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特許7520863グリオキシル酸又はその縮合生成物若しくは付加生成物を含有する混合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】グリオキシル酸又はその縮合生成物若しくは付加生成物を含有する混合物
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20240716BHJP
   C04B 28/06 20060101ALI20240716BHJP
   C04B 28/08 20060101ALI20240716BHJP
   C04B 22/10 20060101ALI20240716BHJP
   C04B 24/02 20060101ALI20240716BHJP
   C04B 24/06 20060101ALI20240716BHJP
   C04B 24/12 20060101ALI20240716BHJP
   C04B 24/16 20060101ALI20240716BHJP
   C04B 24/22 20060101ALI20240716BHJP
   C04B 24/30 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B28/06
C04B28/08
C04B22/10
C04B24/02
C04B24/06 A
C04B24/12 Z
C04B24/16
C04B24/22 B
C04B24/30 C
C04B24/30 Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021549935
(86)(22)【出願日】2020-02-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-25
(86)【国際出願番号】 EP2020053931
(87)【国際公開番号】W WO2020173723
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2023-02-14
(31)【優先権主張番号】19159761.6
(32)【優先日】2019-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ハラルト グラスル
(72)【発明者】
【氏名】ヨアヒム デングラー
(72)【発明者】
【氏名】ジュリアン ビッツォツェロ
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー シェーベル
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/212045(WO,A1)
【文献】中国特許第102992683(CN,B)
【文献】特開昭51-139823(JP,A)
【文献】国際公開第2017/221749(WO,A1)
【文献】特開2011-162400(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00-28/36
C07C 31/00-31/44
C07C 59/00-59/92
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの無機バインダー並びに
a)グリオキシル酸、その塩、グリオキシル酸又はその塩の縮合生成物又は付加生成物、及びそれらの混合物から選択される少なくとも1つの化合物Aと;
b)1≦C/O≦1.5の炭素対酸素比C/Oを有する多価アルコール及びそれらの混合物から選択される少なくとも1つのポリヒドロキシ化合物B及び/又はその塩若しくはエステルと
を含む混合物を含有し、
前記ポリヒドロキシ化合物Bは、カルボキシ基C(=O)Oを含まない、建設材料用組成物。
【請求項2】
前記化合物Aが、
A1)
【化1】
A2)
【化2】
及び
A3)メラミン-グリオキシル酸縮合物、尿素-グリオキシル酸縮合物、メラミン-尿素-グリオキシル酸縮合物及びポリアクリルアミド-グリオキシル酸縮合物からなる群から選択されるアミン-グリオキシル酸縮合物;
並びにそれらの混合物から選択され;
上記式中、Xは、それぞれの場合において、独立して、H又はカチオン等価物Kから選択され、ここで、Kは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、亜鉛、鉄、アルミニウム、アンモニウム、又はホスホニウムのカチオンであり、aは、1/nであり、nは、カチオンの価数である、請求項1に記載の建設材料用組成物。
【請求項3】
前記ポリヒドロキシ化合物Bが、1≦C/O≦1.25の炭素対酸素比C/Oを有する多価アルコール、及びそれらの混合物から選択される、請求項1又は2に記載の建設材料用組成物。
【請求項4】
前記ポリヒドロキシ化合物Bが、グリセロール、トレイトール、エリトリトール、キシリトール、ソルビトール、イノシトール、マンニトール、マルチトール、ラクチトール、グルコース、フルクトース、スクロース、ラクトース、ペンタエリトリトール、トリメチロールプロパン、及びそれらの混合物から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の建設材料用組成物。
【請求項5】
前記ポリヒドロキシ化合物Bが、62g/mol~25000g/molの分子量を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の建設材料用組成物。
【請求項6】
前記化合物A及び前記化合物Bが、10:1~1:10の質量比で存在する、請求項1~5のいずれか一項に記載の建設材料用組成物。
【請求項7】
前記混合物がさらに、
c)以下のものから選択される少なくとも1つの化合物C
(i)ボレート源、
(ii)無機カーボネート及び有機カーボネートから選択されるカーボネート源、
並びにそれらの混合物
を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の建設材料用組成物。
【請求項8】
前記化合物Cが無機炭酸塩である、請求項7に記載の建設材料用組成物。
【請求項9】
前記混合物がさらに、
d)以下のものから選択される少なくとも1つの化合物D
-全てのカルボキシル基が非中和形態であると仮定して、カルボキシル基のミリ当量数が、5.00meq/g以上である、ポリカルボン酸又はその塩;
-2つ又は3つのホスホネート基を含み、且つカルボキシル基を含まないホスホネート;及び
-α-ヒドロキシカルボン酸又はその塩;
-炭素対酸素比C/Oが1.5超であるポリヒドロキシ化合物;
-並びにそれらの混合物
を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の建設材料用組成物。
【請求項10】
前記化合物Dが、α-ヒドロキシカルボン酸又はその塩である、請求項9に記載の建設材料用組成物。
【請求項11】
前記混合物がさらに、
e)以下のものから選択される少なくとも1つの分散剤
-ペンダントセメント固定基及びポリエーテル側鎖が結合されている炭素含有主鎖を有する櫛形ポリマー、
-加水分解した時にセメント固定基を放出するペンダント加水分解性基及びポリエーテル側鎖が結合されている炭素含有主鎖を有する非イオン性櫛形ポリマー、
-スルホン化されたメラミン-ホルムアルデヒド縮合物、
-リグノスルホネート、
-スルホン化されたケトン-ホルムアルデヒド縮合物、
-スルホン化されたナフタレン-ホルムアルデヒド縮合物、
-ホスホネート含有分散剤、
-カチオン性(コ)ポリマー、並びに
-それらの混合物
を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の建設材料用組成物。
【請求項12】
前記無機バインダーが、ポルトランドセメント、アルミン酸カルシウムセメント、スルホアルミネートセメント、及びそれらの混合物から選択される水硬性バインダーである、請求項1~11のいずれか一項に記載の建設材料用組成物。
【請求項13】
前記無機バインダーが、潜在水硬性バインダーである、請求項1~11のいずれか一項に記載の建設材料用組成物。
【請求項14】
a)メラミン-グリオキシル酸縮合物、尿素-グリオキシル酸縮合物、メラミン-尿素-グリオキシル酸縮合物、ポリアクリルアミド-グリオキシル酸縮合物、及びそれらの混合物からなる群から選択されるアミン-グリオキシル酸縮合物から選択される少なくとも1つの化合物Aと;
b)炭素対酸素比C/Oが、1≦C/O≦1.5である多価アルコール及びそれらの混合物から選択される少なくとも1つのポリヒドロキシ化合物B及び/又はその塩若しくはエステルと
を含み、
前記ポリヒドロキシ化合物Bは、カルボキシ基C(=O)Oを含まない、混合物。
【請求項15】
無機バインダーを含有する建築材料用配合物の硬化を調節し、及び/又は建築用製品を製造するための、請求項14に記載の混合物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、グリオキシル酸、その塩、グリオキシル酸又はその塩の縮合生成物又は付加生成物、及びそれらの混合物から選択される少なくとも1つの化合物Aと、少なくとも1つのポリヒドロキシ化合物B及び/又はその塩若しくはエステルとを含有する混合物に関する。さらに、本出願は、前記混合物を含む建設材料用組成物、並びに無機バインダーを含有する建築材料用配合物の硬化を調節し、及び/又は建築用製品を製造するための、前記混合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
