IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人名古屋大学の特許一覧 ▶ 田中貴金属工業株式会社の特許一覧

特許7521746AgAuTe化合物を主成分とする半導体ナノ粒子
<>
  • 特許-AgAuTe化合物を主成分とする半導体ナノ粒子 図1
  • 特許-AgAuTe化合物を主成分とする半導体ナノ粒子 図2
  • 特許-AgAuTe化合物を主成分とする半導体ナノ粒子 図3
  • 特許-AgAuTe化合物を主成分とする半導体ナノ粒子 図4
  • 特許-AgAuTe化合物を主成分とする半導体ナノ粒子 図5
  • 特許-AgAuTe化合物を主成分とする半導体ナノ粒子 図6
  • 特許-AgAuTe化合物を主成分とする半導体ナノ粒子 図7
  • 特許-AgAuTe化合物を主成分とする半導体ナノ粒子 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】AgAuTe化合物を主成分とする半導体ナノ粒子
(51)【国際特許分類】
   C01B 19/00 20060101AFI20240717BHJP
   B82Y 20/00 20110101ALI20240717BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20240717BHJP
【FI】
C01B19/00 Z
B82Y20/00
B82Y40/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023186490
(22)【出願日】2023-10-31
【審査請求日】2023-11-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000268
【氏名又は名称】オリジネイト弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】鳥本 司
(72)【発明者】
【氏名】宮前 千恵
(72)【発明者】
【氏名】吉川 篤史
(72)【発明者】
【氏名】亀山 達矢
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘規
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 優輔
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 太亮
(72)【発明者】
【氏名】金杉 崇史
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-540304(JP,A)
【文献】特表2023-514922(JP,A)
【文献】国際公開第2021/182412(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/181572(WO,A1)
【文献】特開2018-044142(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112536047(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 19/00-19/04
B82Y 20/00
B82Y 40/00
B82B 1/00
H01L 33/00-33/46
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
必須の構成元素としてAg、Au、Teからなる下記式で示されるAgAuTe化合物を含む半導体ナノ粒子であって、前記AgAuTe化合物を90原子%以上含む半導体ナノ粒子。
【化1】
(式中、x、y、zは、Ag、Au、Teの原子数であり、0.25≦z/(x+y)≦1である。また、0.3≦z/(x+y+z)≦0.4であり、0.10<y/(x+y+z)≦0.20である。)
【請求項2】
前記AgAuTe化合物中は、0.1≦x/(x+y+z)≦0.6である請求項1記載の半導体ナノ粒子。
【請求項3】
前記AgAuTe化合物を99原子%以上含む請求項1又は請求項2記載の半導体ナノ粒子。
【請求項4】
球形状又はキューブ形状を有し、平均粒径が2nm以上20nm以下である請求項1又は請求項2記載の半導体ナノ粒子。
【請求項5】
前記AgAuTe化合物は、
AuリッチなAgAuTe化合物からなるコア化合物と、
前記コア化合物の表面の少なくとも一部を被覆する、Ag及びTeリッチなAgAuTe化合物からなるシェル化合物と、からなる請求項1又は請求項2に記載の半導体ナノ粒子。
【請求項6】
保護剤として、アルキル鎖炭素数が4以上20以下のアルキルアミン、アルケニル鎖炭素数が4以上20以下のアルケニルアミン、アルキル鎖炭素数が3以上20以下のアルキルカルボン酸、アルケニル鎖炭素数が3以上20以下のアルケニルカルボン酸、アルキル鎖炭素数が4以上20以下のアルカンチオールの少なくともいずれかが、表面に結合された請求項1又は請求項2記載の半導体ナノ粒子。
【請求項7】
