(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-10
(45)【発行日】2024-07-19
(54)【発明の名称】プラズマ処理方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/76 20060101AFI20240711BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
H01L21/76 L
H01L21/302 105A
(21)【出願番号】P 2023535334
(86)(22)【出願日】2022-07-25
(86)【国際出願番号】 JP2022028584
(87)【国際公開番号】W WO2024023877
(87)【国際公開日】2024-02-01
【審査請求日】2023-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南 珠鉉
(72)【発明者】
【氏名】石丸 正人
(72)【発明者】
【氏名】田原 正太
【審査官】宇多川 勉
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-050440(JP,A)
【文献】国際公開第2020/100338(WO,A1)
【文献】特開2014-204050(JP,A)
【文献】特表2021-534545(JP,A)
【文献】特表2021-534544(JP,A)
【文献】特表2021-503700(JP,A)
【文献】特開2017-069542(JP,A)
【文献】特開2014-107363(JP,A)
【文献】特表2014-531753(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/76
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Shallow Trench Isolationを形成するプラズマ処理方法において、
プラズマによりシリコンをエッチングする第一の工程と、
シリコン元素を含有する堆積膜をマスクに堆積させる第二の工程と、
プラズマにより、エッチング形状が垂直となるように前記シリコンをエッチングする第三の工程と、
SiOを含有する堆積膜をマスクに堆積させる第四の工程とを有し、
前記第一の工程ないし前記第四の工程を所定の回数、繰り返し、
前記第三の工程のプラズマは、第一のパルスにより変調された高周波電力により生成され、
前記第三の工程は、第二のパルスにより変調された高周波電力を前記シリコンを基板とする試料に供給しながら行われ、
前記第三の工程における前記第一のパルスの周波数は、前記第三の工程における前記第二のパルスの周波数より高いことを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載のプラズマ処理方法において、
前記第三の工程における前記第一のパルスのオフ時間は、アフターグロー放電が消滅するまでの時間より短いことを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項3】
請求項2に記載のプラズマ処理方法において、
前記第三の工程における前記第二のパルスのオフ時間は、前記試料に蓄積した電荷が除去される時間より長いことを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項4】
請求項3に記載のプラズマ処理方法において、
前記第三の工程における前記第一のパルスのデューティー比は、前記第三の工程における前記第二のパルスのデューティー比より大きいことを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項5】
請求項4に記載のプラズマ処理方法において、
前記第二の工程は、SiCl
4ガスを用いて生成されたプラズマにより前記シリコン元素を含有する堆積膜を堆積させることを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項6】
請求項5に記載のプラズマ処理方法において、
前記第一の工程における前記第一のパルスのデューティー比は、前記第一の工程における前記第二のパルスのデューティー比より大きいことを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項7】
請求項6に記載のプラズマ処理方法において、
前記第三の工程における前記第二のパルスの周波数は、前記第一の工程における前記第二のパルスの周波数より低いことを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項8】
請求項7に記載のプラズマ処理方法において、
前記第三の工程における前記第二のパルスのデューティー比は、前記第一の工程における前記第二のパルスのデューティー比より小さいことを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項9】
請求項8に記載のプラズマ処理方法において、
前記第二の工程における前記第二のパルスの周波数は、前記第一の工程における前記第二のパルスの周波数より低いことを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項10】
請求項9に記載のプラズマ処理方法において、
前記第二の工程における前記第二のパルスのデューティー比は、前記第一の工程における前記第二のパルスのデューティー比より小さいことを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項11】
請求項10に記載のプラズマ処理方法において、
前記第三の工程における前記第一のパルスの周波数は、300kHz~2000kHzの範囲内の周波数であることを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項12】
請求項11に記載のプラズマ処理方法において、
