(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】環状ウレア化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 233/34 20060101AFI20240719BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240719BHJP
【FI】
C07D233/34
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020092938
(22)【出願日】2020-05-28
【審査請求日】2023-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100192603
【氏名又は名称】網盛 俊
(72)【発明者】
【氏名】冨重 圭一
(72)【発明者】
【氏名】田村 正純
(72)【発明者】
【氏名】迫田 孝太郎
(72)【発明者】
【氏名】柳瀬 学
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-116372(JP,A)
【文献】特開平01-238572(JP,A)
【文献】特開2021-113158(JP,A)
【文献】特開昭62-255456(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109847806(CN,A)
【文献】特開2000-26427(JP,A)
【文献】特開平1-238572(JP,A)
【文献】SEKI, Tsunetake et al.,Mesoporous silica-catalyzed continuous chemical fixation of CO2 with N,N'-dimethylethylenediamine in supercritical CO2: the efficient synthesis of 1,3-dimethyl-2-imidazolidinone,Chemical Communications,2009年,pp.349-351
【文献】PRIMO, Ana et al.,CO2-Fixation on Aliphatic α,ω-Diamines to Form Cyclic Ureas, Catalyzed by Ceria Nanoparticles that were Obtained by Templating with Alginate,ChemCatChem,2013年,vol.5,pp.1020-1023
【文献】TAMURA, Masazumi et al.,Highly efficient synthesis of cyclic ureas from CO2 and diamines by a pure CeO2 catalyst using a 2-propanol solvent,Green Chemistry,2013年,Vol.15,pp.1567-1577
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 233/34
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(2)で示される環状ウレア化合物の製造方法であって、少なくとも、二酸化炭素、常圧で沸点が120℃以上の液体状の物質、二酸化炭素以外の常温常圧で気体状の物質、及び一般式(1)で示されるジアミン化合物を含む混合流体が金属酸化物触媒に流通接触するように、前記混合流体を前記金属酸化物触媒に連続的に供給しながら、前記二酸化炭素と一般式(1)で示される前記ジアミン化合物を反応させることを特徴とする、環状ウレア化合物の製造方法。
【化1】
(一般式(1)及び一般式(2)中、R
1~R
6は、各々独立して、水素原子、又は炭素数1~4のアルキル基を示す。nは0又は1である。なお、一般式(1)におけるR
1と一般式(2)におけるR
1は同一であり、R
2~R
6、及びnについても同様である。)
【請求項2】
