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特許7520302情報処理装置、情報処理方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20240716BHJP
【FI】
G05B23/02 302Y
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020091650
(22)【出願日】2020-05-26
(65)【公開番号】P2021189552
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-02-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和 1年 9月 3日に、テイラー・アンド・フランシス・グループのウェブサイトにて公開(https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/23744731.2019.1651619) 令和 1年 9月 4日に、16th IBPSA International Conference and Exhibitionにて公開 令和 1年 9月20日に、令和元年度空気調和・衛生工学会大会にて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】田中 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】大神 寛人
(72)【発明者】
【氏名】赤司 泰義
(72)【発明者】
【氏名】宮田 翔平
(72)【発明者】
【氏名】桑原 康浩
【審査官】大古 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-058937(JP,A)
【文献】特開2018-190245(JP,A)
【文献】特開2012-043421(JP,A)
【文献】特開2005-248848(JP,A)
【文献】特開2004-211587(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/00 -23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱源システムで消費、又は前記熱源システムから供給されたエネルギー量に関する指標値を含む前記熱源システムの運転データを取得する第1取得部と、
前記熱源システムに不具合がない正常運転状態での前記指標値を取得する第2取得部と、
前記運転データを入力として、予め定められた複数種類の不具合夫々の特徴が前記運転データに表れている度合いを示す確率値を出力するよう訓練データを学習済みの学習済みモデルに基づき、取得した前記運転データから前記確率値を算出する第1算出部と、
前記運転データが示す前記指標値と、正常運転状態での前記指標値とに基づき、前記エネルギー量の損失に相当する前記指標値の差分値を算出する第2算出部と、
前記確率値及び差分値の乗算値を閾値と比較することで、前記熱源システムの修繕箇所を決定する決定部とを備え、
前記第1取得部は、所定期間に亘る前記運転データを取得し、
前記第2取得部は、前記所定期間に亘る正常運転状態での前記指標値を取得し、
前記第1算出部は、前記所定期間に亘る前記運転データを単位期間毎に分割した各前記運転データを前記学習済みモデルに順次入力して前記確率値を算出し、前記所定期間に亘る前記確率値の時系列データを生成し、
前記第2算出部は、前記運転データが示す前記指標値と、正常運転状態での前記指標値との前記差分値を前記単位期間毎に算出して、前記所定期間に亘る前記差分値の時系列データを生成し、
前記決定部は、前記確率値及び差分値夫々の時系列データに基づき、前記修繕箇所を修繕すべき時期を決定する
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項2】
前記第2取得部は、前記指標値を含む正常運転状態での前記運転データを取得し、
前記第1取得部が取得した前記運転データと、正常運転状態での前記運転データとの差分を取って入力用の前記運転データを生成する生成部を備え、
前記第1算出部は、前記入力用の運転データを前記学習済みモデルに入力して前記確率値を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記学習済みモデルは、訓練用の前記運転データに対し、不具合の種類及び程度を示すラベルが付与された訓練データを学習済みのモデルであり、
前記第1算出部は、前記学習済みモデルに基づき、不具合の種類及び程度に応じた前記確率値を算出する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記学習済みモデルは、訓練用の前記運転データに対し、同時に発生している一又は複数の不具合の種類を示すラベルが付与された訓練データを学習済みのモデルであり、
前記第1算出部は、前記学習済みモデルに基づき、同時に発生している一又は複数の不具合の種類に応じた前記確率値を算出する
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記熱源システムの運転状態を再現するためのシミュレーションモデルを用いて、前記熱源システムに各種類の不具合が生じている状態の前記指標値と、正常運転状態での前記指標値とを算出する第3算出部と、
各種類の不具合が生じている状態の前記指標値と、正常運転状態での前記指標値とに基づき、各種類の不具合が生じた場合の前記指標値の変化率を算出する第4算出部と、
前記変化率に基づき、前記熱源システムの運転状態に与える影響が大きい不具合の種類を特定する特定部とを備え、
前記決定部は、前記確率値及び差分値に基づき、予め定められた複数種類の不具合の内、前記特定部が特定した種類の不具合に対応する箇所を修繕すべきか否か決定する
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項6】
熱源システムで消費、又は前記熱源システムから供給されたエネルギー量に関する指標値を含む前記熱源システムの運転データを取得し、
前記熱源システムに不具合がない正常運転状態での前記指標値を取得し、
前記運転データを入力として、予め定められた複数種類の不具合夫々の特徴が前記運転データに表れている度合いを示す確率値を出力するよう訓練データを学習済みの学習済みモデルに基づき、取得した前記運転データから前記確率値を算出し、
前記運転データが示す前記指標値と、正常運転状態での前記指標値とに基づき、前記エネルギー量の損失に相当する前記指標値の差分値を算出し、
