(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】タングステン酸化物及び酸素発生反応用触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 23/888 20060101AFI20240712BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20240712BHJP
B01J 37/10 20060101ALI20240712BHJP
C01B 13/08 20060101ALI20240712BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20240712BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240712BHJP
C25B 11/077 20210101ALI20240712BHJP
【FI】
B01J23/888 M
B01J37/08
B01J37/10
C01B13/08
C01G53/00 A
C25B9/00 A
C25B11/077
(21)【出願番号】P 2022556913
(86)(22)【出願日】2021-10-08
(86)【国際出願番号】 JP2021037341
(87)【国際公開番号】W WO2022080256
(87)【国際公開日】2022-04-21
【審査請求日】2023-02-13
(31)【優先権主張番号】P 2020173644
(32)【優先日】2020-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021141835
(32)【優先日】2021-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】中山 雅晴
(72)【発明者】
【氏名】武田 愛理
(72)【発明者】
【氏名】丸山 平嗣
(72)【発明者】
【氏名】東 正信
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0192032(US,A1)
【文献】特開2019-172487(JP,A)
【文献】特表2013-535081(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C01B 13/08
C01G 53/00
C25B 9/00
C25B 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ni
x
Fe
1-x
WO
4
(但し、0<x<1)で表されるタングステン酸化物を含む陽極又は正極に用いるための酸素発生反応用触媒。
【請求項2】
請求項1記載の酸素発生反応用触媒の製造方法であって、
タングステン酸塩、ニッケル塩及び鉄塩をポリオールに溶解させ、前記各塩が溶解したポリオール溶液を加熱することにより
Ni
x
Fe
1-x
WO
4
(但し、0<x<1)で表されるタングステン酸化物を合成する、又は
タングステン酸塩、ニッケル塩及び鉄塩並びに水を耐圧容器中に投入して加熱することにより
Ni
x
Fe
1-x
WO
4
(但し、0<x<1)で表されるタングステン酸化物を合成する、
前記
酸素発生反応用触媒の製造方法。
【請求項3】
イオン透過性の隔膜によって区画された陽極室及び陰極室を備え、前記陽極室に陽極が配置され、前記陰極室に陰極が配置された電解槽であって、前記陽極にNi
xFe
1-xWO
4(但し、0<x<1)で表されるタングステン酸化物が触媒として担持されている電解槽。
【請求項4】
二酸化炭素を陰極に供給するためのガス拡散層を備え、陰極室において二酸化炭素の還元を行う請求項
3記載の電解槽。
【請求項5】
陰極室の陽極室に対向する側の反対側に、二酸化炭素を陰極と接するように導入する二酸化炭素導入部を備え、前記二酸化炭素導入部において二酸化炭素の還元を行う請求項
3記載の電解槽。
【請求項6】
請求項
3記載の電解槽における陽極室にアルカリを含む塩水を供給し、陰極室に塩水を供給して塩水を電解する塩水の電解方法。
【請求項7】
請求項
5記載の電解槽における陽極室にアルカリを含む塩水を供給し、陰極室に塩水を供給し、二酸化炭素導入部に二酸化炭素を導入して、塩水を電解すると共に二酸化炭素の還元を行う塩水の電解及び二酸化炭素の還元方法。
【請求項8】
Ni
x
Fe
1-x
WO
4
(但し、0<x<1)で表されるタングステン酸化物の製造方法であって、
タングステン酸塩、ニッケル塩及び鉄塩をポリオールに溶解させ、前記各塩が溶解したポリオール溶液を加熱することにより前記タングステン酸化物を合成する
前記タングステン酸化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NixFe1-xWO4(但し、0<x<1)で表されるタングステン酸化物、前記タングステン酸化物を含む酸素発生反応用触媒及び前記タングステン酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、炭酸ガスの温室効果に起因する地球の温暖化等の問題を解決するため、再生可能エネルギーを利用して水素を製造する方法が注目されている。再生可能エネルギーを利用した水素の製造においては、化石燃料の改質による従来の水素製造方法に匹敵する低コスト化が求められている。この要求に応え得る水素製造方法として、水の電気分解(電解)が挙げられる。水の電気分解の代表的な方法としてはアルカリ水電解法がある。アルカリ水電解の際に電力損失が生じるが、電力損失の主たる要因としては、陽極の過電圧、陰極の過電圧、イオン透過性隔膜のオーム損、電解セルユニットを構成する電解セルの構造抵抗によるオーム損等が挙げられる。これらの電力損失を低減することができれば、電解槽の電解時の電流密度を高めてシステム全体を小型化し、その結果、設備費を大幅に削減することが可能になる。そのため、電力損失を低減できる触媒の開発が望まれている。
【0003】
従来、酸素発生反応用触媒としては、酸化ルテニウム、酸化イリジウム等が用いられているが、これらはコストが高く資源量が限られている貴金属を使用するものであった。そのため、貴金属よりもコストが低く資源量の多いタングステンを使用したタングステン酸化物を酸素発生反応用触媒として利用することが検討されている。非特許文献1では、Co1-xFexWO4とカーボンナノチューブ(CNT)との複合体Co1-xFexWO4-CNTを酸素発生反応(OER)用触媒とすることが記載されている。しかし、カーボンナノチューブと複合化することにより過電圧を低くしているものの、カーボンナノチューブと複合化しないCo0.5Fe0.5WO4の過電圧は高く、その値は420mVと報告されている。また、非特許文献2では、Ni-Fe-W水酸化物を酸素発生反応用触媒として使用することが報告されているが、これもカーボンファイバーと複合化したものである。そのため、ルテニウム、イリジウム等の貴金属を使用せずに高い触媒活性を示す化合物の開発が求められていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Composite Metal Oxide-Carbon NanotubeElectrocatalysts for theOxygenEvolution and Oxygen Reduction Reactions,ChemElectroChem, 5, 2850-2856(2018)
