(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】電気分解用電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25B 11/093 20210101AFI20240718BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20240718BHJP
C25B 9/00 20210101ALN20240718BHJP
C25B 1/02 20060101ALN20240718BHJP
C25B 1/46 20060101ALN20240718BHJP
【FI】
C25B11/093
C25B11/052
C25B9/00 C
C25B1/02
C25B1/46
(21)【出願番号】P 2023517804
(86)(22)【出願日】2021-11-12
(86)【国際出願番号】 KR2021016558
(87)【国際公開番号】W WO2022114626
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2023-03-16
(31)【優先権主張番号】10-2020-0159200
(32)【優先日】2020-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】キム、ミョン-フン
(72)【発明者】
【氏名】オム、ヒ-チュン
(72)【発明者】
【氏名】イ、トン-チョル
【審査官】和瀬田 芳正
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2020-0102845(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0007306(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0076275(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材の少なくとも一つの面上にコーティング組成物を塗布するステップと、
コーティング組成物が塗布された金属基材を乾燥及び熱処理してコーティング層を形成するステップと、を含み、
前記コーティング組成物は、ルテニウム前駆体
、セリウム前駆体、白金前駆体及び安定化剤を含み、
前記安定化剤は、尿素及びオクタデシルアミンを含む、電気分解用電極の製造方法。
【請求項2】
前記尿素及びオクタデシルアミンは、90:10~10:90のモル比で含まれる、請求項1に記載の電気分解用電極の製造方法。
【請求項3】
前記尿素及びオクタデシルアミンは、80:20~60:40のモル比で含まれる、請求項2に記載の電気分解用電極の製造方法。
【請求項4】
前記ルテニウム前駆体及び安定化剤は、100:20~100:40のモル比で含まれる、請求項1~3のいずれか一項に記載の電気分解用電極の製造方法。
【請求項5】
前記コーティング組成物の溶媒は、イソプロピルアルコールと2-ブトキシエタノールの混合物である、
請求項1~4のいずれか一項に記載の電気分解用電極の製造方法。
【請求項6】
前記塗布、乾燥及び熱処理は、電気分解用電極の単位面積当たりのルテニウム酸化物の含量が7g/m
2以上となるように繰り返し行われる、
請求項1~5のいずれか一項に記載の電気分解用電極の製造方法。
【請求項7】
前記乾燥は、50℃~300℃で5分~60分間行われる、
請求項1~6のいずれか一項に記載の電気分解用電極の製造方法。
【請求項8】
前記熱処理は、400℃~600℃で1時間以下行われる、
請求項1~7のいずれか一項に記載の電気分解用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年11月24日付けの韓国特許出願第10-2020-0159200号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示されている全ての内容は、本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は低い過電圧特性を示し、優れた耐久性を示す電気分解用電極を製造することができる製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
