IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大陽日酸株式会社の特許一覧

特許7522062低温液化ガス混合試料の撹拌方法及び撹拌装置
<>
  • 特許-低温液化ガス混合試料の撹拌方法及び撹拌装置 図1
  • 特許-低温液化ガス混合試料の撹拌方法及び撹拌装置 図2
  • 特許-低温液化ガス混合試料の撹拌方法及び撹拌装置 図3
  • 特許-低温液化ガス混合試料の撹拌方法及び撹拌装置 図4
  • 特許-低温液化ガス混合試料の撹拌方法及び撹拌装置 図5
  • 特許-低温液化ガス混合試料の撹拌方法及び撹拌装置 図6
  • 特許-低温液化ガス混合試料の撹拌方法及び撹拌装置 図7
  • 特許-低温液化ガス混合試料の撹拌方法及び撹拌装置 図8
  • 特許-低温液化ガス混合試料の撹拌方法及び撹拌装置 図9
  • 特許-低温液化ガス混合試料の撹拌方法及び撹拌装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】低温液化ガス混合試料の撹拌方法及び撹拌装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/38 20060101AFI20240717BHJP
   G01N 25/50 20060101ALI20240717BHJP
   G01N 25/54 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
G01N1/38
G01N25/50 C
G01N25/54
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021036867
(22)【出願日】2021-03-09
(65)【公開番号】P2022137370
(43)【公開日】2022-09-22
【審査請求日】2023-12-04
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】水野 全
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-096793(JP,A)
【文献】特開2007-002945(JP,A)
【文献】特開2017-158491(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0259266(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0028908(US,A1)
【文献】米国特許第05195358(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/38
G01N 25/50
G01N 25/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支燃性の低温液化ガスと可燃性物質が混合されてなる低温液化ガス混合試料に浸漬させた溶断線に該溶断線を溶断する溶断電流を供給することで着火する燃焼・爆発試験において前記低温液化ガス混合試料を撹拌する低温液化ガス混合試料の撹拌方法であって、
前記溶断線に前記溶断電流より低い電流である加熱電流を供給して前記低温液化ガス混合試料を加熱し、該加熱によって生じる対流によって前記低温液化ガス混合試料を撹拌することを特徴とする低温液化ガス混合試料の撹拌方法。
【請求項2】
前記加熱によって前記低温液化ガスを気化させて、液体状態の前記低温液化ガス中に前記気化した低温液化ガスの気泡を生じさせることにより前記低温液化ガス混合試料を撹拌することを特徴とする請求項1記載の低温液化ガス混合試料の撹拌方法。
【請求項3】
前記加熱電流の供給は、前記低温液化ガス混合試料が貯留された気密容器の内圧が所定の圧力を超えないように行うことを特徴とする請求項1又は2記載の低温液化ガス混合試料の撹拌方法。
【請求項4】
請求項3に記載の低温液化ガス混合試料の撹拌方法を実現するための低温液化ガス混合試料の撹拌装置であって、
低温液化ガス混合試料を貯留する気密容器と、
該気密容器内の低温液化ガス混合試料を冷却する冷却装置と、
前記気密容器の内圧を常時検知して該検知した圧力が所定の上限値以上のときにHi信号、所定の下限値以下のときにLow信号を送信する第1の圧力検知装置と、
前記低温液化ガス混合試料に浸漬された溶断線に一定の加熱電流を供給する電流供給装置とを備え、
該電流供給装置は前記第1の圧力検知装置からHi信号が入力されたときに前記加熱電流の供給を停止し、Low信号が入力されたときに前記加熱電流の供給を開始するように制御する第1の制御手段を有することを特徴とする低温液化ガス混合試料の撹拌装置。
【請求項5】
請求項3に記載の低温液化ガス混合試料の撹拌方法を実現するための低温液化ガス混合試料の撹拌装置であって、
低温液化ガス混合試料を貯留する気密容器と、
該気密容器内の低温液化ガス混合試料を冷却する冷却装置と、
前記気密容器の内圧を常時検知して該検知した圧力を送信する第2の圧力検知装置と、
前記低温液化ガス混合試料に浸漬された溶断線に加熱電流を供給する電流供給装置とを備え、
前記電流供給装置は前記第2の圧力検知装置からの入力に基づいて前記加熱電流の電流値をPID制御する第2の制御手段を有することを特徴とする低温液化ガスの撹拌装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支燃性の低温液化ガス(液体酸素や液体窒素など)と可燃性物質との混合物(以下、「低温液化ガス混合試料」という)の燃焼・爆発試験、特に溶断法による着火方法を用いたものにおける低温液化ガス混合試料の撹拌方法及び撹拌装置に関するものである。
なお、本発明における可燃性物質には、液体メタンや液体プロパンなどの可燃性液化ガスのほか、フロン等の難燃性ガス、機械油やグリスなどの油脂類、金属粉や樹脂粉などの難燃性物質等を含む。
