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特許7523841農業支援プログラム、農業支援方法及び農業支援装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】農業支援プログラム、農業支援方法及び農業支援装置
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/02 20240101AFI20240722BHJP
   G06Q 10/04 20230101ALI20240722BHJP
【FI】
G06Q50/02
G06Q10/04
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2024509860
(86)(22)【出願日】2023-02-21
(86)【国際出願番号】 JP2023006265
(87)【国際公開番号】W WO2023181758
(87)【国際公開日】2023-09-28
【審査請求日】2024-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2022048685
(32)【優先日】2022-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110004370
【氏名又は名称】弁理士法人片山特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉山 智美
(72)【発明者】
【氏名】筧 雄介
(72)【発明者】
【氏名】礒▲崎▼ 真英
【審査官】庄司 琴美
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-128770(JP,A)
【文献】特開2021-179983(JP,A)
【文献】特開2019-187259(JP,A)
【文献】特開2021-026771(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112200360(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
農作物の苗の葉数の初期値前記苗の重さの初期値、及び前記農作物の品種の入力を受け付け、
記憶部から、受け付けた品種の特徴を示すパラメータを読み出し、
前記農作物の栽培環境に関する情報を取得し、
前記苗の葉数の初期値及び前記苗の重さの初期値に基づいて各葉の葉面積を算出し、
記パラメータと、前記栽培環境に関する情報と、に基づいて、前記品種ごとの生育モデルを作成し、作成した前記品種ごとの生育モデルに算出した前記各葉の葉面積を入力することにより、前記品種ごとの生育を予測し、
前記予測により得られた予測結果を品種選定又は栽培管理を支援する情報として出力する、処理をコンピュータに実行させる農業支援プログラム。
【請求項2】
前記初期値として、所定日における前記苗の葉数及び前記苗の重さの情報の入力を受け付け、
前記算出する処理では、
前記所定日における前記苗の葉数に基づいて、前記所定日における各葉の出葉日からの積算温度を推定し、前記積算温度に基づいて前記各葉の成長量を算出し、
前記所定日における前記苗の重さと、算出した前記各葉の成長量と、に基づいて、前記所定日における前記各葉の葉面積を算出し、
前記予測する処理では、
算出した前記所定日における前記各葉の葉面積を、前記品種ごとの生育モデルに入力する、
ことを特徴とする請求項1に記載の農業支援プログラム。
【請求項3】
前記算出する処理では、
前記所定日より後の栽培環境に関する実測値又は予測値に基づいて、前記苗における各葉及び各房の成長量を推定し、
前記推定した各成長量に基づいて、前記各成長量の総和及び該総和に対する前記各成長量の割合を算出するとともに、該算出の結果と前記栽培環境に関する情報とに基づいて前記各葉及び前記各花房の乾物分配量を推定し、
前記各葉の乾物分配量に基づいて前記各葉の重さを算出し、算出した前記各葉の重さに基づいて前記各葉の葉面積を算出する、ことを特徴とする請求項2に記載の農業支援プログラム。
【請求項4】
前記各花房の乾物分配量に基づいて、前記各花房の重さを算出し、
前記各花房の重さに基づく情報を出力する、
処理を前記コンピュータに実行させることを特徴とする請求項3に記載の農業支援プログラム。
【請求項5】
農作物の苗の葉数の初期値前記苗の重さの初期値、及び前記農作物の品種の入力を受け付け、
記憶部から、受け付けた品種の特徴を示すパラメータを読み出し、
前記農作物の栽培環境に関する情報を取得し、
前記苗の葉数の初期値及び前記苗の重さの初期値に基づいて各葉の葉面積を算出し、
記パラメータと、前記栽培環境に関する情報と、に基づいて、前記品種ごとの生育モデルを作成し、作成した前記品種ごとの生育モデルに算出した前記各葉の葉面積を入力することにより、前記品種ごとの生育を予測し、
