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特許7520781荷電粒子ビーム走査モジュール、荷電粒子ビーム装置およびコンピュータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】荷電粒子ビーム走査モジュール、荷電粒子ビーム装置およびコンピュータ
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/147 20060101AFI20240716BHJP
   H01J 37/22 20060101ALI20240716BHJP
   G01B 15/04 20060101ALI20240716BHJP
   H01J 37/28 20060101ALN20240716BHJP
【FI】
H01J37/147 B
H01J37/22 502B
H01J37/22 502H
G01B15/04 K
H01J37/28 B
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2021126744
(22)【出願日】2021-08-02
(65)【公開番号】P2023021705
(43)【公開日】2023-02-14
【審査請求日】2024-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】李 ウェン
(72)【発明者】
【氏名】村上 真一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 弘之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 誠
(72)【発明者】
【氏名】森 渉
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-22303(JP,A)
【文献】特開昭62-147310(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00
G01B 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビーム走査モジュールであって、
荷電粒子ビームの走査用デジタル信号を出力する走査コントローラと、
前記走査用デジタル信号を走査用アナログ信号に変換して出力する、DAC回路と、
前記走査用アナログ信号を評価用デジタル信号に変換する、ADC回路と、
を備え、
前記DAC回路が前記走査用デジタル信号をサンプリングするサンプリング周波数は第1周波数であり、
前記ADC回路が前記走査用アナログ信号をサンプリングするサンプリング周波数は前記第1周波数よりも少ない第2周波数であり、
前記走査コントローラは、前記走査用デジタル信号および前記評価用デジタル信号を評価することで、前記DAC回路の出力特性を決定する、
荷電粒子ビーム走査モジュール。
【請求項2】
請求項1に記載の荷電粒子ビーム走査モジュールであって、
前記走査用アナログ信号は、当該荷電粒子ビーム走査モジュールの内部又は外部に備えられる増幅回路で増幅された後に、前記荷電粒子ビームの偏向器に供給される、
荷電粒子ビーム走査モジュール。
【請求項3】
請求項1に記載の荷電粒子ビーム走査モジュールであって、
前記荷電粒子ビーム走査モジュールはサンプルアンドホールド回路を有し、
前記サンプルアンドホールド回路は、前記走査用アナログ信号及びホールド指示信号を、前記第2周波数で受信し、
前記サンプルアンドホールド回路は、前記ホールド指示信号で指定された時点の前記走査用アナログ信号を出力し続け、
前記ADC回路が変換対象とする前記走査用アナログ信号は、前記サンプルアンドホールド回路が出力した信号である、
荷電粒子ビーム走査モジュール。
【請求項4】
請求項1に記載の荷電粒子ビーム走査モジュールであって、
前記走査コントローラは、前記第2周波数と異なる第3周波数で繰り返される前記走査用デジタル信号を生成する、
荷電粒子ビーム走査モジュール。
【請求項5】
請求項1に記載の荷電粒子ビーム走査モジュールであって、
前記走査コントローラは、前記出力特性に基づいて前記走査用アナログ信号を補正し、
前記走査コントローラは、前記DAC回路の出力特性を決定するのと並行して、補正後の走査用アナログ信号を前記ADC回路に出力させる、
荷電粒子ビーム走査モジュール。
【請求項6】
請求項1に記載の荷電粒子ビーム走査モジュールであって、
前記荷電粒子ビーム走査モジュールは、
荷電粒子ビームを試料に照射することに応じて発生する二次電子に関する情報を受信し、
前記二次電子に関する前記情報に基づいて試料画像を生成し、
前記試料画像に基づいて、前記試料に係る寸法を計測し、
前記出力特性に基づいて、前記寸法を補正する、
荷電粒子ビーム走査モジュール。
【請求項7】
請求項1に記載の荷電粒子ビーム走査モジュールであって、
前記出力特性は、互いに直交する第1方向および第2方向のそれぞれについて決定され、
前記荷電粒子ビーム走査モジュールは、
荷電粒子ビームを試料に照射することに応じて発生する二次電子に関する情報を受信し、
前記二次電子に関する前記情報に基づいて試料画像を生成し、
前記第1方向の前記出力特性および前記第2方向の前記出力特性に基づいて、前記試料画像を補正する、
荷電粒子ビーム走査モジュール。
【請求項8】
請求項5に記載の荷電粒子ビーム走査モジュールであって、
前記走査コントローラは、
第1出力特性に基づいて、前記走査用アナログ信号を補正するための補正値を決定し、
前記第1出力特性と、前記第1出力特性より後に決定された第2出力特性との差分を算出し、
前記差分が所定の閾値より大きい場合に、前記第2出力特性に基づいて、前記補正値を更新する、
荷電粒子ビーム走査モジュール。
【請求項9】
荷電粒子ビーム走査モジュールを備える荷電粒子ビーム装置であって、
前記荷電粒子ビーム走査モジュールは、
荷電粒子ビームの走査用デジタル信号を出力する走査コントローラと、
前記走査用デジタル信号を走査用アナログ信号に変換して出力する、DAC回路と、
前記走査用アナログ信号を評価用デジタル信号に変換する、ADC回路と、
を備え、
前記DAC回路が前記走査用デジタル信号をサンプリングするサンプリング周波数は第1周波数であり、
前記ADC回路が前記走査用アナログ信号をサンプリングするサンプリング周波数は前記第1周波数よりも少ない第2周波数であり、
前記走査コントローラは、前記走査用デジタル信号および前記評価用デジタル信号を評価することで、前記DAC回路の出力特性を決定し、
前記荷電粒子ビーム装置は、さらに、
前記荷電粒子ビームを生成する荷電粒子源と、
前記荷電粒子ビームを試料に照射することに応じて発生する二次電子を検出する検出器と、
