(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】前立腺癌の治療薬のスクリーニング又は評価方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/02 20060101AFI20240717BHJP
C12Q 1/6897 20180101ALI20240717BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20240717BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20240717BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20240717BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240717BHJP
【FI】
C12Q1/02
C12Q1/6897 Z ZNA
G01N33/15 Z
G01N33/50 Z
G01N33/50 P
G01N33/68
C12N15/12
(21)【出願番号】P 2020549475
(86)(22)【出願日】2019-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2019038348
(87)【国際公開番号】W WO2020067499
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-07-22
(31)【優先権主張番号】P 2018185339
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】二村 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】川村 憲彦
(72)【発明者】
【氏名】金田 安史
(72)【発明者】
【氏名】三木 克哉
(72)【発明者】
【氏名】寺居 和宏
(72)【発明者】
【氏名】山下 邦彦
【審査官】松村 真里
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第03214444(EP,A1)
【文献】国際公開第2008/153091(WO,A1)
【文献】国際公開第2002/029099(WO,A1)
【文献】特開2005-080524(JP,A)
【文献】国際公開第2017/091706(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0130241(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0344965(US,A1)
【文献】Genbank Database[online],Accession Number NM_006842.2,インターネット:<URL: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/55749530?sat=46&satkey=168586025>,2018年09月15日,[検索日 2019.11.20]
【文献】CAO, H. et al,Medicine,2019年07月,Vol.98(30),e16534,pp.1-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00- 3/00
C12N 15/00-15/90
G01N 33/00-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SF3B2遺伝子を発現する細胞に候補化合物を添加する工程、該候補化合物が添加された細胞においてSF3B2遺伝子の発現量を測定する工程を含む、去勢抵抗性前立腺癌治療薬のスクリーニング又は評価方法。
【請求項2】
コントロールと比較して、SF3B2遺伝子の発現量を低下させる化合物を去勢抵抗性前立腺癌治療薬の候補として選択又は評価する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
SF3B2遺伝子が、
(i)配列番号1の塩基配列を有するDNA
;又は
(ii)配列番号1に記載する塩基配列の相補配列を有するDNA
に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA
であって、前記配列番号1の塩基配列の相補配列と特異的に結合でき、且つ前記配列番号1の塩基配列と90%以上の同一性を有するDNA
で表される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記SF3B2遺伝子の発現量が、前記SF3B2遺伝子のプロモーターに連結されたレポーター遺伝子の発現量を測定することによって測定される、請求項1~3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
SF3B2遺伝子を発現する細胞に候補化合物を添加する工程、該候補化合物が添加された細胞においてAR-V7遺伝子の発現量を測定する工程を含む、前立腺癌治療薬のスクリーニング又は評価方法。
【請求項6】
コントロールと比較して、AR-V7遺伝子の発現量を低下させる化合物を前立腺癌治療薬の候補として選択又は評価する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
SF3B2遺伝子が、
(i)配列番号1の塩基配列を有するDNA
;又は
(ii)配列番号1に記載する塩基配列の相補配列を有するDNA
