている筐体と、
前記内部空間において固定され感応部を有するセンサであって、対象物が放散した揮発性物質が前記感応部に到達することによって該対象物の香りの強度を測定する前記センサと、を備え、
前記天板は、上面と下面との間で貫通し前記揮発性物質を前記内部空間に取り入れる取入口が形成され、
誘導領域を形成する誘導壁が前記内部空間に設けられ、
前記誘導領域は、前記取入口によって取り入れられた前記揮発性物質が前記内部空間の他の領域に拡散することを抑制するとともに、前記揮発性物質を前記センサの前記感応部に誘導するように形成され
、
前記センサの前記感応部は、平面視で前記取入口と重合しない位置に配置されていることを特徴とする、香り測定装置。
【請求項2】
前記誘導壁は、平面視で前記取入口を囲むように形成されている、請求項1記載の香り測定装置。
【請求項3】
前記誘導壁は、鉛直方向に延びるように形成され、
前記誘導壁の下端は、前記センサの前記感応部よりも下方に位置している、請求項1又は2に記載の香り測定装置。
【請求項4】
前記誘導壁は、前記誘導領域と連通する孔が形成されており、
前記センサは、前記感応部が前記誘導領域を向くように、前記孔の内部に配置されている、請求項3に記載の香り測定装置。
【請求項5】
前記誘導壁の下端は、前記筐体を構成する部材又は前記内部空間に配置された部材と当接している、請求項3又は4に記載の香り測定装置。
【請求項6】
前記センサは、前記感応部が水平方向又は水平方向よりも下方を向くように配置されている、請求項1乃至
5のいずれか一項に記載の香り測定装置。
【請求項7】
前記取入口の内側面は、前記天板の上面から下面にかけて漸次縮小している、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の香り測定装置。
【請求項8】
前記対象物を支持するための支持部材を備え、
前記支持部材は、前記天板の上面に着脱自在に設けられる、請求項1乃至
7のいずれか一項に記載の香り測定装置。
【請求項9】
前記支持部材は、弾性材料によって形成されている、請求項
8に記載の香り測定装置。
【請求項10】
前記筐体は、前記天板と対向する底板を有し、
前記底板は、前記内部空間と外部とを連通する換気口が形成されている、請求項1乃至
9のいずれか一項に記載の香り測定装置。
【請求項11】
前記底板に対して着脱自在で前記換気口を覆う遮蔽部材を備えている、請求項
10に記載の香り測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香り測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、対象物の香りの強度を測定する装置を開示している。このような装置では、対象物が放散する揮発性物質である芳香物質がセンサの感応部に到達することにより、電気抵抗値や、電圧値、電流値に変化が生じ、この結果、センサが出力する信号にも変化が生じる。一般的に、センサが出力する信号は、センサにおける芳香物質の濃度に基づいて変化する。
【0003】
ところで、測定装置や対象物が配置された場所に、空調装置等による空気の流れがある場合、センサにおける芳香物質の濃度が不安定になる。また、当該濃度は、センサの感応部と対象物との間の距離が近いほど高くなる。したがって、香りの強度を安定的に測定するとともに、複数の対象物間で比較可能な測定結果を得るためには、測定を阻害する空気の流れの影響を抑制するとともに、センサの感応部と対象物との間の距離を一定とする必要がある。
【0004】
一方、特許文献2は、蓋によって密閉された容器の内部に試料台とセンサとが配置され、対象物が試料台に載置される測定装置を開示している。当該装置では、容器の内部の空気をファンが攪拌することにより、容器の内部の芳香物質の濃度を均一化するとともに、センサによって香りの強度を測定している。このような構成によれば、空調装置等による空気の流れの影響を抑制し、センサの感応部と対象物との間の距離を一定とすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-233326号公報
【文献】特開平6-331587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2記載の測定装置によれば、測定の際に蓋を開閉し、容器の内部に対象物を配置したり取り出したりする手間が生じる。多数の対象物の香りの強度の測定を連続的に行う際は、このような手間が測定作業を煩雑にするおそれがある。
