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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】胆道癌又は膵癌治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7088 20060101AFI20240718BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240718BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20240718BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240718BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20240718BHJP
   A61P 1/18 20060101ALI20240718BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240718BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240718BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240718BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240718BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20240718BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20240718BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20240718BHJP
   C07K 16/18 20060101ALN20240718BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20240718BHJP
【FI】
A61K31/7088 ZNA
A61K48/00
A61K38/16
A61K39/395 M
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K35/76
A61P1/18
A61P35/00
A61P43/00 111
C12N15/12
C12N15/63 Z
C12N15/113 Z
G01N33/15 Z
G01N33/50 Z
C07K16/18
C07K14/47
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019207404
(22)【出願日】2019-11-15
(65)【公開番号】P2021080186
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-10-31
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川村 悦史
(72)【発明者】
【氏名】松原 勤
(72)【発明者】
【氏名】河田 則文
(72)【発明者】
【氏名】池田 一雄
【審査官】榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-507794(JP,A)
【文献】国際公開第2012/063894(WO,A1)
【文献】International Journal of Molecular Sciences,2017年,Vol.18,Article No.1375
【文献】Computers in Biology and Medicine,2018年,Vol.103,p.183-197
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 48/00
A61K 35/76
A61K 38/00-38/58
A61K 39/395
A61P 1/00-43/00
C12N 15/00-15/10
C07K 16/18
C07K 14/47
G01N 33/00-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)miRNA3648に相補的に結合可能であり、且つmiRNA3648によるSKIタンパク質産生抑制を阻害することができる核酸、
(ii)SKIタンパク質をコードする核酸
i)~(ii)から選択される少なくとも1つの核酸が発現可能に組み込まれたベクター、
(II)SKIタンパク質、あるいは
(IV)miRNA3648を認識する、抗体若しくはその断片
を含有し、
対象においてSKIタンパク質の発現を促進するための、
胆管癌治療剤。
【請求項2】
(i-a):配列番号1の塩基配列からなる核酸、
(i-b):(i-a)の塩基配列において、1又は2の塩基が欠失、置換、又は付加された塩基配列からなり、miRNA3648に相補的に結合可能であり、且つmiRNA3648によるSKIタンパク質産生抑制を阻害することができる核酸、
(ii-a):配列番号2の塩基配列からなる核酸、又は
(ii-b):(ii-a)の塩基配列において、1~100の塩基が欠失、置換、又は付加された塩基配列からなり、且つ胆管癌細胞増殖を抑制するポリペプチドをコードする核酸
あるいは、
(iv):(i-a)、(i-b)、(ii-a)、及び(ii-b)からなる群より選択される少なくとも1つの核酸が発現可能に組み込まれたベクター、
あるいは
(II-a):配列番号4のアミノ酸配列からなるポリペプチド、又は
(II-b):(II-a)のアミノ酸配列において、1~72のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列からなり、且つ胆管癌細胞増殖を抑制するポリペプチド、
あるいは
(IV):miRNA3648を認識する、抗体若しくはその断片
を含有し、
対象においてSKIタンパク質の発現を促進するための、
胆管癌治療剤。
【請求項3】
被検物質が適用された胆管癌細胞における、SKIタンパク質の発現を測定する工程を含む、抗胆管癌物質のスクリーニング方法であって、
当該測定において、被検物質の適用によりSKIタンパク質の発現が亢進している場合に、当該被検物質が抗胆管癌物質の有効成分候補として選択される、方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、胆道癌治療剤及び膵癌治療剤等に関する。なお、本明細書に記載される全ての文献の内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
胆管癌は日本をはじめアジアに多く、膵癌に次いで難治で予後不良である(5年生存率20%以下、国際がんゲノムコンソーシアム. 平成29年8月3日)。切除、抗がん剤、放射線照射が単独ないし併用で選択できるが診断時の臨床病期が最も悪いがんの1つで初発時、切除困難とされるケースが多い。切除不能症例における標準治療はゲムシタビン/シスプラチンである。これが不応となった際、有用な選択肢がなく新規薬の開発が待たれている。重要とされるドライバー遺伝子FGFR2融合遺伝子陽性胆管がん(全体の13%相当)は、進行が速い上、再発率が高く予後が悪い。FGFR2融合遺伝子陽性胆管がん患者で分子標的薬Infigratinibを用いた治療法が開発されたが、有効性の個人差が大きく、有害事象が出る症例もある。Infigratinibの奏効率は、第二臨床試験において39.3%であり (J Clin Oncol. 2018;36:276-82.)、疾患全体で5%程度と試算される。単独またはInfigratinib等の既存薬と併用し、より効能が高く広範に使用できる治療薬が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】J Clin Oncol. 2018;36:276-82.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、胆道癌(特に胆管癌)の新規治療法の提供を目的として検討を重ねた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、miRNA3648が胆管癌に関連する可能性を見出し、さらに改良を重ねた。
【0006】
本開示は例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
(i)miRNA3648に相補的に結合可能な核酸、
(ii)SKI機能を有するタンパク質をコードする核酸、
(iii)SKI遺伝子の3’UTRの相補鎖に結合可能な核酸であって、SKIタンパク質発現亢進効果を奏する核酸
(i)~(iii)から選択される少なくとも1つの核酸が発現可能に組み込まれたベクター、
(II)SKI機能を有するタンパク質、あるいは
(IV)miRNA3648を認識する、抗体若しくはその断片
を含有する
胆道癌又は膵癌治療剤。
項2.
