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  • 特許-金属加工油 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】金属加工油
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20240711BHJP
   C10M 129/06 20060101ALI20240711BHJP
   C10M 129/28 20060101ALI20240711BHJP
   C10M 129/70 20060101ALI20240711BHJP
   C10M 135/02 20060101ALI20240711BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20240711BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20240711BHJP
   C10N 40/24 20060101ALN20240711BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M129/06
C10M129/28
C10M129/70
C10M135/02
C10N30:00 Z
C10N30:06
C10N40:24
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021524882
(86)(22)【出願日】2020-06-03
(86)【国際出願番号】 JP2020021990
(87)【国際公開番号】W WO2020246514
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2022-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2019105436
(32)【優先日】2019-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100114409
【弁理士】
【氏名又は名称】古橋 伸茂
(74)【代理人】
【識別番号】100128761
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100194423
【弁理士】
【氏名又は名称】植竹 友紀子
(72)【発明者】
【氏名】岡野 知晃
(72)【発明者】
【氏名】谷野 順英
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-013682(JP,A)
【文献】特開2002-038181(JP,A)
【文献】特開2019-038961(JP,A)
【文献】特開2003-238978(JP,A)
【文献】特開2001-354984(JP,A)
【文献】特開2018-080303(JP,A)
【文献】特開2015-189929(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
40℃における動粘度が200mm/s以上である基油(A)と、
30℃において、0.1MPaの圧力下では液体であるが、0.1MPaから300MPaの範囲での圧力上昇下で液体から固体へ相転移する化合物(B)とを含む、金属加工油であって、
前記金属加工油の40℃における動粘度が、100mm/s以下であり、
成分(B)が、下記一般式(b-1)又は(b-3)で表される化合物である、金属加工油。
【化1】
(上記式中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数10~40のアルキル基であり、Rは、炭素数1~10のアルキル基である。)
【請求項2】
前記金属加工油の40℃における動粘度が、40mm/s以上100mm/s以下である、請求項1に記載の金属加工油。
【請求項3】
成分(A)の40℃における動粘度が、200mm/s以上1000mm/s以下である、請求項1又は2に記載の金属加工油。
【請求項4】
成分(A)の含有量が、前記金属加工油の全量基準で、20~99.9質量%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の金属加工油。
【請求項5】
成分(A)及び(B)の合計含有量が、前記金属加工油の全量基準で、25~100質量%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の金属加工油。
【請求項6】
成分(B)の含有量が、前記金属加工油の全量基準で、0.1~50質量%である、請求項1~5のいずれか一項に記載の金属加工油。
【請求項7】
さらに硫黄系極圧剤(C)を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の金属加工油。
【請求項8】
成分(C)の硫黄原子換算での含有量が、前記金属加工油の全量基準で、6.5質量%以上である、請求項1~7のいずれか一項に記載の金属加工油。
【請求項9】
さらに、成分(B)には該当しない、脂肪酸及び脂肪酸エステルから選ばれる1種以上の化合物(D)を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の金属加工油。
【請求項10】
さらに流動点降下剤(E)を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の金属加工油。
【請求項11】
水の含有量が、前記金属加工油の全量基準で、1.0質量%未満である、請求項1~10のいずれか一項に記載の金属加工油。
【請求項12】
40℃における動粘度が200mm /s以上である基油(A)と、
メチルステアレートとを含む、金属加工油であって、
前記金属加工油の40℃における動粘度が、100mm /s以下である、金属加工油。
【請求項13】
