(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】ガラス基体
(51)【国際特許分類】
C03C 19/00 20060101AFI20240717BHJP
C03C 17/34 20060101ALI20240717BHJP
G09F 9/00 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
C03C19/00 Z
C03C17/34 Z
G09F9/00 302
(21)【出願番号】P 2021528223
(86)(22)【出願日】2020-06-15
(86)【国際出願番号】 JP2020023442
(87)【国際公開番号】W WO2020255926
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2023-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2019113466
(32)【優先日】2019-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 丈彰
(72)【発明者】
【氏名】森谷 幸紀
(72)【発明者】
【氏名】池田 徹
(72)【発明者】
【氏名】藤井 健輔
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/117078(WO,A1)
【文献】特開2018-037084(JP,A)
【文献】特開2018-189996(JP,A)
【文献】特開2019-010871(JP,A)
【文献】国際公開第2019/103469(WO,A1)
【文献】特開2017-090750(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 15/00-23/00
G09F 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1主面と、
前記第1主面とは反対側の主面である第2主面と、
前記第1主面および前記第2主面に挟まれた端面と、
前記第1主面と前記端面とに接続する第1境界面と、
前記第2主面と前記端面とに接続する第2境界面と、
前記第1主面が凹状に屈曲し、かつ、前記第2主面が凸状に屈曲した屈曲部と、
前記第1主面および前記第2主面が平面である平坦部と、
を備えるガラス基体であって、
前記屈曲部は、前記端面から前記第1主面までの、前記ガラス基体の前記端面から前記第1主面に対して接線方向の距離D
1が、前記端面から前記第2主面までの、前記ガラス基体の前記端面から前記第2主面に対して接線方向の距離D
2よりも長く、かつ、前記距離D
1と前記距離D
2との差が50μm以上である部分を含
み、
前記平坦部において、前記距離D
1
と前記距離D
2
とが同じである、ガラス基体。
【請求項2】
前記屈曲部において、前記第2主面の上に印刷部を有し、
前記印刷部から前記第2境界面までの、前記ガラス基体の前記端面から前記第2主面に対して接線方向の距離D
3が、150μm以下である、請求項1に記載のガラス基体。
【請求項3】
前記屈曲部において、前記第1主面および前記第1境界面の上に機能層を有する、請求項1
または2に記載のガラス基体。
【請求項4】
前記屈曲部において、前記距離D
1が250μm以上である、請求項1~
3のいずれか1項に記載のガラス基体。
【請求項5】
前記屈曲部において、前記第1主面の長さL
1に対する前記距離D
1の割合が、0.250%以上である、請求項1~
4のいずれか1項に記載のガラス基体。ただし、前記長さL
1は、前記距離D
1の延長線上の長さである。
【請求項6】
前記第1境界面および前記第2境界面が平面である、請求項1~
5のいずれか1項に記載のガラス基体。
【請求項7】
表示装置のカバーガラスとして用いられる、請求項1~
6のいずれか1項に記載のガラス基体。
【請求項8】
前記表示装置が、車載表示装置である、請求項
7に記載のガラス基体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両には、カーナビゲーション装置などの車載表示装置が搭載されている。
