(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】受精を介さず種子植物の胚発生を誘導する方法、それに用いられるタンパク質、核酸、及びベクター、並びに受精を介さず胚を発生しうる組換え種子植物
(51)【国際特許分類】
A01H 1/00 20060101AFI20240712BHJP
A01H 5/00 20180101ALI20240712BHJP
A01H 6/00 20180101ALI20240712BHJP
C07K 14/415 20060101ALN20240712BHJP
C07K 19/00 20060101ALN20240712BHJP
C12N 15/29 20060101ALN20240712BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20240712BHJP
C12N 15/82 20060101ALN20240712BHJP
【FI】
A01H1/00 A ZNA
A01H5/00 A
A01H6/00
C07K14/415
C07K19/00
C12N15/29
C12N15/62 Z
C12N15/82 Z
(21)【出願番号】P 2023503925
(86)(22)【出願日】2022-03-02
(86)【国際出願番号】 JP2022008956
(87)【国際公開番号】W WO2022186295
(87)【国際公開日】2022-09-09
【審査請求日】2023-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2021032750
(32)【優先日】2021-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(先端的低炭素化技術開発)(ALCA)「イネにおける技術検証;実用作物での検証・最適化」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(72)【発明者】
【氏名】高木 優
(72)【発明者】
【氏名】池田 美穂
(72)【発明者】
【氏名】光田 展隆
(72)【発明者】
【氏名】高崎 寛則
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-006248(JP,A)
【文献】特開2019-150022(JP,A)
【文献】特開2019-149990(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01H
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
SwissProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受精を介さず種子植物の胚発生を誘導する方法であって、
胚発生誘導機能を有するタンパク質を種子植物内で発現させることを含み、
前記胚発生誘導機能を有するタンパク質が、第1のドメインと第2のドメインとが融合されてなる融合タンパク質であり、
前記第1のドメインが、配列番号1のアミノ酸配列と90%以上の配列
同一性を有するアミノ酸配列を有し、
前記第2のドメインが、配列番号3のアミノ酸配列と90%以上の配列
同一性を有するアミノ酸配列を有する、方法。
【請求項2】
前記胚発生誘導機能を有するタンパク質の発現が、前記胚発生誘導機能を有するタンパク質をコードする塩基配列を含む核酸を種子植物に導入して発現させることにより実施されると共に、
前記核酸が、前記第1のドメインをコードする第1のコーディング領域と、前記第2のドメインをコードする第2のコーディング領域とを含み、前記第1のコーディング領域の塩基配列と前記第2のコーディング領域の塩基配列とがインフレームで連結されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記核酸が更に、プロモーター領域を含み、前記第1及び第2のコーディング領域の塩基配列が、前記プロモーター領域の塩基配列と機能的に連結されている、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1及び第2のコーディング領域の塩基配列が、前記種子植物の内在性のプロモーター領域の塩基配列と機能的に連結されるように、前記核酸が前記種子植物のゲノム内に導入される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記胚発生誘導機能を有するタンパク質が、前記プロモーター領域による制御の下、胚珠内で特異的に発現されるように構成された、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記核酸が更に、ターミネーター領域を含み、前記第1及び第2のコーディング領域の塩基配列が、ターミネーター領域の塩基配列と機能的に連結されている、請求項2~5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1~6の何れか一項に記載の方法により
受精を介さず種子植物の胚発生を誘導することを含む、受精を介さず胚を発生しうる組換え種子植物
の製造方法。
【請求項8】
受精を介さず胚を発生しうる組換え種子植物であって、胚発生誘導機能を有するタンパク質をコードする核酸、又は、当該核酸をコードするベクターが、細胞内に組み込まれていると共に、
前記タンパク質が、第1のドメインと第2のドメインとが融合されてなる融合タンパク質であると共に、前記第1のドメインが、配列番号1のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、前記第2のドメインが、配列番号3のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、
前記核酸が、酸であって、前記第1のドメインをコードする第1のコーディング領域と、前記第2のドメインをコードする第2のコーディング領域とを含み、前記第1のコーディング領域の塩基配列と前記第2のコーディング領域の塩基配列とがインフレームで連結されている、組換え種子植物。
【請求項9】
前記核酸が更にプロモーター領域を含み、前記第1及び第2のコーディング領域の塩基配列が、前記プロモーター領域の塩基配列と機能的に連結されている、請求項8に記載の組換え種子植物。
【請求項10】
前記核酸において、前記第1及び第2のコーディング領域の塩基配列が、種子植物の内在性のプロモーター領域の塩基配列と機能的に連結されるように、種子植物のゲノム内に導入されるように構成された、請求項9に記載の組換え種子植物。
【請求項11】
前記胚発生誘導機能を有するタンパク質が、前記プロモーター領域による制御の下、胚珠内で特異的に発現されるように構成された、請求項9又は10に記載の組換え種子植物。
【請求項12】
前記核酸が更にターミネーター領域を含み、前記第1及び第2のコーディング領域の塩基配列が、前記ターミネーター領域の塩基配列と機能的に連結されている、請求項8~11の何れか一項に記載の組換え種子植物。
【請求項13】
前記ベクターが植物ウイルスベクター又はアグロバクテリウムベクターである、請求項8~12の何れか一項に記載の組換え種子植物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受精を介さず種子植物の胚発生を誘導する方法と、斯かる方法に用いられる核酸及びベクター、更には斯かる方法により作成された、受精を介さず胚を発生しうる組換え種子植物に関する。
