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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】気流センサ及び飛行体
(51)【国際特許分類】
   G01P 13/00 20060101AFI20240719BHJP
   B64C 39/02 20060101ALI20240719BHJP
   B64C 33/00 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
G01P13/00 E
B64C39/02
B64C33/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020103148
(22)【出願日】2020-06-15
(65)【公開番号】P2021196275
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(72)【発明者】
【氏名】竹井 邦晴
(72)【発明者】
【氏名】ヤン シイシン
【審査官】藤澤 和浩
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-006174(JP,A)
【文献】国際公開第2017/022577(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104880206(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0180963(US,A1)
【文献】特表2018-504341(JP,A)
【文献】特開2019-051755(JP,A)
【文献】特開2018-040776(JP,A)
【文献】韓国公開特許第2007-0099983(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P 13/00 ~ 13/04
G01P 5/00 ~ 5/26
G01L 1/00
G01B 7/16
B64C 39/02
B64C 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気流により撓むように設けられた可撓体と、前記可撓体上に設けられた第1グラフェン層と、制御部とを備え、
第1グラフェン層は、多孔質であり、かつ、前記可撓体と共に撓むように設けられ、
前記制御部は、第1グラフェン層の導電性の変化に基づき気流を検知するように設けられ
第1グラフェン層は、前記可撓体と接触するように設けられたことを特徴とする気流センサ。
【請求項2】
前記可撓体を支持する支持部材をさらに備える請求項1に記載の気流センサ。
【請求項3】
第1グラフェン層上に設けられたパリレン樹脂層をさらに備える請求項1又は2に記載の気流センサ。
【請求項4】
第1グラフェン層は、レーザ誘起グラフェン層である請求項1~3のいずれか1つに記載の気流センサ。
【請求項5】
第1グラフェン層は、線状である請求項1~4のいずれか1つに記載の気流センサ。
【請求項6】
第2グラフェン層をさらに備え、
前記可撓体は、翼状、板状又はシート状であり、かつ、第1主要面とその裏の第2主要面を有し、
第1グラフェン層は、前記可撓体の第1主要面上に設けられ、
第2グラフェン層は、多孔質であり、かつ、前記可撓体の第2主要面上に設けられ、
前記制御部は、第1及び第2グラフェン層の導電性の変化に基づき気流を検知するように設けられた請求項1~5のいずれか1つに記載の気流センサ。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1つに記載の気流センサと、アクチュエータとを備え、
前記アクチュエータは、飛行用アクチュエータ又は姿勢制御用アクチュエータであり、
前記制御部は、第1グラフェン層の導電性の変化に基づき前記アクチュエータの出力を調節するように設けられた飛行体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気流センサ及び飛行体に関する。
【背景技術】
【0002】