先行技術からは、水性スラリー又は粉末状無機バインダーのワーカビリティー、すなわち、混練性、塗布性、噴霧性、ポンパビリティー、又は流動性を改善するために、添加剤が添加され得ることが知られている。例えば、凝結制御剤又は凝結遅延剤は、水和反応を遅らせ、ワーカビリティーを改善するための添加剤として使用することができる。
【0003】
独国特許出願公開第4217181A1号明細書には、水硬性バインダー用の添加剤として、メラミン及びグリオキシル酸の縮合生成物が開示されている。国際公開第2017/212045A1号には、無機バインダー用の添加剤としてのグリオキシル酸の亜硫酸水素塩付加物、並びに無機バインダーを含有する建築材料用配合物の硬化を調節するため、及び/又は建築用製品を製造するための前記付加物の使用が開示されている。国際公開第2017/212044A1号には、α-ヒドロキシ-カルボン酸単位、α-ヒドロキシスルホン酸単位又はα-カルボニル-カルボン酸単位、及び水溶性有機カーボネートを含む混合物、並びに水和制御添加剤としての前記混合物の使用が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、先行技術による添加剤を使用することによって得られる建築用製品の圧縮強度は、特定の用途にとって十分ではないことが判明した。したがって、依然として、建築材料の圧縮強度を増大させ、無機バインダーのワーカビリティーを改善するための添加剤が必要性とされている。
【0005】
したがって、本発明の根底にある課題は、先行技術の問題を解決する添加剤を提供することであった。特に、添加剤は、十分なオープンタイム(初期凝結までの時間)、前記オープンタイム中の良好な加工性(ワーカビリティー)、及び建設材料用組成物の迅速な凝結を可能にすると同時に、硬化された建築用製品の改善された圧縮強度を提供すべきである。これに関連して、初期圧縮強度(一般に、3時間後に測定される)並びに最終圧縮強度(一般に、24時間後に測定される)を改善することがさらなる目的であった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題は、
a)グリオキシル酸、その塩、グリオキシル酸又はその塩の縮合生成物又は付加生成物、及びそれらの混合物から選択される少なくとも1つの化合物Aと;
b)少なくとも1つのポリヒドロキシ化合物B及び/又はその塩若しくはエステルと
を含有する混合物によって解決される。
【0007】
特に、前記課題は、少なくとも1つの無機バインダー並びに
a)グリオキシル酸、その塩、グリオキシル酸又はその塩の縮合生成物又は付加生成物縮合生成物又は付加生成物、及びそれらの混合物から選択される少なくとも1つの化合物Aと;
b)1以上1.5以下の炭素対酸素比C/O(1≦C/O≦1.5)を有する多価アルコール及びそれらの混合物から選択される少なくとも1つのポリヒドロキシ化合物B及び/又はその塩若しくはエステルと
を含む混合物を含む建設材料用組成物によって解決される。
【0008】
意外にも、本発明による混合物の成分a)及びb)を、建設材料用組成物中の添加剤として使用する場合、優れた凝結遅延作用を提供すると同時に、得られる建築用製品の高い圧縮強度を提供することが判明した。特に、先行技術と比較して初期圧縮強度並びに最終圧縮強度を改善することができた。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、特に、以下の実施形態に関する。
【0010】
本発明の混合物又は建設材料用組成物の好ましい一実施形態において、化合物Aは、
A1)
【化1】
A2)
【化2】
及び
A3)メラミン-グリオキシル酸縮合物、尿素-グリオキシル酸縮合物、メラミン-尿素-グリオキシル酸縮合物及びポリアクリルアミド-グリオキシル酸縮合物からなる群から選択されるアミン-グリオキシル酸縮合物;
並びにそれらの混合物から選択され;
前記式中、Xは、それぞれの場合において、独立して、H又はカチオン等価物Kから選択され、ここで、Kは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、亜鉛、鉄、アルミニウム、アンモニウム、又はホスホニウムのカチオンであり、aは、1/nであり、nは、カチオンの価数である。
【0011】
本発明の混合物又は建設材料用組成物の好ましい一実施形態において、ポリヒドロキシ化合物Bは、1≦C/O≦1.25の炭素対酸素比C/Oを有する多価アルコール、及びそれらの混合物から選択される。
【0012】
本発明の混合物又は建設材料用組成物の好ましい一実施形態において、ポリヒドロキシ化合物Bは、糖アルコール及びそれらの縮合生成物、アルカノールアミン及びそれらの縮合生成物、炭水化物、ペンタエリトリトール、トリメチロールプロパン、及びそれらの混合物から選択され、好ましくは、グリセロールである。
【0013】
本発明の混合物又は建設材料用組成物の好ましい一実施形態において、ポリヒドロキシ化合物Bは、62g/mol~25000g/mol、好ましくは、62g/mol~10000g/mol、及び最も好ましくは、62g/mol~1000g/molの分子量を有する。
【0014】
本発明の混合物又は建設材料用組成物の好ましい一実施形態において、化合物A及び化合物Bは、10:1~1:10、好ましくは、1:1~1:8の質量比で存在する。
【0015】
本発明の混合物又は建設材料用組成物の好ましい一実施形態において、混合物は、
c)以下のものから選択される少なくとも1つの化合物C
(i)ボレート源、
(ii)無機カーボネート及び有機カーボネートから選択されるカーボネート源、
並びにそれらの混合物
をさらに含む。
【0016】
本発明の混合物又は建設材料用組成物の好ましい一実施形態において、化合物Cは、好ましくは、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸マグネシウム、及びそれらの混合物から選択される無機炭酸塩である。
【0017】
本発明の混合物又は建設材料用組成物の好ましい一実施形態において、混合物は、
d)以下のものから選択される少なくとも1つの化合物D
-全てのカルボキシル基が非中和形態であると仮定して、カルボキシル基のミリ当量数が、5.00meq/g以上、好ましくは、5.00~15.00meq/gである、ポリカルボン酸又はその塩;
-2つ又は3つのホスホネート基を含み、且つカルボキシル基を含まないホスホネート;及び
-α-ヒドロキシカルボン酸又はその塩;
-1.5超の炭素対酸素比C/Oを有するポリヒドロキシ化合物;
-並びにそれらの混合物
をさらに含む。
【0018】
本発明の混合物又は建設材料用組成物の好ましい一実施形態において、化合物Dは、α-ヒドロキシカルボン酸又はその塩、好ましくは、グルコン酸又はその塩である。
【0019】
本発明の混合物又は建設材料用組成物の好ましい一実施形態において、混合物は、
e)以下のものから選択される少なくとも1つの分散剤
-ペンダントセメント固定基及びポリエーテル側鎖が結合されている炭素含有主鎖を有する櫛形ポリマー、
-加水分解した時にセメント固定基を放出するペンダント加水分解性基及びポリエーテル側鎖が結合されている炭素含有主鎖を有する非イオン性櫛形ポリマー、
-スルホン化されたメラミン-ホルムアルデヒド縮合物、
-リグノスルホネート、
-スルホン化されたケトン-ホルムアルデヒド縮合物、
-スルホン化されたナフタレン-ホルムアルデヒド縮合物、
-好ましくは、少なくとも1つのポリアルキレングリコール単位を含むホスホネート含有分散剤、
-カチオン性(コ)ポリマー、並びに
-それらの混合物
をさらに含む。
【0020】
本発明の建設材料用組成物の好ましい一実施形態において、無機バインダーは、ポルトランドセメント、アルミン酸カルシウムセメント、スルホアルミネートセメント、及びそれらの混合物から選択される水硬性バインダーである。
【0021】
本発明の建設材料用組成物の好ましい一実施形態において、無機バインダーは、潜在水硬性バインダーであり、これは、好ましくは、高炉スラグである。
【0022】
さらに、本発明は、無機バインダーを含有する建築材料用配合物の硬化を調節し、及び/又は建築用製品を製造するための、本発明の混合物の使用に関する。
【0023】
本発明は、特に、
a)メラミン-グリオキシル酸縮合物、尿素-グリオキシル酸縮合物、メラミン-尿素-グリオキシル酸縮合物、ポリアクリルアミド-グリオキシル酸縮合物、及びそれらの混合物からなる群から選択されるアミン-グリオキシル酸縮合物から選択される少なくとも1つの化合物Aと;
b)1以上1.5以下の炭素対酸素比C/O(1≦C/O≦1.5)を有する多価アルコール及びそれらの混合物から選択される少なくとも1つのポリヒドロキシ化合物B及び/又はその塩若しくはエステルと
を含有する混合物に関する。
【0024】
単独でも、組み合わせても好ましい、本発明のさらに好ましい実施形態を、以下に記載する。これらの好ましい実施形態は、それぞれの場合において、本発明の混合物、並びに前記混合物が建設材料用組成物の一部である際には建設材料用組成物を指す。
