(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】重合体の製造方法および重合触媒
(51)【国際特許分類】
C08F 4/40 20060101AFI20240722BHJP
C08F 20/00 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
C08F4/40
C08F20/00 510
(21)【出願番号】P 2021545622
(86)(22)【出願日】2020-09-11
(86)【国際出願番号】 JP2020034491
(87)【国際公開番号】W WO2021049627
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2023-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2019167782
(32)【優先日】2019-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019167783
(32)【優先日】2019-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】506076891
【氏名又は名称】ナンヤン テクノロジカル ユニヴァーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】新納 洋
(72)【発明者】
【氏名】茶谷 俊介
(72)【発明者】
【氏名】許 書堯
(72)【発明者】
【氏名】後藤 淳
(72)【発明者】
【氏名】チャン ジュン ジエ
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/016166(WO,A1)
【文献】特開2019-094453(JP,A)
【文献】WANG, Chen-Gang et al.,Recyclable Solid-Supported Catalysts for Quaternary Ammonium Iodide-Catalyzed Living Radical Polymerization,Macromolecules,2019年12月19日,53,p. 51-58
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 4/00- 4/82
C08F 6/00-246/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
含窒素官能基を有する高分子から構成される重合触媒、および有機ヨウ素化合物の存在下で、ビニル単量体を重合させて重合体を得る工程を有する重合体の製造方法。
【請求項2】
前記重合触媒がさらに、ヨウ素またはヨウ素原子含有イオンを含む、請求項1に記載の重合体の製造方法。
【請求項3】
前記高分子が架橋高分子である、請求項1または2に記載の重合体の製造方法。
【請求項4】
前記高分子がヨウ素を吸着しうる高分子である、請求項1から3のいずれか1項に記載の重合体の製造方法。
【請求項5】
前記高分子が主としてビニル単量体の繰り返し単位を持つ、請求項1から4のいずれか1項に記載の重合体の製造方法。
【請求項6】
前記高分子がポリスチレン骨格またはポリアクリルアミド骨格を有する、請求項5に記載の重合体の製造方法。
【請求項7】
前記含窒素官能基が、2級アミノ基、3級アミノ基および4級アンモニウム基からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1から6のいずれか1項に記載の重合体の製造方法。
【請求項8】
前記含窒素官能基が4級アンモニウム基である、請求項7に記載の重合体の製造方法。
【請求項9】
前記4級アンモニウム基のカウンターイオンがハロゲンイオンである、請求項7または8に記載の重合体の製造方法。
【請求項10】
前記カウンターイオンがヨウ素イオンである、請求項9に記載の重合体の製造方法。
【請求項11】
前記重合体を得る工程において、反応系にさらにラジカル重合開始剤を存在させる、請求項1から10のいずれか1項に記載の重合体の製造方法。
【請求項12】
前記重合体を得る工程において、反応系にさらにヨウ素を存在させる、請求項11に記載の重合体の製造方法。
【請求項13】
前記重合触媒に含まれる含窒素官能基のモル当量比が、前記有機ヨウ素化合物および前記ラジカル重合開始剤との合計に対して、0.001~200である、請求項11又は12に記載の重合体の製造方法。
【請求項14】
前記ビニル単量体が、スチレン系単量体及び(メタ)アクリレート系単量体からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1から13のいずれか1項に記載の重合体の製造方法。
【請求項15】
前記重合体を得る工程の重合温度が120℃以下である、請求項1から14のいずれか1項に記載の重合体の製造方法。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか1項に記載の重合体の製造方法において用いられる、含窒素官能基を有する高分子から構成される重合触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合体の製造方法および重合触媒に関する。
本願は、2019年9月13日に出願された日本国特願2019-167782号、及び2019年9月13日に出願された日本国特願2019-167783号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、ビニル単量体を重合して重合体を得る方法として、ラジカル重合法が周知である。一般に、ラジカル重合法は、得られる重合体の分子量を制御することが困難という課題がある。また、ラジカル重合法で得られる重合体は、様々な分子量を有する重合体の混合物であり、分子量分布の狭い重合体になりにくいという課題がある。
【0003】
上述の課題を解消する方法として、リビングラジカル重合法が知られている。近年では、可逆的錯体形成媒介重合(RCMP)と称するリビングラジカル重合法が開発されている(例えば、特許文献1参照)。RCMP法は、リビングラジカル重合の成長ラジカルの保護基にヨウ素原子を用い、重合触媒にアミンを用いた有機触媒型のリビングラジカル重合法である。
【0004】
RCMP法では、重合触媒としてトリエチルアミン(TEA)等の低分子量のアミンを利用できる。そのため、重合触媒に遷移金属錯体を用いる他のリビングラジカル重合法と比べ、重合触媒が安価であり、かつ環境安全性が高い等の特長を有する。しかしながら、RCMP法においてTEA等の低分子量のアミンを利用する場合、反応生成物である重合体から触媒を除去するための精製工程が必要となる。そのため、低分子量のアミンを利用したRCMP法は、工業的に操作が煩雑となるという課題がある。
【0005】
また、触媒を用いた重合系においては、反応生成物から容易に触媒を除去するため、一般的に、触媒を固体に担持した不均一系触媒が用いられる。このような重合系として、例えば、高分子に銅触媒を担持させた不均一系の銅触媒を用いる例が知られている(非特許文献1)。しかし、触媒を高分子に担持することによって、担持前の触媒では発現していた触媒の活性や選択性が変化してしまうため、これまでビニル単量体のリビングラジカル重合において十分な性能を有する不均一系触媒は見出されていなかった。
【0006】
