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特許7522390N-(炭化水素)イソシアヌル酸の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】N-(炭化水素)イソシアヌル酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 251/34 20060101AFI20240718BHJP
【FI】
C07D251/34 C
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2021504081
(86)(22)【出願日】2020-03-02
(86)【国際出願番号】 JP2020008705
(87)【国際公開番号】W WO2020179735
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2023-02-20
(31)【優先権主張番号】P 2019037604
(32)【優先日】2019-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】垣内 暢之
(72)【発明者】
【氏名】宇都宮 朋久
【審査官】松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】特公昭38-007988(JP,B1)
【文献】特公昭48-026023(JP,B1)
【文献】特公昭39-012340(JP,B1)
【文献】国際公開第2017/208910(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 251/34
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N-(炭化水素)イソシアヌル酸の製造方法であって、
溶媒中で、ジハロゲン化イソシアヌル酸、ジハロゲン化イソシアヌル酸塩、及びジハロゲン化イソシアヌル酸塩の水和物からなる群から選択される少なくとも一種のジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体と、ハロゲン化炭化水素化合物、擬ハロゲン化炭化水素化合物及び硫酸ジアルキル化合物からなる群から選択される少なくとも一種の炭化水素化剤とを反応させる工程Nを含み、
該擬ハロゲン化炭化水素化合物中の擬ハロゲン基は、アルキルスルホニルオキシ基、フルオロアルキルスルホニルオキシ基、又は芳香族スルホニルオキシ基である、
N-(炭化水素)イソシアヌル酸の製造方法。
【請求項2】
上記工程Nが、
ジハロゲン化イソシアヌル酸、ジハロゲン化イソシアヌル酸塩、及びジハロゲン化イソシアヌル酸塩の水和物からなる群から選択される少なくとも一種のジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体の溶液又は分散液を準備する工程X、及び
上記ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体の溶液又は分散液と、ハロゲン化炭化水素化合物、擬ハロゲン化炭化水素化合物及び硫酸ジアルキル化合物からなる群から選択される少なくとも一種の炭化水素化剤とを混合する工程Yを含むか、又は
ハロゲン化炭化水素化合物、擬ハロゲン化炭化水素化合物及び硫酸ジアルキル化合物からなる群から選択される少なくとも一種の炭化水素化剤の溶液若しくは分散液を準備する工程S及び
上記炭化水素化剤の溶液若しくは分散液と、ジハロゲン化イソシアヌル酸、ジハロゲン化イソシアヌル酸塩、及びジハロゲン化イソシアヌル酸塩の水和物からなる群から選択される少なくとも一種のジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体とを混合する工程Tを含む、
請求項1記載のN-(炭化水素)イソシアヌル酸の製造方法。
【請求項3】
上記ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体の溶液又は分散液が、水性溶液又は水性分散液である請求項2記載のN-(炭化水素)イソシアヌル酸の製造方法。
【請求項4】
上記ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体の水性溶液又は水性分散液が、水を含む請求項3記載のN-(炭化水素)イソシアヌル酸の製造方法。
【請求項5】
上記工程Yが、上記ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体の溶液又は分散液と、ハロゲン化炭化水素化合物、擬ハロゲン化炭化水素化合物及び硫酸ジアルキル化合物からなる群から選択される少なくとも一種の炭化水素化剤と、さらに界面活性剤とを混合する工程である、請求項2乃至4のいずれか1項記載のN-(炭化水素)イソシアヌル酸の製造方法。
【請求項6】
上記界面活性剤が、四級アンモニウム塩、クラウンエーテル類及びアルキルベンゼンスルホン酸塩からなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項5記載のN-(炭化水素)イソシアヌル酸の製造方法。
【請求項7】
上記工程Xが、ジハロゲン化イソシアヌル酸、ジハロゲン化イソシアヌル酸塩、及びジハロゲン化イソシアヌル酸塩の水和物からなる群から選択される少なくとも一種のジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体と、塩基とを含む溶液又は分散液を準備する工程である、
請求項2乃至6のいずれか1項記載のN-(炭化水素)イソシアヌル酸の製造方法。
【請求項8】
上記塩基が、無機塩基を含む請求項7記載のN-(炭化水素)イソシアヌル酸の製造方法。
【請求項9】
上記炭化水素化剤の溶液又は分散液が、水性溶液又は水性分散液である請求項2記載のN-(炭化水素)イソシアヌル酸の製造方法。
【請求項10】
上記炭化水素化剤の水性溶液又は水性分散液が、水を含む請求項9記載のN-(炭化水素)イソシアヌル酸の製造方法。
【請求項11】
上記工程Sが、ハロゲン化炭化水素化合物、擬ハロゲン化炭化水素化合物及び硫酸ジアルキル化合物からなる群から選択される少なくとも一種の炭化水素化剤と、界面活性剤とを含む溶液又は分散液を準備する工程である請求項2、9又は10記載のN-(炭化水素)イソシアヌル酸の製造方法。
【請求項12】
上記界面活性剤が、四級アンモニウム塩、クラウンエーテル類及びアルキルベンゼンスルホン酸塩からなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項11記載のN-(炭化水素)イソシアヌル酸の製造方法。
【請求項13】
上記工程Sが、ハロゲン化炭化水素化合物、擬ハロゲン化炭化水素化合物及び硫酸ジアルキル化合物からなる群から選択される少なくとも一種の炭化水素化剤と、塩基とを含む溶液又は分散液を準備する工程である請求項2及び9乃至12のいずれか1項記載のN-(炭化水素)イソシアヌル酸の製造方法。
【請求項14】
上記塩基が、無機塩基を含む請求項13記載のN-(炭化水素)イソシアヌル酸の製造方法。
【請求項15】
上記炭化水素化剤が、p-トルエンスルホン酸メチル、p-トルエンスルホン酸エチル、メタンスルホン酸メチル、メタンスルホン酸エチル、硫酸ジメチル及び硫酸ジエチルからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1乃至14のいずれか1項記載のN-(炭化水素)イソシアヌル酸の製造方法。
【請求項16】
上記炭化水素化剤が、硫酸ジメチル及び硫酸ジエチルからなる群から選択される少なくと
も1種を含む、請求項15記載のN-(炭化水素)イソシアヌル酸の製造方法。
【請求項17】
上記ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体が、ジクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム及びジクロロイソシアヌル酸ナトリウム二水和物からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1乃至16のいずれか1項記載のN-(炭化水素)イソシアヌル酸の製造方法。
【請求項18】
上記ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体が、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムを含む請求項17記載のN-(炭化水素)イソシアヌル酸の製造方法。
【請求項19】
上記炭化水素化剤の量が、上記ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体1モル当量に対して、0.3モル当量乃至4.0モル当量である請求項1乃至18のいずれか1項記載のN-(炭化水素)イソシアヌル酸の製造方法。
【請求項20】
上記ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体の量が、用いる上記溶媒に対して0.03~0.3質量倍である請求項1乃至19のいずれか1項記載のN-(炭化水素)イソシアヌル酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はN-(炭化水素)イソシアヌル酸の新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イソシアヌル酸のN-置換体(以下、イソシアヌル酸N-置換体と称する)は、半導体分野を含めた様々な分野で用いられてきており(例えば、特許文献1~2)、その合成方法については、古くから種々の報告がなされている(例えば、非特許文献1~3)。
この状況の下、これまで本発明者らは、1つの炭化水素基を有するイソシアヌル酸N-置換体の製造方法に関する報告をしている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第02/086624号
【文献】国際公開第2013/035787号
【文献】国際公開第2017/208910号
【非特許文献】
【0004】
【文献】Journal of American Chemical Society,75,pp.3617-3618(1953)
【文献】Tetrahedron Letters,44,pp.4399-4402(2003)
