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特許7522418シール材形成材料、シール材およびシール材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】シール材形成材料、シール材およびシール材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/10 20060101AFI20240718BHJP
   C08J 11/12 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
C09K3/10 M ZAB
C08J11/12 CEW
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024054594
(22)【出願日】2024-03-28
【審査請求日】2024-05-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000229564
【氏名又は名称】株式会社バルカー
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野口 仁志
(72)【発明者】
【氏名】水門 潤治
(72)【発明者】
【氏名】山根 祥吾
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康正
(72)【発明者】
【氏名】青柳 将
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-500459(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0378562(US,A1)
【文献】特開2009-191174(JP,A)
【文献】特開2002-332380(JP,A)
【文献】特開2008-74967(JP,A)
【文献】国際公開第2003/064131(WO,A1)
【文献】特開2003-26854(JP,A)
【文献】特開平11-322842(JP,A)
【文献】特開平8-169979(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/10-3/12
C08J11/00-11/28
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生パーフルオロ(共)重合体を含むシール材形成材料であって、
前記再生パーフルオロ(共)重合体は、架橋サイトとしてニトリル基を有するパーフルオロ(共)重合体が架橋した架橋パーフルオロ(共)重合体を熱処理することで架橋サイトの少なくとも一部が再生した(共)重合体であり、
前記ニトリル基を有するパーフルオロ(共)重合体が、パーフルオロオレフィンおよびパーフルオロビニルエーテルから選ばれる少なくとも1種由来の構成単位と、ニトリル基を有する構成単位とを含有する、
シール材形成材料。
【請求項2】
前記再生パーフルオロ(共)重合体は、トリアジン構造、オキサゾール構造、アミジン構造およびイミダゾール構造から選ばれる少なくとも1つの架橋構造を有する(共)重合体である、請求項1に記載のシール材形成材料。
【請求項3】
ニトリル基と反応可能な官能基を有する架橋剤をさらに含む、請求項1に記載のシール材形成材料。
【請求項4】
未架橋パーフルオロ(共)重合体をさらに含む、請求項1に記載のシール材形成材料。
【請求項5】
前記再生パーフルオロ(共)重合体の含有量が、未架橋パーフルオロ(共)重合体100質量部に対し、0.5質量部以上である、請求項4に記載のシール材形成材料。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のシール材形成材料を架橋成形してなるシール材。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載のシール材形成材料を架橋する工程を含むシール材の製造方法。
【請求項8】
架橋サイトとしてニトリル基を有するパーフルオロ(共)重合体が架橋した架橋パーフルオロ(共)重合体を熱処理することで架橋サイトの少なくとも一部を再生して再生パーフルオロ(共)重合体を得る工程を含む、請求項7に記載のシール材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール材形成材料、シール材およびシール材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、シール材は、各種用途に幅広く使用されており、これらの用途の中でも、シール材に最も負荷のかかるシール材の用途の一例として、半導体製造装置等に使用されるシール材が挙げられる。
【0003】
このようなシール材としては、耐プラズマ性や耐ラジカル性に優れるシール材を得ることができることから、フルオロエラストマー(FKM)や、パーフルオロエラストマー(FFKM)などの架橋性フルオロエラストマーが使用されており、特に高温や過酷な化学薬品が使用される場合等においては、FFKMが使用されている。
【0004】
前記のような架橋性フルオロエラストマー製のシール材は、通常、該架橋性フルオロエラストマーに、架橋剤や架橋助剤などの添加剤を配合して得られたエラストマー組成物を用い、このエラストマー組成物を成形、架橋することでシール材として使用されている。
【0005】
前記シール材は、一般の成形品と同様に、成形時の屑(バリ)や不良品、使用済の成形品等の処理が必要になることがある。しかしながら、架橋したフルオロエラストマーは、その優れた特性がかえって化学的処理等の妨げとなり、また、燃焼させると腐食性分解物を生じ、サーマルリサイクルも容易ではないことから、これまでは埋め立て等により廃棄していた。
【0006】
しかし、近年、埋め立て量の削減等による環境保護、資源の有効活用等に対する高意識化に伴い、従来廃棄していた架橋フルオロエラストマーを再利用する方法の開発が要求されている。
【0007】
このような架橋フルオロエラストマーを再利用した成形品として、例えば、特許文献1には、架橋された含フッ素ポリマーを、活性水素を有する化合物の超臨界流体または亜臨界流体中で脱架橋し、得られた脱架橋された含フッ素ポリマーを架橋して得られた成形品が開示されている。
また、特許文献2には、架橋した、ヨウ素または臭素含有パーフルオロ重合体の架橋点を分解した処理パーフルオロ重合体を含む封止材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2007-63334号公報
