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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】酵素分解調味液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/21 20160101AFI20240712BHJP
【FI】
A23L27/21 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020070166
(22)【出願日】2020-04-09
(65)【公開番号】P2020178680
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2019083043
(32)【優先日】2019-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【弁理士】
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(74)【代理人】
【識別番号】100206689
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 恵理子
(72)【発明者】
【氏名】坂田 成矢
(72)【発明者】
【氏名】佐浦 千陽
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/125790(WO,A1)
【文献】特開平02-117363(JP,A)
【文献】特開2014-054245(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体麹による小麦グルテン分解液中でタンパク質原料を酵素分解して得られる酵素分解調味液の製造方法であって、
タンパク質原料として、植物性タンパク質原料と動物性タンパク質原料組み合わせ用いて、小麦グルテン分解液と混合して酵素分解することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記植物性タンパク質原料と前記動物性タンパク質原料の粉末状混合物を、液体麹による小麦グルテン分解液に加えて分散させた後、該混合物を小麦グルテン分解液で酵素分解して得る、請求項1に記載の酵素分解調味液の製造方法。
【請求項3】
前記植物性タンパク質原料が大豆、米、大豆加工品および/または米加工品であり、前記動物性タンパク質原料が、魚介類、甲殻類および/または畜肉類である、請求項1または2に記載の酵素分解調味液の製造方法。
【請求項4】
前記植物性タンパク質原料がおから粉末、大豆粉末および/またはきな粉であり、前記動物性タンパク質原料が、鰹節粉末、鯛粉末、海老粉末および/または鶏肉粉末である、請求項3に記載の酵素分解調味液の製造方法。
【請求項5】
前記植物性タンパク質原料と前記動物性タンパク質原料の重量比が1:0.1~70の組合せである、請求項1ないし4のいずれかに記載の酵素分解調味液の製造方法。
【請求項6】
液体麹による小麦グルテン分解液が、残存する麹菌由来の酵素を含んでいる、請求項1ないし5のいずれかに記載の酵素分解調味液の製造方法。
【請求項7】
植物性タンパク質原料であるおから粉末と動物性タンパク質原料である鰹節粉末の重量比が1:0.2~70の組合せである、請求項1ないし6のいずれかに記載の酵素分解調味液の製造方法。
【請求項8】
液体麹による小麦グルテン分解液中で植物性タンパク質原料および動物性タンパク質原料が酵素分解されている、酵素分解調味液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物性タンパク質原料および動物性タンパク質原料の混合物を原料とする、風味の向上した酵素分解調味液を製造する方法、およびその方法により得られる酵素分解調味液に関する。
【背景技術】
【0002】
魚介や大豆などの動物性タンパク質および植物性タンパク質を含む原料を酵素分解した調味料としては、魚介類原料とおからの混合物を用いて廃麹(種麹の製造過程で出る廃棄物)を接種し発酵熟成させた魚醤油(特許文献1)、魚肉をおから麹で分解することを特徴とする調味液の製造法(特許文献2)、およびおからの酵素分解液と魚介類または魚介類の煮出し粕の酵素分解液とを混合して得た調味料(特許文献3)等が知られている。
