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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】弾性繊維用処理剤及び弾性繊維
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/653 20060101AFI20240718BHJP
   D06M 13/02 20060101ALI20240718BHJP
   D06M 13/51 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
D06M15/653
D06M13/02
D06M13/51
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023175431
(22)【出願日】2023-10-10
【審査請求日】2023-10-10
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】西川 武志
(72)【発明者】
【氏名】本田 浩気
(72)【発明者】
【氏名】後藤 智幸
【審査官】中西 聡
(56)【参考文献】
【文献】特許第7271035(JP,B1)
【文献】特開平04-163374(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平滑剤(A)及びウレア変性シリコーン(B)を含有し、前記ウレア変性シリコーン(B)の25℃における動粘度が100mm /s以上2000mm /s以下であることを特徴とする紡糸工程において適用される弾性繊維用処理剤。
【請求項2】
前記平滑剤(A)が、鉱物油(A1)及び25℃における動粘度が5mm/s以上20mm/s以下のジメチルシリコーン(A2)を含有する請求項1に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項3】
前記弾性繊維用処理剤中に、前記ジメチルシリコーン(A2)を10質量%以上の割合で含有する請求項に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項4】
前記弾性繊維用処理剤中に、前記ウレア変性シリコーン(B)を0.1質量%以上5.0質量%以下の割合で含有する請求項1に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項5】
更に、炭素数8以上24以下の脂肪族アルコール、及び炭素数8以上24以下の脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物から選ばれる少なくとも一つのヒドロキシ化合物(C)を含有する請求項1に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項6】
前記平滑剤(A)、前記ウレア変性シリコーン(B)、及び前記ヒドロキシ化合物(C)の含有割合の合計を100質量%とすると、前記平滑剤(A)を90.0質量%以上99.8質量%以下、前記ウレア変性シリコーン(B)を0.1質量%以上5.0質量%以下、及び前記ヒドロキシ化合物(C)を0.1質量%以上5.0質量%以下の割合で含有する請求項に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の弾性繊維用処理剤が付着していることを特徴とする弾性繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性繊維用処理剤が付与された弾性繊維の繊維金属間摩擦を低減できるとともに安定性を向上できる弾性繊維用処理剤及びかかる弾性繊維用処理剤が付着している弾性繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばポリウレタン系弾性繊維等の弾性繊維は、他の合成繊維に比べて、繊維間の粘着性が強い。そのため、例えば弾性繊維を紡糸し、パッケージに巻き取った後、該パッケージから引き出して加工工程に供する際、パッケージから安定して解舒することが困難という問題があった。そのために、従来より弾性繊維の平滑性を向上させるため、シリコーン等の平滑剤を含有する弾性繊維用処理剤が使用されることがある。
【0003】
従来、特許文献1,2に開示される弾性繊維用処理剤が知られている。特許文献1は、鉱物油、シリコーン油、及びエステル油から選ばれる少なくとも1種のベース成分(A)と、ウレア化合物及びウレア・ウレタン化合物から選ばれる少なくとも1種であるウレア系成分(B)とを含む弾性繊維用処理剤について開示する。特許文献2は、所定の粘度を有するシリコンオキシアルキレン共重合体、所定の粘度を有する鉱物油、ノニルフェノール等を含有するポリウレタン弾性繊維に適用される潤滑油剤について開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6663721号公報