ドローン、模型飛行機、模型ヘリコプター、鳥型ロボットなどの小型飛行体や、グライダー、熱気球などの大きな推進力を有さない飛行体は、飛行中の気流の変化に大きく影響される。このため、これらの飛行体が安定に飛行するには、気流の変化を敏感に検知し、飛行姿勢などを気流に適合させる必要がある。また、高度センサ及び温度センサを用いて気流を検出する検出装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、レーザ誘起グラフェンが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-039449号公報
【文献】特表2018-504341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の気流検出装置では、上昇気流や下降気流は検出できるが、横風などは検出できない。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、気流の向き・強さなどを検出することができる気流センサを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、気流により撓むように設けられた可撓体と、前記可撓体上に設けられた第1グラフェン層と、制御部とを備え、第1グラフェン層は、多孔質であり、かつ、前記可撓体と共に撓むように設けられ、前記制御部は、第1グラフェン層の導電性の変化に基づき気流を検知するように設けられたことを特徴とする気流センサを提供する。
【発明の効果】
【0006】
可撓体が気流によって撓むと、第1グラフェン層は可撓体と共に曲がる。多孔質の第1グラフェン層が曲がると隣接するグラフェンシートの接触状態が変化し、第1グラフェン層の導電性が変化する。従って、第1グラフェン層の導電性の変化を制御部を用いてモニタリングすることにより、可撓体が受ける気流の向き・強さなどを検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の一実施形態の気流センサの概略断面図である。
図2】気流センサの製造方法の説明図である。
図3】本発明の一実施形態の気流センサの概略斜視図である。
図4】本発明の一実施形態の気流センサの概略断面図である。
図5】本発明の一実施形態の飛行体(ドローン)の概略斜視図である。
図6】本発明の一実施形態の飛行体(鳥型ロボット)の概略上面図である。
図7】電気抵抗測定実験の実験方法の説明図である。
図8】電気抵抗測定実験の実験結果を示すグラフである。
図9】電気抵抗測定実験の実験結果を示すグラフである。
図10】電気抵抗測定実験の実験結果を示すグラフである。
図11】電気抵抗測定実験の実験結果を示すグラフである。
図12】作製した気流センサ(主翼)の写真である。
図13】作製した気流センサ(主翼)を取り付けた鳥型ロボットの写真である。
図14】気流検知実験の実験結果を示すグラフである。
図15】気流検知実験の実験結果を示すグラフである。
図16】気流検知実験の実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の気流センサは、気流により撓むように設けられた可撓体と、前記可撓体上に設けられた第1グラフェン層と、制御部とを備え、第1グラフェン層は、多孔質であり、かつ、前記可撓体と共に撓むように設けられ、前記制御部は、第1グラフェン層の導電性の変化に基づき気流を検知するように設けられたことを特徴とする。
【0009】
本発明の気流センサは可撓体を支持する支持部材を備えることが好ましい。このことにより、可撓体が気流により適切に撓むことができる。
本発明の気流センサは第1グラフェン層上に設けられたパリレン樹脂層を備えることが好ましい。このことにより、グラフェン層の構造を安定化することができ、グラフェン層の電気的特性を安定化することができる。
第1グラフェン層は、レーザ誘起グラフェン層であることが好ましい。
第1グラフェン層は、線状であることが好ましい。このことにより、グラフェン層の導電性の変化を検出しやすくなる。
【0010】
本発明の気流センサは第2グラフェン層を備えることが好ましく、前記可撓体は、翼状、板状又はシート状であり、かつ、第1主要面とその裏の第2主要面を有することが好ましい。第1グラフェン層は、前記可撓体の第1主要面上に設けられることが好ましく、第2グラフェン層は、多孔質であり、かつ、前記可撓体の第2主要面上に設けられることが好ましい。前記制御部は、第1及び第2グラフェン層の導電性の変化に基づき気流を検知するように設けられることが好ましい。このことにより、気流センサの気流検出精度を向上させることができる。