前記第三の工程における前記第二のパルスの周波数は、100kHz~900kHzの範囲内の周波数であることを特徴とするプラズマ処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラズマ処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの高集積化が進み、Fin Field Effect Transistor(以下、「Fin-FET」ともいう。)と呼ばれる3次元構造のトランジスタが実用化されている。またその発展型である、ゲートがチャネルの上面-左面-右面-下面の4面で覆われているGate-All-Around(以下、「GAA」ともいう。)構造の開発も進んでいる。このような半導体デバイスの更なる微細化、高アスペクト化が進みより複雑な形状を持つパターンの形成が期待されるようになると、半導体デバイスの製造プロセス、特にドライエッチング技術には、新材料、新構造に対応した高い選択性を持つ垂直加工プロセスを構築することが要求される。
【0003】
例えば、Fin-FETのShallow trench isolation(以下、「STI」ともいう。)構造のエッチングでは、断面積が変化する形状を持つため、エッチング領域の形成条件をエッチングの途中で変化させる必要がある。このような形状をドライエッチングで実現するためには、更なるプロセスウィンドウ、すなわち最適なプロセス条件の範囲の拡大が求められる。
【0004】
高精度なプラズマエッチングを実現する技術の一つとして、パルス電源を用いたプラズマエッチング方法がある。例えば、特許文献1に開示された方法では、プラズマによる反応性ガスの分解によって生成されるラジカルの密度および組成が測定される。そして、プラズマ発生装置の電力を一定の周期にてパルス変調し、パルス変調のデューティー比を測定結果に基づいて制御することによって、ラジカルの密度および組成が制御される。
【0005】
また、特許文献2ではプラズマ発生用の高周波コイル(アンテナコイル)に高いパワーの電力と低いパワーの電力を交互に供給し、高いパワーの電力時にスパッタによる保護膜形成を行い、低いパワーの電力時にエッチング処理を行って、エッチング工程と保護膜形成工程を交互に繰り返し実施することでシリコン基板に高アスペクト比のビアを形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平09―185999号公報
【文献】特開2010―21442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献1に開示されたパルス放電を用いたエッチング方法においては、プラズマ生成された解離度が高い状態のプラズマがエッチングに用いられている。したがってFin-FETのような3次元構造素子の形成に適し得るエッチング処理、すなわち、エッチング領域の形成条件を途中で変更する必要があるエッチング処理への対応としては、垂直性のエッチングに適した堆積性を持つラジカル量を制御するためのプロセスウィンドウが十分ではない。
【0008】
また、特許文献2に開示されたエッチング処理においては、高周波RFバイアス電力がローカルチャージを引き起こし、ハードマスク材およびシリコン基板の側面が負に帯電してしまう。このため、イオンの軌道が曲げられ、シリコン基板の側面に入射するイオンが増えてしまい、エッチングが横方向に進行するサイドエッチングという現象が発生する。特許文献2に開示されたエッチング処理においては、エッチングの垂直性が損なわれる問題が考慮されていない。
【0009】
本発明の目的は、プロセス条件を制御することによって、垂直性のエッチングを実現することが可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、代表的な本発明のプラズマ処理方法の一つは、Shallow Trench Isolationを形成するプラズマ処理方法において、プラズマによりシリコンをエッチングする第一の工程と、シリコン元素を含有する堆積膜をマスクに堆積させる第二の工程と、プラズマにより、エッチング形状が垂直となるように前記シリコンをエッチングする第三の工程と、SiOを含有する堆積膜をマスクに堆積させる第四の工程とを有し、前記第一の工程ないし前記第四の工程を所定の回数、繰り返し、前記第三の工程のプラズマは、第一のパルスにより変調された高周波電力により生成され、前記第三の工程は、第二のパルスにより変調された高周波電力を前記シリコンを基板とする試料に供給しながら行われ、前記第三の工程における前記第一のパルスの周波数は、前記第三の工程における前記第二のパルスの周波数より高いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、プロセス条件を制御することによって、垂直性のエッチングを実現することが可能となる。上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施をするための形態における説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係るプラズマ処理方法が実施されるプラズマ処理装置を示す図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係るプラズマ処理方法が行われる様子を示す模式図である。
【
図3】
図3は、プラズマ生成用電力をパルス変調した場合におけるパルス周波数とアンダーカット量の関係を示す図である。
【
図4】
図4は、バイアス電力をパルス変調した場合におけるパルス周波数とアンダーカット量の関係を示す図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態において得られた、バイアス電力とウエハ上の飽和イオン電流の関係を模式的に示す図である。
【
図6】
図6は、デューティー比を40%かつパルス周波数を1300Hzとした場合のプラズマ生成用電力とプラズマ密度の関係を模式的に示す図である。
【
図7】
図7は、デューティー比を40%かつパルス周波数を1100Hzとした場合のプラズマ生成用電力とプラズマ密度の関係を模式的に示す図である。
【
図8】
図8は、STIの形成方法のフローチャートを示す図である。
【
図9】
