(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】生物発光酵素の長波長発光基質
(51)【国際特許分類】
C07D 487/04 20060101AFI20240718BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240718BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240718BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240718BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240718BHJP
C12Q 1/06 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
C07D487/04 144
C07D487/04 CSP
C12N5/10
C12N1/21
C12N1/19
C12N1/15
C12Q1/06
(21)【出願番号】P 2020040703
(22)【出願日】2020-03-10
【審査請求日】2023-02-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行日 2019年6月27日 刊行物名 第43回有機電子移動化学討論会 講演要旨集
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 開催日 2019年6月27日~2019年6月28日(公開日は2019年6月27日) 集会名、開催場所 第43回有機電子移動化学討論会 横浜国立大学教育文化ホール(横浜市保土ヶ谷区常磐台79-1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行日 2019年10月5日 刊行物名 生物発光化学発光研究会第35回学術講演会 講演要旨集
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 開催日 2019年10月5日 集会名、開催場所 生物発光化学発光研究会第35回学術講演会 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 臨海副都心センター(東京都江東区青梅2-4-7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行日 2019年11月20日 刊行物名 第42回日本分子生物学会年会 講演要旨集
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 開催日 2019年12月3日~2019年12月6日(公開日は2019年12月3日) 集会名、開催場所 第42回日本分子生物学会年会 福岡国際会議場・福岡サンパレスホテル&ホール・マリンメッセ福岡
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行日 2020年3月5日 刊行物名 日本化学会第100春季年会 講演予稿集
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金 誠培
(72)【発明者】
【氏名】牧 昌次郎
(72)【発明者】
【氏名】北田 昇雄
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-165265(JP,A)
【文献】特表2019-507753(JP,A)
【文献】ACS Chem. Biol.,2019年,14,959-965
【文献】Chem. Commun.,2015年,51,391-394
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 487/04
C12N 5/10
C12N 1/21
C12N 1/19
C12N 1/15
C12Q 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
【化1】
(式中、
R
1は
ヒドロキシ基で置換されていてもよいベンジル基を示す。
R
2は
下記のいずれかの基を示す。
【化2】
R
3は置換されていてもよいアリール
基を示す
。)で表されるイミダゾピラジノン化合物。
【請求項2】
請求項
1に記載のイミダゾピラジノン化合物と生物発光酵素との組み合わせにより生物発光を放つことを特徴とするバイオアッセイシステム。
【請求項3】
生物発光酵素の遺伝子が組み込まれた形質転換細胞であって、さらに請求項
1に記載のイミダゾピラジノン化合物を含み、前記生物発光酵素との組み合わせにより生物発光を放つことを特徴とする、形質転換細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物発光酵素の発光基質の新規合成と長波長発光に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体イメージングやバイオアッセイなどを可能とする核心技術は発光標識であり、発光標識の安定性や発光特性は、イメージングやバイオアッセイの信頼性の要である。例えば、レポータージーンアッセイ(reporter-gene assay)、ツーハイブリットアッセイ(two-hybrid assay)、酵素結合免疫吸着法(enzyme-linked immunoSorbent assay)、放射免疫アッセイ(ラジオイムノアッセイ、RIA)等のバイオアッセイにおいて、発光標識は信号を発信する核心的な役割を果たす(非特許文献1、2)。
【0003】
その他のバイオアッセイとして、通常「発光イメージングプローブ」を用いるアッセイ法が広く使われている。例えば、細胞内での蛋白質-蛋白質相互作用(PPI)を発光イメージングする方法が開発されており、非特許文献3等のように蛍光蛋白質間蛍光共鳴エネルギー転移を利用したフレート法(FRET)、非特許文献4等のように蛍光蛋白質や発光蛋白質を2分割し、その蛋白質断片間の再結合による発光回復を特徴とする二分子型自己相補法(2-molecule-format protein-fragment complementation assay(PCA))等が知られている。
【0004】
本発明者らは、蛋白質の自発的な組継ぎ反応を用いたアッセイ法(protein splicing assay (PSA))を開発し(非特許文献5)、さらに、一分子型生物発光プローブ(integrated-molecule-format bioluminescent probe;又は簡単にsingle-chain probe)のような単一分子内で蛋白質-蛋白質間の相互作用を簡便に検出する手法も開発した(特許文献1、非特許文献3)。更にその派生手法として、発光酵素の遺伝子配列を円順列置換(circular permutation)したことを特徴とする一分子型生物発光プローブも開発した(特許文献2、非特許文献4)。他にも生物発光酵素23(ALuc(登録商標)23)に歪みをかけると発光輝度が上昇する現象を利用して分子歪みセンサー(molecular tension-indexed bioluminescent probe)という新概念の発光プローブを開発した(特許文献3、非特許文献5)。最近では、レポータージーンアッセイと一分子型生物発光プローブを合体した多重リガンド認識型生物発光プローブ(multiple recognition-type bioluminescent probe)を開発し、このプローブは、1つの検量物質に対して2回センシングすることを特徴とする(非特許文献6)。更に、2色の一分子型生物発光プローブを組み合わせることによって「マルチカラー生物発光イメージングプローブセット」を開発した(特許文献4)。このプローブは、検体の多面的な生理活性の多色イメージングできることを特徴としている。
【0005】
前述したバイオアッセイにおいて、発光標識は検出信号を発信する、最も肝心な要素であり、バイオアッセイの性能は発光標識の性能に左右されると言っても過言ではない。従来、発光標識として使われてきたのは、蛍光蛋白質(fluorescent protein)、生物発光酵素(luciferase)、horseradish peroxidase (HRP)、Alkaline Phosphatase (AP)、b-galactosidase、蛍光色素、放射線同位元素などである。
【0006】
これらの発光標識は、実用例から主に2つに分類できる:即ち、光の励起により発生する発光(Photoluminescenceまたはfluorescence、蛍光)と、化学エネルギーにより励起されることを特徴とする発光(chemiluminescence、化学発光)。化学発光の内、生体由来の発光酵素の触媒反応による発光現象を生物発光と称する。
【0007】
化学発光は必ず基質を必要とする。一般的に生物発光酵素などにより基質の酸化が触媒され、基質が持つ本来の化学エネルギーより励起された電子エネルギーが基底状態に戻る際に発光を放つ。このため、蛍光蛋白質は蛍光団を内部に有するが、生物発光酵素の発光団は外部の基質に依存する。従って基質の化学構造を制御することにより、発光輝度と多色発光ができると思い至った。
【0008】
前述した概念の下で、本発明者の以前の研究を再度レビューした(非特許文献7)。即ち、発光酵素と発光基質間の結合モデルを検討した。
図1で示したように生物発光酵素の場合、発光基質(赤線)が酵素活性部位に対してC2番位置(R-A)より挿入されることを示唆している。一方、C6番位置(R-C)は外側向きになっていることが分かる。このシミュレーションは、生物発光酵素に結合する発光基質のC6番位置(R-C)は外向きであるため、C6番位置(R-C)の官能基の置換は立体障害が少ないことを示唆している。
【0009】
前述した見解は、逆にいうとC2番位置(R-A)に官能基を替えた場合には、立体障害を受けやすいことを示すものでもある。実際に、
図2で示したようにC2番位置(R-A)の官能基を替えた場合、厳格に官能基のサイズに依存することが
図2と
図3のデータより明らかになった(非特許文献7)。
【0010】
また、海洋生物由来の生物発光酵素と発光基質間の結合モデルに関する別の研究例によると、ウミシイタケ生物発光酵素(RLuc)がその基質と結合する際、C6番から入った方が熱力学的に安定的だという見解が示された(非特許文献8、
図4)。
【0011】
この研究例は、RLucの場合、むしろ基質のC6位の官能基の化学構造が重要であることを示唆するものである。
【0012】
本発明者はこれらの見解の基に、生物発光酵素またはRLucに特異的に反応する発光基質を開発したことがあった(非特許文献9)。この研究の代表例は、
図5のように説明できる。即ち、複数の発光酵素が同一反応場に共存している中、それぞれ別の基質に特異的であるため、どの基質を投入するかによって、どちらかの1つの発光酵素のみが反応する仕組みである。
【0013】
しかしながら、前述した何れの方法でも、発光色の多色化には至らなかった。生物発光の多色化における伝統的なアプローチとしては、発光基質に蛍光色素を繋げる方法であった。その長波長発光原理は、まず発光基質が短波長発光を放つとその共鳴エネルギーが隣接した蛍光色素に移るため、蛍光色素が長波長発光を放つことができる。このような現象を生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)という。その典型的な例が、
図6に示したようなものである(非特許文献10)。
【0014】
しかしこのような方法は、煩雑な基質合成工程が必要であり、発光エネルギーが蛍光色素に移る効率も悪いため、発光損失により輝度が非常に低いことが問題点であった。また、蛍光色素付き基質は、溶解度が悪く、比較的に大きい分子であるため細胞膜透過性が悪い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】国際公開WO2008/084869号公報
【文献】米国特許公開2009-0269781号公報
【文献】特開2011-067190号公報
【文献】米国特許公開2009-0123954号公報
【文献】日本特許公開番号:2015-125028
【非特許文献】
【0016】
【文献】S.B.Kim,H.Tao,and Y.Umezawa eds.,“Cellular and Biomolecular Recognition”,Edited by R.Jelinek,p.299.((2009)(Wiley-VCH,Darmstadt)).