前記確率値及び差分値の乗算値を閾値と比較することで、前記熱源システムの修繕箇所を決定する
処理をコンピュータが実行する情報処理方法であって、
所定期間に亘る前記運転データを取得し、
前記所定期間に亘る正常運転状態での前記指標値を取得し、
前記所定期間に亘る前記運転データを単位期間毎に分割した各前記運転データを前記学習済みモデルに順次入力して前記確率値を算出し、前記所定期間に亘る前記確率値の時系列データを生成し、
前記運転データが示す前記指標値と、正常運転状態での前記指標値との前記差分値を前記単位期間毎に算出して、前記所定期間に亘る前記差分値の時系列データを生成し、
前記確率値及び差分値夫々の時系列データに基づき、前記修繕箇所を修繕すべき時期を決定する
処理をコンピュータが実行することを特徴とする情報処理方法。
【請求項7】
熱源システムで消費、又は前記熱源システムから供給されたエネルギー量に関する指標値を含む前記熱源システムの運転データを取得し、
前記熱源システムに不具合がない正常運転状態での前記指標値を取得し、
前記運転データを入力として、予め定められた複数種類の不具合夫々の特徴が前記運転データに表れている度合いを示す確率値を出力するよう訓練データを学習済みの学習済みモデルに基づき、取得した前記運転データから前記確率値を算出し、
前記運転データが示す前記指標値と、正常運転状態での前記指標値とに基づき、前記エネルギー量の損失に相当する前記指標値の差分値を算出し、
前記確率値及び差分値の乗算値を閾値と比較することで、前記熱源システムの修繕箇所を決定する
処理をコンピュータに実行させるプログラムであって、
所定期間に亘る前記運転データを取得し、
前記所定期間に亘る正常運転状態での前記指標値を取得し、
前記所定期間に亘る前記運転データを単位期間毎に分割した各前記運転データを前記学習済みモデルに順次入力して前記確率値を算出し、前記所定期間に亘る前記確率値の時系列データを生成し、
前記運転データが示す前記指標値と、正常運転状態での前記指標値との前記差分値を前記単位期間毎に算出して、前記所定期間に亘る前記差分値の時系列データを生成し、
前記確率値及び差分値夫々の時系列データに基づき、前記修繕箇所を修繕すべき時期を決定する
処理をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置、情報処理方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
機械学習技術を用いて空気調和装置(以下、「空調機」と呼ぶ)、チラー装置などの熱源システムの不具合を診断する手法がある。例えば特許文献1では、空調機から検出した検出情報を、所定の時間間隔毎のフレームで区切って生成した二次元画像データと、当該二次元画像データが異常又は異常の前兆を示すものであるか否かを判定するための正解ラベルとを学習し、空調機の状態を検出する状態監視装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6298562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に係る発明は、診断対象のシステムの何処かに異常があることを検出するに過ぎず、不具合がある箇所を特定するに至っていない。
【0005】
一つの側面では、熱源システムの不具合診断を好適に実施することができる情報処理装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一つの側面に係る情報処理装置は、熱源システムで消費、又は前記熱源システムから供給されたエネルギー量に関する指標値を含む前記熱源システムの運転データを取得する第1取得部と、前記熱源システムに不具合がない正常運転状態での前記指標値を取得する第2取得部と、前記運転データを入力として、予め定められた複数種類の不具合夫々の特徴が前記運転データに表れている度合いを示す確率値を出力するよう訓練データを学習済みの学習済みモデルに基づき、取得した前記運転データから前記確率値を算出する第1算出部と、前記運転データが示す前記指標値と、正常運転状態での前記指標値とに基づき、前記エネルギー量の損失に相当する前記指標値の差分値を算出する第2算出部と、前記確率値及び差分値の乗算値を閾値と比較することで、前記熱源システムの修繕箇所を決定する決定部とを備え、前記第1取得部は、所定期間に亘る前記運転データを取得し、前記第2取得部は、前記所定期間に亘る正常運転状態での前記指標値を取得し、前記第1算出部は、前記所定期間に亘る前記運転データを単位期間毎に分割した各前記運転データを前記学習済みモデルに順次入力して前記確率値を算出し、前記所定期間に亘る前記確率値の時系列データを生成し、前記第2算出部は、前記運転データが示す前記指標値と、正常運転状態での前記指標値との前記差分値を前記単位期間毎に算出して、前記所定期間に亘る前記差分値の時系列データを生成し、前記決定部は、前記確率値及び差分値夫々の時系列データに基づき、前記修繕箇所を修繕すべき時期を決定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
一つの側面では、熱源システムの不具合診断を好適に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】不具合診断システムの構成例を示す説明図である。
図2】サーバの構成例を示すブロック図である。
図3】運転DB、ラベルDBのレコードレイアウトの一例を示す説明図である。
図4】診断モデルに関する説明図である。
図5】不具合に応じた年間のエネルギー消費効率の変化率を示す説明図である。
図6】診断確率、エネルギー消費効率、消費電力のピーク値、及び消費電力量に関する時系列データを示す説明図である。
図7】診断結果の通知画面例を示す説明図である。
図8】診断モデルの生成処理の手順を示すフローチャートである。
図9】熱源システムの不具合診断処理の手順を示すフローチャートである。
図10】変形例に係る修繕箇所の決定処理を説明するための説明図である。
図11】実施の形態2に係るラベルDBのレコードレイアウトの一例を示す説明図である。
図12】実施の形態2に係る診断モデルの生成処理の手順を示すフローチャートである。
図13】実施の形態2に係る熱源システムの不具合診断処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。
(実施の形態1)
図1は、不具合診断システムの構成例を示す説明図である。本実施の形態では、熱源システム4の不具合を診断する不具合診断システムについて説明する。不具合診断システムは、情報処理装置1、端末2、監視装置3を含む。各装置は、インターネット等のネットワークNに通信接続されている。
