(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】トルクセンサ及びトルク検出装置
(51)【国際特許分類】
G01L 3/10 20060101AFI20240717BHJP
【FI】
G01L3/10 301J
(21)【出願番号】P 2021006739
(22)【出願日】2021-01-19
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥山 健
(72)【発明者】
【氏名】中村 晃之
(72)【発明者】
【氏名】二口 尚樹
【審査官】松山 紗希
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-049124(JP,A)
【文献】特開2009-008547(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 3/00-3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁歪特性を有するシャフトによって伝達されるトルクを検出するトルクセンサであって、
前記シャフトの外周に配置されると共に前記シャフトの軸方向に並んで配置された円筒状の一対の検出部と、前記一対の検出部を接続する第1及び第2の接続線路とを備え、
前記一対の検出部は、前記シャフトの軸方向に対して所定角度傾斜した第1直線部を有する第1及び第3の検出コイルと、前記シャフトの軸方向に対して前記第1直線部と反対方向に前記所定角度傾斜した第2直線部を有する第2及び第4の検出コイルとをそれぞれ有し、前記第1乃至第4の検出コイルが径方向に積層されており、
前記第1乃至第4の検出コイルは、前記第1及び第4の検出コイルを直列に接続してなる直列回路と前記第2及び第3の検出コイルを直列に接続してなる直列回路とが並列に接続された直並列回路を構成し、
前記第1の接続線路は、前記一対の検出部のうち一方の検出部における前記第1及び第4の検出コイルの接続部と、他方の検出部における前記第1及び第4の検出コイルの接続部または前記第2及び第3の検出コイルの接続部の一方とを接続し、
前記第2の接続線路は、前記一対の検出部のうち一方の検出部における前記第2及び第3の検出コイルの接続部と、他方の検出部における前記第1及び第4の検出コイルの接続部または前記第2及び第3の検出コイルの接続部の他方とを接続し、
前記第1の接続線路と前記第2の接続線路との間の電位差によって前記シャフトによって伝達されるトルクが検出される、
トルクセンサ。
【請求項2】
前記一対の検出部は、4層の配線層を有する円筒状に湾曲したフレキシブル基板をそれぞれ有し、
前記第1及び第2の検出コイルは、前記4層の配線層のうち2層の配線層にわたってそれぞれ形成され、前記第1の検出コイルの一部が前記第2の検出コイルの外径側に配置されると共に、前記第1の検出コイルの他の一部が前記第2の検出コイルの内径側に配置されており、
前記第3及び第4の検出コイルは、前記4層の配線層のうち他の2層の配線層にわたってそれぞれ形成され、前記第3の検出コイルの一部が前記第4の検出コイルの外径側に配置されると共に、前記第3の検出コイルの他の一部が前記第4の検出コイルの内径側に配置されている、
請求項1に記載のトルクセンサ。
【請求項3】
前記フレキシブル基板は、
前記第1の検出コイルが前記第2の検出コイルの外径側に配置される領域と、前記第1の検出コイルが前記第2の検出コイルの内径側に配置される領域の周方向長さが等しく、
前記第3の検出コイルが前記第4の検出コイルの外径側に配置される領域と、前記第3の検出コイルが前記第4の検出コイルの内径側に配置される領域の周方向長さが等しい、
請求項2に記載のトルクセンサ。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載のトルクセンサと、
前記直並列回路を交流励磁する交流電圧を発生する駆動部とを備え、
前記一対の検出部は、前記第1乃至第4の検出コイルの積層構造、及び前記直並列回路の構成が同じであり、かつ、前記直並列回路に互いに逆方向の前記交流電圧が印加され、
前記一対の検出部は、周方向において相対的に180度回転して配置されており、
前記第1の接続線路は、前記一対の検出部のうち一方の検出部における前記第1及び第4の検出コイルの接続部と、他方の検出部における前記第2及び第3の検出コイルの接続部とを接続し、
前記第2の接続線路は、前記一対の検出部のうち一方の検出部における前記第2及び第3の検出コイルの接続部と、他方の検出部における前記第1及び第4の検出コイルの接続部とを接続している、
