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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】液状組成物、及び、膨潤体
(51)【国際特許分類】
   C08L 29/10 20060101AFI20240717BHJP
   C08K 5/02 20060101ALI20240717BHJP
   C08F 16/32 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
C08L29/10
C08K5/02
C08F16/32
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021527738
(86)(22)【出願日】2020-06-25
(86)【国際出願番号】 JP2020025074
(87)【国際公開番号】W WO2020262548
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2019118501
(32)【優先日】2019-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】渡壁 淳
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/136331(WO,A1)
【文献】特許第7040533(JP,B2)
【文献】国際公開第2018/066527(WO,A1)
【文献】特開2018-059076(JP,A)
【文献】国際公開第2005/095471(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/178288(WO,A1)
【文献】特開平01-131214(JP,A)
【文献】国際公開第2018/118956(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00-246/00
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
B32B 27/30
G02B 1/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(1-2a)で表される構成単位を有する重合体と、溶媒とを含有し、
前記溶媒が、ハイドロフルオロカーボン類、ハイドロフルオロエーテル類、ハイドロクロロフルオロオレフィン類、m-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、及び、p-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンより選択される1種以上であり、
前記重合体が、前記溶媒に溶解している、液状組成物。
【化1】
ただし、式(1-2a)中、
3a は、水素原子又はフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基であり、
4a 、R 5a は各々独立に、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基である。
【請求項2】
下式(3-2a)で表されるジエンを原料モノマーとする重合体と、溶媒とを含有し、
前記溶媒が、ハイドロフルオロカーボン類、ハイドロフルオロエーテル類、ハイドロクロロフルオロオレフィン類、m-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、及び、p-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンより選択される1種以上であり、
前記重合体が、前記溶媒に溶解している、液状組成物。
CH =CR 3a -CH -CR 4a 5a -O-CF -CF=CF 3-2a
ただし、式(3-2a)中、
3a は、水素原子又はフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基であり、
4a 、R 5a は各々独立に、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基である。
【請求項3】
前記重合体の濃度が、0.1質量%以上50質量%以下である請求項1又は2に記載の液状組成物。
【請求項4】
下式(1-2a)で表される構成単位を有する重合体と、溶媒とを含有し、
前記重合体に、前記溶媒が含浸している、膨潤体。
【化2】
ただし、式(1-2a)中、
3a は、水素原子又はフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基であり、
4a 、R 5a は各々独立に、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基である。
【請求項5】
下式(3-2a)で表されるジエンを原料モノマーとする重合体と、溶媒とを含有し、
前記重合体に、前記溶媒が含浸している、膨潤体。
CH =CR 3a -CH -CR 4a 5a -O-CF -CF=CF 3-2a
ただし、式(3-2a)中、
3a は、水素原子又はフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基であり、
4a 、R 5a は各々独立に、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
フッ素原子を有する含フッ素重合体は、低屈折率、低誘電率、撥水・撥油性、耐熱性、耐薬品性、化学的安定性、透明性等の諸特性に優れており、電気・電子材料、半導体材料、光学材料、表面処理剤等の多種多様な分野に利用されている。
【0002】
含フッ素重合体の一種であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、種々の溶媒に対して不溶である。そのためPTFEは成膜などの成形加工方法が限定される。
特許文献1には、直鎖部分の原子数が2~7個の連結鎖を介して結合された重合性の異なる炭素-炭素多重結合を二つ有し且つフッ素含有率が10重量%以上である含フッ素モノマーを環化重合せしめることを特徴とする環化重合方法が開示されている。当該特許文献1に得られる含フッ素重合体は、環構造を有することにより結晶性が低いため、一般的な含フッ素重合体の優れた特性を備えながら、透明性に優れ、溶媒に可溶な重合体である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平1-131214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の環構造を有する含フッ素重合体は、ペルフルオロベンゼン等、特定のフッ素系溶媒(フッ素を含む溶媒)のみに溶解するものであった。含フッ素重合体の加工時の取り扱い性向上の観点から、より多様な溶媒に溶解可能な重合体が求められている。
【0005】
本発明は、多様な溶媒に可溶なフッ素原子と環構造を有する新規の重合体、当該重合体を含有する組成物、液状組成物、及び膨潤体、前記重合体を含む層を備える積層体、並びに、前記重合体を含む成形体を備える光学部材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を達成する構成として、本発明は下記<1>~<13>に関する。
<1> 下式(1)で表される構成単位を有する重合体。
【0007】
【化1】
ただし、式(1)中、
Lは、-CR-、又は、-CR-CR-であり、
~Rはそれぞれ独立して、水素原子、塩素原子、フッ素原子、又はフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基であり、
前記Lが-CR-の場合、R~Rのうち少なくとも1つが水素原子であり、
前記Lが-CR-CR-の場合、R~Rのうち少なくとも1つが水素原子であり、-CR-はCRの炭素原子に結合し、-CR-は酸素原子に結合している。
【0008】
<2> 前記Lが-CR-の場合、前記R~Rのうち少なくとも1つがフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基であり、
前記Lが-CR-CR-の場合、R~Rのうち少なくとも1つがフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基である前記<1>の重合体。
【0009】
<3> 更に、下式(2)で表される構成単位を有する、前記<1>又は<2>の重合体。
-(CR1112-CR1314)- (2)
ただし、式(2)中、
11~R12はそれぞれ独立して、水素原子、塩素原子、又はフッ素原子であり、
13は水素原子、塩素原子、フッ素原子、又はフッ素原子で置換されていてもよいメチル基であり、
14は、水素原子、塩素原子、フッ素原子、又はフッ素原子で置換されていてもよいアルキル基、-O-C(=O)-R21、又は、-C(=O)-O-R22であり、
21~R22は、フッ素原子で置換されていてもよいアルキル基である。
【0010】
<4> 下式(3)で表されるジエンを原料モノマーとする、重合体。
CR=CR-L-O-CF-CF=CF (3)
ただし、式(3)中、
Lは、-CR-、又は、-CR-CR-であり、
~Rはそれぞれ独立して、水素原子、塩素原子、フッ素原子、又はフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基であり、
前記Lが-CR-の場合、R~Rのうち少なくとも1つが水素原子であり、
前記Lが-CR-CR-の場合、R~Rのうち少なくとも1つが水素原子であり、-CR-はCRの炭素原子に結合し、-CR-は酸素原子に結合している。
【0011】
<5> 前記Lが-CR-の場合、前記R~Rのうち少なくとも1つがフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基であり、
前記Lが-CR-CR-の場合、R~Rのうち少なくとも1つがフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基である、前記<4>の重合体。
【0012】
<6> 更に、下式(2a)で表されるモノマーを原料モノマーとする、前記<4>又は<5>の重合体。
CR1112=CR1314 (2a)
ただし、式(2a)中、
11~R12はそれぞれ独立して、水素原子、塩素原子、又はフッ素原子であり、
13は水素原子、塩素原子、フッ素原子、又はフッ素原子で置換されていてもよいメチル基であり、
14は、水素原子、塩素原子、フッ素原子、又はフッ素原子で置換されていてもよいアルキル基、-O-C(=O)-R21、又は、-C(=O)-O-R22であり、
21~R22は、フッ素原子で置換されていてもよいアルキル基である。
【0013】
<7> 前記式(3)で表されるジエン由来の構成単位の割合が、50モル%以上である、<1>~<6>いずれかの重合体。
【0014】
<8> ガラス転移温度Tgが125℃以上である、<1>~<7>いずれかの重合体。
【0015】
<9> 前記<1>~<8>いずれかの重合体と、溶媒とを含有する、組成物。
<10> 前記<1>~<8>いずれかの重合体と、溶媒とを含有し、
前記重合体が、前記溶媒に溶解している、液状組成物。
<11> 前記<1>~<8>いずれかの重合体と、溶媒とを含有し、
前記重合体に、前記溶媒が含浸している、膨潤体。
<12> 基材上に、前記<1>~<8>いずれかの重合体を含む層を備える、積層体。
<13> 前記<1>~<8>いずれかの重合体を含む成形体を備える、光学部材。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、多様な溶媒に可溶なフッ素原子と環構造を有する新規の重合体、当該重合体を含有する組成物、液状組成物、及び膨潤体、前記重合体を含む層を備える積層体、並びに、前記重合体を含む成形体を備える光学部材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】例1-1の重合体溶液の溶液粘度の濃度依存性を示すグラフである。
