(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】描画用ペースト状食品組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 23/00 20160101AFI20240717BHJP
A23L 29/219 20160101ALI20240717BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20240717BHJP
【FI】
A23L23/00
A23L29/219
A23L5/00 G
(21)【出願番号】P 2020047921
(22)【出願日】2020-03-18
【審査請求日】2022-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】713011603
【氏名又は名称】ハウス食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100193493
【氏名又は名称】藤原 健史
(72)【発明者】
【氏名】濱洲 紘介
(72)【発明者】
【氏名】櫻谷 修司
(72)【発明者】
【氏名】野平 友美
(72)【発明者】
【氏名】森下 泰
【審査官】厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-025481(JP,A)
【文献】国際公開第2012/160642(WO,A1)
【文献】特開2003-304829(JP,A)
【文献】特開2016-208882(JP,A)
【文献】特開2014-003933(JP,A)
【文献】特開2001-086928(JP,A)
【文献】特開2000-004827(JP,A)
【文献】特開2012-244940(JP,A)
【文献】特開2003-304828(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00 - 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉、油脂、調味料、及び水を含有し、
前記澱粉が加工澱粉を含み、
20℃でのせん断速度5s
-1における粘度が50Pa・s以下であり、
20℃でのせん断速度0.1s
-1における粘度が100Pa・s以上であり、
柔軟性を有するチューブ容器に収容される、描画用ペースト状食品組成物
であって、
前記澱粉の含有量が2~10質量%未満であり、前記油脂の含有量が1~20質量%である、食品組成物(ただし、チーズとウェランガムを含有するチーズソースを除く)。
【請求項2】
前記チューブ容器の容量が、20~200gである、請求項1に記載の食品組成物。
【請求項3】
前記チューブ容器から吐出された後、水で希釈されることなく喫食される、請求項1
又は2に記載の食品組成物。
【請求項4】
塩分濃度が0.5~5質量%である、請求項1~
3のいずれかに記載の食品組成物。
【請求項5】
カレーソース、シチューソース、ハヤシソース、デミグラスソース、トマトソース、パスタソース、ベシャメルソース及びホワイトソースからなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項1~
4のいずれかに記載の食品組成物。
【請求項6】
前記チューブ容器が、前記食品組成物が吐出される吐出通路を有し、
前記吐出通路の最小断面積が0.75~20mm
2である、請求項1~
5のいずれかに記載の食品組成物。
【請求項7】
前記水の含有量が、20~60質量%である、請求項1~
6のいずれかに記載の食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、描画用ペースト状食品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
子供向けの食品組成物として、描画が可能な食品組成物が知られている。例えば、特許文献1(特開2014-3933号公報)には、透明感のある文字、模様などを常温においてなめらかに描くことができ、その形状が常温でも維持されるチューブ状容器入り食品として、水飴を主成分とし、寒天を含有する流動性食材をチューブ状容器に充填した食品が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のチューブ状容器入り食品は、水飴を主成分とし、寒天を含有するものであり、デコレーション用の製菓材料を意図したものである(特許文献1、段落0006等、参照)。
【0005】
一方、食品組成物の中には、油脂、調味料、及び水を含有するもの(例えば、カレー等)も知られている。本発明者は、そのようなカレー等の食品組成物についても描画が可能になれば、子供向けの食品組成物等として有用であると考えた。特に共働きの家庭においては、子供がおなかを空かせて夕食が出来上がるのを待ち切れず、ぐずってしまう場合がある。そのような場面においても、描画可能なカレー等の食品組成物があれば、子供に、お皿にお絵描きをさせておいて後でご飯を盛り付けることができる。あるいは、あらかじめ、ご飯を盛っておき、そこへお絵描きをさせておくことができる。これにより、夕食が出来上がるまでの時間を、親も子供もストレスなく楽しく過ごせると考えられる。
【0006】
そこで、本発明の課題は、油脂、調味料、及び水を含有する食品組成物であって、描画が可能な食品組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は以下の事項を含む。
