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特許7521925振動検知装置、振動検知システム、振動検知プログラム及び振動検知方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】振動検知装置、振動検知システム、振動検知プログラム及び振動検知方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/34 20060101AFI20240717BHJP
   G01S 13/88 20060101ALI20240717BHJP
   G01S 13/58 20060101ALI20240717BHJP
   A61B 5/113 20060101ALI20240717BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
G01S13/34
G01S13/88
G01S13/58
A61B5/113
A61B5/11 110
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020069336
(22)【出願日】2020-04-07
(65)【公開番号】P2021165687
(43)【公開日】2021-10-14
【審査請求日】2023-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】日清紡マイクロデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】城本 一馬
(72)【発明者】
【氏名】笹原 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】及川 和夫
【審査官】藤脇 昌也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-197697(JP,A)
【文献】特開2017-203751(JP,A)
【文献】特開2019-152441(JP,A)
【文献】国際公開第2018/211948(WO,A1)
【文献】特開2020-165784(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0054438(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/42
13/00 - 13/95
A61B 5/02,5/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
FMCWレーダの送受信信号間のビート信号を取得するビート信号取得部と、
基準の送受信周期の前記ビート信号を選択するビート信号選択部と、
前記基準の送受信周期の前記ビート信号と、今回の送受信周期の前記ビート信号と、の間の差分信号(基準差分信号)の位相を算出する基準差分位相算出部と、
複数の送受信周期にわたる前記基準差分信号の位相の時間変化に基づいて、振動物標の振動周波数又は振動周期を算出する振動周波数算出部と、
を備えることを特徴とする振動検知装置。
【請求項2】
前回の送受信周期の前記ビート信号と、今回の送受信周期の前記ビート信号と、の間の差分信号(隣接差分信号)の積分値を算出する隣接差分積分値算出部、
をさらに備え、
前記振動周波数算出部は、複数の送受信周期にわたる前記隣接差分信号の積分値の時間変化に基づいて、前記振動物標の振動周波数又は振動周期を算出する
ことを特徴とする、請求項1に記載の振動検知装置。
【請求項3】
前記振動周波数算出部は、複数の送受信周期にわたる前記基準差分信号の位相の時間変化の周波数スペクトルと、複数の送受信周期にわたる前記隣接差分信号の積分値の時間変化の周波数スペクトルと、のうちの最大の周波数ピークの重みがより大きい周波数スペクトルに基づいて、前記振動物標の振動周波数又は振動周期を算出する
ことを特徴とする、請求項2に記載の振動検知装置。
【請求項4】
掃引周波数のうちの所定周波数でのドップラ信号を取得するドップラ信号取得部と、
前回の送受信周期の前記ドップラ信号と、今回の送受信周期の前記ドップラ信号と、の間の差分信号(ドップラ差分信号)の積分値を算出するドップラ積分値算出部と、
をさらに備え、
前記振動周波数算出部は、複数の送受信周期にわたる前記ドップラ差分信号の積分値の時間変化に基づいて、前記振動物標の振動周波数又は振動周期を算出する
ことを特徴とする、請求項に記載の振動検知装置。
【請求項5】
前記振動周波数算出部は、複数の送受信周期にわたる前記基準差分信号の位相の時間変化の周波数スペクトルと、複数の送受信周期にわたる前記ドップラ差分信号の積分値の時間変化の周波数スペクトルと、のうちの最大の周波数ピークの重みがより大きい周波数スペクトルに基づいて、前記振動物標の振動周波数又は振動周期を算出する
ことを特徴とする、請求項4に記載の振動検知装置。
【請求項6】
前記基準差分位相算出部は、複数の送受信周期にわたる前記基準差分信号の位相の時間変化において、位相の折り返しを補償して位相の連結性を確保する
ことを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の振動検知装置。
【請求項7】
前記ビート信号選択部は、前記振動物標が存在しないときの送受信周期の前記ビート信号を、前記基準の送受信周期の前記ビート信号として選択する
ことを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載の振動検知装置。
【請求項8】
前記ビート信号選択部は、前記FMCWレーダが較正されたときの送受信周期の前記ビート信号を、前記基準の送受信周期の前記ビート信号として選択する
ことを特徴とする、請求項1から7のいずれかに記載の振動検知装置。
【請求項9】
前記ビート信号選択部は、所定時間間隔が経過したときの送受信周期の前記ビート信号を、前記基準の送受信周期の前記ビート信号として新たに選択する
ことを特徴とする、請求項1から8のいずれかに記載の振動検知装置。
【請求項10】
前回の送受信周期の前記ビート信号と、今回の送受信周期の前記ビート信号と、の間の差分信号(隣接差分信号)の周波数を算出する隣接差分周波数算出部と、
