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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】自動分析装置の前処理方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/00 20060101AFI20240716BHJP
   G01N 1/10 20060101ALI20240716BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
G01N35/00 Z
G01N1/10 A
G01N33/543 541A
G01N33/543 501D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021518307
(86)(22)【出願日】2020-03-09
(86)【国際出願番号】 JP2020009996
(87)【国際公開番号】W WO2020225971
(87)【国際公開日】2020-11-12
【審査請求日】2022-12-09
(31)【優先権主張番号】P 2019088019
(32)【優先日】2019-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】野上 真
(72)【発明者】
【氏名】松岡 晋弥
(72)【発明者】
【氏名】海老原 大介
(72)【発明者】
【氏名】橋本 雄一郎
【審査官】松岡 智也
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106198963(CN,A)
【文献】特開2016-090570(JP,A)
【文献】特表2011-504236(JP,A)
【文献】特開2019-049455(JP,A)
【文献】特表2003-527606(JP,A)
【文献】国際公開第2006/088192(WO,A1)
【文献】特開2004-045395(JP,A)
【文献】特表2004-527732(JP,A)
【文献】国際公開第2005/095969(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/077400(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/00-37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物質を含む試料に磁性ビーズを添加し、前記磁性ビーズに前記測定対象物質を結合させ、前記磁性ビーズを前記試料から摘出し、前記磁性ビーズから前記測定対象物質を溶出液によって分離する自動分析装置の前処理方法において、
1アッセイプロトコール中で、
複数種類の測定対象物質と結合する一種類の前記磁性ビーズを、前記試料に添加し、
前記溶出液により、前記磁性ビーズから前記複数種類の測定対象物質を分離する前記前処理方法であって、
前記一種類前記磁性ビーズは、測定試薬容器に収容され、
前記一種類前記磁性ビーズは、
第1の種類の測定対象物質と結合する第1の抗体と、第2の種類の測定対象物質と結合する第2の抗体とを有し、
前記試料中に含まれる前記複数種類の測定対象物質の血中濃度比に応じて、前処理後の前記溶出液内に含有する前記複数種類の前記測定対象物質の混合比が均一化するように、前記測定試薬容器に収容された、前記磁性ビーズの前記第1の抗体の量比と前記第2の抗体の量比を調整する、
ことを特徴とする自動分析装置の前処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の自動分析装置の前処理方法において、
前記磁性ビーズに応じた前記溶出液により、前記磁性ビーズから前記複数種類の測定対象物質を分離することを特徴とする自動分析装置の前処理方法。
【請求項3】
請求項1に記載の自動分析装置の前処理方法において、
記磁性ビーズは、官能基として前記第1の抗体および前記第2の抗体が表面に修飾された磁性ビーズであることを特徴とする自動分析装置の前処理方法。
【請求項4】
測定対象物質を含む試料に磁性ビーズを添加し、前記磁性ビーズに前記測定対象物質を結合させ、前記磁性ビーズを前記試料から摘出し、前記磁性ビーズから前記測定対象物質を溶出液によって分離する自動分析装置の前処理方法において、
1アッセイプロトコール中で、
前記試料に、複数種類の測定対象物質と結合する一種類の前記磁性ビーズを添加し、
前記溶出液により、前記磁性ビーズから前記複数種類の測定対象物質を分離する前記前処理方法であって
前記磁性ビーズは、第1の種類の測定対象物質と結合する第1の抗体と、第2の種類の測定対象物質と結合する第2の抗体とが修飾され、
前記試料に含まれる前記複数種類の測定対象物質の血中濃度比に応じて、前処理後の前記溶出液内に含有する前記複数種類の前記測定対象物質の混合比が均一化するように、前記第1の抗体と前記第2の抗体との量比を調整する、
ことを特徴とする自動分析装置の前処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料を分析する自動分析装置の前処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動分析装置は、検査の手順の一部を自動化することにより、迅速で効率的な臨床検査業務に貢献している。一般的な自動分析装置においては、試料や試薬等の溶液を所定量反応容器に分注するための分注機構、および反応容器内の試料や試薬等を攪拌する攪拌機構が備えられている。そのなかでも免疫システムは、磁性ビーズの表面に官能基を結合した担体で測定対象物質を保持し、免疫測定法のひとつである電気化学発光免疫測定法(ECLIA)を用い、高い精度、高感度かつワイドレンジの検査を可能にしている。
【0003】
液体クロマトグラフ質量分析装置(HPLC/MS)は、液体クロマトグラフと質量分析計を組み合わせた装置である。
【0004】
液体クロマトグラフ(HPLC)による測定対象物質の化学的構造および物性による分離と、質量分析計(MS)による測定対象物質の質量による分離を組み合わせることで、試料中の各成分を定性・定量することができる。この特長により、例えば、生体試料中の医薬品のように体内で代謝され多数の類似物質が混在しているような場合においても測定対象物質の定性・定量が可能であり、臨床検査分野への応用が期待されている。
【0005】
検査センタや大学病院等では、HPLC/MSを用いて、免疫抑制剤、抗がん剤、新生児代謝異常検査およびTDM(Therapeutic Drug Monitoring)等の検査をおこなっている。
