(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】フェンダーライナーの製造方法
(51)【国際特許分類】
B62D 25/18 20060101AFI20240717BHJP
B29C 39/24 20060101ALI20240717BHJP
B29C 44/00 20060101ALI20240717BHJP
B29C 44/36 20060101ALI20240717BHJP
B29C 44/58 20060101ALI20240717BHJP
B60R 13/08 20060101ALI20240717BHJP
C08G 18/00 20060101ALI20240717BHJP
G10K 11/162 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
B62D25/18 F
B29C39/24
B29C44/00 A
B29C44/36
B29C44/58
B60R13/08
C08G18/00 F
G10K11/162
(21)【出願番号】P 2021567634
(86)(22)【出願日】2020-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2020048525
(87)【国際公開番号】W WO2021132497
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-08-07
(31)【優先権主張番号】P 2019236123
(32)【優先日】2019-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020015170
(32)【優先日】2020-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 崇志
(72)【発明者】
【氏名】兒玉 孝太郎
(72)【発明者】
【氏名】藤原 幸宏
【審査官】山本 賢明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/077003(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/18
B60R 13/08
G10K 11/162
B29C 39/24
B29C 44/00
B29C 44/36
B29C 44/58
C08G 18/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のタイヤの外周に沿って湾曲状に配置される発泡体層を有するフェンダーライナーの製造方法であって、
成形型を構成する
下型と上型とを閉じることと、
閉じた前記成形型の内部空間に、前記成形型の注入口から樹脂組成物を注入することと、
前記成形型の前記内部空間で、前記樹脂組成物を発泡させることと、
前記発泡させた前記樹脂組成物を固化し、前記発泡体層を得ることと、
前記下型と前記上型とを開くことと、
前記下型と前記上型とを開いた前記成形型から前記発泡体層を取り出すことと、を有し、
前記発泡体層は、前記タイヤの外周に沿って湾曲状に配置される厚みの均一な第1発泡体層と、前記第1発泡体層の前記タイヤとは反対側の面の一部のみに形成される第2発泡体層とを有し、
前記成形型は前記下型と前記上型に分割され、前記上型は前記下型の上方に配置され、前記上型は複数の割型に分割され、
前記成形型の分割線は、前記
第1発泡体層の前記タイヤとは反対側の面に配置され、前記
第1発泡体層の前記タイヤとの対向面には配置されない、フェンダーライナーの製造方法。
【請求項2】
前記第2発泡体層は、前記第1発泡体層から前記タイヤとは反対側に向けて先細り状のテーパ面を含む、請求項
1に記載のフェンダーライナーの製造方法。
【請求項3】
前記第1発泡体層は、前記タイヤ側に向けて先細り状のテーパ面を含む、請求項
1又は
2に記載のフェンダーライナーの製造方法。
【請求項4】
前記成形型の前記内部空間にて、前記
第1発泡体層の前記タイヤとの対向面が下向きに配置され、
前記成形型の前記注入口は、前記成形型の前記内部空間の最上部に配置され、
前記最上部にて、前記第2発泡体層が成形される、請求項
1~
3のいずれか1項に記載のフェンダーライナーの製造方法。
【請求項5】
前記成形型の前記内部空間にて、前記
第1発泡体層の前記タイヤとの対向面が下向きに配置される、請求項1~
3のいずれか1項に記載のフェンダーライナーの製造方法。
【請求項6】
前記発泡体層は、ポリウレタン、ポリアクリル、メラミン、ゴム、ポリオレフィン、又はポリイミドの発泡体である、請求項1~
5のいずれか1項に記載のフェンダーライナーの製造方法。
【請求項7】
前記成形型の温度を50℃~70℃に調節することを有する、請求項1~
