(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 63/00 20060101AFI20240717BHJP
C08K 5/3465 20060101ALI20240717BHJP
C08K 5/18 20060101ALI20240717BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240717BHJP
【FI】
C08L63/00 C
C08K5/3465
C08K5/18
C08K3/013
(21)【出願番号】P 2021552275
(86)(22)【出願日】2020-09-16
(86)【国際出願番号】 JP2020035036
(87)【国際公開番号】W WO2021075197
(87)【国際公開日】2021-04-22
【審査請求日】2023-03-13
(31)【優先権主張番号】P 2019189517
(32)【優先日】2019-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591252862
【氏名又は名称】ナミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000121
【氏名又は名称】IAT弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】松浦 雄輝
(72)【発明者】
【氏名】細野 洋平
【審査官】前田 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-127011(JP,A)
【文献】特開平08-067806(JP,A)
【文献】特開昭61-031449(JP,A)
【文献】特開昭59-185349(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0300321(US,A1)
【文献】国際公開第2014/188850(WO,A1)
【文献】特開昭61-268495(JP,A)
【文献】特開平05-204085(JP,A)
【文献】特開2003-246840(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
C08G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂と、
(B)硬化剤と、
(C)下記式(1)
および下記式(2)に示される化合物を含むアジン系染料と、を含む
樹脂組成物。
【化1】
【化2】
【請求項2】
前記(C)アジン系染料が、下記式(3)に示される化合物をさらに含む、
請求項
1に記載の樹脂組成物。
【化3】
【請求項3】
前記(C)アジン系染料が、さらに下記式(4)に示される化合物、および下記式(5)で示される化合物からなる群から選択される少なくとも一方をさらに含む、
請求項1
または2に記載の樹脂組成物。
【化4】
【化5】
【請求項4】
(D)無機充填剤をさらに含有する、請求項1~
3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
(E)カップリング剤をさらに含有する、請求項1~
4のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれかに記載の樹脂組成物の硬化物。
【請求項7】
請求項1~
5のいずれかに記載の樹脂組成物を用いた電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化、軽量化、および高性能化に伴い、半導体の実装形態がワイヤーボンド型からフリップチップ型へと変化してきている。
フリップチップ型の半導体装置では、基板上で、バンプ電極を介して、電極部と半導体素子とが互いに接続されている。このような半導体装置では、温度サイクル等の熱負荷が加わった際に、エポキシ樹脂等の有機材料製の基板と、半導体素子と、の間の熱膨張係数の差によって、バンプ電極に応力がかかる。その結果、バンプ電極にクラック等の不良が発生することが問題である。この不良発生を抑制するために、アンダーフィル材と呼ばれる液状半導体封止材が用いられる。アンダーフィル材は、半導体素子と基板との間のギャップを封止して、両者を互いに固定する。これによって、耐サーマルサイクル性を向上させることが広く行われている。
【0003】
アンダーフィル材の供給方法としては、毛細管現象を利用して、半導体素子と基板上の電極部との間隙にアンダーフィル材を注入する、キャピラリーフローが一般的である。このキャピラリーフローでは、半導体素子と、基板上の電極部と、が接続された後、半導体素子の外周に沿って、アンダーフィル材が塗布(ディスペンス)される。そして、アンダーフィル材の注入後、該アンダーフィル材が加熱硬化されて、両者の接続部位を補強する。
