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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】レーザー加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/18 20060101AFI20240717BHJP
   B23K 26/142 20140101ALI20240717BHJP
   B23K 26/146 20140101ALI20240717BHJP
   B23K 26/364 20140101ALI20240717BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
B23K26/18
B23K26/142
B23K26/146
B23K26/364
H01L21/78 B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020174049
(22)【出願日】2020-10-15
(65)【公開番号】P2022065451
(43)【公開日】2022-04-27
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(74)【代理人】
【識別番号】100202692
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 吉文
(72)【発明者】
【氏名】波多野 雄二
(72)【発明者】
【氏名】能丸 圭司
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-130552(JP,A)
【文献】特開2013-258232(JP,A)
【文献】特開2018-125448(JP,A)
【文献】特開2008-112142(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/18
B23K 26/142
B23K 26/146
B23K 26/364
H01L 21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウエーハを保持する保持手段と、該保持手段に保持されたウエーハの上面側に水の層を形成する水層形成手段と、ウエーハに対して吸収性を有する波長のレーザー光線を照射してウエーハを加工するレーザー光線照射手段と、該保持手段と該レーザー光線照射手段とを相対的に加工送りする加工送り手段と、を少なくとも含み構成されたレーザー加工装置を用いたレーザー加工方法であって、
ウエーハの上面側にレーザー光線の散乱光を遮蔽する散乱光遮蔽膜を積層させる散乱光遮蔽膜積層工程と、
ウエーハの下面側を保持手段に保持する保持工程と、
水層形成手段によりウエーハの上面側に水の層を形成すると共に、該保持手段と該レーザー光線照射手段とを相対的に移動しながら、該散乱光遮蔽膜が積層されたウエーハの加工すべき領域にレーザー光線を照射するレーザー加工工程と、
該レーザー加工工程が終了したウエーハから散乱光遮蔽膜を除去する散乱光遮蔽膜除去工程と、
を含み構成され
該散乱光遮蔽膜積層工程において、Si、Ge、又はAlの少なくともいずれかを蒸着、又はスパッタによって散乱光遮蔽膜を積層させるレーザー加工方法。
【請求項2】
該散乱光遮蔽膜除去工程において、研磨によってウエーハから散乱光遮蔽膜を除去する請求項1に記載のレーザー加工方法。
【請求項3】
該散乱光遮蔽膜積層工程において、蒸着、又はスパッタによって散乱光遮蔽膜を積層させる前にウエーハの上面側に樹脂膜を被覆する請求項2に記載のレーザー加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー加工装置を用いたレーザー加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IC、LSI等の複数のデバイスが分割予定ラインによって区画され表面に形成されたウエーハは、レーザー加工装置によって個々のデバイスチップに分割され、携帯電話、パソコン、照明機器等の電気機器に利用される。
【0003】
従来、保持手段に保持されたウエーハに対して吸収性を有する波長のレーザー光線を照射して加工を実施する前に、ウエーハの表面に液状樹脂を被覆して、レーザー光線を照射する際に発生する溶融物(デブリ)のデバイスへの付着を防止することが知られている(例えば特許文献1を参照)。
【0004】
