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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】動物試料からのウイルス検出方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/70 20060101AFI20240718BHJP
   C12Q 1/6806 20180101ALI20240718BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
C12Q1/70 ZNA
C12Q1/6806 Z
G01N33/50 P
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020065903
(22)【出願日】2020-04-01
(65)【公開番号】P2021159017
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-03-30
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、感染症研究革新イニシアティブ「肝移植後の病態と予後に関与するRNAウイルスの探索」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】福原 崇介
(72)【発明者】
【氏名】中村 昇太
(72)【発明者】
【氏名】元岡 大祐
(72)【発明者】
【氏名】浦山 俊一
【審査官】西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-010316(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1556216(CN,A)
【文献】特表2020-500035(JP,A)
【文献】国際公開第2017/065194(WO,A1)
【文献】特開2018-068317(JP,A)
【文献】特表2018-520652(JP,A)
【文献】特開2018-042548(JP,A)
【文献】Molecular Ecology Resources,2016年,Vol.16,pp.1255-1263
【文献】Viruses,2019年,Vol.11,943
【文献】Journal of Virological Methods,2013年,Vol.193,pp.394-404
【文献】Pharma Medica,1993年,Vol.11, No.12,pp.155-163
【文献】PLOS ONE,2011年,Vol.6, Issue9,e24758
【文献】Microbes Environ.,2020年02月28日,Vol.35, No.2,ME19132
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q
C12N 15/
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物試料からRNAウイルスおよびDNAウイルスを検出する方法であって、
該DNAウイルスが、高次構造を構築するRNAが存在するウイルスであり、
(1)動物試料から核酸を抽出する工程、
(2)二本鎖RNAを精製する工程、
(3)二本鎖RNAを断片化する工程、
(4)断片化した二本鎖RNAを熱変性した後、逆転写反応によりcDNAを合成し、次世代シーケンサー用ライブラリーを調製する工程、
(5)次世代シーケンスを行う工程、および
(6)得られた配列データを解析してウイルスを検出する工程
を含み、断片化した二本鎖RNAの平均サイズが100bp~300bpであることを特徴とする方法。
【請求項2】
動物が脊椎動物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
脊椎動物が哺乳動物である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ランダムプライマーを用いて逆転写反応を行う、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
二本鎖RNAのセルロースへの吸着を利用して二本鎖RNAを精製する、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
DNAウイルスがB型肝炎ウイルスである、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
RNAウイルスを検出する方法である、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物試料からのウイルス検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ウイルスは細胞内でのみ複製し続けることが可能であり、ヒト、動物、バクテリア、植物などに感染し得る。ウイルスは、しばしば感染した宿主に病気を引き起こすので、病原体として認識されている。B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)などがヒトに対して重大な病態を引き起こすことが知られている。それらの病原性ウイルスは深く研究され、より良い治療法が開発されつつある。
