(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】発光装置、発光装置の製造方法及び発光装置の搬送方法
(51)【国際特許分類】
H01L 33/54 20100101AFI20240722BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20240722BHJP
H01L 23/31 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
H01L33/54
H01L23/30 F
(21)【出願番号】P 2020125637
(22)【出願日】2020-07-22
【審査請求日】2023-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】内田 敬人
(72)【発明者】
【氏名】田邉 聖人
(72)【発明者】
【氏名】林 忠雄
【審査官】村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-168808(JP,A)
【文献】特開2011-159768(JP,A)
【文献】特開2019-125632(JP,A)
【文献】特開2007-210650(JP,A)
【文献】特開2000-015994(JP,A)
【文献】特開平06-182957(JP,A)
【文献】特開平01-234241(JP,A)
【文献】特開平07-126156(JP,A)
【文献】特開2020-107727(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0248469(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104518064(CN,A)
【文献】特開2002-170999(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/48-33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光素子と、
硬化阻害成分と接触することにより表面に形成されるしわ状の凹凸構造を有し、前記発光素子を覆う樹脂からなる樹脂部材と、
を備えたことを特徴とする発光装置。
【請求項2】
前記発光素子の少なくとも1つの面と透光性部材とが固定されていることを特徴とする請求項1記載の発光装置。
【請求項3】
前記発光素子は、電極を有し、
前記発光装置の下面に、前記電極と、前記しわ状の凹凸構造と、が位置することを特徴とする請求項1または2に記載の発光装置。
【請求項4】
複数の前記発光素子を備え、
前記複数の発光素子は、前記樹脂部材に覆われていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1つに記載の発光装置。
【請求項5】
前記樹脂部材は、前記発光素子の側面及び下面を覆っていることを特徴とする請求項1~4のいずれか1つに記載の発光装置。
【請求項6】
前記しわ状の凹凸構造に前記硬化阻害成分が付着していることを特徴とする請求項1~5のいずれか1つに記載の発光装置。
【請求項7】
硬化阻害成分を含む粘着層に発光素子を固定する工程と、
前記粘着層と接触して前記発光素子を覆う樹脂部材を形成し、前記発光素子と前記樹脂部材とを備える封止体を形成する工程と、
前記封止体から前記粘着層を除去する工程と、
を備え、
前記粘着層と接触していた前記樹脂部材の表面にしわ状の凹凸構造が形成されていることを特徴とする発光装置の製造方法。
【請求項8】
前記粘着層に発光素子を固定する工程において、前記発光素子と透光性部材とが固定していることを特徴とする請求項7記載の発光装置の製造方法。
【請求項9】
前記封止体から前記粘着層を除去する工程の後に、前記樹脂部材を研削し、前記透光性部材を前記樹脂部材から露出させる工程を有することを特徴とする請求項8記載の発光装置の製造方法。
【請求項10】
発光素子と、硬化阻害成分と接触することにより表面に形成されるしわ状の凹凸構造を有し、前記発光素子を覆う樹脂部材と、を備えた発光装置の前記しわ状の凹凸構造が形成された面を搬送支持体に接触させながら前記発光装置を搬送する発光装置の搬送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、発光装置、発光装置の製造方法及び発光装置の搬送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発光素子を樹脂部材で覆った発光装置がある。特許文献1には、発光装置の外面を構成している樹脂部材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような発光装置の製造工程においては、発光素子を樹脂で覆った発光装置が完成した後に、発光装置をレールやステージなどの上を滑らせて搬送し、所定のパッケージなどに収納することがある。また、これらの発光装置を光源装置などに組み込む際にも、パッケージから発光装置を取り出してレールやステージなどの上を滑らせて搬送することがある。しかし、発光装置の外面に位置する樹脂部材の表面の平坦性が高すぎると、樹脂表面の粘着性(タック)により、搬送工程においてレールやステージなどに発光装置が貼り付く懸念がある。