また、本発明は、本発明の気流センサと、アクチュエータとを備える飛行体も提供する。
前記アクチュエータは、飛行用アクチュエータ又は姿勢制御用アクチュエータであることが好ましく、前記制御部は、第1グラフェン層の導電性の変化に基づき前記アクチュエータの出力を調節するように設けられることが好ましい。
【0011】
以下、複数の実施形態を参照して本発明をより詳細に説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。
【0012】
第1実施形態
図1は本実施形態の気流センサの概略断面図であり、図2(a)(b)は気流センサの製造方法の説明図である。図3は本実施形態の気流センサの概略斜視図である。
本実施形態の気流センサ50は、気流により撓むように設けられた可撓体2と、可撓体2上に設けられたグラフェン層3と、制御部5とを備え、グラフェン層3は、多孔質であり、かつ、可撓体2と共に撓むように設けられ、制御部5は、グラフェン層3の導電性の変化に基づき気流を検知するように設けられたことを特徴とする。また、気流センサ50は、歪センサであってもよい。
気流センサ50は可撓体2を支持する支持部材6を備えてもよい。また、気流センサ50は、グラフェン層3上に設けられたパリレン樹脂層7を備えてもよい。また、気流センサ50は、グラフェン層3と制御部5とを電気的に接続する配線10を備えてもよい。
【0013】
可撓体2の材料は、可撓体2が気流を受けて撓めば特に限定されないが、例えば、プラスチック、エラストマー、布、紙、金属、竹、繊維強化プラスチック(ガラス繊維強化プラスチック、炭素繊維強化プラスチックなど)などである。可撓体2の形状は、例えば、シート状、板状、翼状、棒状などである。例えば、可撓体2はポリイミドフィルムである。
【0014】
可撓体2は、支持部材6により支持されていてもよい。支持部材6は、可撓体2が気流を受けて撓むように可撓体2を支持することができる。可撓体2が比較的柔らかい場合、支持部材6は、例えば3点支持で可撓体2を支持することができる。このことにより、可撓体2が気流を受けて撓むことができる。
【0015】
また、可撓体2が比較的柔らかい場合、可撓体2は、気流を受けて撓むように設けられた支持部材6の全部又は一部を覆うように設けることができる。例えば、支持部材6は飛行機の翼などである。この場合、支持部材6が気流を受けて撓むと、支持部材6と共に可撓体2を撓ませることができる。
【0016】
可撓体2が弾力性に富む場合(例えば、繊維強化性プラスチック製の可撓体2)、支持部材6は1点で可撓体2を支持することができる。この場合、可撓体2は、気流を受けて弾性変形する。
【0017】
グラフェン層3は、多孔質グラフェンの層であり、可撓体2上に設けられる。また、グラフェン層3は、可撓体2と共に撓むように設けられる。グラフェン層3は、可撓体2と接触するように設けられてもよく、グラフェン層3と可撓体2との間に絶縁層などが設けられてもよい。グラフェン層3の厚みは、例えば、0.1μm以上500μm以下とすることができる。また、グラフェン層3は、線状に設けることができる。このことにより、グラフェン層3の導電性の変化を大きくすることができる。また、グラフェン層3は直線状であってもよい。
【0018】
多孔質グラフェン層3は、多数のグラフェンを含む層であり、隣接する2つのグラフェンはファンデルワールス力により結合している。グラフェン層3が可撓体2と共に撓むと、グラフェン層3に歪み(引張り歪み又は圧縮歪み)が生じ、ピエゾ抵抗効果によりグラフェン層3の導電性(電気抵抗)が変化する。具体的には、グラフェン層3に引張歪みが生じるとグラフェン層3の電気抵抗が高くなる。このため、グラフェン層3の導電性(電気抵抗)の変化から、気流による可撓体2の撓みを検出することができる。つまり、グラフェン層3の導電性の変化から、可撓体2が受ける気流の方向、気流により可撓体2にかかる風圧(気流の強さ)などを検出することができる。
【0019】