【0003】
最近、次世代シーケンシング技術が開発され、ゲノム研究分野において大きな影響が与えられた。次世代シーケンシング技術により、ウイルスゲノムをより効果的に検出できるようになり、病原性ウイルス以外に多数のウイルスがヒトに存在していることが解明されつつある。ウイルスはDNAウイルスとRNAウイルスに大きく分類されており、真核生物において、RNAウイルスはDNAウイルスよりも優勢である。細胞内のウイルスを検索するに当たっては、細胞内には宿主由来のメッセンジャーRNAやリボゾーマルRNAが多数存在するので、ウイルスゲノムを効果的に検出することは困難であった。
【0004】
この問題を解決するために、細胞内の二本鎖RNA(dsRNA)を指標とする方法が開発された(非特許文献1)。宿主由来のRNAはすべて一本鎖RNA(ssRNA)であるが、HCVなどの一本鎖RNAウイルスは、細胞に感染した後の複製過程で二本鎖RNAを形成する。レオウイルスやロタウイルスなどの二本鎖RNAウイルスは、感染した細胞内において二本鎖RNAで存在する。したがって、二本鎖RNAのみを検出する方法は、RNAウイルスのゲノムを検出するのにより効果的である。このアプローチにより、植物や真菌では多くのウイルスが検出されている(非特許文献2)。
【0005】
本発明者らは細胞内のRNAウイルスを効率的に検出する新たな方法(FLDS: fragmented and loop primer ligated dsRNA sequencing)を開発した(非特許文献3、特許文献1)。この方法には、dsRNAを精製するためのセルロースカラムクロマトグラフィー、dsRNAの断片化、ループプライマーを使用したcDNA合成、およびcDNAのPCR増幅が含まれている。このFLDS法を用いることにより、従来の全RNAの配列解析を行う方法と比較して、珪藻からより効率的にRNAウイルスを検出できることが示された。最近、野生動物の臓器から二本鎖RNAを精製し、次世代シーケンサーで得られた配列データを解析することにより、天然感染したRNAウイルスを検出したことが報告された(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開公報WO2017/065194
【非特許文献】
【0007】
【文献】Al Rwahnih, M. et al., Deep sequencing analysis of RNAs from a grapevine showing Syrah decline symptoms reveals a multiple virus infection that includes a novel virus, Virology, 387, 395-401 (2009)
【文献】Yanagisawa, H. et al., Combined DECS analysis and next-generation sequencing enable efficient detection of novel plant RNA viruses, Viruses, 8, 70 (2016)
【文献】Urayama, S. et al., FLDS: a comprehensive dsRNA sequencing method for intracellular RNA virus surveillance, Microbes and Environments, 31, 33-40 (2016)
【文献】Carolyn J., et al. dsRNA-Seq: Identification of viral infection by purifying and sequencing dsRNA, Viruses 11.10 (2019): 943.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ヒトを含む動物に感染したウイルスを、次世代シーケンシング技術を用いて効率よく検出する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の各発明を包含する。
[1]動物試料からウイルスを検出する方法であって、(1)動物試料から核酸を抽出する工程、(2)二本鎖RNAを精製する工程、(3)二本鎖RNAを断片化する工程、(4)断片化した二本鎖RNAを熱変性した後、逆転写反応によりcDNAを合成し、次世代シーケンサー用ライブラリーを調製する工程、(5)次世代シーケンスを行う工程、および(6)得られた配列データを解析してウイルスを検出する工程を含むことを特徴とする方法。
[2]動物が脊椎動物である、前記[1]に記載の方法。
[3]脊椎動物が哺乳動物である、前記[2]に記載の方法。