【文献】Journal of Organic Chemistry,80,pp.11200-11205(2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来知られている、1つのアルキル基を有するイソシアヌル酸N-置換体の製造方法は、イソシアヌル酸の有機溶媒への溶解度が低い為、150℃以上の高温で長時間の加熱が必要となる。しかし高温反応では原料と生成物の分解による収率低下、及び逐次反応による収率と選択性の低下などが起こり、工業的に有用とはいえない。また高温で低沸点の試剤を使用する場合には密閉式の高圧反応装置が必要になるという問題もある。一方、低温反応ではイソシアヌル酸を溶解させるには大過剰の有機溶媒が必要となるので、容積効率が悪化し廃液が増加する問題が有った。
これらの問題の解決を図った特許文献3に記載の方法は、多段階の反応工程を経る必要があり、低コスト化、時間短縮化等の要因を考慮した場合、改善の余地があった。
【0006】
本発明は、工業的製造に適するイソシアヌル酸N-置換体の製造方法の提供を目的とし、すなわち、多段階の工程や煩雑な処理を必要とせず、目的とするN-置換体の選択的な製造をワンポットにて可能とする、工業的にも優位な新たな製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、溶媒中で、ジハロゲン化イソシアヌル酸、ジハロゲン化イソシアヌル酸塩、及びジハロゲン化イソシアヌル酸塩の水和物からなる群から選択される少なくとも一種のジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体と、ハロゲン化炭化水素化合物、擬ハロゲン化炭化水素化合物及び硫酸ジアルキル化合物からなる群から選択される少なくとも一種のアルキル化剤等の炭化水素化剤とを反応させることによって、好ましくはジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体の溶液又は分散液と炭化水素基を導入するアルキル化剤等の炭化水素化剤を混合し、その混合をする際に存在する塩基の量を調節することによって、又は、炭化水素基を導入するアルキル化剤等の炭化水素化剤の溶液又は分散液とジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体を混合し、その混合をする際に存在する塩基の量を調節することによって、より好ましくはジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体の水性溶液又は水性分散液と炭化水素基を導入するアルキル化剤等の炭化水素化剤を混合し、その混合をする際に存在する塩基の量を調節することによって、室温下で、ワンポットにて、モノ置換体であるN-モノ(炭化水素)イソシアヌル酸あるいはジ置換体であるN-ジ(炭化水素)イソシアヌル酸が選択的に得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち本発明は、第1観点として、N-(炭化水素)イソシアヌル酸の製造方法であって、溶媒中で、ジハロゲン化イソシアヌル酸、ジハロゲン化イソシアヌル酸塩、及びジハロゲン化イソシアヌル酸塩の水和物からなる群から選択される少なくとも一種のジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体と、ハロゲン化炭化水素化合物、擬ハロゲン化炭化水素化合物及び硫酸ジアルキル化合物からなる群から選択される少なくとも一種の炭化水素化剤とを反応させる工程Nを含む、N-(炭化水素)イソシアヌル酸の製造方法に関する。
第2観点として、上記工程Nが、ジハロゲン化イソシアヌル酸、ジハロゲン化イソシアヌル酸塩、及びジハロゲン化イソシアヌル酸塩の水和物からなる群から選択される少なくとも一種のジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体の溶液又は分散液を準備する工程X、及び上記ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体の溶液又は分散液と、ハロゲン化炭化水素化合物、擬ハロゲン化炭化水素化合物及び硫酸ジアルキル化合物からなる群から選択される少なくとも一種の炭化水素化剤とを混合する工程Yを含むか、又はハロゲン化炭化水素化合物、擬ハロゲン化炭化水素化合物及び硫酸ジアルキル化合物からなる群から選択される少なくとも一種の炭化水素化剤の溶液又は分散液を準備する工程S及び上記炭化水素化剤の溶液又は分散液と、ジハロゲン化イソシアヌル酸、ジハロゲン化イソシアヌル酸塩、及びジハロゲン化イソシアヌル酸塩の水和物からなる群から選択される少なくとも一種のジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体とを混合する工程Tを含む、第1観点に記載のN-(炭化水素)イソシアヌル酸の製造方法に関する。
第3観点として、上記ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体の溶液又は分散液が、水性溶液又は水性分散液である第2観点に記載のN-(炭化水素)イソシアヌル酸の製造方法の発明に関する。
第4観点として、上記ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体の水性溶液又は水性分散液が、水を含む第3観点に記載のN-(炭化水素)イソシアヌル酸の製造方法に関する。
第5観点として、上記工程Yが、上記ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体の溶液又は分散液と、ハロゲン化炭化水素化合物、擬ハロゲン化炭化水素化合物及び硫酸ジアルキル化合物からなる群から選択される少なくとも一種の炭化水素化剤と、さらに界面活性剤とを混合する工程である、第2乃至4観点のいずれか1つに載のN-(炭化水素)イソシアヌル酸の製造方法に関する。
第6観点として、上記界面活性剤が、四級アンモニウム塩、クラウンエーテル類及びアルキルベンゼンスルホン酸塩からなる群から選択される少なくとも1種を含む第5観点に記載のN-(炭化水素)イソシアヌル酸の製造方法に関する。
第7観点として、上記工程Xが、ジハロゲン化イソシアヌル酸、ジハロゲン化イソシアヌル酸塩、及びジハロゲン化イソシアヌル酸塩の水和物からなる群から選択される少なくとも一種のジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体と、塩基とを含む溶液又は分散液を準備する工程である、第2乃至6観点のいずれか1つに記載のN-(炭化水素)イソシアヌル酸の製造方法。
第8観点として、上記塩基が、無機塩基を含む第7観点に記載のN-(炭化水素)イソシアヌル酸の製造方法に関する。
第9観点として、上記炭化水素化剤の溶液又は分散液が、水性溶液又は水性分散液である第2観点に記載のN-(炭化水素)イソシアヌル酸の製造方法に関する。
第10観点として、上記炭化水素化剤の水性溶液又は水性分散液が、水を含む第9観点に記載のN-(炭化水素)イソシアヌル酸の製造方法に関する。
第11観点として、上記工程Sが、ハロゲン化炭化水素化合物、擬ハロゲン化炭化水素化合物及び硫酸ジアルキル化合物からなる群から選択される少なくとも一種の炭化水素化剤と、界面活性剤とを含む溶液又は分散液を準備する工程である第2、9又は10観点のいずれか1つに記載のN-(炭化水素)イソシアヌル酸の製造方法に関する。
第12観点として、上記界面活性剤が、四級アンモニウム塩、クラウンエーテル類及びアルキルベンゼンスルホン酸塩からなる群から選択される少なくとも1種を含む第11観点に記載のN-(炭化水素)イソシアヌル酸の製造方法に関する。
第13観点として、上記工程Sが、ハロゲン化炭化水素化合物、擬ハロゲン化炭化水素化合物及び硫酸ジアルキル化合物からなる群から選択される少なくとも一種の炭化水素化剤と、塩基とを含む溶液又は分散液を準備する工程である第2、9乃至12観点のいずれか1つに記載のN-(炭化水素)イソシアヌル酸の製造方法に関する。
第14観点として、上記塩基が、無機塩基を含む第13観点に記載のN-(炭化水素)イソシアヌル酸の製造方法に関する。
第15観点として、上記炭化水素化剤が、p-トルエンスルホン酸メチル、p-トルエンスルホン酸エチル、メタンスルホン酸メチル、メタンスルホン酸エチル、硫酸ジメチル及び硫酸ジエチルからなる群から選択される少なくとも1種を含む、第1乃至14観点のいずれか1つに記載のN-(炭化水素)イソシアヌル酸の製造方法に関する。
第16観点として、上記炭化水素化剤が、硫酸ジメチル及び硫酸ジエチルからなる群から選択される少なくとも1種を含む、第15観点に記載のN-(炭化水素)イソシアヌル酸の製造方法に関する。
第17観点として、上記ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体が、ジクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム及びジクロロイソシアヌル酸ナトリウム二水和物からなる群から選択される少なくとも1種を含む、第1乃至16観点のいずれか1つに記載のN-(炭化水素)イソシアヌル酸の製造方法に関する。
第18観点として、上記ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体が、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムを含む第17観点のN-(炭化水素)イソシアヌル酸の製造方法。
第19観点として、上記炭化水素化剤の量が、上記ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体1モル当量に対して、0.3モル当量乃至4.0モル当量である第1乃至18観点のいずれか1つに記載のN-(炭化水素)イソシアヌル酸の製造方法に関する。
第20観点として、上記ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体の量が、用いる上記溶媒に対して0.03~0.3質量倍である請求項1乃至19のいずれか1つに記載のN-(炭化水素)イソシアヌル酸の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、多段階の工程や煩雑な処理を必要とせず、ワンポットにて、室温下で、N-(炭化水素)イソシアヌル酸を選択的に製造することができ、量産化を見据えた工業的に有用な製造方法を提供するこができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、N-(炭化水素)イソシアヌル酸の製造方法であって、溶媒中で、ジハロゲン化イソシアヌル酸、ジハロゲン化イソシアヌル酸塩、及びジハロゲン化イソシアヌル酸塩の水和物からなる群から選択される少なくとも一種のジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体と、ハロゲン化炭化水素化合物、擬ハロゲン化炭化水素化合物及び硫酸ジアルキル化合物からなる群から選択される少なくとも一種の炭化水素化剤とを反応させる工程Nを含む、N-(炭化水素)イソシアヌル酸の製造方法を対象とする。