前記予測により得られた予測結果を品種選定又は栽培管理を支援する情報として出力する、処理をコンピュータが実行することを特徴とする農業支援方法。
【請求項6】
農作物の苗の葉数の初期値前記苗の重さの初期値、及び前記農作物の品種の入力を受け付け、記憶部から、受け付けた品種の特徴を示すパラメータを読み出し、前記農作物の栽培環境に関する情報を取得し、前記苗の葉数の初期値及び前記苗の重さの初期値に基づいて各葉の葉面積を算出し、前記パラメータと、前記栽培環境に関する情報と、に基づいて、前記品種ごとの生育モデルを作成し、作成した前記品種ごとの生育モデルに算出した前記各葉の葉面積を入力することにより、前記品種ごとの生育を予測する処理部と、
前記予測により得られた予測結果を品種選定又は栽培管理を支援する情報として出力する出力部と、を備える農業支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業支援プログラム、農業支援方法及び農業支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、農作物の情報が掲載されたカタログ等においては、各品種の特徴や特性を言葉や画像、平均値などで表現するのが一般的である。したがって、農作業従事者は、栽培する品種を選定する際には、言葉や画像、平均値などで表現された各品種の特徴や特性を参考にしている。
【0003】
また、近年においては、ユーザが栽培地、栽培時期、及び品目を指定すると、指定された品目のうち指定された栽培地、時期において栽培できる品種を一覧表示する技術が知られている(例えば、特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-203002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、カタログには、品種の一般的な特徴や特性しか掲載されていないため、栽培しようとしている場所や環境条件に合っているかが正確に把握できない。このため、実際に栽培してみると、想定していたように農作物が育たないおそれがある。また、特許文献1のように品種が一覧表示されたとしても、実際にどの品種を栽培すべきかを判断することは難しい。
【0006】
また、最近、生育モデルを用いて農作物の生育を予測する方法についての研究も進んできているが、生産者が生育モデルに入力する初期値の中には、正確に計測するのが難しかったり、計測が面倒なものも存在している。
【0007】
本発明は、入力が容易な初期値を用いて生育を予測し、品種選定又は栽培管理を支援する情報を出力することができる農業支援プログラム、農業支援方法及び農業支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一つの態様では、農業支援プログラムは、農作物の苗の葉数の初期値前記苗の重さの初期値、及び前記農作物の品種の入力を受け付け、記憶部から、受け付けた品種の特徴を示すパラメータを読み出し、前記農作物の栽培環境に関する情報を取得し、前記苗の葉数の初期値及び前記苗の重さの初期値に基づいて各葉の葉面積を算出し、前記パラメータと、前記栽培環境に関する情報と、に基づいて、前記品種ごとの生育モデルを作成し、作成した前記品種ごとの生育モデルに算出した前記各葉の葉面積を入力することにより、前記品種ごとの生育を予測し、前記予測により得られた予測結果を品種選定又は栽培管理を支援する情報として出力する、処理をコンピュータに実行させるプログラムである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の農業支援プログラム、農業支援方法及び農業支援装置は、入力が容易な初期値を用いて生育を予測し、品種選定又は栽培管理を支援する情報を出力することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態に係る農業システムの構成を示す図である。
図2図2(a)は、図1の利用者端末のハードウェア構成を示す図であり、図2(b)は、図1のサーバのハードウェア構成を示す図である。
図3】サーバの機能ブロック図である。
図4】サーバの処理を示すフローチャートである。
図5】生育モデルの概要を示す図である。
図6】シミュレーションにおける作物サイズの変化を概念的に示す図である。
図7】葉や茎について、生育段階と大きさの関係を相対値で示したものである。
図8】シミュレーションに使用する気象データの一例を示す図である。
図9】シミュレーションで用いるパラメータの一例を示す図である。
図10図10(a)、図10(b)は、本シミュレーションにおける葉の成長過程と果実の成長過程を概念的に示す図である。
図11】シミュレーション結果を表示する画面を示す図(その1)である。
図12】シミュレーション結果を表示する画面を示す図(その2)である。