【0004】
アンダーフィル材は、注入性、接着性、硬化性、および保存安定性等に優れることが求められる。また、アンダーフィル材で封止した部位が、耐湿性、および耐サーマルサイクル性等に優れることが求められる。
【0005】
アンダーフィル材のような半導体封止材としては、上述した要求特性を満足するため、主剤としてのエポキシ樹脂と、該エポキシ樹脂の硬化剤と、を含有する樹脂組成物が通常用いられる。
【0006】
アンダーフィル材のような半導体封止材は、多くの場合、カーボンブラックにより黒色に着色されている。この理由は、着色により、封止される半導体及びその周辺素子が、外部の光の影響を受けて誤作動することを抑制でき、かつ、素子及び回路を隠蔽することができるからである(特許文献1)。
【0007】
しかしながら、近年では半導体装置の小型化および多ピン化が進んでいる。これに伴い、リード間、パッド間、あるいはワイヤー間などのピッチ間隔が狭くなってきている。そして、このような狭いピッチ間隔(ファインピッチ)を有する半導体装置に用いられる半導体封止材に、カーボンブラックなどの導電性物質が着色剤として使用されると、半導体装置にリーク不良が発生することがある。
【0008】
このリーク不良を防止するため、特許文献2に記載の封止用エポキシ樹脂組成物では、着色剤として有機アジン系染料が使用される。これにより、ファインピッチを有する半導体装置の電気特性の低下を抑制することができ、しかも、優れた耐湿信頼性を実現することができることが報告されている。
【0009】
しかしながら、特許文献2には、有機アジン系染料の具体例も好適例も記載されていない。実際、同文献の実施例にも「アジン系染料」とのみ記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2000-273288号公報
【文献】特開2009-127011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
パッケージ実装の際に、複数回のリフロー工程を実施する場合がある。後述する比較例に示すように、アジン系染料として、入手が容易なSolvent black 7を含む半導体封止材が使用された場合、複数回のリフロー工程の実施により、封止部に変色が生じる場合がある。変色が生じると、封止部の外観が悪化する。そのため、製品が検査で不合格になるという問題が生じる。
【0012】
本開示の目的は、上記した従来技術における問題点を解決するため、アンダーフィル材としての要求特性を満たし、かつ、半導体封止材として使用された場合に、複数回のリフロー工程を実施しても、封止部に変色が生じにくい、アジン系染料を含む樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するため、本実施形態では、
(A)エポキシ樹脂と、
(B)硬化剤と、
(C)下記式(1)に示される化合物を含むアジン系染料と、を含む樹脂組成物が提供される。
【化1】
【0014】
本実施形態の樹脂組成物において、前記(C)アジン系染料は、下記式(2)に示される化合物をさらに含んでもよい。
【化2】
【0015】
本実施形態の樹脂組成物において、前記(C)アジン系染料は、下記式(3)に示される化合物をさらに含んでもよい。
【化3】
【0016】
本実施形態の樹脂組成物において、前記(C)アジン系染料は、さらに下記式(4)に示される化合物、および下記式(5)で示される化合物からなる群から選択される少なくとも一方をさらに含んでもよい。
【化4】
【化5】
【0017】
本実施形態の樹脂組成物は、(D)無機充填剤をさらに含有してもよい。
【0018】
本実施形態の樹脂組成物は、(E)カップリング剤をさらに含有してもよい。
【0019】
また、本開示は、本実施形態の樹脂組成物の硬化物を提供する。
【0020】
また、本開示は、本実施形態の樹脂組成物を用いた電子部品を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本実施形態の樹脂組成物は、アンダーフィル材としての要求特性を満たす。さらに、当該樹脂組成物が半導体封止材として使用された場合に、複数回のリフロー工程が実施された後でも、封止部に変色が生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施例におけるリフロー前後の色差を示した図である。
【開示を実施するための形態】
【0023】
以下、本実施形態について詳細に説明する。
本実施形態の樹脂組成物は、(A)エポキシ樹脂と、(B)硬化剤と、(C)アジン系染料と、を含む。
本実施形態の樹脂組成物の各成分について、以下に記載する。
【0024】
(A)エポキシ樹脂
(A)成分のエポキシ樹脂は、本実施形態の樹脂組成物の主剤をなす成分である。