(i-a):配列番号1の塩基配列からなる核酸、
(i-b):(i-a)の塩基配列において、1又は2以上の塩基が欠失、置換、又は付加された塩基配列からなり、且つmiRNA3648に相補的に結合可能な核酸、
(ii-a):配列番号2の塩基配列からなる核酸、又は
(ii-b):(ii-a)の塩基配列において、1又は2以上の塩基が欠失、置換、又は付加された塩基配列からなり、且つ胆管癌細胞増殖を抑制するポリペプチドをコードする核酸、
(iii-a):配列番号3の塩基配列中の連続した7塩基以上の配列からなり、且つSKIタンパク質発現を亢進する核酸、又は
(iii-b):(iii-a)の塩基配列において、1又は2以上の塩基が欠失、置換、又は付加された塩基配列からなり、且つSKIタンパク質発現を亢進する核酸、
あるいは、
(iv):(i-a)、(i-b)、(ii-a)、(ii-b)、(iii-a)、及び(iii-b)からなる群より選択される少なくとも1つの核酸が発現可能に組み込まれたベクター、
あるいは
(II-a):配列番号3のアミノ酸配列からなるポリペプチド、又は
(II-b):(II-a)のアミノ酸配列において、1又は2以上のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列からなり、且つ胆管癌細胞増殖を抑制するポリペプチド、
あるいは
(IV):miRNA3648を認識する、抗体若しくはその断片
を含有する
胆道癌又は膵癌治療剤。
項3.
miRNA3648発現抑制物質、及び/又は、SKIタンパク質発現促進物質を含有する、胆道癌又は膵癌治療剤。
項4.
胆管癌治療剤である、項1~3のいずれかに記載の治療剤。
項5.
核酸であって、
(i-a):配列番号1の塩基配列からなる核酸
(i-b):(i-a)の塩基配列において、1又は2以上の塩基が欠失、置換、又は付加された塩基配列からなり、且つ、miRNA3648に相補的に結合可能な、核酸、あるいは
(ii-b):配列番号2の塩基配列において、1又は2以上の塩基が欠失、置換、又は付加された塩基配列からなり、且つ胆管癌細胞増殖を抑制するポリペプチドをコードする核酸。
項6.
項5に記載の核酸が発現可能に組み込まれたベクター。
項7.
配列番号4のアミノ酸配列において、1又は2以上のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列からなり、且つ胆管癌細胞増殖を抑制するポリペプチド。
項8.
miRNA3648を認識する、抗体若しくはその断片。
項9.