トルク検出装置。
【請求項5】
請求項1乃至3の何れか1項に記載のトルクセンサと、
前記直並列回路を交流励磁する交流電圧を発生する駆動部とを備え、
前記一対の検出部は、前記第1乃至第4の検出コイルの積層構造、及び前記直並列回路の構成が同じであり、かつ、前記直並列回路に互いに逆方向の前記交流電圧が印加され、
前記一対の検出部は、周方向に沿った回転位置が互いに同じ位置となるように配置されており、
前記第1の接続線路は、前記一対の検出部におけるそれぞれの前記第1及び第4の検出コイルの接続部同士を接続し、
前記第2の接続線路は、前記一対の検出部におけるそれぞれの前記第2及び第3の検出コイルの接続部同士を接続している、
トルク検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁歪式のトルクセンサ及びトルク検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トルクが付与された際に透磁率が変化する磁歪特性を有するシャフトに付与されたトルクを検出する磁歪式のトルクセンサとして、シャフトの透磁率の変化をシャフトの近傍に配置されたコイルのインダクタンスの変化によって捉えるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載のトルクセンサは、円筒状に湾曲したフレキシブル基板の複数の配線層に検出コイルが形成されており、このフレキシブル基板がトルクの検出対象となるシャフトと同心となるように、シャフトの周囲に配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、磁歪式のトルクセンサの取り付け時の位置ずれや、温度変化、外部からの応力等に起因して、シャフトとトルクセンサとの間に相対的な偏心が生じてしまう場合がある。特に、自動車等の振動が大きい環境で使用される場合には、製造公差や取り付け公差等の影響の他に、振動によってもシャフトとトルクセンサとの間に相対的な偏心が生じるおそれがある。シャフトとトルクセンサとの間に偏心が生じると、この偏心の影響によって検出精度が低下してしまうおそれがあることが、本発明者らによって確認されている。
【0006】
そこで、本発明は、検出対象のシャフトの偏心によるトルクの検出精度の低下を抑制可能なトルクセンサ、及びこのトルクセンサを用いたトルク検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、磁歪特性を有するシャフトによって伝達されるトルクを検出するトルクセンサであって、前記シャフトの外周に配置されると共に前記シャフトの軸方向に並んで配置された円筒状の一対の検出部と、前記一対の検出部を接続する第1及び第2の接続線路とを備え、前記一対の検出部は、前記シャフトの軸方向に対して所定角度傾斜した第1直線部を有する第1及び第3の検出コイルと、前記シャフトの軸方向に対して前記第1直線部と反対方向に前記所定角度傾斜した第2直線部を有する第2及び第4の検出コイルとをそれぞれ有し、前記第1乃至第4の検出コイルが径方向に積層されており、前記第1乃至第4の検出コイルは、前記第1及び第4の検出コイルを直列に接続してなる直列回路と前記第2及び第3の検出コイルを直列に接続してなる直列回路とが並列に接続された直並列回路を構成し、前記第1の接続線路は、前記一対の検出部のうち一方の検出部における前記第1及び第4の検出コイルの接続部と、他方の検出部における前記第1及び第4の検出コイルの接続部または前記第2及び第3の検出コイルの接続部の一方とを接続し、前記第2の接続線路は、前記一対の検出部のうち一方の検出部における前記第2及び第3の検出コイルの接続部と、他方の検出部における前記第1及び第4の検出コイルの接続部または前記第2及び第3の検出コイルの接続部の他方とを接続し、前記第1の接続線路と前記第2の接続線路との間の電位差によって前記シャフトによって伝達されるトルクが検出される、トルクセンサを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るトルクセンサ及びトルク検出措置によれば、検出対象のシャフトの偏心によるトルクの検出精度の低下を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る磁歪式トルクセンサの外観を示す斜視図である。
【
図2】(a)は、
図1のトルクセンサにおける一対の検出部を示す斜視図、(b)はフレキシブル基板及び磁性リングの積層構造を示す断面図である。
【
図3】フレキシブル基板の各配線層に形成される配線パターンの一例を示す図である。
【