【0007】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、測定を阻害する空気の流れの影響を抑制し、複数の対象物間で比較可能な測定結果を得つつ、測定作業を迅速に行うことが可能な香り測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成するために、本発明は、上面に対象物が載置される天板を有し、天板の下方に内部空間が形成されている筐体と、内部空間において固定され感応部を有するセンサであって、対象物が放散した揮発性物質が感応部に到達することによって対象物の香りの強度を測定するセンサと、を備え、天板は、上面と下面との間で貫通し揮発性物質を内部空間に取り入れる取入口が形成され、誘導領域を形成する誘導壁が内部空間に設けられ、誘導領域は、取入口によって取り入れられた揮発性物質が内部空間の他の領域に拡散することを抑制するとともに、揮発性物質をセンサの感応部に誘導するように形成され、センサの感応部は、平面視で取入口と重合しない位置に配置されていることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、天板の上面に載置された対象物が放散した揮発性物質は、取入口によって筐体の内部空間に取り入れられ、センサが当該揮発性物質に基づいて香りの強度を測定する。内部空間において固定されたセンサの感応部と対象物との間の距離は、対象物の種類によらず略一定であるため、複数の対象物間で比較可能な測定結果を容易に得ることができる。
【0010】
また、内部空間のセンサは、空調装置等による空気の流れから隔離される。これにより、測定を阻害する空気の流れの影響を抑制することが可能になる。
【0011】
さらに、取入口によって取り入れられた揮発性物質が内部空間の他の領域に拡散することを抑制するとともに、揮発性物質をセンサの感応部に誘導する誘導領域が形成されている。これにより、揮発性物質を迅速に感応部に到達させ、対象物の香りの強度を迅速に測定することが可能になる。すなわち、上記構成によれば、測定を阻害する空気の流れの影響を抑制し、複数の対象物間で比較可能な測定結果を得つつ、測定作業を迅速に行うことが可能になる。また、対象物から落下した水滴や、空気中の埃が、取入口を介して誘導領域に侵入した場合でも、感応部の汚損を防止することが可能になる。
【0012】
本発明において、好ましくは、誘導壁は、平面視で取入口を囲むように形成されている。
【0013】
この構成によれば、取入口によって取り入れられた揮発性物質が内部空間の他の領域に拡散することを、誘導壁によって確実に抑制することが可能になる。この結果、センサは、取入口によって筐体の内部空間に取り入れられた揮発性物質に基づいて、対象物の香りの強度を迅速に測定することが可能になる。
【0014】
本発明において、好ましくは、誘導壁は、鉛直方向に延びるように形成され、誘導壁の下端は、センサの感応部よりも下方に位置している。
【0015】
この構成によれば、取入口によって取り入れられた揮発性物質を、その拡散を抑制しつつ、確実にセンサの感応部に到達させることが可能になる。この結果、センサは、取入口によって筐体の内部空間に取り入れられた揮発性物質に基づいて、対象物の香りの強度を迅速に測定することが可能になる。
【0016】
本発明において、好ましくは、誘導壁は、誘導領域と連通する孔が形成されており、センサは、感応部が誘導領域を向くように、孔に配置されている。
【0017】
この構成によれば、誘導壁の下端をセンサの感応部よりも下方に位置させつつ、誘導領域に存在する揮発性物質を確実にセンサの感応部に到達させることができる。
【0018】
本発明において、好ましくは、誘導壁の下端は、筐体を構成する部材又は内部空間に配置された部材と当接している。
【0019】
この構成によれば、誘導壁によって天板を支持することができる。すなわち、誘導領域を形成する誘導壁を、筐体の剛性の向上に用いることが可能になる。
【0022】
本発明において、好ましくは、センサは、感応部が水平方向又は水平方向よりも下方を向くように配置されている。
【0023】
この構成によれば、感応部への水滴の付着を抑制したり、感応部からの埃の落下を促したりすることができる。この結果、感応部の汚損を防止することが可能になる。
【0024】
本発明において、好ましくは、取入口の内側面は、天板の上面から下面にかけて漸次縮小している。
【0025】
この構成によれば、取入口の内側面によって対象物を下方から支持し、対象物とセンサとを近接配置することが可能になる。この結果、当該対象物が放散した揮発性物質を、迅速にセンサに到達させることが可能になる。
