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特許7519812ポリアミド酸、ポリイミド及びポリイミドフィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】ポリアミド酸、ポリイミド及びポリイミドフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20240712BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240712BHJP
【FI】
C08G73/10
C08J5/18 CFG
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020093690
(22)【出願日】2020-05-28
(65)【公開番号】P2021187934
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】591021305
【氏名又は名称】太陽ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119079
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 佐保子
(72)【発明者】
【氏名】福田 斉二郎
(72)【発明者】
【氏名】橋本 佳純
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-064148(JP,A)
【文献】国際公開第2021/029243(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/028960(WO,A1)
【文献】特許第6690057(JP,B1)
【文献】国際公開第2018/186215(WO,A1)
【文献】特開2018-118947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G73/00-73/26
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸二無水物残基及びジアミン残基を含むポリアミド酸であって、
ジアミン残基が、式(1):
【化1】
(式(1)中、R~Rのいずれかが、炭素数6~10の芳香族基、炭素数6~10のフェノキシ基、炭素数6~10のベンジル基及び炭素数6~10のベンジルオキシ基から選択され、それ以外のR~Rが水素原子である。)で示されるジアミンから誘導される残基及び屈曲性ジアミンから誘導される残基を含み、
全ジアミン残基に占める、式(1)で示されるジアミンから誘導される残基と屈曲性ジアミンから誘導される残基の合計の割合が、30モル%以上であり、
全ジアミン残基に占める、式(1)で示されるジアミンから誘導される残基の割合が20モル%以上59モル%以下であり、屈曲性ジアミンから誘導される残基の割合が1モル%以上10モル%以下である、ポリアミド酸。
【請求項2】
屈曲性ジアミンが、式:
【化2】
で示されるジアミンから選択される1種以上である、請求項1記載のポリアミド酸。
【請求項3】
屈曲性ジアミンが、7.10eV以上のイオン化ポテンシャルを有する、請求項1又は2記載のポリアミド酸。
【請求項4】
ジアミン残基が、式:
【化3】
で示されるジアミンから誘導される残基の1種以上を含む、請求項1~のいずれか1項記載のポリアミド酸。
【請求項5】
酸二無水物が、式:
【化4】
で示される酸二無水物から選択される1種以上である、請求項1~のいずれか1項記載のポリアミド酸。
【請求項6】
酸二無水物が、2.25eV以下の電子親和力を有する、請求項1~のいずれか1項記載のポリアミド酸。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項記載のポリアミド酸のイミド化物であるポリイミド。
【請求項8】
請求項記載のポリイミドを含むポリイミドフィルム。
【請求項9】
フィルム厚40~150μmでの全光線透過率が90%以上であり、イエローインデックスが3以下である、請求項記載のポリイミドフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド酸、ポリイミド及びポリイミドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、表示装置には、フレキシブル化の要求があり、ガラス基板をプラスチック材料に置き換える試みがなされている。プラスチック材料の中でも、ポリイミドは、耐熱性、絶縁性及び寸法性安定性等において優れた材料であり、ガラス基板の代替材料として研究が進められている。