に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA
であって、前記配列番号1の塩基配列の相補配列と特異的に結合でき、且つ前記配列番号1の塩基配列と90%以上の同一性を有するDNA
で表される、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記AR-V7遺伝子の発現量が、前記AR-V7遺伝子のプロモーターに連結されたレポーター遺伝子の発現量を測定することによって測定される、請求項5~7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
SF3B2タンパク質およびSF3B2以外のSF3bタンパク質複合体形成分子を含むアッセイ系に候補化合物を添加する工程、SF3bタンパク質の複合体形成を阻害させる化合物を去勢抵抗性前立腺癌治療薬の候補として選択する工程を含む、去勢抵抗性前立腺癌治療薬のスクリーニング又は評価方法。
【請求項10】
請求項1~4の何れか一項に記載の方法に使用するための、SF3B2遺伝子の発現量を測定する試薬を含む、去勢抵抗性前立腺癌治療薬のスクリーニング又は評価用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前立腺癌の治療薬のスクリーニング又は評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
前立腺は、外腺(辺縁領域)及び内腺(中心領域及び移行領域)に分かれており、前立腺癌は主として外腺(辺縁領域)において発生する癌である。前立腺癌は、日本及び米国において、男性の部位別罹患者数の上位を占める癌であり、いまなお多数の患者が存在する。日本においては、前立腺癌罹患者数は8万人を超し、そのうちの約1万2千人が死亡すると予測されている(国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」、2017年のがん統計予測)。
【0003】
前立腺癌の治療は、外科的治療、放射線治療、化学療法、内分泌療法(ホルモン療法)等がある。これらのうち内分泌療法は、前立腺癌の進行を促進する役割のあるアンドロゲンの分泌を抑制したり、アンドロゲンの機能を阻害したりすることにより、前立腺癌の進行を抑制する治療法である。
しかしながら、内分泌療法の問題点として、長期間の治療によって、内分泌療法で用いられる薬剤に対して抵抗性を有するようになり、内分泌療法による治療効果が低減することがある。このように内分泌療法に対しての抵抗性を有するようになった結果、再び前立腺癌の症状が悪化した前立腺癌を去勢抵抗性前立腺癌という。
【0004】
去勢抵抗性前立腺癌メカニズムには、アンドロゲン受容体(AR)が関与していることが知られている(非特許文献1)。さらに、ARバリアントの1つであるAR-V7が、リガンド非依存性に、転写因子として活性化状態にあることによって、去勢状態でも前立腺癌の増殖を促すことができることが知られている(非特許文献2、3)。
【0005】
ここで、完全長のAR遺伝子(AR-FL)は、8つのエクソンを有する構造である。一方で、そのバリアントであるAR-V7は、エクソン1~3及び潜在性エクソンであるCE3しか有さず、リガンド結合部位を有さない構造であるため、リガンド非依存性に転写因子として活性を有することができるのである。すなわち、AR-V7の発現量を低下させることが去勢抵抗性前立腺癌の治療につながると考えられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Nat. Rev. Urol. 2013;10(2);90-98
【文献】Cancer Res. 2008;68(13);5469-5477
【文献】Cancer Res. 2009;69(6);2305-2313
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑み、前立腺癌の治療薬のスクリーニング及び評価方法を提供する事を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前述の課題を解決すべく鋭意検討した結果、SF3B2(splicing factor 3B subunit 2)遺伝子の発現を指標に用いた前立腺癌の治療薬のスクリーニング及び評価方法に関する発明を完成させた。
【0009】
具体的には、AR-V7の発現を指標にすることで、去勢抵抗性前立腺癌細胞での投与化合物のAR-V7スプライシング阻害効果を測定できた。このAR-V7スプライシング阻害効果が高い薬剤は、去勢抵抗性前立腺癌のマウスモデルに対し著効した。そこでAR-V7を蛍光タンパク質でモニターできる細胞を開発した。
去勢抵抗性前立腺癌細胞のアンドロゲンレセプター(AR)のバリアントの1つであるV7をコードする、潜在性エクソンであるCE(Cryptic exon)3領域に存在するAR-V7の終止コドンの直前にGFPを導入することで、AR-V7の発現をフローサイトメトリでモニターできる細胞を開発した。
この細胞にPladienolide BやSpliceostatin Aを添加するとAR-V7のスプライシングが抑制され、GFPの発現が低下した。この細胞を用いることで、去勢抵抗性前立腺癌細胞のスプライシングを抑制し、かつ細胞毒性を同時に計測できる。
また、SF3B2の発現を抑制することで、AR-V7スプライシングを抑制できることから、SF3B2の発現を蛍光タンパク質で間接的にモニターできる細胞を開発した。