【文献】特許第6134293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、超臨界流体または亜臨界流体を用いる前記特許文献1に記載の方法は、処理が容易ではなく、架橋フルオロエラストマーを簡便に再利用することができないため改良の余地があった。
また、本発明者が鋭意検討した結果、前記特許文献2に記載の封止材は、用いる処理パーフルオロ重合体を得る際に、パーフルオロ重合体の分解が生じ、パーフルオロ重合体の質量が大きく減少することが分かり、さらに、得られる封止材は、圧縮永久ひずみが大きく、耐熱性および耐プラズマ性にも劣ることが分かった。
【0010】
本発明は以上のことに鑑みてなされた発明であり、架橋パーフルオロ(共)重合体を簡便に再利用することができ、圧縮永久ひずみが小さく、耐熱性および耐プラズマ性に優れるシール材を形成することができるシール材形成材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者が、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記構成例によれば、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
本発明の構成例は以下の通りである。
【0012】
[1] 再生パーフルオロ(共)重合体を含むシール材形成材料であって、
前記再生パーフルオロ(共)重合体は、架橋サイトとしてニトリル基を有するパーフルオロ(共)重合体が架橋した架橋パーフルオロ(共)重合体を熱処理することで架橋サイトの少なくとも一部が再生した(共)重合体であり、
前記ニトリル基を有するパーフルオロ(共)重合体が、パーフルオロオレフィンおよびパーフルオロビニルエーテルから選ばれる少なくとも1種由来の構成単位と、ニトリル基を有する構成単位とを含有する、
シール材形成材料。
【0013】
[2] 前記再生パーフルオロ(共)重合体は、トリアジン構造、オキサゾール構造、アミジン構造およびイミダゾール構造から選ばれる少なくとも1つの架橋構造を有する(共)重合体である、[1]に記載のシール材形成材料。
【0014】
[3] ニトリル基と反応可能な官能基を有する架橋剤をさらに含む、[1]または[2]に記載のシール材形成材料。
【0015】
[4] 未架橋パーフルオロ(共)重合体をさらに含む、[1]~[3]のいずれかに記載のシール材形成材料。
[5] 前記再生パーフルオロ(共)重合体の含有量が、未架橋パーフルオロ(共)重合体100質量部に対し、0.5質量部以上である、[4]に記載のシール材形成材料。
【0016】
[6] [1]~[5]のいずれかに記載のシール材形成材料を架橋成形してなるシール材。
【0017】
[7] [1]~[5]のいずれかに記載のシール材形成材料を架橋する工程を含むシール材の製造方法。
【0018】
[8] 架橋サイトとしてニトリル基を有するパーフルオロ(共)重合体が架橋した架橋パーフルオロ(共)重合体を熱処理することで架橋サイトの少なくとも一部を再生して再生パーフルオロ(共)重合体を得る工程を含む、[7]に記載のシール材の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、架橋パーフルオロ(共)重合体を簡便に再利用することができ、圧縮永久ひずみが小さく、耐熱性および耐プラズマ性に優れるシール材を形成することができるシール材形成材料を提供することができる。
また、本発明によれば、所望の物性を有するシール材への成形加工性に優れるシール材形成材料を提供することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
≪シール材形成材料≫
本発明に係るシール材形成材料(以下「本材料」ともいう。)は、架橋サイトとしてニトリル基を有するパーフルオロ(共)重合体が架橋した架橋パーフルオロ(共)重合体を熱処理することで架橋サイトの少なくとも一部が再生した再生パーフルオロ(共)重合体(以下「再生品」ともいう。)を含む。
本材料は、このような再生品を含むため、通常、パーオキサイド系架橋剤を用いて架橋される、架橋サイトとしてハロゲン原子(例:ヨウ素原子または臭素原子)を有するパーフルオロ(共)重合体が架橋した架橋パーフルオロ(共)重合体を熱処理した熱処理品を用いて得られたシール材に比べ、圧縮永久ひずみが小さく、耐熱性および耐プラズマ性に優れるシール材を形成することができ、さらには、該熱処理品を含むシール材形成材料に比べ、シール材を形成する際に用いる各成分の混練性に優れ、所望の物性を有するシール材への成形加工性に優れる。
【0021】
<再生品>
前記再生品は、架橋サイトとしてニトリル基を有するパーフルオロ(共)重合体(以下「未架橋パーフルオロ(共)重合体」ともいう。)が架橋した架橋パーフルオロ(共)重合体(以下「被再生品」ともいう。)を熱処理することで架橋サイトであるニトリル基の少なくとも一部が再生した(共)重合体である。
本材料に用いる再生品は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0022】
前記被再生品としては、例えば、トリアジン構造、オキサゾール構造、アミジン構造およびイミダゾール構造から選ばれる少なくとも1つの架橋構造を有する架橋パーフルオロ(共)重合体が挙げられる。前記被再生品は、1種の架橋構造を有していてもよく、2種以上の架橋構造を有していてもよい。
前記トリアジン構造を有する架橋パーフルオロ(共)重合体としては、下記式(1)の左辺で表される構造を有する(共)重合体が挙げられ、前記オキサゾール構造を有する架橋パーフルオロ(共)重合体としては、下記式(2)の左辺で表される構造を有する(共)重合体が挙げられる。
なお、本明細書において、~-R-C≡Nは、架橋サイトとしてニトリル基を有するパーフルオロ(共)重合体を示す。
【0023】
前記トリアジン構造を有する架橋パーフルオロ(共)重合体を熱処理する際の反応式は、例えば、下記式(1)で表すことができる。また、前記オキサゾール構造を有する架橋パーフルオロ(共)重合体を熱処理する際の反応式は、例えば、下記式(2)で表すことができる。
【0024】
【化1】
【0025】
【化2】
[式(2)中、Xは、オキサゾール系架橋剤由来の構造であり、例えば、ヘキサフルオロプロパン-2,2-ジイル基、スルホニル基、9,9-フルオレニルが挙げられる。]
【0026】