【0003】
例えば、特許文献1では、ポリイミドにアミド結合を導入することにより、耐スクラッチ性及び機械的物性とともにUV遮蔽機能を改善することが提案されている。
【0004】
特許文献2では、ポリイミドにシリカ微粒子を添加して、機械的強度、表面硬度、耐屈曲性を兼ね備えたフィルムを作製することが提案されている。
【0005】
特許文献3では、特定の化学構造式を有するポリイミドによって、残留応力が低く、反りが少なく、黄色度(YI値)が小さく、伸度が高い、ポリイミド樹脂フィルムを作製することが提案されている。
【0006】
一方、特許文献4では、有機溶剤に対する溶解性及び溶融成形性が改善されたポリイミドを合成できるジアミンも開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2019-510847号公報
【文献】国際公開第2016/060213号
【文献】国際公開第2017/051827号
【文献】特開2018-118947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
フレキシブルな表示装置のカバーウィンドウやタッチパネルに使用されるプラスチック材料には、高硬度であるとともに、強靭性であることが必要である。しかしながら、これらは通常トレードオフの関係にある特性であり、この必要性に十分応えるポリイミドが依然として求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、特定の化学構造を有するジアミンから誘導される残基を導入したポリイミドによって、この問題が解決されることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]酸二無水物残基及びジアミン残基を含むポリアミド酸であって、
ジアミン残基が、式(1):
【化1】
(式(1)中、R1~R4のいずれかが、炭素数6~10の芳香族基、炭素数6~10のフェノキシ基、炭素数6~10のベンジル基及び炭素数6~10のベンジルオキシ基から選択され、それ以外のR1~R4が水素原子である。)で示されるジアミンから誘導される残基及び屈曲性ジアミンから誘導される残基を含む、ポリアミド酸。
[2]全ジアミン残基に占める、式(1)で示されるジアミンから誘導される残基と屈曲性ジアミンから誘導される残基の合計の割合が、30モル%以上である、[1]のポリアミド酸。
[3]全ジアミン残基に占める、式(1)で示されるジアミンから誘導される残基の割合が20モル%以上59モル%以下であり、屈曲性ジアミンから誘導される残基の割合が1モル%以上10モル%以下である、[1]又は[2]のポリアミド酸。
[4]屈曲性ジアミンが、式:
【化2】
で示されるジアミンから選択される1種以上である、[1]~[3]のいずれかのポリアミド酸。
[5]屈曲性ジアミンが、7.10eV以上のイオン化ポテンシャルを有する、[1]~[4]のいずれかのポリアミド酸。
[6]ジアミン残基が、式:
【化3】
で示されるジアミンから誘導される残基の1種以上を含む、[1]~[5]のいずれかのポリアミド酸。
[7]酸二無水物が、式:
【化4】
で示される酸二無水物から選択される1種以上である、[1]~[6]のいずれかのポリアミド酸。
[8]酸二無水物が、2.25eV以下の電子親和力を有する、[1]~[7]のいずれかのポリアミド酸。
[9][1]~[8]のいずれかのポリアミド酸のイミド化物であるポリイミド。
[10][9]のポリイミドを含むポリイミドフィルム。
[11]フィルム厚40~150μmでの全光線透過率が90%以上であり、イエローインデックスが3以下である、[10]のポリイミドフィルム。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリアミド酸によれば、高硬度であり、かつ強靭性を有するポリイミドが提供される。本発明のポリアミド酸によれば、これらの特性に加えて、高い透明性及び低い黄色度を有するポリイミドも提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明はポリアミド酸、このポリアミド酸のイミド化物であるポリイミド、このポリイミドを含むポリイミドフィルムに関する。ポリアミド酸は、酸二無水物とジアミンとを重合することにより得られ、酸二無水物から誘導される酸二無水物残基とジアミンから誘導されるジアミン残基を有する。