車載表示装置において、表示パネルを保護する観点から、ガラス製のカバー部材(カバーガラス)が使用されている(例えば、特許文献1~2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2016/027812号
【文献】国際公開第2017/208995号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以下、便宜的に、カバーガラスとして用いられるガラス基体の両主面のうち、一方の主面を「第1主面」と呼び、第1主面とは反対側の主面を「第2主面」と呼ぶ。
第1主面は、車載表示装置を使用する運転手などの使用者(以下、単に「使用者」ともいう)側の主面である。第2主面は、表示パネル側の主面である。
【0005】
第2主面の外縁上には、枠状の印刷部が設けられる場合がある(特許文献1参照)。印刷部は、表示パネルの表示面(表示領域)の周囲に配置されている配線等を、第1主面側から使用者が視認できないように隠蔽する。
【0006】
ところで、通常、ガラス基体の端部には、いわゆる面取り部が形成される(特許文献2参照)。面取り部の面上には、印刷部は設けられない。
このため、第2主面側で生じた発光が面取り部付近を透過し、その結果、第1主面側にいる使用者が『面取り部が発光して眩しい』と感じる場合がある。以下、これを「面取り部発光」と呼ぶ。面取り部発光が生じると、例えば使用者が運転手である場合には、運転に支障が出る可能性がある。
【0007】
近年、車載表示装置の形状等に応じて、カバーガラスの一部が屈曲している場合がある。すなわち、カバーガラスとして用いられるガラス基体が、平坦部(屈曲していない部分)のほかに、屈曲部を有する場合がある。屈曲部においては、例えば、第1主面が凹状に屈曲し、かつ、第2主面が凸状に屈曲している。
【0008】
使用者は、通常、カバーガラスであるガラス基体を、その平坦部と相対する位置から見る。このとき、平坦部においては面取り部発光が生じなくても、平坦部とは異なる形状の屈曲部においては、面取り部発光が生じる場合がある。
【0009】
本発明は、以上の点を鑑みてなされたものであり、屈曲部の面取り部発光が抑制されたガラス基体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討した結果、下記構成を採用することにより、上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[10]を提供する。
[1]第1主面と、上記第1主面とは反対側の主面である第2主面と、上記第1主面および上記第2主面に挟まれた端面と、上記第1主面と上記端面とに接続する第1境界面と、上記第2主面と上記端面とに接続する第2境界面と、上記第1主面が凹状に屈曲し、かつ、上記第2主面が凸状に屈曲した屈曲部と、を備えるガラス基体であって、上記屈曲部は、上記端面から上記第1主面までの、上記ガラス基体の前記端面から上記第1主面に対して接線方向の距離D1が、上記端面から上記第2主面までの、上記ガラス基体の前記端面から上記第2主面に対して接線方向の距離D2よりも長く、かつ、上記距離D1と上記距離D2との差が50μm以上である部分を含む、ガラス基体。
[2]上記屈曲部において、上記第2主面の上に印刷部を有し、上記印刷部から上記第2境界面までの、上記ガラス基体の前記端面から上記第2主面に対して接線方向の距離D3が、150μm以下である、上記[1]に記載のガラス基体。
[3]上記屈曲部のほかに、上記第1主面および上記第2主面が平面である平坦部を更に備える、上記[1]または[2]に記載のガラス基体。
[4]上記平坦部において、上記距離D1と上記距離D2とが同じである、上記[3]に記載のガラス基体。
[5]上記屈曲部において、上記第1主面および上記第1境界面の上に機能層を有する、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載のガラス基体。
[6]上記屈曲部において、上記距離D1が250μm以上である、上記[1]~[5]のいずれか1つに記載のガラス基体。
[7]上記屈曲部において、上記第1主面の長さL1に対する上記距離D1の割合が、0.250%以上である、上記[1]~[6]のいずれか1つに記載のガラス基体。ただし、上記長さL1は、上記距離D1の延長線上の長さである。
[8]上記第1境界面および上記第2境界面が平面である、上記[1]~[7]のいずれか1つに記載のガラス基体。