被検物質が適用された胆道癌又は膵癌細胞における、miRNA3648の発現及び/又はSKIタンパク質の発現を測定する工程を含む、抗胆道癌又は膵癌物質のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0007】
本開示により、胆道癌及び膵癌の治療(特に胆管癌の治療)に有効な新規手段が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1a】分化度の異なる各胆管癌細胞株におけるSKI mRNAの発現量比を示す。
図1b】胆管癌細胞株(OZ)における、SKI遺伝子発現亢進による細胞増殖抑制効果を示す。SKI: SKI-flag遺伝子、 siSKI: 機能欠損型SKI遺伝子、 CNT: 対照(コントロール)、 **及び***: t検定にて有意差あり、をそれぞれ示す。
図1c】胆管癌細胞株(OZ)における、SKI遺伝子発現ノックダウンによる細胞増殖促進効果を示す。SKI: SKI-flag遺伝子、 siSKI: 機能欠損型SKI遺伝子、 CNT: 対照(コントロール)、 **及び***: t検定にて有意差あり、をそれぞれ示す。
図2a】胆管がん細胞株(OZ)におけるmiR 3648 mimicによるSKI発現抑制を示す。GAPDHをコントロールとする。
図2b】胆管がん細胞株(OZ)におけるmiR 3648 inhibitorによるSKI発現亢進を示す。GAPDHをコントロールとする。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示に包含される各実施形態について、さらに詳細に説明する。本開示は、胆道癌又は膵癌の治療剤等を好ましく包含するが、これらに限定されるわけではなく、本開示は本明細書に開示され当業者が認識できる全てを包含する。
【0010】
本開示に包含される胆道癌または膵癌治療剤は、特定の核酸、当該特定の核酸が組み込まれたベクター、又は特定のポリペプチド(タンパク質)等を含有する。以下、本開示に包含される当該治療剤を「本開示の治療剤」ということがある。
【0011】
本開示の治療剤は、特に、(i):miRNA(マイクロRNA)3648に相補的に結合可能な核酸、(ii)SKI機能を有するタンパク質をコードする核酸、(iii):SKI遺伝子の3’UTRの相補鎖に結合可能な核酸であって、SKIタンパク質発現亢進効果を奏する核酸、(iv):(i)~(iii)からなる群より選択される少なくとも1つの核酸が発現可能に組み込まれたベクター、(II):SKI機能を有するタンパク質、あるいは、(IV):miRNA3648を認識する抗体若しくはその断片、を含有することが好ましい。
【0012】
miRNA3648は、AGCCGCGGGGAUCGCCGAGGG(配列番号5)の塩基配列からなるマイクロRNAである。本発明者らは、胆道癌又は膵癌の細胞(特に胆管癌細胞)においてmiRNA3648が多く発現していること、SKI遺伝子(Homo sapiens SKI proto-oncogene:NM_003036)のmRNAがmiRNA3648のターゲット分子であること、前記癌細胞にmiR3648 mimicを導入するとSKIタンパク質量が低下しmiR3648 inhibitorを導入するとSKIタンパク質量が増加すること、さらには、前記癌細胞においてSKIタンパク質は強い細胞増殖抑制作用を有すること、及び、SKIタンパク質発現はmiR-3648 inhibitorにより亢進すること、を見いだした。そして、SKI発現を亢進させること、又はmiRNA3648発現を低下させること、により、前記癌細胞の増殖を抑制でき、当該癌を治療し得ることを見いだした。これらの知見から、上述した特定の核酸、当該特定の核酸が組み込まれたベクター、又は特定のポリペプチド(タンパク質)が、前記癌治療のために有用であることが理解される。
【0013】
より詳細には、本開示の治療剤に含有される成分としては、例えば次に記載する成分が好ましく挙げられる。
【0014】
(i-a):配列番号1の塩基配列からなる核酸
(i-b):(i-a)の塩基配列において、1又は2以上の塩基が欠失、置換、又は付加された塩基配列からなり、且つmiRNA3648に相補的に結合可能な核酸
(ii-a):配列番号2の塩基配列からなる核酸
(ii-b):(ii-a)の塩基配列において、1又は2以上の塩基が欠失、置換、又は付加された塩基配列からなり、且つ胆管癌細胞増殖を抑制するポリペプチドをコードする核酸
(iii-a):配列番号3の塩基配列中の連続した7塩基以上の配列からなり、且つ胆管癌細胞においてSKIタンパク質発現を亢進する核酸
(iii-b):(iii-a)の塩基配列において、1又は2以上の塩基が欠失、置換、又は付加された塩基配列からなり、且つ胆管癌細胞においてSKIタンパク質発現を亢進する核酸
(iv):(i-a)、(i-b)、(ii-a)、(ii-b)、(iii-a)、及び(iii-b)からなる群より選択される少なくとも1つの核酸が発現可能に組み込まれたベクター
(II-a):配列番号4のアミノ酸配列からなるポリペプチド