さらに、SF3B2タンパク質およびSF3B2以外のSF3bタンパク質複合体形成分子を含むアッセイ系に対し、Pladienolide Bを投与することで、SF3bタンパク質複合体形成が阻害されることを見出した。この系を利用することで、SF3bタンパク質複合体形成を阻害を指標として前立腺癌治療薬の候補化合物をスクリーニングすることができる。
【0010】
SF3B2の発現を増加させると、AR-V7スプライシングが亢進し、また、腫瘍が増悪化する。逆にSF3B2の発現を低下させると、AR-V7スプライシングが減弱する。このことから、この細胞を用いて、SF3B2の発現を制御する化合物をスクリーニングし、かつ細胞毒性を同時に計測できる。
また、GFPの代わりにルシフェラーゼ遺伝子を導入することで発光によって、よりハイスループットなスクリーニング系を構築することが可能である。
以上のような知見に基づき、発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]SF3B2遺伝子を発現する細胞に候補化合物を添加する工程、該候補化合物が添加された細胞においてSF3B2遺伝子の発現量を測定する工程を含む、前立腺癌治療薬のスクリーニング又は評価方法。
[2]コントロールと比較して、SF3B2遺伝子の発現量を低下させる化合物を前立腺癌治療薬の候補として選択又は評価する、[1]に記載の方法。
[3]SF3B2遺伝子が、配列番号1の塩基配列を有するDNA又は配列番号1に記載する塩基配列の相補配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAで表される、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]前記SF3B2遺伝子の発現量が、前記SF3B2遺伝子のプロモーターに連結されたレポーター遺伝子の発現量を測定することによって測定される、[1]~[3]の何れか一項に記載の方法。
[5]SF3B2遺伝子を発現する細胞に候補化合物を添加する工程、該候補化合物が添加された細胞においてAR-V7遺伝子の発現量を測定する工程を含む、前立腺癌治療薬のスクリーニング又は評価方法。
[6]コントロールと比較して、AR-V7遺伝子の発現量を低下させる化合物を前立腺癌治療薬の候補として選択又は評価する、[5]に記載の方法。
[7]SF3B2遺伝子が、配列番号1の塩基配列を有するDNA又は配列番号1に記載する塩基配列の相補配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズす
るDNAで表される、[5]又は[6]に記載の方法。
[8]前記AR-V7遺伝子の発現量が、前記AR-V7遺伝子のプロモーターに連結されたレポーター遺伝子の発現量を測定することによって測定される、[5]~[7]の何れか一項に記載の方法。
[9]SF3B2タンパク質およびSF3B2以外のSF3bタンパク質複合体形成分子を含むアッセイ系に候補化合物を添加する工程、SF3bタンパク質の複合体形成を阻害させる化合物を前立腺癌治療薬の候補として選択する工程を含む、前立腺癌治療薬のスクリーニング又は評価方法。
[10]SF3B2遺伝子の発現量を測定し得る試薬を含む、前立腺癌治療薬のスクリーニング又は評価用キット。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、SF3B2遺伝子を用いた前立腺癌の治療薬のスクリーニング及び評価することが可能となる。
癌の異常なスプライシング制御に介入し、かつ細胞毒性が少ない化合物をスクリーニングすることが可能になる。スプライシング制御を標的とした化合物は抗癌剤として開発できる可能性が高いが、このような化合物をスクリーニングできる系はほとんどない。本発明は癌のスプライシング制御に介入する化合物をスクリーニングすることを可能にする。スプライシング制御によって癌が増悪化することを発明者らは見出していることから、スプライシングを抑制するような化合物は、既存の治療法に抵抗性を示す癌に対し、著効する可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】AR-V7-GFP遺伝子を作製するための遺伝子編集の模式図である。
【
図2】AR-V7-GFP遺伝子を導入したCWR22Rv1細胞における、レポータータンパク質(GFP)の発現を確認したウェスタンブロット図である(図面代用写真)。
【
図3】SF3B2遺伝子の機能をCRISPR/Cas9によって抑制することにより、AR-V7タンパクの発現レベルの変化を測定したフローサイトメトリ図である。
【
図4】in vivoにおいて、SF3B2遺伝子を強制発現させた前立腺癌細胞、又はSF3B2遺伝子を強制発現させ且つAR-V7遺伝子をノックアウトした前立腺癌細胞をマウスの皮下に接種し、腫瘍増殖の変化を確認した図である。(A)においては前立腺癌細胞CWR22Rv1(22Rv1)を用いており、(B)においては前立腺癌細胞LNCaP95を用いた。
【
図5】(A)は、SF3B2複合体の精製及びPladienolide B(PLA-B)処置の模式図を表す。(B)は、SF3B2-TAPを安定的に発現した22Rv1細胞の核抽出物又は細胞質抽出物において、SF3B2タンパク質の発現を確認したウェスタンブロット図である(図面代用写真)。(C)は、上図は20mM PLA-B処置の有無に基づく精製SF3B2複合体の銀染色の結果図である(図面代用写真)。図の左にマススペクトロメトリーにて同定したタンパク質について記載した。下図は内部標準としての、SF3B2のウェスタンブロット図である(図面代用写真)。
【