金属材の冷間鍛造加工に用いられる、請求項1~12のいずれか一項に記載の金属加工油。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の金属加工油を、金属材の冷間鍛造加工に適用する、金属加工油の使用。
【請求項15】
請求項1~13のいずれか一項に記載の金属加工油を用いて、金属材の冷間鍛造加工を行う、金属加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属加工油に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材をプレス加工、引抜き加工、しごき加工、曲げ加工、転造加工、冷間鍛造加工等をする際に用いる塑性加工用の金属加工油は、過酷な潤滑条件下で使用されるため、耐焼き付き性等の潤滑性が要求される。
例えば、特許文献1には、潤滑性に優れ、過酷な潤滑条件下でも使用し得るプレス加工、冷間鍛造加工等の塑性加工用潤滑油組成物の提供を目的として、特定の構造を有するジチオリン酸亜鉛5~99質量%、スルホン酸の金属塩1~95質量%、及び基油0~80質量%を含有する塑性加工用潤滑油組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-173957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような状況において、新規な金属加工油が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、基油と、常圧下では液体であるが、圧力上昇下で液体から固体へ相転移する化合物を含有する金属加工油を提供する。
即ち、本発明は、下記[1]~[14]を提供する。
[1]基油(A)と、0.1MPaの圧力下では液体であるが、0.1MPaから300MPaの範囲での圧力上昇下で液体から固体へ相転移する化合物(B)とを含む、金属加工油。
[2]前記金属加工油の40℃における動粘度が、100mm/s以下である、上記[1]に記載の金属加工油。
[3]成分(B)が、カルボン酸エステル、カルボン酸、及びアルコールから選ばれる、前記相転移する化合物を1種以上含む、上記[1]又は[2]に記載の金属加工油。
[4]前記カルボン酸エステルが、飽和カルボン酸エステルであり、
前記カルボン酸が、飽和カルボン酸であり、
前記アルコールが、飽和アルコールである、
上記[3]に記載の金属加工油。
[5]成分(B)が、下記一般式(b-1)~(b-3)のいずれかで表される、前記相転移をする化合物を含む、上記[1]~[4]のいずれか一項に記載の金属加工油。
【化1】
(上記式中、R、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数10~40のアルキル基であり、Rは、炭素数1~10のアルキル基である。)
[6]成分(B)の含有量が、前記金属加工油の全量基準で、0.1~50質量%である、上記[1]~[5]のいずれか一項に記載の金属加工油。
[7]さらに硫黄系極圧剤(C)を含む、上記[1]~[6]のいずれか一項に記載の金属加工油。
[8]成分(C)の硫黄原子換算での含有量が、前記金属加工油の全量基準で、6.5質量%以上である、上記[1]~[7]のいずれか一項に記載の金属加工油。
[9]さらに、成分(B)には該当しない、脂肪酸及び脂肪酸エステルから選ばれる1種以上の化合物(D)を含む、上記[1]~[8]のいずれか一項に記載の金属加工油。
[10]さらに流動点降下剤(E)を含む、上記[1]~[9]のいずれか一項に記載の金属加工油。
[11]水の含有量が、前記金属加工油の全量基準で、1.0質量%未満である、上記[1]~[10]のいずれか一項に記載の金属加工油。
[12]金属材の冷間鍛造加工に適用する、上記[1]~[11]のいずれか一項に記載の金属加工油。
[13]上記[1]~[12]のいずれか一項に記載の金属加工油を、金属材の冷間鍛造加工に用いる、金属加工油の使用。
[14]上記[1]~[12]のいずれか一項に記載の金属加工油を用いて、金属材の冷間鍛造加工を行う、金属加工方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の好適な一態様の金属加工油は、金属材の加工性に優れており、より好適な一態様の金属加工油は、低粘度性及び耐焼き付き性のバランスに優れており、特に、金属材の冷間鍛造加工に好適に使用し得る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】相転移挙動確認用高圧試験装置の概略図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書に記載された数値範囲については、上限値及び下限値を任意に組み合わせることができる。例えば、数値範囲として「好ましくは30~100、より好ましくは40~80」と記載されている場合、「30~80」との範囲や「40~100」との範囲も、本明細書に記載された数値範囲に含まれる。また、例えば、数値範囲として「好ましくは30以上、より好ましくは40以上であり、また、好ましくは100以下、より好ましくは80以下である」と記載されている場合、「30~80」との範囲や「40~100」との範囲も、本明細書に記載された数値範囲に含まれる。
また、本明細書に記載された数値範囲として、例えば「60~100」との記載は、「60以上、100以下」という範囲であることを意味する。
【0009】
〔金属加工油の構成〕
従来の塑性加工用の金属加工油は、例えば、粘度を、40℃における動粘度を100mm/s超と高く調整して、金属材への焼き付きを抑制する手法が取られていた。しかしながら、このような高粘度の金属加工油は、ハンドリング性が悪いため、金属材への金属加工油の供給が行い難いという問題があった。また、高粘度の金属加工油は、低温環境下での使用した際に、粘度が増加することにより流動性が低下し、場合によっては金属材の加工時に、金属加工油が固化してしまうといった弊害も生じ得る。
一方で、低粘度の金属加工油は、上記のような問題は抑制し得るが、金属材への焼き付きが生じ易いという点で問題がある。特に、冷間鍛造加工に用いた場合には、金属材への焼き付きの発生頻度が高くなることが問題となる。