図2】例2-1の重合体溶液の溶液粘度の濃度依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
本明細書において、ペルフルオロアルキル基とは、アルキル基の水素原子が全てフッ素原子で置換された基を意味する。また(ペル)フルオロアルキル基とは、フルオロアルキル基とペルフルオロアルキル基とを合わせた総称である。すなわち該基は1個以上のフッ素原子を有するアルキル基である。
本明細書において、式(1)で表される構成単位を、構成単位(1)と称することがある。また、式(3)で表される化合物を、化合物(3)と称することがある。他の式についてもこれらに準ずる。
【0019】
[重合体]
本発明の重合体(以下、本重合体ともいう。)は、下式(1)で表される構成単位を有する。
【0020】
【化2】
ただし、式(1)中、
Lは、-CR-、又は、-CR-CR-であり、
~Rはそれぞれ独立して、水素原子、塩素原子、フッ素原子、又はフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基であり、
前記Lが-CR-の場合、R~Rのうち少なくとも1つが水素原子であり、
前記Lが-CR-CR-の場合、R~Rのうち少なくとも1つが水素原子であり、-CR-はCRの炭素原子に結合し、-CR-は酸素原子に結合している。
【0021】
本重合体は、モノマーに基づく繰り返し単位として、上記構成単位(1)を通常2個以上有する含フッ素重合体であり、上記構成単位(1)は5員環または6員環を含む。
本重合体は、含フッ素重合体の性質である、化学耐久性、耐候性、及び撥水・撥油性に優れ、低屈折率、低誘電率などの特性を備える。また、本重合体は、環構造を有することからPTFEなどと比較して結晶性が低くなる。そのため、本重合体は溶媒溶解性が向上する。上記構成単位(1)は少なくとも1つの水素原子を含有するため、ペルフルオロ溶媒以外の多様な溶媒にも可溶となり、成膜など本重合体を含む物品の製造工程における取り扱い性が向上する。溶媒の選択肢が広がり、地球温暖化に寄与しない溶媒、または、地球温暖化への寄与が小さい溶媒を用いることが可能となる。
また、本重合体は環構造を有するため、一般に非晶質構造であり、結晶性を有する場合であっても、結晶粒径の小さい成形体とすることができる。そのため、本重合体の成形体は透明性に優れている。
また後述する製造方法によれば、本重合体である環構造を有する含フッ素重合体を、上記特許文献1などと比較して、少ない工程数で容易に製造することが可能となる。
なお本明細書において、溶媒に可溶とは、25℃において、対象溶媒に対して、本重合体が0.1質量%以上可溶であることをいう。本重合体は、更に、対象溶媒に対して1質量%以上、好ましくは2質量%以上、より好ましくは5質量%以上可溶である。
【0022】
本発明の重合体は、少なくとも構成単位(1)を有するものであり、必要に応じて更に他の構成単位を有していてもよいものである。以下、このような重合体の具体的な構成について説明する。
【0023】
<構成単位(1)>
本重合体は構成単位(1)を有する。Lが-CR-の場合、構成単位(1)は下式(1-1)で表される。また、Lが-CR-CR-の場合、構成単位(1)は、下式(1-2)で表される。本重合体はこのような5員環または6員環の環構造を有し、化学耐久性、及び耐候性に優れている。
【0024】
【化3】
ただし、式中の各符号は、前記式(1)と同様である。
【0025】
~Rはそれぞれ独立して、水素原子、塩素原子、フッ素原子、又はフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基である。フッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基は、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5の(ペル)フルオロアルキル基を表す。炭素数1~5のアルキル基としては、例えば、エチル基、メチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基等が挙げられる。また、炭素数1~5の(ペル)フルオロアルキル基としては、例えば、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基、テトラフルオロプロピル基、ヘキサフルオロプロピル基、ヘプタフルオロプロピル基、ノナフルオロブチル基、ウンデカフルオロペンチル基等が挙げられる。
【0026】
これらのうちR及びRは、後述する本重合体の製造工程における重合反応性に優れる点から、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、メチル基又はトリフルオロメチル基であることが好ましく、水素原子又はフッ素原子がより好ましい。合成の容易性の観点からは、いずれも水素原子であることが好ましい。
は、本重合体の製造工程における重合反応性の点からは、水素原子、塩素原子、フッ素原子、メチル基又はトリフルオロメチル基が好ましい。
及びRは、後述する本重合体の製造工程における重合反応性に優れる点から、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、メチル基又はトリフルオロメチル基であることが好ましく、合成の容易性の観点から、水素原子又はトリフルオロメチル基が好ましい。
及びRはそれぞれ独立して、本重合体の製造工程における重合反応性の点から、水素原子、フッ素原子であることが好ましい。
ガラス転移温度(Tg)の高い重合体を得るには、R、R、及びRのうち少なくとも1つが、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基であることが好ましい。さらに好ましくはメチル基、トリフルオロメチル基である。Rにアルキル基を導入することにより、主鎖の回転障害が大きくなってガラス転移温度が高くなると考えられる。また、R及び/またはRにアルキル基を導入することにより、隣接する繰り返し単位間の立体障害や、隣接する高分子鎖間の立体障害によって主鎖の回転運動が阻害されてガラス転移が高くなると考えられる。特に、Rへのアルキル基導入はガラス転移温度を高くする効果が大きい。
【0027】
また、高いTgを与える好ましい構成単位(1)としては、下式(1-1a)又は下式(1-2a)で表される構成単位などが挙げられる。
【0028】
【化4】
ただし、R3aは、水素原子又はフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基であり、R4a、R5a、R3bは各々独立に、フッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基である。
構成単位(1-2a)においては、R3aが水素原子またはメチル基であって、R4a及びR5aがいずれもトリフルオロメチル基であることが、原料の入手または合成が容易であり、重合体のTgが高いだけでなく、フッ素含有量も多くなるので好ましい。また、構成単位(1-2a)においてR3aがメチル基の場合のほうが水素原子の場合よりもTgが高い重合体が得られる。
【0029】
また、多様な溶媒への溶解性を付与するという点からは、構成単位(1)のR~Rのうち(構成単位(1-1)の場合はR~Rのうち(以下同様とする))少なくとも1つが、水素原子、又はフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基であることが好ましく、中でも、水素原子、メチル基又はトリフルオロメチル基がより好ましい。R~Rの少なくとも1つが水素原子の場合、フッ素系溶媒以外の溶媒に対する溶解性が向上する。また、R~Rの少なくとも1つがフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基の場合、より結晶性が低下して、或いは、結晶性が無くなることによって、各種の溶媒に対する溶解性が向上すると推測される。
また、重合体の耐熱性の点からは、R、Rのうち少なくとも1つがフッ素原子またはフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基であることが好ましく、R、Rのいずれもフッ素原子またはフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~5のアルキル基であることが特に好ましい。このような場合に、空気中での熱分解温度が高い重合体が得られる。
【0030】
構成単位(1)の具体例を以下に示す。
【0031】
【化5】



【0032】
本重合体中に複数ある構成単位(1)は互いに同一であっても異なっていてもよい。例えば、本重合体が構成単位(1-1)と構成単位(1-2)とを有する共重合体であってもよい。
また、本重合中に複数ある構成単位(1)同士の結合の向きは任意であり、下式(1a)、下式(1b)、下式(1c)のいずれの構造であってもよく、また、これらの組み合わせであってもよい。なお、本重合体を後述する製造方法で製造する場合であって、R及びRが水素原子のときには、下式(1a)の構造が多く形成されると推定される。
【0033】
【化6】
【0034】
<他の構成単位>
本重合体は、構成単位(1)由来の効果を損なわない範囲で、構成単位(1)とは異なる他の構成単位を有してもよい。他の構成単位としては、所望の機能性や物性を付与するために導入される構成単位や、後述する本重合体の製造方法において生成し得る構成単位等が挙げられる。
【0035】
所望の機能性や物性を付与するために導入される構成単位は、後述する本重合体の製造方法において、式(3)で表されるジエンと共重合し得るモノマー由来の構成単位が挙げられる。
このようなモノマーとしては、オレフィン構造を有するモノマーが挙げられる。当該モノマーとしては、例えば、エチレン類、スチレン類、α-オレフィン類、環状オレフィン類、ビニロキシ基を有するモノマー、(メタ)アクリロイル基を有するモノマーなどが挙げられる。なお、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基とメタクリロイル基とを合わせた総称である。
【0036】
エチレン類の具体例としては、エチレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン等が挙げられる。
α-オレフィン類の具体例としては、プロピレン;ヘキサフルオロプロピレン等のペルフルオロα-オレフィン類;(ペルフルオロブチル)エチレン、(ペルフルオロヘキシル)エチレン等の(ペルフルオロアルキル)エチレン類;3-ペルフルオロブチル-1-プロペン、3-ペルフルオロヘキシル-1-プロペン等の(ペルフルオロアルキル)プロペン類などが挙げられる。
【0037】
ビニロキシ基を有するモノマーとしては、酢酸ビニルなどのビニルエステル類、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、シクロへキシルビニルエーテルなどのフッ素を含有しないアルキルビニルエーテル類、及び、ペルフルオロビニルエーテル類が好ましい。ペルフルオロビニルエーテルとしては、CF=CF-(OCFCFZ)-O-Rで表される含フッ素化合物が好ましい。ただし、tは0~3の整数であり、Zはフッ素原子またはトリフルオロメチル基であり、Rは直鎖構造であっても分岐構造であってもよい炭素数1~12のペルフルオロアルキル基である。上記含フッ素化合物は、中でも、下記式(i)~(iii)で表される化合物が好ましい。ただし、式中、vは1~9の整数であり、wは1~9の整数であり、xは2または3である。
【0038】
【化7】
【0039】