【背景技術】
【0002】
種子植物の種子は、主に胚及び胚乳から構成される。胚は受精卵が発育してなる幼植物個体であり、これが発芽・成長することで次世代の植物となる。胚乳は胚に隣接した組織で、発芽に際して胚の成長に必要な養分を供給する働きを有する。胚乳の構造は、雌性配偶体である胚嚢に由来する内乳と、胞子体組織に由来する周乳とに分けられる。胚及び胚乳は珠皮に包まれて胚珠を構成し、これが成熟して種子を形成する。裸子植物では胚珠は剥き出しで存在するが、被子植物では胚珠が子房に覆われており、子房が成熟して果実を形成する。
【0003】
被子植物において、雌蕊に含まれる胚嚢は、その一端に3つの反足細胞を、他端には単一の卵細胞を含む3つの細胞からなる卵装置を有する。また、胚嚢の中央には2つの極核が存在する。雌蕊が受粉すると、花粉から伸長した花粉管により2個の精細胞が胚嚢内に運ばれ、これらがそれぞれ胚嚢内の卵細胞及び2つの極核と受精する(これを重複受精(double fertilization)と呼ぶ)。一方の精細胞と卵細胞との受精(これを生殖受精と呼ぶ)により核相2nの受精卵が生じ、これが分裂して胚を形成する。また、他方の精細胞と2つの極核との受精(これを栄養受精と呼ぶ)により核相3nの胚乳核が生じ、これが胚嚢内で分裂増殖して内乳を形成すると共に、胚乳を形成する。
【0004】
被子植物においては、精細胞と2つの極核との受精(栄養受精)が生じないと、通常は胚が発生しない。但し、受精を伴わない無性生殖によって種子が生じるアポミクシス(Apomixis:無融合生殖ともいう)という現象によって、受精を経ない胚が生じる場合があることが知られている。
【0005】
天然でアポミクシスにより無受精胚が生じる態様としては、以下の3種の態様が知られている。第一の態様は、胚嚢母細胞から減数分裂を経ず複相の卵細胞(2n)が単為発生し、単為生殖的に胚が形成される「複相胞子生殖」(diplospory)で、ギニアグラス等に見られる態様である。第二の態様は、胚嚢母細胞からではなくその周辺(珠心)の体細胞から複相の胚嚢(2n)が形成され、単為生殖的に胚が形成される「無胞子生殖」(apospory)で、タンポポ等に見られる態様である。第三の態様は、胚嚢を形成せずに胚珠内で珠心細胞から直接、不定胚(珠心胚)が発生する「異所的不定胚発生」(somatic embryony又はadventive embryony)で、柑橘類等に広く見られる態様である。
【0006】
これらの態様のうち、特に三番目の異所的不定胚発生は、作物生産性向上の観点から注目されている。即ち、異所的不定胚発生によれば、受精胚とは別に通常は複数の珠心胚が生じ、斯かる珠心胚は、親植物と同一のゲノムを有するクローン胚である。よって、斯かる異所的不定胚発生を人為的に誘導することができれば、複数のクローン胚から多数のクローン作物を作出することが可能となり、生産効率向上等の観点から極めて望ましい。このため、異所的不定胚発生を人為的に誘導する試みがなされている。
【0007】
斯かる異所的不定胚発生の人為的誘導の試みの例として、シロイヌナズナ属(Arabidopsis)の転写制御因子の一種であるLEC1(LEAFY COTYLEDON1)遺伝子を用いた報告(非特許文献1)や、アブラナ属(Brassica)のAP2/ERF転写因子ファミリーに属するBBM(BABY BOOM)遺伝子を用いた報告(非特許文献2~5)等がなされている。しかし、その不定胚の形成率は、LEC1遺伝子を用いた例では約13.6%、BBM遺伝子を用いた例では約6.5%と何れも極めて低く、実用的なレベルとは言い難いものであった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Lotan et al., Cell, 1998, Vol.93, pp.1195-1205
【文献】Boutilier et al., Plant Cell, 2002, Vol.14, pp.1737-1749
【文献】Srinivasan et al., Planta, 2007, Vol.225, pp.341-351
【文献】Ouakfaoui et al., Plant Mol. Biol., 2010, Vol.74, pp.313-326
【文献】Khanday et al., Nature, 2018, Vol.565, pp.91-95
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、種子植物において、受精を経ずに異所的不定胚発生を人為的且つ効率的に誘導する手法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は鋭意検討の結果、シロイヌナズナの転写因子の一種であるTCP13と転写抑制機能を有するSRDXとの融合タンパク質が、種子植物の細胞内で発現させた場合に、異所的不定胚発生を高効率に誘導する機能を有することを見いだし、本発明に到達した。
【0011】
即ち、本発明は、以下に関する。
[項1]受精を介さず種子植物の胚発生を誘導する方法であって、
胚発生誘導機能を有するタンパク質を種子植物内で発現させることを含み、
前記胚発生誘導機能を有するタンパク質が、第1のドメインと第2のドメインとが融合されてなる融合タンパク質であり、
前記第1のドメインが、配列番号1のアミノ酸配列と90%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列を有し、
前記第2のドメインが、配列番号3のアミノ酸配列と90%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列を有する、方法。
[項2]前記胚発生誘導機能を有するタンパク質の発現が、前記胚発生誘導機能を有するタンパク質をコードする塩基配列を含む核酸を種子植物に導入して発現させることにより実施されると共に、
前記核酸が、前記第1のドメインをコードする第1のコーディング領域と、前記第2のドメインをコードする第2のコーディング領域とを含み、前記第1のコーディング領域の塩基配列と前記第2のコーディング領域の塩基配列とがインフレームで連結されている、項1に記載の方法。
[項3]前記核酸が更に、プロモーター領域を含み、前記第1及び第2のコーディング領域の塩基配列が、前記プロモーター領域の塩基配列と機能的に連結されている、項2に記載の方法。
[項4]前記第1及び第2のコーディング領域の塩基配列が、前記種子植物の内在性のプロモーター領域の塩基配列と機能的に連結されるように、前記核酸が前記種子植物のゲノム内に導入される、項2に記載の方法。
[項5]前記胚発生誘導機能を有するタンパク質が、前記プロモーター領域による制御の下、胚珠内で特異的に発現されるように構成された、項3又は4に記載の方法。
[項6]前記核酸が更に、ターミネーター領域を含み、前記第1及び第2のコーディング領域の塩基配列が、ターミネーター領域の塩基配列と機能的に連結されている、項2~5の何れか一項に記載の方法。
[項7]受精を介さず種子植物の胚発生を誘導する機能を有するタンパク質であって、第1のドメインと第2のドメインとが融合されてなる融合タンパク質であると共に、
前記第1のドメインが、配列番号1のアミノ酸配列と90%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列を有し、
