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特許7519311紫外線検出物及び紫外線検出装置、並びにそれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】紫外線検出物及び紫外線検出装置、並びにそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01J 1/58 20060101AFI20240711BHJP
   G01J 1/02 20060101ALI20240711BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20240711BHJP
   C09K 11/02 20060101ALI20240711BHJP
   C09K 11/64 20060101ALI20240711BHJP
   C01G 45/00 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
G01J1/58
G01J1/02 G
C09K11/08 B
C09K11/02 Z
C09K11/64
C01G45/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021016885
(22)【出願日】2021-02-04
(65)【公開番号】P2022119626
(43)【公開日】2022-08-17
【審査請求日】2023-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000190688
【氏名又は名称】新光電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】堀内 道夫
(72)【発明者】
【氏名】津野 将弥
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-535860(JP,A)
【文献】特開平04-331741(JP,A)
【文献】特開2018-154730(JP,A)
【文献】特開2013-043920(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 1/00-1/60
C09K 11/00-11/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム、ストロンチウム、セリウム、ランタン、及びマンガンを含む複合酸化物と、軟化点が900℃以下のガラスと、を含み、
前記複合酸化物は、結晶相においてSrAl 12 19 を主相とし、Al を副相とし、
セリウム、ランタン、及びマンガンは、X線回折では検出されない形で前記複合酸化物中に存在し、
310nmより長い波長の電磁波では励起されず、310nm以下の波長の電磁波で励起されて480nm以上700nm以下に発光波長のピークを有する光を発する、紫外線検出物。
【請求項2】
励起波長ピークは、280nm以下である、請求項1に記載の紫外線検出物。
【請求項3】
前記ガラスは、酸化ビスマスを主成分とするか、又は、酸化ケイ素及び酸化バリウムを主成分とし、酸化ホウ素を含む、請求項1又は2に記載の紫外線検出物。
【請求項4】
前記複合酸化物の含有率が60体積パーセント以上である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の紫外線検出物。
【請求項5】
前記複合酸化物は、平均粒径が100μm以上である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の紫外線検出物。
【請求項6】
基板と、
前記基板上に配置された請求項1乃至のいずれか一項に記載の紫外線検出物と、を有する、紫外線検出装置。
【請求項7】
アルミニウム、ストロンチウム、セリウム、ランタン、及びマンガンを含む複合酸化物の粉末を作製する工程と、
前記複合酸化物の粉末と、軟化点が900℃以下のガラスの粉末と、の混合物を作製する工程と、
前記混合物に溶媒を加えて混錬する工程と、を有し、
前記複合酸化物の粉末を作製する工程は、
アルミニウム、ストロンチウム、セリウム、ランタン、及びマンガンを含む複数種類の酸化物の粉末を混合して大気中で1200℃以上の温度で焼成して複合酸化物の焼結体を作製する工程と、
前記焼結体を粉砕し、前記複合酸化物の粉末を作製する工程と、を含み、
前記複合酸化物は、結晶相においてSrAl 12 19 を主相とし、Al を副相とし、