一般式(1)で示される前記ジアミン化合物の流通速度が、前記金属酸化物触媒1gに対し、0.005~0.02mmol/minであることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記金属酸化物触媒が、酸化セリウム(IV)である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記常圧で沸点が120℃以上の液体状の物質の含有量が、一般式(1)で示される前記ジアミン化合物100重量部に対して1~50,000重量部であることを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記常温常圧で気体状の物質の含有量が、前記二酸化炭素100容量部に対して1~10,000容量部であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
一般式(1)で示される前記ジアミン化合物が、エチレンジアミンであり、
一般式(2)で示される前記環状ウレア化合物が、2-イミダゾリジノンである、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記二酸化炭素と一般式(1)で示される前記ジアミン化合物を0~0.3MPa(ゲージ圧)で反応させることを特徴とする、請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記二酸化炭素と一般式(1)で示される前記ジアミン化合物を100~200℃で反応させることを特徴とする、請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状ウレア化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化の原因の一つとして、温室効果ガスの排出が挙げられる。温室効果ガスとしては、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、フロン類(CFCs等)等が挙げられる。温室効果ガスの中でも、二酸化炭素の影響が大きな割合を占めており、二酸化炭素(火力発電所、製鉄所等のプラントから排出される二酸化炭素等)の削減が緊急の課題となっている。
【0003】
CO2の回収方法としては液体吸収法(特許文献1)等があるが、回収したCO2は現状、地層貯留(CCS)(特許文献2)することが主流であり、CO2を工業原料として有効利用することが大きな課題となっている。
【0004】
前記課題の解決策の一つとして、例えば溶媒及び酸化セシウム存在下、二酸化炭素とジアミン化合物を反応させて、環状ウレア化合物を合成する方法が報告されている(非特許文献1)。非特許文献1で報告される環状ウレア化合物の合成において、プラントから排出される二酸化炭素を原料として使用すれば、二酸化炭素の削減が期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特願2013-557567号公報
【文献】特開2010-197368号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Green Chemistry, 15, 1567-1577(2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の非特許文献1の環状ウレア化合物製造方法については、原料供給(溶媒、酸化セシウム、二酸化炭素、及びジアミン化合物の供給)、二酸化炭素とジアミン化合物の反応、反応生成物(環状ウレア化合物)の取り出しの各処理を順次行うバッチ反応(回分式の反応)であった。このため、火力発電プラント等から排出される二酸化炭素を原料として利用する際の操作が煩雑であり(例えば、火力プラントなどから排出される二酸化炭素は、継続的に供給されてくる一方で、反応容器への二酸化炭素の供給は、原料供給の完了後に停止させておく必要がある。)、工業的でないという課題があった。
【0008】
そこで本発明は、環状ウレア化合物の製造に係る新規な工業的プロセスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、本発明の製造方法に従って反応を連続的に行うことで、上記の課題であるバッチ反応式の製造方法の課題を解決し、下記の環状ウレア化合物が効率よく得られるという知見を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下に示す化合物、及びその製造方法に係る。