[9]表示装置のカバーガラスとして用いられる、上記[1]~[8]のいずれか1つに記載のガラス基体。
[10]上記表示装置が、車載表示装置である、上記[9]に記載のガラス基体。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、屈曲部の面取り部発光が抑制されたガラス基体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】
図2は、
図1のA-A線断面図であり、ガラス基体の屈曲部の断面図である。
【
図3】
図3は、回転砥石を用いたガラス板の研削を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態を、
図1~
図3に基づいて説明する。
ただし、本発明は、以下の実施形態に限定されない。本発明の趣旨を逸脱することなく、以下の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
【0015】
[ガラス基体]
まず、
図1および
図2に基づいて、ガラス基体1を説明する。
図1は、ガラス基体1を示す上面図である。以下、ガラス基体1を、車載表示装置(図示せず)のカバーガラスとして用いる場合を例に説明する。ただし、ガラス基体1は、車載表示装置以外の表示装置のカバーガラスとしても使用できる。
【0016】
〈第1主面および第2主面〉
図1に示すように、ガラス基体1は、一対の主面を有する板状のガラスであり、第1主面2、および、第1主面2とは反対側の第2主面3を有する。なお、
図1では、後述する印刷部7および機能層8の図示を省略している。
第1主面2は、車載表示装置を使用する運転手などの使用者(以下、単に「使用者」ともいう)側の主面である。第2主面3は、車載表示装置が有する表示パネル(図示せず)側の主面である。
【0017】
〈平坦部および屈曲部〉
図1に示すように、ガラス基体1の少なくとも一部は、屈曲している。すなわち、ガラス基体1は、平坦部11および屈曲部12を有する。
平坦部11においては、第1主面2および第2主面3は、平面である。
屈曲部12においては、第1主面2が凹状に屈曲(湾曲)し、他方の第2主面3が凸状に屈曲(湾曲)している。
屈曲部12の曲率半径は、例えば、10mm以上1000mm以下であり、20mm以上800mm以下が好ましく、30mm以上600mm以下がより好ましい。
【0018】
〈第1境界面、第2境界面および端面〉
図2は、
図1のA-A線断面図であり、ガラス基体1の屈曲部12の断面図である。
図2に示すように、ガラス基体1は、第1主面2と第2主面3とに挟まれた端面4を有する。
更に、ガラス基体1の屈曲部12は、第1主面2と端面4とに接続する第1境界面5、および、第2主面3と端面4とに接続する第2境界面6を有する。
図2では、端面4、第1境界面5および第2境界面6を、平面として図示しているが、各面の形状は平面に限定されず、例えば、凸状に湾曲した湾曲面であってもよい。また、端面4は、例えば、R面取り形状のように平面が存在しない形状であってもよい。この場合、「端面」は「頂部」と読み替えるものとする。
【0019】
第1境界面5の表面粗さSa(算術平均高さ)は、後述する機能層8の耐久性に優れるという理由から、0.02μm以上が好ましく、0.05μm以上がより好ましく、0.1μm以上が更に好ましい。上限は特に限定されず、例えば1μm以下であり、0.5μm以下が好ましい。
第2境界面6の表面粗さSaは、特に限定されず、第1境界面5の表面粗さSaと同じであってよい。
表面粗さSaは、ISO 25178に準拠して計測される。
【0020】
以下、ガラス基体1の屈曲部12において、第1境界面5および第2境界面6を併せて「面取り部」と呼ぶ場合がある。
【0021】
なお、ガラス基体1の平坦部11(
図1参照)においても、第1境界面5および第2境界面6が形成されていることが好ましい。
【0022】
〈印刷部〉
図2に示すように、第2主面3の上には、黒色インク等からなる印刷部7が設けられている。印刷部7は、第2主面3の外縁上に枠状に配置された部材であり、例えば、スクリーン印刷装置やインクジェット装置を用いて形成される。
上述したように、ガラス基体1の第2主面3側には、表示パネルが配置される。印刷部7は、表示パネルの表示面(表示領域)の周囲に配置される配線等を、第1主面2側から使用者が視認できないように隠蔽する。