前記再生品は、被再生品を熱処理することで、架橋サイトであるニトリル基が再生した、架橋サイトとしてニトリル基を有するパーフルオロ(共)重合体である。
このように、ニトリル基を有するパーフルオロ(共)重合体→架橋→ニトリル基を有するパーフルオロ(共)重合体となるため、ニトリル基を有するパーフルオロ(共)重合体では、このサイクルを複数回(リサイクルを複数回)行うことができる。
【0027】
一方、架橋サイトとしてハロゲン原子(例:ヨウ素原子または臭素原子)を有するパーフルオロ(共)重合体は、通常、パーオキサイド系架橋剤を用いて架橋される。このような架橋サイトとしてハロゲン原子を有するパーフルオロ(共)重合体が架橋した架橋パーフルオロ(共)重合体を熱処理すると、架橋構造が「分解」され、C=C結合やカルボキシル基が生じ、このC=C結合やカルボキシル基が、再架橋する際の架橋サイトとなる。
【0028】
つまり、架橋サイトとしてニトリル基を有するパーフルオロ(共)重合体は、下記式(3)や(4)のように、架橋サイトであるニトリル基が反応して架橋パーフルオロ(共)重合体を形成し、熱処理により、該架橋サイトであるニトリル基が「再生」するのに対し、架橋サイトとしてハロゲン原子を有するパーフルオロ(共)重合体は、架橋サイトであるハロゲン原子が反応して架橋パーフルオロ(共)重合体を形成し、熱処理により、架橋構造が「分解」して、C=C結合やカルボキシル基が生じるのであり、架橋サイトであるハロゲン原子は再生しない。従って、「架橋サイトとしてニトリル基を有するパーフルオロ(共)重合体」と、「架橋サイトとしてハロゲン原子を有するパーフルオロ(共)重合体」とでは、架橋サイトが再生するメカニズムが全く異なり、また、再生品を用いて得られるシール材において、耐熱性や圧縮永久ひずみに関する効果が異なる。
【0029】
前記再生品は、被再生品の架橋サイトの全てが再生した(共)重合体ではないことが好ましい。つまり、前記再生品は、その少なくとも一部に、架橋構造を有していることが好ましく、前記トリアジン構造、オキサゾール構造、アミジン構造およびイミダゾール構造から選ばれる少なくとも1種の架橋構造を有していることがより好ましい。
【0030】
前記再生品中のニトリル基の含有量は、前記被再生品中のニトリル基の含有量を100%とした場合に、好ましくは101%以上、より好ましくは200%以上であり、上限は特に制限されないが、被再生品が架橋する前の未架橋パーフルオロ(共)重合体が有していたニトリル基の含有量以下の量であり、具体的には15000%以下、より好ましくは7000%以下である。
ニトリル基の含有量が前記範囲にある再生品を用いることで、圧縮永久ひずみがより小さいシール材を容易に形成することができる。
前記ニトリル基の含有量は、FT-IRを用い、具体的には下記実施例に記載の方法で測定することができる。
【0031】
また、得られた再生品を用いて所望の物性を有するシール材を容易に形成することができる等の点から、前記熱処理による質量減少率、具体的には、下記式(A)で表される質量減少率は、好ましくは10%以下、より好ましくは3%以下である。
質量減少率(%)=[(被再生品の質量-再生品の質量)/被再生品の質量]×100 ・・・(A)
【0032】
前記再生品の使用量は、環境保護および資源の有効活用の点、ならびに、所望の物性を有するシール材を容易に形成することができる点のバランスを考慮すると、本材料100質量%に対し、好ましくは0.5~100質量%、より好ましくは1~90質量%、さらに好ましくは10~80質量%である。
また、本材料に未架橋パーフルオロ(共)重合体を用いる場合、前記再生品の使用量は、所望の物性を有するシール材を容易に形成することができる等の点から、未架橋パーフルオロ(共)重合体100質量部に対し、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは0.5~100質量部、さらに好ましくは1~90質量部、特に好ましくは10~80質量部である。
【0033】
〈被再生品〉
前記被再生品は、架橋サイトとしてニトリル基を有するパーフルオロ(共)重合体が架橋した架橋パーフルオロ(共)重合体であって、例えば、従来の未架橋パーフルオロ(共)重合体(バージン品)を用いて形成されたシール材などの(未使用)成形体、その成形体の製造時に生じた屑(バリ)や不良品、使用済の成形体などに含まれる架橋パーフルオロ(共)重合体が挙げられる。
前記使用済み成形体としては、半導体製造装置で使用された使用済み成形体だけでなく、化学プラント、各種産業機器などで使用された使用済み成形体等も挙げられる。
前記熱処理に供される原料としては、前記架橋パーフルオロ(共)重合体自体を用いてもよく、前記(未使用)成形体、前記屑(バリ)や不良品、前記使用済の成形体を用いてもよい。
【0034】
前記被再生品における架橋パーフルオロ(共)重合体は、下記未架橋パーフルオロ(共)重合体(バージン品)を従来公知の方法で架橋した架橋体である。
前記従来公知の方法としては、架橋剤を用いた架橋が挙げられ、該架橋剤としては、例えば、トリアジン系架橋剤、オキサゾール系架橋剤、イミダゾール系架橋剤が挙げられる。つまり、前記被再生品としては、これらの架橋剤に由来する架橋構造、具体的には、トリアジン構造、オキサゾール構造、イミダゾール構造およびこれらの架橋構造を形成する際の中間体構造(例:オキサゾール構造を形成する際のアミジン構造)から選ばれる少なくとも1種の架橋構造を有する架橋パーフルオロ(共)重合体が挙げられる。
なお、前記被再生品における架橋の程度は特に制限されず、シール材などの成形体を形成する際と同程度の架橋の程度であればよい。
【0035】
前記トリアジン系架橋剤を用いた架橋(トリアジン構造)は、例えば、下記式(3)で表すことができ、前記オキサゾール系架橋剤を用いた架橋(オキサゾール構造)は、例えば、下記式(4)で表すことができる。
また、前記オキサゾール系架橋剤を用いた架橋構造としては、下記式(4)において最終的に得られるオキサゾール構造の他に、その中間体構造であるアミジン構造であってもよい。
【0036】
【化3】
【0037】
【化4】
[式(4)中、Xは、オキサゾール系架橋剤由来の構造であり、例えば、ヘキサフルオロプロパン-2,2-ジイル基、スルホニル基、9,9-フルオレニルが挙げられる。]
【0038】
[未架橋パーフルオロ(共)重合体]
前記未架橋パーフルオロ(共)重合体は、パーフルオロオレフィンおよびパーフルオロビニルエーテルから選ばれる少なくとも1種由来の構成単位と、ニトリル基を有する構成単位とを含有する。
