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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】積層造形用純銅又は銅合金粉末
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/16 20220101AFI20240718BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240718BHJP
   B22F 1/05 20220101ALI20240718BHJP
   B22F 10/34 20210101ALI20240718BHJP
   C22C 1/04 20230101ALI20240718BHJP
【FI】
B22F1/16
B22F1/00 L
B22F1/05
B22F10/34
C22C1/04 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023545621
(86)(22)【出願日】2022-08-30
(86)【国際出願番号】 JP2022032685
(87)【国際公開番号】W WO2023033010
(87)【国際公開日】2023-03-09
【審査請求日】2024-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2021142629
(32)【優先日】2021-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 裕文
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 義孝
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 正志
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-141505(JP,A)
【文献】特開2018-022598(JP,A)
【文献】特開2018-199862(JP,A)
【文献】特開2019-214748(JP,A)
【文献】特開2020-190008(JP,A)
【文献】国際公開第2018/193671(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00,1/05,1/14,1/16,3/105,
3/16,10/34,
B33Y 70/00
C22C 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化被膜が形成された純銅又は銅合金粉末であって、前記酸化被膜に炭素を含有し、炭素濃度に対する酸素濃度の比率(酸素濃度/炭素濃度)が5以下であり、前記炭素がグラファイト構造を有し、前記酸化被膜の膜厚が5nm以上500nm以下である、レーザービーム方式による積層造形用純銅又は銅合金粉末。
【請求項2】
前記酸素濃度が5000wtppm以下である、請求項1に記載のレーザービーム方式による積層造形用純銅又は銅合金粉末。
【請求項3】
前記炭素濃度が100wtppm以上である、請求項1又は2に記載のレーザービーム方式による積層造形用純銅及び銅合金粉末。
【請求項4】
ラマン分光法で測定した際、ラマンシフト:1000~2000cm-1における最大散乱強度値が、ラマンシフト:1300~1700cm-1の範囲内に存在する、請求項1~3のいずれか一項に記載のレーザービーム方式による積層造形用純銅又は銅合金粉末。
【請求項5】
XPSでCuLMMスペクトルを解析した際、結合エネルギー:569~571eVに最大ピーク強度が存在する、請求項1~4のいずれか一項に記載のレーザービーム方式による積層造形用純銅又は銅合金粉末。
【請求項6】
平均粒子径D50(メジアン径)を10μm以上150μm以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載のレーザービーム方式による積層造形用純銅又は銅合金粉末。
【請求項7】
純銅又は銅を80wt%以上含む銅合金である、請求項1~6のいずれか一項の記載のレーザービーム方式による積層造形用純銅又は銅合金粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形用純銅又は銅合金粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属3Dプリンタ技術を用いて、複雑形状で造形が難しいとされる立体構造の金属部品を作製する試みが行われている。金属3Dプリンタは積層造形(AM)法とも呼ばれ、その方法の1つとして、基板上に金属粉末を薄く敷き詰めて金属粉末層を形成し、この金属粉末層に2次元データを基に選択的にレーザービーム又は電子ビームを走査して、溶融、凝固させ、さらにその上に、新たな粉末を薄く敷き詰め、同様にレーザービーム又は電子ビームを走査して、溶融、凝固させ、これを繰り返し行うことで複雑形状の金属造形物を作製する方法がある。