グラフェン層3は、プラスチック(例えば、ポリイミドフィルム)にレーザ光を照射しプラスチックの一部を焼成し炭化することにより形成したレーザ誘起グラフェン層であってもよい。例えば、図2(a)に示した断面図のように、ポリイミドフィルム30にレーザ光を走査しながら照射してグラフェン層3を形成することができる。このことにより、ポリイミドフィルム30の表面の所望の領域にグラフェン層3を形成することができる。グラフェン層3の形成に用いるレーザは、例えば、CO2レーザー、ファイバーレーザ、YAGレーザ、YVO4レーザなどである。また、レーザ出力、走査速度などを調節することにより、グラフェン層3の厚み及びグラフェン層3の下部に残すポリイミドフィルム30の厚みを調節することができる。レーザ光を照射したプラスチック(例えば、ポリイミドフィルム30)は、可撓体2とすることができる。
【0020】
また、レーザ照射によりプラスチック(例えば、ポリイミドフィルム30)上に形成したグラフェン層3を他の可撓体2上に転写することにより、可撓体2上にグラフェン層3を形成してもよい。また、グラフェン層3は、グラフェンインクを可撓体2上に印刷することにより形成してもよい。
【0021】
気流センサ50は、グラフェン層3と制御部5とを接続する配線10を有することができる。配線10は、可撓体2上に配置することができ、電極9においてグラフェン層3と接続することができる。可撓体2上の配線10は、例えば、導電性インクを印刷することにより形成してもよく、可撓体2上に金属箔を貼り付け、余分な金属箔をエッチングにより除去することにより形成してもよい。配線10の材料は、例えば、銀、銅などとすることができる。例えば、図2(b)に示したように、配線10は、レーザ誘起グラフェン(グラフェン層3)を有するポリイミドフィルム30上に導電性インクを印刷することにより形成することができる。
【0022】
グラフェン層3が線状である場合、例えば配線10aが電極9aにおいてグラフェン層3の一方の端と接触することができ、配線10bが電極9bにおいてグラフェン層3の他方の端に接触することができる。また、配線10a、10bはそれぞれ制御部5と電気的に接続する。このことのより、制御部5を用いてグラフェン層3の導電性(電気抵抗)の変化をモニタリングすることが可能になる。
【0023】
気流センサ50は、グラフェン層3上に設けられたパリレン樹脂層7を有することができる。パリレン樹脂層7は、グラフェン層3を覆うように設けることができ、グラフェン層3の保護層となる。パリレン樹脂層7を設けることにより、グラフェン層3の構造を安定化することができ、グラフェン層3の電気的特性を安定化することができる。また、パリレン樹脂層7は、蒸着法により形成された膜であってもよい。
パリレン樹脂層7の厚さは、5nm以上200nm以下とすることができ、好ましくは25nm以上100nm以下とすることができる。
【0024】
制御部5は、気流センサ50を制御する部分である。制御部5は、気流センサ50を搭載した機器の制御部であってもよい。制御部5は、例えば、マイクロコントローラ、コンピュータなどである。
制御部5は、配線10によりグラフェン層3と電気的に接続し、グラフェン層3の導電性(電気抵抗)を測定できるように設けられる。
【0025】
制御部5は、グラフェン層3の導電性の変化に基づき気流を検知するように設けられる。ここでは、図3に示した気流センサ50を用いて制御部5による気流検知について説明する。
図3に示した気流センサ50では、支持部材6は、x方向に伸びる棒と、y方向に伸びる棒と、z方向に伸びる棒とが一点で接合した形状を有している。x方向、y方向、z方向は互いに直交する方向である。可撓体2aはx方向に伸びる棒とz方向に伸びる棒との間に3つの支持点12で固定され、可撓体2bはz幅方向に伸びる棒とy方向に伸びる棒との間に3つの支持点12で固定され、可撓体2cはy方向に伸びる棒とx方向に伸びる棒との間に3つの支持点12で固定されている。
【0026】
直線状のグラフェン層3aは、可撓体2a上に設けられ、電極9a、9b、配線10を介して制御部5に電気的に接続する。直線状のグラフェン層3bは、可撓体2b上に設けられ、電極9c、9d、配線10を介して制御部5に電気的に接続する。直線状のグラフェン層3cは、可撓体2c上に設けられ、電極9e、9f、配線10を介して制御部5に電気的に接続する。
【0027】
このような気流センサ50がy方向に向かう風を受けると、可撓体2aはy方向に膨らむように撓み、グラフェン層3aに引張歪みが生じる。このため、グラフェン層3aの電気抵抗が上昇する。制御部5は、この電気抵抗の上昇に基づきy方向に向かう気流を検知することができる。気流センサ50がx方向に向かう風を受けると、可撓体2bはx方向に膨らむように撓み、グラフェン層3bに引張歪みが生じる。このため、グラフェン層3bの電気抵抗が上昇する。制御部5は、この電気抵抗の上昇に基づきx方向に向かう気流を検知することができる。気流センサ50がz方向に向かう風を受けると、可撓体2cはz方向に膨らむように撓み、グラフェン層3cに引張歪みが生じる。このため、グラフェン層3cの電気抵抗が上昇する。制御部5は、この電気抵抗の上昇に基づきz方向に向かう気流を検知することができる。