[1] 一般式(2)で示される環状ウレア化合物の製造方法であって、少なくとも、二酸化炭素、常圧で沸点が120℃以上の液体状の物質、二酸化炭素以外の常温常圧で気体状の物質、及び一般式(1)で示されるジアミン化合物を含む混合流体が金属酸化物触媒に流通接触するように、前記混合流体を前記金属酸化物触媒に連続的に供給しながら、前記二酸化炭素と一般式(1)で示される前記ジアミン化合物を反応させることを特徴とする、環状ウレア化合物の製造方法。
【化1】
(一般式(1)及び一般式(2)中、R
1~R
6は、各々独立して、水素原子、又は炭素数1~4のアルキル基を示す。nは0又は1である。なお、一般式(1)におけるR
1と一般式(2)におけるR
1は同一であり、R
2~R
6、及びnについても同様である。)
[2] 一般式(1)で示される前記ジアミン化合物の流通速度が、前記金属酸化物触媒1gに対し、0.005~0.02mmol/minであることを特徴とする、[1]に記載の製造方法。
[3] 前記金属酸化物触媒が、酸化セリウム(IV)である、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4] 前記常圧で沸点が120℃以上の液体状の物質の含有量が、一般式(1)で示される前記ジアミン化合物100重量部に対して1~50,000重量部であることを特徴とする、[1]乃至[3]のいずれか一つに記載の製造方法。
[5] 前記常温常圧で気体状の物質の含有量が、前記二酸化炭素100容量部に対して1~10,000容量部であることを特徴とする[1]乃至[4]のいずれか一つに記載の製造方法。
[6] 一般式(1)で示される前記ジアミン化合物が、エチレンジアミンであり、一般式(2)で示される前記環状ウレア化合物が、2-イミダゾリジノンである、ことを特徴とする[1]乃至[5]のいずれか一つに記載の製造方法。
[7] 前記二酸化炭素と一般式(1)で示される前記ジアミン化合物を0~0.3MPa(ゲージ圧)で反応させることを特徴とする、[1]乃至[6]のいずれか一つに記載の製造方法。
[8] 前記二酸化炭素と一般式(1)で示される前記ジアミン化合物を100~200℃で反応させることを特徴とする、[1]乃至[7]のいずれか一つに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、環状ウレア化合物の製造に係る新規な工業的プロセスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例の製造方法で用いた反応装置の模式図を表す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
本発明は、一般式(2)で示される環状ウレア化合物の製造方法であって、少なくとも、二酸化炭素、常圧で沸点が120℃以上の液体状の物質、二酸化炭素以外の常温常圧で気体状の物質、及び一般式(1)で示されるジアミン化合物を含む混合流体が金属酸化物触媒に流通接触するように、前記混合流体を前記金属酸化物触媒に連続的に供給しながら、前記二酸化炭素と一般式(1)で示される前記ジアミン化合物を反応させることを特徴とする。
【0015】
本発明に係るジアミン化合物、及び環状ウレア化合物は、それぞれ、下記の一般式(1)及び(2)で示される(以下、それぞれ、「ジアミン化合物(1)」、「環状ウレア化合物(2)」とも称する)。
【化2】
(一般式(1)及び一般式(2)中、R
1~R
6は、各々独立して、水素原子、又は炭素数1~4のアルキル基を示す。また、nは0または1である。なお、一般式(1)におけるR
1と一般式(2)におけるR
1は同一であり、R
2~R
6、及びnについても同様である。)
【0016】
本発明に用いられるジアミン化合物(1)は市販のものでもよいし、公知の方法により合成したものでもよく、特に限定されない。
【0017】
R1~R6における炭素数1~4のアルキル基については、特に限定するものではないが、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、又はi-ブチル基等を挙げることができる。
【0018】
