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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】無線通信装置
(51)【国際特許分類】
   H04B 7/0456 20170101AFI20240718BHJP
【FI】
H04B7/0456 120
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020146668
(22)【出願日】2020-09-01
(65)【公開番号】P2022041457
(43)【公開日】2022-03-11
【審査請求日】2023-08-01
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、総務省、「次世代映像素材伝送の実現に向けた高効率周波数利用技術に関する研究開発」に係わる委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100121119
【弁理士】
【氏名又は名称】花村 泰伸
(72)【発明者】
【氏名】鵜澤 史貴
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 史人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】中川 孝之
【審査官】齊藤 晶
(56)【参考文献】
【文献】特許第6328021(JP,B2)
【文献】国際公開第2017/010196(WO,A1)
【文献】光山 和彦 他,報告04 移動中継用1.2GHz/2.3GHz帯スーパーハイビジョンFPUの実現に向けた無線伝送技術,NHK技研R&D,日本放送協会,2024年09月,No.165,pp.54-67
【文献】Fumito ITO et al.,Performance Analysis of 4×4 TDD-SVD-MIMO System in Suburban Field Trial [online],GLOBECOM 2020 - 2020 IEEE Global Communications Conference,2020年12月,[令和6年6月12日検索],インターネット<URL:https://ieeexplore.ieee.org/document/9348151>,DOI: 10.1109/GLOBECOM42002.2020.9348151
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/0456
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信対象の情報ビットを各固有モードに振り分け、各固有モードの前記情報ビットを所定の変調方式にて変調し、所定の電力配分にて前記情報ビットの送信電力を配分し、MIMO伝送方式にて放送波を送信する第一の無線通信装置と、前記放送波を受信し、各固有モードの前記放送波の信号を復調し、前記情報ビットを復元する第二の無線通信装置とを備えて構成されるMIMO固有モード伝送システムの前記第二の無線通信装置において、
前記MIMO伝送方式の伝送路のチャネル行列を推定するチャネル情報推定部と、
前記放送波の信号を復調すると共に、各固有モードの変調誤差比である観測MERを算出する復調部と、
各固有モードの初期MERを算出する初期MER算出部と、
各固有モードの前記変調方式の組み合わせパターンであって、伝送レートが等しい組み合わせパターンのそれぞれについて、前記MIMO固有モード伝送システムにおいて前記送信電力を配分した後の変調誤差比と、所定のビット誤り率に対して予め設定された変調誤差比を示すMER閾値との間の差を示すMERマージンが、各固有モードにて等しくなるように、前記初期MER算出部により算出された各固有モードの前記初期MER、全ての前記固有モードの数を示す全固有モード数及び前記MER閾値に基づいて、各固有モードの前記電力配分を算出する電力配分算出部と、
前記変調方式の組み合わせパターンのそれぞれについて、前記電力配分算出部により算出された各固有モードの前記電力配分を用いて、各固有モードの前記MERマージンを算出するMERマージン算出部と、
前記MERマージン算出部により算出された各固有モードの前記MERマージンのうち、最も大きい前記MERマージンを持つ各固有モードの前記変調方式及び前記電力配分を、各固有モードへ割り当てる前記変調方式及び前記電力配分として決定する変調方式・電力決定部と、を備え、
前記初期MER算出部は、
前記チャネル情報推定部により推定された前記チャネル行列を特異値分解して得られた特異値を、所定のガウス雑音電力で除算し、各固有モードの換算MERを求める換算MER算出部と、
前記換算MER算出部により求めた各固有モードの前記換算MERについて前記固有モード間の差分を算出し、換算MER差分を求める換算MER差分算出部と、
前記変調方式・電力決定部により決定された各固有モードに割り当てる前記変調方式から、前記情報ビットの送信に使用した前記固有モードの数を使用固有モード数として判別する使用固有モード数判別部と、
前記変調方式・電力決定部により決定された各固有モードに割り当てる前記電力配分と、前記送信電力を全ての前記固有モードに等配分したときの予め設定された電力等配分比率との間の比を、各固有モードの電力配分補正値として算出する電力配分補正部と、
前記使用固有モード数判別部により判別された前記使用固有モード数及び前記全固有モード数に基づいて、各固有モードについて、前記復調部により算出された前記観測MERから前記電力配分補正部により算出された前記電力配分補正値を減算するか、または、前記観測MERから前記電力配分補正値を減算して前記換算MER差分算出部により算出された前記換算MER差分をさらに減算することで、前記初期MERを求める初期MER処理部と、を備え、
前記変調方式・電力決定部により決定された前記変調方式及び前記電力配分、または前記初期MER算出部により算出された前記初期MERを、前記第一の無線通信装置へ送信する、ことを特徴とする第二の無線通信装置。
【請求項2】
請求項1に記載の第二の無線通信装置において、
前記初期MER処理部は、
前記使用固有モード数と前記全固有モード数が同じである場合、各固有モードについて、前記観測MERから前記電力配分補正値を減算することで前記初期MERを求め、
前記使用固有モード数と前記全固有モード数が同じでない場合、前記情報ビットの送信に使用した前記使用固有モード数の前記固有モードについて、前記観測MERから前記電力配分補正値を減算することで前記初期MERを求め、前記情報ビットの送信に使用しなかった残りの前記固有モードについて、前記観測MERから前記電力配分補正値を減算して前記換算MER差分をさらに減算することで、前記初期MERを求める、ことを特徴とする第二の無線通信装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の第二の無線通信装置において、
前記第一の無線通信装置と当該第二の無線通信装置が時分割複信(TDD)を用いた双方向通信を行い、前記双方向通信の1サイクルをTDDフレームとして、
前記初期MER算出部が今回の前記TDDフレームにおける各固有モードの前記初期MERを算出する際に、
前記復調部は、
前回の前記TDDフレームにおける各固有モードの前記観測MERを算出し、
前記換算MER算出部は、
前回の前記TDDフレームにおいて推定された前記チャネル行列を特異値分解して得られた前記特異値を、前記ガウス雑音電力で除算し、前回の前記TDDフレームにおける各固有モードの前記換算MERを求め、
前記換算MER差分算出部は、
前回の前記TDDフレームにおける各固有モードの前記換算MERについて前記固有モード間の差分を算出し、前回の前記TDDフレームにおける前記換算MER差分を求め、
前記使用固有モード数判別部は、
前回の前記TDDフレームにおいて決定された各固有モードに割り当てる前記変調方式から、前回の前記TDDフレームにおける前記使用固有モード数を判別し、
前記電力配分補正部は、
前回の前記TDDフレームにおいて決定された各固有モードに割り当てる前記電力配分と前記電力等配分比率との間の比を、前回の前記TDDフレームにおける各固有モードの前記電力配分補正値として算出し、
前記初期MER処理部は、
前回の前記TDDフレームにおける前記使用固有モード数及び前記全固有モード数に基づいて、各固有モードについて、前回の前記TDDフレームにおける前記観測MERから前回の前記TDDフレームにおける前記電力配分補正値を減算するか、または、前回の前記TDDフレームにおける前記観測MERから前回の前記TDDフレームにおける前記電力配分補正値を減算して前回の前記TDDフレームにおける前記換算MER差分をさらに減算することで、今回の前記TDDフレームにおける前記初期MERを求める、ことを特徴とする第二の無線通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MIMO(Multiple Input and Multiple Output:多入力多出力)固有モード伝送システムに係り、特に、各固有モードへ割り当てる最適な変調ビット数の組み合わせ及び送信電力の配分を、適応的に決定する無線通信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、周波数帯域幅を変えることなく伝送容量を飛躍的に増大させる手段として、送信局及び受信局のそれぞれにおいて複数のアンテナを利用するMIMO技術が注目されている。MIMO技術は、同一チャネル内で、複数のサブストリームを空間的に多重し並列伝送することで、伝送容量を増大させることが特徴である。
【0003】
単方向通信のMIMOシステムでは、送信側が伝送路の情報(以下、チャネル情報という。)を得ることができないため、空間多重された信号を受信側の検出器が分離しなければならない。また、同システムでは、送信アンテナ毎に1つのサブストリームを割り当てることが一般的であり、各サブストリームへ割り当てる電力は、配分比率を変えることなく常に等しくすることが、変動する伝送路において理論上最適とされる。
【0004】
一方、双方向通信のMIMOシステムでは、単に送信アンテナ毎にサブストリームを割り当てるのではなく、サブストリーム毎に複数のアンテナを送信アレーとして利用し、伝送路の状況に応じて適切なビームを形成して送信する。これにより、単方向通信のMIMOシステムでは実現できない、より効率的な伝送特性を達成することができる。
【0005】
最適な送受信ビームは、チャネル情報を数値化したチャネル行列を特異値分解(SVD:Singular Value Decomposition)し、その右特異行列を送信ビーム形成のための送信ウェイトとして用い、左特異行列を受信ビーム形成のための受信ウェイトとして用いることで形成される。
【0006】
送信アンテナ数をN、受信アンテナ数をM、M×N次のチャネル行列をHとすると、チャネル行列Hは、以下のように特異値分解される。
[数1]
H=UΣVH ・・・(1)
UはM×K次の左特異行列、Σはチャネル行列Hの特異値を要素とするK×K次の対角行列(特異値行列)、VはN×K次の右特異行列である。Kはチャネル行列Hのランクである。M,N,Kは正の整数である。
【0007】