図13図13(a)、図13(b)は、シミュレーション結果を表示する画面を示す図(その3)である。
図14】シミュレーション結果を表示する画面を示す図(その4)である。
図15】更新部の処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、農業システムの一実施形態について、図1図15に基づいて詳細に説明する。図1には、一実施形態に係る農業システム100の構成が概略的に示されている。本実施形態の農業システム100は、農家等(以下「生産者」と呼ぶ)がトマト、イチゴ、キュウリ、パプリカなどの果菜類を栽培する際に、生産者に対して栽培品種の選択や栽培管理を支援する情報を提供するためのシステムである。なお、本実施形態では、イチゴを栽培する生産者の場合について説明する。
【0012】
農業システム100は、図1に示すように、農業支援装置としてのサーバ10と、利用者端末70と、を備える。利用者端末70は、生産者が利用するPC(Personal Computer)やタブレット型端末、スマートフォン等の端末である。サーバ10と利用者端末70は、インターネットなどのネットワーク80に接続されており、各装置間において情報のやり取りが可能となっている。
【0013】
利用者端末70は、生産者が入力した情報をサーバ10に対して送信する。図2(a)には、利用者端末70のハードウェア構成が示されている。図2(a)に示すように、利用者端末70は、CPU(Central Processing Unit)190、ROM(Read Only Memory)192、RAM(Random Access Memory)194、記憶部(ここではSSD(Solid State Drive)やHDD(Hard Disk Drive))196、ネットワークインタフェース197、表示部193、入力部195、及び可搬型記憶媒体191の読み取りが可能な可搬型記憶媒体用ドライブ199等を備えている。これら利用者端末70の構成各部は、バス198に接続されている。表示部193は、液晶ディスプレイ等を含み、入力部195は、キーボード、マウス、タッチパネル等を含む。
【0014】
サーバ10は、利用者端末70から情報を取得し、取得した情報に基づいて、イチゴの品種選定や栽培管理を支援する情報を生成し、当該情報を表示する画面を、生産者が利用する利用者端末70に対して出力する装置である。
【0015】
図2(b)には、サーバ10のハードウェア構成が示されている。図2(b)に示すように、サーバ10は、コンピュータとしてのCPU90、ROM92、RAM94、記憶部(ここではSSDやHDD)96、ネットワークインタフェース97、及び可搬型記憶媒体用ドライブ99等を備えている。これらサーバ10の構成各部は、バス98に接続されている。サーバ10では、ROM92あるいはHDD96に格納されているプログラム(栽培補助プログラムを含む)、或いは可搬型記憶媒体用ドライブ99が可搬型記憶媒体91から読み取ったプログラム(栽培補助プログラムを含む)をCPU90が実行することにより、図4に示す各部の機能が実現される。なお、図4の各部の機能は、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等の集積回路により実現されてもよい。
【0016】
図3には、サーバ10の機能ブロック図が示されている。サーバ10においては、CPU90がプログラムを実行することにより、図3に示すように、選択受付部41、環境データ取得部42、栽培情報取得部43、シミュレーション部44、出力部45、更新部46、として機能する。なお、図3には、サーバ10の記憶部96等に格納されている記憶部としてのパラメータDB50についても図示されている。
【0017】
選択受付部41は、生産者が選択した品種(例えば、とちおとめ、こいみのりなど)と栽培地点(例えば、つくば、盛岡、久留米など)の組み合わせの情報を受け付ける。なお、生産者は、品種と地点の組み合わせを1つ選択してもよいし、複数選択してもよい。選択受付部41は、受け付けた情報をシミュレーション部44に送信する。
【0018】
環境データ取得部42は、選択受付部41が受け付けた栽培地点の情報に基づいて、栽培地点における環境データを取得する。なお、環境データ取得部42は、サーバ10内又はサーバ10以外の装置において管理されている過去の気象データや、将来の気象データ(予測データ)の中から、選択された栽培地点に対応するデータを取得する。気象データには、屋外の日射及び気温、ビニールハウス内の日射及び気温、湿度、CO2濃度、地温、土壌水分などのデータが含まれる。環境データ取得部42は、取得したデータをシミュレーション部44に送信する。
【0019】
栽培情報取得部43は、生産者が入力した栽培情報(例えば定植日、栽培密度、土耕/溶液栽培、定植時葉数、定植時苗重量(生体重(gFW))、施肥量、培養液濃度等)を取得する。栽培情報取得部43は、取得した情報をシミュレーション部44に送信する。