【0025】
成分a)は、グリオキシル酸又はその塩、グリオキシル酸又はその塩の縮合生成物又は付加生成物、及びそれらの混合物から選択される少なくとも1つの化合物Aである。
【0026】
グリオキシル酸は、以下の構造:
【化3】
を有する。
【0027】
本明細書において使用される際、グリオキシル酸の塩としては、グリオキシル酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、亜鉛塩、鉄塩、アルミニウム塩、アンモニウム塩、及びホスホニウム塩が挙げられる。本明細書において使用される際、グリオキシル酸又はその塩の付加生成物は、α-置換されたα-ヒドロキシ-酢酸又はその塩が付加物として得られるように、求核性化合物とグリオキシル酸のα-カルボニル基とを反応させることによって得られる生成物を指す。本明細書において使用される際、グリオキシル酸又はその塩の縮合生成物は、少なくとも1つのアミノ又はアミド基を含有する化合物を、グリオキシル酸のα-カルボニル基と反応させて水が放出されることによって得られる縮合生成物を指す。少なくとも1つのアミノ又はアミド基を含有する化合物の例としては、尿素、チオ尿素、メラミン、グアニジン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン及び他のアシル-グアナミン、ポリビニルアミン及びポリアクリルアミドが挙げられる。
【0028】
一実施形態において、化合物Aは、グリオキシル酸又はその塩である。好ましくは、化合物Aは、下式:
【化4】
(式中、Xは、H又はカチオン等価物Kから選択され、ここで、Kは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、亜鉛、鉄、アルミニウム、アンモニウム、又はホスホニウムのカチオンであり、aは、1/nであり、nは、カチオンの価数である)の化合物A1である。より好ましくは、Xは、H又はKであり、ここで、Kはアルカリ金属である。さらにより好ましくは、Kは、リチウム、ナトリウム又はカリウムである。混合塩も可能であると理解されるべきである。特に好ましい実施形態において、Xは、ナトリウム若しくはカリウム又はそれらの混合物である。
【0029】
別の実施形態において、化合物Aは、グリオキシル酸又はその塩の付加生成物である。化合物Aは、好ましくは、以下の式:
【化5】
(式中、Xは、それぞれの場合において、独立して、H又はカチオン等価物Kから選択され、ここで、Kは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、亜鉛、鉄、アルミニウム、アンモニウム、又はホスホニウムのカチオンであり、aは、1/nであり、nは、カチオンの価数である)の化合物A2である。より好ましくは、Xは、H又はKであり、ここで、Kはアルカリ金属である。さらにより好ましくは、Kは、リチウム、ナトリウム又はカリウムである。混合塩も可能であると理解されるべきである。特に好ましい実施形態において、Xは、独立して、ナトリウム若しくはカリウム又はそれらの混合物である。
【0030】
さらに別の実施形態において、化合物Aは、グリオキシル酸又はその塩の縮合生成物である。好ましくは、化合物Aは、メラミン-グリオキシル酸縮合物、尿素-グリオキシル酸縮合物、メラミン-尿素-グリオキシル酸縮合物及びポリアクリルアミド-グリオキシル酸縮合物からなる群から選択される化合物A3である。好ましくは、アミン-グリオキシル酸縮合物は、尿素-グリオキシル酸縮合物である。
【0031】
アミン-グリオキシル酸縮合物は、グリオキシル酸と、アルデヒド反応性アミノ又はアミド基を含有する化合物とを反応させることによって得られる。グリオキシル酸は、水溶液又はグリオキシル酸塩、好ましくは、グリオキシル酸アルカリ金属塩として使用することができる。同様に、アミン化合物は、塩、例えばグアニジウム塩として使用することができる。一般に、アミン化合物及びグリオキシル酸は、アルデヒド反応性アミノ基又はアミド基当たり0.5~2当量、好ましくは、1~1.3当量のグリオキシル酸のモル比で反応される。反応は、0~120℃、好ましくは、25~105℃、最も好ましくは、50~105℃の温度で行われる。pH値は、好ましくは、0~8である。この反応において得られる粘性生成物は、そのまま使用してもよいし、希釈若しくは濃縮によって所望の固体含量に調整しても、又は例えば、噴霧乾燥、ドラム乾燥、若しくはフラッシュ乾燥によって蒸発乾固してもよい。
【0032】
一般に、アミン-グリオキシル酸縮合物は、500~25000g/mol、好ましくは、1000~10000g/mol、特に好ましくは、1000~5000g/molの範囲の分子量を有する。分子量は、実験の部に詳細に示されるように、ゲル浸透クロマトグラフィー方法(GPC)によって測定される。
【0033】
したがって、一実施形態において、化合物Aは、
A1)
【化6】
A2)
【化7】
及び
A3)メラミン-グリオキシル酸縮合物、尿素-グリオキシル酸縮合物、メラミン-尿素-グリオキシル酸縮合物及びポリアクリルアミド-グリオキシル酸縮合物からなる群から選択されるアミン-グリオキシル酸縮合物;
並びにそれらの混合物から選択され;
前記式中、Xは、それぞれの場合において、独立して、H又はカチオン等価物Kから選択され、ここで、Kは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、亜鉛、鉄、アルミニウム、アンモニウム、又はホスホニウムのカチオンであり、aは、1/nであり、nは、カチオンの価数である。
【0034】
好ましい実施形態において、化合物Aは、
A1)
【化8】
A2)
【化9】
及び
A3)尿素-グリオキシル酸縮合物;
並びにそれらの混合物から選択され;
前記式中、Xは、それぞれの場合において、独立して、H又はカチオン等価物Kから選択され、ここで、Kは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、亜鉛、鉄、アルミニウム、アンモニウム、又はホスホニウムのカチオンであり、aは、1/nであり、nは、カチオンの価数であり、
ここで、好ましくは、Xは、それぞれの場合において、独立して、H及びアルカリ金属から、特に、ナトリウム、カリウム、及びそれらの混合物から選択される。
【0035】
成分b)は、少なくとも1つのポリヒドロキシ化合物B及び/又はその塩若しくはエステルである。ポリヒドロキシ化合物Bは、以下に定義される。好ましい実施形態は、単独での使用並びに組み合わせた使用に関連している。
【0036】
本明細書において使用される際、ポリヒドロキシ化合物という用語は、少なくとも2つ、好ましくは、少なくとも3つのヒドロキシ基を含む有機化合物を指す。化合物の炭素鎖は、直鎖状又は環状であり得る。好ましくは、ポリヒドロキシ化合物は、炭素、酸素、水素、及び任意選択的に窒素原子のみを含む。好ましい実施形態において、本発明に係るポリヒドロキシ化合物は、官能基としてカルボキシ基C(=O)Oを含まない。特に、ポリヒドロキシ化合物は、官能基としてカルボン酸基C(=O)OHを含まない。
【0037】
好ましい実施形態において、ポリヒドロキシ化合物Bは、1≦C/O≦1.5、より好ましくは、1≦C/O≦1.25の炭素対酸素比C/Oを有する多価アルコール、及びそれらの混合物から選択される。
【0038】
別の好ましい実施形態において、ポリヒドロキシ化合物Bは、62g/mol~25000g/mol、好ましくは、62g/mol~10000g/mol、及び最も好ましくは、62g/mol~1000g/molの分子量を有する。
【0039】
別の好ましい実施形態において、ポリヒドロキシ化合物Bは、糖アルコール及びそれらの縮合生成物、炭水化物、ペンタエリトリトール、トリメチロールプロパン、並びにそれらの混合物から選択される。
【0040】
本明細書において使用される際、糖アルコールとして、好ましくは、C~C12糖分子をベースとする糖アルコールが挙げられる。好ましい糖アルコールとしては、グリセロール、トレイトール、エリトリトール、キシリトール、ソルビトール、イノシトール、マンニトール、マルチトール、及びラクチトールが挙げられる。特に好ましい糖アルコールは、以下の式:
【化10】
で表されるグリセロールである。
【0041】
本明細書において使用される際、炭水化物という用語は、糖、デンプン、及びセルロースを指す。好ましくは、炭水化物という用語は、糖、すなわち、単糖及び二糖を指すことが意図される。本発明に係る好ましい炭水化物としては、グルコース、フルクトース、スクロース、及びラクトースが挙げられる。
【0042】
本発明のより好ましい実施形態において、ポリヒドロキシ化合物Bは、グリセロール、トレイトール、エリトリトール、キシリトール、ソルビトール、イノシトール、マンニトール、マルチトール、ラクチトール、ペンタエリトリトール、トリメチロールプロパン、及びそれらの混合物から選択される。特に好ましい実施形態において、ポリヒドロキシ化合物Bは、グリセロールである。
【0043】
上記のとおり、ポリヒドロキシ化合物Bはまた、塩又はそのエステルの形態で使用することができる。
【0044】