セリウム、ランタン、及びマンガンは、X線回折では検出されない形で前記複合酸化物中に存在し、
310nmより長い波長の電磁波では励起されず、310nm以下の波長の電磁波で励起されて480nm以上700nm以下に発光波長のピークを有する光を発する、紫外線検出物の製造方法。
【請求項8】
アルミニウム、ストロンチウム、セリウム、ランタン、及びマンガンを含む複合酸化物と、軟化点が900℃以下のガラスと、を含み、310nmより長い波長の電磁波では励起されず、310nm以下の波長の電磁波で励起されて480nm以上700nm以下に発光波長のピークを有する光を発する、液状又はペースト状の紫外線検出物を作製する工程と、
前記紫外線検出物を基板上に印刷する工程と、
前記紫外線検出物を900℃以下の温度で焼成する工程と、を有し、
前記複合酸化物は、結晶相においてSrAl 12 19 を主相とし、Al を副相とし、
セリウム、ランタン、及びマンガンは、X線回折では検出されない形で前記複合酸化物中に存在する、紫外線検出装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線検出物及び紫外線検出装置、並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、紫外線とは波長が400nm以下の電磁波のことを指すが、紫外線には、波長が315~400nmのUV-A、波長が280~315nmのUV-B、及び波長が280nm以下のUV-Cなどが含まれる。このような紫外線を検出する様々な方法が検討されている。
【0003】
例えば、ZnとSiとAlとBとOとを含み、ケイ酸亜鉛結晶構造を有する紫外線検出物が挙げられる。この紫外線検出物において、Siに対するZnのモル比は、酸化物換算で1.0以上3.0以下である。Bは、酸化物換算で14モル%以上25モル%以下含まれ、Alは、酸化物換算で0モル%よりも多く6モル%以下含まれる(例えば、特許文献1参照)。これ以外にも、例えば、特許文献2~5に記載の技術が挙げられる。
【0004】
ところで、最近では、紫外線の殺菌効果やウイルス不活化効果が注目されている。これに伴って、人体にも影響を及ぼす紫外線を正確に検出することが望まれている。殺菌効果及びウイルス不活化効果が高いのはUV-Cである(例えば、非特許文献1、2参照)。また、人体への影響が大きいのもUV-Cである。すなわち、殺菌効果があるのは波長200~300nmの紫外線であり、UV-Cの殺菌効果が最も高い。同様に、人体への影響があるのは波長200~310nmの紫外線であり、UV-Cが人体に与える影響が最も大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-133837号公報
【文献】特開2011-116633号公報
【文献】特開2008-303365号公報
【文献】特開2007-234441号公報
【文献】特開2009-286995号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Rattanakul et al, Inactivation kinetics and efficiencies of UV-LEDs against Pseudomonasaeruginosa, Legionella pneumophila, and surrogate microorganisms, Water Research 130 (2018) 31-37)
【文献】Beggs et al, Upper-room ultraviolet air disinfection might help to reduce COVID-19 transmission in buildings, medRxiv preprint doi: https://doi.org/10.1101/2020.06.12.20129254; (2020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、比較的短波長のUV-Cが生物及びウイルスに大きな影響を及ぼすにも関わらず、従来の紫外線検出では、紫外線の波長域が区別できないため、UV-Cのみを検出することが困難であった。上記の特許文献1に記載の紫外線検出物も、UV-Cのみで励起される旨の記載はなく、UV-C以外の励起波長でも励起されると考えられる。