【文献】Jie Xu, Mingshuo Wang, FeiYang, Xiaoqian Ju,Xilai Jia, “Self-Supported Porous Ni-Fe-W HydroxideNanosheets on Carbon Fiber: A Highly Efficient Electrode for Oxygen EvolutionReaction”, Inorg. Chem. 58, 13037-13048 (2019).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、酸素発生反応用触媒として使用できる触媒活性の高い化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、酸素発生反応用触媒として使用できる触媒活性の高い新たな化合物の検討を行ったところ、NixFe1-xWO4(但し、0<x<1)で表される化合物が、非常に高い触媒活性を有することを見いだした。従来、MWO4で表される化合物において、Mを各種金属元素とすることを記載した文献はあったが、MをNiとFeを組み合わせたものとした化合物、及びこれにより非常に高い触媒活性が得られることは知られていなかった。
【0007】
すなわち、本発明は以下に示す事項により特定されるものである。
(1)NixFe1-xWO4(但し、0<x<1)で表されるタングステン酸化物。
(2)上記(1)記載のタングステン酸化物を含む陽極又は正極に用いるための酸素発生反応用触媒。
(3)NixFe1-xWO4(但し、0<x<1)で表されるタングステン酸化物の製造方法であって、タングステン酸塩、ニッケル塩及び鉄塩をポリオールに溶解させ、前記各塩が溶解したポリオール溶液を加熱することにより前記タングステン酸化物を合成する、又はタングステン酸塩、ニッケル塩及び鉄塩並びに水を耐圧容器中に投入して加熱することにより前記タングステン酸化物を合成する、前記タングステン酸化物の製造方法。
(4)イオン透過性の隔膜によって区画された陽極室及び陰極室を備え、前記陽極室に陽極が配置され、前記陰極室に陰極が配置された電解槽であって、前記陽極にNixFe1-xWO4(但し、0<x<1)で表されるタングステン酸化物が触媒として担持されている電解槽。
(5)二酸化炭素を陰極に供給するためのガス拡散層を備え、陰極室において二酸化炭素の還元を行う上記(4)記載の電解槽。
(6)陰極室の陽極室に対向する側の反対側に、二酸化炭素を陰極と接するように導入する二酸化炭素導入部を備え、前記二酸化炭素導入部において二酸化炭素の還元を行う上記(4)記載の電解槽。
(7)上記(4)記載の電解槽における陽極室にアルカリを含む塩水を供給し、陰極室に塩水を供給して塩水を電解する塩水の電解方法。
(8)上記(6)記載の電解槽における陽極室にアルカリを含む塩水を供給し、陰極室に塩水を供給し、二酸化炭素導入部に二酸化炭素を導入して、塩水を電解すると共に二酸化炭素の還元を行う塩水の電解及び二酸化炭素の還元方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のタングステン酸化物は、酸素発生反応用触媒として使用すると優れた触媒活性を示す。本発明の酸素発生反応用触媒は、本発明のタングステン酸化物を含むことにより優れた触媒活性を示す。本発明の製造方法は、本発明のタングステン酸化物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施例1及び比較例2で得られた試料のXRDパターンを示す図である。
【
図2】
図2は、実施例1~3並びに比較例1及び2で得られた試料のXRDパターンを示す図である。
【
図3】
図3は、実施例1~3並びに比較例1~4で得られた試料のリニアスイープボルタモグラムを示す図である。
【
図4】
図4は、実施例1~3並びに比較例1~4で得られた試料のターフェルプロットを示す図である。
【
図5】
図5は、実施例4で得られた試料のXRDパターンを示す図である。
【
図6】
図6は、実施例1及び4並びに比較例1、2及び4で得られた試料のリニアスイープボルタモグラムを示す図である。
【
図7】
図7は、実施例1及び4並びに比較例1、2及び4で得られた試料のターフェルプロットを示す図である。
【
図8】
図8は、実施例1~3並びに比較例1及び2の電流密度10mA/cm
2時の過電圧を示した図である。
【
図9】
図9は、実施例1~3並びに比較例1及び2のリニアスイープボルタモグラムを示す図である。
【
図10】
図10は、実施例4で得られた試料のCV測定の結果を示す図である。
【
図11】
図11は、各試料の特定電位(0.05VvsHg/HgO)におけるカソード電流とアノード電流の差Δjと掃引速度の関係をプロットした図である。
【
図12】
図12は、過電圧によるターンオーバー頻度の変化を示す図である。
【
図13】
図13は、耐久性試験における経過時間と電位の関係を示す図である。
【
図15】
図15は、実施例1及び比較例6で得られた試料並びに実施例1で得られた試料を600℃で加熱したもののXRDパターンを示す図である。
【
図16】
図16は、実施例1及び比較例6で得られた試料並びに実施例1で得られた試料を600℃で加熱したもののリニアスイープボルタモグラムを示す図である。
【
図17】
図17は、実施例1及び比較例6で得られた試料並びに実施例1で得られた試料を600℃で加熱したもののターフェルプロットを示す図である。
【
図18】
図18は、実施例1で得られた試料を各温度で加熱したもののXRDパターンを示す図である。
【
図19】
図19は、実施例1で得られた試料を各温度で加熱したもののリニアスイープボルタモグラムを示す図である。
【
図20】
図20は、実施例1で得られた試料を各温度で加熱したもののターフェルプロットを示す図である。
【
図21】
図21は、実施例5におけるリニアスイープボルタモグラムを示す図である。
【
図22】
図22は、実施例6におけるリニアスイープボルタモグラムを示す図である。
【
図23】
図23は、pHを変化させたときのターフェル勾配と10mA/cm
2時の過電圧を示す図である。
【
図24】
図24は、比較例7におけるリニアスイープボルタモグラムを示す図である。
【
図25】
図25は、比較例8におけるリニアスイープボルタモグラムを示す図である。
【
図26】
図26は、本発明の電解槽の一実施形態を示す模式図である。
【
図27】
図27は、本発明の電解槽の一実施形態を示す模式図である。
【
図28】