前記式(1)に示すとおり、チャネル行列Hを特異値分解し、その右特異行列Vを送信ウェイトFとして用い、左特異行列Uの複素共役転置を受信ウェイトGとして用いることで、仮想的に直交するK個のチャネルに分離することができる。直交する各チャネルは固有モードと呼ばれ、この手法を用いたMIMO伝送方式は固有モード伝送方式と呼ばれる。
【0008】
送信ウェイトFは、各固有モードへの電力配分は等しいものとして扱われる。しかし、伝搬環境に応じて各固有モードのシンボルに割り当てる変調ビット数(変調方式)と共に、送信電力の配分を適応的に変えることにより、伝送容量の増大や、ビット誤り率(BER:Bit Error Rate)特性の向上を図ることが可能である。
【0009】
ところで、伝送容量を最大化するため、またはビット誤り率を最小化するため、各固有モードへ割り当てる変調ビット数と送信電力を適応的に制御する手法が提案されている(例えば、特許文献1,2及び非特許文献1を参照)。特許文献1の手法は、注水定理に基づく適応制御方式であり、チャネル行列H等に基づいた連立方程式を解くことで固有値を求め、この固有値を、例えば送信電力を割り当てるための重みとして用いるものである。また、特許文献2及び非特許文献1の手法は、注水定理を用いない制御方式であり、ビット誤り率の近似式を最小化するための変調方式の組み合わせ及び送信電力の配分について探索するものである。
【0010】
しかしながら、特許文献1の手法では、割り当てる変調ビット数が離散的な組み合わせのみの場合に、伝送特性の観点及びハードウェア実装の容易さの観点で十分でないという問題があった。また、特許文献2及び非特許文献1の手法では、全ての変調方式の組み合わせ及び送信電力の配分について探索する必要があり、しかも、最適化の判断のために総スループット等を計算する必要があるため、演算量が多く処理負荷が高いという問題があった。
【0011】
そこで、これらの問題を解決するための手法が提案されている(例えば、特許文献3を参照)。この特許文献3の手法は、伝送レートを一定とした条件でビット誤り率を最小化するための、各固有モードに割り当てる変調ビット数の組み合わせ及び送信電力の配分を、少ない演算量で容易に求めるものである。
【0012】
具体的には、特許文献3の無線通信装置は、送信電力を固有モード毎に等しく配分したときの変調誤差比(MER)を初期MERμkとして取得する。kは固有モードの番号であり、正の整数である。初期MERμkと、各変調ビット数で所定のビット誤り率を得られるMER(MER閾値μL k)との間の差をMERマージンΔμkとする。
【0013】
無線通信装置は、このMERマージンΔμkが各固有モードで等しくなるように、各固有モードに割り当てる変調ビット数の組み合わせ(変調方式の組み合わせパターン番号b)及び送信電力の配分(電力配分比率Pk)を求める。
【0014】
固有モードの数をK(正の整数)とし、固有モード毎の電力配分比率Pkの合計を1として、送信電力配分後の各固有モードの変調誤差比(デシベル表記、電力配分後MER)は、以下の式で表される。
[数2]
μ^k=μk+10logKPk ・・・(2)
【0015】
各固有モードのMERマージンΔμk(デシベル表記)は、電力配分後MERμ^kからMER閾値μL kを減算することで得ることができ、以下の式で表される。
[数3]
Δμk=μ^k-μL k ・・・(3)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】特開2001-237751号公報
【文献】特開2005-252834号公報
【文献】特許第6328021号公報
【非特許文献】
【0017】
【文献】K. Miyashita, et al., “High data-rate transmission with eigenbeam-space division multiplexing (E-SDM) in a MIMO channel,”IEEE VTC Fall, Sept. 2002, pp. 1302-1306.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、前述の特許文献3の手法において、初期MERμkの取得精度が低い場合には、MERマージンΔμkを正しく算出することができない。このため、各固有モードに割り当てる変調ビット数の組み合わせ及び送信電力の配分を精度高く決定することができず、結果として伝送特性が劣化する、という問題があった。
【0019】
例えば、前述の特許文献3における初期MERμkの取得手法の一例として、前記式(1)により得られるチャネル行列Hの特異値の平方が、固有モード伝送における各固有モードのチャネル利得を表すことを利用するものがある(特許文献3の段落58)。具体的には、無線通信装置は、チャネル行列Hの特異値を算出し、特異値の平方を、別途推定したガウス雑音電力で除算し、除算結果の値をMERに換算することにより、初期MERμkを算出する。
【0020】
この手法により得られる初期MERμkは、チャネル行列Hの特異値を単に換算したものであり、あくまでも換算値である。このため、MIMO復調時の伝送品質の劣化、またはADC(アナログデジタル変換器)若しくは高周波部におけるSNRの飽和等による劣化が初期MERμkへ反映されず、実際の初期MERμkの値が小さくなることがある。そして、この手法により得られる送信電力の配分では、各固有モードのMERマージンΔμkが等しくならず、伝送特性が劣化してしまう。
【0021】
また、前述の特許文献3における初期MERμkの取得手法の他の例として、実際にトレーニング信号を用いて等電力配分時のMERを通信中に測定し、この値を初期MERμkとするものがある(特許文献3の段落59)。具体的には、送信側の無線通信装置は、各固有モードの送信電力を等電力に配分し、トレーニング信号の放送波を送信する。受信側の無線通信装置は、トレーニング信号の放送波を受信することで、各固有モードのMERを測定する。そして、送信側の無線通信装置は、受信側の無線通信装置から別途の伝送路を介して各固有モードのMERを受信することで、各固有モードの初期MERμkを取得する。
【0022】
この手法によれば、トレーニング信号を用いて実際のMERを測定することから、ADCまたは高周波部におけるSNRの飽和等による劣化を反映した初期MERμkを得ることができる。つまり、前述の手法よりも精度の高い初期MERμkを得ることができる。
【0023】
しかしながら、トレーニング信号を用いた手法では、MIMO復調をすることなくMERを測定することから、MIMO復調による特性の劣化を考慮することができない。また、実際に伝送するデータ信号とは別にトレーニング信号を準備する必要があるため、時間あたりのデータ伝送の時間(時間利用効率)が小さくなり、伝送レートが低下してしまう。
【0024】
このように、前述の特許文献3の手法では、初期MERμkの取得精度が低くなり、MERマージンΔμkを正しく算出することができない。つまり、前述の特許文献3の手法では、各固有モードに割り当てる変調ビット数の組み合わせ及び送信電力の配分を精度高く決定することができず、伝送特性が劣化する、という問題があった。
【0025】
そこで、本発明は前記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、MIMO固有モード伝送システムにおいて、伝送レートを一定とした条件でビット誤り率を最小化するための変調ビット数の組み合わせ及び送信電力の配分を決定する際に、精度の高い初期MERを算出可能な無線通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
前記課題を解決するために、請求項1の無線通信装置は、送信対象の情報ビットを各固有モードに振り分け、各固有モードの前記情報ビットを所定の変調方式にて変調し、所定の電力配分にて前記情報ビットの送信電力を配分し、MIMO伝送方式にて放送波を送信する第一の無線通信装置と、前記放送波を受信し、各固有モードの前記放送波の信号を復調し、前記情報ビットを復元する第二の無線通信装置とを備えて構成されるMIMO固有モード伝送システムの前記第二の無線通信装置において、前記MIMO伝送方式の伝送路のチャネル行列を推定するチャネル情報推定部と、前記放送波の信号を復調すると共に、各固有モードの変調誤差比である観測MERを算出する復調部と、各固有モードの初期MERを算出する初期MER算出部と、各固有モードの前記変調方式の組み合わせパターンであって、伝送レートが等しい組み合わせパターンのそれぞれについて、前記MIMO固有モード伝送システムにおいて前記送信電力を配分した後の変調誤差比と、所定のビット誤り率に対して予め設定された変調誤差比を示すMER閾値との間の差を示すMERマージンが、各固有モードにて等しくなるように、前記初期MER算出部により算出された各固有モードの前記初期MER、全ての前記固有モードの数を示す全固有モード数及び前記MER閾値に基づいて、各固有モードの前記電力配分を算出する電力配分算出部と、前記変調方式の組み合わせパターンのそれぞれについて、前記電力配分算出部により算出された各固有モードの前記電力配分を用いて、各固有モードの前記MERマージンを算出するMERマージン算出部と、前記MERマージン算出部により算出された各固有モードの前記MERマージンのうち、最も大きい前記MERマージンを持つ各固有モードの前記変調方式及び前記電力配分を、各固有モードへ割り当てる前記変調方式及び前記電力配分として決定する変調方式・電力決定部と、を備え、前記初期MER算出部が、前記チャネル情報推定部により推定された前記チャネル行列を特異値分解して得られた特異値を、所定のガウス雑音電力で除算し、各固有モードの換算MERを求める換算MER算出部と、前記換算MER算出部により求めた各固有モードの前記換算MERについて前記固有モード間の差分を算出し、換算MER差分を求める換算MER差分算出部と、前記変調方式・電力決定部により決定された各固有モードに割り当てる前記変調方式から、前記情報ビットの送信に使用した前記固有モードの数を使用固有モード数として判別する使用固有モード数判別部と、前記変調方式・電力決定部により決定された各固有モードに割り当てる前記電力配分と、前記送信電力を全ての前記固有モードに等配分したときの予め設定された電力等配分比率との間の比を、各固有モードの電力配分補正値として算出する電力配分補正部と、前記使用固有モード数判別部により判別された前記使用固有モード数及び前記全固有モード数に基づいて、各固有モードについて、前記復調部により算出された前記観測MERから前記電力配分補正部により算出された前記電力配分補正値を減算するか、または、前記観測MERから前記電力配分補正値を減算して前記換算MER差分算出部により算出された前記換算MER差分をさらに減算することで、前記初期MERを求める初期MER処理部と、を備え、前記変調方式・電力決定部により決定された前記変調方式及び前記電力配分、または前記初期MER算出部により算出された前記初期MERを、前記第一の無線通信装置へ送信する、ことを特徴とする。
【0027】
また、請求項2の無線通信装置は、請求項1に記載の第二の無線通信装置において、前記初期MER処理部が、前記使用固有モード数と前記全固有モード数が同じである場合、各固有モードについて、前記観測MERから前記電力配分補正値を減算することで前記初期MERを求め、前記使用固有モード数と前記全固有モード数が同じでない場合、前記情報ビットの送信に使用した前記使用固有モード数の前記固有モードについて、前記観測MERから前記電力配分補正値を減算することで前記初期MERを求め、前記情報ビットの送信に使用しなかった残りの前記固有モードについて、前記観測MERから前記電力配分補正値を減算して前記換算MER差分をさらに減算することで、前記初期MERを求める、ことを特徴とする。
