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特許7522407電力供給システムおよび水素利用システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】電力供給システムおよび水素利用システム
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/38 20060101AFI20240718BHJP
   H02J 3/32 20060101ALI20240718BHJP
   H02J 7/35 20060101ALI20240718BHJP
   H02J 15/00 20060101ALI20240718BHJP
   H01M 8/00 20160101ALI20240718BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20240718BHJP
【FI】
H02J3/38 170
H02J3/32
H02J7/35 K
H02J15/00 G
H02J3/38 130
H01M8/00 A
H01M8/04 Z
H01M8/00 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019138031
(22)【出願日】2019-07-26
(65)【公開番号】P2021023028
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 裕太
(72)【発明者】
【氏名】下田 英介
(72)【発明者】
【氏名】野津 剛
(72)【発明者】
【氏名】前田 哲彦
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 成輝
【審査官】早川 卓哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-133939(JP,A)
【文献】特開平09-264498(JP,A)
【文献】特開2002-252010(JP,A)
【文献】国際公開第2017/017734(WO,A1)
【文献】特開平05-251105(JP,A)
【文献】特開2004-342345(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J3/00-5/00
H02J7/00-7/12
H02J7/34-7/36
H02J15/00
H01M8/00-8/2495
C01B3/00-6/34
C25B1/00-9/77
C25B13/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生可能エネルギーの余剰電力を蓄電し、蓄電した蓄電量を用いて放電電力として出力する蓄電池と、
前記余剰電力および前記放電電力を用いて水素を製造する水素製造装置と、
前記水素製造装置によって製造された水素を貯蔵する吸蔵合金タンクと、
前記吸蔵合金タンクの水素を利用して発電し、発電した発電電力を需要家負荷に供給する燃料電池と、
水素吸蔵合金による水素の吸蔵時に発生する熱と、前記水素製造装置による水素の製造時に発生する熱と、前記燃料電池による発電時に発生する熱とを利用して、前記吸蔵合金タンクを加温する制御を行う制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、気象情報を取得し、取得した前記気象情報に基づき、当該システム起動時の環境温度が所定温度以下であると判定した場合に、前記吸蔵合金タンクの環境温度が水素放出可能な温度になるまで、前記吸蔵合金タンクの加温処理を行う、
電力供給システム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記水素製造装置が製造した水素を、前記水素製造装置に前記水素吸蔵合金と前記燃料電池とへ供給させる、請求項1に記載の電力供給システム。
【請求項3】
前記燃料電池による発電時に発生する熱は、前記燃料電池が前記水素製造装置から供給された水素を用いて発電する際に発生する熱である、請求項1又は2に記載の電力供給システム。
【請求項4】
余剰電力から水素を製造し、当該製造された水素を水素吸蔵合金に貯蔵して、再利用するようにした水素利用システムであって、
水素の製造時に発生する熱と燃料電池による発電時に発生する熱とを回収し、前記水素吸蔵合金を加温する系統へ回収した熱を供給する熱回収部と、