(A)成分のエポキシ樹脂は、好ましくは、常温で液状である。ただし、他の液状のエポキシ樹脂又は希釈剤により希釈されて、液状を示す樹脂であれば、常温で固体のエポキシ樹脂であっても、用いることができる。
具体的な例として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、エーテル系又はポリエーテル系エポキシ樹脂、オキシラン環含有ポリブタジエン、およびシリコーンエポキシコポリマー樹脂が挙げられる。
【0025】
特に、液状であるエポキシ樹脂の例としては、約400以下の平均分子量を有するビスフェノールA型エポキシ樹脂;p-グリシジルオキシフェニルジメチルトリスビスフェノールAジグリシジルエーテルのような分岐状多官能ビスフェノールA型エポキシ樹脂;ビスフェノールF型エポキシ樹脂;約570以下の平均分子量を有するフェノールノボラック型エポキシ樹脂;ビニル(3,4-シクロヘキセン)ジオキシド、3,4-エポキシシクロヘキシルカルボン酸(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル、アジピン酸ビス(3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル)、および2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)5,1-スピロ(3,4-エポキシシクロヘキシル)-m-ジオキサンのような脂環式エポキシ樹脂;3,3´,5,5´-テトラメチル-4,4´-ジグリシジルオキシビフェニルのようなビフェニル型エポキシ樹脂;ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジル、3-メチルヘキサヒドロフタル酸ジグリシジル、およびヘキサヒドロテレフタル酸ジグリシジルのようなグリシジルエステル型エポキシ樹脂;ジグリシジルアニリン、ジグリシジルトルイジン、トリグリシジル-p-アミノフェノール、テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン、およびテトラグリシジルビス(アミノメチル)シクロヘキサンのようなグリシジルアミン型エポキシ樹脂;1,3-ジグリシジル-5-メチル-5-エチルヒダントインのようなヒダントイン型エポキシ樹脂;ならびに、ナフタレン環含有エポキシ樹脂が挙げられる。また、1,3-ビス(3-グリシドキシプロピル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンのようなシリコーン骨格をもつエポキシ樹脂も使用することができる。さらに、他の例として、(ポリ)エチレングリコールジグリシジルエーテル、(ポリ)プロピレングリコールジグルシジルエーテル、ブタンジオールグリシジルエーテル、およびネオペンチルグリコールジグリシジルエーテルのようなジエポキシド化合物;ならびに、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、およびグリセリントリグリシジルエーテルのようなトリエポキシド化合物が挙げられる。
【0026】
常温で固体ないし超高粘性液体のエポキシ樹脂を併用することも可能である。そのようなエポキシ樹脂の例として、高分子量のビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラックエポキシ樹脂、およびテトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂が挙げられる。エポキシ樹脂の流動性あるいは硬化物の物性を調節するために、これら樹脂と、常温で液体であるエポキシ樹脂及び/又は希釈剤と、が組み合わせされて用いられてもよい。
【0027】
常温で固体ないし超高粘性液体であるエポキシ樹脂を用いる場合、好ましくは、これらエポキシ樹脂は、低粘度のエポキシ樹脂と組み合わされる。低粘度のエポキシ樹脂の例としては、(ポリ)エチレングリコールジグリシジルエーテル、(ポリ)プロピレングリコールジグルシジルエーテル、ブタンジオールグリシジルエーテル、およびネオペンチルグリコールジグリシジルエーテルのようなジエポキシド化合物;ならびに、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、およびグリセリントリグリシジルエーテルのようなトリエポキシド化合物が挙げられる。
【0028】