【0010】
このような問題に対して、本発明の金属加工油は、基油(A)と、0.1MPaの圧力下では液体であるが、0.1MPaから300MPaの範囲での圧力上昇下で液体から固体へ相転移する化合物(B)(以下、「相転移化合物」ともいう)とを含むように調製することで、上記問題の解決を図っている。
成分(B)として用いる相転移化合物は、常圧下(0.1MPaの圧力下)では液体であるため、金属加工油のハンドリング性を良好に保持することができる。また、基油(A)として高粘度基油を用いた場合であっても、成分(B)の相転移化合物は常圧下では液体であるため、相転移化合物を含有することで、ハンドリング性が良い金属加工油とすることもできる。
そして、成分(B)として用いる相転移化合物は、塑性加工時に高圧となった際に、被加工材である金属材の表面で固化し、強固な油膜の形成をし得ると考えられ、本発明の金属加工油は、金属材への焼き付きの発生を効果的に抑制し得る。
そのため、本発明の一態様の金属加工油は、低粘度性及び耐焼き付き性のバランスに優れており、特に、金属材の冷間鍛造加工に好適に使用し得る。
【0011】
なお、本発明の一態様の金属加工油の40℃における動粘度は、ハンドリング性が良好な金属加工油とする観点から、好ましくは100mm/s以下、より好ましくは90mm/s以下、更に好ましくは80mm/s以下、より更に好ましくは70mm/s以下であり、また、強固な油膜を保持し、蒸発損失を低減させる観点から、好ましくは10mm/s以上、より好ましくは20mm/s以上、更に好ましくは30mm/s以上、より更に好ましくは40mm/s以上である。
【0012】
上記と同様の観点から、本発明の一態様の金属加工油の100℃における動粘度は、好ましくは12.0mm/s以下、より好ましくは11.0mm/s以下、更に好ましくは10.0mm/s以下、より更に好ましくは9.0mm/s以下であり、また、好ましくは2.0mm/s以上、より好ましくは3.0mm/s以上、更に好ましくは4.0mm/s以上、より更に好ましくは4.5mm/s以上である。
【0013】
また、本発明の一態様の金属加工油の粘度指数は、好ましくは60以上、より好ましくは70以上、更に好ましくは80以上、より更に好ましくは85以上である。
なお、本明細書において、動粘度及び粘度指数は、JIS K2283:2000に準拠して測定及び算出された値を意味する。
【0014】
本発明の一態様の金属加工油は、さらに、硫黄系極圧剤(C)、成分(B)には該当しない、脂肪酸及び脂肪酸エステルから選ばれる1種以上の化合物(D)、並びに、流動点降下剤(E)から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましく、成分(C)、(D)及び(E)から選ばれる2種以上を含有することがより好ましく、成分(C)、(D)及び(E)を共に含有することが更に好ましい。
また、本発明の一態様の金属加工油は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記成分(A)~(E)以外の他の成分を含有してもよい。
【0015】
なお、本発明の一態様の金属加工油において、成分(A)及び(B)の合計含有量としては、当該金属加工油の全量(100質量%)基準で、好ましくは25~100質量%、より好ましくは35~100質量%、更に好ましくは45~100質量%、より更に好ましくは55~100質量%、特に好ましくは60~100質量%である。
【0016】
本発明の一態様の金属加工油において、成分(A)、(B)、(C)、(D)及び(E)の合計含有量としては、当該金属加工油の全量(100質量%)基準で、好ましくは50~100質量%、より好ましくは60~100質量%、更に好ましくは70~100質量%、より更に好ましくは80~100質量%、特に好ましくは90~100質量%である。
以下、本発明の一態様の金属加工油に含まれる各成分の詳細について説明する。
【0017】
<成分(A):基油>
本発明の一態様で用いる基油(A)としては、鉱油及び合成油から選ばれる1種以上が挙げられる。
鉱油としては、例えば、パラフィン系原油、中間基系原油、ナフテン系原油等の原油を常圧蒸留して得られる常圧残油;これらの常圧残油を減圧蒸留して得られる留出油;当該留出油を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、及び水素化精製等の精製処理を1つ以上施して得られる精製油;等が挙げられる。
【0018】
合成油としては、例えば、α-オレフィン単独重合体、又はα-オレフィン共重合体(例えば、エチレン-α-オレフィン共重合体等の炭素数8~14のα-オレフィン共重合体)等のポリα-オレフィン;イソパラフィン;ポリアルキレングリコール;ポリオールエステル、二塩基酸エステル、リン酸エステル等のエステル系油;ポリフェニルエーテル等のエーテル系油;アルキルベンゼン;アルキルナフタレン;天然ガスからフィッシャー・トロプシュ法等により製造されるワックス(GTLワックス(Gas To Liquids WAX))を異性化することで得られる合成油(GTL)等が挙げられる。
【0019】
本発明の一態様で用いる基油(A)の40℃における動粘度は、耐焼き付き性をより向上させた金属加工油とする観点から、好ましくは10mm/s以上、より好ましくは20mm/s以上、より好ましくは30mm/s以上、より好ましくは40mm/s以上、更に好ましくは100mm/s以上、更に好ましくは200mm/s以上、より更に好ましくは300mm/s以上、より更に好ましくは350mm/s以上、特に好ましくは400mm/s以上である。
なお、本発明の金属加工油は、基油(A)として、40℃における動粘度が100mm/s以上の基油を用いたとしても、常圧下(0.1MPaの圧力下)では液体である成分(B)の相転移化合物を含むため、得られる金属加工油の動粘度を適度に調整することができ、ハンドリング性が良好な金属加工油とすることができる。