(II-b):(II-a)のアミノ酸配列において、1又は2以上のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列からなり、且つ胆管癌細胞増殖を抑制するポリペプチド
(IV):miRNA3648を認識する、抗体若しくはその断片
【0015】
なお、本明細書において、欠失、置換、又は付加され得る塩基としては、核酸を形成し得る塩基であれば特に制限はされないが、特にアデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)、又はウラシル(U)であることが好ましい。
【0016】
配列番号1の配列は、ヒトマイクロRNAであるmiR3648の配列の、相補DNA配列(CCCTCGGCGATCCCCGCGGCT)である(下線部はmiR3648の標的であるヒトSKI遺伝子の3’UTR配列と共通する配列部分)。(i-a)の核酸は、当該配列からなる核酸である。また、(i-b)の核酸は、(i-a)の塩基配列において、1又は2以上の塩基が欠失、置換、又は付加された塩基配列からなる。欠失、置換、又は付加される塩基の数は、好ましくは1~10(1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10)であり、より好ましくは1~5、さらに好ましくは1~3である。また、(i-b)の核酸は、miRNA3648に相補的に結合可能な核酸である。相補的に結合可能な核酸には、塩基配列が完全に相補的である核酸はもちろん、塩基配列が完全に相補的ではない核酸であっても、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができる核酸が包含される。「ストリンジェントな条件」とは、0.1%SDSを含む2×SSC中、50℃でハイブリダイズし、0.1%SDSを含む1×SSC中、60℃での洗浄によっても脱離しないことをいう。
【0017】
配列番号2の配列は、ヒトSKIタンパク質をコードするcDNA配列である。
(ii-a)の核酸は、配列番号2の塩基配列からなる核酸である。また、(ii-b)の核酸は、(ii-a)の塩基配列において、1又は2以上の塩基が欠失、置換、又は付加された塩基配列からなる。欠失、置換、又は付加される塩基の数は、好ましくは1~100(1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、又は100)であり、より好ましくは1~90、1~80、1~70、1~60、1~50、1~40、1~30、1~20、又は1~10である。また、(i-b)の核酸は、胆管癌細胞増殖を抑制するポリペプチドをコードする核酸である。核酸が、胆管癌細胞増殖を抑制するポリペプチドをコードするか否かは、その核酸を発現ベクターに組み込み、当該発現ベクターを胆管癌細胞にトランスフェクトして1又は2日培養したとき、コントロール(発現させる遺伝子を組み込んでいないベクターそのものをトランスフェクトした胆管癌細胞)に比べて、細胞増殖が抑制されているかを検討することで判定することができる。細胞増殖の検討は、胆管癌細胞OZ株を用いてWST法により行うことができる。細胞増殖が抑制されていれば、その核酸が、胆管癌細胞増殖を抑制するポリペプチドをコードすると判断できる。
【0018】
(iii-a)の核酸は、配列番号3の塩基配列中の連続した7塩基以上の配列からなり、且つ胆管癌細胞においてSKIタンパク質発現を亢進する核酸である。当該核酸は、例えば配列番号3の塩基配列中の連続した7~3400塩基程度の配列からなることが好ましく、当該上限は例えば3300、3200、3100、3000、2900、2800、2700、2600、2500、2400、2300、2200、2100、2000、1900、1800、1700、1600、1500、1400、1300、1200、1100、1000、900、800、700、600、500、400、300、200、100、90、80、70、60、50、45、40、35、30、25、20、15、又は10程度であってもよい。
【0019】
配列番号3は、ヒトSKI遺伝子の3’UTR(非翻訳領域)配列である。miRNAは、その標的mRNAに対して不完全な相同性をもって結合し、一般には標的遺伝子の特に3’UTRを認識して、標的mRNAを不安定化するとともに翻訳抑制を行うことでタンパク質産生を抑制する。このため、miR3648もヒトSKI遺伝子の3’UTRに結合することでSKIタンパク質産生を抑制していると考えられる。また、miR3648以外にも、SKI遺伝子を標的とする可能性があると考えられているmiRNAも存在しており、そのようなmiRNAも同様にヒトSKI遺伝子の3’UTRに結合することでSKIタンパク質産生を抑制していると考えられる。
【0020】
従って、ヒトSKI遺伝子3’UTRと同様の塩基配列からなる核酸は、miR3648等のSKIタンパク質産生抑制miRNAがSKI遺伝子3’UTRに結合するのを競合的に阻害することにより、miRNAによるSKIタンパク質産生抑制を阻害することができる。これにより、胆道癌又は膵癌(特に胆管癌)細胞の増殖を抑制することができる。
【0021】
