(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】モールド変圧器の絶縁劣化診断方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/12 20200101AFI20240719BHJP
G01R 31/62 20200101ALI20240719BHJP
G01R 31/00 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
G01R31/12 A
G01R31/62
G01R31/00
(21)【出願番号】P 2020140127
(22)【出願日】2020-08-21
【審査請求日】2023-08-04
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和元年 電気学会 電力・エネルギー部門大会「講演予稿集」 311頁 発行日:令和1年8月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】中前 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】前田 照彦
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 多文
(72)【発明者】
【氏名】大山 公治
(72)【発明者】
【氏名】匹田 政幸
(72)【発明者】
【氏名】小迫 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】藤村 公大
【審査官】青木 洋平
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-222537(JP,A)
【文献】特開平02-099873(JP,A)
【文献】特開2005-274440(JP,A)
【文献】特開平09-021842(JP,A)
【文献】特開昭60-093966(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/12
G01R 31/62
G01R 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源と、カップリングコンデンサと、高周波測定器と、ループセンサと、オシロスコープと、切替スイッチとを含む部分放電の測定回路を用い、モールド変圧器で発生した部分放電を、前記高周波測定器及び前記ループセンサを用いて前記オシロスコープにより測定し、前記モールド変圧器を4端子回路とした場合の散乱パラメータとして、一次側巻線と二次側巻線との間の信号透過特性及び信号反射特性を測定し、前記モールド変圧器で発生した部分放電電流により誘起された電磁波の周波数成分を、
前記散乱パラメータの周波数依存性におけるピーク信号に与える周波数と比較して周波数分析し、
前記部分放電電流の周波数特性が前記ピーク信号に与える周波数と一致すれば、モールド変圧器の部分放電により発生した電磁波である
と識別し、一致しなければ、ノイズを含む電磁波である
と識別するモールド変圧器の絶縁劣化診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、モールド変圧器の絶縁劣化診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モールド変圧器では、巻線と樹脂との界面での剥離や樹脂内部のボイド等の欠陥の有無を検出するため、固体絶縁物である樹脂に所定電圧を印加して部分放電を測定することが行われている(例えば特許文献1参照)。部分放電を測定して機器内部の欠陥の有無を非接触で検出する手法は、モールド変圧器の運転停止を必要とせず、絶縁劣化の早期発見や欠陥の位置評定を可能にする重要な手法の一つである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これまでの電磁波を測定する手法においては、ノイズを含む電磁波を捕捉していたので、モールド変圧器の部分放電により発生した電磁波であるかノイズを含む電磁波であるかを適切に識別することが困難であった。
【0005】
そこで、モールド変圧器の部分放電により発生した電磁波であるかノイズを含む電磁波であるかを適切に識別し、モールド変圧器の絶縁劣化診断を適切に行うことができるモールド変圧器の絶縁劣化診断方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態のモールド変圧器の絶縁劣化診断方法は、交流電源と、カップリングコンデンサと、高周波測定器と、ループセンサと、オシロスコープと、切替スイッチとを含む部分放電の測定回路を用い、モールド変圧器で発生した部分放電を、前記高周波測定器及び前記ループセンサを用いて前記オシロスコープにより測定し、前記モールド変圧器を4端子回路とした場合の散乱パラメータとして、一次側巻線と二次側巻線との間の信号透過特性及び信号反射特性を測定し、前記モールド変圧器で発生した部分放電電流により誘起された電磁波の周波数成分を、前記散乱パラメータの周波数依存性におけるピーク信号に与える周波数と比較して周波数分析し、前記部分放電電流の周波数特性が前記ピーク信号に与える周波数と一致すれば、モールド変圧器の部分放電により発生した電磁波であると識別し、一致しなければ、ノイズを含む電磁波であると識別する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】一実施形態を示す部分放電の測定回路を示す図