一方で、本発明の一態様で用いる基油(A)の40℃における動粘度は、好ましくは1000mm/s以下、より好ましくは900mm/s以下、更に好ましくは800mm/s以下、より更に好ましくは700mm/s以下、特に好ましくは600mm/s以下である。
【0020】
本発明の一態様で用いる基油(A)の100℃における動粘度は、上記と同様の観点から、好ましくは2.0mm/s以上、より好ましくは3.0mm/s以上、より好ましくは4.0mm/s以上、より好ましくは4.5mm/s以上、更に好ましくは7.0mm/s以上、更に好ましくは10.0mm/s以上、より更に好ましくは12.5mm/s以上、特に好ましくは15.0mm/s以上であり、また、好ましくは40.0mm/s以下、より好ましくは35.0mm/s以下、更に好ましくは30.0mm/s以下、より更に好ましくは27.0mm/s以下、特に好ましくは25.0mm/s以下である。
【0021】
また、本発明の一態様で用いる基油(A)の粘度指数としては、好ましくは2以上、より好ましくは5以上、更に好ましくは10以上、より更に好ましくは20以上、特に好ましくは30以上である。
なお、本発明の一態様において、基油(A)として、2種以上の基油を組み合わせた混合油を用いる場合、当該混合油の動粘度及び粘度指数が上記範囲であることが好ましい。
【0022】
本発明の一態様の金属加工油において、成分(A)の含有量は、当該金属加工油の全量(100質量%)基準で、好ましくは20~99.9質量%、より好ましくは30~95質量%、更に好ましくは35~90質量%、より更に好ましくは40~80質量%、特に好ましくは45~70質量%である。
【0023】
<成分(B):相転移化合物>
本発明の金属加工油は、0.1MPaから300MPaの範囲での圧力上昇下で液体から固体へ相転移する化合物(B)を含む。
成分(B)は、常圧下(0.1MPaの圧力下)では液体であるが、300MPaまでの圧力上昇下で固体に相転移する。そのため、塑性加工時に高圧となった際に、被加工材である金属材の表面において、金属加工油に含まれる成分(B)が固化することで、強固な油膜を形成し得ると考えられる。その結果、本発明の金属加工油は、塑性加工時において、優れた耐焼き付き性を効果的に発現し得ると考えられる。
なお、本明細書において、成分(B)の「相転移化合物」に該当するか否かは、例えば、図1に示すような相転移挙動確認用高圧試験装置を用いて確認することができる。具体的な確認方法については、後述の実施例に記載の方法に基づき判断することができる。
【0024】
本発明の一態様の金属加工油で用いる成分(B)としては、0.1MPaから300MPaの範囲での圧力上昇下で液体から固体へ相転移する化合物であればよいが、カルボン酸エステル、カルボン酸、及びアルコールから選ばれる、前記相転移する化合物を1種以上含むことが好ましい。
【0025】
本発明の一態様の金属加工油において、カルボン酸エステル、カルボン酸、及びアルコールから選ばれる前記相転移する化合物の含有割合は、当該金属加工油に含まれる成分(B)の全量(100質量%)に対して、好ましくは60~100質量%、より好ましくは70~100質量%、更に好ましくは80~100質量、より更に好ましくは90~100質量%、特に好ましくは95~100質量%である。
【0026】
なお、前記相転移は、不飽和化合物よりも飽和化合物の方が、生じ易いという傾向がある。
そのため、前記カルボン酸エステルは、飽和カルボン酸エステルであり、前記カルボン酸は、飽和カルボン酸であり、前記アルコールは、飽和アルコールであることが好ましい。
【0027】
また、前記相転移の生じ易さの観点から、成分(B)は、炭素数10~40のアルキル基を有する化合物を含むことが好ましく、飽和カルボン酸エステル、飽和カルボン酸、及び飽和アルコールから選ばれる炭素数10~40のアルキル基を有する化合物を含むことがより好ましい。
つまり、本発明の一態様の金属加工油で用いる成分(B)としては、下記一般式(b-1)~(b-3)のいずれかで表される、前記相転移をする化合物を含むことが更に好ましい。
【0028】
【化2】
【0029】
前記式中、R、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数10~40のアルキル基であり、Rは、炭素数1~10のアルキル基である。
【0030】
、R及びRとして選択し得る前記アルキル基は、直鎖アルキル基であってもよく、分岐鎖アルキル基であってもよいが、前記相転移の生じ易さの観点から、直鎖アルキル基であることが好ましい。
、R及びRとして選択し得る前記アルキル基の炭素数としては、前記相転移の生じ易さの観点から、好ましくは9~39であり、より好ましくは9~29、更に好ましくは10~23、より更に好ましくは11~19である。
【0031】
具体的なR、R及びRとしては、例えば、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基(ラウリル基)、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基(ステアリル基)、イコシル基、テトラコシル基等が挙げられる。
これらの中でも、前記相転移の生じ易さの観点から、R、R及びRとしては、それぞれ独立に、ウンデシル、ドデシル基(ラウリル基)、トリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、又はオクタデシル基(ステアリル基)であることが好ましく、ヘプタデシル基であることがより好ましい。
【0032】
また、Rとして選択し得る、前記アルキル基は、直鎖アルキル基であってもよく、分岐鎖アルキル基であってもよいが、前記相転移の生じ易さの観点から、直鎖アルキル基であることが好ましい。
として選択し得る、前記アルキル基の炭素数は、前記相転移の生じ易さの観点から、1~10であり、より好ましくは1~6、更に好ましくは1~4、より更に好ましくは1~2、特に好ましくは1である。
【0033】
具体的なRとしては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。