【0013】
<ジアミン>
本発明のポリアミド酸は、ジアミン残基として、式(1):
【化5】
(ここで、R1~R4のいずれかが、炭素原子数6~10の芳香族基、炭素原子数6~10のフェノキシ基、炭素原子数6~10のベンジル基及び炭素原子数6~10のベンジルオキシ基から選択され、それ以外のR1~R4が水素原子である。)で示されるジアミンから誘導される残基(「式(1)のジアミン残基」ともいう。)と屈曲性ジアミンから誘導される残基(「屈曲性ジアミン残基」ともいう。)を含む。一般に、硬度と伸びは相反する特性であるところ、式(1)のジアミン残基と屈曲性ジアミン残基を併用することにより、高硬度と強靭性の両方をポリイミドにもたらすことができる。
【0014】
<<式(1)で示されるジアミン>>
式(1)で示されるジアミンは、エステル結合で連結されるベンゼン環2つの一方は、アミノ基が結合する以外の位置において非置換であるのに対し、他方のベンゼン環は芳香族基を含有する基によって、少なくとも1つの位置において置換されている。このような構造により、主鎖の剛直性を維持したまま溶媒への可溶性を高められるため、溶液の加工性と塗膜の熱的、機械的特性を両立させることができる。
【0015】
式(1)におけるR1~R4は、少なくともいずれか1つが、炭素原子数6~10の芳香族基、炭素原子数6~10のフェノキシ基、炭素原子数6~10のベンジル基又は炭素原子数6~10のベンジルオキシ基であり、それ以外は水素原子である。ここで、芳香族基には、酸素原子、窒素原子や炭素原子を介して主骨格と結合する置換基が含まれる。さらに、芳香族基には、ピロール基等のヘテロ芳香族基が含まれる。芳香族基は、非置換であることが好ましいが、アルキル基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子等)、アミノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、シアノ基、カルボキシ基、スルホン酸基等の置換基を1つ又は2以上有していてもよい。
【0016】
1~R4の1つ又は2つが上記のいずれか1つ又は2つが芳香族基であることが好ましく、より好ましくはR1及び/又はR3が芳香族基であり、さらに好ましくはR1又はR3が芳香族基であり、特に好ましくはR3が芳香族基である。
【0017】
炭素原子数6~10の芳香族基としては、フェニル基、トリル基、メチルフェニル基、ジメチルフェニル基、エチルフェニル基、ジエチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、フルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、クロルフェニル基、ブロモフェニル基、メトキシフェニル基、ジメトキシフェニル基、エトキシフェニル基、ジエトキシフェニル基、メトキシベンジル基、ジメトキシベンジル基、エトキシベンジル基、ジエトキシベンジル基、アミノフェニル基、アミノベンジル基、ニトロフェニル基、ニトロベンジル基、シアノフェニル基、シアノベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ビフェニル基及びナフチル基等が挙げられる。
炭素原子数6~10のフェノキシ基としては、メチルフェノキシ基、エチルフェノキシ基、プロピルフェノキシ基、ジメチルフェノキシ基、ジエチルフェノキシ基、メトキシフェノキシ基、エトキシフェノキシ基及びジメトキシフェノキシ基等が挙げられる。
炭素原子数6~10のベンジル基としては、ベンジル基、メチルベンジル基、エチルベンジル基、プロピルベンジル基、ジメチルベンジル基、メトキシベンジル基、エトキシベンジル基及びメトキシベンジル基等が挙げられる。
炭素原子数6~10のベンジルオキシ基としては、メチルベンジルオキシ基としては、ベンジルオキシ基、ベチルベンジルオキシ基、エチルベンジルオキシ基、プロピルベンジルオキシ基、ジメチルベンジルオキシ基、メトキシベンジルオキシ基及びエトキシベンジルオキシ基等が挙げられる。
上記した中でも、透明性という観点からは、炭素原子数6~10の芳香族基がより好ましく、フェニル基、トリル基、メチルフェニル基、ジメチルフェニル基、エチルフェニル基及びジエチルフェニル基がさらに好ましく、フェニル基が特に好ましい。