【背景技術】
【0002】
支燃性の低温液化ガスと可燃性物質の混合物を安全に取り扱うために、爆発範囲、最小着火エネルギー、爆発の威力の測定など、燃焼や爆発を起こす条件を測定する必要がある。
このような測定に用いる試験装置の例として、可燃性ガスを対象としたものには、例えば特許文献1に開示されている「爆発限界領域測定装置」や、特許文献2に開示されている「可燃性ガス・蒸気の爆発試験装置」のような簡易的な設備がある。
粉体を対象とした試験装置の例としては、特許文献3に開示されている「粉塵爆発試験装置」、特許文献4に開示されている「粉塵爆発試験装置および粉塵爆発試験方法」がある。
【0003】
一方、低温液化ガスの爆発試験に関する先行技術として、特許文献5、6がある。特許文献5、6は、導入された気体状態の低温液化ガスを冷却して液化する液化容器を備えており、液化容器内の低温液化ガスは所定の温度に保持される。このように、液化容器内の温度や圧力を一定に保持することは、低温液化ガスの爆発試験を安定して行うために必須である。
【0004】
また、低温液化ガス混合試料の爆発試験において正確な試験結果を得るためには、低温液化ガス混合試料の濃度が均一な状態で着火する必要がある。可燃性物質が例えば有機溶剤、機械油、グリスや金属粉、樹脂粉など溶解度が低い物質や、そもそも溶解しない物質の場合には、着火前に十分な撹拌を行って低温液化ガス混合試料の濃度の均一性を確保する必要がある。
【0005】
なお、濃度の均一性には低温液化ガスと可燃性物質の溶解度だけでなく、比重や融点なども影響を及ぼす。支燃性低温液化ガスとして液体酸素(以下、「LO2」と表記)を用いた場合を例に挙げて以下に説明する。
LO2に混合させる可燃性物質が例えばLO2に対して溶解度の高い液体メタン(以下、「LCH4」と表記)の場合、液密度や固体の密度が約0.4g/ccであり(LO2は1.14g/cc)、更に融点がLO2の沸点より高いため、LO2中にCH4を導入しただけでは均一層にはならないばかりか気液平衡状態にもならない。
また、可燃性物質が例えばプロパンやアセチレンなど、溶解度が低いものであれば、液化混合しただけでは均一濃度にすることは難しい。
したがって、可燃性物質が低温液化ガスの場合であっても濃度の均一性を確保するためには撹拌操作が必要である。
【0006】
気体や液体を撹拌する一般的な方法としては、後述する非特許文献2の第1図に図示される回転翼によるものや、非特許文献3に示される電磁かき混ぜ装置(マグネチックスタラー)によるものなどがある。しかしこれらの方法は、低温液化ガスの爆発試験に用いられるような、低温下で気密性を確保した薄肉、小容量の液化容器には適用が難しい。また、被検体以外の可燃性物質を系内に共存させるものや、揺動部の摩擦などにより着火の恐れがあるものも被検体の爆発性を判断する試験には不適である。
【0007】
そこで低温液化ガスの爆発試験に適用可能な撹拌方法としては、特許文献7に開示される方法がある。
特許文献7は、液化容器内の液体状態の低温液化ガス中に気体状態の低温液化ガスを導入してバブリングすることで低温液化ガスを撹拌するものであり、液化容器内の組成を大きく変えることなく、低温液化ガスを撹拌することができる。
【0008】
また、上記のような燃焼・爆発試験に用いられる着火方法として、放電法、加熱法、溶断法が知られている。
放電法は、例えば特許文献8~10などに開示されるように、離隔配置した一対の電極間で放電させることにより着火する方法である。放電法は、放出エネルギーの定量が容易で、再現性がよく、電極の繰り返し利用が可能であるため、一般的に多く利用されている。
【0009】
加熱法は、例えば特許文献11~13、非特許文献1などに開示されるように、ニクロム線(以下、「Ni-Cr線」と表記)などに電流を通じて加熱し、その熱でガスを加熱し、ガスが自然発火温度を超えることで着火する方法である。加熱法は、低電圧、低電流で済む上に、入熱量の推定が簡便である。
【0010】
溶断法は、非特許文献2、3にも開示されるように、白金線(以下、「Pt線」と表記)やNi-Cr線に線が切断する電流(以下、「溶断電流」という)を突入させて溶断させ、溶断時に放つ火花を着火源とする方法である。溶断法は、交流、直流どちらも使用でき、低電圧ですむため、電源設備や給電のための費用が安価で、数J~数十Jの放出エネルギーが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開平8-145921号公報
【文献】特開2010-8135号公報
【文献】特開2000-310583号公報
【文献】特開2011-220813号公報
【文献】特許6178645号公報
【文献】特許6322103号公報
【文献】特許6568780号公報
【文献】特開2013-152196号公報
【文献】特開平11-201925号公報
【文献】特許6596264号公報
【文献】特開2006-29629号公報
【文献】特開2001-113156号公報
【文献】特許4764728号公報
【非特許文献】
【0012】
【文献】潤滑油の爆発限界の実験的評価、第50回安全工学研究発表会講演予稿集(2017)、p.79
【文献】平成28年度 経済産業省委託 高圧ガス保安対策事業(2)高圧ガス保安規則及び高圧ガスを利用した各種製品に関する法技術的課題の検討 報告書(2017)、高圧ガス保安協会、p.11~p.12第6行
【文献】水素の爆発危険性についての研究、労働省産業安全研究所、産業安全研究所研究報告RR-18-1(1969)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献7の低温液化ガスの撹拌装置は、気体状態の低温液化ガスを蓄積するバッファタンクを有しており、バッファタンクを加熱することで、バッファタンクに連通された電極管を介して液化容器内の液体状態の低温液化ガス中に気体状態の低温液化ガスを導入し、バブリングによって低温液化ガスを撹拌するものである。