ジアミン化合物(1)については、反応性の観点から、R1~R6が、各々独立して、水素原子又はメチル基であることが好ましく、R1~R6が全て水素原子であることがより好ましい。
【0019】
nは0又は1であるが、反応性の観点から、nが0であるものが好ましい。ここで、上記一般式(1)及び一般式(2)において、nが0である場合、ジアミン化合物(1)は、下記一般式(1’)で示されるジアミン化合物となり、環状ウレア化合物(2)は、下記一般式(2’)で示される環状ウレア化合物となる。
【化3】
(一般式(1’)及び一般式(2’)中、R
1~R
4は、一般式(1)及び一般式(2)におけるR
1~R
4と同義である。)
【0020】
ジアミン化合物(1)については、エチレンジアミン(一般式(1)中のR1~R6が全て水素原子であり、nが0であるジアミン化合物(1))であることが特に好ましい。ジアミン化合物(1)としてエチレンジアミンを用いた場合には、環状ウレア化合物(2)として2-イミダゾリジノンが生成される。
【0021】
本発明のジアミン化合物(1)の純度としては、特に限定はないが、本発明の製造方法で得られた生成物の精製工程での精製のしやすさを考えると、95%以上が好ましく、98%以上が特に好ましい。
【0022】
なお、ジアミン化合物(1)と環状ウレア化合物(2)は原料と反応生成物の関係にある為、環状ウレア化合物(2)におけるR1、R2、R3、R4、R5、R6、及びnは、それぞれ、ジアミン化合物(1)におけるR1、R2、R3、R4、R5、R6、及びnと同じものを表す。
【0023】
本発明に係る二酸化炭素は、一般公知の方法で入手できるものを用いることができ、特に限定するものではないが、例えば、市販の二酸化炭素ガス、炭化水素の水蒸気改質ガスから分離した二酸化炭素、燃焼排ガスから分離した二酸化炭素、石灰炉で得られる二酸化炭素を用いることができるが、温室効果ガスの排出削減の点で、特に燃焼排ガスから分離した二酸化炭素を用いることが好ましい。
【0024】
少なくとも二酸化炭素、常圧で沸点が120℃以上の液体状の物質、二酸化炭素以外の常温常圧で気体状の物質、及びジアミン化合物(1)を含む混合流体の形態については、特に限定するものではないが、例えば、気体状混合流体、液体状混合流体、液体と気体の混合流体、超臨界流体等が挙げられ、これらのいずれであってもよいが、温和な反応温度及び反応圧力の観点から、液体と気体の混合流体であることが好ましい。
【0025】
前記の混合流体については、二酸化炭素、常圧で沸点120℃以上の液体状の物質、二酸化炭素以外の常温常圧で気体状の物質、及びジアミン化合物(1)以外の成分を含んでいてもよく、特に限定するものではない。
【0026】
混合流体に含まれる、前記の常圧で沸点が120℃以上の液体状の物質としては、ジアミン化合物(1)や二酸化炭素に対して不可逆反応を起こさない物質が好ましく、特に限定するものではないが、例えば、ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、キシレン等を挙げることができる。当該常圧で沸点120℃以上の液体状の物質については、任意の形態及び任意のタイミングで、二酸化炭素や二酸化炭素以外の常温常圧で気体状の物質やジアミン化合物(1)と混合させることができるが、操作容易性に優れる点で、二酸化炭素や二酸化炭素以外の常温常圧で気体状の物質と混合する前に、ジアミン化合物(1)に予め混合し(例えば、両方ともに液状で混合)、ジアミン化合物(1)の混合物として用いることが好ましい。
【0027】
本発明において、常圧で沸点が120℃以上の液体状の物質の含有量については、特に限定されるものではない。一方、本発明の製造方法では、金属酸化物触媒を反応管に充填し、反応管内の金属酸化物触媒に混合流体を流通接触させることができるが、この反応管の閉塞をより抑制しやすい点で、常圧で沸点120℃以上の液体状の物質の含有量については、ジアミン化合物(1) 100重量部に対して、1~50,000重量部であることが好ましく、10~10,000重量部であることがより好ましく、100~5,000重量部であることがより好ましい。
【0028】
