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特許7519442直流高電圧源装置および荷電粒子ビーム装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】直流高電圧源装置および荷電粒子ビーム装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/28 20060101AFI20240711BHJP
   H02M 3/07 20060101ALI20240711BHJP
   H01J 37/248 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
H02M3/28 W
H02M3/07
H01J37/248 B
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2022538563
(86)(22)【出願日】2020-07-22
(86)【国際出願番号】 JP2020028562
(87)【国際公開番号】W WO2022018873
(87)【国際公開日】2022-01-27
【審査請求日】2022-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 智世
【審査官】福田 正悟
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-155857(JP,A)
【文献】特開2004-135363(JP,A)
【文献】特開2008-269915(JP,A)
【文献】特開2017-158277(JP,A)
【文献】特開2007-236099(JP,A)
【文献】特開2005-294004(JP,A)
【文献】特開2007-037268(JP,A)
【文献】実開平06-070492(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/28
H02M 3/07
H01J 37/248
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1可変直流電圧源と、
第2可変直流電圧源と、
前記第1可変直流電圧源の直流電圧から交流電圧を生成する第1スイッチング回路と、
前記第2可変直流電圧源の直流電圧から交流電圧を生成する第2スイッチング回路と、
前記第1スイッチング回路で生成される前記交流電圧と、前記第2スイッチング回路で生成される前記交流電圧とに基づき直流高電圧を生成する直流高電圧生成回路と、
コンピュータシステムと、
を含む第1電圧源を備え、
前記コンピュータシステムは、前記第1可変直流電圧源の前記直流電圧の電圧値と、前記第2可変直流電圧源の前記直流電圧の電圧値と、前記第1スイッチング回路のスイッチングタイミングと、前記第2スイッチング回路のスイッチングタイミングと、を独立して調整し、
前記直流高電圧生成回路は、前記第1スイッチング回路で生成される前記交流電圧および前記第2スイッチング回路で生成される前記交流電圧が入力される2入力の対称型コッククロフト・ウォルトン回路である、
直流高電圧源装置。
【請求項2】
請求項に記載の直流高電圧源装置において、
前記直流高電圧生成回路は、複数のダイオードおよび複数のコンデンサで構成され、前前記第1スイッチング回路側の第1入力端と出力端との間の回路構成は、前記第2スイッチング回路側の第2入力端と前記出力端との間の回路構成と対称である、
直流高電圧源装置。
【請求項3】
第1可変直流電圧源と、
第2可変直流電圧源と、
前記第1可変直流電圧源の直流電圧から交流電圧を生成する第1スイッチング回路と、
前記第2可変直流電圧源の直流電圧から交流電圧を生成する第2スイッチング回路と、
前記第1スイッチング回路で生成される前記交流電圧と、前記第2スイッチング回路で生成される前記交流電圧とに基づき直流高電圧を生成する直流高電圧生成回路と、
コンピュータシステムと、
を含む第1電圧源を備え、
前記コンピュータシステムは、前記第1可変直流電圧源の前記直流電圧の電圧値と、前記第2可変直流電圧源の前記直流電圧の電圧値と、前記第1スイッチング回路のスイッチングタイミングと、前記第2スイッチング回路のスイッチングタイミングと、を独立して調整し、
前記直流高電圧生成回路は、前記第1スイッチング回路で生成される前記交流電圧が入力される1入力の基本型コッククロフト・ウォルトン回路であり、前記第2スイッチング回路で生成される前記交流電圧が入力され、出力端と静電結合する信号線を備えている、
直流高電圧源装置。
【請求項4】
請求項1に記載の直流高電圧源装置において、
前記直流高電圧生成回路は、複数のダイオードおよび複数のコンデンサで構成され、前記第1スイッチング回路で生成される前記交流電圧および前記第2スイッチング回路で生成される前記交流電圧が入力される2入力の整流回路である、
直流高電圧源装置。
【請求項5】
第1可変直流電圧源と、
第2可変直流電圧源と、
前記第1可変直流電圧源の直流電圧から交流電圧を生成する第1スイッチング回路と、
前記第2可変直流電圧源の直流電圧から交流電圧を生成する第2スイッチング回路と、
前記第1スイッチング回路で生成される前記交流電圧と、前記第2スイッチング回路で生成される前記交流電圧とに基づき直流高電圧を生成する直流高電圧生成回路と、
コンピュータシステムと、
を含む第1電圧源を備え、
前記コンピュータシステムは、前記第1可変直流電圧源の前記直流電圧の電圧値と、前記第2可変直流電圧源の前記直流電圧の電圧値と、前記第1スイッチング回路のスイッチングタイミングと、前記第2スイッチング回路のスイッチングタイミングと、を独立して調整し、
前記直流高電圧生成回路は、前記第1スイッチング回路で生成される前記交流電圧および前記第2スイッチング回路で生成される前記交流電圧が入力される2入力のシェンケル型の直流高電圧生成回路である、
直流高電圧源装置。
【請求項6】
請求項1に記載の直流高電圧源装置において、
前記第1スイッチング回路で生成される前記交流電圧を変圧する第1変圧器と、
前記第2スイッチング回路で生成される前記交流電圧を変圧する第2変圧器と、
を備え、
前記直流高電圧生成回路は、前記第1変圧器から供給される変圧後の前記交流電圧と、前記第2変圧器から供給される変圧後の前記交流電圧とに基づき前記直流高電圧を生成する、
直流高電圧源装置。
【請求項7】
第1可変直流電圧源と、
第2可変直流電圧源と、
前記第1可変直流電圧源の直流電圧から交流電圧を生成する第1スイッチング回路と、
前記第2可変直流電圧源の直流電圧から交流電圧を生成する第2スイッチング回路と、
前記第1スイッチング回路で生成される前記交流電圧と、前記第2スイッチング回路で生成される前記交流電圧とに基づき直流高電圧を生成する直流高電圧生成回路と、
コンピュータシステムと、
を含む第1電圧源を備え、
前記コンピュータシステムは、前記第1可変直流電圧源の前記直流電圧の電圧値と、前記第2可変直流電圧源の前記直流電圧の電圧値と、前記第1スイッチング回路のスイッチングタイミングと、前記第2スイッチング回路のスイッチングタイミングと、を独立して調整し、
前記コンピュータシステムは、ディジタル乗算器と、前記第1可変直流電圧源に対応する第1ディジタル-アナログ変換器と、前記第2可変直流電圧源に対応する第2ディジタル-アナログ変換器と、を備え、
前記第1ディジタル-アナログ変換器は、前記第1可変直流電圧源の電圧を規定する制御信号をアナログ信号に変換し、前記第1可変直流電圧源に供給することで前記第1可変直流電圧源の前記電圧を調整し、
前記ディジタル乗算器は、前記制御信号と、前記第1可変直流電圧源に対する前記第2可変直流電圧源の電圧の比率を示す電圧調整比とを乗算し、
前記第2ディジタル-アナログ変換器は、前記ディジタル乗算器の乗算値をアナログ信号に変換し、前記第2可変直流電圧源に供給することで前記第2可変直流電圧源の前記電圧を調整する、