海水などの低価の塩水(Brine)を電気分解して水酸化物、水素及び塩素を生産する技術が広く知られている。このような電気分解工程は、通常クロル-アルカリ(chlor-alkali)工程とも呼ばれ、既に数十年間の商業運転により性能及び技術の信頼性が証明された工程であるといえる。
【0004】
このような塩水の電気分解は、電解槽の内部にイオン交換膜を設置して電解槽を陽イオン室と陰イオン室に区分し、電解質として塩水を使用して陽極で塩素ガスを、陰極で水素及び苛性ソーダを得るイオン交換膜法が現在最も広く使用されている方法である。
【0005】
一方、塩水の電気分解工程は、下記の電気化学反応式に示すような反応によって行われる。
陽極(anode)反応:2Cl-→Cl2+2e-(E0=+1.36V)
陰極(cathode)反応:2H2O+2e-→2OH-+H2(E0=-0.83V)
全反応:2Cl-+2H2O→2OH-+Cl2+H2(E0=-2.19V)
【0006】
塩水の電気分解を行うにあたり、電解電圧は、理論的な塩水の電気分解に必要な電圧に陽極の過電圧、陰極の過電圧、イオン交換膜の抵抗による電圧及び陽極と陰極間の距離による電圧を全て考慮しなければならず、これらの電圧のうち、電極による過電圧が重要な変数として作用している。
【0007】
そこで、電極の過電圧を減少させることができる方法が研究されており、特に電極コーティング層の成分をどのように構成すべきか、及び電極の製造過程でどのようなコーティング組成物を使用し、どのような条件でコーティング層を形成すれば、優れた電極が製造できるか等に関する研究が活発な状況である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、コーティング層の形成のためのコーティング組成物に使用される安定化剤の種類及びその間の比率を最適化することにより、最終的に製造される電気分解用電極の耐久性及び過電圧特性を改善することができる電気分解用電極の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するために、本発明は電気分解用電極の製造方法を提供する。
(1)本発明は、金属基材の少なくとも一つの面上にコーティング組成物を塗布するステップと、コーティング組成物が塗布された金属基材を乾燥及び熱処理してコーティング層を形成するステップとを含み、前記コーティング組成物はルテニウム前駆体及び安定化剤を含み、前記安定化剤は尿素及びオクタデシルアミンを含むことを特徴とする電気分解用電極の製造方法を提供する。
【0011】
(2)本発明は前記(1)において、前記尿素及びオクタデシルアミンは90:10~10:90のモル比で含まれることを特徴とする電気分解用電極の製造方法を提供する。
【0012】
(3)本発明は前記(1)又は(2)において、前記尿素及びオクタデシルアミンは80:20~60:40のモル比で含まれることを特徴とする電気分解用電極の製造方法を提供する。
【0013】
(4)本発明は前記(1)~(3)のうちいずれか一つにおいて、前記ルテニウム前駆体及び安定化剤は100:20~100:40のモル比で含まれることを特徴とする電気分解用電極の製造方法を提供する。
【0014】
(5)本発明は前記(1)~(4)のうちいずれか一つにおいて、前記コーティング組成物はセリウム前駆体をさらに含むことを特徴とする電気分解用電極の製造方法を提供する。
【0015】
(6)本発明は前記(1)~(5)のうちいずれか一つにおいて、前記コーティング組成物は白金前駆体をさらに含むことを特徴とする電気分解用電極の製造方法を提供する。
【0016】
(7)本発明は前記(1)~(6)のうちいずれか一つにおいて、前記コーティング組成物の溶媒は、イソプロピルアルコールと2-ブトキシエタノールの混合物である電気分解用電極の製造方法を提供する。
【0017】
(8)本発明は前記(1)~(7)のうちいずれか一つにおいて、前記塗布、乾燥及び熱処理は、電気分解用電極の単位面積当たりのルテニウム酸化物の含量が7g/m2以上となるように繰り返し行われることを特徴とする電気分解用電極の製造方法を提供する。
【0018】
(9)本発明は前記(1)~(8)のうちいずれか一つにおいて、前記乾燥は50℃~300℃で5分~60分間行われることを特徴とする電気分解用電極の製造方法を提供する。
【0019】
