(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】研磨液
(51)【国際特許分類】
B24B 37/00 20120101AFI20240716BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20240716BHJP
B24B 37/24 20120101ALI20240716BHJP
【FI】
B24B37/00 H
H01L21/304 622C
B24B37/24 Z
(21)【出願番号】P 2020129207
(22)【出願日】2020-07-30
【審査請求日】2023-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【氏名又は名称】岡野 貴之
(72)【発明者】
【氏名】酒井 歩
(72)【発明者】
【氏名】有福 法久
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 武志
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-093655(JP,A)
【文献】特開2014-209623(JP,A)
【文献】特開2004-022804(JP,A)
【文献】特開2002-164306(JP,A)
【文献】特開2018-032735(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B37/00-37/34
H01L21/304;21/463
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パッド中に砥粒が固定された固定砥粒研磨パッドを使用して、ウェーハの一方の面を研磨する際に使用される研磨液であって、
加水分解によりアルカリ性を示し金属を含有していない有機塩と、金属を含有していない有機アルカリ
又はアンモニアと、が溶解しており、砥粒が含有されて
おらず、且つ、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の陽イオンが含有されていないことを特徴とする研磨液。
【請求項2】
前記有機塩は、強アルカリの陽イオンと弱酸の陰イオンとからなり、
前記有機アルカリは
、アミン、塩基性のアミノ酸のうち1種類以上を含むことを特徴とする請求項1記載の研磨液。
【請求項3】
前記有機塩は、0.50wt%以上であり、
前記有機アルカリは、0.025wt%以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の研磨液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェーハを研磨する際に使用される研磨液に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、パソコン等の電子機器には、デバイスチップが搭載されている。デバイスチップは、例えば、表面側にIC(Integrated Circuit)、LSI(Large Scale Integration)等のデバイスが形成されているシリコン製のウェーハを加工することで製造される。
【0003】
具体的には、まず、研削装置を用いて、ウェーハの裏面側を粗研削し、次いで、同裏面側を仕上げ研削することで、ウェーハを所定の厚さまで薄化する(例えば、特許文献1参照)。通常、研削工程では、被研削面には研削痕(ソーマーク)が残るので、研削工程の後、CMP(Chemical Mechanical Polishing:化学機械研磨)装置を用いて、ウェーハの裏面側を研磨してソーマークを除去する(例えば、特許文献2参照)。研磨工程の後、切削装置を用いて、ウェーハを複数のデバイスチップに分割する。
【0004】
研磨装置の一例(ウェーハの下面側を研磨するフェイスダウン方式)について説明すると、研磨装置は、鉛直方向に略平行な回転軸の周りに回転可能な円形の定盤を有する。定盤の上面には、円盤状の研磨パッドが固定されている。研磨パッドとしては、例えば、砥粒を含有している固定砥粒研磨パッドが用いられる。また、固定砥粒研磨パッドの上方には、研磨液を供給するためのノズルが配置されている。
【0005】
固定砥粒研磨パッドの上方のうちノズルとは異なる領域には、鉛直方向に略平行な回転軸の周りに回転可能であり、ウェーハを吸引保持可能な円盤状のキャリアが配置されている。ウェーハを研磨する際には、まず、キャリアの保持面でウェーハの上面側を保持する。