また、小麦、大豆、または魚介などのタンパク質を含む原料を、麹菌由来の蛋白質分解酵素または麹菌抽出物で酵素分解することにより、グルタミン酸等のアミノ酸含量が高い調味液を製造すること(特許文献4~7)も知られている。
【0003】
特許文献6には、植物性タンパク質である小麦グルテンの従来の酵素分解液は、独特の穀物臭、加熱臭を有するため、食品に使用した際、素材の呈味や風味をマスキングしてしまうこと、この香気には、焼けたような香気を呈するフルフリルアルコールやたくわん様の香気を呈するメチオノールなどが含まれていることが記載され、また、麹菌由来の中性プロテアーゼII活性が残存しているため、魚や畜肉の調理品や加工品に使用すると蛋白質が分解されて組織を脆弱化させてしまうという欠点が記載されている。
【0004】
そのため、特許文献6では、小麦グルテン酵素分解液由来の香気成分が少なく、プロテアーゼが実質的に失活している小麦グルテン酵素分解液を得るために、液体麹を加えて小麦グルテンを酵素分解して得られた従来の酵素分解液を、さらに60℃に加温したのち固液分離してから液体部を再び60~80℃に加温することにより、フルフリルアルコール濃度やメチオノール濃度が従来品の半分程度であり、かつ、プロテアーゼが実質的に失活している小麦グルテン酵素分解液が得られたことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公平4-49989号公報
【文献】特公平5-79296号公報
【文献】特開昭61-170363号公報
【文献】特公昭51-21054号公報
【文献】特公昭49-21775号公報
【文献】特許第5912717号公報
【文献】特許第5840123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
調味液やだしの開発において、コク味付与を始めとする呈味向上効果を持つ成分を探索することは調味料にとって重要な課題であり、本発明は、原料として、植物性タンパク質原料および動物性タンパク質原料の両方を使用する酵素分解調味液において、植物原料由来の植物臭さを軽減しつつ、かつ動物原料由来の呈味が向上する調味料を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の(1)~(7)の酵素分解調味液の製造方法、または(8)の酵素分解調味液に関する。
(1)液体麹による小麦グルテン分解液中でタンパク質原料を酵素分解して得られる酵素分解調味液の製造方法であって、 タンパク質原料として、植物性タンパク質原料と動物性タンパク質原料組み合わせ用いて、小麦グルテン分解液と混合して酵素分解することを特徴とする方法。
(2)前記植物性タンパク質原料と前記動物性タンパク質原料の粉末状混合物を、液体麹による小麦グルテン分解液に加えて分散させた後、該混合物を小麦グルテン分解液で酵素分解して得る、上記(1)に記載の酵素分解調味液の製造方法。
(3)前記植物性タンパク質原料が大豆、米、大豆加工品および/または米加工品であり、前記動物性タンパク質原料が、魚介類、甲殻類および/または畜肉類である、上記(1)または(2)に記載の酵素分解調味液の製造方法。
(4)前記植物性タンパク質原料がおから粉末、大豆粉末および/またはきな粉であり、前記動物性タンパク質原料が、鰹節粉末、鯛粉末、海老粉末および/または鶏肉粉末である、上記(3)に記載の酵素分解調味液の製造方法。
(5)前記植物性タンパク質原料と前記動物性タンパク質原料の重量比が1:0.1~70の組合せである、上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の酵素分解調味液の製造方法。
(6)液体麹による小麦グルテン分解液が、残存する麹菌由来の酵素を含んでいる、上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の酵素分解調味液の製造方法。
