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特許7522416メタン合成用二酸化炭素還元電極及びその製造方法、並びに、メタン合成用二酸化炭素電解セル
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  • 特許-メタン合成用二酸化炭素還元電極及びその製造方法、並びに、メタン合成用二酸化炭素電解セル 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】メタン合成用二酸化炭素還元電極及びその製造方法、並びに、メタン合成用二酸化炭素電解セル
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/089 20210101AFI20240718BHJP
   C25B 3/03 20210101ALI20240718BHJP
   C25B 3/26 20210101ALI20240718BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240718BHJP
   C25B 11/032 20210101ALI20240718BHJP
   C25B 11/052 20210101ALI20240718BHJP
   C25B 11/081 20210101ALI20240718BHJP
   C25B 11/091 20210101ALI20240718BHJP
   C23C 18/31 20060101ALI20240718BHJP
   C23C 14/24 20060101ALI20240718BHJP
   C23C 14/14 20060101ALI20240718BHJP
   C25D 5/24 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
C25B11/089
C25B3/03
C25B3/26
C25B9/00 G
C25B11/032
C25B11/052
C25B11/081
C25B11/091
C23C18/31
C23C14/24 F
C23C14/14 D
C25D5/24
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023198572
(22)【出願日】2023-11-22
【審査請求日】2023-11-22
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2022年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「CO2等を用いた燃料製造技術開発/合成メタン製造に係る革新的技術開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000220262
【氏名又は名称】東京瓦斯株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内 尚泰
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洸基
(72)【発明者】
【氏名】中村 和郎
(72)【発明者】
【氏名】阿部 充里
(72)【発明者】
【氏名】片山 祐
(72)【発明者】
【氏名】崔 亮秀
(72)【発明者】
【氏名】糸稲 凌汰
(72)【発明者】
【氏名】森永 明日香
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2022-516277(JP,A)
【文献】特開2018-031034(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソードガス拡散層とカソード触媒層とをこの順に有し、
前記カソード触媒層は、Cu粒子を含む層と、前記Cu粒子を含む層上の一部に設けられ、かつ、Ag粒子、Zn粒子、Sn粒子及びAl粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属粒子を含む層と、を前記カソードガス拡散層側からこの順に有する、メタン合成用二酸化炭素還元電極。
【請求項2】
前記金属粒子を含む層が、Ag粒子及びZn粒子から選ばれる少なくとも1種の金属粒子を含む層である請求項1に記載のメタン合成用二酸化炭素還元電極。
【請求項3】
前記Cu粒子を含む層上に占める、前記金属粒子を含む層の平面視における面積割合が、15%~80%である請求項1に記載のメタン合成用二酸化炭素還元電極。
【請求項4】
前記Cu粒子を含む層の平面視における単位面積当たりの、前記金属粒子を含む層の平面視における輪郭長さが、1.0μm/μm~3.0μm/μmである請求項1に記載のメタン合成用二酸化炭素還元電極。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のメタン合成用二酸化炭素還元電極の製造方法であって、
カソードガス拡散層の一方の面に、アークプラズマ法によってCu粒子を付着させることにより前記Cu粒子を含む層を形成する工程と、
前記Cu粒子を含む層の前記カソードガス拡散層側とは反対側の面の一部に、電析法又はイオン交換法によって、Ag粒子、Zn粒子、Sn粒子及びAl粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属粒子を付着させることにより前記金属粒子を含む層を形成する工程と、
を含む、メタン合成用二酸化炭素還元電極の製造方法。
【請求項6】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のメタン合成用二酸化炭素還元電極と、電解質と、アノード電極と、を備えるメタン合成用二酸化炭素電解セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、メタン合成用二酸化炭素還元電極及びその製造方法、並びに、メタン合成用二酸化炭素電解セルに関する。
【背景技術】