図4】一対の検出部における第1乃至第4の検出コイルの配置を説明する図である。
【
図5】トルクセンサを含むトルク検出装置の回路図である。
【
図6】シャフトと検出部との偏心の大きさに対するオフセット電圧の変化の測定結果を示すグラフ図である。
【
図7】本発明の一変形例を示す図であり、(a)は一対の検出部における第1乃至第4の検出コイルの配置を説明する図、(b)はトルクセンサの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0011】
(トルクセンサ及びトルク検出装置の構成)
図1は、本実施の形態に係る磁歪式トルクセンサの外観を示す斜視図である。
図2(a)は、
図1のトルクセンサにおける一対の検出部を示す斜視図、
図2(b)はフレキシブル基板及び磁性リングの積層構造を示す断面図である。
図3は、フレキシブル基板の各配線層に形成される配線パターンの一例を示す図である。
図4は、一対の検出部における第1乃至第4の検出コイルの配置を説明する図である。
図5は、トルクセンサを含むトルク検出装置の回路図である。
【0012】
図5に示すように、トルク検出装置1は、トルクセンサ10と、トルクセンサ10の動作のための交流電圧を発生する交流電源である駆動部9とを備え、シャフト2によって伝達されるトルクを検出する。シャフト2は、例えばエンジン等の車両の駆動源の駆動力を伝達される駆動軸であり、応力(ここではトルク)が付与された際に透磁率が変化する磁歪特性を有している。
【0013】
シャフト2としては、例えばクロム鋼、クロムモリブデン鋼、又はニッケルクロムモリブデン鋼等のクロムを含有するクロム鋼からなる基材に、浸炭焼入れ焼戻し処理を施し、その後ショットピーニングを施したものを用いることができる。浸炭焼入れ焼戻し処理を施すことで、シャフト2の靱性を含む機械的強度を高めることができる。また、浸炭焼入れ焼戻し処理後にショットピーニングを施すことで、その表面にマルテンサイト変態(無拡散変態)を生じさせて非磁性のオーステナイトを減少させ、強磁性のマルテンサイトを増大させることができる。その結果、シャフト2の表面における非磁性領域が減少して磁性領域が増大し、応力が付与された際の透磁率の変化が大きくなると共に、塑性変形が減少し、応力変動によるヒステリシスを低減できる。
【0014】
トルクセンサ10は、シャフト2が挿通される円筒状の一対の検出部3と、一対の検出部3の周囲を覆う樹脂モールド部7と、を有している。
図1に示すように、樹脂モールド部7は、一対の検出部3を保護するためのものであり、一対の検出部3の周囲を覆うように樹脂をモールドして形成されている。
【0015】
樹脂モールド部7は、一対の検出部3の周囲を覆う本体部71と、本体部71から外方に突出するように形成された二つのフランジ部72とを一体に有している。本体部71には、シャフト2を通すための貫通孔71aが形成されている。それぞれのフランジ部72には、金属からなる短円筒状のカラー73が保持されている。トルクセンサ10は、カラー73に挿通されるボルトによって、例えば車体に固定されたステーやハウジング等の非回転部材に固定される。
【0016】
一対の検出部3は、円筒状に形成されており、シャフト2の外周に配置されると共に、シャフト2の軸方向に並んで配置されている。なお、検出部3同士の距離が離れすぎていると、検出精度の低下やトルクセンサ10の大型化を招来するため、一対の検出部3は、本体部71内において近接して配置されている。
【0017】
図2(a)に示されるように、一対の検出部3は、シャフト2と離間して同軸に配置された円筒状のボビン5と、ボビン5の外面に巻き付けられるように円筒状に湾曲したフレキシブル基板6と、フレキシブル基板6の周囲を覆う円筒状の磁性リング4とをそれぞれ有している。
【0018】
ボビン5は、樹脂等の非磁性体からなり、フレキシブル基板6を支持している。磁性リング4は、例えば圧粉磁心やアモルファス軟磁性体等の磁性体からなり、磁気回路の磁気抵抗を下げると共に、後述する検出コイル31~34で生じた磁束が外部に漏れて感度が低下することを抑制する。
【0019】
図2(b)に示されるように、フレキシブル基板6は、4層の配線層60を有しており、これら4層の配線層60のうち二つの配線層60と他の二つの配線層60とがそれぞれペアを構成している。すなわち、フレキシブル基板6は、2層の配線層60を2ペア有している。より具体的には、フレキシブル基板6は、磁性リング4側(外側)からボビン5側(内側)に向かって、第1配線層61、第2配線層62、第3配線層63、第4配線層64の4層の配線層60を有しており、第1配線層61と第2配線層62、ならびに第3配線層63と第4配線層64が、それぞれペアとして用いられる。配線層60は、第1乃至第4配線層61~64の総称である。ただし、配線層60の層数はこれに限定されず、4層以上であればよい。