【文献】W.Li and N.B.Caberoy,Applied Microbiology and Biotechnology 85(4),909(2010)
【文献】S.B.Kim,Y.Otani,Y.Umezawa et al.,Anal.Chem. 79(13),4820(2007).
【文献】S.B.Kim,M.Sato,and H.Tao,Bioconjugate Chem. 19(12),2480(2008).
【文献】S.B.Kim,M.Sato,and H.Tao,Bioconjugate Chem. 20(12),2324(2009).
【文献】S.B.Kim,Y.Takenaka,and M.Torimura,Bioconjugate Chem. 22(9),1835(2011).
【文献】S. B. Kim and H. Izumi, Biochem. Biophys. Res. Commun. 448(4), 418(2014)
【文献】R. Nishihara, R. Paulmurugan, T. Nakajima et al., Theranostics 9(9), 2646 (2019)
【文献】R. Nishihara, M. Abe, S. Nishiyama et al., Sci. Rep. 7(908), 1 (2017)
【文献】R. Nishihara, E. Hoshino, Y.Kakudate et al., Bioconjugate Chem. 29(6), 1922 (2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明では、発光色の乏しい海洋生物由来生物発光酵素の発光性能(多色性、発光輝度、発光安定性など)を改善するために、(1)発光基質の創製と(2)新規発光基質と好適に反応する発光酵素の選択とそれに伴う発光反応条件の最適化、(3)それに付随するバイオアッセイ技術の観点から研究課題を解決する必要がある。
【0018】
まず「(1)発光基質の創製」においては、前述した基質と海洋生物発光酵素間の結合モデルに基づいて基質の官能基を変える必要があり、より具体的には海洋生物由来生物発光酵素の共通基質(セレンテラジン)のC6位の官能基を長波長シフトが見込まれるπ結合の長い官能基に変える必要がある。同様にC2位の官能基においては、ヒドロキシ基の調整による結合能力の検討が必要である。さらにC6位をその他の官能基、例えばピリジン基に替えC2位のフェノール基をベンゼングループに置換することにより、各生物発光酵素との選択性などを極める必要がある。「(2)新規発光基質と好適に反応する発光酵素の選択とそれに伴う発光反応条件の最適化」において、発光酵素の選択は、発光輝度と発光色が決まる上で重要な要素であり、様々な選択肢の中で、とりわけ海洋生物由来の発光酵素に焦点を当て、今回開発した発光基質との反応による発光特性(輝度や色)を最適化する必要がある。また「(3)それの付随するバイオアッセイ技術」についても綿密な検討が必要である。反応溶液を最適化することにより、高い発光性能を導くことができ、適切なバイオアッセイと組み合わせることにより、本発明の良さを確実なものにすることができる。
【0019】
当該基質は、海洋生物由来の発光酵素と反応して発光することを特徴とする小分子化学物質であり、様々なバイオアッセイにおける発光標識として利用できる。バイオアッセイは、その発光方式によって、(1)BRETのように蛍光色素(または蛍光蛋白質)が絡む方式と、(2)純粋に化学発光(生物発光を含む)に頼る手法の2種類に大別される。(1)BRET方式の場合、短波長の発光エネルギーが長波長側に移るため、組織透過性の良い発光信号が放される反面、標識の性能がエネルギー移動効率に依存するが一般的に効率が低い問題点もある。またBRET現象が起こる前と後のスペクトルの変化が大きくないため、光学フィルターを必要とするなど、分析装置が煩雑になる恐れがある。
【0020】
(1)と(2)のいずれの方式においても、エネルギー源は発光であるが故に起こる様々な課題もあった。例えば、化学発光の一種である生物発光の場合、「生物発光酵素」に依存するため、塩濃度、温度、pH、重金属イオンの濃度等によっても発光強度が容易に変動する問題がある。また、化学発光は基質導入後、直ちに輝度を落としてしまう場合が多い(発光安定性が悪い)ため、多数のサンプルを計測する場合に最初のサンプルと最後のサンプルの測定に時差が生じ、測定の信頼性が落ちる問題点があった。他にも、生体由来の体液(例えば、唾液、血清、汗、尿)環境下でバイオアッセイをした場合、体液による光の吸収問題、発光反応そのものへの妨害効果などが問題であった。
【0021】
これらの背景から、新規発光システムにおいては、まず、体液中の生理物質による発光吸収現象や妨害効果をなくしつつ発光安定性の優れたシステムの開発が課題であった。例えば、発光信号が長波長へシフトした発光であれば、体液中の様々な発光吸収物質の妨害効果を回避し(この長波長領域をオプティカルウィンドウと言う)、同時に発光反応溶液など、発光条件を最適化することにより、従来にない信頼性と輝度を持つ発光システムを開発できると思い至った。その具体的な手法としては、長波長発光する発光基質の新規開発とそれをサポートする発光反応条件の最適化である。
【課題を解決するための手段】
【0022】
新規発光基質の創製:
発光基質の創製においては、これまでの本発明者らの研究成果より海洋生物由来生物発光酵素の共通基質(セレンテラジン)の場合、C6番位置の官能基が発光性能に重要であるという考えの基で、C6番位置の官能基を調整した。まず本来基質のC6位に位置するフェノール基(Ph-OH)においてそのヒドロキシ基(OH基)をジメチルアミン基に替える試みをした。またC6番位置のフェノール基とイミダゾピラジノン骨格との間に2重結合を設けることにより、π結合を伸ばし長波長へのシフト効果を試みた。更に基質(セレンテラジン)のC2位のフェノール基をベンゼングループに置換する試みをした。本発明では、C2位がフェノール基を持つ場合を「1グループ」にし、ベンゼングループに置換した場合を「2グループ」に分類した。一方、C6位にピリジン基に替え、さらにC2位のフェノール基をベンゼングループに置換した場合を「3グループ」に分類した。
【0023】
新規発光基質の最適発光酵素の検討:
新規発光基質において、事前に生物発光酵素との結合モデルについて検討したとしても、実際に合成された基質が、思いもかけない新しい発光特性を持つ可能性がある。したがって、新規発光基質においては、できるだけ多くの発光酵素と組み合わせて発光性能を検討する必要がある。例えば、新規発光基質が特定発光酵素に選択的に発光する可能性があった場合、マルチカラーイメージングシステムを構成できる技術的な難関を克服したことになる。また、発光酵素との組み合わせにより、思いがけないレッドシフトした発光色を放つ可能性があり、発光スペクトルに関する綿密な評価も必要である。他に発光持続性や安定性も発光酵素との相性によって決まる側面があり、新規発光基質がどの発光酵素と最も合うかを綿密に評価する必要がある。
【0024】
最適反応条件とバイオアッセイの検討:
また、前述した新規発光基質とそれに最適な発光酵素が見つかった場合においても、その反応に影響する最適反応条件とそのバイオアッセイの検討が必要である。一般的にこれらの発光反応は酵素反応であるため、pHや温度、塩度など様々な要因により発光輝度と発光色、発光安定性が決まる。そのため、これらの要素に関する検討が必要である。
【0025】
また、これらの最適条件を実用的なバイオアッセイに適用するためには、これまで知られている代表的なバイオアッセイ系においてその性能を検証する必要がある。それによって、新規発光基質と発光酵素の組み合わせによる発光システムの有用性を確証できる。
【0026】
本発明は、以下の項1~項5に示される
項1. 下記式(I):
【0027】
【化1】
(式中、R
1は置換されていてもよいアラルキル基を示す。R
2はアリール基、含窒素アリール基又は-(CH=CH)
m-(p-C
6H
4)-NR
5R
6を示す。R
3は置換されていてもよいアリール基又は置換されていてもよいアラルキル基を示す。R
5、R
6は、各々水素原子又は低級アルキル基を示す。mは0~4の整数を示す。)で表されるイミダゾピラジノン化合物。
項2.