直流高電圧源装置。
【請求項8】
第1可変直流電圧源と、
第2可変直流電圧源と、
前記第1可変直流電圧源の直流電圧から交流電圧を生成する第1スイッチング回路と、
前記第2可変直流電圧源の直流電圧から交流電圧を生成する第2スイッチング回路と、
前記第1スイッチング回路で生成される前記交流電圧と、前記第2スイッチング回路で生成される前記交流電圧とに基づき直流高電圧を生成する直流高電圧生成回路と、
コンピュータシステムと、
を含む第1電圧源を備え、
前記コンピュータシステムは、前記第1可変直流電圧源の前記直流電圧の電圧値と、前記第2可変直流電圧源の前記直流電圧の電圧値と、前記第1スイッチング回路のスイッチングタイミングと、前記第2スイッチング回路のスイッチングタイミングと、を独立して調整し、
前記コンピュータシステムは、位相シフターを備え、
前記第1スイッチング回路のスイッチングタイミングを制御する周期的なパルス波形は、前記第1スイッチング回路に供給され、
前記位相シフターは、前記第1可変直流電圧源に対する前記第2可変直流電圧源のスイッチングタイミングの時間差を規定する遅延時間に基づき、前記パルス波形に遅延を与えることで前記第2スイッチング回路のスイッチングタイミングを調整する、
直流高電圧源装置。
【請求項9】
請求項1に記載の直流高電圧源装置において、
前記直流高電圧生成回路の出力端と前記コンピュータシステムとの間に、ハイパスフィルターとバンドパスフィルターとが直列に接続される、
直流高電圧源装置。
【請求項10】
請求項1に記載の直流高電圧源装置において、
前記直流高電圧生成回路の出力端と前記コンピュータシステムとの間に、ハイパスフィルターとローパスフィルターとが直列に接続される、
直流高電圧源装置。
【請求項11】
第1可変直流電圧源と、
第2可変直流電圧源と、
前記第1可変直流電圧源の直流電圧から交流電圧を生成する第1スイッチング回路と、
前記第2可変直流電圧源の直流電圧から交流電圧を生成する第2スイッチング回路と、
前記第1スイッチング回路で生成される前記交流電圧と、前記第2スイッチング回路で生成される前記交流電圧とに基づき直流高電圧を生成する直流高電圧生成回路と、
コンピュータシステムと、
を含む第1電圧源を備え、
前記コンピュータシステムは、前記第1可変直流電圧源の前記直流電圧の電圧値と、前記第2可変直流電圧源の前記直流電圧の電圧値と、前記第1スイッチング回路のスイッチングタイミングと、前記第2スイッチング回路のスイッチングタイミングと、を独立して調整し、
前記コンピュータシステムは、外部に設けられたリップル測定装置による前記直流高電圧のリップルの測定結果に基づき、前記第1可変直流電圧源の電圧および前記第2可変直流電圧源の電圧の制御、前記第1スイッチング回路および前記第2スイッチング回路のスイッチングタイミング制御を行う、
直流高電圧源装置。
【請求項12】
請求項1に記載の直流高電圧源装置において、
前記第1電圧源と直列に接続された第2電圧源を備えた、
直流高電圧源装置。
【請求項13】
請求項1に記載の直流高電圧源装置と、
前記直流高電圧源装置の出力端と接続される荷電粒子銃と、
を備えた、
荷電粒子ビーム装置。
【請求項14】
直流高電圧源装置と、前記直流高電圧源装置の出力端と接続される荷電粒子銃と、を備えた、荷電粒子ビーム装置であって、
前記荷電粒子ビーム装置の制御を行う荷電粒子ビーム装置コンピュータシステムを備え、
前記直流高電圧源装置は、
第1可変直流電圧源と、
第2可変直流電圧源と、
前記第1可変直流電圧源の直流電圧から交流電圧を生成する第1スイッチング回路と、
前記第2可変直流電圧源の直流電圧から交流電圧を生成する第2スイッチング回路と、
前記第1スイッチング回路で生成される前記交流電圧と、前記第2スイッチング回路で生成される前記交流電圧とに基づき直流高電圧を生成する直流高電圧生成回路と、
コンピュータシステムと、
を含む第1電圧源を備え、
前記コンピュータシステムは、前記第1可変直流電圧源の前記直流電圧の電圧値と、前記第2可変直流電圧源の前記直流電圧の電圧値と、前記第1スイッチング回路のスイッチングタイミングと、前記第2スイッチング回路のスイッチングタイミングと、を独立して調整し、
前記荷電粒子ビーム装置コンピュータシステムは、荷電粒子ビームを照射して形成された検査画像から取得した指標値により前記直流高電圧のリップルの評価を行い、前記リップルの評価結果に基づき、前記第1可変直流電圧源および前記第2可変直流電圧源の電圧調整情報を生成し、前記コンピュータシステムへ出力し、
前記コンピュータシステムは、電圧調整情報に基づき、前記第1可変直流電圧源および前記第2可変直流電圧源の電圧を調整するそれぞれの電圧調整信号を生成する、
荷電粒子ビーム装置。
【請求項15】
直流高電圧源装置と、前記直流高電圧源装置の出力端と接続される荷電粒子銃と、を備えた、荷電粒子ビーム装置であって、
前記荷電粒子ビーム装置の制御を行う荷電粒子ビーム装置コンピュータシステムを備え、
前記直流高電圧源装置は、
第1可変直流電圧源と、
第2可変直流電圧源と、
前記第1可変直流電圧源の直流電圧から交流電圧を生成する第1スイッチング回路と、
前記第2可変直流電圧源の直流電圧から交流電圧を生成する第2スイッチング回路と、
前記第1スイッチング回路で生成される前記交流電圧と、前記第2スイッチング回路で生成される前記交流電圧とに基づき直流高電圧を生成する直流高電圧生成回路と、
コンピュータシステムと、
を含む第1電圧源を備え、
前記コンピュータシステムは、前記第1可変直流電圧源の前記直流電圧の電圧値と、前記第2可変直流電圧源の前記直流電圧の電圧値と、前記第1スイッチング回路のスイッチングタイミングと、前記第2スイッチング回路のスイッチングタイミングと、を独立して調整し、
前記荷電粒子ビーム装置コンピュータシステムは、荷電粒子ビームを照射して形成された検査画像から取得した指標値により前記直流高電圧のリップルの評価を行い、前記リップルの評価結果に基づき、前記第1スイッチング回路および前記第2スイッチング回路のスイッチングタイミング調整情報を生成し、前記コンピュータシステムへ出力し、
前記コンピュータシステムは、前記スイッチングタイミング調整情報に基づき、前記第1スイッチング回路および前記第2スイッチング回路のスイッチングタイミングを調整するそれぞれのスイッチングタイミング調整信号を生成する、
荷電粒子ビーム装置。
【請求項16】
請求項14に記載の荷電粒子ビーム装置において、
前記指標値は、前記検査画像の分解能、または前記第1スイッチング回路または前記第2スイッチング回路のスイッチング周波数と同期するビーム揺れ量である、
荷電粒子ビーム装置。
【請求項17】
請求項13に記載の荷電粒子ビーム装置において、
前記直流高電圧源装置の少なくとも一部が、絶縁用ガス、絶縁用オイル、または絶縁用樹脂材のいずれかに実装された、
荷電粒子ビーム装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、直流高電圧源装置および直流高電圧源装置を備えた荷電粒子ビーム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子ビーム装置には、走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)、走査イオン顕微鏡(Scanning Ion Microscope:SIM)、収束イオンビーム(Focused Ion Beam:FIB)加工観察装置、透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)、走査透過電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope:STEM)等がある。
【0003】