図6】(A)は、Pladienolide B処置を行ったAR-V7-GFP細胞における、AR-V7-GFP陰性群のフローサイトメトリ―分析を行った図である。(B)は、Pladienolide B処置を行ったAR-V7-GFP細胞における、AR-V7-GFPのフローサイトメトリ―分析を行った図である。(C)は、in vivoにおいて、Pladienolide B(PLA-B)を使用した場合の、AR-V7発現量を確認した図である。
【
図7】前立腺癌におけるPladienolide Bの治療効果について表す。(A)はin vivoにおいて、安定的にSF3B2を過剰発現させた前立腺癌細胞(LNCaP95)を有する去勢マウスにおける、PLA-B又はビヒクル(DMSO)を投与することによる腫瘍増殖の変化を確認した図である。(B)は、in vivoにおいて、安定的にSF3B2又はGFPを過剰発現させた前立腺癌細胞(LNCaP95)を有する去勢マウスにおける、PLA-Bを投与することによる腫瘍増殖の変化を確認した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
SF3B2遺伝子の発現量はAR-V7の発現量と正の相関を示し、AR-V7の発現量は前立腺癌の発症と関与していることがわかっていることより、SF3B2遺伝子の発現を低下させる活性を指標にして薬剤をスクリーニング又は評価することにより前立腺癌の治療薬となりうる物質を得ることができる。
【0015】
前立腺癌は、例えばグリソンスコアにより癌の悪性度を判断することや、TNM分類により癌の進行度を判断することによって、病期分類される。グリソンスコアの場合は、病理画像を用いて癌細胞の組織構造を顕微鏡観察して癌の悪性度を判断することで分類することができる。また、TNM分類の場合は、転移(リンパ節転移、遠隔転移)の有無及び程度によって病期分類される。本発明における前立腺癌は、これらの指標に基づき判断されたいずれの病期分類をも包含するものである。
ここで、TNM分類とは、悪性腫瘍の病期分類に用いられる指標の1つであり、T因子(原発腫瘍の大きさと浸潤度の程度)、N因子(リンパ節転移の有無及び程度)、及びM因子(遠隔転移の有無及び程度)の3つの因子を評価することによる分類である。
また本発明において、前立腺癌は去勢抵抗性前立腺癌を包含する。去勢抵抗性前立腺癌とは、前立腺癌の内分泌療法によって一度は抑制されていた前立腺癌による症状が、長期間にわたる内分泌療法によって、内分泌療法薬に対して抵抗性を有するようになった結果、病態が再び悪化するようになった前立腺癌のことである。
【0016】
本発明の一つの実施形態において、前立腺癌とは、好ましくは去勢抵抗性前立腺癌である。
【0017】
SF3B2はAR-V7の正のスプライシング制御因子である。すなわち、SF3B2は、AR-V7のスプライシングにおいて、SF3B2が結合したエクソンを残しつつ、SF3B2が結合したイントロンを除去することで、スプライシングの制御を行う。
SF3B2遺伝子は、配列番号1に記載する塩基配列を有する遺伝子が例示される。また、SF3B2遺伝子には、AR-V7の発現を亢進させる機能を有するSF3B2タンパク質をコードする限り、配列番号1に記載する塩基配列の相補配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAが含まれる。ここで、ストリンジェントな条件としては、例えば、0.1×SDS、0.1×SSC、68℃の条件で洗浄する条件が挙げられる。SF3B2は、AR-FLのpre-mRNA配列に比べてAR-V7のpre-mRNA配列に、より結合しやすく、さらにAR-V7の潜在性エクソンであるCE3領域に直接結合するタンパク質である。
【0018】
SF3B2遺伝子の発現量を測定するとは、特に限定されることはないが、例えばmRNA又はタンパク質の発現量を測定することである。
SF3B2遺伝子の発現量は、例えばRT-PCR法、定量PCR法、マイクロアレイ法、ノーザンブロット法で調べることができる。またSF3B2遺伝子産物であるSF3B2タンパク質の発現量は、例えばウェスタンブロット、ELISAなどで調べることができる。
SF3B2遺伝子のコード領域の塩基配列としては、配列番号1の配列が例示され、この配列等を利用して遺伝子発現解析用のプライマーやプローブ等を設計又は取得することができる。前記塩基配列は、配列番号1の塩基配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上の同一性を有するものであってよい。また、前記プライマーやプローブ等は、前記塩基配列と特異的に結合できる限り、前記塩基配列の相補配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上の同一性を有するものであってよい。
また、抗体は市販の抗体を用いることもできるし、配列番号2で表されるSF3B2タンパク質のアミノ酸配列の一部を抗原として作製した抗体を用いることもできる。前記アミノ酸配列は、AR-V7の発現を亢進させる機能を有するSF3B2タンパク質である限り、配列番号2のアミノ酸配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上の同一性を有するものであってよい。また、前記抗体等は、前記アミノ酸配列と特異的に結合できる限り、前記アミノ酸配列の相補配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上の同一性を有するものであってよい。
【0019】
本発明のスクリーニング又は評価方法としては、SF3B2遺伝子を発現する細胞に候補化合物を添加する工程、及び該候補化合物が添加された細胞においてSF3B2遺伝子の発現量を測定する工程を含む、前立腺癌治療薬のスクリーニング又は評価方法が挙げられる。