【0028】
また、請求項3の無線通信装置は、請求項1または2に記載の第二の無線通信装置において、前記第一の無線通信装置と当該第二の無線通信装置が時分割複信(TDD)を用いた双方向通信を行い、前記双方向通信の1サイクルをTDDフレームとして、前記初期MER算出部が今回の前記TDDフレームにおける各固有モードの前記初期MERを算出する際に、前記復調部が、前回の前記TDDフレームにおける各固有モードの前記観測MERを算出し、前記換算MER算出部が、前回の前記TDDフレームにおいて推定された前記チャネル行列を特異値分解して得られた前記特異値を、前記ガウス雑音電力で除算し、前回の前記TDDフレームにおける各固有モードの前記換算MERを求め、前記換算MER差分算出部が、前回の前記TDDフレームにおける各固有モードの前記換算MERについて前記固有モード間の差分を算出し、前回の前記TDDフレームにおける前記換算MER差分を求め、前記使用固有モード数判別部が、前回の前記TDDフレームにおいて決定された各固有モードに割り当てる前記変調方式から、前回の前記TDDフレームにおける前記使用固有モード数を判別し、前記電力配分補正部が、前回の前記TDDフレームにおいて決定された各固有モードに割り当てる前記電力配分と前記電力等配分比率との間の比を、前回の前記TDDフレームにおける各固有モードの前記電力配分補正値として算出し、前記初期MER処理部が、前回の前記TDDフレームにおける前記使用固有モード数及び前記全固有モード数に基づいて、各固有モードについて、前回の前記TDDフレームにおける前記観測MERから前回の前記TDDフレームにおける前記電力配分補正値を減算するか、または、前回の前記TDDフレームにおける前記観測MERから前回の前記TDDフレームにおける前記電力配分補正値を減算して前回の前記TDDフレームにおける前記換算MER差分をさらに減算することで、今回の前記TDDフレームにおける前記初期MERを求める、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
以上のように、本発明によれば、MIMO固有モード伝送システムにおいて、伝送レートを一定とした条件でビット誤り率を最小化するための変調ビット数の組み合わせ及び送信電力の配分を決定する際に、精度の高い初期MERを算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】(1)は、伝送システムの全体構成例を示す図である。(2)は、無線通信装置の時系列の動作を説明する図である。
図2】実施例1の無線通信装置の構成例を示すブロック図である。
図3】受信側の無線通信装置に備えた初期MER・ビット電力処理部の構成例を示すブロック図である。
図4】初期MER・ビット電力処理部の処理例を示すフローチャートである。
図5】初期MER算出部の構成例を示すブロック図である。
図6】初期MER算出部の処理例を示すフローチャートである。
図7】1シンボルあたり合計8ビットを伝送する変調方式の組み合わせの例を示す図である。
図8】初期MERμkの算出例を説明する図である。
図9】固有モード数K=4、合計変調ビット数16の場合のビット配分パターンの例を示す図である。
図10】初期MERμk及び変調方式の組み合わせパターン番号b1,b2,b3の場合の電力配分比率Pk等の例を示す図である。
図11】実施例2の無線通信装置の構成例を示すブロック図である。
図12】送信側の無線通信装置に備えたビット電力処理部の構成例を示すブロック図である。
図13】受信側の無線通信装置に備えた初期MER・ビット電力処理部の構成例を示すブロック図である。
図14】実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて詳細に説明する。
〔伝送システム〕
図1(1)は、伝送システムの全体構成例を示す図であり、図1(2)は、無線通信装置の時系列の動作を説明する図である。この伝送システム1は、無線通信装置2,3の間の双方向通信をMIMO固有モードにて行うシステムである。
【0032】
無線通信装置2,3は、時分割複信(TDD:Time Division Duplex)を用いてMIMO伝送方式による双方向通信を行うものとする。また、MIMO固有モード伝送におけるフィードバックの単位時間をt(=1,2,3,・・・)とする。図1(2)に示すように、無線通信装置2,3による双方向通信の1サイクルの送受信処理を1TDDフレームとし、TDDフレーム毎にt=1,2,3,・・・とカウントされるものとする。
【0033】
1サイクルの送受信処理は、t番目のTDDフレームにおいて、(第一の)無線通信装置2の送信処理(ステップS101)、(第二の)無線通信装置3の受信処理(ステップS102)及び送信処理(ステップS103)、並びに無線通信装置2の受信処理(ステップS104)からなる。
【0034】
無線通信装置2は、t番目のTDDフレームのステップS101の送信処理において、各固有モードのビット配分及び電力配分が行われていない既知のパイロット信号、及び、各固有モードのビット配分及び電力配分が行われたデータ信号等を生成して無線通信装置3へ送信する。
【0035】
無線通信装置3は、t番目のTDDフレームのステップS102の受信処理において、無線通信装置2からパイロット信号及びデータ信号等を受信し、パイロット信号からチャネル行列Hの特異値を算出すると共に、データ信号から観測MER(MERobs[k])を算出する。kは固有モードの番号である。そして、無線通信装置3は、チャネル行列Hの特異値に基づいて受信ウェイトGを算出する。
【0036】
無線通信装置3は、チャネル行列Hの特異値及び観測MER(MERobs[k])等に基づいて初期MERμkを算出する。そして、無線通信装置3は、伝送レートを一定とした条件でビット誤り率を最小化するための最適な変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkを決定する。
【0037】
無線通信装置3は、t番目のTDDフレームのステップS103の送信処理において、後述する実施例1ではチャネル行列H、変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkをフィードバック情報として、無線通信装置2へ送信する。また、無線通信装置3は、後述する実施例2ではチャネル行列H及び初期MERμkをフィードバック情報として、無線通信装置2へ送信する。
【0038】
無線通信装置2は、t番目のTDDフレームのステップS104の受信処理において、無線通信装置3から、後述する実施例1ではチャネル行列H、変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkを受信し、後述する実施例2ではチャネル行列H及び初期MERμkを受信する。そして、無線通信装置2は、チャネル行列Hの特異値に基づいて送信ウェイトFを算出する。
【0039】
無線通信装置2は、(t+1)番目のTDDフレームのステップS101の送信処理において、後述する実施例1では、変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkに基づいて、各固有モードのビット配分及び電力配分が行われたデータ信号を生成する。そして、無線通信装置2は、固有モード毎のビット配分及び電力配分が行われていない既知のパイロット信号、及び、固有モード毎のビット配分及び電力配分が行われたデータ信号等を無線通信装置3へ送信する。
【0040】
一方、無線通信装置2は、後述する実施例2では、初期MERμk等に基づいて、最適な変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkを決定する。そして、無線通信装置2は、変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkに基づいて、固有モード毎のビット配分及び電力配分が行われたデータ信号を生成する。無線通信装置2は、固有モード毎のビット配分及び電力配分が行われていない既知のパイロット信号、及び、固有モード毎のビット配分及び電力配分が行われたデータ信号等を無線通信装置3へ送信する。
【0041】
〔実施例1〕
まず、実施例1について説明する。実施例1は、図1に示した伝送システム1において、無線通信装置3が初期MERμkを算出し、最適な変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkを決定し、無線通信装置2が無線通信装置3から変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkを受信し、データ信号のビット配分及び電力配分を行う例である。
【0042】
図2は、実施例1の無線通信装置2,3の構成例を示すブロック図である。この伝送システム1aは、無線通信装置2a,3aを備えて構成され、TDD及び固有モード伝送方式を実現する一般的なN×M次のMIMOシステムの機能構成ブロックを示している。図2においては、K個のチャネルの固有モードが形成されるものとする。固有モードの数はKであり、1以上の整数である。N,Mは2以上の整数である。
【0043】
図2には、本発明に直接関連する構成部のみを示しており、直接関連しない構成部は省略してある。以下、無線通信装置2aを送信側の無線通信装置2aとし、無線通信装置3aを受信側の無線通信装置3aとして説明する。
【0044】
(無線通信装置2a/送信側/実施例1)
無線通信装置2aは、S/P(シリアル/パラレル)変換部21、ビット電力入出力部22a、変調・電力配分部23、特異値分解部26、送信ウェイト部27、パイロット挿入部28-1~28-N及びN本の送信アンテナ29を備えている。変調・電力配分部23は、変調部24-1~24-K及び電力配分部25を備えている。
【0045】
S/P変換部21は、送信対象の情報ビット系列を入力し、シリアルの情報ビット系列をパラレルのサブストリームの情報ビットに変換して振り分け、K系統のサブストリームの情報ビットを、変調・電力配分部23の変調部24-1~24-Kにそれぞれ出力する。
【0046】
ここで、Kは全ての固有モードの数を示す。この固有モード数(全固有モード数)Kは、NとMの数値のうちの小さい方に等しく、K=min(N,M)である。尚、MIMO固有モード伝送方式においては、サブストリームは固有モードと同義である。以下、独立した直交するサブストリームを固有モードと称して説明する。
【0047】
ビット電力入出力部22aは、図示しない受信部から変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkを入力し、入力した変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkをそのまま変調・電力配分部23に出力する。
【0048】
ここで、図示しない受信部は、無線通信装置3aから伝送路(無線通信路または有線通信路)を介して、チャネル行列H、変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkを受信する。そして、図示しない受信部は、チャネル行列Hを特異値分解部26に出力すると共に、変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkをビット電力入出力部22aに出力する。