吸収スペクトルの長波長側吸収端波長が1200nm以上である請求項1又は請求項2記載の半導体ナノ粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、AgAuTe化合物を主成分として含む半導体ナノ粒子に関する。詳しくは、光半導体特性を有し、特に、長波長領域での光吸収特性が良好な半導体ナノ粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体は、ナノスケールの微小粒子とすることで量子閉じ込め効果を発現し、粒径に応じたバンドギャップを示す。そのため、半導体ナノ粒子の組成と粒径を制御してバンドギャップを調節することで、発光波長や吸収波長を任意に設定することができるようになる。この特性を利用した半導体ナノ粒子は、量子ドット(QD:Quantum Dot)とも称されており、様々な技術分野での活用が期待されている。半導体ナノ粒子の応用例としては、例えば、ディスプレイ装置や生体関連物質検出用マーカー物質等に利用される発光素子、蛍光物質への活用が検討されている。
【0003】
半導体ナノ粒子は、前記した粒径調整による発光波長が制御可能であることに加えて、その発光ピーク幅が有機色素に比べて十分に狭く安定的であるためである。更に、半導体ナノ粒子は、吸収波長の制御が可能であることに加えて、高い量子効率を有し、吸光係数が高いという特性も有する。こうした特性により半導体ナノ粒子は、太陽電池や各種の光センサ等に搭載される光電変換素子や受光素子への利用も検討されている。
【0004】
特に、半導体ナノ粒子は、近赤外線領域(NIR)や短波赤外線領域(SWIR)に対応する光センサの受光素子への応用が期待されている。これら長波長領域の光に対応できる光センサは、LIDAR(Light Detection and Ranging)やSWIRイメージセンサに搭載されている。LIDARは、自動車自動運転・ドローン・船舶等におけるリモートセンシングシステムであり、近年の自動運転技術の発展において重要なデバイスとなっている。最近では、LIDARは、スマートフォンやタブレット等における顔認証技術や拡張現実(AR)技術への応用もなされている。また、SWIRイメージセンサは、食品検査、農業分野、ドローン等の分野において、今後需要が高まることが予測されるデバイスである。
【0005】
上記のような光学デバイスのセンサの受光素子には、これまではSi薄膜の適用例が多かった。しかし、Si薄膜によるセンサは、900nm以上の長波長域で感度が大きく低下するので、上記のアプリケーションには適合し難い。そこで、半導体ナノ粒子を利用した受光素子の開発が期待されている。
【0006】
半導体ナノ粒子の構成に関しては、これまでいくつかの半導体化合物が検討されている。近赤外線領域(NIR)や短波赤外線領域(SWIR)の長波長領域に吸収波長を有する半導体化合物として、PbS、PbSe、CdHgTe、AgS、AgSe、AgTe、AgInSe、AgInTe、CuInSe、CuInTe、InAs等の金属カルコゲナイド化合物が知られている(特許文献1~4)。また、本願出願人も、AgAuS系化合物を主成分とする半導体化合物のナノ粒子を開示している(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-243507号公報
【文献】特開2004-352594号公報
【文献】特開2017-014476号公報
【文献】国際公開WO2020/054764号公報
【文献】特許第7269591号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記した半導体化合物は、所望の波長領域で光吸収特性を有するが、冒頭で述べたディスプレイ装置や生体関連物質検出用マーカー等の用途への適用を考慮すると、障害になる事由を有するものが多い。例えば、Pbは、欧州のRoHS指令(Restriction of the use of certain Hazardous Substances
in electrical and electronic equipment)により、環境負荷の観点から電気・電子機器への使用制限が規定されている。そのため、金属成分としてPbを含む化合物からなる半導体ナノ粒子は、電気・電子分野への広範な利用が期待し難い。また、生体関連分野への半導体ナノ粒子の利用を考慮すると、重金属であるCdやHg等を含む化合物の利用も難しい。
【0009】
また、上記した半導体化合物は、長波長領域での光応答性を有するが、より長波長側に吸収波長を有するものの要請が高まっている。最近の自動車の自動運転技術の発展は目覚ましく、ドライバーによる運転を前提としない自動運転レベル(レベル4、5)に対応する必要がある。この場合、LIDARには太陽光・自然光の影響を受け難いより長波長域での応答性が重要となる。そのため、量子ドット技術はいまだ研究段階にあるといえる。そして、実用性を考慮しながら、より長波長域で応答性を発揮できる半導体ナノ粒子が必要である。
【0010】
本発明は、以上のような背景の下になされたものであり、各種規制に対する実用性への配慮がなされると共に好適な光半導体特性を有する新規な半導体化合物からなる半導体ナノ粒子を提案する。特に、本発明は、長波長領域での光吸収特性がこれまでより改良され、近赤外線領域(NIR)及び短波赤外線領域(SWIR)で好適に対応し得る半導体ナノ粒子を提示する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するに際し、本発明者等は、本願出願人による先行技術(特許文献5)に関連するAgAuSの三元化合物に着目した。Ag及びAuは、環境負荷や毒性等の規制対応の観点から好適に利用できる金属であり、AgAuS化合物は、光半導体特性を発揮し得る半導体化合物である。もっとも、AgAuS化合物は、吸収波長がやや低波長側にあり、赤外線領域(NIR)及び短波赤外線領域(SWIR)での光応答性に課題を残す。この点、本願出願人の先行技術では、AgAuS化合物にIn等の金属を添加してAgAuS系の多元化合物とすることで吸収波長を長波長側にシフトさせている。
