(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】レーザー溶着用成形品、レーザー溶着用成形品のレーザー透過率のばらつき抑制剤、レーザー溶着用成形品の耐アルカリ性向上剤
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20240717BHJP
B23K 26/324 20140101ALI20240717BHJP
C08G 59/42 20060101ALI20240717BHJP
C08J 5/12 20060101ALI20240717BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240717BHJP
C08K 5/10 20060101ALI20240717BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20240717BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
C08L67/02
B23K26/324
C08G59/42
C08J5/12 CFC
C08J5/18 CEZ
C08J5/18 CFD
C08K5/10
C08L63/00
C08L69/00
(21)【出願番号】P 2020180403
(22)【出願日】2020-10-28
【審査請求日】2023-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】磯村 孝人
(72)【発明者】
【氏名】五島 一也
(72)【発明者】
【氏名】坂田 耕一
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-133087(JP,A)
【文献】特開2018-165317(JP,A)
【文献】特開2009-132851(JP,A)
【文献】特開2007-320995(JP,A)
【文献】特表2018-538402(JP,A)
【文献】国際公開第2020/203436(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/035657(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/02
B23K 26/324
C08G 59/42
C08J 5/12
C08J 5/18
C08K 5/10
C08L 63/00
C08L 69/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部と、(B)300℃、剪断速度1000sec
-1における溶融粘度が0.20kPa・s以上0.40kPa・s以下のポリカーボネート樹脂60質量部以上90質量部以下と、(C)
エポキシ当量が600~1500g/当量であるエポキシ系化合物1質量部以上10質量部以下と、(D)芳香族多価カルボン酸エステル1質量部以上15質量部以下とを含有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなり、
(D)芳香族多価カルボン酸エステルが式I:
φ-(COOR)n ・・・I
(式Iにおいて、φはC
6-12
アレーン環を示し、Rはアルキル基を示し、nは3~6の整数を示し、各-COOR基のRは同一であってもよく異なっていてもよい)
で示される化合物であり、溶着部の厚みを1mm以上有するレーザー溶着用成形品。
【請求項2】
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が、当該組成物からなる肉厚1.2mmの成形品において、400nm以上700nm以下の範囲のいずれかの波長の光線透過率が50%以上である、請求項1に記載のレーザー溶着用成形品。
【請求項3】
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が、当該組成物からなる肉厚1.2mmの成形品において、波長980nmの光線透過率が60%以上である、請求項1または2に記載のレーザー溶着用成形品。
【請求項4】
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が、当該組成物からなる肉厚1.2mmの成形品において、波長980nmの光線透過率のばらつきが6%以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載のレーザー溶着用成形品。
【請求項5】
(D)芳香族多価カルボン酸エステルが、芳香族テトラカルボン酸のアルキルエステルである、請求項1から
4のいずれか一項に記載のレーザー溶着用成形品。
【請求項6】
エポキシ当量が600~1500g/当量であるエポキシ系化合物を含有する、ポリブチレンテレフタレート樹脂、
300℃、剪断速度1000sec
-1
における溶融粘度が0.20kPa・s以上0.40kPa・s以下のポリカーボネート樹脂、及び芳香族多価カルボン酸エステルを含有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からな
り、
芳香族多価カルボン酸エステルが式I:
φ-(COOR)n ・・・I
(式Iにおいて、φはC
6-12
アレーン環を示し、Rはアルキル基を示し、nは3~6の整数を示し、各-COOR基のRは同一であってもよく異なっていてもよい)
で示される化合物であるレーザー溶着用成形品の波長980nmの光線透過率のばらつき抑制剤。
【請求項7】
エポキシ当量が600~1500g/当量であるエポキシ系化合物と芳香族多価カルボン酸エステルを含有する、ポリブチレンテレフタレート樹脂
100質量部と
300℃、剪断速度1000sec
-1
における溶融粘度が0.20kPa・s以上0.40kPa・s以下のポリカーボネート樹脂
60質量部以上90質量部以下とを含有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からな
り、
(D)芳香族多価カルボン酸エステルが式I:
φ-(COOR)n ・・・I
(式Iにおいて、φはC
6-12
アレーン環を示し、Rはアルキル基を示し、nは3~6の整数を示し、各-COOR基のRは同一であってもよく異なっていてもよい)
で示される化合物であるレーザー溶着用成形品の耐アルカリ性向上剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐アルカリ性、可視光透過率及びレーザー透過率に優れ、レーザー透過率のばらつきも抑制されたレーザー溶着用の成形品、レーザー溶着用成形品のレーザー透過率のばらつき抑制剤、レーザー溶着用成形品の耐アルカリ性向上剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート(以下、「PBT」とも呼ぶ)樹脂は、耐熱性、耐薬品性、電気特性、機械的特性、及び成形加工性などの種々の特性に優れるため、多くの用途に利用されている。
【0003】