例えば、候補化合物の存在下において、SF3B2遺伝子の発現量が、候補化合物の添加を行っていないコントロールと比べて、例えば20%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは90%以上低下する場合に、当該候補化合物を前立腺癌の治療薬の候補として選択することができる。
【0020】
細胞としては、SF3B2遺伝子を発現する細胞を含む生体試料、SF3B2遺伝子を発現する培養細胞株、又はSF3B2遺伝子を強制発現した培養細胞株の何れを用いてもよいがSF3B2遺伝子を強制発現した培養細胞株を用いることが好ましい。
生体試料とは、例えば被検対象又は健常対象から採取した、前立腺の細胞又は組織、前立腺周辺の細胞又は組織、その他前立腺癌の転移が考えられ得るあらゆる部位の細胞又は組織等が含まれる。また、生体試料とは、前立腺癌細胞が含まれ得る血液、リンパ液等の体液であってもよい。
SF3B2遺伝子を発現する培養細胞株とは、SF3B2遺伝子を発現する細胞株であれば特に限定されることはないが、例えば前立腺癌細胞由来の細胞株等が挙げられる。
SF3B2遺伝子を強制発現した培養細胞株とは、例えば、SF3B2遺伝子を哺乳類細胞に遺伝子を導入するためのプラスミドやウイルスベクターなどに組み込み、リポフェクション等の通常の方法にて細胞にトランスフェクションした培養細胞株等が挙げられる。トランスフェクションは一過的でも安定的でもよい。
【0021】
本発明のスクリーニング又は評価方法の他の態様としては、例えば、SF3B2遺伝子のプロモーターに連結されたレポーター遺伝子を発現する細胞に候補化合物を添加する工程、及び該候補化合物が添加された細胞においてレポーター遺伝子の発現量を測定する工程を含む、前立腺癌治療薬のスクリーニング又は評価方法が挙げられる。
例えば、候補化合物の存在下において、SF3B2遺伝子のプロモーターに連結されたレポーター遺伝子の発現量が、候補化合物の添加を行っていないコントロールと比べて、例えば20%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは90%以上低下する場合に、当該候補化合物を前立腺癌の治療薬の候補として選択することができる。
【0022】
SF3B2遺伝子のプロモーターに連結されたレポーター遺伝子を用いる場合、SF3B2遺伝子のプロモーターとしては、転写開始点の上流約1kbpを含む領域が好ましく、上流約2kbpを含む領域がより好ましい。
レポーター遺伝子としては、ルシフェラーゼ遺伝子、GFP遺伝子、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子等を使用する事ができ、好ましくはルシフェラーゼ遺伝子又はGFP遺伝子を使用する事ができる。
【0023】
細胞としては、例えばこれらのレポーター遺伝子をSF3B2遺伝子のプロモーターに連結し、これを哺乳類細胞に遺伝子を導入するためのプラスミドやウイルスベクターなどに組み込み、既知の方法であるリポフェクション等の通常の方法によって細胞にトランスフェクションした、レポーター遺伝子を強制発現した培養細胞株を使用する事ができる。トランスフェクションは一過的でも安定的でもよい。
【0024】
本発明の他の実施形態として、細胞は、AR-V7遺伝子を発現する生体試料、AR-V7遺伝子を発現する培養細胞株、又はAR-V7遺伝子を強制発現した培養細胞株の何れかを用い、SF3B2遺伝子、またはSF3B2遺伝子プロモーターに連結したレポーター遺伝子の発現を解析してもよい。
生体試料とは、AR-V7遺伝子を発現する細胞を含む生体試料であれば特に限定されることはないが、例えば被検対象又は健常対象から採取した、前立腺の細胞又は組織、前立腺周辺の細胞又は組織、その他前立腺癌の転移が考えられ得るあらゆる部位の細胞又は組織等が含まれる。また、生体試料とは、前立腺癌細胞が含まれ得る血液、リンパ液等の体液であってもよい。
AR-V7遺伝子を発現する培養細胞株とは、AR-V7遺伝子を発現する細胞株であれば特に限定されることはないが、例えば前立腺癌細胞由来の細胞株等が挙げられる。
AR-V7遺伝子を強制発現した培養細胞株とは、例えば、AR-V7遺伝子を哺乳類細胞に遺伝子を導入するためのプラスミドやウイルスベクターなどに組み込み、リポフェクション等の通常の方法にて細胞にトランスフェクションした培養細胞株等が挙げられる。
【0025】
本発明のスクリーニング又は評価方法の他の態様としては、SF3B2遺伝子を発現する細胞、好ましくはSF3B2遺伝子を強制発現させた細胞に候補化合物を添加する工程、及び該候補化合物が添加された細胞においてAR-V7遺伝子の発現量またはAR-V7遺伝子プロモーターに連結されたレポーター遺伝子の発現量を測定する工程を含む、前立腺癌治療薬のスクリーニング又は評価方法が挙げられる。
例えば、SF3B2遺伝子を発現する細胞に候補化合物を添加し、一定期間培養したのちに、AR-V7遺伝子またはレポーター遺伝子の発現量を測定し、これらの発現量が、候補化合物の添加を行っていないコントロールと比べて、例えば20%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは90%以上低下する場合に、当該候補化合物を前立腺癌の治療薬の候補として選択することができる。
【0026】
AR-V7遺伝子のプロモーターに連結されたレポーター遺伝子を用いる場合、AR-V7遺伝子のプロモーターとしては、転写開始点の上流約1kbpを含む領域が好ましく、上流約2kbpを含む領域がより好ましい。
レポーター遺伝子としては、ルシフェラーゼ遺伝子、GFP遺伝子、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子等を使用する事ができ、好ましくはルシフェラーゼ遺伝子又はGFP遺伝子を使用する事ができる。