【0006】
前処理は、検査キットや用手法でおこない、HPLC/MSに供試している。各検査方法の検証(バリデーション)は、各検査機関の責任のもとで実施し、検査結果を担保している。
【0007】
前処理工程が煩雑であることから、検査技師の熟練度により、検査結果のばらつきが生じる。また、前処理やHPLC/MSの測定において、ヒューマンエラーによる検査結果の不備が生じる可能性がある。
【0008】
そのため、前処理からHPLC/MSまで、全自動で一括工程を処理可能な自動分析装置の臨床検査分野への展開が求められていた。
【0009】
そのような自動分析装置のひとつとして、特許文献1には、前処理からHPLC/MSまでの一括工程を全自動でおこなえる自動分析装置が開示されている。
【0010】
一般的な免疫システムの前処理工程は、磁性ビーズの官能基に測定対象物質が結合した状態で、送液流路に送液し、流路内で集磁し、電気化学発光により計測する方法である。免疫システムで用いている方法のひとつであるECLIAは、抗体を結合したビーズを用いて抗原と反応させた後、ルテニウムピリジン錯体で標識した抗体を抗原に2次反応させ、電気化学反応によりルテニウムピリジン錯体の発光強度を測定する方法であり、1つの測定対象物質の抗体が結合した1種類の磁性ビーズを用いている。
【0011】
一方、複数のビーズを用いる方法として蛍光免疫染色法、DNAマイクロアレイ解析、免疫インサイチューハイブリダイゼーション等がある。蛍光免疫染色法は、蛍光色素を抱合した1次抗体を表面に結合した磁性ビーズを測定対象物質に結合させ、1次抗体に対する標識した2次抗体を結合させ、蛍光シグナルの増強させる方法である。
【0012】
DNAマイクロアレイ解析は、複数の蛍光標識した核酸鋳型であるcDNAやrDNAに微小ビーズを結合させ、ターゲットDNAと反応させ、発色の様子をスキャナーで観察する方法である。
【0013】
免疫インサイチューハイブリダイゼーションは、DNAやRNAを抽出せずにインサイチューで核酸鋳型を結合させ、発色の様子を観察する方法である。
【0014】
発色方法はCy3やCy5のような有機染色や、量子ドットのような無機標識のような染料を含有する溶液が用いられる。1種類の磁性ビーズを用いる手法であっても、特異性が高いモノクローナル抗体ではなく、ポリクローナル抗体が磁性ビーズの表面の抱合されている場合には、1種類の磁性ビーズで複数の測定対象物質を結合することが可能である。
【0015】
特許文献2には上記の手法をマイクロリアクター内で包括的に実施する発明が開示されている。
【0016】
HPLC/MSの一般的な前処理として、固相抽出を用いて、充填剤に測定対象物質を結合させたのちに、複数種類の溶出液を用いて、多段で抽出することがおこなわれている。例えば、C18の充填剤が封入された固相抽出の場合、有機溶媒濃度の異なる複数の溶出液を用いて、測定対象物質と夾雑物の分離をおこなう手法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】米国特許第9236236号公報
【文献】特開2018-46848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
磁性ビーズを用いた、自動分析装置の前処理方法において、スループットの向上、試料量の削減、検査精度の向上が望まれている。
【0019】
特許文献1で開示されている自動分析装置の前処理方法は、液/液抽出や固相抽出を用いた前処理方法が採用されているが、磁性ビーズを用いた前処理方法に関しては、何ら記載が無く、磁性ビーズを用いた前処理について、検査精度向上等を図ることは困難である。
【0020】
磁性ビーズ免疫システムのように、HPLC/MSを検出器として用いた自動分析装置の前処理工程に磁性ビーズを用いた前処理方法では、磁性ビーズの官能基に測定対象物質を結合させ、洗浄後、集磁した状態で溶出溶液を添加し、測定対象物質のみを溶出した溶液を、HPLC/MSに供試することになる。
【0021】
また、MSでの定量精度を向上させるために、測定対象物質の安定同位体物質も添加する必要がある。
【0022】
磁性ビーズを用いた前処理方法は、一般的な免疫システムよりも工程数が多くなるため、処理時間は一般的な免疫システムより長くなり、スループットを向上させる必要があった。
【0023】
特許文献2に開示されている抗体および蛍光標識が抱合したビーズを用いた各種方法は、蛍光標識体の発色を測定する。そのため、最終的に測定対象物質からビーズを解離する必要はない。
【0024】
一方、本発明が対象とする前処理からHPLC/MSまでの一括工程を全自動でおこなえる本自動分析装置では、HPLC/MSで分離・検出するために、前処理工程で測定対象物質からビーズを解離する溶出工程が必要となる。
【0025】
また、特許文献2には、複数の磁性ビーズを用いた場合に、検査精度を劣化させずに、スループットを向上させるために必要な溶出工程の方法、タイミングについては開示されていない。
【0026】
なお、固相抽出の場合は、充填剤に磁性ビーズを用いる必要はなく、攪拌や集磁する工程はなく、本発明が対象とする前処理工程とは異なるものである。
【0027】
本発明の目的は、測定対象物質を磁性ビーズに結合させて処理を行い、前処理から液体クロマトグラフ質量分析装置まで一括工程を全自動で行う自動分析装置の前処理方法において、複数の測定対象物質を結合可能な複数の磁性ビーズを用いて、一連の処理で複数の測定対象物質の前処理を行うことが可能な自動分析装置の前処理方法を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0028】
上記目的を達成するため、本発明は次のように構成される。
【0029】
測定対象物質を含む試料に磁性ビーズを添加し、前記磁性ビーズに前記測定対象物質を結合させ、前記磁性ビーズを前記試料から摘出し、前記磁性ビーズから前記測定対象物質を溶出液によって分離する自動分析装置の前処理方法において、前記試料に、複数種類の測定対象物質と結合する複数の磁性ビーズを添加し、前記溶出液により、前記磁性ビーズから前記複数種類の測定対象物質を分離する。
【発明の効果】
【0030】
測定対象物質を含む試料に磁性ビーズを添加し、前記磁性ビーズに前記測定対象物質を結合させ、前記磁性ビーズを前記試料から摘出し、前記磁性ビーズから前記測定対象物質を溶出液によって分離する自動分析装置の前処理方法において、 1アッセイプロトコール中で、複数種類の測定対象物質と結合する一種類の前記磁性ビーズを、前記試料に添加し、前記溶出液により、前記磁性ビーズから前記複数種類の測定対象物質を分離する前記前処理方法であって、前記一種類前記磁性ビーズは、測定試薬容器に収容され、前記一種類前記磁性ビーズは、第1の種類の測定対象物質と結合する第1の抗体と、第2の種類の測定対象物質と結合する第2の抗体とを有し、前記試料中に含まれる前記複数種類の測定対象物質の血中濃度比に応じて、前処理後の前記溶出液内に含有する前記複数種類の前記測定対象物質の混合比が均一化するように、前記測定試薬容器に収容された、前記磁性ビーズの前記第1の抗体の量比と前記第2の抗体の量比を調整する。