これらの中でも、前記相転移の生じ易さの観点から、Rとしては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、又はn-オクチル基であることが好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、又はn-ヘキシル基であることがより好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基又はn-ブチル基であることが更に好ましく、メチル基又はエチル基であることがより更に好ましく、メチル基であることが特に好ましい。
【0034】
本発明の一態様の金属加工油において、前記一般式(b-1)~(b-3)のいずれかで表される前記相転移をする化合物の含有割合は、当該金属加工油に含まれる成分(B)の全量(100質量%)に対して、好ましくは60~100質量%、より好ましくは70~100質量%、更に好ましくは80~100質量、より更に好ましくは90~100質量%、特に好ましくは95~100質量%である。
【0035】
また、本発明の一態様の金属加工油で用いる成分(B)の融点は、前記相転移の生じ易さの観点から、好ましくは10~70℃、より好ましくは14~60℃、更に好ましくは17~55℃、より更に好ましくは25~50℃である。
なお、本明細書において、融点は、示差走査型熱量計(DSC)を用いて測定した値であり、具体的には、以下の方法で測定したものである。
〔示差走査型熱量計による融点の測定方法〕
試料を窒素雰囲気下、-10℃で5分間保持した後、10℃/分で190℃まで昇温させ、190℃で5分間保持する。次いで、-10℃まで、5℃/分で降温させ、-10℃で5分間保持する。その後に、190℃まで10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブから観測されるピークを融点(Tm)とする。
【0036】
本発明の一態様の金属加工油において、成分(B)の含有量は、当該金属加工油の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.1~50質量%、より好ましくは1.0~40質量%、更に好ましくは3.0~35質量%、より更に好ましくは5.0~30質量%、特に好ましくは7.5~25質量%である。
【0037】
<成分(C):硫黄系極圧剤>
本発明の一態様の金属加工油は、耐焼き付き性をより向上させた金属加工油とする観点から、さらに硫黄系極圧剤(C)を含有することが好ましい。
本発明の一態様で用いる硫黄系極圧剤(C)としては、例えば、硫化オレフィン、ポリスルフィド、硫化エステル、チアゾール、チアジアゾール、ジチオリン酸亜鉛、ジチオリン酸モリブデン、ジチオカルバミン酸モリブデン、粉末硫黄等が挙げられる。
なお、これらの硫黄系極圧剤(C)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、硫黄系極圧剤(C)としては、ポリスルフィドを含むことが好ましい。
【0038】
本発明の一態様で用いるポリスルフィドの硫黄鎖長としては、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、更に好ましくは5以上であり、また、好ましくは10以下である。
具体的なポリスルフィドとしては、例えば、ジメチル-トリスルフィド、ジエトキシジスルフィド、エチル-ヒドロジスルフィド、ジアセチル-ジスルフィド、ジt-ドデシルトリスルフィド等が挙げられる。
【0039】
本発明の一態様の金属加工油において、成分(C)の含有量は、耐焼き付き性をより向上させた金属加工油とする観点、及び、臭気の発生等による作業環境の悪化を回避する観点から、当該金属加工油の全量(100質量%)基準で、好ましくは7~50質量%、より好ましくは10~45質量%、更に好ましくは12~40質量%、より更に好ましくは15~35質量%、特に好ましくは17~35質量%である。
【0040】
本発明の一態様の金属加工油において、成分(C)の硫黄原子換算での含有量は、上記観点から、当該金属加工油の全量(100質量%)基準で、好ましくは6.5~30質量%、より好ましくは7.0~20質量%、更に好ましくは7.5~17質量%、より更に好ましくは8.0~15質量%、特に好ましくは8.5~12質量%である。
なお、本明細書において、硫黄原子の含有量は、JIS K2541-6:2013に準拠して測定した値を意味する。
【0041】
<成分(D):脂肪酸及び脂肪酸エステル>
本発明の一態様の金属加工油は、潤滑性をより向上させた金属加工油とする観点から、成分(B)には該当しない、脂肪酸及び脂肪酸エステルから選ばれる1種以上の化合物(D)を含むことが好ましい。
本明細書において、0.1MPaから300MPaの範囲での圧力上昇下で液体から固体へ相転移する脂肪酸及び脂肪酸エステルは、上述の成分(B)に含まれる。つまり、成分(D)は、相転移化合物には該当しない、脂肪酸及び脂肪酸エステルを意味する。
【0042】
本発明の一態様において、成分(D)として用いる脂肪酸としては、例えば、飽和脂肪族モノカルボン酸、不飽和脂肪族モノカルボン酸、飽和脂肪族ジカルボン酸、不飽和脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。
これらの脂肪酸は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの脂肪酸の炭素数としては、好ましくは10~30、より好ましくは12~24、更に好ましくは14~20である。
【0043】
これらの中でも、本発明の一態様において、成分(D)として用いる脂肪酸としては、成分(B)と併用して、潤滑性をより向上させた金属加工油とする観点から、不飽和脂肪族モノカルボン酸を含むことが好ましい。
当該不飽和脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、ウンデシレン酸、ドデセン酸、オレイン酸、エライジン酸、エルカ酸、ネルボン酸、リノール酸、γ-リノレン酸、アラキドン酸、α-リノレン酸、ステアリドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等が挙げられ、オレイン酸が好ましい。