混合流体に含まれる、二酸化炭素以外の常温常圧で気体状の物質としては、ジアミン化合物(1)や二酸化炭素に対して不可逆反応を起こさないものが好ましく、特に限定するものではないが、例えば、窒素、又はアルゴン、ヘリウム、若しくはネオンなどの希ガスを挙げることができ、これらのうち、入手性と価格の観点から、窒素が好ましい。当該常温常圧で気体状の物質については、任意の形態及び任意のタイミングで、二酸化炭素やジアミン化合物(1)と混合させることができるが、二酸化炭素とジアミン化合物(1)のみを直接混合すると粘度が高くなり、ウレア化合物(2)の生成速度(金属酸化物触媒の単位量あたりにおける、環状ウレア化合物(2)の生成速度)に影響を及ぼす可能性がある。このため、二酸化炭素以外の常温常圧で気体状の物質は、二酸化炭素をジアミン化合物(1)と混合する前に、二酸化炭素に予め混合し(例えば、両方ともに気体状で混合)、二酸化炭素の混合物として用いることが好ましい。
【0029】
本発明において、当該常温常圧で気体状の物質の含有量については、特に限定されるものではないが、二酸化炭素 100容量部に対して、1~10,000容量部であることが好ましく、5~1,000容量部であることがより好ましく、10~500容量部であることがより好ましい。
【0030】
なお、本明細書において、常温とは、25℃を指し、常圧とは、101kPa(ゲージ圧0MPa)を指す。
【0031】
本発明に用いられる金属酸化物触媒としては、特に限定されるものではないが、例えば酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化ランタン(III)、酸化チタン(IV)、酸化ジルコニウム(IV)、酸化セリウム(IV)を挙げることができる。中でも反応性の観点から、酸化セリウム(IV)が好ましい。
【0032】
本反応における金属酸化物触媒の形態については、特に限定されるものではないが、金属酸化物の粉体を加圧成型した後破砕し、ふるい分けにて分級したもの(つまり、分級した金属酸化物の粒子)を用いることが好ましい。成型時の圧力は30~100MPaであることが好ましく、生産性、安全性の観点から30~50MPaであることがさらに好ましい。また、触媒の表面積を大きくし反応性を上げるため、この加圧成型体を破砕することが好ましい。破砕した後の加圧成型体は、分級により好ましい粒径の粒子を得ることができる。粒径は50μm~5mmであることが好ましく、100μm~1mmであることが更に好ましい。例えば60メッシュのふるいを通過(60メッシュスルー)し、80メッシュのふるい上に残る(80メッシュアップの)触媒粒子(金属酸化物の粒子)を得ることで、粒径177~250μmの粒子を選別することができる。このようして得ることができる触媒粒子を反応管に充填する事で、触媒層を形成し、ここに混合流体(ジアミン化合物と二酸化炭素)を流通させることで、連続反応を行うことができる。なお、金属酸化物触媒として、触媒粒子から形成した触媒層を用いる場合には、混合流体は、触媒層の表面や内部(触媒粒子間に形成される隙間を介して流通)を流通し、触媒層に接触する(つまり、混合流体が金属酸化物触媒に流通接触する)。
【0033】
本発明における金属酸化物触媒には、金属酸化物の粒子を焼成して得られる焼成品を用いることができる。なお、上述した触媒層は、前述した焼成品を加圧成型し、それを粉砕(必要に応じて、さらに分級)して得られる触媒粒子(焼成品)により形成してもよい。本発明における金属酸化物触媒については、触媒活性に優れる点で、BET表面積60~90m2/gの酸化セリウム焼成品であることが好ましく、特に限定するものではないが、例えば、非特許文献2(Green Chemistry, 15, 1567-1577(2013))に記載の方法により、第一稀元素社製酸化セリウム(IV)HSグレードを600℃で焼成して得られるものを挙げることができる。
【0034】
本発明において、上記の混合流体については、金属酸化物触媒に流通接触するように、金属酸化物触媒に連続的に供給される。そして、混合流体を金属酸化物触媒に連続的に供給しながら、二酸化炭素とジアミン化合物(1)を反応させる。ここで、連続的な供給とは、所定期間継続して行われる供給方式を表し、理想的には常時一定流速で連続供給を行うことが好ましい。ただし、設備能力の制約への対応やプロセス制御を容易にするという観点で、本発明の反応状態に合わせて供給速度を変化させてもよい。また、混合流体を金属酸化物触媒に連続的に供給しながら、二酸化炭素とジアミン化合物(1)を反応させるとは、金属酸化物触媒に対する混合流体の供給と、二酸化炭素とジアミン化合物(1)の反応を、同時進行で行うことを指す。