したがって、液化容器の周辺にはバッファタンクの他、バッファタンクを加熱する加熱手段、液化容器内の気体状態の低温液化ガスをバッファタンクに戻す循環経路などを設ける必要がある。
【0014】
しかしながら、爆発試験においては、爆発が発生して液化容器が破裂すると、液化容器の周辺にも影響を及ぼすため、液化容器及びその周辺の構成部品はできる限り少なくしたいという課題あった。
【0015】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、液化容器及びその周辺に撹拌のための装置を別途追加する必要がなく、既存の燃焼・爆発試験の装置を用いて低温液化ガス混合試料の撹拌ができる低温液化ガス混合試料の撹拌方法及び撹拌装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
発明者は、上記課題を解決するため、鋭意検討した。
爆発試験装置の構成は前述した着火方法によって異なるため、まずは、低温液化ガス混合試料の燃焼・爆発試験を実施するに際して最適な着火方法を検討した。
上記検討に関し、重要な観点を以下に示す。
【0017】
(1)液相での直接着火
機械油やグリス、金属粉、樹脂粉など難燃性の可燃性物質の多くは、蒸気圧が低く特にLO2中では気相中に酸素ガスとともに爆発範囲(濃度)内で存在することはほとんどない。たとえ液相が爆発範囲内であったとしても、気相中の可燃性物質の濃度が爆発範囲内になければ、気相で着火操作を行っても着火しないので、火炎伝播を期待できない。
従って、低温下で著しく蒸気圧の低い可燃性物質にあっては、液相に直接着火できる着火方法を用いる必要がある。
【0018】
(2)十分な着火エネルギーの供給
フロンなど難燃性の液化ガスの爆発範囲や低温下での爆発性を確認するうえで、十分な着火エネルギーを供給する必要がある。ISO10156「Gases and gas mixtures-Determination of fire potential and oxidizing ability for the selection of cylinder valve outlets」規格では、可燃性混合ガスかどうかの判定に用いる着火エネルギーとして10Jの放電エネルギーを確保することが示されており、燃焼・爆発性の有無を判断するためには、これに準ずる放出エネルギーをもった着火方法が望まれる。
【0019】
上記観点から、前述した放電法、加熱法、溶断法の3つの着火方法のうち、低温液化ガス混合試料の燃焼・爆発試験に適した着火方法を検討した。
まず、放電法の場合、液相における放電着火には気相における放電着火の数百倍の電圧を必要とし、さらに放出エネルギーの定量化には直流電源が必須であるため、その設備や電路施工に多額の費用を必要とする。
次に、加熱法の場合、加熱する線の表面積や温度差によりエネルギー密度が変化して再現性が乏しいとともに、エネルギー密度が低いので、十分な着火エネルギーを供給する着火方法ではない。
【0020】
一方、溶断法は、交流、直流どちらも使用可能で、放電法、加熱法と比べて大きな放出エネルギーを得ることができ、液相着火に用いるための電源設備や給電のための費用が安価である。
上記のことから、低温液化ガス混合試料の燃焼・爆発試験に用いる着火方法として溶断法が適している。
【0021】
また、溶断法を着火方法として用いる燃焼・爆発試験装置を用いれば、既存の液化容器、及びその周辺に別途撹拌を目的とした装置を追加することなく、低温液化ガス混合試料を撹拌できるという知見を得た。
本発明はかかる知見に基づくものであり、具体的には以下の構成を備えてなるものである。
【0022】
(1)本発明に係る低温液化ガス混合試料の撹拌方法は、支燃性の低温液化ガスと可燃性物質が混合されてなる低温液化ガス混合試料に浸漬させた溶断線に該溶断線を溶断する溶断電流を供給することで着火する燃焼・爆発試験において前記低温液化ガス混合試料を撹拌する方法であって、前記溶断線に前記溶断電流より低い電流である加熱電流を供給して前記低温液化ガス混合試料を加熱し、該加熱によって生じる対流によって前記低温液化ガス混合試料を撹拌することを特徴とするものである。
【0023】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記加熱によって前記低温液化ガスを気化させて、液体状態の前記低温液化ガス中に前記気化した低温液化ガスの気泡を生じさせることにより前記低温液化ガス混合試料を撹拌することを特徴とするものである。
【0024】
(3)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記加熱電流の供給は、前記低温液化ガス混合試料が貯留された気密容器の内圧が所定の圧力を超えないように行うことを特徴とするものである。
【0025】
(4)また、本発明に係る低温液化ガス混合試料の撹拌装置は、上記(3)に記載の低温液化ガス混合試料の撹拌方法を実現するためのものであって、低温液化ガス混合試料を貯留する気密容器と、該気密容器内の低温液化ガス混合試料を冷却する冷却装置と、前記気密容器の内圧を常時検知して該検知した圧力が所定の上限値以上のときにHi信号、所定の下限値以下のときにLow信号を送信する第1の圧力検知装置と、前記低温液化ガス混合試料に浸漬された溶断線に一定の加熱電流を供給する電流供給装置とを備え、該電流供給装置は前記第1の圧力検知装置からHi信号が入力されたときに前記加熱電流の供給を停止し、Low信号が入力されたときに前記加熱電流の供給を開始するように制御する第1の制御手段を有することを特徴とするものである。
【0026】