図9は、STIの形成工程が行われる前のシリコン基板の一部を模式的に示す図である。
【
図10】
図10は、第一の工程を実行した場合のシリコン基板の一部を模式的に示す図である。
【
図11】
図11は、第二の工程を実行した場合のシリコン基板の一部を模式的に示す図である。
【
図12】
図12は、第三の工程を実行した場合のシリコン基板の一部を模式的に示す図である。
【
図13】
図13は、第四の工程を実行した場合のシリコン基板の一部を模式的に示す図である。
【
図14】
図14は、第一の工程から第四の工程が繰り返され、トレンチが所定の深さまでエッチングされた場合のシリコン基板の一部を模式的に示す図である。
【
図15】
図15は、第一の工程から第四の工程が繰り返し行われる様子を模式的に示した図である。
【
図16】
図16は、比較例としてのエッチング工程におけるシリコン基板の一部を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。
同一あるいは同様の機能を有する構成要素が複数ある場合には、同一の符号を付して説明する場合がある。
図面において示す各構成要素の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
【0014】
また、「パルス変調」(以下、「パルスにより変調」ともいう。)とは、出力がある場合をオン、出力がない場合をオフとし、オンとオフを所定の周波数で繰り返すものである。所定の周波数のことを、「パルス周波数」、「パルスの周波数」や「繰り返し周波数」ともいう。デューティー比は、オンの期間とオフの期間の和、すなわち繰り返しの一周期に対する、オンの期間の比である。
また、「Shallow Trench Isolation」とは、シリコン基板等をエッチングすることによって形成された素子分離用の溝のことをいう。
【0015】
以下、本願発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係るプラズマ処理方法が実施されるプラズマ処理装置を示す図である。
【0016】
<第1実施形態>
(プラズマ処理装置)
プラズマ処理装置100は、プラズマ処理が行われる真空処理室101を備える。真空処理室101内には下部電極103が設けられ、下部電極103にはウエハ102を保持するためのウエハ載置面が設けられている。マイクロ波透過窓104は、真空処理室101内を気密に保ちつつ、石英などのマイクロ波を透過する材料によって構成されている。マグネトロン(以下、「プラズマ発生装置」ともいう。)106から発生したマイクロ波は、導波管105を通じてマイクロ波透過窓104を透過し、真空処理室101内に伝播する。また、ソレノイドコイル107は、真空処理室101の周りに設けられ、真空処理室101内に磁場を発生させる。下部電極103は、接続された静電吸着電源108から電圧を印加され、ウエハ102とウエハ載置面との間に静電力を発生させる。この発生された静電力によって、ウエハ102は、ウエハ載置面に固定される。
【0017】
マグネトロン駆動電源(以下、「プラズマ生成用電源」ともいう。)113は、プラズマを生成するための高周波電力(以下、「プラズマ生成用電力」ともいう。)をマグネトロン106に供給する。プラズマ生成用電力は、第一のパルスにより変調された高周波電力ともいう。また、基板バイアス電源109は、試料である基板に供給されるバイアス電力を下部電極103に供給する。バイアス電力は、第二のパルスにより変調された高周波電力ともいう。マグネトロン駆動電源113と基板バイアス電源109は、電力制御部114によって制御される。
【0018】
さらに、ウエハ搬入口110は、真空処理室101にウエハ102を搬入し又はそこから搬出するための開口部である。ガス供給口111は、真空処理室101に供給されるガスが導通する開口部である。
【0019】
なお、プラズマ処理装置100には真空排気装置も設けられている。真空排気装置は、真空処理室101を減圧して所望の圧力にし、プラズマ処理の過程において発生する反応生成物を真空処理室101から排気する機能を有する。
【0020】
次に、プラズマ処理装置100を用いてプラズマ処理をする場合の処理を説明する。プラズマ処理装置100は、プラズマを生成するための高周波電力と試料にバイアスを印加するためのバイアス電力を用いて、試料にプラズマ処理を施すプラズマ処理方法を行う。最初に、真空処理室101の内部を減圧した後、エッチングガスをガス供給口111から真空処理室101内に供給し、真空処理室101内を所望の圧力に調整する。
【0021】
続いて、静電吸着電源108により直流電圧を数百V印加することで、ウエハ102を下部電極103の上のウエハ載置面に静電吸着させる。その後、マグネトロン駆動電源113からプラズマ生成用電力を供給されたときに、マグネトロン106は、周波数2.45GHzのマイクロ波を発振する。このマイクロ波は、導波管105を通じて真空処理室101内に伝播される。プラズマ生成用電力が供給されないときは、マグネトロン106はマイクロ波を発振しない。
【0022】
真空処理室101内には、ソレノイドコイル107によって磁場が発生させられており、この磁場と、発振されたマイクロ波の相互作用により、真空処理室101内に高密度のプラズマ112が生成される。
【0023】
プラズマ112が生成された後、基板バイアス電源109から下部電極103にバイアス電力が供給される。バイアス電力の供給によってプラズマ中のイオンがウエハへ入射するエネルギーが制御され、ウエハ102のエッチング処理が制御される。
【0024】
そして、マグネトロン106に供給されるプラズマ生成用電力をパルス変調することで、パルスプラズマを発生させる。パルスプラズマは、プラズマ生成用電力の出力があるオンの場合と出力がないオフの場合を繰り返すことでプラズマの解離を制御し、ラジカルの解離状態やイオン密度を制御するものである。この方式では、パルス変調されたプラズマに関するパルス周波数およびデューティー比が制御パラメータとなる。これらの制御パラメータにより生じるプラズマを、パルスプラズマともいう。
【0025】