【0028】
第2実施形態
図4は、第2実施形態の気流センサ50の概略断面図である。可撓体2は、翼状、板状又はシート状であり、表面と裏面とを有する。可撓体2の表面にグラフェン層3aが設けられ、グラフェン層3aは、電極9a、9b、配線10を介して制御部5と電気的に接続している。また、可撓体2の裏面にグラフェン層3bが設けられ、グラフェン層3bは、電極9c、9d、配線10を介して制御部5と電気的に接続している。このような構成により、気流センサ50の気流検出精度を向上させることができる。
【0029】
例えば、図4に示した気流センサ50の両側部が支持部材6に固定され、可撓体2が下(裏面側)からの風を受けた場合、可撓体2は、上側に膨らむように撓む。この場合、グラフェン層3aには引張歪みが生じ、グラフェン層3bには圧縮歪みが生じる。このため、グラフェン層3aの電気抵抗が上昇する。制御部5は、この電気抵抗の上昇に基づき下からの気流を検知することができる。
また、可撓体2が上(表面側)からの風を受けた場合、可撓体2は、下側に膨らむように撓む。この場合、グラフェン層3bには引張歪みが生じ、グラフェン層3aには圧縮歪みが生じる。このため、グラフェン層3bの電気抵抗が上昇する。制御部5は、この電気抵抗の上昇に基づき上からの気流を検知することができる。
このように、制御部5がグラフェン層3a、3bの両方の導電性の変化に基づき気流を検知することにより、上昇気流、下降気流などの相反する方向の気流の検出精度が向上する。
その他の構成は第1実施形態と同様である。また、第1実施形態についての記載は矛盾がない限り第2実施形態についても当てはまる。
【0030】
第3実施形態
第3実施形態は、第1又は第2実施形態の気流センサ50を備えた飛行体15(ドローン16)に関する。図5は、第3実施形態のドローン16の概略斜視図である。
ドローン16は4つのプロペラ20a~20dを有し、これらのプロペラ20a~20dは、モータ27a~27d(アクチュエータ8)により回転する。また、制御部5は、モータ27a~27dへの供給電力を調節することによりドローン16の飛行を制御する。制御部5は、ドローン16の制御部でもあり、気流センサ50の制御部でもある。モータ27a~27dは、飛行用アクチュエータであり姿勢制御用アクチュエータでもある。ドローン16には、図3に示したような気流センサ50が搭載されている(図3のz方向が上方向となり、y方向がドローン16の前進方向となり、x方向が横方向となる)。
【0031】
制御部5は、気流センサ50のグラフェン層3a~3cの導電性の変化に基づきモータ27a~27d(アクチュエータ8)の出力を調節するように設けられる。このことにより、ドローン16の飛行を安定化することができる。
【0032】
例えば、ドローン16が強い上昇気流により煽られると、可撓体2cが上側に膨らむように撓み、グラフェン層3cに引張り歪みが生じる。この引張り歪みによるグラフェン層3cの電気抵抗の上昇に基づき制御部5は、モータ27a~27dへの供給電力を低下させ、プロペラ20a~20dの回転数を小さくする。また、制御部5は、ドローン16の飛行姿勢が崩れないようにプロペラ20a~20dの回転数を制御する。このことにより、ドローン16の上昇力が低下し、ドローン16が上昇しすぎることを抑制することができる。
【0033】
また、気流センサ50が向かい風、追い風、下降気流、右からの横風、左からの横風などを検出した場合でも、制御部5がモータ27a~27dへの供給電力を調節することにより、ドローン16が安定して飛行することができる。
第1及び第2実施形態についての記載は矛盾がない限り、第3実施形態の飛行体15に含まれる気流センサ50についても当てはまる。
【0034】
第4実施形態
第4実施形態は、第1又は第2実施形態の気流センサ50を備えた飛行体15(鳥型ロボット17)に関する。図6は、第4実施形態の鳥型ロボット17の概略上面図である。
鳥型ロボット17は、ロボット本体26に取り付けられた主翼21a、21b、尾翼23を有する。この主翼21a、21bが気流センサ50としても機能する。