【0049】
変調部24-1~24-Kは、S/P変換部21からサブストリームの情報ビット(固有モードの情報ビット)をそれぞれ入力し、独立に変調処理を行い、変調処理後の情報ビットを電力配分部25に出力する。
【0050】
この場合、変調部24-1~24-Kは、変調処理を行う前に、ビット電力入出力部22aから変調方式の組み合わせパターン番号bを入力し、例えば、変調方式の組み合わせパターン番号bと変調方式とが定義されたテーブル(後述する図7を参照)を用いて、変調方式の組み合わせパターン番号bが示す当該変調部24-1~24-Kに対応する変調方式を特定する。
【0051】
電力配分部25は、変調部24-1~24-Kから各有モードの変調処理後の情報ビットを入力すると共に、ビット電力入出力部22aから各固有モードの電力配分比率Pkを入力する。そして、電力配分部25は、各固有モードの情報ビットに対し、当該電力配分比率Pkに相当する重みをそれぞれ乗算する。電力配分部25は、各固有モードの乗算後(電力配分後)の情報ビットを送信ウェイト部27に出力する。
【0052】
特異値分解部26は、図示しない受信部からチャネル行列Hを入力し、前記式(1)のとおり、チャネル行列Hを特異値分解して右特異行列Vを求め、右特異行列Vを送信ウェイトFとし、送信ウェイトFを送信ウェイト部27に出力する。
【0053】
尚、特異値分解部26は、図示しない受信部から、無線通信装置3aから送信された(フィードバックされた)チャネル行列Hを入力するようにした。これに対し、図示しないチャネル推定部は、チャネル相反性を用いてチャネル行列Hを推定するようにしてもよい。
【0054】
送信ウェイト部27は、電力配分部25から各固有モードの電力配分後の情報ビットを入力すると共に、特異値分解部26から送信ウェイトFを入力する。そして、送信ウェイト部27は、情報ビットに送信ウェイトFを乗算し、N本の送信アンテナ29のそれぞれに対応した送信アンテナ系統毎の信号を生成する。そして、送信ウェイト部27は、送信アンテナ系統毎の信号をパイロット挿入部28-1~28-Nに出力する。
【0055】
パイロット挿入部28-1~28-Nは、送信ウェイト部27から送信アンテナ系統毎の信号を入力し、送信アンテナ系統毎の信号に対し、送信アンテナ系統毎に等電力となる予め設定されたパイロット信号を挿入する。
【0056】
これにより、固有モード毎に直交した固有ビームが生成される。また、パイロット挿入部28-1~28-Nにより等電力のパイロット信号が挿入された送信アンテナ系統毎の信号の放送波は、送信アンテナ系統毎に送信アンテナ29を介して送信される。
【0057】
このように、後述する無線通信装置3aにより決定された変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkが反映され、変調処理及び電力配分処理が行われた各固有モードのデータ信号が、無線通信装置2aから放送波として送信される。
【0058】
(無線通信装置3a/受信側/実施例1)
無線通信装置3aは、M本の受信アンテナ31、チャネル情報推定部32、特異値分解部33、受信ウェイト部34、復調部35、P/S変換部36及び初期MER・ビット電力処理部37aを備えている。復調部35は、復調部35-1~35-Kを備えている。
【0059】
無線通信装置3aは、無線通信装置2から送信された放送波を、M本の受信アンテナ31を介して受信する。チャネル情報推定部32は、M本の受信アンテナ31のそれぞれに対応した受信アンテナ系統毎の放送波の信号を入力し、放送波の信号からパイロット信号を抽出し、パイロット信号に基づいて伝送路のチャネル情報を推定し、チャネル行列Hを求める。そして、チャネル情報推定部32は、チャネル行列Hを特異値分解部33に出力すると共に、図示しない送信部に出力する。
【0060】
特異値分解部33は、チャネル情報推定部32からチャネル行列Hを入力し、前記式(1)のとおり、チャネル行列Hを特異値分解して特異値行列Σ及び左特異行列Uを求める。そして、特異値分解部33は、左特異行列Uを受信ウェイトGとし、受信ウェイトGを受信ウェイト部34に出力すると共に、特異値行列Σを初期MER・ビット電力処理部37aに出力する。
【0061】
受信ウェイト部34は、M本の受信アンテナ31のそれぞれに対応した受信アンテナ系統毎の放送波の信号を入力すると共に、特異値分解部33から受信ウェイトGを入力する。そして、受信ウェイト部34は、受信アンテナ系統毎の信号に受信ウェイトGを乗算し、各固有モードの情報ビットを生成する。これにより、固有モード毎に送信された信号が、理想的には干渉を受けることなく検出される。そして、受信ウェイト部34は、各固有モードの情報ビットを復調部35-1~35-Kに出力する。
【0062】
復調部35-1~35-Kは、受信ウェイト部34から対応する固有モードの情報ビットをそれぞれ入力し、対応する変調部24-1~24-Kと同じ変調方式にて独立に復調処理を行うことで情報ビットを復元し、各固有モードの復調処理後の情報ビットをP/S変換部36に出力する。
【0063】
復調部35-1~35-Kは、固有モード毎に、情報ビットに基づいて変調誤差比を算出し、これを観測MER(MERobs[k])として初期MER・ビット電力処理部37aに出力する。観測MER(MERobs[k])は、無線通信装置2aから送信された実際の伝送信号から得られた電力配分後の固有モードの変調誤差比である。
【0064】
尚、復調部35-1~35-Kは、送信側の無線通信装置2aに備えた変調部24-1~24-Kにて使用した変調方式を、送信側の無線通信装置2aから受信したヘッダ等の制御情報から得て保持しているものとする。
【0065】
P/S変換部36は、復調部35-1~35-Kから各固有モードの情報ビットを入力し、K系統の情報ビットをシリアルの情報ビット系列に変換し、元の情報ビット系列として出力する。
【0066】
このように、送信側の無線通信装置2aから送信された放送波が、受信アンテナ31にて受信され、各固有モードのサブストリームに復元され、元の情報ビット系列に復元される。
【0067】
初期MER・ビット電力処理部37aは、特異値分解部33から特異値行列Σを入力すると共に、復調部35-1~35-Kから観測MER(MERobs[k])を入力する。そして、初期MER・ビット電力処理部37は、特異値行列Σ及び観測MER(MERobs[k])等に基づいて初期MERμkを算出し、初期MERμk等に基づいて最適な変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkを決定する。
【0068】
ここで、最適な変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkとは、無線通信装置2aから送信される情報ビットの伝送レートが一定(固定)の条件下において、各固有モードの電力配分後のMERマージンΔμkが等しくかつ最大のときのデータであって、ビット誤り率を最小化するデータである。
【0069】
MERマージンΔμkは、前記式(3)のとおり、電力配分後MERμ^kから、所定のビット誤り率に対して予め設定された変調誤差比を示すMER閾値μL kを減算して得られるデータであり、その値が大きいほどビット誤り率が低いことを意味する。
【0070】
初期MER・ビット電力処理部37aは、変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkを、図示しない送信部に出力する。初期MER・ビット電力処理部37aの詳細については後述する。
【0071】
ここで、図示しない送信部は、チャネル情報推定部32からチャネル行列Hを入力すると共に、初期MER・ビット電力処理部37aから変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkを入力する。そして、図示しない送信部は、チャネル行列H、変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkを、伝送路(無線通信路または有線通信路)を介して無線通信装置2aへ送信する。
【0072】
このように、初期MER・ビット電力処理部37aにより、各固有モードの電力配分後のMERマージンΔμkが等しくかつ最大のときの変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkが、ビット誤り率を最小化する際の各固有モードのデータとして決定される。そして、変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkは、無線通信装置2aへ送信され、変調処理及び電力配分処理が行われ、無線通信装置2aから、変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkが反映された放送波が送信される。
【0073】
(初期MER・ビット電力処理部37a/実施例1)
次に、図2に示した無線通信装置3aに備えた初期MER・ビット電力処理部37aについて詳細に説明する。
【0074】
図3は、受信側の無線通信装置3aに備えた初期MER・ビット電力処理部37aの構成例を示すブロック図であり、図4は、初期MER・ビット電力処理部37aの処理例を示すフローチャートである。
【0075】
この初期MER・ビット電力処理部37aは、初期MER算出部41、電力配分算出部42、MERマージン算出部43及び変調方式・電力決定部44を備えている。前述のとおり、初期MER・ビット電力処理部37aは、無線通信装置2aから送信される情報ビットの伝送レートが一定(固定)の条件下において、各固有モードの電力配分後のMERマージンΔμkが等しくかつ最大のときの変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkを、ビット誤り率を最小化する際の各固有モードの変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkとして決定する。
【0076】
(初期MER算出部41)
初期MER算出部41は、特異値分解部33から特異値行列Σを入力すると共に、復調部35-1~35-Kから観測MER(MERobs[k])を入力する。また、初期MER算出部41は、変調方式・電力決定部44から変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkを入力する。
【0077】
初期MER算出部41は、t番目のTDDフレームにおいて、(t-1)番目のTDDフレームの特異値行列Σ、観測MER(MERobs[k])、変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkに基づいて、各固有モードの初期MERμk(=μ1,・・・,μK)を算出する(ステップS401)。この初期MERμkは、t番目のTDDフレームにおける変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkを決定するために用いられる。
【0078】
図5は、初期MER算出部41の構成例を示すブロック図であり、図6は、初期MER算出部41の処理例を示すフローチャートである。
【0079】
この初期MER算出部41は、換算MER算出部51、換算MER差分算出部52、使用固有モード数判別部53、電力配分補正部54及び初期MER処理部55を備えている。以下、t番目のTDDフレームにおける変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkを決定するための初期MERμkの算出処理について説明する。固有モード数K=4とし、MER等はデシベル(対数)表記とする。