【0006】
そして、回転している固定砥粒研磨パッドの上面に研磨液を供給すると共に、ウェーハを回転させながら、ウェーハの下面側を固定砥粒研磨パッドの上面に押し付ける。ウェーハの下面側と、研磨液を含んだ固定砥粒研磨パッドの上面側と、の化学的作用及び機械的作用により、ウェーハの下面側は研磨される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2000-288881号公報
【文献】特開平8-99265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
研磨液としては、例えば、加水分解によりアルカリ性を示す無機塩が溶解した水溶液が使用される。しかし、当該無機塩は、通常、一般式:M(OH)n(但し、Mは陽イオンMn+となり、nは1以上の整数である)で示される強アルカリの陽イオンと、弱酸の陰イオンと、から成る。
【0009】
強アルカリの陽イオンとしては、カリウムイオン、ナトリウムイオン等のアルカリ金属の陽イオンや、カルシウムイオン、バリウムイオン等のアルカリ土類金属の陽イオンが、通常用いられる。
【0010】
研磨液が、所定濃度以上の金属イオンを含有している場合、使用後の廃棄処理が複雑になり、また、金属イオンを含有しているが故に研磨液が劇物指定となる場合、取り扱いが容易ではなくなる。それゆえ、金属イオンを含有していない研磨液を使用したいというユーザーの要望がある。
【0011】
そこで、加水分解によりアルカリ性を示す金属含有の無機塩に代えて、金属を含有しておらず、加水分解によりアルカリ性を示す有機塩を使用することが考えられる。しかし、当該有機塩のみが溶解した水溶液は研磨レートが比較的低く、所望の研磨レートを実現できないことが懸念される。
【0012】
本発明は係る問題点に鑑みてなされたものであり、加水分解によりアルカリ性を示す有機塩のみが溶解した水溶液を研磨液として用いた場合に比べて研磨レートを向上させることができ、且つ、金属を含有しない研磨液を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様によれば、パッド中に砥粒が固定された固定砥粒研磨パッドを使用して、ウェーハの一方の面を研磨する際に使用される研磨液であって、加水分解によりアルカリ性を示し金属を含有していない有機塩と、金属を含有していない有機アルカリ又はアンモニアと、が溶解しており、砥粒が含有されておらず、且つ、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の陽イオンが含有されていない研磨液が提供される。
【0014】
好ましくは、前記有機塩は、強アルカリの陽イオンと弱酸の陰イオンとからなり、前記有機アルカリは、アミン、塩基性のアミノ酸のうち1種類以上を含む。
【0015】
また、好ましくは、前記有機塩は、0.50wt%以上であり、前記有機アルカリは、0.025wt%以上である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様に係る研磨液には、加水分解によりアルカリ性を示し金属を含有していない有機塩と、金属を含有していない有機アルカリと、が溶解している。有機塩及び有機アルカリの作用により、加水分解によりアルカリ性を示す有機塩のみが溶解した水溶液を研磨液として用いた場合に比べて、研磨レートを向上させることができる。更に、当該研磨液には砥粒が含有されていないので、遊離砥粒を使用する場合の様に、装置内部や被加工物が砥粒で汚れないという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】炭酸グアニジンの濃度を種々の値にした場合における研磨レートを示すグラフである。
【
図3】有機塩に対して有機アルカリの重量比を変えた場合の研磨レートを示すグラフである。
【
図4】5分間研磨を10回繰り返したときの研磨レートの推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
添付図面を参照して、本発明の一態様に係る実施形態について説明する。まず、本実施形態で使用する研磨液について説明する。なお、本実施形態においては、研磨パッド中に砥粒が固定された固定砥粒研磨パッドを用いることを前提とする。それゆえ、固定砥粒研磨パッド用の研磨液としては、砥粒が含有されていないものを使用する。
