(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】コイル用ボビン
(51)【国際特許分類】
H01F 27/32 20060101AFI20240718BHJP
H01F 5/02 20060101ALI20240718BHJP
H01F 41/12 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
H01F27/32 150
H01F5/02 F
H01F5/02 H
H01F41/12 F
(21)【出願番号】P 2021533024
(86)(22)【出願日】2020-07-10
(86)【国際出願番号】 JP2020026948
(87)【国際公開番号】W WO2021010300
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2023-05-08
(31)【優先権主張番号】P 2019130596
(32)【優先日】2019-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【氏名又は名称】加藤 広之
(74)【代理人】
【識別番号】100214215
【氏名又は名称】▲高▼梨 航
(72)【発明者】
【氏名】古▲高▼ 英浩
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-278233(JP,A)
【文献】特開2000-269056(JP,A)
【文献】特公昭57-028939(JP,B2)
【文献】特開2003-224021(JP,A)
【文献】特開2010-252612(JP,A)
【文献】特開2013-233016(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 5/02、27/32、41/12
H02K 3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリエステル樹脂を形成材料とするコイル用ボビンであって、
筒状の本体部と、
環状を呈し前記本体部の両端に設けられた一対の鍔部と、を有し、
前記本体部及び前記一対の鍔部と交差する断面において、前記本体部の厚みが前記鍔部の厚みと同等又は前記鍔部の厚みよりも厚い関係を満たす第1領域を含み、
前記第1領域は、前記本体部の周方向の全周に対し50%以上存在
し、
前記周方向において前記第1領域と連続する第2領域を有し、
前記第2領域に含まれる前記本体部の厚みは、前記第1領域に含まれる前記本体部の厚みよりも厚く、
前記第2領域に含まれる前記鍔部の厚みは、前記第1領域に含まれる前記鍔部の厚みよりも厚く、
前記第2領域にゲート痕を有するコイル用ボビン。
【請求項2】
前記第1領域において、前記本体部の厚みは前記鍔部の厚みと同等である請求項1に記載のコイル用ボビン。
【請求項3】
前記本体部の延在方向と交差する方向に二分割された一対の分割体からなり、
前記一対の分割体が合わさって形成される分割線は、前記第2領域に位置する請求項
1又は2に記載のコイル用ボビン。
【請求項4】
前記第1領域における前記本体部の厚みは、0.2mm以上1.5mm以下である請求項1から
3のいずれか1項に記載のコイル用ボビン。
【請求項5】
前記本体部の延在方向の長さは、30mm以上150mm以下である請求項1から
4のいずれか1項に記載のコイル用ボビン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル用ボビンに関する。
本願は、2019年7月12日に出願された日本国特願2019-130596号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
電気電子部品であるコイル用ボビンは、巻線が巻かれて形成されるコイルの芯として用いられている。以下の説明では、コイル用ボビンを単に「ボビン」と称することがある。
【0003】
従来、ボビンの材料として、液晶ポリエステル樹脂が知られている(例えば、特許文献1参照)。液晶ポリエステル樹脂製のボビンは、射出成形で形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ボビンに巻かれたコイルは、使用環境や通電による加熱によって高温となり、使用後には放熱によって冷却される。液晶ポリエステル樹脂のような樹脂を形成材料とするボビンは、このような加熱及び冷却によって膨張と収縮とを繰り返す。このようにボビンが膨張及び収縮を繰り返すと、ボビンと巻線とがこすれ合い巻線の被覆材が剥離して破損するおそれがある。また、ボビンが膨張収縮による熱応力を繰り返し受けた結果、疲労により破損するおそれがある。
【0006】
このようなボビンの膨張収縮による課題は、ボビンが大型になるとさらに顕著になる。大型のボビンとしては、たとえば、電気自動車や電動バイク用のモータや、大型のトランスに用いられるボビンが挙げられる。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、自身の破損や、ボビンに巻かれた巻線の破損を抑制可能とするコイル用ボビンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明は、以下の態様を包含する。
【0009】
[1]液晶ポリエステル樹脂を形成材料とするコイル用ボビンであって、筒状の本体部と、環状を呈し前記本体部の両端に設けられた一対の鍔部と、を有し、前記本体部及び前記一対の鍔部と交差する断面において、前記本体部の厚みが前記鍔部の厚みと同等又は前記鍔部の厚みよりも厚い関係を満たす第1領域を含み、前記第1領域は、前記本体部の周方向の全周に対し50%以上存在するコイル用ボビン。
【0010】
[2]前記第1領域において、前記本体部の厚みは前記鍔部の厚みと同等である[1]に記載のコイル用ボビン。
【0011】
[3]前記周方向において前記第1領域と連続する第2領域を有し、前記第2領域に含まれる前記本体部の厚みは、前記第1領域に含まれる前記本体部の厚みよりも厚く、前記第2領域に含まれる前記鍔部の厚みは、前記第1領域に含まれる前記鍔部の厚みよりも厚く、前記第2領域にゲート痕を有する[1]又は[2]に記載のコイル用ボビン。
【0012】
[4]前記本体部の延在方向と交差する方向に二分割された一対の分割体からなり、前記一対の分割体が合わさって形成される分割線は、前記第2領域に位置する[3]に記載のコイル用ボビン。
【0013】
[5]前記第1領域における前記本体部の厚みは、0.2mm以上1.5mm以下である[1]から[4]のいずれか1項に記載のコイル用ボビン。
