(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】曲げ加工機、曲げ加工方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B21D 22/18 20060101AFI20240717BHJP
【FI】
B21D22/18
(21)【出願番号】P 2020158404
(22)【出願日】2020-09-23
【審査請求日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2019187497
(32)【優先日】2019-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】麻 寧緒
(72)【発明者】
【氏名】ラシッド シェリーフ モハメド ヘルミー
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-031538(JP,A)
【文献】特開平11-327619(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第01977842(EP,A1)
【文献】特表2022-541069(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/00 - 26/14
B21D 5/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工用ツールと、
水平なXY面上に支持された
曲げ塑性変形加工の対象である板状のワークに対して、相対的に前記加工用ツールを、前記XY面の上方で、かつ前記XY面に平行にスライドさせると共に前記XY面に直交するZ方向に昇降変位させる駆動部と、
予め設計された加工条件に基づいて、前記加工用ツールを相対的に前記XY面上の複数の
加工位置へ順番にスライドさせる指示と、各
加工位置で当該各
加工位置に対応する変位量だけ前記加工用ツールを前記Z方向に相対的に降下、上昇変位させると共に、降下位置まで所定時間で移動させる指示とを前記駆動部に対して行う制御部とを備え
、
前記加工条件は、前記ワークが所定の小サイズに分割されたソリッド要素を使用した有限要素モデルに基づいて算出された曲げ加工機。
【請求項2】
前記ワークを目標形状に塑性変形させる前記加工条件を設計する加工条件設計手段を備えた請求項1に記載の曲げ加工機。
【請求項3】
前記駆動部は、前記ツールを前記Z方向に変位させるプレス部と、前記ワークをX
Y面でスライドさせるXYスライドテーブルとを備えた請求項1又は2に記載の曲げ加工機。
【請求項4】
水平なXY面上に支持された
曲げ塑性変形加工の対象である板状のワークに対する予め設計された加工条件に基づいて、加工用ツールを前記ワークに対して相対的に前記XY面上の複数の
加工位置へ順番にスライドさせ、かつ各
加工位置で当該
加工位置に対応する変位量だけ前記加工用ツールを
前記XY面に直交するZ方向に相対的に降下、上昇させると共に、降下位置まで所定時間で移動させ、
前記加工条件は、前記ワークが所定の小サイズに分割されたソリッド要素を使用した有限要素モデルに基づいて算出された曲げ加工方法。
【請求項5】
水平なXY面上に支持された
曲げ塑性変形加工の対象である板状のワークの形状、諸元及び加工目標形状の情報から、前記ワークのXY面上の複数の
加工位置、前記複数の
加工位置への加工用ツールのスライド順、前記各
加工位置での前記XY面に直交するZ方向への前記加工用ツールの降下、上昇変位量、及び降下位置までの移動時間を加工条件として設計する設計手段、及び
前記設計手段で設計された前記加工条件に基づいて、前記加工用ツールに対して、順番に前記複数の
加工位置へのスライド制御と、各
加工位置での前記降下、上昇変位制御及び停止制御との指示を行う制御手段、としてプロセッサを機能させ、
前記加工条件は、前記ワークが所定の小サイズに分割されたソリッド要素を使用した有限要素モデルに基づいて算出されたプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状のワークに塑性変形による曲げ成形を施す加工技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、船体構造などに用いられる厚板の曲げ加工法として、線状加熱曲げや線状プレス曲げ及びロール曲げが主流として適用されている。線状加熱曲げ加工法は、技術者の経験に依存するところが大きいと共に、3次元の任意の形状には適用できないといった課題がある。線状プレス曲げ及びロール曲げの加工法では、大きな設備が必要となる。
【0003】
一方、近年、多品種少量生産への対応技術として、金型を必要とせず(ダイレスで)金属薄板(シート)を自在な形状に成形加工する技術であるインクリメンタルシートフォーミングが注目されている(例えば非特許文献1,2)。インクリメンタルシートフォーミングは、小さな棒状の成形ツールの先端を金属シートに接触させながらスライドまたはロールさせて、金属薄板を局所的に塑性変形させることを連続的に行い、自在な形状に成形する塑性加工技術である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】北澤 君義、中根 正勝、“アルミニウム薄板の半楕円体状CNCインクリメンタル張出成形”軽金属 研究論文、Vol 47,N0.8、P440-P445、1997.