【0035】
バッチ式(回分式)の製造方法では、原料供給、反応、及び生成物抜出を別々に順次行い、これらの処理を繰り返し行う。一方、本発明の製造方法は、所謂、連続式の製造方法であり、原料供給(金属酸化物触媒に対する混合流体の供給)と反応(二酸化炭素とジアミン化合物(1)の反応)を同時進行で行う。そして、生成物抜出(環状ウレア化合物(2)の抜出)については、原料供給及び反応と同時進行で行うこともでき、原料供給及び反応が完了した後に行うこともできる。
【0036】
本発明の製造方法において、二酸化炭素とジアミン化合物(1)が反応すると、環状ウレア化合物(2)が生成される。このため、本発明の製造方法において、金属酸化物触媒に対して連続的に混合流体を供給していると、環状ウレア化合物(2)を生成することができる。つまり、本発明の製造方法において、原料供給は、金属酸化物触媒に生成物(環状ウレア化合物(2))が存在する状態で行うことができる。これは、金属酸化物触媒から全ての生成物が抜き出た状態で原料供給を行うバッチ式の製造方法とは異なる点である。
【0037】
なお、本発明の製造方法において、混合流体を金属酸化物触媒に連続的に供給しながら、二酸化炭素とジアミン化合物(1)を反応させた後は、所定のタイミングで、原料供給と反応を停止することができる。所定のタイミングとしては、例えば、目標とする量の生成物(環状ウレア化合物(2))が得られたときや、目標とする量の原料供給が完了したときや、反応が過剰に進み過ぎて熱暴走が起きそうなときや、金属酸化物触媒の活性が低下したときなどを挙げることができる。原料供給と反応を停止した後には、再び、原料供給と反応を再開してもよい。
【0038】
本発明において、金属酸化物触媒に対する混合流体中のジアミン化合物(1)の流通量(流通速度)は、反応速度および経済性の観点で、触媒1gに対し、ジアミン化合物(1) 0.001~0.04mmol/minであることが好ましく、より好ましくは0.003~0.025mmol/minであり、さらに好ましくは0.005~0.02mmol/minである。
【0039】
本発明において、金属酸化物触媒に対する混合流体中の二酸化炭素の流通量(流通速度)は、反応速度および経済性の観点で、触媒1gに対し、二酸化炭素0.1~1mmol/minであることが好ましく、より好ましくは0.1~0.5mmol/minであり、さらに好ましくは0.2~0.3mmol/minである。
【0040】
二酸化炭素とジアミン化合物(1)の反応は、金属酸化物触媒の存在下で混合流体から環状ウレア化合物(2)を生成できるものであれば、その反応条件(反応温度や反応圧力など)について特に限定されるものではない。
【0041】
本発明における反応温度、すなわち二酸化炭素とジアミン化合物(1)を反応させる温度は、反応速度およびエネルギーコストの点で、50~250℃であることが好ましく、100~200℃であることがより好ましく、より好ましい反応温度は100℃~140℃である。
【0042】
少なくとも二酸化炭素、常圧で沸点が120℃以上の液体状の物質、二酸化炭素以外の常温常圧で気体状の物質、及びジアミン化合物(1)を含む混合流体を金属酸化物触媒に流通接触させる方法については、特に限定されるものではないが、少なくとも二酸化炭素と二酸化炭素以外の常温常圧で気体状の物質を含有する流体(例えば、気体状流体)の流路に、少なくともジアミン化合物(1)と常圧で沸点が120℃以上の液体状の物質を含む流体(例えば、液状流体)を流し込んで混合流体を形成させ、当該混合流体を金属酸化物触媒層に流通接触させる方法を用いることが好ましい。金属酸化物触媒に接触させる混合流体の状態については特に限定されるものではなく、気体状態であってもよいし、液体状態であってもよいし、気体と液体の混合状態であってもよいが、気体と液体の混合状態であることが好ましい。
【0043】
本発明における反応圧力、すなわち二酸化炭素とジアミン化合物(1)を反応させる際の圧力は、反応速度およびエネルギーコストの点で、0~0.3MPa(ゲージ圧)であることが好ましく、より好ましい反応圧力は、生産性、安全性の観点から、0~0.1MPa(ゲージ圧)である。なお、ゲージ圧とは、大気圧を0MPaとした圧力である。
【0044】