【0010】
熱源システム4は、例えば建築物に設置された空調機用の熱源システムであり、室内側の熱負荷に応じて熱を生産・搬送するシステムである。なお、熱源システム4は、工業用機械の冷却システムなど、空調機以外の用途で使用される熱源システムであってもよい。熱源システム4は、冷凍機、冷却塔、蓄熱槽等を備え、冷媒(例えば水)を介して空調機に熱を供給する。
【0011】
情報処理装置1は、種々の情報処理、情報の送受信が可能な情報処理装置であり、例えばサーバコンピュータ、パーソナルコンピュータ等である。本実施の形態では情報処理装置1がサーバコンピュータであるものとし、以下では簡潔のためサーバ1と読み替える。サーバ1は、例えば冷媒の出入口温度、流量、圧力など、熱源システム4の運転状況を示す運転データから、当該熱源システム4の不具合を診断する処理を行う。具体的には、サーバ1は、運転データに対して不具合の有無及び種類を表すラベルが付与された訓練データを用いて機械学習を行い、不具合診断用の診断モデル142(学習済みモデル。図4参照)を生成してある。サーバ1は、診断対象である熱源システム4の運転データを診断モデル142に入力して、熱源システム4の不具合を診断し、修繕すべき熱源システム4の修繕箇所を決定する。
【0012】
端末2は、サーバ1のクライアント端末として機能する端末装置であり、例えばパーソナルコンピュータ、タブレット端末、スマートフォン等である。端末2のユーザは、例えば熱源システム4が設置されている建築物のオーナー、あるいは熱源システム4の保守点検を行う事業者などであり、サーバ1は、不具合の診断結果を端末2に通知してユーザに提示する。
【0013】
監視装置3は、熱源システム4の運転状況を監視する監視装置であり、例えばBEMS(Building Energy Management System)を構成するローカルサーバである。監視装置3は、所定の時間毎(例えば15分毎)に熱源システム4から運転データを取得して記録する。本実施の形態でサーバ1は、監視装置3から熱源システム4の運転データを取得して不具合診断を行う。
【0014】
なお、運転データの取得元は監視装置3に限定されず、例えばサーバ1は、ユーザが手動で計測、入力した運転データを端末2から取得するようにしてもよい。また、本実施の形態ではクラウド上のサーバ1が不具合診断を行うものとするが、診断モデル142をローカルコンピュータ(例えば端末2)にインストールし、ローカルで不具合診断を行うようにしてもよい。
【0015】
図2は、サーバ1の構成例を示すブロック図である。サーバ1は、制御部11、主記憶部12、通信部13、及び補助記憶部14を備える。
制御部11は、一又は複数のCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro-Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等の演算処理装置を有し、補助記憶部14に記憶されたプログラムPを読み出して実行することにより、種々の情報処理、制御処理等を行う。主記憶部12は、SRAM(Static Random Access Memory)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の一時記憶領域であり、制御部11が演算処理を実行するために必要なデータを一時的に記憶する。通信部13は、通信に関する処理を行うための通信モジュールであり、外部と情報の送受信を行う。
【0016】
補助記憶部14は、大容量メモリ、ハードディスク等の不揮発性記憶領域であり、制御部11が処理を実行するために必要なプログラムP、その他のデータを記憶している。また、補助記憶部14は、シミュレーションモデル141、診断モデル142、運転DB143、ラベルDB144を記憶している。シミュレーションモデル141は、熱源システム4の運転状態を再現するためのモデルであり、実際の熱源システム4の仕様(冷凍機、冷却塔等の構成や定格値など)を元に構築されたシミュレーション計算用のモデルである。本実施の形態でサーバ1は、シミュレーションで計算(生成)された運転データを診断モデル142の訓練データとして用いる。診断モデル142は、訓練データを学習することで生成される学習済みモデルであって、後述のように、例えば深層学習で生成されたニューラルネットワークモデルである。診断モデル142は、人工知能ソフトウェアの一部として機能するプログラムモジュールとしての利用が想定される。運転DB143は、熱源システム4の運転データを格納するデータベースである。ラベルDB144は、本実施の形態において不具合を表すデータとして用いられるラベルに関する情報を格納するデータベースである。
【0017】
なお、補助記憶部14はサーバ1に接続された外部記憶装置であってもよい。また、サーバ1は複数のコンピュータからなるマルチコンピュータであっても良く、ソフトウェアによって仮想的に構築された仮想マシンであってもよい。
【0018】
また、本実施の形態においてサーバ1は上記の構成に限られず、例えば操作入力を受け付ける入力部、画像を表示する表示部等を含んでもよい。また、サーバ1は、CD(Compact Disk)-ROM、DVD(Digital Versatile Disc)-ROM等の可搬型記憶媒体1aを読み取る読取部を備え、可搬型記憶媒体1aからプログラムPを読み取って実行するようにしても良い。あるいはサーバ1は、半導体メモリ1bからプログラムPを読み込んでも良い。
【0019】
図3は、運転DB143、ラベルDB144のレコードレイアウトの一例を示す説明図である。運転DB143は、機器ID列、日時列、運転データ列を含む。機器ID列は、診断対象として本システムに登録してある熱源システム4(機器)を識別するための機器IDを記憶している。日時列、運転データ列はそれぞれ、機器IDと対応付けて、運転データの計測日時、及び計測された運転データを記憶している。運転データは、監視装置3(BEMS)で計測可能な複数のデータ項目から成るパラメータ群であって、例えば熱源システム4における冷媒の出口温度、入口温度、冷媒の流量などのパラメータのほかに、熱源システム4における消費電力、あるいは熱源システム4から空調機に供給された熱量など、エネルギー量に関する指標値を含む。
【0020】