またRCMP法においては、ヨウ素を添加して、不活性剤として働くアミン-I2コンプレックスを発生させる方法が広く用いられている。しかしこの方法ではヨウ素が反応生成物に残存して着色の要因となる。そのため、RCMP法においてヨウ素を添加すると、反応生成物である重合体からヨウ素を除去するための精製工程が必要となり、工業的に操作が煩雑となるという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Sung Chul Hong、Krzysztof Matyjaszewski、Macromolecules、Vol.35、7592-7605(2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、遷移金属系の触媒を使用することなくリビングラジカル重合において高い活性を有し、なおかつ簡便な方法で除去が可能な重合触媒を提供することを目的とする。また本発明は該重合触媒を用いた、分子量および分子量分布が充分に制御でき、さらに残存ヨウ素量および触媒量の低減が可能な重合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明は、以下の態様を包含する。
【0011】
[1]含窒素官能基を有する高分子から構成される重合触媒、および有機ヨウ素化合物の存在下で、ビニル単量体を重合させて重合体を得る工程を有する重合体の製造方法。
【0012】
[2]前記重合触媒がさらに、ヨウ素またはヨウ素原子含有イオンを含む、[1]に記載の重合体の製造方法。
[3]前記高分子が架橋高分子である、[1]または[2]に記載の重合体の製造方法。
[4]前記高分子がヨウ素を吸着しうる高分子である、[1]から[3]のいずれかに記載の重合体の製造方法。
[5]前記高分子が主としてビニル単量体の繰り返し単位を持つ、[1]から[4]のいずれかに記載の重合体の製造方法。
[6]前記高分子がポリスチレン骨格またはポリアクリルアミド骨格を有する、[5]に記載の重合体の製造方法。
[7]前記含窒素官能基が、2級アミノ基、3級アミノ基および4級アンモニウム基からなる群から選ばれる少なくとも1種である、[1]から[6]のいずれかに記載の重合体の製造方法。
[8]前記含窒素官能基が4級アンモニウム基である、[7]に記載の重合体の製造方法。
[9]前記4級アンモニウム基のカウンターイオンがハロゲンイオンである、[7]または[8]に記載の重合体の製造方法。
[10]前記カウンターイオンがヨウ素イオンである、[9]に記載の重合体の製造方法。
【0013】
[11]前記重合体を得る工程において、反応系にさらにラジカル重合開始剤を存在させる、[1]から[10]のいずれかに記載の重合体の製造方法。
【0014】
[12]前記重合体を得る工程において、反応系にさらにヨウ素を存在させる、[11]に記載の重合体の製造方法。
[13]前記重合触媒に含まれる含窒素官能基のモル当量比が、前記有機ヨウ素化合物および前記ラジカル重合開始剤との合計に対して0.001~200である、[11]又は[12]に記載の重合体の製造方法。
【0015】
[14]前記ビニル単量体が、スチレン系単量体及び(メタ)アクリレート系単量体からなる群から選ばれる少なくとも1種である、[1]から[13]のいずれかに記載の重合体の製造方法。
【0016】
[15]前記重合体を得る工程の重合温度が120℃以下である、[1]から[14]のいずれかに記載の重合体の製造方法。
【0017】
[16][1]から[15]のいずれかに記載の重合体の製造方法において用いられる、含窒素官能基を有する高分子から構成される重合触媒。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、環境安全性が高く、簡便な方法で除去が可能な重合触媒を提供することができる。また該重合触媒を用いた重合体の製造方法は、分子量および分子量分布が充分に制御でき、さらに残存ヨウ素量および触媒量の低減が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、実施例の製造例で得られた反応生成物のXPSチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(用語の説明)
本明細書においては、以下の用語の定義を採用する。
「ビニル単量体」とは、少なくとも1つのビニル基(炭素-炭素不飽和二重結合)を含む化合物を意味する。
「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」または「メタクリレート」を示す。
「有機ヨウ素化合物」とは、1分子中に炭素-ヨウ素結合を有する化合物を意味する。
【0021】
[重合体の製造方法]
本実施形態の重合体の製造方法は、含窒素官能基を有する高分子から構成される重合触媒、および有機ヨウ素化合物の存在下で、ビニル単量体を重合させて重合体を得る工程を有する。
以下、順に説明する。
【0022】
(重合性組成物の調製)
重合体を得る工程では、含窒素官能基を有する高分子から構成される重合触媒と、ビニル単量体とを含む重合性組成物を調製し、ビニル単量体を重合させることにより重合体を得る。
以下、重合性組成物に含まれる成分について説明する。
【0023】
(重合触媒)
重合触媒は、含窒素官能基を有する高分子を含む。重合触媒は、有機ヨウ素化合物の存在下で、ビニル単量体のラジカル重合に適用することにより、該ラジカル重合の反応進行を促進するとともに、重合反応を制御することができる。
【0024】
重合触媒は、含窒素官能基を有する高分子を主成分とすることが好ましい。また、重合触媒は、後述するヨウ素(I2)またはヨウ素原子含有イオンのほか、本発明の効果を大きく損なわない限り他の成分を含んでいてもよい。
【0025】
なお、「主成分」とは、重合触媒全体に対する、上記高分子の割合が、50質量%を超えていることを意味する。反応生成物からの重合触媒除去の観点から、上記高分子は、重合触媒全体に対し80質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上含むことがより好ましく、95質量%以上含むことがさらに好ましい。
【0026】
<高分子>
重合触媒を構成する高分子は、分子骨格内に、例えばポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸エステルなどの合成高分子や、セルロースなど天然に生産される多糖類を有する。高分子は、ビニル単量体の繰り返し単位を持つ高分子であることが好ましく、ポリスチレン骨格またはポリアクリルアミド骨格を主として有する高分子がより好ましい。
【0027】
本明細書において「ポリスチレン骨格」とは、スチレンに由来する繰り返し単位、またはスチレン誘導体に由来する繰り返し単位を有する分子鎖を意味する。
また、本明細書において「ポリアクリルアミド骨格」とは、アクリルアミドに由来する繰り返し単位、またはアクリルアミド誘導体に由来する繰り返し単位を有する分子鎖を意味する。
【0028】
なお、「主として」とは、高分子の全繰り返し単位に対する、ビニル単量体に由来する繰り返し単位の割合が、50モル%を超えていることを意味する。重合触媒を構成する高分子は、高分子の全繰り返し単位に対し、ビニル単量体を80モル%以上含むことが好ましく、90モル%以上含むことがより好ましく、95モル%以上含むことがさらに好ましい。
【0029】
また、重合触媒を構成する高分子がポリスチレン骨格またはポリアクリルアミド骨格を有する高分子である場合も同様に考えることができる。すなわち、「主として」とは、高分子の全繰り返し単位に対する、上記ポリスチレン骨格またはポリアクリルアミド骨格の割合が、50モル%を超えていることを意味し、80モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましく、95モル%以上がさらに好ましい。
【0030】
本実施形態の重合触媒を構成する高分子は、ラジカル重合で用いる溶媒、分散媒、ラジカル重合に用いるモノマーに対して、溶解しにくい性質を有していればよい。これにより、ラジカル重合後の反応液から容易に重合触媒を分離することができる。なお「溶解しにくい」とは、25℃における溶解度が0g/100mL~0.3g/100mLであることを示す。
【0031】