また、基板バイアス電源109の出力もパルス変調されており、パルス周波数およびデューティー比を制御でき、パルス変調されたバイアス電力を下部電極103に印加することができる。プラズマ生成用電力あるいはバイアス電力は、電力制御部114によって制御される。
【0026】
なお、プラズマ処理装置100の仕様条件に合わせて、プラズマ生成用電力のデューティー比は10%~90%の範囲内で適宜変更でき、またバイアス電力のデューティー比は2%~90%の範囲内で適宜変更できる。通常は、プラズマ生成用電力がオンの時のみ、バイアス電力がオンされるように制御される。
【0027】
また、プラズマ処理装置100の仕様条件に合わせて、プラズマ生成用電力のパルス周波数は100Hz~2000Hzの範囲内で適宜変更でき、バイアス電力のパルス周波数は100Hz~2000Hzの範囲内で適宜変更できる。
【0028】
(プラズマ生成用電力とバイアス電力のパルス変調)
従来技術において、プラズマ生成用電力とバイアス電力の両方をパルス変調した場合のアンダーカットの生成について、詳細な分析はされていなかった。そこで、発明者は、プラズマ生成用電力およびバイアス電力のいずれもパルス変調した場合に、アンダーカットの発生について検討した。
【0029】
(プラズマ処理)
以下、Shallow Trench Isolationを形成するプラズマ処理方法を説明する。
図2は、第1実施形態に係るプラズマ処理方法が行われる様子を示す模式図である。
図2(a)はプラズマ処理をする前のシリコン基板201の断面の一部を模式的に示す図である。
図2(a)に示されるように、シリコン基板201の初期構造は、シリコン基板201の上にマスク202が形成された構造である。マスク202は所定間隔の間隙を有するパターンが形成されており、隣り合うマスク202の間隙の間隔w1は、STI形成工程に用いる場合は20nm以下であり、例えば10nm程度である。STI形成工程において、シリコン基板201は130nm程度エッチングされ、アスペクト比6.5程度のトレンチが形成される。なお、本実施形態において、マスク202はハードマスクが想定されているが、マスクの種類はこれに限定されない。
【0030】
図2(b)は、シリコン基板201のエッチングが進行する様子を示す図である。ここでは、マスク202の間隙によって規定されるシリコン基板201の部分がエッチングされ、トレンチtrが形成される。処理条件としては、例えばハロゲンガスを含む混合ガスが用いられ、圧力は0.5Pa以下とする。
【0031】
図2(c)は、シリコン基板201のエッチングがさらに進行した様子を示す図である。ここでは、トレンチtrの領域r1の部分がシリコン基板201の主面に平行な方向にエッチングされ、ネック形状が生じている。このようなネック形状が生じることを、アンダーカットが発生するという。マスク202の間隙の幅w1とし、トレンチtrの幅のうちの最も広い幅w2としたとき、アンダーカット量はw2-w1として評価することが可能である。
【0032】
(パルス変調とアンダーカットの関係)
図3は、プラズマ生成用電力をパルス変調した場合におけるパルス周波数とアンダーカット量の関係を示す図である。なお、電力値は900W、デューティー比は40%に設定されている。
【0033】
ここでは、パルス周波数が大きくなるにつれて、アンダーカット量が小さくなる傾向が示されている。アンダーカット量は1nm程度に抑えられれば良好なトレンチの形状を得ることができるところ、パルス周波数が1300Hz以上の場合にアンダーカット量が1nm以下に抑えられている。
【0034】
また、
図4は、バイアス電力をパルス変調した場合におけるパルス周波数とアンダーカット量の関係を示す図である。なお、電力値は25W、デューティー比は2%に設定されている。
【0035】
ここでは、パルス周波数が小さくなるにつれて、アンダーカット量が小さくなる傾向が示されている。また、パルス周波数が500Hz以下の場合にアンダーカット量が1nm程度以下に抑えられている。
【0036】
(作用・効果)
以上に説明したように、発明者は、プラズマ生成用電力とバイアス電力のいずれもパルス変調することによって、アンダーカットが抑えられることを見いだすことができた。プラズマ生成用電力のパルス周波数は、バイアス電力のパルス周波数よりも大きく、パルス変調をする指標としては、プラズマ生成用電力のパルス周波数は1300Hz以上、バイアス電力のパルス周波数は500Hz以下、とするとトレンチ形状の観点では良好な結果を得ることができた。このように、第1実施形態においては、プラズマ生成用電力とバイアス電力のいずれもパルス変調することによって、垂直性のエッチングを実現することができる。
【0037】
<第2実施形態>
(プラズマのアフターグロー放電の状態)
図5は、第1実施形態において得られた、バイアス電力とウエハ上の飽和イオン電流の関係を模式的に示す図である。実線はバイアス電力を示し、一点鎖線は飽和イオン電流を示す。飽和イオン電流は縦軸を任意の値とし、時間を示す横軸をバイアス電力の横軸と重ねて表示した。期間p1およびp3はバイアス電力の出力がオンである期間を示し、期間p2はバイアス電力の出力がオフである期間を示す。期間p1およびp3において、飽和イオン電流が上昇しており、プラズマが生成されていることが示唆されている。一方、期間p2においては、飽和イオン電流が減少するものの、続くオンの期間まで完全に消滅していない様子が示唆されている。
【0038】
ここで、発明者は、第1実施形態においては、プラズマ生成用電力がオフの期間であっても、プラズマが消滅するまでに残されていたラジカルが反応に用いられているということを推察した。従来から、プラズマ生成用電力をオフにしてからプラズマが消滅するまでの間には、プラズマの解離度が低下した状態であるアフターグロー放電の状態が発生することが知られている。ここで、プラズマによるエッチングプロセスについて考察する。
【0039】
プラズマ生成用電力がオンの期間では、処理ガスと電子の衝突頻度が高くなりガスの解離が進む。この場合、プラズマ中のラジカルは、比較的、付着係数が大きいラジカルが大半を占めようになる。付着係数が大きいと、ラジカルは最初に衝突した面に付着しやすくなる。このため、シリコン基板201のプラズマに面した上面側のトレンチ部分にはラジカルが付着しやすくエッチングが進行する一方で、トレンチ奥側にはラジカルが到達しにくくエッチングが進まないことになると考えられる。