【0012】
本発明者等は、上記従来技術に対し、半導体化合物のカルコゲン元素としてS(硫黄)よりも質量の大きいカルコゲン元素であるTe(テルル)元素を適用することに想到した。これは、Sより質量が大きいカルコゲン元素を適用することで、化合物を形成したときに各金属元素とカルコゲン元素との間の軌道エネルギー差が縮小し、これによって光応答性が長波長側にシフトすると推定されるからである。そして、本発明者等は、Ag及びAuのカルコゲン化合物であるAgAuTe化合物のナノ粒子化とその光学特性について検討した。
【0013】
この本発明者等による検討によれば、AgAuTe化合物を主成分とするナノ粒子は、AgAuS化合物及びSeをカルコゲン元素とするAgAuSe化合物に対して、吸収波長が長波長領域にあることが確認されている。また、本発明者等が検討したAgAuTe化合物は、比較的に結晶性が高く安定したナノ粒子を形成することができる。但し、AgAuTe化合物においては、その組成、とりわけAuの含有量によってはナノ粒子としての分散性に影響を及ぼすことが確認されている。本発明者等は、これらの検討結果に基づき、好適組成のAgAuTe化合物からなる半導体ナノ粒子を見出し本発明に想到した。
【0014】
即ち、上記課題を解決する本発明は、必須の構成元素としてAg、Au、Teからなる下記式で示されるAgAuTe化合物を含む半導体ナノ粒子であって、前記AgAuTe化合物を90原子%以上含む半導体ナノ粒子である。
【0015】
【化1】
(式中、x、y、zは、Ag、Au、Teの原子数であり、0.25≦z/(x+y)≦1である。また、y/(x+y+z)>0.10である。)
【0016】
以下、本発明に係るAgAuTe化合物を主成分とする半導体ナノ粒子の構成とその製造方法について詳細に説明する。
【0017】
A.本発明に係る半導体ナノ粒子の構成
A-1.半導体ナノ粒子の化学組成
上記のとおり、本発明に係る半導体ナノ粒子は、AgAuTe化合物を主要成分(90質量%以上)とする。従って、Ag及びAuは、AgAuTe化合物を構成する金属元素(遷移金属元素)として必須元素である。そして、Teは、本発明の必須且つ特徴的なカルコゲン元素である。上述のとおりTeは、S、Se等のカルコゲン元素の中で質量の大きい元素である。Teを適用することで、近赤外線領域(NIR)及び短波赤外線領域(SWIR)の双方において有効な応答性を発揮する。
【0018】
本発明に係る半導体ナノ粒子を構成するAgAuTe化合物は、Ag、Au、Teの原子数を、それぞれx、y、zとしたときにAgAuTeで表すことができる。AgAuTe化合物の組成に関し、化合物中のAuの原子数割合であるy/(x+y+z)の値は、y/(x+y+z)>0.10である。即ち、本発明のAgAuTe化合物のAu含有量は、10原子%超であり、10原子%以下のAu含有量のAgAuTe化合物は本発明から除外される。Au含有量10原子%以下が除外される要因について、その詳細は明らかではないが、本発明者等の検討によれば、Au含有量が低いAgAuTe化合物のナノ粒子は、凝集し易く分散性に劣ることが確認されている。Auの原子数割合であるy/(x+y+z)は、0.11以上が好ましく、0.12以上がより好ましい。
【0019】
尚、Auの原子数割合y/(x+y+z)の上限については、0.35以下が好ましく、0.20以下がより好ましい。かかる範囲で結晶性が良好で安定なAgAuTe化合物となるからである。
【0020】
また、Teは、Ag及びAuに対する電荷補償がなされるようにAgAuTe化合物に含有されている。このとき、AgAuTe化合物中のTeの原子数zについては、0.25≦z/(x+y)≦1を満たす。Teの原子数zは、0.3≦z/(x+y+z)≦0.7であるものがより好ましく、0.3≦z/(x+y+z)≦0.5が更に好ましく、0.3≦z/(x+y+z)≦0.4が特に好ましい。
【0021】
本発明のAgAuTe化合物におけるAgの割合は、上記のAu及びTeの割合の残部となる。Agの原子数割合であるx/(x+y+z)の値は、0.3以上0.6以下であることが好ましい。
【0022】
尚、以上で説明したAgAuTe化合物の組成とは、半導体ナノ粒子中のAgAuTe化合物の全体の組成である。本発明に適用されるAgAuTe化合物は、単一相で構成されていても、複数相から構成されていても良い。AgAuTe化合物(AgAuTe)がとり得る具体的な化学組成は、Ag、Au、Teの価数によっていくつか挙げられ、AgAuTe(x=3、y=1、z=2)やAgAuTe(x=1、y=1、z=2)等の量論組成の化合物が合成できる。本発明の半導体ナノ粒子中のAgAuTe化合物は、これら量論組成の化合物が単相又は複数相の状態で構成される。また、上記のような量論組成にない化合物を含んでいても良い。半導体ナノ粒子中のAgAuTe化合物全体において、x、y、zが上記範囲内にあれば良い。もっとも、本発明に係る半導体ナノ粒子を構成するAgAuTe化合物は、結晶性が高く、前記した量論組成にある化合物を含むことが多い。
【0023】
本発明に係る半導体ナノ粒子は、AgAuTe化合物を主成分とし、90原子%以上のAgAuTe化合物で構成される。半導体ナノ粒子は、AgAuTe化合物のみからなっていても良い。半導体ナノ粒子は、AgAuTe化合物を95原子%以上含むものがより好ましい。本発明に係る半導体ナノ粒子は、AgAuTe化合物(Ag、Au、Te)以外の元素を含むことがある。例えば、AgAuTe化合物を合成する際の溶媒の構成元素や、原料となるAg、Au、Teのそれぞれの前駆物質に含まれる元素が半導体ナノ粒子に含まれることがある。必須構成元素であるAg、Au、Te以外に含まれる可能性のある元素としては、C、P、S、Se、Cl、Br、I等が挙げられ、これらの元素の半導体ナノ粒子中の含有量は、10質量%未満であれば許容される。尚、ここで示した化合物及び元素の組成値は、半導体ナノ粒子に関する値であって、後述する保護剤及びその構成元素の含有量は含まれない。