【0003】
積層造形物(単に造形物ともいう。)として、導電率や熱伝導率に優れた純銅や銅合金を用いる取り組みが行われている。この場合、純銅や銅合金粉末にレーザービームを照射して積層造形するが、純銅や銅合金は、レーザー吸収率が低く(純銅単体のレーザー吸収率は10~20%)、また、熱伝導率が高く、熱の逃げが大きいため、通常のレーザー出力では粉末を十分に溶融できず、積層造形が困難という問題があった。また、純銅や銅合金粉末を溶融させるために、ハイパワーレーザーを用いて長時間照射することも考えられるが、その場合、レーザーの負荷が大きく、生産性が悪いという問題があった。
【0004】
特許文献1や特許文献2には、レーザーの吸収率を高めるために、銅のアトマイズ粉を酸化雰囲気で加熱することで酸化被膜を設ける技術が開示されている。特許文献1や特許文献2は、酸化被膜によりレーザー吸収率を高めることができるという優れた技術である。しかし、造形中にスラグ(酸化銅)を形成し、溶融せずに残存して、最終的に積層造形物内に空隙(ポア)を生じさせて、相対密度を低下させることがあった。
【0005】
特許文献3や特許文献4には、レーザー吸収率を高めるために有機化合物によって金属粉末を被覆することが記載されている。特許文献3や特許文献4は、有機化合物の被膜によりレーザー吸収率を高めることができるという優れた技術である。しかし、造形時の熱伝導で被膜が変質する可能性があり、繰り返し粉末を使用できない可能性がある。
特許文献5には、造形用粉末として、銅(Cu)に、所定量のクロム(Cr)を添加した銅合金粉末を用いることにより、純銅よりも熱伝導率が低下させて、造形を容易にする技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-178239号公報
【文献】特開2020-186429号公報
【文献】特開2018-199662号公報
【文献】特開2020-190008号公報
【文献】特開2019-44260号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、レーザービーム方式による積層造形に用いる純銅又は銅合金粉末であって、レーザー吸収率を高くできると共に、造形物内の酸素濃度を低くすることができる、純銅又は銅合金粉末を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、酸化被膜が形成された純銅又は銅合金粉末であって、前記酸化被膜は炭素を含有し、炭素濃度に対する酸素濃度の比率(酸素濃度/炭素濃度)が、5以下であることを特徴とする、純銅又は銅合金粉末である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、レーザービーム方式による積層造形において、該積層造形に用いる純銅又は銅合金粉末のレーザー吸収率を向上しつつ、造形物内の酸素濃度を低くすることができる。これにより、造形物の機械的強度や導電率などの特性低下を抑制できることが期待できる。また、低出力のレーザービームによっても、純銅又は銅合金粉末を十分に溶融できることとなり、レーザーへの負荷の軽減も期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
レーザービーム方式による積層造形によって純銅又は銅合金の造形物を造形する場合、銅はレーザー吸収率が低いため十分な入熱ができず、粉末が溶融しきれない問題があった。また、銅は熱伝導率が高いために、造形範囲が溶融しきれないという問題があった。このようなことから、銅に酸化処理を施すことで、レーザーの吸収率を向上させる取り組み(特許文献1~2)などが行われている。
【0011】
上記取り組みは、レーザー吸収率が大きく向上するものの、酸素濃度が高い場合には、造形物中に酸化物として残存し易く、造形物の機械的強度や導電率などの特性が低下するといった問題がある。本発明者は、このような問題について鋭意研究したところ、純銅又は銅合金粉末に酸化被膜を形成すると共に、当該酸化被膜に適切な量の炭素を含有させることで、造形時に酸素と炭素が結びつき、一酸化炭素あるいは二酸化炭素として酸素を除去して、これにより、レーザー吸収率を高めつつ、造形物中の酸素濃度を低減できるとの知見を得られた。
【0012】
上記知見に基づき、本発明の実施形態は、酸化被膜が形成された純銅又は銅合金粉末であって、前記酸化被膜は炭素を含有し、炭素濃度に対する酸素濃度の比率(酸素濃度/炭素濃度)が5以下であることを特徴とする純銅又は銅合金粉末である。ここで、前記炭素濃度及び酸素濃度は、それぞれ重量濃度である。