また、測定対象物質を含む試料に磁性ビーズを添加し、前記磁性ビーズに前記測定対象物質を結合させ、前記磁性ビーズを前記試料から摘出し、前記磁性ビーズから前記測定対象物質を溶出液によって分離する自動分析装置の前処理方法において、1アッセイプロトコール中で、前記試料に、複数種類の測定対象物質と結合する一種類の前記磁性ビーズを添加し、前記溶出液により、前記磁性ビーズから前記複数種類の測定対象物質を分離する前記前処理方法であって、前記磁性ビーズは、第1の種類の測定対象物質と結合する第1の抗体と、第2の種類の測定対象物質と結合する第2の抗体とが修飾され、前記試料に含まれる前記複数種類の測定対象物質の血中濃度比に応じて、前処理後の前記溶出液内に含有する前記複数種類の前記測定対象物質の混合比が均一化するように、前記第1の抗体と前記第2の抗体との量比を調整する。

【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明による前処理方法を実行する自動分析装置の概略図である。
図2】HPLC部の概略構成図である。
図3A】HPLC部のインジェクションバルブの動作説明図である。
図3B】HPLC部のインジェクションバルブの動作説明図である。
図4A】HPLC部のインジェクションバルブの動作説明図である。
図4B】HPLC部のインジェクションバルブの動作説明図である。
図4C】HPLC部のインジェクションバルブの動作説明図である。
図5】1種類の磁性ビーズを用いた場合のアッセイプロトコールについての説明図である。
図6】実施例1について、2種類の磁性ビーズを用いた場合のアッセイプロトコールについての説明図である。
図7】実施例2について、2種類の磁性ビーズを用いた場合のアッセイプロトコールについての説明図である。
図8A】実施例3における複数の官能基を有する磁性ビーズの概念を示す図である。
図8B】実施例3における複数の官能基を有する磁性ビーズの概念を示す図である。
図8C】実施例3における複数の官能基を有する磁性ビーズの概念を示す図である。
図9】実施例3における複数の官能基を有する磁性ビーズを用いた場合の前処理前後の測定対象物質の量比を現す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施例は自動分析装置を主な対象としているが、本発明は分析装置全般に適用可能なものである。本発明は、例えば、遺伝子分析装置、細菌検査装置にも適用できる。
【実施例
【0033】
(実施例1)
図1は、本発明の実施例1による前処理方法を実行する自動分析装置の概略図である。
【0034】
図1において、自動分析装置1は、分析動作を行うための分析部101と、装置全体の動作を制御するための制御部102と、ユーザが装置に情報を入力するための入力部103と、ユーザに情報を表示するための表示部104と、を備える。なお、入力部103と表示部104とは同一のものであっても良く、その一例としてタッチパネル式のモニタが挙げられる。
【0035】
自動分析装置1の分析部101は、前処理部110と、HPLC部130と、検出部140から構成される。
【0036】
分析部101は、試料が含まれる試料容器111を試料分取位置まで搬送するための試料容器搬送機構112と、試料を吐出するための試料分注機構113と、反応容器114を搭載した反応容器搭載ラック115と、反応容器114を搬送するための反応容器搬送機構116と、反応容器114を複数個保持可能な反応容器ディスク117とを備える。
【0037】
また、分析部101は、測定試薬を含む測定試薬容器118を保持するための試薬ディスク119と、測定試薬を反応容器114に吐出する試薬分注機構120と、反応容器114内に収容された液体を非接触で撹拌する攪拌機構121と、磁性ビーズを集磁する第1集磁機構122と、反応容器ディスク117と撹拌機構121と第1集磁機構122との間で反応容器114を搬送する第1搬送機構123と、第1集磁機構122から廃液を分注する廃液分注機構124とを備える。
【0038】
さらに、分析部101は、磁性ビーズを集磁する第2集磁機構125と、反応容器ディスク117と第2集磁機構125との間で反応容器114を搬送する第2搬送機構126と、溶出液をHPLC部130に導入する溶出液分注機構127とを備える。
【0039】
図2はHPLC部130の概略構成図である。
【0040】
図2において、HPLC部130は、試料(前処理済みの溶出液)を送液するポンプ201と、システム圧力を計測する圧力センサ202と、試料(前処理済みの溶出液)を計量するサンプルループを備えた6方2ポジションのインジェクションバルブ203とを備える。
【0041】
また、HPLC部130は、カラム204と、カラム204を温調するカラムオーブン205と、試料(前処理済みの溶出液)を保持する試料バイアル206と、試料バイアル206から試料をサンプルループに導入するシリンジ207とを備える。
【0042】
図示はしないが、HPLC部130は、カラム204に測定対象物質が結合するように試料の組成を変更する場合は、試料バイアル206に希釈液を添加する機構も備える。
【0043】
図1に示す検出部140は、質量分析装置が搭載されている。質量分析装置は、図示は省略するが、HPLC部130で分離された測定対象物質を含む溶液に、高温度、高電圧を印加し、イオン化するイオン化部と、質量数に応じて測定対象物質と夾雑部の分離をおこなう三連四重極型質量分析計を備える。三連四重極型質量分析計を用いて、SRM(Selected Reaction Monitoring)モードにより測定対象成分の測定をおこなう。
【0044】
以下に自動分析装置の分析工程の概要について、図1を参照しながら説明する。
【0045】
自動分析装置1は、分析に先立ち、反応容器搬送機構116により、反応容器搭載ラック115から反応容器114を搬送し、反応容器ディスク117に反応容器114を設置する。
【0046】