【0020】
第4配線層64は、ポリイミドからなる第1ベース樹脂層65aの表(おもて)面(ボビン5側の面。以下同様。)に形成されており、第1ベース樹脂層65aの裏面(磁性リング4側の面。以下同様。)は接着層66bを介して第3配線層63に接着固定されている。第4配線層64の表面には、接着層66aを介してポリイミドからなる第1カバーレイ層67aが設けられ、絶縁処理が施されている。第1カバーレイ層67aの表面には両面テープ68aが貼付され、この両面テープ68aを介して、フレキシブル基板6がボビン5に接着固定されている。
【0021】
第3配線層63は、ポリイミドからなる第2ベース樹脂層65bの表面に形成されており、第2ベース樹脂層65bの裏面には、第2配線層62が形成されている。
【0022】
第1配線層61は、ポリイミドからなる第3ベース樹脂層65cの裏面に形成されており、第3ベース樹脂層65cの表面は接着層66cを介して第2配線層62に接着固定されている。第1配線層61の裏面には、接着層66dを介してポリイミドからなる第2カバーレイ層67bが設けられ、絶縁処理が施されている。第2カバーレイ層67bには、両面テープ68bが貼付され、この両面テープ68bを介して、フレキシブル基板6と磁性リング4とが接着固定されている。
【0023】
フレキシブル基板6の内層となる第2配線層62と第3配線層63とは、圧延銅箔からなる。フレキシブル基板6の外層となる第1配線層61と第4配線層64とは、電解銅箔に銅めっきを施したものからなる。詳細は後述するが、トルクセンサ10では、フレキシブル基板6にビア(スルーホール)を形成する必要があるため、外層である第1,4配線層61,64では、めっきを施した構成となっている。
【0024】
図3は、フレキシブル基板6の各配線層60に形成される配線パターンの一例を示す図である。
図3では、フレキシブル基板6を展開して平面とした際の各配線層60(第1乃至第4配線層61~64)の配線パターンを模式的に示している。
【0025】
図3に示すように、フレキシブル基板6の第1乃至第4配線層61~64には、第1乃至第4の検出コイル31~34が形成されている。すなわち、一対の検出部3は、第1乃至第4の検出コイル31~34を径方向に積層してそれぞれ構成されている。
【0026】
第1及び第3の検出コイル31,33は、シャフト2の軸方向に対して所定角度傾斜した第1直線部31a,33aを有し、第2及び第4の検出コイル32,34は、シャフト2の軸方向に対して第1直線部31a,33aと反対方向に所定角度傾斜した第2直線部32a,34aを有している。シャフト2にトルクが付与された際の透磁率の変化は、軸方向に対して±45度の方向で最も大きくなるため、第1直線部31a,33aを軸方向に対して+45度傾斜するように形成し、第2直線部32a,34aを軸方向に対して-45度傾斜するように形成することで、検出感度を向上できる。
【0027】
トルクセンサ10では、第1の検出コイル31を形成する配線層60と、第2の検出コイル32を形成する配線層60の配線パターンを一部入れ替えており、ペアとなる2層の配線層60(第1及び第2配線層61,62)にわたって第1及び第2の検出コイル31,32がそれぞれ形成されている。これにより、第1の検出コイル31の一部が第2の検出コイル32の外径側に配置されると共に、第1の検出コイル31の他の一部が第2の検出コイル32の内径側に配置されることになる。本実施の形態では、第1の検出コイル31が第2の検出コイル32の外径側に配置される領域(後述する第1領域35)と、第1の検出コイル31が第2の検出コイル32の内径側に配置される領域(後述する第2領域36)の周方向長さが等しくなるように両検出部3が構成されている。
【0028】
同様に、トルクセンサ10では、第3の検出コイル33を形成する配線層60と、第4の検出コイル34を形成する配線層60の配線パターンを一部入れ替えており、ペアとなる2層の配線層60(第3及び第4配線層63,64)にわたって第3及び第4の検出コイル33,34が形成されている。これにより、第3の検出コイル33の一部が第4の検出コイル34の外径側に配置されると共に、第3の検出コイル33の他の一部が第4の検出コイル34の内径側に配置されることになる。本実施の形態では、第3の検出コイル33が第4の検出コイル34の外径側に配置される領域(後述する第2領域36)と、第3の検出コイル33が第4の検出コイル34の内径側に配置される領域(後述する第1領域35)の周方向長さが等しくなるように両検出部3が構成されている。また、フレキシブル基板は、複数のビア(via)を有しており、複数の配線層60の間がビアを介して電気的に接続されている。