【0026】
本発明において、好ましくは、対象物を支持するための支持部材を備え、支持部材は、天板の上面に着脱自在に設けられる。
【0027】
この構成によれば、形状やサイズ、材質等が異なる複数の支持部材を用意し、対象物に応じて選択した1つの支持部材を天板の上面に設けることが可能になる。この結果、対象物の姿勢を維持したり、対象物が放散した揮発性物質を取入口に効率良く取り入れさせたりすることが可能になる。
【0028】
本発明において、好ましくは、支持部材は、弾性材料によって形成されている。
【0029】
この構成によれば、支持部材が対象物の形状に沿って弾性変形し、支持部材と対象物との密着性を高めることができる。この結果、支持部材と対象物との間の隙間から取入口に外気が流入することを抑制するとともに、対象物を安定的に支持することが可能になる。
【0030】
本発明において、好ましくは、筐体は、天板と対向する底板を有し、底板は、内部空間と外部とを連通する換気口が形成されている。
【0031】
この構成によれば、ある対象物の香りの強度を測定した後、取入口と換気口の一方から内部空間に流入し他方から流出する気体によって、内部空間の換気を効率良く行うことができる。この結果、その後の他の対象物の香りの強度の測定を迅速に開始することが可能になる。
【0032】
本発明において、好ましくは、香り測定装置は、底板に対して着脱自在で換気口を覆う遮蔽部材を備えている。
【0033】
この構成によれば、対象物の香りの測定中に、換気口を介した内部空間からの空気の流出、及び、外部から内部空間への空気の流入を、防止することが可能になる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、測定を阻害する空気の流れの影響を抑制し、複数の対象物間で比較可能な測定結果を得つつ、測定作業を迅速に行うことが可能な香り測定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】第1実施形態に係る香り測定装置を示す斜視図である。
【
図2】
図2(A)は、
図1の香り測定装置を示す平面図であり、
図2(B)は、
図2(A)のIIB-IIB断面を示す断面図である。
【
図5】
図5(A)は、第2実施形態に係る香り測定装置を示す平面図であり、
図5(B)は、
図5(A)のVB-VB断面を示す断面図である。
【
図7】
図7(A)は、変形例に係る香り測定装置を示す平面図であり、
図7(B)は、
図7(A)のVIIB-VIIB断面を示す断面図である。
【
図8】
図8(A)は、変形例に係る香り測定装置を示す平面図であり、
図8(B)は、
図8(A)のVIIIB-VIIIB断面を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、添付図面を参照しながら実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0037】
[第1実施形態]
まず、
図1から
図3を参照しながら、第1実施形態に係る香り測定装置1(以下「装置1」という。)について説明する。
図1は、装置1を示す斜視図である。
図2(A)は、装置1を示す平面図であり、
図2(B)は、
図2(A)のIIB-IIB断面を示す断面図である。
図2(A)は、後述するセンサ51、誘導壁31及び保護壁32を透視して示している。
図3は、
図2のIII部を示す拡大図である。
【0038】
装置1は、対象物Tの香りの強度の測定に用いられる。対象物Tは、常温(例えば15℃~25℃程度)下で、揮発性物質である芳香物質を空気中に放散することにより、芳香を放つ物体である。対象物Tとして、例えば、果実や茸等の食品を用いることができる。
【0039】
<構成>
装置1は、筐体2を備えている。
図2(B)に示されるように、筐体2は、天板21と、側板22と、底板23と、を有する箱体である。天板21の下方には、内部空間20が形成されている。天板21、側板22、及び底板23は、いずれも所定の剛性を有しており、内部空間20に配置される部材を衝撃等から保護する。
【0040】
天板21は、筐体2の上面を構成する略板形状の部材である。
図2(A)及び
図2(B)に示されるように、平面視で天板21の中央部には取入口24が形成されている。取入口24は、天板21の上面21aと下面21bとの間で貫通する孔であり、その断面は略円形を呈している。また、取入口24の内側面24aは、上面21aから下面21bにかけて漸次縮小している。換言すると、取入口24の断面の直径は、上面21aから下面21bにかけて漸次減少している。内部空間20は、この取入口24を介して、筐体2の外部と連通している。下端における取入口24の断面積は、25cm