6のいずれか1項に記載のフェンダーライナーの製造方法。
【請求項8】
前記成形型の温度を調節することは、前記
第1発泡体層の前記タイヤとの対向面と、前記
第1発泡体層の前記タイヤとは反対側の面とで温度差を付けることを含む、請求項
7に記載のフェンダーライナーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フェンダーライナーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェンダーライナーは、車両のタイヤの外周に沿って湾曲状に配置され、車両の走行時に跳ね上げられた小石等の異物が車体に衝突するのを防止する。フェンダーライナーは、不織布などを含み、車両の走行音、及び異物の衝突音などを吸収する。フェンダーライナーの製造方法は、一般的には、シート状の繊維ウェブを熱プレス成形することを含む(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
音波が不織布の内部を伝播する際に、不織布の内部で空気が振動する。不織布の繊維と空気との間に摩擦が生じ、音波のエネルギーが熱のエネルギーに変換される。その結果、音が吸収される。
【0005】
従来のフェンダーライナーは不織布を含み、不織布は2次元的に配向された繊維を含む。それゆえ、繊維の振動特性が方向によって異なり、吸音率が低かった。
【0006】
本開示の一態様は、フェンダーライナーの吸音性を向上する、技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係るフェンダーライナーの製造方法は、成形型を構成する下型と上型とを閉じることと、閉じた前記成形型の内部空間に、前記成形型の注入口から樹脂組成物を注入することと、前記成形型の前記内部空間で、前記樹脂組成物を発泡させることと、前記発泡させた前記樹脂組成物を固化し、前記発泡体層を得ることと、前記下型と前記上型とを開くことと、前記下型と前記上型とを開いた前記成形型から前記発泡体層を取り出すことと、を有する。前記発泡体層は、前記タイヤの外周に沿って湾曲状に配置される厚みの均一な第1発泡体層と、前記第1発泡体層の前記タイヤとは反対側の面の一部のみに形成される第2発泡体層とを有する。前記成形型は前記下型と前記上型に分割され、前記上型は前記下型の上方に配置され、前記上型は複数の割型に分割される。前記成形型の分割線は、前記第1発泡体層の前記タイヤとは反対側の面に配置され、前記第1発泡体層の前記タイヤとの対向面には配置されない。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、フェンダーライナーの吸音性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るフェンダーライナーが搭載される車両の下部構造を示す図である。
【
図2】
図2は、一実施形態に係るフェンダーライナーの製造方法を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、
図3のIV-IV線に沿った成形型の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。なお、各図面において同一の又は対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略することがある。
【0011】
先ず、
図1を参照して、フェンダーライナー1について説明する。
図1において、白抜き矢印は車両の進行方向であり、左方が車両前方であり、右方が車両後方である。
【0012】
フェンダーライナー1は、車両のタイヤ2の外周に沿って湾曲状に配置される発泡体層11を含む。発泡体層11は、車両の走行時に跳ね上げられた小石等の異物が車体3に衝突するのを防止する。また、発泡体層11は、車両の走行音、及び異物の衝突音などを吸収する。
【0013】
発泡体層11は、後述するように
図3等に示す成形型5の内部空間56にて樹脂組成物を発泡させ、固化して得られる。発泡体層11は、3次元的な網状の骨格を有する。発泡体層11は、内部に多数の気泡を有する。多数の気泡は互いにつながっており、その内部を音波が伝播する。
【0014】
音波が発泡体層11の内部を伝播する際に、発泡体層11の内部で空気が振動する。発泡体層11の3次元的な網状の骨格と空気との間に摩擦が生じ、音波のエネルギーが熱のエネルギーに変換される。その結果、音が吸収される。車外の騒音レベル、及び車内の騒音レベルを低減できる。
【0015】
従来の不織布が2次元的に配向される繊維を含むのに対し、発泡体層11は3次元的に張り巡らされた網状の骨格を有する。それゆえ、発泡体層11は、不織布に比べて、吸音性を向上できる。また、発泡体層11は、3次元的に張り巡らされた網状の骨格を有し、連続的につながっているので、保形性を向上できる。