【0002】
メタン(CH)は、二酸化炭素(CO)及び水(HO)に電気を加え、触媒上で二酸化炭素の還元反応を進行させることにより合成することができる。二酸化炭素を還元してメタンを合成する技術については、これまで種々の報告がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、導電性基材と、導電性基材上に設けられた触媒層とを含み、触媒層がカーボンブラックに担持させた二酸化炭素還元触媒を含み、二酸化炭素還元触媒が特定の構造を有するCu(II)テトラフェニルポルフィリンである二酸化炭素還元用電極を用いる技術が開示されている。
特許文献2には、電極層と、第1の半導体層と、互いに対向する第1及び第2の面を有し、第1の面に電極層が接して設けられ、第2の面に第1の半導体層が接して設けられる第2の半導体層とを有し、第1の半導体層の伝導帯の下端電位が水素生成電位よりも高く、第2の半導体層の価電子帯の上端電位が酸素生成電位よりも低く、第1の半導体層のバンドギャップが第2の半導体層のバンドギャップよりも大きく、第1の半導体層の表面に助触媒として金属が離散的に担持されている半導体素子を用いる技術が開示されている。
特許文献3には、表面に金属微粒子を含む金属層を有する集電体と、金属層の表面に結合され、第4級窒素カチオンを含む修飾有機分子とを具備する還元触媒を用いる技術が開示されている。
特許文献4には、二酸化炭素と水素とからメタンを生成するときに使用される二酸化炭素吸蔵還元型触媒であって、マグネシウムを含み、二酸化炭素を吸蔵する二酸化炭素吸蔵材の粉体と、二酸化炭素と水素から触媒反応よってメタンを生成するメタン化触媒の粉体と、を含み、二酸化炭素吸蔵材の粉体とメタン化触媒の粉体が、混合された状態で収容体に収容されている二酸化炭素吸蔵還元型触媒を用いる技術が開示されている。
特許文献5には、反応原料として気体原料と液体原料とが流通されるマイクロ流路を有するマイクロ反応器と、マイクロ流路に気体原料を送り込む気体原料送り込み手段と、マイクロ流路に液体原料を送り込む液体原料送り込み手段と、マイクロ流路の内面に設けられた光触媒の層と、を備え、気体原料は二酸化炭素であり、液体原料は二酸化炭素と反応して有機化合物を生成し得る原料であり、光触媒の層が、助触媒として特定の金属1種を二酸化チタンに分散担持してなる層であり、気体原料送り込み手段及び液体原料送り込み手段は、液体原料がマイクロ流路の内面に沿って流れ、二酸化炭素が中央部を流れる状態のパイプフローを形成可能に構成されている二酸化炭素の固定化装置を用いる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2021-7919号公報
【文献】国際公開第2012/137240号
【文献】特開2015-132012号公報
【文献】特開2020-163248号公報
【文献】特開2009-29811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これまで、メタンを合成する手法としては、水溶液にCOガスを溶解させ、溶解したCOを電気分解する手法が主流であった。しかし、この手法では、一度に合成することができるメタンの量が限られる。そこで、近年では、COをガスのまま反応させ、メタンを合成する手法が採用されている。この手法によれば、一度に多くの量のメタンを合成することができるものの、メタン以外の副生成物が発生しやすく、メタンの生成効率の点では、未だ課題を残している。このため、メタンを選択的に合成できる技術の開発が望まれている。
【0006】
本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、メタン選択性が高いメタン合成用二酸化炭素還元電極を提供することにある。
本開示の他の実施形態が解決しようとする課題は、上記メタン合成用二酸化炭素還元電極の製造方法を提供することにある。
また、本開示の他の実施形態が解決しようとする課題は、上記メタン合成用二酸化炭素還元電極を備えるメタン合成用二酸化炭素電解セルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1> カソードガス拡散層とカソード触媒層とをこの順に有し、
上記カソード触媒層は、Cu粒子を含む層と、上記Cu粒子を含む層上の一部に設けられ、かつ、Ag粒子、Zn粒子、Sn粒子及びAl粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属粒子を含む層と、を上記カソードガス拡散層側からこの順に有する、メタン合成用二酸化炭素還元電極。
<2> 上記金属粒子を含む層が、Ag粒子及びZn粒子から選ばれる少なくとも1種の金属粒子を含む層である<1>に記載のメタン合成用二酸化炭素還元電極。
<3> 上記Cu粒子を含む層上に占める、上記金属粒子を含む層の平面視における面積割合が、15%~80%である<1>又は<2>に記載のメタン合成用二酸化炭素還元電極。
<4> 上記Cu粒子を含む層の平面視における単位面積当たりの、上記金属粒子を含む層の平面視における輪郭長さが、1.0μm/μm~3.0μm/μmである<1>~<3>のいずれか1つに記載のメタン合成用二酸化炭素還元電極。
<5> <1>~<4>のいずれか1つに記載のメタン合成用二酸化炭素還元電極の製造方法であって、
カソードガス拡散層の一方の面に、アークプラズマ法によってCu粒子を付着させることにより上記Cu粒子を含む層を形成する工程と、
上記Cu粒子を含む層の上記カソードガス拡散層側とは反対側の面の一部に、電析法又はイオン交換法によって、Ag粒子、Zn粒子、Sn粒子及びAl粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属粒子を付着させることにより上記金属粒子を含む層を形成する工程と、
を含む、メタン合成用二酸化炭素還元電極の製造方法。
<6> <1>~<4>のいずれか1つに記載のメタン合成用二酸化炭素還元電極と、電解質と、アノード電極と、を備える、メタン合成用二酸化炭素電解セル。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一実施形態によれば、メタン選択性が高いメタン合成用二酸化炭素還元電極が提供される。