前記第2のドメインが、配列番号3のアミノ酸配列と90%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列を有する、タンパク質。
[項8]項7に記載のタンパク質をコードする核酸であって、前記第1のドメインをコードする第1のコーディング領域と、前記第2のドメインをコードする第2のコーディング領域とを含み、前記第1のコーディング領域の塩基配列と前記第2のコーディング領域の塩基配列とがインフレームで連結されている、核酸。
[項9]更にプロモーター領域を含み、前記第1及び第2のコーディング領域の塩基配列が、前記プロモーター領域の塩基配列と機能的に連結されている、項8に記載の核酸。
[項10]前記第1及び第2のコーディング領域の塩基配列が、種子植物の内在性のプロモーター領域の塩基配列と機能的に連結されるように、種子植物のゲノム内に導入されるように構成された、項9に記載の核酸。
[項11]前記胚発生誘導機能を有するタンパク質が、前記プロモーター領域による制御の下、胚珠内で特異的に発現されるように構成された、項9又は10に記載の核酸。
[項12]更にターミネーター領域を含み、前記第1及び第2のコーディング領域の塩基配列が、前記ターミネーター領域の塩基配列と機能的に連結されている、項8~11の何れか一項に記載の核酸。
[項13]項8~12の何れか一項に記載の核酸を担持するベクター。
[項14]植物ウイルスベクター又はアグロバクテリウムベクターである、項13に記載のベクター。
[項15]受精を介さず胚を発生しうる組換え種子植物であって、項8~12の何れか一項に記載の核酸、又は、項13若しくは14に記載のベクターが、細胞内に組み込まれている組換え種子植物。
[項16]項1~6の何れか一項に記載の方法により作製される組換え種子植物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、種子植物において、受精を経ずに異所的不定胚発生を人為的且つ効率的に誘導することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、実施例1で作製したキメラ遺伝子A(35S Pro:TCP13-SRDX_HSP ter)の構成を模式的に示す図である。
【
図2】
図2(a)は、播種後21日目の野生型シロイヌナズナ(Col-0)の写真であり、
図2(b)~(h)は、キメラ遺伝子Aを含むコンストラクトAで形質転換したシロイヌナズナ形質転換植物体A(T1)の写真である。(b)播種後21日目の不定胚様構造の集合体;(c)播種後21日目の異常な本葉;(d)播種後21日目のカルス;(e)播種後268日目のシュート様の構造の集合体;(f)播種後192日目の形態にバリエーションのあるライン;(g)播種後226日目のシュート;(h)播種後57日目の花器官。各写真中の黒線分の長さは、(a)では5mmに、(b),(c),(d),及び(h)では1mmに、(e)及び(f)では1cmにそれぞれ相当する。
【
図3】
図3は、コンストラクトAで形質転換したシロイヌナズナ(Col-0)の形質転換植物体A(T1)のqRT-PCRによる分化関連造伝子の発現解析グラフである。値は発芽後6日目の野生型の実生の発現量を1とした相対値。UBQl追伝子の発現呈を内部標準として補正した。
【
図4】
図4は、実施例2で作製したキメラ遺伝子B(TT12 Pro:TCP13-SRDX_HSP ter)の構成を模式的に示す図である。
【
図5】
図5(a)は、野生型シロイヌナズナ(Col-0)から得られた種子の透明化処理後の共焦点レーザー顕微鏡写真であり、
図5(b)及び(c)は、キメラ遺伝子Bを含むコンストラクトBで形質転換したシロイヌナズナ形質転換植物体B(T1)から得られた種子の透明化処理後の共焦点レーザー顕微鏡写真である。何れの種子も、透明化処理は抱水クロラールにより常法で実施した。(b)一つの種子内部に二つの魚雷型胚が存在するのが観察される。(c)心臓型胚に加え、球状の肺様構造が存在するのが観察される。各写真中の黒線分の長さは、何れも500μmに相当する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を具体的な実施の形態に即して詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施の形態に束縛されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、任意の形態で実施することが可能である。
【0015】
なお、本明細書で引用する特許公報、特許出願公開公報、及び非特許文献は、何れもその全体が援用により、あらゆる目的において本明細書に組み込まれるものとする。
【0016】
(1.概要)
本発明の一側面によれば、受精を介さず種子植物の胚発生を誘導する方法(以下適宜「本発明の胚発生誘導方法」、或いは単に「本発明の方法」と呼ぶ場合がある。)が提供される。本発明の一側面によれば、本発明の胚発生誘導方法は、胚発生誘導機能を有するタンパク質(以下適宜「本発明の胚発生誘導タンパク質」と呼ぶ場合がある。)を種子植物内で発現させることを含む。本発明の一側面によれば、本発明の胚発生誘導タンパク質の発現は、本発明の胚発生誘導タンパク質をコードする塩基配列を含む核酸(以下適宜「本発明の胚発生誘導核酸」と呼ぶ場合がある。)を種子植物に導入して発現させることにより実施される。本発明の一側面によれば、本発明の胚発生誘導核酸の種子植物への導入は、本発明の胚発生誘導核酸を担持するベクター(以下適宜「本発明の胚発生誘導ベクター」と呼ぶ場合がある。)を用いて実施される。本発明の一側面によれば、本発明の胚発生誘導方法を実施することにより、受精を介さず胚発生を生じる組換え種子植物(以下適宜「本発明の組換え種子植物」と呼ぶ場合がある。)が提供される。
【0017】
以下の説明では、まず本発明の胚発生誘導タンパク質、次にこれをコードする本発明の胚発生誘導核酸、続いてこれを担持するベクターについて説明した上で、これらの本発明の胚発生誘導タンパク質及び/又は本発明の胚発生誘導核酸を用いた本発明の胚発生誘導方法について説明し、最後に本発明の胚発生誘導方法により得られる本発明の組換え種子植物について説明する。
【0018】
(2.胚発生誘導タンパク質)
本発明の一側面によれば、本発明の胚発生誘導タンパク質は、第1のドメインと第2のドメインとが融合されてなる融合タンパク質である。
【0019】
本発明の胚発生誘導タンパク質における第1のドメインのアミノ酸配列は限定されないが、以下のアミノ酸配列又はこれと類似のアミノ酸配列を有することが好ましい。
・シロイヌナズナ転写因子TCP13(別名「CR117」又は「RSE1」)タンパク質のアミノ酸配列(配列番号1)
【0020】
本発明の胚発生誘導タンパク質における第2のドメインのアミノ酸配列は限定されないが、以下のアミノ酸配列又はこれと類似のアミノ酸配列を有することが好ましい。
・シロイヌナズナSUPERMAN遺伝子の転写抑制領域を改変したSRDXタンパク質のアミノ酸配列(配列番号3)
【0021】
後述する実施例から明らかなように、TCP13タンパク質とSRDXタンパク質とを融合した融合タンパク質は、植物細胞内で発現させた場合に胚発生誘導を有する。よって、斯かるタンパク質は、本発明における胚発生誘導タンパク質として好適に使用できる。