検出された前記二次電子に基づいて試料画像を生成する、試料画像生成装置と、
を備える、荷電粒子ビーム装置。
【請求項10】
請求項9に記載の荷電粒子ビーム装置であって、
前記走査用アナログ信号は、当該荷電粒子ビーム走査モジュールの内部又は外部に備えられる増幅回路で増幅された後に、前記荷電粒子ビームの偏向器に供給される、
荷電粒子ビーム装置。
【請求項11】
請求項9に記載の荷電粒子ビーム装置であって、
前記荷電粒子ビーム走査モジュールはサンプルアンドホールド回路を有し、
前記サンプルアンドホールド回路は、前記走査用アナログ信号及びホールド指示信号を、前記第2周波数で受信し、
前記サンプルアンドホールド回路は、前記ホールド指示信号で指定された時点の前記走査用アナログ信号を出力し続け、
前記ADC回路が変換対象とする前記走査用アナログ信号は、前記サンプルアンドホールド回路が出力した信号である、
荷電粒子ビーム装置。
【請求項12】
請求項9に記載の荷電粒子ビーム装置であって、
前記走査コントローラは、前記第2周波数と異なる第3周波数で繰り返される前記走査用デジタル信号を生成する、
荷電粒子ビーム装置。
【請求項13】
請求項9に記載の荷電粒子ビーム装置であって、
前記走査コントローラは、前記出力特性に基づいて前記走査用アナログ信号を補正し、
前記走査コントローラは、前記DAC回路の出力特性を決定するのと並行して、補正後の走査用アナログ信号を前記ADC回路に出力させる、
荷電粒子ビーム装置。
【請求項14】
請求項9に記載の荷電粒子ビーム装置であって、
前記荷電粒子ビーム走査モジュールは、
荷電粒子ビームを試料に照射することに応じて発生する二次電子に関する情報を受信し、
前記二次電子に関する前記情報に基づいて試料画像を生成し、
前記試料画像に基づいて、前記試料に係る寸法を計測し、
前記出力特性に基づいて、前記寸法を補正する、
荷電粒子ビーム装置。
【請求項15】
請求項9に記載の荷電粒子ビーム装置であって、
前記出力特性は、互いに直交する第1方向および第2方向のそれぞれについて決定され、
前記荷電粒子ビーム走査モジュールは、
荷電粒子ビームを試料に照射することに応じて発生する二次電子に関する情報を受信し、
前記二次電子に関する前記情報に基づいて試料画像を生成し、
前記第1方向の前記出力特性および前記第2方向の前記出力特性に基づいて、前記試料画像を補正する、
荷電粒子ビーム装置。
【請求項16】
請求項13に記載の荷電粒子ビーム装置であって、
前記走査コントローラは、
第1出力特性に基づいて、前記走査用アナログ信号を補正するための補正値を決定し、
前記第1出力特性と、前記第1出力特性より後に決定された第2出力特性との差分を算出し、
前記差分が所定の閾値より大きい場合に、前記第2出力特性に基づいて、前記補正値を更新する、
荷電粒子ビーム装置。
【請求項17】
請求項9に記載の荷電粒子ビーム装置であって、
前記出力特性は、互いに直交する第1方向および第2方向のそれぞれについて決定され、
前記試料画像生成装置は、
前記第1方向の前記出力特性および前記第2方向の前記出力特性に基づいて、前記試料画像の所定位置における、前記第1方向の位置ずれ情報および前記第2方向の位置ずれ情報を生成し、
前記第1方向の前記位置ずれ情報および前記第2方向の前記位置ずれ情報を出力し、
前記試料画像を出力する、
荷電粒子ビーム装置。
【請求項18】
荷電粒子ビーム装置と通信可能なコンピュータであって、
前記荷電粒子ビーム装置は、荷電粒子ビーム走査モジュールを備え、
前記荷電粒子ビーム走査モジュールは、
荷電粒子ビームの走査用デジタル信号を出力する走査コントローラと、
前記走査用デジタル信号を走査用アナログ信号に変換して出力する、DAC回路と、
前記走査用アナログ信号を評価用デジタル信号に変換する、ADC回路と、
を備え、
前記DAC回路が前記走査用デジタル信号をサンプリングするサンプリング周波数は第1周波数であり、
前記ADC回路が前記走査用アナログ信号をサンプリングするサンプリング周波数は前記第1周波数よりも少ない第2周波数であり、
前記走査コントローラは、前記走査用デジタル信号および前記評価用デジタル信号を評価することで、前記DAC回路の出力特性を決定し、
前記荷電粒子ビーム装置は、さらに、
前記荷電粒子ビームを生成する荷電粒子源と、
前記荷電粒子ビームを試料に照射することに応じて発生する二次電子を検出する検出器と、
検出された前記二次電子に基づいて試料画像を生成する、試料画像生成装置と、
を備え、
前記コンピュータは、情報を格納する記憶媒体と、プロセッサとを備え、
前記プロセッサは、前記荷電粒子ビーム装置から、前記試料画像と、前記出力特性を表す情報とを受信する、
コンピュータ。
【請求項19】
請求項18に記載のコンピュータであって、
前記プロセッサは、前記出力特性に基づいて前記試料画像を補正する、
コンピュータ。
【請求項20】
請求項18に記載のコンピュータであって、
前記出力特性は、互いに直交する第1方向および第2方向のそれぞれについて決定され、
前記出力特性を表す前記情報は、前記第1方向の前記出力特性を表す情報および前記第2方向の前記出力特性を表す情報を含む、
コンピュータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビーム走査モジュール、荷電粒子ビーム装置およびコンピュータに関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子ビーム装置は、試料に荷電粒子を照射し、二次電子を検出することにより試料に関する情報を取得する装置である。荷電粒子ビーム装置は、試料に対して荷電粒子ビームを走査するための荷電粒子ビーム走査モジュールを備える。
【0003】
荷電粒子ビーム走査モジュールでは、走査コントローラからのデジタル信号がDAC回路(デジタルアナログ変換回路)でアナログ信号に変換され、このアナログ信号に応じて荷電粒子ビームが偏向されて試料の所望の位置に照射される。
【0004】
DAC回路における変換の際に、誤差が発生する場合がある。この誤差は、積分非直線性誤差(以下「INL誤差」と略記する)を含む。INL誤差は、たとえば経時変化、温度変化、その他の環境変化、等によって発生する。INL誤差は、荷電粒子ビームの走査における、時間と照射位置との関係の直線性に影響し、たとえば画像上における寸法の変化(伸縮等)として表れる。このため、試料の位置によって寸法の計測誤差が異なり、画像内での均一性が損なわれる場合がある。
【0005】
荷電粒子ビームの照射誤差を補正する技術として、たとえば特許文献1には、干渉計を用いて荷電粒子ビームの偏向を補正するための構成が記載されている。
【0006】