(5)また、本発明に係る低温液化ガス混合試料の撹拌装置は、上記(3)に記載の低温液化ガス混合試料の撹拌方法を実現するためのものであって、低温液化ガス混合試料を貯留する気密容器と、該気密容器内の低温液化ガス混合試料を冷却する冷却装置と、前記気密容器の内圧を常時検知して該検知した圧力を送信する第2の圧力検知装置と、前記低温液化ガス混合試料に浸漬された溶断線に加熱電流を供給する電流供給装置とを備え、前記電流供給装置は前記第2の圧力検知装置からの入力に基づいて前記加熱電流の電流値をPID制御する第2の制御手段を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0027】
本発明においては、溶断線に溶断電流より低い電流である加熱電流を供給して低温液化ガス混合試料を加熱し、加熱によって生じる対流によって低温液化ガス混合試料を撹拌することにより、液化容器及びその周辺に撹拌のための装置を別途追加する必要がなく、既存の燃焼・爆発試験の装置を用いて低温液化ガス混合試料の撹拌ができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の実施の形態1に係る低温液化ガス混合試料の撹拌方法を説明するためのフロー図である。
図2】本発明の実施の形態1に係る低温液化ガス混合試料の撹拌方法を適用する燃焼・爆発試験装置の全体構造を示す図であって、燃焼・爆発試験装置の一部縦断面図である。
図3図2に示す燃焼・爆発試験装置における耐圧恒温容器の内部に設置される液化容器の設置状態を示す図である。
図4】低温液化ガス混合試料の温度制御に際し、温度を計測する位置を示す図である。
図5図3図4に示す気密容器の内部構造を示す図であって、気密容器の縦断面図である。
図6】本発明の実施の形態1に係る着火方法及び着火のための装置構成を示す図である。
図7】Pt線又はNi-Cr線をLN2に浸漬させた場合に各線を溶断する溶断電流の値を示すグラフである。
図8】本発明の実施の形態2に係る低温液化ガス混合試料の撹拌装置を説明するための説明図である。
図9】本発明の実施の形態3に係る低温液化ガス混合試料の撹拌装置を説明するための説明図である。
図10】本発明の実施例における加熱電流の供給と気相中のメタン濃度及び気密容器の内圧との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[実施の形態1]
本発明の実施の形態1に係る低温液化ガス混合試料の撹拌方法は、溶断法を用いて着火する燃焼・爆発試験において、着火前に低温液化ガス混合試料を撹拌するものである。
本実施の形態における低温液化ガス混合試料の撹拌方法を説明するのに先立ち、まずは、上記燃焼・爆発試験に用いる試験装置の一例を図2図6に基づいて説明する。
【0030】
図2は、溶断法を用いて着火する低温液化ガス混合試料の燃焼・爆発試験装置1の全体構造を示すものである。
図2の燃焼・爆発試験装置1は、特許文献5に記載の「燃焼・爆発試験装置」と同様の構成を用いているので詳細な説明は省略し、以下、主要部分を概説する。なお、説明に用いる部材の名称は特許文献5の「燃焼・爆発試験装置」と同一とは限らない。
また、特許文献5の「燃焼・爆発試験装置」は放電着火を用いるものであり、着火に関わる構成部分は異なる。この点については後述にて詳細に説明する。
【0031】
燃焼・爆発試験装置1は、図2図3に示すように、低温液化ガス混合試料3を貯留する気密容器5と、低温液化ガス混合試料3を所定の温度に保持する耐圧恒温容器7と、耐圧恒温容器7に伝達する冷熱を生成する冷凍機9とを備えている。
上記耐圧恒温容器7及び冷凍機9は本発明における冷却装置に相当する。
【0032】
耐圧恒温容器7は、気密容器5を収容し、爆発を想定した耐圧性能を有する容器本体11と、容器本体11内に冷熱を伝達する第1冷熱伝達機構13と、容器本体11への侵入熱を遮断する第2冷熱伝達機構15と、気密容器5を保持する容器保持機構17を有している。
【0033】
第1冷熱伝達機構13は、容器本体11の底部を覆うコールドベース19と(図3参照)、コールドベース19に一端側が接続され、他端側が容器本体11を貫通して容器本体11の外部に配置されるコールドロッド21(図3参照)を備えている。コールドロッド21は、冷熱伝達部材23を介して冷凍機9に接続している。
【0034】
第2冷熱伝達機構15は、容器本体11の外周面に接触して該外周面に冷熱を伝達する固体熱伝導部材25を備えており、固体熱伝導部材25は冷凍機9に接続している。
【0035】
また、第1冷熱伝達機構13及び第2冷熱伝達機構15は、コールドロッド21及び固体熱伝導部材25の温度調整を行う温度調整装置(図示なし)を備えている。コールドロッド21及び固体熱伝導部材25の温度調節は、後述する保持部材29に設けられた温度センサー31(図4参照)、コールドロッド21及び固体熱伝導部材25に装備されたヒーター(図示なし)を用いて行われ、温度センサー31の温度が所定の温度になるようにヒーターを制御することで、気密容器5内の低温液化ガス混合試料3を所定の温度に保持することができる。
【0036】
容器保持機構17は、図3図4に示すように、第1冷熱伝達機構13のコールドベース19に接触するベース板27と、ベース板27から立設するブリッジ状の保持部材29とを有しており、保持部材29には気密容器5が取り付けられている。また、保持部材29における気密容器5が固定されている部分の近傍には温度センサー31が設けられている。
【0037】
本実施の形態における燃焼・爆発試験装置1は、上記のように構成された耐圧恒温容器7を備えたことにより、冷凍機9によって生成された冷熱を、第1冷熱伝達機構13の冷熱伝達部材23、コールドロッド21を介してコールドベース19に伝達し、さらに、ベース板27、保持部材29を介して気密容器5に伝達して、気密容器5を冷却している。
また、冷凍機9によって生成された冷熱は、第2冷熱伝達機構15の固体熱伝導部材25を介して容器本体11に伝達して、容器本体11を冷却している。