前記未架橋パーフルオロ(共)重合体は、架橋前の、架橋サイトであるニトリル基を有するパーフルオロ(共)重合体であり、「バージン品」ということもできる。
【0039】
前記未架橋パーフルオロ(共)重合体としては、パーフルオロエラストマー(FFKM)が好ましい。
また、前記未架橋パーフルオロ(共)重合体としては、該(共)重合体の主鎖に炭素-水素結合を含まない(共)重合体であることが好ましい。
前記パーフルオロオレフィンとしては、テトラフルオロエチレンが好ましい。
【0040】
前記FFKMとしては特に制限されないが、架橋サイトとしてニトリル基を有するテトラフルオロエチレン(TFE)-パーフルオロビニルエーテル系共重合体が挙げられ、TFE由来の構成単位と、パーフルオロビニルエーテル由来の構成単位とを含み、さらに必要によりニトリル基含有モノマー由来の構成単位を含む共重合体が好ましい。
【0041】
前記パーフルオロビニルエーテルの好適例としては、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、パーフルオロ(アルコキシアルキルビニルエーテル)が挙げられる。
【0042】
前記パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)としては、該アルキル基の炭素数が、例えば、1~10である化合物が挙げられ、具体的には、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)等が挙げられ、好ましくはパーフルオロ(メチルビニルエーテル)である。
【0043】
前記パーフルオロ(アルコキシアルキルビニルエーテル)としては、ビニルエーテル基(CF2=CFO-)に結合する基の炭素数が、例えば、3~15である化合物が挙げられ、具体例としては、以下の化合物が挙げられる。
CF2=CFOCF2CF(CF3)OCn2n+1
CF2=CFO(CF23OCn2n+1
CF2=CFOCF2CF(CF3)O(CF2O)mn2n+1
CF2=CFO(CF22OCn2n+1
これらの式において、nはそれぞれ独立に、例えば1~5であり、mは、例えば1~3である。
【0044】
前記ニトリル基含有モノマーとしては、例えば、ニトリル基含有パーフルオロビニルエーテルが挙げられ、具体例としては、以下の化合物が挙げられる。
CF2=CFO(CF2nOCF(CF3)CN(nは、例えば2~4)
CF2=CFO(CF2nCN(nは、例えば2~12)
CF2=CFO[CF2CF(CF3)O]m(CF2nCN(nは、例えば1~4、mは、例えば1~5)
CF2=CFO[CF2CF(CF3)O]nCF2CF(CF3)CN(nは、例えば0~4)
CF2=CF(CF2nCN(nは、例えば1~8の整数)
CF2=CFCF2(OCF2nCN(nは、例えば0~5の整数)
CF2=CFCF2(OCF(CF3)CF2m-CN(mは、例えば0~5の整数、nは、例えば0~5の整数)
CF2=CF(OCF2CF(CF3))mO(CF2n-CN(mは、例えば0~5の整数、nは、例えば1~8の整数)
CF2=CF(OCF2CF(CF3))m-CN(mは、例えば1~5の整数)
CF2=CFOCF2(CF(CF3)OCF2nCF(-CN)CF3(nは、例えば1~4の整数)
CF2=CFO(CF2nOCF(CF3)-CN(nは、例えば2~5の整数)
CF2=CF(OCF2CF(CF3))nOCF2CF(CF3)-CN(nは、例えば1~2の整数)
CF2=CFO(CF2CF(CF3)O)m(CF2n-CN(mは、例えば0~5の整数、nは、例えば1~3の整数)
CF2=CFO(CF2CF(CF3)O)mCF2CF(CF3)-CN(mは0以上の整数)
CF2=CFOCF(CF3)CF2O(CF2n-CN(nは1以上の整数)
CF2=CFOCF2OCF2CF(CF3)OCF2-CN
【0045】
FFKMにおける、TFE由来の構成単位の含有量は、好ましくは50.0~79.9モル%、パーフルオロビニルエーテル由来の構成単位の含有量は、好ましくは20.0~46.9モル%、ニトリル基含有モノマー由来の構成単位の含有量は、好ましくは0.1~2.0モル%である。
【0046】
〈熱処理条件等〉
前記熱処理としては、被再生品に架橋サイトであるニトリル基が再生するような熱処理であれば特に制限されない。
前記熱処理は、酸素を含むガス雰囲気下で行ってもよく、不活性ガス雰囲気下で行ってもよいが、被再生品から再生品を得る際に、被再生品の分解等を抑制することができ、パーフルオロ(共)重合体の質量減少を抑制することができ、さらに、架橋サイトであるニトリル基の再生量が多い再生品を容易に得ることができる等の点から、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0047】
前記酸素を含むガスとしては、例えば、酸素の含有量が、全体に対し、好ましくは5体積%以上であるガスが挙げられ、具体例としては空気が挙げられる。
前記不活性ガスの具体例としては、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスが挙げられ、これらの中でも窒素ガスが好ましい。
前記不活性ガスは、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
前記不活性ガスは、本発明の効果がより発揮される等の点から、酸素が含まれていないガスであるか、酸素を少量含むガスであることが好ましい。
該酸素を少量含むガスとしては、酸素の含有量が多いと被再生品の熱分解が進行しやすいため、酸素の含有量が、全体に対し、好ましくは5体積%未満、より好ましくは3体積%以下、さらに好ましくは1体積%以下であるガスであることが望ましい。
【0048】
前記熱処理の際の温度および時間としては、被再生品に架橋サイトであるニトリル基が再生するような温度および時間であれば特に制限されない。
前記熱処理の際の温度としては、通常、前記未架橋パーフルオロ(共)重合体(バージン品)を従来公知の方法で架橋する際の温度を超える温度であり、好ましくは300~400℃、より好ましくは320~390℃、さらに好ましくは350~380℃である。
前記熱処理の際の時間としては、熱処理温度にもよるが、好ましくは30分~5時間、より好ましくは1~3時間である。
前記熱処理の際の圧力は特に制限されないが、常圧下で行なうことが好ましい。
【0049】
<その他の成分>
本材料は、前記再生品を含めば特に制限されず、実質的に前記再生品のみからなる材料であってもよいが、必要に応じて、シール材等の成形体に配合されてきた従来公知のその他の成分を含んでいてもよい。