また、DAC回路のINL誤差を補正するための技術として、図1に示す構成が知られている。DAC回路からのデジタル信号は、走査時には増幅回路に供給され、荷電粒子ビームの偏向に用いられる。一方、補正動作時には、デジタル信号はADC回路(アナログデジタル変換回路)に供給される。
【0007】
ADC回路はアナログ信号をデジタル信号に変換し、走査コントローラにフィードバックする。走査コントローラは、DAC回路に出力したデジタル信号と、ADC回路から入力されるデジタル信号との差分に基づき、デジタル信号の誤差を補正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2004-87483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の技術では、DAC回路におけるINL誤差を、リアルタイムで補正することが困難であるという課題があった。
【0010】
たとえば特許文献1の構成は、結果として荷電粒子ビームの偏向を補正するものではあるが、DAC回路のINL誤差を補正するものではない。
【0011】
また、図1の構成では、荷電粒子ビームの走査と補正とを同時に行うことが困難である。ADC回路の変換動作に必要な時間は、DAC回路の変換動作に必要な時間と比較すると長いため、通常の走査のような高速なデジタル信号の変化には、ADC回路の変換動作が追従できない。このため、補正動作のためにはデジタル信号の制御を低速とする必要があり、荷電粒子ビームの走査が通常通り行えないので、荷電粒子ビーム装置のスループットが低下する。
【0012】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、DAC回路におけるINL誤差を、リアルタイムで補正できる荷電粒子ビーム走査モジュール、荷電粒子ビーム装置およびコンピュータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る荷電粒子ビーム走査モジュールの一例は、
荷電粒子ビームの走査用デジタル信号を出力する走査コントローラと、
前記走査用デジタル信号を走査用アナログ信号に変換して出力する、DAC回路と、
前記走査用アナログ信号を評価用デジタル信号に変換する、ADC回路と、
を備え、
前記DAC回路が前記走査用デジタル信号をサンプリングするサンプリング周波数は第1周波数であり、
前記ADC回路が前記走査用アナログ信号をサンプリングするサンプリング周波数は前記第1周波数よりも少ない第2周波数であり、
前記走査コントローラは、前記走査用デジタル信号および前記評価用デジタル信号を評価することで、前記DAC回路の出力特性を決定する。
【0014】
本発明に係る荷電粒子ビーム装置の一例は、
荷電粒子ビーム走査モジュールを備える荷電粒子ビーム装置であって、
前記荷電粒子ビーム走査モジュールは、
荷電粒子ビームの走査用デジタル信号を出力する走査コントローラと、
前記走査用デジタル信号を走査用アナログ信号に変換して出力する、DAC回路と、
前記走査用アナログ信号を評価用デジタル信号に変換する、ADC回路と、
を備え、
前記DAC回路が前記走査用デジタル信号をサンプリングするサンプリング周波数は第1周波数であり、
前記ADC回路が前記走査用アナログ信号をサンプリングするサンプリング周波数は前記第1周波数よりも少ない第2周波数であり、
前記走査コントローラは、前記走査用デジタル信号および前記評価用デジタル信号を評価することで、前記DAC回路の出力特性を決定し、
前記荷電粒子ビーム装置は、さらに、
前記荷電粒子ビームを生成する荷電粒子源と、
前記荷電粒子ビームを試料に照射することに応じて発生する二次電子を検出する検出器と、
検出された前記二次電子に基づいて試料画像を生成する、試料画像生成装置と、
を備える。
【0015】
本発明に係るコンピュータの一例は、
荷電粒子ビーム装置と通信可能なコンピュータであって、
前記荷電粒子ビーム装置は、荷電粒子ビーム走査モジュールを備え、
前記荷電粒子ビーム走査モジュールは、
荷電粒子ビームの走査用デジタル信号を出力する走査コントローラと、
前記走査用デジタル信号を走査用アナログ信号に変換して出力する、DAC回路と、
前記走査用アナログ信号を評価用デジタル信号に変換する、ADC回路と、
を備え、
前記DAC回路が前記走査用デジタル信号をサンプリングするサンプリング周波数は第1周波数であり、
前記ADC回路が前記走査用アナログ信号をサンプリングするサンプリング周波数は前記第1周波数よりも少ない第2周波数であり、
前記走査コントローラは、前記走査用デジタル信号および前記評価用デジタル信号を評価することで、前記DAC回路の出力特性を決定し、
前記荷電粒子ビーム装置は、さらに、
前記荷電粒子ビームを生成する荷電粒子源と、
前記荷電粒子ビームを試料に照射することに応じて発生する二次電子を検出する検出器と、
検出された前記二次電子に基づいて試料画像を生成する、試料画像生成装置と、
を備え、
前記コンピュータは、情報を格納する記憶媒体と、プロセッサとを備え、
前記プロセッサは、前記荷電粒子ビーム装置から、前記試料画像と、前記出力特性を表す情報とを受信する。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る技術によれば、DAC回路におけるINL誤差を、リアルタイムで補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】DAC回路のINL誤差を補正するための従来の構成の例。
図2】本発明の実施例1に係るINL誤差の例。
図3】実施例1に係る荷電粒子ビーム装置を含む構成の例。
図4図3の偏向器の具体的な構成の例。
図5】実施例1に係る荷電粒子ビーム走査モジュールを含む構成の例。
図6図5の荷電粒子ビーム走査モジュールにおける信号のタイミング図。
図7図5のDAC回路の出力特性の例。
図8】実施例1における補正動作の流れの例。
図9】本発明の実施例3における補正処理の概略。
図10】本発明の実施例4における位置ずれ情報の例。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
[実施例1]
図2は、本発明の実施例1に係る荷電粒子ビーム走査モジュールの補正対象となり得るINL誤差の例を示す。試料10において、パターン11がX軸方向に等間隔に形成されており、すなわち寸法L1=L2である。X軸方向に荷電粒子ビームを走査した場合の信号の変化をグラフに示す。
【0019】
グラフの横軸は時間を表すが、DAC回路の入力を表すと考えることもできる。縦軸はDAC回路の出力を表す。DAC回路の出力は、軸方向(たとえばX軸方向)の1回の走査において、時間とともに増大する。理想的な出力12は破線によって表される。理想的な出力12は、入力すなわち走査コントローラからのデジタル信号と一致し、直線的に増大する。なお、実際にはデジタル信号は微細なステップ状の信号であるが、図2では説明の便宜上直線として表している。