【0080】
初期MER算出部41は、(t-1)番目のTDDフレームの特異値行列Σ、変調方式の組み合わせパターン番号b、観測MER(MERobs[k])及び電力配分比率Pkを入力する(ステップS601)。
【0081】
換算MER算出部51は、特異値行列Σを入力し、特異値行列Σの各固有モードの要素(特異値)λ[k](k=1,2,3,4)を、別途推定されたガウス雑音電力で除算し、各固有モードの換算MER(MERconv[k])を求める(ステップS602)。そして、換算MER算出部51は、換算MER(MERconv[k])を換算MER差分算出部52に出力する。
【0082】
具体的には、換算MER算出部51は、以下の式にて、平均C/Nを4で除算した値(デシベル値で表すと、平均C/N-6.0dB)に特異値λ[k]を加算することで、換算MER(MERconv[k])を求める。
[数4]
MERconv[k]=(平均C/N-6.0)+λ[k] ・・・(4)
【0083】
換算MER差分算出部52は、換算MER算出部51から換算MER(MERconv[k])を入力し、固有モード間の換算MER(MERconv[k])の差分を算出し、換算MER差分δ[k’]を求める(ステップS603)。そして、換算MER差分算出部52は、換算MER差分δ[k’]を初期MER処理部55に出力する。換算MER差分δ[k’]は、特異値λ[k]の差分でもある。
【0084】
具体的には、換算MER差分算出部52は、以下の式にて換算MER差分δ[k’]を求める。
[数5]
δ[1-2]=λ[2]-λ[1]=MERconv[2]-MERconv[1]
δ[2-3]=λ[3]-λ[2]=MERconv[3]-MERconv[2] ・・・(5)
δ[3-4]=λ[4]-λ[3]=MERconv[4]-MERconv[3]
【0085】
使用固有モード数判別部53は、変調方式の組み合わせパターン番号bを入力する。そして、使用固有モード数判別部53は、予め設定されたテーブル(後述する図7を参照)を用いて、変調方式の組み合わせパターン番号bから、無線通信装置2aが送信に使用した固有モードの数(使用固有モード数sk)を判別する(ステップS604)。使用固有モード数判別部53は、使用固有モード数skを初期MER処理部55に出力する。
【0086】
図7は、1シンボルあたり合計8ビットを伝送する変調方式の組み合わせの例を示す図であり、固有モード数K=3の場合を示している。
【0087】
ここで、一定の伝送レートを実現する変調方式の組み合わせパターンの数が、図7に示すように、10通り存在すると仮定する。変調方式として、BPSKから256QAMまでの1ビット刻みの変調方式を利用することを想定すると、伝送レートが等しくなる変調方式の組み合わせは離散的であり、10通り存在することになる。変調方式の組み合わせパターン番号bは1,・・・,10である。
【0088】
変調方式が256QAMの場合、変調ビット数は8であり、変調方式が128QAMの場合、変調ビット数は7であり、変調方式が64QAM,32QAM,16QAM,8QAMの場合、変調ビット数はそれぞれ6,5,4,3である。また、変調方式がQPSK,BPSKの場合、変調ビット数はそれぞれ2,1である。
【0089】
尚、k番目の固有モード(第k固有モード)は、第(k+1)固有モードに対してチャネル利得が大きい、または等しいものと仮定する。また、第k固有モードの変調ビット数は、第(k+1)固有モードの変調ビット数よりも常に大きい、または等しいものと仮定する。図7において、「-」は割り当てがないことを示す。つまり、その固有モードは、データの伝送に使用しないことを示す。
【0090】
使用固有モード数判別部53は、例えば図7に示した固有モード数K=3におけるテーブルを用いて、変調方式の組み合わせパターン番号b=1の場合、使用固有モード数sk=1を判別する。また、使用固有モード数判別部53は、変調方式の組み合わせパターン番号b=2の場合、使用固有モード数sk=2を判別し、変調方式の組み合わせパターン番号b=4の場合、使用固有モード数sk=3を判別する。
【0091】
図5及び図6に戻って、電力配分補正部54は、各固有モードの電力配分比率Pkを入力する。そして、電力配分補正部54は、電力配分比率Pkと、予め設定された電力等配分比率(電力を等配分したときの比率、固有モード数K=4の場合は0.25)との間の比を算出し、これをデシベル表記した値を各固有モードの電力配分補正値Pd[k]とする(ステップS605)。電力配分補正部54は、電力配分補正値Pd[k]を初期MER処理部55に出力する。
【0092】
例えば電力配分比率Pk=0.5の場合、電力配分補正値Pd[k]=10×log10(Pk/0.25)=3dBとなり、 電力配分比率Pk=0.1の場合、電力配分補正値Pd[k]=10×log10(Pk/0.25)=-4dBとなる。
【0093】
初期MER処理部55は、換算MER差分算出部52から換算MER差分δ[k’]を、使用固有モード数判別部53から使用固有モード数skを、電力配分補正部54から電力配分補正値Pd[k]をそれぞれ入力する。また、初期MER処理部55は、観測MER(MERobs[k])を入力する。
【0094】
ここで、前述のとおり、無線通信装置3aに備えた復調部35-1~35-Kは、各固有モードの情報ビットに基づいて、変調誤差比である観測MER(MERobs[k])を算出するが、全ての固有モードを使用していない場合がある。このため、使用固有モード数skに応じて、復調部35-1~35-Kにより算出される観測MER(MERobs[k])の数が異なることとなる。
【0095】
例えば使用固有モード数sk=4の場合、観測MER(MERobs[1])~観測MER(MERobs[4])が算出され、初期MER処理部55は、観測MER(MERobs[1])~観測MER(MERobs[4])を入力する。また、使用固有モード数sk=3の場合(第4固有モードのビット配分が0の場合)、観測MER(MERobs[1])~観測MER(MERobs[3])が算出され、初期MER処理部55は、観測MER(MERobs[1])~観測MER(MERobs[3])を入力する。
【0096】
使用固有モード数sk=2の場合(第3,4固有モードのビット配分が0の場合)、観測MER(MERobs[1])及び観測MER(MERobs[2])が算出され、初期MER処理部55は、観測MER(MERobs[1])及び観測MER(MERobs[2])を入力する。また、使用固有モード数sk=1の場合(第2,3,4固有モードのビット配分が0の場合)、観測MER(MERobs[1])が算出され、初期MER処理部55は、観測MER(MERobs[1])を入力する。尚、固有モードのビット配分が0であるか否かは、図7に示したテーブルから判断される。「-」が設定された固有モードのビット配分は0である。
【0097】
初期MER処理部55は、使用固有モード数skと固有モード数K(=4)が同じであるか否かを判定する(ステップS606)。
【0098】
初期MER処理部55は、ステップS606において、使用固有モード数skと固有モード数K(=4)が同じであると判定した場合(ステップS606:Y:sk=K)、固有モード毎に、観測MER(MERobs[k])から電力配分補正値Pd[k]を減算し、初期MERμkを求める(ステップS607)。
【0099】
具体的には、初期MER処理部55は、以下の式にて、初期MERμkを求める。
[数6]
μ1=MERobs[1]-Pd[1]
μ2=MERobs[2]-Pd[2]
μ3=MERobs[3]-Pd[3] ・・・(6)
μ4=MERobs[4]-Pd[4]
【0100】
初期MER処理部55は、ステップS606において、使用固有モード数skと固有モード数K(=4)が同じでないと判定した場合(ステップS606:N:sk≠(<)K)、固有モード毎に、観測MER(MERobs[k])から電力配分補正値Pd[k]を減算するか、または、観測MER(MERobs[k])から電力配分補正値Pd[k]を減算して換算MER差分δ[k’]をさらに減算することで、初期MERμkを求める(ステップS608)。
【0101】
具体的には、初期MER処理部55は、使用した固有モードについて、観測MER(MERobs[k])から電力配分補正値Pd[k]を減算することで初期MERμkを求める。一方、初期MER処理部55は、使用しなかった固有モードについて、使用した固有モードの観測MER(MERobs[k])から電力配分補正値Pd[k]を減算し、さらに換算MER差分δ[k’]を減算することで初期MERμkを求める。
【0102】
初期MER処理部55は、使用固有モード数sk=3の場合、以下の式にて、初期MERμkを求める。第1固有モードから第3固有モードまでを使用しており、第4固有モードは使用していないものとする。
[数7]
μ1=MERobs[1]-Pd[1]
μ2=MERobs[2]-Pd[2]
μ3=MERobs[3]-Pd[3] ・・・(7)
μ4=MERobs[3]-Pd[3]-δ[3-4]
【0103】
使用していない第4固有モードの初期MERμ4は、使用した第3固有モードの観測MER(MERobs[3])から電力配分補正値Pd[3]を減算し、さらに換算MER差分δ[3-4]を減算することで算出される。すなわち、使用した第3固有モードの初期MERμ4から換算MER差分δ[3-4]を減算することで算出される。
【0104】
また、初期MER処理部55は、使用固有モード数sk=2の場合、以下の式にて、初期MERμkを求める。第1固有モード及び第2固有モードを使用しており、第3固有モード及び第4固有モードは使用していないものとする。
[数8]
μ1=MERobs[1]-Pd[1]
μ2=MERobs[2]-Pd[2]
μ3=MERobs[2]-Pd[2]-δ[2-3] ・・・(8)
μ4=MERobs[2]-Pd[2]-δ[2-3]-δ[3-4]
【0105】
使用していない第3固有モードの初期MERμ3は、使用した第2固有モードの観測MER(MERobs[2])から電力配分補正値Pd[2]を減算し、さらに換算MER差分δ[2-3]を減算することで算出される。すなわち、使用した第2固有モードの初期MERμ2から換算MER差分δ[2-3]を減算することで算出される。
【0106】
使用していない第4固有モードの初期MERμ4は、使用した第2固有モードの観測MER(MERobs[2])から電力配分補正値Pd[2]を減算し、さらに換算MER差分δ[2-3]及び換算MER差分δ[3-4]を減算することで算出される。すなわち、使用していない第3固有モードの初期MERμ3から換算MER差分δ[3-4]を減算することで算出される。
【0107】
また、初期MER処理部55は、使用固有モード数sk=1の場合、以下の式にて、初期MERμkを求める。第1固有モードを使用しており、第2固有モードから第4固有モードまでは使用していないものとする。
[数9]
μ1=MERobs[1]-Pd[1]
μ2=MERobs[1]-Pd[1]-δ[1-2]
μ3=MERobs[1]-Pd[1]-δ[1-2]-δ[2-3] ・・・(9)
μ4=MERobs[1]-Pd[1]-δ[1-2]-δ[2-3]-δ[3-4]
【0108】