炭素濃度と酸素濃度を上記比率の範囲とすることにより、造形時に炭素が酸素と結びつき、一酸化炭素あるいは二酸化炭素として、効果的に酸素及び炭素を除去することができ、造形物内に酸化物が残存することによる造形物への影響を低減できる。なお、本願における酸化被膜は、純銅又は銅合金粉末を加熱するなどにより意図的に形成された酸化被膜に限定されず、大気などにより自然に形成された酸化被膜であってもよいものである。
【0013】
酸素濃度/炭素濃度が5を超えると、酸素(酸化物など)が造形物内に残存する可能性が高まり、造形物の強度低下や導電率低下といった悪影響を及ぼす懸念がある。好ましくは、酸素濃度/炭素濃度が1以下である。一方、炭素濃度の比率が高すぎると、炭素が不純物として残留することから、好ましくは、酸素濃度/炭素濃度が、0.01以上である。酸素濃度/炭素濃度の比率を、上記の数値範囲内に収めることにより、一酸化炭素や二酸化炭素として、造形時に酸素及び炭素を効果的に除去することが可能となる。
【0014】
本実施形態において、純銅又は銅合金粉末の酸素濃度は、5000wtppm以下、好ましくは3000wtppm以下、より好ましくは1500wtppm以下である。一方、酸素濃度は、好ましくは50wtppm以上、より好ましくは100wtppm以上である。純銅又は銅合金粉末の表面に酸化被膜が形成されていると、レーザーの吸収率を向上できる一方、造形時に酸素濃度が高くなり、各種の特性低下を引き起こす可能性がある。したがって、純銅又は銅合金粉末中の酸素濃度を一定量に制限することは、レーザー吸収率の向上と造形物の特性低下を抑制することの両面から有効である。
【0015】
炭素濃度は、酸素濃度を考慮して調整することができるが、炭素濃度は、好ましくは100wtppm以上、より好ましくは150wtppm以上、特に好ましくは200wtppm以上である。主として酸化物として存在する酸素の濃度に対して炭素濃度が不十分であると、造形時に酸素の除去が十分になされず、最終的に得られる造形物の酸素濃度を十分に低減できないことがある。一方、酸素に対して炭素濃度が多すぎると、造形物に炭素が残存して、相対密度を低下させることにつながる。したがって、炭素濃度は、好ましくは5000wtppm以下、より好ましくは3000wt以下、特に好ましくは1000wtppm以下である。
【0016】
本実施形態において、酸化被膜が形成された純銅又は銅合金粉末には、高温でも分解しにくい耐熱性の炭素を存在させることが好ましい。耐熱性の炭素としては、例えば、無定形炭素やグラファイトが挙げられる。耐熱性のある炭素が存在することで粉末が溶融するまでの昇温中もレーザー吸収率を高めることができ、造形性を向上させることができると考えられる。また、粉末の熱伝導率を下げることができ、熱拡散を抑制できる。耐熱性のない有機物などは造形中に消失しやすく放熱を抑制しにくいという側面があるが、炭素が耐熱性のある構造を有することで、造形中も放熱抑制をすることができる。
【0017】
炭素の結合状態(構造)を分析する手法としてラマン分光法が挙げられる。ラマン分光法は、表面の原子の結合状態を確認でき、特に炭素の結合に関して詳細な分析が可能である。本実施形態に係る純銅又は銅合金粉末をラマン分光法で測定した際、ラマンシフト:1000~2000cm-1における最大散乱強度値が、ラマンシフト:1300~1700cm-1の範囲に最大散乱強度を確認できることである。ラマンシフト:1300~1700cm-1の範囲に最大散乱強度が現れることで、グラファイト構造を有すると判断することができる。
【0018】
本実施形態に係る純銅又は銅合金粉末をXPS(X線光電子分光法)でCuLMMスペクトルを解析したとき、結合エネルギー:569~571eVに最大ピーク強度が存在することが好ましい。銅の単体の場合は、結合エネルギー:568eV以下に最大ピーク強度が現れるのに対し、酸化銅(I)及び酸化銅(II)は、結合エネルギー:569~571eVに最大ピーク強度が出現する。銅は、酸化銅としての形態をとることで、レーザー吸収率が良くなり、造形性を向上させる可能性があるため、粉末表面の銅は、酸化銅(I)あるいは酸化銅(II)の形態で存在することが好ましい。
【0019】
本実施形態では、純銅又は銅合金粉末の表面に形成された酸化被膜の膜厚が5nm以上500nm以下とすることが好ましい。酸化被膜の膜厚が厚すぎる場合、レーザービームによる積層造形時に、最終的に得られる積層造形物の相対密度を低下させることにつながる。一方、酸化被膜の膜厚が薄すぎる場合、レーザー吸収率の向上が十分でなく、純銅又は銅合金粉末が溶融しきれない可能性がある。純銅又は銅合金粉末の表面に形成された酸化被膜の膜厚を調整することにより、高密度の積層造形物を得ることが可能となる。
【0020】