【0040】
一方、プラズマ生成用電力がオフの期間でアフターグロー放電の状態では、ガスと電子の衝突頻度が減少し、解離が進んでいない状態のガスの割合が大きくなる。プラズマの消失が進みプラズマ密度が低下してくると、電子とラジカルの衝突頻度はいっそう減少する。この場合、プラズマ中に含まれるラジカルは、比較的、付着係数が小さい種類のラジカルが大半を占めるようになる。付着係数が小さいラジカルは、最初に衝突した面に付着せずに、トレンチ奥まで到達する場合が増加する。トレンチの深さ方向でエッチング量の偏りが抑えられるので、シリコン基板201の面方向に対して垂直な方向の形状をもつトレンチが得られやすくなると考えられる。
【0041】
発明者は、上述のような考察を行い、第1実施形態においてアンダーカット量が抑えられた要因のひとつとして、アフターグロー放電の状態が活用できたためではないかと推察した。そこで、発明者は、アフターグロー放電の状態を効果的に活用するために、パルス変調の最適な条件を見いだすことにした。なお、第1実施形態と対応する構成には同じ符号を付し、説明は省略する。
【0042】
(プラズマ生成用電力のパルス変調)
発明者は、プラズマ生成用電力をオフにしてから、概ね0.5msでプラズマが実質的に消滅することを観測した。ガスの種類、ガスの圧力、磁場の有無等の諸条件によって値は異なるものの、消滅するまでの時間に有意な差はなかった。そのため、アフターグロー放電の状態の残存時間を0.5msとして、以降の検討を進めた。
【0043】
垂直方向のエッチングに寄与する付着係数が小さいラジカルを多く生成するためには、アフターグロー放電の状態の延べ時間を最大化する必要がある。表1は、パルス信号のデューティー比を40%としたときのパルス信号のオンの期間とオフの期間の計算結果を示し、またアフターグロー放電の状態の期間とした0.5msとを対比させて表示する。ここに示されるように、1300Hz以上でプラズマ生成用電力のオフの期間は0.46msとなり、アフターグロー放電が消滅する0.5msよりも短くなる。言い換えると、プラズマ生成用電力を変調するための第一のパルスのオフ時間は、アフターグロー放電が消滅するまでの時間より短い。このため、デューティー比を40%かつパルス周波数を1300Hzとしてプラズマ生成用電力をパルス変調する場合、プラズマ生成用電力のオフの期間全体をアフターグローの状態が占めることとなり、付着係数の小さいラジカルを効率的に生成できる。なお、パルス周波数とデューティー比の関係は上記の値に限定されない。ここに示したような考察を行うことで、アフターグロー放電の状態の期間に基づいて、パルス周波数とデューティー比を調整することができる。
【0044】
【0045】
パルス周波数とアフターグロー放電の期間の関係を視覚的に示す。
図6は、デューティー比を40%かつパルス周波数を1300Hzとした場合のプラズマ生成用電力とプラズマ密度の関係を模式的に示す図である。また、
図7は、デューティー比を40%かつパルス周波数を1100Hzとした場合のプラズマ生成用電力とプラズマ密度の関係を模式的に示す図である。ここで、プラズマ密度は、縦軸を任意の単位で示し、プラズマ生成電力との関係を説明するためにグラフに重ねて表示されている。
【0046】
図6に示されるように、
プラズマ生成用電力のオンの期間においてプラズマ密度が上昇して飽和する一方、オフの期間においてプラズマ密度が減少するアフターグロー放電の状態が発生する。
プラズマ生成用電力のオフの期間の長さは0.46msであり、アフターグロー放電の状態の期間0.50msよりも短い。言い換えると、
プラズマ生成用電力を変調するための第一のパルスのオフ時間は、アフターグロー放電が消滅するまでの時間より短い。したがって、プラズマ生成用電力がオフとなった期間すべてをアフターグロー放電の状態で占めることができ、付着係数の小さいラジカルを効率的に生成できる。
【0047】
また、
図7に示されるように、
プラズマ生成用電力のオフの期間の長さは0.55msであり、アフターグローの状態の期間0.5msよりも長い。この場合には、パルス電力がオフの期間中にアフターグロー放電の状態が消滅する。そうすると、ガスと電子の衝突頻度がさらに低下しガスの解離が進まず、供給時の状態のままのガスが増えてくる。ラジカルが生成されないため、エッチングが進行しにくい状態になる。
【0048】
なお、プラズマ生成用電力のデューティー比を40%に設定したため、アフターグロー放電の状態を最大化するためのプラズマ生成用電力のパルス周波数は1300Hz以上となったが、パルス周波数はプラズマ生成用電力のデューティー比に合わせて設定される。例えばプラズマ生成用電力のデューティー比を20%にした場合、周波数を一定とすると、40%と比較してオフの時間が大きくなる。このためアフターグローの状態を最大化できる周波数の下限値は、100Hz単位でパルス周波数を変化させる場合、高周波電力のデューティー比が40%の時より高い周波数である1700Hzとなる。このように、例えば10%から90%の間に設定されたデューティー比に応じて、アフターグロー放電の状態を最大化できるプラズマ生成用電力のパルス周波数を、100Hz単位でパルス周波数を変更させる場合、300Hz~2000Hzの範囲内にする。
【0049】
(バイアス電力のパルス変調)
プラズマ中に存在するほとんどのイオンは、バイアス電力により加速されてウエハに対し垂直方向に入射し、アスペクト比が高いトレンチの底面や微細パターンの底面まで達すると想定される。このため、マスク202の側面、またシリコン基板201のトレンチの側面に到達するイオンは少ないと考えられる。一方、電子は、さまざまな入射角を持ち等方的にウエハに入射するため、トレンチの底面や微細パターンの底面まで達することはイオンと比較して少ないと想定される。このため、電子は、マスク202の側面やシリコン基板201に形成されたトレンチの側面に到達して、シリコン基板に蓄積した局所的な電荷であるローカルチャージを引き起こす。このローカルチャージによってイオンの軌道が曲げられると、イオンは側面にも入射するようになりシリコン基板201へのサイドエッチング量が多くなり、アンダーカットやボーイング等の異常形状を発生させる原因となっている。