また、(メタ)アクリロイル基を有するモノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、1H-1H-2H-2H-ペルフルオロヘキシル(メタ)アクリレート、1H-1H-2H-2H-ペルフルオロオクチル(メタ)アクリレート、メチル2-フルオロアクリレート、メチル2-クロロアクリレート、メチル2-(トリフルオロメチル)アクリレートなどの(メタ)アクリレートモノマーが挙げられる。
【0040】
上記のモノマー等により導入される構成単位としては、下式(2)で表される構成単位が好ましい。
-(CR1112-CR1314)- (2)
ただし、式(2)中、
11~R12はそれぞれ独立して、水素原子、塩素原子、又はフッ素原子であり、
13は水素原子、塩素原子、フッ素原子、又はフッ素原子で置換されていてもよいメチル基であり、
14は、水素原子、塩素原子、フッ素原子、又はフッ素原子で置換されていてもよいアルキル基、-O-C(=O)-R21、又は、-C(=O)-O-R22であり、
21~R22は、フッ素原子で置換されていてもよいアルキル基である。
14おけるフッ素原子で置換されていてもよいアルキル基の炭素数は、1~10が好ましい。
21~R22におけるフッ素原子で置換されていてもよいアルキル基は、直鎖であってもよく、分岐や環構造を有していてもよい。R21~R22におけるアルキル基の炭素数は、所望の物性などに応じて適宜調整すればよく、例えば、1~30とすることができ、1~20が好ましい。R21はメチル基であることが、エステル結合が安定であり、使用するモノマーの重合反応性が高く、さらに好ましい。R22は、エステル結合が安定でフッ素含有量の多い-(CH(CFF基(mは1~3、nは4~6の整数)がさらに好ましく、-(CH(CFF基(mは2、nは4~6の整数)が特に好ましい。
【0041】
本重合体に構成単位(2)を導入することで、例えば、本重合体のガラス転移温度(Tg)や撥水撥油性を調整することや、特定の溶媒に対する溶解性を向上させるなど、諸特性の調整ができる。
【0042】
例えば、後述する本重合体の製造方法において、式(3)で表されるジエンに、下式(2a)で表されるモノマーを原料モノマーと組み合わせて共重合することで、構成単位(2)を有する本重合体が得られる。
CR1112=CR1314 (2a)
ただし、式(2a)中の各符号は前記式(2)と同様である。式(2a)で表されるモノマーを複数種組み合わせて共重合してもよい。
【0043】
前記エチレン類、又はα-オレフィン類を共重合することで、本重合体に下式(2-1)で表される構成単位を導入できる。
前記ビニルエステル類を共重合することで、本重合体に下式(2-2)で表される構成単位を導入できる。
また、(メタ)アクリレートモノマーを共重合することで、本重合体に下式(2-3)で表される構成単位を導入できる。
-(CR1112-CR1315)- (2-1)
-[CR1112-CR13-O-C(=O)-R21]- (2-2)
-[CR1112-CR13-C(=O)-O-R22]- (2-3)
ただし、式中、
15は、水素原子、塩素原子、フッ素原子、又はフッ素原子で置換されていてもよいアルキル基であり、アルキル基の場合、炭素数は好ましくは1~10である。-(CFF基(nは4~6の整数)はフッ素含有量が多いので特に好ましい。
11~R13、及びR21~R22は、前記式(2)と同様である。
【0044】
構成単位(2-1)の具体例としては、-(CH-CH)-、-(CH-CF)-、-(CF-CF)-、-(CF-CClF)-、-[CH-CH(CF)]-、-[CH-CF(CF)]-、-[CH-CH(CFF]-、-[CH-CH(CFF]-などが挙げられる。
構成単位(2-2)の具体例としては、-[CH-CH-O-C(=O)-CH]-、-[CH-CH-O-C(=O)-CF]-、-[CH-CH-O-C(=O)-(CFF]-、-[CH-CH-O-C(=O)-(CFF]-、-[CH-CH-O-C(=O)-(CFF]-、-[CH-CH-O-C(=O)-(CH-CH]-、-[CH-C(CH)-O-C(=O)-CH]-、-[CH-C(CH)-O-C(=O)-CF]-、-[CH-C(CH)-O-C(=O)-(CH-(CF-(CF)]-などが挙げられる。
また構成単位(2-3)の具体例としては、-[CH-CH-C(=O)OCH]-、-[CH-C(CH)-C(=O)OCH]-、-[CH-CH-C(=O)O-CH-(CFF]-、-[CH-C(CH)-C(=O)O-CH-(CFF]-、-[CH-CH-C(=O)O-CH-CH-(CFF]-、-[CH-C(CH)-C(=O)O-CH-CH-(CFF]-、-[CH-CH-C(=O)O-CH-CH-(CFF]-、-[CH-C(CH)-C(=O)O-CH-(CFF]-、-[CH-CH-C(=O)O-CH-(CFF]-、-[CH-C(CH)-C(=O)O-CH-CH-(CFF]-などが挙げられる。
【0045】
また本重合体は、水酸基や架橋部位或いは接着部位となるエポキシ基などの官能基を有していてもよい。
当該官能基を有する本重合体は、後述する製造方法において、当該官能基を有するモノマーを共重合することで得られる。水酸基を有するモノマーとしては、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルビニルエーテル等が挙げられる。エポキシ基を有するモノマーとしてはグリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルアリルエーテル、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレート等を挙げられる。(3-エチルオキセタンー3-イル)メチルメタクリレート等のオキセタン構造を有するモノマーを共重合することもできる。また、架橋や接着性付与のために、カルボキシ基やエステル構造、酸無水物等の構造を有するモノマーを共重合しても良い。カルボキシ基を有するモノマーとしては、アクリル酸を挙げることができる。エステル構造を有するモノマーとしては、上述のビニルエステル類や(メタ)アクリレートモノマー以外にも例えば以下のモノマーを用いることができる。
CF=CFO[CFCF(CF)O](CFCOCH
CH=CFCFO[CF(CF)CFO]CF(CF)COCH
ただし、pは0~3の整数、qは1~5の整数、rは0~3の整数である。
酸無水物構造を有するモノマーとしては、無水マレイン酸、イタコン酸無水物、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物、シトラコン酸無水物などのラジカル重合反応性の二重結合を有する酸無水物を共重合して官能基を導入してもよい。本重合体に接する材料との接着性付与のためにこれらのモノマーを共重合する場合の本重合体中の含有量は、好ましくは0.01~5モル%、更に好ましくは0.05~2モル%である。
【0046】
本重合体はまた、後述する本重合体の製造方法において生成し得る、下式(1-3)で表される構成単位、又は下記(1-4)で表される構成単位などを有していてもよい。構成単位(1-3)、構成単位(1-4)を有する本重合体も、含フッ素重合体の諸特性を備えるとともに、多様な溶媒に溶解し得る。
【0047】
【化8】
ただし、式中の各符号は、前記式(1)と同様である。
【0048】
本重合体が2種以上の構成単位を有する共重合体である場合、当該共重合体は、ランダム重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体のいずれでもよい。
本重合体を構成する、式(3)で表されるジエンに基づく構成単位と、その他の構成単位との比率は、本重合体の用途等に応じて適宜調整すればよい。
溶媒への溶解性の点から、式(3)で表されるジエンに基づく構成単位とその他の構成単位の比率(モル比)は、60:40~100:0が好ましく、65:35~100:0がより好ましく、70:30~100:0がさらに好ましい。式(3)で表されるジエンに基づく構成単位のみでは溶解性が不十分な場合には、60:40~98:2が好ましく、65:35~95:5がより好ましく、70:30~90:10がさらに好ましい。
式(3)で表されるジエンに基づく構成単位由来の重合体物性を活かす観点から、当該ジエンに基づく構成単位の割合は、50モル%以上が好ましく、70モル%以上がさらに好ましい。特に好ましくは85モル%以上である。
【0049】
本重合体のガラス転移温度(Tg)は、本重合体の用途等に応じて適宜調整すればよい。例えば、本重合体の成形体が高温環境に曝される場合は、当該成形体の形状安定性および寸法安定性の点からTgは高い方が好ましく、例えば80℃以上が好ましく、125℃以上がより好ましく、150℃以上が更に好ましい。上限は特に限定されないが、例えば、加熱溶融成形したり、本重合体の塗膜をTgよりも高温で加熱(アニール)して構造を緻密化、均質化、安定化、高強度化させる場合には、Tgは250℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましい。なお、Tgは後述する実施例のように、示差走査熱量計(DSC)により測定される。電気・電子材料や車載材料では、高温耐熱性の求められる用途が多く、ガラス転移温度の高い重合体が求められている。
【0050】
本重合体の熱分解温度(Td)は、本重合体の用途等に応じて共重合組成を変えることで適宜調整することができる。本重合体を含む物品の製造工程において高温に曝される場合には、熱分解温度は高いほうが好ましい。具体的にTdは、270℃以上が好ましく、300℃以上がより好ましく、350℃以上が更に好ましい。上限は特に限定されないが、一般に含フッ素重合体のTdは500℃以下である。
本明細書においてTdは、真空中または不活性ガス雰囲気中での熱重量分析(TGA)測定において、10℃/分の昇温速度で、3%の重量減少が認められる温度である。
【0051】
本重合体の重量平均分子量は、本重合体の用途等に応じて適宜調整すればよい。機械的物性、物理的物性を向上する点からは、ポリメチルメタクリレート(PMMA)換算の重量平均分子量が1万以上であることが好ましく、4万以上がより好ましく、10万以上が更に好ましい。一方、成形性の点からは、200万以下が好ましく、100万以下がより好ましく、50万以下が更に好ましい。
本重合体の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて重合体溶液の条件下で測定することができる。
なお本重合体の重量平均分子量は、後述する製造方法において、モノマー濃度、開始剤の種類と量、連鎖移動剤の種類と量、重合温度等により制御することができる。
【0052】
本重合体は前述のとおり、多様な溶媒に溶解し得る特徴を有する。本重合体を構成する、モノマーに基づく構成単位の組成やフッ素含有量を調節することにより、各種フッ素系溶媒やフッ素を含まない溶媒(非フッ素系溶媒)に溶解させることができる。本重合体を溶解し得る溶媒は、構成単位(1)が有する置換基や、その他の構成単位等に応じて異なる。
本発明によれば、(ペル)フルオロベンゼン、m-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、CHFCFOCHCF(AE3000)などの各種フッ素系溶媒や、テトラヒドロフラン、アセトン、酢酸エチル、酢酸イソブチル、ジクロロメタン等の非フッ素系溶媒に本重合体が溶解した液状組成物を得ることができる。
本重合体はこのように、含フッ素重合体としての特性を活かしながら、各種フッ素系溶媒や非フッ素系溶媒に可溶であり、例えば基材への塗布時の基材との相性または積層体への塗布時の下層との相性を考慮しながら溶媒を選択できることから、薄膜の形成など成型時の取り扱い性に優れている。
【0053】
