(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】GaN結晶および基板
(51)【国際特許分類】
C30B 29/38 20060101AFI20240719BHJP
C30B 23/02 20060101ALI20240719BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
C30B29/38 D
C30B23/02
H01L21/205
(21)【出願番号】P 2021502114
(86)(22)【出願日】2020-02-19
(86)【国際出願番号】 JP2020006644
(87)【国際公開番号】W WO2020171147
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2023-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2019029968
(32)【優先日】2019-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江夏 悠貴
(72)【発明者】
【氏名】大島 祐一
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/078962(WO,A1)
【文献】特開2018-145042(JP,A)
【文献】特開2009-120465(JP,A)
【文献】特開2013-060344(JP,A)
【文献】特開2014-084263(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/38
C30B 23/02
H01L 21/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
面積5cm
2以上の(0001)表面を有し、該(0001)表面の(0001)結晶面からの傾斜が10度以下であるGaN結晶であって、Fe濃度が5×10
17atoms/cm
3以上1×10
19atoms/cm
3未満であり、総ドナー不純物濃度が5×10
16atoms/cm
3未満であ
り、
室温抵抗率が1×10
11
Ωcm以上であることを特徴とするGaN結晶。
【請求項2】
Fe濃度が6×10
18atoms/cm
3以下である、請求項1に記載のGaN結晶。
【請求項3】
Fe濃度が1×10
18atoms/cm
3以上である、請求項1または2に記載のGaN結晶。
【請求項4】
100℃における抵抗率が1×10
10Ωcm以上である、請求項1~
3のいずれか一項に記載のGaN結晶。
【請求項5】
200℃における抵抗率が5×10
8Ωcm以上である、請求項1~
4のいずれか一項に記載のGaN結晶。
【請求項6】
300℃における抵抗率が1×10
8Ωcm以上である、請求項1~
5のいずれか一項に記載のGaN結晶。
【請求項7】
抵抗率が、室温において1×10
12Ωcm以上、100℃において5×10
10Ωcm以上、200℃において2×10
9Ωcm以上、且つ300℃において5×10
8Ωcm以上である、請求項
2に記載のGaN結晶。
【請求項8】
前記(0001)表面側で測定される(004)XRDロッキングカーブ半値全幅が30arcsec未満である、請求項1~
7のいずれか一項に記載のGaN結晶。
【請求項9】
前記(0001)表面における貫通転位密度が1×10
7cm
-2未満である、請求項1~
8のいずれか一項に記載のGaN結晶。
【請求項10】
面積5cm
2以上の(0001)表面を有し、該(0001)表面の(0001)結晶面からの傾斜が10度以下であるGaN結晶であって、半絶縁性であること、および、下記(A)および(B)から選ばれる一以上を充足することを特徴とするGaN結晶。
(A)該(0001)表面側で測定される(004)XRDロッキングカーブ半値全幅が30arcsec未満
(B)該(0001)表面における貫通転位密度が1×10
7cm
-2未満
【請求項11】
室温抵抗率が1×10
11Ωcm以上である、請求項
10に記載のGaN結晶。
【請求項12】
100℃における抵抗率が1×10
10Ωcm以上である、請求項
10または
11に記載のGaN結晶。
【請求項13】
200℃における抵抗率が5×10
8Ωcm以上である、請求項
10~
12のいずれか一項に記載のGaN結晶。
【請求項14】
300℃における抵抗率が1×10
8Ωcm以上である、請求項
10~
13のいずれか一項に記載のGaN結晶。
【請求項15】
抵抗率が、室温において1×10
12Ωcm以上、100℃において5×10
10Ωcm以上、200℃において2×10
9Ωcm以上、且つ300℃において5×10
8Ωcm以上である、請求項
10に記載のGaN結晶。
【請求項16】
Feでドープされている、請求項
11~
15のいずれか一項に記載のGaN結晶。
【請求項17】
総ドナー不純物濃度が5×10
16atoms/cm
3未満である、前記請求項
11~
16のいずれか一項に記載のGaN結晶。
【請求項18】
請求項1~
17のいずれか一項に記載のGaN結晶からなる基板。
【請求項19】
単結晶GaN基板である、請求項
18に記載の基板。
【請求項20】
前記GaN結晶のみからなる、請求項
18または
19に記載の基板。
【請求項21】
前記GaN結晶からなるGaN層が支持基板上に積層されてなる、請求項
18に記載の基板。
【請求項22】
請求項
18~
21のいずれか一項に記載の基板を準備するステップと、該準備した基板の上にひとつ以上の窒化物半導体層をエピタキシャル成長させるステップと、からなるエピタキシャルウエハの製造方法。
【請求項23】
請求項
18~
21のいずれか一項に記載の基板と、該基板にエピタキシャル成長したひとつ以上の窒化物半導体層と、からなるエピタキシャルウエハ。
【請求項24】
請求項
18~
21のいずれか一項に記載の基板を準備するステップと、該準備した基板
の上にひとつ以上の窒化物半導体層をエピタキシャル成長させるステップと、からなる窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項25】
GaN-HEMTの製造方法である、請求項