【0014】
[6]前記本体部の延在方向の長さは、30mm以上150mm以下である[1]から[5]のいずれか1項に記載のコイル用ボビン。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、自身の破損や、ボビンに巻かれた巻線の破損を抑制可能とするコイル用ボビンを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、実施形態におけるコイル用ボビンを示す模式図である。
【
図2】
図2は、
図1においてxz面と平行な仮想面S1におけるコイル用ボビン1Aの断面図である。
【
図3】
図3は、
図1においてxy面と平行な仮想面S2におけるコイル用ボビン1Aの断面図である。
【
図4】
図4は、
図1においてyz面と平行な仮想面S3におけるコイル用ボビン1Aの断面図である。
【
図5】
図5は、形成されるコイル用ボビンにおいて溶融樹脂が流れる方向を示す模式図である。
【
図6】
図6は、形成されるコイル用ボビンにおいて溶融樹脂が流れる方向を示す模式図である。
【
図7】
図7は、形成されるコイル用ボビンにおいて溶融樹脂が流れる方向を示す模式図である。
【
図8】
図8は、本発明の第2実施形態に係るコイル用ボビン1Bの説明図である。
【
図9】
図9は、解析を行ったコイル用ボビン1Sの説明図である。
【
図10】
図10は、解析を行ったコイル用ボビン1Sの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第1実施形態]
以下、図を参照しながら、本発明の第1実施形態に係るコイル用ボビンについて説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。
【0018】
本実施形態のコイル用ボビンは、液晶ポリエステル樹脂を形成材料とする。
【0019】
[液晶ポリエステル]
本実施形態で用いられる液晶ポリエステルは、サーモトロピック液晶ポリマーの一つであり、光学的異方性を示す溶融体を450℃以下の温度で形成し得る重合体である。
【0020】
本実施形態の液晶ポリエステルは、下記一般式(1)で表される繰返し単位を有することが好ましく、繰返し単位(1)と、下記一般式(2)で表される繰返し単位と、下記一般式(3)で表される繰返し単位と、を有することがより好ましい。
以下、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を「繰返し単位(1)」ということがある。
下記一般式(2)で表される繰り返し単位を「繰返し単位(2)」ということがある。
下記一般式(3)で表される繰り返し単位を「繰返し単位(3)」ということがある。
【0021】
(1)-O-Ar1-CO-
(2)-CO-Ar2-CO-
(3)-X-Ar3-Y-
(式中、Ar1は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記一般式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基(-NH-)を表す。Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基中の1個以上の水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【0022】
(4)-Ar4-Z-Ar5-
(式中、Ar4及びAr5は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。
Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【0023】
本実施形態で用いられる液晶ポリエステルとしては、具体的には、
(1)芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールとの組み合わせを重合して得られる重合体、
(2)複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合して得られる重合体、
(3)芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールとの組み合わせを重合して得られる重合体、
(4)ポリエチレンテレフタレートなどの結晶性ポリエステルに芳香族ヒドロキシカルボン酸を反応させて得られる重合体、などを挙げることができる。
【0024】
なお、液晶ポリエステルの製造において、原料モノマーとして使用する芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸及び芳香族ジオールの一部又は全部を、予めエステル形成性誘導体にして重合に供することもできる。このようなエステル形成性誘導体を用いることにより、液晶ポリエステルをより容易に製造できるという利点がある。
【0025】
エステル形成性誘導体としては次のような化合物が例示される。
【0026】
分子内にカルボキシル基を有する芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体の例としては、当該カルボキシル基が、ハロホルミル基(酸ハロゲン化物)やアシルオキシカルボニル基(酸無水物)などの高反応性の基に転化した化合物や、当該カルボキシル基が、エステル交換反応によりポリエステルを生成するように、一価のアルコール類やエチレングリコール等の多価アルコール類、フェノール類などとエステルを形成した化合物が挙げられる。
【0027】
芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジオールのようなフェノール性水酸基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、該フェノール性水酸基が、エステル交換反応によりポリエステルを生成するように、低級カルボン酸類とエステルを形成した化合物が挙げられる。
【0028】
さらに、エステル形成性を阻害しない程度であれば、上述の芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸又は芳香族ジオールは、分子内の芳香環に、塩素原子、フッ素原子などのハロゲン原子;メチル基、エチル基、ブチル基などの炭素数1~10のアルキル基;フェニル基などの炭素数6~20のアリール基を置換基として有していてもよい。
【0029】
芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、p-ヒドロキシ安息香酸、m-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、5-ヒドロキシ-1-ナフトエ酸、4-ヒドロキシ-4’-カルボキシジフェニルエーテルが挙げられる。また、これらの芳香族ヒドロキシカルボン酸の芳香環にある水素原子の一部が、アルキル基、アリール基及びハロゲン原子からなる群より選ばれる1種以上の置換基で置換された芳香族ヒドロキシカルボン酸が挙げられる。
【0030】
p-ヒドロキシ安息香酸は、後述の(A1)を誘導する芳香族ヒドロキシカルボン酸である。
【0031】
6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸は、後述の(A2)を誘導する芳香族ヒドロキシカルボン酸である。
【0032】
該芳香族ヒドロキシカルボン酸は、液晶ポリエステルの製造において、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
上述した繰返し単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位である。芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位としては、例えば、以下に示す繰り返し単位が挙げられる。なお、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位は、その芳香環にある水素原子の一部が、ハロゲン原子、アルキル基及びアリール基からなる群より選ばれる1種以上の置換基で置換されていてもよい。
【0034】
なお、本明細書において「由来」とは、原料モノマーが重合するために化学構造が変化し、その他の構造変化を生じないことを意味する。
【0035】
【0036】
芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ビフェニル-4,4’-ジカルボン酸、2,6-ナフタレンジルボン酸、ジフェニルエーテル-4,4’-ジカルボン酸、ジフェニルチオエーテル-4,4’-ジカルボン酸が挙げられる。また、これらの芳香族ジカルボン酸の芳香環にある水素原子の一部が、アルキル基、アリール基及びハロゲン原子からなる群より選ばれる1種以上の置換基で置換された芳香族ジカルボン酸が挙げられる。
【0037】
テレフタル酸は、後述の(B1)を誘導する芳香族ジカルボン酸である。
【0038】
イソフタル酸は、後述の(B2)を誘導する芳香族ジカルボン酸である。
【0039】
2,6-ナフタレンジルボン酸は、後述の(B3)を誘導する芳香族ジカルボン酸である。
【0040】
該芳香族ジカルボン酸は、液晶ポリエステルの製造において、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
上述した繰返し単位(2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位としては、例えば、以下に示す繰り返し単位が挙げられる。なお、芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位は、その芳香環にある水素原子の一部が、ハロゲン原子、アルキル基及びアリール基からなる群より選ばれる1種以上の置換基で置換されていてもよい。
【0042】
【0043】
芳香族ジオールとしては、例えば、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルチオエーテル、2,6-ジヒドロキシナフタレン、1,5-ジヒドロキシナフタレンが挙げられる。また、これらの芳香族ジオールの芳香環にある水素原子の一部が、アルキル基、アリール基及びハロゲン原子からなる群より選ばれる1種以上の置換基で置換された芳香族ジオールが挙げられる。
【0044】
4,4’-ジヒドロキシビフェニルは、後述の(C1)を誘導する芳香族ジオールである。
【0045】
ハイドロキノンは、後述の(C2)を誘導する芳香族ジオールである。
【0046】
レゾルシノールは、後述の(C3)を誘導する芳香族ジオールである。
【0047】
該芳香族ジオールは、液晶ポリエステルの製造において、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
上述した繰返し単位(3)は、所定の芳香族ジオールに由来する繰返し単位を含む。芳香族ジオールに由来する繰返し単位としては、例えば、以下に示す繰り返し単位が挙げられる。なお、芳香族ジオールに由来する繰返し単位は、その芳香環にある水素原子の一部が、ハロゲン原子、アルキル基及びアリール基からなる群より選ばれる1種以上の置換基で置換されていてもよい。
【0049】
【0050】
芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位、芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位及び芳香族ジオールに由来する繰返し単位が、それぞれ任意に有していてもよい置換基は、以下の置換基が挙げられる。
ハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が挙げられる。
アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、ブチル基などの炭素数1~4程度の低級アルキル基が挙げられる。
アリール基の例としては、フェニル基が挙げられる。
【0051】
特に好適な液晶ポリエステルに関し説明する。
芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位としては、パラヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位((A1))又は2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸もしくはその両方に由来する繰返し単位((A2))を有していると好ましい。
【0052】
芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位としては、テレフタル酸に由来する繰返し単位((B1))、イソフタル酸に由来する繰返し単位((B2))及び2,6-ナフタレンジカルボン酸((B3))に由来する繰返し単位からなる群より選ばれる繰り返し単位を有していると好ましい。
【0053】