本反応においては、二酸化炭素とジアミン化合物(1)の反応で得られる反応生成物(反応管の出口から排出される反応生成物)を蒸留して目的の環状ウレア化合物(2)を精製することが好ましい。その際、蒸留に必要な熱エネルギーを低減するため、前記の常温常圧で液状の物質の使用量をなるべく少なくすることが好ましい。
【0045】
環状ウレア化合物(2)の蒸留条件は、製造される環状ウレア化合物(2)とジアミン化合物(1)の沸点の違いなどに基づき適宜設定することができ、特に限定されないが、例えば、通常50℃~150℃、圧力は5mmHg~760mmHgの範囲で行うことができる。なお、回収した原料ジアミン化合物(1)は、再び環状ウレア化合物(2)を製造する原料として使用しても差支えない。その際、多少の環状ウレア化合物(2)や、常圧で沸点が120℃以上の液体状の物質を含んでもよい。反応終了後に残存している原料ジアミン化合物(1)が少ないほど、回収に掛かるエネルギーコストを低減することができる。
【0046】
以上説明した本発明の製造方法は、従来公知のバッチ式の製造方法のように、原料供給、反応、及び生成物抜出を別々に順次行う必要が無いため、操作が煩雑になりにくく、生産性に優れている。また、本発明の製造方法では、二酸化炭素とジアミン化合物(1)を含む混合流体を、金属酸化物触媒に流通接触させているが、この混合流体中に二酸化炭素以外の常温常圧で気体状の物質が含まれていることで、二酸化炭素以外の常温常圧で気体状の物質が含有されていない場合と比較し、二酸化炭素とジアミン化合物(1)の反応効率を向上させることができる。その結果、本発明の製造方法は、金属酸化物触媒の単位量あたり(例えば、触媒1gあたり)における、環状ウレア化合物(2)の製造速度を上昇させることができる。加えて、本発明の製造方法では、金属酸化物触媒に流通接触させる混合流体に、常圧で沸点120℃以上の液体状の物質を含有しているが、当該液状の物質が混合流体に含有されていることで、金属酸化物触媒表面に副生成物などの堆積物が残存しにくくなり、金属酸化物触媒に対する混合流体の流通接触を確保しやすくなる。その結果、混合流体中に常圧で沸点120℃以上の液体状の物質が含有されていない場合と比較し、より長期間環状ウレア化合物(2)を製造し続けることができる。
【0047】
なお、本発明の製造方法は、二酸化炭素とジアミン化合物(1)の反応を、0~0.3MPa(ゲージ圧)という低い圧力で行うこともでき、工業的な実施が容易である。また、本製造方法で製造された環状ウレア化合物(2)については、特に限定するものではないが、例えば、樹脂原料や製薬工業における中間体として利用可能である。
【実施例】
【0048】
本発明を以下の実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例において、ジアミン化合物(1)に対する環状ウレア化合物(2)の収率は、触媒層7に流通接触させたジアミン化合物(1)の総モル量に対する、製造された環状ウレア化合物(2)の総モル量の割合から算出した。
【0049】
実施例1
酸化セリウム(IV)(第一希元素社製HSグレードのものを600℃で3時間焼成したもの、BET表面積85m
2/g)を30MPaで加圧成型した後破砕し、60メッシュスルー且つ80メッシュアップの触媒粒子(すなわち、粒径177~250μmの触媒粒子)を得た。得られた触媒粒子1gを反応管6に充填し、
図1に示すように、反応管6内に触媒層7を形成した。この反応管6を加熱炉8に入れ、125℃に加熱して維持した(
図1参照)。
【0050】
二酸化炭素ガス供給装置1から5ml(0.22mmol)/minで供給される二酸化炭素ガスを、窒素ガス供給装置2から10ml(0.45mmol)/minで供給される窒素ガスの流路に合流させた。二酸化炭素ガスと窒素ガスが混合された混合ガスの流路に、エチレンジアミン(東ソー社製)6.0g(0.10mol)とN-メチル-2-ピロリドン(常圧沸点が202℃) 148.7g(1.50mol)を混合した溶液3を、0.010ml/min(エチレンジアミンとして、0.0066mmol/min)の割合で合流させ、混合流体を得た。この混合流体を反応管6に注入し、触媒層7に流通させた。触媒層7に対する混合流体の流通接触を維持しながら、反応管6内において(触媒層7の存在下において)、二酸化炭素とエチレンジアミンを反応させた。反応管内の圧力はゲージ圧で0MPaであった。