[4]断片化した二本鎖RNAの平均サイズが100bp~300bpである、前記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]ランダムプライマーを用いて逆転写反応を行う、前記[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]二本鎖RNAのセルロースへの吸着を利用して二本鎖RNAを精製する、前記[1]~[5]のいずれかに記載の方法
[7]RNAウイルスおよびDNAウイルスを検出する方法である、前記[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]RNAウイルスを検出する方法である、前記[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、ヒトを含む動物に感染したウイルスを、次世代シーケンシング技術を用いて効率よく検出する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の方法(Modified dsRNA-seq)と、従来法(FLDSおよびTotal RNA-seq)の3種類の方法で、HCVに感染したヒト肝臓サンプル1および2におけるHCVを検出した結果を示す図であり、各方法におけるHCV検出率(HCVリード/合計リード)を比較した図である。
図2】本発明の方法(Modified dsRNA-seq)を用いてレオウイルスに感染したマウスの肺組織からレオウイルスを、HCVを接種したヒト培養細胞(Huh7.5.1細胞および初代ヒト肝細胞)からHCVを、それぞれ検出した結果を示す図である。
図3図2の実験においてレオウイルスに感染したマウスの肺組織から取得したレオウイルスリードをレオウイルスゲノムにマッピングした結果を示す図である。
図4図2の実験においてHCV感染ヒト培養細胞から取得したHCVウイルスリードをHCVゲノムにマッピングした結果を示す図である。
図5】本発明の方法を用いて、生体肝移植レシピエント登録患者のHCV-RNA陽性肝臓サンプルを含むプールサンプルからHCV検出した結果を示す図であり、各サンプルにおけるHCV検出率(HCVリード/合計リード)を示す図である。
図6】本発明の方法を用いて、サンプルNo.13のプールサンプルから取得したHCVウイルスリードをHCVゲノムにマッピングした結果を示す図である。
図7】サンプルNo.13のプールサンプルのHCVウイルスリードから取得したウイルス配列によるNS5B領域の系統樹解析結果を示す図である。
図8】本発明の方法を用いて、生体肝移植レシピエント登録患者のHBV-DNA陽性肝臓サンプルを含むプールサンプルからHBV検出した結果を示す図であり、各サンプルにおけるHCV検出率(HCVリード/合計リード)を示す図である。
図9】本発明の方法を用いて、サンプルNo.13のプールサンプルから取得したHCVウイルスリードをHCVゲノムにマッピングした結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、動物試料からウイルスを検出する方法を提供する。本発明の方法は、以下の工程(1)~(6)を含むものであればよい。
(1)動物試料から核酸を抽出する工程、
(2)二本鎖RNAを精製する工程、
(3)二本鎖RNAを断片化する工程、
(4)断片化した二本鎖RNAを熱変性した後、逆転写反応によりcDNAを合成し、次世代シーケンサー用ライブラリーを調製する工程、
(5)次世代シーケンスを行う工程、および
(6)得られた配列データを解析してウイルスを検出する工程。
【0013】
本発発明の方法の対象となる動物は特に限定されないが、脊椎動物であってもよく、哺乳動物であってもよい。好ましくはヒトである。動物試料は、ウイルスが感染し得る動物細胞を含むものであればよい。動物試料は、動物個体から採取した細胞であってもよく、動物個体から採取した臓器または組織であってもよく、動物個体から採取した体液であってもよく、培養動物細胞(株化細胞または初代細胞)であってもよい。
【0014】
本発明の方法は、RNAウイルスおよびDNAウイルスの両方を検出することができる。二本鎖RNAウイルスは感染した細胞内で二本鎖RNAとして存在し、一本鎖RNAウイルスは細胞に感染した後複製の過程で二本鎖RNAを形成するので、動物細胞に存在する二本鎖RNAの配列データを解析することによりRNAウイルスを検出することができる。また、DNAウイルスにおいても、B型肝炎ウイルスのプレゲノムRNA(pgRNA)のように高次構造を構築するRNAが存在するウイルスは、本発明の方法の検出対象となり得る。
【0015】
工程(1)では、動物試料から核酸を抽出する。動物試料から核酸を抽出方法は特に限定されず、公知の核酸抽出方法から適宜選択して用いることができる。多数の核酸抽出試薬や核酸抽出キットが市販されており、これらを好適に用いることができる。例えば、動物試料として動物組織を用いる場合は、動物組織を細切してホモジナイズし、フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコールで抽出する方法を用いてもよい。二本鎖RNAのロスが少ない核酸抽出方法を選択することが好ましい。