また、ウエーハを保持する保持手段と、該保持手段に保持されたウエーハの上面に水の層を形成する水層形成手段と、ウエーハに対して吸収性を有する波長のレーザー光線を照射してウエーハを加工するレーザー光線照射手段と、該保持手段と該レーザー光線照射手段とを相対的に加工送りする加工送り手段と、を少なくとも含み構成されたタイプのレーザー加工装置が本出願人によって提案されている(例えば特許文献2を参照)。
【0005】
上記した特許文献2に記載の技術によれば、ウエーハを水没させることによって、レーザー加工の際に生じるデブリがウエーハの上面に付着することが防止され、さらに、レーザー光線の照射によって水中で発生する微細な泡(キャビテーション)が発生することで、レーザー加工の促進を妨げるデブリを加工溝から掻き出す効果があることに加え、個々に分割されるデバイスチップの抗折強度を向上させる効果があることが判明している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-188475号公報
【文献】特開2019-069465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記したように、ウエーハの上面に水の層を形成し、ウエーハに対して吸収性を有する波長のレーザー光線を照射してウエーハを加工した場合、該キャビテーションがレーザー光線の一部を散乱させることから、所望の加工位置(例えば分割予定ライン)以外の箇所にレーザー光線の一部が照射されて、デバイスの品質を低下させるという問題がある。
【0008】
本発明は、上記事実に鑑みなされたものであり、その主たる技術課題は、水中に微細な泡が発生し、照射されるレーザー光線が散乱しても、ウエーハの表面に形成されたデバイスに損傷を与えることがなく、個々に分割されるデバイスの品質を低下させることがないレーザー加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記主たる技術課題を解決するため、本発明によれば、ウエーハを保持する保持手段と、該保持手段に保持されたウエーハの上面側に水の層を形成する水層形成手段と、ウエーハに対して吸収性を有する波長のレーザー光線を照射してウエーハを加工するレーザー光線照射手段と、該保持手段と該レーザー光線照射手段とを相対的に加工送りする加工送り手段と、を少なくとも含み構成されたレーザー加工装置を用いたレーザー加工方法であって、ウエーハの上面側にレーザー光線の散乱光を遮蔽する散乱光遮蔽膜を積層させる散乱光遮蔽膜積層工程と、ウエーハの下面側を保持手段に保持する保持工程と、水層形成手段によりウエーハの上面側に水の層を形成すると共に、該保持手段と該レーザー光線照射手段とを相対的に移動しながら、該散乱光遮蔽膜が積層されたウエーハの加工すべき領域にレーザー光線を照射するレーザー加工工程と、該レーザー加工工程が終了したウエーハから散乱光遮蔽膜を除去する散乱光遮蔽膜除去工程と、を含み構成され、該散乱光遮蔽膜積層工程において、Si、Ge、又はAlの少なくともいずれかを蒸着、又はスパッタによって散乱光遮蔽膜を積層させるレーザー加工方法が提供される。
【0010】
散乱光遮蔽膜積層工程において、Si、Ge、又はAlの少なくともいずれかを蒸着、又はスパッタによって散乱光遮蔽膜を積層させた場合は、該散乱光遮蔽膜除去工程において、研磨によってウエーハから該散乱光遮蔽膜を除去することが好ましい。
【0012】
該散乱光遮蔽膜積層工程において、蒸着、又はスパッタによって散乱光遮蔽膜を積層させる前にウエーハの上面側に樹脂膜を被覆するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、ウエーハを保持する保持手段と、該保持手段に保持されたウエーハの上面側に水の層を形成する水層形成手段と、ウエーハに対して吸収性を有する波長のレーザー光線を照射してウエーハを加工するレーザー光線照射手段と、該保持手段と該レーザー光線照射手段とを相対的に加工送りする加工送り手段と、を少なくとも含み構成されたレーザー加工装置を用いたレーザー加工方法であって、ウエーハの上面側にレーザー光線の散乱光を遮蔽する散乱光遮蔽膜を積層させる散乱光遮蔽膜積層工程と、ウエーハの下面側を保持手段に保持する保持工程と、水層形成手段によりウエーハの上面側に水の層を形成すると共に、該保持手段と該レーザー光線照射手段とを相対的に移動しながら、該散乱光遮蔽膜が積層されたウエーハの加工すべき領域にレーザー光線を照射するレーザー加工工程と、該レーザー加工工程が終了したウエーハから散乱光遮蔽膜を除去する散乱光遮蔽膜除去工程と、を含み構成され、該散乱光遮蔽膜積層工程において、Si、Ge、又はAlの少なくともいずれかを蒸着、又はスパッタによって散乱光遮蔽膜を積層させるので、ウエーハの上面に水の層を形成し、ウエーハに対して吸収性を有する波長のレーザー光線を照射してウエーハを加工する場合において、水の層に生じる微細な泡(キャビテーション)が、レーザー光線の一部を散乱させても、ウエーハの表面に形成された散乱光遮蔽膜によってデバイスに損傷が生じることが防止され、デバイスの品質が低下するという問題が解消する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】レーザー加工装置の全体斜視図である。