図28は、本発明の電解槽の一実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のタングステン酸化物は、NixFe1-xWO4(但し、0<x<1)の化学式で表される化合物である。xは0.05以上0.95以下が好ましく、0.10以上0.90以下が好ましく、0.15以上0.85以下が好ましく、0.2以上0.8以下が好ましく、0.4以上0.6以下がより好ましい。従来、酸素発生反応用触媒としては、酸化ルテニウム、酸化イリジウム等が用いられているが、本発明のタングステン酸化物は、ルテニウムやイリジウム等の貴金属を使用しなくても酸素発生反応の触媒効果を有するため、コスト的に優れる。また、これらの金属は毒性が問題となるが、毒性の問題もない。さらに、本発明のタングステン酸化物は、貴金属を使用した場合よりも触媒活性に優れる。従来、酸素発生反応の触媒活性を有するタングステン酸化物としては、コバルトと鉄を含むウォルフレマイト型タングステン酸化物であるCo1-xFexWO4(但し、0<x<1)が知られているが、NixFe1-xWO4(但し、0<x<1)で表されるタングステン酸化物は知られていなかった。ニッケル、鉄及びタングステンからなる酸素発生反応用触媒として知られているものは水酸化物であり本発明のタングステン酸化物とは異なる。本発明は、NixFe1-xWO4(但し、0<x<1)で表されるタングステン酸化物を合成し、この化合物の用途の1つとして酸素発生反応用触媒として優れることを見いだしたものである。本発明のタングステン酸化物は、低結晶性のウォルフレマイト又は熱処理するとウォルフレマイトになるウォルフレマイト前駆体であることが好ましい。本発明のタングステン酸化物の好適な結晶子サイズとしては、2.0nm~15.0nm、2.0nm~14.0nm、3.0nm~14.0nm又は3.0nm~7.0nmを挙げることができる。
【0011】
本発明の酸素発生反応用触媒は、NixFe1-xWO4(但し、0<x<1)で表される本発明のタングステン酸化物を含む。本発明の酸素発生反応用触媒は、本発明のタングステン酸化物のみからなってもよく、触媒活性を有する範囲で他の化合物を含んでもよい。また、ニッケルフォーム、炭素材料、金属板等の担体に担持させてもよい。本発明の酸素発生反応用触媒は、陽極又は正極に用いることができ、例えば、電気分解(電解)、電池等における酸素発生反応のための触媒として使用でき、例えば、水の電気分解における陽極、金属空気電池における空気極(正極)、二酸化炭素の電解における還元反応の対極等に使用することができる。本発明のタングステン酸化物を酸素発生反応用触媒として使用すると、電流密度10mA/cm2に到達したときにおいて、過電圧が250~400mV、250~350mV又は300~350mVの酸素発生反応用触媒とすることができる。また、30~50mVdec-1、30~45mVdec-1又は30~40mVdec-1の範囲のターフェル勾配を有する酸素発生反応用触媒とすることができる。また、5~20m2/g又は5~15m2/gの範囲の電気化学活性表面積を有する酸素発生反応用触媒とすることができる。
【0012】
本発明のタングステン酸化物の製造方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリオール法、水熱合成法等を挙げることができる。ポリオール法とは、原料の塩をポリオールに溶解させて加熱することにより目的とする生成物を得る方法であり、水熱合成法とは、耐圧密閉容器中に原料と水を入れ、容器を密閉したまま加熱することにより目的とする生成物を得る方法である。ポリオール法は、各種原料をポリオールに溶解させる工程、及び前記工程で得られたポリオール溶液を加熱する工程を含むが、ポリオール法により本発明のタングステン酸化物を製造する場合、使用するポリオールとしては特に制限されず、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール等を挙げることができる。ポリオールに溶解させる塩としては、本発明のタングステン酸化物の構成成分であるニッケル、鉄及びタングステンの少なくとも1種を含む塩であり、使用するポリオールに溶解するものであれば特に制限されず、これらの塩を組み合わせて使用して溶解させ、ポリオール中に前記3成分が含まれるようにする。タングステン源としては、例えば、タングステン酸塩を挙げることができる。タングステン酸塩としては、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸カルシウム等を挙げることができる。ニッケル及び鉄源としては、それぞれの酢酸塩、硫酸塩、硝酸塩、塩化物等を挙げることができる。ポリオール法における加熱温度としては特に制限されないが、溶媒として使用するポリオールの沸点近傍あるいはそれ以下の温度が好ましい。また、加熱方法としては特に制限されないが、合成反応を行う際に常圧で最も多く熱を加えることができるため、使用するポリオールの沸点付近の温度で還流することが好ましい。加熱時間は、合成反応が十分に行われる時間を適宜選択することができる。例えば、ニッケルを含む塩、鉄を含む塩及びタングステンを含む塩をポリオール中に溶解させる。このとき、適宜水を加えてもよく、必要に応じてpHを調整してもよい。この溶液を加熱還流する。このときの加熱温度は、使用するポリオールの種類、ポリオールに添加する水の量等によって異なるが、前記溶液が還流できる温度であればよい。加熱時間は、合成反応が十分に行われる時間であれば特に制限されないが、例えば、30分~3時間、30分~2時間等を挙げることができる。加熱後、前記溶液の温度は室温まで下げ、遠心分離等の分離操作により固形分を回収することにより、合成された本発明のタングステン酸化物を得ることができる。ポリオールを溶媒として使用することにより、ポリオールが、生成するタングステン酸化物粒子表面の保護剤として働き、触媒粒子の凝集による成長を妨げると考えられ、酸素発生反応用触媒として使用する場合に、過電圧が低く、大きな電気化学活性表面積を有し、高い触媒活性を有するタングステン酸化物を得ることができる。また、ポリオール法は、ポリオール中において常圧で合成できるので、耐圧容器が必要となる水熱合成法に比べて低いコストで合成できる。
【0013】
水熱合成法により本発明のタングステン酸化物を製造する場合、原料としては、耐圧容器中の所定の温度圧力で水に溶解する物質であれば特に制限されないが、例えば、タングステン源としては、タングステン酸塩を挙げることができる。タングステン酸塩としては、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸カルシウム等を挙げることができる。また、ニッケル及び鉄源としては、例えば、それぞれの塩を挙げることができ、酢酸塩、硫酸塩、硝酸塩、塩化物等を挙げることができる。水熱合成法では、例えば、タングステン源となる原料、ニッケル源となる原料及び鉄源となる原料を水と共に耐圧容器中に入れて加熱し、所定の温度、圧力で所定時間反応させることにより、本発明のタングステン酸化物を製造することができる。水熱合成法における温度及び圧力は、使用する原料に応じて適宜選択することができるが、例えば、温度としては100~200℃を挙げることができ、その場合圧力としては1~15気圧程度となる。合成時間としては、合成反応が十分に行われる時間であれば特に制限されないが、例えば、12~48時間を挙げることができる。合成後、耐圧容器内の温度、圧力を下げ固形分を回収することにより本発明のタングステン酸化物を得ることができる。