走査電子顕微鏡では、試料表面上で電子ビームを走査し、発生した信号電子を検出して画像化することによって、試料の拡大観察等が実施される。走査イオン顕微鏡では、イオンビームを走査することにより、試料の拡大観察等が実施される。収束イオンビーム加工観察装置では、イオンビームを用いた試料の加工や拡大観察が実施される。透過電子顕微鏡や走査透過電子顕微鏡では、薄膜状の試料を透過する電子を結像することにより拡大観察が実施される。
【0004】
このように、電子ビームやイオンビーム等の荷電粒子ビームを用いた荷電粒子ビーム装置は、様々な分野における微細構造の観察、測長、分析、加工等に用いられる。例えば半導体デバイスの製造ラインでは、走査電子顕微鏡を用いた欠陥観察、分析、パターン寸法の測長等が行われる。
【0005】
荷電粒子ビーム装置は、荷電粒子ビームを生成し加速するための荷電粒子銃を備える。荷電粒子銃は、荷電粒子源、引出電極、および加速電極を備える。荷電粒子銃では、荷電粒子源と引出電極との間に数kVの直流高電圧を印加することで、荷電粒子ビームが生成され、引出電極と加速電極との間に数kVから数百kVの直流高電圧を印加することで、荷電粒子ビームが加速される。荷電粒子源と加速電極との間に印加される直流高電圧は、荷電粒子ビームのビームエネルギーに相当し、画像の分解能、焦点深度、試料の加工速度等の荷電粒子ビーム装置の性能を決める主要因の1つである。
【0006】
荷電粒子ビーム装置は、荷電粒子銃に印加する直流高電圧を生成するための直流高電圧源装置を備える。荷電粒子銃用の直流高電圧源装置の多くは、交流電圧を直流電圧に整流し昇圧するための、変圧器とコッククロフト・ウォルトン回路を備える。これらの変圧器およびコッククロフト・ウォルトン回路は、荷電粒子ビーム装置の使用環境において許容されるサイズの範囲内で、絶縁用樹脂材、絶縁用ガス、絶縁用オイル中に実装される。
【0007】
ところで、コッククロフト・ウォルトン回路では、交流電圧が印加される回路部品や配線が発する静電誘導ノイズおよび電磁誘導ノイズ等により、出力部の直流高電圧に交流成分(以下、「リップル」とも呼ぶ)が生じる。荷電粒子銃に印加する直流高電圧のリップルはエネルギー分散と等価である。このため、直流高電圧に生じるリップルは、荷電粒子ビーム装置の分解能を低下させる要因となってしまう。
【0008】
特許文献1には、高周波駆動電極と接地電位部間の距離調整機構を設けることで、両者間の浮遊容量を調整することによって、ノイズバランスを調整しリップルを完全に打ち消すシェンケル型の直流高電圧生成回路が開示されている。
【0009】
特許文献2には、対称型コッククロフト・ウォルトン回路に入力する二つの逆位相の交流電圧を可変するための電圧源を、変圧器の二次コイルに直列に追加することで、可動部なくリップルを低減する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平11-225476号公報
【文献】実開昭63-153788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
可動調整によるリップル低減機構は、対称型コッククロフト・ウォルトン回路にも応用可能である。しかしながら、絶縁用ガスや絶縁用オイル中に実装される回路に特許文献1の技術を適用させるためには、ガス容器やオイル容器の外部から可動部を調整する必要があるが、極めて困難である。また、長期的には、可動部のずれによるリップルの再発生のおそれもある。さらに、絶縁用樹脂材によってモールド(固定)される回路に対しては、可動部を設けることができない。
【0012】
特許文献2には、リップル測定回路を備え、測定したリップル値が所望の値になるように可変電圧を制御する旨、記載されている。しかし、この構成では、以下のような課題がある。
(1)波形の不一致による残留リップル
【0013】
特許文献2には、可変用電圧は、変圧器の二次コイルに励起される電圧波形と同位相で、振幅は電圧調整機構より制御する旨、記載されているが、具体的なコンピュータシステムおよび制御方法について記載されていない。変圧器の一次コイルに供給される交流電圧は、直流電圧に対しスイッチング素子をオン・オフすることで生成される。
【0014】
生成された交流電圧は、変圧器の一次コイルのインダクタンスによって正弦波のような歪み波形となる。変圧器の二次コイルには、一次コイルと同じ電圧波形が振幅を変えて励起されるが、出力段のリップルを完全に打ち消すためには、可変用電圧源においても同じ電圧波形を生成する必要がある。
【0015】
二次コイルに励起される電圧波形と可変用電圧波形とが一致しない場合、リップルが残留し、高電圧化に伴いリップルは大きくなる。また、両者の波形が一致し、リップルを完全に打ち消すことができたとしても、直流高電圧の出力値を変えると電圧波形の振幅が変わるためにリップルが再発し、可変用電圧源の振幅を再調整する必要がある。
(2)リップル測定回路へのノイズ重畳
【0016】
変圧器やコッククロフト・ウォルトン回路の交流印加部が発するノイズがリップル測定回路に重畳すると、直流高電圧の実際のリップル波形と、リップル測定回路において測定したリップル波形との間に差異が生じる。このため、リップル測定値を指標として実出力のリップルをゼロに調整することは極めて困難となる。直流高電圧源を小型化するほど、ノイズがリップル測定回路に重畳しやすくなり、このような現象が顕在化する。
【0017】
このような事情に鑑み、本開示は、直流高電圧に生じるリップルを低減させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、以下のとおりである。
【0019】
本開示の代表的な実施の形態による直流高電圧源装置は、第1可変直流電圧源と、第2可変直流電圧源と、第1可変直流電圧源の直流電圧から交流電圧を生成する第1スイッチング回路と、第2可変直流電圧源の直流電圧から交流電圧を生成する第2スイッチング回路と、第1スイッチング回路で生成される交流電圧を変圧する第1変圧器と、第2スイッチング回路で生成される交流電圧を変圧する第2変圧器と、第1変圧器から供給される変圧後の交流電圧と、第2変圧器から供給される変圧後の交流電圧と、に基づき直流高電圧を生成する直流高電圧生成回路と、コンピュータシステムとを含む第1電圧源を備えている。コンピュータシステムは、第1可変直流電圧源の直流電圧の電圧値と、第2可変直流電圧源の直流電圧の電圧値と、第1スイッチング回路のスイッチングタイミングと、第2スイッチング回路のスイッチングタイミングと、を独立して調整する。
【発明の効果】
【0020】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0021】
すなわち、本開示の代表的な実施の形態によれば、直流高電圧に生じるリップルを低減させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本開示の実施の形態1に係る直流高電圧源装置の構成の一例を示す図である。
図2】第1電圧源の一例を示す回路ブロック図である。
図3】スイッチング回路のスイッチングタイミングを例示する図である。
図4】直流高電圧生成回路の一例を示す回路図である。
図5】直流高電圧生成回路の他の例を示す回路図である。
図6】本開示の実施の形態1の変形例に係るコンピュータシステムの構成の一例を示す回路ブロック図である。
図7】本開示の実施の形態2に係る第1電圧源の一例を示す回路ブロック図である。
図8】本開示の実施の形態3に係る荷電粒子ビーム装置の構成の一例を示す図である。
図9】本開示の実施の形態2における電子銃と直流高電圧源装置との接続関係を例示する図である。
図10】リップル低減方法の一例を示すフロー図である。