2以下であることが好ましい。
【0041】
側板22は、
図2(B)に示されるように、鉛直方向に延びるように形成されており、その下端は底板23と接合されている。側板22の上端には、天板21が着脱自在に設けられる。側板22の外側面には、
図1に示されるように、表示パネル41及び操作パネル42が設けられている。表示パネル41は、対象物Tの香りに関する情報を表示するように構成されている。表示パネル41は、対象物Tの香りに関する情報の1つとして、当該香りの強度を数値として表示する。操作パネル42は、複数のスイッチを有しており、ユーザの操作を受け付ける。
【0042】
底板23は、
図2(B)に示されるように、間隔を空けて天板21と対向し、天板21と略平行となるように配置されている。底板23は、複数の換気口25が形成されている。換気口25は、底板23の上面23aと下面23bとの間で貫通する孔であり、その断面は略円形を呈している。
【0043】
内部空間20には、誘導壁31、保護壁32、センサ51及び基板52が配置されている。
【0044】
誘導壁31は、
図2に示されるように、略円筒形状を呈する本体部311及び固定部312を有しており、その上端31aが天板21に固定され、下端31bが底板23に当接するように配置されている。本体部311は鉛直方向に延び、
図2(A)に示されるように、平面視で取入口24と同芯で、取入口24の下端を囲むように形成されている。
図2(B)に示されるように、本体部311のうち下端31bよりも上方の部位には、本体部311の内周面と外周面との間で貫通する孔311aが形成されている。固定部312は、その一端が孔311a内に嵌入され、水平方向に延びるように配置されている。誘導壁31が配置されることにより、内部空間20は、誘導壁31の内側の誘導領域20aと、外側の領域20bとに区分される。誘導壁31は、天板21と一体的に成形されていてもよい。
【0045】
保護壁32は、
図2(A)及び
図2(B)に示されるように、矩形の筒形状を呈しており、天板21の下面21bから鉛直方向に延びるように形成されている。また、
図2(A)に示されるように、保護壁32は、誘導壁31を囲むように形成されている。保護壁32は、天板21と一体的に成形されていてもよい。
【0046】
センサ51は、対象物Tが放散した揮発性物質が感応部51aに到達することにより、対象物Tの香りの強度を測定するように構成されている。具体的には、センサ51は半導体式の臭気センサであり、感応部51aが揮発性物質を吸着することにより、電気抵抗値に変化が生じるように構成されている。
図2(A)に示されるように、センサ51は誘導壁31の固定部312の内周部に配置され、感応部51aは誘導領域20aに向けられている。感応部51aは、平面視で取入口24と重合しない位置に配置されている。
【0047】
基板52は、その表面に不図示の電子部品が実装されたプリント回路板である。基板52は、センサ51や表示パネル41との間で信号を送受信することにより、センサ51への電力供給や、表示パネル41の表示内容を制御するように構成されている。基板52は、底板23の上面23aのうち、換気口25が形成されていない部分に配置されている。
【0048】
装置1は、さらに、遮蔽部材6を備えている。遮蔽部材6は、凹部が形成されており、当該凹部に筐体2の下部が嵌入できるように構成されている。遮蔽部材6は、底板23に対して着脱自在であり、底板23に装着された状態では、換気口25を覆うように構成されている。
【0049】
<香りの強度の測定>
対象物Tの香りの強度を測定する際、ユーザは、まず、天板21の上面21aに対象物Tを載置する。具体的には、ユーザは、
図3に示されるように、取入口24の内側面24aによって下方から支持されるように、対象物Tを配置する。
【0050】
ユーザは、次に、
図1に示される操作パネル42のスイッチを操作し、装置1に測定開始を指示する。当該操作を受け付けた操作パネル42は、
図2(B)に示される基板52に測定開始信号を送信する。
【0051】
操作パネル42から測定開始信号を受信した基板52は、センサ51への電力供給を開始する。さらに、基板52は、センサ51における電気抵抗値のモニタを開始する。
【0052】
対象物Tから放散された揮発性物質は、取入口24を介して誘導領域20aに取り入れられる。上述したように、誘導領域20aは誘導壁31によって領域20bと区分されているため、誘導領域20aから領域20bへの揮発性物質の拡散が抑制される。このため、揮発性物質は、