R
1はヒドロキシ基で置換されていてもよいベンジル基である、項1に記載のイミダゾピラジノン化合物。
項3.
R
2は下記のいずれかの基
【0028】
【化2】
である、項1又は2に記載のイミダゾピラジノン化合物。
項4.
項1~3のいずれかに記載のイミダゾピラジノン化合物と生物発光酵素との組み合わせにより生物発光を放つことを特徴とするバイオアッセイシステム。
項5.
生物発光酵素の遺伝子が組み込まれた形質転換細胞であって、さらに項1~3のいずれかに記載のイミダゾピラジノン化合物を含み、前記生物発光酵素との組み合わせにより生物発光を放つことを特徴とする、形質転換細胞。
【発明の効果】
【0029】
本研究により、発光輝度と発光安定性が優れた長波長発光システムが開発できれば、そのインパクトは測り知れないほど大きい。発光システムは、化学、医薬学、生物学などで広く用いられており、直接的には生体イメージングやバイオアッセイの発光標識として使うことができる。
【0030】
従来、生体イメージングは、MRI、CT、PETなどの物理的なイメージング手法によって行われてきたが、一般的にその感度が悪いため、長時間の測定や強磁場、放射線曝露が必要であった。造影剤を飲む必要もあり、被検者への苦痛も大きかった。一方、発光システムを用いれば、特異的な分子イメージングができるため、従来よりも極めて高速かつ高感度イメージングができる可能性がある。しかし、これまでの海洋生物由来の発光システムにおいては、その発光色が青色や緑色に留まっていた。もし、本発光システムが組織透過性の優れた赤領域の光を放つことができれば、発光信号の組織透過性が非常に優れるため、生体内で起こる分子イベントや癌の転移などを高感度かつ高速に可視化する道が開かれることになる。
【0031】
また、バイオアッセイに本技術を適用すれば、同一実験系の中で多様な発光色を表現できるため、マルチカラーイメージングやサンプル処理能の優れたアッセイシステムを容易に構築できる。例えば、多数の発光酵素標識が共存している中で、特定発光酵素のみを光らせたい場合には、その発光酵素だけに特異的に発光する発光基質を添加することにより実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】海洋生物由来の生物発光酵素とネイティブセレンテラジンとの結合モデル。
【
図2】生物発光基質(ネイティブセレンテラジン、nCTZ)のC2とC6位置の官能基の変化とそれに伴うサイズ効果。
【
図3】発光基質の官能基のサイズに依存した発光輝度の変化。
【
図4】ウミシイタケルシフェラーゼ8(RLuc8)とその発光基質間の結合モデリング。
【
図5】基質選択性に基づいたバイオアッセイの事例。生物発光酵素とRLuc8、FLucの共存している条件下で、6etOH-CTZより生物発光酵素だけを光らせた。また6piOH-2H-CTZを用いることにより、RLuc8だけを光らせることができた。
【
図6】ネイティブセレンテラジン(nCTZ)の6番官能基に蛍光色素を導入することによる新規発光。
【
図7】1シリーズ発光基質の発光スペクトル。四角点線領域は、600nm以上の長波長(赤色)発光領域を示す。
【
図8】2シリーズ発光基質の発光スペクトル。四角点線領域は、600nm以上の長波長(赤色)発光領域を示す。
【
図9】3シリーズ発光基質の発光スペクトル。四角点線領域は、600nm以上の長波長(赤色)発光領域を示す。
【
図10】各種海洋生物由来の生物発光酵素と新規発光基質との組み合わせによる発光反応の写真。
【
図11】発光輝度(縦軸)と発光基質の濃度(横軸)との相関性グラフ。同一濃度のALuc16(発光酵素)が共存している中で、発光基質の濃度を高めるにつれ、発光輝度は増加する傾向にある。1シリーズの場合、1aの輝度が著しく、2シリーズの場合、2cが基質濃度依存的に明るかった。
【
図12】新規発光基質と発光酵素の組み合わせによる選択的な発光反応。1aはRLuc類にとりわけ明るく光る。一方、3aと3dはNanoLucに特異的に発光することが分かる。他にnCTZはALuc(登録商標)16やALuc23と好適に発光することが分かる。
【
図13A】生物発光酵素16(ALuc(登録商標)16)共存下における新規発光基質による発光輝度のキネティクス。(A)1シリーズ発光基質添加後の発光輝度の経時変化。
【
図13B】生物発光酵素16(ALuc(登録商標)16)共存下における新規発光基質による発光輝度のキネティクス。(B)2シリーズ発光基質添加後の発光輝度の経時変化。
【
図13C】生物発光酵素16(ALuc(登録商標)16)共存下における新規発光基質による発光輝度のキネティクス。(C)3シリーズ発光基質添加後の発光輝度の経時変化。
【
図13D】生物発光酵素16(ALuc(登録商標)16)共存下における新規発光基質による発光輝度のキネティクス。(D)ネイティブセレンテラジン(nCTZ)添加後の発光輝度の経時変化。
【
図14】各新規発光基質の自家発光輝度の比較。血清濃度が0%-50%に変化させた場合、自家発光が増加する傾向にある。比較的に2と3シリーズの発光基質が低い自家発光を示す傾向にあった。
【
図15】新規発光基質と海洋生物発光酵素間の発光システムに依存したバイオアッセイの実施。(A)分子歪みセンサーの作動原理。ラパマイシン依存的に分子歪みがかかるため、ラパマイシンの測定ができる。(B)実際に本発光システムを分子歪みセンサーに適用したバイオアッセイ。ラパマイシンなし(w/o rapa)に比べて、ラパマイシンあり(w/ rapa)の場合に発光輝度が上昇した。
【
図16】ALuc(登録商標)シリーズ共存下における各種新規発光基質の相対的な発光輝度の比較。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の新規発光基質は、下記式(I)で表されるイミダゾピラジノン化合物を包含する。
【0034】
【化3】
(式中、R
1は置換されていてもよいアラルキル基を示す。R
2はアリール基、含窒素アリール基又は-(CH=CH)
m-(p-C
6H
4)-NR
5R
6を示す。R
3は置換されていてもよいアリール基又は置換されていてもよいアラルキル基を示す。R
5、R
6は、各々水素原子又は低級アルキル基を示す。mは0~4の整数を示す。)
アラルキル基としては、ベンジル、フェネチル、ナフチルメチル、ビフェニリルメチルが挙げられる。
【0035】
置換されていてもよいアラルキル基、置換されていてもよいアリール基の置換基としては、OH、SH、C1~C4の直鎖または分岐を有するアルコキシ基(メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、t-ブトキシなど)、C1~C4の直鎖または分岐を有するアルキル基(メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、t-ブチルなど)、メチレンジオキシなどが挙げられ、アラルキル基、アリール基の置換基の数は、0~3個、より好ましくは0個、1個又は2個である。
【0036】
アリール基としては、フェニル、ナフチル、フルオレニル、ビフェニリル、テトラヒドロナフチルなどが挙げられる。
【0037】
含窒素アリール基としては、2-ピリジル、3-ピリジル、4-ピリジル、2-ピロリル、3-ピロリル、2-イミダゾリル、4-イミダゾリル、2-キノリニル、4-キノリニル、5-キノリニルなどが挙げられる。
【0038】
低級アルキル基としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、t-ブチルなどの直鎖又は分岐を有するC1~C6、好ましくはC1~C4のアルキル基が挙げられる。
【0039】
p-C6H4は1,4-フェニレン基を示す。
【0040】
mは0、1、2、3又は4である。
【0041】
一般式(I)の化合物は、下記のスキーム1に従い製造することができる。
【0042】
<スキーム1>
【0043】
【化4】
(式中、R
1、R
2、R
3は、前記に定義される通りである。R
aとR
bは、同一又は異なって、低級アルコキシ基、置換されていてもよいアラルキルオキシ基を表すか、R
1とR
2はそれらが結合している炭素原子と一緒になってカルボニル基、R
1とR
2が一緒になってアルキレンジオキシ基を表す。)
反応は、一般式(2)の化合物1モルに対して、一般式(1)の化合物を1~4モル程度使用し、酸の存在下または非存在下に65~100℃程度の温度で1~2時間反応させることで有利に進行する。