好適な塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、亜鉛塩、アルミニウム塩及び鉄塩などの金属塩、アンモニウム塩、及びホスホニウム塩が挙げられる。金属塩、特に、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩が好ましい。カルシウム塩が特に好ましい。
【0045】
好適なエステルとしては、飽和又は不飽和C~C20カルボン酸エステル、好ましくは、C~C10カルボン酸エステル、例えば酢酸エステルが挙げられる。カルボン酸部分は、非置換であるか、又はハロゲン、OH、及び=Oから選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよい。
【0046】
したがって、本発明の特に好ましい実施形態において、混合物は、
成分a)として、
以下のものから選択される化合物A
A1)
【化11】
A2)
【化12】
及び
A3)尿素-グリオキシル酸縮合物;
及びそれらの混合物;
(式中、Xは、それぞれの場合において、独立して、H又はカチオン等価物Kから選択され、ここで、Kは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、亜鉛、鉄、アルミニウムアンモニウム、又はホスホニウムのカチオンであり、aは、1/nであり、nは、カチオンの価数であり、
好ましくは、Xは、それぞれの場合において、独立して、H及びアルカリ金属から、特に、ナトリウム、カリウム、及びそれらの混合物から選択される)
並びに成分b)として、
グリセロール
を含有する。
【0047】
好ましい実施形態において、本発明の混合物は、10:1~1:10、好ましくは、1:1~1:8の質量比で、上記で詳細に定義されている化合物A及び化合物Bを含有する。言い換えると、成分a)対成分b)の質量比は、一般に、10:1~1:10、好ましくは、1:1~1:8の範囲である。
【0048】
本発明のさらなる実施形態において、前記混合物は、後述のさらなる成分を含む。さらなる成分はそれぞれ、単独の成分として、又は本明細書に定義される他のさらなる成分と組み合わせて存在していてよいものと理解されるべきである。
【0049】
一実施形態において、本発明の混合物は、
c)以下のものから選択される少なくとも1つの化合物C
(i)ボレート源、
(ii)無機カーボネート及び有機カーボネートから選択されるカーボネート源、
並びにそれらの混合物をさらに含む。
【0050】
ボレート源は、通常、急速溶解性の安価なボレート化合物を含む。好適なボレート源としては、ホウ砂、ホウ酸、及び四ホウ酸ナトリウムが挙げられる。
【0051】
カーボネート源は、0.1gL-1以上の水溶解度を有する無機カーボネートであり得る。無機カーボネートの水溶解度は、25℃の水(pH7から開始)中で決定される。これらの特性は、当業者に周知である。無機カーボネートは、必要な水溶解度を満たすアルカリ金属炭酸塩、例えば、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム又は炭酸リチウム、及びアルカリ土類金属炭酸塩、例えば、炭酸マグネシウムから選択され得る。無機カーボネートとして炭酸グアニジン、並びに炭酸水素ナトリウム及び炭酸水素カリウムを使用することも可能である。
【0052】
或いは、カーボネート源は、有機カーボネートから選択される。「有機カーボネート」は、炭酸のエステルを示す。有機カーボネートは、セメント質系の存在下で加水分解されて、炭酸イオンを放出する。一実施形態において、有機カーボネートは、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸グリセロール、炭酸ジメチル、ジ(ヒドロキシエチル)カーボネート又はそれらの混合物、好ましくは、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、及び炭酸グリセロール又はそれらの混合物、特に、炭酸エチレン及び/又は炭酸プロピレンから選択される。無機カーボネート及び有機カーボネートの混合物も、同様に使用され得る。
【0053】
好ましい実施形態において、化合物Cは、好ましくは、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸マグネシウム、及びそれらの混合物から選択される無機炭酸塩である。
【0054】
成分a)対成分c)の質量比は、一般に、約10:1~約1:100、好ましくは、約5:1~約1:50又は約1:1~約1:30の範囲である。
【0055】
一実施形態において、本発明の混合物はさらに、
d)以下のものから選択される少なくとも1つの化合物D
-全てのカルボキシル基が非中和形態であると仮定して、カルボキシル基のミリ当量数が、5.00meq/g以上、好ましくは、5.00~15.00meq/gである、ポリカルボン酸又はその塩;
-2つ又は3つのホスホネート基を含み、且つカルボキシル基を含まないホスホネート;及び
-α-ヒドロキシカルボン酸又はその塩;
-1.5超の炭素対酸素比C/Oを有するポリヒドロキシ化合物;
-並びにそれらの混合物
を含有する。
【0056】
好適なポリカルボン酸は、低分子量ポリカルボン酸(例えば、500以下の分子量を有する)、特に、脂肪族ポリカルボン酸、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、及びリンゴ酸である。
【0057】
ホスホノアルキルカルボン酸、例えば、1-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、3-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、4-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、2,4-ジホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、2-ホスホノブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸、1-メチル-2-ホスホノペンタン-1,2,4-トリカルボン酸、若しくは1,2-ホスホノエタン-2-ジカルボン酸;アミノカルボン酸、例えば、エチレンジアミン四酢酸、若しくはニトリロ三酢酸;ポリマーカルボン酸、例えば、アクリル酸のホモポリマー、メタクリル酸のホモポリマー、ポリマレイン酸、コポリマー、例えば、エチレン/アクリル酸コポリマー及びエチレン/メタクリル酸コポリマー。
【0058】
一般に、ポリマーカルボン酸の分子量は、1000~30000g/mol、好ましくは、1000~10000g/molの範囲である。分子量は、実験の部に詳細に示されているように、ゲル浸透クロマトグラフィー方法(GPC)によって測定される。
【0059】
2つ又は3つのホスホネート基を含み、且つカルボキシル基を含まないホスホネートは、好ましくは、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(HEDP)、アミノ-トリス(メチレンホスホン酸)(ATMP)又は[[(2-ヒドロキシエチル)イミノ]ビス(メチレン)]ビスホスホン酸及びそれらの混合物である。好ましいジ-又はトリホスホネートのそれぞれの化学式が、以下に示される:
【化13】
[[(2-ヒドロキシエチル)イミノ]ビス(メチレン)]ビスホスホン酸
【0060】
ホスホネートは、セメント質系のための凝結遅延剤であり、オープンタイムを延長するのに効果的であるという利点を有する。
【0061】
好適なα-ヒドロキシカルボン酸又はその塩としては、酒石酸、クエン酸、グリコール酸、グルコン酸、及びそれらの塩並びにそれらの混合物が挙げられる。グルコン酸ナトリウムが特に好ましい。
【0062】
好ましい実施形態において、化合物Dは、α-ヒドロキシカルボン酸又はその塩、好ましくは、グルコン酸又はその塩である。グルコン酸ナトリウムが特に好ましい。
【0063】
C/O>1.5の炭素対酸素比を有する好適なポリヒドロキシ化合物としては、ジエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、ブチルジエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、メチルジイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン、テトラヒドロキシプロピルエチレンジアミン、トリメチルアミノエチルエタノールアミン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)イソプロパノールアミン、N,N,N’-トリメチルアミノエチルエタノールアミン、及びN,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン及びポリビニルアルコール並びにそれらの縮合生成物が挙げられる。
【0064】
成分a)対成分d)の質量比は、一般に、約10:1~約1:10、好ましくは、約5:1~約1:5又は約3:1~約1:1の範囲である。
【0065】
一実施形態において、本発明の混合物はさらに、
e)以下のものから選択される少なくとも1つの分散剤
-ペンダントセメント固定基及びポリエーテル側鎖が結合されている炭素含有主鎖を有する櫛形ポリマー、