【0019】
ところで、金属を含有していない研磨液を使用するためには、加水分解によりアルカリ性を示し金属を含有していない有機塩のみが溶解した研磨液を用いることが考えられるが、当該研磨液には、研磨レートが比較的低いという短所がある。
【0020】
しかし、当該研磨液を用いた場合、研磨レートは比較的低いものの、研磨屑による固定砥粒研磨パッドの目詰まりが起き難いので、研磨レート(単位時間当たりに除去されるウェーハの厚さ)の経時的な低下が生じ難いという利点がある。
【0021】
一方で、加水分解によりアルカリ性を示し金属を含有していない有機塩のみが溶解した研磨液に比べてケミカルエッチング効果を高くするために、当該有機塩のみが溶解した研磨液に代えて、有機アルカリが溶解した研磨液を用いることが考えられる。
【0022】
しかし、固定砥粒研磨パッド用の研磨液として、砥粒を含まず、金属を含有していない有機アルカリのみが溶解したものを用いた場合、研磨屑が固定砥粒研磨パッドの気孔を塞ぐことにより、研磨液をパッド中に保持する固定砥粒研磨パッドの保持性能が低下する。それゆえ、研磨レートの経時的な低下が生じやすい。
【0023】
以上を鑑みて、本件の出願人は、上述の有機塩及び有機アルカリを併用することで、有機塩の短所を有機アルカリの長所で補い、且つ、有機アルカリの短所を有機塩の長所で補うことができるのではないかと考えた。
【0024】
つまり、有機塩及び有機アルカリを併用することで、有機塩のみを用いた場合に比べて研磨レートが高くなり、且つ、有機アルカリのみを用いた場合に比べて研磨レートの経時的な低下が生じ難くなると考えた。
【0025】
(研磨液)本実施形態の研磨液は、純水中で加水分解によりアルカリ性を示す有機塩と、有機アルカリ又はアンモニアとが溶解しており、砥粒が含有されていない。なお、当該有機塩も当該有機アルカリも、金属を含有していない。詳しくは、後述するが、研磨液24において、有機塩を0.50wt%以上とし、且つ、有機アルカリを0.025wt%以上とすることが好ましい。
【0026】
当該有機塩は、水溶性の塩であり、金属を含まない強アルカリの陽イオンと、弱酸の陰イオンと、から成る。強アルカリの陽イオンとしては、例えば、窒素原子を含む有機塩基が使用される。窒素原子を含む有機塩基としては、例えば、グアニジン(guanidine)又はその誘導体が使用される。また、弱酸の陰イオンとしては、炭酸、リン酸、シュウ酸、酢酸、ギ酸、ケイ酸等の陰イオンが好ましい。
【0027】
有機アルカリは、水溶液中においてアルカリ性を示す、アミン(amine)、及び、塩基性アミノ酸のうち1種類以上を含む。塩基性アミノ酸としては、例えば、アルギニン(arginine)、ヒスチジン(histidine)、リシン(lysine)を用いることができる。
【0028】
アミンとしては、例えば、脂肪族アミン、複素環アミン等の水溶性有機化合物が用いられる。脂肪族アミンとしては、エチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミン、ペンタンジアミン、ヘキサンジアミン、ジエチレントリアミン、及び、トリス(2-アミノエチル)アミン等を用いることができる。また、複素環アミンとしては、ピペラジン、イミダゾール等を用いることができる。
【0029】
次いで、研磨に最適な有機塩及び有機アルカリの重量比を特定するための実験について説明する。当該実験では、デバイス等が形成されていないシリコン製のウェーハ(ベアウェーハ:bare wafer)を研磨装置2(
図1参照)で研磨した。ここで、実験で使用した研磨装置2の概要について説明する。
【0030】
図1は、ウェーハ11の上面側を研磨するフェイスアップ方式の研磨装置2の概要を示す断面図である。なお、
図1に示すZ軸方向は、鉛直方向と略平行である。研磨装置2は、円盤状のチャックテーブル4を有する。
【0031】
チャックテーブル4の下部には、Z軸方向に略平行に配置された円柱状の回転軸(不図示)の上端部が連結されている。回転軸の下端部には、モーター等の回転駆動源(不図示)の出力軸が連結されている。回転駆動源を動作させると、チャックテーブル4は、Z軸方向に平行な回転軸の周りで、所定方向に回転する。
【0032】
チャックテーブル4は、ステンレス鋼等の金属で形成された円盤状の枠体6を有する。枠体6の上部には、円盤状の凹部が形成されており、この凹部には多孔質セラミックス等で形成された円盤状のポーラス板8が固定されている。