【0005】
本開示に係る実施形態は、樹脂部材の粘着性を低減できる発光装置、発光装置の製造方法及び発光装置の搬送方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の実施形態に係る発光装置は、発光素子と、硬化阻害成分と接触することにより表面に形成されるしわ状の凹凸構造を有し、前記発光素子を覆う樹脂部材と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
本開示の実施形態に係る発光装置の製造方法は、硬化阻害成分を含む粘着層に発光素子を固定する工程と、前記粘着層と接して前記発光素子覆う樹脂部材を形成し、前記発光素子と前記樹脂部材とを備える封止体を形成する工程と、前記封止体から前記粘着層を除去する工程と、を備え、前記粘着層と接触していた前記樹脂部材の表面にしわ状の凹凸構造が形成されてなることを特徴とする。
【0008】
本開示の実施形態に係る発光装置の搬送方法は、発光素子と、硬化阻害成分と接触することにより表面に形成されるしわ状の凹凸構造を有し、前記発光素子を覆う樹脂部材と、を備えた発光装置の前記しわ状の凹凸構造が形成された面を搬送支持体に接触させながら前記発光装置を搬送することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係る実施形態によれば、樹脂部材の粘着性を低減できる発光装置、発光装置の製造方法及び発光装置の搬送方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係る発光装置の模式的上面図である。
【
図2】実施形態に係る発光装置の模式的下面図である。
【
図3】
図1に示すIII-III線における模式的断面図である。
【
図6A】しわ状の凹凸構造の三次元合成画像である。
【
図6B】比較例の樹脂部材の表面の三次元合成画像である。
【
図7】実施形態に係る発光装置の変形例の模式的断面図である。
【
図8】実施形態に係る発光装置の変形例の模式的断面図である。
【
図9A】実施形態に係る発光装置の製造方法を示す模式的断面図である。
【
図9B】実施形態に係る発光装置の製造方法を示す模式的断面図である。
【
図10】実施形態に係る発光装置の製造方法を示す模式的断面図である。
【
図11】実施形態に係る発光装置の製造方法を示す模式的断面図である。
【
図12】実施形態に係る発光装置の製造方法を示す模式的断面図である。
【
図13】実施形態に係る発光装置の製造方法を示す模式的断面図である。
【
図14】実施形態に係る発光装置の製造方法を示す模式的断面図である。
【
図15】実施形態に係る発光装置の製造方法を示す模式的断面図である。
【
図16】実施形態に係る発光装置の製造方法を示す模式的断面図である。
【
図17】実施形態に係る発光装置の製造方法を示す模式的断面図である。
【
図18】実施形態に係る発光装置の製造方法を示す模式的断面図である。
【
図19】実施形態に係る発光装置の製造方法を示す模式的断面図である。
【
図20】実施形態に係る発光装置の製造方法を示す模式的断面図である。
【
図21】実施形態に係る発光装置の搬送方法を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、発光装置及びその製造方法、搬送方法について、図面を参照して説明する。以下の説明において参照する図面は、本開示の実施形態を概略的に示しているため、図面に示す部材は、大きさや位置関係等を誇張していることがあり、また、形状を単純化していることがある。また、以下の説明において同一の名称、符号は原則として同一または同質の部材や工程を示すものであり、詳細な説明を適宜省略する。
また、特定の方向又は位置を示す用語(例えば、「上」、「下」及びそれらの用語を含む別の用語)を用いる場合がある。しかしながら、それらの用語は、参照した図面における相対的な方向又は位置を分かり易さのために用いているに過ぎない。参照した図面における「上」、「下」等の用語による相対的な方向又は位置の関係が同一であれば、本開示以外の図面、実際の製品等において、参照した図面と同一の配置でなくてもよい。また、本願では、断面図として切断面のみを示す端面図を用いることがある。
【0012】
本実施形態の発光装置100を
図1から