[1]澱粉、油脂、調味料、及び水を含有し、20℃でのせん断速度5s-1における粘度が50Pa・s以下であり、20℃でのせん断速度0.1s-1における粘度が100Pa・s以上であり、柔軟性を有するチューブ容器に収容される、描画用ペースト状食品組成物。
[2]前記チューブ容器の容量が、20~200gである、[1]に記載の食品組成物。
[3]前記油脂の含有量が、1~20質量%である、[1]又は[2]に記載の食品組成物。
[4]前記チューブ容器から吐出された後、水で希釈されることなく喫食される、[1]~[3]のいずれかに記載の食品組成物。
[5]塩分濃度が0.5~5質量%である、[1]~[4]のいずれかに記載の食品組成物。
[6]カレーソース、シチューソース、ハヤシソース、デミグラスソース、トマトソース、パスタソース、ベシャメルソース及びホワイトソースからなる群より選ばれる少なくとも一種である、[1]~[5]のいずれかに記載の食品組成物。
[7]前記チューブ容器が、前記食品組成物が吐出される吐出通路を有し、前記吐出通路の最小断面積が0.75~20mm2である、[1]~[6]のいずれかに記載の食品組成物。
[8]前記水の含有量が、20~60質量%である、[1]~[8]のいずれかに記載の食品組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、油脂、調味料、及び水を含有する食品組成物であって、描画が可能な食品組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について、説明する。
本実施形態に係る食品組成物は、描画用のペースト状組成物であり、チューブ容器に収容される。この食品組成物は、澱粉、油脂、調味料、及び水を含有する。また、食品組成物の20℃でのせん断速度5s-1における粘度(以下、「5s-1粘度」と称す)は、50Pa・s以下である。20℃でのせん断速度0.1s-1における粘度(以下、「0.1s-1粘度」と称す)は、100Pa・s以上である。
このような構成を採用することによって、油脂、調味料、及び水を含有する食品組成物であって、絵、文字、模様などの描画に適した食品組成物が提供される。
【0010】
「5s-1粘度」は、食品組成物の絞り出し易さを示す指標である。容易に描画可能な食品組成物を得るためには、食品組成物がチューブ容器から容易に絞り出すことのできるような物性を有していなければならない。「5s-1粘度」が50Pa・s以下であることによって、食品組成物を容易にチューブから絞り出すことができる。
「5s-1粘度」は、好ましくは、40Pa・s以下、より好ましくは33Pa・s以下である。
「5s-1粘度」の下限は、特に限定されないが、例えば1Pa・s以上、好ましくは10Pa・s以上である。
【0011】
「0.1s-1粘度」は、食品組成物の保形性を示す指標である。描画可能な食品組成物を実現するにあたっては、絞り出された後に食品組成物がその形状を維持していなければならない。「0.1s-1粘度」が100Pa・s以上であることによって、描画用の食品組成物として適切な保形性が得られる。
「0.1s-1粘度」は、好ましくは250Pa・s以上、より好ましくは400Pa・s以上である。
「0.1s-1粘度」の上限は、特に限定されないが、例えば2000Pa・s以下、好ましくは1000Pa・s以下である。
【0012】
「5s-1粘度」及び「0.1s-1粘度」は、次の方法により測定することができる。
粘弾性測定装置(例えば、HAAKE Rheo Stress6000(Thermo scientific社))を使用し、直径25mmパラレルプレートを用い、GAP1mmで、せん断速度と粘度を測定する。尚、これはあくまでも一例であり、市販の粘弾性測定装置で所定のせん断速度で粘度を測定でき、同等の結果が得られるものであれば、他の方法で測定することも可能である。
【0013】
上述のような特定の粘度は、澱粉の添加によって調整することができる。澱粉の含有量を増やすと、「5s-1粘度」及び「0.1s-1粘度」は、いずれも増加する。言い換えれば、本実施形態において、澱粉は、上記の所定の粘度が得られるような量で、添加されている。
例えば、食品組成物中の澱粉の含有量は、0.1~30質量%、好ましくは2~10質量%である。
【0014】
澱粉の種類は特に限定されるものではないが、例えば、小麦澱粉、コーンスターチ、ワキシコーンスターチ、馬鈴薯澱粉、及びタピオカ澱粉等が挙げられる。澱粉としては、未加工澱粉及び加工澱粉のいずれも使用できる。加工澱粉としては、加工処理として湿熱処理を行った澱粉;及び、加工処理として架橋や官能基付与等の化学修飾処理を行った加工澱粉などが挙げられる。澱粉は単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
油脂としては、特に限定されるものではなく、天然油脂、加工油脂、植物油脂、動物油脂及びこれらの混合物のいずれをも用いることができる。例えば、菜種油、大豆油、パーム油及びマーガリン等の植物油脂、豚脂、牛脂及びバター等の動物油脂、ならびにこれらの2種以上の混合物から選択される油脂を用いることができる。
食品組成物中の油脂の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば1~20質量%、好ましくは5~15質量%である。
【0016】
調味料としては、特に限定されるものではないが、例えば、エキス類(畜肉エキス、魚介エキス、野菜エキス、酵母エキス)、食塩等の無機塩、糖類、アスコルビン酸、リンゴ酸、クエン酸、脂肪酸等のカルボン酸等の酸、グルタミン酸ナトリウム、グリシン、アラニン等のアミノ酸類、イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウム等の核酸、スパイス類、ハーブ類等の香辛料、トマトペースト、生姜、にんにく等の植物原料、及びウスターソース等が挙げられる。