具体的な用途としては、各種自動車用電装部品(各種コントロールユニット、各種センサー、イグニッションコイルなど)、コネクター類、スイッチ部品、リレー部品、コイル部品などが挙げられる。これらの部品を作製するため、接着剤、ネジ止め、スナップフィット、熱板溶着、超音波溶着などの接合方法を利用して複数の成形部品を接合している。しかし、これらの接合方法について、幾つかの問題点が指摘されている。例えば、接着剤を用いると、接着剤が硬化するまでの工程的な時間のロスや環境への負荷が問題となる。また、ネジ止めでは、締結の手間やコストが増大し、熱板溶着や超音波溶着では、熱や振動などによる製品の損傷が懸念される。
【0004】
一方、レーザー溶着による接合方法は、溶着に伴う熱や振動による製品のダメージが無く、溶着工程も非常に簡易である。そのため、最近、レーザー溶着法は、広く利用されるようになってきており、各種樹脂部品の溶着手法として着目されている。特に、溶着時に摩耗紛なども発生しないため、精密な基板やセンサーを収める筐体などに多く適用されている。
【0005】
また、レーザー溶着は生産性が高いため、溶着不良を確認する手法なども開発が進んでおり、超音波により溶着部を確認する方法や、レーザー溶着後にCCDカメラで溶着部を撮影し、パーソナルコンピューターにて画像処理を行い基準画像パターンと比較し管理する手法(特許文献1、2参照)などが検討されているが、これらには特殊な機器が必要である。そこで、より簡易に目視で溶着状態を確認したいとの要求から、溶着部の樹脂には、レーザー光の透過性のみならず、可視光に対する透明性が求められる場合がある。
【0006】
さらに、筐体に内蔵される基板の中には動作確認用のLEDインジケータが搭載され、視覚的に動作確認が出来るタイプがある。このようなインジケータの視認の面からも、レーザー溶着で接合される筐体に可視光に対する透明性が求められる場合があり、その材質としてPMMAやポリスチレン等の透明な樹脂が使用されることがある。しかしPMMAやポリスチレンといった樹脂は耐熱性が低いことに加え、有機溶剤などに対する耐薬品性が低く、用途が限られている。一方、PBTは耐熱性や耐薬品性は優れるものの、結晶性樹脂のため透明性が不足していた。
【0007】
また、レーザー溶着工程において、一定の条件でレーザー照射処理を行う際に、成形品の部位によってその透過率に差異があると、ある箇所ではレーザー透過率の不足により溶着が不十分となり接合強度が不足したり、他の箇所ではレーザー透過率が高すぎて溶着部に過大なエネルギーが付加されることで樹脂の分解・劣化・炭化が発生したりするといった不具合が生じうるため、レーザー光の透過率のばらつきの低減が求められていた。
【0008】
一方、上述した各種自動車用電装部品や、電気・電子機器部品などの用途においては、融雪剤、洗浄剤、漂白剤等に接触する場所で使用される場合がある。これらの薬剤は、その成分として、水酸化ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウム、過炭酸ナトリウム、塩化カルシウム等を含むため、樹脂成形品がアルカリ雰囲気下に曝されることになる。ここで、レーザー溶着等の溶着により他部材との接合部を有する成形品は、当該他部材との接合により形状が拘束されることで成形品に歪みが生じやすく、その歪みがかかった状態で、上記のようなアルカリ雰囲気下に長時間曝されると、歪みとアルカリ成分の双方の影響で、いわゆる環境応力割れを起こし、成形品にクラックが発生するため問題となっていた。そこで、レーザー溶着用成形品の耐アルカリ性の向上も求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平8-211030号公報
【文献】特開2004-167840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、耐アルカリ性、可視光透過率及びレーザー透過率に優れ、レーザー透過率のばらつきも抑制されたレーザー溶着用の成形品、レーザー溶着用成形品のレーザー透過率のばらつき抑制剤、レーザー溶着用成形品の耐アルカリ性向上剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部と、(B)300℃、剪断速度1000sec-1における溶融粘度が0.20kPa・s以上0.40kPa・s以下のポリカーボネート樹脂60質量部以上90質量部以下と、(C)エポキシ系化合物1質量部以上10質量部以下と、(D)芳香族多価カルボン酸エステル1質量部以上15質量部以下とを含有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなり、溶着部の厚みを1mm以上有するレーザー溶着用成形品、エポキシ系化合物と芳香族多価カルボン酸エステルを含有するレーザー溶着用成形品の耐アルカリ性向上剤、及びエポキシ系化合物を含有するレーザー溶着用成形品のレーザー透過率のばらつき抑制剤により、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下の(1)~(8)に関する。
(1)(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部と、(B)300℃、剪断速度1000sec-1における溶融粘度が0.20kPa・s以上0.40kPa・s以下のポリカーボネート樹脂60質量部以上90質量部以下と、(C)エポキシ系化合物1質量部以上10質量部以下と、(D)芳香族多価カルボン酸エステル1質量部以上15質量部以下とを含有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなり、溶着部の厚みを1mm以上有するレーザー溶着用成形品。
(2)前記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が、当該組成物からなる肉厚1.2mmの成形品において、400nm以上700nm以下の範囲のいずれかの波長の光線透過率が50%以上である、(1)に記載のレーザー溶着用成形品。
(3)前記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が、当該組成物からなる肉厚1.2mmの成形品において、波長980nmの光線透過率が60%以上である、(1)または(2)に記載のレーザー溶着用成形品。
(4)前記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が、当該組成物からなる肉厚1.2mmの成形品において、波長980nmの光線透過率のばらつきが6%以下である、(1)から(3)のいずれかに記載のレーザー溶着用成形品。
(5)(D)芳香族多価カルボン酸エステルが式I:
φ-(COOR)n ・・・I
(式Iにおいて、φはC6-12アレーン環を示し、Rはアルキル基、シクロアルキル基又はアラルキル基を示し、nは2以上の整数を示し、各-COOR基のRは同一であってもよく異なっていてもよい)
で示される化合物である、(1)から(4)のいずれかに記載のレーザー溶着用成形品。
(6)(D)芳香族多価カルボン酸エステルが、芳香族テトラカルボン酸のアルキルエステルである、(1)から(5)のいずれかに記載のレーザー溶着用成形品。