前記回収された熱によって、水素放出可能な温度まで前記水素吸蔵合金を加温する加温部と、
気象情報を取得し、取得した前記気象情報に基づき、当該水素利用システム起動時の環境温度が所定温度以下であると判定した場合に、前記水素吸蔵合金の環境温度が水素放出可能な温度になるまで、前記水素吸蔵合金の加温処理を行うシステム起動制御部と、
を有する水素利用システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力供給システムおよび水素利用システムに関する。
【背景技術】
【0002】
2014年4月に閣議決定されたエネルギー基本計画において、水素を日常の生活や産業活動で再生可能エネルギーとして利用・活用する「水素社会」の実現に向け取り組みを加速することが定められ、国や東京都では2020年東京五輪での水素エネルギー技術の積極活用、その後の水素社会普及に向けた動きが活発化している。
2012年7月の再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT;Feed-In Tariff)の導入は、非住宅用の太陽光発電市場(公共・産業分野)を大きく変えることとなった。JPEA PV OUTLOOK 2030によると、太陽光発電設備の国内総出荷に占める非住宅用の割合は、2012年度で(国内総出荷量3.8GWに対し)50%、2013年度で(同8.4GWに対し)73%、2014年度上半期で(上期国内総出荷量4.3GWに対し)77%と大幅に伸張している。
【0003】
太陽光発電の大量の設備認定量に伴い、それらが全て稼動した場合、電力需要の小さい軽負荷期に太陽光発電の供給電力量が需要電力量を上回る懸念が出てきたため、指定電気事業者において「無制限・無補償の出力抑制」を条件として系統接続を行うこととなった。今後、更なる太陽光発電による系統接続への出力量の増加に伴い、電力需給調整を目的とした出力抑制実施は現実のものとなりつつある。
【0004】
このような社会背景から、出力抑制に伴う余剰電力の発生量、頻度ともに増加が予想され、再生可能エネルギーの余剰電力を利用して一旦、水素を製造し、例えば電力需要が増加した際に必要に応じて貯蔵しておいた水素を再度、エネルギーとして電力に変換して街区で活用する技術が注目されている。建物に附帯した水素利用システムは、建物に設置される太陽光発電などの再生可能エネルギーの余剰電力を効率的に利用して水素製造し、例えば、難燃性の水素吸蔵合金を用いたタンク等で安全かつコンパクトに貯蔵し、必要に応じて燃料電池コージェネレーションにより電力ならびに熱に変換し、蓄電池や蓄熱システム及びその他建築設備と組み合わせて効率的なエネルギーマネジメントを実施する。その結果、ZEB(Zero Energy Building)実現の重要な手段になると共に事業継続計画(Business Continuity Plan:BCP)の向上が期待できる。
また、特許文献1においては、水素供給源から供給される水素を水素吸蔵合金に貯蔵して、再利用することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-68335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示されるように、水素供給源から供給される水素を水素吸蔵合金に貯蔵して、再利用する場合、水素吸蔵合金から水素を取り出し、燃料電池で水素から発電を行う。しかしながら、水素吸蔵合金に貯蔵された水素を取り出すための条件の一つに、一定以上の環境温度がある。寒冷地で水素利用システムを稼働させる場合、または温暖地でも冬季或いは中間期の朝などの場合においては、環境温度が10度程度を下回る。このような環境温度では、システムを起動する際に、吸蔵合金タンクに貯蔵された水素を放出することが難しい。水素を放出可能な温度まで水素吸蔵合金を加温するために、加温用の専用熱源を設けようとすると、その熱源の稼動のために新たにエネルギーを消費することになり、水素利用システムの全体エネルギーの効率が低下してしまう。
【0007】
そこで、特許文献1では、水素吸蔵合金が水素を吸蔵する際の発生熱と燃料電池の運転に伴う発生熱とを利用して水素吸蔵合金を加温することで、水素利用システムの全体エネルギーの効率の低下を抑制している。しかしながら、特許文献1の技術よりも水素利用システムの全体エネルギーの効率の低下を抑制することが望ましい。
【0008】