【0022】
また、斯かる融合タンパク質とアミノ酸配列が類似するタンパク質も、その構造の類似性ゆえに、植物細胞内で発現させた場合に同様の作用を有する蓋然性が高いことから、やはり本発明における胚発生誘導タンパク質として好適に使用できる。
【0023】
具体的に、本発明において、胚発生誘導タンパク質の第1のドメインのアミノ酸配列は、前記の配列番号1のアミノ酸配列と、例えば90%以上、又は95%以上、又は96%以上、又は97%以上、又は98%以上、又は99%以上の配列相同性(好ましくは配列同一性)を有することが好ましい。
【0024】
また、本発明において、胚発生誘導タンパク質の第2のドメインのアミノ酸配列は、前記の配列番号3のアミノ酸配列と、例えば90%以上、又は95%以上、又は96%以上、又は97%以上、又は98%以上、又は99%以上の配列相同性(好ましくは配列同一性)を有することが好ましい。
【0025】
ここで、2つのアミノ酸配列の「相同性」とは、両アミノ酸配列をアラインメントした際に各対応箇所に同一又は類似のアミノ酸残基が現れる比率であり、2つのアミノ酸配列の「同一性」とは、両アミノ酸配列をアラインメントした際に各対応箇所に同一のアミノ酸残基が現れる比率である。
【0026】
なお、2つのアミノ酸配列の「相同性」及び「同一性」は、例えばBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)プログラム(Altschul et al., J. Mol. Biol., (1990), 215(3):403-10)等を用いて求めることが可能である。
【0027】
(3.胚発生誘導核酸)
本発明の一側面によれば、本発明の胚発生誘導核酸は、前記第1のドメインをコードする第1のコーディング領域と、前記第2のドメインをコードする第2のコーディング領域とを含み、前記第1のコーディング領域の塩基配列と前記第2のコーディング領域の塩基配列とがインフレームで連結された構成を有する。
【0028】
本発明の胚発生誘導核酸における第1のコーディング領域の塩基配列は限定されないが、以下の塩基配列又はこれと類似の塩基酸配列を有することが好ましい。
・シロイヌナズナ転写因子TCP13遺伝子の塩基配列(配列番号2)
【0029】
本発明の胚発生誘導核酸における第2のコーディング領域の塩基配列は限定されないが、以下の塩基配列又はこれと類似の塩基配列を有することが好ましい。
・シロイヌナズナSUPERMAN遺伝子の転写抑制領域を改変したSRDX遺伝子の塩基配列(配列番号4)
【0030】
また、第1及び第2のコーディング領域の塩基配列として、前記の塩基配列と類似する塩基配列を有する核酸も、その構造の類似性ゆえに、植物細胞内で発現させた場合に同様の作用を有する融合タンパク質、即ち本発明の胚発生誘導タンパク質をコードする蓋然性が高いことから、やはり本発明における胚発生誘導核酸として好適に使用できる。
【0031】
具体的に、本発明において、胚発生誘導核酸の第1のコーディング領域の塩基配列は、前記の配列番号2の塩基配列と、例えば90%以上、又は95%以上、又は96%以上、又は97%以上、又は98%以上、又は99%以上の配列相同性(好ましくは配列同一性)を有することが好ましい。
【0032】
また、本発明において、胚発生誘導核酸の第2のコーディング領域の塩基配列は、前記の配列番号4の塩基配列と、例えば90%以上、又は95%以上、又は96%以上、又は97%以上、又は98%以上、又は99%以上の配列相同性(好ましくは配列同一性)を有することが好ましい。
【0033】
本発明の一態様によれば、本発明の胚発生誘導核酸は、更にプロモーター領域を含む。この場合、前記第1及び第2のコーディング領域の塩基配列は、前記プロモーター領域の塩基配列と機能的に連結された構成を有する。
【0034】
本発明の胚発生誘導核酸におけるプロモーター領域の塩基配列は限定されないが、以下から選択される塩基配列又はこれと類似の塩基配列を有することが好ましい。
・シロイヌナズナのTT12(transparent testa12)遺伝子のプロモーター領域(配列番号5)
・カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)の35S遺伝子のプロモーター領域(配列番号6)。
【0035】
特にシロイヌナズナTT12遺伝子プロモーター(配列番号5)は、胚珠の母方由来2n細胞である内珠皮(特にその第1層及び第2層)において特異的に遺伝子を発現させる作用を有する。従って、斯かるシロイヌナズナTT12遺伝子プロモーターを、本発明の胚発生誘導核酸におけるプロモーター領域として用いれば、胚珠内母細胞からの不定胚形成を人為的に誘導することが可能となり、極めて好ましい。
【0036】
また、プロモーター領域の塩基配列として、前記の塩基配列と類似する塩基配列を有する核酸も、その構造の類似性ゆえに、植物細胞内で発現させた場合に同様の作用を有する融合タンパク質、即ち本発明の胚発生誘導タンパク質をコードする蓋然性が高いことから、やはり本発明における胚発生誘導核酸として好適に使用できる。
【0037】
具体的に、本発明において、胚発生誘導核酸のプロモーター領域の塩基配列は、前記の配列番号5又は配列番号6の塩基配列と、例えば90%以上、又は95%以上、又は96%以上、又は97%以上、又は98%以上、又は99%以上の配列相同性(好ましくは配列同一性)を有することが好ましい。
【0038】
本発明の別の態様によれば、本発明の胚発生誘導核酸は、種子植物のゲノム内に導入される際に、前記第1及び第2のコーディング領域の塩基配列が、種子植物の内在性のプロモーター領域の塩基配列と機能的に連結されるような構成を有する。斯かる外来遺伝子の標的化導入技術としては、従来公知の種々の手法を用いることができる。種子植物の内在性のプロモーター領域の例としては、これらに限定されるものではないが、δVPE、ESP1、及びTT1等の遺伝子が挙げられる。
【0039】
本発明の一側面によれば、本発明の胚発生誘導核酸は、前記胚発生誘導機能を有する第1及び第2のコーディング領域の塩基配列が、前記プロモーター領域による制御の下、胚珠内で特異的に転写及び翻訳され、本発明の胚発生誘導タンパク質が生成されるように構成される。
【0040】
本発明の一側面によれば、本発明の胚発生誘導核酸は、更にターミネーター領域の塩基配列を含む。この場合、前記第1及び第2のコーディング領域の塩基配列は、前記ターミネーター領域の塩基配列と機能的に連結された構成を有する。
【0041】
本発明の胚発生誘導核酸におけるターミネーター領域の塩基配列は限定されないが、以下から選択される塩基配列又はこれと類似の塩基配列を有することが好ましい。
・シロイヌナズナのヒートショックタンパク質(HSP)遺伝子のターミネーター領域(配列番号7)。
・アグロバクテリウムのノパリン合成酵素遺伝子のターミネーター(配列番号8)。
【0042】
また、ターミネーター領域の塩基配列として、前記の塩基配列と類似する塩基配列を有する核酸も、その構造の類似性ゆえに、植物細胞内で発現させた場合に同様の作用を有する融合タンパク質、即ち本発明の胚発生誘導タンパク質をコードする蓋然性が高いことから、やはり本発明における胚発生誘導核酸として好適に使用できる。
【0043】
具体的に、本発明において、胚発生誘導核酸のターミネーター領域の塩基配列は、前記の配列番号7又は配列番号8の塩基配列と、例えば90%以上、又は95%以上、又は96%以上、又は97%以上、又は98%以上、又は99%以上の配列相同性(好ましくは配列同一性)を有することが好ましい。