図11】リップル低減方法の他の例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本開示の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。以下で説明する各実施の形態は、本開示を実現するための一例であり、本開示の技術範囲を限定するものではない。なお、実施例において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は、特に必要な場合を除き省略する。
(実施の形態1)
<直流高電圧源装置の構成>
【0024】
図1は、本開示の実施の形態1に係る直流高電圧源装置の構成の一例を示す図である。図1に示すように、直流高電圧源装置205は、第2電圧源206、第1電圧源207を備えている。上流側に第1電圧源207、下流側に第2電圧源206がそれぞれ設けられ、第2電圧源206および第1電圧源207は、直列に接続される。
【0025】
第1電圧源207の正極性端子は接地されている。直流高電圧源装置205は、第1電圧源207の出力電圧に第2電圧源206の出力電圧を加算し、その加算電圧を出力する。ただし、直流高電圧源装置205は、第1電圧源207のみで構成されても構わない。
【0026】
図2は、第1電圧源の一例を示す回路ブロック図である。なお、第2電圧源206も、以下で説明する第1電圧源207と同様の構成を備えてもよい。第1電圧源207は、数十kV~数百kVの直流高電圧を生成する回路である。図2に示すように、第1電圧源207は、第1可変直流電圧源301、第2可変直流電圧源302、第1スイッチング回路303、第2スイッチング回路304、コンピュータシステム305、第1変圧器306、第2変圧器307、直流高電圧生成回路308、およびローパスフィルター309を備えている。
【0027】
本開示の直流高電圧源装置205は、例えばコッククロフト・ウォルトン回路等の直流高電圧生成回路308を使う製品に適用可能である。
【0028】
第1可変直流電圧源301は、第1スイッチング回路303の入力端と接続されている。第1スイッチング回路303の出力端は、第1変圧器306の入力端と接続されている。第1変圧器306の出力端は、直流高電圧生成回路308の第1入力端401(図4)と接続されている。第2可変直流電圧源302は、第2スイッチング回路304の入力端と接続されている。第2スイッチング回路304の出力端は、第2変圧器307の入力端と接続されている。第2変圧器307の出力端は、直流高電圧生成回路308の第2入力端402(図4)と接続されている。直流高電圧生成回路308の出力端は、ローパスフィルター309の入力端と接続されている。ローパスフィルター309の出力端は、第2電圧源206の入力端と接続されている。
【0029】
図3は、スイッチング回路のスイッチングタイミングを例示する図である。コンピュータシステム305は、第1可変直流電圧源301の電圧値および第2可変直流電圧源302の電圧値をそれぞれ独立に可変制御する。また、コンピュータシステム305は、第1スイッチング回路303および第2スイッチング回路304のスイッチングタイミングをそれぞれ独立に可変制御する。図3に示すように、第1スイッチング回路303および第2スイッチング回路304のオン・オフのタイミングは、互いに逆にタイミングになっている。すなわち、第1電圧源207の動作時、第1スイッチング回路303がオンのとき、第2スイッチング回路304はオフであり、第1スイッチング回路303がオフのとき、第2スイッチング回路304はオンしている。図3では、ハイレベルのときスイッチング回路がオン状態を示し、ローレベルのときスイッチング回路はオフ状態を示しているものとする。このように、第1スイッチング回路303および第2スイッチング回路304のオン・オフを交互に切り替えることにより、互いに逆位相の交流電圧がそれぞれ生成される。
【0030】
コンピュータシステム305は、第1可変直流電圧源301、第2可変直流電圧源302の電圧値を制御することで、対応する第1変圧器306、第2変圧器307へ入力される交流波形の電圧を制御することができる。また、コンピュータシステム305は、第1スイッチング回路303、第2スイッチング回路304のスイッチングのタイミングを制御することで、交流波形の位相を制御することができる。
【0031】
なお、前述した特許文献2では、変圧器二次コイルの電圧波形の電圧を調整するために、別電圧波形を加算しているが、直流高電圧のノイズを完全に打ち消すためには、調整される電圧波形と加算電圧波形とを一致させなければならない。一方、本実施の形態では、交流電圧の電圧および位相を直接調整しているので、このような特許文献2の課題は生じない。
【0032】
コンピュータシステム305による、第1可変直流電圧源301の電圧値および第2可変直流電圧源302の電圧値の制御、第1スイッチング回路303および第2スイッチング回路304のスイッチングタイミング制御は、例えば、直流高電圧源装置205の外部に設けられたリップル測定装置によるリップルの測定結果に基づいて行われる。なお、直流高電圧源装置205内、あるいは、直流高電圧源装置205の周辺でリップルを測定すると、前述したように、測定回路にノイズが重畳し、リップルを正確に測定できなくなる。このため、リップルの測定は外部装置で行われることが望ましい。
【0033】
コンピュータシステム305は、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)で構成されてもよい。
【0034】
第1スイッチング回路303および第2スイッチング回路304のスイッチング制御により生成される交流電圧は、第1変圧器306、第2変圧器307においてそれぞれ昇圧された後、直流高電圧生成回路308において直流高電圧が生成される。ローパスフィルター309は、例えば抵抗およびコンデンサで構成され、直流高電圧生成回路308の出力(直流高電圧)のリップルを低減し、リップルを低減した直流高電圧を出力する。
<<対称型コッククロフト・ウォルトン回路>>
【0035】
図4は、直流高電圧生成回路の一例を示す回路図である。図4では、直流高電圧生成回路308として、対称型コッククロフト・ウォルトン回路が例示されている。対称型コッククロフト・ウォルトン回路は、第1変圧器306からの交流電圧(第1スイッチング回路303からの交流電圧)が第1入力端401へ入力され、第2変圧器307からの交流電圧(第2スイッチング回路304からの交流電圧)が第2入力端402へ入力される。このように、対称型コッククロフト・ウォルトン回路は、2入力の直流高電圧生成回路である。
【0036】
対称型コッククロフト・ウォルトン回路は、図4に示すように、第1入力端401と出力端405との間のコンデンサおよびダイオードの配置と、第2入力端402と出力端405との間のコンデンサおよびダイオードの配置とが対称になっている。
【0037】
なお、図4の対称型コッククロフト・ウォルトン回路では、交流駆動されるコンデンサ群403と出力端405と間の浮遊容量406、およびコンデンサ群404と出力端405との間の浮遊容量407を介して、静電誘導ノイズが出力端405に重畳するが、浮遊容量406からのノイズと浮遊容量407からのノイズが打ち消し合うため、出力段のリップルは低減される。
<<基本型コッククロフト・ウォルトン回路>>
【0038】
図5は、直流高電圧生成回路の他の例を示す回路図である。図5では、直流高電圧生成回路308として基本型コッククロフト・ウォルトン回路が例示されている。図5に示す基本型コッククロフト・ウォルトン回路は、図4の対称型コッククロフト・ウォルトン回路のうち、第2入力端402側の回路が削除された、1入力の直流高電圧生成回路である。第2入力端402は、配線(信号線)501と接続されているが出力端405とは接続されていない。直流高電圧生成回路308の第2入力端402側は、対称型コッククロフト・ウォルトン回路と同様、第1入力端401とは逆位相の交流電圧で駆動する。出力端405におけるノイズは、配線501と出力端405との間の浮遊容量407によって打ち消され、リップルが低減される。