【0020】
DAC回路の実際の出力13はグラフの実線によって表され、INL誤差を含む。たとえば寸法L1を計測する際には、DAC回路の出力はΔv(1)だけ変化するのが理想的であるが、実際には誤差のためΔv(1)だけ変化し、一般的にはΔv(1)≠Δv(1)となる。同様に、寸法L2については、理想的な変化分はΔv(1)であり、実際の変化分はΔv(2)であり、一般的にはΔv(2)≠Δv(2)となる。これらの誤差が荷電粒子ビームの偏向誤差として表れ、寸法L1の計測に影響を及ぼす。
【0021】
図3は、実施例1に係る荷電粒子ビーム装置100を含む構成の例を示す。荷電粒子ビーム装置100は、たとえば走査電子顕微鏡(ScanningElectronMicroscope:SEM)であるが、これに限らない。
【0022】
電子源101(荷電粒子源)は、電子ビーム103(荷電粒子ビーム)を生成する。電子ビーム103は引出電極102によって引き出され、図示しない加速電極によって加速され、集束レンズの一形態であるコンデンサレンズ104によって絞られた後に、偏向器105により、試料10上を一次元的、或いは二次元的に走査される。電子ビーム103は試料台108に内蔵された電極に印加された負電圧により減速されると共に、対物レンズ106のレンズ作用によって集束されて試料10上に照射される。
【0023】
電子ビーム103が試料10に照射されると、当該照射個所から二次電子、及び後方散乱電子等の電子110が放出される。放出された電子110は、試料に印加される負電圧に基づく加速作用によって、電子源101の方向に加速され、変換電極112に衝突し、二次電子111を生じさせる。変換電極112から放出された二次電子111は、検出器113によって捕捉される。このように、検出器113は、電子ビーム103を試料10に照射することに応じて発生する二次電子を検出する。検出器113によって捕捉された二次電子量によって、検出器113の出力が変化する。この出力に応じて図示しない表示装置の輝度が変化する。例えば二次元像を形成する場合には、偏向器105への偏向信号と、検出器113の出力との同期をとることで、走査領域の画像を形成する。
【0024】
なお、図3に例示する荷電粒子ビーム装置100は、図示しない加速電極に高電圧(例えば15kV以上)の印加が可能な装置であり、高加速で電子ビームを照射することによって、試料表面には露出されていない埋設パターン等に、電子ビームを到達させることができる。
【0025】
なお、図3の例では試料から放出された電子を変換電極にて一端変換して検出する例について説明しているが、無論このような構成に限られることはなく、例えば加速された電子の軌道上に、電子倍像管や検出器の検出面を配置するような構成とすることも可能である。また、変換電極112および検出器113はそれぞれ一つである必要はなく、光軸に対して方位角方向や仰角方向に分割された複数の検出面と各検出面に対応する検出器を持つ構成としても良い。この構成では、一度の撮像で検出器の数の撮像画像を同時に取得することができる。
【0026】
制御装置120は、たとえばコンピュータを用いて構成され、プロセッサ121およびメモリ122を備える。メモリ122は情報を格納する記憶媒体である。記憶媒体は、たとえばメインメモリ、フラッシュメモリ、HDD(ハードディスクドライブ)、MRAM(磁気抵抗メモリ)、等を用いて構成することができる。メモリ122はプログラムを記憶してもよく、プロセッサ121がこのプログラムを実行することにより、制御装置120は本実施例において説明する機能および機能的手段を実現してもよい。
【0027】
制御装置120は、たとえば以下の機能を備える。
‐荷電粒子ビーム装置100の各構成要素を制御する機能
‐検出された二次電子に基づいて試料画像を形成する機能(すなわち、試料画像生成装置としての機能)
‐試料上に形成されたパターンのパターン幅を計測する機能(たとえば、ラインプロファイルと呼ばれる検出電子の強度分布に基づいて計測する)
【0028】
また、制御装置120内には、主にSEMの光学条件を制御するSEM制御装置と、検出器113によって得られた検出信号の信号処理を行う信号処理装置が含まれている。制御装置120は、ビームの走査条件(方向や速度等)を制御するための荷電粒子ビーム走査モジュール(図5に関連して後述する)を含む。
【0029】
荷電粒子ビーム装置100には、コンピュータ130が接続される。コンピュータ130は、プロセッサ131およびメモリ132を備え、荷電粒子ビーム装置100と通信可能である。メモリ132は情報を格納する記憶媒体である。記憶媒体は、たとえばメインメモリ、フラッシュメモリ、HDD(ハードディスクドライブ)、MRAM(磁気抵抗メモリ)、等を用いて構成することができる。メモリ132はプログラムを記憶してもよく、プロセッサ131がこのプログラムを実行することにより、コンピュータ130は本実施例において説明する機能および機能的手段を実現してもよい。
【0030】
図4は、偏向器105の具体的な構成の例を示す。Z軸正の向きに電子ビーム103が照射される。図4(a)は電界型の偏向器を示す。電界型の偏向器は、第1の電極対151と、第2の電極対152とを備え、クーロン力によって荷電粒子を偏向させる。第1の電極対151は、X軸方向に電界を発生させ、これによって電子ビーム103をX軸方向に偏向させる。第2の電極対152は、Y軸方向に電界を発生させ、これによって電子ビーム103をY軸方向に偏向させる。
【0031】
図4(b)は磁界型の偏向器を示す。磁界型の偏向器は、第1のコイル対153と、第2のコイル対154とを備え、ローレンツ力によって荷電粒子を偏向させる。第1のコイル対153は、Y軸方向に磁界を発生させ、Z軸方向に照射される電子ビーム103をX軸方向に偏向させる。第2のコイル対154は、X軸方向に磁界を発生させ、Z軸方向に照射される電子ビーム103をY軸方向に偏向させる。
【0032】
なお、電界型の偏向器と磁界型の偏向器とを組み合わせて用いてもよい。さらに、偏向器の具体的な構成は上述のものに限らず、たとえば任意の公知の構成を用いることができる。
【0033】
図5は、荷電粒子ビーム走査モジュール200を含む構成の例を示す。荷電粒子ビーム走査モジュール200は、走査コントローラ201と、DAC回路202と、VGA回路205と、サンプリング回路206と、ADC回路207と、タイミング装置208とを備える。また、荷電粒子ビーム走査モジュール200には、増幅回路203と、偏向器105とが接続される。
【0034】