【0011】
好ましくは、本発明においては、上記工程Nが、ジハロゲン化イソシアヌル酸、ジハロゲン化イソシアヌル酸塩、及びジハロゲン化イソシアヌル酸塩の水和物からなる群から選択される少なくとも一種のジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体の溶液又は分散液を準備する工程X、及び上記ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体の溶液又は分散液と、ハロゲン化炭化水素化合物、擬ハロゲン化炭化水素化合物及び硫酸ジアルキル化合物からなる群から選択される少なくとも一種の炭化水素化剤とを混合する工程Yを含むか、又はハロゲン化炭化水素化合物、擬ハロゲン化炭化水素化合物及び硫酸ジアルキル化合物からなる群から選択される少なくとも一種の炭化水素化剤の溶液又は分散液を準備する工程S及び上記炭化水素化剤の溶液又は分散液と、ジハロゲン化イソシアヌル酸、ジハロゲン化イソシアヌル酸塩、及びジハロゲン化イソシアヌル酸塩の水和物からなる群から選択される少なくとも一種のジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体とを混合する工程Tを含む。
【0012】
更に、より好ましくは、本発明においては、上記ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体又は炭化水素化剤の溶液又は分散液は水性溶液又は水性分散液である。
すなわち、本発明のより好ましい態様においては、上記工程Nは、ハロゲン化イソシアヌル酸、ジハロゲン化イソシアヌル酸塩、及びジハロゲン化イソシアヌル酸塩の水和物からなる群から選択される少なくとも一種のジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体の水性溶液又は水性分散液を準備する工程A、及び、上記水性溶液又は水性分散液と、アルキル化剤等の炭化水素化剤とを混合する工程Bを含む。より一層好ましい態様においては、上記
工程Aは、ハロゲン化イソシアヌル酸、ジハロゲン化イソシアヌル酸塩、及びジハロゲン化イソシアヌル酸塩の水和物からなる群から選択される少なくとも一種のジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体の水性溶液を準備する工程A1である。
【0013】
本発明に係るN-(炭化水素)イソシアヌル酸は、1つ又は2つの炭化水素基を有するイソシアヌル酸(N-置換体)を指し、イソシアヌル酸の窒素原子と結合する置換基として1つの炭化水素基が導入された下記式(1)で表される化合物(N-モノ(炭化水素)イソシアヌル酸)、イソシアヌル酸の窒素原子と結合する置換基として2つの炭化水素基が導入された下記式(2)で表される化合物(N-ジ(炭化水素)イソシアヌル酸)を指す。
【化1】
上記式(1)又は式(2)において、Rは、例えば炭素原子数1乃至10の炭化水素基を表す。当該炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状、環状いずれでもよく、二重結合又は三重結合を少なくとも1つ有してもよい。上記炭化水素基がアルキル基である場合、当該アルキル基として、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ペンチル基、n-ノニル基、n-デシル基、シクロヘキシルメチル基、及びシクロペンチルメチル基が挙げられる。アルキル基を除く上記炭化水素基として、例えば、ベンジル基、アリル基、及びプロパルギル基が挙げられる。
式(2)中、Rは同一でも相異なっていてもよいが、効率的に目的物を得る観点から、同一であることが好ましい。
【0014】
以下、本発明に係る各工程について説明する。
【0015】
(1)溶媒中で、ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体と炭化水素化剤とを反応させる工程N
本工程は、出発物質であるジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体と、炭化水素化剤とを、溶媒中で反応させる工程である。
【0016】
本発明において、上記ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体とは、ジハロゲン化イソシアヌル酸、ジハロゲン化イソシアヌル酸塩、ジハロゲン化イソシアヌル酸塩の水和物を意味する。これらは、一種単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができるが、効率的に目的物を得る観点から、一種単独で用いることが好ましい。
上記ジハロゲン化イソシアヌル酸として下記式(3)で表される化合物、ジハロゲン化イソシアヌル酸塩として下記式(4)で表される化合物、ジハロゲン化イソシアヌル酸塩の水和物として下記式(5)で表される化合物をそれぞれ挙げることができる。なお、下記式(3)~式(5)についてはそれぞれ互変異性体についても記載した。
【化2】
上記式(3)、式(4)及び式(5)において、Xはハロゲン原子を表し、ヨウ素原子、臭素原子、塩素原子及びフッ素原子から選ぶことができる。なお、式(3)、式(4)及び式(5)のそれぞれの式中、Xは同一でも相異なっていてもよい。
またMは、アルカリ金属を表し、リチウム、ナトリウム及びカリウム等から選ぶことができる。nは、水和水の数を表す。
本発明において、上記ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体は一種を単独で、又はそれぞれ二種以上を、及び/又は相互に二種以上を組み合わせて用いてもよいが、効率的に目的物を得る観点から、一種類の誘導体を単独で用いることが好ましい。
上記式(3)、式(4)及び式(5)で表されるジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体の中でも、水等への良好な溶解性、並びに入手が容易でありまた安価であるなど、工業的に有利であるという観点では、ジクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム二水和物を好適に用いることができる。
なお、上記ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体は、市販品を用いてもよく、公知の方法等で合成してもよい。
更に、公知の方法等で合成したジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体(例えばジクロロイソシアヌル酸誘導体等)は、単離した後に用いてもよく、単離せずに、ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体を含む反応溶液を本発明にそのまま用いてもよい。
例えば、溶媒中でイソシアヌル酸と次亜塩素酸ナトリウムや塩素等のハロゲン化剤とを反応させ、得られたジクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム及びジクロロイソシアヌル酸ナトリウムの2水和物から選択される一種以上を含む反応溶液と、後述する炭化水素化剤とを混合してもよい。
【0017】
上記溶媒としては、この種の反応に用いられるものであって、反応に悪影響を及ぼさない限り特に限定されるものではないが、より再現性よく目的物を得る観点、より収率よく目的物を得る観点、作業性の観点等から、水、緩衝液、及び水溶性の有機溶媒が好ましい。溶媒は、一種を単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
すなわち、上述の観点から、用いる溶媒としては、水、緩衝液、及び水溶性の有機溶媒を使用することができる。
上記水としては特に限定されない。例えば、工業用水道水、上水道水、地表水、地下水、井戸水等を限定なく使用でき、またイオン交換水、蒸留水、RO水等を使用してもよい。
上記緩衝液としては、目的のpHにあわせて公知の緩衝液を使用でき、例えば中性域又は中性域乃至塩基性域に緩衝能を有する緩衝液が挙げられ、例えばリン酸塩(リン酸水素にナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸二水素ナトリウム及びこれらの混合物等)緩衝液、ギ酸アンモニウム緩衝液、酢酸アンモニウム緩衝液等が挙げられる。
上記水溶性の有機溶媒(親水性溶媒)としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、イソブチルアルコール、2-メトキシプロパノール等のアルコール類;エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類;テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル類;アセトン等のケトン類;アセトニトリル等のニトリル類;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等の環状アミド類;ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド類;等を挙げることができるが、これらに限定されない。これら水溶性の有機溶媒は一種を単独で使用してもよく、又は二種以上を混合して使用してもよい。
また上記水溶性の有機溶媒は水との混合溶媒として使用することもできる。この場合、水と水溶性の有機溶媒との混合比は、水性溶液(水性分散液)の準備(調製)時並びに後述するアルキル化剤等の炭化水素化剤の添加後等において、均一な系を保つことができれば特に限定されないが、例えば質量比にて、水:水溶性の有機溶媒=0.1:99.9~99.9:0.1である。
また、水溶性の有機溶媒に加えて、本発明の効果を損ねない範囲において、プロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセタート(PGMEA)の様な水に難溶性の有機溶媒や疎水性の有機溶媒を併用してもよい。
【0018】
炭化水素化剤(アルキル化剤等)は、上記ハロゲン化炭化水素化合物、擬ハロゲン化炭化水素化合物、硫酸ジアルキル化合物等の炭化水素基(アルキル基等)を導入することを目的として用いられるものである。なお、本明細書において、ハロゲン化炭化水素化合物、擬ハロゲン化炭化水素化合物、硫酸ジアルキル化合物を総称して炭化水素化剤とも称する。
【0019】
ハロゲン化炭化水素化合物又は擬ハロゲン化炭化水素化合物としては、下記式(6)で表される化合物を挙げることができる。
R-X (6)