試料分注機構113は、試料容器搬送機構112により搬送された試料容器111から試料を吸引し、反応容器ディスク117上の反応容器114に吐出する。試料分注機構113は、本実施例1ではチップを交換しない分注機構を採用しているが、試料の吸引に先立ち分注チップ装脱着部(図示せず)で先端に分注チップを取り付けるディスポーザブルの分注機構であってもよい。ディスポーザブルの分注機構の場合、試料分注機構113は、一つの試料容器111からの試料分注が終了すると、分注チップを分注チップ装脱着部に廃棄する。反応容器ディスク117上の、試料が分注された反応容器114は、第1搬送機構123により撹拌機構121まで搬送される。反応容器114内の試料の攪拌後、第一搬送機構123により反応容器114は反応容器ディスク117に戻される。
【0047】
試薬分注機構120は、試薬ディスク119上の測定試薬容器118から、測定試薬を吸引し、反応容器114内に吐出する。試薬分注機構120の稼働箇所は、反応容器ディスク117および攪拌機構121のどちらにもアクセス可能な箇所であり、撹拌機構121が反応容器114に収容された液体の撹拌を開始した後に、攪拌機構121に反応容器114が保持された状態で、試薬の吐出を開始する。
【0048】
撹拌機構121は、例えば、試薬分注機構120が反応容器114に対して所定量の試薬を吐出し終わる前に、反応容器114内の液体を撹拌する。このようにすると、試薬分注機構120が多量の試薬を吐出し終えてから溶液の撹拌を開始する場合と比較して、不溶物が生じにくい。
【0049】
なお、所定量の試薬とは、試薬分注機構120が測定試薬容器118から吸引した試薬のうち一部の量の試薬を意味する。また、試薬分注機構120は、撹拌機構121と同時に稼働してもよく撹拌機構121が停止している間に稼働してもよい。
【0050】
反応容器114に収容された試料および試薬の混合液は、攪拌機構121によって攪拌されて流れを生じる。試薬の吐出および攪拌は、試薬分注機構120が、反応容器ディスク117上で反応容器114に試薬を吐出した後に、第1搬送機構123により撹拌機構121まで搬送され、攪拌してもよい。
【0051】
試薬分注機構120による試薬の吐出および撹拌機構121による攪拌が終わった反応容器114は、第1搬送機構123により反応容器ディスク117上に再び設置される。反応容器ディスク117は、例えば、インキュベーターとして機能し、保持された反応容器114を一定時間インキュベートする。
【0052】
磁性ビーズは測定試薬容器118に保存(収容)されており、試薬分注機構120を用いて、試反応容器114に吐出される。反応容器114内で、試料中の測定対象物質が磁性ビーズと結合する。その後、反応容器114は、第1搬送機構123により、第1集磁機構122に搬送され、磁性ビーズを反応容器114の側面に吸着させる。
【0053】
廃液分注機構124は、2本のシッパーが搭載され、廃液の吸引・吐出および洗浄液の吐出ができる機構を有する。廃液分注機構124は、第1集磁機構122に移動し、溶液を吸引し、試料から磁性ビーズが摘出される。そして、廃液分注機構124は、廃液吐出位置に移動し、廃液を吐出する。廃液分注機構124は、第1集磁機構122に移動し、反応容器114内に洗浄液を吐出する。洗浄液が吐出された反応容器114は、第1搬送機構123により、攪拌機構121に搬送され、攪拌される。
【0054】
その後、反応容器114は、第1搬送機構123により、第1集磁機構122に搬送され、廃液分注機構124で洗浄液の吸引・吐出がおこなわれる。洗浄を複数回実施する場合は、廃液の吸引・吐出および洗浄液の吐出が複数回おこなわれる。攪拌機構121および第1集磁機構122は各機構に2箇所設けられており、複数の反応容器114に対して同時並行して洗浄処理をおこなうことができる。
【0055】
反応容器114の洗浄後、第1搬送機構123により、反応容器114は反応容器ディスク117に戻される。反応容器114には洗浄後の磁性ビーズが保持されている。試薬分注機構120により、測定試薬容器118に保存された溶出液が、反応容器114に吐出して、磁性ビーズから測定対象物質が分離される。そして、第1搬送機構123により、反応容器114を攪拌機構121に移送し、攪拌を行った後に、反応容器ディスク117に戻し、インキュベーションされる。溶出液は、磁性ビーズの種類に応じたものである。
【0056】
第2搬送機構126により、インキュベーション後の反応容器114が第2集磁機構125に搬送され、磁性ビーズを反応容器114の側面に吸着させる。検出部用分注機構127は、反応容器114中の溶出液を吸引し、HPLC部130に搬送する。
【0057】
HPLC部130の試料導入方法について、インジェクションバルブ203の動作説明図である図3A図3B図4A図4Bおよび図4Cを用いて説明する。
【0058】
図3Aに示すように、インジェクションバルブ203がポジション1(試料バイアル206-サンプルループーシリンジ207がつながるポジション)の状態において、シリンジ207を吸引方向に駆動し、試料バイアル206内の試料をサンプルループ内に引込む。
【0059】
そして、図3Bに示すように、インジェクションバルブ203をポジション2(サンプルループを試料バイアル206及びシリンジ207から分離するポジション)として、HPLC部130内部に試料を取り込む方式とすることができる。
【0060】
また、図4A図4B図4Cに示すような方式でHPLC部130内部に試料を取り込む方式とすることができる。
【0061】
つまり、図4Aに示すように、インジェクションバルブ203のポジション2(試料バイアル206-シリンジ207がつながるポジション)において、試料をシリンジ側まで引き込む。そして、図4Bに示すように、インジェクションバルブ203をポジション1(試料バイアル206-サンプルループーシリンジ207がつながるポジション)に切替えてシリンジポンプ207でサンプルループに押し込む。その後、図4Cに示すように、インジェクションバルブ203をポジション2として、HPLC部130内部に試料を取り込む方式とすることができる。
【0062】
HPLC部130で分離された測定対象物質を含む溶液は、検出部140に導入される。検出部140は質量分析計が搭載されており、イオン化部で溶液のイオン化をおこない、三連四重極型質量分析計に導入し、測定をおこなう。データ解析は、面積値の比率を取得し、濃度既知の試料から作成した検量線を用いて、試料濃度を算出する。
【0063】
質量分析計は、四重極型質量分析計、イオントラップ型質量分析計等、他の種類の質量分析計を用いることもできる。また、検出部140は、質量分析計でなくてもよく、DAD(Diode Array Detecor)、UV検出器、ガスクロマトグラフィーおよびNMR等でもよい。
【0064】