【0033】
ポーラス板8の上面と、枠体6の上面と、は、面一となっており、略平坦な保持面4aを形成している。ポーラス板8の下方には、枠体6の径方向に沿う態様で複数の第1流路6aが形成されている。なお、
図1では、1つの第1流路6aを示す。
【0034】
更に、枠体6の径方向の中心部には、Z軸方向に沿う態様で第2流路6bが形成されている。第2流路6bの上端部は、第1流路6aに接続しており、第2流路6bの下端部は、エジェクタ等の吸引源(不図示)に接続されている。吸引源を動作させれば、ポーラス板8の上面には負圧が伝達される。
【0035】
保持面4a上に配置されたウェーハ11は、保持面4aに生じる負圧により、吸引保持される。保持面4aの上方には、研磨ユニット10が配置されている。研磨ユニット10は、円筒状のスピンドルハウジング(不図示)を有する。
【0036】
スピンドルハウジング内には、円柱状のスピンドル12が回転可能な態様で収容されている。スピンドル12の長手方向は、Z軸方向と略平行に配置されている。スピンドル12の上端部には、スピンドル12を回転させるモータ(不図示)が連結されている。
【0037】
スピンドル12の下端部には、円盤状のマウント14の上面の中心部が連結されている。マウント14は、ウェーハ11の径よりも大きな径を有する。マウント14の下面には、マウント14と略同径の円盤状の研磨ホイール16が装着されている。
【0038】
研磨ホイール16は、マウント14の下面に連結された円盤状のホイール基台18を有する。ホイール基台18は、アルミニウム又はステンレス鋼等の金属で形成されている。ホイール基台18の下面には、ホイール基台18と略同径の研磨パッド20が固定されている。
【0039】
研磨パッド20は、パッド中に砥粒が固定された固定砥粒研磨パッドである。研磨パッド20は、例えば、μmオーダーのサイズの砥粒が分散されたウレタン溶液を、ポリエステル製の不織布に含侵させた後、乾燥させることで製造できる。
【0040】
砥粒は、シリカ(酸化シリコン)、炭化ケイ素、cBN(cubic boron nitride)、ダイヤモンド、金属酸化物微粒子等の材料で形成されている。砥粒に使用される金属酸化物微粒子としては、セリア(酸化セリウム)、ジルコニア(酸化ジルコニウム)、アルミナ(酸化アルミニウム)等が挙げられる。
【0041】
研磨パッド20、ホイール基台18、マウント14及びスピンドル12の径方向の中心位置は、略一致しており、これらの中心位置を貫通するように、円柱状の貫通孔22が形成されている。貫通孔22の上端部には、研磨液供給源(不図示)の配管(不図示)が接続されている。
【0042】
研磨液供給源は、配管、送液ポンプ、研磨液24の貯留槽等を備える。研磨液供給源は、貫通孔22を介して研磨パッド20の貫通開口部へ、研磨液24を供給する。なお、研磨液24は、砥粒を含有しない。
【0043】
砥粒を含有しない研磨液24を使用することで、砥粒(即ち、遊離砥粒)を含有する研磨液を使用する場合と異なり、研磨装置2の内部や、被加工物であるウェーハ11が砥粒で汚れることを防止できるという利点がある。
【0044】
なお、スピンドルハウジングには、Z軸方向移動ユニット(不図示)が連結されている。Z軸方向移動ユニットで研磨ユニット10を下方へ押すことにより、研磨パッド20は、保持面4aで吸引保持されたウェーハ11を、所定圧力で下方に押圧できる。
【0045】
ウェーハ11を研磨する際には、まず、保持面4aでウェーハ11を吸引保持する。そして、チャックテーブル4を所定方向に回転させると共に、スピンドル12を所定方向に回転させる。
【0046】
このとき、研磨液供給源から研磨液24を供給しながら、研磨パッド20を所定の圧力で下方に押圧すると、ウェーハ11の上面(一方の面)側と、研磨液24を含む研磨パッド20の下面側と、の化学的作用及び機械的作用により、ウェーハ11の上面側は研磨される。
【0047】
次に、実験における有機塩の最適濃度について説明する。
図2は、炭酸グアニジンの濃度を種々の値(0.10wt%、0.25wt%、0.50wt%、0.75wt%及び1.00wt%)にした場合における、研磨レート(μm/分)を示すグラフである。棒グラフは、
図2の縦軸の左側に位置する研磨レート(μm/分)を示す。
【0048】