【0039】
図4または図5のコッククロフト・ウォルトン回路を採用すると、出力端405でのノイズが打ち消され、リップルが低減されるが、回路部品の特性および配置のばらつきによってはノイズの完全な打ち消しは困難となりリップルが残留することとなる。残留リップルは、出力を高電圧化するに従い、または電圧源を小型化するに従い大きくなるため、直流高電圧源の高電圧化、小型化、および低リップル化(高精度化)の三つの両立は困難とされてきた。
【0040】
しかし、すでに述べた通り、コンピュータシステム305は、コッククロフト・ウォルトン回路に入力される2つの逆位相の交流電圧に対し、波形形状を維持したまま電圧と位相とをそれぞれ独立に制御することができるので、従来に比べ直流高電圧のノイズを大幅に低減させることが可能である。
<<直流高電圧生成回路の他の例>>
【0041】
直流高電圧生成回路308は、複数のダイオードおよび複数のコンデンサで構成され、第1スイッチング回路303で生成される交流電圧および第2スイッチング回路304で生成される交流電圧が入力される2入力の整流回路で構成されてもよい。
【0042】
また、直流高電圧生成回路は、第1スイッチング回路303で生成される交流電圧および第2スイッチング回路304で生成される交流電圧が入力される2入力のシェンケル型の直流高電圧生成回路で構成されてもよい。これらの構成においても、高電圧を生成しつつ、リップルを低減させることが可能である。
<その他の構成>
【0043】
第1スイッチング回路303、第2スイッチング回路304に代えて、第1増幅回路、第2増幅回路が設けられてもよい。この場合、第1増幅回路および第2増幅回路は、コンピュータシステム305からの交流信号を増幅し、増幅した交流信号を第1変圧器および第2変圧器にそれぞれ供給することとなる。また、第1変圧器306および第2変圧器307を備えずに、第1増幅回路および第2増幅回路が出力する交流電圧を、直流高電圧生成回路308へ直接に供給するようにしてもよい。これらの構成においても、高電圧を生成しつつ、リップルを低減させることが可能である。
【0044】
これらの場合、第1可変直流電圧源301、第2可変直流電圧源302を省略することが可能である。そして、コンピュータシステム305は、リップルの計測結果に基づき、交流電圧の電圧(振幅)および位相を調整する。
<本実施の形態による主要な効果>
【0045】
本実施の形態によれば、コンピュータシステム305は、第1可変直流電圧源301の直流電圧の電圧値と、第2可変直流電圧源302の直流電圧の電圧値と、第1スイッチング回路303のスイッチングタイミングと、第2スイッチング回路304のスイッチングタイミングと、を独立して調整する。この構成によれば、直流高電圧に生じるリップルを低減させることが可能となる。
【0046】
また、本実施の形態によれば、直流高電圧生成回路は、2入力の対称型コッククロフト・ウォルトン回路で構成される。この構成によれば、入力端から出力端までの回路構成が入力端の間で対称であるため、高電圧が得られつつ、リップルを低減しやすくなる。
【0047】
なお、回路の実装形態によっては、コンデンサ群403、404とローパスフィルター309との間にも浮遊容量が存在し、静電誘導ノイズがローパスフィルターをバイパスし、フィルターの作用なくリップルとして現れることがある。しかし、この場合でも、コンピュータシステム305が、第1可変直流電圧源301の電圧値および第2可変直流電圧源302の電圧値の制御、第1スイッチング回路303および第2スイッチング回路304のスイッチング制御を行うことにより、静電誘導ノイズを含んだ直流高電圧のリップルを低減させることが可能である。
【0048】
また、本実施の形態では、直流高電圧生成回路308に入力される各交流電圧の調整によりリップルを低減できるので、ローパスフィルター309を省略することができる。これにより、直流高電圧源装置205としての応答性を向上させることが可能となる。
【0049】
また、本実施の形態によれば、直流高電圧生成回路308は、1入力の基本型コッククロフト・ウォルトン回路で構成される。このとき、直流高電圧生成回路308は、第2スイッチング回路304で生成される交流電圧が入力される入力端と、入力端と接続され出力端と静電結合する配線501を備えている。この構成によれば、直流高電圧生成回路308の構成を簡略化しつつ、直流高電圧のリップルを低減させることが可能である。
【0050】
変圧器の二次コイルおよびコックロフト・ウォルトン回路の部品には、直流高電圧が放電されたときにサージ電流・電圧が発生するおそれがある。このため、変圧器の二次コイルと直列に可変用電圧源を追加することは、放電による故障リスクの増加につながる可能性がある。
【0051】
しかし、本実施の形態によれば、第1可変直流電圧源301と第1変圧器306との間に第1スイッチング回路303が設けられている。また、第2可変直流電圧源302と第2変圧器307との間に第2スイッチング回路304が設けられている。このように、放電サージが回り込みにくい変圧器の一次コイル側に可変直流電圧源とスイッチング回路とが設けられることで、故障リスクを低減させることが可能である。
[変形例]
【0052】
次に、本実施の形態の変形例について説明する。本変型例では、コンピュータシステムがディジタル回路方式で構成される。図6は、本開示の実施の形態1の変形例に係るコンピュータシステムの構成の一例を示す回路ブロック図である。
【0053】
図6のコンピュータシステム305は、ディジタル乗算器603、第1可変直流電圧源301に対応する第1ディジタル-アナログ変換器605、第2可変直流電圧源302に対応する第2ディジタル-アナログ変換器606、位相シフター608を備えている。
【0054】
本変型例におけるコンピュータシステム305は、例えばFPGA、ASIC、DSP(Digital Signal Processor)等のディジタル回路で構成されてもよいし、少なくとも一部にアナログの乗算器や遅延回路が含まれてもよい。
【0055】
コンピュータシステム305には、出力される直流高電圧に応じて、第1可変直流電圧源301の電圧値を制御するための制御信号601および電圧調整比602がそれぞれ設定される。ここで、制御信号601は、第1可変直流電圧源301の電圧を規定する信号であり、電圧調整比602は、第1可変直流電圧源301に対する第2可変直流電圧源302の電圧の比率を示す値である。なお、制御信号601および電圧調整比602は、外部から入力されたものでもよいし、入力された信号に基づきコンピュータシステム305内部で生成されてもよい。
【0056】
制御信号601は、第1ディジタル-アナログ変換器605によりアナログ信号に変換される。変換後のアナログ信号が第1可変直流電圧源301に供給されることで、第1可変直流電圧源301の電圧が制御(調整)される。
【0057】
一方、ディジタル乗算器603は、制御信号601と電圧調整比602と乗算する。乗算値は、第2ディジタル-アナログ変換器606によりアナログ信号に変換される。変換後のアナログ信号が第2可変直流電圧源302に供給されることで、第2可変直流電圧源302の電圧が制御(調整)される。
【0058】
なお、制御信号601が第2可変直流電圧源302の電圧を規定し、電圧調整比602が、第2可変直流電圧源302に対する第1可変直流電圧源301の電圧の比率を示す値として規定され、ディジタル乗算器603の乗算値が第1可変直流電圧源301に入力されてもよい。
【0059】
また、コンピュータシステム305には、出力される直流高電圧に応じて、第1スイッチング回路303のスイッチングタイミングを制御する周期的なパルス波形607および遅延時間609がそれぞれ設定される。ここで、遅延時間609は、第1可変直流電圧源301に対する第2可変直流電圧源302のスイッチングタイミングの時間差を規定する値である。なお、パルス波形607および遅延時間609は、外部から入力されたものでもよいし、入力された信号に基づきコンピュータシステム305内部で生成されてもよい。