主翼21a、21bは、可撓シート(可撓体2a、2b)を含み、可撓シートは、主翼21a、21bの前縁において支持部材6a、6bで支持されている。支持部材6a、6bは、例えば、金属棒などである。主翼21a、21bの後縁の根元は支持点12によりロボット本体26に固定されている。
【0035】
支持部材6aはアクチュエータ8aに接続する。アクチュエータ8aは、制御部5から供給される電力及び信号により支持部材6aを上下に動かすことができるように設けられている。また、支持部材6bはアクチュエータ8bに接続する。アクチュエータ8bは、制御部5から供給される電力及び信号により支持部材6bを上下に動かすことができるように設けられている。このような構成により、制御部5は、アクチュエータ8a、8bを用いて主翼21a、21bを羽ばたかせることができ、鳥型ロボット17の飛行を制御することができる。アクチュエータ8a、8bは、飛行用アクチュエータであり姿勢制御用アクチュエータでもある。
【0036】
主翼21aの可撓体2a(可撓シート)上には、グラフェン層3a、3b、3cが設けられ、グラフェン層3a、3b、3cのそれぞれは、配線10により制御部5と電気的に接続している。また、制御部5は、グラフェン層3a、3b、3cの導電性(電気抵抗)の変化を測定できるように設けられている。
主翼21bの可撓体2b(可撓シート)上には、グラフェン層3d、3e、3fが設けられ、グラフェン層3d、3e、3fのそれぞれは、配線10により制御部5と電気的に接続されている。また、制御部5は、グラフェン層3d、3e、3fの導電性(電気抵抗)の変化を測定できるように設けられている。
【0037】
アクチュエータ8a、8bを用いて主翼21a、21bを羽ばたかせると、主翼21a、21bの上下運動に合わせて可撓体2a、2bが撓む。このため、グラフェン層3a~3fに引張り歪みが生じたり、圧縮歪みが生じたりする。この結果、グラフェン層3a~3fの電気抵抗は、主翼21a、21bの羽ばたきに応じて変化する。
また、主翼21a、21bが上昇気流、下降気流、向かい風、追い風、右からの横風、左からの横風などを受けると、気流に応じて可撓体2a、2bが撓み、グラフェン層3a~3fの電気抵抗の変化パターンが変わる。従って、制御部5は、グラフェン層3a~3fの電気抵抗の変化パターンを解析することにより、気流を検知することができる。
【0038】
制御部5は、グラフェン層3a~3fの電気抵抗の変化パターンに基づき、上昇気流、下降気流、向かい風、追い風、右からの横風、左からの横風などを検出すると、アクチュエータ8a、8bに供給する電力や信号などを変化させ、主翼21a又は21bを動かす速度やタイミングなどを調節する。このことにより、鳥型ロボット17を安定して飛行させることが可能になる。
第1及び第2実施形態についての記載は矛盾がない限り、第4実施形態の飛行体15に含まれる気流センサ50についても当てはまる。
【0039】
電気抵抗測定実験
ポリイミドフィルム30(可撓体2)(厚さ:50μm)にCO2レーザを照射することにより、長さ4cm、厚さ200μm、線幅0.5mmの直線状のグラフェン層3を形成した。その後、ポリイミドフィルム30上に銀インクをスクリーン印刷によりグラフェン層3と測定機器(制御部5)とを電気的に接続するための銀層13(配線10、電極9)を形成した。そして、グラフェン層3上及び銀層13上にパリレン樹脂層7を蒸着法により形成した。このようにして試験用気流センサを作製した。また、パリレン樹脂層7の厚さを25nm、100nm、300nm、500nm、700nm又は900nmとして、それぞれ試験用気流センサを作製した。
【0040】
作製した気流センサを図7(a)に示したように台28a、28b上に載せ、ポリイミドフィルム30を台28a、28bに取り付けた。また、グラフェン層3の電気抵抗を測定するための測定機器に銀層13を電気的に接続した。そして、図7(b)のように、ポリイミドフィルム30が上側に撓むように2つの台28a、28bの距離Dを変化させて(ポリイミドフィルム30の曲率を変化させて)グラフェン層3の電気抵抗を測定した。このとき、グラフェン層3には引張り歪みが生じる。また、図7(c)のように、ポリイミドフィルム30が下側に撓むように2つの台28a、28bの距離Dを変化させて(ポリイミドフィルム30の曲率を変化させて)グラフェン層3の電気抵抗を測定した。このとき、グラフェン層3には圧縮歪みが生じる。台28a、28bの距離Dは、試験用気流センサがフラットな状態のとき10cmとし、試験用気流センサが最大屈曲となるとき2cmとした。