【0014】
本発明の電解槽は、イオン透過性の隔膜によって区画された陽極室及び陰極室を備え、前記陽極室に陽極が配置され、前記陰極室に陰極が配置された電解槽であって、前記陽極にNixFe1-xWO4(但し、0<x<1)で表される本発明のタングステン酸化物が触媒として担持されている。本発明におけるイオン透過性の隔膜としては、水溶液等の電解用の電解槽に使用可能なイオン透過性の隔膜であれば特に制限されず、例えば、アスベストや変性アスベストからなる多孔質膜、ポリスルホン系ポリマーを用いた多孔質隔膜、ポリフェニレンスルファイド繊維を用いた布、フッ素系多孔質膜、無機系材料と有機系材料との両方を含むハイブリッド材料を用いた多孔質膜等の多孔質隔膜、フッ素系イオン交換膜等のイオン交換膜などを挙げることができる。本発明におけるイオン透過性の隔膜としては、ガス透過性が低く、電気伝導度が小さく、強度が高いことが好ましい。本発明における陽極は、導電性基材に本発明のタングステン酸化物が触媒として担持されている。導電性基材としては、電解の電極に使用可能な基材であれば特に制限されず、例えば、ニッケル、ニッケル合金、ニッケル鉄、バナジウム、モリブデン、銅、銀、マンガン、白金族元素、黒鉛、若しくはクロム、又はそれらの組合わせを挙げることができる。導電性基材は剛性の基材であってもよく、可撓性の基材であってもよい。剛性の導電性基材としては、例えばエキスパンドメタル、パンチドメタル等を挙げることができ、可撓性の導電性基材としては、例えば金属ワイヤーで織った(又は編んだ)金網等を挙げることができる。本発明のタングステン酸化物の導電性基材への担持方法及び担持量は、本発明のタングステン酸化物が電解液と接触でき触媒としての働きができれば特に制限されず、例えば担持方法としては、導電性基材の表面の全部又は一部を被覆する方法、導電性基材の表面の全部又は一部に付着させる方法等を挙げることができる。本発明における陰極としては、電解の電極に使用可能な基材であれば特に制限されないが、通常、導電性基材と、前記基材の表面に担持されている触媒層とを備える。導電性基材としては、電解の電極に使用可能な基材であれば特に制限されず、例えば、ニッケル、ニッケル合金、ステンレススチール、軟鋼、又はステンレススチール若しくは軟鋼の表面にニッケルメッキを施したもの等を挙げることができる。導電性基材は、例えば剛性の基材であってもよく、可撓性の基材であってもよい。剛性の導電性基材としては、例えばエキスパンドメタル、パンチドメタル等を挙げることができ、可撓性の導電性基材としては、例えば金属ワイヤーで織った(又は編んだ)金網等を挙げることができる。陰極の触媒層としては、貴金属若しくは貴金属酸化物、ニッケル、コバルト、モリブデン若しくはマンガン、又はこれらの酸化物からなる触媒層等を挙げることができる。本発明における陽極室及び陰極室には、それぞれ上記陽極及び陰極が配置される。
【0015】
本発明の電解槽では、陽極室及び陰極室に電解質を含んだ水が供給されて電解され、陽極室では酸素が発生し、陰極室では水素が発生する。
図26は、本発明の電解槽の構成を模式的に示した図である。アノード(陽極)には、本発明のタングステン酸化物が担持されている。隔膜の左側が陽極室であり、右側が陰極室であり、陽極室にはアノード(陽極)が配置され、陰極室にはカソード(陰極)が配置されている。
図26では、アノード及びカソードがそれぞれ陽極室及び陰極室の端に配置されているが、端以外の位置、例えば中央付近等に配置されてもよい。陽極室には、NaClとKOHを含む水が供給され、陰極室にはNaClを含む水が供給される。隔膜は陰イオン透過性の膜であり、OH
-が陰極室から陽極室に移動する。アノード付近では酸素が発生し、カソード付近では水素が発生する。本発明の電解槽を用いて、陽極室にアルカリを含む塩水を供給し、陰極室に塩水を供給して塩水を電解することができる。ここで、アルカリとは、水に溶解して塩基性を示す化合物のことであり、例えば、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物等を挙げることができる。
図26では、アルカリとしてKOHを使用した例を示しているが、KOH以外にも、例えばNaOH、LiOH、CsOH等を使用することができる。また、塩水とはNaClを含む水溶液をいう。本発明の電解槽は、陽極室と陰極室にNaClを含まずアルカリを含む水を供給して、供給された水を電解するアルカリ水電解を行うこともでき、上述のようにNaClとアルカリを含む水を供給して、供給された水を電解するアルカリ塩水電解を行うこともできる。
【0016】
また、本発明の電解槽の他の形態としては、陽極室、隔膜及び陰極室に加えて、二酸化炭素を陰極に供給するためのガス拡散層を備え、二酸化炭素の還元を行ってもよい。
図27は、このような電解槽の構成を模式的に示した図である。陽極には、本発明のタングステン酸化物が担持されている。
図27では、陰極及び陰極表面にある二酸化炭素還元触媒と、アニオン交換膜により複合陰極を構成している。陰極の陽極と対向する側と反対側にガス拡散層が設けられ、このガス拡散層を通って二酸化炭素が陰極及び陰極上の触媒に達し、二酸化炭素が一酸化炭素に還元される。陽極室にはKOH水溶液が供給され、陽極付近で酸素が発生する。本実施形態においては、複合陰極が陰極室を兼ねている。本発明の電解槽により、アルカリ水を電解しながら二酸化炭素の電解による還元を行うアルカリ水CO
2電解を行うことができる。また、本発明の電解槽の他の形態としては、陽極室、隔膜及び陰極室に加えて、陰極室の陽極室に対向する側の反対側に、二酸化炭素を陰極と接するように導入する二酸化炭素導入部を備え、前記二酸化炭素導入部において二酸化炭素の還元を行ってもよい。
図28は、このような電解槽の構成を模式的に示した図である。
図28では、隔膜の左側に陽極室が設けられ、右側に陰極室が設けられているが、陰極室の右側、すなわち陰極室の陽極室に対向する側の反対側に、二酸化炭素の導入部が設けられている。ここに導入された二酸化炭素は、カソードに接触して一酸化炭素に還元される。二酸化炭素導入部としては、カソードと二酸化炭素が接触するように二酸化炭素を導入できれば特に制限されず、例えば、二酸化炭素が流れる通路を設ける構造、ガス拡散層を設ける構造等を挙げることができる。陽極室には、NaClとNaOHを含んだ水が供給され、陰極室には、NaClを含んだ水が供給されて、本発明のタングステン酸化物を担持したアノード付近では酸素が発生し、カソード付近では水素が発生する。本発明の電解槽により、アルカリ塩水を電解しながら二酸化炭素の電解による還元を行うアルカリ塩水CO
2電解を行うことができる。
図27及び28の電解槽及びこれらを使用した電解方法は、本発明のタングステン酸化物触媒の優れた酸素発生反応に対する活性を利用し、酸素発生反応による駆動力で反応系全体の活性を向上させて二酸化炭素還元反応を活性化するものである。以上、二酸化炭素を一酸化炭素に還元する例を一例として挙げたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば二酸化炭素を還元して生成される他の物質としては、ギ酸(HCOOH)、メタン(CH