核酸が、胆管癌細胞においてSKIタンパク質発現を亢進するかは、その核酸を発現ベクターに組み込み、当該発現ベクターを胆管癌細胞にトランスフェクトして1又は2日培養したとき、コントロール(発現させる遺伝子を組み込んでいないベクターそのものをトランスフェクトした胆管癌細胞)に比べて、SKIタンパク質発現を亢進するかを検討することで判定することができる。当該検討は、胆管癌細胞OZ株を用いて行うことができる。また、タンパク質発現はウエスタンブロット法により検出することができる。
【0022】
(iii-b)の核酸は、(iii-a)の塩基配列において、1又は2以上の塩基が欠失、置換、又は付加された塩基配列からなり、且つ胆管癌細胞においてSKIタンパク質発現を亢進する核酸である。(iii-b)の塩基配列において、1又は2以上の塩基が欠失、置換、又は付加された塩基配列からなる。欠失、置換、又は付加される塩基の数は、好ましくは1~100(1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、又は100)であり、より好ましくは1~90、1~80、1~70、1~60、1~50、1~40、1~30、1~20、又は1~10である。
【0023】
また、SKI遺伝子の3’UTRを標的とするmiRNA3648以外のmiRNAのアンチセンス核酸も、(iii-a)又は(iii-b)の核酸に包含され得る。SKI遺伝子の3’UTRを標的とするmiRNA3648以外のmiRNAとしては、SKI遺伝子の3’UTRを標的とすることが知られている若しくは予測されているmiRNAを挙げることができ、例えば、以下のURL:
【0024】
【表1】
【0025】
で公開されている「TargetScan」を用いて、ターゲットスコアが50以上(好ましくは60以上、70以上、80以上、又は90以上)でSKI遺伝子の3’UTRを標的とすると予測されるmiRNAが好ましく挙げられる。このようなmiRNAとしては、例えば、hsa-miR-8071(CGGUGGACUGGAGUGGGUGG)やhsa-miR-3680-3p(UUUUGCAUGACCCUGGGAGUAGG)等が挙げられ、これらのアンチセンス核酸として、例えば、アンチセンスhsa-miR-8071(CCACCCACTCCAGTCCACCG)やアンチセンスhsa-miR-3680-3p(CCTACTCCCAGGGTCATGCAAAA)等が挙げられる。
【0026】
(iv)のベクターは、(i-a)、(i-b)、(ii-a)、(ii-b)、(iii-a)、及び(iii-b)(以下「(i-a)~(iii-b)」とも表記する)からなる群より選択される少なくとも1つの核酸が発現可能に組み込まれたベクターである。
【0027】
発現可能に組み込まれたとは、細胞中(特に胆管癌細胞)中で当該発現ベクターから上記(i-a)~(iii-b)の核酸が発現する(転写される)ように組み込まれている場合はもちろん、当該発現ベクターから発現した段階(転写された段階)では上記(i-a)~(iii-b)の核酸ではないとしても、細胞内でプロセシングを受けて最終的に(i-a)~(iii-b)の核酸が細胞内に発現する場合をも包含する。例えば、配列番号1の配列(miR3648の配列の相補DNA配列)を含み、ヘアピン構造を構成し得る核酸が発現するように組み込まれたベクターは、ベクターから発現した当該核酸が細胞内でプロセシングを受けて配列番号1の核酸若しくは配列番号1の核酸の塩基配列に1又は2以上の塩基が付加された塩基配列からなる核酸となり得ることから、(i-a)若しくは(i-b)の核酸が発現可能に組み込まれたベクターということができる。
【0028】
(i-a)~(iii-b)の核酸を組み込むベクターとしては、特に制限されず、公知の発現用ベクターを用いることができる。例えば、プラスミドベクター、ウイルスベクター等を用いることができる。
【0029】
(II-a)は配列番号のアミノ酸配列からなるポリペプチドである。配列番号は、ヒトSKIタンパク質のアミノ酸配列である。また、(II-b)のポリペプチドは、(II-a)のアミノ酸配列において、1又は2以上のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列からなり、且つ胆管癌細胞増殖を抑制するポリペプチドである。(II-b)の塩基配列において、欠失、置換、又は付加されるアミノ酸の数は、好ましくは1~100(1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、又は100)であり、より好ましくは1~90、1~80、1~70、1~60、1~50、1~40、1~30、1~20、又は1~10である。また、ポリペプチドが胆管癌細胞増殖を抑制するかは、上記(ii-b)の核酸について説明した方法と同様の方法で判定することができる。
【0030】
(IV)はmiRNA3648を認識する抗体若しくはその断片である。当該断片は当該抗体のmiRNA3648認識部位を有する。当該断片としては、例えば、当該抗体のFabやF(ab’)等を挙げることができる。また、当該抗体としては、miRNA3648を認識する抗体であれば特に制限はされず、例えばポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよい。また、キメラ抗体、ヒト化抗体、又は完全ヒト化抗体であってよい。当該抗体の製造方法も特に制限はされず、例えば、公知の方法または公知の方法から容易に想到できる方法により製造することができる。