研磨パッド20の砥粒には、シリカ製の砥粒を用いた。実験において、スピンドル12の回転数を500rpmとし、チャックテーブル4の回転数を505rpmとした。また、ウェーハ11への押圧力は、25kPaとした。
【0049】
研磨液としては、砥粒が含有されておらず、且つ、粉末状の炭酸グアニジンを純水に溶解させた炭酸グアニジン水溶液を、研磨液供給源から0.15L/分の流量で供給した。また、研磨時間は、300秒(即ち、5分)とした。
【0050】
図2に示す様に、炭酸グアニジンの濃度が0.50wt%以上になると、研磨レートは略一定となった。それゆえ、炭酸グアニジンの濃度は、0.50wt%以上とすることが好ましい。但し、0.50wt%以上とする場合に、炭酸グアニジンの濃度を高くするほど薬品コストが高くなる。
【0051】
それゆえ、0.10wt%以上1.00wt%以下の範囲では、薬品コストを抑えつつ、且つ、研磨レートを高くするためには、炭酸グアニジンの濃度を0.50wt%以上の範囲で0.50wt%に近付ける方が好ましい。
【0052】
この結果を踏まえ、次に、有機塩(炭酸グアニジン0.50wt%)と、種々の濃度の有機アルカリ(1,3-プロパンジアミン(以下、単にプロパンジアミンと記す))と、を有する研磨液24を作成し、有機アルカリの濃度に対する研磨レートの違いを調べた。
【0053】
図3は、有機塩(炭酸グアニジン)に対して有機アルカリ(プロパンジアミン)の重量%を変えた場合の研磨レートを示すグラフである。横軸は、下記の表1に示す様に研磨液の種類を示し、縦軸は、5分間研磨した場合の研磨レート(μm/分)を示す。
【0054】
研磨パッド20の砥粒には、シリカ製の砥粒を用いた。比較例1及び比較例2、並びに、実験例1から実験例6では、スピンドル12の回転数を500rpmとし、チャックテーブル4の回転数を505rpmとした。また、ウェーハ11への押圧力は、25kPaとした。
【0055】
比較例1は、砥粒が含有されておらず、且つ、0.50wt%の炭酸グアニジンのみが純水に溶解したアルカリ性水溶液を、研磨液供給源から0.15L/分の流量で供給し、ウェーハ11を研磨した場合の実験結果である。
【0056】
比較例2は、砥粒が含有されておらず、且つ、0.10wt%のプロパンジアミンのみが純水に溶解したアルカリ性水溶液を、研磨液供給源から0.15L/分の流量で供給し、ウェーハ11を研磨した場合の実験結果である。
【0057】
実験例1から6は、砥粒が含有されておらず、且つ、炭酸グアニジンと、液体のプロパンジアミンと、が純水に溶解したアルカリ性水溶液(研磨液24)を、研磨液供給源から0.15L/分の流量で供給し、ウェーハ11を研磨した場合の実験結果である。なお、実験例1から6における研磨液24のpHは、10以上14以下であった。
【0058】
比較例1及び比較例2、並びに、実験例1から実験例6おける、炭酸グアニジンの濃度(wt%)と、プロパンジアミンの濃度(wt%)と、5分間研磨した場合の研磨レート(μm/分)と、を表1に示す。
【0059】
【0060】
実験例2から実験例6の研磨レートは、比較例1の研磨レートに比べて高い。上述の
図2に示す実験では、炭酸グアニジンの濃度を0.50wt%以上としても研磨レートが略一定となったことを考慮すれば、有機塩と、所定濃度以上の有機アルカリと、の作用により、加水分解によりアルカリ性を示す有機塩のみが溶解した水溶液を研磨液として用いた場合に比べて、研磨レートを向上させることができると言える。
【0061】
また、実験例2から実験例6の研磨レートは、比較例2の研磨レートよりも高かった。それゆえ、プロパンジアミンの濃度を、0.025wt%以上とすることが好ましい。
【0062】
但し、プロパンジアミンの濃度上昇に伴い研磨レートは上昇する傾向にあるので、有機塩(炭酸グアニジン)を0.50wt%以上とし、且つ、有機アルカリ(プロパンジアミン)を0.050wt%以上としてもよい。
【0063】
また、有機塩を0.50wt%以上とし、且つ、有機アルカリを0.10wt%以上としてもよく、有機塩を0.50wt%以上とし、且つ、有機アルカリを0.25wt%以上としてもよい。
【0064】
プロパンジアミンの濃度上昇に伴い研磨レートは上昇する傾向にあったが、実験例4から実験例6では、研磨レートの明確な上昇傾向が無くなった。
【0065】
それゆえ、有機塩(炭酸グアニジン)を0.50wt%以上とし、且つ、有機アルカリ(プロパンジアミン)の濃度を0.10wt%以上とすることがより好ましい。特に、薬品コストを下げたり、研磨レートを高めたりするためには、有機アルカリの濃度を、0.10wt%以上の範囲で0.10wt%に近づける方が望ましい。