4)、メタノール(CH
3OH)、エタン(C
2H
6)、エチレン(C
2H
4)、エタノール(C
2H
5OH)、ホルムアルデヒド(HCH)、アセトアルデヒド(CH
3CHO)、酢酸(CH
3COOH)エチレングルコール(HOCH
2CH
2OH)、1-プロパノール(CH
3CH
2CH
2OH)等の炭素化合物が挙げられる。
【実施例】
【0017】
以下に実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの具体的実施形態に限定されるものではない。
【0018】
[実施例1]
ビーカーにジエチレングリコールを25mL入れ、蒸留水で希釈した塩酸を加えてpHを5.5に調整した。pH調整後の溶液を70℃まで昇温し、これに酢酸ニッケル(II)四水和物を0.63g、酢酸鉄(II)を0.48g加え、撹拌子を用いて均一になるまで強く撹拌した。ビーカー内の溶液を四つ口フラスコに移し、2.5mLの蒸留水にタングステン酸ナトリウム二水和物を1.67g溶解した溶液を加え、15~20分の間で220℃まで昇温した。この溶液を強く撹拌しつつ220℃で1時間還流した。還流後、室温まで自然冷却した。得られた混合溶液に、酢酸とエタノールを加えて遠心分離を数回行った後、蒸留水のみを加えて遠心分離を数回行った。残滓を室温で5時間真空乾燥させることにより、ニッケルと鉄を5:5の比率で組み込んだタングステン酸化物(p-Ni0.5Fe0.5WO4)を得た。
【0019】
[実施例2]
加える酢酸ニッケル(II)四水和物の量を0.25g、酢酸鉄(II)の量を0.70gとした以外は、実施例1と同じ方法により、ニッケルと鉄を2:8の比率で組み込んだタングステン酸化物(p-Ni0.2Fe0.8WO4)を得た。
【0020】
[実施例3]
加える酢酸ニッケル(II)四水和物の量を1.0g、酢酸鉄(II)の量を0.18gとした以外は、実施例1と同じ方法により、ニッケルと鉄を8:2の比率で組み込んだタングステン酸化物(p-Ni0.8Fe0.2WO4)を得た。
【0021】
[実施例4]
ビーカーに蒸留水を25mL入れ、70℃まで昇温し、これに塩化ニッケル(II)六水和物を0.11g、塩化鉄(II)四水和物を0.09g加えた。この溶液を水酸化ナトリウム水溶液によってpH5.5に調整し、撹拌子を用いて10分間撹拌した。その後、撹拌した溶液に10mLの蒸留水にタングステン(IV)酸ナトリウム二水和物を0.3g溶解した溶液を加え、さらに10分間撹拌した。ビーカー内の溶液をテフロン(商標登録)製の容器に移し、オートクレーブにおいて180℃で24時間加熱した。加熱後、室温まで自然冷却した。得られた混合溶液にエタノールを加えて遠心分離を数回行った後、蒸留水のみを加えて遠心分離を数回行った。残滓を60℃で12時間真空乾燥させることにより、ニッケルと鉄を5:5の比率で組み込んだタングステン酸化物(h-Ni0.5Fe0.5WO4)を得た。
【0022】
[比較例1]
ビーカーにジエチレングリコールを25mL入れ、蒸留水で希釈した塩酸を加えてpHを5.5に調整した。pH調整後の溶液を70℃まで昇温し、これに酢酸鉄(II)を0.97g加え、撹拌子を用いて均一になるまで強く撹拌した。ビーカー内の溶液を四つ口フラスコに移し、2.5mLの蒸留水にタングステン酸ナトリウム二水和物を1.67g溶解した溶液を加え、15~20分の間で220℃まで昇温した。この溶液を強く撹拌しつつ220℃で1時間還流した。還流後、室温まで自然冷却した。得られた混合溶液に、酢酸とエタノールを加えて遠心分離を数回行った後、蒸留水のみを加えて遠心分離を数回行った。残滓を室温で5時間真空乾燥させることにより、鉄を組み込んだウォルフレマイト型タングステン酸化物(FeWO4)を得た。
【0023】
[比較例2]
ビーカーにジエチレングリコールを25mL入れ、蒸留水で希釈した塩酸を加えてpHを5.5に調整した。pH調整後の溶液を70℃まで昇温し、これに酢酸ニッケル(II)四水和物を1.26g加え、撹拌子を用いて均一になるまで強く撹拌した。ビーカー内の溶液を四つ口フラスコに移し、2.5mLの蒸留水にタングステン酸ナトリウム二水和物を1.67g溶解した溶液を加え、15~20分の間で220℃まで昇温した。この溶液を強く撹拌しつつ220℃で1時間還流した。還流後、室温まで自然冷却した。得られた混合溶液に、酢酸とエタノールを加えて遠心分離を数回行った後、蒸留水のみを加えて遠心分離を数回行った。残滓を室温で5時間真空乾燥させることにより、ニッケルを組み込んだウォルフレマイト型タングステン酸化物(NiWO4)を得た。
【0024】
[比較例3]
WO3(純度95.0%、和光純薬工業)を用意し比較例3の試料とした。
【0025】
[比較例4]
RuO2(純度99.9%、シグマアルドリッチ社)を用意し比較例4の試料とした。
【0026】
[比較例5]
IrO2(純度99%(99.9+%-Ir)StremChemicals社)を用意
し比較例5の試料とした。
【0027】
[比較例6]
ビーカーにジエチレングリコールを25mL入れ、蒸留水で希釈した塩酸を加えてpHを5.5に調整した。pH調整後の溶液を70℃まで昇温し、これに酢酸ニッケル(II)四水和物を0.63g及び酢酸鉄(II)を0.48g加え、撹拌子を用いて均一になるまで強く撹拌した。ビーカー内の溶液を四つ口フラスコに移し、15~20分の間で220℃まで昇温した。この溶液を強く撹拌しつつ220℃で1時間還流した。還流後、室温まで自然冷却した。得られた混合溶液に、酢酸とエタノールを加えて遠心分離を数回行った後、蒸留水のみを加えて遠心分離を数回行った。残滓を室温で5時間真空乾燥させることにより、ニッケル鉄酸化物(p-NiFe oxide)を得た。
【0028】
実施例及び比較例で得られた試料を以下の方法で評価した。
(X線回折(XRD))
XRDパターンをCuKα放射線(40kv、40mA)を備えたX線回折計(RigakuUltima4)により測定した。
(リニアスイープボルタンメトリー(LSV))
エタノールを350μL、水を350μL、及びナフィオンを95μL含む混合溶液に、各試料を5mgとアセチレンカーボンブラック(導電性カーボン)を5mg加え、60分間超音波分散処理を行った。得られた分散液をアルミナで磨いたディスク電極(直径5mm)に10μL滴加した(活物質量:0.32mg)。その後、ディスク電極を室温、空気中で乾燥させ、これを作用電極とした。三電極セルを使用し、対極(対照電極)として白金メッシュを使用し、参照電極としてHg/HgO(1MNaOH)を使用した。電解液にはN2を30分パージした1MKOHを用いた。掃引速度を1mV/sとし、作用極上の酸素気泡を取り除くため回転数を1600rpmとした。作用極と参照電極間に生じる溶液の抵抗は、フィードバック率60%で補償された。酸素発生反応ではプロトンが生じるため、電解液のpHが小さくなり、水酸化電位が変化する。可逆水素電極(RHE)に変換することで、pHの影響をキャンセルすることができる。変換には、ERHE=0.059×14+0.123+EHg/HgOの式を用いた。pHは14であった。
(サイクリックボルタンメトリー)