【0060】
パルス波形607は、第1スイッチング回路303へ供給される。これにより、第1スイッチング回路303のスイッチングタイミングが調整され、第1変圧器306へ入力される交流電圧の位相が調整される。一方、位相シフター608は、遅延時間609に基づき、パルス波形607に遅延を与えることで、第2スイッチング回路304のスイッチングタイミングを調整し、パルス波形607の位相を所定の値分シフトさせることができる。位相シフトされたパルス波形607は、第2スイッチング回路304へ供給される。これにより、第2変圧器307へ入力される交流電圧の位相が制御される。
【0061】
なお、第1スイッチング回路303側にのみ位相シフターが設けられてもよいし、第1スイッチング回路303側および第2スイッチング回路304側の両方に位相シフターが設けられてもよい。
本変型例においても、前述した各効果を得ることができる。
(実施の形態2)
【0062】
次に、実施の形態2について説明する。本実施の形態の直流高電圧源装置は、直流高電圧の出力先装置での部分放電による電圧変動を補正するフィードバック機能を備えた構成となっている。図7は、本開示の実施の形態2に係る第1電圧源の一例を示す回路ブロック図である。図7の第1電圧源207は、図2に対し、ローパスフィルター309が削除され、ハイパスフィルター801、およびバンドパスフィルター802が追加された構成となっている。図7に示すように、直流高電圧生成回路308の出力端とコンピュータシステム305との間に、ハイパスフィルター801とバンドパスフィルター802とが直列に接続されている。
【0063】
なお、バンドパスフィルター802は、ローパスフィルターでも構わない。ただし、部分放電の電圧変動に追従できる応答性を実現するため、遮断周波数の十分高いローパスフィルターが用いられる。
【0064】
ハイパスフィルター801の入力端は、直流高電圧生成回路308の出力端と接続されている。ハイパスフィルター801の出力端は、バンドパスフィルター802の入力端と接続されている。バンドパスフィルター802の出力端は、コンピュータシステム305の入力端と接続されている。したがって、本実施の形態の第1電圧源207は、直流高電圧生成回路308で生成された直流高電圧がそのまま出力される構成となっている。
【0065】
ハイパスフィルター801は、例えば、コンデンサおよび抵抗で構成される。ハイパスフィルター801により、直流高電圧の交流成分が検出される。この交流成分には、主に部分放電による電圧変動成分と、コッククロフト・ウォルトン回路の駆動周波数をもつリップル成分とが混在するが、バンドパスフィルター802またはローパスフィルターを介して、リップル成分が除去され、主に部分放電による電圧変動成分のみがコンピュータシステム305へ入力されるようになっている。
【0066】
コンピュータシステム305は、部分放電による電圧変動を補正するように、例えば図6の制御信号601を可変することで、第1可変直流電圧源301および第2可変直流電圧源302の電圧を制御する。
【0067】
図2においても、コンピュータシステム305による電圧および位相の制御によりリップルは殆んど発生しないが、部分放電による電圧変動を補正するためのフィードバックは想定されていないため、ローパスフィルター309が設けられていた。一方、本実施の形態では、ローパスフィルターを無くすことで、リップルの発生を抑えつつ、部分放電の電圧変動に追従する高速な応答性を実現できるようになっている。
【0068】
これにより、部分放電による電圧変動を低減し、直流高電圧の出力先の装置性能の劣化を防止することができる。
【0069】
また、フィードバック信号に対して閾値を設けることで部分放電の回数をカウントし、絶縁破壊に至る前にユーザへ警告することで、故障前に直流高電圧源装置を交換でき、直流高電圧の出力先の装置、すなわち、直流高電圧源装置と接続される装置の稼働率を向上させることが可能となる。
(実施の形態3)
【0070】
次に、実施の形態3について説明する。本実施の形態では、直流高電圧源装置の使用例として荷電粒子ビーム装置について説明する。
<荷電粒子ビーム装置の構成>
【0071】
図8は、本開示の実施の形態3に係る荷電粒子ビーム装置の構成の一例を示す図である。以下では、荷電粒子ビーム装置として走査電子顕微鏡を例に挙げて説明する。走査電子顕微鏡10では、荷電粒子ビーム(103)の生成のために直流高電圧源装置が用いられる。荷電粒子には、例えば電子やイオン等が含まれる。
【0072】
図8に示すように、走査電子顕微鏡10は、電子銃(荷電粒子銃)201、集束レンズの一形態であるコンデンサレンズ104、走査偏向器105、対物レンズ106、真空試料室107、変換電極112、検出器113、コンピュータシステム(荷電粒子ビーム装置コンピュータシステム)120等を備えている。真空試料室107には、試料ステージ108および試料ステージ108に載置された試料109が配置されている。電子銃201は、電子源101や引出電極102等を備えて、直流高電圧源装置205から供給される直流高電圧により電子ビーム103を試料109へ向けて照射する。なお、電子銃201の構成については、後で詳しく説明する。
【0073】
電子ビーム103は、電子源101から引出電極102によって引き出され、図示しない加速電極により試料109へ向けて加速する。電子ビーム103は、コンデンサレンズ104により絞られた後、対物レンズ106のレンズ作用により集束され、試料109へ照射される。このとき、電子ビーム103は、走査偏向器105によりビームの方向が制御され、試料109を1次元的または2次元的に走査する。
【0074】
また、電子ビーム103は、試料109へ到達する前に、試料ステージ108に内蔵された図示しない電極に印加される電圧により減速される。例えば、電子の場合、試料ステージ108の電極には負電圧が印加される。
【0075】
電子ビーム103が試料109に照射されると、ビーム照射個所から2次電子や後方散乱電子を含む電子110が放出される。電子110は、試料109に印加される電圧に基づく加速作用によって、電子源101側へ加速される。電子110が変換電極112に衝突すると、2次電子111が放出される。変換電極112から放出された2次電子111は、検出器113によって捕捉され、捕捉された2次電子量によって、検出器113の出力が変化する。この出力に応じて図示しない表示装置の輝度が変化する。例えば2次元像を形成する場合、走査偏向器105への偏向信号と、検出器113の出力との同期をとることにより、走査領域の画像を形成する。なお、走査偏向器105には、視野内を2次元的に走査する偏向信号に加え、視野を移動させるための偏向信号が重畳して供給されてもよい。
【0076】
偏向信号による電子ビームの偏向は、イメージシフト偏向とも呼ばれ、試料ステージ108により試料109を移動させることなく、電子顕微鏡の視野位置の移動を可能とするものである。本実施形態ではイメージシフト偏向と走査偏向とを共通の偏向器によって実施する例が示しているが、イメージシフト用の偏向器と走査用の偏向器とが別に設けられてもよい。
【0077】
コンピュータシステム120は、例えば、走査電子顕微鏡10の各構成部を制御する機能、検出された電子に基づいて画像を形成する機能、ラインプロファイルと呼ばれる検出電子の強度分布に基づいて、試料上に形成されたパターンのパターン幅を測定する機能等を備えている。
【0078】
また、コンピュータシステム120は、真空試料室107内の静電チャックに設けられる圧力計130のモニタ結果に基づいて、試料109あるいは試料ステージ108に対する印加電圧を制御や走査電子顕微鏡10の制御を行うことで、測定を実行または中断させる。
【0079】