【0029】
各検出コイル31~34を2層の配線層60にわたって形成することで、2層の配線層60の特性差による影響を抑制することが可能になる。その結果、配線層60間の特性差に起因した測定誤差を抑制し、測定精度を向上させることが可能になる。また、各検出コイル31~34を2層の配線層60にわたって形成することで、検出部3に対するシャフト2の相対的な偏心の影響によるオフセット電圧を抑制することも可能になる。
【0030】
第1配線層61及び第3配線層63の配線パターンに流れる電流と、第2配線層62及び第4配線層64の配線パターンに流れる電流とは、互いに同じ向きである。
図3では、白抜き矢印で電流の向きを示している。また、
図3では、第1乃至第4の検出コイル31~34の入力側電極を符号31b,32b,33b,34b、出力側電極を符号31c,32c,33c,34cで示している。また、
図3における符号a~y,A~Yは、ビアによる接続関係を便宜的に表すものであり、同じ符号同士がビアを介して電気的に接続されていることを表している。なお、
図3に示す各配線層60の配線パターンはあくまで一例であり、配線パターンの具体的な構造はこれに限定されるものではない。
【0031】
次に、各検出コイル31~34の配置の詳細を
図4により説明する。
図4に示すように、両検出部3では、その全周の略半分の領域(以下、第1領域35という)において、径方向内方から外方にかけて、第3の検出コイル33、第4の検出コイル34、第2の検出コイル32、第1の検出コイル31が順次配置されている。また、両検出部3では、その全周の略半分の領域(以下、第2領域36という)において、径方向内方から外方にかけて、第4の検出コイル34、第3の検出コイル33、第1の検出コイル31、第2の検出コイル32が順次配置されている。一対の検出部3は、第1乃至第4の検出コイル31~34の積層構造が同じ構造となっており、かつ、周方向において相対的に180度回転して配置されている。以下、一方の検出部3(
図4における左側の検出部3)を第1の検出部3a、他方の検出部3(
図4における右側の検出部3)を第2の検出部3bという。
【0032】
シャフト2と検出部3a,3bとの間で偏心が生じやすい方向が既知である場合には、当該方向と第1領域35と第2領域36とが対向する方向とが一致するように、両検出部3a,3bを配置することが望ましい。本実施の形態では、シャフト2と検出部3a,3bとの間で偏心が生じやすい方向が鉛直方向である場合を想定し、第1領域35と第2領域36とが鉛直方向に対向するように両検出部3a,3bを配置している。
【0033】
図5に示すように、トルクセンサ10の両検出部3a,3bでは、第1乃至第4の検出コイル31~34によって直並列回路30がそれぞれ構成されている。直並列回路30は、第1及び第4の検出コイル31,34を直列に接続してなる直列回路30aと、第2及び第3の検出コイル32,33を直列に接続してなる直列回路30bとを並列に接続して構成されている。なお、第1乃至第4の検出コイル31~34は、同じ巻数とされ、同じインピーダンスとなるように構成されている。
【0034】
駆動部9は、検出部3a,3bのそれぞれの直列回路30a,30bの両端部間に、第1乃至第4の検出コイル31~34を交流励磁する交流電圧を印加する。
図5では、直並列回路30に駆動部9の交流電圧が印加された場合の第1乃至第4の検出コイル31~34のインピーダンスをそれぞれZ1~Z4として示している。
【0035】
トルクセンサ10は、駆動部9によって両検出部3の直並列回路30に互いに逆方向の交流電圧が印加される。図示の例では、第1の検出部3aにおいては、駆動部9が直列回路30a,30bの第1及び第2の検出コイル31,32側の端部に接続されており、直列回路30a,30bの第3及び第4の検出コイル33,34側の端部が電気的に接地されている。また、第2の検出部3bにおいては、駆動部9が直列回路30a,30bの第3及び第4の検出コイル33,34側の端部に接続されており、直列回路30a,30bの第1及び第2の検出コイル31,32側の端部が電気的に接地されている。
【0036】
また、トルクセンサ10は、一対の検出部3同士を接続する第1及び第2の接続線路81,82を有している。第1の接続線路81は、第1の検出部3aの第1の検出コイル31と第4の検出コイル34との接続部37aと、第2の検出部3bの第2の検出コイル32と第3の検出コイル33との接続部38bとを接続している。第2の接続線路82は、第1の検出部3aの第2の検出コイル32と第3の検出コイル33との接続部38aと、第2の検出部3bの第1の検出コイル31と第4の検出コイル34との接続部37bとを接続している。