【0018】
式(1)のジアミン残基は1種でも、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0019】
<<屈曲性ジアミン>>
屈曲性ジアミンは、-O-、-CH2-、-C(CH32-、-C(CF32-、-C(=O)-、-S(=O)2-、-S-等の屈曲基を主鎖中に含むジアミンであるか、屈曲基を有さない場合、2個のアミノ基の窒素原子とそれらと結合する炭素原子が一直線に並ばない構造を有するジアミンをいう。ただし、屈曲性ジアミンには、式(1)で示されるジアミンは包含されないこととする。このような構造のジアミンを配合することにより、フィルム中の複数の秩序領域間に跨って位置する結束分子鎖を増加させ、機械的柔軟性を向上させることができる。
【0020】
屈曲基を主鎖中に含むジアミンとしては、屈曲基が環状構造(例えばベンゼン環)と環状構造(例えばベンゼン環)に直接結合した構造を有するジアミンが好ましく、この場合、屈曲基と2つの環状構造が形成する結合角は180度未満であり、好ましくは160度以下、より好ましくは130度以下であり、通常は90度以上である。結合角は、公知の計算方法で求めることができ、例えば、ヒュッケル法、拡張ヒュッケル法等の経験的分子軌道法、ハートリーフォック法、配置換相互作用法、多配置SCF法等の非経験的分子軌道法、PPP近似、CNDO/2、INDO、MNDO、AM1、PM3等の半経験的分子軌道法、MM2等の分子動力学法、BLYP、B3LYP等の密度汎関数法等が挙げられる。
【0021】
屈曲性ジアミンとしては、式:
【化6】
等が好ましい。
上記において、化学構造式の下の数値は、イオン化ポテンシャル(eV)である。イオン化ポテンシャルは、Gaussian16Wを用いたDFT法により、汎関数としてB3LYP、分子軌道を構成する基底関数として6-311++G(d,p)を用い、各ジアミンの構造パラメータとしてB3LYP/6-311G(d)基底で最適化したものを用いて求めた値である。
【0022】
ポリイミドの無色透明性の点からは、イオン化ポテンシャルが7.10eV以上の屈曲性ジアミンを用いることが好ましく、例えば、tCHDA、3,3’-DDS、6F-ODA、3FMDA、6FAP、6FAPB、HFBAPP、BIS-A-AS等である。溶解性の点から6F-ODA、3FMDA、6FAP、6FAPB、HFBAPP、BIS-A-AS等がより好ましい。
【0023】
屈曲性ジアミン残基は1種でも、2種以上の組み合わせでもよい。
【0024】
<<ジアミン残基の割合>>
全ジアミン残基に占める、式(1)のジアミン残基と屈曲性ジアミン残基の合計の割合は、ポリイミドにおける高硬度と強靭性の両立の点から、30モル%以上であることが好ましく、より好ましくは35モル%以上である。式(1)のジアミン残基と屈曲性ジアミン残基の合計の割合は100モル%であってもよいが、溶解性、必要粘度に応じて、その他のジアミンから誘導される残基(「その他のジアミン残基」ともいう。)を導入することができる。例えば、式(1)のジアミン残基と屈曲性ジアミンの合計が30モル%以上60モル%以下であり、その他のジアミン残基が40モル%以上70モル%以下であることができ、好ましくは式(1)のジアミン残基と屈曲性ジアミンの合計が35モル%以上55モル%以下であり、その他のジアミン残基が45モル%以上65モル%以下である。
【0025】
全ジアミン残基に占める、式(1)のジアミン残基は、20モル%以上であることが好ましく、より好ましくは27モル%以上であり、また、59モル%以下が好ましく、より好ましくは53モル%以下である。また、全ジアミン残基に占める、屈曲性ジアミン残基の割合は、1モル%以上であることが好ましく、より好ましくは2モル%以上であり、また、10モル%以下であることが好ましく、より好ましくは8モル%以下である。式(1)のジアミン残基及び屈曲性ジアミンが上記の範囲であれば、ポリイミドに高硬度と強靭性の両方を十分にもたらすことができる。
【0026】
<<その他のジアミン>>
その他のジアミン残基を誘導するジアミンとしては、ポリイミドの主鎖剛直性と無色透明性向上の点から、非屈曲性ジアミンであり、かつイオンポテンシャルが7.10eV以上のものが好ましい。例えば、式:
【化7】
のジアミンが挙げられ、溶解性の点からTFMBが好ましい。
【0027】
その他のジアミン残基が存在する場合、その他のジアミン残基は1種でも、2種以上の組み合わせでもよい。
【0028】
<酸二無水物>