上述の課題を鑑み、本発明の目的は、システムの全体エネルギーの効率を低下させることなく、低温の環境下でも水素吸蔵合金に蓄積された水素を利用できるようにした電力供給システムおよび水素利用システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決するために、本発明の一態様に係る電力供給システムは、再生可能エネルギーの余剰電力を蓄電し、蓄電した蓄電量を用いて放電電力として出力する蓄電池と、前記余剰電力および前記放電電力を用いて水素を製造する水素製造装置と、前記水素製造装置によって製造された水素を貯蔵する吸蔵合金タンクと、前記吸蔵合金タンクの水素を利用して発電し、発電した発電電力を需要家負荷に供給する燃料電池と、水素吸蔵合金による水素の吸蔵時に発生する熱と、前記水素製造装置による水素の製造時に発生する熱と、前記燃料電池による発電時に発生する熱とを利用して、前記吸蔵合金タンクを加温する制御を行う制御装置と、を備え、前記制御装置は、気象情報を取得し、取得した前記気象情報に基づき、当該システム起動時の環境温度が所定温度以下であると判定した場合に、前記吸蔵合金タンクの環境温度が水素放出可能な温度になるまで、前記吸蔵合金タンクの加温処理を行う。
【0010】
本発明の一態様に係る水素利用システムは、余剰電力から水素を製造し、当該製造された水素を水素吸蔵合金に貯蔵して、再利用するようにした水素利用システムであって、水素の製造時に発生する熱と燃料電池による発電時に発生する熱とを回収し、前記水素吸蔵合金を加温する系統へ回収した熱を供給する熱回収部と、前記回収された熱によって、水素放出可能な温度まで前記水素吸蔵合金を加温する加温部と、気象情報を取得し、取得した前記気象情報に基づき、当該水素利用システム起動時の環境温度が所定温度以下であると判定した場合に、前記水素吸蔵合金の環境温度が水素放出可能な温度になるまで、前記水素吸蔵合金の加温処理を行うシステム起動制御部と、を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、熱を回収して水素吸蔵合金を加温することで、全体エネルギー効率を低下させずに、低温の環境下でも吸蔵合金タンクから水素を取り出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態における電力供給システムの設備構成とエネルギーフローを示す図である。
図2】電力供給システムのBEMSの構成を示す図である。
図3】水素吸蔵合金の水素貯蔵量とガス平衡圧の関係を示すPCT線図である。
図4】水素吸蔵合金が水素を吸蔵/放出する化学式を示す図である。
図5】本実施形態における熱マネージメントの説明図である。
図6】本実施形態における熱マネージメントの処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳しく説明する。
図1は、電力供給システム100の設備構成とエネルギーフローを示す図である。図1においては、第一ラインが太陽光発電の発電電力を建物50に直接供給するルート、第二ラインが余剰電力を一旦、蓄電池1に貯めて必要に応じた電力を建物50に供給するルート、第三ラインが余剰電力で水素を製造して一旦吸蔵合金タンク3に貯蔵し、再度電気に変換して建物50に供給するルートを示している。
【0014】
図1において、PV(PhotoVoltaics;太陽光発電)30は、再生可能エネルギーを需要家負荷である建物50に供給する再生可能エネルギー電源であり、再生可能エネルギーのうちの余剰電力を第2ラインにおける蓄電池1、第3ラインにおける直流電源5に対してPCS(Power Conditioning System;パワーコンディショナー)31を介して出力する。なお、本実施形態において、再生可能エネルギー電源としてPV30を用いているが、再生可能エネルギー電源として風力発電等を用いて再生可能エネルギーを発生させてもよい。
【0015】
水素製造装置2は、PV30が出力する余剰電力(蓄電池充電電力P3、水素製造電力P4)のうち、蓄電池充電電力P3に対応する蓄電池放電電力P3”と水素製造電力P4とを直流電源5で受電し、その受電した電力を用いて水素を製造する。そして、水素製造装置2は、製造した水素を吸蔵合金タンク3へ供給する。なお、水素製造装置2は、製造した水素を燃料電池4へ供給してもよい。本実施形態では、水素製造装置2は、吸蔵合金タンク3と燃料電池4へ水素を供給する。
【0016】