なお、当該不飽和脂肪族モノカルボン酸としては、リシノール酸(12-ヒドロキシオクタデカ-9-エノン酸)等のようなヒドロキシ不飽和脂肪酸であってもよい。
【0044】
本発明の一態様において、成分(D)として用いる脂肪酸エステルとしては、多価アルコールと脂肪酸とのエステルが挙げられる。
当該脂肪酸エステルの分子内に有するエステル結合の数としては、好ましくは2~6である。
なお、前記脂肪酸エステルは、完全エステルであってもよく、不完全エステルであってもよいが、完全エステルであることが好ましい。
【0045】
前記脂肪酸エステルを構成する多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、2ーメチル-1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,7-ヘプタンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール等のジオール;トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジトリメチロールプロパン、トリ-(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、グリセリン、ポリグリセリン(グリセリンの2~3量体)、1,3,5-ペンタントリオール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等の3価以上のアルコール;キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース等が挙げられる。
これらの多価アルコールは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
一方で、前記脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、飽和脂肪族モノカルボン酸、不飽和脂肪族モノカルボン酸、飽和脂肪族ジカルボン酸、不飽和脂肪族ジカルボン酸等が挙げられるが、飽和脂肪族モノカルボン酸及び不飽和脂肪族モノカルボン酸から選ばれる1種以上が好ましい。
飽和脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、2-エチルヘキサン酸、ペラルゴン酸、イソノナン酸、カプリン酸、ネオデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等が挙げられる。
不飽和脂肪族モノカルボン酸としては、上述の成分(D)として選択し得る「脂肪酸」と同じものが挙げられる。
【0047】
本発明の一態様の金属加工油において、成分(D)の含有量は、潤滑性をより向上させた金属加工油とする観点から、当該金属加工油の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.1~30質量%、より好ましくは0.5~25質量%、更に好ましくは1.0~20質量%、より更に好ましくは1.5~15質量%、特に好ましくは2.0~10質量%である。
【0048】
また、本発明の一態様の金属加工油において、成分(B)の全量100質量部に対する、成分(D)の含有割合は、上記と同様の観点から、好ましくは1~200質量部、より好ましくは5~150質量部、更に好ましくは10~100質量部、より更に好ましくは15~70質量部、特に好ましくは20~50質量部である。
【0049】
<成分(E):流動点降下剤>
本発明の一態様の金属加工油は、低温流動性が良好である金属加工油とする観点から、流動点降下剤(E)を含むことが好ましい。
なお、本発明の一態様の金属加工油においては、流動点降下剤(E)を含有しても、耐焼き付き性を良好に保持することができる。
【0050】
本発明の一態様で用いる成分(E)としては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体、塩素化パラフィンとナフタレンとの縮合物、塩素化パラフィンとフェノールとの縮合物、ポリメタクリレート、ポリアルキルスチレン等が挙げられる。
これらの成分(E)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、成分(E)としては、エチレン-酢酸ビニル共重合体及びポリメタクリレートから選ばれる1種以上を含むことが好ましい。
これらの成分(E)の質量平均分子量(Mw)としては、通常50,000~150,000である。
【0051】
本発明の一態様の金属加工油において、成分(E)の含有量は、低温流動性が良好とし、耐焼き付き性を良好の保持し得る金属加工油とする観点から、当該金属加工油の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.001~7.0質量%、より好ましくは0.01~5.0質量%、更に好ましくは0.1~3.0質量%、より更に好ましくは0.3~2.0質量%である。
【0052】
<他の成分>
本発明の一態様の金属加工油は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、上記成分(A)~(E)以外の他の成分をさらに含有してもよい。
そのような他の成分としては、例えば、酸化防止剤、成分(C)以外の極圧剤、成分(D)以外の油性向上剤、脱脂剤、消泡剤等が挙げられる。
【0053】
酸化防止剤としては、例えば、アルキル化ジフェニルアミン、フェニルナフチルアミン、アルキル化フェニルナフチルアミン等のアミン系酸化防止剤;2、6-ジ-t-ブチルフェノール、4,4’-メチレンビス(2,6ージーtーブチルフェノール)、イソオクチル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、n-オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のフェノール系酸化防止剤;等が挙げられる。