【0020】
シミュレーション部44は、選択受付部41が受け付けた品種に対応するパラメータをパラメータDB50から読み出し、読み出したパラメータと、環境データ取得部42及び栽培情報取得部43から送信されてくるデータと、を用いて、生育モデルを作成する。ここで、パラメータDB50に格納されているパラメータは、例えば、図9に示すようなパラメータであり、品種ごとに定められているものとする。そして、シミュレーション部44は、生成した生育モデルを用いて、生産者が選択した品種を、生産者が選択した栽培地点、栽培方法で栽培したときの農作物の生育に関するシミュレーションを実行する。シミュレーション部44のシミュレーションの結果としては、葉面積、花房別の開花日、花房別の収量、果実乾物分配率、光合成量、生育量(茎葉)、生育量(果実)、養分吸収量(施肥量)等が得られる。シミュレーション部44は、シミュレーション結果を出力部45に送信する。
【0021】
出力部45は、シミュレーション部44から受信したシミュレーション結果を表示する画面を生成し、生産者が利用する利用者端末70に対して送信する。このとき、出力部45は、栽培条件(品種・栽培地点・栽培情報の組み合わせ)ごとにシミュレーション結果を纏め、異なる栽培条件のシミュレーション結果を比較可能な状態で表示する画面を生成する。
【0022】
更新部46は、生産者から、実際に栽培した品種の情報や、栽培結果(例えば、葉面積、花房別の開花日、花房別の収量など)を取得する。そして、更新部46は、実際の栽培結果と、シミュレーション結果とが近づくように、パラメータDB50に格納されているパラメータを更新する。なお、更新部46は、実際の栽培結果を入力した生産者に対して予め定められている信頼度に基づいて、当該実際の栽培結果を用いたパラメータの更新を行うか否かを判断することとしてもよい。
【0023】
(サーバ10の処理について)
次に、サーバ10の処理の詳細について説明する。
【0024】
図4には、サーバ10の処理がフローチャートにて示されている。図4の処理では、まず、ステップS10において、選択受付部41は、生産者が利用者端末70上で品種と栽培地点の組み合わせを選択するまで待機する。ここでは、例えば、生産者により、「とちおとめ・つくば」、「とちおとめ・盛岡」、「こいみのり・つくば」、「おいCベリー・つくば」、「さちのか・久留米」の各組み合わせが選択されたものとする。
【0025】
ステップS10の判断が肯定されると、次のステップS12では、選択受付部41は、選択された品種と栽培地点の組み合わせを取得し、環境データ取得部42とシミュレーション部44に送信する。
【0026】
次いで、ステップS14では、環境データ取得部42は、選択受付部41で受け付けられた、生産者によって選択された栽培地点に基づいて、当該栽培地点における気象データ(過去データや予測データ)を取得する。
【0027】
次いで、ステップS16では、栽培情報取得部43は、生産者によって栽培情報(例えば、定植時期、定植密度、土耕/養分栽培、定植時の葉の枚数、定植時の苗の重量)が入力されるまで待機する。生産者が栽培情報を入力すると、ステップS18に移行し、栽培情報取得部43は、入力された栽培情報を取得し、シミュレーション部44に送信する。
【0028】
次いで、ステップS20では、シミュレーション部44は、パラメータDB50に格納されている、生産者によって選択された各品種のパラメータを読み出し、当該パラメータと環境データ取得部42が取得した気象データ、栽培情報取得部43が取得した栽培情報、に基づいて、選択された品種と栽培地点の組み合わせに対応する生育モデルを作成する。
【0029】
そして、シミュレーション部44は、作成した生育モデルを用いてシミュレーションを実行し、各品種が各栽培地点でどのように生育するかを示すシミュレーション結果を得る。シミュレーション部44が作成する生育モデルやシミュレーション結果の詳細については後述する。シミュレーション部44は、シミュレーション結果を出力部45に送信する。
【0030】
次いで、ステップS22では、出力部45が、シミュレーション結果を表示する画面を生成し、利用者端末70に送信する。シミュレーション結果を表示する画面は、例えば、図11図13に示すような画面である。
【0031】
(シミュレーションについて)
以下、シミュレーション部44が実行するシミュレーションについて、詳細に説明する。
【0032】
(1)シミュレーションの基本的な考え方
本実施形態においては、品種間の重要な違いを説明することが可能な生育モデルを利用する。具体的には、図5に示すような、光合成に関する特性、光合成産物の分配、葉の発生と伸長、花の発生と肥大、養分吸収、形態的特性(葉の形状、受光態勢)等を説明することが可能な生育モデルを利用する。なお、本実施形態では、イチゴを対象としたシミュレーションについて説明するが、他の作物への転用できるようにするため、パラメータの意味が明確になるように設計している。