希釈剤を用いる場合、非反応性希釈剤及び反応性希釈剤のうちのいずれをも使用することができる。ただし、反応性希釈剤が好ましい。本明細書において、反応性希釈剤は、1個のエポキシ基を有する、常温で比較的低粘度の化合物をいう。これら化合物は、目的に応じて、エポキシ基以外に、他の重合性官能基、たとえば、ビニル基およびアリル基のようなアルケニル基;又は、アクリロイルおよびメタクリロイルのような不飽和カルボン酸残基を有していてもよい。このような反応性希釈剤の例として、n-ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、p-s-ブチルフェニルグリシジルエーテル、スチレンオキシド、およびα-ピネンオキシドのようなモノエポキシド化合物;ならびに、アリルグリシジルエーテル、メタクリル酸グリシジル、および1-ビニル-3,4-エポキシシクロヘキサンのような他の官能基を有するモノエポキシド化合物等が挙げられる。
【0029】
(A)成分として、上記エポキシ樹脂を単独で用いることができる。あるいは、2種以上のエポキシ樹脂が併用されてもよい。エポキシ樹脂自体は、好ましくは、常温で液体である。中でも好ましいエポキシ樹脂は、液状ビスフェノール型エポキシ樹脂、液状アミノフェノール型エポキシ樹脂、シリコーン変性エポキシ樹脂、およびナフタレン型エポキシ樹脂である。さらに好ましいエポキシ樹脂は、液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂、液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂、p-アミノフェノール型液状エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、および1,3-ビス(3-グリシドキシプロピル)テトラメチルジシロキサンである。
【0030】
(B)硬化剤
(B)成分の硬化剤は、エポキシ樹脂の硬化剤であれば、特に限定されない。公知のエポキシ樹脂の固化剤を使用することができる。酸無水物系硬化剤、アミン系硬化剤、および、フェノール系硬化剤のうちのいずれをも使用することができる。
【0031】
酸無水物系硬化剤の具体例としては、メチルテトラヒドロフタル酸無水物、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、およびメチルテトラヒドロフタル酸無水物のようなアルキル化テトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルハイミック酸無水物、アルケニル基で置換されたコハク酸無水物、メチルナジック酸無水物、並びにグルタル酸無水物が挙げられる。
【0032】
アミン系硬化剤の具体例としては、脂肪族ポリアミン、脂環式ポリアミン、ピペラジン型のポリアミン、および、芳香族ポリアミンが挙げられる。脂肪族ポリアミンの具体例としては、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタミン、m-キシレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、および2-メチルペンタメチレンジアミンなどが挙げられる。脂環式ポリアミンの具体例としては、イソフォロンジアミン、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ノルボルネンジアミン、および1,2-ジアミノシクロヘキサンが挙げられる。ピペラジン型のポリアミンの具体例としては、N-アミノエチルピペラジン、および1,4-ビス(2-アミノ-2-メチルプロピル)ピペラジンなどが挙げられる。芳香族ポリアミンの具体例としては、ジエチルトルエンジアミン、ジメチルチオトルエンジアミン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジエチルジフェニルメタン、ビス(メチルチオ)トルエンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、m-フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルスルホン、ジエチルトルエンジアミン、トリメチレンビス(4-アミノベンゾエート)、およびポリテトラメチレンオキシド-ジ-p-アミノベンゾエートが挙げられる。また、市販品の例として、T-12(商品名、三洋化成工業製)(アミン当量116)が挙げられる。
【0033】
フェノール系硬化剤は、フェノール性水酸基を有するモノマー、オリゴマー、およびポリマーを含む。その具体例として、フェノールノボラック樹脂、そのアルキル化物およびアリル化物、クレゾールノボラック樹脂、フェノールアラルキル(フェニレン、ビフェニレン骨格を含む)樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、トリフェノールメタン樹脂、並びにジシクロペンタジエン型フェノール樹脂が挙げられる。
【0034】
(B)成分の硬化剤として、これら硬化剤を単独で用いることができる。あるいは、2種以上の硬化剤が併用されてもよい。
【0035】