本発明のポリアミド酸は、酸二無水物から誘導される残基である酸二無水物残基を含む。酸二無水物残基は、特に限定されず、公知の酸二無水物から誘導される残基であることができる。
【0029】
酸二無水物としては、溶解性と剛直性の点から、式:
【化8】
等が好ましい。上記において、化学構造式の下の数値は、電子親和力(eV)である。電子親和力は、上記のDFT法により求めた値である。
【0030】
ポリイミドの無色透明性の点からは、電子親和力が2.25eV以下の酸二無水物を用いることが好ましく、例えば、CBDA、BPAF、6FDA等である。溶解性の点から、CBDAと、BPAF及び/又は6FDAを併用することが好ましい。
【0031】
酸二無水物残基は1種でも、2種以上の組み合わせでもよい。
【0032】
<ポリアミド酸>
本発明のポリアミド酸は、酸二無水物とジアミンとを重合させることにより、得ることができる。反応に用いる酸二無水物とジアミンは、高分子化の点から、モル比で、0.95:1~1.05:1とすることができ、好ましくは0.97:1~1.03:1である。
【0033】
反応は有機溶媒中で行うことができ、有機溶媒は、反応に不活性な有機溶媒であれば、特に限定されない。ポリアミド酸の重合溶液をそのままイミド化工程に使用する点からは、有機溶媒は、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、m-クレゾール、γ-ブチロラクトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン等が挙げられ、中でも溶解性の点から、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン等が好ましい。有機溶媒は1種であっても、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0034】
反応の際、酸二無水物及びジアミンの固形分濃度は、反応速度を高める点から、5質量%以上とすることができ、好ましくは10質量%以上であり、また、40質量%以下とすることができ、好ましくは25質量%以下である。
反応温度は、反応速度向上の点から、20℃以上とすることができ、好ましくは60℃以上であり、また、100℃以下とすることができ、好ましくは80℃以下である。
反応時間は、反応の完結と作業効率の点から、1時間以上とすることができ、好ましくは2時間以上であり、また、10時間以下とすることができ、好ましくは8時間以下である。
【0035】
得られたポリアミド酸は、式(2):
【化9】
(ここで、Aは酸二無水物残基であり、Bはジアミン残基であり、ジアミン残基は、上記式(1)のジアミン残基及び上記屈曲性ジアミン残基を含む)で示される繰り返し単位を含む。
【0036】
酸二無水物残基、ジアミン残基、式(1)のジアミン残基及び屈曲性ジアミン残基について、上記の例示及び好適例が適用される。
【0037】
ポリアミド酸は、重量平均分子量(Mw)が50、000以上であることができ、好ましくは60,000以上であり、また、100,000以下であることができ、好ましくは80,000以下である。この範囲であれば、加工容易な粘度域に収まる。
ここで、重量平均分子量はポリスチレン標準を用いたサイズ排除クロマトグラフィーにより測定した値である。
【0038】
<ポリイミド>
本発明はまた、上記ポリアミド酸のイミド化物であるポリイミドに関する。ポリイミドは、酸二無水物残基及びジアミン残基を含み、ジアミン残基が、式(1)のジアミン残基及び屈曲性ジアミン残基を含む。酸二無水物残基、ジアミン残基、式(1)のジアミン残基及び屈曲性ジアミン残基について、上記の例示及び好適例が適用される。
【0039】
ポリイミドは、ポリアミド酸を脱水閉環してイミド化することにより得ることができる。イミド化は熱イミド化、還流イミド化であっても、脱水剤を使用する化学イミド化であってもよいが、低温にて閉環反応が進行することで無色透明性が維持され、かつ、分子構造内で部分的な秩序(結晶性)領域が形成し易いことで機械的特性も向上することから、化学イミド化が好ましい。
【0040】
熱イミド化は、ポリアミド酸溶液をキャストし段階的に加熱することにより行うことができ、還流イミド化は、ポリアミド酸溶液にイミド化反応時に生成する水と共沸する共沸溶媒(例えば、トルエン、キシレン等)を添加し、加熱することにより行うことができる。これらのイミド化では反応促進剤を使用してもよい。
【0041】