ラベルDB144は、ラベル列、不具合列、発生箇所列を含む。ラベル列は、不具合の有無及び種類を表すラベルを記憶している。本実施の形態では、ラベルはFx(x=0、1、2…)で表され、不具合がない正常運転状態を表すラベルF0と、想定される不具合の種類に応じた35種類のラベルF1~F35とが用意されている。不具合列、発生箇所列はそれぞれ、ラベルと対応付けて、当該ラベルが表す不具合、及び当該不具合が発生する熱源システム4の該当箇所を記憶している。
【0021】
図4は、診断モデル142に関する説明図である。図4に基づき、診断モデル142の概要を説明する。
【0022】
本実施の形態でサーバ1は、診断モデル142として、ニューラルネットワークの一種であるCNN(Convolution Neural Network)から構成されるモデルを生成する。なお、図4ではCNNを表すブロックを4つ図示してあるが、その理由は後述する。診断モデル142(CNN)は、熱源システム4の運転データの入力を受け付ける入力層と、入力層に入力されたデータに基づく演算を行う中間層と、中間層での演算結果に基づき出力を行う出力層とを有する。入力層は、データの入力を受け付ける複数のニューロンを有し、入力された計測値を中間層に受け渡す。中間層は、入力データに基づく演算を行うための複数のニューロンを有し、入力データから特徴量を抽出する演算を行う。CNNでは、中間層は畳み込み層及びプーリング層が交互に連結された構造を有し、入力データを圧縮しながら特徴量を抽出する。出力層は、中間層で抽出した特徴量に基づき出力値の演算を行う。
【0023】
なお、診断モデル142はCNNに限定されず、LSTM(Long-Short Term Memory)等の他のニューラルネットワークモデル、あるいはSVM(Support Vector Machine)、ランダムフォレスト、決定木など、その他の学習アルゴリズムに基づくモデルであってもよい。
【0024】
サーバ1は、訓練用の熱源システム4の運転データに対し、不具合の有無及び種類を表すラベルFx(x=0、1、2…)が付与された訓練データを学習し、診断モデル142を生成する。具体的には、サーバ1は、シミュレーションモデル141を用いてシミュレーション計算を行い、各ラベルFxの熱源システム4の運転状態を再現した運転データを生成して訓練データに用いる。
【0025】
シミュレーションモデル141は、実際の熱源システム4の仕様(冷凍機、冷却塔等の構成や定格値など)を元に構築されたモデルであり、Matlab(登録商標)等のソフトウェアにより実装される。なお、当該ソフトウェアはMatlabに限定されず、例えばPythonなど、他のソフトウェアであってもよい。サーバ1は、シミュレーションを実行する上で必要な所定のパラメータの設定入力を受け付け、所定期間(例えば1年間)に亘って熱源システム4を運転した場合の運転データのシミュレーション計算を行う。なお、手動で設定されるパラメータは負荷流量、負荷熱量、送水温度設定値、外気温、外気相対湿度の5種類のパラメータであるが、その内容は特に限定されない。
【0026】
シミュレーションを実行する場合、サーバ1は、熱源システム4に不具合がない正常運転状態(F0)のほか、ラベルF1~F35の各種類の不具合がある状態でのシミュレーション計算をそれぞれ行う。具体的には、サーバ1は、不具合に該当するラベルFx(x=1、2、3…)のシミュレーションを行う場合、そのラベルFxの種類に応じてシミュレーションモデル141の規定値を変更する。詳細な説明は省略するが、例えばラベルF1(冷凍機劣化)の場合、凝縮器の汚れにより圧力損失が15%増加し、冷凍機の性能が10%低下するものとして、シミュレーションモデル141の規定値を変更する。また、例えばラベルF2(冷却塔劣化)の場合、性能低下により熱交換率が10%低下するものとして規定値を変更する。以下同様に、サーバ1は、ラベルFxに応じて規定値を変更し、シミュレーション計算を行う。
【0027】
サーバ1は、各ラベルFxに応じた規定値の下でシミュレーションを行い、複数のデータ項目から成る運転データを生成する。運転データを構成するデータ項目は、実際の熱源システム4から計測可能なパラメータであり、例えば冷媒の出入口温度、流量、圧力などのほか、消費電力、供給熱量など、熱源システム4で消費又は供給されるエネルギー量に関する指標値を含む。なお、これらは運転データの一例であって、熱源システム4から計測可能なパラメータであればよい。本実施の形態でサーバ1は、監視装置3(BEMS)から取得可能な48項目のパラメータを運転データとして扱う。
【0028】
サーバ1は、所定期間分の熱源システム4の運転データをシミュレーションで計算し、当該期間の運転データを訓練データに用いる。当該期間は例えば1年間であるが、1ヶ月、1週間など、その他の時間単位であってもよい。
【0029】
本実施の形態でサーバ1は、運転データを所定の単位期間毎に分割し、分割した各単位期間の運転データを画像に変換して、診断モデル142への入力とする。当該単位期間は例えば24時間であるが、その時間単位は特に限定されない。サーバ1は、24時間毎の運転データを画像に変換し、診断モデル142に入力する。
【0030】
図4左上に、診断モデル142への入力とする画像を概念的に図示する。当該画像は、一方の軸(図4では縦軸)を時間軸とし、他方の軸(横軸)を、運転データを構成する各データ項目とする画像である。画像内では、各時間(時刻)及びデータ項目に対応するパラメータの高低が濃淡で表現される。なお、図4では図示の便宜上、濃淡をハッチングにより図示している。
【0031】
サーバ1は、シミュレーションで計算した所定期間の運転データを単位期間毎に分割し、図4に示す画像に変換する。なお、濃淡は運転データの表現手法の一例であって、例えば色、輝度などで表現してもよい。サーバ1は、ラベルF0、F1、F2…の各運転データを同様に画像に変換して診断モデル142に入力し、診断モデル142(CNN)に画像の特徴量を学習させる。
【0032】
なお、入力用の画像を生成する際に、前処理として、運転データを構成する各データ項目のパラメータを正規化し、不具合が生じている状態(F1~F35)のパラメータから正常運転状態(F0)のパラメータを差し引いた値を入力用の運転データとする。運転データを構成するパラメータをx、F0でのパラメータをx0、前処理後のパラメータをΔxとすると、当該前処理は以下の式(1)で表される。
【0033】
【数1】
【0034】
正常運転状態との差分を取って入力用の運転データとすることで、不具合の検出精度を高めることができる。
【0035】
本実施の形態に係る診断モデル142では、不具合診断を分類問題と捉え、入力された運転データ(画像)が、ラベルF0~F35の何れの状態に類似するかを判断する。具体的には、診断モデル142は、各ラベルFxの特徴が運転データに表れている度合いを示す確率値を出力とする。なお、以下の説明では、診断モデル142から出力される確率値を「診断確率」と称する。