(7)エポキシ系化合物を含有する、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、及び芳香族多価カルボン酸エステルを含有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなるレーザー溶着用成形品の波長980nmの光線透過率のばらつき抑制剤。
(8)エポキシ系化合物と芳香族多価カルボン酸エステルを含有する、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂を含有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなるレーザー溶着用成形品の耐アルカリ性向上剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、耐アルカリ性、可視光透過率及びレーザー透過率に優れ、レーザー透過率ばらつきも抑制されたレーザー溶着用の成形品、レーザー溶着用成形品のレーザー透過率のばらつき抑制剤、レーザー溶着用成形品の耐アルカリ性向上剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。また、本明細書において「X~Y」との表現は、「X以上Y以下」であることを意味している。
【0015】
[ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物]
((A)ポリブチレンテレフタレート樹脂)
本発明の(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)としては、少なくともテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステルや酸ハロゲン化物等)を含むジカルボン酸成分と、少なくとも炭素原子数4のアルキレングリコール(1,4-ブタンジオール)又はそのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)を含むグリコール成分とを重縮合して得られるポリブチレンテレフタレート樹脂である。本実施形態において、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂はホモポリブチレンテレフタレート樹脂に限らず、ブチレンテレフタレート単位を60モル%以上含有する共重合体であってもよい。
【0016】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量は50meq/kg以下であることが好ましいが、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、30meq/kg以下が好ましく、25meq/kg以下がより好ましい。
【0017】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は本発明の目的を阻害しない範囲で特に制限されないが、0.60dL/g以上1.2dL/g以下であるのが好ましく、0.65dL/g以上0.9dL/g以下であるのがより好ましい。このような範囲の固有粘度のポリブチレンテレフタレート樹脂を用いる場合には、得られるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が特に成形性に優れたものとなる。また、異なる固有粘度を有するポリブチレンテレフタレート樹脂をブレンドして、固有粘度を調整することもできる。例えば、固有粘度1.0dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂と固有粘度0.7dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂とをブレンドすることにより、固有粘度0.9dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂を調製することができる。ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、例えば、o-クロロフェノール中で温度35℃の条件で測定することができる。
【0018】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の調製において、コモノマー成分としてテレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体を用いる場合、例えば、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシジフェニルエーテル等のC8-14の芳香族ジカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC4-16のアルカンジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等のC5-10のシクロアルカンジカルボン酸;これらのジカルボン酸成分のエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステル誘導体や酸ハロゲン化物等)を用いることができる。これらのジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0019】
これらのジカルボン酸成分の中では、イソフタル酸等のC8-12の芳香族ジカルボン酸、及び、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC6-12のアルカンジカルボン酸がより好ましい。
【0020】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の調製において、コモノマー成分として1,4-ブタンジオール以外のグリコール成分を用いる場合、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-オクタンジオール等のC2-10のアルキレングリコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール;シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA等の脂環式ジオール;ビスフェノールA、4,4’-ジヒドロキシビフェニル等の芳香族ジオール;ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体等の、ビスフェノールAのC2-4のアルキレンオキサイド付加体;又はこれらのグリコールのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)を用いることができる。これらのグリコール成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0021】
これらのグリコール成分の中では、エチレングリコール、トリメチレングリコール等のC2-6のアルキレングリコール、ジエチレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール、又は、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール等がより好ましい。