式中、Rは式(1)及び式(2)で例示したように、炭素原子数1乃至10の炭化水素基を表し、当該炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状、環状いずれでもよく、二重結合又は三重結合を少なくとも1つ有してもよい。
またXはハロゲン原子又は擬ハロゲン基を表す。
【0020】
上記ハロゲン原子としては、ヨウ素原子、臭素原子、塩素原子及びフッ素原子から選ぶことができる。
がハロゲン原子を表す場合、式(6)で表される化合物はハロゲン化炭化水素化合物であり、例えばヨウ化メチル、臭化エチル、臭化プロピル、臭化アリル、及び臭化プロパルギルが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
上記擬ハロゲン基としては、例えば、メタンスルホニルオキシ基等のアルキルスルホニルオキシ基;トリフルオロメタンスルホニルオキシ基、ノナフルオロブタンスルホニルオキシ基等のフルオロアルキルスルホニルオキシ基;ベンゼンスルホニルオキシ基、トルエンスルホニルオキシ基等の芳香族スルホニルオキシ基等が挙げられる。
が擬ハロゲン基を表す場合、式(6)で表される化合物は擬ハロゲン化炭化水素化合物であり、例えば、p-トルエンスルホン酸メチル、p-トルエンスルホン酸エチル、メタンスルホン酸メチル、メタンスルホン酸エチル等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
また上記硫酸ジアルキル化合物としては、下記式(7)で表される化合物を挙げることができる。
R-O-S(=O)-O-R (7)
式中、Rは式(1)及び式(2)で例示したように、炭素原子数1乃至10の炭化水素基を表し、当該炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状、環状いずれでもよく、二重結合又は三重結合を少なくとも1つ有していてもよい。なお、式中、2つの基Rは同一であっても異なっていてもよいが、効率的に目的物を得る観点から、同一の基であることが好ましい。
上記硫酸ジアルキル化合物としては、硫酸ジメチル、硫酸ジエチル等を挙げることができる。
【0023】
上記炭化水素化剤(ハロゲン化炭化水素化合物、擬ハロゲン化炭化水素化合物及び硫酸ジアルキル化合物からなる群から選択される少なくとも一種)は、その使用量は本発明の効果を損なわない限り特に制限されるものではないが、ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体1モル当量に対して、0.3モル当量乃至4.0モル当量にて好適に使用することができる。
【0024】
上記ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体の量は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されるものではないが、用いる溶媒に対して、通常0.03~0.3質量倍程度である。
【0025】
反応温度は、反応が進行する限り特に限定されるものではなく、用いる溶媒、ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体の量、炭化水素化剤の種類や量等を考慮して適宜決定すればよいが、本発明にある態様においては、例えば、0℃~70℃であり、反応を好適に進行させるとともに、用いる原料の分解、揮発等を抑制し、目的物を再現性よく得る観点等から、好ましくは10℃~40℃、より好ましくは常温(20℃±15℃)程度である。
【0026】
上記反応は、塩基の存在下で行ってもよい。塩基を用いることで、N-ジ(炭化水素)イソシアヌル酸をより選択的に生成させることができる。
上記塩基としては、この種の反応に用いられるものであって、反応に悪影響を及ぼさない限り特に限定されるものではないが、無機塩基を好適に用いることができ、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;例えば炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;例えば炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等のアルカリ土類金属炭酸塩;例えば炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩などが挙げられる。これらの中でもアルカリ金属水酸化物を好ましく用いることができ、水酸化ナトリウムを特に好ましく用いることができる。これら無機塩基は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。また、無水物を用いてもよいし、水和物を用いてもよい。
上記塩基は、その使用量は本発明の効果を損なわない限り特に制限されるものではないが、上記溶液(分散液)のジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体1モル当量に対して、0.5モル当量乃至3.0モル当量にて好適に使用することができる。
塩基を使用する場合、上記ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体を溶媒と混合する際に一緒に混合して溶解してもよいし、あるいは上記ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体を混合する前、あるいは混合後に塩基を添加し、溶解してもよい。
塩基の混合(添加)や溶解時の温度は特に限定されず、上述のジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体の混合・溶解時と同様、使用する塩基の溶解性に応じて適宜調整(例えば室温(常温)~50℃など)すればよい。
【0027】
上記反応は、相間移動触媒等の界面活性剤の存在下で行ってもよい。
相間移動触媒としての作用を有する界面活性剤としては、例えばベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラn-ブチルアンモニウムブロミド、硫酸水素テトラn-ブチルアンモニウム等の四級アンモニウム塩;例えばテトラフェニルホスホニウムブロミド等の四級ホスホニウム塩;例えば12-クラウン-4、18-クラウン-6等のクラウンエーテル類;例えばドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩が挙げられる。これらの中でも、四級アンモニウム塩を好ましい相間移動触媒として挙げることができる。これら相間移動触媒はそれぞれ単独で用いてもよいし、ニ種類以上を混合して用いてもよい。
上記相間移動触媒等の界面活性剤を使用する場合、その使用量は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されるものではないが、通常上記ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体1モル当量に対して、0.001モル当量乃至1.5モル当量である。
【0028】
上記炭化水素化剤及び所望により界面活性剤は、必要に応じて溶媒に溶解又は分散させて、それらの溶液又は分散液の形態にて用いてもよい。
【0029】
得られた目的物は、定法に従い単離することができ、精製操作は特に限定されるものではないが、例えば反応後に析出した固体を濾別回収し、水若しくはチオ硫酸ナトリウムの様な還元剤の水溶液で洗浄、その後有機溶媒中で再結晶する事で純度を向上させることができる。若しくは有機溶媒を用いた分液操作も適用できる。
【0030】
以下、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は以下に限定されない。すなわち、好ましい態様においては、上記工程Nは、下記工程Xと下記工程Yとを含むか、又は下記工程Sと下記工程Tとを含み、より好ましい態様においては、下記工程Aと下記工程Bとを含む。
(2)ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体の溶液又は分散液を準備する工程X、又はジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体の水性溶液又は水性分散液を準備する工程A
本工程は、出発物質であるジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体の溶液若しくは分散液又は水性溶液若しくは水性分散液を準備する工程、すなわちジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体を後述する溶媒に溶解又は分散し、後の工程Bで使用するジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体の溶液若しくは分散液又は水性溶液若しくは水性分散液を準備する(調製する)工程である。
本発明におけるジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体の意味やその具体例及びその他の条件は、上述と同様である。
【0031】
当該溶液(分散液)の準備(調製)に使用する溶媒としては、この種の反応に用いられるものであって、反応に悪影響を及ぼさない限り特に限定されるものではないが、より再現性よく目的物を得る観点、より収率よく目的物を得る観点、作業性の観点等から、水、緩衝液及び水溶性の有機溶媒が好ましい。
すなわち、上述の観点から、当該水性溶液(水性分散液)の準備(調製)に使用する溶媒としては、水、緩衝液及び、水溶性の有機溶媒を使用することができる。水及び水溶性の有機溶媒の具体例やその他の条件は、上述と同様である。
【0032】
当該溶液(分散液)を準備(調製)するには、1種又は2種以上の溶媒と、上記ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体とを混合し、該誘導体を溶媒に溶解すればよい。また、当該溶液(分散液)は、1種又は2種以上の溶媒と、イソシアヌル酸と、上記ハロゲン化剤とを混合し、上記ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体を含む反応溶媒を準備(調製)してもよい。
当該水性溶液(水性分散液)を準備(調製)するには、水、緩衝液、水溶性の有機溶媒、又は、水と水溶性の有機溶媒の混合溶媒と、上記ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体とを混合し、該誘導体を水等に溶解すればよい。また、当該水性溶液(水性分散液)は、水、緩衝液、水溶性の有機溶媒、又は、水若しくは緩衝液と水溶性の有機溶媒の混合溶媒と、イソシアヌル酸と、上記ハロゲン化剤とを混合し、上記ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体を含む反応水性溶液を準備(調製)してもよい。