【文献】特公昭45-40719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の弾性繊維用処理剤は、弾性繊維用処理剤が付与された弾性繊維の繊維金属間摩擦の低減効果及び弾性繊維用処理剤の安定性の向上という各効能の両立を十分に図ることができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、弾性繊維用処理剤において、平滑剤(A)及びウレア変性シリコーン(B)を配合した構成が好適であることを見出した。
【0007】
上記課題を解決する各態様を記載する。
態様1の紡糸工程において適用される弾性繊維用処理剤では、平滑剤(A)及びウレア変性シリコーン(B)を含有し、前記ウレア変性シリコーン(B)の25℃における動粘度が100mm /s以上2000mm /s以下であることを特徴とする。
【0008】
は、態様に記載の弾性繊維用処理剤において、前記平滑剤(A)が、鉱物油(A1)及び25℃における動粘度が5mm/s以上20mm/s以下のジメチルシリコーン(A2)を含有する。
【0009】
態様は、態様に記載の弾性繊維用処理剤において、前記弾性繊維用処理剤中に、前記ジメチルシリコーン(A2)を10質量%以上の割合で含有する。
態様は、態様1~のいずれか一態様に記載の弾性繊維用処理剤において、前記弾性繊維用処理剤中に、前記ウレア変性シリコーン(B)を0.1質量%以上5.0質量%以下の割合で含有する。
【0010】
態様は、態様1~のいずれか一態様に記載の弾性繊維用処理剤において、更に、炭素数8以上24以下の脂肪族アルコール、及び炭素数8以上24以下の脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物から選ばれる少なくとも一つのヒドロキシ化合物(C)を含有する。
【0011】
態様は、態様に記載の弾性繊維用処理剤において、前記平滑剤(A)、前記ウレア変性シリコーン(B)、及び前記ヒドロキシ化合物(C)の含有割合の合計を100質量%とすると、前記平滑剤(A)を90.0質量%以上99.8質量%以下、前記ウレア変性シリコーン(B)を0.1質量%以上5.0質量%以下、及び前記ヒドロキシ化合物(C)を0.1質量%以上5.0質量%以下の割合で含有する。
【0012】
態様の弾性繊維は、態様1~のいずれか一態様に記載の弾性繊維用処理剤が付着していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、弾性繊維用処理剤が付与された弾性繊維の繊維金属間摩擦を低減できるとともに、弾性繊維用処理剤の安定性を向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
以下、本発明の弾性繊維用処理剤(以下、処理剤ともいう)を具体化した第1実施形態を説明する。本実施形態の処理剤は、平滑剤(A)及びウレア変性シリコーン(B)を含み、紡糸工程において適用される。また、処理剤は、さらに炭素数8以上24以下の脂肪族アルコール、及び炭素数8以上24以下の脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物から選ばれる少なくとも一つのヒドロキシ化合物(C)を含んでもよい。
【0015】
(平滑剤(A))
本実施形態の処理剤に供する平滑剤(A)としては、ベース成分として処理剤に配合され、処理剤が付与された弾性繊維に平滑性を付与する。平滑剤(A)として、鉱物油(A1)及びシリコーンを含むことが好ましい。鉱物油(A1)及びシリコーン以外のその他の平滑剤としては、例えばエステル油、ポリオレフィン等が挙げられる。
【0016】
鉱物油(A1)としては、例えば芳香族系炭化水素、パラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素等が挙げられる。より具体的には、例えば、スピンドル油、流動パラフィン等が挙げられる。鉱物油(A1)は、動粘度等によって規定される市販品を適宜採用してもよい。また、複数種類の鉱物油が適用される場合は、全ての鉱物油を混合した際の動粘度の値が採用される。平滑剤(A)として鉱物油(A1)を含むことにより、処理剤が付与された弾性繊維の平滑性をより向上できる。
【0017】
処理剤中における鉱物油(A1)の含有割合の下限は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上である。処理剤中における鉱物油(A1)の含有割合の上限は、好ましくは99.95質量%以下、より好ましくは99.9質量%以下である。かかる含有割合の範囲内に規定されることにより、処理剤が付与された弾性繊維の平滑性をより向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0018】