【0008】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、UV-Cの波長域を区別して検出できる紫外線検出物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本紫外線検出物は、アルミニウム、ストロンチウム、セリウム、ランタン、及びマンガンを含む複合酸化物と、軟化点が900℃以下のガラスと、を含み、前記複合酸化物は、結晶相においてSrAl 12 19 を主相とし、Al を副相とし、セリウム、ランタン、及びマンガンは、X線回折では検出されない形で前記複合酸化物中に存在し、310nmより長い波長の電磁波では励起されず、310nm以下の波長の電磁波で励起されて480nm以上700nm以下に発光波長のピークを有する光を発する。
【発明の効果】
【0010】
開示の技術によれば、UV-Cの波長域を区別して検出できる紫外線検出物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に係る紫外線検出物の特性例を示す図(その1)である。
図2】本実施形態に係る紫外線検出物の特性例を示す図(その2)である。
図3】本実施形態に係る紫外線検出物に含まれる複合酸化物のX線回折パターンの一例である。
図4】本実施形態に係る紫外線検出物の製造方法を示すフロー図である。
図5】本実施形態に係る紫外線検出装置を例示する図である。
図6】本実施形態に係る紫外線検出装置の製造方法を示すフロー図である。
図7】実施例及び比較例の結果について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。なお、各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0013】
[紫外線検出物]
本実施形態に係る紫外線検出物(以降、便宜上、紫外線検出物10とする)は、複数種類の酸化物が複合した複合酸化物と、軟化点が900℃以下のガラスとの混合物である。紫外線検出物10に含まれる複合酸化物は、アルミニウム、ストロンチウム、セリウム、ランタン、及びマンガンの酸化物を含む。
【0014】
紫外線検出物10は、310nmより長い波長の電磁波では励起されず、310nm以下の波長の電磁波で励起されて480nm以上700nm以下に発光波長のピークを有する光を発する。すなわち、紫外線検出物10は、UV-Aが照射されても励起されないが、UV-Cが照射されると励起されて発光する。UV-Cで励起されやすくするため、紫外線検出物10の励起波長ピークは、280nm以下であることが好ましい。なお、紫外線検出物10において、発光に寄与するのは複合酸化物であり、ガラスは発光には寄与しない。
【0015】
紫外線検出物10に含まれるガラスは、260nmの波長の電磁波透過率が50パーセント以上であることが好ましい。また、紫外線検出物10中の複合酸化物の混合量(含有率)は、60体積パーセント以上であることが好ましい。すなわち、ガラスは一般に紫外線の透過性が低いため、特にUV-Cの領域である280nm以下の透過性が高いものを選び、使用量はなるべく少なくすることが好ましい。つまり、ガラスは、複合酸化物の粒子を結着するのに必要最小限の使用量にすることが好ましい。
【0016】
紫外線検出物10に用いる好適なガラスは、軟化点が900℃以下であれば特に限定されないが、例えば、酸化ビスマスを主成分とするか、又は、酸化ケイ素及び酸化バリウムを主成分とし、酸化ホウ素を含むガラスが挙げられる。すなわち、酸化ビスマス-ホウ酸系、酸化ケイ素-酸化バリウム-ホウ酸系等である。これら以外に、酸化ケイ素-酸化亜鉛-ホウ酸系、リン酸-酸化銅等を用いてもよい。これらのガラスを用いると、UV-Cの透過を大きく妨げることなく、UV-Cがある程度透過できるため、紫外線検出物10は、UV-Cが照射されると励起されて可視光領域の波長で発光できる。
【0017】
これらのガラスの中でも、酸化ビスマス-ホウ酸系、リン酸-酸化銅は、軟化点が500℃以下である点で好ましい。ガラスの軟化点が低いと、セラミック基板や金属基板等の上にペースト状の紫外線検出物10を印刷して焼成する場合に、焼成温度を低くできる。焼成温度が低いと、紫外線検出物10とセラミック基板や金属基板等との反応が抑制できる点で好ましい。なお、ガラスにNaOやKO等のアルカリ金属酸化物を添加し、さらに軟化点を下げることも有効である。
【0018】
図1は、本実施形態に係る紫外線検出物の特性例を示す図(その1)であり、紫外線検出物10を265nm近傍の励起波長の電磁波で励起された場合の発光強度を示している。図1において、紫外光領域である300nm~350nmと、可視光領域である500nm~550nm(緑色帯、ピーク波長は約520nm)に強い発光が確認できる。すなわち、紫外線検出物10は、265nm近傍の電磁波が照射されると励起され、可視光領域(例えば、緑色帯)の波長で発光する。図1において、破線で囲んだ2つの部分はレイリー散乱(測定上のノイズ)であり、紫外線検出物10の発光ではない。