【0016】
工程(2)では、工程(1)で得られた核酸抽出液から二本鎖RNAを精製する。二本鎖RNAを精製する方法は特に限定されず、公知の精製方法から適宜選択して用いることができる。例えば、工程(1)得られた核酸抽出液をセルロースカラムに通し、二本鎖RNAをセルロースに吸着させ、洗浄操作を経て適切な溶出用緩衝液を用いて二本鎖RNAを溶出する方法が挙げられる。得られた溶出液には、必要に応じ、残存する二本鎖RNA以外の核酸を分解するために有効な条件下でヌクレアーゼを作用させてもよい。二本鎖RNAの精製には、4つの核酸種を分離して取得するタンデムクロマトグラフィー法(Syun-ichi Urayama et. al., Microbes and Environments Vol. 30 (2015) No. 2 p. 199-203)を用いてもよい。二本鎖RNAのロスが少ない精製方法を選択することが好ましい。
【0017】
工程(3)では、工程(2)で精製された二本鎖RNAを断片化する。断片化する方法は特に限定されず、公知の核酸断片化方法から適宜選択して用いることができる。核酸断片化方法としては、機械的断片化方法、酵素的断片化方法、化学的断片化方法が知られている。機械的断片化方法としては、例えば超音波処理により二本鎖RNAを断片化する方法が挙げられる。核酸の断片化に使用できる超音波断片化装置が市販されており、そのような市販の超音波断片化装置を好適に用いることができる。酵素的断片化方法としては、例えばRNase IIIやDicer等のdsRNA分解酵素を用いて二本鎖RNAを断片化する方法が挙げられる。化学的断片化方法としては、例えば酸またはアルカリ触媒性加水分解、金属イオンおよび複合体による加水分解、ヒドロキシルラジカル処理、放射線処理等により二本鎖RNAを断片化する方法が挙げられる。
【0018】
断片化後の二本鎖RNAのサイズは、次世代シーケンサーのリード長に適したサイズであることが好ましい。断片化後の二本鎖RNAの平均サイズは1000bp以下、900bp以下、800bp以下、700bp以下、600bp以下、500bp以下、400bp以下、300bp以下であることが好ましい。断片化後の二本鎖RNAの平均サイズは100bp以上、200bp以上、300bp以上であることが好ましい。断片化後の二本鎖RNAの平均サイズは100bp~500bpであってもよく、100bp~400bpであってもよく、100bp~300bpであってもよい。断片化後の二本鎖RNAの平均サイズは、例えば電気泳動により確認することができる。
【0019】
工程(4)では、工程(3)で断片化した二本鎖RNAを熱変性した後、逆転写反応によりcDNAを合成し、次世代シーケンサー用ライブラリーを調製する。熱変性は二本鎖RNAを一本鎖にするために行われる。二本鎖RNAの熱変性方法は特に限定されず、当業者であれば適宜設定できる。例えば、90~98℃で数秒~数分間の熱処理であってもよい。
【0020】
本発明では、試料中の全ての二本鎖RNAからcDNAを合成するために、ランダムプライマーを用いて逆転写反応を行うことが好ましい。逆転写反応に用いる酵素は、RNAを鋳型としたDNA合成活性を有するものであれば特に限定されない。例えばトリ骨髄芽球症ウイルス由来逆転写酵素(AMV RTase)、モロニーネズミ白血病ウイルス由来逆転写酵素(MMLV RTase)、ラウス関連ウイルス2逆転写酵素(RAV-2 RTase)、テンプレートスイッチング活性を有する逆転写酵素などが挙げられる。逆転転写酵素およびランダムプライマーを備える次世代シーケンス用ライブラリーを調製するための試薬キットが市販されており、このような市販のキットを好適に用いることができる。
【0021】
工程(5)では、工程(3)で調製した次世代シーケンサー用ライブラリーを次世代シーケンサーに供し、二本鎖RNAから合成したcDNAの配列データを取得する。次世代シーケンサーによる配列決定のための情報は、例えばIllumina Technologies(www.illumina.com)から入手可能である。また、WO2004/018497、WO2004/018493、WO2004/050915、WO2004/076692、WO2005/021786、WO2005/047301、WO2005/065814、WO2005/068656、WO2005/068089、WO2005/078130等を参照することができる。
【0022】