コンピュータシステム120には、検出信号に基づいて生成された画像を評価するコンピュータシステムを備え、コンピュータシステムにおいて各演算処理が実行される。なお、画像を評価するコンピュータシステムは、走査電子顕微鏡10の各種制御を行うコンピュータシステムとは別体で設けられてもよい。
【0080】
コンピュータシステム120で実行させる各種プログラムを格納する記憶媒体を備えている。このプログラムには、走査電子顕微鏡10の各構成要素を駆動させるプログラムや、後述する図10図11のフローを実行するプログラム等が含まれる。また、この記憶媒体は、直流高電圧源装置205のコンピュータシステム305で実行させるプログラムを格納してもよい。なお、コンピュータシステム305が、自身で実行させるプログラムを格納してもよい。また、これらの記憶媒体は、コンピュータシステム120、305とは別体で設けられてもよい。
【0081】
図9は、本開示の実施の形態2における電子銃と直流高電圧源装置との接続関係を例示する図である。図9に示すように、電子銃201および直流高電圧源装置205は、接続ケーブルCABを介して互いに接続されている。例えば、電子銃201は直流高電圧源装置205の出力端と接続ケーブルCABを介して接続されている。電子銃201は、例えば冷陰極電界放出型(Cold Field Emission)電子銃である。
【0082】
本実施の形態では、直流高電圧源装置205の少なくとも一部は、絶縁用ガス、絶縁用オイル、または絶縁用樹脂材のいずれかに実装される。絶縁材を用いることで直流高電圧源装置205の絶縁力を向上させることができるので、直流高電圧源装置205を小型化することが可能となる。なお、直流高電圧源装置205が小型化されることで、静電結合やノイズ重畳が発生しやすくなる可能性があるが、直流高電圧生成回路308の入力系統ごとに、可変直流電圧源の電圧、スイッチング回路のスイッチングタイミングをそれぞれ調整することができるので、リップル低減の制御に影響はない。
【0083】
電子銃201は、図9に示すように、電子のエミッタとなる電子源101、引出電極102、加速電極204を備えている。電子源101は、配線209を介して、第2電圧源206の出力端と接続されており、電子源101には、直流高電圧源装置205で生成された直流高電圧が供給される。
【0084】
第1エンクロージャー210は、第2電圧源206、電流源208、配線209、電子源101を覆うように設けられている。また、図9に示すように、第1エンクロージャー210は、第1電圧源207の出力端と引出電極102とを接続している。第2エンクロージャー211は、第1電圧源207、第1エンクロージャー210を覆うように設けられている。すなわち、第2エンクロージャー211は、直流高電圧源装置205の筐体の機能を備えている。第2エンクロージャー211(すなわち筐体)は、グラウンドに接地され、加速電極204をグラウンドと接続している。これにより、加速電極204の電位は、第1電圧源207の基準電位(図9では接地(グラウンド)電位)に設定される。
【0085】
これにより、加速電極204と引出電極102との間に印加電圧が生成され、この電圧に重畳する第2電圧源206により引出電極102と電子源101間の印加電圧が生成される。
【0086】
一方、一般的な構成として、第1電圧源207により加速電極204と電子源101との間の印加電圧を生成し、この電圧に重畳する第2電圧源206により電子源101と引出電極102との間の印加電圧を生成することもできる。いずれの構成においても、第2電圧源206で数kVの直流高電圧が、第1電圧源207で数十から数百kVの直流高電圧がそれぞれ生成される。
【0087】
図9の直流高電圧源装置205では、第2電圧源206の出力端に2本の配線209が接続され、そのうちの一方に電流源208が設けられている。電流源208は、第2電圧源206の出力端に対して直列接続されており、粒子等で汚染された電子源101をクリーニングするための電流を配線209を介して電子源101に供給する。
<リップル低減方法(1)>
【0088】
次に、荷電粒子ビーム装置におけるリップル低減方法の例について説明する。図10は、リップル低減方法の一例を示すフロー図である。図10には、ステップS701~S708が含まれる。ステップS701~S704は、電圧の調整に関わるステップであり、ステップS705~S708は、位相の調整に関わるステップである。
【0089】
ステップS701において、図8のコンピュータシステム120は、取得した指標値によりリップルの評価を行う。指標値として、例えば、SEM画像(検査画像)の分解能、スイッチング周波数と同期するビーム揺れ量等が指標値として用いられる。また、これら以外にも、直流高電圧源装置205の出力を、装置外部のリップル計測装置に接続し、リップル計測装置により直接計測したリップル計測値を指標値としてもよい。いずれの指標値の取得時においても、直流高電圧源装置の内部に備える測定系は用いられない。
【0090】
ステップS702では、ステップS701における指標値の評価によるリップルの評価結果に基づく第1可変直流電圧源301、第2可変直流電圧源302の電圧の調整が行われる。コンピュータシステム120は、リップルの評価結果に基づき、第1可変直流電圧源301および第2可変直流電圧源302の電圧調整情報を生成し、コンピュータシステム305へ出力する。コンピュータシステム305は、入力された電圧調整情報に基づき、第1可変直流電圧源301および第2可変直流電圧源302の電圧を調整するそれぞれの電圧調整信号を生成し、生成した電圧調整信号を第1可変直流電圧源301および第2可変直流電圧源302へそれぞれ出力する。
【0091】
あるいは、コンピュータシステム305が図6の構成である場合、コンピュータシステム120は、指標値の評価結果に基づき、図6の制御信号601および電圧調整比602を生成し、コンピュータシステム305へ出力する。コンピュータシステム305は、入力された制御信号601および電圧調整比602に基づき、アナログ信号の電圧調整信号をそれぞれ生成し、生成した電圧調整信号を第1可変直流電圧源301および第2可変直流電圧源302へそれぞれ出力する。なお、制御信号601は変更せず、電圧調整比602のみ変更することで電圧の調整を行ってもよい。
【0092】
このように、第1可変直流電圧源301および第2可変直流電圧源302の電圧の調整が行われる。
【0093】
ステップS703では、ステップS702における電圧調整後に取得した指標値によるリップルの評価を行う。ステップS703の処理は、ステップS701と同様であるので、詳細は省略する。
【0094】
ステップS704では、ステップS703における評価結果に基づき、指標値が許容範囲内であるかどうかが判定される。指標値が許容範囲内である場合(Yes)、ステップS705の処理が実行される。一方、指標値が許容範囲内でない場合(No)、ステップS701に戻り、ステップS701~S704の処理が再度実行される。すなわち、指標値が許容範囲内でない場合、電圧調整比602等の調整が再度行われることとなる。
【0095】
なお、ステップS704までは、位相の調整が行われていないので、指標値が許容範囲に入らない場合もあり得る。この場合には、一時的に許容範囲を緩和することで、遅滞なく位相の調整を行うステップへ移行させるようにしてもよい。
【0096】
ステップS705では、指標値によるリップルの評価が行われる。ここで評価される指標値は、例えば、直前のステップS703において取得した値である。ステップS705では、位相調整の観点から指標値の評価を再度行う。
【0097】