走査コントローラ201は、たとえばコンピュータを含み、プロセッサ201aおよびメモリ201bを備える。メモリ201bは情報を格納する記憶媒体である。記憶媒体は、たとえばメインメモリ、フラッシュメモリ、HDD(ハードディスクドライブ)、MRAM(磁気抵抗メモリ)、等を用いて構成することができる。メモリ201bはプログラムを記憶してもよく、プロセッサ201aがこのプログラムを実行することにより、走査コントローラ201は本実施例において説明する機能および機能的手段を実現してもよい。
【0035】
走査コントローラ201は、荷電粒子ビームの走査用デジタル信号D1を生成して出力する。走査用デジタル信号D1は、ビーム制御信号であり、特定軸方向(たとえばX軸方向またはY軸方向)における荷電粒子ビームの偏向量を表し、すなわち照射位置に対応する。第1デジタル信号はたとえば26ビットの精度を有する。
【0036】
DAC回路202は、走査用デジタル信号D1を受信し、走査用アナログ信号A1に変換して出力する。DAC回路202は、たとえば超高精度DAC回路であり、26ビットの精度に対応可能である。より具体的な例として、26ビットのうち上位14ビットと下位12ビットをそれぞれアナログ信号に変換し、結果を加算することにより最終的な走査用アナログ信号A1を出力してもよい。なお、走査用アナログ信号A1には、上述のようにDAC回路202のINL誤差が含まれる。
【0037】
増幅回路203は、走査用アナログ信号A1を増幅することによって、増幅された走査用アナログ信号(以下「増幅後アナログ信号A2」と呼ぶ)を生成し、増幅後アナログ信号A2を偏向器105に供給する。すなわち、走査用アナログ信号A1は、増幅回路203で増幅された後に、荷電粒子ビームの偏向器105に供給される。増幅後アナログ信号A2は、たとえば電圧または電流によって表される。
【0038】
なお、図5の例では、増幅回路203は荷電粒子ビーム走査モジュール200の外部に備えられるが、変形例として、増幅回路203は荷電粒子ビーム走査モジュール200の内部に備えられてもよい。このような増幅回路203を備えることにより、DAC回路202の出力を大きくする必要がなく、DAC回路202の構成を簡素にすることができる。
【0039】
偏向器105は、増幅回路203からの増幅後アナログ信号A2に基づいて荷電粒子ビームを偏向させる。
【0040】
VGA回路205は可変利得増幅回路であり、ADC回路207のダイナミックレンジに応じて走査用アナログ信号A1を調整し、調整された走査用アナログ信号(以下「調整済アナログ信号A3」と呼ぶ)を出力する。
【0041】
サンプリング回路206は、たとえばサンプルアンドホールド回路である。サンプリング回路206は、所定のサンプリング時刻において、調整済アナログ信号A3をホールドし、ホールドされた走査用アナログ信号(以下「ホールドアナログ信号A4」と呼ぶ)をADC回路207に出力する。すなわち、サンプリング回路206は、タイミング装置208から出力されるホールド指示信号で指定された時点の調整済アナログ信号A3に対応するホールドアナログ信号A4を、所定時間だけ同一値に維持して出力し続ける。
【0042】
なお、走査用アナログ信号A1、増幅後アナログ信号A2、調整済アナログ信号A3およびホールドアナログ信号A4は、いずれも走査用アナログ信号であり、INL誤差を含むという点において同質の信号である。
【0043】
ADC回路207は、ホールドアナログ信号A4を評価用デジタル信号D2に変換する。評価用デジタル信号D2は、実質的に走査用デジタル信号D1にINL誤差が付加された信号であり、INL誤差の評価に用いることができる。具体例として、走査用デジタル信号D1と評価用デジタル信号D2との差分に基づいてINL誤差を評価することができる。ADC回路207は、DAC回路202に対応する精度を有し、たとえば超高精度ADC回路であり、26ビットの精度に対応可能である。
【0044】
タイミング装置208は、走査コントローラ201、DAC回路202、サンプリング回路206およびADC回路207、等が、適切に同期して動作するようタイミング信号を供給する。
【0045】
図6は、荷電粒子ビーム走査モジュール200における信号のタイミング図である。一点鎖線が1回の走査に対応する範囲を表し、複数回の走査によって試料10が2次元的に走査される。1回の走査は、走査用デジタル信号D1の繰り返し周期TXに対応する。繰り返し周波数(第3周波数)は、繰り返し周期TXの逆数に比例し、たとえば繰り返し周期TXがc[秒]であれば繰り返し周波数は1/c[Hz]である。
【0046】
サンプリング周期T1は、DAC回路202が走査用デジタル信号D1をサンプリングする周期を表す。サンプリング周波数(第1周波数)は、サンプリング周期T1の逆数に比例し、たとえばサンプリング周期T1がa[秒]であればサンプリング周波数は1/a[Hz]である。
【0047】
サンプリング周期T1は、たとえばDAC回路202の仕様において、入力信号が一定に維持される必要がある時間として定義される時間であってもよい。または、サンプリング周期T1は、実際にDAC回路202に対する入力値が一定に維持される時間であってもよい。
【0048】
サンプリング周期T2は、ADC回路207がホールドアナログ信号A4をサンプリングする周期を表す。サンプリング周波数(第2周波数)は、サンプリング周期T2の逆数に比例し、たとえばサンプリング周期T2がb[秒]であればサンプリング周波数は1/b[Hz]である。
【0049】
サンプリング周期T2は、たとえばADC回路207の仕様において、入力信号が一定に維持される必要がある時間として定義される時間であってもよい。または、サンプリング周期T2は、実際にADC回路207に対する入力値が一定に維持される時間であってもよい。
【0050】
サンプリング回路206は、調整済アナログ信号A3と、タイミング装置208から出力されるホールド指示信号とを、サンプリング周期T2と同じ周期で、すなわち第2周波数で受信し、これに対応するホールドアナログ信号A4を出力し続ける。このように、ADC回路207が変換対象とする走査用アナログ信号は、サンプリング回路206が出力したホールドアナログ信号A4であるため、少なくともADC回路207の変換動作に必要な時間にわたって信号の値が維持される。
【0051】
ADC回路207のサンプリング周期T2は、DAC回路202のサンプリング周期T1より長い。すなわち、第2周波数は第1周波数より少ない。一般的に、ADC回路207の変換動作は、DAC回路202の変換動作に比べて長時間を要するが、このように第2周波数が第1周波数より少なくなるように設計することにより、ADC回路207の変換動作に必要な時間を確保することができる。
【0052】