化学イミド化は、有機溶媒中、縮合剤及び反応促進剤を用いて行うことが好ましい。例えば、有機溶媒中、上記式(2)で示される繰り返し単位を含むポリアミド酸を、縮合剤及び反応促進剤を用いてイミド化することができる。
【0042】
有機溶媒は、反応に不活性な有機溶媒であれば、特に限定されない。ポリアミド酸の重合溶液をそのままイミド化工程に使用する点からは、有機溶媒は、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、m-クレゾール、γ-ブチロラクトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン等が挙げられ、中でも溶解性向上の点から、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン等が好ましい。有機溶媒は1種でも、2種以上の組み合わせでもよい。
【0043】
縮合剤としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸等の酸無水物、亜リン酸エステル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリブチル、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸トリフェニル等の亜リン酸エステル等が挙げられる。副生成物の沸点が低く、除去が容易という観点から、好ましくは、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸であり、より好ましくは無水酢酸である。
縮合剤は、1種であっても、2種以上の組み合わせであってもよい。
縮合剤の使用量は、反応速度向上の点から、酸二無水物に対して、1当量以上とすることができ、2当量以上が好ましく、また、5当量以下とすることができ、4当量以下が好ましい。
【0044】
反応促進剤としては、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N-メチルピペリジン、ピリジン、2-メチルピリジン、3-メチルピリジン、4-メチルピリジン、3-エチルピリジン、3,5-ジメチルピリジン、3,5-ジエチルピリジン、イソキノリン、イミダゾール、1-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾールが挙げられ、反応速度向上と無色透明性維持の点から、好ましくはピリジン、3-メチルピリジン、3-エチルピリジン、3,5-ジメチルピリジン、3,5-ジエチルピリジン、イソキノリン、イミダゾール、1-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾールであり、より好ましくはピリジン、3-メチルピリジン、3-エチルピリジン、イソキノリンである。
反応促進剤は、1種であっても、2種以上の組み合わせであってもよい。
反応促進剤の使用量は、反応速度向上と無色透明性維持の点から、酸二無水物に対して、0.1当量以上とすることができ、0.2当量以上が好ましく、また、2当量以下とすることができ、1当量以下が好ましい。
【0045】
反応温度は、反応速度向上と無色透明性維持の点から、0℃以上とすることができ、好ましくは60℃以上であり、また、120℃以下とすることができ、好ましくは85℃以下である。
反応時間は、反応完結と作業効率の点から、1時間以上とすることができ、好ましくは2時間以上であり、また、4時間以下とすることができ、好ましくは3時間以下である。
また、反応雰囲気は、無色透明性維持の点から、窒素雰囲気であることが好ましい。
【0046】
任意で、末端修飾剤の添加、縮合剤および反応促進剤の留去工程等を行うことができる。
【0047】
得られたポリイミドは、公知の方法で単離することができる。単離方法としては、再沈殿が挙げられる。得られたポリイミドを単離せずに、フィルム化等することもできる。
【0048】
得られたポリイミドは、式(3):
【化10】
(ここで、Aは酸二無水物残基であり、Bはジアミン残基であり、ジアミン残基は、上記式(1)のジアミン残基及び上記屈曲性ジアミン残基を含む)で示される繰り返し単位を含む。
【0049】
酸二無水物残基、ジアミン残基、式(1)のジアミン残基及び屈曲性ジアミン残基について、上記の例示及び好適例が適用される。
【0050】