(7)植物性タンパク質原料であるおから粉末と動物性タンパク質原料である鰹節粉末の重量比が1:0.2~70の組合せである、上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の酵素分解調味液の製造方法。
(8)液体麹による小麦グルテン分解液中で植物性タンパク質原料および動物性タンパク質原料が酵素分解されている、酵素分解調味液。
【発明の効果】
【0008】
植物性タンパク質原料としておからを使用した場合、液体麹による小麦グルテン分解液で分解した調味液は、おからの豆の青臭さや風味が強すぎるものとなり、これに、動物性タンパク質原料として鰹節を使用して液体麹による小麦グルテン分解液で分解した調味液を混合しても、おからの豆の青臭さや風味が強いままである一方、鰹節の香りや風味が弱まってしまい、調味液として不適なものなる。
本発明によれば、鰹節とおからの粉末を混合した後に液体麹による小麦グルテン分解液で分解することにより、おからの豆の青臭い香りや風味が軽減される一方で、鰹節の香りや風味の呈味が向上し、今までにない呈味の優れた酵素分解調味液を得ることができる。
【0009】
動物性タンパク質原料(例、鰹節粉末)と植物性タンパク質原料(例、おから粉末)とを別個に分解するのではなく混合原料とし、同一系で酵素分解することにより、混合原料それぞれに由来の酵素分解産物の混合物が得られるだけでなく、液体麹による小麦グルテン分解液そのもののもつコク味付与機能を利用できることとなり、酵素分解産物全体としてのコク味付与と呈味向上のバランスのとれた酵素分解調味液の製造が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[原料]
酵素分解の対象は動物性タンパク質および植物性タンパク質であり、動物性タンパク質としては、魚介類、甲殻類などの水産物由来や畜肉類などの動物性タンパク質が、植物性タンパク質としては豆類、特に大豆、または米などの植物性タンパク質が用いられ、原料としては、動物性タンパク質原料および植物性タンパク質原料の粉末状の混合物を用いるのがよい。また、動物性タンパク質原料および植物性タンパク質原料の粉末を、液体麹による小麦グルテン分解液にそれぞれ添加して混合してもよい。
【0011】
動物性タンパク質原料には、鰹、鯖、鮪、鰯などの魚類や海老類などの甲殻類の加工品や、鶏肉、豚肉、牛肉等の畜肉類の加工品などから得られる動物性タンパク質原料が例示され、鰹節粉末、鯛粉末、海老粉末、鶏肉粉末等が挙げられる。
また、植物性タンパク質原料には、豆類、特に大豆や米など、あるいはそれらの加工品を含む植物性タンパク質原料が例示され、大豆タンパク質、大豆粉や大豆から豆腐を作る際の豆乳を採った搾り粕であるおから粉末、きな粉等が挙げられる。
【0012】
粉末状混合物における植物性タンパク質原料と動物性タンパク質原料の重量比は、各植物性タンパク質原料、動物性タンパク質原料にもよるが、一般に1:0.1~70の範囲であることが好ましい。動物性タンパク質原料に対して植物性タンパク質原料が多すぎると、植物特有の青臭さや風味が強いままで、動物性タンパク質原料の風味の弱い酵素分解調味液が得られる傾向にある。
【0013】
[液体麹による小麦グルテン分解液]
タンパク質加水分解能を有する素材として、液中に麹菌由来のプロテアーゼが残存する液体麹による小麦グルテン酵素分解液を用いる。
液体麹による小麦グルテン分解液とは、小麦グルテンに液体麹を添加して加温して得られる小麦グルテンの酵素分解物を、固液分離して得られる液汁であり、麹菌由来の酵素が残存している小麦グルテン酵素分解調味液である。
【0014】
液体麹による小麦グルテン分解液の製造の例を以下に示す。
液体麹としては、従来公知の液体麹の製造法により調製された液体麹を用いることができ、例えば、アスペルギルス属に属する微生物が生育可能な液体培地に、アスペルギルス属に属する微生物(例えば、アスペルギルス・オリゼー、同・ソーヤ、同・タマリ、同・ウサミ、同・ニガーなど)を接種し、培養温度25~35℃で通気撹拌し、好気的条件下で目的とする酵素の生産蓄積量が最大となるまで培養することにより液体麹が得られる。