【0044】
本発明の核酸は、その他の1又は2以上の遺伝子要素を有していてもよい。その他の遺伝子要素の例としては、抗生物質耐性遺伝子、制限酵素配列、相同組換え配列等が挙げられる。
【0045】
本発明の核酸は、前述の本発明の胚発生誘導タンパク質をコードする第1及び第2のコーディング領域を有すると共に、任意選択要素として、プロモーター領域、ターミネーター領域、及び/又はその他の遺伝子要素を有する。特に、第1及び第2のコーディング領域以外の任意選択要素を有する場合には、通常は第1及び第2のコーディング領域がインフレームで連結されると共に、第1及び第2のコーディング領域の5’側にプロモーター領域が、3’側に転写抑制領域及び/又はターミネーター領域が配置され、それぞれ第1及び第2のコーディング領域と機能的に連結される。これにより、本発明の核酸が種子植物の植物細胞に導入され、好ましくはゲノム内に組み込まれた場合に、各遺伝子要素が機能的に連関して作動し、本発明の胚発生誘導タンパク質が自律的に発現される。即ち、本発明の核酸は、キメラ遺伝子カセットとして構成されていることが好ましい。
【0046】
(4.ベクター)
本発明の核酸は、通常はこれを植物細胞内に導入してゲノム内に組み込むべく、ベクターに担持した形態で使用される。斯かる本発明の核酸を担持したベクターも、本発明の一側面を構成する。
【0047】
斯かるベクター(本発明のベクター)の形態は任意であり、直鎖状の形態であっても環状の形態であってもよい。但し、環状の形態、例えばプラスミドの形態であることが好ましい。ベクターの具体的な態様の例としては、植物ウイルスベクター、アグロバクテリウムベクター等が挙げられる。
【0048】
植物ウイルスベクター法は、標的遺伝子を挿入した植物ウイルスゲノムのcDNAを試験管内転写し、得られたRNAをベクターとして植物に接種して感染させ、ウイルス自身の増殖能及び全身移行能を利用して、発現対象遺伝子を植物に発現させる手法である。植物ウイルスベクターの例としては、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)ベクター、キュウリモザイクウイルス(CMV)ベクター、タバコモザイクウイルス(TMV)ベクター、ジャガイモXウイルス(PVX)ベクター等が挙げられる。
【0049】
アグロバクテリウムベクター(T-DNAベクター)法は、アグロバクテリウム(Agrobacterium)のTiプラスミドが有するT-DNA(transfer DNA)配列を利用した手法である。T-DNA配列は右境界配列(right border sequence:RB配列)と左境界配列(left border sequence:LB配列)とを両端に有し、これらの配列に挟まれた領域の遺伝子を植物ゲノムへ組み込む作用を有する。現在は、Tiプラスミドを改変した2種のプラスミド、即ち、バイナリープラスミドとヘルパープラスミドとを組み合わせたT-DNAバイナリー系が確立されており、植物の形質転換による外来遺伝子の導入を行うことが主流である。
【0050】
本発明の核酸をベクターに担持させる場合、好ましくは、本発明の胚発生誘導タンパク質をコードする塩基配列が植物ゲノム内に組み込まれ、機能的に発現するように構成する。
【0051】
なお、本発明の核酸が、胚発生誘導タンパク質をコードする塩基配列に加えて、プロモーター領域やターミネーター領域を有し、植物細胞内で自律的に発現しうるキメラ遺伝子カセットとして構成されている場合には、ベクター側にプロモーターやターミネーター等の調節要素を組み込むことは必須ではなく、植物ゲノムへの組み込みに必要な要素(例えば相同組換えのためのフランキング配列や、T-DNAのLB配列及びRB配列等)のみをベクターに設ければよい。
【0052】
一方、本発明の核酸がプロモーター領域やターミネーター領域を欠き、植物細胞内で自律的に発現しうるキメラ遺伝子カセットとして構成されている場合には、ベクターに植物ゲノムへの組み込みに必要な要素のみならず、プロモーターやターミネーター等の調節要素を組み込み、本発明の核酸が有する胚発生誘導タンパク質の発現を誘導するように構成することが好ましい。或いは、本発明のベクターを植物ゲノム内に組み込んだ場合に、本発明の核酸が有する胚発生誘導タンパク質をコードする塩基配列を、植物ゲノム内のプロモーターやターミネーター等の調節要素と機能的に連関して作動し、胚発生誘導タンパク質が発現されるように構成してもよい。
【0053】
本発明のベクターは、必要に応じて、他のヘルパープラスミドと併用してもよい。他のヘルパープラスミドの例としては、T-DNAベクターの場合、vir領域を有するヘルパープラスミド等が挙げられる。
【0054】
本発明のベクターは、当業者に周知の各種の遺伝子組み換え技術を適宜組み合わせて用いることにより、容易に作製することが可能である。
【0055】
(5.胚発生誘導方法)
本発明の一側面によれば、本発明の胚発生誘導方法は、本発明の胚発生誘導タンパク質を種子植物内で発現させることを含む。本発明の一側面によれば、本発明の胚発生誘導方法において、本発明の胚発生誘導タンパク質の発現は、本発明の胚発生誘導核酸を種子植物に導入して発現させることにより実施される。本発明の一側面によれば、本発明の胚発生誘導核酸の種子植物への導入は、本発明の胚発生誘導ベクターを用いて実施される。
【0056】
本発明の方法は、上述の本発明の核酸又は本発明のベクターを、種子植物のゲノム内に導入して発現させることを含む。本発明の核酸又は本発明のベクターは、複数種を併用して用いてもよい。
【0057】
種子植物の種類は特に制限されないが、通常は被子植物が対象となる。被子植物の例としては、これらに制限されるものではないが、例えばナス科、マメ科、アブラナ科、イネ科、キク科、ハス科、バラ科、ウリ科、ユリ科等に属する植物種が挙げられる。具体例としては、タバコ、シロイヌナズナ、アルファルファ、オオムギ、インゲンマメ、カノーラ、ササゲ、綿、トウモロコシ、クローバー、ハス、レンズマメ、ルピナス、キビ、オートムギ、エンドウマメ、落花生、イネ、ライムギ、スイートクローバー、ヒマワリ、スイートピー、ダイズ、モロコシ、ライコムギ、クズイモ、ハッショウマメ、ソラマメ、コムギ、フジ、堅果植物、コヌカグサ、ネギ、キンギョソウ、オランダミツバ、ナンキンマメ、アスパラガス、ロウトウ、カラスムギ、ホウライチク、アブラナ、ブロムグラス、ルリマガリバナ、ツバキ、アサ、トウガラシ、ヒヨコマメ、ケノポジ、キクニガナ、カンキツ、コーヒーノキ、ジュズダマ、キュウリ、カボチャ、ギョウギシバ、カモガヤ、チョウセンアサガオ、ウリミバエ、ジギタリス、ヤマノイモ、アブラヤシ、オオシバ、フェスキュ、イチゴ、フクロウソウ、キスゲ、パラゴムノキ、ヒヨス、サツマイモ、レタス、ヒラマメ、ユリ、アマ、ライグラス、トマト、マヨラナ、リンゴ、マンゴー、イモノキ、ウマゴヤシ、アフリカウンラン、イガマメ、テンジクアオイ、チカラシバ、ツクバネアサガオ、エンドウ、インゲン、アワガエリ、イチゴツナギ、サクラ、キンポウゲ、ラディッシュ、スグリ、トウゴマ、キイチゴ、サトウキビ、サルメンバナ、セネシオ、セタリア、シロガラシ、ナス、ソルガム、イヌシバ、カカオ、ジャジクソウ、レイリョウコウ、コムギ、ブドウ等が挙げられる。中でも、シロイヌナズナ、イネ、トウモロコシ、麦類、果実類等が好ましい。
【0058】