本開示の他の実施形態によれば、上記メタン合成用二酸化炭素還元電極の製造方法が提供される。
また、本開示の他の実施形態によれば、上記メタン合成用二酸化炭素還元電極を備えるメタン合成用二酸化炭素電解セルが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施例1の二酸化炭素還元電極が備えるカソード触媒層のAg粒子層側の面のSEM画像(撮影倍率:6000倍)の一部である。
図2図2は、実施例におけるメタン選択性の評価試験に用いた、二酸化炭素還元電極を組み込んだガス拡散型ハーフセルの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態について、詳細に説明する。本開示は、以下の実施形態に何ら制限されず、本開示の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。図面における寸法の比率は、必ずしも実際の寸法の比率を表すものではない。
【0011】
本開示において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値に置き換えられてもよく、ある数値範囲で記載された下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の下限値に置き換えられてもよい。本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えられてもよい。
【0013】
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0014】
本開示において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0015】
[メタン合成用二酸化炭素還元電極]
本開示のメタン合成用二酸化炭素還元電極(以下、単に「二酸化炭素還元電極」ともいう。)は、カソードガス拡散層とカソード触媒層とをこの順に有し、上記カソード触媒層は、Cu粒子を含む層と、上記Cu粒子を含む層上の一部に設けられ、かつ、Ag粒子、Zn粒子、Sn粒子及びAl粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属粒子を含む層と、を上記カソードガス拡散層側からこの順に有する。
本開示の二酸化炭素還元電極は、メタン選択性が高いという特性を有する。
本発明者らは、カソード触媒層の金属触媒として、Cuと、Cu以外の特定の金属との組み合わせが、メタンを選択的に合成する上で、有効であることを見出した。
本開示の二酸化炭素還元電極は、カソード触媒層を、Cu粒子を含む層上の一部に、Ag粒子、Zn粒子、Sn粒子及びAl粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属粒子を含む層が積層された構成とし、かつ、Cu粒子を含む層をカソードガス拡散層側に有することで、例えば、従来、メタン選択性が高いことが知られている金属のCuを単体で使用する場合と比較して、メタンをより選択的に合成できる。
【0016】
これに対し、特許文献1(特開2021-7919号公報)、特許文献2(国際公開第2012/137240号)、特許文献3(特開2015-132012号公報)、特許文献4(特開2020-163248号公報)、及び、特許文献5(特開2009-29811号公報)に記載された触媒を含む層は、いずれも、Cu粒子を含む層上の一部に、Ag粒子、Zn粒子、Sn粒子及びAl粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属粒子を含む層を有するものではなく、これまで、二酸化炭素を還元する触媒層において、Cu粒子を含む層とCu以外の特定の金属の粒子を含む層との積層構造と、メタンの選択的な合成との関係について着目した報告はなされていない。
【0017】
本開示では、「Cu粒子を含む層」を「Cu粒子層」ともいう。
本開示では、「Ag粒子、Zn粒子、Sn粒子及びAl粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属粒子を含む層」を「特定金属粒子層」ともいい、「Ag粒子を含む層」を「Ag粒子層」ともいい、「Zn粒子を含む層」を「Zn粒子層」ともいい、「Sn粒子を含む層」を「Sn粒子層」ともいい、「Al粒子を含む層」を「Al粒子層」ともいう。
また、本開示では、「Ag粒子、Zn粒子、Sn粒子及びAl粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属粒子」を「特定金属粒子」と総称する場合がある。
【0018】
<カソードガス拡散層>
本開示の二酸化炭素還元電極は、カソードガス拡散層を有する。
カソードガス拡散層には、従来公知の二酸化炭素還元電極において使用される部材を適用してもよい。
カソードガス拡散層としては、層内における流体の流通を可能とする物質を使用でき、例えば、導電性材料で形成された、多孔質体、粉末焼結体、及び、繊維焼結体を好適に使用できる。
導電性材料としては、導電性炭素材料が好ましい。
カソードガス拡散層は、炭素繊維の焼結体であることが好ましく、グラファイト繊維の焼結体であることがより好ましい。
カソードガス拡散層が炭素繊維(好ましくはグラファイト繊維;以下、同じ。)の焼結体である場合、炭素繊維の焼結体は、その表面に、導電性炭素材料で形成されたマイクロポーラスレイヤー(MPL)を有することが好ましい。
カソードガス拡散層がMPLを有すると、COガスと、カソード触媒層の触媒と、電解質との接触点が増加するため、二酸化炭素の還元反応がより効率的に進行し得る。
MPLは、導電性炭素材料で形成されていることが好ましく、グラファイト粒子により形成されていることがより好ましい。
【0019】
カソードガス拡散層の厚さは、特に限定されないが、例えば、100μm~300μmであることが好ましい。