【0044】
一般式(2)の化合物の製造法は次のスキーム2で説明する。
【0045】
<スキーム2>
【0046】
【化5】
(式中、R
2及びR
3は、前記に定義される通りである。
【0047】
R4は、ハロゲン原子、特にBrまたはClを表す。)
スキーム2で示している一般式(2)の化合物の製造法について説明する。
【0048】
一般式(2)の製造法は鈴木カップリング反応を鍵反応とするものである。化合物(4)1モルに対して、化合物(5)1モルを使用し、パラジウム触媒と塩基の存在下に、1~2時間反応させると化合物(6)が得られる。得られる化合物(6)からR2B(OH)2を使用した鈴木カップリング反応で化合物(2)を得ることができる。
【0049】
一般的に、「蛍光」と「発光」と称されるが、実は熱を伴わないために冷光(Luminescence)と言われる「発光」現象の一つが「蛍光(photoluminescenceまたはfluorescence)」である。これ以外にも発光には、化学発光、燐光、結晶光などがある。その内、バイオアッセイで良く使われているのが蛍光と化学発光である。化学発光の内、生体由来の発光を特に生物発光という。即ち、生物発光は化学発光の一種である。
【0050】
蛍光が蛍光色素や蛍光蛋白質により放たれる発光である一方、生物発光はルシフェラーゼと呼ばれる生物発光酵素がその特異的な基質(小分子化学物質)と触媒反応することにより基質の化学エネルギーが放出される発光である。
【0051】
蛍光蛋白質と発光酵素の根本的な違いは、蛍光蛋白質はその蛍光団を分子内に持つが、発光酵素は、その分子内に発光団を持たないことである。その代わり、基質に依存する。
【0052】
このことから、生物発光の輝度と発光色を決定するには、発光団に該当する基質を改変することがもっとも効果的であることが分かる。
【0053】
生物発光酵素は、主にホタルのように陸上昆虫由来の発光酵素と海洋生物由来の発光酵素に大別される。海洋生物由来の発光酵素は、一般的に輝度が高い反面、発光安定性が悪く(爆発的に発光してすぐ減衰してしまう)、長波長発光する事例がない。
【0054】
本研究者は、実はこの問題を解決している。一般式(I)の発光基質を用いれば、海洋生物由来の発光酵素と組み合わせることにより約600nm辺りの発光ピークを放つシステムを構築できる。なお、表1で示される1シリーズと表2で示される2シリーズはそれぞれ海洋生物由来の発光酵素と特異的に発光してレッドシフトした発光を放つ。一方、表3で示される3シリーズの発光基質との組み合わせでは発光のレッドシフト現象は起こらなかった。その代わりに発光酵素に関する選択性において、NanoLucなどに特異性を示す。
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
この発光反応において、必要な反応条件は、一般的な酵素反応に用いられる緩衝溶液であれば良い。例えば、Trisバッファー、HBSSバッファー、PBSバッファー、HEPESバッファーなどの反応溶液条件下で好適に反応する。また、緩衝バッファーのpHにおいては、中性領域(pH 6-8)のpHが好ましく、更にpH5、pH9あたりの条件下でも発光反応そのものに大きな障害は生じない。発光反応の添加物においては、一般的に、反応溶液に認められる添加物であれば良く、例えば、ポリエチレングリコール(PEG), デキストランやCa2+、抗酸化剤(ビタミンCなど)を添加しても良い。しかし、一部の多価重金属の添加は発光反応を阻害する恐れがある。
【0059】
このような反応条件で、生物発光酵素と当該発光基質の発光反応を誘発した場合、以下のような結果が見込まれる。より具体的には、生物発光酵素16 (ALuc(登録商標)16)と前記発光基質(1シリーズ)を組み合わせることにより
図7のような発光スペクトルを得ることができる。この結果は、生物発光酵素が1シリーズの1b、1c、1dと反応した場合、レッドシフトした発光色(緑色、黄色、オレンジ色)を示すことが分かる。ALuc(登録商標)16と2シリーズを組み合わせることにより
図8のような発光スペクトルを得ることができる。この結果は、生物発光酵素が2シリーズの2b、2c、2dなどと反応した場合、1シリーズと同様にレッドシフトした発光色(緑色、黄色、オレンジ色)を示すことを表している。ALuc(登録商標)16と3シリーズを組み合わせることにより
図9のような発光スペクトルを得ることができる。この結果から分かるように、生物発光酵素は3シリーズと一定の発光輝度を示したものの、レッドシフトした発光色は示さないことが分かる。
【0060】
ここまで、上述した発光色のレッドシフト現象は、
図10の写真より一目瞭然に分かる。即ち、
図10より分かるように、各シリーズの右側に行けば行くほど発光色がレッドシフトすることが分かる。
【0061】
また、発光反応に用いる発光酵素と発光基質の濃度は、過剰量の基質を添加した方が好ましく、発光輝度を高めるために有利である。その発光基質の濃度は、5μM以上が好ましく、もっとも好ましいのは50μM以上の濃度である。これは、
図11より明らかに分かる。即ち、一般式(I)で表される新規発光基質は、5μM以上から輝度が上がり始め、約100μM程度では極めて高い発光輝度を示すことが分かる。1-3シリーズの発光基質の輝度はネイティブセレンテラジン(nCTZ)(自然界の発光基質)に比べて一部弱いものの、それは、1-3シリーズの発光基質の分解が進んだことに一因があると思われる。
【0062】
発光酵素と新規発光基質との発光結果を測定するにあたり、輝度の測定タイミングは発光反応開始後約0.1秒以後であればいつでも測定して良い。また一般的に0.3秒以後は比較的安定した発光輝度を示す。この見解は、
図13の実施例から分かる。
【0063】
また、海洋生物由来の発光酵素と当該発光基質間の発光反応を測定するためには、汎用されているルミノメーターやマイクロプレートリーダーで測定すれば良い。もし、前述した発光反応サンプルが多い場合には、多チャンネル式生物発光測定システムにより測定しても良い(特許文献5)。この多チャンネル式化学発光計測システムは、多数のサンプルから出る化学発光(又は、生物発光)を同時測定するものであり、この目的を達成するために多チャンネルミラー仕様の穿孔キャップを用いて多サンプルの保持・同時操作と反射面による効率的な集光式の光学系と網羅的な同時データ処理が可能なソフトシステムを組み合わせたことを特徴としている。多チャンネルミラー式穿孔キャップの採用により多連或いは単独のサンプルチューブと多チャンネルマイクロスライドとを兼用して、前述した発光サンプルの輝度を高速測定することができる。
【0064】
本明細書において、生物発光酵素は、海洋生物由来の天然の生物発光酵素と、前記発光酵素を遺伝子改変した発光酵素誘導体(人工生物発光酵素)の両方を含む。
【0065】
本発明の発光システム(発光酵素+新規発光基質)は以下のような化学発光、生物発光を出すバイオアッセイへの応用が想定できる:海洋生物由来の発光酵素からの生物発光を用いた各種バイオアッセイ測定法、酸化ラジカルの発光測定法、ルミノールの酸化を含む化学発光サンプルの測定法、レポータージーンアッセイ(reporter-gene assay)、ツーハイブリットアッセイ(two-hybrid assay)、タンパク質相補法(protein complementation assay)、インテインを介したタンパク質スプライシング法(intein-mediated protein splicing assay)、一分子型生物発光プローブ法(single-chain probe-based assay)、二分子型生物発光プローブ法(two-molecule-format bioluminescent probe-based assay)。
【0066】
例えば、レポータージーンアッセイを行う際、市販の6チャンネルのマイクロスライド(ibidi社製)上でレポーター(例えば、発光酵素)発現ベクターを持つ真核細胞を培養しリガンド刺激を行い、レポーター蛋白質の細胞内蓄積を待つ。その後、本発明の基質を添加することによって生細胞が発光することから、その輝度をルミノメーターや多チャンネル式化学発光計測システムを用いて測定すればよい。
【0067】
また、前記細胞を細胞溶解液で溶解した後、細胞ライセートを市販の200μLチューブやPCRチューブに入れて測定すればよい。