このとき、混合や溶解時の温度は特に限定されず、ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体又はイソシアヌル酸及びハロゲン化剤の溶解性又は分散性に応じて適宜調整すればよく、例えば常温(20℃±15℃)程度とすることができる。或いは、必要があれば、適宜加熱して溶解させてもよい。なお、ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体は水等への溶解性が高いことから、通常は室温(常温)下にて水性溶液を準備(調製)することができる。
【0033】
当該溶液(分散液)又は当該水性溶液(水性分散液)は、さらに塩基を含むものとすることができる。塩基を含む系とすることにより、後述の工程Y及び工程Bにおいて、N-ジ(炭化水素)イソシアヌル酸をより選択的に生成させることができる。このような塩基の具体例は、上記と同じである。
上記塩基は、その使用量は本発明の効果を損なわない限り制限されるものではないが、上記溶液(分散液)又は水性溶液(水性分散液)のジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体1モル当量に対して、0.5モル当量乃至3.0モル当量にて好適に使用することができる。
塩基を使用する場合、その混合(添加)・溶解の順序は特に限定されず、溶媒、或いは水、緩衝液、水溶性の有機溶媒、又は、水若しくは緩衝液と水溶性の有機溶媒との混合溶媒に、上記ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体を混合する際に一緒に混合し、溶解してもよいし、あるいは上記ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体を混合する前、あるいは混合後に塩基を添加し、溶解してもよい。塩基を使用する場合、例えば酢酸アンモニウム、ギ酸アンモニウム、アンモニア水からなる塩基性の緩衝液を使用することもできる。
塩基の混合(添加)や溶解時の温度は特に限定されず、上述のジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体の混合・溶解時と同様、使用する塩基の溶解性に応じて適宜調整(例えば室温(常温)~50℃など)すればよい。
【0034】
本発明においては、ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体、並びに使用する場合には塩基が部分的に溶解した溶液状であっても、工程Y又は工程Bを実施することもできるが、より再現性よく目的物を得る観点、より収率よく目的物を得る観点、作業性の観点等から、ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体、並びに使用する場合には塩基が完全に溶解し、均一な溶液状となったことを確認した後、引き続き、工程Y又は工程Bを実施することが好ましい。
【0035】
(3)上記ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体の溶液又は分散液と、ハロゲン化炭化水素化合物、擬ハロゲン化炭化水素化合物及び硫酸ジアルキル化合物からなる群から選択される少なくとも一種の炭化水素化剤とを混合する工程Y、又は上記ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体の水性溶液又は水性分散液と、ハロゲン化炭化水素化合物、擬ハロゲン化炭化水素化合物及び硫酸ジアルキル化合物からなる群から選択される少なくとも一種の炭化水素化剤とを混合する工程B
本工程は、前述の工程X又は工程Aで得た溶液(分散液)又は水性溶液(水性分散液)と、ハロゲン化炭化水素化合物、擬ハロゲン化炭化水素化合物及び硫酸ジアルキル化合物からなる群から選択される少なくとも一種の炭化水素化剤とを混合する工程である。
なお、炭化水素化剤、ハロゲン化炭化水素化合物、擬ハロゲン化炭化水素化合物及び硫酸ジアルキル化合物の定義や具体例、その他の条件(使用量等)は、上述の通りである。
【0036】
また、工程Y又は工程Bでは、上記炭化水素化剤とともに、相間移動触媒等の界面活性剤を更に用いてもよく、そのような界面活性剤の具体例としては、上記と同じものが挙げられる。
上記相間移動触媒等の界面活性剤を使用する場合、その使用量は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されるものではないが、上記溶液(分散液)又は水性溶液(水性分散液)中のジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体1モル当量に対して、通常0.001モル当量乃至1.5モル当量である。
【0037】
上記炭化水素化剤(ハロゲン化炭化水素化合物、擬ハロゲン化炭化水素化合物及び硫酸ジアルキル化合物からなる群から選択される少なくとも一種)及び所望により界面活性剤は、必要に応じて溶媒に溶解又は分散させて、それらの溶液又は分散液の形態にて用いてもよい。
【0038】
上記工程X又は工程Aで準備したジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体の溶液(分散液)又は水性溶液(水性分散液)と、上記炭化水素化剤(ハロゲン化炭化水素化合物、擬ハロゲン化炭化水素化合物及び硫酸ジアルキル化合物からなる群から選択される少なくとも一種)及び所望により界面活性剤との混合は、通常前述の工程X又は工程Aのジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体の溶液(分散液)又は水性溶液(水性分散液)を準備する工程に引き続いて実施する。
この混合の方法は、上記工程X又は工程Aで準備した溶液(分散液)又は水性溶液(水性分散液)と上記炭化水素化剤及び所望により界面活性剤とを混合させる限りに限定されるものではない。
【0039】
以下、上記工程Aで準備した水性溶液(水性分散液)と、上記アルキル化剤等の炭化水素化剤及び所望により界面活性剤とを混合する方法について説明する。
まず、上記工程Aで準備した水性溶液(水性分散液)に、そのまま(温度調整等をすることなく)上記アルキル化剤等の炭化水素化剤及び所望により界面活性剤を添加する。このとき、アルキル化剤等の炭化水素化剤及び所望により界面活性剤に対して、上記工程Aで準備した水性溶液(水性分散液)を(温度調整等することなく)添加してもよい。
これらの添加の終了後、系内で、N-(炭化水素)イソシアヌル酸が生成する反応が進行する。このとき、系内に上記塩基が非存在の場合には、N-モノ(炭化水素)イソシアヌル酸が選択的に生成し、系内に上記塩基が存在する場合には、N-ジ(炭化水素)イソシアヌル酸が選択的に生成する。添加後、系内を撹拌することにより、N-(炭化水素)イソシアヌル酸の生成をより進行させることができる。
添加後、反応温度(系内の温度)は、上記工程Aに引き続き常温(20℃±15℃)に保つことができ、また反応の進行具合や、N-(炭化水素)イソシアヌル酸生成後の回収の手順等を考慮し、適宜選択(例えば室温(常温)~50℃など)すればよい。なお、N-(炭化水素)イソシアヌル酸の生成反応は室温(常温)下でも比較的容易に進行するとみられ、また工業的な観点から室温(常温)下にての反応が有利となる。
また反応時間は、本発明の効果が損なわれない限り特に制限されるものではなく、反応温度や、使用する炭化水素化剤(ハロゲン化炭化水素化合物、擬ハロゲン化炭化水素化合物及び硫酸ジアルキル化合物からなる群から選択される少なくとも一種)の種類、界面活性剤の有無及び種類にもよるが、例えば0.1時間乃至10時間である。
【0040】
なお、上記炭化水素化剤(ハロゲン化炭化水素化合物、擬ハロゲン化炭化水素化合物及び硫酸ジアルキル化合物からなる群から選択される少なくとも一種)と界面活性剤を併用する場合の、それらの添加(水性溶液との接触・混合)の順序は特に限定されない。好ましくは先に界面活性剤を添加し(水性溶液と接触・混合させ)、その後、炭化水素化剤を添加することで、反応を均一に進行させることができる。
【0041】
精製操作は特に限定されるものではないが、例えば反応後に析出した固体を濾別回収し、水若しくはチオ硫酸ナトリウムの様な還元剤の水溶液で洗浄、その後有機溶媒若しくは水中で再結晶、乾燥する事で純度を向上させることができる。若しくは有機溶媒を用いた分液操作も適用できる。
【0042】
(4)ハロゲン化炭化水素化合物、擬ハロゲン化炭化水素化合物及び硫酸ジアルキル化合物からなる群から選択される少なくとも一種の炭化水素化剤を含む溶液又は分散液を準備する工程S
本工程は、炭化水素化剤の溶液(分散液)又は水性溶液(水性分散液)を準備する工程、すなわち炭化水素化剤を上述した溶媒に溶解又は分散させて、後の工程Tで使用する炭化水素化剤の溶液、水性溶液又は(水性)分散液を準備する(調製する)工程である。
本工程Sにおける炭化水素化剤の意味やその具体例、及びその他の条件(使用量等)は、上述のとおりである。
【0043】
当該溶液(分散液)の準備(調製)に使用する溶媒としては、この種の反応に用いられるものであって、反応に悪影響を及ぼさない限り特に限定されるものではないが、より再現性よく目的物を得る観点、より収率よく目的物を得る観点、作業性の観点等から、水、緩衝液及び水溶性の有機溶媒が好ましい。水及び水溶性の有機溶媒の具体例やその他の条件は、上述と同様である。
【0044】
当該溶液(分散液)を準備(調製)するには、1種又は2種以上の溶媒と、上記炭化水素化剤とを混合し、該炭化水素化剤を溶媒に溶解又は分散すればよい。
当該水性溶液(水性分散液)を準備(調製)するには、水、緩衝液、水溶性の有機溶媒、又は水若しくは緩衝液と水溶性の有機溶媒との混合溶媒と、上記炭化水素化剤とを混合し、該炭化水素化剤を水等に溶解又は分散すればよい。
このとき、混合や溶解又は分散時の温度は特に限定されず、炭化水素化剤の溶解性や分散性に応じて適宜調整すればよく、例えば常温(20℃±15℃)程度とすることができる。
【0045】
また、当該溶液(分散液)又は水性溶液(水性分散液)は、上記炭化水素化剤とともに、相間移動触媒等の界面活性剤を含むものとすることができる。用いる界面活性剤の具体例及びその条件(使用量等)は、上述のとおりである。
また、当該溶液(分散液)又は水性溶液(水性分散液)は、さらに塩基を含むものとすることができる。塩基を含む系とすることにより、後述の工程Tにおいて、N-ジ(炭化水素)イソシアヌル酸をより選択的に生成させることができる。このような塩基の具体例及びその条件(使用量等)は、上述のとおりである。
上記炭化水素化剤、並びに所望により界面活性剤及び塩基は、必要に応じて溶媒に溶解又は分散させて、それらの溶液又は分散液の形態にて用いてもよい。
【0046】