【0022】
ジカルボン酸成分及びグリコール成分の他に使用できるコモノマー成分としては、例えば、4-ヒドロキシ安息香酸、3-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4-カルボキシ-4’-ヒドロキシビフェニル等の芳香族ヒドロキシカルボン酸;グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸等の脂肪族ヒドロキシカルボン酸;プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン(ε-カプロラクトン等)等のC3-12ラクトン;これらのコモノマー成分のエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステル誘導体、酸ハロゲン化物、アセチル化物等)が挙げられる。
【0023】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の含有量は、樹脂組成物の全質量の20~80質量%であることが好ましく、30~70質量%であることがより好ましく、35~60質量%であることがさらに好ましい。
【0024】
((B)ポリカーボネート樹脂)
本発明の(B)ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)としては、ジヒドロキシ化合物と、ホスゲン又はジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルとの反応により得られる重合体が挙げられる。ジヒドロキシ化合物は、脂環式ジオールなどの脂環族化合物などであってもよいが、好ましくは芳香族化合物、より好ましくはビスフェノール化合物である。ジヒドロキシ化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0025】
ビスフェノール化合物としては、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-エチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-t-ブチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-ブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチルブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル-4-メチルペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジベンジルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルプロパン、2,2,2’,2’-テトラヒドロ3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-スピロビ-[1H-インデン]-6,6’-ジオールなどのビス(ヒドロキシアリール)C1-10アルカン、好ましくはビス(ヒドロキシアリール)C1-6アルカン;1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンなどのビス(ヒドロキシアリール)C4-10シクロアルカン;4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルエーテル等のジヒドロキシアリールエーテル、;4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホン等のジヒドロキシアリールスルホン;4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルフィド等のジヒドロキシアリールスルフィド;4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフォキシド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルフォキシド等のジヒドロキシアリールスルフォキシド;4,4’-ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルケトン等のジヒドロキシアリールケトンなどが挙げられる。
【0026】
好ましい(B)ポリカーボネート樹脂としては、ビスフェノールA型ポリカーボネートが挙げられる。
【0027】
(B)ポリカーボネート樹脂は、ホモポリカーボネートであってもよいし、コポリカーボネートであってもよい。また、(B)ポリカーボネート樹脂は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
本発明において用いられる(B)ポリカーボネート樹脂は、300℃、剪断速度1000sec-1における溶融粘度が0.20kPa・s以上0.40kPa以下であるが、その下限は0.21kPa・s以上であることが好ましく、0.22kPa・s以上であることがより好ましく、0.24kPa・s以上であることがさらに好ましく、0.25kPa・s以上であることが特に好ましい。また上限は0.38kPa・s以下であることが好ましく、0.36kPa・s以下であることがより好ましく、0.34kPa・s以下であることがさらに好ましく、0.32kPa・s以下であることが特に好ましい。
【0029】
本発明における(B)ポリカーボネート樹脂の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、60質量部以上90質量部以下であることが好ましく、65質量部以上85質量部以下であることがより好ましく、70質量部以上80質量部以下であることがさらに好ましい。
【0030】
((C)エポキシ系化合物)
本発明における(C)エポキシ系化合物としては、例えば、ビフェニル型エポキシ化合物、ビスフェノールA型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物等の芳香族エポキシ化合物を挙げることができる。(C)エポキシ系化合物は、2種以上の化合物を任意に組み合わせて使用してもよい。エポキシ当量は、600~1500g/当量(g/eq)であることが好ましい。
【0031】
本発明における(C)エポキシ系化合物の添加量は(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し1~10質量部、好ましくは1.5~5質量部、更に好ましくは2~4質量部程度である。添加量が少なすぎると透過率抑制効果が得られず、添加量が多すぎると射出成形時に粘度上昇により未充填や、変色を引き起こす場合がある。
【0032】
((D)芳香族多価カルボン酸エステル)
本発明における(D)芳香族多価カルボン酸エステルは、芳香族環に2個以上のエステル基(アルコキシカルボキシル基、シクロアルキルオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基など)を有する芳香族化合物であればよく、例えば、以下の式Iで示される化合物を挙げることができる。