本実施例1では、2種類の磁性ビーズ(抗体が官能基として表面に修飾された磁性ビーズ(第1の磁性ビーズ)と逆相モードの官能基(一例としてODS(オクタデシルシリル基))が表面に修飾された磁性ビーズ(第2の磁性ビーズ))の場合のアッセイプロトコールについて説明する。第1の磁性ビーズが第2の磁性ビーズより先に、測定対象物質と反応する。
【0065】
ODSは多孔性のシリカゲルにジメチルオクタデシルシランのようなシランカップリング剤を反応させ、オクタデシル基で表面が修飾された磁性ビーズである。疎水性相互作用により試料中の測定対象物質を結合させ、有機溶媒等で溶出させる。
【0066】
はじめに1種類の磁性ビーズ(官能基: ODSビーズ)の場合について説明する。
【0067】
図5は1種類の磁性ビーズ(官能基: ODSビーズ)を用いた場合のアッセイプロトコールについての説明図である。ステロイドホルモンの1種であるテストステロンを測定対象物質にした場合について説明する。
【0068】
図5において、アッセイプロトコールは全体で51サイクル必要であり、30.6分必要である。このため、1サイクルあたりの時間は36秒に設定されている。
【0069】
ただし、本実施例1では1サイクルを36秒に設定したが、36秒より長くしてもよいし、短くしてもよい。以下、サイクルごとの説明を記載する。処理ステップ501~511が、1種類の磁性ビーズを用いた場合の前処理ステップである。ただし、処理ステップ501~509までを、1種類の磁性ビーズを用いた場合の前処理ステップと定義することもできる。
【0070】
サイクル1(処理ステップ501)において、試料、内部標準物質の添加および攪拌を行う。
【0071】
サイクル2(処理ステップ502)において、試薬1の添加および攪拌を行う。
【0072】
サイクル3-10(処理ステップ503)において、インキュベートを行う(4.8分)。
【0073】
サイクル11(処理ステップ504)において、試薬2の添加および攪拌を行う。
【0074】
サイクル12-26(処理ステップ505)において、インキュベートを行う(9.0分)。
【0075】
サイクル27(処理ステップ506)において、磁性ビーズの添加および攪拌を行う。
【0076】
サイクル28-42(処理ステップ507)において、インキュベートを行う(9.0分)。
【0077】
サイクル43-45(処理ステップ508)において、洗浄液の添加および攪拌を行う。
【0078】
サイクル46(処理ステップ509)において、溶出液の添加および攪拌を行う。
【0079】
サイクル47-50(処理ステップ510)において、インキュベートを行う(2.4分)。
【0080】
サイクル51(処理ステップ511)において、溶出液のHPLC部130への移送を行う。
【0081】
なお、サイクル1で添加する試料は血清であり、100μL添加した。試料は血清でなくてもよく、血漿、全血、尿、細胞組織、血液細胞等でもよい。内部標準物質は、100pg/mLのテストステロン-2,3,4-13C3を100μL添加した。ただし、内部標準物質はテストステロン-D3でもよい。
【0082】
また、サイクル2で添加する試薬1は、pH調整用の試薬である0.1%のギ酸水溶液を10μL添加した。インキュベーションは37℃で実施した。サイクル11で添加する試薬2は本実施例1では用いないが、通常は2つめのpH調製用の試薬や、たんぱく質変性剤等となる。
【0083】
サイクル27で添加する磁性ビーズは添加前に攪拌(磁性ビーズ用の攪拌機構は図示しない)したのちに100μL添加した。サイクル43-45で添加する洗浄液は、純水を100μL添加した。サイクル46で添加する溶出液は、80%のメタノール溶液を50μL添加した。
【0084】
図6は、実施例1の場合であり、2種類の磁性ビーズ(官能基:ODSビーズと抗体ビーズ)を用いた場合のアッセイプロトコールについての説明図である。ステロイドホルモンの1種であるテストステロンおよびアミノグリコシド系抗菌剤の1種であるゲンタマイシンの2種類の測定対象物質を測定する場合について説明する。
【0085】
アッセイプロトコールは全体で74サイクル必要であり、44.4分必要である。このため、1サイクルあたりの時間は36秒に設定されている。本実施例1では1サイクル36秒に設定したが、36秒より長くしてもよいし、短くしてもよい。以下、サイクルごとの説明を記載する。処理ステップ601~616が、2種類の磁性ビーズを用いた場合の前処理ステップである。ただし、処理ステップ601~、611、614を、2種類の磁性ビーズを用いた場合の前処理ステップと定義することもできる。
【0086】
サイクル1-2(処理ステップ601)において、試料、内部標準物質1、内部標準物質2の添加および攪拌を行う。
【0087】
サイクル3(処理ステップ602)において、試薬1(R1)の添加および攪拌を行う。
【0088】
サイクル4-11(処理ステップ603)において、インキュベートを行う(4.8分)。
【0089】
サイクル12(処理ステップ604)において、試薬2(R2)の添加および攪拌を行う。
【0090】
サイクル13-27(処理ステップ605)において、インキュベートを行う(9.0分)。
【0091】
サイクル28(処理ステップ606)において、磁性ビーズ1の添加および攪拌を行う。
【0092】
サイクル29-43(処理ステップ607)において、インキュベートを行う(9.0分)。
【0093】
サイクル44(処理ステップ608)において、磁性ビーズ2の添加および攪拌を行う。
【0094】
サイクル45-59(処理ステップ609)において、インキュベートを行う(9.0分)。
【0095】
サイクル60-62(処理ステップ610)において、洗浄液の添加および攪拌を行う。
【0096】
サイクル63(処理ステップ611)において、溶出液1の添加および攪拌を行う。
【0097】
サイクル64-67(処理ステップ612)において、インキュベートを行う(2.4分)。
【0098】
サイクル68(処理ステップ613)において、溶出液のHPLC部130への移送を行う。
【0099】
サイクル69(処理ステップ614)において、溶出液2の添加および攪拌を行う。
【0100】
サイクル70-73(処理ステップ615)において、インキュベートを行う(2.4分)。
【0101】
サイクル74(処理ステップ616)において、溶出液のHPLC部130への移送を行う。
【0102】
サイクル1-2(処理ステップ601)で添加する試料は血清100μLであり、ゲンタマイシン用の内部標準物質として1μg/mLのトブラマイシンを添加し、テストステロン用の内部標準物質として100pg/mLのテストステロン-2,3,4-13C3をそれぞれ100μL添加した。
【0103】