上記液体培地としては、例えば、可溶性澱粉、グルコース、小麦ふすまなどの炭素源;大豆粉、分離大豆たんぱく、酵母エキスなどの窒素源;シリコーン油などの消泡剤;および、微量栄養素(CaCl,KHPO,MgSOなど)などを適宜含有する培地(pH5~8)が挙げられる。
【0015】
用いる小麦グルテンは、粉末状、ペースト状、粒状または繊維状に成形したものいずれでもよく、主原料に由来する蛋白質含有率が無水物に換算した値で50重量%を超えるものが好ましく、小麦グルテンに上記のように調製した液体麹を添加して諸味を作成し、加温して小麦グルテンの酵素分解を行う。小麦グルテンの酵素分解の温度および時間は、35~50℃で1~10日間、好ましくは40~45℃で4~8日間である。
【0016】
酵素分解の終了した諸味には、防黴性を高めるために一定量の食塩を加える。添加する食塩の量は諸味に対して、5~25w/v%が好ましく、10~20w/v%がより好ましい。その後、濾紙濾過や遠心分離、圧搾布を用いた圧搾などにより固液分離を行い、得られる液汁が麹菌由来の酵素が残存している小麦グルテンの酵素分解調味液であり、これが本発明における液体麹による小麦グルテン分解液である。
【0017】
小麦グルテン分解液はこのまま用いても、または、調整水を混合して、小麦グルテン分解液と調整水を混合した小麦グルテン分解液希釈液として用いてもよい。小麦グルテン分解液または小麦グルテン分解液と調整水を混合した小麦グルテン分解液希釈液は、動物性タンパク質原料粉末および植物性タンパク質原料粉末の混合物を分解して、植物原料由来の植物臭さを軽減しつつ、動物原料由来の呈味が向上する調味料を得るために、そのプロテアーゼ活性が85Units/ml以上であることが好ましく、90Units/ml以上であることがより好ましい。
【0018】
[酵素分解調味液の製造]
動物性タンパク質原料の粉末と植物性タンパク質原料の粉末を混合して粉末状混合原料とする。混合比は用いる原料により、例えば、原料が鰹節粉末とおから粉末であれば、0.2~10重量部:1重量部が好ましい範囲である。
この粉末状混合原料に、小麦グルテン分解液または小麦グルテン分解液と調整水を混合した小麦グルテン分解液希釈液を加えて、パウダーのダマがなくなるまで混合溶解させた後、加温して一定温度を保ちながら、24時間程度混合撹拌しながら反応させて酵素分解調味液を製造する。反応温度は40~60℃であり、好ましくは55±5℃である。
小麦グルテン分解液または小麦グルテン分解液と調整水を混合した小麦グルテン分解液希釈液に対するおから粉末と鰹節粉末の混合量は、小麦グルテン分解液1重量部に対して、0.01~0.41重量部の範囲であり、0.1~0.35重量部の範囲がより好ましい。
【0019】
例えば、植物質たんぱく原料としておから粉末を用いる場合、小麦グルテン分解液または小麦グルテン分解液と調整水を混合した小麦グルテン分解液希釈液に添加した際に、0.6重量%以上の配合量で青臭みが発生する。特に1重量%以上配合した場合に、青臭みの発生が顕著である。また、小麦グルテン分解液または小麦グルテン分解液と調整水を混合した小麦グルテン分解液希釈液におから粉末を10重量%以上配合するとダマが発生しおから粉末の分散性が悪くなることから、小麦グルテン分解液または小麦グルテン分解液と調整水を混合した小麦グルテン分解液希釈液に添加するおから粉末の添加量は、10重量%以下であり9%以下がより好ましい。
【0020】
また、小麦グルテン分解液または小麦グルテン分解液と調整水を混合した小麦グルテン分解液希釈液に、鰹節粉末とおから粉末をそれぞれ添加してから混合溶解させてもよく、このようにして、呈味に優れた酵素分解調味液を製造することができる。この酵素分解調味液に食塩や醤油を加えて、そのままだししょうゆ、鍋物調味液、つゆ調味液として使用することができ、また、その他の調味料のベースとして様々な調味料に添加できる。
【実施例
【0021】
次に、実施例によって本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明は、以下の試験例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0022】