前記隣接差分信号の周波数に基づいて、前記振動物標の距離を算出する距離算出部と、
をさらに備え、
前記ビート信号選択部は、複数の送受信周期にわたる前記振動物標の距離の時間変化が不安定になった後に再び安定になったときの送受信周期の前記ビート信号を、前記基準の送受信周期の前記ビート信号として新たに選択する
ことを特徴とする、請求項1から9のいずれかに記載の振動検知装置。
【請求項11】
前記ビート信号選択部は、複数の送受信周期にわたる前記隣接差分信号の積分値の時間変化が不安定になった後に再び安定になったときの送受信周期の前記ビート信号を、前記基準の送受信周期の前記ビート信号として新たに選択する
ことを特徴とする、請求項2又は3に記載の振動検知装置。
【請求項12】
前記ビート信号選択部は、複数の送受信周期にわたる前記ドップラ差分信号の積分値の時間変化が不安定になった後に再び安定になったときの送受信周期の前記ビート信号を、前記基準の送受信周期の前記ビート信号として新たに選択する
ことを特徴とする、請求項4又は5に記載の振動検知装置。
【請求項13】
前記振動周波数算出部は、前記振動物標の振動周波数又は振動周期として、人間又は動物の単位時間の呼吸数、単位時間の心拍数、呼吸周期又は心拍周期を検知する
ことを特徴とする、請求項1から12のいずれかに記載の振動検知装置。
【請求項14】
請求項1から13のいずれかに記載の振動検知装置と、前記FMCWレーダのレーダ送受信装置と、を備えることを特徴とする振動検知システム。
【請求項15】
FMCWレーダの送受信信号間のビート信号を取得するビート信号取得ステップと、
基準の送受信周期の前記ビート信号を選択するビート信号選択ステップと、
前記基準の送受信周期の前記ビート信号と、今回の送受信周期の前記ビート信号と、の間の差分信号(基準差分信号)の位相を算出する基準差分位相算出ステップと、
複数の送受信周期にわたる前記基準差分信号の位相の時間変化に基づいて、振動物標の振動周波数又は振動周期を算出する振動周波数算出ステップと、
をコンピュータに実行させるための振動検知プログラム。
【請求項16】
FMCWレーダの送受信信号間のビート信号を取得するビート信号取得ステップと、
基準の送受信周期の前記ビート信号を選択するビート信号選択ステップと、
前記基準の送受信周期の前記ビート信号と、今回の送受信周期の前記ビート信号と、の間の差分信号(基準差分信号)の位相を算出する基準差分位相算出ステップと、
複数の送受信周期にわたる前記基準差分信号の位相の時間変化に基づいて、振動物標の振動周波数又は振動周期を算出する振動周波数算出ステップと、
を備えることを特徴とする振動検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、振動物標の振動周波数又は振動周期を検知する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
人間又は動物の呼吸数又は心拍数を検知する技術が、特許文献1~3等に開示されている。特許文献1~3では、電波レーダを利用することにより、検知センサが人間又は動物と接触していなくても、人間又は動物が衣服を着ていても、人間又は動物が布団を被っていても、人間又は動物の呼吸数又は心拍数を検知することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5131744号明細書
【文献】特許第6029108号明細書
【文献】特許第5848469号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、ドップラレーダを利用し、ドップラ信号の周波数の時間変化に基づいて、人間又は動物の体表の速度の時間変化を算出し、人間又は動物の呼吸数又は心拍数を検知する。すると、人間又は動物が息を吸い切り又は吐き切り、人間又は動物の体表が一時的に停止すれば、人間又は動物の体表の速度は0になるため、本来の2倍の呼吸数又は心拍数を検知することがある。そして、室内、ゲージ、ベッド又は床の上等からの反射強度を除去しないため、人間又は動物の体表からの反射強度のみを抽出することができず、人間又は動物の呼吸数又は心拍数を正確に検知することができない。さらに、人間又は動物の体表の速度を算出するため、人間又は動物と他の物標とを区別することができない。
【0005】
特許文献2では、ドップラレーダを利用し、ドップラ信号の位相の時間変化に基づいて、人間又は動物の体表の距離の時間変化を算出し、人間又は動物の呼吸数又は心拍数を検知する。すると、人間又は動物が息を吸い切り又は吐き切り、人間又は動物の体表が一時的に停止しても、人間又は動物の体表の距離は維持されるため、本来の2倍の呼吸数又は心拍数を検知することがない。しかし、室内、ゲージ、ベッド又は床の上等からの反射強度を除去しないため、人間又は動物の体表からの反射強度のみを抽出することができず、人間又は動物の呼吸数又は心拍数を正確に検知することができない。ただし、人間又は動物の体表の距離を算出するため、人間又は動物と他の物標とを区別することができる。
【0006】
特許文献3では、FMCWレーダを利用し、前回の送受信周期のビート信号の周波数スペクトルと、今回の送受信周期のビート信号の周波数スペクトルと、の間の差分スペクトルの強度の時間変化に基づいて、人間又は動物の体表の速度の時間変化を算出し、人間又は動物の呼吸数又は心拍数を検知する。すると、人間又は動物が息を吸い切り又は吐き切り、人間又は動物の体表が一時的に停止すれば、人間又は動物の体表の速度は0になるため、本来の2倍の呼吸数又は心拍数を検知することがある。しかし、室内、ゲージ、ベッド又は床の上等からの反射強度を除去するため、人間又は動物の体表からの反射強度のみを抽出することができる。ただし、人間又は動物の体表の速度を算出するため、人間又は動物と他の物標とを区別することができない。そして、ビート信号を周波数変換するため、周波数変換結果に誤差が残留し、その差分結果も誤差が残留する。