【文献】鈴木 信行、地西 徹、“インクリメンタルフォーミングと超塑性成形を組み合わせた加工プロセス―板金部品の自在な板厚配置を目指して―” 塑性と加工(日本塑性加工学会誌) 第54巻、第628号(2013-5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、厚めである板状のプレートの場合、ツールをスライドさせることができないためインクリメンタルシートフォーミング方式は適しておらず、現状では、伝統的に線状加熱または直線に沿った連続的な冷間プレスを適用した曲げ成形に頼っている。この場合、加熱式では材料の劣化の問題があり、また加熱式では成形が長時間となり、さらに直線に沿ってプレスする方式では3次元の曲面に成形することは困難である。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたもので、板状のワークに対する3次元の曲げ塑性変形を簡易な設備でありながら任意形状に、かつより短時間で行うことができる曲げ加工機、曲げ加工方法及びプログラムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る曲げ加工機は、加工用ツールと、水平なXY面上に支持された塑性変形加工の対象である板状のワークに対して、相対的に前記加工用ツールを、前記XY面の上方で、かつ前記XY面に平行にスライドさせると共に前記XY面に直交するZ方向に昇降変位させる駆動部と、予め設計された加工条件に基づいて、前記加工用ツールを相対的に前記XY面上の複数の目的位置へ順番にスライドさせる指示と、各目的位置で当該各目的位置に対応する変位量だけ前記加工用ツールを前記Z方向に相対的に降下、上昇変位させると共に、降下位置まで所定時間で移動させる指示とを前記駆動部に対して行う制御部とを備えたものである。
【0008】
また、本発明に係る曲げ加工方法は、水平なXY面上に支持された塑性変形加工の対象である板状のワークに対する予め設計された加工条件に基づいて、加工用ツールを前記ワークに対して相対的に前記XY面上の複数の目的位置へ順番にスライドさせ、かつ各目的位置で当該目的位置に対応する変位量だけ前記加工用ツールを前記Z方向に相対的に降下、上昇させると共に、降下位置まで所定時間で移動させるものである。
【0009】
また、本発明に係るプログラムは、水平なXY面上に支持された塑性変形加工の対象である板状のワークの形状、諸元及び加工目標形状の情報から、前記ワークのXY面上の複数の目的位置、前記複数の目的位置への加工用ツールのスライド順、前記各目的位置での前記XY面に直交するZ方向への前記加工用ツールの降下、上昇変位量、及び降下位置までの移動時間を加工条件として設計する設計手段、及び前記設計手段で設計された前記加工条件に基づいて、前記加工用ツールに対して、順番に前記複数の目的位置へのスライド制御と、各目的位置での前記降下、上昇変位制御及び停止制御との指示を行う制御手段、としてプロセッサを機能させるものである。
【0010】
これらの発明によれば、加工用ツールを前記ワークに対して相対的に水平なXY面上の複数の目的位置へ順番にスライドさせ、かつ各目的位置で当該目的位置に対応する変位量だけ前記加工用ツールを前記ワークに対して相対的にZ方向に降下、上昇させると共に、降下位置まで所定時間で移動させることでワークへの曲げ加工が行われる。これによれば、ワークの表面の多点位置に対して順番に加工用ツールを押し当てて局所的な塑性変形を順次生成することで、全体に対して目標形状の成形が行われる。従って、板状のワークに対する3次元の曲げ塑性変形を簡易な設備でありながら任意形状に、かつより短時間で加工を施すことができる。
【0011】
また、本発明は、前記ワークを目標形状に塑性変形させる前記加工条件を設計する加工条件設計手段を備えたものである。この構成によれば、加工手順が予め設計されることで、加工機を自動で稼働させることが可能となる。
【0012】
また、前記加工条件に前記複数の目的位置を含めることで、ワーク全面に対する曲げ加工が可能となる。
【0013】
また、前記加工条件に前記複数の目的位置の順番を含めることで、加工工程の効率化が図れる。