【0016】
発泡体層11は、成形型5の内部空間56と同一の形状及び同一の寸法に成形される。それゆえ、同一の形状及び同一の寸法を有する発泡体層11を大量生産できる。また、成形型5の内部空間56の形状及び寸法で、発泡体層11の形状及び寸法が決まるので、微細な構造も付与可能であり、また、切削又はプレスなどの後加工が不要である。
【0017】
発泡体層11は、例えばポリウレタンの発泡体である。ポリウレタンの発泡体は、いわゆるポリウレタンフォームであって、ポリイソシアネート、ポリオール、触媒、及び発泡剤を含む樹脂組成物を発泡させ、固化して得られる。発泡剤は、水を含む。なお、発泡剤は、塩素を含んでもよい。樹脂組成物の詳細は、後述する。
【0018】
なお、発泡体層11は、本実施形態ではポリウレタンの発泡体であるが、ポリアクリル、メラミン、ゴム、ポリオレフィン、又はポリイミドの発泡体であってもよい。ポリウレタンを含むこれらの材料は、軽量性、保形性に優れている。
【0019】
ところで、フェンダーライナー1は、タイヤハウス31の内部に配置される。タイヤハウス31とは、タイヤ2を収容する空間である。タイヤハウス31の内部には、不図示のサスペンション等の種々の部品が配置される。サスペンションは、タイヤ2のホイールと車体3をつなぎ、路面から車体3に伝達される衝撃及び振動を吸収する。
【0020】
発泡体層11は、タイヤ2及びサスペンション等との干渉を回避しつつ、厚みを厚くして吸音性を高めるべく、第1発泡体層111と第2発泡体層112とを含むことが好ましい。第2発泡体層112は、第1発泡体層111を基準としてタイヤ2とは反対側に配置される。第1発泡体層111と第2発泡体層112は、本実施形態では一体に成形されるが、別々に成形され、接合されてもよい。
【0021】
第1発泡体層111は、タイヤ2の外周に沿って湾曲状に配置される、厚みの均一なものである。従って、第1発泡体層111とタイヤ2との間に一定以上の間隙を形成でき、発泡体層11とタイヤ2の接触を防止でき、発泡体層11又はタイヤ2の破損を防止できる。第1発泡体層111は、ピン及びワッシャーなどで車体3に対して取り付けられる。
【0022】
第2発泡体層112は、第1発泡体層111のタイヤ2とは反対側の面111aの全体を覆うように形成されてもよいが、本実施形態では、111aの一部のみに形成される。以下、第1発泡体層111のタイヤ2とは反対側の面111aを、第1発泡体層111の外周面111aとも呼ぶ。また、第1発泡体層111のタイヤ2との対向面111bを、第1発泡体層111の内周面111bとも呼ぶ。
【0023】
上記の通り、第2発泡体層112は、第1発泡体層111のタイヤ2とは反対側の面111aの一部のみに形成される。第2発泡体層112は、例えばタイヤ2の周方向に間隔をおいて複数配置される。第2発泡体層112をサスペンション等と干渉しないように第1発泡体層111に部分的に重ねることで、発泡体層11の厚みを厚くでき、発泡体層11の吸音性を向上できる。
【0024】
発泡体層11の厚みは、軽量性と吸音性の両立の観点から、例えば3mm~25mm、好ましくは3mm~20mmである。第1発泡体層111の厚みは、例えば3mm~15mm、好ましくは3mm~10mmである。第2発泡体層112の厚みは、例えば10mm~15mmである。
【0025】
発泡体層11の密度は、軽量性と吸音性の両立の観点から、例えば20kg/m3~120kg/m3である。発泡体層11の密度は、いわゆる、かさ密度であって、JIS K7222:2005「発泡プラスチック及びゴム-見掛け密度の求め方-」に準拠して測定する。発泡体層11の密度は、好ましくは30kg/m3~100kg/m3、より好ましくは55kg/m3~90kg/m3である。
【0026】
発泡体層11の吸音率は、例えば0.4~1である。発泡体層11の吸音率は、厚み10mmの試験片を切り出し、1000Hzの音波を垂直に入射し、JIS A1405-2:2007「音響管による吸音率及びインピーダンスの測定」に準拠して測定する。発泡体層11の吸音率は、好ましくは0.5~1である。
【0027】
車両の走行音は、パターンノイズSを含む。パターンノイズSは、タイヤ2のトレッドパターン(溝)から発生する騒音であり、溝と路面の間に閉じ込められた空気が解放される際に生じる騒音である。パターンノイズSの周波数は、1000Hz又はその近傍である。パターンノイズSは、タイヤ2の下端2aよりも車両後方にて顕著である。
【0028】
そこで、少なくとも、タイヤ2の下端2aよりも車両後方には、第2発泡体層112が配置されることが好ましい。第2発泡体層112を第1発泡体層111に重ねることで、発泡体層11の厚みを厚くでき、パターンノイズSを効率的に吸収できる。