動物性タンパク質原料として鰹節粉末を、植物性タンパク質原料としておから粉末を用いて、両粉末を混合してから液体麹による小麦グルテン分解液(以下、「LG」という。)で分解する本発明の一態様の方法と、各粉末単体をそれぞれLGで分解してからその分解液を混合する方法(比較例)により得られる酵素分解調味液を比較する。
【0023】
[液体麹の調製]
液体麹は、従来公知の特開2002-218970号公報に記載された方法により調製した。
容量2Lの発酵タンクに、小麦ふすま80gと水1.6Lを投入し、pHを6.5に調整した後、常法により加熱滅菌処理した。次いで、これに、別に調製したアスペルギルス・オリゼーの液体培養液4mlを混和して、常法により通気撹拌培養を72時間行い、液体麹を得た。
【0024】
[LGの調製]
得られた液体麹384gに、食塩46gと粉末状小麦グルテン140gを混和して諸味を調製し、該諸味を120rpmの速度で撹拌しつつ、40℃で2日間、次いで45℃で4日間酵素分解を行った。酵素分解の終了した諸味に防黴性を高めるため、食塩を添加して食塩濃度16w/v%になるように調整した後に、固液分離して目的のLGを得た。
【0025】
[LGによるタンパク質分解調味液の調製]
下記表1に示す配合で各調味液を調製した。
(1)粉末混合物の分解調味液の調製
LGに鰹節粉と乾燥したおから粉を加えた後、撹拌して鰹節粉とおから粉を分散した。次いで、撹拌しながら55℃で24時間保持することで、試験例1(実施例1)の酵素分解調味液を製造した。
(2)各粉末の分解液の調製とその後の混合
LGに鰹節粉を加えて撹拌し、鰹節粉を分散した。次いで、撹拌しながら55℃で24時間保持することで、鰹節粉のLG分解液を得た(鰹節分解液)。また、LGに乾燥したおから粉を加えておから粉を分散させた後、同様に調製しておから粉のLG分解液を得た(おから分解液)。
鰹節分解液とおから分解液を、鰹節粉とおから粉の配合量が実施例1と同じくなるように混合して、比較例1を製造した。
【0026】
[官能試験]
(1)評価法
3名の訓練されたパネルにより、得られたタンパク質分解調味液に関して、おから由来の青臭みの強さ及び鰹節風味の強さについて評価した。
青臭みの強さについては、おから分解液の青臭さを評点5、比較例1の配合の青臭さを評点3、おからを配合していない鰹節分解液の評点を1とし、鰹節風味については、鰹節分解液を評点5、比較例1を評点3、鰹節を配合していないおから分解液の評点を1とした。
青臭みの強さに関しては、3名の合計点数が、3~4点を◎、5~6点を○、7~8点を△、9点以上を×とした。鰹節風味の強さに関しては、3名の合計点数が、9点以下は×、10~11点を△、12~13点以上を○、14点以上を◎とした。
総合評価は、青臭みの強さと鰹節風味の強さが両方とも○の場合は「○」、どちらかに「△」がある場合は「△」、どちらかに「×」がある場合は「×」とした。また、青臭みの強さの評点が3点、鰹節風味の強さの評点が14点以上の場合「◎」とした。
【0027】
〈青臭みの強さ〉 パネル3名の合計点
5:非常に強い (おから分解液) 9点以上 ×
4:強い 7~8点 △
3:やや強い (比較例1) 5~6点 ○
2:弱い 3~4点 ◎
1:非常に弱い (鰹節分解液)
〈鰹節風味の強さ〉 パネル3名の合計点
5:非常に強い (鰹節分解液) 14点以上 ◎
4:強い 12~13点 ○
3:やや強い (比較例1) 10~11点 △
2:弱い 9点以下 ×
1:非常に弱い (おから分解液)
【0028】
各粉末の配合量と官能評価を表1に示す。
【表1】
【0029】
表1に示すように、おから粉末と鰹節粉末をLGで別々に分解した後、混合した比較例1に対し、おから粉末と鰹節粉末との混合物をLGで分解した実施例1の方が、青臭みがなく鰹節風味が強く、より風味の良い調味液であった。
【実施例2】
【0030】
[LG液へのおから粉末の添加量]
LGへのおから粉末の添加量の範囲を検討した。評価は、上記と同じく青臭さの強さ及びLGへの分散性で評価した。
また、LGへの分散性は、LG中におから粉末が均一に分散し、攪拌可能な場合を○、攪拌時に底にわずかに沈殿(ダマの発生)する場合を△、均一な攪拌が難しい場合を×とした。他の実施例における分散性の評価の基準も同様である。
【0031】
【表2】
LGにおから粉末を添加する場合、10重量%を超えて添加すると攪拌時に底に沈殿(ダマ)が発生し、均一な攪拌ができないことがわかった。