図6Bに基づいて説明する。発光装置100は、発光素子4と、発光素子4の主発光面Aの上に設けられた透光性部材1と、発光素子4の側面と透光性部材1の側面とを覆う樹脂部材2と、を備えている。樹脂部材2は、発光装置100の外面の一部を構成している。
【0013】
図4A及び
図4Bは、金属顕微鏡により観察した樹脂部材2の表面を例示する写真である。樹脂部材2は、その表面に
図4A、
図4Bに例示されるようなしわ状の凹凸構造2aを有している。このしわ状の凹凸構造2aによって、樹脂部材2が他の部材に接触する際に、樹脂部材2と他の部材との接触面積を減らすことができる。これにより、発光装置100と搬送レール等とが貼り付くことを低減させることができる。また、樹脂部材2の表面がしわ状の凹凸構造2aを有していることにより発光装置100どうしが貼り付くことを低減させることかできる。これにより、発光装置の搬送不良を低減することができる。また、発光装置100と搬送レール等との接触面積が減ることにより、静電気による発光装置100の帯電を抑制できる。
【0014】
しわ状の凹凸構造2aは、樹脂部材2の硬化を抑制する硬化阻害成分と樹脂部材2とが接触する状態で樹脂部材2を硬化させることで、硬化阻害成分と接触する樹脂部材2の表面に形成することができる。形成されたしわ状の凹凸構造2aの表面に、樹脂部材2の硬化を抑制する硬化阻害成分が付着していてもよい。このようにすることで、樹脂部材2の硬化を抑制しやすくなりしわ状の凹凸構造2aの形成が容易になる。硬化阻害成分については、後に詳述する。
【0015】
図5は、硬化阻害成分と実質的に接触させずに硬化させた比較例の樹脂部材2の表面を金属顕微鏡により観察した写真である。
図5の比較例では、樹脂部材2の表面は略平坦であり、
図4A、
図4Bに例示したようなしわ状の凹凸構造2aはみられない。
【0016】
図6Aは、
図4Bに例示したしわ状の凹凸構造2aの三次元合成画像であり、
図6Bは、
図5に表した比較例における樹脂部材2の表面の三次元合成画像である。
ここで、三次元合成画像は、デジタルマイクロスコープを用いて被写体表面の凹凸の高さ上限から下限にかけて順次オートフォーカスさせ、それぞれの高さでピントが合った部分を合成することにより得られた。また、
図6A、
図6Bには、X、Y、Zのいずれかの座標軸における座標値を座標軸名(X、Y、Z)とともにマイクロメータ(μm)単位で適宜挿入した。
図6Aをみると、しわ状の凹凸構造2aは、Y方向にそれぞれのびる凸部2a1と凹部2a2とが交互に配置された構造を有することが分かる。隣接する凸部2a1のX方向における間隔は、概ね数10マイクロメータである。凹部2a2の底から凸部2a1の頂上までの高さは、概ね数マイクロメータである。
【0017】
一方、
図6Bにはしわ状の凹凸構造2aは観察されず、樹脂部材2の表面はほぼ平坦であることが分かる。このように、ほぼ平坦であると、他の部材に接触したときに接触面積が大きくなるので、他の部材に貼り付きやすくなったり、静電気による帯電が生じやすくなったりする。
【0018】
これに対して、
図6Aに表したようにしわ状の凹凸構造2aを設けることにより、他の部材との接触面積を低減させ、搬送レールや他の発光装置などとの貼り付きを抑制し、静電気による帯電も抑制することが可能となる。
【0019】
なお、本実施形態におけるしわ状の凹凸構造2aは、
図4A、
図4B、
図6Aに例示したものには限定されない。すなわち、しわ状の凹凸構造2aの形状やサイズ(幅や高さなど)は、粘着性の低減や帯電の抑制などの効果が得られる範囲において、様々に選択することが可能であり、そのように選択したものも本実施形態に含まれる。
【0020】
図3に示すように、発光素子4は、主発光面Aと、主発光面Aの反対側に第1電極3A及び第2電極3Bが配置された電極配置面Bと、を有する。本明細書において、主発光面Aを発光素子の上面と呼び、電極配置面Bを発光素子の下面と呼び、主発光面Aと電極配置面Bの間に位置する発光素子の面を発光素子4の側面と呼ぶことがある。第1電極3Aと第2電極3Bとの間は、樹脂部材2が形成されるように空間があってもよく、絶縁体性部材で塞がれていてもよい。
【0021】
図7は、複数の発光素子4を備える発光装置200を例示する模式断面図である。複数の発光素子4は、樹脂部材2に覆われている。発光装置200が備える複数の発光素子4のそれぞれは、その大きさ、形状及び/又は発光波長等が同じでもよく、互いに異なっていてもよい。例えば、発光装置200が発光のピーク波長が430nm以上490nm未満の範囲(青色領域の波長範囲)にある発光素子と、発光のピーク波長が490nm以上570nm以下の範囲(緑色領域の波長範囲)にある発光素子と、を備えていてもよい。
【0022】