【0041】
ポリイミドフィルム30が下側に撓むように距離Dを変化させたとき(グラフェン層3に圧縮歪みを生じさせたとき)の距離Dとグラフェン層3の電気抵抗値の変化率(ΔR/R0×100)との関係を示すグラフを図8に示し、ポリイミドフィルム30が上側に撓むように距離Dを変化させたとき(グラフェン層3に引張り歪みを生じさせたとき)の距離Dとグラフェン層3の電気抵抗値の変化率(ΔR/R0×100)との関係を示すグラフを図9に示す。ここで、R0は、試験用気流センサがフラットな状態のとき(D=10cm)のグラフェン層3の電気抵抗値であり、ΔRは、(R-R0)である。Rは、対応する距離Dにおけるグラフェン層3の電気抵抗値である。
【0042】
図8に示したグラフにおいて、パリレン樹脂層7の厚さを25nmとした気流センサではグラフェン層の電気抵抗値の変化率が約5%であったが、パリレン樹脂層7の厚さを100nm以上とした気流センサでは、グラフェン層の電気抵抗値の変化率は約0%であった。このことから、パリレン樹脂層7の厚さを25nm以下としてグラフェン層3に圧縮歪みを加えると、グラフェン層3の電気抵抗値が変化することがわかった。また、パリレン樹脂層7の厚さを100nm以上とした気流センサのグラフェン層3に圧縮歪みを加えても、グラフェン層3の電気抵抗値はほとんど変化しないことがわかった。
【0043】
図9に示したグラフにおいて、パリレン樹脂層7の厚さを25nmとした気流センサではグラフェン層の電気抵抗値の変化率は、距離Dが小さくなると(ポリイミドフィルム30の曲率・グラフェン層3の引張り歪みが大きくなると)、グラフェン層3の電気抵抗値は大きくなった。また、パリレン樹脂層7の厚さを100nmとした気流センサではグラフェン層の電気抵抗値の変化率は、距離Dが小さくなると(ポリイミドフィルム30の曲率・グラフェン層3の引張り歪みが大きくなると)、グラフェン層3の電気抵抗値は比例して大きくなった。従って、パリレン樹脂層7の厚さを25nm、100nmとした気流センサでは、グラフェン層3の電気抵抗値をモニタリングすることによりポリイミドフィルム30(可撓体2)の曲率をモニタリングすることができることがわかった。従って、気流の強さに応じて曲率が変わるようにポリイミドフィルム30(可撓体2)を設けることにより、グラフェン層3の電気抵抗値からポリイミドフィルム30が受ける気流の風圧(気流の強さ)を検知することが可能になる。
また、パリレン樹脂層7の厚さを300nm以上とした気流センサのグラフェン層3に引張り歪みを加えても、グラフェン層3の電気抵抗値はほとんど変化しないことがわかった。
【0044】
次に、パリレン樹脂層7の厚さを100nmとした気流センサを用いて、グラフェン層3の電気抵抗のヒステリシスを測定した。具体的には、図7(a)のように、気流センサがフラットとなるように台28a、28bの距離Dを広げた状態から、図7(c)のようにポリイミドフィルム30が下側に撓むように、距離Dを2cmとなるまで狭くしていき(グラフェン層3に圧縮歪みが生じる)、その後、距離Dを広げていき気流センサをフラットな状態に戻した。このときのグラフェン層3の電気抵抗値の変化率のヒステリシスを図10に示す。図10では、グラフェン層3の電気抵抗値の変化率はほぼ0%であった。
【0045】
また、図7(a)のように、気流センサがフラットとなるように台28a、28bの距離Dを広げた状態から、図7(b)のようにポリイミドフィルム30が上側に撓むように、距離Dを2cmとなるまで狭くしていき(グラフェン層3に引張り歪みが生じる)、その後、距離Dを広げていき気流センサをフラットな状態に戻した。このときのグラフェン層3の電気抵抗値の変化率のヒステリシスを図11に示す。図11では、気流センサをフラットな状態から最大屈曲まで変化させたときの電気抵抗値の変化率の変化と、気流センサを最大屈曲からフラットな状態まで変化させたときの電気抵抗値の変化率の変化はほぼ同じであった。このため、グラフェン層3の電気抵抗値の変化率は、その変化の仕方にほぼ影響されないことがわかった。
【0046】
気流検知実験
図6に示した鳥型ロボットの主翼21aのような気流センサを有する主翼を作製し、作製した主翼を鳥型ロボットに取り付けた。図12は作製した主翼の写真であり、図13(a)~(c)は作製した主翼を取り付けた鳥型ロボットの写真であり、鳥型ロボットの羽ばたきを説明している。