【0007】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、電波レーダを利用することにより、振動物標の振動周波数又は振動周期を検知するにあたり、本来の2倍の振動物標の振動周波数を検知せず、振動物標からの反射強度のみを抽出し、振動物標と他の物標とを区別し、振動物標の振動周波数又は振動周期を正確に検知することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、特許文献2、3の各々の長所を採用することとした。ここで、FMCWレーダを利用し、「前回」の送受信周期のビート信号と、「今回」の送受信周期のビート信号と、の間の差分信号の位相の時間変化を算出しても、振動物標の「速度」の時間変化を算出するのみである。しかし、FMCWレーダを利用し、「基準」の送受信周期のビート信号と、「今回」の送受信周期のビート信号と、の間の差分信号の位相の時間変化を算出すれば、振動物標の「距離」の時間変化を算出することができる。
【0009】
具体的には、本開示は、FMCWレーダの送受信信号間のビート信号を取得するビート信号取得部と、基準の送受信周期の前記ビート信号を選択するビート信号選択部と、前記基準の送受信周期の前記ビート信号と、今回の送受信周期の前記ビート信号と、の間の差分信号(基準差分信号)の位相を算出する基準差分位相算出部と、複数の送受信周期にわたる前記基準差分信号の位相の時間変化に基づいて、振動物標の振動周波数又は振動周期を算出する振動周波数算出部と、を備えることを特徴とする振動検知装置である。
【0010】
また、本開示は、FMCWレーダの送受信信号間のビート信号を取得するビート信号取得ステップと、基準の送受信周期の前記ビート信号を選択するビート信号選択ステップと、前記基準の送受信周期の前記ビート信号と、今回の送受信周期の前記ビート信号と、の間の差分信号(基準差分信号)の位相を算出する基準差分位相算出ステップと、複数の送受信周期にわたる前記基準差分信号の位相の時間変化に基づいて、振動物標の振動周波数又は振動周期を算出する振動周波数算出ステップと、をコンピュータに実行させるための振動検知プログラムである。
【0011】
また、本開示は、FMCWレーダの送受信信号間のビート信号を取得するビート信号取得ステップと、基準の送受信周期の前記ビート信号を選択するビート信号選択ステップと、前記基準の送受信周期の前記ビート信号と、今回の送受信周期の前記ビート信号と、の間の差分信号(基準差分信号)の位相を算出する基準差分位相算出ステップと、複数の送受信周期にわたる前記基準差分信号の位相の時間変化に基づいて、振動物標の振動周波数又は振動周期を算出する振動周波数算出ステップと、を備えることを特徴とする振動検知方法である。
【0012】
これらの構成によれば、振動物標が一時的に停止しても、振動物標の距離は維持されるため、本来の2倍の振動物標の振動周波数を検知することがない。そして、周囲環境からの反射強度を除去するため、振動物標からの反射強度のみを抽出することができる。さらに、振動物標の距離を算出するため、振動物標と他の物標とを区別することができる。
【0013】
また、本開示は、前回の送受信周期の前記ビート信号と、今回の送受信周期の前記ビート信号と、の間の差分信号(隣接差分信号)の積分値を算出する隣接差分積分値算出部、をさらに備え、前記振動周波数算出部は、複数の送受信周期にわたる前記隣接差分信号の積分値の時間変化に基づいて、前記振動物標の振動周波数又は振動周期を算出することを特徴とする振動検知装置である。
【0014】
この構成によれば、FMCWレーダのビート信号間の差分信号に基づいて、振動物標の「速度」の時間変化を算出する。よって、振動物標の振動振幅が小さいときであっても、振動物標の振動周波数又は振動周期を正確に検知することができる。そして、周囲環境からの反射強度を除去するため、振動物標からの反射強度のみを抽出することができる。
【0015】
また、本開示は、前記振動周波数算出部は、複数の送受信周期にわたる前記基準差分信号の位相の時間変化の周波数スペクトルと、複数の送受信周期にわたる前記隣接差分信号の積分値の時間変化の周波数スペクトルと、のうちの最大の周波数ピークの重みがより大きい周波数スペクトルに基づいて、前記振動物標の振動周波数又は振動周期を算出することを特徴とする振動検知装置である。
【0016】
この構成によれば、本来の2倍の振動物標の振動周波数を検知することがない、基準差分信号の位相の時間変化に基づく振動検知方法と、振動物標の振動振幅が小さいときに対処することができる、隣接差分信号の積分値の時間変化に基づく振動検知方法と、のうちのいずれか一方の振動検知方法を数値指標に基づいて選択することができる。
【0017】
また、本開示は、掃引周波数のうちの所定周波数でのドップラ信号を取得するドップラ信号取得部と、前回の送受信周期の前記ドップラ信号と、今回の送受信周期の前記ドップラ信号と、の間の差分信号(ドップラ差分信号)の積分値を算出するドップラ積分値算出部と、をさらに備え、前記振動周波数算出部は、複数の送受信周期にわたる前記ドップラ差分信号の積分値の時間変化に基づいて、前記振動物標の振動周波数又は振動周期を算出することを特徴とする振動検知装置である。
【0018】
この構成によれば、FMCWレーダを多周波数ドップラレーダに見立てて、振動物標の「速度」の時間変化を算出する。よって、振動物標の振動振幅が小さいときであっても、振動物標の振動周波数又は振動周期を正確に検知することができる。そして、周囲環境からの反射強度を除去するため、振動物標からの反射強度のみを抽出することができる。
【0019】
また、本開示は、前記振動周波数算出部は、複数の送受信周期にわたる前記基準差分信号の位相の時間変化の周波数スペクトルと、複数の送受信周期にわたる前記ドップラ差分信号の積分値の時間変化の周波数スペクトルと、のうちの最大の周波数ピークの重みがより大きい周波数スペクトルに基づいて、前記振動物標の振動周波数又は振動周期を算出することを特徴とする振動検知装置である。
【0020】
この構成によれば、本来の2倍の振動物標の振動周波数を検知することがない、基準差分信号の位相の時間変化に基づく振動検知方法と、振動物標の振動振幅が小さいときに対処することができる、ドップラ差分信号の積分値の時間変化に基づく振動検知方法と、のうちのいずれか一方の振動検知方法を数値指標に基づいて選択することができる。
【0021】
また、本開示は、前記基準差分位相算出部は、複数の送受信周期にわたる前記基準差分信号の位相の時間変化において、位相の折り返しを補償して位相の連結性を確保することを特徴とする振動検知装置である。