【0037】
第1の接続線路81は、直列に接続された二つの抵抗器81a,81bを有している。第2の接続線路82は、直列に接続された二つの抵抗器82a,82bを有している。また、第1及び第2の接続線路81,82は、シャフト2によって伝達されるトルクの大きさに応じた電圧を出力する第1及び第2の出力接点81c,82cを有している、第1の出力接点81cは、第1の接続線路81の二つの抵抗器81a,81bの間の電圧を出力し、第2の出力接点82cは、第2の接続線路82の二つの抵抗器82a,82bの間の電圧を出力する。第1の出力接点81cと第2の出力接点82cとの間の電位差は、シャフト2によって伝達されるトルクの大きさに応じた出力電圧Voutとなる。出力電圧Voutは、例えばADコンバータによってデジタル値に変換され、車両の駆動源(エンジンや電動モータ)の制御や自動変速機(オートマチックトランスミッション)の制御などに用いられる。
【0038】
なお、抵抗器81a,81bの抵抗値,及び抵抗器82a,82bの抵抗値は同じである。また、抵抗器81a,81b,82a,82bの抵抗値は、第1の接続線路81によって接続部37aと接続部38bの間で流れる電流、及び第2の接続線路82によって接続部38aと接続部37bの間で流れる電流が無視できる程度の値である。ただし、抵抗器81a,81b,82a,82bを省略しても第1及び第2の接続線路81,82を介して第1の検出部3aと第2の検出部3bとの間で流れる電流がトルクの検出精度に影響を与えない場合には、これらの抵抗器81a,81b,82a,82bを省略してもよい。
【0039】
(トルクセンサ及びトルク検出装置の動作)
次に、トルクセンサ10及びトルク検出装置1の動作について説明する。駆動部9が両検出部3a,3bの直並列回路30に交流電圧を印加すると、当該交流電圧により第1乃至第4の検出コイル31~34が交流励磁されて磁束が発生する。第1乃至第4の検出コイル31~34は、応力の測定対象となるシャフト2の周囲に配置されているため、第1乃至第4の検出コイル31~34で発生する磁束がシャフト2を通過する。シャフト2は、前述のように磁歪特性を有する磁歪材であるため、シャフト2の伝達トルクに応じて透磁率が変化し、これにより第1乃至第4の検出コイル31~34のインピーダンス(主にインダクタンス)が変化する。
【0040】
例えば、シャフト2に一方の回転方向のトルクが付与されて第1及び第3の検出コイル31,33のインピーダンスが増加し、第2及び第4の検出コイル32,34のインピーダンスが減少した場合、あるいはシャフト2に他方の回転方向のトルクが付与されて第1及び第3の検出コイル31,33のインピーダンスが減少し、第2及び第4の検出コイル32,34のインピーダンスが増加した場合には、直並列回路30が不平衡の状態となり、第1の検出部3aにおける接続部37aと接続部38aとの間、及び第2の検出部3bにおける接続部37bと接続部38bとの間に、シャフト2に付与されたトルクに応じた電位差が生じる。これにより、第1の接続線路81と第2の接続線路82との間に発生する出力電圧Voutによってシャフト2に付与されたトルクを検出することが可能になる。
【0041】
ここで、シャフト2と検出部3a,3bとの偏心の影響について検討する。振動等によりシャフト2が検出部3a,3bの中心の位置からずれると、シャフト2と各検出コイル31~34との間の距離が変化する。その結果、例えばトルクが付与されていない無負荷状態でシャフト2が回転していても、直並列回路30で不平衡が生じてしまい、出力電圧VoutがゼロVから変動してしまう。すなわち、トルクの検出値に誤差が発生してしまう。以下、シャフト2にトルクが付与されていない状態で出力される電圧をオフセット電圧という。
【0042】
このような偏心の影響によるオフセット電圧は、本実施の形態に係るトルクセンサ10のように、第1及び第2の検出コイル31,32を2層の配線層60にわたって形成し、第3及び第4の検出コイル33,34を2層の配線層60にわたって形成する構造(以下、2分割コイル構造という)とすることでもある程度抑制可能であるが、シャフト2の偏心に起因して発生する誤差を抑制し、さらにトルクの検出精度を高めれば、車両制御のさらなる高度化に寄与し得る。
【0043】
本実施の形態では、二つの検出部3を用い、各検出部3を構成する直並列回路30の中点同士(接続部37aと接続部37b、及び接続部38aと接続部38b)を第1及び第2の接続線路81,82により接続し、これら第1及び第2の接続線路81,82の電位差を出力することで、オフセット電圧のさらなる抑制を図っている。