-加水分解した時にセメント固定基を放出するペンダント加水分解性基及びポリエーテル側鎖が結合されている炭素含有主鎖を有する非イオン性櫛形ポリマー、
-スルホン化されたメラミン-ホルムアルデヒド縮合物、
-リグノスルホネート、
-スルホン化されたケトン-ホルムアルデヒド縮合物、
-スルホン化されたナフタレン-ホルムアルデヒド縮合物、
-好ましくは、少なくとも1つのポリアルキレングリコール単位を含むホスホネート含有分散剤、
-カチオン性(コ)ポリマー、並びに
-それらの混合物
を含有する。
【0066】
一実施形態において、分散剤は、ペンダントセメント固定基及びポリエーテル側鎖が結合されている炭素含有主鎖を有する櫛形ポリマーである。セメント固定基は、アニオン性及び/又はアニオノゲン性基、例えば、カルボン酸基、ホスホン酸基若しくはリン酸基又はそれらのアニオンである。アニオノゲン性基は、アルカリ性条件下でそれぞれのアニオン性基に変換され得る、ポリマー分散剤中に存在する酸基である。
【0067】
好ましくは、アニオン性及び/又はアニオノゲン性基を含む構造単位は、一般式(Ia)、(Ib)、(Ic)及び/又は(Id)のうちの1つである:
【化14】
前記式中、
は、H、C~Cアルキル、CHCOOH又はCHCO-X-R、好ましくは、H又はメチルであり;
Xは、NH-(C2n)又はO-(C2n)であり、ここで、n=1、2、3若しくは4、又は化学結合であり、窒素原子又は酸素原子が、CO基に結合されており;
は、PO又はO-POであるか;又は、Xが存在しない場合、RはOMであり;
は、PO、又はO-POであり;
【化15】
前記式中、
は、H又はC~Cアルキル、好ましくは、H又はメチルであり;
nは、0、1、2、3又は4であり;
は、PO、又はO-POであり;
【化16】
前記式中、
は、H又はC~Cアルキル、好ましくは、Hであり;
Zは、O又はNRであり;
は、H、(C2n)-OH、(C2n)-PO、(C2n)-OPO、(C)-PO、又は(C)-OPOであり、
nは、1、2、3又は4であり;
【化17】
前記式中、
は、H又はC~Cアルキル、好ましくは、Hであり;
Qは、NR又はOであり;
は、H、(C2n)-OH、(C2n)-PO、(C2n)-OPO、(C)-PO、又は(C)-OPOであり、
nは、1、2、3又は4であり;
ここで、各Mは、独立して、H又はカチオン等価物である。
【0068】
好ましくは、ポリエーテル側鎖を含む構造単位は、一般式(IIa)、(IIb)、(IIc)及び/又は(IId)のうちの1つである:
【化18】
前記式中、
10、R11及びR12は、互いに独立して、H又はC~Cアルキル、好ましくは、H又はメチルであり;
Zは、O又はSであり;
Eは、C~Cアルキレン、シクロへキシレン、CH-C10、1,2-フェニレン、1,3-フェニレン又は1,4-フェニレンであり;
Gは、O、NH又はCO-NHであり;又は
E及びGは一緒になって、化学結合であり;
Aは、C~Cアルキレン又はCHCH(C)、好ましくは、C~Cアルキレンであり;
nは、0、1、2、3、4又は5であり;
aは、2~350、好ましくは、10~150、より好ましくは、20~100の整数であり;
13は、H、非分枝鎖状又は分枝鎖状C~Cアルキル基、CO-NH又はCOCHであり;
【化19】
前記式中、
16、R17及びR18は、互いに独立して、H又はC~Cアルキル、好ましくは、Hであり;
Eは、C~Cアルキレン、シクロへキシレン、CH-C10、1,2-フェニレン、1,3-フェニレン、若しくは1,4-フェニレンであるか、又は化学結合であり;
Aは、C~Cアルキレン又はCHCH(C)、好ましくは、C~Cアルキレンであり;
nは、0、1、2、3、4及び/又は5であり;
Lは、C~Cアルキレン又はCHCH(C)、好ましくは、C~Cアルキレンであり;
aは、2~350、好ましくは、10~150、より好ましくは、20~100の整数であり;
dは、1~350、好ましくは、10~150、より好ましくは、20~100の整数であり;
19は、H又はC~Cアルキルであり;
20は、H又はC~Cアルキルであり;
nは、0、1、2、3、4又は5であり;
【化20】
前記式中、
21、R22及びR23は、独立して、H又はC~Cアルキル、好ましくは、Hであり;
Wは、O、NR25、又はNであり;
Vは、W=O又はNR25である場合、1であり、W=Nである場合、2であり;
Aは、C~Cアルキレン又はCHCH(C)、好ましくは、C~Cアルキレンであり;
aは、2~350、好ましくは、10~150、より好ましくは、20~100の整数であり;
24は、H又はC~Cアルキルであり;
25は、H又はC~Cアルキルであり;
【化21】
前記式中、
は、H又はC~Cアルキル、好ましくは、Hであり;
Qは、NR10、N又はOであり;
Vは、W=O又はNR10である場合、1であり、W=Nである場合、2であり;
10は、H又はC~Cアルキルであり;
Aは、C~Cアルキレン又はCHCH(C)、好ましくは、C~Cアルキレンであり;
aは、2~350、好ましくは、10~150、より好ましくは、20~100の整数である。
【0069】
構造単位(I)対構造単位(II)のモル比は、1/3~約10/1、好ましくは、1/1~10/1、より好ましくは、3/1~6/1で変化する。構造単位(I)及び(II)を含むポリマー分散剤は、従来の方法、例えばラジカル重合によって調製することができる。分散剤の調製は、例えば、EP0894811号明細書、EP1851256号明細書、EP2463314号明細書、及びEP0753488号明細書に記載されている。
【0070】
より好ましくは、分散剤は、ポリカルボキシレートエーテル(PCE)の群から選択される。PCEにおいて、アニオン性基は、カルボン酸基及び/又はカルボキシレート基である。PCEは、好ましくは、ポリエーテルマクロモノマーと、アニオン性及び/又はアニオノゲン性基を含むモノマーとのラジカル共重合によって得られる。好ましくは、コポリマーを構成する全ての構造単位の少なくとも45mol%、好ましくは、少なくとも80mol%が、ポリエーテルマクロモノマー又はアニオン性及び/若しくはアニオノゲン性基を含むモノマーの構造単位である。
【0071】
ペンダントセメント固定基及びポリエーテル側鎖が結合された炭素含有主鎖を有するさらなる種類の好適な櫛形ポリマーは、構造単位(III)及び(IV)を含む:
【化22】
前記式中、
Tは、5~10個の環原子を有するフェニル、ナフチル又はヘテロアリールであり、そのうち、1個又は2個の原子は、N、O及びSから選択されるヘテロ原子であり;
nは、1又は2であり;
Bは、N、NH又はOであり、ただし、nは、BがNである場合、2であり、nは、BがNH又はOである場合、1であり;
Aは、C~Cアルキレン又はCHCH(C)であり;
aは、1~300の整数であり;
25は、H、C~C10アルキル、C~Cシクロアルキル、5~10個の環原子を有するアリール又はヘテロアリールであり、そのうち、1個又は2個の原子は、N、O及びSから選択されるヘテロ原子であり;
ここで、構造単位(IV)は、構造単位(IVa)及び(IVb)から選択される:
【化23】
前記式中、
Dは、5~10個の環原子を有するフェニル、ナフチル又はヘテロアリールであり、そのうち、1個又は2個の原子は、N、O及びSから選択されるヘテロ原子であり;
Eは、N、NH又はOであり、ただし、mは、EがNである場合、2であり、mは、EがNH又はOである場合、1であり;
Aは、C~Cアルキレン又はCHCH(C)であり;
bは、0~300の整数であり;
Mは、独立して、H又はカチオン等価物であり;
【化24】
前記式中、
Vは、フェニル又はナフチルであり、R、OH、OR、(CO)R、COOM、COOR、SO及びNOから選択される1~4つの基、好ましくは、2つの基で任意選択的に置換され;
は、COOM、OCHCOOM、SOM又はOPOであり;
Mは、H又はカチオン等価物であり;
は、C~Cアルキル、フェニル、ナフチル、フェニル-C~Cアルキル又はC~Cアルキルフェニルである。
【0072】
構造単位(III)及び(IV)生成物を含むポリマーは、芳香族又は複素環式芳香族コアに結合されたポリオキシアルキレン基を有する芳香族又は複素環式芳香族化合物と、カルボン酸、スルホン酸又はホスフェート部分を有する芳香族化合物と、ホルムアルデヒドなどのアルデヒド化合物との重縮合によって得られる。
【0073】
一実施形態において、分散剤は、加水分解したときにセメント固定基を放出するペンダント加水分解性基及びポリエーテル側鎖が結合された炭素含有主鎖を有する非イオン性櫛形ポリマーである。好都合には、ポリエーテル側鎖を含む構造単位は、上記の一般式(IIa)、(IIb)、(IIc)及び/又は(IId)のうちの1つである。ペンダント加水分解性基を有する構造単位は、好ましくは、アクリル酸エステルモノマー、より好ましくは、ヒドロキシアルキルアクリルモノエステル及び/又はヒドロキシアルキルジエステル、最も好ましくは、ヒドロキシプロピルアクリレート及び/又はヒドロキシエチルアクリレートから誘導される。エステル官能基は、水に曝されると加水分解して酸基になり、次に、得られる酸官能基は、セメント成分とともに錯体を形成する。
【0074】