発光素子4は、一例として、発光ダイオード(LED)である。例えば、半導体積層体として、第1半導体層(例えば、n型半導体層)、発光層、第2半導体層(例えば、p型半導体層)がこの順に積層され、その同一面側(例えば、第2半導体層側)に、第1半導体層と電気的に接続される第1電極3Aと、第2半導体層と電気的に接続される第2電極3Bと、を有するLEDである。半導体積層体は、通常は成長基板上に積層されるが、発光素子4としては成長基板を有していてもよいし、有しないものでもよい。半導体層の材料・形状や積層構造は、特に限定されるものではない。
【0023】
第1電極3A、第2電極3Bは、例えば、Au、Pt、Pd、Rh、Ni、W、Mo、Cr、Ti等の金属又はこれらの合金の単層膜あるいは積層膜によって形成することができる。膜厚は、当該分野で用いられる膜の膜厚のいずれでもよい。発光装置の下面において、発光素子の第1電極3A及び第2電極3Bは樹脂部材2から露出することが好ましい。このようにすることで、発光装置の下面側に配置した実装基板から発光素子の第1電極3A及び第2電極3Bに電気を供給することができる。
【0024】
発光素子4は、半導体積層体の電極配置面Bの側に、電気的な接続を阻害しない範囲で、DBR(分布ブラッグ反射器)層等の光反射部材を有していてもよい。
【0025】
透光性部材1は、発光素子4上に設けられ発光素子4を保護する透光性の部材である。透光性部材1は発光素子4の少なくとも1つの面と固定されている。透光性部材の材料として、透光性を有する公知の部材を用いることができる。例えば、透光性部材の材料として、樹脂、ガラス、蛍光体の結晶又は焼結体等を用いることができる。透光性部材に用いることができる樹脂としては、例えば、シリコーン樹脂、シリコーン変性樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、TPX樹脂、ポリノルボルネン樹脂又はこれらの樹脂を1種以上含むハイブリット樹脂等が挙げられる。なかでもシリコーン樹脂又はエポキシ樹脂が好ましく、特に耐光性、耐熱性に優れるシリコーン樹脂がより好ましい。尚、本明細書において「透光性を有する」とは、発光素子の発光ピーク波長における光の透過率が55%以上のものを指す。発光素子の発光ピーク波長における透光性部材1の透過率は、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。
【0026】
透光性部材は、波長変換部材を含有していてもよい。波長変換部材は、発光素子が発する一次光の少なくとも一部を吸収して、一次光とは異なる波長の二次光を発する部材である。波長変換部材としては公知の波長変換部材を用いることができる。波長変換部材としては例えば、以下に示す具体例のうちの1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
緑色発光する波長変換部材としては、イットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体(例えばY3(Al,Ga)5O12:Ce)、ルテチウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体(例えばLu3(Al,Ga)5O12:Ce)、テルビウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体(例えばTb3(Al,Ga)5O12:Ce)系蛍光体、シリケート系蛍光体(例えば(Ba,Sr)2SiO4:Eu)、クロロシリケート系蛍光体(例えばCa8Mg(SiO4)4Cl2:Eu)、βサイアロン系蛍光体(例えばSi6-zAlzOzN8-z:Eu(0<z<4.2))、SGS系蛍光体(例えばSrGa2S4:Eu)、アルカリ土類アルミネート系蛍光体(例えば(Ba,Sr,Ca)MgxAl10O16+x:Eu,Mn(但し、0≦X≦1))などが挙げられる。
【0028】
黄色発光の波長変換部材としては、αサイアロン系蛍光体(例えばMz(Si,Al)12(O,N)16(但し、0<z≦2であり、MはLi、Mg、Ca、Y、及びLaとCeを除くランタニド元素)などが挙げられる。このほか、上記緑色発光する波長変換部材の中には黄色発光の波長変換部材もある。また例えば、イットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体は、Yの一部をGdで置換することで発光ピーク波長を長波長側にシフトさせることができ、黄色発光が可能である。また、これらの中には、橙色発光が可能な波長変換部材もある。
【0029】
赤色発光する波長変換部材としては、窒素含有アルミノ珪酸カルシウム(CASN又はSCASN)系蛍光体(例えば(Sr,Ca)AlSiN3:Eu)、SLAN蛍光体(SrLiAl3N4:Eu)などが挙げられる。このほか、マンガン賦活フッ化物系蛍光体(一般式(I)A2[M1-aMnaF6]で表される蛍光体である(但し、上記一般式(I)中、Aは、K、Li、Na、Rb、Cs及びNH4からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、Mは、第4族元素及び第14族元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、aは0<a<0.2を満たす))が挙げられる。このマンガン賦活フッ化物系蛍光体の代表例としては、マンガン賦活フッ化珪酸カリウムの蛍光体(例えばK2SiF6:Mn)がある。