【0044】
より具体的には、例えば
図4に示されるような偏心が発生した場合、第1の検出部3aにおいては、シャフト2が第2領域36に近づき、第1領域35から離れる。他方、第2の検出部3bにおいては、シャフト2が第1領域35に近づき、第2領域36から離れる。そのため、偏心の影響によるオフセット電圧の変動が、両検出部3a,3bで同じ大きさで、かつ逆方向の変化となる。よって、接続部37aと接続部37b及び接続部38aと接続部38bを第1及び第2の接続線路81,82により接続して両直並列回路30の出力を合成すると、偏心の影響によるオフセット電圧が相殺されることになる。このように、トルクセンサ10では、2分割コイル構造を適用し、かつ同じ構造の二つの検出部3を互いに180度回転させた状態で配置し、これら二つの検出部3の出力を合成することによって、偏心の影響によるオフセット電圧の発生を抑制している。
【0045】
図6は、シャフト2と検出部3a,3bとの偏心の大きさ(シャフト2の中心軸と検出部3a,3bの中心軸との距離)に対するオフセット電圧の測定結果を示すグラフ図である。また、
図6では、一つの2分割構造の検出部3のみを有するトルクセンサを用いた場合のオフセット電圧を比較例として示している。
図6に示すように、本実施の形態による実施例のトルク検出装置1では、比較例の測定結果と比較して、偏心の影響によるオフセット電圧が大幅に抑制されている。
【0046】
(変形例)
上記実施の形態では、一対の検出部3を互いに180度回転させた状態で配置したが、これに限らず、
図7(a)に示すように、一対の検出部3a,3bを周方向に沿った回転位置が互いに同じ位置となるように配置してもよい。この場合、
図5の回路図における第2の検出部3bの直並列回路30において、第1の検出コイル31と第2の検出コイル32との配置を入れ替え、かつ、第3の検出コイル33と第4の検出コイル34との配置を入れ替えて、
図7(b)に示す回路構成とする。また、第1の接続線路81により、一対の検出部3a,3bにおける第1及び第4の検出コイル31,34の接続部37a,37b同士を接続し、第2の接続線路82により、一対の検出部3a,3bにおける第2及び第3の検出コイル32,33の接続部38a,38b同士を接続する。このように構成することで、実質的に上記実施の形態と同じ構成となり、同様の作用効果を得ることが可能になる。
【0047】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、トルクセンサ10を用いたトルク検出装置1によれば、シャフト2と検出部3との偏心の影響によるオフセット電圧を抑制し、トルクを高精度に検出することができる。
【0048】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0049】
[1]磁歪特性を有するシャフト(2)によって伝達されるトルクを検出するトルクセンサ(10)であって、前記シャフト(2)の外周に配置されると共に前記シャフト(2)の軸方向に並んで配置された円筒状の一対の検出部(3a,3b)と、前記一対の検出部(3a,3b)を接続する第1及び第2の接続線路(81,82)とを備え、前記一対の検出部(3a,3b)は、前記シャフト(2)の軸方向に対して所定角度傾斜した第1直線部(31a,33a)を有する第1及び第3の検出コイル(31,33)と、前記シャフト(2)の軸方向に対して前記第1直線部(31a,33a)と反対方向に前記所定角度傾斜した第2直線部(32a,34a)を有する第2及び第4の検出コイル(32,34)とをそれぞれ有し、前記第1乃至第4の検出コイル(31~34)が径方向に積層されており、前記第1乃至第4の検出コイル(31~34)は、前記第1及び第4の検出コイル(31,34)を直列に接続してなる直列回路(30a)と前記第2及び第3の検出コイル(32,33)を直列に接続してなる直列回路(30b)とが並列に接続された直並列回路(30)構成し、前記第1の接続線路(81)は、前記一対の検出部(3a,3b)のうち一方の検出部(3a)における前記第1及び第4の検出コイル(31,34)の接続部と、他方の前記検出部(3b)における前記第1及び第4の検出コイル(31,34)の接続部または前記第2及び第3の検出コイル(32,33)の接続部の一方とを接続し、前記第2の接続線路(82)は、前記一対の検出部(3a,3b)のうち一方の検出部(3a)における前記第2及び第3の検出コイル(32,33)の接続部と、他方の前記検出部(3b)における前記第1及び第4の検出コイル(31,34)の接続部または前記第2及び第3の検出コイル(32,33)の接続部の他方とを接続し、前記第1の接続線路(81)と前記第2の接続線路(82)との間の電位差によって前記シャフト(2)によって伝達されるトルクが検出される、トルクセンサ(10)。