好適なスルホン化されたメラミン-ホルムアルデヒド縮合物は、水硬性バインダーのための可塑剤(MFS樹脂とも呼ばれる)として使用されることが多い種類のものである。スルホン化されたメラミン-ホルムアルデヒド縮合物及びそれらの調製は、例えば、CA2172004A1号明細書、独国特許出願公開第4411797A1号明細書、米国特許第4,430,469号明細書、米国特許第6,555,683号明細書及びCH686186号明細書、またUllmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry、第5版、vol.A2、第131頁、及びConcrete Admixtures Handbook-Properties,Science and Technology、第2版、第411、412頁に記載されている。好ましいスルホン化されたメラミンスルホネート-ホルムアルデヒド縮合物は、式
【化25】
(式中、nは、一般に、10~300を表す)の(大幅に簡略化され、理想的な)単位を包含する。分子量は、好ましくは、2500~80000の範囲にある。スルホン化されたメラミン単位に加えて、他のモノマーを縮合によって組み込むことが可能である。尿素が特に好適である。さらに、さらなる芳香族単位、例えば、没食子酸、アミノベンゼンスルホン酸、スルファニル酸、フェノールスルホン酸、アニリン、アンモニオ安息香酸(ammoniobenzoic acid)、ジアルコキシベンゼンスルホン酸、ジアルコキシ安息香酸、ピリジン、ピリジンモノスルホン酸、ピリジンジスルホン酸、ピリジンカルボン酸及びピリジンジカルボン酸も縮合によって組み込まれ得る。メラミンスルホネート-ホルムアルデヒド縮合物の例は、BASF Construction Solutions GmbHによって販売されている製品Melment(登録商標)である。
【0075】
好適なリグノスルホネートは、製紙産業において副生成物として得られる生成物である。それらは、Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry、第5版、vol.A8、第586、587頁に記載されている。これらは、非常に簡略化された理想的な式
【化26】
(式中、nは、一般に、5~500を表す)の単位を含む。リグノスルホネートは、2000~100000g/molの分子量を有する。一般に、それらは、それらのナトリウム塩、カルシウム塩及び/又はマグネシウム塩の形態で存在する。好適なリグノスルホネートの例は、Borregaard LignoTech(Norway)によって販売されている製品Borresperseである。
【0076】
好適なスルホン化されたケトン-ホルムアルデヒド縮合物は、モノケトン又はジケトンを、ケトン成分、好ましくは、アセトン、ブタノン、ペンタノン、ヘキサノン又はシクロヘキサノンとして組み込む生成物である。この種類の縮合物は公知であり、例えば国際公開第2009/103579号に記載されている。スルホン化されたアセトン-ホルムアルデヒド縮合物が好ましい。それらは、一般に、J.Plank et al.,J.Appl.Poly.Sci.2009、第2018~2024頁に記載されている、式:
【化27】
(式中、m及びnは、一般に、それぞれ10~250であり、Mは、Naなどのアルカリ金属イオンであり、比率m:nは、一般に、約3:1~約1:3、より特定的に、約1.2:1~1:1.2の範囲である)の単位を含む。さらに、他の芳香族単位、例えば、没食子酸、アミノベンゼンスルホン酸、スルファニル酸、フェノールスルホン酸、アニリン、アンモニオ安息香酸、ジアルコキシベンゼンスルホン酸、ジアルコキシ安息香酸、ピリジン、ピリジンモノスルホン酸、ピリジンジスルホン酸、ピリジンカルボン酸及びピリジンジカルボン酸を縮合によって組み込むことも可能である。好適なアセトン-ホルムアルデヒド縮合物の例は、BASF Construction Solutions GmbHによって販売されている製品Melcret K1Lである。
【0077】
好適なスルホン化されたナフタレン-ホルムアルデヒド縮合物は、ナフタレンのスルホン化、及びその後のホルムアルデヒドとの重縮合によって得られる生成物である。それらは、Concrete Admixtures Handbook-Properties,Science and Technology、第2版、第411~413頁及びUllmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry、第5版、vol.A8、第587、588頁を含む参考文献に記載されている。それらは、式
【化28】
の単位を含む。
【0078】
一般に、1000~50000g/molの分子量(Mw)が得られる。さらに、他の芳香族単位、例えば、没食子酸、アミノベンゼンスルホン酸、スルファニル酸、フェノールスルホン酸、アニリン、アンモニオ安息香酸、ジアルコキシベンゼンスルホン酸、ジアルコキシ安息香酸、ピリジン、ピリジンモノスルホン酸、ピリジンジスルホン酸、ピリジンカルボン酸及びピリジンジカルボン酸を縮合によって組み込むことも可能である。好適なβ-ナフタレン-ホルムアルデヒド縮合物の例は、BASF Construction Solutions GmbHによって販売されている製品Melcret 500 Lである。
【0079】
一般に、ホスホネート含有分散剤は、ホスホネート基及びポリエーテル側基を組み込む。
【0080】
好適なホスホネート含有分散剤は、下式
R-(OA)-N-[CH-PO(OM
(式中、
Rは、H又は炭化水素残基、好ましくは、C~C15アルキル基であり、
Aは、独立して、C~C18アルキレン、好ましくは、エチレン及び/又はプロピレン、最も好ましくは、エチレンであり、
nは、5~500、好ましくは、10~200、最も好ましくは、10~100の整数であり、
Mは、H、アルカリ金属、1/2アルカリ土類金属及び/又はアミンである)
で表されるものである。
【0081】
分散剤として、カチオン性(コ)ポリマーも有用である。カチオン性(コ)ポリマーは、好ましくは、
a)3~100mol%、好ましくは、10~90mol%、より好ましくは、25~75mol%の式(V)
【化29】
のカチオン性構造単位を含み、
前記式中、
は、それぞれの場合において、同じか又は異なり、水素及び/又はメチルを表し、
は、それぞれの場合において、同じか又は異なり、
【化30】
からなる群から選択され、
前記式中、
、R及びRは、それぞれの場合において、同じか又は異なり、それぞれ独立して、水素、1~20個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素部分、5~8個の炭素原子を有する脂環式炭化水素部分、6~14個の炭素原子を有するアリール及び/又はポリエチレングリコール(PEG)部分を表し、
lは、それぞれの場合において、同じか又は異なり、0~2の整数を表し、
mは、それぞれの場合において、同じか又は異なり、0又は1を表し、
nは、それぞれの場合において、同じか又は異なり、0~10の整数を表し、
Yは、それぞれの場合において、同じか又は異なり、基がないこと(absent group)、酸素、NH及び/又はNRを表し、
Vは、それぞれの場合において、同じか又は異なり、-(CH-、
【化31】
を表し、ここで、
xは、それぞれの場合において、同じか又は異なり、0~6の整数を表し、
(X)は、それぞれの場合において、同じか又は異なり、ハロゲン化物イオン、C1~4アルキルスルフェート、C1~4アルキルスルホネート、C6~14(アルク)アリールスルホネート並びに/又はスルフェート、ジスルフェート、ホスフェート、ジホスフェート、トリホスフェート及び/若しくはポリホスフェートから選択される多価アニオンの一価等価物を表す。
【0082】
好ましくは、カチオン性(コ)ポリマーは、
b)0~97mol%、好ましくは、10~90mol%、より好ましくは、25~75mol%の式(VI)
【化32】
のマクロモノマー構造単位を含み、
前記式中、
は、それぞれの場合において、同じか又は異なり、以下の式(VII)
【化33】
のポリオキシアルキレン基を表し、
ここで、
oは、それぞれの場合において、同じか又は異なり、1~300の整数を表し、
、R、l、m、Y、V、及びxは、上に示される意味を有し、
ただし、両方の構造単位(V)及び(VI)において、Yは、xが=0である場合、基がないことを表す。
【0083】
好ましくは、カチオン性(コ)ポリマーにおいて、構造単位(V)に対応するモノマー成分は、四級化N-ビニルイミダゾール、四級化N-アリルイミダゾール、四級化4-ビニルピリジン、四級化1-[2-(アクリロイルオキシ)エチル]-1H-イミダゾール、1-[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]-1H-イミダゾール、及びそれらの混合物から選択される。
【0084】
好ましくは、カチオン性(コ)ポリマーにおいて、構造単位(VI)に対応するモノマー成分は、ビニルエーテル、ビニルオキシC1~6アルキルエーテル、特に、ビニルオキシブチルエーテル、アリルエーテル、メタリルエーテル、3-ブテニルエーテル、イソプレニルエーテル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、及びそれらの混合物から選択される。
【0085】
カチオン性(コ)ポリマーにおいて、oは、好ましくは、5~300、より好ましくは、10~200、特に、20~100である。
【0086】