シリコーンとしては、ウレア変性シリコーン(B)以外のシリコーン油が挙げられる。シリコーン油の具体例としては、例えばジメチルシリコーン、フェニル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、アミド変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、アミノポリエーテル変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、アルキルアラルキル変性シリコーン、アルキルポリエーテル変性シリコーン、エステル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン、ポリオキシアルキレン変性シリコーン、カルボキシル変性シリコーン等が挙げられる。これらのシリコーン油は、動粘度等によって規定される市販品を適宜採用してもよい。動粘度は、適宜設定されるが、例えば25℃における動粘度が2cst(mm/s)以上10000cst(mm/s)以下が挙げられる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。25℃における動粘度は、JIS Z 8803に準拠して測定される。これらのシリコーン油の中で25℃における動粘度が5mm/s以上20mm/s以下のジメチルシリコーン(A2)が好ましい。かかるジメチルシリコーン(A2)を適用することにより、処理剤が付与された弾性繊維の繊維金属間摩擦を低減できる。
【0019】
処理剤は、繊維金属間摩擦を向上できる観点から、平滑剤として鉱物油(A1)及び25℃における動粘度が5mm/s以上20mm/s以下のジメチルシリコーン(A2)を含有することが好ましい。
【0020】
処理剤中における前記ジメチルシリコーン(A2)の含有割合の下限は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上である。かかるジメチルシリコーン(A2)の含有割合の上限は、好ましくは85質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。前記ジメチルシリコーン(A2)が、かかる含有割合の範囲に規定されることにより、処理剤の安定性をより向上できる。また、繊維金属間摩擦を向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0021】
エステル油としては、特に制限はないが、脂肪酸とアルコールとから製造されるエステル油が挙げられる。エステル油としては、例えば後述する奇数又は偶数の炭化水素基を有する脂肪酸とアルコールとから製造されるエステル油が例示される。
【0022】
エステル油の原料である脂肪酸は、その炭素数、分岐の有無、価数等について特に制限はなく、また、例えば高級脂肪酸であってもよく、シクロ環を有する脂肪酸であってもよく、芳香族環を有する脂肪酸であってもよい。エステル油の原料であるアルコールは、その炭素数、分岐の有無、価数等について特に制限はなく、また、例えば高級アルコールであっても、シクロ環を有するアルコールであっても、芳香族環を有するアルコールであってもよい。
【0023】
エステル油の具体例としては、例えば(1)オクチルパルミタート、オレイルラウラート、オレイルオレアート、イソトリデシルステアラート、イソテトラコシルオレアート、プロピルイソステアラート、2-エチルヘキシルステアラート等の、脂肪族モノアルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(2)1,6-ヘキサンジオールジデカナート、グリセリントリオレアート、トリメチロールプロパントリラウラート、ペンタエリスリトールテトラオクタナート等の、脂肪族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(3)ジオレイルアゼラート、チオジプロピオン酸ジオレイル、チオジプロピオン酸ジイソセチル、チオジプロピオン酸ジイソステアリル等の、脂肪族モノアルコールと脂肪族多価カルボン酸とのエステル化合物、(4)ベンジルオレアート、ベンジルラウラート等の、芳香族モノアルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(5)ビスフェノールAジラウラート等の、芳香族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸との完全エステル化合物、(6)ビス2-エチルヘキシルフタラート、ジイソステアリルイソフタラート、トリオクチルトリメリタート等の、脂肪族モノアルコールと芳香族多価カルボン酸との完全エステル化合物、(7)ヤシ油、ナタネ油、ヒマワリ油、大豆油、ヒマシ油、ゴマ油、魚油及び牛脂等の天然油脂等が挙げられる。
【0024】
ポリオレフィンは、平滑成分として用いられるポリ-α-オレフィンが適用される。ポリオレフィンの具体例としては、例えば1-ブテン、1-ヘキセン、1-デセン等を重合して得られるポリ-α-オレフィン等が挙げられる。ポリ-α-オレフィンは、市販品を適宜採用してもよい。
【0025】
これらの平滑剤(A)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