吸蔵合金タンク3は、水素貯蔵媒体として水素吸蔵合金を用いており、水素製造装置2によって製造された水素を、水素吸蔵合金に吸蔵させることで貯蔵する。なお、本実施形態では、吸蔵合金タンク3は、環境温度が低い場合に、水素吸蔵合金に水素を吸蔵させ、そのとき発生する化学反応熱により、吸蔵合金タンク3を加温する。吸蔵合金タンク3は、水素吸蔵合金に水素を吸蔵させるときに発生する化学反応熱を回収する熱回収部と、この化学反応熱により水素放出可能な温度まで水素吸蔵合金を加温する加温部を有している。
【0017】
なお、熱回収部は、水素の製造時に発生する熱と燃料電池4による発電時に発生する熱も回収してもよい。本実施形態では、熱回収部は、水素吸蔵合金に水素を吸蔵させる時に発生する化学反応熱と、水素の製造時に発生する熱と、燃料電池4による発電時に発生する熱とを回収し、回収した熱を加温部へ供給する。熱回収部から熱を供給された加温部は、供給された水素吸蔵合金に水素を吸蔵させるときに発生する化学反応熱と、水素の製造時に発生する熱と、燃料電池4による発電時に発生する熱とを利用して水素吸蔵合金を加温する。このように、本実施形態の加温部は、水素の製造時に発生する熱を利用して水素吸蔵合金を加温する。かかる構成により、加温部は、水素吸蔵合金に水素を吸蔵させる時に発生する化学反応熱のみを利用する場合と比較し、全体エネルギー効率を低下させずに水素吸蔵合金を加温することができる。
【0018】
これにより、単位時間あたりに水素吸蔵合金の加温に利用される熱量が増加するため、加温部は、水素放出可能な温度まで水素吸蔵合金を加温する時間を削減することができる。
【0019】
なお、吸蔵合金タンク3による水素の放出前に、燃料電池4の発電に用いられる水素は、水素製造装置2から供給される水素である。そのため、吸蔵合金タンク3による水素の放出前に熱回収部が燃料電池4から回収する熱は、燃料電池4が水素製造装置2から供給された水素を用いて発電した際に発生する熱である。吸蔵合金タンク3による水素の放出後、熱回収部は、燃料電池4が吸蔵合金タンク3から供給された水素を用いて発電した際に発生する熱も回収し、加温部へ供給してもよい。かかる構成により、吸蔵合金タンク3による水素の放出後の加温部は、吸蔵合金タンク3による水素の放出前よりも水素吸蔵合金の加温を効率的に継続することができる。
【0020】
燃料電池4は、吸蔵合金タンク3が放出する水素を利用して発電し、発電した電力(燃料電池発電力P4”)を建物50に供給する。
なお、図1はエネルギーの流れを示したものであり、設備構成のつながりと必ずしも一致している訳ではない。
【0021】
ここで、エネルギー変換を伴う第二、第三ラインを経由すると、エネルギー利用効率が低下する。しかしながら、第二ラインを経由させる再生可能エネルギーは、短期蓄電が可能である。第三ラインを経由させる再生可能エネルギーは、電力を水素の形で貯蔵しておくことで、必要なときに再利用できる。電力供給システム100では、システム制御の要として、スマートBEMS(Building Energy Management System)10により、時々刻々変化する再生可能エネルギーの価値を判断して、需要と供給のバランスを見てエネルギー変換の按分(比例配分)を適切に決定し、各設備の連携制御を行っている。
【0022】
図2は、図1における電力供給システム100のBEMS10(以下、制御装置10ということもある)の構成を示す図である。
電力供給システム100では、図2に示す再生可能エネルギーの余剰電力を利用した水素製造/利用の制御を含む制御機能を具備した制御装置10を導入することにより、建物のZEB化を実現する。
【0023】
図2に示す制御装置10は、判断・予測部11、制御部12、データベース13、およびシステム起動制御部14を含んで構成される。
【0024】
図1に示す電力会社が有する系統電力20からの買電電力P1を、図2においては、買電電力Pgridで示している。また、図1に示す蓄電池充電電力P3、蓄電池放電電力P3”を、図2においては、それぞれ放電電力Pdischarge、充電電力Pchargeで示している。また、図1に示すPV30の出力電力をPCS31により電力を変換した変換後の電力を、図2においては、太陽光発電電力Spvで示している。
【0025】
制御装置10における判断・予測部11は、建物50(需要家負荷)の実際の電力需要量のモニタリングを行い、買電電力Pgridおよび太陽光発電電力Spvに基づいて、図1に示す太陽光発電直接利用電力P2を第1ラインに流すか否か、或いは余剰分の電力(余剰電力)を、蓄電池1の蓄電池充電電力P3として蓄電池1に供給するか否か、水素製造電力P4として直流電源5を介して水素製造装置2に供給するか否かの判断を行っている。