【0024】
A-2.本発明に係る半導体ナノ粒子の構造
上記したように、本発明に適用されるAgAuTe化合物は、単一相又は複数相で構成される。複数相からなる半導体ナノ粒子の態様として、いわゆるコアシェル構造をとることができる。コアシェル構造の例としては、Ag、Au、Teを含むAgAuTe化合物がコア(コア化合物)と、コア化合物とは組成が異なる化合物若しくはAg、Au、Teのいずれかを含まない化合物がシェル(シェル化合物)とからなり、シェル化合物がコア化合物の表面の少なくとも一部を被覆する構造である。具体的な例として、AuリッチなAgAuTe化合物からなるコア化合物と、このコア化合物の表面の少なくとも一部を被覆するAg及びTeリッチなAgAuTe化合物からなるシェル化合物とからなる半導体ナノ粒子が考えられる。尚、Auリッチとは化合物中のAuの組成比が50原子%以上であることを意味し、Ag及びTeリッチとは、化合物中のAg及びTeの組成比の合計が50原子%以上であることを意味する。また、半導体ナノ粒子は、上記したコアシェル構造のような複数相の規則的な組み合わせでなくとも、組成の異なる複数相がランダムに分布しする構造になっていても良い。
【0025】
本発明に係る半導体ナノ粒子の形状は、球形状の他、キューブ形状やロッド形状であっても良い。球形状、キューブ形状の半導体ナノ粒子は、平均粒径が2nm以上20nm以下であるものが好ましい。半導体ナノ粒子の粒径は、量子閉じ込め効果によるバンドギャップの調整作用と関連する。バンドギャップの調整による好適な光吸収特性を発揮する上では、前記の平均粒径とするのが好ましい。半導体ナノ粒子の平均粒径は、複数(100個以上が好ましい)の半導体ナノ粒子をTEM等の電子顕微鏡により観察し、各粒子の粒径等を測定して粒子数平均を算出することで得ることができる。尚、粒径とは、長径(長軸)と短径(短軸)との平均値として測定きる。
【0026】
また、本発明に係る半導体ナノ粒子の組成及び構造の解析においては、走査透過型電子顕微鏡(Scanning TEM)が好適に使用できる。特に、高角度散乱環状暗視野走査透過顕微鏡(High Angle Annular Dark Field Scanning TEM:HAADF-STEM)によれば、ナノ粒子の組成情報を反映した散乱像を得ることができ、エネルギー分散型X線分光装置(EDX)等との組み合わせにより、Ag、Au、Teの分布状態やナノ粒子全体の組成を把握することができる。
【0027】
A-3.本発明に係る半導体ナノ粒子の光半導体特性
これまで述べたとおり、半導体ナノ粒子は、粒径に応じて量子閉じ込め効果によってバンドギャップが調整され、光吸収特性が変化する。本発明に係る半導体ナノ粒子においては、吸収スペクトルの長波長側の吸収端波長が1200nm以上であるものが好ましい。これにより、半導体ナノ粒子は、可視光領域から近赤外領域の光に対する吸収性・応答性を有する。本発明は、より好ましい態様として、吸収スペクトルの長波長側の吸収端波長が1300nm以上の半導体ナノ粒子とすることができる。
【0028】
A-4.本発明に係る半導体ナノ粒子の利用態様
本発明に係る半導体ナノ粒子を適宜の基材・担体に塗布・担持することで、上述した光センサ素子等の各種用途に応用することができる。この基材や担体の構成や形状・寸法には特に制限はない。板状又は箔・フィルム上の基材として、例えば、ガラス、石英、シリコン、セラミックスもしくは金属等が例示される。また、粒状・粉末状の担体として、ZnO、TiO、WO、SnO、In、Al等の無機酸化物が例示される。また、半導体ナノ粒子を前記無機酸化物担体に担持し、更に、基材に固定しても良い。
【0029】
また、半導体ナノ粒子を基材・担体に塗布・担持する際には、上述したように、半導体ナノ粒子を適宜の分散媒に分散させた溶液・スラリー・インクが使用されることが多い。この溶液等の分散媒としては、クロロホルム、トルエン、シクロヘキサン、ヘキサン等が適用できる。そして、半導体ナノ粒子の溶液等の塗布方法としては、ディッピング、スピンコート法、また担持の方法としては、滴下法、含浸法、吸着法等の各種方法が適用できる。
【0030】
尚、本発明に係る半導体ナノ粒子は、その合成過程や上記のように分散媒に分散させたときの凝集を抑制するため保護剤を含んでいることが好ましい。この保護剤としては、アルキル鎖炭素数が4以上20以下のアルキルアミン、アルケニル鎖炭素数が4以上20以下のアルケニルアミン、アルキル鎖炭素数が3以上20以下のアルキルカルボン酸、アルケニル鎖炭素数が3以上20以下のアルケニルカルボン酸、アルキル鎖炭素数が4以上20以下のアルカンチオールの少なくともいずれかが好ましい。これらの保護剤は、半導体ナノ粒子の表面に結合して少なくとも一部を被覆し、分散液で半導体ナノ粒子の凝集を抑制して均一な溶液等とする。また、半導体ナノ粒子の合成工程で反応系に原料と共に保護剤を添加することで、好適な平均粒径のナノ粒子が合成される。尚、保護剤は、前記のアルキルアミン、アルケニルアミン、アルキルカルボン酸、アルケニルカルボン酸、アルカンチオールを単独又は複数組み合わせて適用することができる。
【0031】
B.本発明に係る半導体ナノ粒子の製造方法
次に、本発明に係る半導体ナノ粒子の製造方法について説明する。