界面活性剤を使用する場合、その混合(添加)・溶解・分散の順序は特に限定されず、溶媒に、上記炭化水素化剤を混合する際に一緒に混合し、溶解又は分散してもよいし、あるいは上記炭化水素化剤を混合する前、あるいは混合後に界面活性剤を添加し、溶解又は分散してもよい。
界面活性剤の混合(添加)・溶解・分散時の温度は特に限定されず、上述の炭化水素化剤の混合・溶解・分散時と同様、使用する界面活性剤の溶解性又は分散性に応じて適宜調整(例えば室温(常温)~50℃など)すればよい。
【0047】
塩基を使用する場合、その混合(添加)・溶解・分散の順序は特に限定されず、溶媒、或いは水、緩衝液、水溶性の有機溶媒、又は、水と水溶性の有機溶媒の混合溶媒に、上記炭化水素化剤を混合する際に一緒に混合し、溶解又は分散してもよいし、あるいは上記炭化水素化剤を混合する前、あるいは混合後に塩基を添加し、溶解又は分散してもよい。
塩基の混合(添加)や溶解・分散時の温度は特に限定されず、上述の炭化水素化剤の混合・溶解・分散時と同様、使用する塩基の溶解性に応じて適宜調整(例えば室温(常温)~50℃など)すればよい。
【0048】
(5)上記炭化水素化剤の溶液又は分散液と、出発物質であるジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体とを混合する工程T
本工程Tは、前述の工程Sで得た炭化水素化剤の溶液(分散液)又は水性溶液(水性分散液)と、ジハロゲン化イソシアヌル酸、ジハロゲン化イソシアヌル酸塩、及びジハロゲン化イソシアヌル酸塩の水和物からなる群から選択される少なくとも一種のジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体とを混合する工程である。
なお、ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体の定義や具体例、その他の条件(使用量等)は、上述の通りである。
【0049】
上記ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体は、固体のまま混合してもよいし、必要に応じて溶媒に溶解又は分散させて、それらの溶液又は分散液の形態にて用いてもよい。固体のまま混合する場合、全量を一度に混合してもよいし、小分けにして少量ずつ混合してもよい。上記溶液又は分散液に、塩基不存在下で、ハロゲン化イソシアヌル酸誘導体を固体のまま加えて混合することで、N-(炭化水素)イソシアヌル酸をより選択性高く製造することができる。
【0050】
上記工程Sで準備した溶液(分散液)又は水性溶液(水性分散液)と、上記ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体との混合は、通常、前述の工程Sの炭化水素化剤の溶液(分散液)又は水性溶液(水性分散液)を準備する工程に引き続いて実施する。
この混合の方法は、上記工程Sで準備した溶液(分散液)又は水性溶液(水性分散液)と、上記ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体とを混合させる限りに限定されるものではない。
【0051】
以下、上記工程Sで準備した溶液(分散液)又は水性溶液(水性分散液)と、上記ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体とを混合する方法について説明する。
まず、上記工程Sで準備した溶液(分散液)又は水性溶液(水性分散液)に、そのまま(温度調整等をすることなく)上記ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体を添加する。このとき、ジハロゲン化イソシアヌル酸誘導体に対して、上記工程Sで準備した溶液(分散液)又は水性溶液(水性分散液)を(温度調整等することなく)添加してもよい。
これらの添加の終了後、系内で、N-(炭化水素)イソシアヌル酸が生成する反応が進行する。このとき、系内に上記塩基が非存在の場合、N-モノ(炭化水素)イソシアヌル酸が選択的に生成し、系内に上記塩基が存在する場合には、N-ジ(炭化水素)イソシアヌル酸が選択的に生成する。添加後、系内を撹拌することにより、N-(炭化水素)イソシアヌル酸の生成をより進行させることができる。
添加後、反応温度(系内の温度)は、上記工程Sに引き続き常温(20℃±15℃)に保つことができ、また反応の進行具合や、N-(炭化水素)イソシアヌル酸生成後の回収の手順等を考慮し、適宜選択(例えば室温(常温)~50℃など)すればよい。なお、N-(炭化水素)イソシアヌル酸の生成反応は室温(常温)下でも比較的容易に進行するとみられ、また工業的な観点から室温(常温)下にての反応が有利となる。
また反応時間は、本発明の効果が損なわれない限り特に制限されるものではないが、反応温度や、使用する炭化水素化剤の種類、界面活性剤の有無及び種類にもよるが、例えば0.1時間乃至10時間である。
反応後の精製操作は、上述のとおりである。
【実施例
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
なお、実施例において、試料の調製及び物性の分析に使用した装置及び条件は、以下のとおりである。
(1)HPLC:(株)島津製作所製 LC-2010A HTシステム
・カラム:HyperCarb(Thermo)、5μm、4.6×100mm
・オーブン:40℃
・検出器:UV210nm
・流速:1.0mL/分
・溶離液及び条件:A液=HPLC用アセトニトリル、B液=0.1質量%リン酸水溶液
0min~8min B液90%→20min B液5%(グラジエーション)
20min~25min B液5%(継続)
25min B液5%→25.1min B液90%(グラジエーション)
25.1min~30min B液90%(継続)
・定量分析用内部標準物質:p-キシレン
・モノメチルイソシアヌル酸の検量線作成:モノメチルイソシアヌル酸標準品100mgを50mLのメスフラスコに秤取しアセトニトリルで定容した。そこから5、10、15mLのホールピペットで溶液を測り取り、それぞれを50mLのメスフラスコに加えた。
別途、内部標準溶液として500mLメスフラスコにp-キシレンを0.50g秤取し、アセトニトリルで定容した溶液を調製した。これを5mLのホールピペットで溶液を測り取り、先のモノメチルイソシアヌル酸標準品溶液が入ったそれぞれの50mLメスフラスコに加え、アセトニトリルで定容した。
HPLCにて、この3水準の溶液を分析し、3点による内部標準検量線を作成した。この検量線によりモノメチルイソシアヌル酸を定量した。
・ジメチルイソシアヌル酸の定量:本分析条件におけるジメチルイソシアヌル酸標準品の、モノメチルイソシアヌル酸標準品に対するモル感度比が1.93であることを確認した。モノメチルイソシアヌル酸の内部標準定量値と、ジメチルイソシアヌル酸のモル感度比から、次式によりジメチルイソシアヌル酸を定量した。
ジメチルイソシアヌル酸の定量値
=(ジメチルイソシアヌル酸のピーク面積値/モノメチルイソシアヌル酸のピーク面積値)×モノメチルイソシアヌル酸の内部標準定量値/モル感度比(1.93)
・トリメチルイソシアヌル酸の定量:本分析条件におけるトリメチルイソシアヌル酸標準品の、モノメチルイソシアヌル酸標準品に対するモル感度比が2.97であることを確認した。モノメチルイソシアヌル酸の内部標準定量値と、トリメチルイソシアヌル酸のモル感度比から、次式によりトリメチルイソシアヌル酸を定量した。
トリメチルイソシアヌル酸の定量値
=(トリメチルイソシアヌル酸のピーク面積値/モノメチルイソシアヌル酸のピーク面積値)×モノメチルイソシアヌル酸の内部標準定量値/モル感度比(2.97)
・保持時間:トリクロロイソシアヌル酸…1.5分、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム…2.3分、イソシアヌル酸…2.3分、モノメチルイソシアヌル酸…3.5分、ジメチルイソシアヌル酸…7.0分、トリメチルイソシアヌル酸…12.2分、p-キシレン…16.0分、モノエチルイソシアヌル酸…3.7分、ジエチルイソシアヌル酸…7.4分、トリエチルイソシアヌル酸…12.3分
(2)H-NMR:日本電子株式会社製 JNM-ECA500
・モノメチルイソシアヌル酸 H-HMR(500MHz,DMSO-d,δppm):11.4(2H,d,J=4.0Hz)3.04(3H,s).
・ジメチルイソシアヌル酸 H-HMR(500MHz,DMSO-d,δppm):11.6(1H,s),3.10(6H,s).
・トリメチルイソシアヌル酸 H-HMR(500MHz,DMSO-d,δppm):3.16(9H,s).
【0053】
[実施例1] 水中での反応
ガラス製反応容器に、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム(日産化学(株)製、商品名ハイライト60G)5.23gと水30.0gを入れ、20℃で撹拌し均一に溶解させた。その後、得られた溶液に硫酸ジメチル(東京化成工業(株))6.00gを滴下していった。得られた混合物を20℃のまま撹拌すると、モノメチルイソシアヌル酸(MMe-ICA)とジメチルイソシアヌル酸(DMe-ICA)の固体が時間とともに析出した。そのまま6時間撹拌した。
反応物をHPLC用アセトニトリル(関東化学(株))と純水を用いてメスフラスコにて希釈し、サンプリングして内部標準物質p-キシレンを加えてHPLCにて定量分析した。
その結果、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム基準での定量収率は、モノメチルイソシアヌル酸(MMe-ICA)が87.0%、そしてジメチルイソシアヌル酸(DMe-ICA)が3.7%、トリメチルイソシアヌル酸(TMe-ICA)が0.0%であった。得られた結果を表1に示す。
【0054】
[実施例2] 界面活性剤(相間移動触媒)を用いた水中での反応
ガラス製反応容器に、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム(日産化学(株)製、商品名ハイライト60G)5.23gと水30.0gを入れ、20℃で撹拌し均一に溶解させた。その後、テトラメチルアンモニウムクロリド(東京化成工業(株)製)0.09gを加え、得られた溶液に硫酸ジメチル(東京化成工業(株))6.00gを滴下していった。得られた混合物を20℃のまま撹拌すると、モノメチルイソシアヌル酸(MMe-ICA)とジメチルイソシアヌル酸(DMe-ICA)の固体が時間とともに析出した。そのまま2時間撹拌した。
実施例1と同様に定量分析した結果、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム基準での定量収率は、モノメチルイソシアヌル酸(MMe-ICA)が80.4%、そしてジメチルイソシアヌル酸(DMe-ICA)が3.4%、トリメチルイソシアヌル酸(TMe-ICA)が0.0%であった。得られた結果を表1に示す。