【0036】
図4下側に、診断モデル142から出力される診断確率を概念的に図示する。図4では、運転データに対応する所定期間(1年間)に亘って、単位期間(24時間)毎の診断確率を示す時系列データを図示してある。サーバ1は、診断モデル142に入力される各単位期間の運転データ(画像)に基づき、各時点での診断確率を算出する。
【0037】
診断確率は、ラベルFxの特徴が入力の画像(運転データ)にどの程度表れているか、その度合いを確率値で表現したものであり、ラベルF0~F35それぞれの確率値の合計が100%(1.0)となるように計算される。ここで、各ラベルFxの診断確率は、必ずしもラベルFxに対応する不具合が生じている確率とは限らないことに留意されたい。なぜならば、学習時には訓練用の運転データとラベルFxとの関係が一対一の関係になっているものの、実際の熱源システム4では複数の不具合が同時に発生している場合があるためである。例えばラベルF1、F2の不具合が同時に発生している場合、ラベルF1、F2の確率は共に100%と計算されるべきであるが、合計が100%となるように、ラベルF1の診断確率がX%(X<100)、ラベルF2の診断確率は(100-X)%というように計算される。このように、診断確率が小さくてもその不具合が生じている可能性はあり、不具合が生じている確率と診断確率とは必ずしも一致しない。そこで本明細書では、診断確率を、各種類の不具合(ラベルFx)の特徴が運転データ(画像)に表れている度合いと定義する。
【0038】
サーバ1は、シミュレーションで計算した運転データを変換した画像を診断モデル142に入力し、診断確率を出力として取得する。そしてサーバ1は、取得した診断確率と正解のラベルFxとを比較し、正解のラベルFxの確率が高くなるように、ニューロン間の重みを誤差逆伝播法で調整する。サーバ1は、単位期間毎に生成した画像を順次入力して学習を行い、重みを最適化する。
【0039】
ここでサーバ1は、訓練データの学習効率を高めるため、アンサンブル学習により診断モデル142を生成する。アンサンブル学習は、複数の弱識別器を用いて学習を行う手法であり、各弱識別器を組み合わせることで識別精度を向上させる手法である。
【0040】
本実施の形態でサーバ1は、上記の所定期間(1年間)を複数の期間(例えば3ヶ月毎)に区分し、各期間の運転データを同じネットワーク構造の別々のCNN(弱識別器)に与えて学習させる。そしてサーバ1は、複数のCNNそれぞれの出力(診断確率)の平均値を算出する集計関数を最終的な出力層として各CNNに接続し、最終的な診断モデル142とする。従って、図4に示すように、本実施の形態に係る診断モデル142は、並列関係にある複数のCNNと、各CNNの出力が入力される一の出力層とを備えた構造となる。サーバ1は、上記のようにアンサンブル学習の手法を用いて診断モデル142を生成する。
【0041】
サーバ1は、生成した診断モデル142を用いて、診断対象である実際の熱源システム4の不具合診断を行う。例えばサーバ1は、監視装置3から運転データを逐次取得し、運転DB143に記憶してある。サーバ1は、直近の所定期間(1年間)の運転データを運転DB143から読み出し、学習時と同様に単位期間毎の画像に変換して診断モデル142に入力する。そしてサーバ1は、各単位期間の運転データに対応する診断確率を算出する。なお、診断時は、診断モデル142を構成する各CNN(弱識別器)に同じ画像を入力して診断確率を算出し、出力層において平均値を算出する。これにより、図4下側に示すように、所定期間に亘る診断確率の時系列データを生成する。
【0042】
本実施の形態においてサーバ1は、診断モデル142に基づき算出した診断確率のほか、運転データに含まれるエネルギー量(消費電力、供給熱量等)に関する指標値を用いて、修繕すべき不具合を特定し、修繕箇所を決定する。
【0043】
図5は、不具合に応じた年間のエネルギー消費効率の変化率を示す説明図である。図6は、診断確率、エネルギー消費効率、消費電力のピーク値、及び消費電力量に関する時系列データを示す説明図である。図5及び図6に基づき、修繕箇所を決定する際の処理内容について説明する。
【0044】
上記のように、サーバ1は診断確率以外に、熱源システム4で消費、又は熱源システム4から空調機に供給されるエネルギー量に関する指標値を用いて修繕箇所を決定する。指標値は、例えばエネルギー消費効率(COP;Coefficient Of Performance、供給熱量を消費電力量で除算した値)、消費電力のピーク値、及び消費電力量である。なお、これらは指標値の例示であって、熱源システム4で消費又は供給されるエネルギー量に関連したパラメータであればよい。サーバ1は、エネルギー消費効率、消費電力のピーク値、及び消費電力量の内、一又は複数の指標値を用いて不具合診断を行う。具体的には、サーバ1は、図5に示す年間のエネルギー消費効率の変化率から、熱源システム4の運転状態に与える影響が大きい重要な不具合(以下、「重要不具合」と称する)を特定する。そしてサーバ1は、図6に示す診断確率及び指標値の時系列データから修繕すべき不具合を特定し、修繕箇所を決定する。
【0045】
図5では、不具合の発生によりエネルギー消費効率がどの程度変化するか、エネルギー消費効率の変化率をラベルFx別に計算した結果を図示している。なお、変化率は以下の数式(2)で定義される。
【0046】
変化率 = {(FxのCOP-F0のCOP)/F0のCOP}×100 …(2)
【0047】
サーバ1は、上記のシミュレーション結果を用いて各ラベルFxのエネルギー消費効率を計算し、各ラベルFxに対応する変化率を算出する。図5では、各ラベルFxのエネルギー消費効率の変化率をドットで図示している。サーバ1は、算出した変化率に基づき、エネルギー消費効率の低下の幅が大きいラベルFx、すなわち重要不具合を特定する。重要不具合の特定方法は特に限定されないが、例えば変化率を閾値(例えば-3%)と比較して閾値以下のラベルFxを特定する。あるいはサーバ1は、全てのラベルFxの変化率から外れ値検定を行い、外れ値となっているラベルFxを検出してもよい。
【0048】
なお、上記ではエネルギー消費効率に基づいて重要不具合を特定したが、消費電力のピーク値、又は消費電力量の変化率を算出して重要不具合を特定してもよい。すなわち、エネルギー量に関する指標値の変化率に基づいて重要不具合を特定可能であればよく、その指標値はエネルギー消費効率に限定されない。
【0049】
診断対象の熱源システム4の不具合を診断する場合、サーバ1は、上記で特定した重要不具合から、修繕すべき不具合を特定する。具体的には、図6に示す診断確率及び指標値の時系列データから、重要不具合の内、診断対象の熱源システム4に悪影響を及ぼしている不具合を特定する。