本実施形態の樹脂組成物において、(B)成分の硬化剤の配合割合は特に限定されない。(A)成分のエポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対して、好ましくは0.5~1.6当量、より好ましくは0.6~1.3当量の硬化剤が用いられる。
【0036】
(C)アジン系染料
【0037】
(C)成分のアジン系染料は、黒色の着色剤である。アジン系染料を用いることにより、本実施形態の樹脂組成物が、アンダーフィル材のような半導体封止材として使用される場合に、封止される半導体及びその周辺素子が、外部の光の影響を受けて誤作動することを抑制すること、および、素子及び回路を隠蔽することができる。
非導電性の着色剤であるアジン系染料は、狭いピッチ間隔を有するファインピッチの半導体装置の半導体封止材として、好適な電気特性を有する。
【0038】
しかも、アゾ系染料などの他の黒色の着色剤を使用した場合に比べて、樹脂組成物が低い初期粘度を有する。そのため、アジン系染料がアンダーフィル材に使用された場合に、当該アンダーフィル材が良好なキャピラリーフロー注入性を有する。また、このアンダーフィル材は、アゾ系染料などの他の黒色の着色剤を使用した場合に比べて、常温で、良好な保存安定性を有する。そのため、アンダーフィル材はポットライフに優れている。
【0039】
(C)成分のアジン系染料は、下記式(1)に示される化合物を含む。
【化6】
【0040】
後述する実施例に示すように、式(1)で示される化合物を含むアジン系染料が、アンダーフィル材のような半導体封止材に使用された際に、複数回のリフロー工程を実施した後も、封止部に変色が生じにくい。その理由は、以下のように推測される。
式(1)で示される化合物は、後述する比較例で使用したSolvent black 7などに比べて、樹脂組成物の主成分をなすエポキシ樹脂との相溶性に優れる、と考えられる。そのため、複数回のリフロー工程を実施しても、樹脂組成物からの染料の揮散などが生じにくいので、封止部に変色が生じにくいと、と考えられる。
【0041】
(C)成分のアジン系染料は、式(1)で示される化合物に加えて、下記式(2)に示される化合物をさらに含んでもよい。
【化7】
【0042】
また、(C)成分のアジン系染料は、式(1)で示される化合物に加えて、下記式(3)に示される化合物をさらに含んでもよい。
【化8】
【0043】
(C)成分のアジン系染料は、式(1)で示される化合物に加えて、下記式(4)に示される化合物、および下記式(5)で示される化合物からなる群から選択される少なくとも一方をさらに含んでもよい。
【化9】
【化10】
【0044】
(C)成分のアジン系染料の配合量は、アンダーフィル材のような半導体封止材として使用する樹脂組成物に有機系染料を配合する際の常法によって、適宜設定することができる。
【0045】
本実施形態の樹脂組成物は、さらに以下の成分を任意成分として含有してもよい。
【0046】
(D)無機充填剤
本実施形態の樹脂組成物がアンダーフィル材のような半導体封止材として使用される場合に、封止された部位の耐湿性および耐サーマルサイクル性、特に耐サーマルサイクル性を向上させる目的で、(D)成分として無機充填剤が添加されてもよい。
【0047】
(D)成分の無機充填剤の好ましい例としては、シリカ、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、タルク、カオリン、クレー、窒化ホウ素、窒化珪素、窒化アルミニウム、炭化珪素、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、およびアルミナが挙げられる。これら無機充填剤のうちから選択される少なくとも一種の無機充填剤を用いることができる。
【0048】
(D)成分の無機充填剤の形状は特に限定されない。無機充填剤の形態は、球状、不定形、またはりん片状等のいずれであってもよい。無機充填剤の凝集体を用いることもできる。
【0049】
また、無機充填剤は、シランカップリング剤等による表面処理が施されていてもよい。表面処理が施された無機充填剤を使用した場合、無機充填剤の凝集を抑制する効果が期待される。
【0050】
(D)成分の無機充填剤は、好ましくは0.1~100μm、より好ましくは0.1~50μm、さらに好ましくは1~50μmの平均粒径を有する。
【0051】
(D)成分の無機充填剤の含有量は、樹脂組成物の全成分の合計100質量部に対して、好ましくは35~85質量部、より好ましくは55~70質量部である。
【0052】
(D)成分の無機充填剤の種類は、特に制限されない。1種の無機充填剤を単独で用いることができる。あるいは、2種以上の無機充填剤が併用されてもよい。2種以上の無機充填剤が用いられる場合、これら無機充填剤の合計含有量および平均粒子径が上述した範囲を満たす。
【0053】
(E)カップリング剤