本重合体は高耐熱性、低吸水性、高光線透過率(透明性)、低誘電率、低屈折率、高化学耐久性、高耐候性、高撥液性、ガス透過性等といった特性を有し、これら諸特性のバランスにも優れる。このため、層間絶縁膜などの絶縁材料として電子回路基板や半導体デバイスに用いられる電気・電子材料、光導波路、光ファイバーのコア材、クラッド材、導光板、レンズなどの光学材料、有機発光ダイオードの光取り出し効率を高めるための電荷輸送層用低屈折率化材、各種電子・光デバイスの封止材料、医療器具・細胞培養材料またはそのコーティング剤、撥液材料、二酸化炭素分離膜、酸素富化膜等の多種多様な分野に利用することができる。
【0054】
<本重合体の製造方法>
次に、本重合体の製造方法の好適な一例について説明する。なお本重合体は任意の合成方法で得られるものであるが、下記の製造方法によれば、本重合体を少ない工程数で製造できる。
【0055】
本重合体は、一例として、下記式(3)で表されるジエン(以下、ジエン(3)ともいう。)を原料モノマーとし、環化重合することで得られる。
CR=CR-L-O-CF-CF=CF (3)
ただし、式(3)中の各符号は前記式(1)と同様である。
【0056】
まず、ジエン(3)の合成方法を説明する。
上記ジエン(3)は、塩基の存在下、好ましくは溶媒存在下で、下記式(4)で表される化合物と下記式(5)で表される化合物(ペルフルオロアリルフルオロスルフェート)とを反応させることにより合成できる。
CR=CR-L-OH (4)
CF=CF-CFOSOF (5)
ただし、式(4)中の各符号は、前記式(1)と同様である。
【0057】
化合物(5)は公知の方法(例えば、Molecules,(2011),16,6512-6540に記載の方法など)により、ヘキサフルオロプロペン(CF=CFCF)と発煙硫酸(SO)とを、例えばホウ酸トリメチル(B(OCH)又は三フッ化ホウ素(BF)の存在下で反応させることにより、1ステップで合成できる。
化合物(5)に対して塩基の存在下で化合物(4)がアルコキシドと同様に振る舞い、下記スキーム(A)に示すように求核試薬(Nu)として反応し、フルオロ硫酸イオンが脱離して、化合物(4)と化合物(5)の反応が進行する。
【0058】
【化9】
【0059】
化合物(4)と化合物(5)の仕込み比は特に限定されない。化合物(5)の反応率が高くなることから、例えば、1モルの化合物(5)に対して、化合物(4)は0.7モル以上が好ましく、1モル以上がより好ましい。また、化合物(4)の有効利用および反応の容積効率の点から、1モルの化合物(5)に対して、化合物(4)は10モル以下が好ましく、5モル以下がより好ましく、2モル以下がさらに好ましく、1.5モル以下が特に好ましい。なお、化合物(4)が化合物(5)よりも高価である等の場合には、化合物(5)の比率を上げることにより化合物(4)の反応率を高めることも可能である。
【0060】
上記塩基は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の無機塩基や、アミン系、ピリジン系、アニリン系等の有機塩基のいずれをも用いることができる。中でも、溶媒に可溶であり、反応が均一に進行し、上記スキーム(A)の反応選択率が高くなりジエン(3)が高収率で得られる点から、有機塩基が好ましく、第三級アミンがより好ましく、脂肪族第三級アミンがさらに好ましい。
脂肪族第三級アミンとしては、トリエチルアミン、トリプロピルアミン等が挙げられる。第三級アミンは環構造を含有していてもよく、分子内に複数の第三級アミン構造を有していてもよい。
【0061】
塩基の量は、塩基の種類やその他の条件に応じて適宜調整すればよい。例えば化合物(5)1モルに対して、塩基0.5モル以上が好ましく、1モル以上が更に好ましい。有機塩基を使用する場合、有機塩基の量が多すぎると反応の容積効率が低下し、コスト上も好ましくないので、2モル以下が好ましい。
【0062】
上記スキーム(A)において、溶媒は非プロトン性の極性溶媒が好ましい。中でも、常温で液体であり、取扱いが容易な点からグライム及びニトリルの少なくともいずれか一方を含む溶媒を好ましく用いることができる。グライムとしてはモノグライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライムが好ましく、また、ニトリルとしてはアセトニトリル、アジポニトリル、ベンゾニトリルが好ましい。これら溶媒は一種を用いても複数種を混合して用いてもよい。
【0063】
スキーム(A)の反応は、溶媒に化合物(4)、化合物(5)及び塩基を添加して攪拌することで、室温付近の温度で十分に進行する。反応熱による急激な発熱防止と副反応防止の点から、化合物(4)と塩基を添加した反応容器に化合物(5)を連続添加または間欠的に添加することが好ましい。
反応温度は、反応速度の点から-20℃以上が好ましく、0℃以上がより好ましい。急激な反応を抑制する点から好ましくは40℃以下、より好ましくは20℃以下、さらに好ましくは10℃以下である。反応が概ね進行した後は、それよりも多少温度が上がっても許容される。反応時間は特に限定されないが、例えば1時間~1日程度であり、ガスクロマトグラフィー等を用いて得られた化合物の定量を行い、その結果を見ながら反応を停止させてもよい。
【0064】
反応圧力は特に限定されないが、大気圧下や加圧下で反応を行ってもよく、減圧下で反応を行ってもよい。大気圧下のほうが、操作が容易である。減圧下で反応を行う場合には、反応液の蒸気圧以上が好ましく、また、加圧する場合には、1MPa以下が好ましい。
反応雰囲気は、不活性ガス雰囲気が好ましい。不活性ガスとしては、窒素、アルゴンが挙げられる。
【0065】
ジエン(3)の収率向上の点で、化合物(4)及び化合物(5)は脱水されたものを用いることが好ましい。脱水操作について、特に制限はないが、例えば、モレキュラーシーブ等と接触させる方法等が挙げられる。
【0066】
有機塩基を用いた反応で得られたジエン(3)は、例えば、極性溶媒を水洗で除去したのち、モレキュラーシーブ等で乾燥し、蒸留することにより高純度化することができる。
また、反応液から減圧下で必要に応じて加熱して目的生成物を冷却した受器に抜き出し、塩酸等の酸と接触させることで抜き出し液中に含まれる有機塩基を除去すると、効率的に高純度化ができて、単離収率が向上する。更に純度を高めたい場合には、精密蒸留すればよい。
【0067】
得られたジエン(3)は、その構造によっては不安定であり、室温でも分解、劣化する場合がある。また、蒸留する際に分解、劣化する場合もある。そのため、含フッ素ジエン化合物には所望により安定剤を添加し、保管時は必要に応じて冷却する。
安定剤は塩基性物質が好ましく、無機塩基、有機塩基のいずれも使用可能である。無機塩基としては、例えばNaHCO、KHCO、NaCO、KCO、Mg0.7Al0.31.15等が挙げられる。また、有機塩基としては、例えば脂肪族アミン、芳香族アミン、複素環式アミンが挙げられる。
【0068】
ジエン(3)の精製前の保管時に安定剤を添加し、保管後に蒸留や塩酸処理で安定剤を分離する場合は、良好な保存安定性をもたらす有機アミンが好ましい。蒸留精製の場合には、含フッ素ジエン化合物の沸点と沸点が離れている有機アミンを選択することが好ましい。有機アミンとしては、脂肪族または芳香族の第三級アミンやN-H結合を持たない含窒素複素環式芳香族化合物が好ましく、N、N、N’、N’-テトラエチルエチレンジアミン、4、4’-ビピリジル等のジアミンを選択することもできる。脂肪族第三級アミンの添加で含フッ素ジエン化合物が変質する場合には、芳香族第三級アミンやN-H結合を持たない含窒素複素環式芳香族化合物を用いることが好ましい。
【0069】
蒸留後は、無機塩基を安定剤として用いることが好ましい。無機塩基は含フッ素ジエン化合物に溶解しないので、実際にジエン(3)を使うときの分離が容易である。蒸留前および蒸留後のジエン(3)は冷蔵庫または冷凍庫で冷却して保管することが好ましい。より低い温度のほうがジエン(3)は安定であり、10℃以下での保管が好ましく、-20℃以下での保管が更に好ましい。安定剤として添加された無機塩基は、重合前にデカンテーション、ろ過または真空蒸留により分離除去することができる。
また、ジエン(3)は窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で保管されるのが好ましい。
得られたジエン(3)の重合反応性が高い場合には、保管時、蒸留前または蒸留後に安定剤として重合禁止剤を添加しても良い。重合禁止剤は単独で、或いは、上述の塩基性物質と併用して用いられる。重合禁止剤は蒸留により除去できる。重合禁止剤としてはハイドロキノン、パラベンゾキノン、2,5-ジ-tert-ブチルベンゾキノン等のキノン類、4-メトキシフェノール、6-tert-ブチル-2,4-キシレノール等のフェノール類、フェノチアジン、チオ尿素、N,N-ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム等の含イオウ化合物類、N-ニトロソジフェニルアミン、N-ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩等のニトロソ化合物類、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル等のピペリジン-1-オキシル類、酢酸銅、ジアルキルジチオカルバミン酸銅、酢酸マンガン等の遷移金属化合物類等を使用することができる。
【0070】
得られたジエン(3)は、従来公知の方法で同定可能であり、例えば、H-,13C-,19F-NMRの測定によって同定することができる。
【0071】
得られたジエン(3)を環化重合することにより、構成単位(1)を有する重合体が得られる。具体的には前記ジエン(3)と、必要に応じて前記構成単位(2)を導入するための前記モノマー(2a)とを溶媒に溶解し、開始剤を添加することで反応を進行できる。前記モノマー(2a)がガスモノマーの場合には、加圧により溶媒に溶解する。
【0072】
重合反応は、ラジカルが生起する条件のもとで行うことが好ましい。例えば、バルク重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知のラジカル重合法を用いることができる。また、液体または超臨界の二酸化炭素中にて重合を行ってもよい。
ラジカルを生起させる方法としては、紫外線、γ線、電子線等の放射線を照射する方法、ラジカル開始剤を添加する方法等が挙げられる。重合反応器中でラジカル開始剤を添加する場合の重合温度は、通常、10~150℃、好ましくは15~100℃であり、重合時間は、通常1~24時間、好ましくは2~10時間である。また、光ラジカル開始剤を用いて、可視光や紫外線を照射して重合してもよい。紫外線の照射時間は、0.1秒~10分程度である。光ラジカル開始剤としては、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなどが挙げられる。
【0073】
前記ラジカル開始剤としては、ビス(フルオロアシル)ペルオキシド類、ビス(クロロフルオロアシル)ペルオキシド類、ジアルキルペルオキシジカーボネート類、ジアシルペルオキシド類、ペルオキシエステル類、アゾ化合物類、過硫酸塩類等が挙げられる。バルク重合法、溶液重合法、懸濁重合法においては、溶媒やモノマーに可溶な非イオン性のラジカル開始剤を、乳化重合法においては、過硫酸塩類等の水溶性のラジカル開始剤を用いることが好ましい。
【0074】
開始剤の量は、開始剤の種類、モノマーの種類、連鎖移動剤(分子量調整剤)の種類と量、重合速度、目的とする重合体の分子量、重合温度等を勘案して適宜決定する。例えば目的とする分子量の重合体の合成において、重合時間が、好ましくは1~24時間、更に好ましくは、2~10時間の間に収まるように、開始剤の量が決められる。
【0075】
溶液重合法にて用いる溶媒としては、20~350℃の沸点を有する溶媒が好ましく、40~150℃の沸点を有する溶媒がより好ましい。特に50~90℃の沸点を有する溶媒が、重合体から溶媒を分離し、溶媒を回収するうえで好ましい。