【0019】
図2は、本実施形態に係る紫外線検出物の特性例を示す図(その2)であり、紫外線検出物10を520nmで発光させることが可能な電磁波の励起波長を示している。図2より、紫外線検出物10は、280nm以下の波長の電磁波で強く励起され、280nmより長く310nm以下の波長の電磁波でもわずかに励起されることが確認できる。また、図2より、紫外線検出物10は、310nmより長い波長の電磁波が照射されても励起されないことが確認できる。
【0020】
図2において、破線で囲んだ部分はレイリー散乱(測定上のノイズ)であり、紫外線検出物10の発光ではない。また、図2に示す特性の測定には光源としてキセノンランプを用いたため、250nm以上の励起波長で測定が行われている。しかし、図2に示すスペクトルの短波長側の形状から推測すると、紫外線検出物10は200nm以上250nm未満の励起波長でも励起されて可視光領域の波長で発光すると考えられる。なお、200nm未満の波長は、酸素や窒素を容易に吸収してしまう真空紫外と称される領域になるため、殺菌効果及びウイルス不活化効果、人体への影響等に関しては議論する必要性が低い。そこで、本願では、200nm以上の波長について考えれば十分である。
【0021】
なお、紫外線検出物10は、310nm以下の波長の電磁波で励起されて480nm以上700nm以下に発光波長のピークを有する光を発すればよく、発光波長のピークは500nm~550nm以外の範囲にあってもよい。
【0022】
図3は、本実施形態に係る紫外線検出物に含まれる複合酸化物のX線回折パターンの一例である。図3に示すように、紫外線検出物10は、結晶相においてSrAl1219(六方晶系)を主相とし、Al(コランダム)を副相とする。Ce、La、及びMnは、X線回折では検出されていない。言い換えれば、Ce、La、及びMnは、X線回折では検出されない形で複合酸化物中に存在している。
【0023】
ストロンチウムは、焼成中に酸化アルミニウムと反応し、複合酸化物の主相であるSrAl1219相を作り、発光中心元素のホストとなっていると考えられる。また、アルミニウムは、焼成中に炭酸ストロンチウムあるいはその脱炭酸酸化物と反応し、複合酸化物の主相であるSrAl1219相を作り、発光中心元素のホストとなるとともに、単体のコランダム相としても安定的に存在していると考えられる。
【0024】
[紫外線検出物の製造方法]
図4は、本実施形態に係る紫外線検出物の製造方法を示すフロー図である。図4に示すように、紫外線検出物10を製造するには、まず、ステップS101で、アルミニウム、ストロンチウム、セリウム、ランタン、及びマンガンを含む複数種類の酸化物の粉末を乾式混合する。例えば、酸化アルミニウム粉末、炭酸ストロンチウム粉末、酸化セリウム粉末、及びランタンストロンチウムマンガン酸化物粉末を乾式混合する。
【0025】
次に、ステップS102で、ステップS101で乾式混合した複数種類の酸化物の粉末を所定形状に成形し、大気中で1200℃以上の温度(例えば、1500℃)で焼成する。これにより、上記酸化物を含む複合酸化物の焼結体が作製される。ステップS102で作製される焼結体の結晶相において主相となるのは、SrAl1219である。なお、1200℃未満の温度で焼成すると、UV-Cの波長域を区別して検出できる紫外線検出物の収率が著しく劣る。
【0026】
次に、ステップS103で、ステップS102で作製した焼結体を粉砕し、複合酸化物の粉末を作製する。粉砕には、例えば、汎用の粉砕機を使用できる。粉砕機の粉砕条件を調整することで、複合酸化物の粉末の平均粒径を制御可能である。UV-C照射時に安定して可視光で発光させるためには、複合酸化物の粉末の平均粒径は、100μm以上であることが好ましい。一方、塗布、印刷、成形性の観点から、複合酸化物の粉末の平均粒径は、500μm以下であることが好ましい。なお、平均粒径は、通常の粒度分布測定機を用いた方法あるいはストークス則を用いて液媒中の粒子の沈降速度から求める方法などにより測定できる。
【0027】
次に、ステップS104で、軟化点が900℃以下のガラスの粉末を準備し、複合酸化物の粉末とガラスの粉末とを混合して混合物Aを作製する。ステップS104で使用するガラスは、例えば、酸化ビスマスを主成分とするか、又は、酸化ケイ素及び酸化バリウムを主成分とし、酸化ホウ素を含むガラス等である。
【0028】
次に、ステップS105では、ステップS104で作製した混合物Aに所定の溶媒を加えてガラスの成分の混錬を行い、液状又はペースト状の混合物Bを生成する。生成した混合物Bが紫外線検出物10である。なお、混合物B中の複合酸化物の混合量(含有率)は、60体積パーセント以上であることが好ましい。