24に記載の窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項26】
面積5cm
2
以上の(0001)表面を有し、該(0001)表面の(0001)結晶面からの傾斜が10度以下であるGaN結晶であって、Fe濃度が5×10
17
atoms/cm
3
以上1×10
19
atoms/cm
3
未満であり、総ドナー不純物濃度が5×10
16
atoms/cm
3
未満であり、
300℃における抵抗率が1×10
8
Ωcm以上であることを特徴とするGaN結晶。
【請求項27】
面積5cm
2
以上の(0001)表面を有し、該(0001)表面の(0001)結晶面からの傾斜が10度以下であるGaN結晶であって、Fe濃度が5×10
17
atoms/cm
3
以上1×10
19
atoms/cm
3
未満であり、総ドナー不純物濃度が5×10
16
atoms/cm
3
未満であり、
前記(0001)表面側で測定される(004)XRDロッキングカーブ半値全幅が30arcsec未満であることを特徴とするGaN結晶。
【請求項28】
面積5cm
2
以上の(0001)表面を有し、該(0001)表面の(0001)結晶面からの傾斜が10度以下であるGaN結晶であって、Fe濃度が5×10
17
atoms/cm
3
以上1×10
19
atoms/cm
3
未満であり、総ドナー不純物濃度が5×10
16
atoms/cm
3
未満であり、
前記(0001)表面における貫通転位密度が1×10
7
cm
-2
未満であることを特徴とするGaN結晶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はGaN結晶および基板に関し、とりわけ、半絶縁性GaN結晶および半絶縁性GaN結晶からなる基板に関する。
【背景技術】
【0002】
GaN(窒化ガリウム)はIII族窒化物化合物の一種であり、六方晶系に属するウルツ鉱型の結晶構造を備える。
近年、GaN-HEMT(High Electron Mobility Transistor)用の基板として、半絶縁性GaN層を表面層として設けた基板や、全体が半絶縁性GaN結晶からなる単結晶GaN基板が、検討されている(特許文献1)。
通常、1×105Ωcm以上の室温抵抗率を有するGaNが、半絶縁性GaNと呼ばれる。
【0003】
GaNを半絶縁性にするには、Fe(鉄)、Mn(マンガン)、C(炭素)のような、n型キャリアを補償する作用のある不純物でドープすればよいことが知られている。このような不純物は補償不純物と呼ばれることがある。
特許文献1に記載されたところによれば、ある特定の条件下において、室温抵抗率が8.5×109Ωcmで(004)XRDロッキングカーブの半値幅が33arcsecである、厚さ5μmのFeドープ半絶縁性GaN層を、HVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)でサファイア基板上に成長させ得たという。なお、該Feドープ半絶縁性GaN層の転位密度は1×108/cm2台前半から1×107/cm2台後半の間であったと書かれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、
GaN-HEMTのような横型デバイス構造の窒化物半導体デバイスのための基板に用いられ得るGaN結晶、および、GaN-HEMTのような横型デバイス構造の窒化物半導体デバイスの製造に用いられ得る基板に関する。
本発明者等は、HVPEで成長されるGaN結晶をFeでドープしたときの、ドナー不純物濃度の増加を効果的に抑える方法を見出し、本発明に想到した。また、本発明者等は、ドナー不純物の濃度を低く抑える一方で適度な濃度にFeをドープすることにより、好ましい特性を備える半絶縁性GaN結晶が得られることを見出し、本発明に想到した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態には以下の形態が含まれるが、限定されるものではない。
[1]面積5cm2以上の(0001)表面を有し、該(0001)表面の(0001)結晶面からの傾斜が10度以下であるGaN結晶であって、Fe濃度が5×1017atoms/cm3以上1×1019atoms/cm3未満であり、総ドナー不純物濃度が5×1016atoms/cm3未満であることを特徴とするGaN結晶。
[2]Fe濃度が6×1018atoms/cm3以下または3×1018atoms/cm3以下である、前記[1]に記載のGaN結晶。
[3]Fe濃度が1×1018atoms/cm3以上である、前記[1]または[2]に記載のGaN結晶。
[4]室温抵抗率が1×1011Ωcm以上、2×1011Ωcm以上、5×1011Ωcm以上、1×1012Ωcm以上、2×1012Ωcm以上または5×1012Ωcm以上である、前記[1]~[3]のいずれかに記載のGaN結晶。
[5]100℃における抵抗率が1×1010Ωcm以上、2×1010Ωcm以上または5×1010Ωcm以上である、前記[1]~[4]のいずれかに記載のGaN結晶。
[6]200℃における抵抗率が5×108Ωcm以上、1×109Ωcm以上または2×109Ωcm以上である、前記[1]~[5]のいずれかに記載のGaN結晶。
[7]300℃における抵抗率が1×108Ωcm以上、2×108Ωcm以上または5×108Ωcm以上である、前記[1]~[6]のいずれかに記載のGaN結晶。
[8]抵抗率が、室温において1×1012Ωcm以上、100℃において5×1010Ωcm以上、200℃において2×109Ωcm以上、且つ300℃において5×108Ωcm以上である、前記[3]に記載のGaN結晶。
[9]前記(0001)表面側で測定される(004)XRDロッキングカーブ半値全幅が30arcsec未満、25arcsec未満、20arcsec未満、18arcsec未満、16arcsec未満、14arcsec未満または12arcsec未満である、前記[1]~[8]のいずれかに記載のGaN結晶。
[10]前記(0001)表面における貫通転位密度が1×107cm-2未満、5×106cm-2未満または1×106cm-2未満である、前記[1]~[9]のいずれかに記載のGaN結晶。