図2図1に示すレーザー加工装置の一部を分解して示す分解斜視図である。
図3図1に示すレーザー加工装置に装着される(a)液体層形成器の斜視図、及び(b)液体層形成器を分解して示す分解斜視図である。
図4】散乱光遮蔽膜積層工程の実施態様を示す概念図である。
図5】保持工程の実施態様を示す斜視図である。
図6】(a)レーザー加工工程の実施態様を示す斜視図、(b)(a)に示す実施態様の一部拡大断面図である。
図7図6(b)に示すレーザー加工工程の実施態様をさらに拡大して示す一部拡大断面図である。
図8】散乱光遮蔽膜除去工程の実施態様を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に基づいて構成されるレーザー加工方法における実施形態について添付図面を参照しながら、詳細に説明する。
【0016】
図1には、本実施形態のレーザー加工方法を実施するのに好適なレーザー加工装置2の斜視図が示されている。レーザー加工装置2は、基台21上に配置され、板状の被加工物(ウエーハ)上に液体を供給する液体供給機構4と、該被加工物に対して吸収性を有する波長のレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段8と、該被加工物を保持する保持手段22と、レーザー光線照射手段8と保持手段22とを相対的に移動させる移動手段23と、基台21上の移動手段23の側方に矢印Zで示すZ方向に立設される垂直壁部261、及び垂直壁部261の上端部から水平方向に延びる水平壁部262からなる枠体26と、を備えている。
【0017】
枠体26の水平壁部262の内部には、レーザー光線照射手段8を構成するレーザー発振器等を含む光学系(図示は省略する)が収容されている。水平壁部262の先端部下面側には、レーザー光線照射手段8の一部を構成する集光器86が配設されると共に、集光器86に対して図中矢印Xで示す方向で隣接する位置にアライメント手段90が配設される。
【0018】
アライメント手段90は、保持手段22を構成するチャックテーブル34に保持される被加工物を撮像してレーザー加工を施すべき領域を検出し、集光器86と、被加工物の加工位置との位置合わせを行うために利用される。アライメント手段90には、被加工物の上面を撮像する適宜の撮像素子(CCD)が備えられるが、例えば、赤外線を照射する赤外線照射手段と、赤外線照射手段により照射された赤外線を捕える光学系と、該光学系が捕えた赤外線に対応する電気信号を出力する撮像素子(赤外線CCD)とを含む。なお、上記したレーザー加工装置2は、説明の都合上省略されたハウジング等により全体が覆われて密封されており、内部に粉塵や埃等が入らないように構成される。
【0019】
図1に加え図2を参照しながら、本実施形態に係るレーザー加工装置2について、さらに詳細に説明する。図2は、図1に記載されたレーザー加工装置2において、液体供給機構4の一部を構成する液体回収プール60をレーザー加工装置2から取り外し、かつ一部を分解した状態を示す斜視図である。
【0020】
保持手段22は、図2に示すように、矢印Xで示すX方向において移動自在に基台21に搭載された矩形状のX方向可動板30と、矢印Yで示すX方向と直交するY方向において移動自在にX方向可動板30に搭載された矩形状のY方向可動板31と、Y方向可動板31の上面に固定された円筒状の支柱32と、支柱32の上端に固定された矩形状のカバー板33とを含む。カバー板33にはカバー板33上に形成された長穴を通って上方に延びるチャックテーブル34が配設されている。チャックテーブル34は、板状の被加工物を保持し、図示しない回転駆動手段により回転可能に構成される。チャックテーブル34には、通気性を有する多孔質材料から形成され実質上水平に延在する円形状の吸着チャック35が配設されている。吸着チャック35は、支柱32を通る流路によって図示しない吸引手段に接続されており、吸着チャック35の周囲には、間隔をおいてクランプ36が4つ配置されている。吸着チャック35の上面を規定するX方向、Y方向で規定される平面は実質上水平面を構成する。
【0021】