処理剤中における平滑剤(A)の含有割合の下限は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上である。かかる平滑剤(A)の含有割合の上限は、好ましくは99.95質量%以下、より好ましくは99.9質量%以下である。平滑剤(A)が、かかる含有割合の範囲に規定されることにより、処理剤が付与された弾性繊維の平滑性をより向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0026】
(ウレア変性シリコーン(B))
本実施形態の処理剤に供するウレア変性シリコーン(B)は、処理剤が付与された弾性繊維の繊維金属間摩擦を低減できる。特に平滑剤(A)として鉱物油(A1)が用いられる場合、鉱物油(A1)との相溶性に優れるため、処理剤の安定性を向上できる。ウレア変性シリコーン(B)は、変性シリコーンのうち、置換基として例えば-HN-CO-NH、-HN-CO-NHR(R:炭化水素基)を有する化合物を示す。ウレア変性シリコーン(B)を構成する主鎖のオルガノポリシロキサンは、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、置換基の位置は主鎖の末端でも側鎖でもよい。
【0027】
置換基を構成する炭化水素基としては、例えば炭素数1以上12以下のアルキル基、炭素数6以上10以下のアリール基、炭素数7以上10以下のアラルキル基等が挙げられる。炭素数1以上12以下のアルキル基の具体例としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基等が挙げられる。炭素数6以上10以下のアリール基の具体例としては、例えばフェニル基、トリル基等が挙げられる。炭素数7以上10以下のアラルキル基の具体例としては、例えばベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。
【0028】
これらのウレア変性シリコーン(B)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
ウレア変性シリコーン(B)の動粘度は、例えば25℃における動粘度が50cst(mm/s)以上10000cst(mm/s)以下が挙げられるが、本発明においては、100cst(mm/s)以上2000cst(mm/s)以下が適用される。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。25℃における動粘度は、JIS Z 8803に準拠して測定される。ウレア変性シリコーン(B)の動粘度をかかる範囲に規定することにより、処理剤の安定性、特に経時安定性をより向上できる。
【0029】
処理剤中におけるウレア変性シリコーン(B)の含有割合の下限は、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上である。かかる含有割合が0.05質量%以上の場合、処理剤が付与された弾性繊維の繊維金属間摩擦をより低減できる。ウレア変性シリコーン(B)の含有割合の上限は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。かかる含有割合が10質量%以下の場合、平滑剤(A)との相溶性を向上させることにより処理剤の安定性をより向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0030】
(ヒドロキシ化合物(C))
本実施形態の処理剤に供されるヒドロキシ化合物(C)としては、炭素数8以上24以下の脂肪族アルコール、及び炭素数8以上24以下の脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物が挙げられる。処理剤がヒドロキシ化合物(C)を含有することにより、処理剤の安定性を向上できる。
【0031】
脂肪族アルコールとしては、不飽和結合の有無について特に制限はなく、直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基を有する脂肪族アルコールであってもよい。シクロ環を有するアルコールであってもよい。分岐鎖状の炭化水素基を有するアルコールの場合、その分岐位置は特に制限されるものではなく、例えば、α位が分岐した炭素鎖であってもよいし、β位が分岐した炭素鎖であってもよい。また、第一級アルコールであっても、第二級アルコールであってもよい。
【0032】
直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基を有する脂肪族アルコールの具体例としては、例えばカプリルアルコール、2-エチルヘキサノール、ラウリルアルコール、トリデシルアルコール、ミリスチルアルコール、ペンタデシルアルコール、セタノール、ステアリルアルコール(オクタデカノール)、エイコサノール、ベヘニルアルコール、テトラコサノール、オレイルアルコール、12-エイコシルアルコール、ヘキサデセニルアルコール、エイコセニルアルコール、オクタデセニルアルコール、イソドデシルアルコール、イソトリデシルアルコール、イソミリスチルアルコール、イソヘキサデシルアルコール、イソステアリルアルコール、イソテトラコサノール等が挙げられる。
【0033】