【0029】
ところで、駆動輪に装着されるタイヤ2には、受動輪に装着されるタイヤ2に比べて、高いトルクが作用し、大きなパターンノイズSが生じる。駆動輪は、エンジン又は電気モータ等の駆動源によって回転させられる車輪である。受動輪は、車両の走行時に受動的に回転する車輪である。
【0030】
そこで、駆動輪に装着されるタイヤ2の下端2aよりも車両後方には、第2発泡体層112が配置されることが好ましい。なお、全ての車輪が駆動輪であってもよい。
【0031】
駆動源の駆動力は、シャフトを介して駆動輪に伝達される。車体3には、シャフトを通すための開口部が設けられる。この開口部を介して、駆動源の騒音が車外に漏れうる。この開口部が、タイヤ2の下端2aよりも車両前方に配置されることがある。
【0032】
この場合、少なくとも、タイヤ2の下端2aよりも車両前方には、第2発泡体層112が配置されることが好ましい。第2発泡体層112を第1発泡体層111に重ねることで、発泡体層11の厚みを厚くでき、駆動源の騒音が車外に漏れるのを抑制できる。
【0033】
なお、
図1に示すように、第2発泡体層112は、タイヤ2の下端2aの真上に配置されてもよい。
【0034】
次に、
図2を参照して、フェンダーライナーの製造方法について説明する。フェンダーライナー1の製造方法は、例えば
図2のS101~S107を有する。
【0035】
先ず、S101では、成形型5を温調する。成形型5の温調は、その後の工程でも継続される。なお、温調(S101)は、注入(S103)の前に開始されればよい。注入(S103)の前に、成形型5の温度が安定すればよい。
【0036】
成形型5の温度は、50℃~70℃に調節される。成形型5の内部には、水などの温調媒体が流れる流路が形成される。なお、成形型5の内部には、電気ヒータなどが埋設されてもよい。
【0037】
成形型5の温度が50℃以上であれば、重合反応、及び発泡反応を進めることができる。また、成形型5の温度が70℃以下であれば、これらの反応速度を適度に抑制でき、成形型5の内部空間56の全体に樹脂が行き渡る前に固化が終了するのを抑制でき、不完全な充填が起きる現象、いわゆるショートの発生を抑制できる。
【0038】
なお、発泡体層11のタイヤ2との対向面11bと、発泡体層11のタイヤ2とは反対側の面11aとで温度差を付けてもよい。どちらの面11a、11bの温度が高くてもよい。温度差によって、樹脂組成物の重合反応、及び発泡反応を調整でき、2つの面11a、11bの表面特性を別々に調整できる。
【0039】
次に、S102では、
図3及び
図4に示すように、成形型5を構成する下型51と上型52を閉じる。具体的には、上型52を型開位置(
図6参照)から型閉位置(
図3参照)に移動することで、成形型5の型閉が行われる。
【0040】
成形型5は、下型51と上型52に分割される。上型52は、下型51の上方に配置される。上型52は、更に複数の割型53~55に分割される。なお、下型51及び上型52も、成形型5の割型である。これらの割型の境界線を、成形型5の分割線PLと呼ぶ。
【0041】
型閉の状態で、下型51と上型52の間に、内部空間56が形成される。内部空間56は、発泡体層11を成形する空間である。発泡体層11は、内部空間56と同一の形状及び同一の寸法に成形される。
【0042】
下型51は、固定型である。下型51は、上に凸の上面511を有し、その上面511に凹部512を有する。凹部512は、下型51の上面511から一定の深さで形成される。凹部512の内部で、第1発泡体層111が成形される。
【0043】
一方、上型52は、可動型である。上型52は、上に凸の下面521を有し、その下面521に凹部522を有する。凹部522は、上型52の下面521から一定の深さで形成される。凹部522の内部で、第2発泡体層112が成形される。
【0044】
なお、第2発泡体層112の数は、本実施形態では複数であるが、1つでもよい。つまり、凹部522の数は、本実施形態では複数であるが、1つでもよい。また、発泡体層11が第2発泡体層112を含まない場合、凹部522は無くてもよい。
【0045】
上型52は、上に凸のアーチ状であって、その周方向に3つの割型53~55に分割される。両端の割型53、55は、異なるヒンジH1、H2で下型51に対して連結される。一端の割型53は、ヒンジH1を中心に回転し、型閉位置(
図3参照)と型開位置(
図6参照)との間で回転する。また、他端の割型55は、ヒンジH2を中心に回転し、型閉位置(
図3参照)と型開位置(
図6参照)との間で回転する。
【0046】
中間の割型54は、両端の2つの割型53、55の一方(例えば割型53)に対してヒンジH3で連結される。中間の割型54は、ヒンジH3を中心に回転し、一端の割型53に対して型閉位置(
図3参照)と型開位置(
図6参照)との間で回転する。