本実施形態は、前記純銅又は銅合金粉末において、その平均粒子径D50(メジアン径)を10μm以上150μm以下とすることが好ましい。平均粒子径D50を10μm以上とすることにより、造形時に、粉末が舞い難くなり、粉末の取り扱いが容易になる。一方、平均粒子径D50を150μm以下とすることにより、高精細な積層造形物の製造が容易となる。本明細書中、平均粒子径D50とは画像分析測定された粒度分布において、積算値50%での平均粒子径を意味する。
【0021】
本実施形態に係る純銅粉末として、純度3N(99.9wt%)以上の純銅を用いることが好ましい。また、本実施形態に係る銅合金粉末としては、80wt%以上、85wt%以上、90wt%以上、95wt%以上、99wt%以上の銅を含む銅合金粉末を用いることが好ましい。また、合金元素としては、Al、Cr、Fe、Ni、Nb、P、Si、Zn、Zr、のうち1種類以上を用いることが好ましい。
【0022】
本実施形態に係る純銅又は銅合金粉末を用いて作製した積層造形物は、高導電率等の優れた物性を有することが期待できる。一般に積層造形物の酸素濃度が200wtppm超の場合、積層造形物内に酸化物として残存することが考えられ、導電率が低くなり、造形物としての特性が劣るものとなるが、本実施形態に係る純銅又は銅合金を用いた場合には、造形物中の酸素濃度を200wtppm以下まで下げることができ、高導電性を期待できる。
【0023】
次に、本実施形態に係る純銅又は銅合金粉末の製造方法について、説明する。
まず、必要量の純銅又は銅合金粉末を準備する。純銅又は銅合金粉末は、平均粒子径D50(メジアン径)が10~150μmのものを用いることが好ましい。平均粒子径は、篩別することで目標とする粒度のものを得ることができる。純銅又は銅合金粉末は、アトマイズ法を用いて作製することができるが、本実施形態に係る純銅又は銅合金粉末は、他の方法で作製されたものでもよく、この方法で作製されたものに限定されない。
【0024】
次に、純銅又は銅合金粉末の表面に酸化被膜を形成するために、大気中で加熱することができる。酸素濃度や膜厚は、加熱温度及び加熱時間で調整することができ、例えば、加熱温度は70℃~200℃、加熱時間は2~48時間とすることができる。また、酸化被膜は加熱によって意図的に形成することもできるが、大気などによって自然に形成される酸化被膜を利用することもできる。
【0025】
その後、酸化被膜が形成された純銅又は銅合金粉末に炭素を含有させる。炭素を含有させる方法に特に制限はなく、例えば、カーボンブラックと純銅粉末とをボールミルや乳鉢を用いて混合することができる。または、液体の有機化合物を不活性雰囲気中で加熱して純銅粉末に炭素が含有させることができる。あるいは、CVD(化学的気相成長法)によって純銅粉末にグラファイト膜を形成することができる。炭素を含有させるのに適した炭素系材料として、カーボンブラック、コールタール、ピッチ、コークス、有機化合物などを挙げることができる。このとき、酸素濃度に応じて炭素濃度(含有量)を調整する必要がある。以上により、所望する酸素濃度及び炭素濃度を有する純銅又は銅合金粉末を得ることができる。
【0026】
本開示における評価方法について、記述する。
(平均粒子径D50について)
メーカー:マイクロトラックベル
装置名:MT3300EXII
測定方法:レーザー回折方式(体積基準)
溶媒:純水
屈折率:1.33
【0027】
(粉末に含まれる酸素濃度について)
メーカー:LECO社製
装置名:TCH600
分析法:不活性ガス融解法
測定サンプル量:1g
測定回数:2回として、その平均値を濃度とする。
【0028】
(粉末に含まれる炭素濃度について)
メーカー:LECO社製
装置名:TCH600
分析法:不活性ガス融解法
測定サンプル量:1g
測定回数:2回として、その平均値を濃度とする。
【0029】
(酸化被膜の膜厚)
酸化被膜の膜厚は、一定のスパッタレートで粉体表面を掘り進めながら、オージェ電子分光法(AES)によりオージェ電子を検出し、酸素が検出しなくなるまでにかかった時間とスパッタレートから算出した値とする。検出する場所は、1つの粒子からランダムに2点選び、実施例の値はその平均値を示す。
メーカー:日本電子株式会社
装置名:AES(JAMP-7800F)
フィラメント電流:2.22A
プローブ電圧:10kV
プローブ電流:1.0×10-8
プローブ径:約500nm
スパッタリングレート:7.2nm/min(SiO換算)
【0030】
(XPSについて)
酸化銅の存在は、XPSにより確認することができる。XPSにより銅のLMMスペクトルを確認し、569~570eVにピークが存在した場合には酸化銅が存在すると判断することができる。
メーカー: アルバック株式会社
装置名:5600MC
【0031】
(炭素の結合について)
グラファイト構造の存在は、ラマン分光法により確認することができる。ラマン分光測定によりラマンシフト:1300~1700cm‐1に最大散乱強度値が存在した場合グラファイト構造が存在すると判断することができる。