移動手段23は、X方向移動手段231と、Y方向移動手段232と、を含む。X方向移動手段231は、モータ231aの回転運動を、ボールねじ231bを介して直線運動に変換してX方向可動板30に伝達し、基台21上の案内レール27、27に沿ってX方向可動板30をX方向において進退させる。Y方向移動手段232は、モータ232aの回転運動を、ボールねじ232bを介して直線運動に変換してY方向可動板31に伝達し、X方向可動板30上の案内レール37、37に沿ってY方向可動板31をY方向において進退させる。なお、図示は省略するが、チャックテーブル34、X方向移動手段231、及びY方向移動手段232には、それぞれ位置検出手段が配設されており、チャックテーブル34のX方向の位置、Y方向の位置、周方向の回転位置が正確に検出され、X方向移動手段231、Y方向移動手段232、及び図示しないチャックテーブル34の回転駆動手段が駆動されることで、チャックテーブル34を任意の位置および角度に正確に位置付けることが可能になっている。上記したX方向移動手段231が、保持手段22を加工送り方向に移動させる加工送り手段であり、Y方向移動手段232が、保持手段22を割り出し送り方向に移動させる割り出し送り手段となる。
【0022】
図1図2に加え、図3も参照しながら、液体供給機構4について説明する。液体供給機構4は、図1に示すように、被加工物の上面側に水の層を形成する水層形成手段として配設される液体層形成器40と、液体供給ポンプ44と、濾過フィルター45と、液体回収プール60と、液体層形成器40及び液体供給ポンプ44を接続するパイプ46aと、液体回収プール60及び濾過フィルター45を接続するパイプ46bと、を備えている。なお、パイプ46a、パイプ46bは、部分的に、あるいは、全体をフレキシブルホースで形成されていることが好ましい。
【0023】
図3(a)に示すように、液体層形成器40は、集光器86の下端部に配設される。液体層形成器40の分解斜視図を示す図3(b)から理解されるように、液体層形成器40は、筐体42と、筐体42に液体を供給する液体供給部43とから構成される。筐体42は、平面視で略矩形状をなし、筐体上部部材421と、筐体下部部材422とにより構成される。
【0024】
筐体上部部材421は、図中矢印Yで示すY方向において、二つの領域421a、421bに分けられ、図中奥側の領域421aには、集光器86を挿入するための円形の開口部421cが形成され、手前側の領域421bには、板状部421dが形成される。筐体下部部材422において、筐体上部部材421の開口部421cと対向する領域には、平面視で開口部421cと配設位置、形状が一致する円筒状の開口部422aが形成される。開口部422aの底部には、円板形状の透明部423が備えられており、開口部422aの底部を閉塞している。透明部423は、後述するレーザー光線LBの通過を許容する性質を備えるものであり、例えば、ガラス板から形成される。筐体下部部材422において、筐体上部部材421の板状部421dと対向する領域には、筐体42の底壁422dから液体を噴出するための液体流路部422bが形成される。液体流路部422bは、筐体上部部材421の板状部421dと、側壁422cと、底壁422dとにより形成される空間である。流体流路部422bの底壁422dには、図中矢印Xで示す加工送り方向に延びるスリット状の噴出口422eが形成され、液体供給部43が連結される側の側壁には、液体流路部422bに液体を供給するための液体供給口422fが形成される。上記した透明部423の下面は、加工送り方向に延びるスリット状の噴出口422eと面一で形成されており、透明部423が筐体下部部材422の底壁422dの一部を形成する。
【0025】
液体供給部43は、水Wが供給される供給口43aと、筐体42に形成される液体供給口422fと対向する位置に形成される排出口(図示は省略)と、供給口43aと該排出口とを連通する連通路(図示は省略)と、を備えている。この液体供給部43を筐体42の液体供給口422fが開口する側壁に対しY方向から組み付けることにより、液体層形成器40が形成される。なお、本実施形態において供給される水Wは純水であるが、必ずしも純水であることに限定されず、水を主成分とする液体であれば、他の液体が添加されたものも含まれる。
【0026】
液体層形成器40は、上記したような構成を備えており、図1に示す液体供給ポンプ44から吐出された水Wが、液体供給部43の供給口43aを経て、筐体42の液体供給口422fに供給され、筐体42の液体流路部422bを流れ、底壁422dに形成された噴出口422eから外部に放出される。液体層形成器40は、図1に示すように、液体供給部43と筐体42とが、図中Y方向に沿うように集光器86の下端部に取り付けられる。これにより、筐体42の底壁422dに形成される噴出口422eは、加工送り方向であるX方向に沿って延びるように位置付けられる。
【0027】
図1、及び図2に戻り、液体回収プール60について説明する。図2に示すように、液体回収プール60は、外枠体61と、二つの防水カバー66を備えている。