溶液重合法においては、溶媒中にモノマー、非イオン性のラジカル開始剤等を添加し、液相中にてラジカルを生起させてモノマーの重合を行う。モノマーおよび開始剤の添加は、一括添加であってもよく、逐次添加であってもよく、連続添加であってもよい。
懸濁重合法においては、水を分散媒として用い、該分散媒中にモノマー、および非イオン性のラジカル開始剤等を添加し、モノマーの重合を行う。
非イオン性のラジカル開始剤としては、ビス(フルオロアシル)ペルオキシド類、ビス(クロロフルオロアシル)ペルオキシド類、ジアルキルペルオキシジカーボネート類、ジアシルペルオキシド類、ペルオキシエステル類、ジアルキルペルオキシド類、ビス(フルオロアルキル)ペルオキシド類、アゾ化合物類等が挙げられる。懸濁重合法においては、助剤として前記溶媒を、懸濁粒子の凝集を防ぐ分散安定剤として界面活性剤等をそれぞれ添加してもよい。
【0076】
溶媒は、溶媒への連鎖移動が小さいものが好ましく、反応に悪影響を及ぼさない範囲であれば特に制限はなく、非フッ素系有機溶媒、含フッ素有機溶媒、イオン液体、水等を単独又は混合して用いることができる。なお、これらの溶媒分子中の一部又はすべての水素原子が重水素原子で置換されていてもよい。
また、原料モノマーまたは原料モノマー組成物が液体である場合(加圧して液化する場合も含む)は、溶媒を用いないでバルク重合とすることもできる。
【0077】
溶媒としては、含フッ素有機溶媒が好ましく、ペルフルオロトリアルキルアミン類(ペルフルオロトリブチルアミン等)、ペルフルオロカーボン類(ペルフルオロヘキサン、ペルフルオロオクタン等)、ハイドロフルオロカーボン類(1H,4H-ペルフルオロブタン、1H-ペルフルオロヘキサン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン、2H,3H-ペルフルオロペンタン等)、ハイドロクロロフルオロカーボン類(3,3-ジクロロ-1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、1,3-ジクロロ-1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパン(HCFC-225cb)等)、ハイドロフルオロエーテル類(CFCHOCFCFH(AE3000)、(ペルフルオロブトキシ)メタン、(ペルフルオロブトキシ)エタン等)、ハイドロクロロフルオロオレフィン類((Z)-1-クロロ-2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロ-1-ペンテン(HCFO-1437dycc(Z)体)、(E)-1-クロロ-2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロ-1-ペンテン(HCFO-1437dycc(E)体)等)、含フッ素芳香族化合物類(ペルフルオロベンゼン、m-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、p-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン等)等が挙げられる。非フッ素系有機溶媒も使用可能であるが、連鎖移動効果により、重合体の分子量が低下する傾向がある。
イオン液体としては、例えば、各種ピリジニウム塩、各種イミダゾリウム塩等を用いることができる。
【0078】
なお、重合反応の再現性、目的物収率向上の点で、前記溶媒は脱酸素(空気)されたものを用いることが好ましい。脱酸素(空気)操作について、特に制限はないが、凍結脱気等を行うことがある。窒素ガスなどの不活性ガスをバブリングして酸素を追い出す操作が行われる場合もあるが、その際には、溶媒の沸点が低い場合に対して、溶媒を予め冷却するなど不活性ガスに同伴して溶媒が揮散しない工夫、または、同伴して揮散した溶媒を冷却するなどして回収する工夫が必要である。
【0079】
重合反応には分子量を制御するために連鎖移動剤を用いることもできる。
連鎖移動剤としては分子量調整剤として炭化水素系化合物が好ましく、ヘキサン、メタノール、イソプロピルアルコール、モノグライム等を挙げることができる。F(CFI、I-(CF-Iなどの含フッ素ヨウ素化合物を連鎖移動剤に用いることもできる。
【0080】
ラジカル開始剤を用いた重合で加熱して重合する場合には、冷却により重合を停止させることができるが、重合終了時に停止剤を添加してもよい。
停止剤としては前述の重合禁止剤と同様の化合物を使用することができる。
【0081】
目的の重合体の収率や重合反応の再現性向上、或いはモノマーの安定性向上の点で、原料となるモノマーは脱酸素(空気)されたものを用いることが好ましい。モノマーは通常蒸留精製前の乾燥剤(モレキュラーシーブ、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、塩化カルシウムなど)との接触または蒸留精製により脱水されているが、これに加えてさらに脱酸素(空気)操作を行ってもよい。さらなる脱酸素(空気)操作は、先述した溶媒の脱酸素(空気)操作と同様の方法を用いることができる。
また、原料モノマーを開始剤や溶媒等と共に反応容器に投入した後に凍結脱気等を行うことで、開始剤や溶媒等と共に脱気(脱酸素)を行うこともできる。窒素ガスなどの不活性ガスによる加圧とパージを繰り返すことで脱酸素することもできる。必要に応じて、パージ後に減圧にしても良い。減圧操作と常圧の不活性ガス(例えば窒素ガス)導入を繰り返すことで脱酸素することもできる。
【0082】
共重合体を合成する場合には、原料となる2種以上のモノマーを反応容器にあらかじめ混合してから投入しても、別々に投入してもよい。
原料モノマー、開始剤及び溶媒等を反応容器に投入し、必要に応じて脱気を行い、重合反応を進行させる。重合反応は、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。但し、ガスモノマーの使用により、重合時の反応容器内の圧力が大気圧以上になる場合は、必ずしも窒素ガスなどの不活性ガスを導入する必要はない。ガスモノマーは通常脱気後に導入される。不活性ガス導入後にガスモノマーを必要に応じて加圧して導入してもよい。
【0083】
重合反応は、冷却や停止剤の投入により停止することができる。
重合反応を終えた後、残モノマーは公知の方法により取り除くことができ、目的物である本重合体は公知の方法で単離することができる。
【0084】
単離方法としては、例えば、溶液重合の場合、撹拌下の貧溶媒中に反応液を排出、または、攪拌下の反応液へ貧溶媒を添加して、重合体を凝集させてスラリーとし、濾過法、遠心分離法、デカンテーション法等により回収する方法、反応液にスチームを吹き込んで重合体を析出させるスチームストリッピング法、反応液から溶媒を加熱や減圧等により直接除去する方法等が挙げられる。その他、カラムクロマトグラフィー、リサイクル分取HPLC等が挙げられ、必要に応じてこれらを単独又は複数組み合わせて用いることができる。
【0085】
得られた本重合体は通常の高分子化合物と同様の公知の方法で同定することができる。例えば、H-,19F-,13C-NMR、二次元NMR、GPC、静的光散乱、SIMSやGC-MS等が挙げられ、必要に応じてこれらを単独又は複数組み合わせて用いることができる。
【0086】
[組成物]
本発明にかかる組成物(以下、本組成物ともいう。)は、前記本重合体と、溶媒とを含有するものである。
本組成物は、前記本重合体が前記溶媒に溶解した液状組成物の形態であってもよく、前記本重合体に前記溶媒が含浸した膨潤体の形態であってもよい。
本組成物は、溶媒に可溶な前記本重合体を含有するため、上記液状組成物や前記膨潤体の形態を取ることができる。
【0087】
本組成物は、少なくとも前記本重合体と溶媒とを含有するものであり、本組成物の用途等に応じてさらに他の成分を含有してもよいものである。また、本重合体は、溶媒に溶解した液状組成物の形態でろ過することにより、異物や未溶解の重合体を除いて精製することができる。以下、本組成物に含まれうる各成分について順に説明するが、本重合体については前述のとおりであるためここでの説明は省略する。
【0088】
<溶媒>
本組成物において溶媒は、前記本重合体が可溶な溶媒を含むことが好ましい。本重合体が可溶な溶媒は、前記本重合体の構造等に応じて適宜選択される。また、溶媒は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
各種フッ素系溶媒は本重合体を好適に溶解することができる。例えばハイドロフルオロカーボン類(1H,4H-ペルフルオロブタン、1H-ペルフルオロヘキサン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン、2H,3H-ペルフルオロペンタン等)、ハイドロクロロフルオロカーボン類(3,3-ジクロロ-1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、1,3-ジクロロ-1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパン(HCFC-225cb)等)、ハイドロフルオロエーテル類(CFCHOCFCFH(AE3000)、(ペルフルオロブトキシ)メタン、(ペルフルオロブトキシ)エタン等)、ハイドロクロロフルオロオレフィン類((Z)-1-クロロ-2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロ-1-ペンテン(HCFO-1437dycc(Z)体)、(E)-1-クロロ-2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロ-1-ペンテン(HCFO-1437dycc(E)体)、(Z)-1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペン(HCFO-1233yd(Z)体)、(E)-1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペン(HCFO-1233yd(E)体)等)、含フッ素芳香族化合物類(ペルフルオロベンゼン、m-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、p-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン等)等を用いることができる。また、本重合体は、テトラヒドロフラン、アセトン、酢酸エチル、酢酸イソブチル、ジクロロメタン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の非フッ素系溶媒にも可溶である。
本組成物を用いた成形において、溶媒の揮散が早くてフィルムに割れなどの欠陥が生じる場合には、高沸点の溶媒を組成物に添加することでフィルム形成性を改善することができる。溶媒が残っている状態で重合体のガラス転移温度以上に加熱して乾燥させることも行われる。この場合、添加する高沸点溶媒は重合体を膨潤させるものであれば良く、必ずしも単独で溶解できなくても良い。
高沸点のフッ素系溶媒としては、ペルフルオロトリブチルアミンなどが例示され、高沸点の非フッ素系溶媒としては、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチルアセトアセテート、1,2-ジアセトキシプロパン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジグライム、トリグライムなどを例示することができる。
前記高沸点の添加溶媒は、重合体のガラス転移温度以上に沸点を有する溶媒を選択するのが好ましく、全溶媒中50質量%以下が好ましく、30質量%以下がさらに好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。
本組成物に用いる溶媒の沸点は、用途や成形方法に依存するが、30℃から250℃の間が好ましい。沸点が30℃よりも低いと取扱い時にロスする溶媒量が多くなり、沸点が250℃よりも高いと成形体から溶媒を除去するのが困難になる。