これまで述べたとおり、本発明は、AgTeにAuがドープされたAgAuTe化合物を主成分とする半導体ナノ粒子である。この着想に基づく場合、本発明に係る半導体ナノ粒子(AgAuTe)は、AgTeのナノ粒子にAuを添加することで製造することができると考えられる。しかし、本発明で適用されるAgAuTe化合物は、Auを10原子%超えて含有すること(y/(x+y+z)>0.10)を要する。本発明者等の検討によれば、AgTeナノ粒子にAuを添加する方法では、前記のAu含有量の条件をクリアした化合物を合成することが困難である。
【0032】
本発明者等は、Au含有量が適正化されたAgAuTe化合物の合成は、Ag、Au、Teのそれぞれの構成元素の化合物を前駆体(Ag前駆体、Au前駆体、Te前駆体)とし、それらを同一の反応系に導入して同時に加熱して反応させることが必要であることを見出している。以下、このAgAuTe化合物の合成法を適用する半導体ナノ粒子の製造方法について説明する。
【0033】
B-1.原料(Ag前駆体、Au前駆体、Te前駆体)
原料となるAg前駆体、Au前駆体、Te前駆体としては、それぞれ、Ag塩又はAg錯体と、Au塩又はAu錯体が適用される。Ag前駆体及びAu前駆体は、1価のAg、1価のAuを含む塩又は錯体が好ましい。
【0034】
Ag前駆体としては、Ag塩又はAg錯体が適用される。Ag前駆体は1価のAgを含む塩又は錯体が好ましい。Ag前駆体の好適な具体例としては、酢酸銀(Ag(OAc))、硝酸銀、炭酸銀、酸化銀、シュウ酸銀、塩化銀、ヨウ化銀、シアン化銀(I)塩、ジエチルジチオカルバミン酸銀等が挙げられる。
【0035】
Au前駆体としては、Au塩又はAu錯体が適用される。Au前駆体は1価のAgを含む塩又は錯体が好ましい。但し、Au前駆体については、3価のAuを含む塩又は錯体を用いることもできる。半導体ナノ粒子の合成過程で、溶媒や共存するTe前駆体等により3価Auが還元されて1価のAuとなるからである。Au前駆体の好適な具体例としては、クロロ(ジメチルスルフィド)金(I)((CHSAuCl)、Auレジネート(C1018Au:CAS68990-27-2)、ヨウ化金(I)、亜硫酸金(I)塩、塩化金酸(III)、酢酸金(III)、シアン化金(I)塩、シアン化金(III)塩、1,10-フェナントロリン金(III)等が挙げられる。
【0036】
Te前駆体となるTe化合物としては、酸化テルル(TeO)、テルル酸(Te(OH))、亜テルル酸ナトリウム(NaTeO)等のTe化合物が適用できる。
【0037】
B-2.AgAuTe化合物の反応系の形成
AgAuTe化合物の合成に際しては、上記したAg前駆体、Au前駆体、Te前駆体を混合し、一つの反応系を形成してから反応させる。このとき、別々に用意したAg前駆体、Au前駆体、Te前駆体を順次混合しても良い。このとき、混合の順序については特に限定されない。また、AgAuTe化合物の金属成分となるAg前駆体とAu前駆体との混合物を金属源前駆体として調整し、金属源前駆体とTe前駆体とを混合して反応系を形成しても良い。
【0038】
合成されるAgAuTe化合物(AgAuTe)の各元素の原子数割合(x、y、z)は、Ag前駆体及びAu前駆体の仕込み量の比により調整可能である。好適なAgAuTe化合物を得るための各前駆体の仕込み量の比は、Ag前駆体中のAg原子の原子数をa、Au前駆体中のAu原子の原子数をbとしたとき、それらの比率(a/b:以下、Ag仕込み比と称するときがある)を1.0以上6.0以下となるように設定することが好ましく、2.0以上5.0以下とするのがより好ましい。
【0039】
尚、反応系中のTe前駆体の仕込み量は、上記したAg、Auの仕込み量に対して比較的広範に設定できる。Te前駆体については、余剰のTeが反応系にあったとしてもAgAuTe化合物の組成への影響は少ないからである。
【0040】
また、上記したように、本発明の半導体ナノ粒子は、AgAuTe化合物に保護剤が結合していることが好ましい。そのため、上記した反応系には、Ag前駆体、Au前駆体等と共に保護剤を添加することが好ましい。保護剤として、アルキル鎖炭素数が4以上20以下のアルキルアミン、アルケニル鎖炭素数が4以上20以下のアルケニルアミン、アルキル鎖炭素数が3以上20以下のアルキルカルボン酸、アルケニル鎖炭素数が3以上20以下のアルケニルカルボン酸、アルキル鎖炭素数が4以上20以下のアルカンチオールの少なくともいずれかを添加することが好ましい。
【0041】
半導体ナノ粒子の合成における反応系は、無溶媒でナノ粒子を生成することも可能であるが、溶媒を使用することが好ましい。溶媒を使用する場合は、オクタデセン、テトラデカン、オレイン酸、オレイルアミン、ドデカンチオール、あるいはこれらの混合物等が適用できる。
【0042】
B-3.AgAuTe化合物の合成条件
Ag前駆体、Au前駆体、Te前駆体、及び保護剤で構成される反応系を加熱することでAgAuTe化合物ナノ粒子が合成される。このときの加熱温度(反応温度)は、40℃以上200℃以下とする。40℃未満では合成反応が進行し難い。一方、200℃を超えると、Auが単独でナノ粒子を形成し所望の組成の化合物が生成されないおそれがある等の問題がある。半導体ナノ粒子の平均粒径は、反応温度の上昇と共に増大するが、前記温度範囲内であれば好適な平均粒径を超えることは少ない。より好適な反応温度は、50℃以上100℃以下である。
【0043】
また、反応時間(加熱時間)は、原料の仕込み量によって調整可能であるが、5分以上120分以下とするのが好ましい。反応時間は、より好ましくは、10分以上とし、更に好ましくは15分以上とする。尚、半導体ナノ粒子の合成反応中は、反応系を攪拌することが好ましい。