【0020】
カソードガス拡散層には、市販のカーボンペーパーを用いてもよい。
カソードガス拡散層として機能し得るカーボンペーパーの市販品の例としては、SIGRACET 28BC〔商品名、炭素繊維であるグラファイト繊維の焼結体上にグラファイト粒子からなるマイクロポーラスレイヤー(MPL)を備えたカーボンペーパー、厚さ:235μm、密度:0.45g/cm、SGL CARBON社製〕、及び、Toray Paper TGP-H-060〔商品名、厚さ:190μm、密度:0.44g/cm、東レ(株)製〕が挙げられる。
【0021】
<カソード触媒層>
本開示の二酸化炭素還元電極は、カソード触媒層を有する。
カソード触媒層は、カソードガス拡散層と電解質との間に配置される。
カソード触媒層は、Cu粒子を含む層(即ち、Cu粒子層)と、Ag粒子、Zn粒子、Sn粒子及びAl粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属粒子を含む層(即ち、特定金属粒子層)と、を有しており、特定金属粒子層は、Cu粒子層上の一部に設けられている。
カソード触媒層は、Cu粒子層をカソードガス拡散層側に、特定金属粒子層を電解質側にして配置される。
【0022】
Cu粒子層は、Cu粒子を含む層であり、Cu粒子からなる層であることが好ましい。
Cu粒子の粒子径は、特に限定されないが、例えば、10nm以下であることが好ましく、5nm~10nmであることがより好ましい。
Cu粒子の粒子径が小さいほど、メタンの生成効率が向上する傾向にある。
【0023】
本開示における「Cu粒子の粒子径」は、Cu粒子の平均粒子径を意味する。
Cu粒子の平均粒子径は、以下の方法により求められる値である。
Cu粒子層の表面を、走査透過電子顕微鏡(STEM)を用いて観察し、200nm角の5つの視野に存在するCu粒子の粒子径を全て測定する。測定値の算術平均値を求め、得られた値をCu粒子の平均粒子径とする。
【0024】
Cu粒子層の厚さは、特に限定されないが、例えば、300nm~400nmであることが好ましい。
【0025】
本開示における「Cu粒子層の厚さ」は、Cu粒子層の平均厚さを意味する。
Cu粒子層の平均厚さは、以下の方法により求められる値である。
Cu粒子層の断面を、走査透過電子顕微鏡(STEM)を用いて観察する。Cu粒子層の厚み方向において無作為に選択した6箇所の厚さを測定する。測定値の算術平均値を求め、得られた値をCu粒子層の平均厚さとする。
【0026】
Cu粒子層は、本開示の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、Cu粒子以外の成分を含んでいてもよい。Cu粒子以外の成分としては、例えば、Ag粒子、Zn粒子、Sn粒子及びAl粒子が挙げられる。
【0027】
特定金属粒子層は、Ag粒子、Zn粒子、Sn粒子及びAl粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属粒子を含む層であり、Ag粒子及びZn粒子から選ばれる少なくとも1種の金属粒子を含む層であることが好ましく、Ag粒子又はZn粒子を含む層であることがより好ましい。
また、特定金属粒子層は、Ag粒子、Zn粒子、Sn粒子及びAl粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属粒子からなる層であってもよく、例えば、Ag粒子及びZn粒子からなる層であってもよく、Ag粒子からなる層であってもよく、Zn粒子からなる層であってもよく、Sn粒子からなる層であってもよく、Al粒子からなる層であってもよい。
【0028】
特定金属粒子の粒子径は、特に限定されないが、例えば、1μm以下であることが好ましく、5nm~20nmであることがより好ましい。
【0029】
本開示における「特定金属粒子の粒子径」は、特定金属粒子の平均粒子径を意味する。
特定金属粒子の平均粒子径は、以下の方法により求められる値である。
特定金属粒子層の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察し、1μm角の3つの視野に存在する特定金属粒子の粒子径を全て測定する。測定値の算術平均値を求め、得られた値を特定金属粒子の平均粒子径とする。
【0030】
特定金属粒子層の厚さは、特に限定されないが、例えば、300nm~400nmであることが好ましい。
【0031】
本開示における「特定金属粒子層の厚さ」は、特定金属粒子層の平均厚さを意味する。
特定金属粒子層の平均厚さは、以下の方法により求められる値である。
特定金属粒子層の断面を、走査透過電子顕微鏡(STEM)を用いて観察する。特定金属粒子層の厚み方向において無作為に選択した6箇所の厚さを測定する。測定値の算術平均値を求め、得られた値を特定金属粒子層の平均厚さとする。
【0032】
特定金属粒子層は、Cu粒子層上の一部に設けられていればよい。
Cu粒子層上に占める特定金属粒子層の平面視における面積割合は、例えば、15%~80%であることが好ましく、30%~65%であることがより好ましい。
Cu粒子層上に占める特定金属粒子層の平面視における面積割合が上記範囲内であると、メタン選択性がより高まる傾向にある。
【0033】
Cu粒子層上に占める特定金属粒子層の平面視における面積割合は、例えば、特定金属粒子層を形成する方法として、電析法を採用した場合には、電析条件によって制御できる。例えば、電析の電気量を大きくすると、Cu粒子層上に占める特定金属粒子層の平面視における面積割合を増やすことができ、電析の電気量を小さくすると、Cu粒子層上に占める特定金属粒子層の平面視における面積割合を減らすことができる。
【0034】
Cu粒子層の平面視における単位面積当たりの特定金属粒子層の平面視における輪郭長さは、例えば、1.0μm/μm~3.0μm/μmであることが好ましく、2.5μm/μm~3.0μm/μmであることがより好ましい。
Cu粒子層の平面視における単位面積当たりの金属粒子層の平面視における輪郭長さが上記範囲内であると、メタン選択性がより高まる傾向にある。