【0089】
本組成物において、本重合体の濃度は、溶媒に溶解可能な範囲で適宜調整することが好ましい。本組成物を、液状組成物の形態で本重合体の成膜等の成形に用いる場合、成形方法や用途にも依存するが、取り扱い性の点から、本重合体の濃度は0.1質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましい。濃度が薄すぎると、所望の厚みの成形体が得られなくなる。また、本重合体の濃度の上限は特に限定されないが、取り扱い性の点から、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、35質量%以下がさらに好ましい。濃度が高くなりすぎると、組成物の粘度が高くなりすぎて塗布時の取り扱いが困難になる。本組成物において、複数種の本重合体を混合しても良い。一般に塗布した液状塗膜は溶媒の揮散により膨潤体を経由して乾燥塗膜となる。膨潤体を塗布して膨潤体からなる塗膜を形成して乾燥してもよい。
【0090】
<他の成分>
本組成物に含まれていてもよい他の成分としては、界面活性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、粘度調整剤、消泡剤、可塑剤、色素、金属ナノ粒子、金属酸化物粒子(ナノ粒子を含む)、シリカ粒子(ナノ粒子を含む)などが挙げられる。また本重合体がエポキシ基などを有する場合には、アミン類、イミダゾール類、酸無水物類などのエポキシ硬化剤を組み合わせてもよい。
本組成物は、後述する積層体や、光学部材製造用に好適に用いることができる。
【0091】
[積層体]
本発明の積層体(本積層体ともいう。)は、基材上に、本重合体を含む層を備えるものである。本積層体は、本重合体を含む層が基材を保護し、あるいは基材に各種の機能を付与するものであってもよく、本重合体を含む層に光学機能、絶縁性などの各種機能を備えるものであってもよく、またその両方であってもよい。
本発明にかかる積層体は、少なくとも基材と、本重合体を含む層を備えるものであり、本積層体の用途等に応じて更に他の層を備えていてもよいものである。基材は本重合体からなる基材であってもよい。
【0092】
<基材>
本積層体において基材は、本積層体の用途に応じて適宜選択できる。
例えば本積層体を光学部材とする場合、基材は、透明基材の中から適宜選択できる。透明基材としては、アセチルセルロース系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリイミド等の透明樹脂や、ソーダ硝子、カリ硝子、無アルカリ硝子、鉛ガラス等の硝子、PLZT等のセラミックス、石英、蛍石等の透明無機材料等が挙げられる。
基材は様々な形状のものを用いることができる。例えば、平面状であっても良く、線状、円筒状であっても良い。
本積層体を電子回路基板とする場合には、基材は、回路基板などであり、当該回路基板は半導体素子などが実装されたものであってもよい。また、多層電子回路基板とする場合には、本重合体を含む層は、多層配線の配線層と配線層の間の絶縁層として用いられる。
【0093】
<積層体の製造方法>
本積層体は任意の方法で製造できるが、本重合体が溶媒に可溶であるため、前記液状組成物を調製し、これを塗膜とする方法により好適に製造できる。
塗布方法は、例えば、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、ダイコート法、ブレードコート法、マイクログラビアコート法、スプレーコート法、スピンコート法等の公知の方法から選択することができる。積層体をマイクロレンズアレイ等とする場合には、乾燥前に賦形してもよい。得られた塗膜を必要に応じて加熱して、溶媒を除去することにより本積層体が製造できる。本重合体の溶解した液状組成物の重合体の分子量、重合体の濃度や溶媒の種類を調節することによって、各種コート法で所望の厚みの塗膜を得るのに適した粘度・重合体濃度の液状組成物を調製することができる。
本積層体は塗布方法により好適に製造できるが、押出しまたは塗布方法により得たフィルムを基材や他のフィルムと加熱圧着することによって積層体を得てもよい。共押出しで積層体を得ることもできる。
【0094】
[光学部材]
本発明の光学部材(本光学部材ともいう。)は、本重合体を含む成形体を備えるものである。本重合体の成形体は透明性に優れるため、光導波路、光ファイバーのコア材、クラッド材、導光板、レンズなどの公知の光学部材として好適に用いることができる。
本光学部材は、前記積層体からなるものであってもよい。屈折率が低い特性を活かして、透明基材上に薄膜を形成して反射防止機能を付与した光学部材とすることもできる。
また、本重合体を光ファイバー等、基材を有しない成形体とする場合には、本重合体を射出成形法や押出成形法等により所望の形状に成形することができる。
自動車に使用される光ファイバーは85℃以上の耐熱性が要求され、ルーフ回りなどの温度が高くなるところには105℃以上の耐熱性が要求される。さらに、エンジン回りでは125℃以上の耐熱性が求められる。本重合体は、透明で高いガラス転移温度を示すので、そのような用途に好適である。本重合体は、ステップインデックス(SI)型とグレーデッドインデックス(GI)型のどちらのファイバー構成にも適用できるが、伝送容量の大きなGI型のニーズが今後増えてくると思われる。
【実施例
【0095】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお例1-1~例2-3、例4~例9が実施例に相当し、例3が比較例に相当する。
【0096】
<評価方法>
本実施例において、合成した重合体の諸特性は下記により評価した。
モノマーと重合体の構造は日本電子株式会社製の核磁気共鳴装置(JNM-AL300またはECA600)によりH-NMR、13C-NMR、19F-NMR測定や、それらの二次元NMRを用いた解析を行うことで同定し、各例記載のH-NMRおよび19F-NMRのケミカルシフトの基準物質は、それぞれテトラメチルシラン、CFClである。
【0097】
(重量平均分子量)
重合体の重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定装置(東ソー製、HLC-8320GPC)を用い、PMMA換算の重量平均分子量を求めた。溶媒は、特に断りのない限り、アサヒクリンAK-225 SECグレード-1、AGC社製を用いた。カラムは、PLgel 5μm MIXED-C(ポリマーラボラトリー社製)を2本直列につなぎ合わせて用いた。測定温度は40℃とした。検出器は、蒸発光散乱検出器を用いた。
【0098】
(熱分解温度Td)
示差熱重量同時測定装置STA7200(日立ハイテクサイエンス)を用いて、乾燥空気中または窒素中、10℃/分で昇温して、3%重量減少温度Td(3%)を求めた。
(ガラス転移温度Tg)
Tgの測定には、DSC装置(ティー・エイ・インスツルメント社製、装置名:Q100、または、NETZSCH社製、装置名:DSC 204 F1 Phoenix)を用いた。重合体を示差走査熱量計(DSC)用のアルミニウム製容器に入れて、実測されたTgよりも少なくとも30℃以上高い温度まで昇温した後、10℃/分で-50℃まで冷却した。次いで、10℃/分で昇温して転移終了時よりも少なくとも30℃以上高い温度まで加熱し、DSC曲線を描いてTg(中間点ガラス転移温度)を求めた。
【0099】
(屈折率の測定)
屈折率は、重合体のフィルムまたは塗膜を形成し、屈折率測定装置(米国メトリコン社製プリズムカプラ:2010/M)を用いて、波長473nm、594nmおよび658nmの光に対する屈折率を測定し、装置付属のMetricon Fitを用いて波長589nmの光に対する屈折率を算出した。
(アッベ数の測定)
アッベ数は、重合体のフィルムまたは塗膜を形成し、上記屈折率測定装置付属のMetricon Fitを用いて波長486nm、589nm、および656nmにおける屈折率を算出し、下式(I)からアッベ数を算出した。
ν=(n-1)/(n-n) (I)
ただし、νは、アッベ数であり、nは、波長589nmの光に対する屈折率であり、nは、波長486nmの光に対する屈折率であり、nは、波長656nmの光に対する屈折率である。
【0100】
(重合体の溶解性)
特に記載のない限り、重合体の溶解は、溶媒と粉状の重合体を混合して室温で一晩撹拌し、50℃で8時間静置した後、更に室温で一晩撹拌して溶解した。polyBVEについては、同様の方法で行うと良溶媒を用いた場合に、加温時に容器の底部に粘稠な塊が生成したため、ナスフラスコ中で混合し、常圧のエバポレーターに取り付けて、水浴上で数時間加温撹拌した。沸点が50~65℃の溶媒については、水浴を50℃に、沸点が65℃よりも高い溶媒については、水浴を60℃に温度調節して溶解試験を行った。
(重合体溶液粘度の測定)
TV-20形粘度計 コーンプレートタイプ(TVE-20L、東機産業(株)製)を用いて、25℃で粘度測定を実施した。
【0101】
なお、実施例に用いた化合物の略号は以下のとおりである。
(試薬)
PFAS:ペルフルオロアリルフルオロスルフェート(CF=CFCFOSOF)
(モノマー)
2M-FHDAE:CH=C(CH)CHOCFCF=CF
44DFM-FHBAE:CH=CHCHC(CFOCFCF=CF
2M44DFM-FHBAE:
CH=C(CH)CHC(CFOCFCF=CF
C6FMA:CH=C(CH)COO(CH(CF
FHDAE:CH=CHCHOCFCF=CF
BVE:CF=CFOCFCFCF=CF
MXM:CF=CFO(CFCOCH
(ラジカル開始剤)
IPP:ジイソプロピルペルオキシジカーボネート
【0102】
(溶媒)
HCFC-225cb: CClFCFCHClF
AE3000: CHFCFOCHCF
Novec7100(3M社製): COCH
(F(CFOCHと(CFCFCFOCHの混合物)
AC6000: F(CFCHCH
HCFO-1437dycc: CHFCFCFCF=CHCl
(Z体:E体=99.3:0.7を使用)
ゼオローラH:
【化10】
【0103】
<合成例1>2M-FHDAEの合成
還流冷却器、滴下ロート、温度計を備えた4つ口1Lの丸底フラスコに、窒素雰囲気下で、モレキュラーシーブ4Aで脱水したテトラグライム(182g)、トリプロピルアミン(45.4g、317mmol)及びβ-メタリルアルコール(22.8g、317mmol)を仕込み、撹拌子で撹拌しながら、氷水で内温を5℃以下まで冷却した。内温を10℃以下に保ちながら、PFAS(60.8g、264mmol)を40分かけて滴下した。滴下終了時の内温は9℃であった。氷水バスから氷を取り除いて1時間撹拌すると内温は16℃であった。引き続き室温で一晩反応させた。反応液のガスクロマトグラフィーによる分析(以下GC分析と略記する)より、PFASの反応率は100%で、2M-FHDAEの反応収率は81%であった。なお、反応収率は、あとで蒸留精製して得た2M-FHDAEとテトラグライムを使用して求めたガスクロマトグラムピークの感度比を用いて算出した。反応後水洗し、1N HClで処理した後に再度水洗、蒸留を行った。沸点52.4℃/16kPaで、ガスクロマトグラムの面積比から求めた純度(以下GC純度と略記する)が99.5%以上の2M-FHDAEを得た。
【0104】
H-NMR(CDCl):δ(ppm)1.79(3H),4.39(2H),4.98(1H),5.05(1H)。
19F-NMR(CDCl):δ(ppm)-73.7(2F),-95.2(1F),-107.4(1F),-189.4(1F)。
【0105】
<例1-1>2M-FHDAE単独重合体の合成1
内容積120mLのハステロイ製オートクレーブに、前記2M-FHDAE(9.00g)を仕込んだ。イソプロピルアルコール(0.35g)をHCFC-225cbで10倍に希釈して加え、次に、IPP(36mg)をHCFC-225cbで200倍に希釈した液を加え、最後にHCFC-225cbを加えて、仕込んだHCFC-225cbの全量を80.61gとした(希釈倍率は質量比、以下同様)。