直鎖の第二級アルコールの具体例としては、例えば2-オクタノール、2-ノナノール、2-デカノール、2-ウンデカノール、2-ドデカノール、2-トリデカノール、2-テトラデカノール、2-ペンタデカノール、2-ヘキサデカノール、2-ヘプタデカノール、2-オクタデカノール、2-ノナデカノール、2-エイコサノール、2-ヘンエイコサノール、2-ドコサノール、2-トリコサノール、2-テトラコサノール等が挙げられる。
【0034】
これらの炭素数8以上24以下の脂肪族アルコールは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
炭素数8以上24以下の脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物を構成する脂肪族アルコールとしては、上述した具体例を採用できる。
【0035】
炭素数8以上24以下の脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物を構成する(ポリ)オキシアルキレン構造の原料として用いられるアルキレンオキサイドとしては、炭素数2~4のアルキレンオキサイドが好ましい。アルキレンオキサイドの具体例としては、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等が挙げられる。アルキレンオキサイドの付加モル数は、適宜設定されるが、好ましくは0.1モル以上60モル以下、より好ましくは1モル以上40モル以下、さらに好ましくは2モル以上30モル以下である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。なお、アルキレンオキサイドの付加モル数は、仕込み原料中における付加対象化合物1モルに対するアルキレンオキサイドのモル数を示す。アルキレンオキサイドは、一種類のアルキレンオキサイドを単独で使用してもよいし、又は二種以上のアルキレンオキサイドを適宜組み合わせて使用してもよい。アルキレンオキサイドが2種類以上適用される場合、それらの付加形態は、ブロック付加、ランダム付加、及びブロック付加とランダム付加の組み合わせのいずれでもよく、特に制限はない。
【0036】
炭素数8以上24以下の脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物の具体例としては、例えば炭素数10~12の二級アルコールのアルキレンオキサイド付加物、炭素数14,15の一級アルコールのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0037】
これらの炭素数8以上24以下の脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
処理剤中におけるヒドロキシ化合物(C)の含有割合の下限は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上である。かかる含有割合が0.1質量%以上の場合、処理剤の安定性をより向上できる。ヒドロキシ化合物(C)の含有割合の上限は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。かかる含有割合が10質量%以下の場合、処理剤が付与された弾性繊維の繊維金属間摩擦をより低減できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0038】
処理剤中における平滑剤(A)、ウレア変性シリコーン(B)、及び上記ヒドロキシ化合物(C)の含有割合の合計を100質量%とすると、平滑剤(A)を90.0質量%以上99.8質量%以下、ウレア変性シリコーン(B)を0.1質量%以上5.0質量%以下、及びヒドロキシ化合物(C)を0.1質量%以上5.0質量%以下の割合で含有することが好ましい。かかる範囲に規定することにより、処理剤が付与された弾性繊維の繊維金属間摩擦をより低減できる。また、処理剤の安定性をより向上できる。
【0039】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る弾性繊維を具体化した第2実施形態について説明する。本実施形態の弾性繊維は、第1実施形態の処理剤が付着している弾性繊維である。弾性繊維に対する第1実施形態の処理剤の付着量は、特に制限はないが、本発明の効果をより向上できる観点から、溶媒を含まない処理剤の量として0.1質量%以上10質量%以下の割合で付着していることが好ましい。
【0040】
弾性繊維としては、特に制限はないが、例えばポリエステル系弾性繊維、ポリアミド系弾性繊維、ポリオレフィン系弾性繊維、ポリウレタン系弾性繊維等が挙げられる。これらの中でもポリウレタン系弾性繊維が好ましい。かかる場合に本発明の効果の発現をより高くできる。
【0041】