【0055】
[実施例3] 水中での反応
硫酸ジメチルの量を1.48g、撹拌時間を6時間の代わりに4時間とした以外は、実施例1と同様の方法で、反応及び定量分析を行った。
その結果、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム基準での定量収率は、モノメチルイソシアヌル酸(MMe-ICA)が42.5%、そしてジメチルイソシアヌル酸(DMe-ICA)が2.1%、トリメチルイソシアヌル酸(TMe-ICA)が0.0%であった。得られた結果を表1に示す。
【0056】
[実施例4] 水中での反応
硫酸ジメチルの量を2.97gとした以外は、実施例3と同様の方法で、反応及び定量分析を行った。
その結果、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム基準での定量収率は、モノメチルイソシアヌル酸(MMe-ICA)が77.8%、そしてジメチルイソシアヌル酸(DMe-ICA)が4.0%、トリメチルイソシアヌル酸(TMe-ICA)が0.0%であった。得られた結果を表1に示す。
【0057】
[実施例5] 水中での反応
硫酸ジメチルの量を4.45gとした以外は、実施例3と同様の方法で、反応及び定量分析を行った。
その結果、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム基準での定量収率は、モノメチルイソシアヌル酸(MMe-ICA)が80.8%、そしてジメチルイソシアヌル酸(DMe-ICA)が3.8%、トリメチルイソシアヌル酸(TMe-ICA)が0.0%であった。得られた結果を表1に示す。
【0058】
[実施例6] 水中での反応(塩基含有)
ガラス製反応容器に、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム(日産化学(株)製、商品名ハイライト60G)5.23gと水酸化ナトリウム(関東化学(株)製、特級)0.94gと水30.0gを入れ、20℃で撹拌し均一に溶解させた。その後、得られた溶液に硫酸ジメチル(東京化成工業(株))6.00gを滴下していった。得られた混合物を20℃のまま撹拌すると、モノメチルイソシアヌル酸(MMe-ICA)とジメチルイソシアヌル酸(DMe-ICA)の固体が時間とともに析出した。そのまま2時間撹拌した。
実施例1と同様に定量分析した結果、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム基準での定量収率は、モノメチルイソシアヌル酸(MMe-ICA)が43.7%、そしてジメチルイソシアヌル酸(DMe-ICA)が32.3%、トリメチルイソシアヌル酸(TMe-ICA)が0.3%であった。得られた結果を表1に示す。
【0059】
[実施例7] 水中での反応(塩基含有)
水酸化ナトリウムの量を1.88gとした以外は、実施例6と同様の方法で、反応及び定量分析を行った。
その結果、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム基準での定量収率は、モノメチルイソシアヌル酸(MMe-ICA)が14.1%、そしてジメチルイソシアヌル酸(DMe-ICA)が41.3%、トリメチルイソシアヌル酸(TMe-ICA)が5.8%であった。得られた結果を表1に示す。
【0060】
[実施例8] 水中での反応(ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム水和物使用)
ガラス製反応容器に、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム2水和物(日産化学(株)製、商品名ハイライト55G)6.10gと水30.0gを入れ、20℃で撹拌し均一に溶解させた。その後、得られた溶液に硫酸ジメチル(東京化成工業(株))4.51gを滴下していった。得られた混合物を20℃のまま撹拌すると、モノメチルイソシアヌル酸(MMe-ICA)とジメチルイソシアヌル酸(DMe-ICA)の固体が時間とともに析出した。そのまま6時間撹拌した。
実施例1と同様に定量分析した結果、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム2水和物基準での定量収率は、モノメチルイソシアヌル酸(MMe-ICA)が82.8%、そしてジメチルイソシアヌル酸(DMe-ICA)が3.2%、トリメチルイソシアヌル酸(TMe-ICA)が0.0%であった。得られた結果を表1に示す。
【0061】
[実施例9] 水中での反応(ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム水和物使用)
硫酸ジメチルの量を6.01gとした以外は、実施例8と同様の方法で、反応及び定量分析を行った。
その結果、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム2水和物基準での定量収率は、モノメチルイソシアヌル酸(MMe-ICA)が79.4%、そしてジメチルイソシアヌル酸(DMe-ICA)が2.9%、トリメチルイソシアヌル酸(TMe-ICA)が0.0%であった。得られた結果を表1に示す。
【表1】
【0062】
表1に示すように、本発明の製造方法によれば、ワンポットにて、目的とするイソシアヌル酸のモノ置換体であるN-モノ(炭化水素)イソシアヌル酸を生産効率よく選択的に得られることが確認された(実施例1~実施例5、実施例8~実施例9)。
また、塩基の存在によってジ置換体であるN-ジ(炭化水素)イソシアヌル酸を高収率にて得られることが確認され、塩基量の調整によって、ジ置換体をより選択的に得られることが確認された(実施例6、実施例7)。
【0063】
[実施例10] 緩衝液中での反応(反応中のpH制御)
水の代わりにpH=7.0に調整した10mM緩衝液(酢酸アンモニウム(関東化学(株)製、特級)、ギ酸アンモニウム(関東化学(株)製、鹿一級)水溶液)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、反応及び定量分析を行った。
その結果、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム基準での定量収率は、モノメチルイソシアヌル酸(MMe-ICA)が80.3%、そしてジメチルイソシアヌル酸(DMe-ICA)が3.6%、トリメチルイソシアヌル酸(TMe-ICA)が0.0%であった。得られた結果を表2に示す。
【0064】
[実施例11] 水中での反応(反応温度)
反応温度を10℃とし、反応時間を7時間とした以外は、実施例1と同様の方法で、反応及び定量分析を行った。
その結果、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム基準での定量収率は、モノメチルイソシアヌル酸(MMe-ICA)が85.2%、そしてジメチルイソシアヌル酸(DMe-ICA)が2.8%、トリメチルイソシアヌル酸(TMe-ICA)が0.1%であった。得られた結果を表2に示す。
【0065】
[実施例12] 水中での反応(反応温度)
反応温度を30℃とし、反応時間を3時間とした以外は、実施例1と同様の方法で、反応及び定量分析を行った。
その結果、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム基準での定量収率は、モノメチルイソシアヌル酸(MMe-ICA)が78.4%、そしてジメチルイソシアヌル酸(DMe-ICA)が2.6%、トリメチルイソシアヌル酸(TMe-ICA)が0.1%であった。得られた結果を表2に示す。
【0066】
[実施例13] 水中での反応(反応温度)
反応温度を40℃とした以外は、実施例12と同様の方法で、反応及び定量分析を行った。
その結果、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム基準での定量収率は、モノメチルイソシアヌル酸(MMe-ICA)が77.3%、そしてジメチルイソシアヌル酸(DMe-ICA)が2.5%、トリメチルイソシアヌル酸(TMe-ICA)が0.1%であった。得られた結果を表2に示す。
【0067】
[実施例14] 水中での反応(水の量、反応温度)
水の量を60.6gとした以外は、実施例13と同様の方法で、反応及び定量分析を行った。
その結果、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム基準での定量収率は、モノメチルイソシアヌル酸(MMe-ICA)が68.4%、そしてジメチルイソシアヌル酸(DMe-ICA)が1.7%、トリメチルイソシアヌル酸(TMe-ICA)が0.1%であった。得られた結果を表2に示す。
【0068】
[実施例15] 水中での反応(水の量)
反応温度を20℃とした以外は、実施例14と同様の方法で、反応及び定量分析を行った。
その結果、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム基準での定量収率は、モノメチルイソシアヌル酸(MMe-ICA)が76.7%、そしてジメチルイソシアヌル酸(DMe-ICA)が1.9%、トリメチルイソシアヌル酸(TMe-ICA)が0.1%であった。得られた結果を表2に示す。
【0069】
[実施例16] 水中での反応(水の量)
水の量を45.5gとした以外は、実施例15と同様の方法で、反応及び定量分析を行った。
その結果、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム基準での定量収率は、モノメチルイソシアヌル酸(MMe-ICA)が78.2%、そしてジメチルイソシアヌル酸(DMe-ICA)が2.2%、トリメチルイソシアヌル酸(TMe-ICA)が0.1%であった。得られた結果を表2に示す。
【0070】
[実施例17] 水中での反応(滴下時間)
硫酸ジメチルの量の滴下時間を1時間に延長し、反応時間を2.5時間とした以外は、実施例1と同様の方法で、反応及び定量分析を行った。
その結果、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム基準での定量収率は、モノメチルイソシアヌル酸(MMe-ICA)が78.2%、そしてジメチルイソシアヌル酸(DMe-ICA)が3.1%、トリメチルイソシアヌル酸(TMe-ICA)が0.1%であった。得られた結果を表2に示す。
【0071】
[実施例18] 水中での反応(滴下時間)
硫酸ジメチルの量の滴下時間を2時間に延長し、反応時間を1.5時間とした以外は、実施例1と同様の方法で、反応及び定量分析を行った。