(10)本発明は前記(1)~(9)のうちいずれか一つにおいて、前記熱処理は400℃~600℃で1時間以下行われることを特徴とする電気分解用電極の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の製造方法で製造された電気分解用電極は、低い過電圧と優れた耐久性を示すことができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。本明細書及び特許請求の範囲で使用された用語や単語は、通常的又は辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者は、その自分の発明を最良の方法で説明するために用語の概念を適切に定義することができるという原則に則り、本発明の技術的思想に合致する意味及び概念として解釈されるべきである。
【0022】
電気分解用電極の製造方法
電気分解工程で電極の過電圧を下げようとする研究が続いており、その努力の一環としてコーティング層の形成に使用されるコーティング組成物に様々な成分を添加してコーティング層が安定的に形成されるようにする方法に対する研究が活発な状況である。代表的な例として、アミン基を有する化合物をコーティング組成物に添加する場合、形成されるコーティング層の構造を最適化して最終的に製造される電気分解用電極の性能を改善できることが知られている。ただし、アミン基を有する化合物を使用する場合においても、化合物の具体的な化学構造や物理/化学的な特性に応じて製造過程における使用方法や最終的に製造される電気分解用電極の性能が異なり得る。
【0023】
そこで、本発明の発明者は、電極の過電圧特性と耐久性の観点から、製造される電極の性能を極大化することができるコーティング組成物の添加剤を開発しようとし、その研究の結果として本発明を導出した。
【0024】
具体的に、本発明は、金属基材の少なくとも一つの面上にコーティング組成物を塗布するステップ、及びコーティング組成物が塗布された金属基材を乾燥及び熱処理してコーティング層を形成するステップを含み、前記コーティング組成物はルテニウム前駆体及び安定化剤を含み、前記安定化剤は尿素及びオクタデシルアミンを含むことを特徴とする、電気分解用電極の製造方法を提供する。
【0025】
本発明の電気分解用電極の製造方法において、コーティング組成物が塗布される金属基材は、ニッケル、チタン、タンタル、アルミニウム、ハフニウム、ジルコニウム、モリブデン、タングステン、ステンレス鋼又はこれらの合金であってもよく、このうちニッケルであることが好ましい。また、前記金属基材はメッシュ又はエクスパンデッドメタルの形態であってもよい。金属基材として、上述した条件を満たすものを使用する場合、最終的に製造される電気分解用電極の耐久性に優れながらも、電気分解性能も優れることができる。
【0026】
本発明の電気分解用電極の製造方法において、コーティング層を形成するためのコーティング組成物は、ルテニウム前駆体及び安定化剤を含む。前記ルテニウム前駆体は、コーティング層内にルテニウム酸化物を形成するためのものであって、ルテニウムの水和物、水酸化物、ハロゲン化物又は酸化物であってよく、具体的には、ルテニウムヘキサフルオリド(RuF6)、ルテニウム(III)クロリド(RuCl3)、ルテニウム(III)クロリドハイドレート(RuCl3・xH2O)、ルテニウム(III)ブロミド(RuBr3)、ルテニウム(III)ブロミドハイドレート(RuBr3・xH2O)、ルテニウムヨージド(RuI3)及び酢酸ルテニウム塩からなる群から選択される1種以上であってもよい。前記列挙したルテニウム前駆体を使用する場合、ルテニウム酸化物の形成が容易であることができる。
【0027】
前記安定化剤は、形成されるコーティング層と金属基材との間の強い接着力を付与するためのものであって、尿素(urea)及びオクタデシルアミン(octadecylamine)を含む。安定化剤として、前記二つの成分を併用する場合、コーティング層内に含まれるルテニウム元素の間の結合力を大きく改善することができ、ルテニウム元素を含む粒子の酸化状態を調節して、より電気分解反応に適した形態で電極を作製することができる。
【0028】
一方、前記安定化剤に含まれる尿素及びオクタデシルアミンの間のモル比は、90:10~10:90、80:20~20:80、80:20~30:70又は80:20~60:40であってもよく、特に好ましくは80:20~60:40であってもよい。尿素とオクタデシルアミンの間のモル比が上述の範囲内である場合、尿素とオクタデシルアミンとの併用による性能及び耐久性の改善効果が極大化することができる。