【0028】
外枠体61は、図中矢印Xで示すX方向に延びる外側壁62aと、図中矢印Yで示すY方向に延びる外側壁62bと、外側壁62a、及び62bの内側に所定間隔をおいて平行に配設される内側壁63a、63bと、外側壁62a、62b、及び内側壁63a、63bの下端を連結する底壁64とを備える。外側壁62a、62b、内側壁63a、63b、及び底壁64により、長手方向がX方向に沿い、短手方向がY方向に沿う長方形の液体回収路70が形成される。液体回収路70を構成する内側壁63a、63bの内側には、上下に貫通する開口が形成される。液体回収路70を構成する底壁64には、X方向、及びY方向において微少な傾斜が設けられており、液体回収路70の最も低い位置となる角部(図中左方の隅部)には、液体排出孔65が配設される。液体排出孔65には、パイプ46bが接続され、パイプ46bを介して濾過フィルター45に接続される(図1も併せて参照)。なお、外枠体61は、全体が腐食や錆に強いステンレス製の板材により形成されることが好ましい。
【0029】
二つの防水カバー66は、門型形状からなる固定金具66aと、固定金具66aを両端に固着される蛇腹状の樹脂製のカバー部材66bと、を備えている。固定金具66aは、Y方向において対向して配設される外枠体61の二つの内側壁63aを跨ぐことができる寸法で形成されている。二つの防水カバー66の固定金具66aの一方は、それぞれ、外枠体61のX方向において対向するように配設される内側壁63bに固定される。このように構成された液体回収プール60は、レーザー加工装置2の基台21上に図示しない固定具により固定される。保持手段22のカバー板33は、二つの防水カバー66の固定金具66a同士で挟まれて固定される。なお、カバー部材33のX方向における端面は、固定金具66aと同一の門型形状をなしており、固定金具66aと同様に、外枠体61の内側壁63aをY方向で跨ぐ寸法である。上記した構成によれば、カバー板33がX方向移動手段231によってX方向に移動されると、カバー板33は、液体回収プール60の内側壁63aに沿って移動する。
【0030】
図1に戻り説明を続けると、液体供給機構4は、上記した構成を備えていることにより、液体供給ポンプ44の吐出口44aから吐出された水Wが、パイプ46aを経由して、液体層形成器40に供給される。液体層形成器40に供給された水Wは、液体層形成器40の筐体42の底壁422dに形成された噴出口422eから下方に向け噴出される。液体層形成器40から噴出された水Wは、カバー板33、もしくは、防水カバー66上を流れ、液体回収プール60に流下する。液体回収プール60に流下した水Wは、液体回収路70を流れ、液体回収路70の最も低い位置に設けられた液体排出孔65に集められる。液体排出孔65に集められた水Wは、パイプ46bを経由して濾過フィルター45に導かれ、濾過フィルター45にて、レーザー加工によって発生する溶融物(デブリ)や塵、埃等が取り除かれて、液体供給ポンプ44に戻される。このようにして、液体供給ポンプ44によって吐出された水Wが液体供給機構4内を循環する。
【0031】
上記したレーザー加工装置2は、概ね上記したとおりの構成を備えており、レーザー加工装置2を使用して実施される本実施形態のレーザー加工方法について、以下に説明する。
【0032】
本実施形態のレーザー加工方法において加工される被加工物は、例えば、図4の左方側に示すように、複数のデバイス12が分割予定ライン14によって区画され表面10aに形成されたシリコンのウエーハ10である。ウエーハ10を用意したならば、ウエーハ10の上面(表面10a)に、後述するレーザー加工工程において照射されるレーザー光線LBの散乱光を遮蔽する散乱光遮蔽膜114を積層させる散乱光遮蔽膜積層工程を実施すべく、図中中央に示す蒸着装置100に搬送する。蒸着装置100は、真空ポンプ102によって内部が真空にされる真空チャンバー101を備えている。真空チャンバー101内には、ウエーハ10を下面に支持すると共に加熱手段(図示は省略)を備えた支持プレート103と、支持プレート103の下方に載置され、電子ビーム発生装置105から照射される電子ビームBにより成膜材料110が加熱されるるつぼ104と、を備えている。本実施形態における成膜材料110は、例えばシリコン(Si)である。
【0033】