【0027】
細胞としては、例えばこれらのレポーター遺伝子をAR-V7遺伝子のプロモーターに連結し、これを哺乳類細胞に遺伝子を導入するためのプラスミドやウイルスベクターなどに組み込み、既知の方法であるリポフェクション等の通常の方法によって細胞にトランスフェクションした、レポーター遺伝子を強制発現した培養細胞株を使用する事ができる。
【0028】
本発明において、候補化合物とは、高分子化合物又は低分子化合物の何れでもよく、特に限定されることはないが、高分子化合物としてはタンパク質、抗体、ペプチド、非ペプチド性化合物、核酸、又はRNA等が挙げられる。これらの化合物は新規な化合物であってもよいし、公知の化合物であってもよく、これらの化合物を含む、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液等でもよい。
候補化合物の中から、候補化合物非添加時と比較して、SF3B2遺伝子及び/又はAR-V7遺伝子の発現量を低下させる化合物を選択することで、前立腺癌の治療薬となり得る物質を得ることができる。
【0029】
候補化合物の濃度添加濃度は、SF3B2遺伝子及び/又はAR-V7遺伝子の発現量を低下することが確認できる濃度であれば特に限定されることはない。また、添加方法、反応時間、反応温度等は、用いる被検体に従って適宜選択することができる。
【0030】
本発明において、スクリーニングで得られた物質は、SF3B2遺伝子及び/又はAR-V7遺伝子の発現低下能を有する物質であると評価することができる。また、該物質は、前立腺癌のモデル動物等を用いて治療効果を評価することができる。
【0031】
本発明のスクリーニング又は評価方法の他の態様としては、SF3B2タンパク質およびSF3B2以外のSF3bタンパク質複合体形成分子を含むアッセイ系に候補化合物を添加する工程、SF3bタンパク質の複合体形成を阻害させる化合物を前立腺癌治療薬の候補として選択する工程を含む、前立腺癌治療薬のスクリーニング又は評価方法が挙げられる。
SF3bタンパク質の複合体は、本願実施例4および
図5に示されるように、SF3B1、SF3B2、SF3B3、SF3B4、SF3A1及びSF3A3を含む。SF3bタンパク質複合体は、MOLECULAR AND CELLULAR BIOLOGY, Oct. 1999, Vol. 19, No. 10, p.6796-6802にも記載されている。
SF3bタンパク質の複合体形成を阻害するとは、SF3B2が、SF3B1、SF3B3、SF3B4、SF3A1及びSF3A3の1種類以上と複合体形成することを阻害すること、好ましくはSF3B2タンパク質がSF3B1、SF3B3、SF3B4、SF3A1及びSF3A3の全てと複合体形成することを阻害することである。
例えば、SF3B2タンパク質およびSF3B2以外のSF3bタンパク質複合体形成分子を含むアッセイ系に候補化合物を添加し、一定期間インキュベートした後、SF3B2に対する抗体で免疫沈降した時に、SF3B2と共沈するSF3B3、SF3B4、SF3A1及びSF3A3の1種類以上の量を指標として評価することができる。ある化合物を用いてインキュベートしたときに、SF3B2と共沈するSF3B3、SF3B4、SF3A1及びSF3A3の1種類以上の量が、コントロールと比較して減少したときに、その化合物は前立腺癌治療薬の候補化合物として選択することが可能である。
なお、本発明において、複合体形成を阻害するとは、既に複合体形成したタンパク質同士を解離すること、及び/又はタンパク質同士が会合して新たに複合体形成を阻害することを指す。
アッセイ系はインビトロ系でもよいし、細胞系でもよい。
【0032】
本発明は、前立腺癌治療薬のスクリーニング又は評価方法に用いるためのキットも含む。キットの内容は、機器又は試薬の組み合わせにより構成されるが、以下に述べる各構成要素と本質的に同一、又はその一部と本質的に同一な物質が含まれていれば、構成又は形態が異なっていても、本発明のキットに包含される。
【0033】
試薬としては、例えば、PCR法によりSF3B2遺伝子の発現量を測定する場合には、SF3B2遺伝子を特異的に増幅することが可能なプライマーを含む。また、必要に応じて、逆転写酵素、ポリメラーゼ、緩衝液、蛍光試薬等を含めてもよい。機器としては、例えば、蛍光光度計、サーマルサイクラ―等を使用することができる。
【0034】
また、マイクロアレイ法によりSF3B2遺伝子の発現量を測定する場合には、SF3B2遺伝子断片をスポットしたガラス、プラスチック、シリコン又はメンブレン等の支持体を含む。また、必要に応じて、ラベル化試薬、ハイブリダイゼーション用バッファー、フラグメンテーション用バッファー等を含めてもよい。
【0035】
また、免疫測定法によりSF3B2タンパク質の発現量を測定する場合には、抗SF3B2抗体を含む。また、必要に応じて、生体試料の希釈液、抗体固定化固相、緩衝液、洗浄液、標識二次抗体又はその抗体断片、標識体の検出用試薬、標準物質なども含まれる。生体試料の希釈液としては、例えば、界面活性剤や緩衝液等にBSAやカゼイン等のタンパク質を含む水溶液等が挙げられる。
【0036】
抗体固定化固相としては、各種高分子素材を用途に合うように整形した素材に、抗分子マーカー抗体又はそれらの抗体断片を固相化したものが用いられる。形状としてはチューブ、ビーズ、プレート、ラテックスなどの微粒子、スティック等が、素材としてはポリスチレン、ポリカーボネート、ポリビニルトルエン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリメタクリレート、ゼラチン、アガロース、セルロース、ポリエチレンテレフタレート等の高分子素材、ガラス、セラミックスや金属等が挙げられる。抗体の固相化の方法としては物理的方法と化学的方法又はこれらの併用方法等、公知の方法が挙げられる。例えば、ポリスチレン製96ウェルの免疫測定用マイクロタープレートに抗体又は抗体断片等を疎水固相化したものが挙げられる。