[11]面積5cm2以上の(0001)表面を有し、該(0001)表面の(0001)結晶面からの傾斜が10度以下であるGaN結晶であって、半絶縁性であること、および、下記(A)および(B)から選ばれる一以上を充足することを特徴とするGaN結晶。
(A)該(0001)表面側で測定される(004)XRDロッキングカーブ半値全幅が30arcsec未満、25arcsec未満、20arcsec未満、18arcsec未満、16arcsec未満、14arcsec未満または12arcsec未満
(B)該(0001)表面における貫通転位密度が1×107cm-2未満、5×106cm-2未満または1×106cm-2未満
[12]室温抵抗率が1×1011Ωcm以上、2×1011Ωcm以上、5×1011Ωcm以上、1×1012Ωcm以上、2×1012Ωcm以上または5×1012Ωcm以上である、前記[11]に記載のGaN結晶。
[13]100℃における抵抗率が1×1010Ωcm以上、2×1010Ωcm以上または5×1010Ωcm以上である、前記[11]または[12]に記載のGaN結晶。
[14]200℃における抵抗率が5×108Ωcm以上、1×109Ωcm以上または2×109Ωcm以上である、前記[11]~[13]のいずれかに記載のGaN結晶。
[15]300℃における抵抗率が1×108Ωcm以上、2×108Ωcm以上または5×108Ωcm以上である、前記[11]~[14]のいずれかに記載のGaN結晶。
[16]抵抗率が、室温において1×1012Ωcm以上、100℃において5×1010Ωcm以上、200℃において2×109Ωcm以上、且つ300℃において5×108Ωcm以上である、前記[11]に記載のGaN結晶。
[17]Feでドープされている、前記[12]~[16]のいずれかに記載のGaN結晶。
[18]総ドナー不純物濃度が5×1016atoms/cm3未満である、前記[12]~[17]のいずれかに記載のGaN結晶。
[19]前記[1]~[18]のいずれかに記載のGaN結晶からなる基板。
[20]単結晶GaN基板である、前記[19]に記載の基板。
[21]前記GaN結晶のみからなる、前記[19]または[20]に記載の基板。
[22]前記GaN結晶からなるGaN層が支持基板上に積層されてなる、前記[19]に記載の基板。
[23]前記[19]~[22]のいずれかに記載の基板を準備するステップと、該準備した基板の上にひとつ以上の窒化物半導体層をエピタキシャル成長させるステップと、からなるエピタキシャルウエハの製造方法。
[24]前記[19]~[22]のいずれかに記載の基板と、該基板にエピタキシャル成長したひとつ以上の窒化物半導体層と、からなるエピタキシャルウエハ。
[25]前記[19]~[22]のいずれかに記載の基板を準備するステップと、該準備した基板の上にひとつ以上の窒化物半導体層をエピタキシャル成長させるステップと、からなる窒化物半導体デバイスの製造方法。
[26]GaN-HEMTの製造方法である、前記[25]に記載の窒化物半導体デバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、Fe等の補償不純物の濃度が比較的低くても半絶縁性を有することが可能であり、しかも結晶品質の良好なGaN結晶が提供される。
本発明によれば、GaN-HEMTのような横型デバイス構造の窒化物半導体デバイスのための基板に好適に用い得るGaN結晶、および、GaN-HEMTのような横型の窒化物半導体デバイスの製造に好適に用い得る基板が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態に係るGaN結晶を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、単結晶GaN基板をシードに用いてHVPEで成長させたアンドープとFe濃度3.7×10
18atoms/cm
3のGaN結晶の熱伝導率を、室温から300℃までの間で測定した結果を示す。
【
図3】
図3は、実施形態に係るGaN結晶の(0001)表面を、正方格子によって5mm×5mmのセルに分けたところを示す平面図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係る単結晶GaN基板を示す斜視図である。
【
図5】
図5は、実施形態に係る単結晶GaN基板を示す断面図である。
【
図6】
図6は、実施形態に係る単結晶GaN基板を示す断面図である。
【
図7】
図7は、実施形態に係るGaN結晶の成長に適したHVPE装置の基本構成を示す模式図である。
【
図8】
図8は、HVPE装置のサセプター温度と、成長したGaN結晶の不純物濃度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
GaN結晶では、[0001]および[000-1]に平行な結晶軸がc軸、<10-10>に平行な結晶軸がm軸、<11-20>に平行な結晶軸がa軸と呼ばれる。c軸に直交する結晶面はc面(c-plane)、m軸に直交する結晶面はm面(m-plane)、a軸に直交する結晶面はa面(a-plane)と呼ばれる。
本明細書において、結晶軸、結晶面、結晶方位等に言及する場合には、特に断らない限り、GaN結晶の結晶軸、結晶面、結晶方位等を意味する。
六方晶のミラー指数(hkil)は、h+k=-iの関係があることから、(hkl)と3桁で表記されることもある。例えば、(0004)を3桁で表記すると(004)である。
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味し、「A~B」は、A以上B以下であることを意味する。
以下、適宜図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0010】
1.GaN結晶
本発明の第一実施形態はGaN結晶に関する。
第一実施形態に係るGaN結晶は、面積5cm2以上の(0001)表面を有し、該(0001)表面の(0001)結晶面からの傾斜は10度以下(0度を含む)である。第一実施形態に係るGaN結晶は、様々な厚さを有してよく、自立した基板、他のGaN結晶上に成長したエピタキシャル層、接合技術によって支持基板上に積層されたGaN層など、様々な形態をとり得る。第一実施形態に係るGaN結晶の形状は任意であり、後述する本発明の単結晶GaN基板が得られる形状であることが好ましい。