【0050】
図6では、診断モデル142を用いて生成した診断確率の時系列データのほかに、エネルギー消費効率、消費電力のピーク値、及び消費電力量について、正常運転状態との差分値を時系列で示す時系列データを図示している。サーバ1は、診断対象の熱源システム4の運転データが示す指標値と、正常運転状態での指標値との差分値を単位期間(24時間)毎に算出し、図6に示す時系列データを生成する。各指標値に対応する差分値はそれぞれ、エネルギー消費効率の低下分、消費電力量のピーク値の増加分、及び消費電力量の損失分を表している。
【0051】
なお、正常運転状態での指標値は、例えばシミュレーションで計算したラベルF0の値を用いてもよく、あるいは診断対象である実際の熱源システム4において、正常運転状態での消費電力や供給熱量のサンプルテストを事前に行っておき、サンプルテストで計測した値を用いてもよい。このように、正常運転状態での指標値の取得方法は特に限定されない。
【0052】
サーバ1は、図6に示す時系列データから修繕すべき不具合を特定し、修繕箇所を決定する。例えばサーバ1は、エネルギー消費効率、消費電力のピーク値、及び消費電力量の内、一又は複数の指標値について差分値が閾値以上となっている時点(日付)を時系列データから特定する。そしてサーバ1は、特定した時点の診断確率を参照して、診断確率が閾値以上の不具合を特定する。サーバ1はラベルDB144を参照して、特定した不具合に対応する箇所を修繕箇所に決定する。
【0053】
なお、上記の修繕箇所の決定方法は一例であり、他の方法で修繕箇所を決定してもよい。例えば後述の変形例のように、各ラベルFxの診断確率と差分値とを乗算して、各不具合に起因するエネルギー量の損失を不具合毎に推定し、修繕箇所を決定するようにしてもよい。
【0054】
また、上記では個々の時点について独立して診断確率及び差分値を閾値と比較したが、診断確率及び/又は差分値の時系列変化から修繕すべき不具合を特定してもよい。例えばサーバ1は、エネルギー量に関する指標値の正常運転状態との差分値(損失)が、一定期間で一定値以上上昇した場合、何らかの不具合が生じたものと判断し、診断確率を参照して不具合の種類を特定する。このように、サーバ1は、診断確率及び/又は差分値の時系列変化から修繕すべき不具合を特定してもよい。
【0055】
また、上記では、複数種類の不具合の内、指標値の変化率に基づいて特定した重要不具合のみを対象として、重要不具合に対応する箇所を修繕すべきか否か決定したが、本実施の形態はこれに限定されるものではない。例えばサーバ1は、重要不具合とその他の不具合とで異なる閾値と比較し、修繕すべき不具合を特定してもよい。例えばサーバ1は、重要不具合の閾値を、その他の不具合の閾値よりも小さな値に設定し、各々異なる閾値と比較する。これにより、全ての不具合を診断対象としつつ、重要不具合に対する重み付けがなされ、検出感度を向上させることができる。
【0056】
また、サーバ1は、診断対象とする熱源システム4に応じて、エネルギー消費効率、消費電力のピーク値、及び消費電力量の3種類の指標値から、不具合診断に用いる指標値を選択するようにしてもよい。例えばサーバ1は、熱源システム4が設置されている建築物での電力契約の形態に応じて、不具合診断の基準とする指標値を選択する。例えば電気料が消費電力のピーク値に大きく依存する電力契約である場合、サーバ1は消費電力のピーク値を指標値とする選択入力を事前に受け付け、消費電力のピーク値を指標値として不具合診断を行う。このように、個々の熱源システム4に応じて複数の指標値から何れかを選択し、不具合診断を行うようにしてもよい。
【0057】
サーバ1は、上記のように熱源システム4の修繕箇所を決定するほか、当該箇所を修繕すべき時期を年間(所定期間)の時系列データから決定する。例えばサーバ1は、上記で特定した時点(日付)に応じて修繕時期を決定する。例えばあるラベルFxの診断確率及び指標値が1月~4月の時点で閾値以上となっている場合、サーバ1は、1月~4月を修繕時期に決定する(図7参照)。このように、該当の不具合が発生時期を時系列データから推定し、修善時期を決定してもよい。
【0058】
図7は、診断結果の通知画面例を示す説明図である。サーバ1は、診断モデル142に基づき算出した診断確率や、診断確率等から決定した修繕箇所を含む診断結果を端末2に通知し、表示させる。図7では、端末2が表示する画面例を図示している。例えば端末2は、図7に示すように、各重要不具合の内容やその診断確率を示す表、並びに診断確率及び各指標値に係る差分値の時系列データを表示する。また、端末2は、修繕箇所及び時期に応じたメッセージを「診断結果」として表示し、ユーザに提示する。なお、図7の例では、現時点で既に修繕時期に当たる箇所については強調表示(下線付きのメッセージ)を行い、早急に修繕すべき旨をユーザに提示している。このように、修繕箇所だけでなく時期を併せて提示することで、ユーザは優先順位を付けて修繕を行うことができる。
【0059】
図8は、診断モデル142の生成処理の手順を示すフローチャートである。図8に基づき、機械学習を行って診断モデル142を生成する際の処理内容を説明する。
サーバ1の制御部11は、シミュレーションモデル141に設定するパラメータの設定入力を受け付ける(ステップS11)。制御部11は、入力されたパラメータをシミュレーションモデル141に設定してシミュレーションを実行し、熱源システム4に不具合がない正常運転状態、及び熱源システム4に各種類の不具合がそれぞれ発生している状態の運転データを生成する(ステップS12)。すなわち、制御部11は、各ラベルFx(x=0、1、2…)に対応する運転データのシミュレーション計算を行う。運転データは、熱源システム4から計測可能な複数のデータ項目から成るパラメータ群であって、冷媒の出入口温度、流量、圧力などのほか、消費電力、供給熱量など、熱源システム4で消費、又は熱源システム4から供給されるエネルギー量に関する指標値を含む。
【0060】
制御部11は、生成した所定期間分の各ラベルFxの運転データを、当該所定期間を区分した複数の期間それぞれに対応して区分する(ステップS13)。制御部11は、各期間の運転データを単位期間(例えば24時間)毎に分割し、分割した各運転データを、時間軸を一方の軸とし、運転データを構成する各データ項目を他方の軸として、各時間(時刻)及びデータ項目に対応するパラメータの高低を濃淡等で表現した画像に変換する(ステップS14)。
【0061】