芳香族ジオールに由来する繰返し単位としては、ヒドロキノンに由来する繰返し単位((C2))又は4,4’-ジヒドロキシビフェニルもしくはその両方に由来する繰返し単位((C1))を有していると好ましい。
【0054】
そして、これらの組み合わせとしては、下記(a)~(h)で表される組み合わせが好ましい。これら(a)~(h)の繰返し単位の組み合わせであれば、良好な電気絶縁性を有する液晶ポリエステルが得られる。
【0055】
(a):(A1)、(B1)及び(C1)からなる組み合わせ、又は、(A1)、(B1)、(B2)及び(C1)からなる組み合わせ。
(b):(A2)、(B3)及び(C2)からなる組み合わせ、又は(A2)、(B1)、(B3)及び(C2)からなる組み合わせ。
(c):(A1)及び(A2)からなる組み合わせ。
(d):(a)の繰返し単位の組み合わせにおいて、(A1)の一部又は全部を(A2)で置きかえた組み合わせ。
(e):(a)の繰返し単位の組み合わせにおいて、(B1)の一部又は全部を(B3)で置きかえた組み合わせ。
(f):(a)の繰返し単位の組み合わせにおいて、(C1)の一部又は全部を(C3)で置きかえた組み合わせ。
(g):(b)の繰返し単位の組み合わせにおいて、(A2)の一部又は全部を(A1)で置きかえた組み合わせ。
(h):(c)の繰返し単位の組み合わせに、(B1)と(C2)を加えた組み合わせ。
【0056】
特に好ましい液晶ポリエステルとしては、全繰返し単位の合計に対して、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位の合計が30~80モル%、芳香族ジオールに由来する繰返し単位の合計が10~35モル%、芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位の合計が10~35モル%、である液晶ポリエステルを挙げることができる。
【0057】
前記液晶ポリエステルの製造方法としては、例えば、特開2002-146003号公報に記載の方法などの公知の方法が適用できる。すなわち、上述の原料モノマー(芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール又はこれらのエステル形成用誘導体)を溶融重合(重縮合)させて、比較的低分子量の芳香族ポリエステル(以下、「プレポリマー」と略記する。)を得、次いで、このプレポリマーを粉末とし、加熱することにより固相重合する方法が挙げられる。このように固相重合させることにより、重合がより進行して、より高分子量の液晶ポリエステルを得ることができる。
【0058】
その他、最も基本的な構造となる前記(a)、(b)の繰返し単位の組み合わせを有する液晶ポリエステルの製造方法については、特公昭47-47870号公報、特公昭63-3888号公報などにも記載されている。
【0059】
溶融重合は、触媒の存在下で行ってもよい。溶融重合に用いられる触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモンなどの金属化合物や、4-(ジメチルアミノ)ピリジン、1-メチルイミダゾールなどの含窒素複素環式化合物が挙げられ、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。
【0060】
本実施形態の樹脂成形体に使用する液晶ポリエステルとしては、下記の方法で求められる流動開始温度が280℃以上の液晶ポリエステルであることが好ましい。上述のように、液晶ポリエステルの製造において固相重合を用いた場合には、液晶ポリエステルの流動開始温度を280℃以上にすることが比較的短時間で可能である。そして、このような流動開始温度の液晶ポリエステルを用いることにより、得られる成形体は高度の耐熱性を有する成形体となる。一方、成形体を実用的な温度範囲で成形する観点では、本実施形態の樹脂成形体に使用する液晶ポリエステルの流動開始温度は420℃以下が好ましく、390℃以下であればさらに好ましい。
【0061】
ここで、流動開始温度とは、内径1mm、長さ10mmのダイスを取付けた毛細管型レオメーターを用い、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下において昇温速度4℃/分で液晶ポリエステルをノズルから押出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポイズ)を示す温度である。流動開始温度は、当技術分野で周知の液晶ポリエステルの分子量を表す指標である(小出直之編、「液晶性ポリマー合成・成形・応用-」、95~105頁、シーエムシー、1987年6月5日発行を参照)。流動開始温度を測定する装置としては、例えば、(株)島津製作所製の流動特性評価装置「フローテスターCFT-500D」を用いることができる。
【0062】
[充填材]
本実施形態の樹脂成形体は、充填材を含有してもよい。本実施形態では、樹脂成形体が充填材を含有することで、樹脂成形体に十分な強度を付与できる。
【0063】
本実施形態で用いられる充填材は、無機充填材であってもよいし、有機充填材であってもよい。また、繊維状充填材であってもよく、板状充填材であってもよく、粒状充填材であってもよい。
【0064】
繊維状充填材の例としては、ガラス繊維;パン系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維などの炭素繊維;シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維などのセラミック繊維;及びステンレス繊維などの金属繊維が挙げられる。また、チタン酸カリウムウイスカー、チタン酸バリウムウイスカー、ウォラストナイトウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、窒化ケイ素ウイスカー、炭化ケイ素ウイスカーなどのウイスカーも挙げられる。
【0065】
板状充填材の例としては、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、硫酸バリウム及び炭酸カルシウムなどが挙げられる。マイカは、白雲母であってもよいし、金雲母であってもよいし、フッ素金雲母であってもよいし、四ケイ素雲母であってもよい。
【0066】
粒状充填材の例としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、窒化ホウ素、炭化ケイ素及び炭酸カルシウムなどが挙げられる。
【0067】
[その他の成分]
本実施形態に係る樹脂成形体は、本発明の効果を損なわない範囲において、上記液晶ポリエステル及び充填材のいずれにも該当しない、他の成分を含有してもよい。