【0068】
また、一分子型生物発光プローブを用いる場合も、市販の6チャンネルのマイクロスライド(ibidi社製)上で細胞を培養し一分子型生物発光プローブを発現させ、当該細胞にリガンド刺激を行う。リガンド刺激後、本発明の発光基質を添加することによって細胞を発光させ、その輝度をルミノメーターや多チャンネル式化学発光計測システムを用いて光測定すればよい。
【0069】
本発明の発光酵素と新規発光基質間の発光反応を基盤としたバイオアッセイを用いることにより、多数の化学物質やホルモン、薬剤候補物質、毒性物質などのスクリーニングができる。
【0070】
本発明で開発した発光基質は、ウミシイタケ生物発光酵素(RLuc類)に特異的に発光したり、NanoLucに特異的に発光したりする。このような独特な選択性を用いれば、多数の発光酵素(レポーター蛋白質)が共存している中でも、特定発光酵素だけを選択的に光らせることができる。また、本発明の最も大きい特徴の一つである基質の発光色の違いを用いたバイオアッセイも可能である。例えば、同一発光酵素であっても、どの発光基質を添加したかによって異なる発光色が確認でき、マルチカラーイメージングが可能である。
【0071】
即ち、本発明は、従来技術では到底できなかった、多数の発光酵素の共存下でのマルチカラーイメージングを可能とする画期的な技術であり、いずれのバイオアッセイによっても実現できなかった技術である。3つの発光酵素(ALuc(登録商標), RLuc, NanoLuc)が共存する中で、どの発光基質を添加するかによって、青色、緑色、黄色、オレンジ色を実現できる。従って、最大12種類(3x4)のバイオアッセイを同時に可能とする新技術である。
【0072】
また、このバイオアッセイを行う際、その測定法は、通常の標準的な生物発光アッセイに準じて実験手順を実施すればよく、特に制限なく従来のプロトコルが適用できる。
【0073】
PCRチューブやマイクロスライド、または96穴マイクロプレート上で培養した多数の細胞にそれぞれ化学物質やホルモン、薬剤候補物質、毒性物質などを、マルチチャンネルピペットを用いて操作し、それらから出る発光値を計測すれば良い。
【0074】
また、発光の分別のためには、それぞれの目的に合致する光学フィルターを検出部に構えることにより、発光の中でも特に関心のある波長の光を選別して測定することも可能である。このような光学フィルターを用いることで、発光サンプルのマルチカラー測定を行えば良い。
【0075】
これらのバイオアッセイの対象となる被検物質には、例えば、有機または無機の化合物(特に低分子量の化合物)、生物活性を持つホルモンやホルモン様化学物質、生理活性を持つ重金属イオン、ペプチド等が含まれる。これらの物質は、機能や構造が既知のものであっても未知のものであってもよい。また、「コンビナトリアルケミカルライブラリー」は、目的物質を効率的に特定するための被検物質群として有効な手段である。コンビナトリアルケミカルライブラリーの調製およびスクリーニングは、当該技術分野において周知である(例えば、米国特許第6004617号;5985365号を参照)。さらには、市販のライブラリー(例えば、米国ComGenex社製、ロシアAsinex社製、米国Tripos,Inc.社製、ロシアChemStar,Ltd社製、米国3D Pharmaceuticals社製、Martek Biosciences社製などのライブラリー)を使用することもできる。また、コンビナトリアルケミカルライブラリーを、本プローブを発現する細胞の集団に適用することによって、いわゆる「ハイスループットスクリーニング」を実施することもできる。
【0076】
次に、本明細書で用いる用語、概念について説明する。
【0077】
本発明におけるその他の用語や概念は、発明の実施形態の説明や実施例において詳しく規定する。なお、用語は基本的にはIUPAC-IUB Commission on Biochemical Nomenclatureによるものであり、あるいは当該分野において慣用的に使用される用語の意味に基づくものである。また発明を実施するために使用する様々な技術は、特にその出典を明示した技術を除いては、公知の文献等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能である。例えば、遺伝子工学および分子生物学的技術はJ.Sambrook,E.F.Fritsch&T.Maniatis, “Molecular Cloning:A Laboratory Manual(2nd edition)”,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York(1989);D.M.Glover et al.ed.,“DNA Cloning”,2nd ed.,Vol.1to4,(The Practical Approach Series),IRL Press,Oxford University Press(1995);Ausubel,F.M. et al.,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley&Sons,New York,N.Y,1995;日本生化学会編、「続生化学実験講座1、遺伝子研究法II」、東京化学同人(1986);日本生化学会編、「新生化学実験講座2、核酸III(組換えDNA技術)」、東京化学同人(1992);R.Wu ed.,“Methods in Enzymology”,Vol.68(Recombinant DNA), Academic Press,New York(1980);R.Wu et al. ed.,“Methods in Enzymology”,Vol.100(Recombinant DNA,Part B)&101(Recombinant DNA, Part C),Academic Press,New York(1983); R.Wu et al. ed.,“Methods in Enzymology”, Vol.153(Recombinant DNA,Part D),154(Recombinant DNA,Part E)&155(Recombinant DNA,Part F),Academic Press,New York(1987)などに記載の方法あるいはそこで引用された文献記載の方法またはそれらと実質的に同様な方法や改変法により行うことができる。また、本発明で使用する各種タンパク質やペプチド、あるいはそれらをコードするDNAについては、既存のデータベース(URL:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/等)から入手することができる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0079】
製造実施例1
以下の反応式に従い、化合物(1a)と化合物(2a)から1シリーズの化合物1a~1dを製造した。
【0080】
【0081】
化合物1a~1dの物性値を以下に記載する。
・化合物1a
物性値(MS、NMR):
; 1H-NMR (500 MHz, METHANOL-D3) δ 7.91 (s, 1 H), 7.44 (d, J = 6.9 Hz, 2 H), 7.38 (d, J = 7.4 Hz, 2 H), 7.28-7.31 (m, 2 H), 7.23 (t, J = 7.4 Hz, 1 H), 7.16 (d, J = 8.6 Hz, 2 H), 6.79 (d, J = 9.2 Hz, 2 H), 6.69 (dd, J = 8.9, 2.6 Hz, 2 H), 4.40 (s, 2H), 4.06 (s, 2 H), 2.97 (d, J = 12.0 Hz, 6 H)
; 13C-NMR (125 MHz, METHANOL-D3) δ 155.66, 151.51, 136.76, 129.47, 129.28, 128.45, 128.39, 127.26, 126.86, 114.85, 112.05, 105.63, 72.19, 60.92, 39.07
; HR-ESI-MS: m/z: [M+H]+ calcd for C28H27N4O2, 451.2134; found, 451.2130, [M+Na]+ calcd for C28H26N4O2Na, 473.1947; found, 473.1953.