次世代シーケンサーにより、1ランあたり少なくとも1000リード、1ランあたり少なくとも10,000リード、1ランあたり少なくとも100,000リード、1ランあたり少なくとも500,000リード、または1ランあたり少なくとも1,000,000リードを生成することができる。また1リードあたり約30塩基長の配列データ、約40塩基長の配列データ、約50塩基長の配列データ、約60塩基長の配列データ、約70塩基長の配列データ、約80塩基長の配列データ、約90塩基長の配列データ、約100塩基長の配列データ、約110塩基長の配列データ、約120塩基長の配列データ、約150塩基長の配列データ、約200塩基長の配列データ、約250塩基長の配列データ、約300塩基長の配列データ、約350塩基長の配列データ、約400塩基長の配列データ、約450塩基長の配列データ、約500塩基長の配列データ、約550塩基長の配列データ、約600塩基長の配列データ、約650塩基長の配列データ、約700塩基長の配列データ、またはそれ以上の塩基長の配列データを生成することができる。
【0023】
工程(6)では、工程(5)で得られた配列データを解析してウイルスを検出する。配列データの解析は、配列データ処理のため開発された各種プログラムを用いて行うことができる。配列データ処理は、通常、シーケンサーからのデータ群のインポート、配列データアダプターおよびプライマー等の余分な配列データのトリミング、低品質の配列領域の除去、リード配列データのアセンブリ、の各ステップを含む。リード配列データのアセンブリは、de-novoアセンブリ(参照するゲノムデータがない場合)とマッピング(参照するゲノムデータがある場合)の2つの方法に大別できるが、工程(6)ではいずれの方法も好適に実施することができる。
【0024】
本発明の方法は、従来法と比較して動物試料からのウイルス検出感度が向上していることが示された。特にヒトの臨床検体を使用した場合においても、同様にウイルスの検出感度が向上していることが示された。これにより、従来原因不明であった疾患患者の試料を用いて本発明の方法を実施することにより、新たなウイルスが検出され、病気との因果関係が解明されることが期待できる。また、本発明の方法は、比較的簡便な操作の工程を組み合わせたものであること、複数のサンプルを混合したプールサンプルを用いてもウイルスの検出が可能であることから、ハイスループットなウイルス検査を実施することを可能とするものである点で、非常に有用である。さらに、一本鎖RNAウイルスが本発明の方法により検出された場合、これらのウイルスが対象試料中で活動していることを意味している。これにより、ウイルスの複製場所の特定や、非活性状態のウイルスとの見分が可能となるという点で有用である。
【実施例
【0025】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0026】
1.材料および方法
<サンプル>
2017年6月から2019年2月の期間に、九州大学病院において57人の生体肝移植レシピエントを登録した(表1参照)。肝臓サンプルはこれらのレシピエントから取得した。すべてのレシピエントと患者からインフォームドコンセントを取得した。すべての研究は九州大学倫理委員会によって承認された。
【0027】
【表1】
【0028】
肺サンプルを取得するために、Pteropine orthoreovirus(PRV)のMiyazaki-Bali/2007 (MB)株による致死的マウス感染モデルを利用した(Kanai, Y. et al., Virology. 514, 57-65 (2018))。4週齢のオスのC3H/HeNCrl(C3H)マウス(日本クレア)に、リバースジェネティクスにより作製した組換えMiyazaki-Bali/2007(rsMB)株を鼻腔内感染させ(20μl(4×105 PFU))、このrsMB感染マウスから肺サンプルを取得した(Kawagishi, T. et al., PLoS Pathog. 12, e1005455 (2016))。マウス実験は、大阪大学微生物病研究所の動物研究委員会の承認、および日本の文部科学省の実験動物の管理と使用に関するガイドラインに従って実施された。真菌細胞を得るために、3つのRNAウイルスを含むMagnaporthe oryzae APU10-199A株の菌糸プラグをYGブイヨン(0.5%酵母エキス、2%グルコース)を用いて25℃で2週間振盪(60 rpm)しながらインキュベートした(Higashiura, Tomoya. et al., Virology. 535, 241-254 (2019))。
【0029】
すべての細胞株は、加湿雰囲気かつ5%CO2条件下、37℃で培養した。ヒト肝癌細胞株Huh7由来の細胞株Huh7.5.1はF. Chisari氏より分与された。Huh7.5.1は、100U/mlペニシリン100μg/mlストレプトマイシン(Sigma)、10%ウシ胎児血清(FBS)を含有するDMEM(ナカライテスク)を用いて維持した。初代ヒト肝細胞(PHH)であるPXB細胞(PhoenixBio)は、初代ヒト肝細胞を接種したウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子トランスジェニックSCIDマウスから分離された。初代ヒト肝細胞は、製造元のプロトコルに記載の培地で培養した。C型肝炎ウイルスJFH1株の全長cDNAをコードするpHH-JFH1は脇田博士(国立感染症研究所)から分与された(Masaki, T. et al., J. Virol. 