液体窒素を用いて凍結脱気を2回繰り返した後、約0℃まで戻し、窒素ガスを0.3MPaG(Gはゲージ圧を示す)まで導入した。オートクレーブをウォーターバスにセットし、内温を40℃に保持しつつ、6時間撹拌した後、オートクレーブを氷水に浸けて、20℃以下まで冷却した。
反応液をオートクレーブからビーカーに移し替え、HCFC-225cbの洗液と合わせて内容物の全量を156gとした。30分間撹拌後、n-ヘキサン189gを添加してさらに30分間撹拌した。減圧ろ過したのち、得られた固形分に酢酸エチルを加えて全量を87gとした。30分撹拌した後、n-ヘキサン189gを添加して重合体を凝集し、減圧ろ過した。酢酸エチルとn-ヘキサンを用いた同様の操作をもう1回繰り返した。
60℃で一晩真空乾燥して白色の重合体7.2gを得た。重量平均分子量は186,900、空気中のTd(3%)は302℃、窒素中のTd(3%)は421℃、Tgは183℃であった。得られた重合体は下記に示す繰り返し単位を含むものとなる。
【0106】
【化11】
【0107】
別途、2M-FHDAEの6.00g、イソプロピルアルコールの0.93g、IPPの48mg、HCFC-225cbの53.02gから同様にして合成された重量平均分子量40,100の重合体は、H-,13C-,19F-NMRとそれらの二次元NMRを用いた解析により、前記の繰返し単位からなる単独重合体であることが確認されている。
【0108】
(溶解性の評価)
得られた2M-FHDAE単独重合体(重量平均分子量186,900)を、重合体濃度が1,5,10,15質量%になるように酢酸エチルに溶解した重合体溶液を調製した。得られた重合体溶液の粘度は、順に0.75mPa・s、22.6mPa・s、310mPa・s、4272mPa・sであった。溶液粘度の重合体濃度依存性を図1に示す。図1に示される通り、粘度の対数と溶液の濃度の関係に直線性が見られ、本重合体が酢酸エチルに少なくとも15質量%溶解することが示された。
【0109】
また、上記重合体を下記表1に示す溶媒を用いて10質量%の溶液を調製し、粘度を測定した。ペルフルオロベンゼンについて5質量%の溶液についても粘度を測定した。結果を表1に示す。溶媒の種類を変えることで粘度を制御できることがわかる。
【0110】
【表1】
【0111】
表1に示されるように、2M-FHDAE単独重合体は種々の溶媒に溶解することが示された。
【0112】
(接触角の測定)
上記例1の2M-FHDAE単独重合体を濃度9質量%になるように、酢酸エチルとプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートの混合溶媒(この順に質量比4:1)に溶解した。ガラス基板上に1000回転/分で30秒間スピンコートし、150℃で5分加熱して塗膜を形成した。純水接触角は90°、n-ヘキサデカン接触角は10°であった。
【0113】
<例1-2>2M-FHDAE単独重合体の合成2
上記例1-1の仕込みを、2M-FHDAEを6.00g、イソプロピルアルコールの代わりにメタノールを0.93g、IPPを24mg、HCFC-225cbの全量を53.04gに変更して同様に重合し、白色の重合体5.05gを得た。重量平均分子量は290,500、Tgは184℃であった。
(吸収スペクトル、屈折率、アッベ数の測定)
例1-2の2M-FHDAE単独重合体を濃度10質量%で酢酸エチルとプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートの混合溶媒(この順に質量比4:1)に溶解した。PFAシャーレを用いて室温でキャストして一晩放置し、60℃で2時間乾燥した後、220℃で30分アニールし、更に220℃で熱プレスすることにより表面が平滑な厚さ約100μmの無色透明な膜を得た。紫外・可視・近赤外分光光度計(島津製作所社製、SolidSpec-3700)を用いて300nm~2500nmの吸収スペクトルを測定したところ、400~1650nmにおいて吸収は認められなかった。また、この2M-FHDAE単独重合体の屈折率は1.41(589nm)、アッベ数は57.26であった。
【0114】
<合成例2>44DFM-FHBAEの合成
還流冷却器、滴下ロート、温度計を備えた4つ口500mLの丸底フラスコに、窒素雰囲気下でモレキュラーシーブ4Aで脱水したテトラグライム(136.7g)、トリエチルアミン(24.1g、238mmol)及び1,1-ビス(トリフルオロメチル)-3-ブテン-1-オール(37.1g、178mmol、東京化成社製)を仕込み、撹拌子で撹拌しながら、氷水で内温を5℃以下まで冷却した。内温を10℃以下に保ちながら、PFAS(45.6g、198mmol)を1時間かけて滴下した。滴下終了して30分後に氷水バスから氷を取り除いて引き続き室温で一晩撹拌した。反応液のGC分析より、PFASの反応率は100%であった。
滴下ロートと還流冷却器を取り外し、4つ口フラスコに室温の水浴をセットし、ドライアイス-エタノールで冷却した冷却トラップと液体窒素で冷却した冷却トラップを介して真空ポンプに接続し、撹拌しながら低沸点成分を冷却トラップに抜き出した。水浴温度を室温で2時間保持した後、40℃に昇温して2時間保持した。ドライアイス-エタノール冷却トラップに少量のトリエチルアミンを含有する44DFM-FHBAE60.1gを得た。この粗生成物を1N HClで処理した後、3.0N食塩水で洗浄した。下層を分液採取してトリエチルアミンを含有しない44DFM-FHBAEをGC純度97.9%で得た。目的物の収量は53.7g、単離収率は90%であった。
減圧蒸留により、GC純度99.5%以上の目的生成物を蒸留収率68%で得た。沸点は59℃/6.7kPaであった。
H-NMR(CDCl):δ(ppm)3.11(2H)、5.30(2H)、5.83(1H)
19F-NMR(CDCl):δ(ppm)-66.3(2F)、-73.8(6F、)、-93.2(1F)、-105.5(1F),-189.6(1F)。
【0115】
<例2-1>44DFM-FHBAE単独重合体の合成1
内容積120mLのハステロイ製オートクレーブに、44DFM-FHBAE(6.00g)を仕込んだ。メタノール(47mg)をHCFC-225cbで10倍に希釈した液を加え、次いで、IPP(24mg)をHCFC-225cbで400倍に希釈した液を加え、最後にHCFC-225cbを加えて、仕込んだHCFC-225cbの全量を53.93gとした。以下、例1-1と同様にして重合、後処理を行った。但し、重合体の再溶解および凝集には、それぞれHCFC-225cbとメタノールを用いた。白色の重合体4.08gを得た。重量平均分子量は240,500、空気中のTd(3%)は369℃、窒素中のTd(3%)は440℃、Tgは143℃であった。
得られた重合体は下記に示す繰り返し単位を含むものとなる。
【0116】
【化12】
【0117】
(溶解性の評価)
得られた44DFM-FHBAE単独重合体を重合体濃度が1,5,10,15質量%になるように1,3-(ビストリフルオロメチル)ベンゼンに溶解した重合体溶液を調製した。得られた重合体溶液の粘度は、順に0.96mPa・s、10.4mPa・s、65.0mPa・s、319mPa・sであった。溶液粘度の重合体濃度依存性を図2に示す。図2に示される通り、本重合体がm-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンに少なくとも15質量%溶解することが示された。
(接触角の測定)
例2-1の44DFM-FHBAE単独重合体の濃度15質量%でm-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンに溶解した溶液を、ガラス基板上に1000回転/分で30秒間スピンコートし、150℃で2分間加熱して塗膜を形成した。純水接触角は108°、n-ヘキサデカン接触角は52°であった。
(屈折率、アッベ数の測定)
上記スピンコートした塗膜を用いて44DFM-FHBAE単独重合体の屈折率とアッベ数を測定した。波長589nmの屈折率は1.354、アッベ数νは69であった。
【0118】
<例2-2>44DFM-FHBAE単独重合体の合成2
44DFM-FHBAEを9.00g、メタノールを70mg、IPPを36mg、HCFC-225cbの代わりにAE3000を用いてその全量を80.89gに変更した以外は例2-1と同様にして44DFM-FHBAE単独重合体を合成した。但し、重合体の再溶解および凝集には、それぞれF(CFHとメタノールを用いた。白色の重合体6.78gを得た。重量平均分子量は280,600、空気中のTd(3%)は367℃、窒素中のTd(3%)は443℃、Tgは143℃であった
(誘電特性の測定)
上記重合体を250℃で熱プレスすることにより厚みが約220μmのフィルムを作成し、QWED社のMODEL:SPDR-10.0GHzを用いて、室温、10GHzの誘電特性を誘電体共振器(SPDR)法で測定した。比誘電率は2.14、誘電正接は0.004であった。
(吸収スペクトルの測定)
例1-2と同様にして吸収スペクトルを測定したところ、400~1650nmにおいて吸収は認められなかった。
【0119】
<例2-3>44DFM-FHBAE単独重合体の合成3
メタノールを添加せず、HCFC-225cbの全量を53.98gとした以外は例2-1と同様にして重合を行い、44DFM-FHBAE単独重合体5.01gを得た。重量平均分子量は318,200、Tgは145.5℃であった。
この44DFM-FHBAE単独重合体を下記表2に示す溶媒を用いて10質量%の溶液を調製し、粘度を測定した。溶媒の種類を変えることで粘度を制御できることが分かる。
【0120】
<例3>BVE単独重合体の溶解性(比較例)
BVE(CF=CFOCFCFCF=CF)の単独重合体polyBVE(重量平均分子量は120,000)を準備し、polyBVEが10質量%で溶解するかどうかを調べた。結果を表2に示す。
【0121】
【表2】
【0122】
表2に示される通り、44DFM-FHBAE単独重合体は、表2中の各溶媒に可溶であり、polyBVEと比較して多様な溶媒に可溶であることが示された。
【0123】
<合成例3>FHDAEの合成
還流冷却器、滴下ロート、温度計を備えた4つ口200mLの丸底フラスコに、窒素雰囲気下でモレキュラーシーブ4Aで脱水したテトラグライム(60.8g)、トリプロピルアミン(15.1g、106mmol)、及びアリルアルコール(6.13g、106mmol)を仕込み、撹拌子で撹拌しながら、氷水で内温を5℃以下まで冷却した。内温を10℃以下に保ちながら、PFAS(20.3g、88.0mmol)を25分かけて滴下した。滴下終了時の内温は8℃であった。氷水バスから氷を取り除いて1時間撹拌すると内温は15℃であった。引き続き室温で一晩反応させた。
滴下ロートと還流冷却器を取り外し、4つ口フラスコに室温の水浴をセットし、ドライアイス-エタノールで冷却したトラップと液体窒素で冷却した冷却トラップを介して真空ポンプに接続し、撹拌しながら低沸点成分を冷却トラップに抜き出した。ドライアイス-エタノールで冷却したトラップに少量のトリプロピルアミンを含有するFHDAE13.7gが得られた。この粗生成物を1N HClで処理した後、水洗することで、トリプロピルアミンを含有しないFHDAEがGC純度99.5%で得られた。目的物の収量は12.2g、単離収率は74%であった。
H-NMR(CDCl):δ(ppm)4.48(2H),5.28(1H),5.38(1H),5.92(1H)。
19F-NMR(CDCl):δ(ppm)-73.7(2F),-95.3(1F)、-107.4(1F),-189.4(1F)。
【0124】
<例4>FHDAEと(ペルフルオロヘキシル)エチレンの共重合体の合成