【0082】
・化合物1b
物性値(MS、NMR):
; 1H-NMR (500 MHz, METHANOL-D3) δ 7.51 (s, 1 H), 7.37 (t, J = 7.7 Hz, 4 H), 7.30 (t, J = 7.4 Hz, 2 H), 7.23 (t, J = 7.2 Hz, 1 H), 7.14 (t, J = 8.3 Hz, 3 H), 6.68-6.73 (m, 5 H), 4.40 (s, 2 H), 4.04 (s, 2 H), 2.97 (s, 6 H)
; HR-ESI-MS: m/z: [M+H]+ calcd for C30H29N4O2, 477.2291; found, 477.2287, [M+Na]+ calcd for C30H28N4O2Na, 499.2104; found, 499.2094.
【0083】
・化合物1c
物性値(MS、NMR):
; 1H-NMR (500 MHz, METHANOL-D3) δ 7.47 (s, 1 H), 7.36 (d, J = 8.0 Hz, 2 H), 7.27-7.33 (m, 4 H), 7.23 (t, J = 7.4 Hz, 1 H), 7.14 (d, J = 8.6 Hz, 2 H), 7.02-7.09 (m, 1 H), 6.77 (dd, J = 15.2, 10.6 Hz, 1 H), 6.62-6.71 (m, 5 H), 6.33 (d, J = 15.5 Hz, 1 H), 4.38 (s, 2 H), 4.03 (s, 2 H), 3.87 (d, J = 14.9 Hz, 1 H), 2.95 (s, 6 H)
; HR-ESI-MS: m/z: [M+H]+ calcd for C32H31N4O2, 503.2447; found, 503.2463, [M+Na]+ calcd for C32H30N4O2Na, 525.2266; found, 525.2263.
【0084】
・化合物1d
物性値(MS、NMR):
; 1H-NMR (500 MHz, METHANOL-D3) δ 7.47 (s, 1H), 7.27-7.37 (comp., 7 H), 7.23 (t, J = 7.4 Hz, 1 H), 7.14 (d, J = 8.6 Hz, 2 H), 7.02-7.09 (m, 2 H), 6.77 (dd, J = 15.2, 10.6 Hz, 1 H), 6.62-6.71 (m, 6 H), 6.33 (d, J = 15.5 Hz, 1 H), 4.38 (s, 2 H), 4.03 (s, 2 H), 2.95 (s, 6 H)
; HR-ESI-MS: m/z: [M+H]+ calcd for C34H33N4O2, 529.2604; found, 529.2637, [M+Na]+ calcd for C34H32N4O2Na, 551.2423; found, 551.2409, [M+K]+ calcd for C34H32N4O2K, 567.2162; found, 567.2144.
【0085】
製造実施例2
以下の反応式に従い、化合物(1b)と化合物(2b)から2シリーズの化合物2a~2dを製造した。
【0086】
【0087】
化合物2a~2dの物性値を以下に記載する。
・化合物2a
物性値(MS、NMR):
1H-NMR (500 MHz, METHANOL-D3): δ 7.95 (s, 1H), 7.64-7.79 (m, 3H), 7.53 (dt, J = 15.5, 7.0 Hz, 2H), 7.43-7.48 (m, 1H), 7.27-7.35 (m, 1H), 6.66-6.74 (m, 3H), 6.38-6.58 (m, 3H), 4.84 (s, 2H), 2.93 (s, 6H)
;ESI-MS: m/z: [M+H]+421.20,
【0088】
・化合物2b
物性値(MS、NMR):
1H-NMR (500 MHz, METHANOL-D3): δ 7.93 (s, 1H), 7.83 (d, J = 6.9 Hz, 3H), 7.47-7.62 (m, 4H), 7.33-7.42 (m, 3H), 7.14 (t, J = 7.4 Hz, 3H), 7.06 (t, J = 7.2 Hz, 2H), 6.92 (d, J = 6.9 Hz, 3H), 2.94 (s, 6H)
;ESI-MS: m/z: [M+H]+447.22
【0089】
・化合物2c
物性値(MS、NMR):
1H-NMR (500 MHz, METHANOL-D3) : δ 8.02 (1H), 7.88 (s, 4H), 7.71 (d, J = 7.4 Hz, 1H), 7.53 (q, J = 7.4 Hz, 5H), 6.67-6.80 (m, 5H), 4.10 (s, 2H), 3.93 (d, J = 6.3 Hz, 1H), 3.15 (s, 1H), 2.94 (s, 6H)
;ESI-MS: m/z: [M+H]+473.23
【0090】
・化合物2d
物性値(MS、NMR):
1H-NMR (500 MHz, METHANOL-D3): δ 8.00 (d, J = 5.7 Hz, 1H), 7.55-7.57(comp., 7 H), 7.30 (d, J = 8.6 Hz, 2H), 7.22 (t, J = 7.7 Hz, 1H), 7.12 (t, J = 7.4 Hz, 1H), 6.69-6.77 (m, 2H), 6.54-6.59 (m, 1H), 6.69-6.48 (m, 6H), 4.10 (s, 2H), 2.94 (s, 6H)
;ESI-MS: m/z: [M+H]+499.29
【0091】
製造実施例3
以下の反応式に従い、化合物(1)と化合物(2c)から3シリーズの化合物3a~3dを製造した。
【0092】
【0093】
化合物3a~3dの物性値を以下に記載する。
・化合物3a
物性値(MS、NMR):
1H-NMR (500 MHz, METHANOL-D3): δ 8.65 (d, J = 4.0 Hz, 1H), 8.20 (d, J = 12.6 Hz, 3H), 7.88-7.94 (m, 1H), 7.59 (t, J = 3.2 Hz, 4H), 7.41 (t, J = 6.6 Hz, 1H), 7.32 (d, J = 6.9 Hz, 2H), 7.24 (t, J = 7.7 Hz, 2H), 7.14 (t, J = 7.4 Hz, 1H), 4.16 (s, 2H)
;ESI-MS: m/z: [M+H]+379.15
【0094】
・化合物3b
物性値(MS、NMR):
1H-NMR (500 MHz, METHANOL-D3): δ 9.16 (s, 1H), 8.59 (d, J = 2.9 Hz, 1H), 8.43 (d, J = 8.6 Hz, 1H), 8.21 (d, J = 23.5 Hz, 2H), 7.88 (s, 4H), 7.31 (d, J = 7.4 Hz, 2H), 7.24 (t, J = 7.7 Hz, 3H), 7.15 (d, J = 6.9 Hz, 1H), 4.16 (s, 2H)
;ESI-MS: m/z: [M+H]+379.11
【0095】
・化合物3c
物性値(MS、NMR):