その結果、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム基準での定量収率は、モノメチルイソシアヌル酸(MMe-ICA)が76.7%、そしてジメチルイソシアヌル酸(DMe-ICA)が3.2%、トリメチルイソシアヌル酸(TMe-ICA)が0.1%であった。得られた結果を表2に示す。
【0072】
[実施例19] 水中での反応(ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム投入)
ガラス製反応容器に、硫酸ジメチル(東京化成工業(株))6.00gと水30.0gを入れ、20℃で撹拌し分散させた。その後、得られた分散液にジクロロイソシアヌル酸ナトリウム(日産化学(株)製、商品名ハイライト60G)5.28gを1時間かけて分割投入していった。得られた混合物を20℃のまま撹拌すると、モノメチルイソシアヌル酸(MMe-ICA)とジメチルイソシアヌル酸(DMe-ICA)の固体が時間とともに析出した。そのまま2.5時間撹拌した。
実施例1と同様に定量分析した結果、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム基準での定量収率は、モノメチルイソシアヌル酸(MMe-ICA)が78.4%、そしてジメチルイソシアヌル酸(DMe-ICA)が1.6%、トリメチルイソシアヌル酸(TMe-ICA)が0.1%であった。得られた結果を表2に示す。
【0073】
[実施例20] 水中での反応(ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム投入)
ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムの投入時間を2時間とし、反応時間を1.5時間とした以外は、実施例19と同様の方法で、反応及び定量分析を行った。
その結果、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム基準での定量収率は、モノメチルイソシアヌル酸(MMe-ICA)が77.3%、そしてジメチルイソシアヌル酸(DMe-ICA)が1.3%、トリメチルイソシアヌル酸(TMe-ICA)が0.1%であった。得られた結果を表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
表2に示すように、本発明の製造方法によれば、ワンポットにて、目的とするイソシアヌル酸のモノ置換体であるN-モノ(炭化水素)イソシアヌル酸を生産効率よく選択的に得られることが確認された(実施例10~実施例20)。
【0076】
[実施例21] 反応系中でのジクロロイソシアヌル酸ナトリウム発生
ガラス製反応容器に、イソシアヌル酸(日産化学(株)製、商品名CA-P)3.07gと次亜塩素酸ナトリウム水溶液(関東化学(株)製、鹿一級)35.90gを入れ、40℃で撹拌し均一に溶解させ、反応系中でジクロロイソシアヌル酸ナトリウムを発生させた。その後、得られた溶液を20℃に冷却し硫酸ジメチル(東京化成工業(株))6.00gを滴下していった。得られた混合物を20℃のまま6時間撹拌した。
実施例1と同様に定量分析した結果、イソシアヌル酸基準での定量収率は、モノメチルイソシアヌル酸(MMe-ICA)が27.2%、そしてジメチルイソシアヌル酸(DMe-ICA)が7.9%、トリメチルイソシアヌル酸(TMe-ICA)が0.2%であった。得られた結果を表3に示す。
【0077】
【表3】
【0078】
表3に示すように、本発明の製造方法によれば、ワンポットにて、目的とするイソシアヌル酸のモノ置換体であるN-モノ(炭化水素)イソシアヌル酸を選択的に得られることが確認された。
【0079】
[実施例22~26] 有機溶媒中での反応
ガラス製反応容器に、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム(日産化学(株)製、商品名ハイライト60G)5.28gと表4の有機溶媒又は有機溶媒及び水の混合溶媒30.0gとを入れ、20℃で撹拌した。その後、得られた溶液に硫酸ジメチル(東京化成工業(株))6.00gを滴下していった。そのまま6時間撹拌した。
反応物をHPLC用アセトニトリル(関東化学(株))と純水を用いてメスフラスコにて希釈し、サンプリングして内部標準物質p-キシレンを加えてHPLCにて定量分析した。
その結果を表4に示す。
【0080】
【表4】
【0081】
表4に示すように、本発明の製造方法によれば、様々な溶媒を用いて、ワンポットにて、目的とするイソシアヌル酸のモノ置換体であるN-モノ(炭化水素)イソシアヌル酸を生産効率よく選択的に得られることが確認された。
【0082】
[実施例27] 水中での反応(炭化水素化剤)
ガラス製反応容器に、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム(日産化学(株)製、商品名ハイライト60G)5.28gとテトラn-ブチルアンモニウムブロミド(東京化成工業(株))0.05gと水30.0gを入れ、20℃で撹拌し均一に溶解させた。その後、得られた溶液にヨウ化メチル(東京化成工業(株))5.32gを滴下していった。得られた混合物を20℃のまま撹拌すると、モノメチルイソシアヌル酸(MMe-ICA)とジメチルイソシアヌル酸(DMe-ICA)の固体が時間とともに析出した。そのまま6時間撹拌した。
実施例1と同様に定量分析した結果、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム基準での定量収率は、モノメチルイソシアヌル酸(MMe-ICA)が9.0%、そしてジメチルイソシアヌル酸(DMe-ICA)が0.0%、トリメチルイソシアヌル酸(TMe-ICA)が0.0%であった。得られた結果を表5に示す。
【0083】
[実施例28] 有機溶媒中での反応(炭化水素化剤)
ガラス製反応容器に、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム(日産化学(株)製、商品名ハイライト60G)5.28gとジメチルホルムアミド30.0gを入れ、20℃で撹拌し均一に溶解させた。その後、得られた溶液に硫酸ジエチル(東京化成工業(株))7.33gを滴下していった。得られた混合物を20℃のままそのまま6時間撹拌した。
実施例1と同様に定量分析した結果、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム基準での定量収率は、モノエチルイソシアヌル酸(MEt-ICA)が90.8%、そしてジエチルイソシアヌル酸(DEt-ICA)が0.4%、トリエチルイソシアヌル酸(TEt-ICA)が0.0%であった。得られた結果を表5に示す。
【0084】
【表5】
【0085】
表5に示すように、本発明の製造方法によれば、様々な炭化水素化剤を用いても、ワンポットにて、目的とするイソシアヌル酸のモノ置換体であるN-モノ(炭化水素)イソシアヌル酸を選択的に得られることが確認された。
【0086】
[実施例29] モノメチルイソシアヌル酸(MMe-ICA)の精製
実施例11の方法で反応を行った後、常温にてろ過を行いMMe-ICAを含む湿品4.65gを回収した。湿品をガラス製反応容器に入れ、メタノール(関東化学(株)製、特級)3.50g、水28.0gを投入し95℃に加熱した。トルエン(関東化学(株)製、特級)5.0gを加えて分液を行い、水層を回収する操作を2回繰り返した。その後、水層を5℃まで冷却して1時間攪拌し、析出したMMe-ICAを多く含む湿品3.08gをろ過して回収した。その内の2.46gをガラス製反応容器に入れ、メタノール13.8gを投入し65℃に加熱した。その後、5℃まで冷却して1時間攪拌し、析出したMMe-ICAを更に多く含む湿品2.05gをろ過して回収した。得られた湿品を減圧乾燥させ、1.39gのMMe-ICA結晶を得た。MMe-ICA結晶をHPLC用アセトニトリルを用いてメスフラスコにて希釈し、HPLCにて相対面積%を分析した。モノメチルイソシアヌル酸(MMe-ICA)が98.5%、そしてジメチルイソシアヌル酸(DMe-ICA)が0.5%、トリメチルイソシアヌル酸(TMe-ICA)が0.7%、その他0.3%であった。
【0087】
[実施例30] ジメチルイソシアヌル酸(DMe-ICA)の精製
実施例7の方法で反応を行った後、10℃まで冷却してろ過を行いDMe-ICAを含む湿品5.03gを回収した。湿品をガラス製反応容器に入れ、水20gを投入し50℃に加熱した。その後、10℃に冷却し析出したDMe-ICAを更に多く含む湿品4.76gをろ過して回収した。同じ操作を再度繰り返し、DMe-ICAを更に多く含む湿品4.61gをろ過して回収した。湿品をガラス製反応容器に入れ、メタノール(関東化学(株)製、特級)15gを投入し60℃に加熱した。その後、10℃に冷却し析出したDMe-ICAを更に多く含む湿品2.12gをろ過して回収した。得られた湿品を減圧乾燥させ、2.03gのDMe-ICA結晶を得た。DMe-ICA結晶をHPLC用アセトニトリルを用いてメスフラスコにて希釈し、HPLCにて相対面積%を分析した。モノメチルイソシアヌル酸(MMe-ICA)が6.9%、そしてジメチルイソシアヌル酸(DMe-ICA)が92.7%、トリメチルイソシアヌル酸(TMe-ICA)が0.4%であった。
【0088】
[比較例1] イソシアヌル酸を用いた水中での反応(塩基含有)
ガラス製反応容器に、イソシアヌル酸(日産化学(株)製、商品名CA-P)3.07gと水酸化ナトリウム(関東化学(株)製、特級)0.95gと水30.0gを入れ、20℃で撹拌したが均一溶解しなかった。その後、得られたスラリーに硫酸ジメチル(東京化成工業(株))6.00gを滴下していった。得られた混合物を20℃のまま2時間撹拌した。
実施例1と同様に定量分析した結果、イソシアヌル酸基準での定量収率は、モノメチルイソシアヌル酸(MMe-ICA)が11.2%、そしてジメチルイソシアヌル酸(DMe-ICA)が12.1%、トリメチルイソシアヌル酸(TMe-ICA)が0.4%であった。得られた結果を表6に示す。
【0089】
[比較例2] イソシアヌル酸を用いた水中での反応(塩基含有)
水酸化ナトリウムの量を1.90gとした以外は、比較例1と同様の方法で、反応及び定量分析を行った。
その結果、イソシアヌル酸基準での定量収率は、モノメチルイソシアヌル酸(MMe-ICA)が13.9%、そしてジメチルイソシアヌル酸(DMe-ICA)が25.9%、トリメチルイソシアヌル酸(TMe-ICA)が0.0%であった。得られた結果を表6に示す。
【0090】
【表6】
[表6]イソシアヌル酸基準での定量収率
【0091】
表6に示すように、イソシアヌル酸を出発物質とした場合、塩基の量を増加させることでジ置換体であるN-ジ(炭化水素)イソシアヌル酸の収率自体は向上したものの、表1に示す本発明の方法と比べ、目的物の選択性に欠ける結果となった。