該その他の成分としては、例えば、未架橋パーフルオロ(共)重合体(バージン品);架橋剤;架橋助剤;エチレン性不飽和結合含有化合物;分子中に2個以上のヒドロシリル基を有する反応性有機珪素化合物;パーフルオロポリエーテル;フッ素オイルなどの非粘着剤;触媒;ポリオール系化合物;前記パーフルオロ(共)重合体以外の(共)重合体(例:フッ素樹脂);酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等の受酸剤;アントラキノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサジン系顔料等の有機顔料;加工助剤;加硫促進剤;老化防止剤;酸化防止剤;無機充填材;有機充填材;が挙げられる。
前記その他の成分はそれぞれ、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0050】
〈未架橋パーフルオロ(共)重合体〉
本材料には、成形加工性に優れる本材料を容易に得ることができ、所望の物性(硬度、引張強さ、破断時伸び、圧縮永久ひずみおよび耐プラズマ性)を有するシール材を容易に形成することができる等の点から、未架橋パーフルオロ(共)重合体(バージン品)を用いることが好ましい。
前記未架橋パーフルオロ(共)重合体としては、前記被再生品の欄に記載の未架橋パーフルオロ(共)重合体と同様の(共)重合体が挙げられる。
なお、前記未架橋パーフルオロ(共)重合体としては、ニトリル基以外の架橋サイトを有するパーフルオロ(共)重合体を用いてもよいが、ニトリル基を有するパーフルオロ(共)重合体を用いることが好ましい。
【0051】
本材料に未架橋パーフルオロ(共)重合体を用いる場合、該未架橋パーフルオロ(共)重合体の使用量は、所望の物性を有するシール材を容易に形成することができる等の点から、本材料100質量%に対し、好ましくは0.5~99.5質量%、より好ましくは1~90質量%、さらに好ましくは10~80質量%である。
【0052】
〈架橋剤〉
本材料は、架橋剤を用いなくても架橋させることはできるが、十分に架橋し、硬度、引張強さ、切断時伸び、および、100%伸びにおける引張応力(100%Mo)にバランスよく優れるシール材を容易に形成することができる等の点から、本材料には、用いる前記再生品や未架橋パーフルオロ(共)重合体の種類に応じた架橋剤を用いることが好ましく、ニトリル基と反応可能な官能基を有する架橋剤を用いることがより好ましい。
【0053】
前記ニトリル基と反応可能な官能基を有する架橋剤としては、例えば、特許第5278312号公報に記載の架橋剤などの従来より公知の架橋剤を特に制限なく使用することができ、具体例としては、トリアジン系架橋剤、オキサゾール系架橋剤、イミダゾール架橋剤、チアゾール架橋剤、アミドキシム系架橋剤、アミドラゾン系架橋剤が挙げられる。これらの中でも、トリアジン系架橋剤、オキサゾール系架橋剤、イミダゾール架橋剤が好ましい。
【0054】
トリアジン系架橋剤としては、例えば、2,4,6-トリメルカプト-1,3,5-トリアジン、2-ヘキシルアミノ-4,6-ジメルカプトトリアジン、2-ジエチルアミノ-4,6-ジメルカプトトリアジン、2-シクロヘキシルアミノ-4,6-ジメルカプトトリアジン、2-ジブチルアミノ-4,6-ジメルカプトトリアジン、2-アニリノ-4,6-ジメルカプトトリアジン、2-フェニルアミノ-4,6-ジメルカプトトリアジンが挙げられる。
また、トリアジン架橋剤としては、テトラフェニルスズ、トリフェニルスズ等の有機スズ化合物のように、前記再生品や未架橋パーフルオロ(共)重合体に含まれるニトリル基のみでトリアジン環を形成する触媒となり得る化合物であってもよい。
【0055】
オキサゾール系架橋剤としては、例えば、ニトリル基と反応し、オキサゾール環またはアミジン構造を形成し、架橋物を与える架橋剤が挙げられ、具体例としては、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(BOAP)、4,4’-スルホニルビス(2-アミノフェノール)、9,9-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)フルオレンが挙げられる。
【0056】
イミダゾール架橋剤としては、ニトリル基と反応し、イミダゾール環を形成し、架橋物を与える架橋剤が挙げられ、具体例としては、2,2-ビス(3,4-ジアミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス[3-アミノ-4-(N-メチルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス[3-アミノ-4-(N-エチルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス[3-アミノ-4-(N-プロピルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス[3-アミノ-4-(N-フェニルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス[3-アミノ-4-(N-パーフルオロフェニルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス[3-アミノ-4-(N-ベンジルアミノ)フェニル]ヘキサフルオロプロパンが挙げられる。
【0057】
本材料に架橋剤を用いる場合、該架橋剤の使用量は、架橋反応が十分に進行し、硬度、引張強さ、切断時伸び、および、100%Moにバランスよく優れるシール材を容易に形成することができる等の点から、前記再生品および未架橋パーフルオロ(共)重合体の合計100質量部に対して、好ましくは0.2~4質量部、より好ましくは0.2~2.5質量部である。
【0058】
〈エチレン性不飽和結合含有化合物〉
前記エチレン性不飽和結合含有化合物としては、例えば、国際公開第2022/065054号、特開2003-183402号公報、特開平11-116684号公報等に記載の化合物が挙げられる。
【0059】
〈反応性有機珪素化合物〉
前記反応性有機珪素化合物としては、例えば、特開2003-183402号公報、特開平11-116684号公報等に記載の有機ケイ素化合物と同様の化合物が挙げられる。
【0060】
〈触媒〉
前記触媒としては、例えば、特開2003-183402号公報、特開平11-116684号公報等に記載の触媒と同様の触媒が挙げられる。