重合触媒を構成する高分子の、ラジカル重合で用いる溶媒、分散媒、ラジカル重合に用いるモノマーに対する溶解度の上限は、0.2g/100mL以下であることが好ましく、0.1g/100mL以下であることがより好ましい。
具体的には、高分子が架橋体、又は架橋構造を有さない場合には数平均分子量3000以上であると、高分子がラジカル重合の反応系に溶解しにくいため好ましい。
【0032】
なお、高分子が「架橋体」であるとは、鎖式高分子の分子間で化学結合が形成され、鎖状高分子の分子鎖間で橋を架けるようにつながっている構造、即ち架橋構造を有する高分子であることを指す。
【0033】
高分子の数平均分子量は10000以上であることがより好ましい。高分子の数平均分子量の上限に特に制限はないが、実用的な観点から、10000000以下が好ましい。
【0034】
また、重合触媒を構成する高分子は、架橋体が好ましく、ビニル単量体の繰り返し単位を持つ架橋体がより好ましく、ポリスチレン骨格を有する高分子の架橋体やポリアクリルアミド骨格を有する高分子の架橋体がさらに好ましい。以下の説明では、高分子の架橋体のことを「架橋高分子」と称することがある。この意味において、例えばポリスチレンの架橋体のことを「架橋ポリスチレン」と称することがある。
【0035】
高分子の架橋度は、特に制限されない。また、高分子の分子量分布も、特に制限されない。
【0036】
高分子が架橋していることは、検証対象である高分子の試料を試料の良溶媒に浸漬させた際、試料が溶け残ることにより確認することができる。このとき、試料が溶解しないか膨潤するのみであることが好ましい。
「試料の良溶媒」は、試料について赤外分光法やNMRなど通常知られた方法で分析し、得られた結果から試料の繰り返し単位の分子構造を類推することで選択することができる。
【0037】
本実施形態にかかる高分子は、粒状、繊維状、膜状等、形状、形態、大きさに特に制限はない。粒状の高分子は、塊状の高分子を、適宜、裁断または粉砕して得ることができる。
【0038】
重合触媒を構成する高分子は、少なくとも1つの含窒素官能基を有する。本発明において、含窒素官能基が重合触媒として作用し、該含窒素官能基は高分子と共有結合している。高分子が有する含窒素官能基は、特に制限されない。また、高分子が有する含窒素官能基は、高分子の主鎖と側鎖のいずれに含まれてもよく、主鎖と側鎖の両方に含まれてもよい。
【0039】
また重合触媒は、含窒素官能基を有する低分子化合物を含んでもよい。含窒素官能基を有する低分子化合物も重合触媒の一部として機能するが、反応生成物である重合体から低分子化合物を除去するための精製が必要となる。触媒除去を容易とするため、重合触媒に含まれる含窒素官能基の99mol%以上は、高分子と共有結合していることが好ましい。高分子と共有結合している含窒素官能基の割合は、99.9mol%がより好ましい。
【0040】
含窒素官能基として、例えばアミノ基、4級アンモニウム基、アミド基、イミド基、ニトリル基、ピリジル基などが挙げられる。これらの中では、含窒素官能基は、触媒活性の点からアミノ基や4級アンモニウム基が好ましく、反応しやすさの点から2級アミノ基、3級アミノ基や4級アンモニウム基がより好ましい。4級アンモニウム基のカウンターイオンは特に限定されず、ハロゲンイオンや水酸化物イオンを採用することができる。カウンターイオンは、ハロゲンイオンであることが好ましく、ヨウ素イオンであることがより好ましい。
【0041】
4級アンモニウム基は、重合触媒を用いた重合反応の前から重合触媒が有していてもよく、重合触媒を用いた重合反応の反応系中で重合触媒の含窒素官能基が反応し、生じてもよい。
含窒素官能基は、IRスペクトル、NMRスペクトル、UVスペクトル、及び質量スペクトルなど既知の分析方法により特定できる。
【0042】
重合触媒を構成する高分子は、(1’-1)~(1’-6)で示す繰り返し単位を有する。重合触媒を構成する高分子は、架橋体であることが好ましい。
【0043】
【0044】
式(1’-1)~(1’-6)において、R1は炭素数1~4のアルキル基、R2~R4はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~20のアルキル基、または下記式(1’-7)を示す。
【0045】
【0046】
式(1’-7)において、R5は炭素数1~10のアルキル基、nは1~10の整数を示す。
【0047】
式(1’-1)~(1’-7)において、R1~R5がアルキル基であった場合、R1~R5は置換基を有していてもよい。置換基は、水酸基、カルボキシル基、カルボキシル基のアルカリ金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0048】
重合触媒を構成する高分子は、具体的には下記式(1-1)~(1-10)のような繰り返し単位を有する高分子を例示することができる。
【0049】
【0050】
式(1-3)において、nは1~4の整数を示す。また式(1-4)において、nは1~10の整数を示す。
【0051】
上記式(1-1)~(1-10)のような構造を有する重合触媒は、重合触媒とは全く用途が異なる市販品のイオン交換樹脂およびキレート樹脂などとしても入手可能である。
【0052】
イオン交換樹脂の市販品の例としては、三菱ケミカル社製ダイヤイオン(登録商標)の強塩基性陰イオン交換樹脂のSAシリーズ、PAシリーズ、HPAシリーズ、弱塩基性陰イオン交換樹脂のWAシリーズ、低臭・低溶出陰イオン交換樹脂のSAFシリーズ、PAFシリーズが挙げられる。また、ダウ・ケミカル・カンパニー社製ダウエックス・マラソン(登録商標)MSA Chloride、アンバーリスト(登録商標)A21、アンバーライト(登録商標)IRA-96が挙げられる。
【0053】
キレート樹脂の市販品の例としては、三菱ケミカル社製ダイヤイオン(登録商標)のイミノジ酢酸型とポリアミン型のCRシリーズ、グルカミン型のCRBシリーズが挙げられる。
【0054】
上記の市販品は、いずれも架橋高分子である。
【0055】
また、含窒素官能基を有する高分子は、例えば以下の方法で得ることができる。
まず、スチレンおよびジビニルベンゼンの共重合により、架橋ポリスチレンを得る。
【0056】
次いで、得られた架橋ポリスチレンのクロロメチル化反応により、スチレン単位の芳香環の一部にクロロメチル基を導入し、クロロメチル化架橋ポリスチレンを得る。
【0057】
次いで、得られたクロロメチル化架橋ポリスチレンと、ジメチルアミンとを反応させ、クロロメチル基のクロロ基をジメチルアミノ基で置換する。
これにより上記式(1-5)の繰り返し単位を有する重合触媒を得ることができる。
【0058】
また、例えば上述のクロロメチル化架橋ポリスチレンと、3級アミンとを反応させることで、上記式(1-1)や(1-2)の繰り返し単位を有する重合触媒を得ることができる。
【0059】
上記高分子は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0060】
<ヨウ素>
重合触媒は、上記高分子の他にヨウ素(I2)を含むことが好ましい。ヨウ素は、後述するアクティブ種の濃度を低く抑え、ラジカル種同士の結合や不均化による停止反応を抑制する不活性剤として機能する。ヨウ素は、高分子の表面に物理吸着した状態で存在することができる。上記高分子を含む重合性組成物中にヨウ素を混合する等の方法により、ヨウ素を高分子の表面に物理吸着することができる。
【0061】
また、重合触媒にはヨウ素原子含有イオンが含まれていてもよい。ここで、「ヨウ素原子含有イオン」とは、ヨウ化物イオン(I-)、三ヨウ化物イオン(I3
-)または五ヨウ化物イオン(I5
-)である。ヨウ素原子含有イオンは、上述の高分子の触媒性能を高める機能を有する。ヨウ素原子含有イオンは、高分子が有する4級アンモニウム基のカウンターイオンとして高分子にイオン結合した状態で存在することができる。
【0062】
(ビニル単量体)
本実施形態の重合体の製造方法において重合させるビニル単量体としては、例えば、
(メタ)アクリル酸;