制御部11は、ステップS12で生成した運転データを訓練データとして、熱源システム4の運転データを入力とし、各種類の不具合それぞれの特徴が運転データに表れている度合いを示す診断確率を出力とする診断モデル142を生成する(ステップS15)。具体的には上述の如く、制御部11は、単位期間毎に変換した画像を入力として、各ラベルFxの診断確率を出力とするCNNを診断モデル142として生成する。制御部11は、ステップS14で変換した画像を診断モデル142に入力し、各ラベルFxの診断確率を出力として取得する。制御部11は、取得した診断確率を正解のラベルFxと比較し、ニューロン間の重みを最適化する。これにより制御部11は、診断モデル142を生成する。
【0062】
この場合に制御部11は、ステップS13で区分した各期間の画像をそれぞれ別々の弱識別器(CNN)に与え、複数の弱識別器を生成する。サーバ1は、複数の弱識別器と、各弱識別器から出力される診断確率の平均値を算出する出力層とから成る診断モデル142を生成する。
【0063】
制御部11は、ステップS11の計算した、正常運転状態でのエネルギー量に関する指標値と、各種類の不具合が生じている状態の指標値とに基づき、各不具合が生じた場合の指標値の変化率を算出する(ステップS16)。制御部11は、算出した変化率に基づき、熱源システム4の運転状態に与える影響が大きい重要不具合を特定する(ステップS17)。制御部11は一連の処理を終了する。
【0064】
図9は、熱源システム4の不具合診断処理の手順を示すフローチャートである。図9に基づき、診断対象である熱源システム4の不具合を診断する際の処理内容を説明する。
サーバ1の制御部11は、診断対象である熱源システム4の運転データを取得する(ステップS31)。具体的には、制御部11は、直近の所定期間(例えば1年間)の運転データを運転DB143から読み出す。制御部11は、取得した運転データを単位期間(24時間)毎に分割し、画像に変換する(ステップS32)。
【0065】
制御部11は、変換した画像を診断モデル142に入力し、各種類の不具合の特徴が運転データに表れている度合いを示す診断確率を算出する(ステップS33)。具体的には、制御部11は、各単位期間(24時間)の運転データを変換した各画像を診断モデル142に順次入力して診断確率を算出し、所定期間(1年間)に亘る診断確率の時系列データを生成する。
【0066】
また、制御部11は、ステップS31で取得した運転データに含まれるエネルギー量の指標値と、熱源システム4の正常運転状態での指標値とに基づき、熱源システム4におけるエネルギー量の損失に相当する指標値の差分値を算出する(ステップS34)。具体的には、制御部11は、ステップS31で取得した運転データが示す指標値と、正常運転状態での指標値との差分値を単位期間毎に算出して、上記の所定期間に亘る差分値の時系列データを生成する。
【0067】
制御部11は、ステップS33で算出した診断確率と、ステップS34で算出した差分値とに基づき、診断対象とした熱源システム4の修繕箇所を決定する(ステップS35)。具体的には、制御部11は、ステップS33で生成した診断確率の時系列データと、ステップS34で生成した差分値の時系列データとから、修繕箇所及び時期を決定する。例えば制御部11は、エネルギー量に関する指標値の差分値が閾値以上である時点(日付)を特定する。制御部11は、当該時点に対応する各不具合の診断確率から、ステップS17で特定した重要不具合の内、診断確率が閾値以上の不具合を特定する。制御部11はラベルDB144を参照して、特定した不具合に対応する箇所を修繕箇所に決定する。また、制御部11は、上記で特定した時点に応じて、修繕箇所を修繕すべき時期を決定する。制御部11は、ステップS33で算出した診断確率、ステップS34で算出した差分値、ステップS35で決定した修繕箇所及び時期等を含む診断結果を端末2に通知し(ステップS36)、一連の処理を終了する。
【0068】
なお、上記ではシミュレーションにより訓練データを生成して診断モデル142の学習に用いることとしたが、訓練データは実際の診断モデル142から計測した運転データであってもよい。
【0069】
以上より、本実施の形態1によれば、診断モデル142から出力される診断確率によって熱源システム4に生じる不具合を把握すると共に、熱源システム4で消費又は供給されるエネルギー量の損失を把握して不具合診断を行う。これにより、単に熱源システム4の不具合を検知できるだけでなく、修繕すべきかどうかを定量的に評価することができ、不具合診断を好適に実施することができる
【0070】
また、本実施の形態1によれば、所定期間に亘る運転データから診断確率及び指標値に関する時系列データを生成し、修繕時期を決定する。これにより、修繕箇所を何時のタイミングで修繕すべきか、ユーザに提示することができる。
【0071】
また、本実施の形態1によれば、正常運転状態での運転データとの差分を取って入力用の運転データとすることで、不具合の検出精度を高めることができる。
【0072】
また、本実施の形態1によれば、重要不具合を予め特定し、当該重要不具合から修繕すべき不具合を特定するようにすることで、熱源システム4の修繕をより好適に支援することができる。
【0073】
また、本実施の形態1によれば、アンサンブル学習を行って複数の弱識別器から成る診断モデル142を生成することで、不具合の識別精度をより高めることができる。
【0074】
(変形例)
実施の形態1では、修繕箇所を決定する際に、不具合の診断確率と、エネルギー量に関する指標値とを別々に閾値と比較するものとした。一方で、両者を組み合わせて、各種類の不具合に起因するエネルギー量の損失を不具合毎に推定してもよい。
【0075】
図10は、変形例に係る修繕箇所の決定処理を説明するための説明図である。図10では、各不具合の診断確率と、エネルギー量に関する指標値の正常運転状態との差分値(熱源システム4全体でのエネルギー量の損失に相当)とを乗算して、不具合毎にエネルギー量の損失を推定する様子を概念的に図示している。
【0076】
例えばサーバ1は、重要不具合に該当する一又は複数のラベルFxの診断確率と、正常運転状態との差分値とを各時点について乗算し、各重要不具合に起因するエネルギー量の損失に相当する推定値を算出する。これにより、図10下側に示すように、熱源システム4全体でのエネルギー量の損失に占める、各重要不具合による損失が時系列で計算される。サーバ1は、各重要不具合による損失に相当する推定値を閾値と比較し、修繕すべき重要不具合を特定して修繕箇所を決定する。サーバ1は、不具合毎にエネルギー量の損失を評価した図10の下側の時系列データを端末2に通知して表示させ、決定した修繕箇所をユーザに提示する。
【0077】