【0033】
φ-(COOR)n ・・・I
式Iにおいて、φはC6-12アレーン環を示し、Rはアルキル基、シクロアルキル基又はアラルキル基を示し、nは2以上の整数を示し、各-COOR基のRは同一であってもよく異なっていてもよい。φは、-COORで置換されている水素原子以外の水素原子は他の置換基で置換されていてもよく、置換されていなくてもよい。例えば、φは、-COORで置換されている水素原子以外の水素原子のうちの1以上が-OH及び/又は-NH2で置換されている構成にすることもできる。(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂との相溶性の点から、nが3以上(例えば3~6又は3~4)であることが好ましい。これらの芳香族多価カルボン酸エステルは一種または二種以上を併用することができる。
【0034】
C6-12アレーン環としては、ベンゼン、ナフタレン環等を挙げることができる。芳香族多価カルボン酸エステル成分の多価カルボン酸としては、例えば、芳香族ジカルボン酸(フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、これらの酸無水物など)、芳香族トリカルボン酸(トリメリット酸又はその酸無水物など)、芳香族テトラカルボン酸(ピロメリット酸又はその酸無水物)などを挙げることができる。
【0035】
アルキルエステル(-COOR)を構成するアルキル基としては、例えば、ブチル,t-ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、2-エチルヘキシル、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、トリイソデシルル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-20アルキル基などを挙げることができる。好ましいアルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状C3-16アルキル基,特に直鎖状又は分岐鎖状C4-14アルキル基である。シクロアルキルエステル基を構成するシクロアルキル基としては、シクロヘキシル基などのC5-10シクロアルキル基が例示できる。アラルキルエステル基を構成するアラルキル基としては、ベンジル基などのC6-12アリール-C1-4アルキル基を挙げることができる。
【0036】
代表的な(D)芳香族多価カルボン酸エステルとしては、トリメリット酸トリC4-20アルキルエステル(トリメリット酸トリブチル、トリメリット酸トリオクチル、トリメリット酸トリ(2-エチルヘキシル)、トリメリット酸トリイソデシルなど)、トリメリット酸トリC5-10シクロアルキルエステル(トリメリット酸トリシクロヘキシルなど)、トリメリット酸トリアラルキル(トリメリット酸トリベンジルなど)、トリメリット酸ジアルキル モノアラルキル(トリメリット酸ジ(2-エチルヘキシル)モノベンジル)、ピロメリット酸テトラC4-20アルキルエステル(ピロメリット酸テトラブチル、ピロメリット酸テトラオクチル、ピロメリット酸テトラ2-エチルヘキシル、ピロメリット酸テトライソデシルなど)、ピロメリット酸テトラアラルキル(ピロメリット酸テトラベンジルなど)、ピロメリット酸ジアルキル ジアラルキル(ピロメリット酸ジ(2-エチルヘキシル)ジベンジルなど)などが例示できる。なお、カルボン酸エステルは異なるエステル基(アルコキシカルボキシル基、シクロアルキルオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基など)を有する混合エステルであってもよい。
【0037】
(D)芳香族多価カルボン酸エステルの配合量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して1~15質量部であり、1.5~12質量部であることが好ましく、2~10質量部であることがより好ましい。(D)芳香族多価カルボン酸エステルの配合量を(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して1質量部以上にすることで、耐アルカリ溶液性をより向上させることができる。(D)芳香族多価カルボン酸エステルの配合量を(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して15質量部以下にすることで、アルカリ溶液に対する長期耐久性をより発揮することができるとともに、(D)芳香族多価カルボン酸エステルが成形品表面に染み出すなどの不具合が発生することを抑制することができる。一実施形態において、(D)芳香族多価カルボン酸エステルの配合量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して4~7質量部である。
【0038】
(シリコーン系化合物)
本発明の実施形態のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、必要に応じ耐アルカリ性をさらに高める目的でシリコーン系化合物を含んでいてもよい。
【0039】
シリコーン系化合物として好ましいのは、一般にシリコーンオイルとして知られている、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサンなどの純シリコーン樹脂、純シリコーン樹脂をアルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂などの変性用樹脂と反応させた変性シリコーンなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0040】
また、シリコーンオイルを吸収させた硬化シリコーンパウダーも用いることができる。ここで用いられるシリコーンオイル吸収硬化シリコーンパウダーとは微粉末状の硬化シリコーンに予めシリコーンオイルを0.5~80重量%配合し吸収させて任意の方法にてパウダー化することにより得られたものである。シリコーンオイルを吸収して硬化シリコーンパウダーを形成するシリコーンとしては、例えば、従来公知のシリコーンゴムあるいはシリコーンゲルが使用できる。
【0041】
なお、シリコーンオイルとしては例えば、下記一般式II:
R3SiO[R2SiO〕nSiR3 ・・・II
(式中、Rは置換もしくは非置換の一価炭化水素基または水酸基であり、nは整数である。)で表されるものが挙げられる。
上式中、Rは置換もしくは非置換の一価炭化水素基または水酸基であるが、置換もしくは非置換の一価炭化水素基の例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;シクロアルキル基、β-フェニルエチル基などのアラルキル基;3,3,3-トリフルオロプロピル基、3-メルカプトプロピル基、3-アミノプロピル基、3-グリシドキシプロピル基等が挙げられる。Rは全て同じであっても良く、それぞれ異なっていても良い。
【0042】