【0022】
この構成によれば、振動物標の振動振幅がレーダ波長の半分と比べて大きいときでも、基準差分信号の位相の時間変化の連結性を確保することができる。
【0023】
また、本開示は、前記ビート信号選択部は、前記振動物標が存在しないときの送受信周期の前記ビート信号を、前記基準の送受信周期の前記ビート信号として選択することを特徴とする振動検知装置である。
【0024】
この構成によれば、振動物標が存在しないときの送受信周期のビート信号は、DC成分及び静止物標成分のみを含むため、このビート信号を基準ビート信号として選択することにより、基準差分信号の位相の時間変化を安定な周期変化として算出することができる。
【0025】
また、本開示は、前記ビート信号選択部は、前記FMCWレーダが較正されたときの送受信周期の前記ビート信号を、前記基準の送受信周期の前記ビート信号として選択することを特徴とする振動検知装置である。
【0026】
この構成によれば、FMCWレーダが較正されたときの送受信周期のビート信号は、静止物標成分のみを含むため、このビート信号を基準ビート信号として選択することにより、基準差分信号の位相の時間変化を安定な周期変化として算出することができる。
【0027】
また、本開示は、前記ビート信号選択部は、所定時間間隔が経過したときの送受信周期の前記ビート信号を、前記基準の送受信周期の前記ビート信号として新たに選択することを特徴とする振動検知装置である。
【0028】
この構成によれば、非定常な動きが少ない振動物標(寝ている人間又は弱った動物等)については、所定時間間隔が経過したときの送受信周期のビート信号は、安定な振動物標成分を含むため、このビート信号を基準ビート信号として新たに選択することにより、基準差分信号の位相の時間変化を安定な周期変化として算出することができる。
【0029】
また、本開示は、前回の送受信周期の前記ビート信号と、今回の送受信周期の前記ビート信号と、の間の差分信号(隣接差分信号)の周波数を算出する隣接差分周波数算出部と、前記隣接差分信号の周波数に基づいて、前記振動物標の距離を算出する距離算出部と、をさらに備え、前記ビート信号選択部は、複数の送受信周期にわたる前記振動物標の距離の時間変化が不安定になった後に再び安定になったときの送受信周期の前記ビート信号を、前記基準の送受信周期の前記ビート信号として新たに選択することを特徴とする振動検知装置である。
【0030】
この構成によれば、振動物標の距離の時間変化が不安定になった後に再び安定になったときの送受信周期のビート信号は、非定常な振動物標成分を含まず安定な振動物標成分を含むため、このビート信号を基準ビート信号として新たに選択することにより、基準差分信号の位相の時間変化を安定な周期変化として算出することができる。
【0031】
また、本開示は、前記ビート信号選択部は、複数の送受信周期にわたる前記隣接差分信号の積分値の時間変化が不安定になった後に再び安定になったときの送受信周期の前記ビート信号を、前記基準の送受信周期の前記ビート信号として新たに選択することを特徴とする振動検知装置である。
【0032】
この構成によれば、隣接差分信号の積分値の時間変化が不安定になった後に再び安定になったときの送受信周期のビート信号は、非定常な振動物標成分を含まず安定な振動物標成分を含むため、このビート信号を基準ビート信号として新たに選択することにより、基準差分信号の位相の時間変化を安定な周期変化として算出することができる。
【0033】
また、本開示は、前記ビート信号選択部は、複数の送受信周期にわたる前記ドップラ差分信号の積分値の時間変化が不安定になった後に再び安定になったときの送受信周期の前記ビート信号を、前記基準の送受信周期の前記ビート信号として新たに選択することを特徴とする振動検知装置である。
【0034】
この構成によれば、ドップラ差分信号の積分値の時間変化が不安定になった後に再び安定になったときの送受信周期のビート信号は、非定常な振動物標成分を含まず安定な振動物標成分を含むため、このビート信号を基準ビート信号として新たに選択することにより、基準差分信号の位相の時間変化を安定な周期変化として算出することができる。
【0035】
また、本開示は、前記振動周波数算出部は、前記振動物標の振動周波数又は振動周期として、人間又は動物の単位時間の呼吸数、単位時間の心拍数、呼吸周期又は心拍周期を検知することを特徴とする振動検知装置である。
【0036】
この構成によれば、振動物標の振動周波数又は振動周期として、人間又は動物の単位時間の呼吸数、単位時間の心拍数、呼吸周期又は心拍周期を正確に検知することができる。
【0037】
また、本開示は、以上に記載の振動検知装置と、前記FMCWレーダのレーダ送受信装置と、を備えることを特徴とする振動検知システムである。
【0038】
この構成によれば、以上に記載の効果を有するシステムを提供することができる。
【発明の効果】
【0039】
このように、本開示は、電波レーダを利用することにより、振動物標の振動周波数又は振動周期を検知するにあたり、本来の2倍の振動物標の振動周波数を検知せず、振動物標からの反射強度のみを抽出し、振動物標と他の物標とを区別し、振動物標の振動周波数又は振動周期を正確に検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】本開示の呼吸心拍検知システム設置を示す図である。
図2】本開示の呼吸心拍検知システム構成を示す図である。
図3】本開示の呼吸心拍算出手順を示す図である。
図4】本開示の基準差分信号位相に基づく呼吸心拍算出処理を示す図である。
図5】本開示の隣接差分信号積分値に基づく呼吸心拍算出処理を示す図である。
図6】本開示のドップラ差分信号積分値に基づく呼吸心拍算出処理を示す図である。
図7】本開示の呼吸数の算出結果を示す図である。
図8】本開示の心拍数及び呼吸数の算出結果を示す図である。
図9】本開示の呼吸数の算出結果を示す図である。
図10】本開示の基準差分信号位相の連結処理を示す図である。
図11】本開示の呼吸数の算出結果を示す図である。
図12】本開示の基準ビート信号選択手順を示す図である。
図13】本開示の初期状態での基準ビート信号選択処理を示す図である。
図14】本開示の測定状態での基準ビート信号選択処理を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0042】