このように、サーバ1は、各不具合の診断確率、及び熱源システム4全体のエネルギー量に関する指標値(の差分値)を組み合わせて、エネルギー量の損失を不具合毎に推定し、推定値に基づいて修繕箇所を決定してもよい。これにより、熱源システム4の損失を不具合毎に可視化し、修繕すべき箇所を好適に提示することができる。
【0078】
(実施の形態2)
実施の形態1では、不具合の有無及び種類を示すラベルFxを診断モデル142に学習させた。本実施の形態では、不具合の種類だけではなく、不具合の程度、及び複数種類の不具合の同時発生を診断モデル142に学習させる形態について述べる。なお、実施の形態1と重複する内容については同一の符号を付して説明を省略する。
【0079】
図11は、実施の形態2に係るラベルDB144のレコードレイアウトの一例を示す説明図である。本実施の形態に係るラベルDB144は、不具合の有無及び種類を表すラベルF0、F1、F2、F3…以外に、不具合の程度を表現したラベルF1’、F2’、F3’…、及び複数種類の不具合が同時に発生していることを表現したラベルF1+F2、F1+F3、F1+F2+F3…を記憶している。ラベルF1’、F2’、F3’…はそれぞれ、ラベルF1、F2、F3…よりも不具合の程度が強いことを表す。ラベルF1+F2、F1+F3、F1+F2+F3…はそれぞれ、ラベルF1及びF2、ラベルF1及びF3、ラベルF1、F2及びF3…の不具合が同時に発生していることを表す。このように、本実施の形態では、不具合の種類及び程度を示すラベルF1’、F2’、F3’ …と、同時に発生している複数の不具合の種類を示すラベルF1+F2、F1+F3、F1+F2+F3…とが用意されている。
【0080】
サーバ1は、シミュレーションモデル141を用いて運転データを生成する際に、ラベルF0、F1、F2、F3…のほかに、ラベルF1’、F2’、F3’…、及びラベルF1+F2、F1+F3、F1+F2+F3…にそれぞれ対応する運転データを生成する。ラベルF1’、F2’、F3’…の運転データを生成する場合、サーバ1は、不具合の程度が強いことを再現するため、ラベルF1、F2、F3…よりも圧力損失や冷凍機の性能といった規定値の変更幅を大きくしてシミュレーションを実行し、運転データを生成する。ラベルF1+F2、F1+F3、F1+F2+F3…の運転データを生成する場合、サーバ1は、ラベルを構成する各不具合に応じて規定値を変更し、シミュレーションを行って運転データを生成する。
【0081】
サーバ1は、各ラベルの運転データを訓練データとして学習を行い、各ラベルの診断確率を出力する診断モデル142を生成する。これにより、サーバ1は、不具合の種類だけでなく、不具合の程度、及び同時発生を診断可能なモデルを構築する。診断対象の熱源システム4について不具合診断を行う場合、サーバ1は、運転データから上記の各ラベルの診断確率を算出する。
【0082】
診断確率から修繕箇所を決定する場合、サーバ1は、上記のラベルの種類に応じて修繕箇所や時期を決定してもよい。例えば不具合の程度が強いラベルF1’、F2’、F3’…については、ラベルF1、F2、F3…よりも閾値を小さく設定して検出感度を高めてもよい。また、複数種類の不具合が同時に発生しているラベルF1+F2、F1+F3、F1+F2+F3…についても、多数の箇所を修繕する必要があるため、同様に閾値を小さく設定して検出精度を高めてもよい。修繕時期についても同様に、ラベルF1’、F2’、F3’…及びラベルF1+F2、F1+F3、F1+F2+F3…については、ラベルF1、F2、F3…よりも修繕時期を早めてもよい。
【0083】
図12は、実施の形態2に係る診断モデル142の生成処理の手順を示すフローチャートである。シミュレーション計算のためのパラメータの設定入力を受け付けた後(ステップS11)、サーバ1は以下の処理を実行する。
サーバ1の制御部11は、シミュレーションモデル141に基づくシミュレーションを実行し、熱源システム4の運転データを生成する(ステップS201)。本実施の形態で制御部11は、上述の如く、不具合の有無及び種類を表すラベルFxのシミュレーションを行うほかに、ラベルFxよりも不具合の程度が強いことを表すラベルFx’のシミュレーション、及び複数の不具合が同時に発生している場合のシミュレーションを行う。制御部11は、各ラベルに応じた運転条件のパラメータを設定し、運転データを計算する。制御部11は処理をステップS13に移行する。
【0084】
ステップS14での処理を実行後、制御部11は、シミュレーションで計算した各ラベルの運転データを訓練データとして、診断モデル142を生成する(ステップS202)。すなわち、制御部11は、ラベルFxの運転データのほか、不具合の程度が強いことを表すラベルFx’の運転データ、及び複数の不具合が同時に発生している場合の運転データを訓練用の運転データに用いて、不具合の種類のほか、不具合の程度、及び同時発生を学習させた診断モデル142を生成する。制御部11は処理をステップS16に移行する。
【0085】
図13は、実施の形態2に係る熱源システムの不具合診断処理の手順を示すフローチャートである。ステップS32の処理を実行後、サーバ1は以下の処理を実行する。
サーバ1の制御部11は、診断対象である熱源システム4の運転データから、診断モデル142に基づいて診断確率を算出する(ステップS221)。本実施の形態で制御部11は、上述の如く、不具合の種類のほかに、不具合の程度、及び同時発生を一つのラベルと見なして、各ラベルに対応する診断確率を算出する。制御部11は処理をステップS34に移行する。
【0086】
ステップS34の処理を実行後、制御部11は、ステップS221で算出した診断確率と、及びエネルギー量に関する指標値の正常状態との差分値に基づいて修繕箇所を決定する(ステップS222)。ここで制御部11は、不具合の種類のほかに程度、同時発生を表す各ラベルの診断確率を用いて修繕箇所を決定する。制御部11は処理をステップS36に移行する。
【0087】
以上より、本実施の形態2によれば、不具合の種類だけでなく、不具合の程度や同時発生を診断モデル142に学習させることで、熱源システム4の状態をより詳細に診断することができる。
【0088】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0089】
1 サーバ(情報処理装置)
11 制御部
12 主記憶部
13 通信部
14 補助記憶部
P プログラム
141 シミュレーションモデル
142 診断モデル
143 運転DB
144 ラベルDB
2 端末
3 監視装置
4 熱源システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13