【0031】
本開示の治療剤は、miRNA3648発現抑制物質、及び/又は、SKIタンパク質発現促進物質を含有する、胆道癌又は膵癌治療剤をも包含する。
【0032】
miRNA3648発現抑制物質としては、例えば上述(i-a)及び(i-b)の核酸や、(IV)の抗体又はその断片等が挙げられる。また、SKIタンパク質発現促進物質としては、例えば上述の(ii-a)、(ii-b)、(iii-a)、及び(iii-b)の核酸等が挙げられる。
【0033】
また、本開示は、miRNA3648の発現、及び/又は、SKIタンパク質の発現を指標とする、抗胆道癌又は膵癌物質のスクリーニング方法をも包含する。当該抗胆道癌又は膵癌物質は、胆道癌又は膵癌治療剤(特に胆管癌治療剤)の有効成分として有用である。
【0034】
当該スクリーニング方法は、被検物質(化合物も組成物も包含する)が適用された胆道癌又は膵癌細胞(特に好ましくは胆管癌細胞)における、miRNA3648の発現、及び/又は、SKIタンパク質の発現を測定する工程を含む。当該測定において、被験物質の適用によりmiRNA3648の発現が低下している場合に、当該被験物質は胆道癌又は膵癌治療剤(特に胆管癌治療剤)の有効成分候補として選択することができる。また、当該測定において、被験物質の適用によりSKIタンパク質の発現が亢進している場合に、当該被験物質は胆道癌又は膵癌治療剤(特に胆管癌治療剤)の有効成分候補として選択することができる。これらの測定の方法は特に制限されず、公知の方法または公知の方法から容易に想到される方法により行うことができる。例えば、核酸量を測定する場合には定量PCR等を、タンパク質量を測定する場合にはウエスタンブロット等を、それぞれ用いることができる。
【0035】
ここでの被験物質は、特に制限はされない。例えば、化合物及び組成物であり得る。化合物としては、例えば低分子化合物や、核酸(例えばDNA、RNA等)やタンパク質(例えば抗体又はその一部等)、ポリマー等の高分子化合物であってよい。組成物としても、生物(例えば動物、植物、微生物等)から得た抽出物等であってもよく、化合物を2種以上組み合わせたものであってもよい。
【0036】
また、用いる胆道癌又は膵癌細胞は、ヒト由来細胞であっても非ヒト哺乳動物由来細胞であってもよい。非ヒト哺乳動物としては、例えばサル、イヌ、ネコ、マウス、ラット、チャイニーズハムスター、ヒツジ、ウシ、ウマ等が挙げられる。
【0037】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。また、本開示は、本明細書に説明した構成要件を任意の組み合わせを全て包含する。
【0038】
また、上述した本開示の各実施形態について説明した各種特性(性質、構造、機能等)は、本開示に包含される主題を特定するにあたり、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各特性のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例
【0039】
以下、例を示して本開示の実施形態をより具体的に説明するが、本開示の実施形態は下記の例に限定されるものではない。特に断らない限り、試薬はMerck & Co.(米国)または富士フィルム和光純薬(大阪)より購入した。また、下記実験は、ヘルシンキ宣言(2008年改定)に従う当院IRB承認(ヒトゲノム遺伝子解析研究 第6条関係)を得た上で行われた。
【0040】
対象検体
HBV/HCVによる慢性肝炎を背景としない外科的切除24例の胆道・肝臓の腫瘍部、非腫瘍部の組織検体が用いられた (施術は2007年7月から2015年6月、大阪市立大学医学部附属病院 肝胆膵外科)。内訳は、胆管がん10例[57.6歳、男8/女2、対照14例[肝細胞がん10(66.8歳、男8/女2)、良性胆道腫瘍4(74.3歳、男2/女2)]である。これら切除検体からの胆管がん発症に関わるマイクロRNAは、3D-Gene miRNA Labeling kitにより標識され、3D-Gene Human miRNA Oligo Chipにより抽出された(東レ、大阪)。
【0041】
細胞培養
ヒト胆管がん細胞株3種(OZ、KKU156、KKU100)の細胞培養には、ダルベッコ改変イーグル培地(低濃度ブドウ糖)(#D5546-500ML. Sigma-Aldrich社、米国)に10%ウシ胎児血清 (#10270-098. Gibco社、米国)および1 %ペニシリン-ストレプトマイシン(#15070-063. Gibco社)を混合したものを用いた。遺伝子導入前は1 %ペニシリン-ストレプトマイシンを除いた培地とした。細胞株は37℃、5%CO2加湿培養器内で管理した。3種の株はそれぞれ異なる個人より提供された(OZは#1032、KKU-M156は#1561、KKU-100は#1568)(JCRB細胞バンク、大阪)。
【0042】
RNA解析