図6の(1)~(6)は、サンプリング回路206によるサンプリングの時刻を示す。時刻(1)および(2)は、第1の繰り返し周期TXに属し、時刻(3)および(4)は、第2の繰り返し周期TXに属し、時刻(5)および(6)は、第3の繰り返し周期TXに属する。ADC回路207のサンプリング周期T2は、DAC回路202のサンプリング周期T1より長い。また、サンプリング周期T2は、繰り返し周期TXとは異なる。すなわち、走査用デジタル信号D1は、第2周波数とは異なる第3周波数で繰り返される。この第3周波数は、第2周波数の整数倍および整数分の1とは異なる値であってもよい。
【0053】
なお、図6の例では、サンプリング周期T2は繰り返し周期TXより短いが、変形例において、繰り返し周期TXより長い時間であってもよい。また、図6の例では1回の繰り返し周期TXにおいて2回程度のサンプリングが行われるが、サンプリングの頻度は適宜設計可能である。
【0054】
また、本実施例に係る荷電粒子ビーム走査モジュール200は、荷電粒子ビームの走査と、評価用デジタル信号D2の生成とを並行して実行することができる。ここで、図6に示すように、走査用アナログ信号A1は、VGA回路205およびサンプリング回路206を介して、ホールドアナログ信号A4としてホールドされるので、走査用デジタル信号D1が高速に変化しても、ADC回路207による変換動作は正確に実行することができる。言い換えると、ADC回路207のサンプリング周期T2に合わせて走査用デジタル信号D1のサンプリング周期T1を長くする必要がなく、リアルタイムでINL誤差の評価を行うことが可能である。「リアルタイムで」とは、たとえば、INL誤差の評価と、試料に対する荷電粒子ビームの走査と並行して行うことを意味する。
【0055】
図7は、DAC回路202の出力特性の例を表す。横軸が入力すなわち走査用デジタル信号D1の値を表し、縦軸が出力すなわち走査用アナログ信号A1の値を表す。
【0056】
図6の例において異なる繰り返し周期に分散しているサンプリング時刻が、図7では走査用デジタル信号D1の値に応じて配置されており、すなわち等価的に、1回の繰り返し周期にまとめられている。破線が理想値301すなわち走査用デジタル信号D1に比例する値に対応し、実線が実測値302すなわち走査用アナログ信号A1の値に対応する。
【0057】
サンプリング周期T2は繰り返し周期TXとは異なり、たとえば繰り返し周期TXの整数倍とも整数分の1とも異なる値なので、各繰り返し周期TXにおける最初のサンプリング時刻(1)、(3)および(5)はそれぞれ、走査用デジタル信号D1の異なる値に対応する。同様に、各繰り返し周期TXにおける2回目のサンプリング時刻(2)、(4)および(6)もまた、それぞれ走査用デジタル信号D1の異なる値に対応する。図7における各サンプリング時刻間のずれが、等価的なインターバルI1となる。この等価的なインターバルI1は、繰り返し周期TXに応じてサンプリング周期T2の値を決定することにより、任意の値(たとえばサンプリング周期T1およびT2より短い時間)として設計することが可能である。
【0058】
このように、走査コントローラ201は、第2周波数(サンプリング周期T2に対応する)とは異なる第3周波数(繰り返し周期TXに対応する)で繰り返される走査用デジタル信号D1を生成するので、これらの周波数の差に応じて、より高い周波数で(より短い実質的なインターバルI1で)サンプリングを行うことができる。
【0059】
ここで、走査用デジタル信号D1および走査用アナログ信号A1の関係が、DAC回路202の出力特性を表すということができる。たとえば、DAC回路202に、走査用デジタル信号D1として図7の時刻(1)における値が入力されると、DAC回路202は、図7の同じ時刻(1)における走査用アナログ信号A1に対応する値を出力する。
【0060】
走査コントローラ201は、このように、走査用デジタル信号D1および走査用アナログ信号A1に基づいて(より厳密には、走査用アナログ信号A1に対応する評価用デジタル信号D2に基づいて)、DAC回路202の出力特性を決定することができる。すなわち、走査コントローラ201は、走査用デジタル信号D1および評価用デジタル信号D2を評価することで、DAC回路202の出力特性を決定することができる。
【0061】
出力特性を表す情報の表現形式は任意に設計可能であり、たとえば、走査用デジタル信号D1の値と、走査用アナログ信号A1または評価用デジタル信号D2との値を関連付けるテーブルとして表現してもよい。または、たとえば、走査用デジタル信号D1の値と、走査用デジタル信号D1および評価用デジタル信号D2の差分とを関連付けるテーブルとして表現してもよい。
【0062】
1回の出力特性の計測周期、すなわち、図7に示す時刻(1)~(6)に対応する値をすべて計測するのに必要な周期は、図6に示すように複数の繰り返し周期TXにわたるので、繰り返し周期TXの持続時間より長い時間となる。出力特性の計測周期は、たとえば1枚の試料画像を撮像する期間(すなわち2次元の繰り返し周期)に一致させてもよいし、複数枚の試料画像を撮像する期間に一致させてもよい。出力特性の計測周期は、たとえば1ms~10msの範囲内とすることができる。
【0063】
決定されたDAC回路202の出力特性は、DAC回路202におけるINL誤差を補正するために用いることができる。本実施例では、走査コントローラ201が、DAC回路202の出力特性に基づき、DAC回路202の出力を補正する。
【0064】
図8は、実施例1における補正動作の流れの例を示す。まず、DAC回路202のINL誤差の本補正が行われる(ステップS1)。この本補正は、撮像動作が開始される前に実行することができ、精度の高い補正動作とすることができる。なお、この本補正は省略してもよい。
【0065】
次に、通常計測動作(ステップS2)として、たとえば撮像のための荷電粒子ビームの走査が行われる。この走査は、補正後の走査用アナログ信号A1を用いて行われる。たとえば、走査コントローラ201は、ステップS2より前に取得された出力特性(第1出力特性)に基づいて、走査用アナログ信号A1を補正するための補正値を決定し、この補正値に応じて走査用アナログ信号A1を補正する。
【0066】
具体的な補正の実現方法としては、たとえば走査コントローラ201の指示に応じてDAC回路202が走査用アナログ信号A1を調整して出力してもよいし、DAC回路202から出力された走査用アナログ信号A1を補正するための適切な回路(図示せず)を別途設けてもよい。
【0067】
この通常計測動作(ステップS2)と並行して、すなわちリアルタイムで、DAC回路202の出力特性が計測される(ステップS3)。すなわち、INL誤差が計測され、計測結果はメモリ201bに記憶される。言い換えると、走査コントローラ201は、DAC回路202の出力特性を決定するのと並行して、補正後の走査用アナログ信号A1をADC回路207に出力させる。