【0029】
次に、紫外線検出物10を基板上に配置した紫外線検出装置について説明する。図5は、本実施形態に係る紫外線検出装置を例示する図であり、図5(a)は平面図、図5(b)は図5(a)のA-A線に沿う断面図である。図5(a)及び図5(b)に示す紫外線検出装置1は、基板20と、基板20上に配置された紫外線検出物10とを有する。
【0030】
図6は、本実施形態に係る紫外線検出装置の製造方法を示すフロー図である。図6に示すように、紫外線検出装置1を製造するには、まず、ステップS201で、液状又はペースト状の紫外線検出物10を作製する。紫外線検出物10を作製する方法については図4を参照して説明した通りである。
【0031】
次に、ステップS202で、紫外線検出物10を基板20上に印刷し、乾燥させる。基板20としては、例えば、セラミック基板を使用できる。印刷には、例えば、メタルマスク法やディスペンス法等を使用できる。印刷後の紫外線検出物10の厚さは、例えば、200μm~600μm程度となる。
【0032】
次に、ステップS202で、紫外線検出物10を900℃以下の温度で30分程度焼成する。焼成は、例えば、大気中で行うことができる。これにより、紫外線検出装置1が得られる。紫外線検出物10に含まれるガラスが酸化ビスマス-ホウ酸系やリン酸-酸化銅である場合には、500℃以下の温度で焼成することができる。なお、印刷後の焼成に耐え得るものであれば、セラミック基板に代えて、SUS等の金属基板や、石英ガラス等のガラス基板も使用可能である。
【0033】
以下、実施例について説明するが、本発明は、これらの例に何ら限定されるものではない。
【0034】
[実施例1]
酸化アルミニウム粉末100重量部、炭酸ストロンチウム粉末12重量部、酸化セリウム粉末2.3重量部、及びランタンストロンチウムマンガン酸化物粉末2.3重量部を乾式混合した後、大気中において1500℃で10時間焼成し、焼結体を得た。各酸化物成分のモル濃度はAlが89.4モルパーセント、SrOが7.6モルパーセント、CeOが1.2モルパーセント、Laが0.8モルパーセント、MnOが1.0モルパーセントである。
【0035】
上記の各酸化物成分のモル濃度は、重量から換算したものである。なお、炭酸ストロンチウム粉末は、焼成によりSrOに変わる。また、ランタンストロンチウムマンガン酸化物粉末は、焼成によりLa、SrO、及びMnOに変わる。
【0036】
次に、この焼結体を粉砕し、複合酸化物の粉末を作製した。作製した複合酸化物の粉末の平均粒径は、100μm以上500μm以下であった。そして、複合酸化物の粉末70重量部と、酸化ビスマス-ホウ酸系ガラスの粉末30重量部とを混合し、エチルセルロースとテレピネオールとブチルカルビトールアセテートからなる市販の溶媒を加えて混錬を行いペースト状の紫外線検出物10Aを作製した。そして、99.9パーセントアルミナからなるセラミック基板20Aを準備し、セラミック基板20A上に紫外線検出物10Aを印刷して乾燥した後、大気中において500℃で30分焼成し、紫外線検出装置1Aを作製した。
【0037】
[実施例2]
実施例1と同様に紫外線検出物10Aを作製した。また、アルミナ純度94パーセントで残部6パーセントに酸化ケイ素、酸化カルシウム、及び酸化マグネシウム成分を含むセラミック基板20Bを準備した。そして、セラミック基板20B上に紫外線検出物10Aを印刷して乾燥した後、大気中において500℃で30分焼成し、紫外線検出装置1Bを作製した。
【0038】
[比較例]
比較例として、紫外線全域波長で発光するセリア-アルミナ系蛍光性セラミック100を準備した。
【0039】
[発光の確認]
図7(a)は、参考のために、紫外線検出装置1A、紫外線検出装置1B、及びセリア-アルミナ系蛍光性セラミック100に蛍光灯を照射した様子を示している。なお、図7(a)等に示す『SMACL』は、Sr、Mn、Al、Ce、及びLaの頭文字を順に並べたものである。
【0040】
次に、紫外線検出装置1A、紫外線検出装置1B、及びセリア-アルミナ系蛍光性セラミック100に、紫外線暴露装置で365nmの波長の紫外線を照射し、発光の有無を確認した。その結果、図7(b)に示すように、実施例1で作製した紫外線検出装置1Aと、実施例2で作製した紫外線検出装置1Bのいずれにおいても、励起波長が365nmでは発光しなかった。これに対して、セリア-アルミナ系蛍光性セラミック100は、励起波長が365nmで発光した。なお、365nmはUV-Aに属する紫外線である。
【0041】