【0029】
また、本発明の電気分解用電極の製造方法において、コーティング組成物は、ルテニウム前駆体及び安定化剤を100:20~100:40、好ましくは100:25~100:35のモル比で含むことができる。コーティング組成物内のルテニウム前駆体と安定化剤との間の組成比が上述した範囲である場合、安定化剤によるルテニウム元素の酸化状態の調節効果に優れることができる。
【0030】
一方、本発明の電気分解用電極の製造方法において、コーティング組成物はセリウム前駆体をさらに含むことができる。コーティング組成物に含まれるセリウム前駆体は、以後セリウム酸化物に転換され、形成されたセリウム酸化物は、電気分解用電極の耐久性を改善させて活性化又は電気分解の際、電気分解用電極の触媒層内の活性物質であるルテニウム元素の損失を最小化させることができる。
【0031】
さらに具体的に説明すると、電気分解用電極の活性化又は電気分解の際、触媒層内のルテニウム元素を含む粒子は、構造が変化せずに金属性元素になるか、又は部分的に水和されて活性種(active species)として還元される。そして、触媒層内のセリウム元素を含む粒子は、構造が針状に変化して触媒層内のルテニウム元素を含む粒子の物理的脱落を防止する保護物質として作用し、結果的に、電気分解用電極の耐久性を改善させ、触媒層内のルテニウム元素の損失を防止することができる。前記セリウム酸化物は、セリウム元素と酸素原子とが結合した全ての種類の酸化物形態を含み、特に(II)、(III)又は(IV)の酸化物であってもよい。
【0032】
前記セリウム前駆体は、セリウム酸化物を形成することができる化合物であれば、特に制限なく使用可能であり、例えば、セリウム元素の水和物、水酸化物、ハロゲン化物又は酸化物であってもよく、具体的には、セリウム(III)ニトレートヘキサハイドレート(Ce(NO3)3・6H2O)、セリウム(IV)スルファートテトラハイドレート(Ce(SO4)2・4H2O)及びセリウム(III)クロリドヘプタハイドレート(CeCl3・7H2O)からなる群から選択される1種以上のセリウム前駆体であってもよい。前記に列挙したセリウム前駆体を使用する場合、セリウム酸化物の形成が容易であることができる。
【0033】
前記コーティング組成物に含まれるルテニウム元素及びセリウム元素の間のモル比は、100:5~100:30、好ましくは100:10~100:20であってもよい。ルテニウム元素及びセリウム元素のモル比が上述した範囲内である場合、製造された電気分解用電極の耐久性と電気伝導性との間のバランスに優れることができる。
【0034】
また、本発明の電気分解用電極の製造方法において、コーティング組成物は白金前駆体をさらに含むことができる。コーティング組成物に含まれる白金前駆体は、以後、白金酸化物に転換されることができ、前記白金酸化物によって提供される白金元素は、ルテニウム元素のように活性物質として作用することができる。また、白金酸化物とルテニウム酸化物とを共にコーティング層に含ませる場合、電極の耐久性及び過電圧の観点からより優れた効果を奏することができる。前記白金酸化物は、白金元素と酸素原子とが結合した全ての種類の酸化物形態を含み、特に二酸化物又は四酸化物であってもよい。
【0035】
前記白金前駆体は、白金酸化物を形成することができる化合物であれば、特に制限なく使用可能であり、例えば、クロロ白金酸ヘキサハイドレート(H2PtCl6・6H2O)、ジアミンジニトロ白金(Pt(NH3)2(NO)2)及び白金(IV)クロリド(PtCl4)、白金(II)クロリド(PtCl2)、カリウムテトラクロロプラチネート(K2PtCl4)、カリウムヘキサクロロプラチネート(K2PtCl6)からなる群から選択される1種以上の白金前駆体を使用することができる。前記に列挙した白金前駆体を使用する場合、白金酸化物の形成が容易であることができる。
【0036】
前記コーティング組成物に含まれるルテニウム元素及び白金元素の間のモル比は、100:2~100:20、好ましくは100:5~100:15であってもよい。ルテニウム元素と白金元素のモル比が上述の範囲内である場合、耐久性及び過電圧改善の観点から好ましく、白金元素がこれより少なく含まれる場合、耐久性と過電圧が悪化することがあり、これより多く含まれる場合には経済性の観点から有利ではない。