1H-NMR (500 MHz, METHANOL-D3): δ 8.63 (d, J = 5.7 Hz, 2H), 8.32-8.21 (2H), 8.11 (d, J = 4.6 Hz, 2H), 7.88 (s, 1H), 7.56 (t, J = 3.4 Hz, 3H), 7.31 (d, J = 7.4 Hz, 2H), 7.24 (t, J = 7.7 Hz, 2H), 7.14 (s, 1H), 4.16 (s, 2H)
;ESI-MS: m/z: [M+H]+379.13
【0096】
・化合物3d
物性値(MS、NMR):
1H-NMR (500 MHz, METHANOL-D3 with 0.49 %TFA): δ 8.76 (s, 1H), 8.13 (d, J = 7.4 Hz, 2H), 8.03-8.04 (m, 2H), 7.51-7.66 (m, 6H), 7.23-7.31 (m, 6H), 4.30 (s, 2H)
;ESI-MS: m/z: [M+H]+ 378.14
【0097】
実施例1:市販の生物発光酵素と本発明の新規発光基質間の発光反応による発光スペクトルを測定した。まず、生物発光酵素であるALuc(登録商標)をHEPESバッファーに希釈し1μM濃度に合わせる。また、新規開発した発光基質(1a、1b、1c、1d)とネイティブ発光基質(coelenterazine, nCTZ)をそれぞれHEPESバッファーに希釈して最終濃度の100μMになるようにした。前記発光酵素10μLをPCRチューブに移し、更に40μLの前述発光基質を添加したのち、すぐスペクトルフォトメーター(AB-1850、ATTO製)のサンプル台に移して発光スペクトルを30秒間測定した。
【0098】
その結果、1シリーズの発光基質を添加した場合、それぞれ、緑色(1a)、薄緑色(1b)、黄色(1c)、オレンジ色(1d)のスペクトルピークが観察できた(
図7)。同様に2シリーズの発光基質を添加した場合、それぞれ、緑色(2a)、薄緑色(2b)、黄色(2c)、オレンジ色(2d)のスペクトルピークが観察できた(
図8)。この結果は、添加した発光基質に依存して発光色がレッドシフトしている傾向が観察できた。一方、3シリーズの発光基質を添加した場合、その発光色のレッドシフトは観察できなかった。
【0099】
また、生体組織透過性の優れた600nm以上の波長領域における発光輝度を測定したところ、1c、1dおよび2c、2dは、従来の海洋生物由来の発光スペクトルとは大きく異なり、600nm以上の長波長発光の割合が約4~5割に至ることが分かった。従来の一番汎用的に用いられているnCTZにおいてその600nm以上の長波長発光の割合が1~2%に過ぎないことに比べると画期的な進歩である。
【0100】
実施例2:
図10の実施例は、実施例1で記述した発光反応を実際のマイクロチューブ内で実現した例である。まず、カラム精製済みのALuc(登録商標)16原液(蛋白質)を10μMになるようにHEPESバッファーにより希釈しその50μLをPCRチューブ(200μL容量)に入れる。別途、新規発光基質(1a,1b,1c,1d,2c,2d)をHEPESバッファーにより希釈し0.1μMになるように希釈する。その希釈基質溶液から50μLを分注し、前述したPCRチューブに添加したのち、直ちにデジタルカメラ(PowerShot G7X, Cannon)によりその発光写真を30秒露光時間で撮影した。その結果、実施例1より予測されたように、1d = 2d > 1c = 2c > 1b > 1a > nCTZの順でレッドシフトしていることが確認できる。その発光輝度においては、1c、2c、1d、2dあたりの輝度が比較的に弱いものの、これらの光は組織透過性の観点からすると、組織透過性が優れているため、生体試料中の発光イメージングに適している。
【0101】
実施例3:本実験では、新規発光基質の濃度と発光輝度との相関性に関する検討を行った(
図11)。まず、カラム精製した生物発光酵素16(ALuc(登録商標)16)をHEPESバッファーにより1μMに希釈した。一方、新規発光基質においては、その濃度を0.025、0.05、0.1、0.25、0.5、1、2.5、5、10、25、50、100 μMになるようにHEPESバッファーを用いて希釈した。次に、黒フレームの96穴マイクロプレートに、前述した濃度違いの新規発光基質を予め30μLずつ分注しておく。次にマルチチャンネルピペットを用いて、この96穴マイクロプレートに前述したALuc(登録商標)16溶液を30μLずつ同時に添加してから直ちにIVISイメージングシステムに移してその発光輝度を同時に測定した。
【0102】
その結果、nCTZの場合、2.5μMの基質濃度から発光輝度が急速に増加することが分かる。1シリーズの発光基質を添加した場合、基質の種類によって発光輝度の変化が大きく異なった。1aの場合、25μMの濃度から急激な発光輝度の上昇がみられた。1bの場合、5μMの濃度から発光輝度の上昇がみられた。2シリーズの場合、2c>2d>2a>2bの順番で発光輝度が高かった。とりわけ2cの場合、5μMの濃度から発光輝度が大きく上昇することが分かる。一方、3シリーズの場合、その発光輝度が3c=3d>3a>3bの順で発光輝度が良かった。3cと3dの場合、他の発光基質と同様に約5μMの濃度から発光輝度の上昇がみられた。
【0103】
実施例4:本発明で開発した発光基質は、特定発光酵素に選択性を持つことを実証するために以下の実験を実施した。
【0104】
具体的にはMDA-MB-231 細胞を予め黒フレームの96ウェルオプティカルマイクロプレート(Thermo Fisher)に培養し、ウェル底面積の90%が埋まるまで細胞培養した。その後、それぞれの海洋生物由来の発光酵素(GLuc、RLuc、RLuc8.6-535、RLuc8.6-535SG、ALuc(登録商標)16、ALuc(登録商標)23、ALuc(登録商標)49など)をコードするプラスミドを細胞にトランスフェクションし、発光酵素を一過性発現させた。トランスフェクション後、1日間CO2インキュベーター内でインキュベーションした後、マイクロプレートを(1)生細胞測定用と(2)ライセート測定用に分けて実験を進める。(1)生細胞測定の場合、まず細胞が剥がれないように注意深く液体培地を吸い取り除いた後、各ウェルの底に付着している細胞に、マルチチャンネルマイクロピペット(Gilson)を用いて40μLの発光基質(濃度:0.1mM)を同時に添加した後、そのマイクロプレートを直ちにIVISイメージングシステム(Caliper Life Sciences)に入れて、発光輝度を測定した。一方、(2)ライセート測定の場合、まず、液体培地を除去し、マイクロプレートの各ウェルに50μLのプロメガ製の細胞溶解試薬(ライシスバッファー)を添加し、20分間インキュベーションした。その後、細胞溶解液を10μLずつ取り、黒フレームの96ウェルオプティカルマイクロプレート(Thermo Fisher)に移した。更に発光測定をするために、マルチチャンネルマイクロピペット(Gilson)を用いて40μLの発光基質(濃度:0.1mM)を各ウェルに同時に添加した後、そのマイクロプレートを直ちにIVISイメージングシステム(Caliper Life Sciences)に入れて、発光輝度を測定した。
【0105】
その結果、
図12の結果を得た。即ち、生細胞イメージングを行った時には(