さらに前述のとおり、第1冷熱伝達機構13と第2冷熱伝達機構15は保持部材29の温度に基づいて冷熱伝達部材23及び固体熱伝導部材25の温度を調節し、気密容器5内の温度は平衡状態で保持される。
【0038】
気密容器5は、被検体である低温液化ガス混合試料3を密封するものであり、上述のように保持部材29に固定されて耐圧恒温容器7の容器本体11の中央部に配置される。
気密容器5は、図5に示すように、保持部材29に固定される冷却ブロック33と、有底の筒状の液溜部35とを備えている。
冷却ブロック33はガスを導入するためのガス導入口37を有しており、ガス導入口37から導入されたガスは冷却ブロック33で冷却されて液状になり、液溜部35に貯留される。
なお、可燃性物質が常温で液体または個体の場合には、可燃性物質をあらかじめ液溜部35に導入しておいてもよい。
【0039】
冷却ブロック33の上方には、導入継手39が突設されており、一対の導線41が導入継手39を貫通して気密容器5に挿入されている。導線41の一部は、気密容器5の内壁等に接触短絡しないようにするため絶縁材43を用いて被覆している。絶縁材43には燃焼の可能性のない材料(必要であれば碍子など)の使用が望ましい。可燃性の材料は被検体以外の燃焼が生じるため望ましくない。
【0040】
なお、図5は導入継手39としてハーメチックシール(ネジ継手部、パイプ、碍子からなる絶縁継手)を用いた例である。導入継手39にはハーメチックシールの他、シーリンググランドなどを用いてもよく、低温下で絶縁と気密が確保できるものであればよい。
また、図示しない圧力検知装置によって、気密容器5の内圧は常時監視可能になっている。
【0041】
気密容器5に挿入された一対の導線41の端部には溶断線45が取り付けられており、溶断線45は液溜部35に配置される。低温液化ガスの液化調整時には溶断線45が液中に浸漬されるよう調整する。溶断線45は、Pt線の利用が推奨されるが、液調製に長時間必要な系や、調製中にPt表面の触媒効果が影響する場合には、Ni-Cr線やタングステン線、その他の材料を用いることができる。溶断線45と導線41の接続は銀ローが望ましく、着火時に反応の虞があるハンダは望ましくない。
【0042】
一対の導線41における気密容器5の外側の端部は、図6に示すように溶断線45に電流を供給するための電流供給装置47が接続されている。電流供給装置47は、溶断線45を溶断可能な電流(溶断電流)を供給でき、さらに電流値の設定・変更が可能なものである。また、手動または外部からの信号によりスイッチ49をON/OFFすることで、電流の供給を開始及び停止できる。
なお、電流供給装置47と溶断線45を接続する導線41は、電流供給装置47から供給される電流に対応した十分な材質・線径を有するものであり、かつ、安定して使用できるように電流供給装置47及び溶断線45に接続されている。
【0043】
次に、上記のように構成された本実施の形態の燃焼・爆発試験装置1を用いて行う燃焼・爆発試験において、被検体である低温液化ガス混合試料3を撹拌する撹拌方法について図1図6図7を用いて説明する。
本実施の形態に係る低温液化ガス混合試料の撹拌方法は、溶断線45に溶断電流より低い電流である加熱電流を供給して低温液化ガス混合試料3を加熱し、該加熱によって生じる対流によって低温液化ガス混合試料3を撹拌することを特徴とするものである。
【0044】
まず、使用温度付近において溶断線45を溶断する溶断電流の値を予め計測しておく。一例として、液体窒素(以下、「LN2」と表記)に浸漬させた状態で使用した場合のPt線、Ni-Cr線の溶断電流を示すグラフを図7に示す。図7は、例えば線径φ0.3のPt線をLN2に浸漬させた場合、Pt線に約30A以上の電流を供給するとPt線が溶断することを示している。
溶断電流は、溶断線種固有の電気抵抗と溶融温度、線径、溶融温度と液化ガスとの温度差及び熱伝達率によって決まるので、これらの条件が同じであればLN2と例えばLO2で大きな差異はない。
【0045】
次に、気密容器5内に支燃性の低温液化ガス及び可燃性物質を導入して、被検体となる低温液化ガス混合試料3を気密容器5に貯留する。具体的には、ガス導入口37(図5参照)から支燃性のガスと可燃性のガスを導入して気密容器5内で液化調製することで、低温液化ガス混合試料3が液溜部35に貯留する。
【0046】
溶断線45が十分浸漬するように低温液化ガス混合試料3を貯留した後、低温液化ガス混合試料3の撹拌を行う。具体的な撹拌方法の一例を図1に示す。
まず、予め計測しておいた溶断電流よりも低い電流値を電流供給装置47に設定し、スイッチ49をON状態にして電流の供給を開始する(以下、この電流を「加熱電流」という)(ステップS1)。加熱電流を供給された溶断線45は、溶断することなく加熱され、加熱された溶断線45によって低温液化ガス混合試料3が加熱される。低温液化ガス混合試料3が加熱されると液相内に対流が生じ、この対流によって低温液化ガス混合試料3の撹拌が進行する。
【0047】
また、加熱電流の値を調整して加熱量を上げて、低温液化ガス混合試料3の一部を気化させても良い。液体状態の低温液化ガス中に気化した低温液化ガスの気泡を生じさせることで、生じた気泡が液相内を上昇し、さらに効率的に撹拌することができる。
もっとも、上述のように低温液化ガスを気化させると、気相の増加によって気密容器5の内圧が上昇する。したがって、気密容器5の破損を防ぐため、加熱電流の供給は気密容器5の内圧が所定の圧力を超えないように行う必要がある。
【0048】
この点、本実施の形態では、予め気密容器5の内圧の上限値(以下、「上限圧力」という)を設定し、気密容器5の内圧が上限圧力以上になったときに加熱電流の供給を停止する。具体的には、加熱電流の供給開始(ステップS1)後、気密容器5又はガス導入経路に設けられた圧力検知装置(図示なし)を用いて気密容器5の内圧を監視し(ステップS3)、内圧が上限圧力以上であるか否かを判断する(ステップS5)。内圧が上限圧力に達していない場合には加熱電流の供給及び内圧の監視を継続する。内圧が上限圧力に達したら、スイッチ49をOFF状態にして加熱電流の供給を停止する(ステップS7)。