【0035】
Cu粒子層の平面視における単位面積当たりの特定金属粒子層の平面視における輪郭長さは、例えば、特定金属粒子層を形成する方法として、電析法を採用した場合には、電析条件によって制御できる。例えば、電析時間を最適化すると、Cu粒子層の平面視における単位面積当たりの特定金属粒子層の平面視における輪郭長さを長くすることができ、電析時間を短くするか、或いは、電析時間を長くすると、Cu粒子層の平面視における単位面積当たりの特定金属粒子層の平面視における輪郭長さを短くすることができる。
【0036】
本開示において、Cu粒子層上に占める特定金属粒子層の平面視における面積割合、及び、Cu粒子層の平面視における単位面積当たりの特定金属粒子層の平面視における輪郭長さは、以下の方法により測定される。
エネルギー分散型X線分析装置を搭載した走査型電子顕微鏡(SEM-EDS)を用いて、3000倍率~10000倍率の拡大元素マッピング画像を取得する。次いで、取得した拡大元素マッピング画像を、画像解析・編集ソフト〔商品名:Adobe Photoshop、Adobe社製〕を用いて、特定金属粒子層の存在領域を抽出し、拡大領域面積内での輪郭長さをソフトの機能によって計測する。
SEM-EDSとしては、例えば、日本電子(株)製の新型ショットキー電界放出形走査電子顕微鏡 JSM-F100(商品名)を好適に使用できる。但し、SEM-EDSは、これに限定されない。
【0037】
特定金属粒子層は、本開示の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、特定金属粒子以外の成分を含んでいてもよい。特定金属粒子以外の成分としては、例えば、特定金属粒子以外の金属粒子(但し、Cu粒子を除く。)が挙げられる。
【0038】
[メタン合成用二酸化炭素還元電極の製造方法]
本開示の二酸化炭素還元電極の製造方法は、特に限定されない。
本開示の二酸化炭素還元電極は、公知の方法により製造できる。
本開示の二酸化炭素還元電極の製造方法としては、例えば、製造適性の観点から、カソードガス拡散層の一方の面に、アークプラズマ法によってCu粒子を付着させることにより上記Cu粒子を含む層を形成する工程と、上記Cu粒子を含む層の上記カソードガス拡散層側とは反対側の面の一部に、電析法又はイオン交換法によって、Ag粒子、Zn粒子、Sn粒子及びAl粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属粒子を付着させることにより上記金属粒子を含む層を形成する工程と、を含む方法(以下、「製造方法X」ともいう。)が好ましい。
【0039】
以下、製造方法Xについて説明するが、本開示の二酸化炭素還元電極の項において説明した事項と共通する事項については、説明を省略する。
【0040】
<製造方法X>
製造方法Xは、カソードガス拡散層の一方の面に、アークプラズマ法によってCu粒子を付着させることによりCu粒子層を形成する工程(以下、「Cu粒子層形成工程」ともいう。)と、上記Cu粒子を含む層の上記カソードガス拡散層側とは反対側の面の一部に、電析法又はイオン交換法によって、Ag粒子、Zn粒子、Sn粒子及びAl粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属粒子を付着させることにより上記金属粒子を含む層を形成する工程(以下、「特定金属粒子層形成工程」ともいう。)と、を含む。
製造方法Xは、Cu粒子層形成工程及び特定金属粒子層形成工程以外の工程(所謂、他の工程)を含んでいてもよい。他の工程としては、例えば、カソードガス拡散層を準備する工程、及び、電極を蒸留水で洗浄する工程が挙げられる。
【0041】
-Cu粒子層形成工程-
Cu粒子層形成工程は、カソードガス拡散層の一方の面に、アークプラズマ法によってCu粒子を付着させることによりCu粒子層を形成する工程である。
【0042】
Cu粒子層形成工程では、カソードガス拡散層の一方の面にCu粒子層を形成する。
カソードガス拡散層がマイクロポーラスレイヤー(MPL)を有する場合には、カソードガス拡散層のMPL側の面に、Cu粒子層を形成することが好ましい。
カソードガス拡散層のMPL側の面にCu粒子層を形成すると、Cu粒子と二酸化炭素とが接触しやすくなるため、メタンをより効率的に合成可能な二酸化炭素還元電極を製造できる傾向にある。
【0043】
Cu粒子層形成工程では、アークプラズマ法によってCu粒子層を形成する。
アークプラズマ法によってCu粒子層を形成することで、メタンをより効率的に合成可能な二酸化炭素還元電極を製造できる傾向にある。
アークプラズマ法は、2つの電極間に高温のアーク放電を発生させることにより金属を気化させて、金属ナノ粒子を生成させる気相法の一つである。アークプラズマ法では、2つの電極間に発生させたプラズマによって金属が蒸発して気化し、発生した金属の蒸気が雰囲気ガスと反応しながら冷却されることで、ナノサイズの粒子まで成長する。このため、アークプラズマ法によれば、カソードガス拡散層の一方の面に、ナノサイズのCu粒子が付着したCu粒子層を形成できる。Cu粒子層を形成するCu粒子は、粒子径が小さいほど二酸化炭素との接触面積が大きくなり、触媒としての機能を効果的に発揮するため、メタンがより効率的に合成されると考えられる。
【0044】
アークプラズマ条件は、特に限定されない。
印加電圧としては、例えば、80V~150Vが好ましく、110V~120Vがより好ましい。
放電回数としては、例えば、50回~1000回が好ましい。
コンデンサ容量としては、例えば、300μF~1500μFが好ましい。
パルス周波数としては、例えば、0.2Hz~10Hzが好ましい。
アークプラズマ条件の好ましい一例としては、印加電圧が120Vであり、放電回数が500回であり、コンデンサ容量が1080μFであり、パルス周波数が1Hzである条件が挙げられる。
アークプラズマ装置としては、アドバンス理工(株)製のアークプラズマ法ナノ粒子形成装置(型式:APD-1S-C)を好適に使用できる。但し、本開示におけるアークプラズマ装置は、これに限定されない。
【0045】