(呼吸心拍検知システム概要)
本開示の呼吸心拍検知システム設置を図1に示す。図1の上段では、ゲージG内に動物Aが入っており、ゲージG外に呼吸心拍検知システムSが設置されている。図1の下段では、ゲージG内に動物Aが入っており、ゲージG内に呼吸心拍検知システムSが設置されている。室内に人間が寝ており、室内に呼吸心拍検知システムSが設置されてもよい。
【0043】
本開示の呼吸心拍検知システム構成を図2に示す。呼吸心拍検知システムSは、レーダ送受信装置1及び呼吸心拍検知装置2を備える。呼吸心拍検知装置2は、ビート信号取得部21、ビート信号選択部22、ドップラ信号取得部23、基準差分位相算出部24、隣接差分積分値算出部25、ドップラ積分値算出部26、隣接差分周波数算出部27、呼吸心拍算出部28及び距離算出部29を備え、図3、12に示す呼吸心拍検知プログラムをコンピュータにインストールすることにより実現することができる。
【0044】
呼吸心拍検知装置2は、本来の2倍の呼吸数又は心拍数を検知せず、人間又は動物の体表からの反射強度のみを抽出し、人間又は動物と他の物標とを区別し、人間又は動物の呼吸数又は心拍数を正確に検知する。本実施形態では、人間又は動物の単位時間の呼吸数、単位時間の心拍数、呼吸周期又は心拍周期を検知する。変形例として、エンジン、モーター、建築物又は構造物の振動周波数又は振動周期を検知してもよい。
【0045】
(呼吸心拍算出処理)
本開示の呼吸心拍算出手順を図3に示す。レーダ送受信装置1は、FMCWレーダの送信波を人間又は動物へと照射し、FMCWレーダの反射波を人間又は動物から受信し、FMCWレーダの送受信信号間のビート信号を算出する。ビート信号取得部21が、各回の送受信周期のビート信号を取得したうえで、ビート信号選択部22は、基準の送受信周期のビート信号を選択する(ステップS1、図12~14で後述)。
【0046】
呼吸心拍検知装置2は、基準差分信号位相に基づく呼吸心拍算出方法(ステップS2~S4)と、隣接差分信号積分値に基づく呼吸心拍算出方法(ステップS5~S7)と、ドップラ差分信号積分値に基づく呼吸心拍算出方法(ステップS8~S10)と、のうちのいずれかの呼吸心拍算出方法を選択する(ステップS11)。
【0047】
本開示の基準差分信号位相に基づく呼吸心拍算出処理を図4に示す。レーダ送受信装置1は、各回の送受信周期において、周波数fから周波数fまで周波数を掃引する。ビート信号取得部21は、今回の送受信周期のビート信号を取得する(ステップS2)。各回の送受信周期のビート信号B、B、B、Bは、人間又は動物の体表の距離に対応する周波数成分を有し、人間又は動物の呼吸又は心拍に対応する位相時間変化を有する。そして、室内、ゲージ、ベッド又は床の上等の静止物標の距離に対応する周波数成分も有し、レーダ送受信装置1の送受信信号のDCオフセットに対応するDC成分も有する。
【0048】
基準差分位相算出部24は、基準の送受信周期のビート信号と、今回の送受信周期のビート信号と、の間の差分信号(基準差分信号)の位相を算出する(ステップS3)。ここで、基準の送受信周期のビート信号をBとしている。各回の送受信周期の基準差分信号B-B、B-B、B-Bは、人間又は動物の体表の距離に対応する周波数成分を有し、人間又は動物の呼吸又は心拍に対応する位相時間変化を有する。しかし、室内、ゲージ、ベッド又は床の上等の静止物標の距離に対応する周波数成分を有さず、レーダ送受信装置1の送受信信号のDCオフセットに対応するDC成分を有さない。
【0049】
呼吸心拍算出部28は、複数の送受信周期にわたる基準差分信号の位相の時間変化に基づいて、人間又は動物の呼吸数又は心拍数を算出する(ステップS4、S11)。各回の送受信周期の基準差分信号B-B、B-B、B-Bの周波数スペクトルは、周波数f、f、f及び位相φ、φ、φにおいて周波数ピークを有する。位相φ、φ、φの時間変化は、人間又は動物の体表の距離変化を反映する。位相φ、φ、φの時間変化の周波数スペクトルのピーク周波数は、人間又は動物の呼吸数又は心拍数を反映する。
【0050】
すると、人間又は動物が息を吸い切り又は吐き切り、人間又は動物の体表が一時的に停止しても、人間又は動物の体表の距離は維持されるため、本来の2倍の呼吸数又は心拍数を検知することがない(図7の上段を参照)。そして、室内、ゲージ、ベッド又は床の上等の静止物標からの反射強度を除去するとともに、レーダ送受信装置1の送受信信号のDCオフセットに対応するDC成分も除去するため、人間又は動物の体表からの反射強度のみを抽出することができる。さらに、人間又は動物の体表の距離を算出するため、人間又は動物と他の物標(他の人間又は動物等)とを区別することができる。
【0051】
本開示の隣接差分信号積分値に基づく呼吸心拍算出処理を図5に示す。レーダ送受信装置1は、各回の送受信周期において、周波数fから周波数fまで周波数を掃引する。ビート信号取得部21は、今回の送受信周期のビート信号を取得する(ステップS5)。各回の送受信周期のビート信号B、B、B、Bは、人間又は動物の体表の距離に対応する周波数成分を有し、人間又は動物の呼吸又は心拍に対応する位相時間変化を有する。そして、室内、ゲージ、ベッド又は床の上等の静止物標の距離に対応する周波数成分も有し、レーダ送受信装置1の送受信信号のDCオフセットに対応するDC成分も有する。
【0052】
隣接差分積分値算出部25は、前回の送受信周期のビート信号と、今回の送受信周期のビート信号と、の間の差分信号(隣接差分信号)の積分値を算出する(ステップS6)。ここで、基準の送受信周期のビート信号を利用していない。各回の送受信周期の隣接差分信号B-B、B-B、B-Bは、人間又は動物の体表の距離に対応する周波数成分を有し、人間又は動物の呼吸又は心拍に対応する積分値時間変化を有する。しかし、室内、ゲージ、ベッド又は床の上等の静止物標の距離に対応する周波数成分を有さず、レーダ送受信装置1の送受信信号のDCオフセットに対応するDC成分を有さない。
【0053】