炭素原子数1~30のアルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレートおよびそのアルキルエーテル、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、3-(トリエトキシシリル)プロピル(メタ)アクリレート、2-(ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレートおよびその4級アルキルアンモニウム塩などに代表される(メタ)アクリレート系単量体;
α-メチルスチレン、ビニルトルエン、スチレンなどに代表されるスチレン系単量体;
メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテルなどに代表されるビニルエーテル系単量体;
フマル酸、フマル酸のモノアルキルエステル、フマル酸のジアルキルエステル;
マレイン酸、マレイン酸のモノアルキルエステル、マレイン酸のジアルキルエステル;
イタコン酸、イタコン酸のモノアルキルエステル、イタコン酸のジアルキルエステル;
(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、ブタジエン、イソプレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、ビニルケトン、ビニルピリジン、ビニルカルバゾール;
等を例示できる。
【0063】
ビニル単量体としては、重合制御の点から、スチレン系単量体、(メタ)アクリレート系単量体および(メタ)アクリロニトリルからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0064】
上記ビニル単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0065】
(有機ヨウ素化合物)
本実施形態の重合体の製造方法においては、重合性組成物中に、炭素-ヨウ素結合を有する有機ヨウ素化合物(ドーマント種)を存在させ、この有機ヨウ素化合物から成長鎖に与えられるヨウ素を成長ラジカルの保護基として用いる。有機ヨウ素化合物としては、分子中に少なくとも1個の炭素-ヨウ素結合を有しており、ドーマント種として作用するものであればよく、特に限定されるものではない。有機ヨウ素化合物としては、1分子中にヨウ素原子が1個又は2個含まれている化合物が好ましい。
【0066】
有機ヨウ素化合物は、重合性組成物中に有機ヨウ素化合物として添加してもよいし、他の化合物として添加したものが反応系中で反応して生成してもよい。他の化合物として添加する場合は、例えば、重合の過程で後述するラジカル重合開始剤とヨウ素のそれぞれ少なくとも一部が反応することで、有機ヨウ素化合物が生成する。
【0067】
有機ヨウ素化合物としては、ヨードトリクロロメタン、ジクロロジヨードメタン、ヨードトリブロモメタン、ジブロモジヨードメタン、ブロモトリヨードメタン、ヨードホルム、ジヨードメタン、ヨウ化メチル、トリヨードエタン、ヨウ化エチル、ジヨードプロパン、ヨウ化イソプロピル、ヨウ化t-ブチル、ヨードジクロロエタン、クロロジヨードエタン、ジヨードプロパン、クロロヨードプロパン、ヨードジブロモエタン、ブロモヨードプロパン、2-ヨード-2-ポリエチレングリコシルプロパン、2-ヨード-2-アミジノプロパン、2-ヨード-2-シアノブタン、2-ヨード-2-シアノ-4-メチルペンタン、2-ヨード-2-シアノ-4-メチル-4-メトキシペンタン、4-ヨード-4-シアノペンタン酸、メチル-2-ヨードイソブチレート、2-ヨード-2-メチルプロパンアミド、2-ヨード-2,4-ジメチルペンタン、2-ヨード-2-シアノブタノール、2-ヨード-2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド4-メチルペンタン、2-ヨード-2-メチル-N-(1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド-4-メチルペンタン、2-ヨード-2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン、2-ヨード-2-(2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン、ヨードベンジルシアニド(PhCN-I)、エチル-2-ヨードフェニルアセテート(EPh-I)、ジエチル-2-ヨード-2-メチルマロネート(EEMA-I)、2-ヨード-2-シアノプロパン(CP-I)、1-ヨード-1-シアノエタン(CE-I)、1-ヨード-1-フェニルエタン(PE-I)、エチル-2-ヨードイソブチレート(EMA-I)、エチル-2-ヨードヴァレレート(EPA-I)、エチル-2-ヨードプロピオネート(EA-I)、エチル-2-ヨードアセテート(E-I)、2-ヨードイソ酪酸(MAA-I)、ヒドロキシエチル-2-ヨードイソブチレート(HEMA-I)、2-ヨードプロピオン酸アミド(AAm-I)、エチレングリコールビス(2-ヨードイソブチレート)(EMA-II)、ジエチル-2,5-ジヨードアジペート(EA-II)、グリセロール-トリス(2-ヨードイソブチレート)(EMA-III)、6-(2-ヨード-2-イソブチロキシ)ヘキシルトリエトキシシラン(IHE)を例示できる。
【0068】
有機ヨウ素化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0069】
有機ヨウ素化合物の中で、重合制御の点から、PhCN-I、EPh-I、EEMA-I、CP-I、CE-I、PE-I、EMA-I、EPA-I、EA-I、E-I、MAA-I、HEMA-I、AAm-I、EMA-II、EA-II、EMA-III、及びIHEからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0070】
(ラジカル重合開始剤)
本実施形態の重合体の製造方法においては、重合性組成物中に、ラジカル重合開始剤を添加してもよい。ラジカル重合開始剤は、重合触媒と、ビニル単量体と、有機ヨウ素化合物と、ヨウ素とを含む重合性組成物を重合する際に、重合性組成物中のラジカル濃度を上昇させ、重合速度を上げる目的で用いられる。
【0071】
ラジカル重合開始剤としては、アゾ系のラジカル重合開始剤や過酸化物系のラジカル重合開始剤など、公知の化合物を使用することができる。なお、本実施形態の重合体の製造方法においては、上述の重合触媒を用いることにより重合反応を行うことができ、ラジカル重合開始剤は実質的に使用しなくてもよい。本実施形態の重合体の製造方法においてラジカル重合開始剤を使用すると、ラジカル重合開始剤を使用しない場合と比べて重合速度が向上し、重合時間を短縮することができる。
【0072】
アゾ系ラジカル重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)および2,2’-アゾビス(2,4-ジメチル-4-メトキシバレロニトリル)が挙げられる。
【0073】
過酸化物系ラジカル重合開始剤としては、例えば、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシピバレート、o-メチルベンゾイルパーオキサイド、ビス-3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、シクロヘキサノンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイドおよびジ-t-ブチルパーオキサイドが挙げられる。
【0074】
上記のラジカル重合開始剤の中で、ベンゾイルパーオキサイド、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)及び2,2’-アゾビス(2,4-ジメチル-4-メトキシバレロニトリル)が入手しやすさの点で好ましい。