【0068】
上記他の成分の例としては、フッ素樹脂、金属石鹸類などの離型改良剤;染料、顔料などの着色剤;酸化防止剤;熱安定剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤;界面活性剤などの、樹脂成形体に一般的に使用される添加剤が挙げられる。
【0069】
また、上記他の成分の例としては、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、フルオロカーボン系界面活性剤などの外部滑剤効果を有する化合物も挙げられる。
【0070】
さらに、上記他の成分の例としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂も挙げられる。
【0071】
本実施形態においては、液晶ポリエステル、充填材、及び必要に応じて用いられる他の成分を、一括又は適当な順序で混合する。
【0072】
本実施形態においては、液晶ポリエステル、充填材、及び必要に応じて用いられる他の成分を、押出機を用いて溶融混練することで、ペレット化することが好ましい。
【0073】
図1は、本実施形態におけるコイル用ボビンを示す模式図である。図に示すように、コイル用ボビン1Aは、本体部2と、一対の鍔部3と、を有する。
【0074】
以下の説明においては、xyz直交座標系を設定し、このxyz直交座標系を参照しつつ各部材の位置関係について説明する。ここでは、本体部2の延在方向をx軸方向、水平面内においてx軸方向と直交する方向をy軸方向、x軸方向及びy軸方向のそれぞれと直交する方向、すなわち鉛直方向をz軸方向とする。
【0075】
本体部2は、筒状を呈する部材である。本体部2は、本体部2をx軸方向に貫通する軸穴29を有している。本体部2の外面2bには、本体部2の周方向に巻線が巻かれる。外面2bに巻かれた巻線は、コイルを形成する。
【0076】
鍔部3は、本体部2の軸穴29の延在方向の両端に設けられている。鍔部3は、yz平面方向に広がる環状を呈している。鍔部3は、巻線を挿通する通し穴を有していてもよい。
【0077】
図2~4は、コイル用ボビン1Aの断面図であり、
図1に示す仮想面S1~S3における断面図である。
図2は、
図1においてxz面と平行な仮想面S1におけるコイル用ボビン1Aの断面図である。
図3は、
図1においてxy面と平行な仮想面S2におけるコイル用ボビン1Aの断面図である。
図4は、
図1においてyz面と平行な仮想面S3におけるコイル用ボビン1Aの断面図である。
【0078】
図2~4に示すように、コイル用ボビン1Aは、仮想面S1~S3による断面において、本体部2の厚みW1が鍔部3の厚みW2と同等又は鍔部3の厚みW2よりも厚い第1領域AR1を含む。以下の説明において、第1領域AR1に含まれる本体部2は、「本体部21」と称する。また、第1領域AR1に含まれる鍔部3は、「鍔部31」と称する。
【0079】
第1領域AR1においては、本体部21の厚みW1は鍔部31の厚みW2と同等であると好ましい。
【0080】
本体部21の厚みが鍔部31の厚みと「同等」とは、本体部21の厚みが鍔部31の厚みの90%以上100%以下であることを指す。
【0081】
本体部21の厚みが変化する場合には、本体部21の厚みが鍔部31の厚みと同等又は鍔部3の厚みよりも厚いという関係を満たす連続した領域が「第1領域AR1」である。仮想面S1,S2における断面は、本発明における「本体部及び一対の鍔部と交差する断面」に該当する。
【0082】
「本体部2の厚み」は、仮想面とコイル用ボビン1Aとの断面において、本体部2を、本体部2の内面2aと外面2bとに接する平行線で挟んだときの平行線間の距離、に該当する。
【0083】
また、「鍔部3の厚み」は、仮想面とコイル用ボビン1Aとの断面において、鍔部3を鍔部3の内面3aと外面3bとに接する平行線で挟んだときの平行線間の距離、に該当する。
【0084】
第1領域AR1における本体部21の厚みW1は、0.2mm以上であることが好ましく、0.3mm以上であることがより好ましく、0.4mm以上であることがさらに好ましい。
また、本体部21の厚みW1は、1.5mm以下であることが好ましく、1.0mm以下であることがより好ましく、0.8mm以下であることがさらに好ましい。
【0085】
本体部21の厚みW1は、0.2mm以上1.5mm以下であってもよく、0.2mm以上1.0mm以下であってもよく、0.2mm以上0.8mm以下であってもよい。
また、本体部21の厚みW1は、0.3mm以上1.5mm以下であってもよく、0.3mm以上1.0mm以下であってもよく、0.3mm以上0.8mm以下であってもよい。
また、本体部21の厚みW1は、0.4mm以上1.5mm以下であってもよく、0.4mm以上1.0mm以下であってもよく、0.4mm以上0.8mm以下であってもよい。
【0086】
第1領域AR1における本体部21の厚みW1は、0.2mm以上1.5mm以下であることが好ましく、0.3mm以上1.0mm以下であることがより好ましく、0.4mm以上0.8mm以下であることがさらに好ましい。
【0087】
本体部2の延在方向の長さは、30mm以上であることが好ましく、40mm以上であることがより好ましい。
また、本体部2の延在方向の長さは、150mm以下であることが好ましく、100mm以下であることがより好ましく、80mm以下であることがさらに好ましい。
【0088】
本体部2の延在方向の長さは、30mm以上150mm以下であってもよく、30mm以上100mm以下であってもよく、30mm以上80mm以下であってもよい。
また、本体部2の延在方向の長さは、40mm以上150mm以下であってもよく、40mm以上100mm以下であってもよく、40mm以上80mm以下であってもよい。
【0089】
本体部2の延在方向の長さは、30mm以上150mm以下であることが好ましく、30mm以上100mm以下であることがより好ましく、40mm以上80mm以下であることがさらに好ましい。
【0090】
また、
図2~4に示すように、コイル用ボビン1Aは、仮想面S1~S3による断面において、第1領域AR1と連続する第2領域AR2を有する。以下の説明において、第2領域AR2に含まれる本体部2は、「本体部22」と称する。また、第2領域AR2に含まれる鍔部3は、「鍔部32」と称する。
【0091】
本体部22の厚みW3は、本体部21の厚みW1よりも厚い。また、鍔部32の厚みW4は、鍔部31の厚みW2よりも厚い。さらに、本体部22の厚みW3は、鍔部31の厚みW2よりも厚いと好ましい。
【0092】