図3に矢印A1に示されるように、誘導壁31によって誘導され、センサ51の感応部51aに到達する。感応部51aに揮発性物質が到達すると、半導体の電気伝導度が高まり、電気抵抗値が低下する。電気抵抗値は、モニタ開始から時間経過に伴って低下していく。
【0053】
また、上述したように、センサ51の感応部51aは、平面視で取入口24と重合しない位置に配置されている。したがって、
図3に矢印A2で示されるように、対象物Tに付着していた水滴WDが落下して誘導領域20aに侵入した場合でも、この水滴WDが感応部51aに到達することはない。
【0054】
基板52は、所定時間における電気抵抗値の変化量が閾値以下になると、その際の電気抵抗値に基づき、香りの強度を数値化する演算を実行する。当該演算に用いられるアルゴリズムは、公知のものを採用することができる。例えば、当該アルゴリズムとして、人の嗅覚特性や、装置1が使用される環境の因子が考慮されたものを採用することができる。
【0055】
基板52は、上記演算によって数値化された香りの強度に基づく制御信号を生成し、表示パネル41に送信する。当該制御信号を受信した表示パネル41は、香りの強度を数値で表示する。ユーザは、表示パネル41を目視することにより、対象物Tの香りの強度を確認することができる。
【0056】
ある対象物Tの香りの強度の測定が完了し、次に他の対象物の香りの強度を測定する場合、ユーザは、まず、天板21の上面21aから当該対象物Tを取り除くとともに、底板23から遮蔽部材6を取り外す。これにより、内部空間20は、取入口24及び換気口25のそれぞれを介して、筐体2の外部と連通する。
【0057】
次に、ユーザは、パージ用ガス(例えば、空気)を、取入口24から内部空間20に供給する。これにより、内部空間20に残留していた対象物Tの揮発性物質が換気口25から流出し、内部空間20の換気が行われる。内部空間20の換気後、再び遮蔽部材6を底板23に装着することにより、他の対象物の香りの強度を測定することが可能になる。
【0058】
<評価試験>
本発明者は、装置1の有意性を確認すべく、評価試験を実施した。当該評価試験では、装置1と、比較例に係る香り測定装置(不図示。以下「比較例」という。)と、を評価した。比較例の構成は、装置1の構成から誘導壁31を除いたものである。ここでは、比較例の構成のうち装置1と機能的に同一の構成については、同一の符号を用いて説明する。
【0059】
評価試験では、装置1及び比較例のそれぞれの取入口24の内側面24aで、約33グラムのカマンベールチーズを支持し、その香りの強度を測定した。比較例においては、装置1のセンサ51の位置に対応する位置に、センサ51と同一のセンサを配置し、当該センサを用いて香りの強度を測定した。装置1及び比較例のいずれも、同一のカマンベールを用いて3回の測定を行った。
【0060】
図4は、評価試験の結果を示すグラフであり、時間とともに変化するセンサの出力値をプロットしている。実線I1-I3は、装置1のセンサ51の出力値を示し、破線C1-C3は、比較例のセンサの出力値を示している。装置1においては、測定開始からセンサ51の出力値が急速に上昇し、平均して約18.7秒で、収束値である7付近に達した。
【0061】
一方、比較例においては、測定開始からのセンサの出力値の上昇は比較的緩慢となり、出力値が7付近に達するまでに平均して約84.7秒を要した。
【0062】
このように、センサの出力値が7付近に達するまでの時間に関して、装置1と比較例とを比較し、有意水準1%で有意差検定(t-検定)を実施したところ、両者の差は統計的に有意なものであることが示された(p=0.0068)。この結果より、比較例では、内部空間20において揮発性物質が拡散したのに対し、装置1では、誘導壁31によってその拡散が抑制されたことが解る。
【0063】
<作用効果>
次に、第1実施形態に基づく作用効果について説明する。
【0064】
上記構成によれば、天板21の上面21aに載置された対象物Tが放散した揮発性物質は、取入口24によって筐体2の内部空間20に取り入れられ、センサ51が当該揮発性物質に基づいて香りの強度を測定する。内部空間20において固定されたセンサ51の感応部51aと対象物Tとの間の距離は、対象物Tの種類によらず略一定であるため、複数の対象物間で比較可能な測定結果を容易に得ることができる。
【0065】
また、内部空間20のセンサ51は、空調装置等による空気の流れから隔離される。これにより、測定を阻害する空気の流れの影響を抑制することが可能になる。
【0066】