【0075】
ラジカル重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0076】
(ヨウ素)
本実施形態の重合体の製造方法において、ヨウ素は上述の通り重合触媒に含まれていてもよく、重合性組成物中に別途添加してもよい。ヨウ素は重合反応の不活性剤として後述するアクティブ種の濃度を低く抑え、ラジカル種同士の結合や不均化による停止反応を抑制する。また、ヨウ素と前述したラジカル開始剤を併用することで、反応系中で有機ヨウ素化合物を生成させることができる。
【0077】
(その他添加剤)
本実施形態の重合体の製造方法においては、必要に応じてその他の添加剤を加えることができる。その他の添加剤としては、連鎖移動剤を例示できる。
【0078】
連鎖移動剤としては、メルカプタンを挙げることができる。
(溶媒)
本実施形態の重合体の製造方法では、重合時に有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、トルエン等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素系溶媒;アセトン等のケトン系溶媒;メタノール等のアルコール系溶媒;アセトニトリル等のニトリル系溶媒;酢酸エチル等のビニルエステル系溶媒;エチレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;及び超臨界二酸化炭素を例示できる。
有機溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
溶媒を用いる場合、溶媒の含有量は、溶媒を除く重合性組成物全体の量を100質量%としたときに、0質量%を超えて700質量%以下が好ましい。
【0079】
(重合性組成物の組成)
重合性組成物の一例として、上述の重合触媒と、ビニル単量体と、有機ヨウ素化合物と、ヨウ素とを含む重合性組成物が挙げられる。
【0080】
また、重合性組成物の他の例としては、含窒素官能基を有する高分子とヨウ素とを含む重合触媒と、ビニル単量体と、有機ヨウ素化合物と、ラジカル重合開始剤とを含む重合性組成物が挙げられる。
【0081】
また、重合性組成物の他の例としては、含窒素官能基を有する高分子とヨウ素とを含む重合触媒と、ビニル単量体と、ラジカル重合開始剤とを含む重合性組成物が挙げられる。このような重合性組成物には有機ヨウ素化合物を含まないが、上述の通り、重合の過程でラジカル重合開始剤とヨウ素のそれぞれ少なくとも一部が反応して重合性組成物中に有機ヨウ素化合物が生成し、ドーマント種として機能する。
【0082】
<重合性組成物における各成分の含有量>
次に、上述の重合性組成物における各成分の含有量について説明する。以下の説明において「含有量」とは、重合性組成物の調製時の仕込み量を示す。
【0083】
<重合触媒>
重合性組成物における重合触媒の含有量は、ビニル単量体と重合触媒との総量に対して、0.01質量%以上50質量%以下となる量が好ましい。ビニル単量体と重合触媒との総量に対する触媒の含有量の下限は、0.1質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることがさらに好ましい。また上限は、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。上述したビニル単量体と重合触媒との総量に対する重合触媒の含有量は、上限値と下限値とを任意に組み合わせることができる。
【0084】
重合触媒に含まれる窒素原子のモル当量比は、ビニル単量体に対して0.0001以上0.5以下であることが好ましく、0.0005以上0.1以下がより好ましい。
【0085】
また重合触媒に含まれる窒素原子のモル当量比は、添加した有機ヨウ素化合物に対して、0.001以上1000以下であることが好ましく、0.01以上180以下であることがより好ましい。上述したモル当量比の上限値、下限値は任意に組み合わせることができる。
【0086】
また重合触媒に含まれる含窒素官能基のモル当量比は、添加した有機ヨウ素化合物およびラジカル重合開始剤との合計に対して、0.001以上200以下であることが好ましい。含窒素官能基のモル当量比の下限は、0.005以上であることがより好ましく、0.01以上であることがさらに好ましい。また上限は、100以下であることがより好ましい。上述したモル当量比の上限値、下限値は任意に組み合わせることができる。
【0087】
重合触媒に含まれる窒素原子および含窒素官能基のモル当量比が前記範囲であれば、重合速度が充分に促進され、かつ重合溶液が適度な粘度を保って取り扱いが容易となる。
【0088】
なお、重合触媒に含まれる窒素原子のモル当量比は、元素分析法によって求めることができる。
【0089】
また、重合触媒に含まれる高分子中の窒素原子のモル当量比は、以下の方法で求めることもできる。
まず、分子量が既知である過剰量の有機ヨウ素化合物と、重合触媒中の高分子と、を完全に反応させる。次いで、有機ヨウ素化合物の反応率から含窒素官能基と反応した有機ヨウ素化合物の物質量(モル)を求め、反応した有機ヨウ素化合物の物質量から含窒素官能基の物質量(モル)を求める。得られた含窒素官能基の物質量から、窒素原子のモル当量比を算出する。
【0090】
より具体的には、重合触媒に含まれる含窒素官能基のモル当量比は、例えば下記の方法により算出することができる。
重合触媒2.0gと、1-ヨードヘキサンを1.21g(5.61mmol)とを混合し、テトラヒドロフラン8ml中に均一に分散させる。この分散溶液を還流状態で加熱撹拌しながら24時間反応させる。得られた反応溶液に濃度既知の内部標準を加えて1H-NMRを測定し、残っている1-ヨードヘキサンの量から、1-ヨードヘキサンの減少量を求める。このとき減少した1-ヨードヘキサンのモル当量比が、重合触媒に含まれる含窒素官能基のモル当量比と等しい。
【0091】
重合触媒がヨウ素を含む場合、重合触媒に含まれるヨウ素のモル当量比は任意である。が、ビニル単量体に対して0.0001以上0.5以下となる量が好ましく、0.0005以上0.1以下となる量がより好ましい。ヨウ素のモル当量比が前記範囲であれば、重合速度が充分に促進されることができる。
【0092】
なお本明細書においては、重合触媒に含まれるヨウ素のモル当量比は、重合触媒の元素分析によって求めた値、または重合触媒を合成する際の仕込み量から求めた値とする。
【0093】
<有機ヨウ素化合物>
重合性組成物が有機ヨウ素化合物を含む場合、重合性組成物における有機ヨウ素化合物の含有量は任意である。重合性組成物における有機ヨウ素化合物の含有量は、ビニル単量体1モルあたり0.001モル以上0.5モル以下となる量が好ましく、0.002モル以上0.1モル以下となる量がより好ましい。重合性組成物における有機ヨウ素化合物の含有量が前記範囲であれば、有機ヨウ素化合物から重合反応の成長鎖にヨウ素原子を保護基として提供するのに充分であり、尚且つ、重合速度を極端に低下させない。
【0094】
<ラジカル重合開始剤>
有機ヨウ素化合物を添加せず、重合性組成物中にラジカル重合開始剤を添加することで有機ヨウ素化合物を生成する場合、重合性組成物におけるラジカル重合開始剤の含有量は任意である。重合性組成物におけるラジカル重合開始剤の含有量は、ビニル単量体1モルあたり0.0001モル以上0.05モル以下となる量が好ましく、0.0002モル以上0.02モル以下となる量がより好ましい。重合性組成物におけるラジカル重合開始剤の含有量が前記範囲であれば、適度な重合速度を得ることができる。
【0095】
(反応メカニズム)
重合触媒が有する含窒素官能基は、炭素-ヨウ素結合をドーマント種とするビニル単量体のリビングラジカル重合において、酸化還元反応を促進する作用を有する。そのため、本実施形態の重合体の製造方法において、重合触媒は有機ヨウ素化合物からヨウ素原子を引き抜いて、有機ヨウ素化合物に由来するラジカルを生成させる。
【0096】