【0037】
反応緩衝液は、抗体固定化固相の抗体と生体試料中の抗原とが結合反応をする際の溶媒環境を提供するものであればいかなるものでもよいが、界面活性剤、緩衝剤、BSAやカゼインなどの蛋白質、防腐剤、安定化剤、反応促進剤等を含む反応緩衝液が挙げられる。
【0038】
標識された二次抗体又はその抗体断片としては、本発明に用いられる抗体又は抗体断片に西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、ウシ小腸アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼなどの標識用酵素をラベルしたもの、緩衝剤、BSAやカゼインなどの蛋白質、防腐剤などを混合したものが用いられる。
【0039】
標識体の検出用試薬としては前記の標識用酵素に応じて、例えば西洋ワサビペルオキシダーゼであれば、テトラメチルベンジジンやオルトフェニレンジアミンなどの吸光測定用基質、ヒドロキシフェニルプロピオン酸やヒドロキシフェニル酢酸などの蛍光基質、ルミノールなどの発光基質が、アルカリホスファターゼであれば、4-ニトロフェニルフォスフェートなどの吸光度測定用基質、4-メチルウンベリフェリルフォスフェートなどの蛍光基質等が挙げられる。
【実施例】
【0040】
以下実施例により、本発明をより詳細に説明するが、本発明の範囲が実施例のみに限定されないことは言うまでもない。
【0041】
<実施例1>AR-V7-GFP発現細胞の作製方法
AR-V7遺伝子とSF3B2遺伝子との関連を調べるために、AR-V7遺伝子を発現させた細胞株を使用して、以下の検討を行った。
AR-V7-GFP(Green Fluorescent Protein)遺伝子を作製し、前立腺癌細胞であるCWR22Rv1(以下、22Rv1と呼ぶ)にノックインした。
図1に示すように、AR-V7遺伝子上の潜在性エクソン3(CE3)部分に含まれるストップコドンの直前にGFP、T2A、及びNeo Rの塩基配列を組み込むことで、AR-V7-GFP発現細胞を作製した。遺伝子のノックインは、既知のゲノム編集システムであるCRISPR/Cas9システムを用いて行った。AR-V7-GFP発現細胞作製時に使用したgRNA(guide RNA)は、配列番号3で表される塩基配列を有するgRNAである。
その後、ウェスタンブロット法によってAR-V7遺伝子とGFP遺伝子が融合していることを確認し(
図2)、AR-V7を蛍光タンパク質GFPでモニターできる細胞を開発できた。
【0042】
<実施例2>SF3B2の発現抑制によるAR-V7の発現量抑制
SF3B2発現量とAR-V7発現量との間の関連性を調べるために、AR-V7-GFP細胞において、CRISPR/Cas9システムによるSF3B2 gRNA(guide RNA)の遺伝子導入を行った。SF3B2発現細胞作製時に使用したgRNA(guide RNA)は、配列番号4で表される塩基配列を有するgRNAである。
図3に示すフローサイトメトリの図に示す通り、SF3B2 gRNAを導入し、SF3B2の遺伝子発現を抑制したAR-V7-GFP細胞は、コントロール細胞と比較してAR-V7の発現が低下することを確認した。
つまり、SF3B2の発現を抑制することで、AR-V7のスプライシングを抑制できることが確認できたことより、作成したAR-V7-GFP細胞がSF3B2の発現を蛍光タンパク質(GFP)でモニターできる細胞であることが確認できた。
【0043】
<実施例3>in vivoでのAR-V7ノックアウトによる腫瘍増殖抑制
SF3B2の過剰発現が、in vivoでのアンドロゲン枯渇状況下において、AR-V7に起因する腫瘍増殖との関係について確認した。
SF3B2の過剰発現は、Neon(登録商標)システム(ThermoFisher scientific社)を利用したエレクトロポレーションによって、SF3B2遺伝子を組み込んだベクターを対象細胞にトランスフェクションすることで行った。ベクターはpX330を使用した。
AR-V7をノックアウトした細胞は、Neon(登録商標)システム(ThermoFisher scientific社)を利用したエレクトロポレーションによって、配列番号3で表される塩基配列を有するsgRNA(single-guide RNA)及びCas9を対象細胞にトランスフェクションし、この細胞を選択培地で培養し、単一コロニーを分離培養することによって得られた。
マウスへの腫瘍細胞移植は、まず、雄のNOD/SCID(non-obese diabetic/severe combined immunodeficient)マウスを7週齢において外科的に去勢した。癌細胞(2×10
6細胞)をPBS/Matrigel混合液中に懸濁し、深麻酔下において、去勢した8週齢のNOD/SCIDマウスの皮下に注射した。その後、そのマウスを温度コントロールされた無菌室で飼育した。腫瘍体積を、次式:腫瘍体積(mm
3)=腫瘍の長さ×(腫瘍の幅)
2/2によって計算した。
図4に示す通り、腫瘍の皮下注射における腫瘍体積の変化を確認した。その結果、22Rv1細胞及びLNCaP95細胞の何れにおいても、SF3B2を過剰発現させた細胞は、コントロール(GFPのみ)細胞と比較して、腫瘍体積が有意に増加していることがわかった(P=0.0133、0.0371)。一方で、SF3B2を過剰発現させ、且つAR-V7をノックアウトした細胞は、SF3B2を過剰発現させた細胞と比較して腫瘍体積の増加が有意に抑制されていることがわかった(P=0.0002、P<0.0001)。