【0014】
また、前記駆動部は、前記ツールを前記Z方向に変位させるプレス部と、前記ワークをXY面でスライドさせるXYスライドテーブルとを備えたものである。この構成によれば、ツールの昇降とワークのスライドとを別部材で行わせることで、例えば大サイズのワークを加工対象とする場合に、全体の構成の簡素化に繋がる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、板状のワークに対する3次元の曲げ塑性変形を簡易な設備でありながら任意形状に、かつより短時間で加工を施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る曲げ加工機の第1実施形態を示す概略構成図である。
【
図2】板状のワークを支持する部材を示す図で、(A)は環状の縁部を有する支持部材を示し、(B)は複数の点で支持する支持部材を示す図である。
【
図3】インクレメンタルプレートフォーミングの一場面を説明するイメージ図である。
【
図4】ワークの目標形状と加工条件の設計との関連を示す図で、(A)は目標形状のイメージ図、(B)は加工条件を設計する際に一例として適用する有限要素モデルを説明する図である。
【
図5】加工条件としての加工位置、加工順番の一例を説明する図で、(A)はワーク面と対応付けた図、(B)はそのデータテーブルである。
【
図6】ツールでプレスされたワーク面の変形成形の一例を示す図である。
【
図7】制御部によって実行される加工条件設計支援処理の一例を示すフローチャートである。
【
図8】制御部によって実行される加工処理の一例を示すフローチャートである。
【
図9】実験例に使用されるワークの条件を示す図である。
【
図10】本実験例における加工位置(X,Y座標値)、加工変位(Z値)、加工順番(n)を示す図表である。
【
図11】シミュレーションで得られた垂直方向の寸法値(Z値)(図中、クロ円で示す)と、実験による変形寸法(Z値)(図中、クロ三角形で示す)とを比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明に係る曲げ加工機の全体概略構成図を示す。曲げ加工機1は、情報処理及び数値制御(CNC)を行う制御部10と、制御部10で処理された情報に基づいてコンピュータ数値制御されてワーク3に曲げ加工を施す加工部20とを備える。
【0018】
制御部10は、CPUを備えたプロセッサ部11と、プロセッサ部11と接続された記憶部12、入力情報及び処理情報を適宜表示する表示部13及び必要な情報の入力を受け付ける、例えばタッチパネル等からなる操作部14を備える。記憶部12は、後述する設計プログラム及び数値解析プログラムその他を含む制御プログラム記憶部121及び設計された加工条件を記憶する加工条件記憶部122を備える。
【0019】
プロセッサ部11は、制御プログラムを実行することによって演算部110及び加工制御部113として機能する。演算部110は、加工条件設計部111及び数値解析部112を備える。加工制御部113は、各処理時間について計時動作を行うタイマ114、スライド制御部115及びプレス制御部116を備える。
【0020】
加工条件設計部111は、曲げ加工対象となる板状のワーク3を目標形状に成形する加工条件を設計する処理を行う。本実施形態に適用される板状のワーク3は、例えば鉄、ステンレス、アルミニウム、銅及び合金等の金属材であり、板厚は、材質及び平面サイズにもよるが、一般的にはシート材より厚い2mm以上、より好ましくは4mm以上、さらにそれ以上の厚板を対象とする。本実施形態では、例えば棒状の加工用のツール26の下端を板状のワーク3に押し当てる(プレスする)ことによりワーク3を局所的に塑性変形させ、かかる局所的な塑性変形を多数の点に順番に行うことで、任意の形状に成形する加工技術(インクレメンタルプレートフォーミング)を採用している。
【0021】
図3は、かかるインクレメンタルプレートフォーミングの一場面を説明する図で、ツール26を上方からワーク3の上面のあるポイント(位置)に降下させてワークを押し下げ、プレスを行っている状態を示している。