【0033】
(a)成長パターンについて
シミュレーションにおいては、生育モデルに対して日単位で気象データ(日平均気温、および日屋外全天日射量)を与え、作物の器官(根、葉、クラウン、果実)ごとの生育状況を計算する。ここで、作物は実際には、常に生育状態にあり、作物サイズ(根、葉、クラウンのサイズ、果実数など)が常に変化するが、シミュレーションにおいては、0時で作物サイズを固定し、その状態で0~24時までの気温、日射を受けると仮定している。この仮定による誤差を減らしたい場合には、シミュレーションの計算間隔(本シミュレーションの計算間隔は1日)を短くするなどすればよい。
【0034】
本シミュレーションでは、N日目の計算を行う場合、N日0時にその日の作物サイズを決定する。すなわち、本シミュレーションでは、作物がN日目0~24時に気温、日射量を受け取るための状態(相対受光率:葉面積指数から求められる値)、および分配率(当日生成される光合成産物を葉、クラウン、花房、根の各器官に分配する割合)が固定されていることを意味している。そして、本シミュレーションでは、N日目24時の時点で、当日(N日目)の気温、日射量、CO2濃度により、光合成量が計算され、その値から作物の成長計算により作物サイズが変化する。図6には、本シミュレーションにおける作物サイズの変化が概念的に示されている。なお、本シミュレーションにおいては、生産者が入力した定植時の葉の枚数(葉数)と、定植時の苗の重量(生体重)とを用いて、定植時の各葉の葉面積を算出するとともに、定植時の苗全体の葉面積を算出する。これにより、計算の1日目の0時における作物サイズ(0日目作物サイズ)を計算する。
【0035】
(b)光合成産物量とサイズの関係
本シミュレーションにおいて、光合成産物を「ソース」と呼び、ソースを生産する器官を「ソース器官」と呼ぶ。ソース器官は、主に葉である。一方、ソースの貯蔵、および消費を行う器官を、「シンク器官」と呼ぶ。シンク器官は、根、クラウン、葉、果実であるが、最も消費量の多いシンク器官は果実である。
【0036】
本シミュレーションでは、作物の成長は主として気温によって決まるとしている。例えば、一枚の葉の成長過程は積算温度を用いて次のように記述する。成長が停止するときの積算温度を1.0、成長を開始時の積算温度を0として、葉の生育段階を積算温度の相対値として示す。これを[Leaf Growth Index]と定義する。
【0037】
ここで、[Leaf Growth Index]に対応する相対的な葉の大きさ(サイズ)を [Leaf Size Index]と定義する(図7)。[Leaf Size Index]は、完全に成長しきった状態の大きさを1.0、発育開始前の大きさを0とする。
【0038】
本シミュレーションでは、葉や果実など生育をシグモイド曲線で近似する。[Leaf Growth Index]と[Leaf Size Index]の関係を式(1)で表す(図7)。xは[Leaf Growth Index]で、S(x)は[Leaf Size Index]である。
【0039】
【数1】
【0040】
N日目の0時の時点と24時の時点におけるS(x)の値の差(図7参照)を、一日当たりの葉の成長増加量の指標値として[Leaf Increase Index]と定義する。花房についても同様に花房の相対成長量[Fruits Increase Index]を定義する。なお、本シミュレーション用のシグモイド曲線の値は、x=0でS(x)=0.007、x=1でS(x)=0.993となるため、x=0以下でS(x)=0、x=1以上でS(x)=1と変更して使用する。
【0041】
(c)シミュレーションモデルの概要
シミュレーションは、気象データ及びパラメータ(定数)に基づいて実行する。シミュレーションに使用する気象データは、図8に示すように、日平均気温(℃)、日屋外全天日射量(MJ/m2)、CO2濃度(ppm)などとする。生産者等のユーザが設定するパラメータの例を図9に示す。本シミュレーションは、日単位で計算が実行され、葉一枚ごと、一花房ごとに計算される値、および作物全体に対して計算される値がある。生育は、作物の器官(葉、クラウン、果実、根、花房)ごとの状態が計算される。
【0042】
(2)シミュレーション方法について
(a)シミュレーションの概要
本シミュレーションは、大きく分けて、「光合成量計算」、「作物成長計算」、「果実収穫量計算」および「養分吸収量」のプロセスから構成される。これらの計算は、各日単位で行う。光合成量計算に使用される変数(相対受光量、分配率)は、計算日0時(計算日前日)における値である。相対受光量は、日射量から作物が光合成に使用する受光量を求めるための変数である。分配率は、その日に作物が合成するソースが各器官(根、葉、クラウン、果実)へ分配される割合である。分配率、およびこれらの値、および当日の気温、日射量により、計算日24時における光合成量が計算される。そして、光合成量をもとに計算日24時における作物の成長度が計算される。作物の成長量計算は、(a)分配量計算、(b)葉面積計算、(c)着果数計算、(d)果実乾物重量計算、(e)分配率計算に分かれる。