【0023】
ところで、
図2に示すように、通常、ガラス基体1の面取り部である第2境界面6の上には、印刷部7は設けられないことが多い。
このため、ガラス基体1の第2主面3側で生じた発光が、面取り部(第2境界面6および第1境界面5)付近を透過し、その結果、ガラス基体1の第1主面2側にいる使用者が『面取り部が発光して眩しい』と感じる場合がある。すなわち、面取り部発光が生じる場合がある。
【0024】
面取り部発光は、例えば、次のような場合に生じる。
すなわち、車載表示装置(図示せず)に、日光が、ガラス基体1の第1主面2側から入射し、ガラス基体1の面取り部(第1境界面5および第2境界面6)付近を透過または通過し、第2主面3側に配置された筐体(図示せず)によって反射する。この反射光が、ガラス基体1の面取り部(第2境界面6および第1境界面5)付近を、第2主面3側から第1主面2側に透過する。このような場合である。
第1境界面5と第1主面2との境界部は、稜線であることが多い(以下、「稜線部」ともいう)。反射光が面取り部付近、特に稜線部を透過するときに、稜線部で光が散乱され、目に光が入る場合がある。このような場合、第1主面2側の稜線部が光って見え、ときには運転者が眩しいと感じる。
【0025】
使用者は、通常、カバーガラスであるガラス基体1を、平坦部11と相対する位置P(
図1参照)から見る。このとき、平坦部11においては面取り部発光が生じなくても、平坦部11とは異なる形状の屈曲部12においては、面取り部発光が生じる場合がある。
【0026】
〈距離D
1および距離D
2〉
そこで、
図2に示すように、本実施形態では、ガラス基体1の屈曲部12は、端面4から第1主面2までの、ガラス基体1の端面4から第1主面2に対して接線方向(すなわち、屈曲部12の延在方向)の距離D
1が、端面4から第2主面3までの、ガラス基体1の端面4から第2主面3に対して接線方向(屈曲部12の延在方向)の距離D
2よりも長く、かつ、距離D
1と距離D
2との差が50μm以上である部分(以下、便宜的に「特定部分」と呼ぶ)を含む。
これにより、例えば屈曲部12の全体にわたり距離D
2が距離D
1と同じである場合と比較して、印刷部7が、より端面4に近い位置に配置される。その結果、第1境界面5の反対側(第2主面3側)が多く覆われる。特に、第1主面2側の稜線部が、ガラス基体1の上面視で印刷部7により覆われる。こうして、第2主面3側からの光が面取り部(第2境界面6および第1境界面5)付近、特に、稜線部を透過することが抑制される。すなわち、面取り部発光が抑制される。
屈曲部12は、上記特定部分以外の部分(例えば、距離D
1と距離D
2との差が50μm以上ではない部分)を含んでいてもよい。
【0027】
屈曲部12の面取り部発光がより抑制されるという理由から、屈曲部12の上記特定部分における距離D1と距離D2との差は、70μm以上が好ましく、150μm以上がより好ましい。上限は特に限定されず、例えば、300μm以下であり、250μm以下が好ましい。
【0028】
後述する機能層8の耐久性に優れるという理由から、屈曲部12(特に、上記特定部分)における距離D1は、150μm以上が好ましく、250μm以上がより好ましく、300μm以上が更に好ましい。上限は特に限定されず、例えば1mm以下であり、750μm以下が好ましく、500μm以下がより好ましい。
【0029】
後述する機能層8の耐久性に優れるという理由から、屈曲部12(特に、上記特定部分)において、ガラス基体1の端面4から第1主面2に対して接線方向に沿った第1主面2の長さL1(単位:μm)に対する距離D1(単位:μm)の割合((D1/L1)×100)は、大きい方が好ましい。具体的には、第1主面2の長さL1に対する距離D1の割合は、0.250%以上が好ましく、0.290%以上がより好ましく、0.320%以上が更に好ましい。上限は特に限定されず、例えば、0.500%以下である。なお、第1主面2の長さL1は、距離D1の延長線上の長さでもある。
【0030】
なお、ガラス基体1の平坦部11(
図1参照)においては、距離D
1(以下、距離D
1を「第1境界面5の長さ」ともいう)と距離D
2(以下、距離D