本実施形態の弾性繊維の製造方法は、第1実施形態の処理剤を弾性繊維に給油することにより得られる。処理剤の給油方法としては、弾性繊維の紡糸工程において弾性繊維に付着させる方法が適用される。また、処理剤の給油方法としては、希釈することなくニート給油法により、弾性繊維の紡糸工程において弾性繊維に付着させる方法が好ましい。付着方法としては、例えばローラー給油法、ガイド給油法、スプレー給油法等の公知の方法が適用できる。給油ローラーは、通常口金から巻き取りトラバースまでの間に位置することが一般的であり本実施形態の製造方法にも適用できる。これらの中でも延伸ローラーと延伸ローラーの間に位置する給油ローラーにて第1実施形態の処理剤を弾性繊維、例えばポリウレタン系弾性繊維に付着させることが効果の発現が顕著であるため好ましい。
【0042】
本実施形態に適用される弾性繊維自体の製造方法は、特に限定されず、公知の方法で製造が可能である。例えば湿式紡糸法、溶融紡糸法、乾式紡糸法等が挙げられる。これらの中でも、弾性繊維の品質及び製造効率が優れる観点から乾式紡糸法が好ましく適用される。
【0043】
本実施形態の処理剤及び弾性繊維の効果について説明する。
(1)本実施形態の処理剤では、平滑剤(A)及びウレア変性シリコーン(B)を配合して構成した。したがって、処理剤が付与された弾性繊維の繊維金属間摩擦を低減できる。また、処理剤が付与された弾性繊維の製造工程におけるスカムを低減できる。また、処理剤の安定性を向上できる。特に、処理剤の経時安定性を向上できる。また、平滑剤として鉱物油の含有量が例えば処理剤中において80質量%以上の高濃度で含有する場合であっても、処理剤の安定性を向上できる。
【0044】
(2)処理剤が、更に、炭素数8以上24以下の脂肪族アルコール、及び炭素数8以上24以下の脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物から選ばれる少なくとも一つのヒドロキシ化合物(C)を配合する場合、処理剤の安定性をより向上できる。特に、処理剤の経時安定性をより向上できる。
【0045】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
・上記実施形態の処理剤には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、その他成分として処理剤の品質保持のための安定化剤、制電剤、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の通常処理剤に用いられる成分をさらに配合してもよい。なお、その他成分の処理剤中における含有割合は、本発明の効能を効率的に発揮する観点から好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【実施例
【0046】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0047】
試験区分1(処理剤の調製)
各実施例、各比較例に用いた処理剤は、表1に示される各成分を使用し、下記調製方法により調製した。
【0048】
(実施例1)
平滑剤(A)として40℃における動粘度が40レッドウッド秒である鉱物油(A1-1)を38.9部(%)及び25℃における動粘度が10mm/sのジメチルシリコーン(A2-1)を60部(%)、25℃における動粘度が170mm/sのウレア変性シリコーン(B-1)を0.5部(%)、脂肪族アルコールとして2-エチルヘキサノール(C-1)を0.5部(%)、脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物として炭素数14,15の一級アルコールのエチレンオキサイド(7モル)プロピレンオキサイド(12モル)付加物(C-4)を0.1部(%)とをよく混合して均一にすることで実施例1の処理剤を調製した。
【0049】
(実施例2~11,14~17、参考例12,13,18~22、比較例1~6)
実施例2~11,14~17、参考例12,13,18~22、比較例1~6は、実施例1と同様にして平滑剤(A)、ウレア変性シリコーン(B)、ヒドロキシ化合物(C)、及びその他成分(D)を表1に示した割合で混合することで処理剤を調製した。
【0050】
各例の処理剤中における平滑剤(A)、ウレア変性シリコーン(B)、ヒドロキシ化合物(C)、及びその他成分(D)の各成分の種類、各成分の含有割合の合計を100%とした場合における各成分の比率を、表1の「平滑剤(A)」欄、「ウレア変性シリコーン(B)」欄、「ヒドロキシ化合物(C)」欄、及び「その他成分(D)」欄にそれぞれ示す。
【0051】
【表1】
表1の区分欄に記載される平滑剤(A)、ウレア変性シリコーン(B)、ヒドロキシ化合物(C)、及びその他成分(D)の詳細は以下のとおりである。
【0052】
<平滑剤(A)>
(鉱物油(A1))
A1-1:40℃における動粘度が40レッドウッド秒である鉱物油
A1-2:40℃における動粘度が60レッドウッド秒である鉱物油
(ジメチルシリコーン(A2))
A2-1:25℃における動粘度が10mm/sのジメチルシリコーン
A2-2:25℃における動粘度が20mm/sのジメチルシリコーン
<ウレア変性シリコーン(B)>
B-1:25℃における動粘度が170mm/sのウレア変性シリコーン
B-2:25℃における動粘度が260mm/sのウレア変性シリコーン
B-3:25℃における動粘度が370mm/sのウレア変性シリコーン