【0037】
本発明の電気分解用電極の製造方法において、コーティング組成物の溶媒としてはアルコール系溶媒を使用することができる。アルコール系溶媒を使用する場合、上述した成分の溶解が容易であり、コーティング組成物の塗布後にコーティング層が形成されるステップでも各成分の結合力を維持させることができる。好ましくは、前記溶媒としてイソプロピルアルコールとブトキシエタノールのうち少なくとも1種を使用することができ、さらに好ましくは、イソプロピルアルコールとブトキシエタノールの混合物を使用することができる。イソプロピルアルコールとブトキシエタノールを混合して使用する場合、単独で使用することに比べて均一なコーティングを行うことができる。
【0038】
本発明の製造方法において、前記コーティングステップを行う前に前記金属基材を前処理するステップを含むことができる。前記前処理は、金属基材を化学的エッチング、ブラスト又は熱溶射して前記金属基材の表面に凹凸を形成させることであってよい。前記前処理は、金属基材の表面をサンドブラストして微細凹凸を形成させ、塩又は酸を処理して行うことができる。例えば、金属基材の表面をアルミナでサンドブラストして凹凸を形成し、硫酸水溶液に浸漬させ、洗浄及び乾燥して金属基材の表面に細かい凹凸が形成されるように前処理することができる。
【0039】
前記塗布は、前記触媒組成物が金属基材上に均一に塗布されることができれば、特に制限せずに当技術分野において公知された方法で行うことができる。前記塗布は、ドクターブレード、ダイキャスティング、コンマコーティング、スクリーン印刷、スプレー噴射、電気放射、ロールコーティング及びブラッシングからなる群から選択されるいずれか一つの方法で行われることができる。
【0040】
前記乾燥は、50℃~300℃で5分~60分間行うことができ、50℃~200℃で5分~20分間行うことが好ましい。上述の条件を満たしていれば、溶媒は十分に除去できるとともに、エネルギー消費は最小化することができる。
【0041】
前記熱処理は400℃~600℃で1時間以下行うことができ、450℃~550℃で5分~30分間行うことが好ましい。上述の条件を満たしていれば、触媒層内の不純物は容易に除去されるとともに、金属基材の強度には影響を及ぼさないことができる。
【0042】
一方、前記コーティングは、金属基材の単位面積(m2)当たりのルテニウム酸化物を基準にして7g以上、好ましくは7.5g以上となるように塗布、乾燥及び熱処理を順次に繰り返して行うことができる。すなわち、本発明の他の一実施例による製造方法は、金属基材の少なくとも一つの面上に前記触媒組成物を塗布、乾燥及び熱処理した後、一番目の触媒組成物を塗布した金属基材の一つの面上に再塗布、乾燥及び熱処理するコーティングを繰り返して行うことができる。単位面積当たりのルテニウム酸化物の含量を上述の範囲内とすることにより十分な電気分解性能を実現することができる。
【0043】
以下、本発明を具体的に説明するために実施例及び実験例を挙げて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例及び実験例によって制限されるものではない。本発明による実施例は様々な他の形態に変形されることができ、本発明の範囲は以下で詳述する実施例に限定されるものとして解釈されてはならない。本発明の実施例は、当技術分野において平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0044】
材料
本実施例では、ルテニウム前駆体としてルテニウム(III)クロリドハイドレート(RuCl3・nH2O)、セリウム前駆体としては、セリウム(III)ニトレートヘキサハイドレート(Ce(NO3)3・6H2O)、白金前駆体としては、クロロ白金酸ヘキサハイドレート(H2PtCl6・6H2O)を使用した。コーティング組成物のための溶媒としては、2.375mlのイソプロピルアルコールと2.375mlの2-ブトキシエタノールの混合物を使用した。金属基材としては、日東金網社のニッケルメッシュ(40mesh)の基材を使用した。
【0045】
金属基材の前処理
金属基材にコーティング層を形成する前に、各実施例及び比較例で使用される基材の表面をアルミニウムオキシド(White alumina、F120)で0.4MPaの条件でサンドブラストした後、80℃に加熱された5MのH2SO4水溶液に入れて3分間処理してから蒸留水で洗浄して前処理を完了した。