RNAは、培養細胞からTRIzol reagent (Invitrogen社、米国) とDirect-zol RNA Miniprep (Zymo Research社、米国)を用いて回収された。SKIメッセンジャーRNAの定量的PCRは、RNA 500 ng/検体にdNTP Mixture 1 μl (#4030. タカラバイオ社、滋賀)、Random Primers 1 μl (#58875. Invitrogen社) 、Diethylpyrocarbonate treated water 2 μlを混合してPCR Thermal Cycler Dice Gradient TP600(タカラバイオ社)にて合成したcDNA溶液[Elution Buffer (0.1×)によりSKI用は5倍、18S用は500倍に希釈] 1 μlを用い、Forward primer 0.3 μl、Reverse primer 0.3 μl (Sigma Aldrich社)、 SYBR green PCR master mix (×2) 5μl (Applied Biosystem社、米国)、イオン交換水 3.4 μlを混合しThermal Cycler Dice Real Time System II TP900 (タカラバイオ社)にて行われた。本件に用いたプライマーを次の表に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
DNA断片またはマイクロRNAの胆管がん細胞株への導入
SKI-flag遺伝子は、Human v-ski sarcoma viral oncogene homolog from Kanamycin耐性cDNAを発現したMyc-DDKタグ付きヒトSKIプラスミド(OriGene社、 米国)の非定量的PCR産物を、E. coli DH5α competent cells (タカラバイオ社)に導入することでクローニングして得た。遺伝子導入は、胆管がん細胞OZ株 (2×105個/well、12 wellプレート)に対し、1)pCMV6 SKI-flag遺伝子とその対照であるpCMV6-Entry Empty vector(自家製)、2)機能欠損型SKI遺伝子(siGENOME Human SKI (6497) siRNA #IM-003927-02-0010. Dharmacon社)とその対照pCMV6-Entry Empty vector (これら1)~2)はDNA総量500 ng/well)にそれぞれ1 well当りP3000 Reagent 1 μl (Invitrogen社)、Opti-MEM 50 μl(#31985-062.Gibco社)を加えDNA溶液とし、これにさらにLipofectamine 1 μl (Invitrogen社)、Opti-MEM 50 μlを加えることにより、行われた。同様に、1)マイクロRNA 3648 mimic (#c-301526-00-0005. Dharmacon社、米国) とその対照であるNegative Control siRNA (#AM4637.Ambion社、米国) 、2)マイクロRNA 3648 hairpin inhibitor (#IH-301526-01-0005. Dharmacon社) とその対照であるHairpin Inhibitor Negative Controls (#IN-001005-01-50.Dharmacon社)(これら1)~2)はRNA総量100 pmol/well)にそれぞれ1 well当りOpti-MEM 50 μlを加えRNA溶液とし、これにさらにRNAiMAX 4 μl (Invitrogen社)、Opti-MEM 50 μlを加えることにより、行われた。
【0045】
細胞増殖アッセイ
ヒト胆管がん細胞OZ株において、SKI遺伝子の過剰発現または発現抑制の下、経時的な細胞数測定が行なわれた。増殖過程の同株を96 well-plateに 5000個/100μl/wellで播種し、5%CO2加湿培養器内で一晩培養後、Water soluble tetrazolium salt-8溶液10 μl/well添加し(同仁化学研究所、熊本)、約1時間反応後、450 nmにおける吸光度を測定した(Varioskan Lux #VLBL00D0、Thermo Fisher Scientific社、米国)。
【0046】
タンパク発現解析
ヒト胆管がん細胞OZ株において、マイクロRNA 3648の過剰発現または発現抑制の下、ウエスタンブロッティングによりRNA用量依存的なタンパク発現解析を行った。OZ株よりサンプルバッファー(100 mM/pH 6.8 トリス塩酸緩衝液、 20%グリセリン、4% ドデシル硫酸ナトリウム, 10% 2-メルカプトエタノール)を用いてタンパク質の回収を行った。回収検体は、プロテアーゼ阻害剤(cOmplete Mini、# No. 4 693 124. Roche社、スイス)およびホスファターゼ阻害剤(1 mMフッ化ナトリウム、1 mM グリセロール2-リン酸、1 mMバナジン酸ナトリウム)を含む非変性細胞可溶化バッファー[50 mM/pH 7.5トリス塩酸緩衝液、150 mM塩化ナトリウム、1% トリトン X-100(ナカライテスク、京都)、1% ドデシル硫酸ナトリウム]で均質化された。