コイル用ボビン1Aにおいては、上述のような第1領域AR1が、本体部2の周方向に連続して設定されている。第1領域AR1は、本体部2の周方向の全周に対し50%以上存在している。第1領域AR1の量を外面2bの広さで示すと、第1領域AR1に含まれる外面2bは、本体部2の外面2bの周方向の全周に対し50%以上存在する。
【0093】
本体部2の周方向の全周に対する第1領域AR1の割合は、周方向の全周の長さに対する、第1領域AR1の長さから求めることができる。周方向の全周の長さ及び第1領域AR1の長さは、本体部2の中心線(両側の鍔部からの中点を結ぶ仮想線)において、周方向の長さを測定して求める。
【0094】
第1領域AR1は、本体部2の周方向の全周に対し60%以上存在することが好ましく、70%以上存在することがより好ましく、80%以上存在することがさらに好ましく、90%以上存在することがよりさらに好ましい。第1領域AR1の理論上の上限は、本体部2の周方向の全周に対し100%である。
【0095】
本実施形態において、本体部2の周方向の全周における、第1領域AR1を除く領域が第2領域AR2である。第2領域AR2は、本体部2の周方向の全周に対し50%以下存在し、40%以下存在することが好ましく、30%以下存在することがより好ましく、20%以下存在することがさらに好ましく、10%以下存在することがよりさらに好ましい。なお、第2領域AR2の理論上の下限は、本体部2の周方向の全周に対し0%である。
【0096】
第1領域AR1及び第2領域AR2は、本体部2の周方向の全周に対し、第1領域AR1が50%以上100%以下、且つ第2領域AR2が0%以上50%以下存在してもよく、
第1領域AR1が60%以上100%以下、且つ第2領域AR2が0%以上40%以下存在してもよく、
第1領域AR1が70%以上100%以下、且つ第2領域AR2が0%以上30%以下存在してもよく、
第1領域AR1が80%以上100%以下、且つ第2領域AR2が0%以上20%以下存在してもよく、
第1領域AR1が90%以上100%以下、且つ第2領域AR2が0%以上10%以下存在してもよい。
【0097】
このようなコイル用ボビン1Aは、射出成形法にて成形される射出成形体である。コイル用ボビン1Aにおいて、射出成形時に形成されるゲート痕GMは、本体部2の外面2bを除く位置に形成されている。ゲート痕GMは、鍔部3の内面3aを除く位置に形成されている。コイル用ボビン1Aの形成時に、このような位置にゲート痕GMが形成される金型を用いることで、コイル用ボビン1Aにおいては、巻線がゲート痕GMに接することがない。そのため、巻線が破損しにくくなる。
【0098】
コイル用ボビン1Aにおいては、ゲート痕GMは、例えば
図1に示すように、第2領域AR2の鍔部32の外面3bに設けられているとよい。この場合、射出成形に用いる金型のゲートは、サイドゲート、ピンゲート、サブマリンゲート等を採用できる。
【0099】
また、ゲート痕は、本体部2の内面2aに設けられていてもよい。この場合、射出成形に用いる金型のゲートは、本体部2の延在方向と同方向に設定されたフィルムゲートを採用できる。
【0100】
このようなコイル用ボビン1Aを成形する際には、金型内において次のように溶融樹脂が流れる。以下の説明では、鍔部32の外面3bに対応する位置にゲートを有する金型を用いることとする。
【0101】
図5~7は、形成されるコイル用ボビンにおいて溶融樹脂が流れる方向を示す模式図である。
図5~7において、白矢印は、溶融樹脂MRの流動方向を示す。以下、説明を容易にするため、射出成形体であるコイル用ボビンを示して、コイル用ボビンの成形時の溶融樹脂MRの挙動を説明する。
【0102】
まず、本実施形態のコイル用ボビン1Aと異なり、本体部21の厚みW1が鍔部31の厚みW2よりも薄い場合、鍔部31は本体部21よりも流れ抵抗が低くなる。そのため、
図5に示すように、成形時の溶融樹脂MRは、まず符号MR1で示すように、本体部21に対応する空間よりも流れ抵抗が低い鍔部31に対応する空間を充填する。その後、符号MR2で示すように、本体部21に対応する空間を充填すると考えられる。
【0103】
この場合、本体部21に対応する空間を流動する溶融樹脂MRは、本体部21に対応する空間において、本体部21の周方向に交差する方向(x軸方向)に流動する。このようにして形成されたコイル用ボビン1Xにおいては、本体部2における成形時の溶融樹脂MRの流れ方向と、コイル用ボビン1Xに巻き付ける巻線の巻回方向(y軸方向又はz軸方向)とが異なる。
【0104】
一般に、液晶ポリエステル樹脂を形成材料とする成形体において、溶融樹脂MRの流動方向における熱膨張係数は、溶融樹脂MRの流動方向と直交する方向における熱膨張係数よりも小さい。例えば、液晶ポリエステル樹脂(型番E6006L。住友化学株式会社製)の成形体において、溶融樹脂MRの流動方向(MD方向)における熱膨張係数は2.0×10-5/Kであり、溶融樹脂MRの流動方向と直交する方向(TD方向)における熱膨張係数は8.9×10-5/Kである。
【0105】
上記成形体は、射出成形により作製したASTM D638 Type-IV試験片から、6mm(MD方向)×6mm(TD方向)×2.5mm(厚さ)の大きさに切り出した成形体である。
【0106】
MD方向の線膨張係数、TD方向の線膨張係数の相対的な大小関係は、上述のように成形時の溶融樹脂MRの流動方向に大きく依存する。線膨張係数の数値自体は、例えば、材料の種類や成形時の成形温度条件など、公知の制御方法に基づいて制御可能である。
【0107】
巻線の材料として広く用いられる銅の熱膨張係数は1.7×10-5/Kである。
【0108】
これらより、コイル用ボビン1Xにおいては、使用時の本体部2の周方向(y軸方向又はz軸方向)の熱膨張係数と、銅の熱膨張係数とに大きな差が生じる。そのため、コイル用ボビン1Xが使用時に加熱及び冷却されると、本体部2の周方向の熱膨張と収縮による変化と、巻線の熱膨張と収縮による変化の差が大きくなる。
【0109】
そのため、コイル用ボビン1Xにおいては、本体部2の熱膨張と収縮による変化と、巻線の熱膨張と収縮による変化の差が大きくなる。このようなコイル用ボビン1Xを含むモータやトランスを使用した際、コイル用ボビン1Xや巻線が熱膨張と収縮とを繰り返すと、コイル用ボビン1Xと巻線とがこすれやすく、巻線の被覆材が剥離するおそれが生じる。
【0110】
対して、本実施形態のコイル用ボビンにおいては、コイル用ボビンの本体部と鍔部との厚さを制御することにより、溶融樹脂の流動方向を制御している。
図6に示すように、射出成形機において液晶ポリエステルの溶融樹脂MRを射出すると、溶融樹脂MRは、金型のゲートから、第2領域AR2に対応する空間(キャビティ)に供給される。このとき、用いる金型は、