84, 5824-35 (2010); Wakita, T. et al., Nat. Med. 11, 791-6 (2005))。pHH-JFH1-E2p7NS2mtは、pHH-JFH120に3つの適応突然変異が含まれている(Russel, R.S. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 105, 4370-5 (2008))。pHH-JFH1-E2p7NS2mtをHuh7.5.1細胞に導入し、連続継代後に上清中のHCVccを回収し、感染力価をフォーカス形成アッセイにより決定し、フォーカス形成単位(FFU)で表した。Huh7.5.1と初代ヒト肝細胞にHCVccを接種し、3日間インキュベートした。
【0030】
<シーケンスサンプル調製>
(1)本発明の方法用シーケンスサンプル調製
(1-1)核酸抽出および二本鎖RNA(dsRNA)の精製
岡田らの方法(Okada R. et al., J. Gen. Plant. Pathol. 81, 103-107 (2015))を改変してdsRNAを精製した(Urayama, S. et al., Microbes. Environ. 30, 199-203 (2015))。すなわち、バイオマッシャーII(ニッピ)を使用して、肝臓サンプルをフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール(PCI)(Nacalai Tesque)中で破壊し、全核酸を抽出した。抽出した全核酸をフェノール/クロロホルム抽出により2回精製した。続いてセルロース粉末(Cellulose D; ADVANTEC)を詰めたマイクロスピンカラム(empty Bio-spin column; Bio-Rad)を用いて二本鎖RNAを2回精製した。具体的には、フェノール/クロロホルム抽出により2回精製した全核酸溶液(16%エタノール含有STE(saline-tris-EDTA))をカラムに2回通し、16%エタノール含有STEにて洗浄後、エタノール不含STEで溶出する工程を2回行った。
【0031】
二本鎖RNA溶出液中に残存するrRNAを、RiboMinus Eukaryote System v2(Invitrogen)を用いて、製造元のプロトコルに従って除去した。残存rRNAを除去した二本鎖RNA溶出液を16%エタノール含有STEに調製し、上記と同じセルロース粉末を詰めたマイクロスピンカラムを用いて上記と同様に精製した。得られた二本鎖RNA溶出液に含まれる一本鎖RNAおよびDNAを除去するために、DNaseI(amplification grade, Invitrogen)およびS1ヌクレアーゼ(Invitrogen)を含むヌクレアーゼ緩衝液(最終濃度:90mM CH3COONa、15mM MgCl2、3mM ZnSO4、300mM NaCl)を添加して37℃で15分間インキュベートした。その後、ZymoClean Gel RNA Recovery Kit(ZymoResearch)を使用して、二本鎖RNAを精製した。
【0032】
(1-2)二本鎖RNA(dsRNA)の断片化およびcDNA合成
超音波照射装置コバリスS220(コバリス)を用いて、二本鎖RNAを約200 bpにせん断した。続いて、断片化した二本鎖RNAを95℃で3分間変性させた後、SMARTer Stranded Total RNA-Seq Kit v2-Pico Input Mammalian(TaKaRa/Clontech)を使用してランダムプライマーによるcDNA合成を行い、イルミナ社シーケンサー用ライブラリーを調製した。
【0033】
(2)FLDS法用シーケンスサンプル調製(対照サンプル)
上記(1-1)と同じ方法で二本鎖RNAを精製した後、Urayamaら(Mol Ecol Resour. 18, 1444-1455 (2018))に記載の方法でcDNAを取得した。すなわち、超音波により二本鎖RNAを断片化した二本鎖RNAの5'末端にU2プライマーを連結した。熱変性の後、SMARTer systemとU2-compプライマーを使用してcDNAを合成した。KOD-plus Neo(東洋紡)を使用してcDNAを増幅し、1.25×SPRIselect試薬キット(Beckman Coulter)を使用して精製した。
【0034】
(3)従来法(total RNA sequencing)法用シーケンスサンプル調製(対照サンプル)
TRIzol Plus RNA Purification Kit(Invitrogen)を使用して、製造業者のプロトコルに従ってトータルRNAを単離した。RNA画分をDNase I(増幅グレード、Invitrogen)で処理し、RNA Clean & Concentrator-5(Zymo Research)を使用して精製した。RiboMinus Eukaryote System v2(Invitrogen)を使用してrRNAを除去した。その後、SMARTer Stranded Total RNA-Seq Kit v2-Pico Input Mammalian(TaKaRa/Clontech)を使用してランダムプライマーによるcDNA合成を行い、イルミナ社シーケンサー用ライブラリーを調製した。