【0050】
このようなローカルチャージによるサイドエッチングを抑制するために、バイアス電力のパルス周波数を低くすることが有効である。パルス周波数が高いほど、1回の立ち上がり・立ち下がりにおける電流の継続時間は短くなる。そのため、パルス周波数が高すぎると、マスク202やシリコン基板201の側面に蓄積した電荷をウエハ102から下部電極103まで移動させるのに十分な期間の電流を発生させられなくなる。ウエハ表面の電荷が下部電極103へと抜け、ウエハに蓄積した電荷が除去されるまでにサブmsからmsのオーダーの時間が必要となることから、十分に電荷を下部電極103まで移動させるには、バイアス電力の出力がオフとなる時間がmsのオーダーとなる必要となる。
【0051】
本実施形態では、デューティー比を2%としたバイアス電力を用いている。表2に算出するように、パルス出力がオフとなる時間を1.0msより大きくなるようにするには、パルス周波数を900Hz以下に設定することが望ましい。言い換えると、バイアス電力を変調するための第二のパルスのオフ時間は、ローカルチャージが除去される時間より長いことが望ましい。
【0052】
【0053】
なお、バイアス電力のデューティー比を2%に設定したため、ローカルチャージを解消するのに必要なパルス周波数は900Hz以下となったが、パルス周波数の値はデューティー比の設定によって異なる。例えばデューティー比を50%にした場合、2%の場合と比較して、パルス出力がオフになる期間の比が小さくなる。このため、電荷を電極まで移動させるために必要な時間とするための周波数は、500Hz以下の周波数とすればよい。このようにデューティー比の値によって電荷を電極まで移動させるために必要な時間は異なることから、2%~90%以下の範囲内のデューティー比に対し、パルス周波数はそれぞれ100Hz~900Hzの範囲内にすることが望ましい。
【0054】
【0055】
(作用・効果)
発明者は、本実施形態では、パルス変調をする指標として、アフターグローの状態を最大化するためにプラズマ生成用電力のパルス周波数をデューティー比の設定に応じて300Hz~2000Hzの範囲内とし、シリコン基板のローカルチャージを解消するためにバイアス電力のパルス周波数をデューティー比の設定に応じて100Hz~900Hzの範囲内とすることを見いだした。また、プラズマ生成用電力のパルス周波数は、より高周波にすることでパルス出力がオフとなる期間が短くなりアフターグローの状態を維持することが容易となる。
【0056】
また、バイアス電力のパルス周波数は、より低周波数にすることで、パルスオフの期間を長くできローカルチャージで蓄積した電荷をウエハ102から下部電極103まで移動させるのに有効となる。このことから、プラズマ生成用高周波電力を変調するための第一のパルスの周波数は、高周波バイアスを変調するための第二のパルスの周波数より高く、プラズマ生成用高周波電力を変調するための第一のパルスのデューティー比は、高周波バイアスを変調するための第二のパルスのデューティー比より大きいことが望ましいと考えられる。
【0057】
以上に説明したように、本実施形態によれば、プラズマ生成用電力とバイアス電力をパルス変調するときにデューティー比を適切に設定することによって、プラズマのアフターグローの状態を処理に用いることができ、垂直性のエッチングを実現することができる。
【0058】
<第3実施形態>
発明者は、第1実施形態および第2実施形態の検討の結果を踏まえて、STI形成工程を提案する。なお、第1実施形態および第2実施形態と対応する構成には同じ符号を付し、説明は省略する。
【0059】
(STIの形成方法)
以下に、STIの形成方法を説明する。
図8は、STIの形成方法のフローチャートを示す図である。ここに示されるフローチャートは、STIを形成するのに必要なマスクが形成された状態のウエハ102に行われる。
【0060】
第一の工程S11において、プラズマにより、シリコンをエッチングする。第一の工程においては、真空処理室101内にウエハのエッチングに適したハロゲンガスを含む混合ガスを供給してプラズマを発生させ、プラズマによりシリコンを基板とする試料がエッチングされる。
【0061】
第二の工程S12において、シリコン元素を含有する堆積膜をマスクに堆積させる。第二の工程においては、真空処理室101内にSiCl4を含む混合ガスを供給し、マスク上にシリコン元素を含有する堆積膜を形成する。
【0062】
第三の工程S13において、プラズマにより、エッチング形状が垂直となるようにシリコンをエッチングする。第三の工程S13においては、真空処理室101内にウエハのエッチングに適したハロゲンガスを含む混合ガスを供給してプラズマを発生させ、プラズマによりパターンへのアンダーカットを防ぎながらウエハを垂直方向にエッチングする。
【0063】
第四の工程S14において、SiOを含有する堆積膜をマスクに堆積させる。第四の工程S14において、真空処理室101内にO2を含む混合ガスを供給し、マスクと第二の工程で堆積させた堆積膜の表面を酸化させ、酸化膜を形成する。
【0064】
第一の工程ないし第四の工程を所定の回数、繰り返し、トレンチの深さがSTIを形成するのに必要となる所定の深さかどうか判断し、所定の深さになるまでエッチング処理を繰り返す(工程S15)。第一の工程から第四の工程を所定の回数、繰り返す工程をFin-FETのSTIを形成するSTI形成工程という。
【0065】
なお、第三の工程S13のプラズマは、第一のパルスにより変調された高周波電力(以下、「プラズマ生成用電力」ともいう。)により生成され、第三の工程S13は、第二のパルスにより変調された高周波電力(以下、「バイアス電力」ともいう。)をシリコンを基板とする試料に供給しながら行われる。
【0066】
(STIを形成方法の時のウエハの模式図)
より具体的に、STIを形成する工程を説明する。なお、本実施形態において、ウエハ102としてシリコン基板を例にとって説明しているが、本発明はこれに限定されない。ウエハ102としてシリコン基板以外の材料で形成された基板を用いてもよいし、またシリコン基板上に半導体構造を形成したあとに本実施形態のプラズマ処理をするようにしてもよい。