シリコーン系化合物は、25℃の動粘度が1000~10000cSt(10~100cm2/s)であることが好ましく、耐アルカリ性の観点から、2000~8000cStであることがより好ましく、3000~6000cStの範囲にあることがさらに好ましい。動粘度は、オストワルド型粘度計(毛管粘度計)に25℃に保たれたシリコーン系化合物を10mlセットし、測定液の上面が一定の距離を通過する時間tを測定する。基準液体の粘度をη0、密度をρ0、流下時間をt0とすると、動粘度は、
動粘度(cSt)=(η0/ρ0)×(t/t0)
により算出することができる。また、動粘度は、シリコーン系化合物メーカーのカタログ値を用いることもできる。
【0043】
シリコーン系化合物は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
シリコーン系化合物の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物100質量部に対し1質量部以上5質量部以下であることが好ましく、1.5質量部以上4質量部以下とすることがより好ましい。シリコーン系化合物の含有量が1質量部以上であると、耐アルカリ性向上の効果が得られ、また、5質量部以下であると、レーザー光の透過性を損なわないため好ましい。
【0045】
また、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物から成形された、1.2mmの厚さを有する成形品において、400nm以上700nm以下の範囲のいずれかの波長の透過率が50%以上であることが好ましく、55%以上であることがより好ましく、60%以上であることがさらに好ましく、65%以上であることが特に好ましく、70%以上であることが最も好ましい。
【0046】
本発明のレーザー溶着用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物から成形された、1.2mmの厚さを有する成形品において、980nmの波長の光線透過率は、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、75%以上であることがさらに好ましく、80%以上であることが特に好ましい。
【0047】
また、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物から成形された、1.2mmの厚さを有する成形品において、980nmの波長の光線透過率のばらつきは、8%以下であることが好ましく、7%以下であることがより好ましく、6%以下であることがさらに好ましく、5%以下であることが特に好ましく、4%以下であることが最も好ましい。
【0048】
(レーザー溶着用成形品の波長980nmの光線透過率のばらつき抑制剤)
さらに、上記のエポキシ系化合物を用いることにより、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、及び芳香族多価カルボン酸エステルを含有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなるレーザー溶着用成形品の波長980nmの光線透過率のばらつき抑制剤とすることが可能である。
【0049】
(レーザー溶着用成形品の耐アルカリ性向上剤)
さらに、上記のエポキシ系化合物と芳香族多価カルボン酸エステルを用いることにより、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂を含有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなるレーザー溶着用成形品の耐アルカリ性向上剤とすることが可能である。
【0050】
(充填剤)
本発明のレーザー溶着用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には必要に応じて充填剤が使用される。このような充填剤は、機械的強度、耐熱性、寸法安定性、電気的性質等の性能に優れた性質を得るためには配合することが好ましく、特に剛性を高める目的で有効である。これは目的に応じて繊維状、粉粒状又は板状の充填剤が用いられる。
【0051】
繊維状充填剤としては、ガラス繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維などが挙げられる。なお、ポリアミド、フッ素樹脂、アクリル樹脂などの高融点の有機質繊維状物質も使用することができる。
【0052】
粉粒状充填剤としては、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、カオリン、クレー、珪藻土、ウォラストナイトなどの珪酸塩(タルクを除く)、炭化珪素、窒化珪素、窒化硼素等が挙げられる。
【0053】
また、板状無機充填剤としては、マイカ、ガラスフレーク等が挙げられる。
【0054】
充填剤の種類は特に限定されず、1種又は複数種以上の充填剤を添加することができる。特に、ガラス繊維、ガラスフレークを使用することが好ましい。
【0055】
充填剤の添加量は特に規定されるものではないが、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物100質量部に対して200質量部以下が好ましく、150質量部以下がより好ましく、100質量部以下がさらに好ましい。充填剤を過剰に添加した場合は可視光とレーザー光の透過性が低下し、成形性に劣り靭性の低下が見られる。
【0056】
(その他の成分)
本発明の実施形態のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、その目的に応じた所望の特性を付与するために、一般に熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂に添加される公知の物質、例えば、酸化防止剤や紫外線吸収剤等の安定剤、耐加水分解性改善剤(例えば、カルボジイミド等)、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、滴下防止剤、染料や顔料等の着色剤、結晶化促進剤、結晶核剤等を配合することが可能である。特に、本実施形態に係るポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に添加する安定剤としては、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(B)ポリカーボネート樹脂の間のエステル交換を抑制するために、リン系の安定剤(第一リン酸カルシウム等のリン酸金属塩など)を添加することが好ましい。なお、(D)芳香族多価カルボン酸エステルは、可塑剤や離型剤としても作用することができるので、通常は可塑剤や離型剤を追加で添加する必要はないが、本発明の実施形態のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に、他の可塑剤や離型剤を含有させることを排除するものではない。
【0057】
(レーザー溶着用成形品)