エタノールを350μL、水を350μL、及びナフィオンを95μL含む混合溶液に、各試料を5mgとアセチレンカーボンブラック(導電性カーボン)を5mg加え、60分間超音波分散処理を行った。得られた分散液をアルミナで磨いたディスク電極(直径5mm)に10μL滴加した(活物質量:0.32mg)。その後、ディスク電極を室温、空気中で乾燥させ、これを作用電極とした。三電極セルを使用し、対極として白金メッシュを使用し、参照電極としてHg/HgOを使用した。電解液にはN2を30分パージした1MKOHを用いた。掃引速度を20mV/sとし、ファラデー反応が観測されない範囲、0~+1Vの間でサイクル(約100サイクル)させた。
(耐久性試験(クロノポテンショメトリー;CP))
エタノールを350μL、水を350μL、及びナフィオンを95μL含む混合溶液に、各試料を5mgとアセチレンカーボンブラック(導電性カーボン)を5mg加え、60分間超音波分散処理を行った。得られた分散液をアルミナで磨いたディスク電極(直径5mm)に10μL滴加した(活物質量:0.32mg)。その後、ディスク電極を室温、空気中で乾燥させ、これを作用電極とした。三電極セルを使用し、対極として白金メッシュを使用し、参照電極としてHg/HgOを使用した。電解液にはN2を30分パージした1MKOHを用いた。10mA/cm2の定電流密度を24時間保持した。リニアスイープボルタンメトリーと同様に作用電極を1600rpmで回転させた。
【0029】
実施例1及び比較例2で得られた試料のXRDパターンを
図1に示す。
図1におけるNi
0.5Fe
0.5WO
4は実施例1で得られた試料のXRDパターンであり、Ni
0.5Fe
0.5WO
4calは実施例1で得られた試料を大気中600℃で3時間加熱した後のXRDパターンである。また、
図1におけるNiWO
4は比較例2で得られた試料のXRDパターンであり、NiWO
4calは比較例2で得られた試料を600℃で3時間加熱した後のXRDパターンである。両試料共に、600℃加熱後はウォルフレマイトに典型的な結晶構造になるので、得られた試料はウォルフレマイト前駆体、あるいは組成が同じで結晶性が低いウォルフレマイトといえ、ウォルフレマイトと組成が同じで、かつ結晶化が進んでいないものといえる。
図2は、実施例1~3並びに比較例1及び2で得られた試料のXRDパターンを示している。上から順に、比較例1(FeWO
4)、実施例2(p-Ni
0.2Fe
0.8WO
4)、実施例1(p-Ni
0.5Fe
0.5WO
4)、実施例3(p-Ni
0.8Fe
0.2WO
4)、比較例2(NiWO
4)のXRDパターンである。実施例2及び3で得られた試料も実施例1で得られた試料と同様のXRDパターンを示した。
【0030】
実施例1~3並びに比較例1~4で得られた試料のリニアスイープボルタモグラムを
図3に示す。
図3から明らかなように、実施例1~3で得られた試料は電流のシャープな立ち上がりが見られ、酸素発生に対して最高の触媒性能を有するRuO
2よりもはるかに高い触媒活性を示した。
【0031】
実施例4で得られた試料のXRDパターンを
図5に示す。
図5おけるh-Ni
0.5Fe
0.5WO
4は実施例4で得られた試料のXRDパターンであり、h-Ni
0.5Fe
0.5WO
4calは実施例4で得られた試料を600℃で3時間加熱した後のXRDパターンである。「h-」は、水熱合成法により得られた試料であることを示すために付与した記号である。なお、実施例1~3で得られた試料については、ポリオール法により得られたことを示すために「p-」の記号を付与することもある。
図5から、実施例4で得られた試料も600℃加熱後はウォルフレマイトに典型的な結晶構造になるので、得られた試料はウォルフレマイト前駆体、あるいは組成が同じで結晶性が低いウォルフレマイトといえ、ウォルフレマイトと組成が同じで、かつ結晶化が進んでいないものといえる。実施例1及び4並びに比較例1、2及び4で得られた試料のリニアスイープボルタモグラムを
図6に示す。
図6から明らかなように、実施例1及び4で得られた試料は電流のシャープな立ち上がりが見られ、10mA/cm
2あるいは100mA/cm
2に到達するのに必要な過電圧が低く、酸素発生に対して最高の触媒性能を有するRuO
2よりもはるかに高い触媒活性を示した。また、水熱合成法で合成した実施例4の試料に比べ、ポリオール法で合成した実施例1の試料の方が、よりシャープな立ち上がりを示した。
【0032】
図3及び
図6の立ち上がり部分を解析するために、ターフェルプロットを作成した。
図4に
図3の電流密度の常用対数を横軸、水酸化の標準電位1.23Vとの差(過電圧)を縦軸としたプロットを示す。また、
図7に
図6について同様にプロットした図を示す。
図3及び
図4並びに
図6及び
図7より算出されたパラメータ(開始過電圧は
図4又は
図7の直線領域の低電位側の端点と定義)を表1に示す。ターフェル勾配は
図4又は
図7のプロットと直線の重複部分から算出され、ターフェル式[η=a+b・log(j)]により近似された。ここで、aはターフェル定数、bはターフェル勾配、jは電流密度である。実施例1~4で得られた試料は、RuO
2(比較例4)に匹敵する開始過電圧を示し、電流密度10mA/cm
2時の過電圧はRuO
2(比較例4)の試料に比べて低い。さらに、ターフェル勾配も、RuO
2(比較例4)の試料に比べて小さい。ターフェル勾配は、電流値が10倍になるのに要する電位差であり、値が小さいほど反応速度が速く、活性であることを表し、水酸化における電子移動の速さを表す。表1の結果は、実施例1~4で得られた試料は、RuO
2(比較例4)及び他の比較例で得られた試料よりも反応速度が著しく速いことを示している。
図8は、実施例1~3並びに比較例1及び2の電流密度10mA/cm
2時の過電圧を示した図であり、ニッケル単独を組み込む場合及び鉄単独を組み込む場合に比べて、ニッケルと鉄を組み込むと、著しく過電圧が低下することを示している。
図9は、
図3のリニアスイープボルタモグラムから実施例1~3並びに比較例1及び2の結果のみを抜き出した図である。
【0033】
【0034】
次に、実施例1~4並びに比較例1、2及び6で得られた試料の反応表面積(電気化学活性表面積:ECSA)を求めた。そのために、ECSAに比例する電気化学二重層キャパシタ(Cdl)を、各試料についてサイクリックボルタンメトリー(CV)により算出した。
図10は、実施例4で得られた試料のCV測定の結果を示す図である。CVの電位範囲はファラデー反応が観測されない範囲の0~0.1Vとした。Cdlは、各試料の特定電位(0.05VvsHg/HgO)におけるカソード電流とアノード電流の差Δjと掃引速度の関係のプロット(
図11)から算出した。プロットから得られる近似直線の傾きはCdlに相当する。ECSAは、ECSA=Cdl/Csの式から算出される。ここで、Csは、同一電解質条件での単位面積当たりのサンプルの比容量又は材料の原子レベルで滑らかな表面の容量である。Csは1.0MKOH中での典型的な値である0.040mF/cm