【0043】
なお、本明細書においては、変数名に付した下付き添字Nは、N日24時の結果を示すものとする。また、葉一枚ごとに計算する変数には下付き添字M(葉の順位)、花房ごとに計算する変数には下付き添字F(花房順位)を付すものとする。また、式で使用する変数、定数は、[]を付して示すものとする。なお、本シミュレーションでは、計算1日目0時の値を「初期値」とする。
【0044】
(b)作物成長過程
本シミュレーションでは、作物の成長は、前の葉、前の花房順位(葉や花房の発生順序。発生が早いほど順位は小さい)との関係、および積算温度により決定する。図10(a)、図10(b)は、本シミュレーションにおける葉と花房の成長過程を概念的に示す図である(以下に記載した数値は、架空の品種を想定した架空の値であり、実際の値ではない)。図10(a)に示すように、葉は、前の葉の成長開始時を起点として、積算温度が150℃になってから、次の葉の成長が開始する。この成長開始時を起点として、積算温度が450℃になった時点で葉の成長が終了する。一方、花房は、図10(b)に示すように、前順位花房の花芽分化開始時を起点として、積算温度が600℃になってから、次花房の花芽分化が開始する。この花芽分化を起点として、積算温度が600℃になった時点で開花期となり、花房を構成する果実の肥大が開始する。更に、開花時を起点として、積算温度が600℃になった時点で花房の成長が終了する。また、図10(b)に示すように、花芽分化開始からの積算温度150℃までの期間が花数決定期間であり、この期間の条件で着果数が決定する。
【0045】
(c)光合成量計算
光利用効率LUE(gDW/MJ)は、受光量あたりの作物全体の乾物生産量を示す値である。気温またはCO2濃度の関数として与えられる。
【0046】
またハウス内の日射量[ハウス内全天日射量](MJ/m2)は、[屋外全天日射量](MJ/m2)にそのハウスの[日射透過率](定数)を乗じて求める(式(2))。
[ハウス内全天日射量]N=[日射透過率]・[屋外全天日射量]N …(2)
【0047】
また、作物が光合成に使用する[受光量](MJ/m2)は、次式(3)で求める。なお、相対受光率は、前日の葉面積から求められる値が用いられる。
[受光量]N=[相対受光量](N-1)・[ハウス内全天日射量]N …(3)
【0048】
更に、単位面積当たりの作物全体の光合成量である[乾物生産量](gDW/m2)は、次式(4)で求める。
[乾物生産量]N=[受光量]N・[LUE]N …(4)
【0049】
また、作物1株当たりの光合成量である[光合成量](gDW/株)は、単位面積当たりの作物株数(定数)である[Plant Density](株/m2)を用い、次式(5)で求める。
[光合成量]N=[乾物生産量]N/[Plant Density] …(5)
【0050】
また、後で行う葉面積計算では、葉の乾物重量当たりの葉面積である比葉面積(Specific Leaf Area)である[SLA](m2/gDW)を用いる。[SLA]Nは気温の関数として表す。
【0051】
(3)作物成長計算について
(a)分配量計算
分配量計算では、生産された光合成量の各器官への分配量を求める。分配量は、作物全体の値として計算され、基本的に光合成量と分配率により求められるが、花房が受け取れるソースの最大値(分配量最大値)として[花房ポテンシャル成長量](gDW/株)を設定し補正を行う。[花房ポテンシャル成長量]は、次式(6)で求めることができる。なお、式(6)の[花房成長量係数](gDW/(株・℃))は、気温1℃に対し一花房が受けとれるソースの最大値示す係数であり、[Total Fruits Increase Index]は、全花房の相対成長量の合計値である。
[花房ポテンシャル成長量]N
=[花房成長量係数]・[気温]N・[Total Fruits Increase Index]N-1…(6)
【0052】
分配量は、3段階で計算する。このため、最初の2段階の変数には(1)、(2)を付し、最終結果と区別して表記するものとする。光合成量、分配量の単位は(gDW/株)である。[葉分配量(1)]、[クラウン分配量(1)]、[花房分配量(1)]、[根分配量(1)](gDW/株)は、前日(当日0時)の分配率に従い、当日0~24時の光合成量が各器官に割り振られるとして、次式(7A)~(7D)にて求める。
[葉分配量(1)]N=[葉分配率]N-1・[光合成量]N …(7A)
[クラウン分配量(1)]N=[クラウン分配率]N-1・[光合成量]N …(7B)
[花房分配量(1)]N=[花房分配率]N-1・[光合成量]N …(7C)
[根分配量(1)]N=[根分配率]N-1・[光合成量]N …(7D)
【0053】