本発明の一態様の金属加工油において、酸化防止剤の含有量は、当該金属加工油の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.01~10質量%、より好ましくは0.05~5質量%、更に好ましくは0.1~2質量%である。
【0054】
成分(C)以外の極圧剤としては、例えば、リン酸エステル(トリクレシルホスフェート、トリオレイルホスフェート等)、酸性リン酸エステル(モノオレイルアシッドホスフェート、ジオレイルアシッドホスフェート等)、酸性リン酸エステルアミン塩(モノオレイルアシッドホスフェートのオレイルアミン塩等)、亜リン酸エステル(ジオレイルアシッドホスファイト、トリデシルホスファイト、トリスノニルフェニルスファイト等)、油脂(牛脂、豚脂、大豆油、菜種油米ぬか油、ヤシ油、パーム油等)等が挙げられる。
本発明の一態様の金属加工油において、成分(C)以外の極圧剤の含有量は、当該金属加工油の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.01~10質量%、より好ましくは0.05~5質量%、更に好ましくは0.1~3質量%である。
【0055】
成分(D)以外の油性向上剤としては、例えば、ダイマー酸、及び水添ダイマー酸等の重合脂肪酸の重合体;ラウリルアルコール及びオレイルアルコール等の脂肪族飽和又は不飽和モノアルコール;ステアリルアミン及びオレイルアミン等の脂肪族飽和又は不飽和モノアミン;ラウリン酸アミド及びオレイン酸アミド等の脂肪族飽和又は不飽和モノカルボン酸アミド;等が挙げられる。
本発明の一態様の金属加工油において、成分(D)以外の油性向上剤の含有量は、当該金属加工油の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.01~10質量%、より好ましくは0.05~5質量%、更に好ましくは0.1~3質量%である。
【0056】
脱脂剤としては、例えば、アルケニルスルホコハク酸等が挙げられる。
本発明の一態様の金属加工油において、脱脂剤の含有量は、当該金属加工油の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.001~5質量%である。
【0057】
消泡剤としては、例えば、メチルシリコーン油、フルオロシリコーン油、ポリアクリレート等が挙げられる。
本発明の一態様の金属加工油において、消泡剤の含有量は、当該金属加工油の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.0001~2質量%、より好ましくは0.001~1質量%である。
【0058】
<金属加工油の製造方法>
本発明の一態様の金属加工油の製造方法としては、特に制限はなく、成分(A)~(B)、並びに、必要に応じて、成分(C)~(E)及び他の成分を配合する工程を有する、方法であることが好ましい。各成分の配合の順序は適宜設定することができる。
【0059】
<金属加工油の各種性状>
本発明の一態様の金属加工油において、硫黄原子の含有量は、当該金属加工油の全量(100質量%)基準で、耐焼き付き性をより向上させた金属加工油とする観点から、好ましくは6.5質量%以上、より好ましくは7.0質量%以上、更に好ましくは7.5質量%以上、より更に好ましくは8.0質量%以上、特に好ましくは8.5質量%以上であり、また、臭気の発生等による作業環境の悪化を回避する観点から、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは17質量%以下、より更に好ましくは15質量%以下、特に好ましくは12質量%以下である。
【0060】
本発明の一態様の金属加工油は、油剤のまま用いられることが好ましく、その点で、水で希釈して用いる水溶性金属加工油剤とは区別される。
そのため、本発明の一態様の金属加工油において、水の含有量は、安定性及び加工対象である金属材の腐食を抑制する観点から、少ないほど好ましく、具体的には、前記金属加工油の全量(100質量%)基準で、好ましくは1.0質量%未満、より好ましくは0.1質量%未満、更に好ましくは0.01質量%未満、より更に好ましくは0.001質量%未満である。
【0061】
本発明の一態様の金属加工油は、後述の実施例の方法に基づき実施された、ボール通し試験における最大減面率としては、好ましくは5%以上、より好ましくは6%以上、更に好ましくは8%以上である。
【0062】
〔金属加工油の用途、金属加工方法〕
本発明の好適な一態様の金属加工油は、低粘度性及び耐焼き付き性のバランスに優れている。そのため、当該金属加工油は、金属材の塑性加工に適している。
本発明の一態様の金属加工油を用いて加工する金属材としては、特に制限は無いが、例えば、鋼、ステンレス鋼、合金鋼、表面処理鋼等の鉄合金や、アルミ合金、銅、チタン、チタン合金、ニッケル基合金、ニオブ合金、タンタル合金、モリブデン合金、タングステン合金等の非鉄合金が挙げられる。
【0063】
そして、本発明の一態様の金属加工油は、上述の金属材のプレス加工、引抜き加工、しごき加工、曲げ加工、転造加工、及び冷間鍛造加工等に好適に用いることができ、特に、金属材の冷間鍛造加工に用いられることが好ましい。
【0064】
そのため、本発明は、次の態様も提供する。
〔1〕上述の本発明の一態様の金属加工油を、金属材の冷間鍛造加工に適用する、使用。
〔2〕上述の本発明の一態様の金属加工油を用いて、金属材の冷間鍛造加工を行う、金属加工方法。
【0065】
上記〔1〕及び〔2〕に記載の金属材、及び、金属加工油の詳細は、上述のとおりである。
なお、上記〔1〕の使用、及び、上記〔2〕の金属加工方法において、金属加工油は、被加工材である金属材に接触させて使用される。
【実施例
【0066】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。なお、各種物性の測定法、及び、圧力上昇下での液体から固体への相転移の有無の確認方法は、下記のとおりである。
【0067】
(1)動粘度、粘度指数
JIS K2283:2000に準拠して測定及び算出した。
(2)硫黄原子の含有量