次に、紫外線検出装置1A、紫外線検出装置1B、及びセリア-アルミナ系蛍光性セラミック100に、紫外線暴露装置で254nmの波長の紫外線を照射し、発光の有無を確認した。その結果、図7(c)に示すように、実施例1で作製した紫外線検出装置1Aと、実施例2で作製した紫外線検出装置1Bのいずれにおいても、励起波長が254nmでは緑白色の強い発光が確認された。また、セリア-アルミナ系蛍光性セラミック100は、励起波長が254nmでも発光した。なお、254nmはUV-Cに属する紫外線である。
【0042】
このように、実施例1に係る紫外線検出装置1A及び実施例2に係る紫外線検出装置1Bにおいて、紫外線検出物10Aは、UV-A及びUV-Cの照射下でそれぞれ異なる発光態様で発光した。つまり、UV-A照射下では発光しないにも関わらず、UV-C照射下では強く発光した。したがって、紫外線検出物10Aを用いた紫外線検出装置1A及び1Bにより、UV-Cの照射の有無を検出することが可能となる。
【0043】
また、紫外線検出物10Aは、アルミナ純度が高いセラミック基板20Aに印刷して焼成しても、アルミナ純度が比較的低いセラミック基板20Bに印刷して焼成しても、その効果を発揮できることが確認された。つまり、紫外線検出物10Aは、印刷される基板の選択自由度が高い。紫外線検出物10Aに含まれるガラスの軟化点が低いため、セラミック基板上にペースト状の紫外線検出物10Aを印刷して焼成する場合の焼成温度を低くできる結果、紫外線検出物10Aとセラミック基板との反応が抑制できるからである。印刷後の焼成に耐え得るものであれば、セラミック基板に代えて、SUS等の金属基板や、石英ガラス等のガラス基板も使用可能である。
【0044】
なお、上記の実施例1及び2に示した複合酸化物の各酸化物成分のモル濃度は、一例に過ぎない。各酸化物成分のモル濃度は適宜変更することが可能であり、例えば、酸化アルミニウムのモル濃度を84.9以上93.8以下モルパーセント、酸化ストロンチウムのモル濃度を7.2以上8.0以下モルパーセント、酸化セリウムのモル濃度を1.1以上1.3以下モルパーセント、酸化ランタンのモル濃度を0.8以上0.9以下モルパーセント、酸化マンガンのモル濃度を1.0以上1.1以下モルパーセントの範囲でそれぞれ変更してもよい。
【0045】
以上のように、本実施形態に係る紫外線検出物は、アルミニウム、ストロンチウム、セリウム、ランタン、及びマンガンを含む複合酸化物と、軟化点が900℃以下のガラスと、を含み、310nmより長い波長の電磁波では励起されず、310nm以下の波長の電磁波で励起されて480nm以上700nm以下に発光波長のピークを有する光を発する。このため、生物及びウイルスへの影響が大きいUV-Cの照射の有無や到達範囲を可視光領域の波長の発光により目視で確認することができ、紫外線の波長域を区別して検出することができる。
【0046】
また、本実施形態に係る紫外線検出物は、UV-Cの検出にエネルギー供給の必要がなく、UV-Cの検出を低コストで迅速に簡便にできる。また、本実施形態に係る紫外線検出物は、軟化点が900℃以下のガラスとの混合により、比較的低温領域での熱処理により特定形状に成形したり、被検物や被検箇所に塗布したりできるため、使い方の自由度を向上できる。
【0047】
また、本実施形態に係る紫外線検出物は、900℃以下の温度で焼結可能である。つまり、本実施形態に係る紫外線検出物を用いることで、比較的低温で所望形状の発光体が作製できる。また、本実施形態に係る紫外線検出物は、ペースト状にして印刷後、焼成して所望形状にする場合、下地となる基板の材料の組成の影響を受けない。また、本実施形態に係る紫外線検出物は、セラミック基板等の上に印刷後の焼成温度が比較的低くて済むので、セラミック基板等との有害な相互作用がない。
【0048】
また、本実施形態に係る紫外線検出物は、複合酸化物とガラスとの混合物であるため、複合酸化物と有機材料との混合物と比べ耐熱性や耐候性に優れている。例えば、複合酸化物と有機材料との混合物では、使用環境によっては酸化反応や加水分解や紫外線照射による劣化が起きるが、複合酸化物とガラスとの混合物である本実施形態に係る紫外線検出物では、そのような心配はない。
【0049】
以上、好ましい実施形態等について詳説したが、上述した実施形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0050】
1、1A、1B 紫外線検出装置
10、10A 紫外線検出物
20 基板
20A、20B セラミック基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7