使用していない第2固有モードの初期MERμ2は、使用した第1固有モードの観測MER(MERobs[1])から電力配分補正値Pd[1]を減算し、さらに換算MER差分δ[1-2]を減算することで算出される。すなわち、使用した第1固有モードの初期MERμ1から換算MER差分δ[1-2]を減算することで算出される。
【0109】
使用していない第3固有モードの初期MERμ3は、使用した第1固有モードの観測MER(MERobs[1])から電力配分補正値Pd[1]を減算し、さらに換算MER差分δ[1-2]及び換算MER差分δ[2-3]を減算することで算出される。すなわち、使用していない第2固有モードの初期MERμ2から換算MER差分δ[2-3]を減算することで算出される。
【0110】
使用していない第4固有モードの初期MERμ4は、使用した第1固有モードの観測MER(MERobs[1])から電力配分補正値Pd[1]を減算し、さらに換算MER差分δ[1-2]、換算MER差分δ[2-3]及び換算MER差分δ[3-4]を減算することで算出される。すなわち、使用していない第3固有モードの初期MERμ3から換算MER差分δ[3-4]を減算することで算出される。
【0111】
初期MER処理部55は、ステップS607,S608にて求めた初期MERμkを電力配分算出部42に出力する(ステップS609)。
【0112】
図8は、初期MERμkの算出例を説明する図である。固有モード数K=4、使用固有モード数sk=3とする。(1)は、(t-1)番目のTDDフレームにおいて算出された換算MER(MERconv[k])を示し、(2)は、(t-1)番目のTDDフレームにおいてビット配分及び電力配分されたデータ信号から算出された観測MER(MERobs[k])を示す。(3)は、t番目のTDDフレームにおいて、(t-1)番目のTDDフレームにおける換算MER(MERconv[k])及び観測MER(MERobs[k])等を用いて算出された初期MERμkを示す。
【0113】
(1)を参照して、換算MER算出部51により、特異値λ[k]から換算MER(MERconv[1])=40dB、換算MER(MERconv[2])=32dB、換算MER(MERconv[3])=22dB及び換算MER(MERconv[4])=10dBが算出される。
【0114】
また、換算MER差分算出部52により、換算MER差分δ[1-2]=8dB、換算MER差分δ[2-3]=10dB及び換算MER差分δ[3-4]=12dBが算出される。
【0115】
(2)を参照して、使用固有モード数sk=3であり、第4固有モードへのビット配分がないものとし、復調部35-1~35-3により、それぞれ観測MER(MERobs[1])=35dB、観測MER(MERobs[2])=30dB及び観測MER(MERobs[3])=21dBが算出される。
【0116】
また、電力配分比率P1=0.5、電力配分比率P2=0.3及び電力配分比率P3=0.2とする。電力配分補正部54により、予め設定された固有モード数K=4の場合の電力等配分比率0.25を用いて、電力配分補正値Pd[1]=+3.0dB、電力配分補正値Pd[2]=+0.8dB及び電力配分補正値Pd[3]=-1.0dBが算出される。
【0117】
(3)を参照して、使用固有モード数sk=3であり、第1固有モードから第3固有モードを使用し、第4固有モードを使用していない場合であるため、初期MER処理部55により、前記式(7)にて、以下に示す初期MERμkが算出される。
[数10]
μ1=MERobs[1]-Pd[1]=35.0-3.0=32.0dB
μ2=MERobs[2]-Pd[2]=30.0-0.8=29.2dB
μ3=MERobs[3]-Pd[3]=21.0+1.0=22.0dB
μ4=MERobs[3]-Pd[3]-δ[3-4]=21.0+1.0-12.0=10.0dB
・・・(10)
【0118】
このように、(t-1)番目のTDDフレームにおいて算出された換算MER(MERconv[k])、電力配分比率Pk及び換算MER差分δ[k’]を用いて、t番目のTDDフレームにおける初期MERμkが算出される。そして、t番目のTDDフレームにおける初期MERμkは、t番目のTDDフレームにおける最適な変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkを決定するために用いられる。
【0119】
図3及び図4に戻って、初期MER・ビット電力処理部37aは、初期MER算出部41が初期MERμkを算出するステップS401の処理の後、初期値である変調方式の組み合わせパターン番号b=1を設定する。そして、初期MER・ビット電力処理部37aは、変調方式の組み合わせパターン番号b(b=1,・・・,B)のそれぞれについて、後述するステップS403~ステップS406の処理を行うことにより、電力配分比率Pk及びMERマージンΔμkを算出する。
【0120】
初期MER・ビット電力処理部37aは、変調方式の組み合わせパターン番号bがパラメータB以下であるか否かを判定する(ステップS402)。初期MER・ビット電力処理部37aは、ステップS402において、変調方式の組み合わせパターン番号bがパラメータB以下であると判定した場合(b=1,・・・,B)、後述するステップS403~ステップS406の処理により、変調方式の組み合わせパターン番号bについての電力配分比率Pk及びMERマージンΔμkを算出する。
【0121】
初期MER・ビット電力処理部37aは、前記式(3)に示した送信電力配分後のMERマージンΔμkを設定する(ステップS403)。送信電力配分後のMERマージンΔμkは、電力配分後MERμ^kから、予め設定されたMER閾値μL kを減算することで得られる。このうち、電力配分後MERμ^kは、前記式(2)にて算出される。
【0122】
電力配分算出部42は、初期MER算出部41から初期MERμkを入力すると共に、予め設定されたMER閾値μL kを入力する。
【0123】
ここで、ステップS403にて設定された前記式(3)のMERマージンΔμkに、前記式(2)の電力配分後MERμ^kを代入した式を想定すると、MERマージンΔμkは、初期MERμk、固有モード数K及びMER閾値μL kを定数とし、電力配分比率Pkのみを変数とした式で表される。
【0124】
電力配分算出部42は、各固有モードのK個のMERマージンΔμkが等しくなるように、以下の式の連立方程式を解くことで、電力配分比率Pkを算出する(ステップS404)。i,jは、1~Kの正の整数を示す。電力配分算出部42は、電力配分比率PkをMERマージン算出部43及び変調方式・電力決定部44に出力する。
[数11]
Δμi=Δμj(i≠j,1≦i≦K,1≦j≦K) ・・・(11)
【0125】
MERマージン算出部43は、電力配分算出部42から電力配分比率Pkを入力し、入力した電力配分比率Pkを、電力配分比率Pkのみの変数で表したMERマージンΔμkの式に代入することで、MERマージンΔμkを算出する(ステップS405)。そして、MERマージン算出部43は、MERマージンΔμkを変調方式・電力決定部44に出力する。
【0126】
尚、図7に示した例では、変調方式の組み合わせパターン番号b=1の場合、第1固有モードのみを用いることを示し、第2固有モード及び第3固有モードを用いない。この場合、電力配分算出部42は、第1固有モードに全ての電力を配分したとして、電力配分比率P1=1を算出し、MERマージン算出部43は、MERマージンΔμ1を算出する。
【0127】
図3及び図4に戻って、初期MER・ビット電力処理部37aは、変調方式の組み合わせパターン番号bをインクリメントし(ステップS406)、ステップS402へ移行する。そして、変調方式の組み合わせパターン番号bがパラメータB以下である限り(b=1,・・・,B)、前述のステップS403~ステップS406の処理が行われる。
【0128】
これにより、変調方式の組み合わせパターン番号b=1,・・・,Bのそれぞれについて、ステップS404にて各固有モードの電力配分比率Pkが算出され、ステップS405にて各固有モードのMERマージンΔμkが算出される。
【0129】
初期MER・ビット電力処理部37aは、ステップS402において、変調方式の組み合わせパターン番号bがパラメータBを超えていると判定した場合(ステップS402:b>B)、ステップS407へ移行する。
【0130】
変調方式・電力決定部44は、変調方式の組み合わせパターン番号b毎に、電力配分算出部42から各固有モードの電力配分比率Pkを入力すると共に、MERマージン算出部43から各固有モードのMERマージンΔμkを入力し、図示しないメモリに格納する。
【0131】
変調方式・電力決定部44は、メモリから、変調方式の組み合わせパターン番号b=1,・・・BのMERマージンΔμkを読み出し、読み出したMERマージンΔμkのうち、最も大きいMERマージン値を持つ変調方式の組み合わせパターン番号bを特定する。また、変調方式・電力決定部44は、特定した変調方式の組み合わせパターン番号bについて、ステップS404にて算出した各固有モードの電力配分比率Pkを特定する。
【0132】
変調方式・電力決定部44は、特定した変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkを、最適な送信制御パラメータとして決定する(ステップS407)。そして、変調方式・電力決定部44は、決定した変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkを、初期MER算出部41及び図示しない送信部に出力する。
【0133】
ここで、MERマージンΔμkが大きいほど、ビット誤り率が低くなるから、最も大きいMERマージンΔμkを持つ変調方式の組み合わせパターン番号bの変調方式を用いることにより、他の組み合わせパターン番号bの変調方式を用いる場合に比べ、ビット誤り率を小さくすることができる。つまり、全ての組み合わせパターン番号bの変調方式の中で、ビット誤り率を最小化することができる。
【0134】
図9は、固有モード数K=4、合計変調ビット数16の場合のビット配分パターンの例を示す図であり、変調方式の組み合わせパターン番号b=1,2,3,・・・,48に対応するビット配列パターンの例を示している。図10は、初期MERμk及び変調方式の組み合わせパターン番号b1,b2,b3の場合の電力配分比率Pk等の例を示す図である。
【0135】
図9を参照して、使用固有モード数sk=2の場合のビット配列パターンは3通りあり、[10 6 0 0][9 7 0 0][8 8 0 0]である。使用固有モード数sk=3の場合のビット配列パターンは15通りあり、[10 5 1 0]・・・[6 5 5 0]である。使用固有モード数sk=4の場合のビット配列パターンは30通りあり、[10 4 1 1]・・・[4 4 4 4]である。
【0136】
ビット配列パターン[a1 a2 a3 a4]において、(a1+a2+a3+a4)は合計変調ビット数16である。a1は第1固有モードのビット数、a2は第2固有モードのビット数、a3は第3固有モードのビット数、a4は第4固有モードのビット数を示している。例えばa1=10は、第1固有モードの変調方式が1024QAMの場合のビット数であり、a2=6は、第2固有モードの変調方式が64QAMの場合のビット数である。変調方式は、ビット数1のBPSKからビット数10の1024QAMまでの10種類ある。
【0137】
図10を参照して、図3に示した初期MER・ビット電力処理部37aの初期MER算出部41により、第1固有モードの初期MERμ1=27.0、第2固有モードの初期MERμ2=22.0、第3固有モードの初期MERμ3=17.0及び第4固有モードの初期MERμ4=7.0が算出されたものとする。