さらに、取入口24によって取り入れられた揮発性物質が内部空間20の領域20bに拡散することを抑制するとともに、揮発性物質をセンサ51の感応部51aに誘導する誘導領域20aが形成されている。これにより、揮発性物質を迅速に感応部51aに到達させ、対象物Tの香りの強度を迅速に測定することが可能になる。すなわち、上記構成によれば、測定を阻害する空気の流れの影響を抑制し、複数の対象物間で比較可能な測定結果を得つつ、測定作業を迅速に行うことが可能になる。
【0067】
また、誘導壁31は、平面視で取入口24を囲むように形成されている。この構成によれば、取入口24によって取り入れられた揮発性物質が内部空間20の領域20bに拡散することを、誘導壁31によって確実に抑制することが可能になる。この結果、センサ51は、取入口24によって筐体2の内部空間20に取り入れられた揮発性物質に基づいて、対象物Tの香りの強度を迅速に測定することが可能になる。
【0068】
また、誘導壁31は、鉛直方向に延びるように形成されている。誘導壁31の下端31bは、センサ51の感応部51aよりも下方に位置している。この構成によれば、取入口24によって取り入れられた揮発性物質を、その拡散を抑制しつつ、確実にセンサ51の感応部51aに到達させることが可能になる。この結果、センサ51は、取入口24によって筐体2の内部空間20に取り入れられた揮発性物質に基づいて、対象物Tの香りの強度を迅速に測定することが可能になる。
【0069】
また、誘導壁31は、誘導領域20aと連通する孔311aが形成されている。センサ51は、感応部51aが誘導領域20aを向くように、孔311aの内部に配置されている。この構成によれば、誘導壁31の下端31bをセンサ51の感応部51aよりも下方に位置させつつ、誘導領域20aに存在する揮発性物質を確実にセンサ51の感応部51aに到達させることができる。
【0070】
また、誘導壁31の下端31bは、筐体2を構成する部材である底板23と当接している。尚、下端31bは、内部空間20に配置された部材と当接していてもよい。この構成によれば、誘導壁31によって天板21を支持することができる。すなわち、誘導領域20aを形成する誘導壁31を、筐体2の剛性の向上に用いることが可能になる。
【0071】
また、センサ51の感応部51aは、平面視で取入口24と重合しない位置に配置されている。この構成によれば、対象物Tから落下した水滴や、空気中の埃が、取入口24を介して誘導領域20aに侵入した場合でも、感応部51aの汚損を防止することが可能になる。
【0072】
また、センサ51は、感応部51aが水平方向を向くように配置されている。尚、センサ51は、感応部51aが水平方向よりも下方を向くように配置されていてもよい。この構成によれば、感応部51aへの水滴の付着を抑制したり、感応部51aからの埃の落下を促したりすることができる。この結果、感応部51aの汚損を防止することが可能になる。
【0073】
また、取入口24の内側面24aは、天板21の上面21aから下面21bにかけて漸次縮小している。この構成によれば、取入口24の内側面24aによって対象物Tを下方から支持し、対象物Tとセンサ51とを近接配置することが可能になる。この結果、当該対象物Tが放散した揮発性物質を、迅速にセンサ51に到達させることが可能になる。
【0074】
また、筐体2は、天板21と対向する底板23を有している。底板23は、内部空間20と外部とを連通する換気口25が形成されている。この構成によれば、ある対象物の香りの強度を測定した後、取入口24と換気口25の一方から内部空間20に流入し他方から流出する気体によって、内部空間20の換気を効率良く行うことができる。この結果、その後の他の対象物の香りの強度の測定を迅速に開始することが可能になる。
【0075】
また、装置1は、底板23に対して着脱自在で換気口25を覆う遮蔽部材6を備えている。この構成によれば、対象物Tの香りの測定中に、換気口25を介した内部空間20からの空気の流出、及び、外部から内部空間20への空気の流入を、防止することが可能になる。
【0076】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態に係る香り測定装置1A(以下「装置1A」という。)について、
図5及び
図6を参照しながら説明する。
図5(A)は、装置1Aを示す平面図であり、
図5(B)は、
図5(A)のVB-VB断面を示す断面図である。
図6は、
図5のVI部を示す拡大図である。
【0077】
<構成>