図3において、ツール26は、例えば水平に配置されたワーク3の上方の基準高さで、水平方向(X軸、Y軸)の目的位置にスライドされ、当該目的位置で、設計された降下量だけ降下されてワーク3面に押し当てられる(プレスを行う)。ワーク3は、ツール26による下方への押し当てにより目的位置で下方に押し下げられて湾曲し、塑性変形を生じる。
【0022】
ワーク3に対する変形は、例えば
図4(A)に示すように、目標形状(3次元の曲面)として設定される。加工条件設計部111は、ワーク3の諸元(諸要素)及び目標形状に基づいて、加工条件の設計を行う。ワーク3の諸元としては、サイズ、弾性率、ポイズン比及び降状応力を含む。
【0023】
本実施形態では、
図4(B)に示すように、ワーク3を所定の小サイズのソリッド要素に分割し、加工条件設計部111は、かかるソリッド要素を使用した有限要素モデルに基づいて加工条件を算出する。ここに、加工条件は、有限要素モデルに対して、加工位置(X,Y座標値)、加工変位(Z値)、加工順番(n)、加工時間(t)、及びワーク3の支持条件を含む。なお、本実施形態において、ソリッド要素のサイズは、XY平面が例えば1,000mm×1,000mm程度のワークの場合、20mm×20mm程度である。また、ワーク3の支持条件は、平板のワーク3を、その端縁領域の少なくとも3点以上で支持するとした場合に、1つの支持点ではX,Y,Z方向について固定(動きを規制)し、残りの支持点については単に下方からの支持としてもよい。
【0024】
加工位置(X,Y座標値)は、例えばワーク3を支持するワーク支持部23(
図1参照)の特定部位を基準に設定すればよく、また、加工変位(Z値)は、ワーク支持部23の上方であって、少なくともワーク3の板厚を越える高さ位置を基準に設定すればよい。これらの位置情報は、座標値の他、コンピュータ数値制御可能な駆動信号に変換した数値でもよい。また、加工位置の情報は、基準位置に対する座標値でもよいし、加工順番(n)に沿った相対的なスライド量でもよい。加工変位(Z値)は、垂直方向の前記基準高さにツール26の下端が位置し、その位置からの降下量をいう。なお、ツール26は、一般的に棒状の工具を立直させて使用され、直径100mm、かつ下端部は例えば半球形状を有する。ツール26の下端部は、半球形状に代えて、球面の一部でもよく、また、他の曲面でもよいし、平面でもよい。なお、加工用のツール26は棒状である必要はなく、前記のうちの下端部の構成部位(例えば半球形状の部位)のみで形成されたツールでもよい。
【0025】
また、加工条件設計部111は、例えば加工順番(n)の個数を最少化するような最適な設計を行う。例えば
図5(A)では、1,000mm×1,000mmのワーク3に対して、16点の目的位置(n1,n2,…,ni)が設定されている。さらに、
図5(A)中に矢印で示すように、効率的な加工処理を実行するべく、加工順番(n)は、隣接する加工位置間におけるツール26のスライド長が最少となるように設計される。あるいはトータルのスライド長が最短となるような経路の順でもよい。さらに、
図5(B)に示すように、各目的位置(n1,n2,…,ni)に対して、加工変位(Z値)、加工時間(t)が設計される。加工時間(t)は一定でもよい。
【0026】
なお、
図1に示す外部制御部40は、制御部10と同一機能を有するもので、必要に応じて設けられる。この外部制御部40は、記憶部42に設計プログラムを記憶し、表示部43、操作部44を経て入力された加工対象のワーク3の諸元、目標形状の情報を取得して、制御部41の演算部411で、制御部10の演算部110と同様の処理を実行するものである。設計された加工条件は、制御部10の加工条件記憶部122に、有線又は無線を経由して書き込ませることができ、かかる態様を採用することで、曲げ加工機1と物理的に離れた場所で適宜な時点に加工条件の設計演算が可能となる。
【0027】
続いて、加工部20について説明する。加工部20は、ワーク3を支持する機構と、ワーク3に加工を施す機構とを備える。支持のための機構は、床面Fに2層で載置されるY軸ベッド21、X軸ベッド22を備え、上側のX軸ベッド22の上面にワーク支持部23が搭載されている。ワーク支持部23の上部にはワーク3が支持される。
【0028】