【
図2】球ボイド試料の部分放電波形の周波数スペクトルを示す図
【
図3】ボイド欠陥を有するモールド変圧器の部分放電波形の周波数スペクトルを示す図
【
図5】インピーダンス周波数特性の測定時の結線を示す図
【
図7】6.6kV計器用モールド変圧器における部分放電電流の周波数スペクトル、一次側巻線と二次側巻線との間の信号透過特性、信号反射特性を示す図
【
図8】33kV計器用モールド変圧器における部分放電電流の周波数スペクトル、一次側巻線と二次側巻線との間の信号透過特性、信号反射特性を示す図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、一実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、部分放電の測定回路を示している。部分放電の測定回路1は、交流電源2と、カップリングコンデンサ3と、高周波測定器4と、ループセンサ5と、オシロスコープ(OSC)6と、切替スイッチ7,8とを図示態様に接続して構成されている。
【0009】
交流電源2と接続点9との間の配線長さは約20cm、接続点9と切替スイッチ7との間の配線長さは約15cm、交流電源2と接続点10との間の配線長さは約20cm、接続点10と切替スイッチ8との間の配線長さは約30cm、接続点9とカップリングコンデンサ3との間の配線長さは約0cm、接続点10とカップリングコンデンサ3との間の配線長さは約15cmとしており、部分放電の検出波形に対する試料の影響を明確にするために配線長さを極力短くしている。試料は、直径0.65mmの球ボイド試料と、ボイド欠陥を有するモールド変圧器とを採用した。
【0010】
切替スイッチ7の可動接点7aと固定接点7bとを接続すると共に切替スイッチ8の可動接点8aと固定接点8bとを接続し、電極11aと電極11bとの間に球ボイド試料13を配置し、X線照射装置12からX線を照射させることで、球ボイド試料13について測定を行う。又、切替スイッチ7の可動接点7aと固定接点7cとを接続すると共に切替スイッチ8の可動接点8aと固定接点8cとを接続し、固定接点7c,8cをモールド変圧器14に接続し、X線照射装置12からX線を照射させることで、モールド変圧器14について測定を行う。この場合、固定接点7cをモールド変圧器14の一次側端子及び二次側端子に接続し、固定接点8cをモールド変圧器14の接地端子に接続する。交流電源2からの印加電圧をそれぞれ8kV、5kVとし、何れも印加電圧でもX線照射により部分放電の発生を促進している。部分放電は、高周波測定器4及びループセンサ5を用いてオシロスコープ6により測定した。ループセンサ5は、直径が10mmである。
【0011】
図2は、球ボイド試料の部分放電波形の周波数スペクトルを示し、
図3は、モールド変圧器の部分放電波形の周波数スペクトルを示している。
図2及び
図3において、CTは高周波測定器4による周波数スペクトルを示し、LSはループセンサ5による周波数スペクトルを示している。
図2から、球ボイド試料では、高周波測定器4及びループセンサ5による測定において80MHz付近に大きな成分を有し、更にループセンサ5による測定において200MHz以上でも成分を有する結果が得られている。球ボイド試料では、高周波測定器4による周波数スペクトルとループセンサ5による周波数スペクトルとで成分を検知した周波数が概ね一致する結果が得られており、高周波測定器4による周波数特性とループセンサ5による周波数特性とが概ね一致する結果が得られている。一方、
図3から、モールド変圧器でも、高周波測定器4による周波数スペクトルとループセンサ5による周波数スペクトルとで成分を検知した周波数が概ね一致する結果が得られており、高周波測定器4による周波数特性とループセンサ5による周波数特性とが概ね一致する結果が得られている。
【0012】
球ボイド試料と、モールド変圧器では、大きな強度を示す周波数成分が異なっており、これは試料のインダクタンス及びキャパシタンスの影響によるものと考えられている。以上により、部分放電により放射される電磁波には、測定回路と試料自体のインピーダンスの影響を受けた数十MHz帯域の低周波信号と、ボイド欠陥から直接放射される数百MHz帯域の高周波信号との2種類が存在する結果が得られている。
【0013】
次に、モールド変圧器の内部結線のインピーダンス周波数特性が部分放電に及ぼす影響について説明する。試料は、球ボイド試料、6.6kV計器用モールド変圧器、33kV計器用モールド変圧器を採用した。それぞれ上記と同様の試験系で印加電圧を印加し、二次側の接地線に配置した高周波測定器により部分放電を検出し、モールド変圧器のインピーダンス周波数特性をネットワークアナライザにより測定した。
図4は、モールド変圧器の電圧印加時の結線を示し、