【0051】
混合流体注入開始9時間後に、受器9に貯留された反応管6からの反応生成物(液体)を分析(ガスクロマトグラフによる検量線法にて定量)したところ、184mg(2.14mmol、エチレンジアミンに対する収率60%)の2-イミダゾリジノンが確認できた。
【0052】
実施例2
二酸化炭素ガスと窒素ガスが混合された混合ガスの流路に、溶液3を0.015ml/min(エチレンジアミンとして、0.010mmol/min)の割合で合流させたこと以外は、実施例1と同様の方法で、二酸化炭素とエチレンジアミンを反応させた。
【0053】
エチレンジアミン注入開始7時間後に、受器9に貯留された反応管6からの反応生成物(液体)を分析(ガスクロマトグラフによる検量線法にて定量)したところ、242mg(2.81mmol、エチレンジアミンに対する収率67%)の2-イミダゾリジノンが得られた。
【0054】
実施例3
二酸化炭素ガスと窒素ガスが混合された混合ガスの流路に、溶液3を0.020ml/min(エチレンジアミンとして、0.0132mmol/min)の割合で合流させたこと以外は、実施例1と同様の方法で、二酸化炭素とエチレンジアミンを反応させた。
【0055】
エチレンジアミン注入開始6時間後に、受器9に貯留された反応管6からの反応生成物(液体)を分析(ガスクロマトグラフによる検量線法にて定量)したところ、251mg(2.92mmol、エチレンジアミンに対する収率61%)の2-イミダゾリジノンが得られた。
【0056】
比較例1
溶液3を、エチレンジアミン6.0g(0.10mol)と2-プロパノール(常圧沸点が82.5℃) 120g(2.0mol)を混合した溶液とした事、および溶液3を0.010ml/min(エチレンジアミンとして、0.067mmol/min)の割合で合流させた事以外は、実施例1と同様の方法で、二酸化炭素とエチレンジアミンを反応させたところ、反応開始後に反応管が閉塞し、目的とする2-イミダゾリジノンを得ることができなかった。
【0057】
比較例2
酸化セリウム(IV)(第一希元素社製HSグレードのものを600℃で3時間焼成したもの、BET表面積92m
2/g)を30MPaで加圧成型した後破砕し、6メッシュスルー且つ18メッシュアップの触媒粒子(すなわち、粒径1~3.36mmの触媒粒子)を得た。得られた触媒粒子95gを反応管6に充填し、
図1に示すように、反応管6内に触媒層7を形成した。この反応管6を加熱炉8に入れ、反応管の出口に背圧レギュレータを装着した。内部の空隙をエチレンジアミンで満たし150℃に加熱し、背圧レギュレータにて内部の圧力をゲージ圧で0.4MPaに維持した。
【0058】
二酸化炭素ガス供給装置1及び窒素ガス供給装置2からはガスを供給せず、エチレンジアミン446g(7.4mol)に二酸化炭素54g(1.23mol)を溶解させた溶液3を、0.04ml/min(エチレンジアミンとして、0.60mmol/min、触媒1gに対しては0.0063mmol/min)の割合で反応管6に注入し、触媒層7に流通させた。触媒層7に対する液体の接触を維持しながら、反応管6内において二酸化炭素とエチレンジアミンを反応させた。反応管内の圧力はゲージ圧で0.4MPaであった。
【0059】
混合流体注入開始90時間後に、受器9に貯留された反応管6からの反応生成物(液体)を分析(NMRにて定量)したところ、23.3g(271mmol、エチレンジアミンに対する収率8.4%)の2-イミダゾリジノンが確認できた。ただし、2-イミダゾリジノン製造速度は3mmol/hであり、触媒1g当たりに直すと0.032mmol/hであった。
【0060】
以上実施例1~3及び比較例2の結果を下の表1にまとめて示す。
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、産業上有用な環状ウレア化合物を連続的に製造する工業プロセスを提供することができ、火力発電プラントなどから排出される二酸化炭素の排出削減および有効利用を図ることが期待できる。
【符号の説明】
【0062】
1 二酸化炭素ガス供給装置(CO2ボンベ)
2 窒素ガス供給装置(N2ボンベ)
3 溶液
4 マスフローコントローラー
5 ポンプ
6 反応管
7 触媒層
8 加熱炉
9 受器