【0046】
実施例1
前記材料の混合溶媒に、3mmolのルテニウム(III)クロリドハイドレート、0.6mmolのセリウム(III)ニトレートヘキサハイドレート及び0.25mmolのクロロ白金酸ヘキサハイドレートを1時間十分に溶解させ、尿素0.5661mmolとオクタデシルアミン0.1887mmolを投入し混合してコーティング組成物を製造した。製造したコーティング組成物をブラシを用いて前処理されたニッケルメッシュにコーティングした。その後、180℃の対流式乾燥オーブンで10分間乾燥させ、500℃の電気加熱炉でさらに10分間熱処理した。このようなコーティング、乾燥及び熱処理過程をさらに9回行った後、最終的に500℃の電気加熱炉で1時間熱処理して電気分解用電極を製造した。
【0047】
実施例2
前記実施例1で、コーティング組成物に尿素0.3774mmolとオクタデシルアミン0.3774mmolを投入したことを除いては、同様に実施して電気分解用電極を製造した。
【0048】
実施例3
前記実施例1で、コーティング組成物に尿素0.1887mmolとオクタデシルアミン0.5661mmolを投入したことを除いては、同様に実施して電気分解用電極を製造した。
【0049】
比較例1
前記実施例1で、コーティング組成物に尿素0.7548mmolを投入し、且つオクタデシルアミンは投入しなかったことを除いては、同様に実施して電気分解用電極を製造した。
【0050】
比較例2
前記実施例1で、コーティング組成物にオクタデシルアミン0.7548mmolを投入し、且つ尿素は投入しなかったことを除いては、同様に実施して電気分解用電極を製造した。
【0051】
実験例1.半電池テストを用いた電気分解用電極の性能確認
前記実施例及び比較例で製造した電極の性能を確認するために、塩水電気分解(Chlor-Alkali Electrolysis)での半電池を用いた陰極電圧測定実験を行った。具体的に、電解液は32%NaOH水溶液を用い、相対電極はPtワイヤを、基準電極はHg/HgO電極を用い、下記製造された電極を前記電解液に浸漬した後、-0.62A/cm2の電流密度の条件で3時間活性化した。この後、Potentiostat装備(WonATech、Multichannel Potentiostat)を用いた線形掃引ボルタンメトリー(Linear Sweep Voltammetry)に従って、電流密度-0.62A/cm2の条件で、活性化した電極の電圧を測定した。その結果を下記表1に示した。
【0052】
【0053】
前記結果から、本発明の製造方法によって製造された電気分解用電極が低い過電圧を示して、電気分解性能がさらに優れていることを確認した。特に安定化剤として尿素のみを使用した比較例1に比べて電極性能が格段に優れており、オクタデシルアミンのみを使用した比較例2と比較しても僅かに優れた性能を示した。
【0054】
実験例2.電気分解用電極の耐久性確認
電気分解用電極のコーティング層内のルテニウム酸化物は、電解過程で金属ルテニウム又はルテニウムオキシヒドロキシド(RuO(OH)2)の形態に転換され、逆電流が発生する状況で前記ルテニウムオキシヒドロキシドはRuO4
2-に酸化して電解液に溶出する。したがって、逆電流の発生条件に遅く到達するほど電極の耐久性に優れると評価することができる。このような点から、前記実施例及び比較例で製造した電極を活性化してから、逆電流の発生条件を造成した後、経時的な電圧の変化を測定した。具体的に、電極サイズを10mm×10mmとし、温度80℃、電解液32重量%の水酸化ナトリウム水溶液の条件下で電流密度-0.1A/cm2で20分、-0.2A/cm2及び-0.3A/cm2で各3分、-0.4A/cm2で30分間水素を発生させるように電解して電極を活性化した。その後、逆電流の発生条件で0.05kA/m2で電圧が-0.1Vに到達する時間を測定し、市販の商用電極(Asahi-Kasei社)を基準にして相対的な到達時間を計算した。その結果を下記表2に示した。
【0055】
【0056】
前記結果から、本発明の実施例の電極は、逆電流の到達時間が長くて優れた耐久性を示すことを確認した。特に、尿素とオクタデシルアミンが75:25の比率で使用された実施例1の場合、特に優れた耐久性を示しており、尿素とオクタデシルアミンのうち一つのみを使用した比較例の場合、実施例1に比べて相対的に劣る耐久性を示した。