呼吸心拍算出部28は、複数の送受信周期にわたる隣接差分信号の積分値の時間変化に基づいて、人間又は動物の呼吸数又は心拍数を算出する(ステップS7、S11)。各回の送受信周期の隣接差分信号B-B、B-B、B-Bの積分値は、P=∫(B-B)dt、P=∫(B-B)dt、P=∫(B-B)dtである。ただし、積分値P、P、Pの時間積分は、各回の送受信周期内で行われる。積分値P、P、Pの時間変化は、人間又は動物の体表の速度変化を反映する。積分値P、P、Pの時間変化の周波数スペクトルのピーク周波数は、人間又は動物の呼吸数又は心拍数を反映する。
【0054】
このように、FMCWレーダのビート信号間の隣接差分信号に基づいて、人間又は動物の体表の速度の時間変化を算出する。よって、人間又は動物の体表の体動振幅が小さいときであっても、人間又は動物の呼吸数又は心拍数を正確に検知することができる(図8の中段を参照)。そして、室内、ゲージ、ベッド又は床の上等の静止物標からの反射強度を除去するとともに、レーダ送受信装置1の送受信信号のDCオフセットに対応するDC成分も除去するため、人間又は動物の体表からの反射強度のみを抽出することができる。
【0055】
本開示のドップラ差分信号積分値に基づく呼吸心拍算出処理を図6に示す。レーダ送受信装置1は、各回の送受信周期において、周波数fから周波数fまで周波数を掃引する。ドップラ信号取得部23は、掃引周波数f~fのうちの所定周波数f、・・・、fでの今回のドップラ信号を取得する(ステップS8)。各回の送受信周期のドップラ信号(D11、・・・D1N)、(D21、・・・D2N)、(D31、・・・D3N)、(D41、・・・D4N)は、人間又は動物の体表の速度に対応する周波数成分を有し、人間又は動物の呼吸又は心拍に対応する位相時間変化を有する。そして、室内、ゲージ、ベッド又は床の上等の静止物標の速度に対応する周波数成分も有し、レーダ送受信装置1の送受信信号のDCオフセットに対応するDC成分も有する。ただし、(Dm1、・・・DmN)は、m回目の送受信周期及び所定周波数f、・・・、fでのドップラ信号の1セットを示す。
【0056】
ドップラ積分値算出部26は、前回の送受信周期のドップラ信号と、今回の送受信周期のドップラ信号と、の間の差分信号(ドップラ差分信号)の積分値を算出する(ステップS9)。ここで、基準の送受信周期のドップラ信号を利用していない。各回の送受信周期のドップラ差分信号(D21-D11、・・・D2N-D1N)、(D31-D21、・・・D3N-D2N)、(D41-D31、・・・D4N-D3N)は、人間又は動物の体表の速度に対応する周波数成分を有し、人間又は動物の呼吸又は心拍に対応する積分値時間変化を有する。しかし、室内、ゲージ、ベッド又は床の上等の静止物標の速度に対応する周波数成分を有さず、レーダ送受信装置1の送受信信号のDCオフセットに対応するDC成分を有さない。ただし、(Dm、1-D(m-1)、1、・・・Dm、N-D(m-1)、N)は、m回目の送受信周期及び所定周波数f、・・・、fでのドップラ差分信号の1セットを示す。
【0057】
呼吸心拍算出部28は、複数の送受信周期にわたるドップラ差分信号の積分値の時間変化に基づいて、人間又は動物の呼吸数又は心拍数を算出する(ステップS10、S11)。各回の送受信周期のドップラ差分信号(D21-D11、・・・D2N-D1N)、(D31-D21、・・・D3N-D2N)、(D41-D31、・・・D4N-D3N)の積分値は、P=∫(D21-D11)dt、・・・、∫(D2N-D1N)dtのN周波数分の合計値、P=∫(D31-D21)dt、・・・、∫(D3N-D2N)dtのN周波数分の合計値、P=∫(D41-D31)dt、・・・、∫(D4N-D3N)dtのN周波数分の合計値である。ただし、積分値P、P、Pの時間積分は、各回の送受信周期内で行われる。積分値P、P、Pの時間変化は、人間又は動物の体表の速度変化を反映する。積分値P、P、Pの時間変化の周波数スペクトルのピーク周波数は、人間又は動物の呼吸数又は心拍数を反映する。
【0058】
このように、FMCWレーダを多周波数ドップラレーダに見立てて、人間又は動物の体表の速度の時間変化を算出する。よって、人間又は動物の体表の体動振幅が小さいときであっても、人間又は動物の呼吸数又は心拍数を正確に検知することができる(図8の下段を参照)。そして、室内、ゲージ、ベッド又は床の上等の静止物標からの反射強度を除去するとともに、レーダ送受信装置1の送受信信号のDCオフセットに対応するDC成分も除去するため、人間又は動物の体表からの反射強度のみを抽出することができる。
【0059】
図3~6の呼吸心拍算出処理を経て、本開示の呼吸数の算出結果を図7に示し、本開示の心拍数及び呼吸数の算出結果を図8に示し、本開示の呼吸数の算出結果を図9に示す。
【0060】
図7の上段では、図4の基準差分信号の位相φの時間変化を示す。人間又は動物が息を吸い切り又は吐き切り、人間又は動物の体表が一時的に停止しても、人間又は動物の体表の距離は維持されるため、本来の2倍の呼吸数又は心拍数を検知することがない。
【0061】
図7の中段では、図5の隣接差分信号の積分値Pの時間変化を示す。人間又は動物が息を吸い切り又は吐き切り、人間又は動物の体表が一時的に停止すれば、人間又は動物の体表の速度は0になるため、本来の2倍の呼吸数又は心拍数を検知することがある。
【0062】
図7の下段では、図6のドップラ差分信号の積分値Pの時間変化を示す。人間又は動物が息を吸い切り又は吐き切り、人間又は動物の体表が一時的に停止すれば、人間又は動物の体表の速度は0になるため、本来の2倍の呼吸数又は心拍数を検知することがある。
【0063】
図8の上段では、図4の基準差分信号の位相φの時間変化を示す。心拍による人間又は動物の体表の距離変化は小さい(左半分を参照)。呼吸による人間又は動物の体表の距離変化は大きい(右半分を参照)。人間又は動物の体表の体動振幅が小さいときにあっては、人間又は動物の呼吸数又は心拍数を正確に検知することができない。
【0064】
図8の中段では、図5の隣接差分信号の積分値Pの時間変化を示す。心拍による人間又は動物の体表の速度変化は大きい(左半分を参照)。呼吸による人間又は動物の体表の速度変化も大きい(右半分を参照)。人間又は動物の体表の体動振幅が小さいときであっても、人間又は動物の呼吸数又は心拍数を正確に検知することができる。
【0065】
図8の下段では、図6のドップラ差分信号の積分値Pの時間変化を示す。心拍による人間又は動物の体表の速度変化は大きい(左半分を参照)。呼吸による人間又は動物の体表の速度変化も大きい(右半分を参照)。人間又は動物の体表の体動振幅が小さいときであっても、人間又は動物の呼吸数又は心拍数を正確に検知することができる。