2を用いた。算出したCdl及びECSAを表2に示す。実施例4では、非常にECSAの大きな触媒が得られたことが分かる。触媒を使用して得られる電流の大きさは、(i)活性点における本質的な反応速度と、(ii)活性点の多さ(すなわち電気化学的に利用される面積の大きさ)の掛け算によって決まると考えられる。(i)はターフェル勾配、(ii)はECSAに反映されるため、ECSAが大きいことは触媒活性を高める。また、実施例1~3で得られた触媒は、ECSAは他より小さいが、ターフェル勾配が小さく本質的な反応速度が速いため優れた触媒活性を有している。
【0035】
【0036】
実施例1~4並びに比較例1、2及び6について、以下の式からターンオーバー頻度(TOF)を求めた。その結果を表3及び
図12に示す。
TOF=[電流密度(Acm
-2)×電極表面積(cm
2)]/[4×F(96485Cmol
-1)×電極上触媒の遷移金属の総モル(mol)]
【0037】
【0038】
図13に、実施例1で得られたp-Ni
0.5Fe
0.5WO
4、実施例4で得られたh-Ni
0.5Fe
0.5WO
4、比較例1で得られたFeWO
4、比較例2で得られたNiWO
4及び比較例5のIrO
2(StremChemicals社製、99%(99.9+%-Ir))について耐久性試験を行った結果を示す。FeWO
4では試験を開始して約3時間経過すると、電位が急激に増大した。また、触媒膜の基板からの剥離が観察された。この現象は高電位でのFeO
4
2-への酸化、溶解によるものと考えられる。NiWO
4では試験を開始して約4.5時間を経過すると電位が上昇し、約6時間を経過すると電位が急激に増大した。触媒膜の観察では、約4.5時間を経過すると、触媒表面への酸素気泡の付着、触媒膜の一部が基板から剥離したことが目視で確認され、その後、約6時間を経過すると触媒膜のさらなる剥離が観察された。これは、触媒表面への酸素気泡の発生によって触媒膜が物理的に破壊されたことが示唆される。IrO
2は24時間で初期電位より1.0V近く過電圧が増大している。これは反応物(H
2O)と生成物(O
2)の拡散抵抗が大きくなった結果と考えられる。p-Ni
0.5Fe
0.5WO
4及びh-Ni
0.5Fe
0.5WO
4では、24時間電位の増加は観測されず、優れた長期耐久性を示した。これはFeWO
4と比較して約170mV低い電位で動作し続けたためFeO
4
2-への酸化が起こらなかったことが考えられる。本発明のタングステン酸化物は、このように触媒としての耐久性に優れる。
図14には、前記耐久試験と同様に実施例1で作製したp-Ni
0.5Fe
0.5WO
4を用いて作製した作用極、対極として白金メッシュ及び参照電極としてHg/HgOを用いた三電極セルを使用し、電解液にはN
2を30分パージした1MKOHを用いて、20mVs
-1でサイクル試験を行った結果を示す。
図14に示されるように、1サイクル回目と400サイクル後とで電流応答はほとんど変化しなかった。また、生成した酸素の迅速な拡散によって触媒膜の物理的な破壊を抑制したことが示唆される。表4に耐久性試験に用いたp-Ni
0.5Fe
0.5WO
4、h-Ni
0.5Fe
0.5WO
4及びIrO
2のLSVでの10mA/cm
2時の電位とCPでの10mA/cm
2の保持電位の値を示す。
【0039】
【0040】
実施例1で作製したp-Ni
0.5Fe
0.5WO
4、これを600℃で3時間加熱した試料及び比較例6で作製したp-NiFeoxideのXRDパターン、リニアスイープボルタモグラム、ターフェルプロットを、それぞれ
図15、16、17に示す。p-Ni
0.5Fe
0.5WO
4を600℃で3時間加熱した試料(p-Ni
0.5Fe
0.5WO
4cal)はウォルフレマイト相を示したが、加熱しない試料は未発達のウォルフレマイト相を示した。また、p-NiFe oxideはトレボライト相を示し、RigakuデータベースよりNi
1.43Fe
1.7O
4に帰属された。実施例1で作製したp-Ni
0.5Fe
0.5WO
4を600℃で3時間加熱した試料では、酸素発生に対する触媒活性はそれほど高くなかった。実施例1で作製したp-Ni
0.5Fe
0.5WO
4、これを300℃で3時間加熱した試料、450℃で3時間加熱した試料、600℃で3時間加熱した試料のXRDパターン、リニアスイープボルタモグラム、ターフェルプロットを、それぞれ
図18、19、20に示す。加熱しない試料(未処理)のみでなく、300℃で加熱した試料及び450℃で加熱した試料も電流のシャープな立ち上がりが見られ、酸素発生に対する優れた触媒活性を示した。各試料の結晶子サイズを以下のScherrer式を用いて算出した。
結晶子サイズ=Kλ/(βcosθ)
(上記式中、KはBragg定数(=0.9)、λは使用したX線の波長(CuKα放射線:1.54051Å)、βは30°ピークの半値幅、θはBragg角(回折角2θの1/2)
その結果、p-Ni
0.5Fe
0.5WO
4の結晶子サイズは、未加熱のもので5.0nm、300℃加熱処理したもので6.4nm、450℃加熱処理したもので13.0nm、600℃加熱処理したもので16.8nmであった。本発明のタングステン酸化物は、低結晶性のウォルフレマイト又は熱処理するとウォルフレマイトになるウォルフレマイト前駆体であることが好ましい。
【0041】
[実施例5]
エタノールを350μL、水を350μL、及びナフィオンを95μL含む混合溶液に、実施例1で作製したp-Ni
0.5Fe
0.5WO
4試料を5mgとアセチレンカーボンブラック(導電性カーボン)を5mg加え、60分間超音波分散処理を行った。得られた分散液をアルミナで磨いたディスク電極(直径5mm)に10μL滴加した(活物質量:0.32mg)。その後、ディスク電極を室温、空気中で乾燥させ、これを作用電極とした。三電極セルを使用し、対極として白金メッシュを使用し、参照電極としてHg/HgO(1MNaOH)を使用した。電解液には0.5MNaCl水溶液、0.5M NaClと0.1M NaOHを含む水溶液(+0.1M NaOH)、0.5M NaClと0.5M NaOHを含む水溶液(+0.5M NaOH)、0.5MNaClと1.0MNaOHを含む水溶液(+1.0M NaOH)及び0.5M NaClと0.1M ホウ酸塩バッファー(Borate buffer)を含む水溶液をそれぞれ用いた。N
2を30分パージした1MKOHを用いた。掃引速度を1mV/sとし、作用極上の酸素気泡を取り除くため回転数を1600rpmとした。作用極と参照電極間に生じる溶液の抵抗は、フィードバック率60%で補償された。酸素発生反応ではプロトンが生じるため、電解液のpHが小さくなり、水酸化電位が変化する。可逆水素電極(RHE)に変換することで、pHの影響をキャンセルすることができる。変換には、E
RHE=0.059×14+0.123+E
Hg/HgOの式を用いた。得られたリニアスイープボルタンメトリー(LSV)を
図21に示す。なお、上記水溶液の記載に続く括弧書きは、
図21における表記を示すものである。
【0042】
[実施例6]
実施例5において、電解液として0.5MNaClO
4水溶液、0.5M NaClO
4と0.1M NaOHを含む水溶液(+0.1M NaOH)、0.5M NaClO
4と0.5MNaOHを含む水溶液(+0.5M NaOH)、0.5M NaClO