サイクル3(処理ステップ602)で添加する試薬1は、pH調整用の試薬である0.1%のギ酸水溶液を10μLとした。インキュベーションは37℃で実施した。サイクル12(処理ステップ604)で添加する試薬2は本実施例1では用いないが、通常は2つめのpH調製用の試薬や、たんぱく質変性剤等となる。
【0104】
サイクル28(処理ステップ606)で添加する磁性ビーズ1は、アミノグリコシド系抗菌剤の構造に特異的に結合する抗体を官能基に有する磁性ビーズであり、1μL添加した。サイクル44(処理ステップ608)で添加する磁性ビー2は、ODSを官能基に有する磁性ビーズであり、100μL添加した。
【0105】
サイクル60-62(処理ステップ610)で添加する洗浄液は、純水とし、100μL添加した。サイクル63(処理ステップ611)で添加する溶出液1は、高pH溶液である0.1%グリシン・ナトリウム溶液(pH10.0)とし、50μL添加した。抗体を官能基に有する磁性ビーズ1に対する溶出液は、磁性ビーズ2の種類により、用いることが可能な溶出液が限定される。本実施例1では磁性ビーズ2にODSを官能基に有する磁性ビーズを用いているため有機溶媒が高い溶媒を用いることができない。0.1%グリシン・ナトリウム溶液(pH10.0)以外にも低pH溶液である100mMグリシン・塩酸溶液(pH3.0)や変性剤である8mol/Lの尿素、6mol/Lのグリシン塩酸塩を用いてもよい。
【0106】
サイクル69(処理ステップ614)で添加する溶出液2は、80%のメタノール溶液とし、50μL添加した。
【0107】
本実施例1では磁性ビーズ表面に修飾される官能基はODSと抗体の2種類の磁性ビーズを用いたが、ほかのモードでもよく、例えばHILIC、順相、イオン交換、GPC(分子量分画)、SFC(超臨界流体クロマトグラフィ)でもよい。これは標的とする2種類の測定対象物質の物性により適宜選択されるが、測定対象物質ごとに吸着の特異性が高い磁性ビーズを選択することが好ましい。例えば、親水性が高い測定対象物質には、順相モードの官能基が磁性ビーズの表面に修飾した磁性ビーズを用いる。疎水性が高い測定対象物質には、逆相モードの官能基が表面に修飾した磁性ビーズを用いる。
【0108】
サイクル28(処理ステップ606)で添加する磁性ビーズ1と、サイクル44(処理ステップ608)で添加する磁性ビーズ2は、より特異性が高い官能基が修飾した磁性ビーズを磁性ビーズ1として早いサイクル数で添加する。より特異性が高いとは、例えば、抗体が表面に修飾した磁性ビーズのことである。特異性が高い磁性ビーズから添加し、試料から測定対象物質を処理することで、再現性の精度が向上する。
【0109】
サイクル28(処理ステップ606)とサイクル44(処理ステップ608)で添加する磁性ビーズの量は、本実施例1では磁性ビーズ1を1μL、磁性ビーズ2を100μL添加したが、添加量は試料に含有される測定対象物質の量比により適宜変更することができる。例えば、一つ目の測定対象物質が数pg/mLオーダー、二つ目の測定対象物質が数μg/mLオーダーの場合、磁性ビーズの添加量および測定試薬容器118に保存する磁性ビーズの濃度を調整して、前処理後の溶液に含有する各測定対象物質の濃度を均一化することができる。
【0110】
前処理後の溶液に含有する測定対象物質の濃度比が高い(例えば1000倍程度)と、HPLC部130で分離後のピークが重なり、同一時間に検出部140に測定対象物質が同時に導入された場合、高い濃度の測定対象物質が優先的にイオン化部でイオン化される。
【0111】
そのため、低い濃度の測定対象物質はイオン化効率が低くなり、再現性が悪くなる。そのため、前処理後の溶出液内に含有する複数の測定対象物質の濃度比を均一化することで、測定精度が向上することになる。
【0112】
以上のように、本発明の実施例1によれば、1アッセイプロトコールに複数種類の測定対象物質と結合可能な複数種類の磁性ビーズを用いることで、一連の前処理で複数の測定対象物質の前処理を行うことができる。この場合、1アッセイプロトコールあたりのサイクル数は増加するが、複数種類の測定対象物質を処理することが可能であるため、1サイクルずつ、並列に前処理をおこなうことで、時間あたりのテスト数は増加し、スループットを向上することができる。
【0113】
本実施例1では1サイクルあたり36秒(0.6分)に設定している。よって、仮に、1種類の磁性ビーズを用いた場合、1アッセイプロトコールは51サイクルであるため、30.6分必要になる。
【0114】
これに対して、2種類の磁性ビーズを用いた場合、1アッセイプロトコールは74サイクルであるため、44.4分必要になる。2種類の磁性ビーズを用いた場合は、1アッセイプロトコールあたり、2種類の測定対象物質を処理できるため、最初の試料が1アッセイプロトコール終了後、1種類のビーズを用いる場合に比べてスループットは約2倍に向上する。
【0115】
また、1アッセイプロトコールで用いる試料量は同量であるため、処理できる1測定対象物質あたりの試料量は約2分の1となり試料量を節約することができる。
【0116】
つまり、本発明の実施例1によれば、複数の測定対象物質を結合可能な複数の磁性ビーズを用いて、一連の処理で複数の測定対象物質の前処理を行うことが可能な自動分析装置の前処理方法を実現することができる。
【0117】
(実施例2)
次に、本発明の実施例2について説明する。なお、実施例2による前処理方法も、図1に示した自動分析装置により実行される。
【0118】
図7は、実施例2の説明図であり、2種類の磁性ビーズ(官能基:抗体ビーズ種類(第1の磁性ビーズ及び第2の磁性ビーズ共に、官能基として抗体が表面の修飾されている))を用いた場合のアッセイプロトコールについての説明図である。
【0119】
以下、副甲状腺ホルモンの1種であるPTHおよび脂溶性ビタミンの1種である25-OH ビタミンD3を測定対象物質にした場合について説明する。
【0120】
PTHは血中のカルシウムおよびリン酸の代謝を調整する因子であり、甲状腺疾患やがんに寄与する物質である。ビタミンDは血中のカルシウム量の代謝を調整する因子であり骨粗しょう症のほかに、がん、糖尿病等に寄与する物質である。
【0121】
本実施例2では、PTHを選択的に補足できる抗体ビーズおよびビタミンD3を選択的に補足できる抗体ビーズを用いる。アッセイプロトコールは全体で53サイクル必要であり、31.8分必要である。1サイクルあたりの時間は36秒に設定されている。本実施例2では1サイクル36秒に設定したが、36秒より長くしてもよいし、短くしてもよい。下記にサイクルごとの説明を記載する。処理ステップ701~711が、実施例2における2種類の磁性ビーズを用いた場合の前処理ステップである。ただし、処理ステップ701~709までを、実施例2における2種類の磁性ビーズを用いた場合の前処理ステップと定義することもできる。