ポリイミドは、重量平均分子量(Mw)が50,000以上であることができ、好ましくは80,000以上であり、また、110,000以下であることができ、好ましくは100,000以下である。
ここで、重量平均分子量はポリスチレン標準を用いたサイズ排除クロマトグラフィーにより測定した値である。
【0051】
本発明のポリイミドは、上記構造を有するものであれば、ポリアミド酸のイミド化を経て製造されたものに限定されない。
【0052】
<ポリイミドフィルム>
本発明はまた、上記ポリイミドを含むポリイミドフィルムに関する。
【0053】
ポリイミドフィルムは、本発明の目的を損なわない範囲で、感光剤(光酸発生剤、光重合開始剤、光塩基発生剤)、増感剤、密着剤、界面活性剤、レベリング剤、着色剤、離型剤、安定剤、可塑剤、滑剤、無機フィラー、有機フィラー、オイル、繊維、香料、消泡剤等の添加剤を含むことができる。
【0054】
ポリイミドフィルムの厚みは、特に限定されず、用途に応じて適宜、設定することができる。例えば、40μm以上とすることができ、好ましくは45μm以上であり、また、150μm以下とすることができ、好ましくは120μm以下である。
【0055】
本発明のポリイミドフィルムは、高硬度と強靭性を兼ね備える点で優れている。
高硬度としては、6.0GPa以上の引張弾性率が挙げられ、より好ましくは6.5GPa以上である。
強靭性としては、10%以上の破断伸びが挙げられ、より好ましくは15%以上である。
これらの測定は、後述の実施例の測定方法により行うことができる。
【0056】
本発明によれば、さらに無色透明性に優れたポリイミドフィルムを得ることができる。
無色透明性としては、3以下のイエローインデックス、90%以上の全光線透過率、1以下のヘイズが挙げられ、より好ましくは2以下のイエローインデックス、91%以上の全光線透過率、0.5以下のヘイズである。
これらの測定は、後述の実施例の測定方法により行うことができる。
【0057】
ポリイミドフィルムは、ポリイミドを含む溶液を支持体上にキャストして、得られた塗膜を乾燥させてフィルム化することにより作製することができる。ポリイミドを含む溶液として、イミド化後のポリイミドを含む溶液を用いることができる。
【0058】
ポリイミドを含む溶液の塗布方式は、特に限定されず、公知の塗布方法を用いることができ、例えばスピンコーター、バーコーター、ブレードコーター、コンマコーター、リップコーター、ロッドコーター、スクイズコーター、リバースコーター、トランスファロールコーター、グラビアコーター、スプレーコーター等が挙げられる。
【0059】
支持体は、特に限定されず、ガラス、セラミック、金属(アルミニウム箔等)、樹脂フィルム(PET、PEN等のポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム、ポリアミドイミドフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリスチレンフィルム等の熱可塑性フィルム等)等の基板やフィルム等が挙げられる。これらの基板やフィルムは、銅等により回路が形成されていてもよい。
【0060】
ポリイミドを含む溶液に、本発明の目的を損なわない範囲で、感光剤(光酸発生剤、光重合開始剤、光塩基発生剤)、増感剤、密着剤、界面活性剤、レベリング剤、着色剤、離型剤、安定剤、可塑剤、滑剤、無機フィラー、有機フィラー、オイル、繊維、香料、消泡剤等の添加剤を添加し、これらの添加剤を含むポリイミドフィルムとすることができる。
【0061】
ポリイミドを含む溶液の塗布厚は、所望のポリイミドフィルムの厚みに応じて、設定することができる。
【0062】
ポリイミドを含む溶液をキャストした後、得られた塗膜を乾燥させることでポリイミドフィルムを得ることができる。乾燥の方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができ、例えば風乾、オーブン又はホットプレートによる加熱乾燥、真空乾燥等が挙げられる。
【0063】
乾燥の際の温度は、有機溶媒の種類に応じて、設定することができる。乾燥は、空気中で行うことができるが、着色抑制の点から、窒素等の不活性雰囲気中で行うことが好ましい。
【0064】
ポリイミドフィルムは、ガラス代替材料として、タッチパネル用フィルム、ディスプレイ用カバーフィルム及びバックフィルム、フレキシブルプリント配線基板のベースフィルム及びカバーフィルム等として使用することができる。
【実施例
【0065】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0066】