図12(A))、基質1aを添加した場合、主にRLucシリーズの発光酵素が選択的に発光することが分かる。また、3aを添加した場合、NanoLucに一定の選択性を示した。一方、3dを添加した場合、NanoLucに高い選択性を示した。一方、nCTZを加えた場合、とりわけALuc(登録商標)シリーズの発光酵素が高い発光輝度を示した。
【0106】
一方、細胞ライセートイメージングを行った時には(
図12(B))、生細胞のケースと同じ傾向の選択性結果を示したが、ライセートの方がより鮮明にその選択性が確認できた(バックグラウンド発光が低かった)。また、nCTZを加えた場合、ALuc(登録商標)シリーズの発光輝度が生細胞のケースに比べて比較的に明るかった。
【0107】
実施例5: 新規発光基質の発光輝度の経時変化を測定した(
図13)。まず、前述した新規発光基質をHEPESバッファーより希釈して濃度が25μM、50μM、100μMになるように準備し、それぞれの発光基質希釈液を40μL取り、黒フレームの96ウェルオプティカルマイクロプレート(Thermo Fisher)に移した。更にこのマイクロプレートをベルトールド製のマイクロプレートリーダーにセットした。一方、発光酵素側においては、精製済みのALuc(登録商標)16をHEPESバッファーに希釈して1μMになるように調整した。更にこの発光酵素溶液を前述したマイクロプレートリーダーのインジェクターにプライムした。発光測定においては、発光酵素溶液インジェクト後0.1秒刻みで発光輝度測定を行った。
【0108】
その結果、1シリーズにおいては、1a添加においてその発光輝度の上昇が著しく、とりわけ基質の濃度が50μM、100μMになった場合においてその輝度の上昇が高かった(
図13(A))。2シリーズの場合、2Cの添加による発光輝度の上昇が著しく、その基質濃度が50μM、100μMである場合、とりわけ発光輝度が高かった(
図13(B))。3シリーズの場合、3cと3dの濃度が50μMや100μMである場合、比較的に発光輝度が高かった(
図13(C))。nCTZの場合、発光基質のいずれの濃度においても発光輝度が高かった(
図13(D))。
【0109】
実施例6:新規発光基質の生体試料の中での化学的な安定性を検証した(
図14)。そのために、濃度違いの血清を用いた実験系をセットした。まず、20μLのHEPESバッファーのみ(血清0%)またはHEPESバッファーと牛胎児血清(fetal bovine serum、FBS)の混合液(血清30%、血清60%、血清100%)を予め96ウェルオプティカルマイクロプレート(Thermo Fisher)に導入する。その後、各発光基質(1シリーズ、2シリーズ、3シリーズ)を0.1μMになるように調整した後、マルチチャンネルマイクロピペット(Gilson)を用いてそれぞれ20μLずつの発光基質液を前述した血清混合液入りのマイクロプレートに同時に添加する。その結果、各血清の最終濃度は、それぞれ0%、15%、30%、50%になる。このマイクロプレートを直ちにIVISイメージングシステム(Caliper Life Sciences)に入れて、発光輝度を測定した。
【0110】
その結果、全般的に、血清の割合が高ければ高いほど、自家発光の傾向が激しく表れた。1シリーズ、2シリーズ、3シリーズの中では、1シリーズにおいて自家発光の傾向が著しかった。
【0111】
実施例7:本新規発光基質と生物発光酵素間の組み合わせに基盤した発光システムが実際にバイオアッセイに使用できるかどうかを検証するために、本発光システムを発光プローブのバイオアッセイに適用してみた(
図15)。
【0112】
本実験は、免疫抑制物質・長寿要因物質として知られているラパマイシンを測定するバイオアッセイ系の構築に関するものである。まず、金らの既開発の発光イメージングプローブ(分子歪みセンサー、TP2.4)を用いて、ラパマイシン活性の測定実験を行った(
図15)。このプローブの作動原理は、まずラパマイシンに応答してその発光プローブ内の蛋白質―蛋白質間の相互作用(PPI)が起こり、その結果、分子歪みがその蛋白質の間に挟まれた発光酵素に及ぶ。分子歪みを受けた生物発光酵素23(ALuc(登録商標)23)は、発光輝度を上昇させる特徴があり、その程度も濃度依存的であるため、バイオアッセイが可能である。
【0113】
TP2.4をコードするプラスミドを安定発現するCOS-7細胞(アフリカミドリサル腎臓由来細胞)を6ウェルマイクロスライド(ibidi社、Germany)に培養し、ウェル底面の80%が埋まるまで培養した。その後、マイクロスライドを(1)生細胞測定用と(2)ライセート測定用に分けて次の実験を進める。(1)生細胞測定の場合、まず細胞が流されないように注意深く液体培地を吸い取り除いた後、各ウェルの底に付着している細胞に、マルチチャンネルマイクロピペット(Gilson)を用いて60μLの発光基質(濃度:0.1M)を同時に添加した後、そのマイクロスライドを直ちにIVISイメージングシステム(Caliper Life Sciences)に入れて、発光輝度を測定した。一方、(2)ライセート測定の場合、6ウェルマイクロスライドの培地を除いた後、プロメガ製のライシスバッファーを50μL添加して20分間放置した。その後、マルチチャンネルマイクロピペット(Gilson)を用いて50μLの発光基質(濃度:0.1mM)を同時に添加した後、そのマイクロスライドを直ちにIVISイメージングシステム(Caliper Life Sciences)に入れて、発光輝度を測定した。
【0114】
その結果、ラパマイシン無し(w/o rapa)に比べて、ラパマイシン有り(w/ rapa)の条件で、発光輝度が全般的にラパマイシン刺激依存的に上昇する現象が確認できた。そのレベルはnCTZの場合が一番著しいが、新規発光基質を加えた場合も、同様に発光輝度がラパマイシン依存的に上昇した。
【0115】
実施例7:新規開発した生物発光基質と生物発光酵素(ALuc(登録商標))間の組み合わせによる輝度変化の検証(
図16)。この実験を実施するために、まず、MDA-MB-231細胞を黒フレームの96穴マイクロプレートに培養した。その後、代表的なALuc(登録商標)類をコードするプラスミドを細胞にトランスフェクションしてから1日間インキュベーションした。その後、ラパマイシン有り無しの培地に培地交換を行い更に5時間インキュベーションした。一方、新規発光基質は、原液からHEPESバッファー希釈により0.1μMになるように調整した。
【0116】
その後、マイクロプレートの培地を除去した後、マルチチャンネルマイクロピペットを用いて、前述した発光基質を一気に添加してからそのプレートを直ちにIVISイメージングシステム(Caliper Life Sciences)に入れて、発光輝度を測定した。
【0117】
その結果、全般的に良い発光輝度を示すことが分かったが、とりわけ高い発光輝度を示したのは、A16-DEVD-MLSであった。この発光酵素は、ALuc(R)16にMLSを繋げたため、細胞膜に局在するようにデザインされた発光酵素である。A16-DEVD-MLSがとりわけ高い輝度を示した理由としては、この発光酵素が細胞膜に局在するため、発光基質が細胞膜を透過しなくても容易に発光酵素と発光反応を示すことができるためである。一般的に、ALuc(登録商標)シリーズは、小胞体に局在するため発光基質が細胞膜を透過したのち、更に小胞体膜も透過しないとならず、発光基質が2回細胞膜を通るため、どうしても発光基質のサプライに停滞が起こり、その分、発光輝度が弱まったと思われる。