メーカー:Ranishow
装置名:invia
【0032】
(レーザー吸収率について)
一般的なレーザー方式の造形は波長:1060nm程度のファイバーレーザーを使用することから、波長:1060nmの反射率を測定し、レーザー吸収率を算出する。
メーカー:島津製作所株式会社
装置名:分光光度計(MPC-3100、粉末ホルダー使用)
測定波長:300mm~1500mm
スリット幅:20nm
リファレンス:BaSO
測定物性値:反射率
吸収率(%)=1-(反射率(%))
【0033】
(造形物中の酸素濃度及び相対密度)
純銅又は銅合金粉末を融点まで加熱し溶解させた後、冷却して疑似的な造形物を作製し、その造形物中の酸素濃度を測定する。酸素濃度の測定方法は上記粉末の酸素濃度の測定方法と同じ手法を用いることができる。また、疑似的な造形物のアルキメデス密度を測定し、測定したアルキメデス密度を純銅又は銅合金の理論密度で除することで、相対密度を算出する。
【実施例
【0034】
(実施例1)
金属粉として、アトマイズ法で作製した平均粒子径(D50)が35.0μmの純銅粉末を用意し、この純銅粉末を大気中、150℃で、24時間加熱して、その表面に酸化被膜を形成した。次に、酸化被膜を形成した純銅粉末を乳鉢に入れ、さらに、酸素濃度/炭素濃度が0.40程度になるようにカーボンブラックを入れて混合した。このようにして作製した純銅粉末について、酸素濃度、炭素濃度、及びレーザー吸収率を測定した。次に、作製した純銅粉を融点まで加熱し溶解させた後、冷却して、疑似的な造形物を作製した。得られた疑似造形物の酸素濃度、炭素濃度、さらに相対密度を測定した。以上の結果を表1に示す。表1に示す通り、実施例1の純銅粉末は、高いレーザー吸収率を有することを確認した。また、実施例1の純銅粉末を用いて作製した疑似造形物は、酸素濃度が低く、相対密度が高いことを確認した。
【0035】
【表1】
【0036】
(実施例2)
金属粉として、アトマイズ法で作製した平均粒子径(D50)が35.0μmの純銅粉末を用意し、この純銅粉末を大気中、150℃で、24時間加熱して、その表面に酸化被膜を形成した。次に、酸化被膜を形成した純銅粉末を乳鉢に入れ、さらに、酸素濃度/炭素濃度が0.80程度になるようにカーボンブラックを入れて混合した。このようにして作製した純銅粉について、酸素濃度、炭素濃度、及びレーザー吸収率を測定した。次に、作製した純銅粉を融点まで加熱し溶解させた後、冷却して、疑似的な造形物を作製した。得られた疑似造形物の酸素濃度、炭素濃度、さらに相対密度を測定した。以上の結果を表1に示す。表1に示す通り、実施例2の純銅粉末は、高いレーザー吸収率を有することを確認した。また、実施例2の純銅粉末を用いて作製した疑似造形物は、酸素濃度が低く、相対密度が高いことを確認した。
【0037】
(実施例3)
金属粉として、アトマイズ法で作製した平均粒子径(D50)が35.0μmの純銅粉末を用意した。次に、コールタールを5wt%含むようにトルエンで希釈した溶液に純銅粉末を浸漬し、浸漬後、溶液から取り出した純銅粉末を不活性雰囲気中で加熱した。これによって得られた純銅粉末について、酸素濃度、炭素濃度、及び、レーザー吸収率を測定した。その結果を表1に示す。表1に示す通り、実施例3の純銅粉末は、高いレーザー吸収率を有することを確認した(純銅単体のレーザー吸収率は10~20%である)。なお、実施例3においては、疑似造形物を作製していないが、実施例1、2と同様に、純銅粉末のレーザー吸収率が高く、純銅粉末の酸素濃度が低いことから、酸化物の形成が少ないと推測でき、疑似造形物についても、実施例1、2と同様の効果が得られると推測できる。
【0038】
(比較例1)
金属粉として、アトマイズ法で作製した平均粒子径(D50)が35.0μmの純銅粉末を用意し、この純銅粉末を大気中、150℃で、24時間加熱して、その表面に酸化被膜を形成した。なお、比較例1では、カーボンブラックなどの炭素を混合しなかった。このようにして作製した純銅粉末について、酸素濃度、炭素濃度、及びレーザー吸収率を測定した。また、作製した純銅粉を融点まで加熱し溶解させた後、冷却して、疑似的な造形物を作製し、得られた疑似造形物の酸素濃度、炭素濃度、さらに相対密度を測定した。以上の結果を表1に示す。表1に示す通り、炭素を意図的に含有させなかった比較例1の純銅粉末を用いて作製した疑似造形物は、酸素濃度が高いことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、レーザービーム方式による積層造形において、レーザーの吸収率の向上が可能となり、また、造形物中の酸素濃度の低減が可能となる。これにより、積層造形物の機械的強度や導電率などの特性低下を抑制できることが期待できる。また、レーザー装置の負荷の低減を期待できる。本実施形態に係る純銅又は銅合金粉末は、積層造形用の純銅又は銅合金粉末として特に有用である。