ステップS706では、ステップS705における指標値の評価による、リップルの評価結果に基づく第1スイッチング回路303、第2スイッチング回路304のスイッチングタイミング、すなわち、第1変圧器306、第2変圧器307に供給される交流電圧の位相の調整が行われる。コンピュータシステム120は、指標値の評価結果に基づき、第1スイッチング回路303、第2スイッチング回路304のスイッチングタイミング調整情報を生成し、コンピュータシステム305へ出力する。コンピュータシステム305は、入力されたスイッチングタイミング調整情報に基づき、第1スイッチング回路303および第2スイッチング回路304のスイッチングタイミングを調整するそれぞれのスイッチングタイミング調整信号を生成し、生成したスイッチングタイミング調整信号を第1スイッチング回路303および第2スイッチング回路304へそれぞれ出力する。
【0098】
あるいは、コンピュータシステム305が図6の構成の場合、コンピュータシステム120は、指標値の評価結果に基づき、図6の遅延時間609を生成し、コンピュータシステム305へ出力する。コンピュータシステム305は、入力された遅延時間609に基づき位相調整信号を生成し、生成した位相調整信号を位相シフター608へ出力する。なお、パルス波形607は変更せず、第2スイッチング回路304の遅延時間のみ変更することで位相の調整を行ってもよい。なお、第1スイッチング回路303との接続ノードに位相シフターが設けられる場合、コンピュータシステムは、位相シフターごとの位相調整信号を生成する。
【0099】
このように、第1スイッチング回路303、第2スイッチング回路304で生成される交流電圧の位相の調整が行われる。
【0100】
ステップS707では、ステップS706における位相調整後に取得した指標値によるリップルの評価を行う。ステップS707の処理は、ステップS705と同様であるので、詳細は省略する。
【0101】
ステップS708では、ステップS707における評価結果に基づき、指標値が許容範囲内であるかどうかが判定される。指標値が許容範囲内である場合(Yes)、リップルの調整は終了する。一方、指標値が許容範囲内でない場合(No)、ステップS705に戻り、ステップS705~S708の処理が再度実行される。すなわち、指標値が許容範囲内でない場合、遅延時間609の調整が再度行われることとなる。
<リップル低減方法(2)>
【0102】
次に、荷電粒子ビーム装置におけるリップル低減方法の他の例について説明する。図11は、リップル低減方法の他の例を示すフロー図である。図11では、図10にステップS709が追加されており、電圧の調整および位相の調整が行われた後、電圧の調整ができるようなフローとなっている。
【0103】
ステップS709では、位相の調整を行った後、電圧の再調整が必要ないかどうかが判定される。電圧の再調整を行うかどうかは、ユーザーが選択してもよいし、例えば位相調整後の指標値が所定の範囲内にあるかどうかによって自動で判断されてもよい。この場合、位相調整後の指標値が所定の範囲内でなければ、電圧の再調整が必要であると判定される(No)。一方、位相調整後の指標値が所定の範囲内であれば、電圧の再調整は必要でないと判定される(Yes)。
【0104】
なお、図10図11では、電圧の調整を行った後に位相の調整が行われる場合が示されているが、位相の調整を行った後に電圧の調整が行われてもよい。この場合、図11のステップS709では、位相の再調整が必要ないかどうかが判定される。
<本実施の形態による主要な効果>
【0105】
本実施の形態によれば、直流高電圧源装置205が電子銃201と接続され、直流高電圧が電子の照射に用いられる。この構成によれば、リップルを低減させた高品質な電子ビームを照射することができ、検査画像における分解能を向上させることが可能となる。
【0106】
また、本実施の形態によれば、コンピュータシステム120は、リップルの評価結果に基づき、第1可変直流電圧源301および第2可変直流電圧源302の電圧調整情報を生成し、コンピュータシステム305へ出力する。この構成によれば、直流高電圧源装置205にノイズを重畳させることなくリップルを評価することができる。これにより、リップルをより確実に低減させることが可能となる。
【0107】
また、本実施の形態によれば、コンピュータシステム120は、リップルの評価結果に基づき、第1スイッチング回路303および第2スイッチング回路304のスイッチングタイミング調整情報を生成し、コンピュータシステム305へ出力する。この構成によれば、直流高電圧源装置205にノイズを重畳させることなくリップルを評価することができる。これにより、リップルをより確実に低減させることが可能となる。
【0108】
また、本実施の形態によれば、指標値は、検査画像の分解能、または第1スイッチング回路303または第2スイッチング回路304のスイッチング周波数と同期するビーム揺れ量である。この構成によれば、直流高電圧源装置205にノイズを重畳させることなくリップルを評価することができる。これにより、リップルをより確実に低減させることが可能となる。
【0109】
電圧調整比602および遅延時間609は相対的な値である。このため、直流高電圧の電圧値が変わり、第1可変直流電圧源301の電圧値を制御する制御信号601が変わった場合でも電圧調整比602および遅延時間609の再調整を行うことなく、リップルを低減させることが可能となる。また、装置間の機差低減を目的とする場合は、各指標値を最適値にするのではなく、他の装置と揃えるように電圧調整比602および遅延時間609を調整すればよい。
【0110】
小型化された直流高電圧源装置205では、変圧器やコッククロフト・ウォルトン回路の交流印加箇所から発するノイズがフィードバック系統801と802にも重畳し、実際の直流高電圧出力には存在しないリップル成分が発生することが多い。
【0111】
このリップルを用いてフィードバック制御を行うと、リップルを増加させるリスクがある。このため、リップルに対しては、例えば、SEM像の指標値や電圧源装置の外部の測定系を用いて、前記調整フローチャートに従い補償し、本フィードバック系の対象は部分放電の電圧変動に限ることで、より高精度に電圧変動を低減できる。
【0112】
なお、本開示は上記した実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、本実施の形態では、冷陰極電界放出型電子銃を例として説明したが、熱電子銃やショットキー電子銃などその他の電子銃やイオン銃においても、本開示を適用することが可能である。また、本開示の制御方法および構成は、電子銃以外にも荷電粒子ビーム鏡筒(カラム)の構成要素や資料ステージへの電圧供給、静電チャック用の直流高電圧源にも適用可能である。
【0113】
また、ある実施の形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施の形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。
【0114】
また、各実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることが可能である。なお、図面に記載した各部材や相対的なサイズは、本開示を分かりやすく説明するため簡素化・理想化しており、実装上はより複雑な形状となる場合がある。
【符号の説明】
【0115】
10…走査電子顕微鏡、101…電子源、120、305…コンピュータシステム、201…電子銃、205…直流高電圧源装置、206…第2電圧源、207…第1電圧源、301…第1可変直流電圧源、302…第2可変直流電圧源、303…第1スイッチング回路、304…第2スイッチング回路、306…第1変圧器、307…第2変圧器、308…直流高電圧生成回路、601…制御信号、602…電圧調整比、603…ディジタル乗算器、605…第1ディジタル-アナログ変換器、606…第2ディジタル-アナログ変換器、607…パルス波形、608…位相シフター、609…遅延時間
図1
図2
図3
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図11