つまり、SF3B2発現に起因する前立腺癌は、AR-V7をノックアウトすることによって、抑制されることがわかった。すなわち、AR-V7のスプライシングを調節することは、去勢抵抗性前立腺癌における、SF3B2の重要な役割の一つであることが示唆された。
【0044】
<実施例4>前立腺癌細胞中におけるSF3B2とSF3bとの関与
SF3B2がSF3b複合体に含まれることがこれまでに知られているため、SF3B2が前立腺癌細胞中においてもSF3bの構成要素と関与しているかについて検討した。
図5Aで示されるように、既知の方法であるタンデムアフィニティ精製(TAP)によって、安定的にSF3B2-TAPを発現させた22Rv1細胞の核抽出物からSF3B2関連タンパク質を精製した。SF3B2-TAPは、核及び細胞質のいずれにも局在することが分かった(
図5B)。マススペクトロメトリー法により、SF3B2が、SF3B1、SF3B3(SF3b130又はSAP130としても知られる)、SF3B4(SF3b49又はSAP49としても知られる)、SF3A1(SF3a120又はSAP114としても知られる)及びSF3A3(SF3a60又はSAP61としても知られる)と関与することが確認できた(
図5C)。これらの結果より、SF3B2がSF3b複合体において重要な構成要素であることが示唆された。
【0045】
<実施例5>Pladienolide BのSF3B2の複合体への関与 ある化合物は、スプライシングを阻害すること及び抗腫瘍剤としての能力を持つことが知られている。また、そのような化合物の一つであるPladienolide B(PLA-B)は、商用利用されているマクロライドであり、抗腫瘍活性を有し、SF3B3への相互作用を介してAR-V7のスプライシングを妨害することがこれまでに知られている。前立腺癌において、SF3B2はSF3B3と関与するため、Pladienolide Bが、高いSF3B2発現を有する侵攻性癌に対しての治療薬の候補になるかを検討した。
SF3B2又はGFPの過剰発現は実施例3に記載した手法と同様の手法により行った。
注目すべきことに、Pladienolide Bは、SF3B2-TAPとその関連タンパク質との相互作用を減少させた(
図5A、5C)。SF3B2関連タンパク質へのPladienolide Bの効果を考慮し、AR-V7スプライシングへの効果を検討した(
図6A、6B)。Pladienolide Bは、AR-V7-GFP細胞において、用量依存的にAR-V7-GFPの発現を減少させた。また、LNCaP95細胞を用いた場合、Pladienolide Bを投与することで、ビヒクルと比較して、AR-V7の発現を有意に抑制できることが分かった(
図6C、P=0.0005)。この結果は、PLA-Bによって、スプライシング因子であるタンパク質複合体SF3bの構成タンパク質間における相互作用を減少させ、その結果AR-V7のスプライシングが抑制されたことを示唆する。また、22Rv1細胞を使用した場合においても同様の結果が得られた(データ示さず)。
【0046】
<実施例6>in vivoにおけるPladienolide BのSF3B2に依存する腫瘍の増殖抑制
in vivoにおけるPladienolide BのSF3B2に依存する腫瘍の増殖が抑制されるかを検討した。
SF3B2又はGFPの過剰発現及びマウスへの腫瘍細胞移植は実施例3に記載した手法と同様の手法により行った。
また、腫瘍体積が22Rv1細胞においては100~300mm
3又はLNCaP95細胞においては200~400mm
3に達した時、Pladienolide B誘導体(5mg/kg)又はビヒクル(DMSO)を0、2、4、及び6日目において腹腔内投与した。相対的な腫瘍体積は、時間tにおける腫瘍体積と処置開始時点の腫瘍体積との間の比によって計算した。
また、in vivoにおける抗腫瘍効果を確認するために、LNCaP95細胞において、去勢マウスにおいて腫瘍サイズが200~400mm
3に達した時に、Pladienolide Bを腹腔内に投与した。その結果、ビヒクル(DMSO)を投与したマウスでは腫瘍体積が時間経過と共に増殖する傾向があるのに対して、PLA-Bを投与したマウスでは腫瘍体積が有意に減少した(
図7A、P<0.01)。この結果は、PLA-BがSF3B2の機能を阻害し、SF3B2によるAR-V7のスプライシングを抑制した結果、腫瘍増殖が抑制されたことを示唆する。
さらに、SF3B2又はGFPを過剰発現させた前立腺癌細胞(LNCaP95細胞)を有する去勢マウスにおいて、腫瘍サイズが200~400mm
3に達した時に、Pladienolide Bを腹腔内に投与した。その結果、SF3B2を安定的に過剰発現させたLNCaP95細胞を有するマウスは、GFPのみを過剰発現させたLNCaP95細胞を有するマウスと比較して、Pladienolide B処置を行った場合において、SF3B2を安定的に過剰発現させたLNCaP95細胞を有するマウスは腫瘍体積が有意に減少していた(
図7B、P<0.01)。つまり、SF3B2を過剰に発現していることでLNCaP95細胞はPladienolide Bへの感受性が高まることがわかった。
また、これらの結果は、22Rv1細胞を使用した場合においても同様の結果が得られた(データ示さず)。
つまり、このような細胞を用いた新規化合物のスクリーニング系を利用することで、Pladienolide Bと同様にAR-V7のスプライシング制御を標的とする劇的な抗癌増殖効果を生じ、且つ細胞毒性が少ない化合物をスクリーニングすることが可能になる。
【配列表】