図2~4に示したように、第2領域AR2の本体部22の厚みW3が第1領域AR1の本体部21の厚みW1よりも厚くなるように設計されている。そのため、溶融樹脂MRは、第1領域AR1に対応する空間に向かって流れる前に、本体部22に対応する空間を優先的に充填する。
【0111】
同様に、用いる金型は、
図2~4に示したように、鍔部32の厚みW4が第1領域AR1の鍔部31の厚みW2よりも厚くなるように設計されている。そのため、溶融樹脂MRは、第1領域AR1に対応する空間に向かって流れる前に、鍔部32に対応する空間を優先的に充填する。
【0112】
次いで、溶融樹脂MRは、金型内の第2領域AR2に対応する空間を充填した後、第1領域AR1に対応する空間に向けて流動する。用いる金型は、第1領域AR1に対応する空間において、本体部21の厚みW1が鍔部31の厚みW2と同等又は鍔部31の厚みW2よりも厚くなるように設計されている。
【0113】
本体部21の厚みW1が鍔部31の厚みW2と同等である場合、本体部21に対応する空間と鍔部31に対応する空間では、溶融樹脂MRの流れ抵抗が略一致する。そのため、第1領域AR1を流動する溶融樹脂MRは、本体部21に対応する空間と鍔部31に対応する空間とで流れやすさに差が生じにくい。したがって、
図7に示すように、溶融樹脂MRは、本体部21に対応する空間、及び鍔部31に対応する空間に対し、略同時に流入する。
【0114】
また、本体部21の厚みW1が鍔部31の厚みW2よりも厚い場合、本体部21に対応する空間は、鍔部31に対応する空間よりも溶融樹脂MRの流れ抵抗が小さくなる。そのため、第1領域AR1を流動する溶融樹脂MRは、本体部21に対応する空間の方が鍔部31に対応する空間よりも流れやすい。したがって、第1領域AR1において溶融樹脂MRは、まず本体部21に対応する空間に流入した後、本体部21に対応する空間から鍔部31に対応する空間に対して流入する。
【0115】
これら2つの場合に共通して、本体部21に対応する空間を流動する溶融樹脂MRは、第2領域AR2に対応する空間から第1領域AR1に対応する空間に向けて流動する際に、本体部21の周方向に流動する。このようにして形成されたコイル用ボビン1Aにおいては、本体部2における成形時の溶融樹脂MRの流れ方向と、コイル用ボビン1Aに巻き付ける巻線の巻回方向とが一致する。
【0116】
さらに、本実施形態のコイル用ボビンにおいては、材料の種類や成形時の成形温度条件などを制御することにより、本体部のMD方向の線膨張係数を、巻線の材料の熱膨張係数に近づけることができる。本体部のMD方向(本体部の周方向)の線膨張係数と、巻線の材料の熱膨張係数との差の絶対値は、0/K以上1.5×10-5/K以下の範囲であると好ましい。
【0117】
これらより、コイル用ボビン1Aにおいては、使用時の本体部2の周方向の熱膨張係数を、銅の熱膨張係数に近づけることができる。そのため、コイル用ボビン1Aが使用時に加熱及び冷却されたとしても、本体部2の周方向の熱膨張と収縮による変化と、巻線の熱膨張と収縮による変化の差が小さくなる。
【0118】
その結果、コイル用ボビン1Aを含むモータやトランスを使用した際、コイル用ボビン1Aや巻線が熱膨張と収縮とを繰り返したとしても、コイル用ボビン1Aと巻線とがこすれにくく、巻線の被覆材の剥離を抑制できる。また、コイル用ボビン1Aの熱疲労による破損を抑制できる。
また、第1領域AR1の本体部21の厚みW1よりも厚い本体部22を有する第2領域AR2が存在することで、コイル用ボビンの本体部の延在方向(x軸方向)の熱膨張と収縮による変化の差が小さくなる。
【0119】
以上のような溶融樹脂の流動状態は、プラスチック射出成形のシミュレーションソフトウェア(Moldflow Insight 2016、Autodesk Inc.製)を用いて溶融樹脂の流動解析を行うことでも確認することができる。シミュレーション結果と、実際の成形体の結果とが同傾向を示すことを確認している。
【0120】
以上のように、本体部2の厚みと鍔部3の厚みを適切に設定した本実施形態のコイル用ボビン1Aにおいては、自身の破損や、ボビンに巻かれた巻線の破損を抑制可能となる。
【0121】
[第2実施形態]
図8は、本発明の第2実施形態に係るコイル用ボビン1Bの説明図である。本実施形態において第1実施形態と共通する構成要素については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0122】
本実施形態のコイル用ボビン1Bは、第1実施形態のコイル用ボビン1Aと異なり、本体部2の延在方向と交差する方向に二分割された2つの部材を組み合わせて形成する。コイル用ボビン1Bを構成する2つの部材は、それぞれ第1部材101、第2部材102とする。第1部材101と第2部材102とは、本発明における「一対の分割体」に該当する。
【0123】
第1部材101は、本体部2が分割された半筒状の第1本体部201と、第1本体部201の両端に設けられた半環状の一対の第1鍔部301と、を有している。
第2部材102は、本体部2が分割された半筒状の第2本体部202と、第2本体部202の両端に設けられた半環状の一対の第2鍔部302と、を有している。
【0124】
第1本体部201と第2本体部202とが組み合わさって、コイル用ボビン1Bの本体部2を構成する。
第1鍔部301と第2鍔部302とが組み合わさって、コイル用ボビン1Bの鍔部3を構成する。
【0125】
コイル用ボビン1Bは、本体部2の厚みが鍔部3の厚みと同等又は鍔部3の厚みよりも厚い第1領域AR1を含む。また、コイル用ボビン1Bは、第1領域AR1と連続する第2領域AR2を有する。コイル用ボビン1Bにおいては、z軸方向に第2領域AR2、第1領域AR1、第2領域AR2が形成されている。コイル用ボビン1Bは、第2領域AR2において第1部材101と第2部材102とに分割されている。
【0126】
コイル用ボビン1Bの表面には、第1部材101と第2部材102とが合わさって形成される分割線19が存在している。分割線19は、第2領域AR2に重なって形成されている。
【0127】
第1領域AR1における本体部2の厚み及び鍔部3の厚みと、第2領域AR2における本体部2の厚み及び鍔部3の厚みとの関係は、第1実施形態で示した第1領域AR1、第2領域AR2と同じである。すなわち、第1領域AR1においては、本体部2と鍔部3とで溶融樹脂の流れ抵抗が略一致しているか、本体部2の方が鍔部3よりも溶融樹脂の流れ抵抗が低くなっている。
【0128】