本実施形態の重合体の製造方法は、特に理論に束縛されないが、以下に推定されるメカニズムを説明する。
【0097】
以下のスキーム1に、一般的に公知とされているRCMP法の反応式を示す。
【0098】
【0099】
スキーム1において、Aは酸化還元能力を有する重合触媒であり、Iはヨウ素原子である。重合触媒Aは反応式の左辺において還元状態であり、右辺において酸化状態である。重合触媒Aが酸化状態であるときには、活性種であるポリマーのラジカルが生じ、重合触媒Aが還元状態であるときには、ポリマーの末端はヨウ素原子で保護される。左辺の「Polymer-I」は、反応系におけるドーマント種であり、右辺の「Polymer・」は、反応系におけるアクティブ種である。
【0100】
そして、重合触媒Aは、還元状態(左辺)と酸化状態(右辺)との間で可逆的に酸化還元反応する。また、スキーム1に示すように、スキーム1は平衡反応であり、平衡は左辺に偏っている。すなわち、アクティブ種は反応系中において低濃度で存在する。
【0101】
そのため、まず、重合触媒Aが還元状態にあるとき、左辺に示すドーマント種(Polymer-I)は、ヨウ素原子で末端が保護され反応を停止している。
【0102】
また、重合触媒Aが酸化状態にあるとき、右辺に示すアクティブ種(ポリマーのラジカル)がビニル単量体とラジカル重合し、重合体が生じる。
【0103】
さらに、スキーム1の平衡が左辺に偏っていることから、アクティブ種の濃度が低く抑えられ、ラジカル種同士の結合や不均化による停止反応を抑制することができる。そのため、スキーム1の平衡反応が長時間持続し、反応系中には長時間に亘ってアクティブ種が存在することになる。さらに、生じる重合体の分子量分布を均一化しやすい。
【0104】
これらの結果、ポリマー末端が常に活性を保ち続け(リビング)、分子量分布を均一化することができる。
【0105】
上記メカニズムを踏まえると、本実施形態の重合体の製造方法においては、例えば重合触媒として架橋ポリスチレンの側鎖に含窒素官能基である3級アミノ基を有する架橋重合体を用いる場合、重合触媒の反応に係る反応式は、以下のスキーム2のとおりであると考えられる。下記式の右辺においては、3級アミノ基とヨウ素原子の間で一電子が移動した塩の状態、または3級アミノ基とヨウ素の間で部分電荷が移動した錯体の状態を取りうる。重合触媒は、下記式の右辺において3級アミノ基の窒素原子からヨウ素のラジカルに対して電子を供給しているため酸化状態となっている。相対的に、重合触媒は、左辺において還元状態である。
【0106】
【0107】
なお、上記スキーム2の右辺において、上式が、上述した「3級アミノ基とヨウ素原子の間で一電子が移動した塩の状態」、二量化した後の下式が、上述した「3級アミノ基とヨウ素の間で部分電荷が移動した錯体」を示す。なお、右辺に示す二量化は、連続した分子鎖に存在する異なる含窒素官能基間で生じてもよく、異なる分子鎖に存在する異なる含窒素官能基環で生じてもよい。
【0108】
本実施形態の重合体の製造方法においても、重合触媒が還元状態(左辺)と酸化状態(右辺)との間で可逆的に酸化還元反応することにより、右辺に示すポリマーのラジカルがビニル単量体と重合し、目的物である重合体が得られると考えられる。
【0109】
また、多くのポリマーはスキーム2の左辺に示すようにヨウ素原子で末端が保護された状態で反応系中に存在する。そのため、本実施形態の重合体の製造方法においては、反応系中のラジカル濃度が低く抑えられ、ラジカル種同士の結合や不均化による停止反応を抑制することができる。
【0110】
(重合条件)
本実施形態の重合体の製造方法における重合方法としては、特に限定されず、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等を例示できる。
【0111】
重合反応は、空気存在下で行ってもよいが、ラジカル重合の効率の点から、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0112】
重合温度は、適切な重合速度が得られやすいため、0℃以上150℃以下が好ましい。また、重合制御が容易であるため、20℃以上120℃以下がより好ましい。さらに、重合温度が120℃以下であると、重合触媒の活性を維持しやすく好ましい。
【0113】
重合時間は、特に限定されず、例えば0.5時間以上24時間以下とすることができる。
【0114】
(重合体)
本実施形態の重合体の製造方法により製造された重合体は、主鎖の末端にヨウ素原子を有する。上記スキーム1に示す「Polymer-I」のIが該当する。この末端のヨウ素原子は、高温で処理することにより除去することができる。また、上記末端のヨウ素原子に対し、求核性試薬を反応させることにより、求核性試薬に由来した官能基を導入することができる。
【0115】
公知の典型的な制御重合で得られる重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、一般に1.5未満である。ここで、Mwは重量平均分子量であり、Mnは数平均分子量である。
【0116】
本実施形態の重合体の製造方法によれば、得られる重合体のMw/Mnを1.5未満とすることができる。なお、本実施形態の重合体の製造方法においては、重合触媒の分散状態に応じて、目的とするMw/Mnより大きくなることがある。その場合、反応系中において重合触媒を良好に分散させることにより、Mw/Mnを小さくすることができる。反応系中で重合触媒を良好に分散させる方法としては、溶媒を添加して粘度を低下させる、撹拌速度を上げる、重合触媒を構成する高分子の粒子径を小さくするという方法が挙げられる。
【0117】
これらにより、本実施形態の重合体の製造方法では、一般的に公知とされているRCMP法に使用される有機化合物触媒を用いた場合と同様な酸化還元反応を生じると考えられる。その結果、本実施形態の重合体の製造方法では、分子量を制御することが可能であり、かつ分子量分布の狭い重合体を得ることが可能であると考えられる。
【0118】
(重合触媒の除去)
本実施形態の重合体の製造方法で用いる重合触媒は、遷移金属を含まず安価で環境安全性が高い。一方で、重合触媒が重合体に残存することによって着色や耐久性低下の要因となることが懸念される。そのため、重合触媒は反応生成物から除去することが好ましい。
【0119】
従来の有機化合物触媒は、溶媒溶解性の有機化合物触媒は勿論、担体に担持させた有機化合物触媒であっても、反応中に溶解しうる。そのため、反応生成物から有機化合物触媒を除去することが困難であった。これに対し、本実施形態の重合体の製造方法で用いる重合触媒は、含窒素官能基を有する高分子を含む。このような高分子は、重合反応を行う反応系内に溶解し難いため、反応生成物に残留し難い。
【0120】
このような本実施形態の重合体の製造方法においては、簡便な方法により、重合反応後の反応生成物から用いた重合触媒を容易に除去できる。すなわち、本実施形態の重合体の製造方法においては、ビニル単量体の重合反応をさせた後に、重合触媒を除去する工程を有することが好ましい。除去の方法としては、遠心分離や濾過等が挙げられる。
【0121】
上述の方法により反応生成物から除去した重合触媒は、適宜有機溶媒で洗浄し乾燥させることで、重合触媒として再利用することができる。
【0122】
洗浄に用いる有機溶媒としては、トルエン等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素系溶媒;アセトン等のケトン系溶媒;メタノール等のアルコール系溶媒;アセトニトリル等のニトリル系溶媒;酢酸エチル等のビニルエステル系溶媒;エチレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;および超臨界二酸化炭素を例示できる。
【0123】
洗浄に用いる有機溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0124】