【0138】
そして、(1)に示す組み合わせパターン番号b1(1024QAM(10ビット)及び64QAM(6ビット)、[10 6 0 0])の場合(図9のα1の下線箇所を参照)、第1固有モード及び第2固有モードについて、(1)に示す電力配分比率Pk、電力配分後MERμ^k、MER閾値μL k及びMERマージンΔμkが算出される。この場合、MERマージンΔμk=-4.0である。
【0139】
(2)に示す組み合わせパターン番号b2(128QAM(7ビット)、32QAM(5ビット)及び16QAM(4ビット)、[7 5 4 0])の場合(図9のα2の下線箇所を参照)、第1固有モード、第2固有モード及び第3固有モードについて、(2)に示す電力配分比率Pk、電力配分後MERμ^k、MER閾値μL k及びMERマージンΔμkが算出される。この場合、MERマージンΔμk=+0.9である。
【0140】
(3)に示す組み合わせパターン番号b3(64QAM(6ビット)、32QAM(5ビット)、8QAM(3ビット)及びQPSK(2ビット)、[6 5 3 2])の場合(図9のα3の下線箇所を参照)、第1固有モード、第2固有モード、第3固有モード及び第4固有モードについて、(3)に示す電力配分比率Pk、電力配分後MERμ^k、MER閾値μL k及びMERマージンΔμkが算出される。この場合、MERマージンΔμk=-1.0である。
【0141】
(1)~(3)を含む変調方式の組み合わせパターン番号b=1,2,3,・・・,48に対応するビット配列パターンにおいて、MERマージンΔμkは、(2)のMERマージンΔμk=+0.9が最も高いものとする。尚、MER閾値μL kは、静特性において各変調方式がBER=10-4を達成するMERであるものとする。
【0142】
そうすると、図3に示した変調方式・電力決定部44は、変調方式の組み合わせパターン番号b=1,2,3,・・・,48のうち、最も大きいMERマージンΔμkを持つ変調方式の組み合わせパターン番号b2を特定する。また、変調方式・電力決定部44は、特定した変調方式の組み合わせパターン番号b2について、第1固有モード、第2固有モード及び第3固有モードの電力配分比率P1,P2,P3を特定する((2)を参照)。そして、変調方式・電力決定部44は、特定した変調方式の組み合わせパターン番号b2及び電力配分比率P1,P2,P3を、最適な送信制御パラメータとして決定する。
【0143】
以上のように、実施例1の無線通信装置3aによれば、初期MER・ビット電力処理部37aの初期MER算出部41は、(t-1)番目のTDDフレームにおけるチャネル行列Hの特異値λ[k]から換算MER(MERconv[k])を算出し、換算MER差分δ[k’]を算出し、(t-1)番目のTDDフレームにおいて決定した最適な変調方式の組み合わせパターン番号bから使用固有モード数skを判別し、(t-1)番目のTDDフレームにおいて決定した最適な電力配分比率Pkと予め設定された電力等配分比率との間の比を電力配分補正値Pd[k]として算出する。
【0144】
初期MER算出部41は、使用固有モード数skに応じて、(t-1)番目のTDDフレームにおける観測MER(MERobs[k])から電力配分補正値Pd[k]を減算するか、または、観測MER(MERobs[k])から電力配分補正値Pd[k]を減算して換算MER差分δ[k’]をさらに減算することで、初期MERμkを求める。
【0145】
電力配分算出部42は、変調方式の組み合わせパターン間で伝送レートが等しい組み合わせパターンのそれぞれについて、初期MERμk、固有モード数K及びMER閾値μL kを定数とし、電力配分比率Pkのみを変数で表したMERマージンΔμkの式を求め、各固有モードのK個のMERマージンΔμkが等しくなるように、電力配分比率Pkを算出する。
【0146】
MERマージン算出部43は、変調方式の組み合わせパターンのそれぞれについて、電力配分比率PkをMERマージンΔμkの式に代入することで、MERマージンΔμkを算出する。
【0147】
変調方式・電力決定部44は、変調方式の組み合わせパターンのそれぞれについてのMERマージンΔμkのうち、最も大きいMERマージンΔμkを持つ変調方式の組み合わせパターンを特定し、変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkを、最適な送信制御パラメータとして決定する。
【0148】
図示しない送信部は、変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkを無線通信装置2aへ送信する。
【0149】
これにより、無線通信装置2aは、無線通信装置3aから受信した変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkを用いて、変調処理及び電力配分処理を行い、変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkが反映された放送波を送信する。
【0150】
無線通信装置3aの初期MER算出部41により算出された初期MERμkは、特異値行列Σから得られる換算MER(MERconv[k])、及び受信信号から得られる観測MER(MERobs[k])を用いることから、実際の環境に即したものである。
【0151】
したがって、MIMO固有モード伝送システムにおいて、伝送レートを一定とした条件でビット誤り率を最小化するための変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkを決定する際に、精度の高い初期MERμkを算出することができる。
【0152】
また、前述の特許文献3の従来技術では、初期MERμkの精度が低いため、MERマージンΔμkを正しく算出することができず、変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkを精度高く決定することができず、伝送特性が劣化するという問題があった。
【0153】
実施例1の初期MER算出部41により算出された初期MERμkは、より実際の環境に即したものであるため、前述の特許文献3の従来技術よりも正確なMERマージンΔμkを算出することができる。そして、精度の高い最適な変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkを決定することができ、結果として、伝送特性の劣化を抑えることができる。
【0154】
〔実施例2〕
次に、実施例2について説明する。実施例2は、図1に示した伝送システム1において、無線通信装置3が初期MERμkを算出し、無線通信装置2が無線通信装置3から初期MERμkを受信して最適な変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkを決定し、データ信号のビット配分及び電力配分を行う例である。
【0155】
図11は、実施例2の無線通信装置2,3の構成例を示すブロック図である。この伝送システム1bは、無線通信装置2b,3bを備えて構成され、TDD及び固有モード伝送方式を実現する一般的なN×M次のMIMOシステムの機能構成ブロックを示している。図11においては、図2の実施例1と同様に、K個のチャネルの固有モードが形成されるものとする。
【0156】
図11には、本発明に直接関連する構成部のみを示しており、直接関連しない構成部は省略してある。以下、無線通信装置2bを送信側の無線通信装置2bとし、無線通信装置3bを受信側の無線通信装置3bとして説明する。
【0157】
(無線通信装置2b/送信側/実施例2)
無線通信装置2bは、S/P変換部21、ビット電力処理部22b、変調・電力配分部23、特異値分解部26、送信ウェイト部27、パイロット挿入部28-1~28-N及びN本の送信アンテナ29を備えている。変調・電力配分部23は、変調部24-1~24-K及び電力配分部25を備えている。
【0158】
図2に示した実施例1の無線通信装置2aと図11に示す実施例2の無線通信装置2bとを比較すると、両無線通信装置2a,2bは、S/P変換部21、変調・電力配分部23、特異値分解部26、送信ウェイト部27、パイロット挿入部28-1~28-N及びN本の送信アンテナ29を備えている点で共通する。一方、無線通信装置2bは、ビット電力処理部22bを備えている点で、ビット電力入出力部22aを備えた無線通信装置2aと相違する。
【0159】
S/P変換部21、変調・電力配分部23、特異値分解部26、送信ウェイト部27、パイロット挿入部28-1~28-N及びN本の送信アンテナ29は、図2に示した構成部と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0160】
ビット電力処理部22bは、図示しない受信部から初期MERμkを入力し、初期MERμk等に基づいて、最適な変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkを決定する。そして、ビット電力処理部22bは、変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkを変調・電力配分部23に出力する。
【0161】
つまり、ビット電力処理部22bは、無線通信装置2bから送信される情報ビットの伝送レートが一定(固定)の条件下において、各固有モードの電力配分後のMERマージンΔμkが等しくかつ最大のときの変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkを、ビット誤り率を最小化する際の各固有モードの変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkとして決定する。ビット電力処理部22bの詳細については後述する。
【0162】
ここで、図示しない受信部は、無線通信装置3bから伝送路を介して、チャネル行列H及び初期MERμkを受信し、チャネル行列Hを特異値分解部26に出力すると共に、初期MERμkをビット電力処理部22bに出力する。
【0163】
このように、後述する無線通信装置3bにより算出された初期MERμk等に基づいて、最適な変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkが決定される。そして、変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkが反映され、変調処理及び電力配分処理が行われた各固有モードのデータ信号が、無線通信装置2bから放送波として送信される。
【0164】
(ビット電力処理部22b/実施例2)
次に、図11に示した無線通信装置2bに備えたビット電力処理部22bについて詳細に説明する。
【0165】
図12は、送信側の無線通信装置2bに備えたビット電力処理部22bの構成例を示すブロック図である。このビット電力処理部22bは、電力配分算出部42、MERマージン算出部43及び変調方式・電力決定部44を備えている。
【0166】
電力配分算出部42は、図示しない受信部から初期MERμkを入力すると共に、予め設定されたMER閾値μL kを入力し、図3に示した電力配分算出部42と同様の処理を行い、電力配分比率Pkを算出する。MERマージン算出部43は、図3に示したMERマージン算出部43と同様の処理を行い、MERマージンΔμkを算出する。
【0167】