【実施例3】
【0032】
[LGへのおから粉末の添加量に対する鰹節粉末の添加量の比の検討]
おから粉末および鰹節粉末の粉末状混合物を表3に記載した配合量でLGに加えて、鰹節粉末の配合量が異なるたんぱく質分解調味液を製造した。
配合量とその官能評価を表3に示す。
【0033】
【表3】
【0034】
表3に示すように、植物性タンパク質原料であるおから粉末1重量部に対して、鰹節粉末が重量比で、0.2~70重量部である場合に、青臭みが弱く、鰹節風味の強い調味液が得られた。また、小麦グルテン分解液または小麦グルテン分解液と調整水を混合した小麦グルテン分解液希釈液に対するおから粉末と鰹節粉末の混合量が、小麦グルテン分解液1重量部に対して0.41重量部以下であると、均一な攪拌ができて分散性がよいことがわかる。
【実施例4】
【0035】
[LGへ添加するおから粉末と鰹節粉末の配合量]
LGに添加するおから粉末と鰹節粉末の合計配合量を変化させてタンパク質分解調味液を製造し、LGに対するおから粉末と鰹節粉末の合計添加量を検討した。評価は、分散性で評価した。
結果を表4に示す。
【0036】
【表4】
その結果、LG液量に対して、鰹節粉末とおから粉末の合計量の比が0.41以上になると、分散性が悪くなり、攪拌が十分にできないことがわかった。
【実施例5】
【0037】
[おから粉末と海老粉末を用いた酵素分解調味液]
実施例1と同じLGを使用し、同じ方法で、表5に示す配合量でおから粉末と海老粉末の酵素分解調味液を調製して、官能評価を行った。
[官能試験]
(1)評価法
3名の訓練されたパネルにより、得られたタンパク質分解調味液に関して、おから由来の青臭みの強さ及び海老風味の強さについて評価した。評価法は実施例1と同様である。
【0038】
〈青臭みの強さ〉 パネル3名の合計点
5:非常に強い (おから分解液) 9点以上 ×
4:強い 7~8点 △
3:やや強い (比較例1) 5~6点 ○
2:弱い 3~4点 ◎
1:非常に弱い (海老分解液)
〈鰹節風味の強さ〉 パネル3名の合計点
5:非常に強い (海老分解液) 14点以上 ◎
4:強い 12~13点 ○
3:やや強い (比較例1) 10~11点 △
2:弱い 9点以下 ×
1:非常に弱い (おから分解液)
【0039】
各粉末の配合量と官能評価を表5に示す。
【表5】
【実施例6】
【0040】
[おから粉末と鯛粉末を用いた酵素分解調味液]
実施例5と同様に、表6に示す配合量でおから粉末と鯛粉末の酵素分解調味液を調製して、官能評価を行った。結果を表6に示す。
【表6】
【実施例7】
【0041】
[おから粉末と鶏肉粉末を用いた酵素分解調味液]
実施例5と同様に、表7に示す配合量でおから粉末と鯛粉末の酵素分解調味液を調製して、官能評価を行った。結果を表7に示す。
【表7】
【実施例8】
【0042】
[大豆粉末と鰹節粉末を用いた酵素分解調味液]
実施例5と同様に、表8に示す配合量で大豆粉末と鰹節粉末の酵素分解調味液を調製して、官能評価を行った。結果を表8に示す。
【表8】
【実施例9】
【0043】
[きな粉と鰹節粉末を用いた酵素分解調味液]
実施例5と同様に、表9に示す配合量できな粉と鰹節粉末の酵素分解調味液を調製して、官能評価を行った。結果を表9に示す。
【表9】
【0044】
種々の植物性タンパク質原料と動物性タンパク質原料の組み合わせにおいても、本発明の製造方法によれば、植物原料由来の青臭さを軽減しつつ、動物原料由来の風味が向上する酵素分解調味液が製造できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の製造方法によれば、植物性および動物性の両方のタンパク質原料を原料として製造する酵素分解調味液において、大豆等の植物性タンパク質原料由来の青臭さを軽減できるとともに、鰹節や海老等の動物性タンパク質原料の香りや風味が損なわれず、全体として風味や呈味が向上した酵素分解調味液を得ることができる。
本発明の製造方法により得られる酵素分解調味液は、食塩や醤油を加えて、だししょうゆ、鍋物調味液、つゆ調味液として、また、その他の調味料のベースとして様々な調味料に添加できる、おいしい出汁が得られる。