2を「第2境界面6の長さ」ともいう)とは、屈曲部12のように異なっていなくてもよく、同じでよい。「同じ」とは、加工上の誤差の範囲で一致するという意味である。「加工上の誤差」とは、例えば、距離D
1または距離D
2の5%以下であることを意味し、3%以下が好ましく、1%以下がより好ましい。または、「加工上の誤差」とは、距離D
1と距離D
2との差が30μm以下であることを意味し、10μm以下が好ましい。
ガラス基体1の平坦部11における距離D
1と距離D
2とが同じである場合、美観に優れるため、好ましい。
【0031】
ガラス基体1に平坦部11が複数ある場合、平坦部11ごとに、距離D1および距離D2は、それぞれ、異なっていてもよいし、同じであってもよい。同じである場合、美観に優れ、かつ、生産性も良好になるため、好ましい。
【0032】
〈距離D
3〉
図2に示すように、屈曲部12(特に、上記特定部分)において、第2主面3の上に設けられる印刷部7から第2境界面6までの、ガラス基体1の端面4から第2主面3に対して接線方向(屈曲部12の延在方向)の距離D
3は、面取り部発光がより抑制されるため、短い方が好ましく、具体的には、150μm以下が好ましく、120μm以下がより好ましく、100μm以下が更に好ましい。
なお、印刷部7が第2境界面6の上に設けられることは、妨げられない。
【0033】
距離D1、距離D2および距離D3は、マイクロスコープ(MS100、朝日光学機製作所社製)を用いて、ガラス基体1を、倍率20倍で観察することにより計測する。
【0034】
距離D
1、距離D
2および距離D
3は、次のように定義される。
図1および
図2を参照されたい。
第1主面2と第1境界面5との交線X
1上における任意の点を点Y
1とする。点Y
1を通り、かつ、屈曲部12の延在方向に交線X
1と垂直に交わる平面(断面)を断面Zとする。断面Zは、点Y
1における交線X
1の接線に対して垂直な平面(断面)でもある。断面Z上において、点Y
1から端面4までの、第1主面2に平行な方向の距離のうち、最も長い距離を、距離D
1と定義する。
次に、第2主面3と第2境界面6との交線X
2上の点であって、断面Z上の点を点Y
2とする。断面Z上において、点Y
2から端面4までの、第2主面3に平行な方向の距離のうち、最も長い距離を、距離D
2と定義する。
ここで、「最も長い距離」としたのは、端面4が曲面であって、端面4と第1境界面5または第2境界面6との境界線が不明な場合もあり得るからである。
距離D
3は、断面Z上において、点Y
2から印刷部7までの、第2主面3に平行な方向の距離のうち、最も短い距離と定義される。「最も短い距離」としたのは、印刷部7の端面に膨らみ等がある場合もあり得るからである。
【0035】
〈化学強化ガラス〉
ガラス基体1は、カバーガラスとして用いられる場合、化学強化処理が施されたガラス(化学強化ガラス)であることが好ましい。
化学強化ガラスの表面層には、圧縮応力層が形成される。
圧縮応力層の深さ(DOL)は、10μm以上が好ましく、15μm以上がより好ましく、25μm以上が更に好ましい。
圧縮応力層の圧縮応力値(CS)は、500MPa以上が好ましく、650MPa以上がより好ましく、750MPa以上が更に好ましい。一方、1200MPa以下が好ましい。
圧縮応力層の圧縮応力値(CS)および圧縮応力層の深さ(DOL)は、表面応力計(FSM-6000、折原製作所社製)を用いて計測する。
【0036】
〈機能層〉
図2に示すように、ガラス基体1の第1主面2の上には、機能層8が設けられてもよい。機能層8としては、例えば、反射防止層、防汚層などが挙げられる。
ガラス基体1の屈曲部12において、第1主面2の上に機能層8を設ける場合、
図2に示すように、第1境界面5の上にも連続して機能層8を設けてもよい。
【0037】
〈ヘイズ〉
ガラス基体1のヘイズは、30%以下が好ましく、10%以下がより好ましい。
ヘイズは、JIS K 7136で規定される透過ヘイズである。
【0038】
〈板厚、形状および大きさ〉
ガラス基体1の板厚は、0.5mm以上2.5mm以下が好ましく、0.7mm以上2.0mm以下がより好ましい。
ガラス基体1の主面(第1主面2および第2主面3)の形状および大きさは、例えば、使用される車載表示装置の形状等に合わせて適宜決定される。
【0039】
[ガラス基体の製造方法]
次に、更に
図3も参照して、上述したガラス基体1を製造する方法(以下、便宜的に「本製造方法」ともいう)について説明する。