【0047】
なお、本実施形態では、上型52は3つの割型53~55に分割されるが、2つの割型に分割されてもよいし、4つ以上の割型に分割されてもよい。上型52の分割数は、特に限定されない。
【0048】
上型52は、上記の通り、複数の割型53~55に分割される。複数の割型53~55を個別に移動でき、上型52の全体を一括で移動する場合に比べて、上型52の可動範囲を小さくできる。
【0049】
次に、S103では、S102で閉じた成形型5の内部空間56に、成形型5の注入口57から樹脂組成物を注入する。内部空間56は上に凸のアーチ状であって、その最上部の真上に注入口57が配置される。樹脂組成物は、注入口57から内部空間56に入り込むと、二股に分かれ、重力によって下方に流れ落ちる。注入後、注入口57には
図5に示すように栓58が挿入される。
【0050】
次に、S104では、成形型5の内部空間56で、樹脂組成物を発泡させる。樹脂組成物は、アーチ状の内部空間56の両方の下端部から中心の最上部に向けて膨らみ、内部空間56の全体に行き渡る。
【0051】
樹脂組成物の発泡時に、成形型5の内部空間56のガスは、成形型5の分割線PLを介して、成形型5の外部に押し出される。分割線PLの付近では、ガスが抜けるので、樹脂組成物が集まりやすく、気泡が成長し難く、気泡が潰れやすい。その結果、分割線PLの付近では、音波の入り込み難い、緻密な樹脂が生じてしまう。
【0052】
そこで、本実施形態の成形型5の分割線PLは、発泡体層11のタイヤ2とは反対側の面11aに配置され、発泡体層11のタイヤ2との対向面11bには配置されない。発泡体層11のタイヤ2との対向面11bは、分割線PLが配置されないので、発泡時に気泡が潰れにくい。従って、発泡体層11のタイヤ2との対向面11bは、音波を受け入れやすく、タイヤ2にて発生するパターンノイズS及びロードノイズを効率的に吸収できる。
【0053】
発泡体層11のタイヤ2との対向面11bは、第1発泡体層111の内周面111bである。一方、発泡体層11のタイヤ2とは反対側の面11aは、第1発泡体層111の外周面111aと、第2発泡体層112の外周面112aとを含む。
【0054】
成形型5の分割線PLは、例えば、
図5に示すように、第1発泡体層111の外周面111aに配置される。なお、成形型5の分割線PLは、第2発泡体層112の外周面112aに配置されてもよく、両方の外周面111a、112aに配置されてもよい。
【0055】
ところで、上記の通り、成形型5の分割線PLの付近では、ガスが抜けるので、樹脂組成物が集まりやすい。樹脂組成物がガスと共に分割線PLに侵入し、冷え固まると、いわゆるバリBが生じてしまう。
【0056】
本実施形態の成形型5の分割線PLは、発泡体層11のタイヤ2との対向面11bには配置されない。それゆえ、発泡体層11のタイヤ2との対向面11bは、バリBが生じない。従って、バリBとタイヤ2との干渉を防止できる。
【0057】
樹脂組成物は、上記の通り、アーチ状の内部空間56の両方の下端部から中心の最上部に向けて膨らむ。樹脂組成物が最後に集まる部位では、その他の部位に比べて、樹脂密度が低くなりやすく、音波の減衰定数(単位:Neper/m)が低くなる。
【0058】
そこで、アーチ状の内部空間56の最上部に、第2発泡体層112が配置される。第2発泡体層112を第1発泡体層111に重ねることで、発泡体層11の厚みを厚くでき、音波の減衰定数の低下を厚みで補うことができる。
【0059】
次に、S105では、
図5に示すように、発泡させた樹脂組成物を固化し、発泡体層11を得る。固化は、硬化を含む。発泡体層11は、成形型5の内部空間56と同一の形状及び同一の寸法に成形される。
【0060】
次に、S106では、
図6に示すように、下型51と上型52を開く。具体的には、上型52を型閉位置(
図3参照)から型開位置(
図6参照)に移動することで、成形型5の型開が行われる。
【0061】
本実施形態では、第2発泡体層112は、第1発泡体層111からタイヤ2とは反対側(タイヤ2の径方向外方)に向けて先細り状のテーパ面112cを含む。テーパ面112cは、タイヤ2の径方向に対して傾斜しており、上型52の下面521に対して傾斜している。テーパ面112cによって、第2発泡体層112を上型52から抜きやすく、離型時の破損を抑制できる。
【0062】
なお、第2発泡体層112が柔軟性に優れる場合、テーパ面112cは不要である。この場合、第2発泡体層112を変形しながら、離型を実施する。
【0063】
最後に、S107では、
図7に示すように、開いた成形型5から発泡体層11を取り出す。
【0064】
本実施形態では、第1発泡体層111は、タイヤ2側(タイヤ2の径方向内方)に向けて先細り状のテーパ面111cを含む。テーパ面111cは、タイヤ2の径方向に対して傾斜しており、下型51の上面511に対して傾斜している。テーパ面111cによって、第1発泡体層111を下型51から抜きやすく、離型時の破損を抑制できる。