カチオン性(コ)ポリマーにおいて、式(VII)のポリオキシアルキレン基のオキシアルキレン単位は、好ましくは、ポリオキシアルキレン基内でランダムに、交互に、段階的に、及び/又はブロック状に配置されたエチレンオキシド基及び/又はプロピレンオキシド基から選択される。
【0087】
カチオン性(コ)ポリマーは、好ましくは、式(VII)のポリオキシアルキレン基が、特定の定義におけるoについて様々な値を有する混合物であることを特徴とする。
【0088】
10~90mol%のカチオン性構造単位及び90~10mol%のマクロモノマー構造単位、好ましくは、25~75mol%のカチオン性構造単位及び75~25mol%のマクロモノマー構造単位を含むカチオン性(コ)ポリマーが好ましい。
【0089】
好ましくは、カチオン性(コ)ポリマーは、1000~500000、より好ましくは、2000~150000、特に、4000~100000g/molの範囲の分子量を有する。好ましくは、分子量は、実験の部に示されるように、ゲル浸透クロマトグラフィー方法(GPC)によって決定される。
【0090】
カチオン性(コ)ポリマーは、水硬性バインダー及び/又は潜在水硬性バインダーを含む群から選択されるバインダーの水性懸濁液を分散させるのに特に有用である。潜在水硬性バインダーは、好ましくは、高炉スラグである。
【0091】
本発明に係る混合物は、溶液又は分散液、特に、水性の溶液又は分散液として存在し得る。溶液又は分散液は、好適には、10~50質量%、特に、25~35質量%の固体含量を有する。或いは、本発明に係る混合物は、例えば、ドラム乾燥、噴霧乾燥又はフラッシュ乾燥によって得られる粉末として存在し得る。本発明に係る混合物は、練混ぜ水に導入されるか、又はモルタル若しくはコンクリートの混合中に導入され得る。無機バインダーの質量%中の本発明の混合物の用量は、好ましくは、0.05~5%である。
【0092】
本発明はまた、少なくとも1つの無機バインダー及び本発明に係る混合物を含む建設材料用組成物にも関する。好ましい実施形態において、建設材料用組成物は、無機バインダーの0.05~5質量%の量で本発明に係る混合物を含む。
【0093】
無機バインダーは、水硬性バインダー、潜在水硬性バインダー、硫酸カルシウムベースのバインダー、又はそれらの混合物であり得る。
【0094】
好適な水硬性バインダーとしては、ポルトランドセメント、アルミン酸カルシウムセメント、スルホアルミネートセメント、及びそれらの混合物が挙げられる。
【0095】
鉱物相は、その通常の名称で示され、その後、それらのセメント表記が続く。主要な化合物は、セメント表記において、酸化物形態で表される:CはCaO、SはSiO、AはAl、$はSO、HはHOを表し;この表記が全体を通して使用される。
【0096】
「ポルトランドセメント」という用語は、規格EN 197-1、段落5.2の意味における、ポルトランドクリンカーを含有する任意のセメント化合物、特に、CEM I、II、III、IV及びVを示す。好ましいセメントは、DIN EN 197-1に記載される普通ポルトランドセメント(OPC)であり、これは、硫酸カルシウム(<7質量%)を含有していてもよく、又は硫酸カルシウムを実質的に含まない(<1質量%)。
【0097】
アルミン酸カルシウムセメント(高アルミネートセメントとも呼ばれる)は、アルミン酸カルシウム相を含有するセメントを意味する。「アルミネート相」という用語は、アルミネート(化学式Alのもの、又はセメント表記で「A」)と、他の鉱物種との組合せから得られる任意の鉱物相を表す。アルミナ(Alの形態)の量は、蛍光X線(XRF)によって決定される際、アルミネート含有セメントの総質量の30質量%以上である。より正確には、アルミネートタイプの前記鉱物相は、アルミン酸三カルシウム(CA)、アルミン酸一カルシウム(CA)、マイエナイト(C12)、鉄アルミン酸四石灰(CAF)、又はこれらの相のいくつかの組合せを含む。
【0098】
スルホアルミネートセメントは、15質量%超のイーリマイト(化学式4CaO.3Al.SOのもの、又はセメント表記でC$)の含量を有する。
【0099】
好ましい一実施形態において、無機バインダーは、ポルトランドセメント、アルミン酸カルシウムセメント、スルホアルミネートセメント、及びそれらの混合物から選択される水硬性バインダーである。別の好ましい実施形態において、無機バインダーは、ポルトランドセメントとアルミネートセメントとの混合物、又はポルトランドセメントとスルホアルミネートセメントとの混合物、又はポルトランドセメントと、アルミネートセメントと、スルホアルミネートセメントとの混合物を含む。
【0100】
一実施形態において、建設用化学組成物が、アルミネート含有セメントを含有する場合、この組成物は、少なくとも1つのスルフェート源、好ましくは、硫酸カルシウム源をさらに含有し得る。硫酸カルシウム源は、硫酸カルシウム二水和物、硬石膏、α-及びβ-半水和物、すなわち、α-バサニ石及びβ-バサニ石、又はそれらの混合物から選択され得る。好ましくは、硫酸カルシウムは、α-バサニ石及び/又はβ-バサニ石である。一般に、硫酸カルシウムは、アルミネート含有セメントの質量を基準にして約1~約20質量%の量で含まれる。さらなる実施形態において、建設用化学組成物は、硫酸カリウム又は硫酸ナトリウム、又は硫酸アルミニウムのような少なくとも1つのアルカリ金属スルフェートをさらに含有する。
【0101】
水硬性バインダーを含み、クリンカーの質量を基準にしたスルフェートの質量百分率が、4~14質量%、好ましくは、8~14質量%、最も好ましくは、9~13質量%である建設材料用組成物が好ましい。スルフェートの質量は、対イオンなしの硫酸イオンの質量であると理解されるべきである。好ましくは、スルフェートは、硫酸カルシウムの形態、より好ましくは、α-バサニ石及び/又はβ-バサニ石の形態で存在する。
【0102】
スルフェート含量の少ない水硬性バインダー(セメント)へのスルフェートの添加は、エトリンガイトの形成の促進に役立ち、より良好な早期強度発現をもたらす。
【0103】
建設用化学組成物又は建築材料用配合物は、潜在水硬性バインダー及び/又はポゾランバインダーも含有し得る。本発明の趣旨では、「潜在水硬性バインダー」は、好ましくは、モル比(CaO+MgO):SiOが0.8~2.5、特に、1.0~2.0であるバインダーである。一般的に、上記の潜在水硬性バインダーは、工業用及び/又は合成スラグ、特に、高炉スラグ、電熱リンスラグ、鉄鋼スラグ及びそれらの混合物から選択され得る。「ポゾランバインダー」は、一般に、非晶質シリカ、好ましくは、沈降シリカ、ヒュームドシリカ及びマイクロシリカ、すりガラス、メタカオリン、アルミノケイ酸塩、フライアッシュ、好ましくは、褐炭フライアッシュ及び無煙炭フライアッシュ、天然ポゾラン、例えば、凝灰岩、トラス及び火山灰、天然及び合成ゼオライト並びにそれらの混合物から選択することができる。
【0104】
スラグは、工業用スラグ、すなわち、工業用プロセスからの廃棄物であっても、或いは合成スラグであってもよい。工業用スラグは、常に一貫した量及び品質で入手可能であるとは限らないため、合成スラグが有利であり得る。
【0105】
高炉スラグ(BFS)は、ガラス炉プロセスの廃棄物である。他の材料は、高炉水砕スラグ(GBFS)及び高炉スラグ微粉末(GGBFS)であり、これは、微細に粉砕された高炉水砕スラグである。高炉スラグ微粉末は、摩砕度及び粒径分布が様々であり、これは、供給源及び処理方法に依存し、摩砕度は、反応性に影響を与える。ブレーン値は、摩砕度についてのパラメータとして使用され、一般に、およそ200~1000m kg-1、好ましくは、300~600m kg-1を有する。より微細な粉砕により、より高い反応性が得られる。
【0106】
しかしながら、本発明の趣旨では、「高炉スラグ」という表現は、言及された処理、粉砕、及び品質(すなわち、BFS、GBFS及びGGBFS)のレベルの全てから得られる材料を含むことが意図される。高炉スラグは、一般に、30~45質量%のCaO、約4~17質量%のMgO、約30~45質量%のSiO及び約5~15質量%のAl、一般に、約40質量%のCaO、約10質量%のMgO、約35質量%のSiO及び約12質量%のAlを含む。
【0107】
電熱リンスラグは、電熱リン製造の廃棄物である。それは、高炉スラグよりも反応性が低く、約45~50質量%のCaO、約0.5~3質量%のMgO、約38~43質量%のSiO、約2~5質量%のAl及び約0.2~3質量%のFe、またフッ化物及びホスフェートも含む。鉄鋼スラグは、非常に様々な組成を有する、様々な鉄鋼製造プロセスの廃棄物である。
【0108】
非晶質シリカは、好ましくは、X線非晶質シリカ、すなわち、粉末回折法により結晶化度が明らかにされないシリカである。本発明の非晶質シリカ中のSiOの含量は、有利には、少なくとも80質量%、好ましくは、少なくとも90質量%である。沈降シリカは、水ガラスから出発する沈殿プロセスにより工業規模で得られる。いくつかの製造プロセスからの沈降シリカは、シリカゲルとも呼ばれる。
【0109】
ヒュームドシリカは、水素/酸素炎中でのクロロシラン、例えば四塩化ケイ素の反応によって生成される。ヒュームドシリカは、50~600m-1の比表面積を有する5~50nmの粒径の非晶質SiO粉末である。
【0110】