装置1Aは、センサ51の配置や、誘導壁31Aの形状等の点で、装置1と異なる。装置1Aの構成のうち、装置1と機能的に同一の構成については同一の符号を付して、説明を適宜省略する。
【0078】
図5(A)に示されるように、センサ51は、平面視で取入口24と重合する位置に配置されている。センサ51の感応部51aは、上方に向けられている。
【0079】
誘導壁31Aは、
図5に示されるように、鉛直方向に延びる略円筒形状を呈している。誘導壁31Aは、その上端31Aaが天板21に固定されている。一方、誘導壁31Aの下端31Abは、
図5(B)及び
図6に示されるように、底板23や基板52から離間しつつ、センサ51の感応部51aよりも下方、且つ、保護壁32の下端32aよりも上方に位置している。誘導壁31Aが配置されることにより、内部空間20は、誘導壁31Aの内側の誘導領域20cと、外側の領域20dとに区分される。
【0080】
<香りの強度の測定>
対象物Tから放散された揮発性物質は、取入口24を介して誘導領域20cに取り入れられる。上述したように、誘導領域20cは誘導壁31Aによって領域20dと区分されているため、誘導領域20cから領域20dへの揮発性物質の拡散が抑制される。
【0081】
センサ51では通電によってジュール熱が発生し、センサ51の上端である感応部51a近傍の空気が加熱される。これにより、対象物T近傍の空気と、感応部51a近傍の空気とに温度差が生じ、
図6に矢印A3で示されるように空気の対流が生じる。この結果、
対象物Tが放散する揮発性物質が攪拌される。上記対流によって攪拌された揮発性物質は、誘導壁31Aによって誘導されながら、センサ51の感応部51aに向かう。
【0082】
上述したように、誘導壁31Aは、平面視で取入口24の下端を囲んでおり(
図5(A)参照)、誘導壁31Aの下端31Abは、センサ51の感応部51aよりも下方に位置している(
図5(B)及び
図6参照)。このため、取入口24によって取り入れられた揮発性物質を、確実にセンサ51の感応部51aに到達させることが可能になる。
【0083】
また、天板21を側板22から取り外すことにより、内部空間20を開放してセンサ51や基板52を露出させ、それらのメンテナンス等を行うことができる。この際に取り外された天板21は、例えば、保護壁32の下端32aにおいて不図示の作業台の上面と接するように載置することができる。上述したように、誘導壁31Aの下端31Abは、保護壁32の下端32aよりも上方に位置している。したがって、このように天板21を載置した場合でも、誘導壁31Aの下端31Abは作業台の上面と接することはない。これにより、誘導壁31Aが汚損して香りの強度の測定に悪影響を及ぼすことを防止できる。
【0084】
[変形例]
次に、第2実施形態の変形例に係る香り測定装置1B(以下「装置1B」という。)及び香り測定装置1C(以下「装置1C」という。)について、
図7及び
図8を参照しながら説明する。
図7(A)は、装置1Bを示す平面図であり、
図7(B)は、
図7(A)のVIIB-VIIB断面を示す断面図である。
図8(A)は、装置1Cを示す平面図であり、
図8(B)は、
図8(A)のVIIIB-VIIIB断面を示す断面図である。
【0085】
<構成>
装置1B,1Cは、第2実施形態に係る装置1Aと同様に、対象物T,TCの香りの強度の測定に用いられる。装置1B,1Cは、取入口24B,24Cの形状や、支持部材71,72を備えている点で、装置1Aと異なる。装置1B,1Cの構成のうち、装置1Aと機能的に同一の構成については同一の符号を付して、説明を適宜省略する。
【0086】
図7(A)及び
図8(A)に示されるように、取入口24B,24Cは、天板21の上面21aと下面21bとの間で貫通する孔であり、その断面は略円形を呈している。取入口24B,24Cの断面形状は、上面21aと下面21bとの間で略一様である。
【0087】
図7(A)及び
図7(B)に示されるように、支持部材71は、その内側に連通路71aが形成されている。支持部材71はシリコンによって形成され、その内側面71bは、上端から下端にかけて漸次縮小している。換言すると、連通路71aの断面の直径は、上端から下端にかけて漸次減少している。
【0088】
図8(A)及び
図8(B)に示されるように、支持部材72は、その内側に連通路72aが形成されている。支持部材72はシリコンによって形成され、その内側面72bは、上端から下端にかけて略直線状に延びている。一方、支持部材72の外側面72cは、上端から下端にかけて漸次拡大する湾曲面である。
【0089】
支持部材71は、その連通路71aが取入口24Bの上方に位置して取入口24Bと連通するように、天板21の上面21aに着脱自在に設けられる。