【0049】
このとき、撹拌が十分に行われて低温液化ガス混合試料3の濃度が均一であるか否かを判断し(ステップS9)、撹拌が十分であると判断される場合には、撹拌を終了する。低温液化ガス混合試料3の濃度の均一性を判断する方法は低温液化ガス混合試料3の組成に対応した方法を適宜用いればよい。なお、均一性を判断する方法の具体的な一例は実施例で後述する。
【0050】
ステップS9で撹拌が十分でないと判断される場合には、加熱電流の供給を停止したまま、低温液化ガス混合試料3を静置する(ステップ11)。前述したように、気密容器5は所定の温度を保持するよう制御されているため、加熱電流の供給によって加熱された低温液化ガス混合試料3は、静置することで第1冷熱伝達機構13、第2冷熱伝達機構15によって所定の温度まで冷却される。
【0051】
冷却されることで、気化した低温液化ガス混合試料3は再度凝縮するので、気密容器5の内圧が下がる。本実施の形態では、加熱電流の供給を再開する目安として、予め気密容器5の内圧の下限値(以下、「下限圧力」という)を設定している。下限圧力は、例えば加熱電流を供給する前の内圧、即ち、耐圧恒温容器7によって所定の温度に保持されている時の内圧とする。
【0052】
冷却によって低下する内圧を監視し(ステップS13)、内圧が下限圧力以下であるか否かを判断する(ステップS15)。内圧が下限圧力まで低下していない場合には静置及び内圧の監視を継続する。気密容器5の内圧が下限圧力まで下がったら、加熱電流の供給を再開する(ステップS1)。
以降、ステップ9で撹拌が十分である(低温液化ガス混合試料3の濃度が均一である)と判断されるまで、ステップ1~ステップ15を繰り返す。
【0053】
撹拌が終了したら電流供給装置47の設定値を溶断線が溶断する電流値に変更し、スイッチ49をON状態にして溶断電流を供給することで、溶断線45が溶断し、被検体に着火することができる。
【0054】
以上のように、本実施の形態の低温液化ガス混合試料の撹拌方法によれば、溶断法を用いて着火を行う燃焼・爆発試験装置1の一般的な構成を用いて低温液化ガス混合試料3を撹拌することができるので、液化容器(気密容器5)及びその周辺に撹拌のための装置を別途追加する必要がなく、低温液化ガス混合試料3の爆発試験のような低温下、密閉系、小容量の爆発試験にも用いることができる。
【0055】
なお、図1に示した例は、気密容器5の内圧上昇を伴うため、加熱電流の供給を間欠的に行って被検体の加熱と冷却を繰り返すものであったが、本発明はこれに限られない。例えば気密容器5の内圧に応じて加熱電流の値を調整するようにしてもよく、その場合には、気密容器5の内圧を一定に保持しながら加熱が行えるので、静置時間を設けずに継続的に加熱電流を供給できる。この場合、気泡は生じにくいが、気泡の発生を伴わない加熱であっても被検体に対流は生じるので、十分な印加時間を設けることで、濃度を均一化する撹拌効果を得ることができる。
【0056】
[実施の形態2]
実施の形態1は加熱電流の供給開始と停止を手動で行う例であったが、本実施の形態では、加熱電流の供給開始と停止を自動制御するように構成した低温液化ガス混合試料の撹拌装置を説明する。
【0057】
本実施の形態に係る低温液化ガス混合試料の撹拌装置51(以下、単に「撹拌装置51」という)は、図8に示すように、低温液化ガス混合試料3を貯留する気密容器5と、気密容器5内の低温液化ガス混合試料3を冷却する冷却装置(図示なし)と、気密容器5の内圧を常時検知して該検知した圧力に基づいてHi信号又はLow信号を送信する第1の圧力検知装置53と、低温液化ガス混合試料3に浸漬された溶断線45に一定の加熱電流を供給する電流供給装置47とを備え、電流供給装置47は第1の圧力検知装置53からの入力に基づいて加熱電流の供給の開始及び停止を制御する第1の制御手段55を有している。
実施の形態1で説明した燃焼・爆発試験装置1と同様の部分には同一の符号を付して説明を省略し、本実施の形態の特徴である第1の圧力検知装置53、第1の制御手段55について以下具体的に説明する。なお、図8の破線矢印は電気的な接続を示すものである。
【0058】
<第1の圧力検知装置>
第1の圧力検知装置53は、例えば接点付き圧力計などで構成され、検知した圧力に基づいて、Hi信号又はLow信号を第1の制御手段55に送信するものである。第1の圧力検知装置53は、例えば気密容器5にガスを導入するガス導入管57などに設けられ、ガス導入管57の圧力を気密容器5の内圧に相当するものとして常時検知する。第1の圧力検知装置53には予め二つの閾値(上限値Hと下限値L)が設定されており、検知した圧力が設定した上限値H以上のときにはHi信号を、設定した下限値L以下のときにはLow信号を、第1の制御手段55に送信する。
【0059】
<第1の制御手段>
第1の制御手段55は、例えばシーケンサーなどで構成され、第1の圧力検知装置53からの入力に基づいて、電流供給装置47のスイッチ49(図6参照)のON/OFFを制御する信号を電流供給装置47に送信し、加熱電流の供給開始及び停止を制御するものである。第1の制御手段55は、第1の圧力検知装置53からHi信号が入力されたときにはOFF信号を、Low信号が入力されたときにはON信号を、電流供給装置47に送信する。
電流供給装置47は、第1の制御手段55からOFF信号が入力されるとスイッチ49をOFF状態にして加熱電流の供給を停止する。また、ON信号が入力されるとスイッチ49をON状態にして加熱電流の供給を開始する。
【0060】
上記のように構成された撹拌装置51の動作について、図8に基づいて以下に説明する。