好ましくは、食品組成物は、糖類を10~50質量%の量で含む。
【0017】
本実施形態に係る食品組成物の種類は、特に限定されないが、例えば、カレーソース、シチューソース、ハヤシソース、デミグラスソース、トマトソース、パスタソース、ベシャメルソース及びホワイトソースからなる群より選ばれる少なくとも一種を用いることができる。好ましくは、食品組成物は、カレーソースである。
【0018】
食品組成物の塩分濃度は、好ましくは、0.5~5.0質量%である。塩分濃度が0.5~5.0質量%であると、パンや白飯のような穀物食品と一緒に喫食するのに適した濃度になる。塩分濃度は、より好ましくは1~3.0質量%である。この範囲にあれば、そのまま喫食するのにも適した濃度となる。
【0019】
食品組成物の水分量は、好ましくは、20~60質量%である。より好ましくは、水分量は、30~50質量%である。
【0020】
食品組成物中には、上記の成分の他にも、必要に応じて他の添加剤が加えられていてもよい。他の添加剤としては、例えば、乳化剤、着色料、及び香料等が挙げられる。
【0021】
本実施形態に係る食品組成物が充填されるチューブ容器は、柔軟性を有する容器であればよく、特に限定されるものではない。容器の柔軟性は、チューブ容器に充填されて提供される一般的な食品(例えば、チューブ容器入りの練りわさび等)に使用される容器と同程度の柔軟性であればよい。
好ましくは、チューブ容器の容量は、20~200gであることが好ましい。このような容量であれば、子供が描画する際に、扱いやすい。
また、チューブ容器は、食品組成物が吐出される吐出通路を有し、その吐出通路の最小断面積が0.75~20mm2であることが好ましい。吐出通路の最小断面積が0.75~20mm2であれば、チューブから食品組成物を絞り出した際に、描画にあたって適切な線の幅の食品組成物が吐出され、絵や文字を描く際に、細やかな描写が可能となる。好ましくは、吐出通路の断面は円形であり、その直径が1~5mmである。
【0022】
本実施形態に係る食品組成物は、既述のように描画用である。すなわち、喫食時には、食品組成物がチューブ容器から絞り出され、絵、文字、模様などが描画される。描画後、喫食される。水で希釈されて使用されるカレールウ等の原料とは異なり、本実施形態に係る食品組成物は、チューブ容器から吐出された後、水で希釈されることなく喫食される。
【0023】
本実施形態に係る食品組成物の製造方法は、特に限定されるものではない。例えば、カレーソースの場合、以下の方法により、製造することができる。
まず、各食品材料を撹拌混合しながら、混合物の温度を加熱調理し、カレーソースを調製する。そして、カレーソースをチューブ容器に充填する。その後、所定の条件で殺菌(例えば、中心温度80℃で1分間)を行う。これにより、本実施形態に係る食品組成物を得ることができる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明をより詳細に説明するため、実施例について説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されて解釈されるべきものではない。
【0025】
表1に記載の組成に従って、実施例1~5及び比較例1~2に係るペースト状の食品組成物を調製した。尚、表1に記載の値は、質量部を表す。具体的には、水、菜種油、加工澱粉(ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉)、調味料(水飴、カレーパウダー、香辛料、及びその他の調味原料)、香料、乳化剤、及び着色料を攪拌混合し、95℃に達するまで加熱調理し、カレーソースを得た。得られたカレーソースをチューブ容器に充填し、中心温度80℃で1分間、加熱殺菌した。尚、その他の調味原料としては、砂糖、食塩、グルタミン酸ナトリウム、トマトペースト、ウスターソース、チャツネ、おろし生姜、及び、おろしにんにくの混合物を用いた。食品組成物の塩分濃度は、3.5質量%であった。また、水分量は43質量%であった(水分量には、表1に記載の25質量%の水に加えて、各原料由来の水分が含まれる)。
【0026】
得られた食品組成物の「5s-1粘度」及び「0.1s-1粘度」を測定した。結果を表2に示す。
【0027】
また、得られた食品組成物を、柔軟性を有するチューブ容器に充填した。チューブ容器としては、吐出通路(断面が円形)における最小部の直径が2.5mm、断面積が約5mm2のものを用いた。また、チューブ容器の容量は、40gであった。
充填後、食品組成物をチューブから絞り出し、保形性及び絞り出し易さを評価した。保形性及び絞り出し易さは、以下の基準で評価した。結果を表2に示す。
[保形性]
◎:完全に保形出来ている
○:保形出来ている
△:やや滲んでしまうが許容できる
×:保形できない
[絞り出し易さ]
◎:とても絞り出しやすい
○:絞り出しやすい
△:やや絞り出しにくいが許容できる
×:絞り出しにくい
【0028】
表1及び表2に示されるように、加工澱粉の含有量を変えることにより、「5s-1粘度」及び「0.1s-1粘度」の値が変化した。具体的には、加工澱粉の含有量を増やすと、各せん断応力の値が増加した。
また、0.1s-1粘度が100Pa・s以上であり、5s-1粘度が50Pa・s以下である実施例1~5においては、少なくとも許容可能な保形性及び絞り出し易さが得られた。
一方で、0.1s-1粘度が100Pa・sに満たない比較例1は、保形できなかった。また、5s-1粘度が50Pa・sを超える比較例2では、絞り出しにくかった。
【0029】