本実施形態の樹脂組成物がアンダーフィル材のような半導体封止材として使用される場合に、封止対象に対する密着性、及び封止信頼性(接着信頼性)を向上させるために、(E)成分としてカップリング剤が含有されてもよい。
【0054】
(E)成分としてカップリング剤が含有される場合、その含有量は、樹脂組成物の全成分の合計100質量部に対して、好ましくは0.05~5質量部、より好ましくは0.1~1質量部、さらに好ましくは0.2~0.5質量部である。
【0055】
(その他の配合剤)
本実施形態の樹脂組成物は、上記(A)~(E)成分以外の成分を必要に応じてさらに含有してもよい。
このような配合可能な成分の具体例としては、硬化促進剤、金属錯体、レベリング剤、イオントラップ剤、消泡剤、および難燃剤が挙げられる。各配合剤の種類および配合量は、常法に従って、適宜決定することができる。
【0056】
本実施形態の樹脂組成物は、上記(A)~(C)成分と、必要に応じて添加する(D)~(E)成分と、その他の成分と、を含む原料を、有機溶剤に溶解又は分散等させることにより、得ることができる。これらの原料の溶解又は分散等のための装置は、特に限定されない。加熱装置を備えた攪拌機、デゾルバー、プラネタリーミキサー、ライカイ機、3本ロールミル、ボールミル、あるいはビーズミル等を使用することができる。また、これら装置が適宜組み合わせされて使用されてもよい。
【0057】
本実施形態の樹脂組成物は、以下に示す好適な特性を有している。
【0058】
(初期粘度、ポットライフ(増粘倍率))
本実施形態の樹脂組成物は、低い初期粘度を有する。そのため、この樹脂組成物が、アンダーフィル材として使用された場合に、キャピラリーフローにおける、良好な注入性が得られる。
具体的には、回転粘度計を用いて、25℃、回転数1rpmで測定したときの初期粘度が、好ましくは0.1~500Pa・s、より好ましくは0.2~200Pa・sである。また、25℃、回転数10rpmで測定したときの初期粘度が、好ましくは0.1~500Pa・s、より好ましくは0.2~200Pa・sである。
【0059】
また、本実施形態の樹脂組成物は、その常温での良好な保存安定性により、ポットライフに優れている。後述する実施例に記載の手順で測定される24時間保管後の増粘率が、好ましくは2.5倍以下、より好ましくは1.5倍以下である。
【0060】
(注入性)
また、本実施形態の樹脂組成物がアンダーフィル材として使用された場合に、キャピラリーフローにおける注入性が良好である。具体的には、後述する実施例に記載の手順で50μmのギャップへの注入性を評価した際に、注入時間が好ましくは40秒以下である。また、20μmのギャップへの注入性を評価した際に、注入時間が好ましくは50秒以下である。
【0061】
(リフロー前後の色差)
また、本実施形態の樹脂組成物がアンダーフィル材のような半導体封止材として使用された場合に、複数回のリフロー工程が実施された後でも、封止部に変色が生じにくい。具体的には、後述する実施例に記載の手順で樹脂組成物が165℃で2時間硬化される。その後、260℃でのリフローを5回実施した前後での、色差計を用いて測定した色差ΔE*abが、好ましくは12以下である。また、260℃でのリフローを10回実施した前後の色差ΔE*abが好ましくは12以下である。
【0062】
次に本実施形態の樹脂組成物の使用方法を、アンダーフィル材としての使用に言及しつつ説明する。
本実施形態の樹脂組成物をアンダーフィル材として使用するために、以下の手順で、基板と半導体素子との間のギャップに、本実施形態の樹脂組成物が充填される。
基板が、たとえば70~130℃に加熱されている間に、半導体素子の一端に本実施形態の半導体樹脂封止材が塗布される。すると、毛細管現象によって、基板と半導体素子との間のギャップに、本実施形態の半導体樹脂封止材が充填される。この際、本実施形態の樹脂組成物の充填に要する時間を短くするため、基板を傾斜させるか、または、該ギャップ内外に圧力差を生じさせてもよい。
該ギャップに本実施形態の樹脂組成物が充填された後、該基板が、所定温度で所定時間、具体的には、80~200℃で0.2~6時間加熱される。このように、樹脂組成物の加熱硬化によって、該ギャップが封止される。
【0063】
本実施形態の電子部品では、本実施形態の半導体樹脂封止材がアンダーフィル材として使用される。上記の手順で封止部位、すなわち、基板と半導体素子との間のギャップが、封止されている。ここで封止される電子部品としては、半導体素子が挙げられる。ここで、半導体素子は、特に限定されず、集積回路、大規模集積回路、トランジスタ、サイリスタ、ダイオード、およびコンデンサ等を含む。
【実施例】
【0064】
以下、実施例により、本実施形態を詳細に説明する。ただし、本実施形態は、これら実施例に限定されない。
【0065】
(実施例1~10、比較例1)