上述の本発明の核酸又は本発明のベクターを、種子植物のゲノム内に導入する手法は任意である。例えば、本発明のベクターを種子植物に生物的に感染させ、或いはアグロインフィルトレーション、PEG-リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポソーム法、パーティクルガン法、マイクロインジェクション法等の手法で種子植物の各組織に導入し、種子植物のゲノム内に導入することができる。更には本発明のベクターを用いず、CRISPR/Cas9システム等の公知の手法を用いて、本発明の核酸を直接植物のゲノム内に組み込むことも可能である。また、本発明の核酸又は本発明のベクターを種子植物の組織断片に導入し、これを培養して植物体とすることにより、本発明のベクターがゲノム内に導入された、本発明の核酸を恒常的に発現する再分化個体を得ることも可能である。
【0059】
(6.組換え種子植物)
本発明の一側面によれば、本発明の組換え種子植物は、本発明の胚発生誘導核酸又は本発明の胚発生誘導ベクターが、細胞内に組み込まれている組換え種子植物である。また、本発明の一側面によれば、本発明の組換え種子植物は、本発明の胚発生誘導方法により作製される組換え種子植物である。
【0060】
以上の本発明の方法により、胚発生誘導タンパク質をコードする塩基配列を含む本発明の核酸がゲノム内に組み込まれて、胚発生誘導タンパク質を発現する組換植物が得られる。斯かる組換植物は、胚発生誘導タンパク質を発現することにより、受精を経ずに胚を発生する能力を有する。
【0061】
なお、前述の本発明の方法により作製される組換種子植物や、本発明の核酸又は本発明のベクターをゲノム内に含む組換え種子植物、受精を経ずに機能的な胚を発生する能力を有する組換え種子植物等、更にはそれらの植物の子孫又はそれらの部分も、本発明の対象となる。ここで、「植物の子孫」とは、当該植物の有性生殖又は無性生殖により得られる子孫をいい、当該植物のクローンを含む。例えば、当該植物体やその子孫から繁殖材料(例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラスト等)を得て、それらを基に当該植物の子孫を作出することが可能である。また、本発明において「植物若しくはその子孫、又はそれらの一部」としては、当該植物又はその子孫の植物における、種子(発芽種子、未熟種子を含む)、器官又はその部分(葉、根、茎、花、雄蕊、雌蘂、それらの片を含む)、植物培養細胞、カルス、プロトプラストが挙げられる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施例にも束縛されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、任意の形態で実施することが可能である。
【0063】
なお、以下に記載のプライマー塩基配列の表記のうち、大文字と小文字が混在しているものについては、大文字は増幅対象遺伝子の塩基配列と相補的な領域を意味し、小文字は付加配列を意味する。
【0064】
[概要]
実施例1は、第1のコーディング領域としてシロイヌナズナ転写因子TCP13遺伝子のコーディング領域を用い、第2のコーディング領域としてシロイヌナズナSUPERMAN遺伝子の転写抑制領域を改変したSRDX遺伝子のコーディング領域を用い、これらをインフレームで連結すると共に、これらのコーディング領域の上流側にカリフラワーモザイクウイルス(CAMV)35S遺伝子のプロモーター領域を、下流側にシロイヌナズナのヒートショックタンパク質(HSP)遺伝子のターミネーター領域を、それぞれ機能的に連結し、前記の第1及び第2のコーディング領域が前記のプロモーター及びターミネーターの制御下で発現するように連結したキメラ遺伝子35S Pro:TCP13-SRDX_HSP ter(キメラ遺伝子A)を有する形質転換用プラスミド(コンストラクトA)を構築し、これをシロイヌナズナ植物体に導入して得られた形質転換植物の形態を観察すると共に、受精胚の養育能力を解析することにより、コンストラクトAのシロイヌナズナにおける不定胚形成誘導効果を調べたものである。
【0065】
実施例2は、CAMV 35S遺伝子のプロモーター領域の代わりに、胚珠の母方由来2n細胞である内珠皮(特にその第1層及び第2層)において特異的に遺伝子を発現させる作用を有するシロイヌナズナのTT12遺伝子のプロモーター領域を用いた他は、キメラ遺伝子Aと同様に構成したキメラ遺伝子TT12 Pro:TCP13-SRDX_HSP ter(キメラ遺伝子B)を有する形質転換用プラスミド(コンストラクトB)を構築し、これをシロイヌナズナ植物体に導入して得られた形質転換植物の形態を観察すると共に、受精胚の養育能力を解析することにより、コンストラクトBのシロイヌナズナにおける不定胚形成誘導効果を調べたものである。
【0066】
[材料と方法]
・植物材料と栽培
全ての実験において、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)としてはL. Heynh. アクセッションCol-0を用いた。シロイヌナズナ種子は、種子用滅菌液(20%次亜塩素酸、0.002%Triton)で5分間振盪滅菌処理後、滅菌水で5回洗浄し、丸型シャーレ(2×9cm、IWAKI、Japan)に作成したMS寒天培地(0.5%スクロース、0.8%寒天)に播種した。播種後2日間4℃の暗所下で春化処理後、22℃の恒明条件下で培養した。3週間培養後、土(バーミキュライトとソイルミックスの混合土)に移植し、22℃、16時間明期、8時間暗期の条件下で栽培した。
【0067】
・植物ゲノムの抽出
植物からのゲノム抽出は以下の手順で行った。1.5mLチューブに切り取った本葉を入れ、DNA抽出バッファー(200mM Tris-HCl、pH8.0、250mM NaCl、25mM EDTA、pH8.0、0.5%SDS)200μLを加えてよくすりつぶし、フェノール・クロロホルム溶液(1:1)を100μLを加えてよく撹拌した後、室温で14500rpmで5分間遠心した。上清を新しいチューブに移し、イソプロパノールを等量加えてよく撹拌し、室温で14500rpmで15分間遠心した。上清を取り除き、70%エタノールを400μL加え、室温で14500rpmで5分間遠心した。再び上清をよく取り除き、30分間風乾した後、TEバッファー(10mM Tris-HCl、pH8.0、1mM Na2EDTA、pH8.0)30μLを加えてゲノムDNA溶液とした。
【0068】
・顕微鏡観察
実体顕微鏡観察にはStemi 305、Stemi 2000-C、及びAxioskop2 Plus system(Carl Zeiss Inc., Germany)を用いた。解像ソフトはAxio Vision Rel. 4. 5を用いた。蛍光実体顕微鏡観察には、OLYMMPUS SZX10(OLYMPUS, Japan)を用いて、解像ソフトはcellSens standardを用いた。微分干渉顕微鏡観察においては、Zeiss AxioImager 2(Carl Zeiss Inc., Germany)を用いた。共焦点レーザー顕微鏡観察にはLSM 800(ZEISS, Japan)、FV3000RS及びFV1000-D(OLYMPUS, Japan)を用いた。
【0069】
・Pi染色
共焦点レーザー顕微鏡観察における植物体のPi染色には、ヨウ化プロピジウム(富士フイルム和光純薬)を滅菌水で20μg/mLに調製したもの(Pi溶液)を用いた。サンプルをプレパラートに乗せ、Pi溶液40μLで封入し観察を行った。