4と1.0M NaOHを含む水溶液(+1.0M NaOH)及び0.5MNaClO
4と0.1M ホウ酸塩バッファー(Borate buffer)を含む水溶液をそれぞれ用いた以外は、実施例5と同様の操作及び処理を行った。得られたリニアスイープボルタンメトリー(LSV)を
図22に示す。なお、上記水溶液の記載に続く括弧書きは、
図22における表記を示すものである。
【0043】
実施例5及び6において、ターフェル勾配(Tafel slope)と10mA/cm
2時の過電圧(η)を調べた。実施例5における0.5MNaCl水溶液のpHは5、0.5M NaClと0.1M NaOHを含む水溶液のpHは13、0.5M NaClと0.5M NaOHを含む水溶液のpHは13.5、0.5MNaClと1.0M NaOHを含む水溶液のpHは14、0.5M NaClと0.1M ホウ酸塩バッファーを含む水溶液のpHは9であった。実施例6における0.5M NaClO
4水溶液のpHは5、0.5MNaClO
4と0.1M NaOHを含む水溶液のpHは13、0.5M NaClO
4と0.5M NaOHを含む水溶液のpHは13.5、0.5MNaClO
4と1.0M NaOHを含む水溶液のpHは14、0.5M NaClO
4と0.1M ホウ酸塩バッファーを含む水溶液のpHは9であった。
図23に各pHにおけるターフェル勾配と10mA/cm
2時の過電圧(η)を示す。
【0044】
[比較例7]
実施例5において、p-Ni
0.5Fe
0.5WO
4に替えて比較例5のIrO
2を用いた以外は、実施例5と同様の操作及び処理を行った。得られたリニアスイープボルタンメトリー(LSV)を
図24に示す。
【0045】
[比較例8]
実施例6において、p-Ni
0.5Fe
0.5WO
4に替えて比較例5のIrO
2を用いた以外は、実施例6と同様の操作及び処理を行った。得られたリニアスイープボルタンメトリー(LSV)を
図25に示す。
【0046】
実施例5における0.5M NaCl水溶液は、海水を模した水溶液である。実施例5についての
図21から本発明のタングステン酸化物は、0.5MNaCl水溶液にアルカリを添加することにより、電流のシャープな立ち上がりが見られ、酸素発生に対する高い触媒活性を示すことが分かる。したがって、本発明のタングステン酸化物は、アルカリ海水電解のための酸素発生反応用触媒として優れる。また、本発明のタングステン酸化物を触媒として陽極に担持した電解槽は、陽極での酸素発生反応が盛んになるため、陰極での水素発生反応も盛んになるので、アルカリ海水電解による水素発生のための電解槽として優れる。実施例6についての
図22においても、0.5MNaClO
4水溶液にアルカリを添加することにより、電流のシャープな立ち上がりが見られ、酸素発生に対する高い触媒活性を示すことが分かった。実施例6においては、NaClO
4水溶液を使用するため水溶液中に塩素イオンが含まれず、塩素ガス(Cl
2)は発生しない。実施例5におけるLSVは実施例6におけるLSVとほぼ同じのため、塩素イオンを水溶液中に含む実施例5においてもほとんど塩素ガスが発生しないことが示されている。
【0047】
さらに、実施例5で使用したp-Ni0.5Fe0.5WO4電極を使用して、10mA/cm2で通過電気量が40C/cm2(=10mA/cm2×4000s)になるまで定電流電解を行い、電解後の試験液の残留塩素濃度を一般的なヨウ素滴定法により測定した。測定は、電解後の試験液にヨウ化カリウムを加え、遊離するヨウ素をチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定することにより行い、塩素発生のファラデー効率(塩素発生効率)は、以下の式により決定した。
塩素発生のファラデー効率(%)=([Cl2]×V)/{Q/(nF)}×100
(上記式中、nは関与電子数(=2)(2Cl-→Cl2+2e-)、Vは試験液の体積、Qは通過電気量、Fはファラデー定数(=96,485C/mol))
その結果、塩素発生のファラデー効率は、0.5MNaCl水溶液の場合で16%、0.5M NaClと0.1M NaOHを含む水溶液の場合で0.3%、0.5M NaClと0.5M NaOHを含む水溶液の場合で0.2%、0.5MNaClと1.0M NaOHを含む水溶液の場合で0.1%、0.5M NaClと0.1M ホウ酸塩バッファー(Borate buffer)を含む水溶液の場合で0.3%であり、この結果からも本発明のタングステン酸化物を触媒として用いると、海水等の塩水の電解において有毒ガスである塩素ガスの発生を抑えて酸素を発生できることが示されている。また、比較例7で使用したIrO2電極を使用して、上記p-Ni0.5Fe0.5WO4電極の場合と同様の試験方法及び測定方法により、電解後の試験液の残留塩素濃度を測定した。その結果、塩素発生効率は、0.5MNaCl水溶液の場合で47%、0.5M NaClと0.1M NaOHを含む水溶液の場合で0.6%、0.5M NaClと0.5M NaOHを含む水溶液の場合で0.5%、0.5MNaClと1.0M NaOHを含む水溶液の場合で0.1%、0.5M NaClと0.1M ホウ酸塩バッファー(Borate buffer)を含む水溶液の場合で0.6%であった。この結果から、本発明のタングステン酸化物を触媒として用いると、酸素発生反応に対して高い活性を示す触媒として従来使用されているIrO2を用いた場合よりも酸素発生時の塩素の発生を抑制できることが分かる。
【0048】
また、
図23では、本発明のタングステン酸化物を触媒として用いた場合、pH9以上、10以上、11以上、12以上又は13以上で高い酸素発生反応活性を有することが示されている。比較例7及び8は、酸素発生反応に対して高い活性を示す触媒として従来使用されているIrO
2を使用した例であり、その結果が
図24及び25に示されている。本発明のタングステン酸化物を使用した結果である
図21及び
図22とIrO
2を使用した結果である
図24及び
図25を比較すると、本発明のタングステン酸化物の方がIrO
2に比べて、pH13以上で60mA/cm
2到達の過電圧が小さく、アルカリ海水(塩水)電解においてIrO
2触媒より優れた活性を有することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のタングステン酸化物は、電気分解(電解)、電池等における酸素発生反応のための触媒として好適に使用でき、例えば、水の電気分解における陽極、金属空気電池における空気極(正極)、二酸化炭素の電解における還元反応の対極等に使用することができ、水の電気分解としては、アルカリ水電解、アルカリ海水(塩水)電解、アルカリCO2電解、アルカリCO2海水(塩水)電解等の電解のための触媒としても好適に使用することができる。また、本発明の電解槽は、本発明のタングステン酸化物を触媒として備えるので、水の電気分解等の各種の電気分解における電解槽として好適に使用でき、例えば、アルカリ水電解、アルカリ海水(塩水)電解、アルカリCO2電解、アルカリCO2海水(塩水)電解等の電解のための電解槽として好適に使用することができる。本発明の製造方法は、このようなタングステン酸化物を製造する方法として好適である。