【0040】
〈ガラス板の準備〉
まず、
図3に示すように、ガラス板31を準備する。ガラス板31は、一方の主面である第1主面32、他方の主面である第2主面33、および、第1主面32と第2主面33とに接続する端面34を有する。
ガラス板31の第1主面32が、ガラス基体1の第1主面2となる。ガラス板31の第2主面33が、ガラス基体1の第2主面3となる。
ガラス板31の板厚は、ガラス基体1の板厚と同じである。
そして、ガラス板31は、ガラス基体1の屈曲部12と同様に屈曲した屈曲部(図示せず)を有する。
【0041】
ガラス板31のガラス種としては、例えば、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス(SiO2-Al2O3-Na2O系ガラス)等が挙げられる。
ガラス板31のガラス組成としては、例えば、日本国特開2019-006650号公報の段落[0019]に記載されたガラス組成が挙げられる。
後述する化学強化処理を施す場合は、例えば、アルミノシリケートガラスをベースとする化学強化用ガラス(ドラゴントレイル(登録商標)、AGC社製)が好適に用いられる。
【0042】
〈研削〉
図3は、回転砥石35を用いたガラス板31の研削を示す断面図である。
次に、
図3に示すように、回転砥石35を用いて、ガラス板31の端部を研削する。これにより、ガラス板31に対して、いわゆる面取りが行なわれる。
回転砥石35の外周面である研削面36には、周方向に延びる環状の研削溝が形成されている。研削面36は、アルミナ、炭化ケイ素、ダイヤモンドなどの砥粒を含む。砥粒の粒度(JIS R 6001)は、特に限定されないが、例えば#300から#2000までの範囲から選択される。
回転砥石35は、回転砥石35の中心線を中心に回転しながら、ガラス板31の端部に沿って相対的に移動し、ガラス板31の端部を研削面36で研削する。研削に際しては水などの冷却液が用いられてもよい。
【0043】
例えば、ガラス板31の曲率半径よりも小さい直径d
1を有する回転砥石35を使用して研削する。これにより、まず、距離D
1(第1境界面5の長さ)と距離D
2(第2境界面6の長さ)とを同じ長さに加工する(図示せず)。
次いで、屈曲部12となる部分のみ、回転砥石35とは異なる他の研削用具(例えば、グラインダ)を用いて研削し、距離D
1(第1境界面5の長さ)が距離D
2(第2境界面6の長さ)よりも長くなるように加工する(
図2参照)。
こうして、上述したガラス基体1が得られる。
【0044】
なお、グラインダなどの他の研削用具を用いることなく、回転砥石35だけを使用して、ガラス基体1を得るようにしてもよい。
その場合、例えば、ガラス板31の曲率半径に対して通常よりも大きめの直径d
1を有する回転砥石35を用いて、ガラス板31を研削する。このような回転砥石35は、例えば特注品として入手できる。これにより、屈曲部12となる部分のみ、距離D
1(第1境界面5の長さ)が距離D
2(第2境界面6の長さ)よりも長くなるように加工される(
図2参照)。
【0045】
〈化学強化処理〉
研削後のガラス板31に、化学強化処理を施してもよい。この場合、化学強化処理が施されたガラス板31が、ガラス基体1となる。
化学強化処理を施す場合、ガラス板31として、化学強化用ガラスを用いる。
化学強化処理では、従来公知の方法を採用でき、典型的には、ガラス板31を、溶融塩に浸漬させる。これにより、ガラス板31の表層において、アルカリイオン(Liイオンおよび/またはNaイオン)を、溶融塩中のイオン半径の大きい他のアルカリイオン(Naイオンおよび/またはKイオン)とイオン交換(置換)する。このイオン交換によって、ガラス板31の表層に、高密度化によって圧縮応力が発生した層(圧縮応力層)を形成する。こうして、ガラス板31を強化できる。
ガラス板31に含まれるアルカリイオンがNaイオンである場合、溶融塩(無機塩組成物)は、硝酸カリウム(KNO3)を含有することが好ましい。
溶融塩の温度や浸漬時間などの処理条件は、圧縮応力層の圧縮応力値(CS)および圧縮応力層の厚さ(DOL)などが所望の値となるように設定すればよい。
【0046】
〈機能層の形成〉
次に、得られたガラス基体1の第1主面2の上に、任意で、反射防止層、防汚層などの機能層8を形成する。例えば、機能層8となる塗料を、ガラス基体1の第1主面2の上に、公知の手法で塗布する。これにより、機能層8が形成される。