(0001)表面の面積は、18cm2以上、或いは75cm2以上、或いは165cm2以上であってもよい。
【0011】
図1に示す結晶10は、第一実施形態に係るGaN結晶の一例である。
結晶10は、Ga極性である(0001)表面11と、N極性である(000-1)表面12とを有している。
結晶10において、(0001)表面11の(0001)結晶面からの傾斜は、0度以上0.5度未満、0.5度以上1度未満、1度以上1.5度未満、1.5度以上2.5度未満、2.5度以上5度未満、5度以上10度未満等であり得る。該傾斜は、好ましくは2.5度未満である。
結晶10の表面がこのような結晶面であるということは、その成長過程において意図しないドナー不純物のドーピングが抑制されている、或いはコントロールされているということと密接な関係がある。
なお、(0001)表面11の全ての面が上記の数値範囲の傾斜をもつことは必須ではない。少なくとも面積5cm
2以上の(0001)表面が、上記の数値範囲の傾斜であればよい。上記の数値範囲の傾斜をもつ(0001)表面の面積は、18cm
2以上、或いは75cm
2以上、或いは165cm
2以上であってもよい。
【0012】
結晶10の厚さtは、通常1μm以上であり、上限は特に無いが通常4mm以下である。厚さtは、5μm以上200μm未満、200μm以上500μm未満、500μm以上1mm未満、1mm以上等であり得る。
結晶10の(0001)表面11は、好ましくは、20mm以上の直径を有する。また、後述する本発明の単結晶GaN基板が得られる形状であることが好ましい。そのため、後述する基板100の直径Rを超える直径であることが好ましい。
【0013】
好適例において、第一実施形態に係るGaN結晶は、Fe濃度が5×1017atoms/cm3以上1×1019atoms/cm3未満であり、かつ、総ドナー不純物濃度が5×1016atoms/cm3未満である。総ドナー不純物濃度は、好ましくは3×1016atoms/cm3未満、より好ましくは2×1016atoms/cm3未満である。
総ドナー不純物濃度とは、第一実施形態に係るGaN結晶が含有するドナー不純物の濃度の総和である。GaNに対しドナーとして働く不純物としては、O(酸素)、Si(ケイ素)、S(硫黄)、Ge(ゲルマニウム)、Sn(錫)などが知られている。
【0014】
後述するように第一実施形態に係るGaN結晶はHVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)で成長されることから、該GaN結晶にはO(酸素)およびSi(ケイ素)が、意図的に添加しないにも拘らず、それぞれ1015atoms/cm3台以上の濃度で含有され得る。一方、第一実施形態に係るGaN結晶に、OおよびSiを除く他のドナー不純物が無視できない濃度で含有されるのは、かかるドナー不純物で意図的なドーピングが行なわれたときだけである。なお「意図的なドーピング」とは、対象とする元素をGaN結晶にドーピングするために、原料として当該元素を単体或いは化合物として添加する場合等を意味する。
従って、OおよびSiを除くドナー不純物で意図的にドープしたときでなければ、第一実施形態に係るGaN結晶の総ドナー不純物濃度は、O濃度とSi濃度の和に等しいとみなしてよい。
【0015】
第一実施形態に係るGaN結晶は、Fe濃度と総ドナー不純物濃度との差が大きいだけでなく、総ドナー不純物濃度が低いことから、第一実施形態に係るGaN結晶では、抵抗率がドナー不純物濃度の変動による影響を受け難いと考えられる。
また、第一実施形態に係るGaN結晶では、総ドナー不純物濃度が低いので、比較的低いFe濃度で高い抵抗率を実現できることが大きな特徴である。
例えば、第一実施形態に係るGaN結晶の室温抵抗率は、Fe濃度が3×1018atoms/cm3のときに5×1012Ωcm、Fe濃度が6×1018atoms/cm3のときに7×1012Ωcmに達し得る。
【0016】
第一実施形態に係るGaN結晶のFe濃度は、6×1018atoms/cm3以下、更には、3×1018atoms/cm3以下であってもよい。第一実施形態に係るGaN結晶は、Fe濃度が1×1018atoms/cm3以上のときに、以下の抵抗率を有し得る。
・室温において1×1011Ωcm以上、とりわけ2×1011Ωcm以上、とりわけ5×1011Ωcm以上、とりわけ1×1012Ωcm以上。
・100℃において1×1010Ωcm以上、とりわけ2×1010Ωcm以上、とりわけ5×1010Ωcm以上。
・200℃において5×108Ωcm以上、とりわけ1×109Ωcm以上、とりわけ2×109Ωcm以上。
・300℃において1×108Ωcm以上、とりわけ2×108Ωcm以上、とりわけ5×108Ωcm以上。
【0017】
同じ抵抗率を得るためにGaN結晶に添加する必要のあるFeの濃度を低くできることは、Feの添加による結晶品質や熱伝導率の低下を抑制するうえで好都合である。
図2は、単結晶GaN基板をシードに用いてHVPEで成長させたアンドープとFe濃度3.7×10
18atoms/cm
3のGaN結晶の熱伝導率を、室温から300℃までの間で測定した結果であり、熱伝導率がFeドーピングの影響を実質的に受けていないことが分かる。
【0018】
第一実施形態に係るGaN結晶は、補償不純物のひとつであるCを、二次イオン質量分析法(SIMS)による検出下限(約5×1015atoms/cm3)以上の濃度、かつ、好ましくは1×1017atoms/cm3未満、より好ましくは5×1016atoms/cm3未満の濃度で含有してもよい。
第一実施形態に係るGaN結晶は、実用上支障が生じない限りで、例えばMn(マンガン)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)などといった、FeおよびC以外の補償不純物を含有してもよい。
第一実施形態に係るGaN結晶は、以上で言及した不純物の他にH(水素)を含有してもよく、その濃度は例えば1016~1017atoms/cm3台であり得る。
【0019】
第一実施形態に係るGaN結晶は、以下に示す、GaN結晶の(0001)表面側で測定される(004)XRDロッキングカーブ半値全幅の好適範囲、及び(0001)表面における貫通転位密度の好適範囲から選ばれる一以上を充足することが好ましい。ここで半値全幅とは、一般に半値幅と言われるものと同義である。