図5は、インピーダンス周波数特性の測定時の結線を示す。ネットワークアナライザでは電圧印加時と同様な結線方法でモールド変圧器を4端子回路とした際の散乱パラメータを測定した。又、接地を介した巻線間の相互の影響を最小限にするため、各測定ポートにカプラを接続した。
【0014】
測定回路の配線長(L)を150mmから5000mmに変化させて高周波測定器により部分放電を測定した。
図6は、測定回路の配線長(L)を変化させたときの球ボイド試料及び6.6kV計器用モールド変圧器における部分放電電流の周波数スペクトルを示す。球ボイド試料では、配線長(L)の増加に伴い、ピーク強度を示す周波数f
pが78MHz(f
p-1)付近から64MHz(f
p-2)付近へと低周波側に移動している。これらの周波数f
pは、線路の集中回路定数インピーダンスから計算される共振周波数f
rにより説明される。
【0015】
一方、6.6kV計器用モールド変圧器では、配線長(L)に依存せず、部分放電電流は30MHz付近に主成分を持ち、その第3次高調波として90MHz(fh-3rd)付近、第5次高調波として150MHz(fh-5th)付近にも周波数成分fhを持つことがわかる。
【0016】
以下、モールド変圧器固有の部分放電電流の周波数成分と考えられる30MHz帯域の起源解明について説明する。6.6kV計器用モールド変圧器について、インピーダンス周波数特性が部分放電電流の周波数成分に及ぼす影響について検討した。散乱パラメータとして、一次側巻線と二次側巻線との間の信号透過特性(IL:Insertion Loss)及び信号反射特性(RL:Return Loss)を測定した。
【0017】
図7は、6.6kV計器用モールド変圧器における部分放電電流の周波数スペクトル、一次側巻線と二次側巻線との間の信号透過特性S21、信号反射特性S11を示す。信号透過特性及び信号反射特性は、それぞれ以下の式で表される。ここで、vは
図5の各信号強度を示している。
信号透過特性(IL)=20log(vt/vi)
信号反射特性(RL)=20log(vr/vi)
【0018】
図7から、部分放電電流、信号透過特性、信号反射特性のピークを示す周波数が30MHz帯域(
図7中、破線Aにて示す周波数帯域)で一致している結果が得られた。この結果は、部分放電電流及び散乱パラメータの何れも30MHz帯域において、信号がモールド変圧器の一次側巻線と二次側巻線との間を伝搬し易いことを示している。換言すれば、モールド変圧器のインピーダンス周波数特性が部分放電電流の主な周波数成分を決定することを示している。一方、信号透過特性及び信号反射特性は他の周波数帯においても極大及び極小を示す。この理由としては、6.6kV計器用モールド変圧器のU相とW相が鉄心を介して近いため、高周波帯域で端子間の静電結合の影響を受けたと解釈することができる。
【0019】
更に、単相構造の33kV計器用モールド変圧器についても同様に、インピーダンス周波数特性が部分放電電流の周波数成分に及ぼす影響について検討した。
図8は、33kV計器用モールド変圧器における部分放電電流の周波数スペクトル、一次側巻線と二次側巻線との間の信号透過特性S21、信号反射特性S11を示す。信号反射特性は、モールド変圧器単体(S11)及び試験回路接続時(with circuit)により測定した。
図8から、部分放電電流、信号透過特性、信号反射特性のピークを示す周波数が27MHz付近で一致している結果が得られた。この結果から、33kV計器用モールド変圧器においてもインピーダンス周波数特性が部分放電電流の主な周波数成分を決定することを示している。又、部分放電電流の周波数スペクトルの9MHz付近のピークは、信号反射特性の測定結果の比較から、試験用変圧器等の試験系に起因する結果が得られた。
【0020】
以上により、モールド変圧器では、部分放電電流の周波数成分が数十MHz帯域に主要なスペクトル強度のピークがあること、その周波数がモールド変圧器の散乱パラメータの極大及び極小を与える周波数と概ね一致する結果が得られた。したがって、部分放電電流の周波数特性が、モールド変圧器を4端子回路とした場合の散乱パラメータの周波数依存性におけるピーク信号に与える周波数と概ね一致することから、周波数分析をすることで部分放電に起因する電磁波を識別することが可能となる。即ち、散乱パラメータの周波数依存性におけるピーク信号に与える周波数と一致すれば、モールド変圧器の部分放電により発生した電磁波であると識別することができ、一方、一致しなければ、ノイズを含む電磁波であると識別することができる。
【0021】
以上に説明したように本実施形態によれば、以下に示す作用効果を得ることができる。モールド変圧器で発生した部分放電電流により誘起された電磁波の周波数成分を、モールド変圧器を4端子回路とした場合の散乱パラメータの周波数依存性におけるピーク信号に与える周波数と比較して周波数分析し、部分放電により発生した電磁波であるかノイズを含む電磁波であるかを識別するようにした。モールド変圧器の部分放電により発生した電磁波であるかノイズを含む電磁波であるかを適切に識別することができ、モールド変圧器の絶縁劣化診断を適切に行うことができる。
【0022】
本発明の実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0023】
図面中、1は部分放電の測定回路である。