【0044】
半導体ナノ粒子の合成反応の終了後は、必要に応じて反応系を冷却し、半導体ナノ粒子を回収する。このとき、非溶媒となるアルコール(エタノール、メタノール等)を添加してナノ粒子を沈殿させる、あるいは、遠心分離等により半導体ナノ粒子を沈殿させて回収し、更にアルコール(エタノール、メタノール等)等で一旦粒子を洗浄したのち、クロロホルムなどの良溶媒中に均一に分散させても良い。
【発明の効果】
【0045】
以上説明したように、本発明は、AgAuTe化合物を主要構成とする新規な半導体ナノ粒子である。本発明に係る半導体ナノ粒子は、好適な光半導体特性を有し、使用規制等を考慮した実用性も有する。本発明に係る半導体ナノ粒子の光応答特性は、近赤外線領域(NIR)及び短波赤外線領域(SWIR)の長波長領域に対応可能となっている
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】第1実施形態で合成した実施例1(AgAuTe)、参考例1(AgAuS)、参考例2(AgAuSe)の各半導体ナノ粒子のTEM像。
図2】第1実施形態で合成した実施例1(AgAuTe)、参考例1(AgAuS)、参考例2(AgAuSe)の各半導体ナノ粒子の吸収スペクトルの測定結果。
図3】第2実施形態でAg仕込み比を調整して合成したAgAuTe半導体ナノ粒子のTEM像。
図4】第2実施形態でAg仕込み比を調整して合成したAgAuTe半導体ナノ粒子のXRD回折パターン。
図5】第2実施形態でAg仕込み比を調整して合成したAgAuTe半導体ナノ粒子の吸収スペクトルの測定結果。
図6】第3実施形態で反応温度を調整して合成したAgAuTe半導体ナノ粒子のTEM像。
図7】第3実施形態で反応温度を調整して合成したAgAuTe半導体ナノ粒子のXRD回折パターン。
図8】第3実施形態で反応温度を調整して合成したAgAuTe半導体ナノ粒子の吸収スペクトルの測定結果。
【発明を実施するための形態】
【0047】
第1実施形態:以下、本発明の実施形態について説明する。本実施形態では、AgAuTe化合物からなる半導体ナノ粒子を合成し、その外観、結晶構造を確認した。そして、吸収スペクトル測定を行って吸収波長を確認した。このとき、AgAuTe化合物(実施例1)に対する比較として、AgAuS化合物(参考例1)及びAgAuSe化合物(参考例2)の半導体ナノ粒子を合成し、それらの吸収波長との対比を行った。
【0048】
実施例1:本実施形態におけるAgAuTe化合物ナノ粒子の合成は、金属成分となるAg前駆体とAu前駆体との混合物を金属源前駆体として予め調整し、その後、金属源前駆体とTe前駆体とを混合・反応して半導体ナノ粒子を合成した。
【0049】
Ag前駆体として酢酸銀(Ag(OAc))0.3mmolと、Au前駆体としてクロロ(ジメチルスルフィド)金(AuS(CHCl)0.1mmolのメタノール溶液とを溶媒であるオレイルアミン(OLA)3.0mLに溶解・混合した。そして、減圧してメタノールを除去して金属源前駆体の溶液を調整した(Ag仕込み比=3)。一方で、酸化テルル(TeO)0.2mmolを溶媒・保護剤である1-ドデカンチオール(DDT)0.5mLに溶解し、窒素雰囲気下で100℃、5分加熱してTe前駆体の溶液を調整した。
【0050】
上記Te前駆体溶液に、上記金属源前駆体溶液をシリンジで注入し、反応温度を100℃として15分間加熱しながら撹拌した。反応終了後、10分間放冷した後、5分間4000rpmで遠心分離を行い上澄み液と沈殿とを分離した。そして、上澄み液に貧溶媒としてエタノールを4cm加えて沈殿を生じさせ、5分間4000rpmで遠心分離を行い、沈殿を回収してAgAuTe化合物ナノ粒子を得た。
【0051】
以上の操作で得られたAgAuTe化合物ナノ粒子をクロロホルム3cmに分散させてAgAuSeInの半導体ナノ粒子の分散液を得た。この分散液をサンプル瓶に移し替えて窒素置換を行った後、遮光して冷蔵保管した。
【0052】
参考例1:Ag、Auと化合物を形成するカルコゲン元素としてSを適用するAgAuS化合物のナノ粒子を以下の様にして合成した。
【0053】
Ag前駆体として酢酸銀0.3mmolと、Au前駆体としてクロロ(ジメチルスルフィド)金(I)0.1mmolと、S前駆体としてチオ尿素0.2mmolを試験管に入れ、溶媒であるオレイルアミン2.9mL、保護剤である1-ドデカンチオール0.1mLを加えた。
【0054】
そして、上記と同様にして窒素置換した後、ホットスターラーにより反応温度を150℃として10分間加熱しながら撹拌した。反応終了後、30分間放冷した後、5分間4000rpmで遠心分離を行い上澄み液と沈殿とを分離した。更に、遠心分離・精製をしてAgAuS化合物のナノ粒子の分散液を得た。
【0055】
参考例2:Ag、Auと化合物を形成するカルコゲン元素としてSeを適用するAgAuSe化合物のナノ粒子を以下の様にして合成した。
【0056】
Ag前駆体として酢酸銀(Ag(OAc))0.075mmol、Au前駆体としてクロロ(ジメチルスルフィド)金(I)0.025mmol、Se前駆体としてセレノウレア0.20mmolを試験管に入れた。ここに溶媒としてオレイルアミン(OLA)2.9mLと、保護剤として1-ドデカンチオール(DDT)0.1mLを加えた。
【0057】
以上の原料及び溶媒を入れた試験管に撹拌子を入れ、3回窒素置換した後、ホットスターラーにより反応温度を50℃として10分間加熱しながら撹拌した。反応終了後、20分間放冷した後に小試験管に移し替えて、5分間4000rpmで遠心分離を行い上澄み液と沈殿とを分離した。
【0058】