【0020】
第一実施形態に係るGaN結晶の(0001)表面側で測定される(004)XRDロッキングカーブ半値全幅は、好ましくは30arcsec未満、より好ましくは25arcsec未満、更に好ましくは20arcsec未満、更に好ましくは18arcsec未満、更に好ましくは16arcsec未満、更に好ましくは14arcsec未満、更に好ましくは12arcsec未満である。
(004)XRDロッキングカーブは、結晶品質を示す指標のひとつであり、CuKα1放射を用いて測定される。測定では、X線管球を例えば電圧45kV、電流40mAで動作させる。
【0021】
(004)XRDロッキングカーブ測定において、X線を(0001)表面に入射させるときには、X線の入射面をa軸またはm軸と垂直にすることができる。
X線のビームサイズは、入射角(反射面とX線とがなす角度)を90°としたとき、すなわちX線を反射面である(004)面に垂直に入射させたときに、(0001)表面上における照射エリアのサイズが、ω軸に平行な方向について5mm、ω軸に垂直な方向について1mmとなるように設定することができる。ω軸とは、ロッキングカーブ測定における試料の回転軸である。
X線のビームサイズをこのように設定したとき、(004)XRDロッキングカーブ測定ではωが約36.5°であることから、該照射エリアのサイズは約1.7×5mm2である。
【0022】
第一実施形態に係るGaN結晶の貫通転位密度は、通常、1×10
7cm
-2未満であり、好ましくは5×10
6cm
-2未満、より好ましくは1×10
6cm
-2未満、更に好ましくは5×10
5cm
-2未満、更に好ましくは1×10
5cm
-2未満である。
特に好ましい例において、第一実施形態に係るGaN結晶の(0001)表面を
図3に示すように正方格子によって5mm×5mmのセルに分けたとき、貫通転位の無い100μm×100μmの正方形領域が各5mm×5mmセル内に少なくともひとつ存在する。
貫通転位には刃状、螺旋および混合の3種類があるが、本明細書ではこれらを区別せず、総称して貫通転位と呼んでいる。
【0023】
第一実施形態に係るGaN結晶は半絶縁性でキャリア濃度が低いので、その(0001)表面における貫通転位の存否や密度を、CL(カソードルミネッセンス)像観察によって調べることができない。
第一実施形態に係るGaN結晶における貫通転位の存否や密度は、270℃に加熱した濃度89%の硫酸で1時間エッチングすることによって調べることができる。かかるエッチングにより(0001)表面に形成されるエッチピットは貫通転位に対応しており、その密度は貫通転位密度と等価である。このことは、HVPEで成長させた導電性GaN結晶を同じ条件でエッチングしたときに形成されるエッチピットと、カソードルミネッセンス(CL)像に現れる暗点との対応関係を調べることにより確認されている。
第一実施形態に係るGaN結晶を得る方法は限定されるものではないが、具体的には、後述するGaN結晶成長方法等によって得ることができる。
【0024】
2.単結晶GaN基板
本発明の第二実施形態はGaN結晶からなる基板、特に、単結晶GaN基板に関する。単結晶GaN基板とは、GaN単結晶のみからなる自立した基板であり得る。
第二実施形態に係るGaN基板は、少なくとも一部が、前述の第一実施形態に係るGaN結晶から構成されている。このため、第二実施形態に係るGaN基板は、前記した第一実施形態に係るGaN結晶が奏することのできる効果を、同様に発現することができる。
図4に示す基板100は、第二実施形態に係るGaN基板の一例であり、Ga極性である(0001)表面101と、N極性である(000-1)表面102とを有している。
【0025】
基板100の直径Rは、通常20mm以上であり、典型的には、25~27mm(約1インチ)、50~55mm(約2インチ)、100~105mm(約4インチ)、150~155mm(約6インチ)等である。
基板100の厚さtは、直径Rに応じて、基板100のハンドリングが困難とならない値に設定される。例えば、基板100の直径Rが約2インチのとき、厚さtは好ましくは250~500μm、より好ましくは300~450μmである。
【0026】
基板100の2つの大面積表面のうち、おもて面として窒化物半導体層のエピタキシャル成長に使用されるのは(0001)表面101である。(0001)表面101は鏡面仕上げされており、AFMで測定されるその根二乗平均(RMS)粗さは、測定範囲2μm×2μmにおいて通常2nm未満、好ましくは1nm未満、より好ましくは0.5nm未満である。
(000-1)表面102は裏面であることから、鏡面仕上げでもよいし、艶消し仕上げでもよい。
【0027】
基板100のエッジは面取りされていてもよい。
基板100には、結晶の方位を表示するオリエンテーション・フラットまたはノッチ、おもて面と裏面の識別を容易にするためのインデックス・フラット等、必要に応じて様々なマーキングを施してもよい。
基板100は円盤形であるが、変形例では、(0001)表面101および(000-1)表面102の形状が正方形、長方形、六角形、八角形、楕円形などであってもよく、不定形であってもよい。
【0028】
図5に、基板100を(0001)表面101に垂直な平面で切断したときの切断面を示す。
基板100のうち、(0001)表面101を含む第一領域110は、前述の第一実施形態に係るGaN結晶からなる。
第一領域110の厚さt
1が基板10の厚さtよりも小さいとき、
図5に示すように、基板100は(000-1)表面102側に第二領域120を有する。
第二領域120は、室温抵抗率が1×10
5Ωcm未満のGaN結晶、すなわち半絶縁性ではないGaN結晶からなる。
【0029】
第二領域120における補償不純物の総濃度は、通常、第一領域110のそれより低い。第二領域120は、第一領域110との境界近傍に、第一領域110に近付くにつれて補償不純物の総濃度が段階的または連続的に増加する領域を有していてもよい。
第一領域110と第二領域120を有する基板100は、第一領域110の上にエピタキシャル成長によって第二領域120を形成すること、または、第二領域120の上にエピタキシャル成長によって第一領域110を形成することによって、製造することができる。
一例では、
図6に示すように、基板100の厚さが第一領域110の厚さt