【0026】
また、判断・予測部11は、気象情報から、太陽光発電出力予測Ppv(再生可能エネルギーの予測)と建物50の電力需要予測Pload(需要家負荷に供給する電力需要予測)の予測を行っている。
【0027】
制御装置10における制御部12は、各時刻における、蓄電池1の電力(放電電力Pdischarge、充電電力Pcharge、蓄電量Pe-storage)を制御し、水素製造装置2の水素製造装置消費電力Pelyを制御し、燃料電池4の燃料電池電力Pfcを制御する。また、制御部12は、各時刻における、水素製造装置2の水素製造量H-product、吸蔵合金タンク3の水素貯蔵量H-storage、燃料電池4の水素消費量H-consumptionを制御する。
【0028】
制御装置10におけるデータベース13は、各設備(蓄電池1、水素製造装置2、吸蔵合金タンク3、燃料電池4)のエネルギー変換に伴う出力効率の実績データを内蔵している。
【0029】
制御装置10におけるシステム起動制御部14は、気象情報から、水素利用システム起動時の環境温度が所定温度以下か否かを判定し、環境温度が所定温度以下でシステムを起動するときには、吸蔵合金タンク3の環境温度が水素放出が可能な所定の温度になるまで、吸蔵合金タンク3の加温処理を行う。
【0030】
このように、本実施形態に係る電力供給システム100では、システム起動制御部14により、吸蔵合金タンク3の環境温度が水素放出が可能な所定の温度になるまで、吸蔵合金タンク3の加温処理を行っている。このため、気温が例えば10度程度を下回る時期でも、システムを起動して、吸蔵合金タンク3から水素を取り出すことができる。このことについて、以下に説明する。
【0031】
水素ガスをコンパクトかつ安全に貯蔵する吸蔵合金タンクの吸蔵/放出特性は、合金内の水素貯蔵量とガス平衡圧の関係を示すPCT線図によって表される。図3は、水素吸蔵合金の水素貯蔵量とガス平衡圧の関係を示すPCT線図の一例である。図3において、横軸は水素吸蔵合金の水素貯蔵量を示し、縦軸は水素ガス圧力を示す。図3において、曲線A1は、水素吸蔵合金が温度A度の場合の特性を示し、曲線A2は、それより高い温度(A+α)度の場合の特性を模式的に示している。ここで、水素供給系の定常圧力をBとする。図3は、水素吸蔵合金の温度がA度における点Q1の状態では、水素は放出されないが、合金の温度を(A+α)度に加温して点Q2の状態にすれば、水素は放出されることを示している。寒冷地で水素利用システムを稼働させる場合、または温暖地でも冬季或いは中間期の朝などの場合においては、環境温度が10度程度を下回る。このような時期には、システム起動時に、吸蔵合金タンク3に収納された合金から水素を放出するのが難しい。
【0032】
そこで、本実施形態では、環境温度が所定温度以下(例えば10度以下)でシステムを起動するときには、吸蔵合金タンク3を加温して、吸蔵合金タンク3から水素を放出しやすいように制御している。ここで、ヒーター等を使用して吸蔵合金タンク3を加温すると、ヒーター稼働に別途エネルギーを消費することになり、システムの全体エネルギー効率を低下させる原因となる。そこで、本実施形態では、水素吸蔵合金が水素を吸蔵する際の化学反応によって発生する反応熱と、水素製造装置2による水素の製造時に発生する熱と、燃料電池4による発電時に発生する熱とを利用して、吸蔵合金タンク3の温度を加温することにより、全体エネルギー効率を低下させないようにしている。
【0033】
図4は、水素吸蔵合金が水素を吸蔵/放出する化学式である。図4に示す式から、水素吸蔵合金が水素を吸蔵する際には、熱が生じる。本実施形態では、システム起動時に環境温度が所定温度以下の場合には、水素吸蔵合金が水素を吸蔵する際の化学反応によって発生する反応熱を利用して、吸蔵合金タンク3を加温する。
【0034】
図5は、本実施形態における熱マネージメントの説明図である。図5に示すように、水素製造装置2、吸蔵合金タンク3、燃料電池4、建物50との間は、熱供給路51が設けられている。
【0035】
図6は、本実施形態における熱マネージメントの処理を示すフローチャートである。
(ステップS1)システム起動制御部14は、システム起動時の温度が所定温度以下になると予想されるときには、事前に蓄電池1に再生可能エネルギーを貯蔵しておく。