【0061】
〈有機顔料〉
前記有機顔料としては、例えば、国際公開第2016/043100号、特許第4720501号公報、国際公開第2004/094527号、特許第5278312号公報等に記載の有機顔料と同様の有機顔料が挙げられる。
【0062】
〈充填材〉
前記無機充填材としては、例えば、カーボンブラック、シリカ、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化アルミニウムなどの粒子状(粉末状)の無機材料が挙げられる。
前記有機充填材としては、例えば、PTFE、PFA、FEP、ETFE、PVDF等のフッ素樹脂、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、シリコーン樹脂、メラミン樹脂などの粒子状(粉末状)の有機材料が挙げられる。
【0063】
<本材料の調製方法>
本材料は、前記再生品と、必要により前記その他の成分とを混合(混練)することで調製することができる。
前記再生品と、前記その他の成分とを混合する場合、その混合順は特に制限されず、任意の順番で順次混合(混練)してもよく、これらを一括混合(混練)してもよいが、各成分が均一になるように、順次混合(混練)することが好ましい。
【0064】
前記混合(混練)の際には、従来公知の混合(混練)機を用いることができ、例えば、オープンロール、バンバリーミキサー、二軸ロール、ニーダーが挙げられる。
また、前記混合(混練)の際には、混合(混練)機に応じて、必要により、加熱下または冷却下で混合(混練)してもよい。
【0065】
≪シール材≫
本発明に係るシール材(以下「本シール材」ともいう。)は、前記本材料を架橋成形してなる、本材料の架橋体である。
本シール材は、再生パーフルオロ(共)重合体を用いるにもかかわらず、バージン品(未架橋パーフルオロ(共)重合体)を用いた場合と同程度の物性(硬度、引張強さ、破断時伸び、圧縮永久ひずみおよび耐プラズマ性)を有するシール材となり、特に、圧縮永久ひずみが小さく、耐熱性および耐プラズマ性に優れるシール材となる。
【0066】
本シール材の下記実施例に記載の方法で測定された引張強さは、好ましくは7MPa以上、より好ましくは8MPa以上である。
本シール材の下記実施例に記載の方法で測定された切断時伸びは、好ましくは120%以上、より好ましくは130%以上である。
本シール材のJIS K 6262:2013に基づいて測定された圧縮永久ひずみ(200℃×72時間、圧縮率25%)は、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下であり、その下限は特に制限されないが、例えば0%である。
本シール材のJIS K 6262:2013に基づいて測定された圧縮永久ひずみ(260℃×72時間、圧縮率20%)は、好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下であり、その下限は特に制限されないが、例えば0%である。
本シール材の下記実施例に記載の方法で測定された質量減少率は、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下であり、その下限は特に制限されないが、例えば0%である。
【0067】
本シール材は特に制限されないが、例えば、種々の部材のガスケットやパッキンとして使用することができ、特に、半導体製造装置用シール材や、プラズマ処理装置用シール材、特に、プラズマ処理チャンバーユニットの開口部に使用されるゲートバルブをはじめとした駆動部用シール材として好適に使用することができる。
本シール材としては、例えば、O-リング、角-リング、ガスケット、パッキン、オイルシール、ベアリングシール、リップシールが挙げられる。
本シール材の形状等は、用いる用途に応じて適宜選択すればよい。
【0068】
なお、前記半導体製造装置は、特に半導体を製造するための装置に限られるものではなく、広く、液晶パネルやプラズマパネル等を製造するための装置など、高度なクリーン度が要求される半導体分野において用いられる製造装置全般を含み、具体例としては、特許第5278312号公報等に記載の装置が挙げられる。
【0069】
≪シール材の製造方法≫
本発明に係るシール材の製造方法(以下「本シール材の製法」ともいう。)は、前記本材料を架橋する工程Iを含む。
【0070】
本材料からシール材を形成する際には、成形作業の効率を向上させるためや、不良率を低減するためなどの点から、分出し工程を行うことが好ましい。この分出し工程は、通常、ロールなどを使用して行われ、通常、本材料をシート状に予備的に成形する工程でもある。
【0071】
前記分出し工程で得られたシートは、前記架橋工程の前に、所望のシール材の形状に予備成形することが好ましい。
この予備成形は、分出し工程で得られたシートから直接所望のシール材形状を形成してもよく、分出し工程で得られたシートを、裁断や押出成形等により、ロープ状(リボン状、うどん状等も同義である。)等の形状にし、得られたロープ状物を所望のシール材形状にしてもよい。
【0072】
<工程I>
前記工程Iは、一次架橋工程および二次架橋工程を含むことがより好ましい。
前記工程Iは、前記予備成形で得られた所望のシール材形状の予備成形体を用いて行うことが好ましい。
【0073】
前記一次架橋工程としては、前記予備成形で得られた所望のシール材形状の予備成形体を加熱加圧する工程であることが好ましく、具体例としては、前記予備成形体を金型に投入し、加熱プレス機等によって2~15MPa程度の加圧下、例えば150~200℃の温度で、例えば5分~1時間程度架橋する工程が挙げられる。
【0074】
前記二次架橋工程としては、前記一次架橋工程で得られた成形体を加熱する工程であることが好ましく、具体的には、常圧~減圧下で各種オーブン、好ましくは真空オーブンを用いて、例えば150~300℃の温度で、1~48時間、より好ましくは3~24時間程度加熱する工程が挙げられる。
この二次架橋工程により、架橋を促進させたり、前記一次架橋工程後に未反応成分が残存していたとしても、該未反応成分を分解揮散させることができ、より放出ガス発生の少ないシール材を形成することができる。
【0075】
本シール材の製法では、プラズマ雰囲気下等において、シール材に生じ得るクラックをより容易に抑制できる等の点から、前記架橋工程の後、放射線を照射する工程(放射線照射工程)を行ってもよい。この放射線照射工程を経て得られるシール材は、放射線処理物であるといえる。
【0076】