【0035】
<イルミナシーケンス、データのアセンブリおよびプロセシング>
MiSeqシステムおよびHiSeq3000システムを用いてペアエンドシーケンス(100bp×2)を実行した。シーケンスリードは、cutadapt 1.8.1を用いてダプターシーケンスをトリミングし、bwaを用いてiMetDBnt(ref)にマップした。各配列の分類情報は、BioRubyスクリプトによって割り当てられ、要約された。トリミングされたリードは、パラメーター(mismatch cost of 2、insertion/deletion cost of 3、length fraction of 0.8 および similarity fraction of 0.8)を使用して、CLC Genomics Workbenchバージョン11.0(CLC Bio)を使用してパブリックデータベースから取得したウイルス参照配列にマッピングした。新規RNAウイルスを検出するために、CLC Genomics Workbenchバージョン11.0(CLC Bio)とパラメーター(a minimum contig length of 500、word value set to auto および bubble size set to auto)を使用して、新規のコンティグのみを取得した。コンティグ配列は、BLASTX-plusを使用してNCBI non-redundantアミノ酸データベースと比較した。
【0036】
<系統樹解析>
PureLink RNA Mini Kit(Thermo Fisher Scientific)を使用して、レシピエント肝臓サンプルからトータルRNAを抽出した。PrimeScript RT Reagent Kit(Takara)を使用して、ファーストストランドcDNAを合成した。PrimeSTAR GXL DNA polymerase(Takara)を使用して、合成されたcDNAからHCVのNS5B領域配列を増幅した。NS5B遺伝子用のプライマーセットを以下のとおり設計した。
F1: CTACTTGCTCCGAGGAG(配列番号1)
R1: AGTCTTCCAGGAGGTCCTTC(配列番号2)
F2: GCCGTTAACCACATCAAGTC(配列番号3)
R2: ATACCTGGTCATAGCCTCCG(配列番号4)
F3: ATCTCAGAAAGCCAGGGGAC(配列番号5)
R3: ACCTTTCACAGCTAGCCGTGAC(配列番号6)
アガロースゲル電気泳動後に、Gel/PCR DNA Isolation System(VIOGENE)を使用して増幅産物を精製した。NS5B配列は、BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing KitとABI3130 Genetic Analyzer(Applied Biosystems)を使用したダイレクトシーケンスによって決定した。得られたNS5B配列を、Clustal Wを使用してアライメントした。Tajima-Neiモデルおよびrates among sitesのカンマ分布を使用したMEGA Xで、近隣の系統樹を推測した。
【0037】
2.実験結果
<実験1:本発明の方法と従来法の比較>
本発明の方法と、従来法であるFLDS法(以下「FLDS」と記す)およびトータルRNAからrRNAだけを除いてシーケンスを行う方法(以下「Total RNA-seq」と記す)の3種類の方法で、同じサンプルにおけるウイルスリードの検出力を比較した。結果を表2に示した。
【0038】
【表2】
【0039】
真菌サンプルの結果は、Total RNA-seqでは、合計488608リード中、ウイルスリードは22115リード(4.5%)であった。FLDSでは、合計812459リード中、ウイルスリードは447923リード(55.1%)であった。本発明の方法(図中「Modified dsRNA-seq」)では、合計926151リード中、ウイルスリードは242514リード(26.2%)であった。FLDSは、真菌サンプル中のウイルスリードを検出するのに効果的であった。本発明の方法も真菌サンプル中のウイルスリードの検出に有効であり、ウイルスリード検出率はTotal RNA-seqの5倍以上であった。
【0040】
HCVに感染した生体肝移植レシピエント登録患者1の肝臓サンプルの結果は、Total RNA-seqでは、合計1121844リード中、ウイルスリードは247リード(0.0%)であった。FLDSでは、合計235899リード中、ウイルスリードは214リード(0.1%)であった。本発明の方法(表中「Modified dsRNA-seq」)では、合計717978リード中、ウイルスリードは2953リード(0.4%)であった。この患者は、術前血液検査でHCV-RNAは5.2 log IU/mlであった。