以上のような重合触媒によれば、遷移金属系の触媒を使用することなくリビングラジカル重合において高い活性を有し、なおかつ簡便な方法で除去が可能な重合触媒を提供することができる。
【0125】
本実施形態の重合体の製造方法で製造された重合体は、上述の通り着色や耐久性低下の要因となる重合触媒を簡便な方法で除去できるため、用途について特に限定されない。具体的な用途としては、分散剤、樹脂添加剤、塗料用組成物、リソグラフィー用重合体を例示できる。
【0126】
以上、本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されない。上述した例において示した各構成の組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【実施例】
【0127】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0128】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
【0129】
以下の説明において、「eq」は「モル当量」を示す。
【0130】
[数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)]
重合により得られた重合体の数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)は、GPC(東ソー社製、「HLC-8220」)による測定結果から、PMMA(ポリメチルメタクリレート)の検量線を用いて求めた。
測定条件は、以下のとおりとした。
(測定条件)
カラム:TSK GUARD COLUMN SUPER HZ-L(東ソー株式会社製、4.6mm×35mm)
とTSK-GEL SUPER HZM-N(東ソー株式会社製、6.0mm×150mm)の直列接続
溶離液:テトラヒドロフラン
測定温度:40℃
流速:0.6mL/分
【0131】
分子量分布(Mw/Mn)は、上述の方法で求めたMnおよびMwを用いて算出した。
【0132】
[単量体転化率]
実施例および比較例の単量体転化率(%)は、核磁気共鳴装置(Bruker社製、「BBF0400」、400MHz)を用い、測定溶媒にCDCl3を用いた1H-NMR測定の測定値から求めた。具体的には、残存単量体に由来するピークの積算値と、生成重合体に由来するピークの積算値とを用い、残存単量体量と生成重合体量の総和に対する生成重合体量の比率として算出した。
【0133】
[ヨウ素原子の検出]
重合触媒に含まれるヨウ素またはヨウ素原子含有イオンの検出は、XPS(X線光電子分光法、SPECS社製、「Phoibos100」、単色化X線光源)測定により行った。
【0134】
[重合体のYI]
実施例および比較例において得られた重合体1.0gをクロロホルム10mLに溶解した溶液の、380nm-780nmにおける分光光線透過率を(株)日立ハイテクフィールディング製U-3300(商品名)を用いて測定し、イエローインデックス(YI)を算出した。
【0135】
YIは、三刺激値X、Y、Zにもとづいて、JIS K7105記載の下式によって算出した。なお、YIの数値が大きいほど、黄色みが強く、着色度合いが高いことを表している。
イエローインデックス(YI)=100(1.28X-1.06Z)/Y
【0136】
本実施例における略称は、以下のとおりである。
【0137】
<重合触媒(A)>
WA-30:ポリスチレン系イオン交換樹脂(三菱ケミカル社製、ダイヤイオン(登録商標)WA-30)
WA-21J:ポリスチレン系イオン交換樹脂(三菱ケミカル社製、ダイヤイオン(登録商標)WA-21J)
HP-20:ポリスチレン系合成吸着剤(三菱ケミカル社製、ダイヤイオン(登録商標)HP-20)
MSA Chloride:ポリスチレン系イオン交換樹脂(ダウ・ケミカル・カンパニー社製、ダウエックス・マラソン(登録商標))
A21:ポリスチレン系イオン交換樹脂(ダウ・ケミカル・カンパニー社製、アンバーリスト(登録商標))
IRA-96:ポリスチレン系イオン交換樹脂(ダウ・ケミカル・カンパニー社製、アンバーライト(登録商標))
BNI:テトラブチルアンモニウムヨージド(東京化成工業社製)
【0138】
HP-20は、下記式(2-1)に示す繰り返し単位を有する高分子であり、含窒素官能基を有していない。
【0139】
【0140】
重合触媒として用いられる高分子が架橋していることは、以下の方法で確認した。
高分子2gをテトラヒドロフラン8mlに加えて浸漬し、70℃で還流させながら24時間加熱した後、高分子が溶け残る場合、高分子が架橋していると判断した。
【0141】
<ビニル単量体(B)>
MMA:メタクリル酸メチル(東京化成工業社製)
EHMA:メタクリル酸2-エチルヘキシル(東京化成工業社製)
LMA:メタクリル酸ラウリル(東京化成工業社製)
【0142】
<有機ヨウ素化合物(C)>
CP-I:2-ヨード-2-シアノプロパン(東京化成工業社製)
EPh-I:エチル-2-ヨードフェニルアセテート(東京化成工業社製)
PMMA-I:ヨウ素化末端ポリメチルメタクリレート
なお、PMMA-Iは定法に従い合成して用いた。
【0143】
<ラジカル重合開始剤(D)>
AIBN:2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(東京化成工業社製)
V-65:2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(東京化成工業社製)
【0144】
<ヨウ素>
I2:ヨウ素(東京化成工業社製)
【0145】
[製造例:4級化WA-30の合成]
WA-30を2.0gと、1-ヨードヘキサン(東京化成工業社製)を1.21g(5.61mmol)とを混合し、テトラヒドロフラン(東京化成工業社製)8ml中に均一に分散させた。この分散溶液をガラス製反応容器に移し、還流状態で加熱撹拌しながら24時間反応させて、反応溶液を得た。
【0146】
得られた反応溶液に内部標準としてベンゼン(東京化成工業社製)を精秤して加え、テトラヒドロフラン中の1-ヨードヘキサンの量を反応前後で比較し反応率を求めたところ、1-ヨードヘキサンの反応率は83%(4.74mmol)であった。
【0147】
WA-30が有する含窒素官能基が過剰の1-ヨードヘキサンと反応すると、未反応の1-ヨードヘキサンが反応液中に残ることになる。その反応液中に濃度既知の内部標準(ベンゼン、東京化成工業社製)を加え、反応液の1H-NMRを測定して残っている1-ヨードヘキサンの量を求めた。
【0148】
続いて、最初に加えた1-ヨードヘキサンの量から残存量を差し引いてWA-30と反応した1-ヨードヘキサンの量を求めた。
【0149】
WA-30は、含窒素官能基としてジメチルアミノ基を有するため、WA-30が1gあたりに反応した1-ヨードヘキサンの量から窒素原子のモル当量を算出することができる。
【0150】
図1は、得られた反応生成物のXPSチャートである。
図1に示す左のチャートはワイドスキャン分析の結果、右のチャートはナロースキャン分析の結果を示す。
【0151】
図1に示すように、反応生成物は、WA-30では検出されなかった629eVと617eVにヨウ素原子の3d電子に由来したピークが検出されることと、窒素原子由来のピークが399eVから402eVにシフトしたことを確認した。以上の結果から、上記反応による生成物は、WA-30の含窒素官能基に1-ヨードヘキサンが反応し4級化するとともに、カウンターイオンとしてヨウ素イオンが結合した化合物であることと判断した。
【0152】
反応生成物は、濾過により回収し、テトラヒドロフランで繰り返し洗浄した後、減圧下で乾燥させた。
【0153】
以下の説明では、得られた生成物を「4級化WA-30」と称する。得られた4級化WA-30は、数平均分子量10000以上である。
【0154】
[実施例1]