内容積120mLのハステロイ製オートクレーブに、FHDAE3.72g(19.8mmol)と(ペルフルオロヘキシル)エチレン2.28g(6.59mmol)を仕込んだ。IPP(120mg)をHCFC-225cbで100倍に希釈した液を加え、最後にHCFC-225cbを加えて、仕込んだHCFC-225cbの全量を53.88gとした。以下、重合温度を45℃にした以外は、例1-1と同様にして重合を行った。内容物をビーカーに移し、HCFC-225cbによる洗浄液をそれに加えた。後処理は例1-1と同様の操作で実施した。但し、凝集には上述の液の3倍体積のメタノールを用いた。再溶解、再凝集の溶媒はそれぞれ酢酸エチルと3倍体積のメタノールを用いた。得られた白色の重合体は、2.09gであった。空気中のTd(3%)は295℃、窒素中のTd(3%)は397℃、Tgは88℃であった。重アセトンに重合体を溶解して19F-NMRを測定したところ、FHDAEと(ペルフルオロヘキシル)エチレンの繰り返し単位の比率は、90:10(モル比)であった。溶媒にHCFC-225cbとテトラヒドロフランの混合物(体積比1:4)を用いて重量平均分子量を測定したところ、34,300であった。
得られる重合体は下記に示す繰り返し単位を含むものとなる。
【0125】
【化13】
上記共重合体を用いて、酢酸エチル(8質量%:共重合体の濃度(以下同じ))、アセトン(5質量%)の重合体溶液を調製することができた。
【0126】
<例5>2M-FHDAEとC6FMAの共重合体の合成
内容積120mLのハステロイ製オートクレーブに、2M-FHDAE4.85g(24.0mmol)とC6FMA1.15g(2.67mmol)を仕込んだ。IPP(120mg)をHCFC-225cbで100倍に希釈した液を加え、最後にHCFC-225cbを加えて、仕込んだHCFC-225cbの全量を53.88gとした。以下、例1-1と同様にして重合を行った。内容物をビーカーに移し、HCFC-225cbによる洗浄液をそれに加えた。全量は108gであった。30分撹拌した後、メタノール166gを添加して重合体を凝集させ、30分撹拌してろ過した。得られた重合体をHCFC-225cbの43gに溶解し、66gのメタノールで重合体を凝集してろ過した。同様の操作をもう一回繰り返した後、室温で16時間真空乾燥した。白色の重合体0.78gを得た。重量平均分子量は21,200、空気中のTd(3%)は267℃、窒素中のTd(3%)は292℃、Tgは66℃であった。ペルフルオロベンゼンに重合体を溶解して19F-NMRを測定したところ、2M-FHDAEとC6FMAの繰り返し単位の比率は、57:43(モル比)であった。
得られる重合体は下記に示す繰り返し単位を含むものとなる。
【0127】
【化14】
上記共重合体を用いて、ペルフルオロベンゼン(7質量%)、HCFC-225cb(3.5質量%)、m-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン(10質量%)、HCFO-1437dycc(10質量%)、酢酸エチル(10質量%)の溶液を調製することができた。
【0128】
<例6>2M-FHDAEと酢酸ビニルの共重合体の合成
内容積120mLのハステロイ製オートクレーブに、2M-FHDAE5.25g(26.0mmol)と酢酸ビニル0.75g(8.7mmol)を仕込んだ。IPP(120mg)をHCFC-225cbで100倍に希釈した液を加え、最後にHCFC-225cbを加えて、仕込んだHCFC-225cbの全量を53.88gとした。以下、例1と同様にして重合を行った。内容物をビーカーに移し、HCFC-225cbによる洗浄液をそれに加えた。全量は198gであった。30分撹拌した後、メタノール390gを添加して重合体を凝集させ、30分撹拌してろ過した。得られた重合体を酢酸エチルの108gに溶解し、284gのメタノールで重合体を凝集してろ過した。同様の操作をもう一回繰り返した後、60℃で16時間真空乾燥した。白色の重合体3.99gを得た。重量平均分子量は334,300、空気中のTd(3%)は299℃、窒素中のTd(3%)は338℃、Tgは157℃であった。ペルフルオロベンゼンに重合体を溶解してH-NMRを測定したところ、2M-FHDAEと酢酸ビニルの繰り返し単位の比率は、84:16(モル比)であった。
得られる重合体は下記に示す繰り返し単位を含むものとなる。
【0129】
【化15】
上記共重合体を用いて、ペルフルオロベンゼン(5質量%)、酢酸エチル(10質量%)、HCFC-225cb(5質量%)、HCFO-1437dycc(3質量%)、m-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン(3質量%)、ゼオローラH(3質量%)の溶液を調製することができた。
【0130】
<例7>分子量の異なる44DFM-FHBAE単独重合体の合成とその溶液粘度
内容積34mLのハステロイ製オートクレーブを用いて、44DFM-FHBAE(2.50g)を仕込んだ。IPP(10mg)をフッ素系溶媒で希釈した液を加え、最後に同じフッ素系溶媒を加えて、仕込んだ当該フッ素系溶媒の全量を22.49gとした。以下、例1-1と同様にして重合を実施した。内容物をビーカーに移し、前記フッ素系溶媒による洗浄液をそれに加えた。後処理は例1-1と同様の操作で実施した。但し、凝集には上述の液の3倍体積のメタノールを用いた。再溶解、再凝集の溶媒はそれぞれCF(CFHと3倍体積のメタノールを用いた。フッ素系溶媒の種類を変えて重合を実施して得られた重合体の分子量と、当該重合体をm-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンに10質量%の濃度で溶解した溶液の粘度を下表に示す。分子量が大きいほど溶液粘度が高く、分子量が小さくなると溶液粘度が低くなることが分かる。即ち、分子量を制御することで溶液の粘度を制御することができる。
【0131】
【表3】
【0132】
<例8>44DFM-FHBAEとMXMの共重合体の合成
内容積34mLのハステロイ製オートクレーブに、44DFM-FHBAE2.31g(6.83mmol)とMXM0.695g(2.27mmol)を仕込んだ。IPP(30mg)をHCFC-225cbで200倍に希釈した液を加え、最後にHCFC-225cbを加えて、仕込んだHCFC-225cbの全量を26.97gとした。以下、例1-1と同様にして重合を行った。内容物をビーカーに移し、HCFC-225cbによる洗浄液をそれに加えた。全量は45gであった。30分撹拌した後、n-ヘキサン77gを添加して重合体を凝集させ、30分撹拌してろ過した。得られた重合体にHCFC-225cbを添加して全量を29gにした。30分間撹拌後、51gのメタノールで重合体を凝集してろ過した。同様の操作をもう一回繰り返した後、80℃で16時間真空乾燥した。白色の重合体2.26gを得た。重量平均分子量は239,900、空気中のTd(3%)は362℃、窒素中のTd(3%)は421℃、Tgは140℃であった。ペルフルオロベンゼンに重合体を溶解してH-NMRを測定したところ、44DFM-FHBAEとMXMの繰り返し単位の比率は、99.2:0.8(モル比)であった。
得られる重合体は下記に示す繰り返し単位を含むものとなる。
【0133】
【化16】
上記共重合体を用いて、ペルフルオロベンゼン(10質量%)、HCFC-225cb(10質量%)の溶液を調製することができた。
【0134】
<合成例4>2M44DFM-FHBAEの合成
還流冷却器、滴下ロート、温度計を備えた4つ口500mLの丸底フラスコに、窒素雰囲気下でモレキュラーシーブ4Aで脱水したテトラグライム(108.6g)、トリエチルアミン(19.1g、189mmol)及び1,1-ビス(トリフルオロメチル)-3-メチル-3-ブテン-1-オール(31.5g、142mmol)(シンクエスト・ラボラトリーズ製)を仕込み、撹拌子で撹拌しながら、氷水で内温を5℃以下まで冷却した。内温を10℃以下に保ちながら、PFAS(36.2g、157mmol)を45分かけて滴下した。滴下終了して30分後に氷水バスから氷を取り除いて引き続き室温で一晩撹拌した。反応液のGC分析より、PFASの反応率は100%であった。
滴下ロートと還流冷却器を取り外し、4つ口フラスコに室温の水浴をセットし、ドライアイス-エタノールで冷却した冷却トラップと液体窒素で冷却した冷却トラップを介して真空ポンプに接続し、撹拌しながら低沸点成分を冷却トラップに抜き出した。水浴温度を室温で3時間保持した後、40℃に昇温して3時間保持した。ドライアイス-エタノール冷却トラップに少量のトリエチルアミンと微量の1,1-ビス(トリフルオロメチル)-3-メチル-3-ブテン-1-オールを含有する2M44DFM-FHBAE49.1gを得た。この粗生成物を1N HClで処理した後、水洗し、0.1NのNaOH水溶液で処理した後、水洗した。下層を分液採取してトリエチルアミンを含有しない2M44DFM-FHBAEをGC純度99.2%で得た。目的物の収量は44.2g、単離収率は89%であった。
上記と同様に反応を3回実施して得られた液を混合し、重合禁止剤6-tert-ブチル-2,4-キシレノールを1000ppmになるように添加した。減圧蒸留により、GC純度99.9%以上の目的生成物を蒸留収率78%で得た。沸点は59℃/3.3kPaであった。主留分のGC分析で1,1-ビス(トリフルオロメチル)-3-メチル-3-ブテン-1-オールは検出されなかった。
H-NMR(CDCl):δ(ppm)1.84(3H)、3.01(2H)、5.03(2H)。
19F-NMR(CDCl):δ(ppm)-67.2(2F)、-72.6(6F、)、-93.2(1F)、-105.3(1F),-189.2(1F)。
【0135】
<例9>2M44DFM-FHBAE単独重合体の合成
内容積34mLのハステロイ製オートクレーブに、2M44DFM-FHBAE(2.50g)を仕込んだ。次いで、IPP(20mg)をHCFC-225cbで200倍に希釈した液を加え、最後にHCFC-225cbを加えて、仕込んだHCFC-225cbの全量を22.48gとした。
液体窒素を用いて凍結脱気を2回繰り返した後、約0℃まで戻し、窒素ガスを0.3MPaGまで導入した。オートクレーブをウォーターバスにセットし、内温を40℃に保持しつつ6時間撹拌した後、オートクレーブを氷水に浸けて、20℃以下まで冷却した。
反応液をオートクレーブからビーカーに移し替え、HCFC-225cbの洗液と合わせて内容物の全量を54gとした。30分間撹拌後、n-ヘキサン90gを添加してさらに30分間撹拌し、減圧ろ過した。得られた固形分にHCFC-225cbを加えて30分撹拌した後、n-ヘキサンを添加して重合体を凝集して減圧ろ過した。さらに、HCFC-225cbとメタノールを用いた同様の操作を1回行った。
80℃で一晩真空乾燥して白色の重合体2.31gを得た。重量平均分子量は287,600、空気中のTd(3%)は387℃、窒素中のTd(3%)は418℃、Tgは193℃であった。
得られた重合体は下記に示す繰り返し単位を含むものとなる。
【0136】
【化17】
【0137】
例9で得られた重合体をナスフラスコ中で重合体濃度が10質量%となるように各種フッ素系溶媒と混合し、常圧のエバポレーターに取り付けて、水浴上で数時間加温撹拌した。HCFC-225cb(45℃)、AE3000(45℃)、F(CFH(50℃)、Novec7100(45℃)、m-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン(50℃)に当該重合体が溶解することを確認した。( )内の温度は溶解時の水浴の温度を表す。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明によれば、種々の溶媒に溶解し得る新規含フッ素重合体が提供され、当該含フッ素重合体は、光学材料、電子材料等の多種多様な分野での利用が期待される。
【0139】
この出願は、2019年6月26日に出願された日本出願特願2019-118501を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
図1
図2