一方、Y軸ベッド21、X軸ベッド22及びワーク支持部23を囲むようにして、例えば門構え形状を有する枠体部24が設置され、X方向の中央位置付近にプレス機25が配置されている。
【0029】
Y軸ベッド21、X軸ベッド22は、ベッド本体211,221の下面に互いに直交する方向で設置された長尺のガイドレール212,222及びその上を往復摺動可能なスライダ213,223を備える。これにより、Y軸ベッド21は、Y軸方向に移動可能にされ、X軸ベッド22は、X軸方向に移動可能にされている。従って、X軸ベッド22の上面に配置されたワーク支持部23はXY平面上でスライド可能となる。Y軸ベッド21とX軸ベッド22とで、いわゆるXYスライドテーブルが形成される。
【0030】
図2は、四角形状を有する板状のワーク3を支持するワーク支持部の形態を示している。
図2(A)はワーク3の端縁全面を支持する形態であり、
図2(B)はワーク3の端縁の適所を点状に支持する形態である。
【0031】
図2(A)において、ワーク支持部23は、四角形状の環状体で、周囲の縁部231でワーク3を支持する。縁部231の四角のそれぞれには、移動規制のためのL字状の突条体232が配置されている。なお、
図2では、便宜上、四角の1コーナーのみ記載されている。突条体232にワーク3のコーナーが嵌合することでXY方向への移動規制が図れる。なお、図では示していないが、四角のうちの1つの突条体232には、ワーク3のZ方向への移動も規制するべく、突条体232の上面に天井を設けた構造としてもよい。
【0032】
図2(B)において、ワーク支持部230は、ワーク3の端縁の下方に複数配置された棒状の支持突起2301と、必要に応じて低姿勢の補助突起2302とを備える。支持突起2301は、ワーク3の各コーナーに対応する位置で上向けに配置される。補助突起2302は、ワーク3の各辺の中間に所定個数ずつ配置されて、プレス時に撓むワーク3の下面に当接して必要以上の下方への撓みを規制する。補助突起2302は、撓み量に対応した低い高さのものが採用される。
図2(B)では、辺の中央位置に1個設けている。なお、支持突起2301の1個については、ワーク3を上下で挟み込む機構を設けて、ワーク3のZ方向への移動を規制するようにしている。また、支持突起2301、補助突起2302は、ジンバル機構乃至はユニバーサル継ぎ手構造を備えて、撓んだワーク3の下面と常時対向して接するようにしてもよい。
【0033】
図1に戻って、数値解析部112は、加工条件設計部111で初期設計された加工条件を用いて曲げ成形の計算機シミュレーションを施すものである。より詳細には、数値解析部112は、有限要素法を適用して塑性変形の挙動を近似的に解くもので、これによって、ワーク3の曲げ成形の形状をシミュレーションする。また、数値解析部112は、シミュレーションで得られた成形形状と目標形状との比較を行って、形状精度の判定を行う。判定は、例えば両方の形状の差分に基づいて精度の良否を判定する。さらに、数値解析部112は、精度不良と判定した場合には、加工条件設計部111に対して加工条件のやり直しを指示する。
【0034】
図6に示すワーク3は、サイズ1,000mm×1,000mm、厚さ10mm、さらに弾性率E=2.1E5 MPa、ポイズン比0.3、降伏応力240 MPaの軟鋼の例である。
図6は、このワーク3の中央に200mmの曲げ目標形状を設定した場合に、弾性スプリングバックや厚さ変化などが起因して、193mmの変位に止まった場合を示している。なお、図中、縞模様はZ軸コンター(等高線)を示す。多点式の成形プロセスは非線形であるため、成形されるワークに生じるずれが目標形状に対して許容偏差内に収まるまで、加工条件設計のやり直しを行うことが好ましい。
【0035】
次に、加工制御部113のスライド制御部115は、駆動部27を介してY軸ベッド21、X軸ベッド22をY軸方向、X軸方向に移動させる。ベッド本体211,221は、移動駆動源として、例えば油圧サーボプレス214,224に連結されており、駆動部27のXY軸駆動部271からの駆動信号を受けてX,Y軸方向にスライド駆動される。これによって、ワーク3の上面の任意の部位をプレス機25のワーク3に位置合わせすることができる。なお、移動駆動源は、電動プレス、サーボプレスであってもよい。