第1部材101及び第2部材102は、それぞれ、射出成形法にて成形される射出成形体である。第1部材101及び第2部材102において、射出成形時に形成されるゲート痕GMは、本体部2の外面2bを除く位置に形成されている。ゲート痕は、鍔部3の内面3aを除く位置に形成されていると好ましい。
【0129】
このような第1部材101及び第2部材102を射出成形する際には、溶融樹脂MRは、第1領域AR1において、本体部2の周方向に流動する。そのため、コイル用ボビン1Bを含むモータやトランスを使用した際、コイル用ボビン1Bや巻線が熱膨張と収縮とを繰り返したとしても、コイル用ボビン1Bと巻線とがこすれにくく、巻線の被覆材の剥離を抑制できる。また、コイル用ボビン1Bの熱疲労による破損を抑制できる。
【0130】
以上のような構成のコイル用ボビン1Bにおいても、自身の破損や、ボビンに巻かれた巻線の破損を抑制可能となる。
【0131】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【実施例】
【0132】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0133】
実施例においては、形状を異ならせたコイル用ボビンを射出成形する場合を想定し、プラスチック射出成形のシミュレーションソフトウェア(Moldflow Insight 2016、Autodesk Inc.製)を用いて溶融樹脂の流動解析を行った。
【0134】
図9,10は、解析を行ったコイル用ボビン1Sの説明図である。
図9はコイル用ボビン1Sの正面図、
図10は
図9のX-Xにおける矢視断面図である。コイル用ボビン1Sは、上述の第2実施形態における第2部材102に相当する。
図9の符号Gは、ゲート位置を示す。
【0135】
コイル用ボビン1Sの各部の寸法は、図に示す通りである。図に示す数値の単位はmmである。z軸方向に、第2領域AR2、第1領域AR1が配列する構成とした。
【0136】
上記コイル用ボビンを射出成形するシミュレーションにおける解析条件を以下に示す。
(解析条件)
樹脂 :液晶ポリエステル(LCP):住友化学株式会社製、E6007LHF)
樹脂温度:350℃
金型温度:80℃
射出時間:0.2秒
冷却時間:20秒
保圧 :20MPa
【0137】
解析にあたり、樹脂の物性値は、Autodesk社が取得したデータを用いた。
【0138】
さらに、上記シミュレーション結果として得られたコイル用ボビンを加熱する場合を想定し、解析ソフトウェア(Simulation Mechanical 2016、Autodesk Inc.製)を用いてコイル用ボビンの熱解析を行った。
【0139】
熱解析においては、コイル用ボビンを23℃から150℃にまで加熱した場合の寸法変化を確認した。採寸箇所は、本体部の外面のうちxz平面と平行な面の3か所とした。具体的には、本体部の延在方向の中央におけるz軸方向の長さ(
図9の符号L1の長さ)、及び本体部と鍔部との交差位置におけるz軸方向の長さ(
図9の符号L2,L3の長さ)の3か所とした。上記3か所について求めた値の算術平均値を、熱変形量とした。
【0140】
(実施例1)
第1領域の本体部の厚みWaを0.4mm、第1領域の鍔部の厚みWbを0.4mmとし、コイル用ボビンの本体部周方向における第1領域が占める幅の割合を70%、第2領域が占める幅の割合を30%とした。
【0141】
(実施例2)
第1領域の鍔部の厚みWbを0.3mmとしたこと以外は、実施例1と同じとした。
【0142】
(比較例1)
実施例1において第1領域とする部分の鍔部の厚みを0.8mmとしたこと以外は、実施例1と同じとした。
【0143】
なお、比較例1の条件においては、「本体部の厚みが鍔部の厚みと同等又は鍔部の厚みよりも厚い関係を満たす第1領域」は存在しない。また、第1領域が存在しないため、「第1領域と連続する第2領域」も存在しない。
【0144】
実施例1,2、比較例1について、上記熱解析の結果を下記表1に示す。
【0145】
【0146】
なお、上述のように比較例1においては、第1領域、第2領域が存在しないため、表1においては各厚み及び割合について「-」と表記している。また、表1には熱変形量として、比較例1の熱変形量を100としたときの相対値を記載した。
【0147】
評価の結果、実施例1,2のコイル用ボビンは、比較例1のコイル用ボビンよりも、本体部の周方向の変形量が小さいことが分かった。
【0148】
上記流動解析の結果、比較例1における溶融樹脂の流れは、流れ抵抗が低い鍔部の空間を充填した後、本体部に対応する空間を充填する挙動を示す結果となった。
【0149】
一方、実施例1、2における溶融樹脂の流れは、第2領域に対応する空間を充填した後、第1領域の本体部に対応する空間に流入する挙動を示した。実施例1、2のシミュレーション条件は、本外部においてコイル用ボビンの巻線の巻回方向と成形時の溶融樹脂の流れ方向が一致し、周方向の変化が小さくなったと考えられる。
【0150】
また、実施例1のコイル用ボビンについては、実物を成形し、ボビンの第1領域の本体部について線膨張係数を測定した。成形条件は、実施例1のシミュレーションにおいて採用した条件と同じ条件とした。
【0151】
線膨張係数は、
図9に示すコイル用ボビン1Sにおいて、本体部の延在方向の中央(符号L1で示す一点鎖線の中央)からMD方向(z軸方向)確認用の試験片、TD方向(x軸方向)確認用の試験片を切り出した試験片を用いて測定した。
【0152】
MD方向確認用の試験片は、本体部の延在方向を長手方向とし、25mm×5mmの大きさとした。
TD方向確認用の試験片は、本体部の延在方向を短手方向とし、25mm×5mmの大きさとした。
【0153】
切り出して得られた前記試験片について、熱機械分析装置((株)リガク製「TMA8310」)を用い、昇温速度10℃/分の条件で線膨張係数を測定した。50~280℃での測定値の平均値を、成形体の線膨張係数とした。
【0154】
測定の結果、実施例1のシミュレーション条件で成形した実物のコイル用ボビンは、MD方向であるz軸方向の線膨張係数が0.54×10-5/K、TD方向であるx軸方向の線膨張係数が6.13×10-5/Kであった。実施例1のコイル用ボビンの本体部において、周方向は、周方向に交差する方向よりも変形量が小さく、成形体においてもシミュレーション結果と同傾向であることが確認できた。
【0155】
以上の結果より、本発明が有用であることが分かった。
【符号の説明】
【0156】
1A,1B,1X…コイル用ボビン、2,21,22…本体部、3,31,32…鍔部、19…分割線、AR1…第1領域、AR2…第2領域、GM…ゲート痕、W1,W2,W3,W4…厚み