まず、ガス制御機器59によって支燃性のガスがガス導入管57を介して気密容器5の冷却ブロック33に導入される。導入された支燃性のガスは冷却ブロック33によって冷却されて液化し、液溜部35に貯留される。同様に、可燃性のガスが気密容器5に導入されて液化し、液溜部35に貯留される。気密容器5内に支燃性の低温液化ガスと可燃性の低温液化ガスが混合された低温液化混合ガス混合試料3を所定量貯留して、液溜部35に配置された溶断線45を浸漬させる。
【0061】
このときの気密容器5の内圧に相当する値を下限値Lに設定する。また、気密容器5の耐圧性能に基づいて、上限値Hを設定する。
溶断線45の溶断電流を予め測定しておき、溶断電流より低い電流値を電流供給装置47に設定する。
【0062】
電流供給装置47のスイッチ49をON状態にして、加熱電流の供給を開始する。加熱電流は導線41を介して溶断線45に供給され、溶断線45が加熱される。溶断線45が加熱されることで、低温液化ガス混合試料3が加熱され、一部が気化して気泡が発生する。液体状態の低温液化ガス中に気体状態の低温液化ガスが発生することで、低温液化ガス混合試料3が撹拌される。
【0063】
低温液化ガス混合試料3の気相が増加することで気密容器5の内圧が上昇する。気密容器5の内圧が上昇することでガス導入管37の内圧も上昇し、上限値Hに設定した圧力に到達する。第1の圧力検知装置53は上限値H以上の圧力を検知すると、第1の制御手段55にHi信号を送信する。
第1の制御手段55は、第1の圧力検知装置53からHi信号が入力されると、電流供給装置47にOFF信号を送信する。
電流供給装置47は、第1の制御手段53からOFF信号が入力されると、スイッチ49をOFF状態にして加熱電流の供給を停止する。
【0064】
加熱電流の供給が停止されると、気密容器5内の低温液化ガス混合試料3は図示しない冷却装置(実施の形態1の耐圧恒温容器7、冷凍機9に相当)によって冷却され、気化した低温液化ガスが凝縮して気密容器5の内圧が下がる。気密容器5の内圧が下がることでガス導入管57の内圧も減少し、下限値Hに設定した圧力まで下がる。
第1の圧力検知装置53は下限値L以下の圧力を検知すると、第1の制御手段55にLow信号を送信する。
第1の制御手段55は、第1の圧力検知装置53からLow信号が入力されると、電流供給装置47にON信号を送信する。
電流供給装置47は、第1の制御手段55からON信号が入力されると、スイッチ49をON状態にして加熱電流の供給を再開する。
上記動作を低温液化ガス混合試料3の濃度が均一になるまで繰り返す。
【0065】
以上のように、本実施の形態においては、第1の圧力検知装置53と第1の制御手段55を備えたことにより、気密容器5の内圧に基づいて加熱電流を供給開始及び停止を自動制御で行うことができる。これにより、図1で説明したような低温液化ガス混合試料3の撹拌を自動で行うことができる。
【0066】
[実施の形態3]
実施の形態1、2は、一定の加熱電流を溶断線45に供給し、気密容器5の内圧が上昇して所定の圧力以上になったときには加熱電流の供給を停止するものであった。本実施の形態では、気密容器5の内圧が所定の圧力を超えないように加熱電流の供給を自動制御する撹拌装置の他の態様として、PID制御を用いた例を説明する。
【0067】
本実施の形態に係る低温液化ガス混合試料の撹拌装置61(以下、単に「撹拌装置61」という)は、図9に示すように、低温液化ガス混合試料3を貯留する気密容器5と、気密容器5内の低温液化ガス混合試料3を冷却する冷却装置(図示なし)と、気密容器5の内圧を常時検知して該検知した圧力を送信する第2の圧力検知装置63と、低温液化ガス混合試料3に浸漬された溶断線45に加熱電流を供給する電流供給装置47とを備え、電流供給装置47は第2の圧力検知装置63からの入力に基づいて加熱電流の電流値をPID制御する第2の制御手段65を有している。
図8と同様に実施の形態1で説明した燃焼・爆発試験装置1と同様の部分には同一の符号を付して説明を省略し、本実施の形態の特徴である第2の圧力検知装置63、第2の制御手段65について以下具体的に説明する。なお、図9の破線矢印は図8と同様に電気的な接続を示すものである。
【0068】
<第2の圧力検知装置>
第2の圧力検知装置63は、例えば圧力伝送器などで構成され、検知した圧力を第2の制御手段65に送信するものである。第2の圧力検知装置63は、例えばガス導入管57などに設けられ、ガス導入管57の圧力を気密容器5の内圧に相当するものとして検知して、検出した圧力値を常時第2の制御手段65に送信する。
【0069】
<第2の制御手段>
第2の制御手段65は、例えばPID調節計などで構成され、第2の圧力検知装置63からの入力に基づいて、電流供給装置47の出力電流値をPID制御するものである。
第2の制御手段65には、予め気密容器5の内圧の設定値が入力されており、気密容器5の内圧がこの設定値になるのに必要な操作量(電流値の変更量)を電流供給装置47に送信する。具体的には、第2の圧力検知装置63から入力された圧力値が設定値よりも高ければ、電流値を下げる信号を電流供給装置47に送信し、設定値よりも低ければ電流値を上げる信号を電流供給装置47に送信する。
【0070】
上記のように構成された撹拌装置61の動作について、図9に基づいて以下に説明する。
まず、実施の形態2と同様に気密容器5に低温液化ガス混合試料3を所定量貯留して、液溜部35に配置された溶断線45を浸漬させる。
【0071】
次に、第2の制御手段65に気密容器5の内圧の設定値を入力する。
また、溶断線45の溶断電流を予め測定しておき、該溶断電流より低い電流値を電流供給装置47に設定する。
【0072】
電流供給装置47のスイッチ49をON状態にして、加熱電流の供給を開始する。加熱電流は導線41を介して溶断線45に供給され、溶断線45が加熱される。溶断線45が加熱されることで、低温液化ガス混合試料3が加熱され、加熱による対流が生じて低温液化ガス混合試料3が撹拌される。