【0070】
・RNA抽出
全RNAの抽出にはRNeasy Plant Mini Kit(Qiagen Inc., Germany)を用い、RNase-Free DNase Set(Qiagen Inc., Germany)を処理することでDNAフリーなRNAを得た。MS固形培地上で栽培した植物体サンプルを液体窒素中で破砕した後、450μLのRLTバッファー(1%メルカプトエタノール)を加え、よく混合した。サンプル溶液を紫色のカラムに入れ、室温で14500rpmで2分間遠心した。フィルターを通過した液の上清を回収し、250μLの99.5%エタノールを加えてよく混合した後、ピンク色のカラムにアプライし、室温で10000rpmで15秒間遠心した。カラムに350μLのRW1を加え、再び室温で10000rpmで15秒間遠心し、フィルターを通過した溶液を捨て、その後DNaseI溶液を40μL加え、15分静置した。さらに350μLのRW1を加え、室温で10000rpmで15秒間遠心し、フィルターを通過した溶液を捨て、RPEバッファーを500μL加え、室温で10000rpmで15秒間遠心した。再びRPEバッファーを500μL加え、室温で10000rpmで2分間遠心した。別のチューブにカラムを移し、14500rpmで1分間遠心することで、メンブレンを乾燥させた。保存用チューブにカラムを移し、40μLのRNase-Free-Waterを加え、室温で10000rpmで1分間遠心してチューブに溶液を落とした。これをRNA抽出溶液とし、-80℃で保存した。
【0071】
・qRT-PCR
qRT-PCRには、FastStart Essential DNA Green Master(Roche Diagnostics Inc., Germany)を用いた。逆転写溶液0.5μLに滅菌Milli-Q水4.3μL、2×SYBR Premix Ex Taq II 5μL、プライマー各0.2μLを加え全量10μLをqRT-PCR反応溶液とした。サンプルはLightCycler(登録商標) 96 SW 1.1(Roche Diagnostics Inc., Germany)で解析した。
【0072】
[実施例1]形質転換用コンストラクトA(35S Pro:TCP13-SRDX_HSP ter)の構築及びシロイヌナズナ植物体の形質転換並びに得られた形質転換植物体Aの評価:
(1-1)コンストラクトAの構築
(a)プラスミドpBIG2の構築
米国ミシガン州立大学より譲渡された植物形質転換用ベクターpBIG-HYG(Becker, Nucleic Acid Research, (1990), 18(1):203)を制限酵素HindIII及びSstIで切断し、アガロースゲル電気泳動によって分離することで、GUS遺伝子を除いたpBIG-HYGのDNA断片を得た。
【0073】
また、プラスミドp35S-GFP(Clontech社、米国)を制限酵素HindIII及びBamHIで切断し、切断断片をアガロースゲル電気泳動で分離し、CAMV 35Sプロモーター(以下適宜「CaMV 35Sプロモーター」とする)を含むDNA断片を回収した。
【0074】
また、以下の配列番号9及び10の塩基配列を有するDNAを常法により合成し、70℃で10分加温した後、自然冷却によりアニールさせて2本鎖DNAとした。このDNA断片は、翻訳効率を高めるタバコモザイクウイルス(TMV)由来のオメガ(omega)配列の5’末端に制限酵素部位BamHI、3’末端に制限酵素部位SmaI及びSalIを結合させた配列を有する。この配列を導入することで、3’側に存在する遺伝子の発現効率を高めるとともに、以降のプラスミド構築に必須な制限酵素サイトを導入した。
【0075】
5’-GATCCACAATTACCAACAACAACAAACAACAAACAACATTACAATTACAGATCCCGGGGGTACCGTCGACGAGCT-3’(配列番号9)
5’-CGTCGACGGTACCCCCGGGATCTGTAATTGTAATGTTGTTTGTTGTTTGTTGTTGTTGGTAATTGTG-3’(配列番号10)
【0076】
前記のCaMV 35Sプロモーターを含むDNA断片、及び、前記の合成した2本鎖DNAを、前記のGUS遺伝子を除いたpBIG-HYGのHindIII及びSstI部位に挿入することにより、CaMV 35Sプロモーターを担持する植物形質転換用ベクターを得た。これをプラスミドpBIG2とする。
【0077】
(b)プラスミドp35SRDXの構築
シロイヌナズナSUPERMAN遺伝子の転写抑制ドメインであるSRDXの塩基配列の5’末端にGGGを、3’末端にストップコドンをそれぞれ付与した、以下の配列番号11及び12の塩基配列を有する相補的な二本のDNA断片を作製した。
【0078】
5’-GGGCTCGATCTGGATCTAGAACTCCGTTTGGGTTTCGCTTAAG-3’(配列番号11)
5’-CTTAAGCGAAACCCAAACGGAGTTCTAGATCCAGATCGAGCCC-3’(配列番号12)
【0079】
合成された二本のDNA断片をアニールし、制限酵素SmaIで切断した上記のプラスミドpBIG2に挿入し、シークエンスを確認して、SRDXが順方向に導入されたものを選抜した。これをプラスミドp35SRDXとする。
【0080】
(c)プラスミド35S Pro:TCP13-SRDX_HSP ter(コンストラクトA)の構築
シロイヌナズナ転写因子TCP13遺伝子のcDNAを鋳型として、以下の配列番号13の塩基配列を有する5’末端アッパープライマー、及び、以下の配列番号14の塩基配列を有する3’末端ローアープライマーを用いてPCR反応を行うことにより、TCP13遺伝子の全長配列からストップコドンを除いた部分配列を増幅した。なお、PCR反応は、変性反応94℃1分、アニール反応50℃1分、伸長反応72℃3分を1サイクルとして、30サイクル実施した。
【0081】
5’-ATGAATATCGTCTCTTGGAAAGATG-3’(配列番号13)
5’-CTACCATGTAACAACGAATATAATGTC-3’(配列番号14)
【0082】
得られたTCP13遺伝子のストップコドンを除く増幅産物を、常法に従って、SmaIで切断してアガロースゲル電気泳動で回収し、前記のプラスミドp35SRDXに挿入した。常法に従ってシークエンスを確認し、TCP13遺伝子が順方向に導入されたものの中から、更にTCP13遺伝子とSRDXの読み枠が一致しているものを選抜した。
【0083】
得られた形質転換用プラスミドは、CaMV 35Sプロモーター、TCP13遺伝子、及び転写抑制ドメインSRDXが作動式に連結されてなるキメラ遺伝子35S Pro:TCP13-SRDX_HSP terを担持する。このプラスミドを適宜「コンストラクトA」と略称し、コンストラクトAが担持するキメラ遺伝子35S Pro:TCP13-SRDX_HSP terを適宜「キメラ遺伝子A」と略称する。キメラ遺伝子Aの構成を
図1に模式的に示す。
【0084】
(1-2)形質転換植物体Aの作成