【0066】
呼吸又は心拍による人間又は動物の体表の距離変化又は速度変化が、本来は単一の周波数成分を有することに基づいて、呼吸心拍検知方法を選択することを考える。
【0067】
呼吸心拍算出部28は、複数の送受信周期にわたる基準差分信号の位相φの時間変化の周波数スペクトルと、複数の送受信周期にわたる隣接差分信号の積分値Pの時間変化の周波数スペクトルと、複数の送受信周期にわたるドップラ差分信号の積分値Pの時間変化の周波数スペクトルと、のうちの最大の周波数ピークの重みがより大きい周波数スペクトルに基づいて、人間又は動物の呼吸数又は心拍数を算出する(ステップS11)。
【0068】
図9の上段では、歪率(重み)=(ある周波数でのスペクトル強度)/(全ての周波数でのスペクトル強度の合計値)が、単一の周波数においてピークを形成している。そして、呼吸又は心拍以外の外来ノイズがない呼吸心拍検知方法を選択すればよい。
【0069】
図9の下段では、歪率(重み)=(ある周波数でのスペクトル強度)/(全ての周波数でのスペクトル強度の合計値)が、全ての周波数において強度を分散させている。そして、呼吸又は心拍以外の外来ノイズがある呼吸心拍検知方法を選択すべきでない。
【0070】
このように、本来の2倍の人間又は動物の呼吸数又は心拍数を検知することがない、基準差分信号の位相φの時間変化に基づく振動検知方法と、人間又は動物の体表の体動振幅が小さいときに対処することができる、隣接差分信号の積分値Pの時間変化に基づく振動検知方法と、人間又は動物の体表の体動振幅が小さいときに対処することができる、ドップラ差分信号の積分値Pの時間変化に基づく振動検知方法と、のうちのいずれかの振動検知方法を数値指標に基づいて選択することができる。
【0071】
本開示の基準差分信号位相の連結処理を図10に示す。図10の基準差分信号位相の連結処理を経て、本開示の呼吸数の算出結果を図11に示す。
【0072】
図10の左欄では、動物Aの体表の体動振幅がレーダ波長の半分と比べて大きい場合には、動物Aの体表が呼吸心拍検知システムSに接近する段階で、基準差分信号の位相φの時間変化は、180°から270°を経て360°を超え、360°を超えたときに0°に折り返され、値の飛びが発生するため連結性が確保されない。
【0073】
図10の右欄では、動物Aの体表の体動振幅がレーダ波長の半分と比べて大きい場合には、動物Aの体表が呼吸心拍検知システムSを離反する段階で、基準差分信号の位相φの時間変化は、180°から90°を経て0°を超え、0°を超えたときに360°に折り返され、値の飛びが発生するため連結性が確保されない。
【0074】
よって、図11の位相連結前では、動物Aの体表の体動振幅がレーダ波長の半分と比べて大きい場合には、基準差分信号の位相φの時間変化は適切に周波数変換されないため、動物Aの呼吸数又は心拍数を正確に検知することができない。
【0075】
図10の左欄では、動物Aの体表の体動振幅がレーダ波長の半分と比べて大きい場合には、動物Aの体表が呼吸心拍検知システムSに接近する段階で、基準差分位相算出部24は、基準差分信号の位相φの時間変化において、位相360°から位相0°への折り返しを補償して位相360°での連結性を確保する(ステップS11)。
【0076】
図10の右欄では、動物Aの体表の体動振幅がレーダ波長の半分と比べて大きい場合には、動物Aの体表が呼吸心拍検知システムSを離反する段階で、基準差分位相算出部24は、基準差分信号の位相φの時間変化において、位相0°から位相360°への折り返しを補償して位相0°での連結性を確保する(ステップS11)。
【0077】
よって、図11の位相連結後では、動物Aの体表の体動振幅がレーダ波長の半分と比べて大きい場合でも、基準差分信号の位相φの時間変化は適切に周波数変換されるため、動物Aの呼吸数又は心拍数を正確に検知することができる。ただし、図11の位相連結後では、図11の位相連結前と異なり、トレンド成分を除去することが望ましい。
【0078】
本実施形態では、レーダ送受信装置1の送受信信号のDCオフセットに対応するDC成分を除去する。よって、以上に記載の効果に加えて、人間又は動物の体表の距離が0mに近いときであっても、人間又は動物の呼吸数又は心拍数を正確に検知することができる。
【0079】
本実施形態では、各回の送受信周期間の間隔を任意の間隔に設定する。ここで、以上に記載の効果に加えて、各回の送受信周期間の間隔を短い/長い間隔に設定するときには、人間又は動物の体表の速い/遅い体動を選択的に検知することができる。
【0080】
(基準ビート信号選択処理)
本開示の基準ビート信号選択手順を図12に示す。ビート信号取得部21が、各回の送受信周期のビート信号を取得したうえで、ビート信号選択部22は、基準の送受信周期のビート信号を選択するにあたり(ステップS1)、ステップS21~28を実行する。
【0081】
本開示の初期状態での基準ビート信号選択処理を図13に示す。図13では、初期状態での基準ビート信号選択時として、人間又は動物の不存在時及びFMCWレーダの較正時及び所定時間間隔経過時(所定時間間隔経過時は測定状態でも発生する。)を挙げる。
【0082】
ビート信号選択部22は、人間H又は動物Aが存在しないときの送受信周期のビート信号を、基準の送受信周期のビート信号として選択する(ステップS21、NO、S28)。ビート信号選択部22は、人間H又は動物Aが存在するときには(ステップS21、YES)、基準の送受信周期のビート信号を選択せず、ステップS22を実行する。
【0083】
すると、人間又は動物が存在しないときの送受信周期のビート信号は、DC成分及び静止物標成分のみを含むため、このビート信号を基準ビート信号として選択することにより、基準差分信号の位相φの時間変化を安定な周期変化として算出することができる。
【0084】
ビート信号選択部22は、FMCWレーダが較正されたときの送受信周期のビート信号を、基準の送受信周期のビート信号として選択する(ステップS22、YES、S28)。ビート信号選択部22は、FMCWレーダが較正されていないときには(ステップS22、NO)、基準の送受信周期のビート信号を選択せず、ステップS23を実行する。
【0085】