【0030】
透光性部材1は、拡散材、着色剤等の添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、シリカ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、珪酸カルシウム、酸化亜鉛、チタン酸バリウム、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化クロム、酸化マンガン等が挙げられる。
【0031】
透光性部材1は、単層であってもよいし、複数の層が積層された構造でもよい。複数の層が積層されている場合には、波長変換粒子を含有する層が波長変換部材を実質的に含有しない層に覆われていることが好ましい。このようにすることで波長変換粒子を含有する層が外部に露出しないようにしやすくなる。これにより、波長変換部材を実質的に含有しない層が保護層の機能を果たすので波長変換部材が水分等で劣化することを抑制できる。水分に弱い波長変換部材としては、例えばマンガン賦活フッ化物蛍光体が挙げられる。「波長変換部材を実質的に含有しない」とは、不可避的に混入する波長変換部材を排除しないことを意味し、波長変換部材の含有率が0.05重量%以下であることが好ましい。
【0032】
発光素子4の主発光面A上に配置される透光性部材1は、
図3に示すように発光素子4の主発光面Aに直接接して固定されていてもよく、
図8に示すように透光性の接合部材5を介して発光素子4に固定されていてもよい。接合部材5は発光素子4の主発光面Aと透光性部材1の間のみに位置して発光素子と透光性部材を固定してもよいし、発光素子の主発光面Aから発光素子の側面まで被覆して発光素子と透光性部材を固定してもよい。接合部材5が樹脂部材2よりも発光素子からの光の透過率が高い場合には、接合部材5が発光素子の側面を被覆することで、発光素子からの光が透光性部材1に導光しやすくなる。これにより、発光装置の光取り出し効率が向上する。接合部材5の側面は透光性部材1に向かって広がるように傾斜していることが好ましい。このようにすることで、更に発光装置の光取り出し効率が向上する。接合部材5の材料は、光又は熱等によって硬化することが好ましい。特に、接合部材5の材料としてシリコーン樹脂、シリコーン変性樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。
【0033】
樹脂部材2は、発光素子4を覆い発光素子4を保護する部材である。樹脂部材2は、光反射性を有していてもよく、透光性あるいは光吸収性を有してしてもよい。樹脂部材2は、光反射性を有することが好ましい。このようにすることで、発光領域と非発光領域とのコントラストが高い、「見切り性」の良好な発光装置とすることができる。尚、本明細書において「光反射性を有する」とは、発光素子の発光ピーク波長における光反射率が50%以上のものを指す。発光素子の発光ピーク波長における樹脂部材2の光反射率は、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。樹脂成形体は、白色であることが好ましい。光反射性を有する樹脂部材2は、例えば、透光性部材と同様の樹脂材料に、光反射性物質を含有させることにより形成することができる。光反射性物質としては、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム酸化イットリウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、珪酸カルシウム、酸化亜鉛等が挙げられる。また、樹脂部材2が透光性を有する場合には、蛍光体などの波長変換部材を含有していてもよい。
【0034】
樹脂部材2は、
図3に示すように発光素子4の側面及び下面を覆っていることが好ましい。このようにすることで、発光素子に対して横方向及び下方から係る外力から発光素子を保護することができる。樹脂部材2は、発光素子4の側面の全面を覆っていることが好ましい。このようにすることで、更に発光素子に対して横方向から係る外力から発光素子を保護することができる。発光装置が接合部材5を備える場合には、樹脂部材2は接合部材5を介して発光素子4の側面を覆ってもよい。樹脂部材2は、透光性部材1の側面を覆ってもよい。樹脂部材2が光反射性を有する場合には、樹脂部材2が透光性部材1の側面を覆うことにより発光領域と非発光領域とのコントラストが高い発光装置とすることができる。