【0073】
このとき、第2の圧力検知装置63が設定値より高い圧力を検知すれば、第2の制御手段65は加熱電流の電流値を下げるように電流供給装置47を制御する。加熱電流の電流値が下がることで、加熱電流による加熱量よりも冷却装置(図示なし)による冷却量が上回り、気密容器5の内圧が下がる。
また、第2の圧力検知装置63が設定値より低い圧力を検知すれば、第2の制御手段65は加熱電流の電流値を上げるように電流供給装置47を制御する。
上記動作を低温液化ガス混合試料3の濃度が均一になるまで継続する。
【0074】
上記のように本実施の形態は、加熱電流の電流値をPID制御することで、気密容器5の内圧を一定に保持したまま加熱電流を供給し続けることができ、自動制御で低温液化ガス混合試料3の濃度を均一にすることができる。
なお、加熱電流のPID制御速度が冷却装置のコールドヘッドから気密容器5までの冷熱の伝達系統の応答速度より早くなるようにPIDパラメータを選定することで、気密容器5の温度制御との干渉や熱的平衡状態に陥ることを最小限にし、撹拌効果を高めることができる。
【実施例
【0075】
本発明に係る低温液化ガス混合試料の撹拌方法及び撹拌装置による作用効果について確認するための具体的な実験を行ったので、その結果について以下に説明する。
【0076】
本実施例では、図8に示す撹拌装置51を用い、支燃性液化ガスLO2と可燃性物質LCH4を混合してなる低温液化ガス混合試料3の撹拌実験を行った。
電流供給装置47は、(株)テクシオ・テクノロジー社製PSW-360L30を使用した。
溶断線45は、線径φ0.3のPt線を使用した。
第1の圧力検知装置53は、接点付き圧力計を用いて上限値Hを0.2MPaG、下限値Lを0.02MPaGに設定した。
第1の制御手段55は、シーケンサーを使用した。
なお、前述したように図8の撹拌装置51における気密容器5には、図示しない冷却装置が接続されている。
【0077】
まず、酸素ガス(O2)+メタンガス(CH4)混合物を気密容器5に導入し、冷却して液化した混合物(LO2+LCH4混合液)を貯留した。
気密容器5内においてLO2+LCH4混合液(低温液化ガス混合試料)を所定量貯留した後、電流供給装置47の電流値を、この場合における溶断電流より小さい13Aに設定し、加熱電流を印加した。その後、電流供給装置47のスイッチ49のON/OFFを自動制御によって行った。
【0078】
さらに本実施例では、撹拌の過程において、気密容器5内の気相からO2+CH4混合物の一部をサンプリングし、サンプリングしたガスを質量分析計(図示なし)に導入してCH4濃度を測定した。
なお、上記サンプリングは、混合物のガス組成に影響がない頻度で行った。
【0079】
図10に本実施例における結果を示す。
図10における下段のグラフは、加熱電流の供給開始及び停止時間を示している。
図10における上段のグラフの実線は、気密容器5の内圧を示すものであり、破線はサンプリングしたO2+CH4混合物のCH4濃度を示している。
【0080】
図10に示すように、加熱電流の印加後、気密容器5の内圧が第1の圧力検知装置53に設定した上限値Hの0.2MPaGまで上がったが、0.2MPaGになったところで電流供給を自動停止した。その後冷却装置の冷却によって容器内圧が下がり、約5分後に第1の圧力検知装置53に設定した下限値Lの0.02MPaGまで下がった。容器内圧が0.02MPaGになると加熱電流の供給が自動再開し、以降同様に、自動制御によって間欠的に加熱電流を印加した。
加熱電流は3回印加し、印加時間は1回あたり20~30秒、印加の間隔は5分から7分程度であった。
【0081】
なお、容器内圧が上限値Hから下限値Lまで下がる時間が5~7分程度と短時間であるが、これは、冷却装置の冷凍能力が非常に大きいこと、冷却装置のコールドヘッドから気密容器5までの冷熱の伝達系統の熱容量が気密容器5内の低温液化ガス混合試料3の熱容量を圧倒的に上回っているためである。
【0082】
開始時においてはLO2に比べてLCH4の比重が小さいため、気密容器5内の気相におけるCH4濃度は、液化する前のO2+CH4混合物中におけるCH4濃度よりも高くなっている。しかし、溶断線45に加熱電流を印加すると、気密容器5内におけるLO2+LCH4混合液が撹拌され、これに伴って気相中におけるCH4濃度は低くなる。
さらに、気密容器5の内圧が所定の圧力(本実施例では上限値Hの0.2MPaG)を超えないように間欠的に印加することで、印加回数に伴ってCH4濃度の低下速度が緩慢になっていき、加熱電流の印加前後でCH4濃度に変化がほとんどなくなったことで液相内組成が均一になったと推定できた。
【0083】
以上より、本発明に係る低温液化ガス混合試料の撹拌方法及び撹拌装置によれば、低温液化ガス混合試料に浸漬した溶断線に溶断電流より小さい加熱電流を導入して低温液化ガス混合試料を加熱することにより、低温液化ガス混合試料を撹拌することができ、低温液化ガス混合試料の組成を均一にできることが実証された。
【符号の説明】
【0084】
1 燃焼・爆発試験装置
3 低温液化ガス混合試料
5 気密容器
7 耐圧恒温容器
9 冷凍機
11 容器本体
13 第1冷熱伝達機構
15 第2冷熱伝達機構
17 容器保持機構
19 コールドベース
21 コールドロッド
23 冷熱伝達部材
25 固体熱伝導部材
27 ベース板
29 保持部材
31 温度センサー
33 冷却ブロック
35 液溜部
37 ガス導入口
39 導入継手
41 導線
43 絶縁材
45 溶断線
47 電流供給装置
49 スイッチ
51 撹拌装置(実施の形態2)
53 第1の圧力検知装置
55 第1の制御手段
57 ガス導入管
59 ガス制御機器
61 撹拌装置(実施の形態3)
63 第2の圧力検知装置
65 第2の制御手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10