【0036】
プレス制御部116は、Z軸駆動部272を介してプレス機25を駆動させる。プレス機25は、ワーク3の板厚、材料、加工変位量を考慮して、最大押圧力を発生する能力を備えたものが採用され、最大押圧力が例えば数トン~数十トンの場合もある。
【0037】
図7は、演算部110(又は演算部411)によって実行される加工条件設計支援処理の一例を示すフローチャートである。まず、設計プログラムが起動されて、ワーク3の諸元情報及び目標形状情報が取得される(ステップ#1)。次いで、初期加工条件の設計処理が実行される(ステップ#3)。初期加工条件は、予め設定された方法に従って、ワーク3の支持条件、加工位置(X,Y座標値)、加工変位(Z値)、加工順番(n)、加工時間(t)が設計される。なお、初期加工条件の一部は、マニュアル設定であってもよく、また例えば加工時間が固定である場合では自動的に設定されてもよい。他の条件は、種々のルールに従って設計可能である。例えば、加工位置の個数は、サイズに対応させて設計可能であり、加工位置は、目標形状に対応させて設計可能であり、加工変位は、加工位置の個数及び加工位置に応じて設計可能である。
【0038】
次いで、初期加工条件及び有限要素モデルに基づいて点状曲げの数値解析が実行されて(ステップ#5)、数値解析の結果である成形形状と予め設定した目標形状との比較が行われる(ステップ#7)。比較方法は種々の方法が適用可能である、また、目標形状の種類に応じた適当な比較方法を採用する態様であってもよい。比較方法の一例としては、各製品位置における形状の最大差分又は2乗和、及び/又はXY方向に対する曲面の位置ずれ量を適用して、形状精度として扱ってもよい。
【0039】
比較の結果、形状精度が所定の閾値内か否か判定され(ステップ#9)、形状精度が低い(NG)と判定された場合、加工条件の変更指示及び変更処理が行われて(ステップ#11)、ステップ#5にリターンし、数値解析のやり直しが行われる。加工条件の変更は、加工位置の個数の変更、加工位置の変更、加工変位の変更、加工時間の変更の少なくとも1つ以上の要素であることが好ましい。また、加工条件の変更は、成形形状と目標形状との比較結果に応じて(差分量に応じて)、変更要素及び変更量を調整することが、より好ましい。
【0040】
そして、ステップ#9で、形状精度の判定に合格(OK)した場合、加工条件を確定し(ステップ#13)、加工条件記憶部122に導いて保管する。
【0041】
図8は、加工制御部113によって実行される加工処理の一例を示すフローチャートである。まず、加工条件が加工条件記憶部122から読み出され(ステップS1)、さらに加工順番を示すnに数値“1”がセットされる(ステップS3)。
【0042】
次いで、スライド制御部115によって最初の加工順番となる加工位置を示す座標値xn、yn(n=1)が設定されると(ステップS5)、Y軸ベッド21、X軸ベッド22がこの加工位置に向けて、予め設定された所定速度でスライド駆動される(ステップS7)。次いで、目標位置に到達したか否かが判断され(ステップS9)、到達したと判断されると、加工変位(値Zn)が設定される(ステップS11)。次いで、降下(プレス)指示が発生される(ステップS13)。降下の指示を受けて、ワーク3が基準高さから所定速度で加工変位(値Zn)位置まで降下されると、タイマ114により計時が開始されて当該降下位置で所定の加工時間(tn)の計時が行われ(ステップS15)、計時後に、所定速度で基準高さまで上昇される(ステップS17)。なお、ワーク3の降下速度を比較的低速に設定することで、ワーク3との当接時の衝撃を緩和でき、ツール26のみならず、ワーク3表面に傷、局所的な窪み、また破損(ひび割れなど)の発生が抑制できる。
【0043】
そして、基準高さ位置に到達したか(戻ったか)否かが判断され(ステップS19)、基準高さの位置に到達したと判断されると、加工順番(n)が最終順番niを超えたか否かが判断される(ステップS21)。超えていなければ、加工順番が1だけインクリメントされて(ステップS23)、ステップS5にリターンし、次の加工位置に対する加工処理が繰り返し実行される。そして、ステップS21で、加工順番(n)が最終順番niを超えたと判断されると、全ての加工位置に対して加工処理が終了したとして、本フローを終了する。