【0067】
図9は、STI形成工程が行われる前のシリコン基板201の一部を模式的に示す図である。ここに示されるように、シリコン基板201の初期構造は、シリコン基板201の上にマスク202が形成された構造である。マスク202は所定間隔にパターニングされており、隣り合うマスク202の間隔w1は、20nm以下であり、例えば10nm程度である。STIの形成を通じて、シリコン基板は130nm程度エッチングされ、アスペクト比6.5程度のトレンチが形成される。なお、マスク202の材料および膜厚は適宜選択することができる。本実施形態においては、シリコン基板201をエッチングするためシリコンとの選択比、マスク上に形成される層、マスク上に行われるアッシングなどの条件を考慮して選択する。
【0068】
続いて、
図8に示されるSTIの形成工程が行われる。ここで、表4に、STI形成工程に含まれる各工程におけるプラズマ生成用電源113と基板バイアス電源109の設定条件の一例を示す。第一の工程S11と第三の工程S13は、プラズマ生成用電源113と基板バイアス電源109のいずれもパルス変調をする。第二の工程S12と第四の工程S14は、プラズマ生成用電源113の出力はオンのままのCW(Continuous Wave)動作をし、基板バイアス電源109はパルス変調をする。
【0069】
【0070】
図10は、第一の工程S11を実行した場合のシリコン基板201の一部を模式的に示す図である。第一の工程S11でマスク202を形成した初期構造を持つシリコン基板201に第一の工程S11に係るエッチングを行うことにより、マスク202の間隙によって規定された部分にトレンチtrを形成する。処理条件としてハロゲンガスを含む混合ガスを用い、圧力を0.5Pa以下とすることが望ましい。表1に示される例では、圧力を0.45Paとした。
【0071】
第一の工程S11は、パルス変調されたバイアス電力をウエハ102が載置されている下部電極103に供給しながら行われる。またプラズマを生成するためのプラズマ生成用電力を変調するための第一のパルスのデューティー比は、下部電極103に供給されたバイアス電力を変調するための第二のパルスのデューティー比より大きいことが好ましい。
【0072】
表4に示されるように、プラズマ生成用電源113は、電力値を1200Wとする。また、プラズマ生成用電源113から出力される高周波電力を変調するための第一のパルスは、デューティー比を35%、パルス周波数を2000Hzとする。基板バイアス電源109は、電力値を380Wとする。また、基板バイアス電源109から出力される高周波電力を変調するための第二のパルスは、デューティー比を25%、パルス周波数を2000Hzとする。プラズマ生成用電力とバイアス電力のいずれもパルスによる変調がされた。なお、表4に示される他の値について説明すると、第一の工程S11における第一のパルスのデューティー比(35%)は、第一の工程S11における第二のパルスのデューティー比(25%)より大きい。第三の工程S13における第二のパルスの周波数(100Hz)は、第一の工程S11における第二のパルスの周波数(2000Hz)より低い。第三の工程S13における第二のパルスのデューティー比(2%)は、第一の工程S11における第二のパルスのデューティー比(25%)より小さい。第二の工程S12における第二のパルスの周波数(100Hz)は、第一の工程S11における第二のパルスの周波数(2000Hz)より低い。第二の工程S12における第二のパルスのデューティー比(5%)は、第一の工程S11における第二のパルスのデューティー比(25%)より小さい。
【0073】
ここで、第一の工程をプラズマ生成用電力とバイアス電力をパルス変調させる工程とすることで、プラズマ電力がオフの時にエッチング中に発生した反応生成物が真空排気装置を介して排気されるため、マスク202とシリコン基板201に反応生成物が付着し堆積物となることを抑制することができる。また、ガス圧力を低くする場合、エッチング中の反応生成物はいっそう減少させることが可能である。このため、反応生成物によってエッチングが妨げられることが抑制されるため、シリコン基板の垂直方向のエッチングを進行させることができる。
【0074】
図11は、第二の工程S12を実行した場合のシリコン基板201の一部を模式的に示す図である。第二の工程において、SiCl
4ガスが供給されSiCl
4ガスを用いてプラズマが生成され、マスク202の上面にシリコン元素を含むシリコン系の堆積膜203が形成される。マスク202上面に堆積膜203が設けられることによって、その後シリコン基板201を更に深くエッチングする際、マスク202の上面および側面のダメージを抑えることができ、マスクが有するパターンの崩壊を防ぐことができる。なお、第二の工程S12においては、プラズマ中に含まれるClイオンのサイズが大きく、トレンチtr内に堆積膜が堆積するのを抑える働きをする。このため、マスク202以外の箇所に堆積膜は堆積しうるもののその量は影響を無視できるほど少ないため、
図11においては考慮されていない。このことは、後述の第四の工程S14における酸化膜204についても同様であり、プラズマ中にClイオンが含まれるようにしている。
【0075】
表4に示されるように、プラズマ生成用電源113は、電力値を1200Wとし、パルス変調はしない。基板バイアス電源109は、電力値を60W、デューティー比を5%、パルス周波数を100Hzとする。
【0076】
図12は、第三の工程S13を実行した場合のシリコン基板201の一部を模式的に示す図である。ここでは、トレンチtrは、シリコン基板201に垂直な方向に形成されている。第三の工程の処理条件として、真空処理室101内にシリコン基板のエッチングに適したハロゲンガスを含む任意の混合ガスを用いる。なお、ハロゲンガスとして、例えばフッ素ガスは反応性が高いため、多く利用される。
【0077】
表4に示されるように、プラズマ生成用電源113は、電力値を900Wとする。プラズマ生成用電源113から出力されるプラズマ生成用電力を変調するための第一のパルスは、デューティー比を40%、パルス周波数を1800Hzとする。基板バイアス電源109は、電力値を50Wとする。基板バイアス電源109から出力される高周波電力を変調するための第二のパルスは、デューティー比を2%、パルス周波数を100Hzとする。