その後、上澄み液に貧溶媒としてメタノールを4cm加えて沈殿を生じさせ、5分間4000rpmで遠心分離を行い、沈殿を回収した。この沈殿に更にエタノールを4cm加えて分散させた後、同条件で遠心分離を行い、副生成物や溶媒を除去してAgAuSe化合物のナノ粒子を精製した。更に、遠心分離・精製をしてAgAuS化合物のナノ粒子の分散液を得た。
【0059】
[TEM観察及び平均粒径の測定]
実施例1(AgAuTe)と参考例1(AgAuS)と参考例2(AgAuSe)の各半導体ナノ粒子について、TEM観察を行った。図1に、製造した各半導体ナノ粒子のTEM像を示す(倍率は、各写真のスケールバーを参照)。それぞれのTEM像から、略球形のナノ粒子が合成されたことが確認された。そして、TEM像に基づいて、各組成のナノ粒子の平均粒径を測定算出した。粒径測定においては、TEM像に含まれている計測可能なナノ粒子を全てについて粒径を求め、平均粒径を算出した。
【0060】
[半導体ナノ粒子の組成分析]
上記のTEM観察と共にEDX分析を行い、ナノ粒子の組成分析を行った。各半導体ナノ粒子の組成の測定結果を表1に示す。組成分析の結果は、本実施形態及び以下の各実施形態において、ナノ粒子全体に対する原子%で表示する。そして、組成分析結果に基づき算出されるAg原子数(x)、Au原子数(y)、カルコゲン元素(Te、S、Se)の原子数(z)との合計に対するAu原子数の比(y/(x+y+z))を表1に併せて示す。
【0061】
【表1】
【0062】
[吸収スペクトル測定]
次に、実施例1(AgAuTe)と参考例1(AgAuSe)と参考例2(AgAuS)の各半導体ナノ粒子について吸収スペクトルを測定した。吸収スペクトルは、紫外可視分光光度計(アジレント・テクノロジー株式会社製、Agilent 8453製)を用いて、波長範囲を400nm~1600nmとして測定した。本実施形態で製造した各半導体ナノ粒子の吸収スペクトルの測定結果を図2に示す。
【0063】
図2を参照すると、カルコゲン元素がTeを適用する実施例1(AgAuTe)の半導体ナノ粒子は、カルコゲン元素がS、Seである参考例1(AgAuS)、参考例1(AgAuSe)の半導体ナノ粒子に対して、吸収端波長が長波長側にあることがわかる。各半導体ナノ粒子の吸収端波長は、実施例1(AgAuTe)で1400nm、参考例1(AgAuS)で750nm、参考例2(AgAuSe)で950nmであった。カルコゲン元素として質量の大きいTeを適用するAgAuTe半導体ナノ粒子は、長波長領域にて好適な光応答特性を有することが確認された。
【0064】
第2実施形態:本実施形態では、Ag、Auの仕込み比を調整して各種組成のAgAuTe半導体ナノ粒子を合成した。また、本実施形態では、Au前駆体として塩化金酸(HAuCl)を適用して金属源前駆体を調製した。このとき、金属源前駆体の総量を一定にし、その中におけるAg仕込み比(Ag/Au:(a/b))を0.33,1.0,3.0,4.7,7.0とし、Teの含有量(Te前駆体の仕込みモル数)を一定(0.2mmol)にしてAgAuTe半導体ナノ粒子を合成した。半導体ナノ粒子の合成条件は、前記Au前駆体とAg仕込み比以外は、第1実施形態と同様とした。
【0065】
そして、第1実施形態と同様にTEM観察及びEDX分析した。本実施形態で合成したAgAuTe半導体ナノ粒子のTEM分析像を図3に示す。また、表2にEDX分析による組成分析の結果を示す。
【0066】
【表2】
【0067】
本実施形態では、基本的にいずれの仕込み比でも固体粒子の合成は確認できる。但し、図3をみると、Ag仕込み比7.0のナノ粒子は、極めて凝集性が高く、独立した粒子の状態を維持するのが困難であった。このナノ粒子は、Auの原子数割合(y/(x+y+z))が0.07と0.1以下であった。また、Ag仕込み比を7.0、4.7、3.0、1.0としたナノ粒子は、Ag仕込み比が小さい程、Auの原子数比率(y/(x+y+z))が増大する傾向にある。
【0068】
一方でAg仕込み比が0.33のナノ粒子は、Auを殆ど含んでおらず実質的にAgTe化合物の状態にある。Auの仕込み量が多いナノ粒子でAuが含まれていないことの理由は明確ではないが、本発明者等は、以下のように考察している。即ち、原料となるAuイオン(3価)は合成時、系中の有機成分と反応し還元されたAu粒子(0価)を一部生成する。このAu粒子は合成反応後の遠心分離によって、目的物であるAgAuTeと分離除去される。Agイオンが多数存在していれば、AgAuTeの粒子生成にAuイオンが消費されるが、Agイオンの濃度が低いとAuの還元反応が先行してしまう。反応溶液中に0価のAu粒子が多数生成してしまうと、Au粒子の自己触媒反応により逐次的にAuイオンの還元が進行し、結果としてAuAgTe粒子形成に使われるAuが減少したためにAuを含まないナノ粒子が形成されたと考察している。
【0069】
[AgAuTeナノ粒子の結晶性の確認]
次に、本実施形態で合成したAgAuTeナノ粒子について、XRD分析を行い結晶性を確認した。XRD分析装置は、株式会社リガク製Smart-Lab-3Kで、特性X線をCuKα線とし、分析条件として1°/min.とした。本実施形態のAgAuTeナノ粒子のうち、Ag仕込み比を7.0、4.7、3.0、1.0として製造したサンプルのXRD回折パターンを図4に示す。
【0070】
図4から、本実施形態で合成したAgAuTeナノ粒子のうち、Ag仕込み比が7.0、4.7、3.0であるサンプルの回折パターンは、AgAuTeのプロファイルと良好に一致している。これらAgAuTeナノ粒子の回折ピークはシャープで半価幅も狭く、特に、Ag仕込み比が4.7、3.0のものは特に良好な結晶性を示していた。この結果から、好適なAgAuTeナノ粒子は、Auの原子数割合(y/(x+y+z))を0.1超とすることが必要であると考えられる。