前記放射線照射工程において照射する放射線としては特に制限されないが、例えば、X線、ガンマ線、電子線、陽子線、中性子線、重粒子線、アルファー線、ベータ線が挙げられ、これらの中でも、ガンマ線、電子線が好ましい。
照射する放射線は、1種単独でもよく、2種以上でもよい。
【0077】
放射線を照射する際には、吸収線量が、好ましくは1~120kGy、より好ましくは20~100kGyとなるように放射線を照射することが望ましい。このような量で放射線を照射すると、パーティクルや放出ガスとなり得る未反応成分を低減することができ、前記再生品および未架橋パーフルオロ(共)重合体を過度に低分子量化せず、耐プラズマ性、耐クラック性等に優れるシール材を容易に形成することができる。
なお、前記放射線照射工程は、条件を変更して、2段階以上に分けて行ってもよい。
【0078】
放射線を照射する際には、空気中で照射してもよいが、放射線照射時に酸素が存在すると、架橋反応が阻害され、得られるシール材の機械的強度の低下や、得られるシール材の表面にベタツキが生じる恐れがある。このため、前記放射線照射工程は、窒素やアルゴンなどの不活性ガスの雰囲気下で行なうことが好ましい。
【0079】
<工程II>
本シール材の製法は、架橋サイトとしてニトリル基を有するパーフルオロ(共)重合体が架橋した架橋パーフルオロ(共)重合体(被処理品)を熱処理することで架橋サイトの少なくとも一部を再生して再生パーフルオロ(共)重合体(再生品)を得る工程IIを、前記工程Iおよび前記分出し工程の前に含むことが好ましい。
該工程IIで用いる被処理品、該工程IIで得られる再生品、および、該工程IIにおける熱処理条件等は、前記シール材形成材料の欄に記載した通りである。
【実施例
【0080】
次に、本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されない。
【0081】
<未架橋パーフルオロ(共)重合体(バージン品)>
下記実施例および比較例で用いた未架橋パーフルオロ(共)重合体(バージン品)は、以下の通りである。
・「未架橋パーフルオロ(共)重合体-1」:PFE131T(3M社製、架橋サイトがニトリル基であるパーフルオロ(共)重合体)
・「未架橋パーフルオロ(共)重合体-c1」:テクノフロンPFR94(Solvay社製、架橋サイトがハロゲン原子であるパーフルオロ(共)重合体)
【0082】
<架橋パーフルオロ(共)重合体(被再生品)>
下記作製例で用いた架橋パーフルオロ(共)重合体(被再生品)は、以下の通りである。
・「架橋パーフルオロ(共)重合体-1」:パーフルオロエラストマー(PFE131T[3M社製])100質量部と、オキサゾール系架橋剤(BOAP、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、東京化成工業(株)製)0.5質量部とを、オープンロールで混練後、得られた塊状のエラストマー組成物を、Oリング形状の金型に充填し、圧縮真空プレス機を用い、5MPaの加圧下、180℃で30分間プレス成形(一次架橋)し、次いで、プレス成形後のシートを、オーブン中、250℃で24時間加熱(二次架橋)することで製造された成形体(Oリング)(未使用または使用済み成形体に相当)。
・「架橋パーフルオロ(共)重合体-2」:「架橋パーフルオロ(共)重合体-1」の製造過程において、金型で一次架橋させた際に、金型の合わせ目からはみ出した一次架橋された成形体(バリ)。
・「架橋パーフルオロ(共)重合体-c1」:パーフルオロエラストマー(テクノフロンPFR94[Solvay社製])100質量部と、TAIC(三菱ケミカル(株)製、トリアリルイソシアヌレート)1質量部と、パーヘキサ25B(日油(株)製)0.5質量部とをオープンロールで混練後、得られた塊状のエラストマー組成物を、Oリング形状の金型に充填し、圧縮真空プレス機を用い、5MPaの加圧下、170℃で10分間プレス成形(一次架橋)し、次いで、プレス成形後のシートを、オーブン中、200℃で4時間加熱(二次架橋)することで製造された成形体(Oリング)(未使用または使用済み成形体に相当)。
【0083】
[作製例1]
架橋パーフルオロ(共)重合体-1(被再生品)を、ヤマト科学(株)製のKDF-75Plusに入れ、窒素雰囲気下、380℃、1気圧で1時間熱処理することで、再生パーフルオロ(共)重合体-1(再生品)を得た。
【0084】
<架橋サイトの含有量>
FT-IR(ブルカー社製、HYPERION3000)を用いて、分解能:4cm-1、スキャン数:32回、透過法、測定範囲:400~4000cm-1の条件で、前記架橋パーフルオロ(共)重合体-1(被再生品)および再生パーフルオロ(共)重合体-1(再生品)中の架橋サイトの含有量を測定した。
具体的には、2230-2290cm-1の強度を結んでベースラインとした時の最大強度を、2200-2700cm-1の強度を結んでベースラインとした時の2500cm-1における強度で割った値を架橋サイト(ニトリル基)の含有量とした。但し、この計算結果(架橋サイト(ニトリル基)の含有量)が、0.01を下回った場合には、架橋サイト(ニトリル基)の含有量は、0.01とした。
【0085】
前記架橋パーフルオロ(共)重合体-1(被再生品)中の架橋サイト(ニトリル基)の含有量は、0.1であり、前記再生パーフルオロ(共)重合体-1(再生品)中の架橋サイト(ニトリル基)の含有量は、0.35であった。
【0086】
<質量減少率>
前記架橋パーフルオロ(共)重合体-1(被再生品)の質量を測定し、また、得られた再生パーフルオロ(共)重合体-1(再生品)の質量を測定し、下記式(A)により、質量減少率(%)を求めた。質量減少率は、0.6%であった。
質量減少率(%)=[(被再生品の質量-再生品の質量)/被再生品の質量]×100 ・・・(A)
【0087】
[作製例2]
作製例1において、窒素雰囲気下の代わりに、空気中で熱処理した以外は、作製例1と同様にして、再生パーフルオロ(共)重合体-2(再生品)を得た。
作製例1と同様にして、前記再生パーフルオロ(共)重合体-2(再生品)中の架橋サイト(ニトリル基)の含有量を測定したところ、0.22であった。
また、作製例1と同様にして、質量減少率を測定したところ、2.3%であった。
【0088】
[作製例3]
作製例1において、架橋パーフルオロ(共)重合体-1の代わりに架橋パーフルオロ(共)重合体-2(被再生品)を用いた以外は作製例1と同様にして、再生パーフルオロ(共)重合体-3(再生品)を得た。