-特定金属粒子層形成工程-
特定金属粒子層形成工程は、Cu粒子層のカソードガス拡散層側とは反対側の面の一部に、電析法又はイオン交換法によって、Ag粒子、Zn粒子、Sn粒子及びAl粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属粒子(即ち、特定金属粒子)を付着させることにより特定金属粒子層を形成する工程である。
【0046】
特定金属粒子層形成工程では、Cu粒子層のカソードガス拡散層側とは反対側の面の一部に、特定金属粒子層を形成する。
特定金属粒子層形成工程では、特定金属粒子層を、Cu粒子層上に占める特定金属粒子層の平面視における面積割合が、15%~80%となるように形成することが好ましく、30%~65%となるように形成することがより好ましい。
Cu粒子層上に占める特定金属粒子層の平面視における面積割合が上記範囲内となるように、特定金属粒子層を形成すると、メタン選択性がより高い二酸化炭素還元電極を製造できる傾向にある。
Cu粒子層上に占める特定金属粒子層の平面視における面積割合は、例えば、特定金属粒子層を形成する際の電析条件(電析法の場合)又は浸漬時間(浸漬イオン交換法の場合)によって制御できる。
【0047】
特定金属粒子層形成工程では、特定金属粒子層を、Cu粒子層の平面視における単位面積当たりの特定金属粒子層の平面視における輪郭長さが、1.0μm/μm~3.0μm/μmとなるように形成することが好ましく、2.5μm/μm~3.0μm/μmとなるように形成することがより好ましい。
Cu粒子層の平面視における単位面積当たりの特定金属粒子層の平面視における輪郭長さが上記範囲内となるように、特定金属粒子層を形成すると、メタン選択性がより高い二酸化炭素還元電極を製造できる傾向にある。
Cu粒子層の平面視における単位面積当たりの特定金属粒子層の平面視における輪郭長さは、例えば、特定金属粒子層を形成する際の電析条件(電析法の場合)又は浸漬時間(浸漬イオン交換法の場合)によって制御できる。
【0048】
特定金属粒子層形成工程では、電析法又はイオン交換法によって特定金属粒子層を形成する。電析法又はイオン交換法によれば、特定金属粒子層を簡便に形成できる。
【0049】
電析法は、定電圧法(所謂、クロノアンペロメトリー)であってもよく、定電流法(所謂、クロノポテンショメトリー)であってもよいが、定電圧法であることが好ましい。
電析条件は、Cu粒子層のカソードガス拡散層側とは反対側の面の一部に、特定金属粒子層を形成できる条件であれば、特に限定されない。
【0050】
電析法に使用する電析セルは、特に限定されず、例えば、特定金属粒子の種類に応じて、適宜選択される。
特定金属粒子がAg粒子である場合、参照極としては、例えば、Ag線及びAg/AgCl電極が挙げられ、対極としては、例えば、Ag線及びAgメッシュが挙げられる。
特定金属粒子がZn粒子である場合、参照極としては、例えば、Ag/AgCl電極が挙げられ、対極としては、例えば、Zn線及びZnメッシュが挙げられる。
特定金属粒子がSn粒子である場合、参照極としては、例えば、Ag/AgCl電極が挙げられ、対極としては、例えば、Sn線及びSnメッシュが挙げられる。
特定金属粒子がAl粒子である場合、参照極としては、例えば、Ag/AgCl電極が挙げられ、対極としては、例えば、Al線及びAlメッシュが挙げられる。
【0051】
電析法に使用する電解液は、特に限定されず、例えば、特定金属粒子の種類に応じて、適宜選択される。
特定金属粒子がAg粒子である場合、電解液としては、例えば、AgNO水溶液、AgSO水溶液及びAgCl水溶液が挙げられる。
特定金属粒子がZn粒子である場合、電解液としては、例えば、ZnCl水溶液及びZn(CHCOO)水溶液が挙げられる。
特定金属粒子がSn粒子である場合、電解液としては、例えば、Sn(NO水溶液、SnSO水溶液及びSnCl水溶液が挙げられる。
特定金属粒子がAl粒子である場合、電解液としては、例えば、Al(NO水溶液、Al(SO水溶液及びAlCl水溶液が挙げられる。
【0052】
電解液のpHは、特に限定されないが、例えば、1~6であることが好ましい。
電析は、室温(25℃)の環境下で行うことが好ましい。
設定電位としては、例えば、-0.1V~-1.5Vであることが好ましい。
電圧印加は、例えば、電気量が0.02C/cm~0.20C/cmとなった時点で終了させることが好ましく、電気量が0.10C/cm~0.15C/cmとなった時点で終了させることがより好ましい。
電析法では、電気量によって特定金属の析出量を制御できる。
特定金属粒子がAg粒子である場合の定電圧法による電析条件の一例としては、参照極にAg線、対極にAgメッシュ、電解液に0.01MのAgNO水溶液(pH=2.2)を用いて構成された電析セルを使用し、設定電位が-0.5V(vs. RHE (Reversible Hydrogen Electrode))であり、電気量が0.14C/cmとなった時点で電圧印加を終了させる。また、特定金属粒子がZn粒子である場合の定電圧法による電析条件の一例としては、参照極にAg/AgCl電極、対極にZn線、電解液に0.1MのZnCl水溶液(pH=3.0)を用いて構成された電析セルを使用し、設定電位が-0.5V(vs. RHE (Reversible Hydrogen Electrode))であり、電気量が0.02C/cmとなった時点で電圧印加を終了させる。
【0053】
イオン交換法としては、特に限定されないが、例えば、特定金属粒子層をより簡便に形成できる観点から、浸漬イオン交換法が好ましい。
【0054】
イオン交換法に使用するイオン交換液は、特に限定されず、例えば、特定金属粒子の種類に応じて、適宜選択される。
特定金属粒子がAg粒子である場合、イオン交換液としては、例えば、AgNO水溶液、AgSO水溶液及びAgCl水溶液が挙げられる。
特定金属粒子がZn粒子である場合、イオン交換液としては、例えば、ZnCl水溶液及びZn(CHCOO)水溶液が挙げられる。
特定金属粒子がSn粒子である場合、イオン交換液としては、例えば、Sn(NO水溶液、SnSO水溶液及びSnCl水溶液が挙げられる。