また、[葉分配量(2)]、[クラウン分配量(2)]、[根分配量(2)](gDW/株)は、花房分配量が花房ポテンシャル成長量を超えないように以下のように補正する。
[葉分配量(2)]N=[葉分配量(1)]N …(7A)’
[クラウン分配量(2)]N=[クラウン分配量(1)]N …(7B)’
[根分配量(2)]N=[根分配量(1)]N …(7D)’
【0054】
なお、[花房分配量(2)]については、[花房分配量(1)]N<[花房ポテンシャル成長量]Nであれば、
[花房分配量(2)N=[花房分配量(1)]N …(7C1)’
とし、その他の場合には、
[花房分配量(2)]N=[花房ポテンシャル成長量]N …(7C2)’
とする。
【0055】
ここで、花房ポテンシャル成長量を超えたため、花房に分配されなかった光合成量である[余剰乾物量](gDW/株)は、次式(8)にて表される。
[余剰乾物量]N=([葉分配量(1)]N+[クラウン分配量(1)]N+[花房分配量(1)]N+[根分配量(1)]N)-([葉分配量(2)]N+[クラウン分配量(2)]N+[花房分配量(2)]N+[根分配量(2)]N) …(8)
【0056】
余剰乾物量を花房以外に再配分し、それぞれの分配量を次式(9A)~(9D)により求める。
[葉分配量]N=[葉分配量(2)]N+[葉余剰分配率]・[余剰乾物量]N
…(9A)
[クラウン分配量]N
=[クラウン分配量(2)]N+[クラウン余剰分配率]・[余剰乾物量]N
…(9B)
[花房分配量]N=[花房分配量(2)]N …(9C)
[根分配量]N=[根分配量(2)]N+[根余剰分配率]・[余剰乾物量]N…(9D)
【0057】
(b)葉面積計算
葉面積計算では葉一枚ごとに面積、および葉、クラウンの乾物重量(DW)を計算する。まず、葉の生育段階を積算温度の相対値として示す[Leaf Growth Index](無次元)を次式(10A)で求める。なお、Mは葉の順位である。
[Leaf Growth Index]M,N
={[積算温度]N-(M-1)・150}/450 …(10A)
【0058】
葉のサイズ指数である[Leaf Size Index](無次元)を次式(10B)で計算する。なお、[Leaf Size Index]の初期値は、ゼロとする。
【0059】
【数2】
【0060】
また、前日24時(当日0時)から当日24時における葉のサイズ指数変化から、葉の成長量指数である[Leaf Increase Index](無次元)を次式(11)で求める。
[Leaf Increase Index]M,N
=[Leaf Size Index]M,N-[Leaf Size Index]M,N-1 …(11)
【0061】
また、全ての葉の[Leaf Increase Index]の総計を[Total Leaf Increase Index]とし、[Total Leaf Increase Index]を次式(12)から求める。なお、NLは、葉数を意味する。
【0062】
【数3】
【0063】
そして、これらの値を用い、葉の乾物重量である[Leaf DW](gDW/株)を次のように計算する。
[Leaf DW]M,N=[Leaf DW]M,N-1+[Leaf ΔDW]M,N …(13A)
なお、[Leaf ΔDW]M,Nは、次式(13B)で表される。
[Leaf ΔDW]M,N
=[葉分配量]M,N・[Leaf Increase Index]M,N/[Total Leaf Increase Index]N
…(13B)
【0064】
なお、[Leaf DW]の初期値(すなわち、計算1日目の0時の[Leaf DW]M,Nの値([Leaf DW]M,1))は下記のように計算し、設定するものとする。
【0065】
まず、計算1日目の0時の葉の生育段階を積算温度の相対値として示す[Leaf Growth Index]M,1を次式(13C)から算出する。なお、Mは葉の順位である。
[Leaf Growth Index]M,1=150×{INL-(M-1)}/450
…(13C)
ここで、INLは、定植時(計算1日目)の葉数を意味し、生産者が入力する値である。
【0066】
例えば、定植時に5枚の葉があった場合の、順位2の葉の[Leaf Growth Index]2,1は、上式(13C)より、150×{5-(2-1)}/450≒1.3となる。また、定植時に5枚の葉があった場合の、順位3の葉の[Leaf Growth Index]3,1は、上式(13C)より、150×{5-(3-1)}/450=1となる。
【0067】
そして、[Leaf DW]の初期値([Leaf DW]M,1)は、次式(13D)、(13E)から求める。
[IW’]=[IW]×α …(13D)
[Leaf DW]M,1=[IW’]×β×([Leaf Growth Index]M,1/[Total Leaf Growth Index]M,1) …(13E)
【0068】