作製例1と同様にして、前記架橋パーフルオロ(共)重合体-2(被再生品)中の架橋サイト(ニトリル基)の含有量を測定したところ、0.01であり、前記再生パーフルオロ(共)重合体-3(再生品)中の架橋サイト(ニトリル基)の含有量を測定したところ、0.6であった。
また、作製例1と同様にして、質量減少率を測定したところ、2.3%であった。
【0089】
[作製例4]
作製例3において、窒素雰囲気下の代わりに、空気中で熱処理した以外は、作製例3と同様にして、再生パーフルオロ(共)重合体-4(再生品)を得た。
作製例1と同様にして、前記再生パーフルオロ(共)重合体-4(再生品)中の架橋サイト(ニトリル基)の含有量を測定したところ、0.61であった。
また、作製例1と同様にして、質量減少率を測定したところ、4.1%であった。
【0090】
[作製例5]
作製例1において、架橋パーフルオロ(共)重合体-1の代わりに架橋パーフルオロ(共)重合体-c1(被再生品)を用いた以外は作製例1と同様にして、再生パーフルオロ(共)重合体-c1(再生品)を得た。
作製例1と同様にして、質量減少率を測定したところ、0.9%であった。
【0091】
[作製例6]
作製例5において、窒素雰囲気下の代わりに、空気中で熱処理した以外は、作製例5と同様にして、再生パーフルオロ(共)重合体-c2(再生品)を得た。
作製例1と同様にして、質量減少率を測定したところ、2.4%であった。
【0092】
[実施例1]
60質量部の未架橋パーフルオロ(共)重合体-1(バージン品)と、40質量部の再生パーフルオロ(共)重合体-1(再生品)と、0.5質量部のオキサゾール系架橋剤(BOAP、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、東京化成工業(株)製)とを、オープンロールで混練することで塊状のエラストマー組成物を得た。
得られた塊状のエラストマー組成物を、ロール(ロール間隔:8mm、温度:50℃)を用いて、分出し工程(シート化工程)を行った。
前記分出し工程で得られたシートを、圧縮真空プレス機を用い、5MPaの加圧下、180℃で30分間プレス成形(一次架橋)し、次いで、プレス成形後のシートを、オーブン中、250℃で24時間加熱(二次架橋)することで成形体(Oリング)を得た。
【0093】
[実施例2~4および比較例1]
実施例1において、未架橋パーフルオロ(共)重合体および再生パーフルオロ(共)重合体として、表1に記載の種類および量(数値、質量部)の(共)重合体を用いた以外は、実施例1と同様にして、成形体を得た。
【0094】
[比較例2]
60質量部の未架橋パーフルオロ(共)重合体-c1(バージン品)と、40質量部の再生パーフルオロ(共)重合体-c1(再生品)と、10質量部のPTFE粒子(ルブロンL5(ダイキン工業(株)製))と、0.5質量部のパーヘキサ25B(日油(株)製)と、1質量部のTAIC(トリアリルイソシアヌレート、三菱ケミカル(株)製)とを、オープンロールで混練することで塊状のエラストマー組成物を得た。
得られた塊状のエラストマー組成物を、Oリング形状の金型に充填し、圧縮真空プレス機を用い、5MPaの加圧下、170℃で10分間プレス成形(一次架橋)し、次いで、プレス成形後のシートを、オーブン中、200℃で4時間加熱(二次架橋)することで成形体(Oリング)を得た。
【0095】
[比較例3~4]
比較例2において、未架橋パーフルオロ(共)重合体および再生パーフルオロ(共)重合体として、表1に記載の種類および量(数値、質量部)の(共)重合体を用いた以外は、比較例2と同様にして、成形体を得た。
【0096】
<引張強さおよび切断時伸び>
得られた成形体(Oリング)を、500mm/分で引張し、23℃において、引張強さおよび切断時伸びを、ショッパー式引張試験機を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0097】
<圧縮永久ひずみ>
JIS K 6262:2013に準拠してシール材の圧縮永久ひずみを求めた。
得られた成形体を、200℃×72時間、圧縮率25%で保持した後、圧力を解放し、試験室の標準温度で30分間放冷した後に、成形体の厚みを測定した。
また、得られた成形体を、260℃×72時間、圧縮率20%で保持した後、圧力を解放し、試験室の標準温度で30分間放冷した後に、成形体の厚みを測定した。
圧縮永久ひずみ率(Compression Set、CS)は下記式に基づいて算出した。結果を表1に示す。
圧縮永久ひずみ率(%)={(h0-h1)/(h0-h2)}×100
[h0:圧縮する前の成形体の厚み(mm)、h1:30分間放冷後の成形体の厚み(mm)、h2:スペーサーの厚み(高さ)(mm)]
【0098】
<質量減少率(耐プラズマ性)>
得られた成形体について、耐プラズマ性(質量減少率)を測定した。具体的には以下の通り測定した。結果を表1に示す。
下記条件で、リモートプラズマによってNF3から発生させたフッ素ラジカルに、得られた成形体(Oリング)を暴露させる、フッ素ラジカル暴露試験を行った。試験前後の成形体(Oリング)の質量を測定し、下記式に従って質量減少率を求めることで、耐プラズマ性を評価した。質量減少率が小さいほど耐プラズマ性に優れるといえる。
質量減少率(%)={(試験前の質量-試験後の質量)/(試験前の質量)}×100
【0099】
(条件)
・プラズマソース(プラズマ源):リモートプラズマソース
・プラズマ出力:5000W
・ガス流量:NF3;1.5SLM、アルゴン;1.5SLM
・真空度:7torr
・試験温度:250℃
・試験時間:5時間
【0100】
【表1】
【0101】
実施例1~4では、バージン品のみを用いた比較例1と同様の物性を有する成形体を得ることができ、比較例2~4に比べ圧縮永久ひずみが小さく、耐熱性および耐プラズマ性に優れる(質量減少率が少ない)成形体を得ることができた。
【要約】
【課題】架橋パーフルオロ(共)重合体を簡便に再利用することができ、圧縮永久ひずみが小さく、耐熱性および耐プラズマ性に優れるシール材を形成することができるシール材形成材料を提供すること。
【解決手段】再生パーフルオロ(共)重合体を含むシール材形成材料であって、前記再生パーフルオロ(共)重合体は、架橋サイトとしてニトリル基を有するパーフルオロ(共)重合体が架橋した架橋パーフルオロ(共)重合体を熱処理することで架橋サイトの少なくとも一部が再生した(共)重合体であり、前記ニトリル基を有するパーフルオロ(共)重合体が、パーフルオロオレフィンおよびパーフルオロビニルエーテルから選ばれる少なくとも1種由来の構成単位と、ニトリル基を有する構成単位とを含有する、シール材形成材料。
【選択図】なし