1に等しくてもよい。換言すれば、基板100は、第一実施形態に係るGaN結晶のみからなっていてもよい。
【0030】
3.GaN結晶成長方法
第一実施形態に係るGaN結晶は、通常、HVPEにより成長される。第一実施形態に係るGaN結晶の成長に適したHVPE装置と、該装置を用いて第一実施形態に係るGaN結晶を成長させるときに用い得る条件について、以下に説明する。
【0031】
3.1.HVPE装置
第一実施形態に係るGaN結晶の成長に適したHVPE装置の基本構成を、
図7に模式的に示す。
図7を参照すると、HVPE装置1は、ホットウォール型のリアクター2と、該リアクター内に配置されるガリウム溜め3およびサセプター4と、該リアクターの外部に配置される第一ヒーター5、第二ヒーター6および気化器7とを備えている。第一ヒーター5および第二ヒーター6は、それぞれ、リアクター2を環状に取り囲んでいる。
【0032】
リアクター2は石英管チャンバーである。リアクター2内には、主に第一ヒーター5で加熱される第一ゾーンZ1と、主に第二ヒーター6で加熱される第二ゾーンZ2がある。排気管PEは第二ゾーンZ2側のリアクター端に接続される。
第一ゾーンZ1に配置されるガリウム溜め3は、ガス入口とガス出口を有する容器であり、カーボンまたは石英で形成され得る他、カーボン部品と石英部品を組み合わせて形成することもできる。
第二ゾーンZ2に配置されるサセプター4は、例えばグラファイトで形成されるが、限定されるものではなく、W(タングステン)、Mo(モリブデン)などの耐熱性および耐食性に優れた金属で形成し得る他、SiCのような耐熱性セラミックの表面を熱分解黒鉛でコートしたものであってもよい。サセプター4を回転させる機構は任意に設けることができる。
【0033】
第二ゾーンZ2では、リアクター2に挿入されたスリーブ8によって、リアクター2の内壁とリアクター2内を流れるガスとの接触が妨げられている。スリーブ8は柔軟な黒鉛シートで形成され、リアクター2の内径より僅かに小さな外径を有している。スリーブ8は、リアクター2と接触或いは密着していてもよいし、僅かな間隙を有していてもよい。スリーブ8の設置は、成長されるGaN結晶のSi濃度低減に有効であると本発明者等は考えている。これは、石英管で形成されているリアクター2に由来するSi元素がGaN結晶に導入されることを、スリーブ8の存在によって抑制しているためである。
気化器7では、容器に入れられた固体のフェロセン[ビス(シクロペンタジエニル)鉄]が、キャリアガス供給下で加熱されることにより気化される。気化されたフェロセンはキャリアガスによってリアクター2に運ばれる。
【0034】
HVPE装置1でGaN結晶を成長させるときは、ガリウム溜め3に金属ガリウムを入れ、サセプター4上にシードを置いたうえで、第一ヒーター5および第二ヒーター6で第一ゾーンZ1および第二ゾーンZ2をそれぞれ加熱するとともに、キャリアガスで希釈されたNH3(アンモニア)を、アンモニア導入管P1を通して第二ゾーンZ2に供給し、また、キャリアガスで希釈されたHCl(塩化水素)を、塩化水素導入管P2を通してガリウム溜め3に供給する。このHClはガリウム溜め3の中の金属ガリウムと反応し、生じたGaCl(塩化ガリウム)は塩化ガリウム導入管P3を通して第二ゾーンZ2に運ばれる。第二ゾーンZ2でNH3とGaClが反応し、生じるGaNがシード上で結晶化する。
【0035】
シード上に成長するGaN結晶をFeでドープするときは、気化器7で気化させたフェロセンを、HClと混合したうえで、ドーパント導入管P4を通してリアクター2に導く。ドーパント導入管P4内でフェロセンはHClと反応し、生成物である塩化鉄および/またはその熱分解物がドーパント源として第二ゾーンZ2に放出されると考えられる。
【0036】
アンモニア導入管P1、塩化水素導入管P2、塩化ガリウム導入管P3およびドーパント導入管P4は、リアクター内で高温に曝される部分を石英で形成することができる。
特に、塩化ガリウム導入管P3のノズルに関しては、第一ゾーンZ1よりも高温に加熱される第二ゾーンZ2内に位置しており、かつ、そこをGaCl生成反応の副生成物であるH2が流れることから、石英ではなく、熱分解黒鉛のような炭素材料、あるいはW(タングステン)で形成することが好ましい。
本発明者等がHVPE装置1と同じ基本構成を有するHVPE装置を用いて実験したところ、塩化ガリウム導入管のノズルを石英管から熱分解黒鉛管に変更したとき、キャリアガスにN2のみを用いて意図的なドーピングなしに成長させたGaN結晶のSi濃度は半減した。注記すると、このGaN結晶のO濃度は、該ノズル変更の影響を受けなかった。
【0037】
図7ではアンモニア導入管P
1のノズルと塩化ガリウム導入管P
3のノズルが独立しているが、好適例では、前者を外管、後者を内管とする二重管ノズルを採用してもよい。その場合の外管の径は、リアクターの内径と同じとなるまで大きくすることができる。
図7では、塩化ガリウム導入管P
3とドーパント導入管P
4のノズルが独立しているが、好適例では、成長するGaN結晶がFeで均一にドープされるよう、GaClとドーパント源が混合されてから共通ノズルを通して第二ゾーンZ
2内に放出されるようにしてもよい。そのために、例えば、ドーパント導入管P
4のノズルを塩化ガリウム導入管P
3内に配置してもよい。
【0038】
図7に示すHVPE装置1において、基本構成を変えることなく、リアクター2を横型から縦型に変更することができる。縦型に変更したリアクターは、原料ガスがリアクター内を上から下に向かって流れる構成、あるいはその反対向きに流れる構成の、いずれとしてもよい。
【0039】
3.2.シード
実施形態に係るGaN結晶を成長させるとき、シードにはc面単結晶GaN基板を用いることが好ましい。
c面単結晶GaN基板は、1×107cm-2未満の転位密度を有するので、その(0001)表面上に良好な表面平坦性を有するFeドープGaN層を成長させることができる。
GaN/サファイアテンプレートをシードに用いたとき、FeドープGaN層の成長表面のモホロジーは、同じシード上に成長させたアンドープGaN層に比べて悪化するのに対し、本発明者等がc面単結晶GaN基板上にそれぞれ成長させたアンドープGaN層とFe濃度約6×1018cm-3のGaN層の表面はどちらも平坦で、両者の間に微分干渉顕微鏡で区別可能なモホロジーの違いは見出されなかった。