【0041】
HCVに感染した生体肝移植レシピエント登録患者2の肝臓サンプルの結果は、Total RNA-seqでは、合計734937リード中、ウイルスリードは73リード(0.0%)であった。FLDSでは、合計338312リード中、ウイルスリードは229リード(0.1%)であった。本発明の方法(図中「Modified dsRNA-seq」)では、合計635743リード中、ウイルスリードは2464リード(0.4%)であった。この患者は、術前血液検査でHCV-RNAは6.2 log IU/mlであった。
【0042】
さらに、HCVゲノムの検出率を比較し、図1に示した。合計リードに対するHCVリードは、Total RNA-seqは患者1、2とも検出せず、FLDSは患者1が54リード(0.06%)、患者2が80リード(0.08%)、本発明の方法(図中「Modified dsRNA-seq」)は患者1が2889リード(0.4%)、患者2が2430リード(0.38%)であった。この結果から、本発明の方法は、FLDSと比較してヒト肝臓中のHCVゲノムの検出率が約10倍高いことが確認された。
【0043】
<実験2:マウス肺組織、培養細胞からのウイルスの検出>
本発明の方法を用いて、レオウイルスに感染したマウスの肺組織、HCV(JFH-1株)を接種したHuh7.5.1細胞およびHCV(JFH-1株)を接種した初代ヒト肝細胞からのウイルスの検出を試みた。HCVの検出に関しては、HCVを接種したHuh7.5.1細胞とHCVを接種した初代ヒト肝細胞をMixして核酸抽出を行った。結果を図2に示した。レオウイルス感染マウスの肺組織から同定されたレオウイルス配列リードはレオウイルスゲノムにマッピングされ、各ウイルスセグメントの全長をカバーした(図3)。HCV感染細胞から同定されたHCV配列リードはHCVゲノムにマッピングされ、HCVゲノムの全長をカバーした(図4)。
【0044】
<実験3:生体肝移植レシピエント登録患者の肝臓サンプルからのウイルスの検出>
(1)プールサンプルからのウイルスの検出
患者肝臓サンプルについて、表1に記載のように、2人分、3人分または4人分のサンプルを混合したプールサンプル調製して、本発明の方法によりウイルスの検出を試みた。各サンプルから得られた配列リードをNCBIヌクレオチドデータベースと比較し、トップヒットしたウイルスのライブラリーを構築した(表3参照)。いくつかのサンプルで検出されたヒト内在性レトロウイルスKは、試薬による汚染と考えられた。
【0045】
【表3】
【0046】
(2)HCVゲノムの検出
生体肝移植レシピエント登録患者のうち、11名は過去にHCV感染歴があり、そのうち9名の肝臓サンプルは術前血液検査でHCV-RNAが検出された(表4)。本発明の方法により、術前HCV-RNA陽性肝臓サンプルを含むプールサンプルからHCVリードが検出された(図5)。サンプルNo.13のプールサンプルから取得したHCVウイルスリードは主要なHCVゲノムにマッピングされ、3'-UTRの一部を除くHCV全長ゲノム全体を決定でき、配列カバー率は98%であった(図6)。
【0047】
【表4】
【0048】
(3)系統樹解析
サンプルNo.13のHCVゲノムの高カバレッジ領域からde novoアセンブリによって取得された4つのウイルスコンティグを参照配列と比較したところ、4つのコンティグはよくみられる遺伝子型とは異なる可能性があると考えられた。そこで、NS5B領域で系統樹解析を行った。結果を図7に示した。サンプルNo.13から得られたNS5B領域のHCV配列は、遺伝子型2aのカテゴリーに含まれていた。
【0049】
(4)HBVの検出
本発明の方法は、動物に感染したRNAウイルスを検出するために開発されたものであるが、興味深いことに、HBVに感染した生体肝移植レシピエント登録患者の肝臓サンプルから得られた配列リード分析で、DNAウイルスであるHBVが検出された。
【0050】
生体肝移植レシピエント登録患者のうち、8名は過去にHBV感染歴があり、そのうち5名の肝臓サンプルは術前血液検査でHBV-DNAが検出された(表5)。HBVリードは、サンプルNo.11のプールサンプルのみから検出された(図8)。HBVウイルスリードがマッピングされ、高カバレッジ領域はHBVゲノムの1400~1900 bpの周囲であった(図9)。高カバレッジ領域からde novoアセンブリによって取得されたウイルスコンティグがイプシロン領域を含む配列と一致することを見出した。イプシロン領域はdsRNA構造を有する二次構造を形成する(Nassal, M. et al., J. Virol. 70, 2764-2773 (1996))。したがって、本発明の方法は、dsRNA構造を形成するイプシロン領域を認識できると考えられた。
【0051】
【表5】
【0052】
なお本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
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