下記表1上部に示す配合割合となるように、ロールミルを用いて原料を混練することにより、実施例1~10、比較例1の樹脂組成物を調製した。なお、表中の各組成に関する数値は質量部を表している。
【0066】
樹脂組成物の作成時に使用した成分は以下の通り。
【0067】
(A)成分:エポキシ樹脂
(A-1)ビスフェノールF型エポキシ樹脂、製品名YDF8170、新日鐵化学株式会社製、エポキシ当量158g/eq、25℃における粘度:1300mPas
(A-2)ビスフェノールA型エポキシ樹脂、製品名EXA850CRP、DIC株式会社製、エポキシ当量172g/eq、25℃における粘度:4400mPas
(A-3)ナフタレンノボラック型エポキシ樹脂、製品名HP4032D、DIC株式会社製、エポキシ当量144g/eq、25℃における粘度:540mPas
【0068】
(B)成分:硬化剤
(B-1)アミン系硬化剤、製品名エタキュア100PLUS、ALBEMARLE Co.,Ltd.製、当量44.6g/eq、25℃における粘度:160mPas
(B-2)酸無水物系硬化剤、製品名:HN-5500、日立化成工業株式会社製、当量168g/eq、25℃における粘度:60mPas
(B-3)フェノール系硬化剤、製品名MEH8005、明和化成株式会社製、当量135g/eq、25℃における粘度:60mPas
【0069】
(C)成分:アジン系染料
(C-1)NUBIAN(登録商標)BLACK PC-5856、オリエント化学工業株式会社製、下記式(1)、式(2)、式(3)で示される化合物を含有。
【化11】
【化12】
【化13】
(C-2)NUBIAN(登録商標)BLACK PC-5857、オリエント化学工業株式会社製、式(1)、式(2)、下記式(4)、下記式(5)で示される化合物を含有。
【化14】
【化15】
(C-3)Solvent black 7、オリエント化学工業株式会社製、下記式で示される化合物を含有。
【化16】
【0070】
(初期粘度、24時間保管後増粘率)
上記の手順で調製した樹脂組成物の初期粘度(Pa・s)が、ブルックフィールド社製回転粘度計RVDV-1 prime(スピンドルSC4-14使用)用いて、1rpmまたは10rpmで25℃の条件で、測定された。次に、樹脂組成物を密閉容器内で、25℃、湿度50%の環境にて24時間保管された時点における、前記樹脂組成物の粘度が、初期粘度の測定と同じ手順で測定された。この測定値の初期粘度に対する倍率が、ポットライフの指標となる増粘率として、算出された。
【0071】
(注入性)
有機基板(FR-4基板)との間に、20μmまたは50μmのギャップが生ずるように、半導体素子の代わりにガラス板が固定された。これにより、試験片を作製した。この試験片を110℃に設定されたホットプレート上に置かれた試験片のガラス板の一端側に、樹脂組成物が塗布された。その後、樹脂組成物の注入距離が20mmに達するまでの時間が測定された。この手順で、試験が2回実施された。得られた測定値の平均値が注入時間として算出された。
【0072】
(リフロー前後の色差)
ガラス板上を樹脂組成物が、その膜厚が300μmとなるように、塗布された。ガラス板上で、樹脂組成物は、165℃2時間の条件で、硬化された。その後、色差計(日本電色工業社製NF999)を用いて、硬化物の明度(L*)および色調(a*,b*)が測定された。
次に、上記硬化物が、最高到達温度260℃のリフロー炉を5回または10回通過した。その後、色差計を用いて、硬化物の明度(L*)および色調(a*,b*)が測定された。
測定結果から、下記式により、リフロー前後の色差を求めた。
ΔE*ab=((ΔL*(リフロー前後のL*の差))2+(Δa*(リフロー前後のa*の差))2+(Δb*(リフロー前後のb*の差))2)1/2
【0073】
結果を下記表に示す。リフロー前後の色差については、
図1にも結果を示した。
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
実施例1~10では、初期粘度(10rpm、1rpm)、24時間保管後増粘率、および注入性(50μm、20μm)が良好であった。また、リフロー前後(リフロー5回、リフロー10回)の色差も小さかった。
なお、実施例2,3では、実施例1に対し、(C)成分のアジン系染料の配合割合が変更されている。
実施例4は、実施例1に対し、(C)成分のアジン系染料が変更されている。
実施例5,6は、実施例1に対し、(A)成分のエポキシ樹脂と(B)成分の硬化剤の当量比が変更されている。
実施例7,8は、実施例1に対し、(A)成分のエポキシ樹脂が変更されている。
実施例9,10は、実施例1に対し、(B)成分の硬化剤が変更されている。
(C)成分として、入手が容易なSolvent black 7を使用した比較例1では、リフロー前後(リフロー5回、リフロー10回)の色差ΔE*abが大きく、12超であった。