【0040】
本発明者等は、成長表面のモホロジーは、GaN結晶のO(酸素)濃度に影響し得ると考えている。[0001]方向に成長するGaN層に取り込まれるOの濃度は、同じ成長環境下でも、成長表面が平坦なときと凹凸面であるときとで50倍以上も異なり得る。かかるGaN層のO濃度が低くなるのは、成長表面が(0001)結晶面に平行な平坦面であるときである。
【0041】
シードには、HVPE等の気相法によるGaN基板を用いても、アモノサーマル法等の液相法によるGaN基板を用いてもよい。アモノサーマル法に関しては、酸性アモノサーマル法、塩基性アモノサーマル法の何れでもよい。
好適例では、NH4F(またはHF)とNH4I(またはHI)を鉱化剤に用いて酸性アモノサーマル法で成長された、(004)XRDロッキングカーブ半値全幅が20arcsec未満であるc面単結晶GaN基板を、シードとして用いることができる。かかるc面単結晶GaN基板の製造手順については、WO2018/030311号公報を参照することができる。
【0042】
3.3.キャリアガス
実施形態に係るGaN結晶をHVPEで成長させるとき、キャリアガスにはH2(水素ガス)を極力用いないことが望ましい。好ましくは、N2(窒素ガス)または希ガスのような不活性ガスのみを、キャリアガスとして用いる。好ましい不活性ガスはN2である。
キャリアガスにH2を使用するのが好ましくない理由は、H2はリアクターや配管の材料である石英の分解に寄与し、成長させるGaN結晶の意図しないSiドーピングが発生する主原因と考えられるからである。
【0043】
3.4.温度条件
図7に示すHVPE装置1を用いるとき、成長するGaN結晶の不純物濃度に対し、第一ゾーンZ
1の温度が与える影響は大きくない。
HVPE装置1と同じ基本構成を有するHVPE装置を用いた実験(キャリアガスにはN
2のみを使用)によれば、ガリウム溜めの温度を1030℃に固定してサセプター温度を440℃と840℃の間で変化させたとき、意図的なドーピングをすることなく成長させたGaN結晶のSi濃度、O濃度、C濃度およびH濃度に実質的な変化は観察されなかった。また、GaN結晶の成長レートも略一定であった。
ただし、ガリウム溜めの温度を900℃以上とすると、成長したGaN結晶においてSi濃度とC濃度が増加する傾向が見られた。
【0044】
一方、成長するGaN結晶の不純物濃度に対し、第二ゾーンZ
2の温度T
2が与える影響は小さくない。
図8に、HVPE装置1と同じ基本構成を有するHVPE装置を用いた実験から得られた、サセプター温度と、成長したGaN結晶の不純物濃度との関係を示す。
この実験では、ガリウム溜めの温度を840℃に固定して、サセプター温度を985℃と1070℃の間で変化させた。キャリアガスにはN
2のみを使用し、GaClおよびNH
3をそれぞれ40sccmおよび500sccmという流量でリアクター内に供給して、単結晶c面GaN基板上に、意図的なドーピングをすることなくGaN結晶を成長させた。
【0045】
図8が示すように、成長したGaN結晶のO濃度は、サセプター温度を985℃から1005℃に上げることで10
17atoms/cm
3台から10
16atoms/cm
3台まで1桁低下し、サセプター温度を更に上げることにより10
15atoms/cm
3台まで低下した。温度が高くなるほど、成長するGaN層の表面平坦性が改善され、Oが取り込まれ難くなったものと推測される。
一方、成長したGaN結晶のSi濃度は、サセプター温度とともに増加する傾向があったが、5×10
15atoms/cm
3を超えることはなかった。
成長したGaN結晶のC濃度も、サセプター温度とともに上昇する傾向を示した。
【0046】
3.5.Feドーピング
本発明者等がHVPE装置1と同じ基本構成を有するHVPE装置を用い、フェロセンの温度を30℃に保持しつつ、気化器に供給するキャリアガスの流量を変化させる実験を行ったところ、単結晶c面GaN基板上に1030℃で成長させたGaN結晶のFe濃度は、6×1017atoms/cm3から6×1018atoms/cm3の間で、該キャリアガス流量に略比例して変化した。一方、このGaN結晶のSi濃度、O濃度およびC濃度は、該キャリアガスの流量と無関係であった。この実験では、気化器に供給したキャリアガスのみならず、リアクターに供給したキャリアガスの全てがN2であった。
なお、GaN結晶の成長方法に関し、上述した事項以外の条件は、HVPEにおける一般的な条件を適用することができる。
【0047】
4.基板の用途
第二実施形態に係る単結晶GaN基板は、窒化物半導体デバイス、特に横型デバイス構造の窒化物半導体デバイスの製造に好ましく用いることができる。
窒化物半導体は、窒化物系III-V族化合物半導体、III族窒化物系化合物半導体、GaN系半導体などとも呼ばれ、GaNを含む他、GaNのガリウムの一部または全部を他の周期表第13族元素(B、Al、In等)で置換した化合物を含む。
【0048】
横型デバイス構造の窒化物半導体デバイスの典型例はGaN-HEMTであるが、横型デバイス構造は、バイポーラトランジスタのようなHEMT以外の電子デバイスにおいても、また、発光ダイオード(LED)やレーザダイオード(LD)のような発光デバイスにおいても採用され得る。
第一実施形態に係るGaN結晶からなる基板には、第二実施形態に係る単結晶GaN基板の他に、第一実施形態に係るGaN結晶からなるGaN層が接合技術によって支持基板上に積層されてなる基板がある。かかる基板も、第二実施形態に係る単結晶GaN基板と同じ用途に用いることができる。
また、第一実施形態に係るGaN結晶及び第二実施形態に係るGaN基板は、該結晶又は該基板にエピタキシャル成長したひとつ以上の窒化物半導体層を積層させることにより、エピタキシャルウエハとして用いることができる。
【0049】
5.実験結果
5.1.実験1
(1)FeドープGaN結晶の成長
シードとして、HVPEで成長させた転位密度約2×10
6~4×10
6cm
-2のc面単結晶GaN基板を準備した。
該c面単結晶GaN基板の(0001)表面上に、
図7に示すHVPE装置と同じ基本構成を有するHVPE装置を用いて、次の手順でGaN結晶層を成長させた。
まず、サセプター上にシードをセットした後、N
2およびNH