蒸着装置100に搬送されたウエーハ10は、表面10a側を下方に向けられて、裏面10b側を支持プレート103の下面に貼着され保持される。真空ポンプ102を作動して、真空チャンバー101内の空気を排出し、真空チャンバー101内を真空になるまで減圧したならば、電子ビーム発生装置105を作動して、電子ビームBを成膜材料110に照射して加熱し蒸発によりSi分子112を放出させて、ウエーハ10の表面10aに積層させ、散乱光遮蔽膜114を形成する。なお、電子ビーム発生装置105から放たれる電子ビームBは図示を省略する走査用コイルによりその軌道が制御されて成膜材料110へと放射される。ウエーハ10の表面10aに形成する散乱光遮蔽膜114の厚さは、例えば、0.1~0.5μmである。この散乱光遮蔽膜114の厚さは、後述するレーザー光線LBが水泡によって散乱して散乱光として入射しても、ウエーハ10のデバイス12がダメージを受けず、且つ、レーザー光線LBが直進してウエーハ10に照射された場合に、アブレーション加工がなされて所望の加工溝が形成される厚さである。
【0034】
ウエーハ10の表面10aに、上記散乱光遮蔽膜114を形成したならば、蒸着装置100からウエーハ10を搬出し(図中右方側を参照)、散乱光遮蔽膜積層工程が完了する。なお、蒸着装置100によって形成する散乱光遮蔽膜114は、上記したSiに限定されず、ゲルマニウム(Ge)、アルミニウム(Al)であってもよい。また、ウエーハ10の表面10aに散乱光遮蔽膜114を形成する具体的手段は、上記した蒸着に限定されず、周知のスパッタによって形成することもできる。
【0035】
次いで、散乱光遮蔽膜積層工程が施され蒸着装置100から搬出されたウエーハ10を、上記したレーザー加工装置2に搬送し、図5に示すように、図2に基づき説明したレーザー加工装置2の保持手段22を構成するチャックテーブル34に、ウエーハ10の下面(裏面10b)側を載置して、図示を省略する吸引手段を作動して保持する(保持工程)。なお、本実施形態では、保持工程を実施するに際し、ウエーハ10を収容可能な開口Faを有する環状のフレームFを用意し、保護テープTを介してフレームFと一体とし、チャックテーブル34に載置する際には、クランプ36によってフレームFを固定して吸引保持している。
【0036】
上記保持工程を実施したならば、水層形成手段を構成する液体層生成器40によりウエーハ10の上面、すなわち表面10a側に水の層を形成すると共に、ウエーハ10を保持する保持手段22とレーザー光線照射手段8とを相対的に移動しながら、ウエーハ10の加工すべき領域、すなわち分割予定ライン14に対してレーザー光線LBを照射するレーザー加工工程を実施する。該レーザー加工工程について、図1図6図7を参照しながら、より具体的に説明する。
【0037】
ウエーハ10をチャックテーブル34の吸着チャック35に保持したならば、図1に示す移動手段23によってチャックテーブル34をX方向、及びY方向に適宜移動させ、チャックテーブル34上のウエーハ10をアライメント手段90の直下に位置付ける。ウエーハ10をアライメント手段90の直下に位置付けたならば、アライメント手段90によりウエーハ10の表面10aを撮像する。次いで、アライメント手段90により撮像したウエーハ10の画像に基づいて、ウエーハ10の加工すべき分割予定ライン14の位置を検出する。この検出された位置情報に基づいて、チャックテーブル34を移動させることにより、図6(a)に示すように、ウエーハ10上の加工を開始すべき位置の上方に集光器86を位置付ける。次いで、図示しない集光点位置調整手段によって集光器86を移動させ、図6(b)に示すように、ウエーハ10のレーザー加工開始位置である分割予定ライン14におけるウエーハ10の表面10aに集光点を位置付ける。なお、後述するように、液体層生成器40の下面とウエーハ10の表面10aに形成された散乱光遮蔽膜114との間には、液体供給機構4によって供給される水Wの層が形成されることから、集光点を位置付ける際には、水Wの層の屈折率が考慮される。
【0038】
集光器86とウエーハ10との位置合わせを実施したならば、液体供給機構4に対し必要十分な水Wを補填し、液体供給ポンプ44を作動する。図6(b)から理解されるように、ウエーハ10の表面10aの位置に集光点を位置付けた際に、液体層形成器40を構成する筐体42の底壁422d及び透明部423の下面と、ウエーハ10の表面10aに形成された散乱光遮蔽膜114との間には、隙間Hが形成される(隙間Hの高さは、例えば、0.5mm~2.0mm程度)。
【0039】
液体供給機構4の液体供給部43には、上記した液体供給ポンプ44から水Wが供給され、供給された水Wは、液体層形成器40の筐体42内部を通り、底壁422dに形成された噴出口422eから下方に向けて噴出される。噴出口422eから噴出された水Wは、図6(b)に示すように、筐体42の底壁422dとウエーハ10との間、及び透明部423とウエーハ10との間に形成される隙間Hを満たしながら水Wの層を形成する。該隙間Hを流れた水Wは、チャックテーブル34外に流出し、図1、2に基づき説明した液体回収プール60の液体回収路70を流れ、液体回収路70の最も低い位置に設けられた液体排出孔65に集められる。液体排出孔65に集められた水Wは、パイプ46bを経由して濾過フィルター45に導かれ、濾過フィルター45にて、清浄化されて、液体供給ポンプ44に戻され、液体供給機構4内を循環する。