【0071】
また、Ag仕込み比が1.0のサンプルについては、明確なピークが得られなかった。これは、このサンプルのAgAuTeナノ粒子は、数nm以下のサイズの結晶子から成る粒子若しくはアモルファス状の粒子であるためと考えられる。
【0072】
[吸収スペクトル測定]
そして、本実施形態で合成したAgAuTeナノ粒子について吸収スペクトルを測定した。吸収スペクトルの測定方法は、第1実施形態と同様である。この測定結果を図5に示す。また、この測定結果から算出される吸収端波長の値を表3に示す。
【0073】
【表3】
【0074】
図5及び表3を参照すると、Ag仕込み比が7.0、4.7、3.0であるサンプルが特に吸収端波長が大きい。Ag仕込み比が0.33のナノ粒子も1000nm以上の長波長側に応答性を有するものの、Ag仕込み比が7.0、4.7、3.0のナノ粒子よりは吸収端波長は小さくなっている。このナノ粒子は、Auを含まないものである。そして、上記したTEM観察結果と併せて考えると、分散性が良好で単独粒子の状態を維持可能であって長波長領域における応答性が良好なAgAuTe半導体ナノ粒子は、Ag仕込み比が4.7(Au原子数割合0.107)、3.0(Au原子数割合0.156)としたものである。これらのAgAuTe半導体ナノ粒子は、近赤外線領域(NIR)及び短波赤外線領域(SWIR)の双方において特に有効な応答性を発揮すると予測される。
【0075】
第3実施形態:本実施形態では、金属源前駆体とTe前駆体とを混合して反応系を形成後の加熱温度(反応温度)を変化させてAgAuTeナノ粒子を合成した。第2実施形態と同じのAg前駆体とAu前駆体を使用して金属源前駆体(Ag仕込み比3.0)を調製し、Te前駆体(Te0.2mmol)と混合して反応系を形成した。そして、加熱温度を50℃、70℃として反応させて半導体ナノ粒子を合成した。反応温度以外の操作は、第2実施形態と同様とした。
【0076】
図6は、実施形態で合成したAgAuTeナノ粒子のTEM像である。図6には、第2実施形態で合成したAgAuTeナノ粒子(Ag仕込み比3.0、反応温度100℃)のTEM像を併せて記載した。反応温度が50℃のサンプルは、コントラストの弱い微小粒子である。反応温度が70℃、100℃と高温とすることで粒子のコントラストは明瞭になる。TEM観察を同時に行ったEDX分析による組成分析の結果を表4に示す)。
【0077】
【表4】
【0078】
表4から、本実施形態で合成したAgAuTeナノ粒子の組成に大きな違いはないことが分かる。反応温度は、AgAuTeナノ粒子の組成には大きな影響を及ぼすことはないと考えられる。
【0079】
図7は、本実施形態で合成したAgAuTeナノ粒子のXRD回折パターンである。XRD分析の条件は、第2実施形態と同様とである。また、図7には、第2実施形態で合成したAgAuTeナノ粒子(Ag仕込み比3.0、反応温度100℃)の回折パターンも記載している。いずれのサンプルもAgAuTeと同定できる回折パターンを示している。但し、反応温度が50℃のサンプルは、ピークがブロードであり、反応温度が100℃のサンプルに対して結晶性が低いことがわかる。上記のTEM観察結果を考慮すると、反応温度を高温とすることで結晶性が高くなることが確認された。
【0080】
そして、図8は、本実施形態で合成したAgAuTeナノ粒子の吸収スペクトルの測定結果を示す。図8からわかるように、本実施形態で合成したAgAuTeナノ粒子においては、吸収スペクトルの差は少なく、いずれにおいても吸収端波長は1400nm近傍にあった。上記組成分析の結果から、反応温度によるAgAuTeナノ粒子の組成に差は少ない。吸収特性においても、反応温度による差は少ないといえる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
以上説明したように、本発明に係るAgAuTe化合物よりなる半導体ナノ粒子は、良好な光半導体特性を発揮し得る。また、このAgAuTe化合物は、使用規制への対応や重金属の使用回避についても考慮されている。本発明に係る半導体ナノ粒子は、ディスプレイ装置や生体関連物質検出用マーカー物質等に利用される発光素子、蛍光物質や、太陽電池や光センサ等に搭載される光電変換素子や受光素子への応用が期待される。特に、本発明は、近赤外線領域(NIR)や短波赤外線領域(SWIR)の長波長領域における光吸収特性の向上が図られている。このことから、本発明は、上記した光素子の中でも近赤外領域での応答性が重視されるLIDAR、SWIRイメージセンサに適用される受光素子に特に有用である。
【要約】      (修正有)
【課題】長波長領域での光吸収特性が改良され、近赤外線領域及び短波赤外線領域で好適に対応し得る半導体ナノ粒子を提供する。
【解決手段】本発明は、必須の構成元素としてAg、Au、TeからなるAgAuTe化合物を含む半導体ナノ粒子に関する。半導体ナノ粒子を構成する前記AgAuTe化合物は、下記式で示される。本発明に係る半導体ナノ粒子は、このAgAuTe化合物前記を90原子%以上含む。そして、本発明に係る半導体ナノ粒子は、吸収スペクトルの長波長側の吸収端波長が1200nm以上である。

(式中、x、y、zは、Ag、Au、Teの原子数であり、0.25≦z/(x+y)≦1である。また、y/(x+y+z)>0.10である。)
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8