コンストラクトAによるシロイヌナズナ植物体の形質転換は、“Transformation of Arabidopsis thaliana byvacuum infiltration”(http://www.bch.msu.edu/pamgreen/protocol.htm)に記載の方法に従った。但し、感染させるのにバキュームは用いず、単に浸すだけにした。コンストラクトAを、土壌細菌(Agrobacterium tumefaciens)株GV3101(C58C1Rifr)pMP90(Gmr)(koncz and Schell, Molecular and General Genetics, (1986), 204[3]:383-396)株にエレクトロポレーション法で導入した。導入した菌を250mLのLB培地で二日間培養した。
【0085】
次いで、培養液から菌体を回収し、500mLの感染用培地(Infiltration medium)に懸濁した。この溶液に、14日間生育したシロイヌナズナを1分間浸し、感染させた後、再び生育させ結種させた。回収した種子を50%ブリーチ、0.02%Triton X-100溶液で7分間滅菌した後、滅菌水で3回リンスし、滅菌した種子を30mg/Lのハイグロマイシンを含む1/2MS選択培地に蒔種した。コンストラクトAにより首尾よく形質転換された植物体は、ハイグロマイシン耐性を獲得する。そこで、上記ハイグロマイシン培地で生育する形質転換植物体を選抜し、土壌に植え換え、生育させた。こうして得られた、コンストラクトAにより形質転換された植物体を、適宜「形質転換植物体A」と略称する。
【0086】
(1-3)形質転換植物体A(T1世代)の表現型観察
25個体のT1世代の形質転換植物体Aを単離し、観察を行ったところ、全ての植物体において不定器官もしくはカルスの形成が確認され、表現型の出現率は100%であった。しかし、形成された不定器官の形状にはばらつきが見られ、不定胚様構造の集合体のようなもの、異常な本葉を多数形成するもの、未分化細胞の集合体(カルス)のようなものと、いくつかに分類することができた(
図2b~d)。いずれの形質転換植物体Aも、ホルモンフリーのMS寒天培地上で継代培養を繰り返すことで、半年以上増殖を続けた(
図2e)。長期にわたる増殖の間には、単純な細胞増殖だけでなく同じ器官・組織が繰り返し形成され続けるラインや、分化状態が途中で変化し、全く異なる組織を作り出すラインなどが現れ、一つのラインに由来するカルスからシュート様の構造、不定胚様の構造やカルスなどのバリエーションが見られる場合もあった(
図2f)。たとえば、当初は不定胚様の構造が確認されたラインについて、継代培養を続けたところ、一部の組織から本葉が形成され、植物体へと成長する部分が現れた。そこでこの部分を土に移植、順化したところ(
図2g)、複数の花茎が同時に伸長し、開花が見られたが、花器官の形態は不全で、特に花粉が少なくべとべとしており、稔性は低かった(
図2h)。このように、形質転換植物体Aは長期にわたりカルスとして増殖を続けるという共通点を持っていたが、形成されたカルスからは偶発的に様々な組織が形成され、その組織はライン間、及び、ライン内においても異なるという特徴を示した。
【0087】
(1-4)形質転換植物体A(T1世代)の長期培養カルスにおける遺伝子発現解析
qRT-PCRを用いて、T1世代の形質転換植物体Aにおける既知の不定器官誘導遺伝子の発現を解析した。具体的には、葉や芽の分化に関与するESR1、ESR2、CUC1、CUC2、CUC3、STM、WUS、胚発生関連因子であるAGAMOS-like 15(AGL15) FUSCA 3(FUS3)、ABA INSENSITIVE 3(ABI3)、LEC1、及びLEC2、並びに、傷害時にカルス化を誘導するWIND4という13種の遺伝子についてその発現量を解析した結果、何れの遺伝子の発現も野生型と比較して顕著に上昇していた(
図3)。このことから、形質転換植物体Aの長期培養カルスは、観察される形態に関係なく、分化全能性を発揮した状態といえる。
【0088】
[実施例2]形質転換用コンストラクトB(TT12 Pro:TCP13-SRDX_HSP ter)の構築及びシロイヌナズナ植物体の形質転換:
(2-1)コンストラクトBの構築
実施例1の「(1-1)コンストラクトAの構築」の手順において、CAMV 35S遺伝子のプロモーター領域を含むDNA断片の代わりに、下記手順で得られたシロイヌナズナのTT12遺伝子のプロモーター領域を含むDNA断片を用いた他は、同様の手順でコンストラクトの作成を行うことにより、キメラ遺伝子TT12 Pro:TCP13-SRDX_HSP ter(キメラ遺伝子B)を有する形質転換用プラスミド(コンストラクトB)を構築した。
【0089】
具体的には、シロイヌナズナTT12遺伝子のプロモーター領域を含むcDNAを鋳型として、以下の配列番号15の塩基配列を有する5’末端アッパープライマー、及び、以下の配列番号16の塩基配列を有する3’末端ローアープライマーを用いてPCR反応を行うことにより、TT12遺伝子のプロモーター領域の部分配列を増幅した。なお、PCR反応は、変性反応94℃1分、アニール反応50℃1分、伸長反応72℃3分を1サイクルとして、30サイクル実施した。こうして得られたシロイヌナズナのTT12遺伝子のプロモーター領域を含むDNA断片を、実施例1のCAMV 35S遺伝子のプロモーター領域を含むDNA断片の代わりに用いた。
【0090】
5’-ACTTGGCAAGATTATGTTCTGGTCAC-3’(配列番号15)
5’-GGTCCGTTTATTAGTTCCTCTGTTTTTTTTTTCCCTTTTCT-3’(配列番号16)
【0091】
得られた形質転換用プラスミドは、シロイヌナズナTT12プロモーター、TCP13遺伝子、及び転写抑制ドメインSRDXが作動式に連結されてなるキメラ遺伝子TT12 Pro:TCP13-SRDX_HSP terを担持する。このプラスミドを適宜「コンストラクトB」と略称し、コンストラクトAが担持するキメラ遺伝子TT12 Pro:TCP13-SRDX_HSP terを適宜「キメラ遺伝子B」と略称する。キメラ遺伝子Bの構成を
図4に模式的に示す。
【0092】
(2-2)形質転換植物体Bの作成
実施例1の「(1-2)形質転換植物体Aの構築」の手順において、コンストラクトAの代わりに、上記キメラ遺伝子Bを担持するコンストラクトBを用いた他は、同様の手順によりシロイヌナズナ植物体の形質転換を行うことにより、コンストラクトBにより形質転換された植物体を得た。本植物体を適宜「形質転換植物体B」と略称する。
【0093】
(2-3)形質転換植物体B(TT12)の作成
形質転換植物体Bの種子を抱水クロラールによって常法により透明化処理した後、微分干渉顕微鏡と共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察した。対照となる野生型シロイヌナズナ(Col-0)から得られた種子(
図5(a))、及び、形質転換植物体Bの植物体や殆どの種子及び受精胚には、目立った変異は確認されなかったが、一部の植物体において矮性化がみられた。また、発達中の種子の観察においては、二つの魚雷型胚を有する種子を確認した。二つの魚雷型胚のうち、片方は正常な魚雷型胚の形であり、もう片方には、茎頂部分に本葉もしくはカルスと思しき細胞塊が形成されていた(
図5(b))。また、受精胚と思われる心臓型胚に加えて球状胚様構造を持つ種子も確認した(
図5(c))。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明によれば、種子植物において受精を経ずに異所的不定胚発生を人為的且つ効率的に誘導することが可能となることから、特に農業生産分野等で高い利用可能性を有する。
【配列表】