3を、それぞれ2700sccmおよび500sccmでリアクター内に導入しながらリアクターを加熱した。
次いで、ガリウム溜めの温度が850℃、サセプター温度が1030℃に到達したら、温度を一定に保ち、GaClおよびNH
3をそれぞれ流量40sccmおよび500sccmで供給することにより、GaN結晶の成長を開始させた。成長中に供給するキャリアガスはN
2のみとした。
ドーパント導入管には、GaN結晶の成長開始と同じタイミングでHClを3sccmで流し始めた。
Feドーピングは、成長開始から1分後に、気化器にキャリアガスとしてN
2を供給することにより開始した。気化器に供給するキャリアガスの流量は、1分間かけて徐々に10sccmまで増加させた。気化器では、容器に入れたフェロセンを恒温槽で35℃に保持した。FeドープGaN結晶層の成長レートは1.7μm/minであった。
【0050】
(2)GaN基板の作製
前記(1)で成長させたGaN層をc面に平行にスライスしてウエハを得た後、該ウエハの両面をそれぞれ研削して平坦化し、更に、研削により生じたダメージ層をCMP(Chemical Mechanical Polishing)で除去することにより、FeドープGaN結晶のみからなる、厚さ400μmで、(0001)表面が2.5cm×2.5cmの正方形であるc面単結晶GaN基板を作製した。
【0051】
(3)不純物濃度
前記(2)で作製したc面単結晶GaN基板の不純物濃度をSIMSで測定したところ、Feが1.5×1018atoms/cm3、Siが1.3×1016atoms/cm3、Oが8.0×1015atoms/cm3、Cが3.6×1016atoms/cm3であった。
【0052】
(4)直流三端子法による抵抗率の評価
前記(2)で作製したc面単結晶GaN基板の抵抗率を、直流三端子法により、次の手順で測定した。
円形の主電極と該主電極を取り囲むガード電極を基板の(0001)表面に、対抗電極を基板の(000-1)表面に形成した。これらの電極は、スクリーン印刷法で塗布したAgペーストを大気中で12時間、100℃で乾燥させることにより形成した。
測定はN2雰囲気中、室温、100℃、200℃および300℃で行った。基板を各温度で15分間保持した後に直流電圧を印加し、1分間充電後の電流を測定することにより体積抵抗を求めた。結果を下記表1に示す。
【0053】
【0054】
5.2.実験2
実験1と略同様の手順にて、c面単結晶GaN基板を作製した。ただし、本実験2では、FeドープGaN層の成長時に気化器に供給するキャリアガスの流量を増やすことにより、より高いFe濃度を有するc面単結晶GaN基板を作製した。
作製したFe濃度が3×1018atoms/cm3および6×1018atoms/cm3のc面単結晶GaN基板の、二重リング法により測定した室温抵抗率は、それぞれ、5×1012Ωcmおよび7×1012Ωcmであった。なお、Fe以外の不純物濃度は、実験1で製造したc面単結晶GaN基板と同様であった。
直流三端子法と二重リング法との間に室温抵抗率の測定値に違いはなく、二重リング法にて印加電圧500Vで測定したFe濃度1.6×1018atoms/cm3のc面単結晶GaN基板の室温抵抗率は2.9×1012Ωcmであった。
【0055】
5.3.実験3
(1)GaN基板の作製
シードとして、NH4FとNH4Iを鉱化剤に用いてアモノサーマル法で成長させた、(004)XRDロッキングカーブ半値全幅が約10arcsecのc面単結晶GaN基板を用いたこと、および、FeドープGaN層の成長時に気化器に供給するキャリアガスの流量を増やしたことを除いて、実験1と略同様の手順にてFeドープしたc面単結晶GaN基板を作製した。
【0056】
(2)(004)XRDロッキングカーブ半値全幅
前記(1)で作製したFeドープGaN基板の(004)XRDロッキングカーブの半値全幅を、X線回折装置[スペクトリス(株)製 パナリティカル X’Pert Pro MRD]を用いて測定した。
測定では、ラインフォーカスCuKα線源を45kV、40mAで動作させ、Ge(440)4結晶対称モノクロメータを用いてCuKα1線を得た。使用した光学系は平行光学系で、入射側には1/2スリット、X線ミラーおよびw1mm×h1mmのクロススリットを用いた。検出器には半導体ピクセル検出器であるPIXcel3D(登録商標)の0Dモードを用いた。角度分解能は5~6arcsecであった。
【0057】
X線は、試料の(0001)表面に対し、入射面がm軸のひとつと垂直となるように入射させた。ビームサイズは、入射角を90°としたとき、すなわちX線を該Ga極性面に垂直に入射させたときに、照射エリアのサイズが1×5mm2となるように設定した。
面積6.3cm2の試料表面上の5箇所で測定した平均値は10arcsecであった。この(004)XRDロッキングカーブ半値全幅の値からいって、本実験3で作製したFeドープGaN基板の転位密度は、高く見積もっても105cm-2台を超えることはないと推定される。
【0058】
(3)不純物濃度
前記(1)で作製したc面単結晶GaN基板の不純物濃度をSIMSで測定したところ、Feが5.4×1018atoms/cm3、Siが1.1×1016atoms/cm3、Oが8.3×1015atoms/cm3、Cが3.4×1016atoms/cm3であった。
【0059】
(4)抵抗率の評価
前記(1)で作製したc面単結晶GaN基板の室温抵抗率を二重リング法で測定したところ、7×1012Ωcmであった。
【0060】
以上、本発明を具体的な実施形態に即して説明したが、各実施形態は例として提示されたものであり、本発明の範囲を限定するものではない。本明細書に記載された各実施形態は、発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、様々に変形することができ、かつ、実施可能な範囲内で、他の実施形態により説明された特徴と組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0061】
1 HVPE装置
2 リアクター
3 ガリウム溜め
4 サセプター
5 第一ヒーター
6 第二ヒーター
7 気化器
8 スリーブ
10 結晶
11 (0001)表面
12 (000-1)表面
100 基板
101 (0001)表面
102 (000-1)表面
110 第一領域
120 第二領域