本発明の実施形態のレーザー溶着用成形品は、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を成形してなるものである。成形方法は特に限定されず、公知の成形方法を採用することができる。例えば、(1)各成分を混合して、一軸又は二軸の押出機により混練し押出してペレットを調製した後、成形する方法、(2)一旦、組成の異なるペレット(マスターバッチ)を調製し、そのペレットを所定量混合(希釈)して成形に供し、所定の組成の成形品を得る方法、(3)成形機に各成分の1又は2以上を直接仕込む方法などで製造できる。なお、ペレットは、例えば、脆性成分(ガラス系補強材など)を除く成分を溶融混合した後に、脆性成分を混合することにより調製してもよい。また、熱可塑性樹脂からなる他の成形品の成形方法もまた、特に限定されず、公知の成形方法を採用することができる。
【0058】
成形体は、前記樹脂組成物を溶融混練し、押出成形、射出成形、圧縮成形、ブロー成形、真空成形、回転成形、ガスインジェクションモールディングなどの慣用の方法で成形してもよいが、通常、射出成形により成形される。なお、射出成形時の金型温度は、通常40~100℃、好ましくは50~90℃、さらに好ましくは60~80℃程度である。
【0059】
成形品の形状は特に制限されないが、成形品をレーザー溶着により相手材(熱可塑性樹脂からなる他の成形品)と接合して用いるため、平面などの接触面を有する形状(例えば、板状)が好ましい。また、本発明の成形体はレーザー光に対する透過性が高いので、溶着部の厚み、すなわちレーザー光が透過する部位の成形品の厚み(レーザー光が透過する方向の厚み)は、広い範囲から選択でき、例えば、0.1~3.0mm、好ましくは0.5~2.5mm、より好ましくは、1.0~2.0mm程度であってもよい。成形品の強度と透過性を考慮すると1.2~1.5mm程度が特に好ましい。
【0060】
レーザー光源としては、特に制限されず、例えば、色素レーザー、気体レーザー(エキシマレーザー、アルゴンレーザー、クリプトンレーザー、ヘリウム-ネオンレーザーなど)、固体レーザー(YAGレーザーなど)、半導体レーザーなどが利用できる。レーザー光としては、通常、パルスレーザーが利用される。
【0061】
前記成形品は、レーザー溶着性に優れているため、通常、レーザー溶着により相手材の樹脂成形品と溶着させるのが好ましいが、必要であれば、他の熱溶着法、例えば、振動溶着法、超音波溶着法、熱板溶着法などにより他の樹脂成形品と溶着させることもできる。
【0062】
(複合成形品)
本発明の複合成形品は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物で形成された成形品(第1の成形品)と、相手材の樹脂成形品(第2の成形品、熱可塑性樹脂からなる他の成形品)とがレーザー溶着により接合され、一体化されていることが好ましい。例えば、第1の成形品と第2の成形品とを接触(特に少なくとも接合部を面接触)させ、レーザー光を照射することにより、第1の成形品と第2の成形品との界面を部分的に溶融させて接合面を密着させ、冷却することにより二種の成形品を接合、一体化して1つの成形体とすることができる。このような複合成形品において、本発明の成形品を用いると、溶着により高い接合強度が得られ、レーザー光の照射により溶着していない非溶着部材と同等の高い溶着強度を保持できる。そのため、レーザー溶着しても接合強度を実質的に低下させることがなく、強固に接合した複合成形体を得ることができる。
【0063】
前記相手材の樹脂成形品を構成する樹脂としては、特に制限されず、種々の熱可塑性樹脂、例えば、オレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂などが挙げられる。これらの樹脂のうち、前記レーザー溶着用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を構成する樹脂と同種類又は同系統の樹脂(PBT系樹脂、PET系樹脂などのポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂など)又はその組成物で相手材を構成してもよい。例えば、第1の成形体と第2の成形体とを、それぞれ、本発明のレーザー溶着用ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物で形成してもよい。
【0064】
被着体は、レーザー光に対する吸収剤又は着色剤を含んでいてもよい。前記着色剤は、レーザー光の波長に応じて選択でき、無機顔料[カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ランプブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラックなど)などの黒色顔料、酸化鉄赤などの赤色顔料、モリブデートオレンジなどの橙色顔料、酸化チタンなどの白色顔料など]、有機顔料(黄色顔料、橙色顔料、赤色顔料、青色顔料、緑色顔料など)などが挙げられる。これらの吸収剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。吸収剤としては、通常、黒色顔料又は染料、特にカーボンブラックが使用できる。カーボンブラックの平均粒子径は、通常、10~1000nm、好ましくは10~100nm程度であってもよい。着色剤の割合は、被着体全体に対して0.1~10重量%、好ましくは0.3~5重量%(例えば、0.3~3重量%)程度である。
【0065】
レーザー光の照射は、通常、第1の成形体から第2の成形体の方向に向けて行われ、吸収剤又は着色剤を含む第2の成形体の界面で発熱させることにより、第1の成形体と第2の成形体とを溶着させる。なお、必要によりレンズ系を利用して、第1の成形品と第2の成形品との界面にレーザー光を集光させ接触界面を溶着してもよい。
【0066】
本発明の好ましい態様には、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品と、熱可塑性樹脂からなる他の成形品とをレーザー溶着により接合してなる複合成形品も含まれる。
【0067】
(二重成形品)
さらに本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂組成物からなる成形品との二重成形における界面の密着性にも優れることから、ポリカーボネート樹脂組成物との二重成形品にも好ましく用いることができる。
【0068】
当該二重成形品を得る方法としては、特に限定はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、あらかじめポリカーボネート樹脂組成物を射出成形して得た成形品(ポリカーボネート成形品)を、金型キャビティ内に配置した状態で、当該ポリカーボネート成形品上にポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を射出成形して二重成形品を得ることができる。ここで、ポリカーボネート成形品に用いるポリカーボネート樹脂組成物としては、全組成物中の樹脂成分のうち50質量%以上がポリカーボネート樹脂であるものである。ポリカーボネート樹脂組成物の樹脂成分中のポリカーボネート樹脂の割合は、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることが特に好ましく、95質量%以上であることが最も好ましい。
【0069】