すると、FMCWレーダが較正されたときの送受信周期のビート信号は、静止物標成分のみを含むため、このビート信号を基準ビート信号として選択することにより、基準差分信号の位相φの時間変化を安定な周期変化として算出することができる。
【0086】
ビート信号選択部22は、所定時間間隔が経過したときの送受信周期のビート信号を、基準の送受信周期のビート信号として新たに選択する(ステップS23、YES、S28)。ビート信号選択部22は、所定時間間隔が経過していないときには(ステップS23、NO)、基準の送受信周期のビート信号を維持して、ステップS24を実行する。
【0087】
すると、非定常な動きが少ない人間又は動物(寝ている人間又は弱った動物等)については、所定時間間隔が経過したときの送受信周期のビート信号は、安定な呼吸又は心拍の成分を含むため、このビート信号を基準ビート信号として新たに選択することにより、基準差分信号の位相φの時間変化を安定な周期変化として算出することができる。
【0088】
本開示の測定状態での基準ビート信号選択処理を図14に示す。図14では、測定状態での基準ビート信号選択時として、人間又は動物の寝返り後しばらく後を挙げる。
【0089】
隣接差分周波数算出部27は、前回の送受信周期のビート信号と、今回の送受信周期のビート信号と、の間の差分信号(隣接差分信号)の周波数を算出する。距離算出部29は、隣接差分信号の周波数に基づいて、人間又は動物の体表の距離dを算出する。
【0090】
ビート信号選択部22は、複数の送受信周期にわたる人間又は動物の体表の距離dの時間変化が不安定になった後に(ステップS24、YES)、再び安定になったとき(ステップS25、YES)の送受信周期のビート信号を、基準の送受信周期のビート信号として新たに選択する(ステップS28、実際には、ステップS26、S27を経た後)。
【0091】
ビート信号選択部22は、複数の送受信周期にわたる人間又は動物の体表の距離dの時間変化が不安定になっていないときには(ステップS24、NO)、基準の送受信周期のビート信号を維持して、ステップS26を実行する。ビート信号選択部22は、複数の送受信周期にわたる人間又は動物の体表の距離dの時間変化が再び安定になるまで(ステップS25、NO)、基準の送受信周期のビート信号を新たに選択しない。
【0092】
図14では、人間Hが正面向き→寝返り→横向き→寝返り→後ろ向きと変化するにつれて、人間Hの体表の距離dの時間変化は安定している。よって、ビート信号選択部22は、人間Hの体表の距離dの時間変化に基づいて、基準の送受信周期のビート信号を新たに選択していない。なお、人間Hの体表の距離dの時間変化が安定しているかどうかは、人間Hが寝ているか座っているか動いているか等に応じて、人間Hの体表の距離dの変動幅が適切な閾値を超えているかどうかに基づいて、判定することができる。
【0093】
すると、人間又は動物の体表の距離dの時間変化が不安定になった後に再び安定になったときの送受信周期のビート信号は、非定常な寝返り等の成分を含まず安定な呼吸又は心拍の成分を含むため、このビート信号を基準ビート信号として新たに選択することにより、基準差分信号の位相φの時間変化を安定な周期変化として算出することができる。
【0094】
ビート信号選択部22は、複数の送受信周期にわたる隣接差分信号又はドップラ差分信号の積分値Pの時間変化が不安定になった後に(ステップS26、YES)、再び安定になったとき(ステップS27、YES)の送受信周期のビート信号を、基準の送受信周期のビート信号として新たに選択する(ステップS28)。
【0095】
ビート信号選択部22は、複数の送受信周期にわたる隣接差分信号又はドップラ差分信号の積分値Pの時間変化が不安定になっていないときには(ステップS26、NO)、基準の送受信周期のビート信号を維持する。ビート信号選択部22は、複数の送受信周期にわたる隣接差分信号又はドップラ差分信号の積分値Pの時間変化が再び安定になるまで(ステップS27、NO)、基準の送受信周期のビート信号を新たに選択しない。
【0096】
図14では、人間Hが寝返りを打つときには、隣接差分信号又はドップラ差分信号の積分値Pの時間変化は安定していないが、人間Hが正面向き、横向き又は後ろ向きであるときには、隣接差分信号又はドップラ差分信号の積分値Pの時間変化は安定している。よって、ビート信号選択部22は、人間Hが正面向き、横向き又は後ろ向きになったしばらく後に、基準の送受信周期のビート信号を新たに選択している。なお、隣接差分信号又はドップラ差分信号の積分値Pの時間変化が安定しているかどうかは、(1)人間Hが寝ているか座っているか動いているか等に応じて、隣接差分信号又はドップラ差分信号の積分値Pの変動幅が適切な閾値を超えているかどうかに基づいて、判定することができ、(2)呼吸若しくは心拍の周期又はこれらの約半分の周期(本来の2倍の呼吸数又は心拍数を考慮)が検知されているかどうかに基づいて、判定することもできる。
【0097】
すると、隣接差分信号又はドップラ差分信号の積分値Pの時間変化が不安定になった後に再び安定になったときの送受信周期のビート信号は、非定常な寝返り等の成分を含まず安定な呼吸又は心拍の成分を含むため、このビート信号を基準ビート信号として新たに選択することにより、基準差分信号の位相φの時間変化を安定な周期変化として算出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本開示の振動検知装置、振動検知システム、振動検知プログラム及び振動検知方法は、振動物標の振動周波数又は振動周期として、人間又は動物の単位時間の呼吸数、単位時間の心拍数、呼吸周期又は心拍周期を正確に検知することができるとともに、エンジン、モーター、建築物又は構造物の振動周波数又は振動周期を正確に検知することができる。
【符号の説明】
【0099】
S:呼吸心拍検知システム
G:ゲージ
A:動物
H:人間
1:レーダ送受信装置
2:呼吸心拍検知装置
21:ビート信号取得部
22:ビート信号選択部
23:ドップラ信号取得部
24:基準差分位相算出部
25:隣接差分積分値算出部
26:ドップラ積分値算出部
27:隣接差分周波数算出部
28:呼吸心拍算出部
29:距離算出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14