B-4:25℃における動粘度が600mm/sのウレア変性シリコーン
B-5:25℃における動粘度が1980mm/sのウレア変性シリコーン
B-6:25℃における動粘度が3180mm/sのウレア変性シリコーン
<ヒドロキシ化合物(C)>
(脂肪族アルコール)
C-1:2-エチルヘキサノール
C-2:オクタデカノール
(脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物)
C-3:炭素数10~12の二級アルコールのエチレンオキサイド(3モル)付加物
C-4:炭素数14,15の一級アルコールのエチレンオキサイド(7モル)プロピレンオキサイド(12モル)付加物
<その他成分(D)>
D-1:ウレア樹脂(オクタデシルアミンとメチレンジフェルニルジイソシアネートとを反応させた構造を有する脂肪族ジウレア)
D-2:25℃における動粘度が300mm/sのポリエーテル変性シリコーン
D-3:ノニルフェノール
D-4:25℃における動粘度が250mm/sのアミノ変性シリコーン
試験区分2(弾性繊維の製造)
分子量2000のポリテトラメチレングリコールとジフェニルメタンジイソシアネートとから得たプレポリマーをジメチルホルムアミド溶液中にてエチレンジアミンにより鎖伸長反応させ、濃度30%の紡糸ドープを得た。この紡糸ドープを紡糸口金から加熱ガス流中において乾式紡糸した。そして、巻き取り前の延伸ローラーと延伸ローラーの間に位置する給油ローラーより、乾式紡糸したポリウレタン系弾性繊維に、処理剤をローラーオイリング法でニート給油した。
【0053】
以上のようにローラー給油した弾性繊維を、巻き取り速度が600m/分で、長さ58mmの円筒状紙管に、巻き幅38mmを与えるトラバースガイドを介して、サーフェイスドライブの巻取機を用いて巻き取り、40デニールの乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維のパッケージ500gを得た。処理剤の付着量の調節は、給油ローラーの回転数を調整することで何れも5%となるように行った。
【0054】
こうして得られたローラー給油した乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維のパッケージを用いて、弾性繊維の繊維金属間摩擦及びスカムについて評価を行った。また、処理剤の安定性について評価した。
【0055】
試験区分3(弾性繊維の評価)
(繊維金属間摩擦(FM摩擦)の評価)
摩擦測定メーター(エイコー測器社製、SAMPLEFRICTIONUNIT MODEL TB-1)を用いた。二つのフリーローラー間に金属擦過体として直径1cmで表面粗度2Sのクロムメッキ梨地ピンを配置し、このクロムメッキ梨地ピンに対し、パッケージ(500g巻き)から引き出したポリウレタン系弾性繊維の接触角度が90度となるようにした。25℃で60%RHの条件下、入側で初期張力(T)5gをかけ、100m/分の速度で走行させたときの出側の2次張力(T)を0.1秒毎に1分間測定した。下記式から摩擦係数を求めた。さらに比較例3の摩擦係数を1.0とした場合における相対値を求め、下記の基準で評価した。結果を表1の「FM摩擦」欄に示す。
【0056】
摩擦係数=(2/3.14)xln(T/T
・繊維金属間摩擦の評価基準
◎(良好):0.9未満
○(可):0.9以上、1.0未満
×(不良):1.0以上
(スカムの評価)
上記繊維金属間摩擦の評価において、上記繊維金属間摩擦の評価の終了後に、金属擦過体として用いたクロムメッキ梨地ピンの糸道でのスカムの蓄積状態を肉眼観察し、下記の基準でスカムを評価した。結果を表1の「スカム」欄に示す。
【0057】
◎(良好):スカム有りの場合
×(不良):スカム無しの場合
(配合時の処理剤の安定性)
25℃で各成分を混合し、充分に撹拌後、下記の基準で配合時の処理剤の安定性を評価した。結果を表1の「安定性」欄に示す。
【0058】
・配合時の処理剤の安定性の評価基準
◎(良好):無色透明液状の場合
○(可):白色透明液状の場合
×(不可):粒子又は沈降物有りの場合
(1か月後の処理剤の安定性)
上記のように調製された各処理剤を、25℃で1ヵ月静置して、下記の基準で1か月後の処理剤の安定性を評価した。結果を表1の「安定性」欄に示す。
【0059】
・1か月後の処理剤の安定性の評価基準
◎(良好):無色透明液状の場合
○(可):白色透明液状の場合
×(不可):粒子又は沈降物有りの場合
表1の各比較例に対する各実施例の評価結果からも明らかなように、本発明の処理剤によると、処理剤が付与された弾性繊維の繊維金属間摩擦を低減できるとともに、処理剤が付与された弾性繊維が走行する際に生ずるスカムを低減できる。また、処理剤の安定性を向上できる。
【要約】
【課題】繊維金属間摩擦を低減できるとともに安定性を向上できる弾性繊維用処理剤及びかかる弾性繊維用処理剤が付着している弾性繊維を提供する。
【解決手段】本発明の弾性繊維用処理剤は、平滑剤(A)及びウレア変性シリコーン(B)を含有することを特徴とする。本発明の弾性繊維は、平滑剤(A)及びウレア変性シリコーン(B)を含有する弾性繊維用処理剤が付着していることを特徴とする。
【選択図】なし