重合触媒(A)として4級化WA-30、ビニル単量体(B)としてMMA、有機ヨウ素化合物(C)としてCP-Iを表1に示される組成で秤量し重合性組成物を調製した。
【0155】
表1に示される重合触媒(A)の組成単位(eq/質量%)は、重合触媒に含まれる窒素原子の当量数および重合触媒とビニル単量体(B)の合計質量に対する重合触媒の質量比を意味する。なお、後述する表2および表3も同様である。
【0156】
得られた重合性組成物をガラス製反応容器に移し、気相を窒素で置換した後、撹拌させながら70℃で表1に記載した時間だけ重合反応させた後、これを濾過して重合体を得た。
【0157】
表1に示される重合触媒(A)、有機ヨウ素化合物(C)、ラジカル重合開始剤(D)の量は、ビニル単量体(B)8000モル当量に対して、使用したモル当量を意味する。また、重合触媒に含まれる含窒素官能基のモル当量比は、添加した有機ヨウ素化合物およびラジカル重合開始剤との合計に対するモル当量比を意味する。なお、後述する表2も同様である。
【0158】
[実施例2]
重合性組成物の組成を表1に示される組成とし、含窒素官能基を有する高分子とヨウ素とを含む重合触媒を用いたこと以外は、実施例1と同様にして重合体を得た。
【0159】
[実施例3~4]
重合性組成物の組成を表1に示される組成とし、ラジカル重合開始剤(D)としてV-65を用いたこと以外は、実施例2と同様にして重合体を得た。
【0160】
[実施例5~6]
重合性組成物の組成を表1に示される組成とし、ラジカル重合開始剤(D)としてAIBNを用いたこと以外は、実施例3と同様にして重合体を得た。
【0161】
[実施例7~8]
重合性組成物の組成を表1に示される組成とし、溶媒としてトルエン(東京化成工業社製)を加えたこと以外は、実施例5と同様にして重合体を得た。
【0162】
表1に示される溶媒の組成単位(質量%)は、溶媒を含む全体の量を100質量%とした場合の溶剤の割合を意味する。なお、後述する表2および表3も同様である。
【0163】
[実施例9~10]
重合性組成物の組成を表1に示される組成とし、ビニル単量体(B)としてEHMAを用いたこと以外は、実施例7と同様にして重合体を得た。
【0164】
[実施例11~12]
重合性組成物の組成を表1に示される組成とし、ビニル単量体(B)としてLMAを用いたこと以外は、実施例7と同様にして重合体を得た。
【0165】
[実施例13~15]
重合性組成物の組成を表2に示される組成とし、重合触媒(A)としてWA-30を用いたこと以外は、実施例7と同様にして重合体を得た。
【0166】
[実施例16~17]
重合性組成物の組成を表2に示される組成とし、有機ヨウ素化合物(C)としてEPh-Iを用いたこと以外は、実施例11と同様にして重合体を得た。
【0167】
[実施例18]
重合性組成物の組成を表2に示される組成としたこと以外は、実施例7と同様にして重合体を得た。
【0168】
[実施例19]
実施例18で用いた4級化WA-30を遠心分離により回収した。回収した固形分をテトラヒドロフラン10mlに分散させた後に遠心分離で回収することを1回の洗浄として、固形分を3回洗浄した。その後、回収した固形分を減圧下で乾燥させて4級化WA-30(再利用1回目)を得た。
【0169】
重合性組成物の組成を表2に示される組成とし、重合触媒(A)として4級化WA-30(再利用1回目)を用いたこと以外は、実施例7と同様にして重合体を得た。
【0170】
[実施例20]
実施例19で用いた4級化WA-30を遠心分離により回収し、実施例19と同じ方法で3回洗浄した後減圧下で乾燥させて4級化WA-30(再利用2回目)を得た。
重合性組成物の組成を表2に示される組成とし、重合触媒(A)として4級化WA-30(再利用2回目)を用いたこと以外は、実施例7と同様にして重合体を得た。
【0171】
[実施例21]
実施例20で用いた4級化WA-30を遠心分離により回収し、実施例19と同じ方法で3回洗浄した後減圧下で乾燥させて4級化WA-30(再利用3回目)を得た。
【0172】
重合性組成物の組成を表2に示される組成とし、重合触媒(A)として4級化WA-30(再利用3回目)を用いたこと以外は、実施例7と同様にして重合体を得た。
【0173】
[実施例22]
実施例21で用いた4級化WA-30を遠心分離により回収し、実施例19と同じ方法で3回洗浄した後減圧下で乾燥させて4級化WA-30(再利用4回目)を得た。
【0174】
重合性組成物の組成を表2に示される組成とし、重合触媒(A)として4級化WA-30(再利用4回目)を用いたこと以外は、実施例7と同様にして重合体を得た。
【0175】
[実施例23]
重合性組成物の組成を表2に示される組成とし、有機ヨウ素化物(C)としてPMMA-Iを用いたこと以外は、実施例11と同様にして重合体を得た。得られた重合体は、PMMAとPLMA(ポリラウリルメタクリレート)から構成されるブロック共重合体であった。
[実施例24]
重合性組成物の組成を表3に示される組成とし、重合触媒(A)としてMSA Chlorideとヨウ素との混合物を用いたこと以外は、実施例7と同様にして重合体を得た。
[実施例25]
重合性組成物の組成を表3に示される組成とし、重合触媒(A)としてA21とヨウ素との混合物を用いたこと以外は、実施例7と同様にして重合体を得た。
[実施例26]
重合性組成物の組成を表3に示される組成とし、重合触媒(A)としてIRA-96とヨウ素との混合物を用いたこと以外は、実施例7と同様にして重合体を得た。
[実施例27]
重合性組成物の組成を表3に示される組成とし、重合触媒(A)としてWA-21Jとヨウ素との混合物に変更し、ヨウ素量を表3に示した量としたこと以外は、実施例1と同様にして重合体を得た。
【0176】
[比較例1]
重合性組成物の組成を表2に示される組成とし、4級化WA-30を用いなかったこと以外は、実施例7と同様にして実施した。
【0177】
[比較例2]
重合性組成物の組成を表2に示される組成とし、重合触媒(A)としてHP-20を用いたこと以外は、実施例7と同様にして実施した。
[比較例3]
重合性組成物の組成を表3に示される組成とし、重合触媒(A)としてBNI、溶媒としてトルエンを用いたこと以外は、実施例1と同様にして実施した。
【0178】
各実施例、比較例の重合性組成物の組成、重合条件、Mn、Mw/Mn、単量体転化率およびYIの測定結果を表1~3に示す。
【0179】
【0180】
【0181】
表1~3に示すように、重合触媒(A)として含窒素官能基を有する高分子を用い、有機ヨウ素化合物の存在下でビニル単量体(B)を重合させて得た実施例1~18および23~26は、所定の重合時間以内で一定の単量体転化率を得ることができた。また得られた重合体は、分子量や分子量分布が制御され、Mw/Mnが小さい値となった。
【0182】
これらの結果を、重合触媒(A)として含窒素官能基を有する低分子であるBNIを用いた比較例3と比較すると、実施例1~18および23~26は除去が容易な不均一系触媒を用いているにも関わらず、低分子触媒を用いた場合と同程度の単量体転化率で、同様に分子量や分子量分布が制御された重合体が得られている。更に、実施例17は、比較例3と比較してYIが低く、着色の低い重合体が得られていれることが示された。
【0183】
さらに、実施例19~22の結果から、含窒素官能基を有する高分子を再利用した場合でも、再利用前である実施例18と同等の触媒能を有することが示された。
【0184】
また、実施例23の結果から、含窒素官能基を有する高分子から構成される重合触媒がブロック共重合体の製造にも有用であることが示された。
【0185】
一方、重合触媒(A)を用いない比較例1においては、単量体転化率が0%であり、重合が全く進行していなかった。
【0186】
また、重合触媒(A)として含窒素官能基を有しない高分子であるHP-20を用いた比較例2においては、単量体転化率が0%であり、重合が全く進行していなかった。
【0187】
以上の結果より、本発明が有用であることが分かった。