【0068】
これらと並行して、走査コントローラ201は、INL誤差の判定を行う(ステップS4)。たとえば、補正済みのINL誤差と、新たに計測された出力特性(第2出力特性)におけるINL誤差との差分(変動幅)が、所定の閾値より大きいか否かを判定する。すなわち、上述の第1出力特性と、これより後に決定された第2出力特性との差分を算出し、差分が所定の閾値より大きいか否かを判定する。
【0069】
変動幅の算出方法は、当業者が適宜設計することができる。たとえば、変動幅は、走査用デジタル信号D1および評価用デジタル信号D2の差の絶対値または差の二乗を用いて表すことができる。
【0070】
ステップS4において、差分が所定の閾値より大きい場合には、走査コントローラ201は、補正値を更新する(ステップS5)。たとえば、新たに計測された出力特性(第2出力特性)に基づいて補正値を新たに算出し、これによって補正値を更新し、それ以降に取得した画像については、この更新された新たな補正値に基づいて補正を行う。この新たな補正値が、次にステップS4が実行される際の比較基準となる。補正値の具体的な使用方法は、当業者が適宜設計可能であるが、たとえば後述の実施例2~4において説明する方法とすることができる。
【0071】
なお、ステップS4において変動幅が閾値を超えていない場合には、ステップS5は実行されない。
【0072】
ステップS4は、たとえば所定のインターバルで実行することができる。このインターバルは、たとえば1秒~10秒の範囲内とすることができる。または、ステップS4は、計測位置または撮像位置が変化する都度、実行することができる。
【0073】
このような動作によれば、リアルタイムで取得したDAC回路202の出力特性を用いて、適切なタイミングでDAC回路202のINL誤差の補正値を更新することができる。これによって、たとえば、温度に依存するINL誤差(数秒単位で変動する)と、DAC回路202の経時変化(数日単位で変動する)との双方に対応して適切な補正を行うことができる。
【0074】
以上説明するように、実施例1に係る荷電粒子ビーム走査モジュールおよび荷電粒子ビーム装置によれば、荷電粒子ビームの走査と並行してDAC回路202の出力特性を決定することができるので、DAC回路202のINL誤差をリアルタイムで補正することができる。また、これにより、荷電粒子ビームの高い走査精度と、撮像の高いスループットとを両立させることができる。
【0075】
[実施例2]
実施例2は、実施例1において、INL誤差の補正を試料画像に基づいて行うよう変更したものである。以下、実施例1と共通する部分については説明を省略する場合がある。
【0076】
実施例2において、走査コントローラ201は、撮像された試料画像と、出力特性を表す情報とをコンピュータ130(図3)に送信する。コンピュータ130のプロセッサ131は、荷電粒子ビーム装置100から(すなわち走査コントローラ201から)、試料画像と、DAC回路202の出力特性を表す情報とを受信してメモリ132に格納する。
【0077】
プロセッサ131は、受信した試料画像に基づいて、試料画像中の特定部位に現れるパターン(測長対象パターン)について寸法を計測することにより、測長値を取得する。その後、プロセッサ131は、DAC回路202の出力特性に基づいて、測長値を補正する。
【0078】
たとえば、出力特性が図2に示す内容であったとする。また、試料画像から、N個の部位(ただしNは1以上の整数)について測長値が取得されたとする。n番目のパターン(ただしnは、1≦n≦Nとなる整数)について取得した測長値をL(n)とすると、そのパターンに対する補正後の測長値L(n)comは、
L(n)com=A×L(n)×Δv(n)/Δv(n)
と表すことができる。
【0079】
ただしAは調整係数であり、たとえば光学条件等を表す。Δv(n)は、n番目のパターンにおける実際の偏向電圧量を表し、すなわち、そのパターンの一端から他端まで荷電粒子ビームを偏向させる際に変化した電圧の量を表す。Δv(n)は、n番目のパターンにおける理想的な偏向電圧量(または、期待される偏向電圧量)を表し、すなわち、そのパターンの一端から他端まで荷電粒子ビームを偏向させる際に本来変化すべき電圧の量を表す。
【0080】
本実施例では、DAC回路202の出力特性は、各パターンに対応する位置におけるΔv(n)とΔv(n)との関係を表すということができる。また、v(n)の値は、図7に示す等価的なインターバルI1を小さく設計することにより、高精度で求めることができる。
【0081】
このように、実施例2において、荷電粒子ビーム走査モジュール200は、荷電粒子ビームを試料に照射することに応じて発生する二次電子に関する情報を受信し、この情報に基づいて試料画像を生成し、試料画像をコンピュータ130に送信する。また、コンピュータ130のプロセッサ131は、試料画像を受信し、試料画像に基づいて試料に係る寸法(測長値)を計測し、DAC回路202の出力特性に基づいて測長値を補正する。このようにして、試料画像に基づく計測と、出力特性に基づく補正とを組み合わせ、高精度の計測を行うことができる。
【0082】
以上説明するように、実施例2によれば、パターンの測長値結果における変動分を補正することができ、すなわち、INL誤差による測長値の伸び縮みを補正することができる。
【0083】
なお、実施例2における補正は、プロセッサ131またはコンピュータ130で行う必要はなく、荷電粒子ビーム走査モジュール200(たとえば走査コントローラ201)または荷電粒子ビーム装置100(たとえば制御装置120)において行ってもよい。その場合には、走査コントローラ201は、試料画像と、出力特性を表す情報とを、コンピュータ130に送信する必要はない。
【0084】
[実施例3]
実施例3は、実施例2において、複数の軸方向で補正を行うよう変更したものである。以下、実施例1または2と共通する部分については説明を省略する場合がある。
【0085】
図9は、実施例3における補正処理の概略を示す。実施例3において、走査コントローラ201は、互いに直交する第1方向および第2方向のそれぞれについて、DAC回路202の出力特性を決定する。以下では、第1方向の例としてX方向を用い、第2方向の例としてY方向を用いる。
【0086】
2方向の出力特性を並列的に取得する方法は、実施例1の記載および公知技術等に基づき、当業者が適宜設計可能である。たとえば、あるY位置についてX方向の走査を行い、次に、Y位置をある単位だけ移動させた次のY位置についてX方向の走査を行う。これを繰り返して、Y位置を最小値から最大値まで走査することにより、X方向の出力特性と並列的に、Y方向の出力特性も取得することができる。