【0040】
液体供給機構4が作動を開始して、所定時間(数分程度)経過することにより、筐体42の底壁422d及び透明部423とウエーハ10との間の隙間Hが水Wで満たされることにより、レーザー加工をしていない状態でキャビテーションを含まない水Wの層が形成され、液体供給機構4を水Wが安定的に循環する状態となる。
【0041】
図6(b)に示すように、液体供給機構4を水Wが安定的に循環している状態で、レーザー光線照射手段8を作動させながら、上記した移動手段23を構成するX方向送り手段231を作動させることにより、図6(a)に示すように、保持手段22とレーザー照射手段8とをX方向(図が記載された紙面に垂直な方向)において所定の移動速度で移動するように加工送りして、レーザー光線LBを分割予定ライン14に沿って照射して、レーザー加工溝16を形成する。
【0042】
なお、上記したレーザー加工装置2によって実行されるレーザー加工の加工条件は、例えば、以下のように設定される。
波長 :355nm
平均出力 :6W
繰り返し周波数 :30MHz
パルス幅 :200fs
加工送り速度 :100mm/s
【0043】
ここで、ウエーハ10の表面10a側にレーザー光線LBを照射すると、図7に示すように、レーザー光線LBがウエーハ10に照射されることにより、隙間Hを満たす水Wの中でキャビテーションCが発生する。そして、集光器86から照射されるレーザー光線LBの一部が、キャビテーションCに当たって散乱し、分割予定ライン14から逸れた位置に照射される。しかし、本実施形態では、ウエーハ10の表面10a上に、散乱光を遮蔽してウエーハ10に対するダメージを防止する散乱光遮蔽膜114が形成されているため、デバイス12にダメージが生じることが防止される。なお、上記したように、散乱光遮蔽膜114は、レーザー光線LBの一部がキャビテーションCに当たり生じた散乱光が照射されても、デバイス12に対するダメージは防止するが、レーザー光線LBがキャビテーションCに当たらずにそのまま直進してウエーハ10に照射された場合は、アブレーションを生じさせて、分割予定ライン14に沿って所望のレーザー加工溝16を生成する厚さに設定されており、レーザー加工工程に支障は生じないようになっている。
【0044】
上記したレーザー光線照射手段8を作動させると共に、X方向送り手段231、Y方向送り手段232、及びチャックテーブル34を回転させる回転駆動手段を作動させることにより、ウエーハ10の表面10aに形成された全ての分割予定ライン14に沿って、レーザー加工溝16を形成し、レーザー加工工程を完了する。
【0045】
次いで、レーザー加工工程が施されたウエーハ10をレーザー加工装置2から搬出し、図8に示す研磨装置130(一部のみを示している)に搬送する。本実施形態の研磨装置130は、ウエーハ10を保持し回転駆動可能に構成された保持手段(図示は省略する)と、該保持手段に保持されたウエーハ10の上面を研磨する研磨手段131とを備え、化学機械研磨(CMP:Chemical Mechanical Polishing)を実施することが可能に構成されている。研磨手段131は、図示を省略する回転駆動手段により矢印R1で示す方向に回転させられる回転軸133と、回転軸133の下端に形成されたマウンター134と、マウンター134の下面に装着された研磨ホイール135とを備え、研磨ホイール135の下面には、研磨パッド136が配設されている。回転軸133の内部には、図示を省略するスラリー供給手段から供給される各種化学成分、微細な砥粒等を含むスラリーSを供給するための連通路137が形成されている。
【0046】
上記した研磨装置130にウエーハ10を搬送し、搬送されたウエーハ10の散乱光遮蔽膜114側を上方に向けて、該保持手段に保持し、ウエーハ10を研磨手段131の直下に位置付ける。そして、研磨ホイール135を矢印R1で示す方向に回転させると共に、該保持手段に保持されたウエーハ10を、矢印R2で示す方向に回転させる。次いで、図示を省略する研磨送り手段を作動して、研磨手段131を矢印R3で示す方向に下降させて、研磨パッド136を、ウエーハ10において散乱光遮蔽膜114が形成された上面に当接させる。この時、該スラリー供給手段を作動させ、散乱光遮蔽膜114を研磨により除去するのに好適な、CMP用のスラリーSを、回転軸133の連通路137を介して、研磨パッド136の下面と、ウエーハ10の上面に供給し、CMPを実行する。該スラリーSは、除去する散乱光遮蔽膜114に応じて、例えば、セリア系スラリー、アルミナ系スラリー等から選択される。このCMPを所定時間実施することにより、図8中右方側に示すように、ウエーハ10の上面から散乱光遮蔽膜114が除去され、散乱光遮蔽膜除去工程が完了する。なお、上記した実施形態では、ウエーハ10の上面をCMPによって研磨する例を示したが、本発明はこれに限定されず、いわゆる化学溶液を含まないスラリーを使用する機械的研磨によって、散乱光遮蔽膜114を除去するものであってもよい。