図7(B)に示されるように、対象物Tは、支持部材71の内側面71bによって下方から支持される。対象物Tが放散した揮発性物質は、支持部材71の連通路71aを介して取入口24Bによって筐体2の内部空間20に取り入れられる。
【0090】
支持部材72も、その連通路72aが取入口24Cの上方に位置して取入口24Cと連通するように、天板21の上面21aに着脱自在に設けられる。支持部材72は、
図8(B)に示されるように底部に凹部を有する対象物TC(例えば、林檎や梨など)の香りの強度の測定に適している。支持部材72は、その上端が対象物TCの凹部内に配置され、外側面72cによって対象物TCを下方から支持する。対象物TCが放散した揮発性物質は、支持部材72の連通路72aを介して、取入口24Cによって筐体2の内部空間20に取り入れられる。
【0091】
<作用効果>
次に、変形例に基づく作用効果について説明する。
【0092】
この構成によれば、形状やサイズ、材質等が異なる複数の支持部材を用意し、対象物に応じて選択した1つの支持部材を天板21の上面21aに設けることが可能になる。この結果、対象物の姿勢を維持したり、対象物が放散した揮発性物質を取入口24B,24Cに効率良く取り入れさせたりすることが可能になる。
【0093】
また、支持部材71,72は、弾性材料であるシリコンによって形成されている。この構成によれば、支持部材71,72が対象物T,TCの形状に沿って弾性変形し、支持部材71,72と対象物T,TCとの密着性を高めることができる。この結果、支持部材71,72と対象物T,TCとの間の隙間から取入口24B,24Cに外気が流入することを抑制するとともに、対象物T,TCを安定的に支持することが可能になる。
【0094】
さらに、支持部材のうち、対象物と当接する面にエンボス加工を施してもよい。この構成によれば、チーズ等の対象物が支持部材に付着することを抑制できる。
【0095】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの具体例に限定されない。すなわち、これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。上述した各具体例が備える各要素及びその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されず、適宜変更することができる。
【0096】
上述した実施形態は、パージ用ガスを取入口24,24B,24Cから内部空間20に供給することより、内部空間20に残留していた対象物Tの揮発性物質を換気口25から流出させ、内部空間20の換気が行われるように構成されている。しかしながら、本発明は、この形態に限定されるものではない。本発明においては、例えば、内部空間20に電動ファンを設けるとともに、当該電動ファンの駆動によって取入口24,24B,24Cから空気を取り込み、換気口25から排出するように構成してもよい。
【0097】
また、上述した底板23に形成された換気口25に代えて、天板21に不図示の複数の換気口を形成してもよい。当該換気口は、天板21の上面21aと下面21bとの間で貫通する孔である。この構成によれば、対象物の香りの強度の測定前に、取入口24,24B,24Cが対象物によって略覆われた状態で、スプレー缶等から清浄な空気を一つの換気口に流入させれば、内部空間20の残留空気を他の換気口から排出することができる。これにより、測定にノイズを与えるおそれがある空気が内部空間20に残留している場合に、当該空気を内部空間20から排出することが可能になる。残留空気の排出後、対象物Tの香りの強度を測定している際は、シリコンキャップ等を用いて当該換気口を閉塞しておくことが好ましい。
【0098】
また、上述した第1実施形態に係る誘導壁31では、本体部311の孔311aに嵌入している固定部312の一端は、開放されている。しかしながら、本発明は、この形態に限定されるものではない。本発明においては、例えば、通気性を有するフィルタを用いて固定部312の一端を覆ってもよい。この構成によれば、感応部51aの汚損をさらに確実に防止することが可能になる。
【符号の説明】
【0099】
1,1A,1B,1C:香り測定装置
2 :筐体
20 :内部空間
20a,20c:誘導領域
21 :天板
21a:上面
23 :底板
24,24B,24C:取入口
25 :換気口
31 :誘導壁
311a:孔
31b,31Ab:下端
51 :センサ
51a:感応部
6 :遮蔽部材
71,72:支持部材
T,TC:対象物