【0122】
サイクル1-2(処理ステップ701)において、試料、内部標準物質1、内部標準物質2の添加および攪拌を行う。
【0123】
サイクル3(処理ステップ702)において、試薬1の添加および攪拌を行う。
【0124】
サイクル4-11(処理ステップ703)において、インキュベートを行う(4.8分)。
【0125】
サイクル12(処理ステップ704)において、試薬2の添加および攪拌を行う。
【0126】
サイクル13-27(処理ステップ705)において、インキュベートを行う(9.0分)。
【0127】
サイクル28-29(処理ステップ706)において、磁性ビーズ1、磁性ビーズ2の添加および攪拌を行う。
【0128】
サイクル30-44(処理ステップ707)において、インキュベートを行う(9.0分)。
【0129】
サイクル45-47(処理ステップ708)において、洗浄液の添加および攪拌を行う。
【0130】
サイクル48(処理ステップ709)において、溶出液1の添加および攪拌を行う。
【0131】
サイクル49-52(処理ステップ710)において、インキュベートを行う(4.8分)。
【0132】
サイクル53(処理ステップ711)において、溶出液のHPLC部130への移送を行う。
【0133】
サイクル1-2(処理ステップ701)で添加する試料は血清であり、100μL添加した。PTH用の内部標準物質として1μg/mLの15N標識体のPTHを使用し、25-OH ビタミンD3用の内部標準物質として100 pg/mLの25-OH ビタミンD3-d6を使用し、それぞれ100μL添加した。
【0134】
サイクル3(処理ステップ702)で添加する試薬1は、pH調整用の試薬である0.1%のギ酸水溶液を10μL添加した。ステップ703、705、707、710におけるインキュベーションは37℃で実施した。
【0135】
サイクル12(処理ステップ704)で添加する試薬2は本実施例2では用いないが、通常は2つめのpH調製用の試薬や、たんぱく質変性剤等となる。
【0136】
サイクル28(処理ステップ706)で添加する磁性ビーズ1は、PTHに特異的に結合する抗体を官能基に有する磁性ビーズであり、50μL添加した。
【0137】
サイクル29で添加する磁性ビーズ2は、25-OH ビタミンD3に特異的に結合する抗体を官能基に有する磁性ビーズであり、50μL添加した。
【0138】
サイクル45-47(処理ステップ708)で添加する洗浄液は、純水であり、100μL添加した。サイクル48(処理ステップ709)で添加する溶出液1は、高pH溶液である0.1%グリシン・ナトリウム溶液(pH10.0)であり、50μL添加した。
【0139】
実施例1の測定対象物質と実施例2の測定対象物質とは、互いに異なることから、磁性ビーズは共に2種類であるが、実施例1と実施例2とは、磁性ビーズの種類が異なっている。
【0140】
また、実施例1においては、ステップ606で磁性ビーズ1を添加し、攪拌した後、処理ステップ607でインキュベートを行い、次に、処理ステップ608で磁性ビーズ2を添加し、攪拌した後、処理ステップ609でインキュベートを行っている。
【0141】
これに対して、実施例2においては、処理ステップ706で磁性ビーズ1及び磁性ビーズ2を添加し、攪拌した後、処理ステップ707でインキュベートを行っている。
【0142】
また、実施例1においては2種類の溶出液を用いることから、処理ステップ611で、溶出液1の添加および攪拌を行い、処理ステップ612でインキュベートを行い、処理ステップ613で、溶出液のHPLC部130への移送を行う。その後、処理ステップ614で、溶出液2の添加および攪拌を行い、処理ステップ615でインキュベートを行い、処理ステップ616で、溶出液のHPLC部130への移送を行っている。
【0143】
これに対して、実施例2においては、1種類の溶出液を用いることから、処理ステップ709で、溶出液1の添加および攪拌を行い、処理ステップ710で、インキュベートを行い、処理ステップ711で、溶出液のHPLC部130への移送を行っている。
【0144】
よって、実施例1では、アッセイプロトコールは、全体で74サイクル必要であり、44.4分必要である。
【0145】
これに対して、実施例2では、アッセイプロトコールは、全体で53サイクル必要であり、31.8分必要である。実施例2の処理時間は、実施例1の処理時間より短縮されている。
【0146】
つまり、本発明によれば、測定対象物質が異なれば、さらに、処理時間を短縮することが可能となる。
【0147】
(実施例3)
次に、本発明の実施例3について説明する。なお、実施例3による前処理方法も、図1に示した自動分析装置により実行される。
【0148】
実施例3は、1種類の磁性ビーズを用いる場合のアッセイプロトコールである。実施例3における磁性ビーズは1種類であるが、磁性ビーズの表面に複数の官能基が修飾する磁性ビーズを用いる。
【0149】
図8A図8B図8Cは、実施例3における複数の官能基を有する磁性ビーズの概念を示す図である。
【0150】
図8Aに示すように、実施例3に用いる磁性ビーズには、磁性ビーズ801に、抗体A802(第1の抗体)、抗体B803(第2の抗体)が修飾され、抗体A802に測定対象物質A804(第1の種類の測定対象物質)が特異的に結合し、抗体B803に測定対象物質B805(第2の種類の測定対象物質)が特異的に結合する。
【0151】
本実施例3では測定対象物質A804に甲状腺ホルモンの1種であるPTHおよび測定対象物質B805脂溶性ビタミンの1種である25-OHビタミンD3を測定対象物質にした場合について説明する。
【0152】
磁性ビーズ801の表面には、抗体A802としてPTHに特異的に結合する抗体および抗体B803として25-OHビタミンD3に特異的に結合する抗体が修飾されている。
【0153】
健常者の男性のPTHの血中濃度は10-65pg/mLであり、25-OHの血中濃度は15-40ng/mLであり、約1000倍の濃度差がある。
【0154】
このため、図8Bに示すように、磁性ビーズ801の表面に修飾している抗体A802の量比を抗体B803より、例えば1000倍程度多くする。
【0155】
図8Bに示した例だけではなく、測定対象物質A804と測定対象物質B805の血中濃度比により、図8Cに示すように、磁性ビーズ801の表面に修飾している抗体A802の量比を抗体B803より少なくしてもよい。
【0156】
また、図8Aに示すように、磁性ビーズ801表面に修飾している抗体A802の量比を抗体B803と同等にしてもよい。
【0157】
図9は、実施例3における複数の官能基を有する磁性ビーズ801を用いた場合の前処理前後の測定対象物質の量比を現す概念図である。