【0036】
(ステップS2)システム起動制御部14は、システム起動時に、蓄電池1からの放電電力を水素製造装置2に送り、水素製造装置2を駆動して、水素を製造させる。
【0037】
(ステップS3)システム起動制御部14は、水素製造装置2で製造された水素を吸蔵合金タンク3に搬送させ、吸蔵合金タンク3で水素吸蔵合金に吸着させる。このとき、水素を水素吸蔵合金に吸着させるときの反応熱により、水素吸蔵合金の温度は上昇していく。また、システム起動制御部14は、水素製造装置2で製造された水素を燃料電池4へ供給させ、燃料電池4に水素製造装置2が製造した水素を用いた発電を行わせる。
【0038】
(ステップS4)システム起動制御部14は、水素製造装置2が水素を製造する際に発生する熱と、燃料電池4が水素製造装置2から供給された水素を用いて発電する際に発生する熱を、熱供給路51を介して吸蔵合金タンク3に回収させる。
【0039】
(ステップS5)システム起動制御部14は、回収した熱を利用して、吸蔵合金タンク3に水素吸蔵合金を加温させる。
【0040】
(ステップS6)システム起動制御部14は、水素吸蔵合金の温度が水素放出が可能な所定の温度以上に上昇したか否かを判定する。そして、システム起動制御部14は、水素吸蔵合金の温度が水素放出が可能な所定の温度以上に上昇していなければ(ステップS6:No)、処理をステップS2に戻し、水素吸蔵合金の温度が水素放出が可能な所定の温度まで上昇するまで、水素を水素吸蔵合金に吸着させる処理を継続させる。
【0041】
(ステップS7)水素吸蔵合金の温度が水素放出が可能な所定の温度以上に上昇したら(ステップS6:Yes)、システム起動制御部14は、水素製造装置2で水素を製造させる処理を停止させた後、吸蔵合金タンク3より水素を放出させ、燃料電池4に供給する。
【0042】
(ステップS8)吸蔵合金タンク3より水素を燃料電池4に供給すると、燃料電池4は発電する。この燃料電池4の発電電力は、建物50に供給することができる。また、燃料電池4の発電により、燃料電池4から熱が発生する。この燃料電池4で発生した熱は吸蔵合金タンク3に送られ、燃料電池4から送られる熱により、水素吸蔵合金の温度が水素放出が可能な所定の温度以上に維持される。
【0043】
以上説明したように、本実施形態に係る電力供給システム100は、水素吸蔵合金が水素を吸蔵する際の化学反応によって発生する反応熱と、水素製造装置2による水素の製造時に発生する熱と、燃料電池4による発電時に発生する熱とを回収し、回収した熱を利用して水素吸蔵合金を加温する。これにより、電力供給システム100は、全体エネルギー効率を低下させずに、低温の環境下でも吸蔵合金タンク3から水素を取り出すことができる。
また、本実施形態に係る電力供給システム100では、複数の熱源から回収した熱が水素吸蔵合金の加温に用いられることで単位時間あたりに水素吸蔵合金の加温に利用される熱量が増加する。これにより、電力供給システム100は、水素放出可能な温度まで水素吸蔵合金を加温する時間を削減することができる。
また、本実施形態に係る電力供給システム100は、燃料電池4で発電時に生成された熱の一部を熱供給路51を介して吸蔵合金タンク3に送り、吸蔵合金タンク3の水素吸蔵合金を加温することで、水素吸蔵合金の温度を水素放出が可能な所定の温度以上に維持できる。
また、本実施形態に係る電力供給システム100では、水素を放出可能な温度まで水素吸蔵合金を加温するために、加温用の専用熱源を設ける必要がないため、加温用の専用熱源の稼動のために新たにエネルギーを消費することがなくなり、水素利用システムの全体エネルギーの効率の低下を抑制しつつ、水素吸蔵合金を加温することができる。
【0044】
上述した実施形態における制御装置10をコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。
【0045】
以上、図面を参照してこの発明の一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
【符号の説明】
【0046】
1…蓄電池、2…水素製造装置、3…吸蔵合金タンク、4…燃料電池、5…直流電源、10…制御装置、11…判断・予測部、12…制御部、13…データベース、14…システム起動制御部、20…系統電力、30…PV,31…PCS、50…建物、100…電力供給システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6