【0035】
図3に示すように発光装置100の下面には、樹脂部材2の表面に形成されるしわ状の凹凸構造2aと、発光素子の第1電極3A及び第2電極3Bと、が位置している。しわ状の凹凸構造2aは、発光装置100の下面に形成されることが好ましい。
図3に示す発光装置100は透光性部材1の上面から発光素子の光を取り出すことができる。透光性部材1の上面に傷がつくと発光装置の配光が変化する恐れがあるので、透光性部材1の上面は他の部材と接触しないことが好ましい。このため、レールを用いて発光装置を搬送する場合には、一般的に透光性部材1の上面と反対側に位置する樹脂部材2の下面がレールと接触するように搬送される。このため、しわ状の凹凸構造2aは、透光性部材1が位置する上面と反対側の発光装置100の下面に形成されることが好ましい。発光装置100の下面にしわ状の凹凸構造2aが形成されるとは、発光素子の電極配置面B側に位置する樹脂部材2の表面にしわ状の凹凸構造2aが形成されると言い換えることもできる。なお、しわ状の凹凸構造2aは、発光装置100の上面及び/又は側面に形成されていてもよい。
【0036】
図6Aに示すしわ状の凹凸構造2aの凹部2a2の底から隣接する凸部2a1の頂上までのZ方向における高さは、1μm以上20μm以下であることが好ましい。凹部2a2の底から隣接する凸部2a1の頂上までの高さが1μm以上であることで粘着性を低減しやすくなる。また、凹部2a2の底から隣接する凸部2a1の頂上までの高さが20μm以下であることにより樹脂部材2が欠けることを抑制しやすくなる。また、隣接する凸部2a1どうしのX方向における間隔は凹部2a2の底から凸部2a1の頂上までの高さよりも離れていることが好ましい。このようにすることで、凸部2a1の数を少なくすることができる。これにより、樹脂部材2の表面が滑らかになるので樹脂部材2が欠けることを抑制しやすくなる。例えば、隣接する凸部2a1どうしの間隔は、10μm以上100μm以下であることが好ましい。このようにすることで、樹脂部材2が欠けにくくなり、樹脂部材2の表面の粘着性を低減しやすくできる。なお、隣接する凸部2a1どうしの間隔とは、
図6AにおいてX方向における隣接する凸部2a1の頂上どうしの間の距離を意味する。
【0037】
図9A~
図21は、本実施形態の発光装置の製造方法を例示する工程図である。
【0038】
まず、
図9Aに示すように、硬化阻害成分を備える粘着層26を支持部材27に貼り付けて支持体20を準備する。粘着層26は、硬化阻害成分を備えた粘着物質を表面に有していればよい。例えば、粘着層26として硬化阻害成分を含む材料が塗布されたテープやフィルムなどを用いることができる。硬化阻害成分としては、例えば、窒素、硫黄、錫、りん、砒素、アンチモン、セレニウム、テルルのいずれかを含有する化合物が挙げられる。支持部材27としては、
図9Aに示すように枠体を用いることができる。枠体の平面形状は、リング状でも中空の多角形状でもよい。このような枠体状の支持部材27に粘着層26の周囲を貼り付けることにより、粘着層26を略平坦な状態に支持することができる。あるいは、
図9Bに示すように、粘着層26の略全体を板状の支持部材27’に貼り付けることにより、粘着層26を支持してもよい。また、板状の支持部材27’の表面に硬化阻害成分を含む材料を塗布した支持体20を用いてもよい。
【0039】
図10に示すように、発光素子4と透光性部材1とを有する積層体30を準備する。発光素子4と透光性部材1とは固定されている。
【0040】
図11に示すように、支持体20の硬化阻害成分を備える粘着層26の上面に、発光素子の電極配置面Bを対向させ、第1電極3A及び第2電極3Bが粘着層26に接するように複数の積層体30を載置する。この際に、積層体30は規則的に配置することが好ましい。これにより、後述する切断をより発光装置を個片化した場合に発光装置の形状バラつきを抑制することができる。
【0041】
図12に示すように、積層体30を載置した支持体20を、上金型8と下金型9との間に配置する。そして、上金型8と下金型9との間に形成された空間に樹脂を注入し樹脂部材2を硬化させる。このようにすることで、積層体30が樹脂部材2により覆われた封止体40を形成することができる。封止体40は、積層体30と樹脂部材2を備えている。金型8と下金型9との間に形成された空間に形成された樹脂部材2は硬化阻害成分を備える粘着層と接触している。樹脂部材2は、圧縮成形、トランスファー成形、射出成形等の公知の方法によって形成することができる。
【0042】
図13、
図14に示すように、封止体40を上金型8及び下金型9から取り出す。
【0043】
図15に示すように、封止体40から支持体20を除去する。このとき、支持体20の粘着層26と接していた樹脂部材2の表面には、しわ状の凹凸構造2a(