【0158】
図9の(A)は、測定対象物質と血中(試料)濃度の関係を示すグラフ901を示し、図9の(B)は、前処理後の測定対象物質と溶出液中の濃度関係を示すグラフ902を示している。
【0159】
図9の(A)に示す前処理前の血中(試料中)の濃度においては、測定対象物質Aの濃度903は血中(試料中)の測定対象物質Bの濃度904より低い。
【0160】
測定対象物質A及びBを、本実施例3における磁性ビーズ801を用いて前処理することにより、図9の(B)に示すように、溶出液中の測定対象物質Aの濃度905と、溶出液中の測定対象物質Bの濃度906とを同等とすることができる。
【0161】
つまり、磁性ビーズ801の抗体Aと抗体Bの量比を調整することで、前処理後の溶出液内に含有する複数の測定対象物質の濃度比を均一化することができ、測定精度が向上することになる。
【0162】
実施例3におけるアッセイプロトコールは、図5に示すように、1種類の磁性ビーズを用いた場合における処理ステップ501~511を実行する。ただし、実施例3の場合は、使用される一種類の磁性ビーズ801は、複数種類の測定対象物質に結合する抗体が修飾されていることから、複数種類の測定対象物質を処理可能であり、スループットを向上することができ、かつ、複数の測定対象物質の濃度比を均一化することができので、測定精度が向上することができる。
【0163】
実施例3におけるアッセイプロトコールは、測定対象物質の種類により、図5に示す処理ステップ501~511を実行し、図6に示す処理ステップ611~616を実行する場合もある。
【0164】
実施例3によれば、実施例1及び実施例2と同様な効果を得ることができる他、上述したように、測定精度が向上することができる。
【0165】
なお、本実施例3では、磁性ビーズは1種類であり、磁性ビーズの表面に2種類の官能基が修飾する磁性ビーズ801について説明したが、官能基の種類は少なくとも2種類以上であることが好ましく、例えば3種類であっても、4種類であってもよい。
【0166】
以上説明した本発明によれば、測定対象物質を磁性ビーズに結合させて処理を行い、前処理から液体クロマトグラフ質量分析装置まで一括工程を全自動で行う自動分析装置の前処理方法において、複数の測定対象物質を結合可能な複数の磁性ビーズを用いて、一連の処理で複数の測定対象物質の前処理を行うことが可能な自動分析装置の前処理方法を実現することができる。
【0167】
本発明の効果について、さらに詳細に説明すると、以下のとおりとなる。
【0168】
一つ目は、スループットが向上する。前処理からHPLC/MSまでの一括工程を全自動でおこなえる自動分析装置では、HPLCによるカラム分離と、MSによる質量分離したのちに検出器に導入することから、前処理後の溶液には複数の測定対象物質が混在していても検出可能である。
【0169】
このため、複数種類の磁性ビーズと、複数の溶出液を用いて、1連の前処理(アッセイプロトコール)内に複数の測定対象物質を前処理することが可能となる。
【0170】
複数種類の磁性ビーズを用いることで、1アッセイプロトコール内のサイクル数は増加するが、複数の測定対象物質を処理可能であるため、並列に前処理をおこなうことで、時間当たりのテスト数は増加し、スループットは向上する。なお、1アッセイプロトコールは試料を添加してから前処理が終了し、分離・検出工程に前処理後の溶液を導入するまでのことである。
【0171】
1アッセイプロトコールは複数のサイクルから構成される。各サイクルの時間は同一で、サイクルごとの動作を連続的におこなうことで、1アッセイプロトコールとなる。
【0172】
二つ目は、検査できる測定対象物質あたりの試料量が削減できる。1アッセイプロトコール内で複数の磁性ビーズを用いて前処理をおこなう場合、1アッセイプロトコールで用いる試料量は同じであるため、検査可能な測定対象物質あたりの試料量は少量で検査可能である。
【0173】
最後に、前処理後の溶出液中の測定対象物質の濃度を調整し、検査精度を向上することができる。試料中の複数の測定対象物質の含有量によって、添加する各測定対象物質に対する磁性ビーズの量を調整することで、前処理後の溶液に含まれる測定対象物質の含有量を調整することができる。
【0174】
具体的には、低濃度の測定対象物質に対する添加する磁性ビーズの量比を多くし、高濃度の測定対象物質に対する添加する磁性ビーズの量比を少なくする。または、低濃度の測定対象物質に対する測定試薬容器に保管する磁性ビーズの濃度を高くし、高濃度の測定対象物質に対する測定試薬容器に保管する磁性ビーズの濃度を低くする。もしくは、各磁性ビーズの濃度と添加量を調整する。
【0175】
前処理後に含まれる測定対象物質の量を均一化することができ、ばらつきの大きな原因となるMSのイオン源でのイオン化効率の影響を軽減することができるため、検査精度が向上する。
【0176】
なお、磁性ビーズは、2種類以上の種類のものを使用可能である。また、測定対象物質も2種類以上であってもよい。
【0177】
また、実施例1及び2において、第1の種類の測定対象物質と結合する第1の磁性ビーズと、第2の種類の測定対象物質と結合する第2の磁性ビーズとを、記試料中に含まれる複数種類の測定対象物質の血中濃度比に応じて、測定試薬容器118に収容された、第1の磁性ビーズと第2の磁性ビーズとの濃度又は添加量を調整するように構成することもできる。
【符号の説明】
【0178】
1:自動分析装置、101:分析部、102:制御部、103:入力部、104:表示部、110:前処理部、111:試料容器、112:試料容器搬送機構、113:試料分注機構、114:反応容器、115:反応容器搭載ラック、116:反応容器搬送機構、117:反応容器ディスク、118:測定試薬容器、119:試薬ディスク、120:試薬分注機構、121:攪拌機構、122:第1集磁機構、123:第1搬送機構、124:廃液分注機構、125:第2集磁機構、126:第2搬送機構、127:溶出液分注機構、130:HPLC部、140:検出部、201:ポンプ、202:圧力センサ、203:インジェクションバルブ、204:カラム、205:カラムオーブン、206:試料バイアル、207:シリンジ、501~511、601~616、701~711:処理ステップ、801:磁性ビーズ、802:抗体A、803:抗体B、804:測定対象物質A、805:測定対象物質B、903:血中(試料中)の測定対象物質Aの濃度、904:血中(試料中)の測定対象物質Bの濃度、905:溶出液中の測定対象物質Aの濃度、906:溶出液中の測定対象物質Bの濃度
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図9