【0065】
なお、第1発泡体層111が柔軟性に優れる場合、テーパ面111cは不要である。この場合、第1発泡体層111を変形しながら、離型を実施する。
【0066】
S107の後、S101以降の工程が再度実施されるか、S101以降の工程が再度実施されない場合には、成形型5の温調(S101)が停止される。
【0067】
本実施形態では、
図5に示すように、成形型5の内部空間56にて、発泡体層11のタイヤ2との対向面11bが下向きに配置される。樹脂は、重力によって下方に集まる。発泡体層11のタイヤ2との対向面11bは、下向きに配置されるので、その樹脂密度を向上でき、その吸音特性を向上できる。
【0068】
なお、本実施形態では、成形型5の内部空間56にて、発泡体層11のタイヤ2との対向面11bが下向きに配置されるが、
図9に示すように、上向きに配置されてもよい。つまり、成形型5を上下逆に配置してもよい。
図9において、51は上型であって、52は下型である。なお、注入口57は、上型51に配置される。
【0069】
成形型5の内部空間56にて、発泡体層11のタイヤ2との対向面11bが上向きに配置される場合、内部空間56は、
図8に示すように下に凸のアーチ状であって、その最下部の真上に注入口57が配置される。樹脂組成物は、注入口57から内部空間56に入り込むと、二股に分かれ、重力に逆らって内部空間56の全体に行き渡る。従って、樹脂組成物が注入口57から徐々に広がる。その結果、樹脂組成物の流動先端同士の合流を抑制でき、その合流によって生じる線(いわゆるウエルドライン)の発生を抑制できる。また、樹脂組成物が注入口57から徐々に広がるので、注入口57にて樹脂密度が高くなる。従って、フェンダーライナー1を車体3に取り付けた際に、フェンダーライナー1の最上部に、樹脂密度の高い部分を配置できる。
【0070】
次に、発泡体層11の原料である樹脂組成物について説明する。発泡体層11がポリウレタンフォームである場合、樹脂組成物は、ポリイソシアネート、ポリオール、触媒、及び発泡剤を含む。樹脂組成物は、更に添加剤を含んでもよい。樹脂組成物は、通常、ポリイソシアネート以外の原料を含むシステム液と、ポリイソシアネートとを混合して調製する。
【0071】
ポリイソシアネートとしては、トルエンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート(通称:クルードMDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)及びヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、これらのポリイソシアネートのプレポリマー変性体、イソシアヌレート変性体、ウレア変性体及びカルボジイミド変性体であるが、これらに限定されない。TDIは2,4-TDI及び2,6-TDIのいずれでもよく、混合物でもよい。MDIは2,2’-MDI、2,4’-MDI及び4,4’-MDIのいずれでもよく、これらのうち2種類又は3種類の混合物でもよい。
【0072】
ポリオールとしては、ポリオキシアルキレンポリオール、ポリエステルポリオール等を挙げることができる。
【0073】
発泡剤としては、水を用いることができるが、これに限定されない。水以外の発泡剤としては、低沸点の不活性化合物が好ましい。このような不活性化合物としては、例えば、不活性ガス、及び沸点が70℃以下で、炭素数が8以下の、炭素原子に結合する水素原子がハロゲン原子に置換されていてもよい飽和炭化水素が挙げられる。前記ハロゲン原子は、例えば、塩素原子又はフッ素原子である。飽和炭化水素の例は、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ジクロロメタン(塩化メチレン)、トリクロロエタン及び各種フロン化合物であるが、これらに限定されない。また、発泡剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0074】
触媒としては、アミン系触媒及びスズ系触媒からなる群から選択される少なくとも1種である。触媒は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。前記アミン系触媒の例は、トリエチレンジアミン、ビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテル、N,N,N’,N’-テトラメチルヘキサメチレンジアミン、N,N-ジメチルアミノエトキシエトキシエタノール、N,N-ジメチルアミノ-6-ヘキサノール、N,N-ジメチルアミノエトキシエタノール、N,N-ジメチルアミノエトキシエタノールに2モルのエチレンオキシドを付加した化合物、及び5-(N,N-ジメチル)アミノ-3-メチル-1-ペンタノールであるが、これらに限定されない。前記スズ系触媒の例は、2-エチルヘキサン酸スズ、ジ-n-ブチルスズオキシド、ジ-n-ブチルスズジラウレート、ジ-n-ブチルスズジアセテート、ジ-n-オクチルスズオキシド、ジ-n-オクチルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロリド、ジ-n-ブチルスズジアルキルメルカプタン及びジ-n-オクチルスズジアルキルメルカプタンであるが、これらに限定されない。