【0066】
次に、有機塩及び有機アルカリを用いることで、有機アルカリのみを用いた場合に比べて研磨レートの経時的な低下が生じ難くなったかどうかを検討する。
図4は、5分間研磨を10回繰り返したときの研磨レートの推移を示す折れ線グラフである。
【0067】
縦軸は研磨レート(μm/分)を示し、横軸は回数(1回から10回)を示す。なお、1回の研磨時間は5分間とした。グラフA1(
図4において実線で示す)は、炭酸グアニジンの濃度を0.50wt%とした場合の10回の研磨における研磨レートの推移を示す。
【0068】
また、グラフA2(
図4において破線で示す)は、プロパンジアミンの濃度を0.10wt%とした場合の10回の研磨における研磨レートの推移を示す。
【0069】
更に、グラフA3(
図4において一点鎖線で示す)は、炭酸グアニジンの濃度を0.50wt%とし、且つ、プロパンジアミンの濃度を0.10wt%とした場合の10回の研磨における研磨レートの推移を示す。
【0070】
各回では、
図3の実験と同様の条件(スピンドル12の回転数500rpm、チャックテーブル4の回転数505rpm、ウェーハ11への押圧力25kPa、研磨液の供給量0.15L/分)でウェーハ11を研磨した。
図4の情報と重複するが、グラフA1からA3の研磨レートの値を表2に示す。
【0071】
【0072】
図4及び表2から明らかな様に、グラフA1(炭酸グアニジン0.50wt%)の場合、研磨レートは、グラフA2及びA3に比べて低いものの、10回(即ち、5分間×10回=50分間)の研磨で、研磨レートが低下することは無かった。
【0073】
また、出願人は、炭酸グアニジン水溶液を研磨液として用いた場合、使用後の研磨パッド20に付着している研磨屑が非常に少ないことを、使用後の研磨パッド20を観察することで確認している。
【0074】
研磨屑の付着は、研磨レートと密接に関連していると考えられ、グラフA1において研磨レートの経時的な低下が生じていないのは、研磨パッド20の目詰まりが起き難いからであると考えられる。
【0075】
これに対して、グラフA2(プロパンジアミン0.10wt%)の場合、研磨レートは、グラフA1に比べて概ね高いものの、6回目から8回目の研磨で、研磨レートが略一定となっており、9回目及び10回目では、6回目から8回目に比べて、研磨レートが低下した。即ち、回数を重ねると、研磨レートが低下する傾向が確認された。
【0076】
グラフA2に示す研磨レートの経時的な低下は、上述の様に、研磨屑が研磨パッド20の気孔を塞ぐことにより、研磨パッド20が研磨液をパッド中に保持する保持性能が低下することが原因であると考えられる。
【0077】
実際に、出願人は、プロパンジアミン水溶液を研磨液として用いた場合、使用後の研磨パッド20に付着している研磨屑が、炭酸グアニジン水溶液を研磨液として用いた場合に比べて、非常に多いことを確認している。
【0078】
グラフA3(炭酸グアニジン0.50wt%、及び、プロパンジアミン0.10wt%)の場合、研磨レートはグラフA2に比べて常に高く、且つ、9回目の研磨を除いては、研磨レートが低下することは無かった。しかも、10回目の研磨レートは、9回目よりも上昇し、7回目及び8回目の研磨レートと同じ値に戻った。
【0079】
この様に、有機塩及び有機アルカリを用いることで、有機塩のみを用いた場合に比べて研磨レートを高くし、且つ、有機アルカリのみを用いた場合に比べて研磨レートの経時的な低下を抑えることができた。
【0080】
なお、
図4及び表2に示す実験では、有機塩として炭酸グアニジンを用い、有機アルカリとしてプロパンジアミンを用いたが、研磨時に炭酸グアニジンと同様の作用を有すると考えられる他の有機塩と、研磨時にプロパンジアミンと同様の作用を有すると考えられる他の有機アルカリと、を用いた場合も、同様の効果が得られると推察される。
【0081】
その他、上記実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0082】
2 :研磨装置
4 :チャックテーブル
4a :保持面
6 :枠体
6a :第1流路
6b :第2流路
8 :ポーラス板
10 :研磨ユニット
11 :ウェーハ
12 :スピンドル
14 :マウント
16 :研磨ホイール
18 :ホイール基台
20 :研磨パッド
22 :貫通孔
24 :研磨液