得られたタンパク検体は、8-15%ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動により分子量マーカー[Precision Plus Protein Dual Color Standards (#1610374. Bio Rad社、米国)] と共に分離されゲルからポリフッ化ビニリデン膜に転写された (PowerPac Basic Power Supply #1645050JA.Bio Rad社)。非特異的タンパクへの抗体結合を防ぐために同膜を5%脱脂粉乳トリス緩衝食塩水ポリソルベート20混合液によりブロッキングした。SKIタンパク質に対する一次抗体(#SC33693.Santa Cruz Biotechnology社、米国)およびグリセルアルデヒドリン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH: 内在性対照、#MAB374. Sigma-Aldrich社)を酵素標識されたヤギ作製抗マウス二次抗体(#7074. Cell Signaling Technology社、米国)と反応させた。二次抗体に標識されたペルオキシターゼを発光基質(ImmunoStar Zetaまたは同LD.富士フイルム和光純薬)と反応させ標的タンパクのバンドを検出した(ImageQuant LAS4000 mini.GE healthcare社、米国)。必要に応じてストリッピングバッファー(ナカライテスク)を用い、同膜に結合した抗体を剥離し別の標的タンパクを検出した。
【0047】
統計解析
外科的切除検体から胆管がん発症に関するマイクロRNAの抽出は、統計環境R内のprcomp関数による主成分解析(Y. H. Taguchi and Y. Murakami. Principal component analysis based feature extraction approach to identify circulating microRNA biomarkers. PLoS ONE 2013,8:e66714.)及びlda関数による線形判別解析(R Core Team. R: A Language and Environment for Statistical Computing. R Foundation for Statistical Computing, Vienna, Austria, 2014.)により、行った。同疾患のヒト胆管がん細胞株における群間比較(student t-test)および経時的変化(multiple student t-test)はPrism ver. 8 (GraphPad Software社、米国)により行った。
【0048】
<胆管がん関連因子の探索及び確認>
胆管がん発症に関するマイクロアレイ遺伝子プロファイリング解析および主成分解析を行ない、miR3648を抽出した。mRNAデータベースにより、miR3648とターゲット効率の高い(target score高値且つcontext++ score低値)SKI mRNAが抽出された (http://www.targetscan.org)(下記表参照)。
【0049】
【表3】
【0050】
当該結果から、miR 3648 inhibitorがSKI発現を促進し、胆管がん細胞増殖を抑制することが期待された。このことを確認するため、さらに実験を行った。SKIの作用と病理学的分化度との関わりを観察するために、3種のヒト胆管がん細胞株(OZ、KKU156、KKU100:分化度は順に高、中、低)におけるSKI mRNA発現の多寡を評価した。具体的には、SKImRNA量を18S rRNA量で補正した値を算出した。結果を図1aに示す。
【0051】
また、SKIの潜在的発現の最も高いOZ(分化度最も高い)にSKI flag遺伝子および機能欠損型遺伝子siSKI(SKIノックダウン)を添加して細胞増殖をWST法で評価した。それぞれ経時的に細胞増殖の抑制および促進が認められた(図1bおよび図1c)。なお、図1bのEmptyは、ベクターそのもの(制限酵素処理後セルフライゲーションさせている)をトランスフェクトした細胞のことである。
【0052】
さらに胆管がん細胞OZにmiR-3648 mimic(具体的には、miR3648のセンスRNA:AGCCGCGGGGAUCGCCGAGGGが生成するようにデザインされた二重鎖RNA)およびmiR-3648 inhibitor(具体的には、miR3648のアンチセンスRNA:CCCTCGGCGATCCCCGCGGCTが生成するようにデザインされた二重鎖RNA)を添加し、SKIタンパク質の発現をウェスタンブロッティングで評価した。miR容量に依存してSKI発現の抑制(図2a)および促進(図2b)が認められた。以上の結果により、胆管がん細胞株においてSKIは強い細胞増殖抑制作用を有し、SKI発現はmiR-3648 inhibitorにより亢進することが示された。
図1a
図1b
図1c
図2a
図2b
【配列表】
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