【0047】
このとき、屈曲部12を有するガラス基体1を一時的に平坦化し、その状態を維持しながら塗料を塗布して機能層8を形成し、その後、平坦化を解除する方法(日本国特表2015-522506号公報を参照)を採用してもよい。以下、この方法を、便宜的に「平坦化法」と呼ぶ。平坦化法では、ガラス基体1の平坦化を解除すると、ガラス基体1は復元して第1主面2が凹状に屈曲する。
【0048】
平坦化法を用いて第1主面2の上に機能層8を形成する場合、形成された機能層8は、屈曲部12において、形成後に凹状に屈曲するため、応力が溜まり、第1主面2から剥がれやすくなる場合がある。
そこで、
図2に示すように、機能層8を、第1主面2の上だけでなく、第1主面2に接続している第1境界面5の上にも連続して設けることが好ましい。
第1主面2の上だけに形成された機能層8よりも、第1主面2および第1境界面5の上に形成された機能層8の方が剥がれにくい(すなわち、機能層8の耐久性に優れる)。これは、前者よりも後者の方が機能層8の面積が相対的に大きく、また、第1境界面5においてアンカー効果が生じるためと推測される。
機能層8を第1主面2および第1境界面5の上に設ける場合、屈曲部12における、第1境界面5の表面粗さSa、距離D
1(第1境界面5の長さ)、および、第1主面2の長さL
1に対する距離D
1の割合は、上述した範囲を採用することが好ましい。これにより、屈曲部12における機能層8の耐久性がより優れる。
【実施例】
【0049】
以下に、実施例等により本発明の実施形態を具体的に説明する。ただし、本発明は以下の例に限定されない。以下、例1~例5が実施例であり、例6が比較例である。
【0050】
〈例1~例6〉
ガラス板31(
図3参照)として、AGC社製「ドラゴントレイル」を準備した。ガラス板31の主面(第1主面32および第2主面33)のサイズは800mm×100mmであった。ガラス板31の板厚は1.1mmであった。
ガラス板31は、およそ長手方向が5:3となる位置で、第1主面32が凹状となる向きに屈曲していた。屈曲部12となる部分の曲率半径(単位:mm)を下記表1に示す。
【0051】
準備したガラス板31の端部を、回転砥石35を用いて研削した。回転砥石35の直径d
1(単位:mm)を下記表1に示す。次いで、例1~例5では、屈曲部12となる部分のみ、グラインダを用いて研削した。こうして、第1境界面5および第2境界面6を有するガラス基体1(
図1参照)を得た。
得られたガラス基体1の平坦部11および屈曲部12それぞれにおける、距離D
1(第1境界面5の長さ)、距離D
2(第2境界面6の長さ)、および、距離D
1と距離D
2との差を、下記表1に示す(単位は、いずれもμm)。
更に、得られたガラス基体1の屈曲部12について、第1主面2の長さL
1(単位:mm)、および、長さL
1に対する距離D
1の割合(単位:%)を下記表1に示す。
【0052】
ガラス基体1の第2主面3の外縁上には、黒色インクからなる枠状の印刷部7を形成した。屈曲部12における印刷部7から第2境界面6までの、ガラス基体の端面4から第2主面3に対して接線方向の距離D3(単位:μm)を、下記表1に示す。
【0053】
例1~例6のそれぞれのガラス基体1を用いて、以下の評価を行なった。
【0054】
〈屈曲部の面取り部発光の抑制〉
ガラス基体1と同一形状に成形された金属板(図示せず)を、ガラス基体1の第2主面3側に配置し、照度1500ルクスの環境下で、ガラス基体1の屈曲部12を、平坦部11と相対する位置P(
図1参照)から見た。
面取り部(第1境界面5および第2境界面6)が光らなかった場合は「A」を、面取り部が光ったが眩しさを感じなかった場合は「B」を、面取り部が光って眩しさを感じた場合は「C」を下記表1に記載した。「A」または「B」であれば、屈曲部12の面取り部発光が抑制されていると評価できる。
【0055】
〈屈曲部の機能層の耐久性〉
日本国特表2015-522506号公報に記載された方法に準拠して、平坦化法を用いて、ガラス基体1の第1主面2および第1境界面5の上に機能層8を形成した。
すなわち、屈曲部12を有するガラス基体1を一時的に平坦化し、その状態を維持しながら機能層8を形成し、その後、平坦化を解除した。平坦化の解除により、ガラス基体1は復元し、第1主面2は再び凹状に屈曲した。