特定金属粒子がAl粒子である場合、イオン交換液としては、例えば、Al(NO水溶液、Al(SO水溶液及びAlCl水溶液が挙げられる。
イオン交換液のpHは、特に限定されないが、例えば、2~3であることが好ましい。
【0055】
浸漬イオン交換法では、浸漬は、室温(25℃)の環境下で行うことが好ましい。
浸漬は、例えば、浸漬時間が5秒~500秒となった時点で終了させることが好ましく、浸漬時間が30秒~50秒となった時点で終了させることがより好ましい。
浸漬イオン交換法では、浸漬時間によって特定金属の析出量を制御できる。
【0056】
[メタン合成用二酸化炭素電解セル]
本開示のメタン合成用二酸化炭素電解セル(以下、単に「二酸化炭素電解セル」ともいう。)は、本開示の二酸化炭素還元電極(所謂、カソード電極)と、電解質と、アノード電極と、を備える。
本開示の二酸化炭素還元電極は、既述のとおりであるため、ここでは説明を省略する。
【0057】
<電解質>
本開示の二酸化炭素電解セルは、電解質を有する。
電解質は、二酸化炭素電解セルに使用される公知のイオン交換膜型の電解質から選択することができる。イオン交換膜型の電解質は、カチオンを選択的に透過する性質を有していてもよく、アニオンを選択的に透過する性質を有していてもよい。
電解質としては、例えば、高分子電解質膜(PEM)が挙げられる。
電解質は、例えば、フッ素系高分子電解質膜であってもよく、炭化水素系高分子電解質膜であってもよい。
【0058】
電解質としては、市販品を使用できる。
電解質の市販品の例としては、“ナフィオン”(登録商標)〔ケマーズ(株)製〕、“フレミオン”(登録商標)〔AGC(株)製〕、“ネオセプタ”(登録商標)〔(株)アトムス製〕、“セレミオン”(登録商標)〔AGC(株)製〕、及び、“Sustainion”(登録商標)〔Dioxide Materials社製〕が挙げられる。
【0059】
<アノード電極>
本開示の二酸化炭素電解セルは、アノード電極を有する。
アノード電極は、水を酸化して酸素及び水素イオンを生成させることが可能な材料であれば、特に限定されず、例えば、二酸化炭素電解セルに使用される公知のアノード電極から選択することができる。
【0060】
アノード電極の材料としては、例えば、イリジウム、白金、パラジウム、ニッケル等の金属、これらの金属を含む合金、これらの金属を含む金属間化合物、酸化イリジウム、酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化鉄、酸化スズ、酸化インジウム、酸化ルテニウム等の二元系金属酸化物、Ni-Co-O、Ni-Fe-O、La-Co-O、Ni-La-O、Sr-Fe-O等の三元系金属酸化物、Pb-Ru-Ir-O、La-Sr-Co-O等の四元系金属酸化物、及び、Ru錯体、Fe錯体等の金属錯体が挙げられる。
アノード電極は、例えば、これらの材料を基材上に積層した複合電極であってもよい。
アノード電極には、メッシュ状、ワイヤ状、粒子状、多孔質状、薄膜状、島状等の各種形状を適用することができる。
【実施例
【0061】
以下、実施例により本開示を詳細に説明する。ただし、本開示は、以下の実施例に限定されるものではない。以下の実施例に示される事項は、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更されてもよい。
【0062】
[二酸化炭素還元電極の作製]
<実施例1>
カソードガス拡散層〔商品名:Toray Paper TGP-H-060、撥水率:50%、炭素繊維であるグラファイト繊維からなるカーボンペーパー(CP)、厚さ:190μm、密度:0.44g/cm、東レ(株)製〕を2cm角に切り出した。次いで、アークプラズマ装置〔商品名:アークプラズマ法ナノ粒子形成装置、型式:APD-1S-C、アドバンス理工(株)製〕を用いて、切り出したカソードガス拡散層の片面上に、Cu粒子をアークプラズマ法により蒸着させた。具体的には、切り出したカソードガス拡散層を、イミドテープを用いてアークプラズマ装置内に配置した後、真空中でCuを蒸発させて気化することによりCu粒子を生成させ、生成したCu粒子をカソードガス拡散層の片面上に付着させた。アークプラズマ条件は、電圧を120V、コンデンサ容量を1080μF、放電回数を500回に設定した。以上のようにして、まず、カソードガス拡散層(炭素繊維焼結体)/Cu粒子層の層構成を有する積層体を作製した。
次に、積層体を直径2cmの円形に切り出した。次いで、電析セルを用いて、切り出した積層体のCu粒子層側の面上に、Ag粒子を電析法により付着させた。電析セルは、参照極にAg線、対極にAgメッシュ、電解液に0.01MのAgNO水溶液(pH=2.2)を用いて構成した。電析は、室温(25℃)の環境下、クロノアンペロメトリー(所謂、定電圧法)により実施し、設定電位は、-0.5V(vs. RHE (Reversible Hydrogen Electrode))とした。Agの析出量は、電気量で規定し、電気量が0.14C/cmとなった時点で電圧印加を終了するように設定した。以上のようにして、カソードガス拡散層(炭素繊維焼結体)/カソード触媒層(Cu粒子層/Ag粒子層)の層構成を有する、実施例1の二酸化炭素還元電極を作製した。
【0063】
実施例1の二酸化炭素還元電極が備えるカソード触媒層のAg粒子層側の面を、エネルギー分散型X線分析装置を搭載した走査型電子顕微鏡(SEM-EDS)〔商品名:新型ショットキー電界放出形走査電子顕微鏡 JSM-F100、日本電子(株)製〕を用いて観察したところ、Cu粒子層上の一部に、Ag粒子が付着して層を形成していることが確認された。
実施例1の二酸化炭素還元電極が備えるカソード触媒層のAg粒子層側の面のSEM画像(撮影倍率:6000倍)の一部を図1に示す。
【0064】
また、得られたSEM-EDS画像に基づき、Cu粒子層上に占めるAg粒子層の平面視における面積割合、及び、Cu粒子層の平面視における単位面積当たりの、Ag粒子層の平面視における輪郭長さを、画像解析・編集ソフト〔商品名:Adobe Photoshop、Adobe社製〕を用いて計測したところ、それぞれ61.8%、及び、2.8μm/μmであった。