このようなポリカーボネート成形品は、可視光透過率が極めて高いため、二重成形品の内部に収納された各種部品の稼働状態を観察するための窓部等として用いることができる。すなわち、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、ポリカーボネート成形品との二重成形品とした上でレーザー溶着に供することもでき、二重成形の界面及びレーザー溶着部の界面のいずれにおいても高い接合強度を有する複合成形品とすることができる。
【0070】
[実施例]
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0071】
<材料>
・(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂
ポリプラスチックス(株)製 PBT樹脂、固有粘度0.69dl/g
・(B)ポリカーボネート樹脂
(B-1)300℃、剪断速度1000sec-1における溶融粘度:0.42kPa・sのPC樹脂
(B-2)300℃、剪断速度1000sec-1における溶融粘度:0.27kPa・sのPC樹脂
(B-3)300℃、剪断速度1000sec-1における溶融粘度:0.09kPa・sのPC樹脂
・(C)エポキシ系化合物
三菱化学製 エポキシ樹脂 1004K エポキシ当量900g/eq
・(D)芳香族多価カルボン酸エステル
ADEKA(株)製、ピロメリット酸アルキルエステル「アデカサイザーUL-100」
・(D’-1)芳香族モノカルボン酸エステル
(株)ダイセル製、ポリカプロラクトンジベンゾエート「PLACCEL BCL2」
・(D’-2)脂肪族多価カルボン酸エステル
日油(株)製、ペンタエリスリトールジステアレート「ユニスターH476」
・(E)シリコーン系化合物
25℃での動粘度5000cStのジメチルポリシロキサン
・(充填剤)ガラス繊維
日本電気硝子製、円形断面ガラス繊維「ECS03T―127(平均繊維径13μm、平均繊維長3mm)」
・(その他の成分)リン系安定剤
大平化学産業製 第一リン酸カルシウム
【0072】
<実施例1~3、比較例1~11>
各成分を表1に示す割合で混合した後、日本製鋼所製TEX30を用いて、シリンダー温度260℃、吐出量15kg/h、スクリュ回転数130rpmで溶融混練して押出し、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなるペレットを得た。次いで、得られたペレットを用いて、下記の成形条件にて試験片の成形及び各種評価を行った。
【0073】
<成形条件>
得られたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを140℃で3時間乾燥させた後、ファナック(株)製射出成型機S-2000i100Bを用い、シリンダー温度260℃、金型温度60℃で80mm×80mm×1.2mmtの試験片を作成した。
【0074】
<可視光透過率>
80mm×80mm×1.2mmtの試験片を、20mm×20mm×1.2mmtに16分割し、それぞれの中央部について、分光光度計(日本分光(株)製,V770)を用いて、波長400nm、500nm、600nm、700nmでの各種試験片の光線透過率(%)を測定し、16箇所での平均値を算出した。いずれか1つ以上の波長において、透過率が70%以上のものを◎、60%以上70%未満のものを○、50%以上60%未満のものを△、いずれの波長においても50%未満のものを×として評価した結果を表1に示す。
【0075】
<レーザー光透過率>
80mm×80mm×1.2mmtの試験片を、20mm×20mm×1.2mmtに16分割し、それぞれの中央部について、分光光度計(日本分光(株)製,V770)を用いて、波長980nmでの各種試験片の光線透過率(%)を測定し、16箇所での平均値を算出した。透過率が70%以上のものを◎、60%以上70%未満のものを○、60%未満のものを×として評価した結果を表1に示す。
<レーザー光透過率ばらつき>
上記のように測定したレーザー光透過率について、1つの試験片内での16箇所の透過率の最大値と最小値の差を、レーザー光透過率ばらつきとして算出した。ばらつきが4%以下のものを◎、4%超6%以下のものを○、6%超8%以下のものを△、8%超のものを×として評価した結果を表1に示す。
<耐アルカリ性>
得られたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを、140℃で3時間乾燥させた後、シリンダー温度250℃、金型温度70℃にて射出成形し、厚さ1mmt、一辺120mmの平板状で、ウエルド部を有する成形片を作製した。次にこの成形片を長手方向の略中央部がウエルド部となるよう、幅10mm、長さ100mmの短冊状に切削して試験片を準備した。この試験片をたわませた状態で治具に固定し、常時1.0%の曲げ歪みがウエルド部に加わるようにした。この状態のまま、治具ごと10質量%の水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬し、周辺温度23℃にて静置し、60時間浸漬後の試験片にクラックが発生するか否かを目視にて観察した。各実施例・比較例のペレットについて3個ずつの試験片を用いて評価を行い、3個の試験片のいずれにもクラックの発生がない場合を◎、3個のうち1つの試験片にのみクラックが発生した場合を○、3個のうち2つの試験片にクラックが発生した場合を△、3個の試験片全てにクラックが発生した場合を×として判定した結果を表1に示す。
<PC二重成形密着性>
一次成形品として、上述の(B-2)のPC樹脂を120℃で5時間乾燥させた後、シリンダー温度280℃、金型温度100℃、保圧98MPaで、ASTM D256に準拠したアイゾット試験片(63.5mm×12.7mm×6.4mm)を射出成形し、23℃、50%RHで24時間静置したものを準備し、これを、ASTM D790に準拠した曲げ試験片成形用金型のキャビティ(127mm×12.7mm×6.4mm)内に、金型の一端面に接するように設置した。次いで、140℃で3時間乾燥させた各実施例のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを、シリンダー温度270℃、金型温度70℃、保圧78MPaで、上記曲げ試験片成形用金型のキャビティの残りの空間(63.5mm×12.7mm×6.4mm)に射出成形し、ポリカーボネート成形品の一端面と、各実施例のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品の一端面とが接合された状態の、127mm×12.7mm×6.4mmの二重成形品を得た。得られた二重成形品を用いて、ISO527-1,2に準じて引張試験を行い、接合強度を二重成形性として評価した。接合強度が20MPa以上のものを◎、15MPa以上20MPa未満のものを○、10MPa以上15MPa未満の場合を△、10MPa未満の場合を×として判定した結果を表1に示す。
【0076】
【0077】
表1に示した通り、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品では、耐アルカリ性、可視光透過率及びレーザー光透過率に優れ、レーザー光透過性のばらつきが少ない結果が得られていた。