【0044】
なお、ツール26に対する降下量、上昇量は、駆動信号を計測して、あるいは駆動時間を計測することで確認してもよいし、または位置センサ(例えばエンコーダ、フォトインターラプタ)を利用してツール26の位置を計測することで移動制御する態様でもよい。
【0045】
本発明は以下の態様を採用することができる。
【0046】
(1)ツール26とワーク3のXY平面での相対移動は、いずれか一方が駆動される態様としてよく、また、ツール26とワーク3のZ方向の相対移動は、いずれか一方が駆動される態様としてよい。これにより、構造的により簡易となる駆動方法を適宜採用できるという自由度の高い機器を提供できる。
【0047】
(2)前記実施形態では、ワーク3のサイズ例として1,000mm×1,000mm×10mmとしたが、さらに小サイズでもよく、逆に、例えば3m×6mのような大サイズにも適用可能な汎用型として提供できる。
【0048】
(3)加工時間(t)としては、ワークのサイズ、板厚及び材質に応じて、数秒~数分、好ましくは1分程度が設定可能である。かかる方法によれば、従来の加熱型の加工機で1日乃至それ以上掛かっていた作業時間を数時間程度に短縮させることが可能となる。また、プレス制御部116は、降下位置でワーク3を所定の加工時間(tn)だけ停止させる処理としたが、これに代えて、降下開始から降下位置までの移動時間、あるいは降下開始から上昇終了までの移動時間を加工時間(tn)として扱う処理でもよい。この場合、降下位置側で、直ちに乃至所要時間を置いて上昇に転じるような移動制御を含めてもよい。
【0049】
<実験例> 以下、実験例について
図9~
図11を参照して説明する。
【0050】
図9に示すように、実験例に使用されるワーク3は、一辺500mmの正方形で、厚さ8mmのSS400(鋼板)である。ワーク3の4隅に対応する位置には盤状の支持突起2301が支持用として配置され、各辺の中間に対応する位置には、支持突起2301より-33mm低い位置に補助突起2302が配置されて、その上にワーク3を載置した。また、ワーク3を、支持突起2301上に配置された、支持突起2301と同一形状の押え部材との間に挟持した。
【0051】
図10(A)(B)は、本実験例における加工位置(X,Y座標値)、加工変位(Z値)、加工順番(n)である。なお、本実験例では加工時間は1か所あたり、10秒程度とした。加工位置は、ワーク3の中心を1番目(n=1)とし、次いで、等半径上で反時計方向に均等な8方向に順番に、さらに、1周ごとに順次径を大きくするように加工位置を設定し、最後は33番目である。加工条件の詳細は、
図10(B)に示す。また、
図10(B)には各加工位置における加工変位(Z値)を示している。成形は、ワーク3の中間を最も深くする略半球状の形状とした。ツール26は、直径60mmの円柱体で、先端は曲率100mmの球状である。
【0052】
図11は、シミュレーションで得られた垂直方向の寸法値(Z値)(図中、クロ円で示す)と、実験による変形寸法(Z値)(図中、クロ三角形で示す)とを比較した図である。
図11(A)は、A-A’方向における各Z値を示し、
図11(B)は、B-B’方向における各Z値を示している。
図11(A)(B)に示すように、両Z値は決めて近似し、目標形状と成形形状とが略一致することが分かった。従って、本曲げ加工方法は、設計通りの曲げ加工が実現できることが確認できた。
【符号の説明】
【0053】
1 曲げ加工機
10 制御部
11 プロセッサ部
110 演算部(設計手段)
111 加工条件設計部
112 数値解析部
113 加工制御部(制御手段)
115 スライド制御部
116 プレス制御部
121 制御プログラム記憶部
20 加工部
21 Y軸ベッド(XYスライドテーブル)
22 X軸ベッド(XYスライドテーブル)
214,224 油圧サーボプレス(駆動部)
23 ワーク支持部
25 プレス機(駆動部)
26 ツール(加工用ツール)
27 駆動部
3 ワーク