【0078】
また、第一の工程S11と同様にプラズマ生成用電力とバイアス電力をパルス変調することで、プラズマ電力がオフの時にエッチング中に発生した反応生成物が真空排気装置を介して排気され、マスク202とシリコン基板201に付着する堆積物を抑制することができる。さらに、ガス圧力を低くすることでエッチング中の反応生成物は減少し、シリコン基板を垂直方向にエッチングすることができる。
【0079】
図13は、第四の工程S14を実行した場合のシリコン基板201の一部を模式的に示す図である。第四の工程S14では、ArとO
2を含む混合ガスを供給し、マスク202と第二の工程S12で生成した堆積膜203の表面を酸化させて酸化膜204を形成する。
図13に示すように、酸化膜204を堆積膜203上に設けることで、シリコン基板を更に深くエッチングする際、よりマスク202の上面および側面のダメージを抑えることができ、マスク202のパターンが損傷を受けることを防ぐことができる。なお、酸化膜204は、SiOを含有するがこれに限定されない。SiO
2を含むこととしてもよいし、そのほかの酸化物を含むこととしてもよい。
【0080】
表4に示されるように、プラズマ生成用電源113は、電力値を700Wとし、パルス変調はしない。基板バイアス電源109は、電力値を60W、デューティー比を25%、パルス周波数を1000Hzとする。
【0081】
図14は、第一の工程S11から第四の工程S14が繰り返され、トレンチtrが所定の深さd1までエッチングされた場合のシリコン基板の一部を模式的に示す図である。ここでトレンチtrは、STI形成工程を通じて、深さd1がSTIを形成するのに必要となる値まで到達できた。
【0082】
なお、本実施形態では、第一の工程S11から第四の工程S14を6回繰り返してエッチングを行い、それによりトレンチの深さを130nmとした。なお、本実施形態ではトレンチの深さが130nmとなるまでエッチング処理したが、これに限らずFinを形成できる所定の深さまでエッチング処理すれば足りる。トレンチの深さと製造条件、STI形成工程の繰り返し回数を予め調べておき、所定の回数だけSTI形成工程をした場合にトレンチが所望の深さとなることを対応付けておくこともできる。
【0083】
図15は、第一の工程S11から第四の工程S14が繰り返し行われる様子を模式的に示した図である。第一の工程S11において、トレンチtrが形成される。第二の工程S12において、マスク202上に堆積膜203が形成される。第三の工程S13において、エッチング形状が
垂直となるようにエッチングが行われる。第四の工程S14において、堆積膜203に酸化膜204を形成する。第一の工程S11に戻ると、マスク202上に形成された堆積膜203および酸化膜204がエッチングされる。第一の工程S11は、堆積膜203および酸化膜204がエッチングされる程度の時間だけ行われるように設定されている。第一の工程S11から第四の工程S14までの工程を、トレンチが所定の深さd1になるまで行う。本実施形態では、第一の工程から第四の工程までを6回繰り返すことで、トレンチtrの深さd1を130nmにすることができた。
【0084】
(作用・効果)
図16は、比較例としてのエッチング工程におけるシリコン基板201の一部を模式的に示す図である。ここでは、エッチング工程におけるトレンチ形状が不良の場合を示す。
図16(a)はアンダーカットが生じる場合である。アンダーカットは、等方性のエッチングの影響が強く生じた場合に起こると考えられる。一方、
図16(b)は、付着係数が大きいラジカルによってエッチングが進行した場合に生じる形状である。付着係数が大きいと、ラジカルは最初に衝突した面に付着しやすくなる。シリコン基板201のプラズマに面した上面側のトレンチ部分に付着しエッチングが進行する一方、トレンチ奥側にはラジカルが付着しにくくエッチングが進まない。また、トレンチが高アスペクト比の形状を有する場合、トレンチ奥側にはラジカルが侵入しにくくなる。そのため、トレンチ奥側になるにつれてエッチングが進まず、あたかもトレンチ側壁が太るような形状になり、
図16(b)に示されるようにシリコン基板201のトレンチtrがテーパ形状になる。
【0085】
これに対し、本実施形態においては、第三の工程において付着係数が抑えられたラジカルがエッチングに用いられている。これにより、
図12に示すように、トレンチtrの形状を良好に保ちつつ、垂直方向のエッチングをすることが可能となる。
【0086】
また、本実施形態においては、第四の工程において、マスク202上の堆積膜203に酸化膜204を形成している。これによって、トレンチtrを深くエッチングする間にも堆積膜203やマスク202がエッチングされて損傷を受けることを防止することができる。
【0087】
以上に説明したように、本実施形態によれば、付着係数の小さい種類のラジカルを用いるプロセス条件を設定することによって、垂直性のエッチングを実現することができる。
【0088】
なお、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施の形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施の形態における構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施の形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施の形態における構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
【符号の説明】
【0089】
101 真空処理室
102 ウエハ
103 下部電極
104 マイクロ波透過窓
105 導波管
106 マグネトロン
107 ソレノイドコイル
108 静電吸着電源
109 基板バイアス電源
110 ウエハ搬入口
111 ガス供給口
112 プラズマ
113 プラズマ生成用電源
114 電力制御部
201 シリコン基板
202 マスク
203 堆積膜
204 酸化膜