【0047】
上記した実施形態によれば、ウエーハ10の上面に水Wの層を形成し、ウエーハ10に対して吸収性を有する波長のレーザー光線LBを照射してウエーハ10を加工する場合において、水Wの層に生じる微細な泡(キャビテーションC)が、レーザー光線LBの一部を散乱させて散乱光を生じさせたとしても、ウエーハ10の表面10aに形成された散乱光遮蔽膜114によってデバイス12に損傷が生じることが防止され、デバイス12の品質が低下するという問題が解消する。
【0048】
上記した実施形態では、散乱光遮蔽膜積層工程において、ウエーハ10の表面10aに対し、Si、Ge、又はAlのいずれかを蒸着、スパッタによって積層し、散乱光遮蔽膜114を形成する例を示したが、参考例として、例えば、散乱光遮蔽膜114として、エポキシ樹脂膜を被覆、又は圧着によって積層するものが挙げられる。該樹脂を散乱光遮蔽膜114として積層し、その後、散乱光遮蔽膜除去工程を実施する場合は、該樹脂が溶融する溶剤を使用したり、剥離したりして散乱光遮蔽膜114を除去することができる。
【0049】
また、上記した実施形態の散乱光遮蔽膜積層工程では、ウエーハ10の表面10aに散乱光遮蔽膜114を直接積層させる例を示したが、本発明はこれに限定されず、散乱光遮蔽膜積層工程において、蒸着、又はスパッタによって散乱光遮蔽膜114を積層させる前に、ウエーハ10の上面(表面10a)に、樹脂膜を形成するようにしてもよい。該樹脂は、上記したエポキシ等の樹脂膜でもよいし、ポリビニルアルコール(PVA)等の水溶性樹脂を採用してもよい。散乱光遮蔽膜114として、Si、Ge、又はAlのいずれかを積層する前に、ウエーハ10の表面10aに樹脂膜を形成しておくことで、散乱光遮蔽膜除去工程における研磨によって散乱光遮蔽膜114を構成するSi、Ge、Al等の膜を除去する際に、デバイス12上に形成された電極等を保護することができる。その場合は、CMPを実施して蒸着、スパッタにより積層されたSi、Ge、Al等の膜を除去した後に、ウエーハ10の表面10aに形成された樹脂膜を、該樹脂膜に応じた溶剤を使用して除去する。該樹脂膜を水溶性樹脂で形成した場合は、水を溶剤として使用することができる。
【0050】
散乱光遮蔽膜114としては、上記した実施形態の他、カーボン、Si、又は金属の粉末を混入した液状樹脂をスピンコートによって被覆させるようにしてもよい。該粉末を混入させた液状樹脂を積層させて散乱光遮蔽膜114を形成した場合は、該粉末が存在していることにより、散乱光がウエーハ10のデバイス12に照射されることが、より抑制される。
【0051】
散乱光遮蔽膜114としては、金箔、銀箔、又は銅箔のいずれかを採用し、ウエーハ10の表面10aに貼り付けるようにしてもよい。また、散乱光遮蔽膜114としては、グラフェン(グラファイト、カーボンナノチューブ、又はフラーレン等)のシート状物質を採用することもできる。
【符号の説明】
【0052】
2:レーザー加工装置
4:液体供給機構
8:レーザー光線照射手段
86:集光器
10:ウエーハ
12:デバイス
14:分割予定ライン
21:基台
22:保持手段
23:移動手段
231:X方向送り手段(加工送り手段)
232:Y方向送り手段
26:枠体
261:垂直壁部
262:水平壁部
30:X方向可動板
31:Y方向可動板
33:カバー板
34:チャックテーブル
35:吸着チャック
40:液体層形成器
42:筐体
421:筐体上部部材
422:筐体下部部材
422e:スリット
423:透明部
43:液体供給部
44:液体供給ポンプ
45:濾過フィルター
50:X方向移動手段
52:Y方向移動手段
60:液体回収プール
60A:開口
65:液体排出孔
70:液体回収路
90:アライメント手段
100:蒸着装置
101:真空チャンバー
102:真空ポンプ
103:支持プレート
104:るつぼ
105:電子ビーム発生装置
110:成膜材料(Si)
112:Si分子
114:散乱光遮蔽膜
130:研磨装置
135:研磨ホイール
136:研磨パッド
LB:レーザー光線
H:隙間
S:スラリー
W:水
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8