【0075】
添加剤として、整泡剤を含んでもよい。整泡剤の例として、シリコーン系整泡剤又は含フッ素化合物系整泡剤が挙げられるがこれらに限定されない。整泡剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0076】
添加剤として、架橋剤を含んでもよい。架橋剤としては、水酸基、1級アミノ基及び2級アミノ基から選ばれる活性水素含有基を2個以上有する化合物を選択することができる。架橋剤としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ビスフェノールA、エチレンジアミン、3,5-ジエチル-2,4-ジアミノトルエン、3,5-ジエチル-2,6-ジアミノトルエン、2-クロロ-p-フェニレンジアミン、3,5-ビス(メチルチオ)-2,4-ジアミノトルエン、3,5-ビス(メチルチオ)-2,6-ジアミノトルエン、1-トリフルオロメチル-3,5-ジアミノベンゼン、1-トリフルオロメチル-4-クロロ-3,5-ジアミノベンゼン、2,4-トルエンジアミン、2,6-トルエンジアミン、ビス(3,5-ジメチル-4-アミノフェニル)メタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、m-キシリレンジアミン、1,4-ジアミノヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン及びイソホロンジアミンであるが、これらに限定されない。また、架橋剤として、上述した分子量/水酸基数が500未満のポリオキシアルキレンポリオールも使用できる。架橋剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0077】
上記以外の添加剤としては、乳化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の老化防止剤、炭酸カルシウム又は硫酸バリウム等の充填剤、可塑剤、着色剤、難燃剤、抗カビ剤及び破泡剤等の公知の各種添加剤及び助剤が挙げられるが、これらに限定されず、従来ポリウレタンフォームに使用されている添加剤を使用できる。
【0078】
樹脂組成物の配合の一例を、以下に示す。システム液は、ポリオキシアルキレンポリオール(AGC社製、商品名:EXCENOL820)を60質量部、別のポリオキシアルキレンポリオール(AGC社製、商品名:EXCENOL923)を40質量部、発泡剤である水を3質量部、触媒(東ソー社製、商品名:TEDA L-33)を0.3質量部、整泡剤(Evonik社製、商品名:Tegostab B8737LF2)を3質量部と、架橋剤(AGC社製、商品名:EXCENOL555)を3質量部含む。これらの原料は、容器に入れ、高速ミキサーで混合する。樹脂組成物は、システム液を112質量部、ポリイソシアネート(TDIとMDIの混合物、東ソー社製、商品名:コロネート1021)を39.4質量部含む。システム液とポリイソシアネートは、容器に入れ、高速ミキサーで混合する。樹脂組成物の調整は、室温にて行う。
【0079】
以上、本開示に係るフェンダーライナーの製造方法の実施形態などについて説明したが、本開示は上記実施形態などに限定されない。特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更、修正、置換、付加、削除、及び組み合わせが可能である。それらについても当然に本開示の技術的範囲に属する。
【0080】
例えば、上記実施形態のフェンダーライナー1は、発泡体層11のみを含むが、発泡体層11に取り付けられる部品を更に含んでもよい。
【0081】
本出願は、2019年12月26日に日本国特許庁に出願した特願2019-236123号及び2020年1月31日に日本国特許庁に出願した特願2020-015170号に基づく優先権を主張するものであり、特願2019-236123号及び特願2020-015170号の全内容を本出願に援用する。
【符号の説明】
【0082】
1 フェンダーライナー
2 タイヤ
11 発泡体層
5 成形型
51 下型
52 上型
53~55 割型
56 内部空間
57 注入口