機能層8としては、以下のようにして、反射防止層および防汚層を形成した。
【0056】
まず、酸化ニオブ円筒ターゲット(商品名:NBOターゲット、AGCセラミックス社製)を用いて、酸素とアルゴンとを真空チャンバ内に導入しながらマグネトロンスパッタリングを行ない、厚さ13nmの酸化ニオブからなる高屈折率層(第1層)を形成した。
次いで、シリコン円筒ターゲット(AGCセラミックス社製)を用いて、酸素とアルゴンとを真空チャンバ内に導入しながらマグネトロンスパッタリングを行ない、第1層上に厚さ35nmの酸化ケイ素からなる低屈折率層(第2層)を形成した。
その後、第2層上に、第1層と同様にして、厚さ115nmの酸化ニオブからなる高屈折率層(第3層)を形成した。更に、第3層上に、第2層と同様にして、厚さ80nmの酸化ケイ素からなる低屈折率層(第4層)を形成した。
このようにして、酸化ニオブからなる高屈折率層と酸化ケイ素からなる低屈折率層とが交互に合計4層積層された反射防止層を形成した。
【0057】
次に、防汚層を形成した。まず、防汚層の材料であるKY-185(信越化学工業社製)が入った加熱容器を、270℃まで加熱した。次に、反射防止層が形成されたガラス基体1を真空チャンバ内に設置した。その後、防汚層の材料が入った加熱容器に接続されたノズルから、真空チャンバ内のガラス基体1の反射防止層に向けて、防汚層の材料を噴射し、成膜した。成膜は、真空チャンバ内に設置した水晶振動子モニタにより膜厚を測定しながら行ない、膜厚が4nmになるまで行なった。その後、真空チャンバからガラス基体1を取り出した。
【0058】
このようにして、機能層8として反射防止層および防汚層をガラス基体1に形成した。
【0059】
機能層8を形成したガラス基体1に、100~150Hzの振動を、1週間与え続けた。このような振動によって、機能層8とガラス基体1の表面との間にせん断力が加わり、密着力が弱い機能層8は剥がれやすくなる。その後、スチールウール#0000番を用いて、200gの荷重で、屈曲部12の第1主面2および第1境界面5の上に配置された機能層8を、100回擦った。
擦った部分を目視した。このとき、特に変化が確認されなかった場合は「A」を、傷が数本(10本未満)見えた場合は「B」を、傷が10本以上見えたが機能層は剥がれていなかった場合は「C」を、機能層が剥がれていた場合は「D」を、下記表1に記載した。「A」、「B」または「C」であれば、屈曲部12の機能層8の耐久性に優れると評価できる。
【0060】
【0061】
〈評価結果まとめ〉
上記表1に示すように、屈曲部12において、距離D1が距離D2よりも長く、かつ、距離D1と距離D2との差が80~150μmである例1~例5は、距離D1と距離D2とが同じである例6よりも、屈曲部12の面取り部発光が抑制されていた。
例1~例5を対比すると、距離D1と距離D2との差が大きいほど、屈曲部12の面取り部発光がより抑制される傾向が見られた。
【0062】
また、例1~例5は、屈曲部12における機能層8の耐久性にも優れていた。
【0063】
本発明を詳細にまた特定の実施形態を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は、2019年6月19日出願の日本特許出願(特願2019-113466)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0064】
1:ガラス基体
2:第1主面
3:第2主面
4:端面
5:第1境界面
6:第2境界面
7:印刷部
8:機能層
11:平坦部
12:屈曲部
31:ガラス板
32:ガラス板の第1主面
33:ガラス板の第2主面
34:ガラス板の端面
35:回転砥石
36:研削面
D1:ガラス基体の端面から第1主面までの、ガラス基体の端面から第1主面に対して接線方向の距離
D2:ガラス基体の端面から第2主面までの、ガラス基体の端面から第2主面に対して接線方向の距離
D3:印刷部から第2境界面までの、ガラス基体の端面から第2主面に対して接線方向の距離
d1:回転砥石の直径
L1:第1主面の長さ
P:ガラス基体の平坦部と相対する位置
X1:第1主面と第1境界面との交線
X2:第2主面と第2境界面との交線
Y1:第1主面と第1境界面との交線上の点
Y2:第2主面と第2境界面との交線上の点
Z:断面