主翼の可撓体2aには、厚さ50μmのポリイミドフィルムを用いた。ポリイミドフィルム30にCO2レーザを照射することにより、4本のグラフェン層3(長さ4cm、厚さ200μm、線幅0.5mm)を形成した。図12のグラフェン層#1が図6のグラフェン層3aに対応し、図12のグラフェン層#2が図6のグラフェン層3bに対応し、図12のグラフェン層#3が図6のグラフェン層3cに対応する。また、作製した主翼では、グラフェン層#4も作製している。形成したグラフェン層と測定機器(制御部)とを電気的に接続するための銀層をスクリーン印刷で形成した。その後、グラフェン層上及び銀層上にパリレン樹脂層を蒸着法により形成した。パリレン樹脂層の厚さは100nmとした。その後、主翼の前縁に支持部材である金属棒を取り付け、この金属棒を鳥型ロボットのアクチュエータに取り付けた。また、銀層と測定機器とを電気的に接続した。
なお、図6では、鳥型ロボットは右翼及び左翼に気流センサを有しているが、作製した鳥型ロボットは、左翼にのみ気流センサを有している。
【0047】
鳥型ロボットの胴体をクランプで固定し、鳥型ロボットのアクチュエータを用いて右翼及び左翼を連続して羽ばたかせた。また、ファンを用いて、鳥型ロボットに様々な方向から風をあてた。このように鳥型ロボットを動かしているときのグラフェン層#1~#3の電気抵抗値の変化を測定した。電気抵抗測定の制御電圧は3Vとした。なお、グラフェン層#4の電気抵抗値は適切に測定することができなかった。
【0048】
図14(a)~(f)はグラフェン層#1の電気抵抗値の変化を示すグラフであり、図15(a)~(f)はグラフェン層#2の電気抵抗値の変化を示すグラフであり、図16(a)~(f)はグラフェン層#3の電気抵抗値の変化を示すグラフである。また、図14(a)、図15(a)、図16(a)は、鳥型ロボットにファンで風をあてていない時間帯におけるグラフェン層の電気抵抗値の変化を示すグラフであり、図14(b)、図15(b)、図16(b)は、ファンを用いて上側から鳥型ロボットに風をあてている時間帯におけるグラフェン層の電気抵抗値の変化を示すグラフである。図14(c)、図15(c)、図16(c)は、ファンを用いて下側から鳥型ロボットに風をあてている時間帯におけるグラフェン層の電気抵抗値の変化を示すグラフであり、図14(d)、図15(d)、図16(d)は、ファンを用いて左から鳥型ロボットに横風をあてている時間帯におけるグラフェン層の電気抵抗値の変化を示すグラフである。図14(e)、図15(e)、図16(e)は、ファンを用いて左前側から鳥型ロボットに風をあてている時間帯におけるグラフェン層の電気抵抗値の変化を示すグラフであり、図14(f)、図15(f)、図16(f)は、ファンを用いて左後側から鳥型ロボットに風をあてている時間帯におけるグラフェン層の電気抵抗値の変化を示すグラフである。
【0049】
図14図16に示したグラフのように、グラフェン層#1~#3の電気抵抗値の変化は、左翼の羽ばたき(上下運動)に対応した繰り返し波形を示した。これは、左翼の羽ばたきによりグラフェン層に生じる歪みが変化するためと考えられる。
また、図14~16に示したグラフのように、異なる位置に配置したグラフェン層#1~#3の電気抵抗値の変化は、異なる波形を示した。また、ファンを用いて鳥型ロボットにあてる風の向きを変えると、グラフェン層#1~#3の電気抵抗値の波形も変化した。従って、このような電気抵抗値の波形を解析することにより、上昇気流、下降気流、向かい風、追い風、右からの横風、左からの横風などの気流を検出することが可能となる。
【符号の説明】
【0050】
2、2a~2c:可撓体 3、3a~3f:グラフェン層 5:制御部 6、6a、6b:支持部材 7、7a、7b:パリレン樹脂層 8、8a、8b:アクチュエータ 9、9a~9f:電極 10、10a~10d:配線 11:レーザ光 12:支持点 13:銀層 15:飛行体 16:ドローン 17:鳥型ロボット 20a~20d:プロペラ 21、21a、21b:主翼 23:尾翼 25:ドローン本体 26:ロボット本体 27:モータ 28a、28b:台 30:ポリイミドフィルム 50:気流センサ
図1
図2
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