【0087】
たとえば、画素位置を表すベクトルについて、INL誤差による影響のため、正確な位置402が誤差を含む位置401として計測される場合がある。
【0088】
コンピュータ130のプロセッサ131は、実施例2と同様に、荷電粒子ビームを試料に照射することに応じて発生する二次電子に関する情報を受信し、メモリ132に格納するとともに、この情報に基づいて試料画像を生成する。
【0089】
また、プロセッサ131は、DAC回路202の出力特性を表す情報を受信する。出力特性は、たとえばX方向およびY方向のそれぞれについて決定され、出力特性を表す情報は、X方向の出力特性を表す情報およびY方向の出力特性を表す情報を含む。プロセッサ131は、出力特性に基づいて試料画像を補正する。たとえば、X方向の出力特性に基づいてX方向の輝度または画素位置を補正し、Y方向の出力特性に基づいてY方向の輝度または画素位置を補正する。
【0090】
補正のための具体的な演算処理は、当業者が適宜設計することができるが、以下に一例を説明する。所定の基準点(たとえば画像中の原点)から、誤差を含む位置401(x,y)までのX方向距離xおよびY方向距離yに対して、それぞれ実施例2と同様の補正を行い、補正後の位置として正確な位置402(x,y)を算出する。そして、正確な位置402(x,y)の画素の輝度の値を、誤差を含む位置401(x,y)について計測された輝度の値に一致させる。このような処理をすべての計測位置(またはすべての画素位置)について繰り返す。適切な補間処理を行ってもよい。このようにして試料画像が補正される。
【0091】
プロセッサ131は、補正後の試料画像を出力する。出力の態様として、たとえば、メモリ132に記憶してもよいし、表示装置(図示せず)に表示してもよいし、通信ネットワークを介して他のコンピュータに送信してもよい。
【0092】
このような補正によれば、たとえば試料10の矩形状のパターンが実測形状403のように傾いて撮像された場合において、傾きを2次元的に修正して正確な試料画像を取得することができる。
【0093】
なお、実施例3における補正についても、プロセッサ131またはコンピュータ130で行う必要はなく、荷電粒子ビーム走査モジュール200(たとえば走査コントローラ201)または荷電粒子ビーム装置100(たとえば制御装置120)において行ってもよい。その場合には、走査コントローラ201は、試料画像と、出力特性を表す情報とを、コンピュータ130に送信する必要はない。
【0094】
[実施例4]
実施例4は、実施例2において、複数の軸方向で補正を行うとともに、試料画像と位置ずれ情報とを出力するよう変更したものである。以下、実施例1~3のいずれかと共通する部分については説明を省略する場合がある。
【0095】
コンピュータ130のプロセッサ131は、実施例2および3と同様に、荷電粒子ビームを試料に照射することに応じて発生する二次電子に関する情報を受信し、メモリ132に格納するとともに、この情報に基づいて試料画像を生成する。そして、プロセッサ131は、X方向の出力特性およびY方向の出力特性に基づいて、試料画像の所定位置(たとえばすべての画素位置)における、X方向の位置ずれ情報およびY方向の位置ずれ情報を生成する。
【0096】
図10は、実施例4における位置ずれ情報の例を示す。試料画像のX方向のサイズをnとし、Y方向のサイズをmとし、位置(i,j)にある画素の位置ずれ情報をPij(δX,δY)と表す(ただし1≦i≦n,1≦j≦m)。たとえばP11(δX,δY)という表現は、試料画像の基準点(たとえば左下)における、誤差を含む位置と正確な位置との差分を表す。
【0097】
図10では、試料画像全体に対する位置ずれ情報が行列形式で表されているが、実際には図10に示す各要素すなわち各位置における位置ずれ情報Pij(δX,δY)はそれぞれベクトルである。誤差を含む位置と正確な位置との差分は、図9の例では(x-x,y-y)として表すことができ、その場合には、X方向の位置ずれ情報がx-xに対応し、Y方向の位置ずれ情報がy-yに対応する。
【0098】
プロセッサ131は、X方向の位置ずれ情報およびY方向の位置ずれ情報を出力する。また、プロセッサ131は、試料画像(すなわち補正前の試料画像)を出力する。出力の態様として、たとえば、メモリ132に記憶してもよいし、表示装置(図示せず)に表示してもよいし、通信ネットワークを介して他のコンピュータに送信してもよい。
【0099】
このように、試料画像と、位置ずれ情報とをセットとして(すなわち、組み合わせて)出力することにより、任意の態様で位置ずれ情報を利用することができ、自由度が高まる。たとえば、試料画像および位置ずれ情報を取得した利用者は、実施例1のように試料画像に基づいて測長を行い、測長結果を位置ずれ情報に基づいて補正してもよいし、実施例3のように試料画像を補正し、補正後の試料画像において測長を行ってもよい。
【0100】
なお、実施例4における補正についても、プロセッサ131またはコンピュータ130で行う必要はなく、荷電粒子ビーム走査モジュール200(たとえば走査コントローラ201)または荷電粒子ビーム装置100(たとえば制御装置120)において行ってもよい。その場合には、走査コントローラ201は、試料画像と、出力特性を表す情報とを、コンピュータ130に送信する必要はない。
【符号の説明】
【0101】
10…試料
11…パターン
12…理想的な出力
13…実際の出力
100…荷電粒子ビーム装置
101…電子源(荷電粒子源)
102…引出電極
103…電子ビーム(荷電粒子ビーム)
104…コンデンサレンズ
105…偏向器
106…対物レンズ
108…試料台
110…電子
111…二次電子
112…変換電極
113…検出器
120…制御装置
121…プロセッサ
122…メモリ
130…コンピュータ
131…プロセッサ
132…メモリ
151,152…電極対
153,154…コイル対
200…荷電粒子ビーム走査モジュール
201…走査コントローラ
202…DAC回路
203…増幅回路
205…VGA回路
206…サンプリング回路
207…ADC回路
208…タイミング装置
301…理想値
302…実測値
401…誤差を含む位置
402…正確な位置
403…実測形状
201a…プロセッサ
201b…メモリ
L…測長値
A1…走査用アナログ信号
A2…増幅後アナログ信号(走査用アナログ信号)
A3…調整済アナログ信号(走査用アナログ信号)
A4…ホールドアナログ信号(走査用アナログ信号)
D1…走査用デジタル信号
D2…評価用デジタル信号
I1…インターバル
L1,L2…寸法
T1,T2…サンプリング周期
TX…繰り返し周期
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10