ポリイミドフィルムの評価は以下のようにして行った。
<引張弾性率(GPa)、最大強度(MPa)、破断伸び(%)>
ポリイミドフィルムをサンプルカッターでフィルム幅5mmに裁断したものを測定試料として用いた。測定装置として、島津製作所社製「EZ-LX」を用いて、ASTM D882に準拠した測定を行った。掴み具間距離は30mm、試験速度は3mm/minで、1サンプルにつき5~7回測定し、各特性において高い3点の平均値を測定結果とした。
【0067】
<全光線透過率(%)、ヘイズ(%)>
ポリイミドフィルムをそのまま測定試料として用いた。測定装置として、日本電色工業社製「ヘーズメーターNDH7000」を用いて、JIS K7361-1に準拠した測定を行い、測定結果を得た。
【0068】
<イエローインデックス(YI)>
ポリイミドフィルムをそのまま測定試料として用い、測定装置としてはコニカミノルタ株式会社製の「測色分光計CM-5」を用いて、ASTM E313に準拠した測定を行うことにより求めた。
【0069】
<実施例1>
50mLサンプル管に1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA)1.022g(5.21mmol)と9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物(BPAF)0.796g(1.74mmol)、trans-1,4-シクロヘキサンジアミン(tCHDA)19.8mg(0.17mmol)、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)1.157g(3.61mmol)、2-フェニル-4,4’-ジアミノベンズアニリド(PHBAAB。式(1)において、R3がフェニル、R1、R2及びR4が水素原子の化合物)1.005g(3.30mmol)を投入し、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)12gに溶解させた。この溶液を60℃に維持し、2時間反応させることでポリアミド酸溶液を得た。
【0070】
得られたポリド酸溶液にDMAc24g、無水酢酸1.703gを添加し、溶液が均一になるまで攪拌した後、ピリジン0.550gを添加し、60℃で2時間化学イミド化反応させることでポリイミド溶液を得た。
【0071】
得られたポリイミド溶液15gに、表面改質剤15mg(DIC株式会社製メガファックR-94)を添加し、均一になるまで攪拌した。得られた溶液をソーダガラス板に塗布し、塗工膜が500μmになるようにキャスティングした後、70℃の熱風で30分乾燥させた。塗膜を形成させたガラス板をイナートガスオーブンに投入し、窒素雰囲気下170℃で1時間乾燥させることで、50μmのポリイミドフィルムを得た。
【0072】
<実施例1~12、比較例1~10>
表1に示される種類及び量の酸二無水物及びジアミンを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2~12、比較例1~2、4~8のポリイミドフィルムを作製した。比較例3は、化学イミド化の段階でゲル化し製膜できず、比較例9及び10は、成分が不溶でフィルムの作製ができなかった。比較例2で用いたmTolは、下記式で示される非屈曲性ジアミンであり、イオン化ポテンシャルは7.08eVである。
【0073】
得られたポリイミドフィルムについて、各種特性を測定した。測定結果を表1に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
表1に示されるように、実施例のポリイミドフィルムは引張弾性率6.0GPa以上、破断伸びが10%以上であり、高硬度であるとともに、強靭性であった。これらは最大強度においても良好であった、また、これらは3以下のイエローインデックス、90%以上の全光線透過率、1以下のヘイズを有しており、光学的特性についても優れたものであった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明のポリアミド酸によれば、高硬度であり、かつ強靭性を有するポリイミドが提供される。本発明のポリアミド酸によれば、これらの特性に加えて、高い透明性及び低い黄色度を有するポリイミドも提供することができる。本発明のポリアミド酸のイミド化物であるポリイミド、このポリイミドを含むポリイミドフィルムは、上記の特性を有し、産業上の有用性が高い。