【0065】
<実施例2>
実施例1と同様の操作を行い、積層体を作製した。
次に、積層体を直径2cmの円形に切り出した。次いで、電析セルを用いて、切り出した積層体のCu粒子層側の面上に、Zn粒子を電析法により付着させた。電析セルは、参照極にAg/AgCl電極、対極にZn線、電解液に0.1MのZnCl水溶液(pH=3.0)を用いて構成した。電析は、室温(25℃)の環境下、クロノアンペロメトリー(所謂、定電圧法)により実施し、設定電位は、-0.5V(vs. RHE (Reversible Hydrogen Electrode))とした。Znの析出量は、電気量で規定し、電気量が0.02C/cmとなった時点で電圧印加を終了するように設定した。以上のようにして、カソードガス拡散層(炭素繊維焼結体)/カソード触媒層(Cu粒子層/Zn粒子層)の層構成を有する、実施例2の二酸化炭素還元電極を作製した。
【0066】
実施例2の二酸化炭素還元電極が備えるカソード触媒層のZn粒子層側の面を、エネルギー分散型X線分析装置を搭載した走査型電子顕微鏡(SEM-EDS)〔商品名:新型ショットキー電界放出形走査電子顕微鏡 JSM-F100、日本電子(株)製〕を用いて観察したところ、Cu粒子層上の一部に、Zn粒子が付着して層を形成していることが確認された。
【0067】
<実施例3>
実施例1と同様の操作を行い、積層体を作製した。
次に、積層体を直径2cmの円形に切り出した。次いで、切り出した積層体のCu粒子層側の面上に、Ag粒子を浸漬イオン交換法により付着させた。イオン交換液には、0.01MのAgNO水溶液(pH=2.2)を用いた。Agの析出量は、浸漬時間で規定した。浸漬は、室温(25℃)の環境下で50秒間実施した。以上のようにして、カソードガス拡散層(炭素繊維焼結体)/カソード触媒層(Cu粒子層/Ag粒子層)の層構成を有する、実施例3の二酸化炭素還元電極を作製した。
【0068】
実施例3の二酸化炭素還元電極が備えるカソード触媒層のAg粒子層側の面を、エネルギー分散型X線分析装置を搭載した走査型電子顕微鏡(SEM-EDS)〔商品名:新型ショットキー電界放出形走査電子顕微鏡 JSM-F100、日本電子(株)製〕を用いて観察したところ、Cu粒子層上の一部に、Ag粒子が付着して層を形成していることが確認された。
【0069】
<比較例1>
実施例1と同様の操作を行い、積層体を作製した。
作製した積層体を、比較例1の二酸化炭素還元電極とした。
【0070】
[評価:メタン選択性]
実施例1、実施例2,実施例3及び比較例1の各二酸化炭素還元電極を用いて、カソード拡散層のメタン選択性の評価を行った。メタン選択性の評価は、ファラデー効率を指標とした。ファラデー効率は、反応した電流のうち、その生成物の反応に使用された電流の割合を示すものである。
まず、二酸化炭素還元電極をガス拡散型ハーフセル(図2参照)に組み込んだ。ハーフセルは、図2に示すように、二酸化炭素還元電極のカソードガス拡散層とは反対側の面に電解液を貯留し、二酸化炭素還元電極のカソードガス拡散層の面側にCOガスを供給できる構造を有している。なお、作用極(WE)にはCu電極、参照極(RE)にはAg/AgCl電極、対極(CE)にはカーボンロッドを用いた。また、電解液には、1MのKHCO水溶液を使用した。なお、KHCO水溶液は、事前にCOガス(純度:99.99%)をバブリングさせた後、pHを7.9に調整してから使用した。
次に、室温(25℃)環境下において、二酸化炭素還元電極のカソードガス拡散層側に、COガス(純度:99.99%)を流量5cc/minで流し、ラインのCOガス置換を行った。次いで、二酸化炭素還元電極のカソードガス拡散層側に、参照極であるAg/AgCl電極を基準として、作用極と参照極との間の電位が-1.4V(vs. RHE)になるように電圧を印加した。電圧の印加を開始し、電流が流れたことを確認した後、1.5分~2分の間、ガスクロマトグラフ〔商品名:Nexis(登録商標) GC-2030、(株)島津製作所製〕の排気ラインに接続した流量計〔商品名:Defender(登録商標) 530+、Mesa Labs社製〕を用いて、生成ガスの流量を測定した。生成ガスの流量を測定した後、流路上のガスクロマトグラフを用いて生成ガスの組成を分析した。ガスクロマトグラフの流路には、常に生成ガスを流通させ、規定の時間毎に流路の切り替え操作を行うことで、カラム〔商品名:MICROPACKED-ST、信和化工(株)製〕に生成ガスを導入し、分析を行った。
生成ガスの流量の測定結果と生成ガスの組成の分析結果とから、メタン(CH)の生成量を算出し、電荷量に換算した。換算により求めた電荷量と実際に流れた電流値の割合とから、メタンの製造効率(所謂、ファラデー効率)を求め、メタン選択性を評価した。
生成ガスの組成及び各成分のファラデー効率を表1に示す。
ファラデー効率(単位:%)の値が大きいほど、二酸化炭素還元電極がメタン選択性の高い二酸化炭素還元電極であると評価できる。
【0071】
【表1】
【0072】
表1に示す結果から、二酸化炭素還元電極は、カソードガス拡散層とカソード触媒層とをこの順に有し、カソード触媒層がCu粒子層とCu粒子層上の一部に設けられた特定金属粒子層との積層体であり、Cu粒子層と特定金属粒子層とをカソードガス拡散層側からこの順に有することで、カソード触媒層がCu粒子層のみである場合と比較して、非常に高いメタン選択性有することが確認された。
【要約】
【課題】高いメタン選択性を有するメタン合成用二酸化炭素還元電極を提供する。
【解決手段】カソードガス拡散層とカソード触媒層とをこの順に有し、上記カソード触媒層は、Cu粒子を含む層と、上記Cu粒子を含む層上の一部に設けられ、かつ、Ag粒子、Zn粒子、Sn粒子及びAl粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属粒子を含む層とを、上記カソードガス拡散層側からこの順に有する、メタン合成用二酸化炭素還元電極及びその製造方法、並びに、メタン合成用二酸化炭素電解セル。
【選択図】なし
図1
図2