JIS K2541-6:2013に準拠して測定した。
(3)融点
示差走査型熱量計(DSC)を用いて、以下の方法で測定した。
試料を窒素雰囲気下、-10℃で5分間保持した後、10℃/分で190℃まで昇温させ、190℃で5分間保持した。次いで、-10℃まで、5℃/分で降温させ、-10℃で5分間保持した。その後に、190℃まで10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブから観測されるピークを融点(Tm)とした。
(4)流動点
JIS K2269に準拠して測定した。
(5)圧力上昇下での液体から固体への相転移の有無の確認
図1に示すような相転移挙動確認用高圧試験装置を用いて、対象となる成分の圧力上昇下での液体から固体への相転移の有無を確認した。
図1に示す相転移挙動確認用高圧試験装置1は、測定対象の化合物を入れる筒状の空間10の側面に、水平方向で一直線上に互いに向かい合う位置に2つの観察窓11、12を有し、一方の観察窓11の空間10の外側にはLED光源20が設置されており、もう一方の観察窓12の筒状の空間10の外側には光学顕微鏡30が設置されている。なお、LED光源20、観察窓11、観察窓12、及び光学顕微鏡30は、水平方向に平行となるように一直線上に設置されている。また、筒状の空間10の上方には、鉛直方向に移動可能なプランジャー40が設けられており、鉛直方向の荷重をかけることで、筒状の空間10に入れられた測定対象の化合物に加圧することができるように設計されている。
このような相転移挙動確認用高圧試験装置1を用いて、まず、測定対象となる化合物を筒状の空間10に入れた。そして、30℃にて、プランジャー40を下げて、光学顕微鏡30により観察し、当該化合物に圧力を印加していく際の化合物の状態を動画で撮影した。そして、その動画から、当該化合物が液体から固体に変わり始めた際の圧力を「相転移圧力(MPa)」とし、相転移の有無の確認をした。
【0068】
実施例1~4、比較例1~6
表1に示す種類及び配合量にて、成分(A)~(D)及び流動点降下剤を配合して、金属加工油をそれぞれ調製した。
これらの金属加工油の調製に使用した各成分の詳細は以下のとおりである。
[成分(A):基油]
・ナフテン系基油(a-1):40℃動粘度=484.7mm/s、粘度指数=36のナフテン系基油。
・ナフテン系基油(a-2):40℃動粘度=27.77mm/s、粘度指数=2のナフテン系基油。
・ナフテン系基油(a-3):40℃動粘度=45.40mm/s、粘度指数=27のナフテン系基油。
[成分(B):相転移化合物]
・メチルステアレート:前記一般式(b-1)中のR=C17アルキル基、R=メチル基である化合物。0.1MPa下では液体であるが、相転移圧力=75MPaで液体から固体への相転移が確認された相転移化合物。融点=37~41℃。
・ブチルステアレート:前記一般式(b-1)中のR=C17アルキル基、R=n-ブチル基である化合物。0.1MPa下では液体であるが、相転移圧力=160MPaで液体から固体への相転移が確認された相転移化合物。融点=17~22℃。
[成分(C):硫黄系極圧剤]
・粉末硫黄
・ポリスルフィド:平均硫黄鎖長が5であるポリスルフィド。
[成分(D):相転移化合物には該当しない、脂肪酸及び脂肪酸エステル]
・オレイン酸:0.1~300MPaの圧力下で液体であり、相転移は生じない成分。融点=13.4℃。
・ジペンタエリスリトールエステル:0.1~300MPaの圧力下で液体であり、相転移は確認されなかった成分。流動点=2.5℃。
・トリグリセリド::0.1~300MPaの圧力下で液体であり、相転移は確認されなかった成分。流動点=7.5℃。
[成分(E):流動点降下剤]
・ポリメタクリレート
【0069】
調製した金属加工油について、40℃及び100℃における動粘度、粘度指数、硫黄原子の含有量を測定又は算出すると共に、以下に示す手順でボール通し試験を行い、耐焼き付き性を評価した。これらの結果を表1に示す。
【0070】
[ボール通し試験]
日本塑性工学会誌「塑性と加工」第34巻(第393号)1178-1183頁(1993年)に記載の方法に準拠したボール通し試験を行った。
まず、円筒状の試験片の筒内に、実施例及び比較例で調製した金属加工油を塗布し、その筒内に一端から、鋼球を押し込んで通過させたときの試験片の内壁の焼き付き状況を観察した。なお、試験片の筒の内口径は、減面率(試験片に対して鋼球を挿入していく方向において、最初の面積を基準として、挿入の後で変化する面積)が4%、6%、8%となるように調整されたものを用意した。
そして、減面率が4%、6%、8%となる試験片をそれぞれ用いて、ボール通し試験を行い、試験後の筒内の焼き付き状況を観察し、標準的な焼き付きサンプルと比較し、焼き付きの有無を確認した。なお、各金属加工油を用いた場合において、焼き付きの発生が確認された試験片のうち、減面率が一番小さいものを、その金属加工油の「ボール通し試験における最大減面率」とした。当該最大減面率が大きいほど、耐焼き付き性に優れた金属加工油であるといえる。
なお、ボール通し試験の諸条件は以下のとおりである。
・試験片:外径=30.00mm、内径=15.00mm(減面率4%)、14.50mm(減面率6%)、15.00mm(減面率8%)、材質=S10C
・鋼球:外径=15.88mm(減面率4%又は6%)、16.67mm(減面率8%又は10%)、材質=SUJ2
・鋼球の試験片の口内への押し込み速度=200mm/s
【0071】
【表1】
【0072】
表1より、実施例1~4で調製した金属加工油は、低粘度でありつつも、ボール通し試験における最大減面率が6%以上と高く、耐焼き付き性に優れた結果となった。また、実施例3及び4の金属加工油は、流動点降下剤を配合しているが、実施例1及び2と比べても、良好な耐焼き付き性が維持され得ることが分かる。
一方で、比較例1~6で調製した金属加工油は、低粘度及び耐焼き付き性の少なくとも一方が劣る結果となった。
【符号の説明】
【0073】
1 相転移挙動確認用高圧試験装置
10 筒状の空間
11、12 観察窓
20 LED光源
30 光学顕微鏡
40 プランジャー
図1