【0050】
[2]前記一対の検出部(3)は、4層の配線層(60)を有する円筒状に湾曲したフレキシブル基板(6)をそれぞれ有し、前記第1及び第2の検出コイル(31,32)は、前記4層の配線層(60)のうち2層の前記配線層(60)にわたってそれぞれ形成され、前記第1の検出コイル(31)の一部が前記第2の検出コイル(32)の外径側に配置されると共に、前記第1の検出コイル(31)の他の一部が前記第2の検出コイル(32)の内径側に配置されており、前記第3及び第4の検出コイル(33,34)は、前記4層の配線層(60)のうち他の2層の前記配線層(60)にわたってそれぞれ形成され、前記第3の検出コイル(33)の一部が前記第4の検出コイル(34)の外径側に配置されると共に、前記第3の検出コイル(33)の他の一部が前記第4の検出コイル(44)の内径側に配置されている、[1]に記載のトルクセンサ(10)。
【0051】
[3]前記フレキシブル基板(6)は、前記第1の検出コイル(31)が前記第2の検出コイル(32)の外径側に配置される領域と、前記第1の検出コイル(31)が前記第2の検出コイル(32)の内径側に配置される領域の周方向長さが等しく、かつ、前記第3の検出コイル(33)が前記第4の検出コイル(34)の外径側に配置される領域と、前記第3の検出コイル(33)が前記第4の検出コイル(34)の内径側に配置される領域の周方向長さが等しい、[2]に記載のトルクセンサ(10)。
【0052】
[4]上記[1]乃至[3]の何れか1項に記載のトルクセンサ(10)と、前記直並列回路(30)を交流励磁する交流電圧を発生する駆動部(9)とを備え、前記一対の検出部(3)は、前記第1乃至第4の検出コイル(31~34)の積層構造、及び前記直並列回路(37)の構成が同じであり、前記直並列回路(30)に互いに逆方向の前記交流電圧が印加され、前記一対の検出部(3a,3b)は、周方向において相対的に180度回転して配置されており、前記第1の接続線路(81)は、前記一対の検出部(3a,3b)のうち一方の前記検出部(3a)における前記第1及び第4の検出コイル(31,34)の接続部と、他方の検出部(3b)における前記第2及び第3の検出コイル(32,33)の接続部とを接続し、前記第2の接続線路(82)は、前記一対の検出部(3a,3b)のうち一方の検出部(3a)における前記第2及び第3の検出コイル(32,33)の接続部と、他方の検出部(3b)における前記第1及び第4の検出コイル(31,34)の接続部とを接続している、トルク検出装置(1)。
【0053】
[5]上記[1]乃至[3]の何れか1項に記載のトルクセンサ(10)と、前記直並列回路(30)を交流励磁する交流電圧を発生する駆動部(9)とを備え、前記一対の検出部(3a,3b)は、前記第1乃至第4の検出コイル(31~34)の積層構造、及び前記直並列回路(30)の構成が同じであり、かつ、前記直並列回路(30)に互いに逆方向の前記交流電圧が印加され、前記一対の検出部(3a,3b)は、周方向に沿った回転位置が互いに同じ位置となるように配置されており、前記第1の接続線路(81)は、前記一対の検出部(3a,3b)におけるそれぞれの前記第1及び第4の検出コイル(31,34)の接続部同士を接続し、前記第2の接続線路(82)は、前記一対の検出部(3a,3b)におけるそれぞれの前記第2及び第3の検出コイル(32,33)の接続部同士を接続している、トルク検出装置(1)。
【0054】
以上、本発明の実施の形態及び変形例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び変形例は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び変形例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0055】
1…トルク検出装置
10…トルクセンサ
2…シャフト
3,3a,3b…検出部
30…直並列回路
30a,30b…直列回路
31…第1の検出コイル
32…第2の検出コイル
33…第3の検出コイル
34…第4の検出コイル
31a,33a…第1直線部
32a,34a…第2直線部
4…磁性リング
5…ボビン
6…フレキシブル基板
60…配線層
7…樹脂モールド部
81…第1の接続線路
82…第2の接続線路
9…駆動部