図4A、4B参照)が形成されている。硬化阻害成分を備える粘着層26の上で樹脂部材を硬化することで、粘着層26と接触する部分とその他の部分において樹脂部材の硬化しやすさを変えることができる。これにより、粘着層26と接触していた樹脂部材2の表面は硬化しにくいため、しわ状の凹凸構造2aが形成される。しわ状の凹凸構造2aは、電極配置面B側に位置する樹脂部材2の表面の全面に形成されていてもよく、電極配置面B側に位置する樹脂部材2の表面の一部のみに形成されていてもよい。樹脂部材2の一部がゲル化し、封止体40の形成時に樹脂部材2が硬化しきっていない場合は、再度熱硬化を行ってもよい。また、樹脂部材2の表面に硬化阻害成分が付着していてもよい。
【0044】
図16に示すように、支持部材27に保持テープ10を貼った支持体20を準備する。上述したように枠体状の支持部材27に保持テープ10の周囲を貼り付けることにより、保持テープ10を略平坦な状態に支持させてもよい。また、支持体は保持テープの略全体を板状の支持部材に貼り付けることにより、保持テープ10を支持してもよい。
図16に示すように、封止体40を保持テープ10上に配置する。
【0045】
図17に示すように、主発光面A側の樹脂部材2を除去して、透光性部材1を樹脂部材2から露出させる。樹脂部材2を除去する場合に、透光性部材1の上面の一部を除去してもよい。このようにすることで、透光性部材1の上面に樹脂部材2が位置することを抑制しやすくなる。主発光面A側の樹脂部材2を除去する方法としては、研削等の公知の方法を用いることができる。主発光面A側の樹脂部材2を除去する時には、封止体40を保持テープ10に固定して加工することが好ましい。封止体40を保持テープ10に固定する方法としては、真空チャックなどにより封止体40を直接吸着する方法等が挙げられる。尚、封止体40の形成時に透光性部材1が樹脂部材2から露出している場合は、主発光面A側の樹脂部材2を除去する工程を省略してもよい。
【0046】
図18に示すように、封止体40の樹脂部材2を切断線2cの位置で切断する。これにより、
図19に示すように、複数の発光装置100に個片化することができる。
図3に示すように1つの発光装置が1つの発光素子を備えるように切断してもよいし、
図7に示すように1つの発光装置が複数の発光素子を備えるように切断してもよい。切断方法としては、ダイシング、トムソン加工、超音波加工、レーザ加工等の方法を用いることができる。そして、
図20に示すように、個片化した発光装置100を保持テープ10から剥離する。封止体40を保持テープ10等で固定している場合、切断はテープを完全に切断しない方法が好ましい。このようにすることで、保持テープ10が複数に分割されないので、保持テープ10を一度に発光装置から剥がすことにより除去できる。
【0047】
図21は、本実施形態の発光装置100の搬送工程を例示する模式断面図である。
図21に示すように、個片化後の発光装置100は、レール等の搬送支持体11の上を搬送し、さらなる仕分けや梱包、あるいは実装基板などへのマウントの工程に進むことができる。搬送支持体11は、例えば、レールでもよく、上面が平坦なステージでもよい。搬送支持体11に傾斜面を設け、例えば超音波振動などを付与することで、その上に載置した発光装置100を傾斜面に沿って重力下方に向けて矢印11aの方向に搬送してもよい。また、搬送方向に対して搬送支持体11自体が進行して発光装置100を搬送してもよい。
【0048】
発光装置100を搬送する時に、しわ状の凹凸構造2aが搬送支持体11に接触した状態で搬送することで発光装置100が搬送支持体11に貼り付くことを抑制できる。また、しわ状の凹凸構造2aを設けることにより、発光装置100どうしが貼り付いてしまうことも抑制できる。更に、しわ状の凹凸構造2aを設けることにより、搬送支持体11との接触面積を低減させ、静電気による発光装置100の帯電も抑制することができる。
【0049】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明はこれらの記述に限定されるものではない。前述の実施の形態に関して、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、発光装置やその製造方法が備える各要素・工程の内容、形状、寸法、材質、配置、条件などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
【0050】
また、前述した各実施の形態が備える各要素・工程は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0051】
1 透光性部材
2 樹脂部材
2a しわ状の凹凸構造
3A 第1電極
3B 第2電極
4 発光素子
5 透光性の接合部材
6 硬化阻害成分を備える粘着層
7 支持体
8 上金型
9 下金型
10 保持テープ
A 主発光面
B 電極配置面