マイクロシリカは、ケイ素製造又はフェロシリコン製造の副生成物であり、同様に、大抵、非晶質SiO粉末からなる。粒子は、およそ0.1μmの直径を有する。比表面積は、およそ10~30m-1である。
【0111】
フライアッシュは、特に、発電所における石炭の燃焼の際に生成される。クラスCフライアッシュ(褐炭フライアッシュ)が、国際公開第08/012438号によれば、約10質量%のCaOを含む一方、クラスFフライアッシュ(無煙炭フライアッシュ)は、8質量%未満、好ましくは、4質量%未満、一般に約2質量%のCaOを含む。
【0112】
メタカオリンは、カオリンが脱水されるときに生成される。100~200℃で、カオリンが、物理的に結合された水を放出する一方、500~800℃で、脱ヒドロキシル化が起こり、格子構造が崩壊し、メタカオリン(AlSi)が形成される。したがって、純粋なメタカオリンは、約54質量%のSiO及び約46質量%のAlを含む。
【0113】
本発明の趣旨では、アルミノケイ酸塩は、Alと組み合わせたSiOをベースとする上記の反応性化合物であり、これは水性アルカリ性環境において硬化する。当然ながら、AlSiを例とする場合のように、ケイ素及びアルミニウムが酸化物形態で存在することは、本明細書において必須ではない。しかしながら、アルミノケイ酸塩の定量化学分析のために、ケイ素及びアルミニウムの割合を酸化物形態で(すなわち、「SiO」及び「Al」として)示すことが一般的である。
【0114】
特に好適な潜在水硬性バインダーは、高炉スラグである。
【0115】
本発明の好ましい一実施形態において、無機バインダーは、潜在水硬性バインダーであり、これは、好ましくは、高炉スラグである。
【0116】
潜在水硬性バインダーは、一般に、アルミネート含有セメントの質量を基準にして約1~約30質量%の範囲の量で含まれる。
【0117】
建設材料用組成物が少量の水硬性バインダー(例えば≦10%)を含有する場合、アルカリ活性化剤が、強度の発現を促進するためにさらに添加され得る。アルカリ活性化剤は、好ましくは、バインダー系中で使用され、このようなアルカリ活性化剤は、例えば、アルカリ金属フッ化物、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属アルミネート又はアルカリ金属シリケートの水溶液、例えば可溶性水ガラス、及びそれらの混合物である。
【0118】
建設用化学組成物又は建築材料用配合物は、硫酸カルシウムベースのバインダーも含有し得る。
【0119】
好ましい一実施形態において、無機バインダーは、硫酸カルシウム二水和物、硫酸カルシウム半水和物、硬石膏、及びそれらの混合物から選択される硫酸カルシウムベースのバインダーである。
【0120】
建設材料用組成物は、例えば、コンクリート、モルタル、セメントペースト又はグラウト材であり得る。「セメントペースト」という用語は、水と混合された無機バインダー組成物を示す。
【0121】
「モルタル」又は「グラウト材」という用語は、微細な顆粒、すなわち、直径が150μm~5mmである顆粒(例えば砂)、及び任意選択的に非常に微細な顆粒が添加されたセメントペーストを示す。グラウト材は、気泡又は隙間を埋めるための十分に低い粘度の混合物である。モルタルの粘度は、モルタルの自重だけでなく、モルタルの上に置かれる石積の質量も支持するほど十分高い。「コンクリート」という用語は、粗い顆粒、すなわち、5mm超の直径を有する顆粒が添加されたモルタルを示す。
【0122】
本発明における骨材は、例えば、シリカ、石英、砂、砕いた大理石、ガラス球体、花崗岩、石灰石、砂岩、方解石、大理石、蛇紋岩、トラバーチン、ドロマイト、長石、片麻岩、沖積砂、任意の他の耐久性のある骨材、及びそれらの混合物であり得る。骨材は、フィラーと呼ばれることも多く、特に、バインダーとして機能しない。
【0123】
本発明はまた、無機バインダーを含有する建築材料用配合物の硬化を調節し、及び/又は建築用製品を製造するための、特に、コンクリート、例えば、現場コンクリート、完成済コンクリート部品、プレキャストコンクリート部品、コンクリート製品、キャストコンクリート石材、コンクリートレンガ、現場打ちコンクリート、吹付けコンクリート(ショットクリート)、レディーミクスコンクリート、空気連行(air-placed)コンクリート、3Dプリントコンクリート、コンクリート補修系、工業用セメント床材、一成分及び二成分シーリングスラリー、地盤又は岩盤改善及び土壌改良のためのスラリー、スクリード、充填及びセルフレベリング組成物、例えば、目地材若しくはセルフレベリング下敷き材、接着剤、例えば、建築用若しくは建設用接着剤、断熱複合材系接着剤、タイル用接着剤、下塗り、石膏、接着剤、封止剤、コーティング及び塗装系のための、特に、トンネル、排水溝、飛散防止及び復水ライン、スクリード、モルタル、例えば、硬練りモルタル、耐タレ性、流動性若しくはセルフレベリングモルタル、排液溝モルタル、若しくは補修モルタル、グラウト材、例えば、継目グラウト材、非収縮グラウト材、タイル用グラウト材、注入グラウト材、風車用グラウト材、アンカーグラウト材、流動性若しくはセルフレベリンググラウト材、ETICS(外部断熱複合材系)、EIFSグラウト材(外断熱仕上げシステム(Exterior Insulation Finishing Systems))、膨潤爆発物(swelling explosive)、防水膜又はセメント質フォームのための、本発明に係る混合物の使用にも関する。
【0124】
本発明は、以下の実施例によってさらに例示される。
【実施例
【0125】
グリオキシル酸の付加生成物又は縮合生成物及び分散剤の調製
凝結遅延剤1:
148gのグリオキシル酸水和物(水中50%)を、反応容器に充填し、594gのエタノールと混合した。次に、750gの水に溶解された380gのピロ亜硫酸ナトリウム(Na)を、混合物に加えた。4時間撹拌した後、得られた懸濁液を1℃に冷却し、24時間にわたって静置させた。生成物が結晶化し、それを単離し、乾燥させた。それを、NMRによって特性評価した。
【0126】
凝結遅延剤2:
14.81gのグリオキシル酸(水中50%溶液)を、容器中に加え、水酸化カリウムを用いてpH5になるまで中和した。10.0gの尿素を加えた後、混合物を80℃に加熱した。7時間後、高粘性の物質を、後述されるようにゲル浸透クロマトグラフィー方法(GPC)によって分析した。分子量は、M=1500g/molであった。
【0127】
分散剤1:分散剤は、ポリカルボン酸エーテル、より具体的には、平均64モルのエチレンオキシドでエトキシ化された4-ヒドロキシブチルモノビニルエーテルとアクリル酸との1/10の比率のコポリマーである。
【0128】
ゲル浸透クロマトグラフィー方法(GPC):
カラムの組合せ:日本のShodexのOH-Pak SB-G、OH-Pak SB 804 HQ及びOH-Pak SB 802.5 HQ;溶離剤:80体積%のHCONH(0.05mol/l)水溶液及び20体積%のメタノール;注入量100μl;流量0.5ml/分。分子量の較正を、RI検出器のためにポリ(アクリレート)標準物を用いて実施した。標準物を、PSS Polymer Standards Service(Germany)から購入した。
【0129】
実施例1
以下の添加剤を使用した:対照として、凝結遅延剤1を単独で使用した(例番号Ref-1)。さらに、凝結遅延剤1を、4:1の質量比のグリセロールとの混合物として使用した(実施例番号1)。
【0130】
添加剤を、Normensand GmbHから入手可能なDIN EN 196-1にしたがって、1100gのポルトランドセメント及び1650gの砂を含む硬練りモルタル混合物に加えた。練混ぜ水(w/c=0.35)を加えた後、モルタル混合物を、以下のようにToni-Mixer中でDIN EN 196-1と同様に混合した:
0~60秒:Rilemレベル1
60~90秒:Rilemレベル2
90~180秒:休止
180~240秒:Rilemレベル2
【0131】
圧縮強度を、4×4cmの角柱において3時間及び24時間後に測定した。それぞれの時点で、3つの角柱を試験し、値の平均を計算した。
【0132】
結果が以下の表1に示される。
【0133】
【表1】
【0134】
早期圧縮強度及び最終圧縮強度は、凝結遅延剤1単独の使用と比較して、凝結遅延剤1及びグリセロールを含む添加剤の場合に改善される。
【0135】
実施例2
添加剤中のポリヒドロキシ化合物の効果が、表2に記載される以下の処方を用いたモルタル中で実証される。水対セメントの比率は、w/c=0.37である。添加剤として使用される化合物の量は、表3に質量パーセントで示されている。
【0136】
【表2】
【0137】
セメントモルタルを、5LのRILEMミキサー中で調製した。ミキサーに、セメント、骨材及び砂を充填した。その後、混合を、低速(140rpm)で開始した。30秒後、練混ぜ水及びその中に溶解された添加剤を、混合物に均一に加えた。次に、混合速度を上昇させ(285rpm)、90秒間にわたって継続した。
【0138】
高さが15cm並びに内径が上部で5cm及び底部で10cmのコーンを用いて、スランプを求めた。混合直後にコーンを完全に満たし、コーンを持ち上げ、コンクリートのスランプを測定した。さらに、実施例1に記載されるように圧縮強度を測定した。これらの結果は表3に示されている。
【0139】
【表3】
【0140】
グリセロールの添加は、モルタルの早期強度を最大で30%改善する。