変調方式・電力決定部44は、図3に示した変調方式・電力決定部44と同様の処理を行い、最適な変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkを決定する。そして、変調方式・電力決定部44は、変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkを変調・電力配分部23に出力する。
【0168】
(無線通信装置3b/受信側/実施例2)
図11に戻って、無線通信装置3bは、M本の受信アンテナ31、チャネル情報推定部32、特異値分解部33、受信ウェイト部34、復調部35、P/S変換部36及び初期MER・ビット電力処理部37bを備えている。復調部35は、復調部35-1~35-Kを備えている。
【0169】
図2に示した実施例1の無線通信装置3aと図11に示す実施例2の無線通信装置3bとを比較すると、両無線通信装置3a,3bは、M本の受信アンテナ31、チャネル情報推定部32、特異値分解部33、受信ウェイト部34及び復調部35、P/S変換部36を備えている点で共通する。一方、無線通信装置3bは、初期MER・ビット電力処理部37bを備えている点で、初期MER・ビット電力処理部37aを備えた無線通信装置3aと相違する。
【0170】
M本の受信アンテナ31、チャネル情報推定部32、特異値分解部33、受信ウェイト部34及び復調部35、P/S変換部36は、図2に示した構成部と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0171】
初期MER・ビット電力処理部37bは、特異値分解部33から特異値行列Σを入力すると共に、復調部35-1~35-Kから観測MER(MERobs[k])を入力する。そして、初期MER・ビット電力処理部37bは、特異値行列Σ及び観測MER(MERobs[k])等に基づいて、初期MERμkを算出し、初期MERμkを、図示しない送信部に出力する。
【0172】
尚、初期MER・ビット電力処理部37bは、t番目のTDDフレームの初期MERμkを算出するために、(t-1)番目のTDDフレームの初期MERμk等に基づいて、(t-1)番目のTDDフレームの最適な変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkを決定する。
【0173】
図2に示した初期MER・ビット電力処理部37aと図11に示した初期MER・ビット電力処理部37bとを比較すると、両初期MER・ビット電力処理部37a,37bは、同様の処理を行う点で共通する。一方、初期MER・ビット電力処理部37bは、初期MERμkを図示しない送信部に出力する点で、変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkを出力する初期MER・ビット電力処理部37aと相違する。初期MER・ビット電力処理部37bの詳細については後述する。
【0174】
ここで、図示しない送信部は、チャネル情報推定部32からチャネル行列Hを入力すると共に、初期MER・ビット電力処理部37bから初期MERμk を入力する。そして、図示しない送信部は、チャネル行列H及び初期MERμkを、伝送路を介して無線通信装置2bへ送信する。
【0175】
このように、初期MER・ビット電力処理部37bにより、最適な変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkを決定するために必要な初期MERμkが算出され、初期MERμkは無線通信装置2bへ送信される。そして、無線通信装置2bにおいて、初期MERμk等に基づき最適な変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkが決定され、変調処理及び電力配分処理が行われ、無線通信装置2bから、変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkが反映された放送波が送信される。
【0176】
(初期MER・ビット電力処理部37b/実施例2)
次に、図11に示した無線通信装置3bに備えた初期MER・ビット電力処理部37bについて詳細に説明する。
【0177】
図13は、受信側の無線通信装置3bに備えた初期MER・ビット電力処理部37bの構成例を示すブロック図である。この初期MER・ビット電力処理部37bは、初期MER算出部41、電力配分算出部42、MERマージン算出部43及び変調方式・電力決定部44を備えている。
【0178】
初期MER算出部41は、図3に示した初期MER算出部41と同様の処理を行い、初期MERμkを図示しない送信部に出力する。電力配分算出部42は、図3に示した電力配分算出部42と同様の処理を行い、MERマージン算出部43は、図3に示したMERマージン算出部43と同様の処理を行う。
【0179】
変調方式・電力決定部44は、図3に示した変調方式・電力決定部44と同様の処理を行い、変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkを初期MER算出部41に出力する。
【0180】
以上のように、実施例2の無線通信装置3bによれば、初期MER・ビット電力処理部37bの初期MER算出部41は、実施例1と同様の処理にて、初期MERμkを算出する。電力配分算出部42、MERマージン算出部43及び変調方式・電力決定部44も、実施例1と同様の処理を行う。
【0181】
図示しない送信部は、初期MERμkを無線通信装置2bへ送信する。
【0182】
無線通信装置2bが無線通信装置3bから初期MERμkを受信すると、ビット電力処理部22bの電力配分算出部42は、受信した初期MERμkを用いて電力配分後のMERマージンΔμkの式を求め、各固有モードのK個のMERマージンΔμkが等しくなるように、電力配分比率Pkを算出する。MERマージン算出部43及び変調方式・電力決定部44は、実施例1と同様の処理を行う。
【0183】
これにより、無線通信装置2bは、無線通信装置3bから受信した初期MERμkを用いて、最適な変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkを決定し、変調処理及び電力配分処理を行い、変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkが反映された放送波を送信する。
【0184】
初期MERμkは、実施例1と同様に、実際の環境に即したものであるため、MIMO固有モード伝送システムにおいて、伝送レートを一定とした条件でビット誤り率を最小化するための変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkを決定する際に、精度の高い初期MERμkを算出することができる。
【0185】
また、前述の特許文献3の従来技術よりも正確なMERマージンΔμkを算出し、精度の高い最適な変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkを決定することができ、結果として、伝送特性の劣化を抑えることができる。
【0186】
〔実験結果〕
次に、実験結果について説明する。図14は、実験結果を示す図である。横軸は移動距離[m]を示し、縦軸は、MERマージンΔμkの最大値と最小値の差を示す。点線は、前述の特許文献3の従来技術において、チャネル行列Hの特異値の換算値を初期MERμkとした場合の特性を示し、実線は、図2に示した実施例1の特性を示す。
【0187】
図14に示す実験結果は、固有モード数K=4とし、従来技術の送信側の無線通信装置及び実施例1の送信側の無線通信装置2aを約5000mの同じコースにて走行させ、従来技術の受信側の無線通信装置及び実施例1の受信側の無線通信装置3aを固定設置した状態で得られた特性を示している。
【0188】
縦軸に示すMERマージンΔμkの最大値と最小値の差は、MIMO固有モード伝送システムにおけるビット配分及び電力配分の精度を示しており、当該差が小さいほど高精度に配分されていることを示している。
【0189】
図14から、MERマージンΔμkの最大値と最小値の差は、実施例1の方が従来技術よりも小さいことがわかる。これにより、コース全体を通して実施例1が従来技術よりも優れており、高い伝送品質を実現することができる。
【0190】
尚、コース全体におけるMERマージンΔμkの最大値と最小値の差の平均値は、従来技術では6.54dB、実施例1では1.42dBである。
【0191】
以上、実施例1,2を挙げて本発明を説明したが、本発明は前記実施例1,2に限定されるものではなく、その技術思想を逸脱しない範囲で種々変形可能である。
【0192】
例えば実施例1,2において、無線通信装置2a,2b,3a,3bは、TDDを用いて双方向通信を行うようにしたが、本発明は、必ずしもTDDを用いる必要はなく、他の手法にて双方向通信を行うことができればよい。要するに、無線通信装置3a,3bは、実施例1ではチャネル行列H、変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkをフィードバック情報とし、実施例2ではチャネル行列H及び初期MERμkをフィードバック情報として、無線通信装置2a,2bへフィードバックできればよい。
【0193】
また、実施例1,2において、無線通信装置3a,3bに備えた初期MER・ビット電力処理部37a,37bの初期MER算出部41は、(t-1)番目のTDDフレームの特異値行列Σ、観測MER(MERobs[k])、変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkを用いて、t番目のTDDフレームの初期MERμkを算出するようにした。これに対し、初期MER算出部41は、t番目のTDDフレームの特異値行列Σ及び観測MER(MERobs[k])、並びに(t-1)番目の変調方式の組み合わせパターン番号b及び電力配分比率Pkを用いて、t番目のTDDフレームの初期MERμkを算出するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0194】
1,1a,1b 伝送システム
2,2a,2b,3,3a,3b 無線通信装置
21 S/P(シリアル/パラレル)変換部
22a ビット電力入出力部
22b ビット電力処理部
23 変調・電力配分部
24-1~24-K 変調部
25 電力配分部
26,33 特異値分解部
27 送信ウェイト部
28-1~28-N パイロット挿入部
29 送信アンテナ
31 受信アンテナ
32 チャネル情報推定部
34 受信ウェイト部
35,35-1~35-K 復調部
36 P/S変換部
37a,37b 初期MER(変調誤差比)・ビット電力処理部
41 初期MER算出部
42 電力配分算出部
43 MERマージン算出部
44 変調方式・電力決定部
51 換算MER算出部
52 換算MER差分算出部
53 使用固有モード数判別部
54 電力配分補正部
55 初期MER処理部
H チャネル行列
b 変調方式の組み合わせパターン番号
k 固有モードの番号
k 電力配分比率
μk 初期MER
Δμk MERマージン
μ^k 電力配分後MER
μL k MER閾値
K 固有モード数
sk 使用固有モード数
Σ 特異値行列
λ[k] 特異値
δ[k’] 換算MER差分
d[k] 電力配分補正値
MERobs[k] 観測MER
図1
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図14