ここで、上式(13D)の[IW]は、定植時(計算1日目)の苗の重さ(生体重(gFW))を意味し、生産者が入力する値である。また、αは、生産者が入力した苗の重さ(生体重(gFW))を乾物重量(gDW)に換算する係数である。上式(13E)のβは、苗の重さのうち葉の重さの割合を示す係数であり、予め品種ごとに定められている値である。また、[Total Leaf Growth Index]M,1は、全ての葉(5枚)の[Leaf Growth Index]の総計であり5となる。
【0069】
例えば、[IW]が15.0gFWであり、αが0.2、βが0.9であったとする。この場合に、前述した定植時に5枚の葉があったときの順位2の葉の[Leaf DW]3,1は、
[IW’]=15.0×0.2=3.0
[Leaf DW]3,1=3.0×0.9×(1.3/5)≒0.7となる。
また、定植時に5枚の葉があったときの順位3の葉の[Leaf DW]3,1は、
[Leaf DW]3,1=3.0×0.9×(1/5)≒0.54となる。
【0070】
また、クラウンは、葉1枚増加と同時にクラウンが一定割合増加するとみなし、乾物重量である[Stem DW](gDW/株)を[Leaf DW]と同様、以下のように求める。
[Stem DW]M,N=[Stem DW]M,N-1+[Stem ΔDW]M,N …(14A)
なお、[Stem ΔDW]M,Nは、次式(14B)で表される。
[Stem ΔDW]M,N
=[クラウン分配量]M,N・[Leaf Increase Index]M,N/[Total Leaf Increase Index]N …(14B)
なお、[Stem DW]の初期値(すなわち、計算1日目の0時の[Stem DW]M,Nの値([Stem DW]M,1))は次式(14C)から計算するものとする。
[Stem DW]M,1=[IW’]×(1-β) …(14C)
なお、上式(14C)の[IW’]、βは、上式(13E)と同じ値である。すなわち、[IW’]は、定植時(計算1日目)の苗の乾物重量を意味し、生産者が入力する値(生体重)を乾物重に換算した値である。また、βは、苗の重さのうち葉の重さの割合を示す係数であり、予め品種ごとに定められている値である。
【0071】
葉面積[Leaf Area](m2/株)は、比葉面積[SLA](m2/ gDW)を用い、次式(15A)にて求める。
[Leaf Area]M,N=[Leaf Area]M,N-1+[SLA]N・[葉分配量]M,N・[Leaf Increase Index]M,N/[Total Leaf Increase Index]N …(15A)
【0072】
なお、[Leaf Area]の初期値(すなわち、計算1日目の0時の[Leaf Area]M,Nの値([Leaf Area]M,1))は次式(15B)から計算するものとする。
[Leaf Area]M,1=[Leaf DW]M,1×[SLA]1 …(15B)
なお、上式(15B)の[SLA]1は、1日目の比葉面積である。
【0073】
また、作物に着生している葉の面積[Leaf Area]の総計を[Total Leaf Area(1)](m2/株)とすると、[Total Leaf Area(1)]は、次式(16)から求められる。
【0074】
【数4】
【0075】
更に、光合成量計算に用いる葉のパラメータを計算する。
【0076】
まず、単位土地面積当たりの葉の面積である葉面積指数[LAI](無次元)については、土地面積当たりの作物株数である[Plant Density](株/m2)を用いて、次式(17)から求める。
[LAI]N=[Total Leaf Area]N・[Plant Density] …(17)
【0077】
また、土地面積当たりの日射量に対し、作物が受光する日射量の比を表す[相対受光量](無次元)は、吸光係数である[K](無次元)、および前日の葉面積指数を用いて、次式(18)から求める。なお、吸光係数は、群落内部への光の届きやすさを表わす係数である。
[相対受光量]N=1-exp(-[K]・[LAI]N) …(18)
【0078】
(c)着果数計算
着果数は、作物の花芽分化が開始した翌日から開始する特定期間(花数決定期間)の光合成量(期間乾物生産量)、及び期間乾物生産量と着果数の関係式から、花房ごとに求められる。花芽分化は、花房順位の順番で発生し、1つ少ない花房順位(前順位花房)が分化してから、一定量の気温が蓄積しないと、次の花房順位が分化しないものとする。
【0079】
分化が開始したことを表す[分化開始Index]は、以下で説明する[分化条件判定A](℃)、および[分化条件判定B]により決定する。ここで、[花芽分化期積算温度](℃)は、[分化開始Index]が最初に1になった日の積算温度とし、それ以前は-1.0とする。
【0080】
本シミュレーションでは、上記[花芽分化期積算温度]の値をもとに、以下のようにして、前順位花房の花芽分化が開始した翌日からの積算温度が一定値(例えば600℃)を超えたかどうかを判定する指標である[分化条件判定A]を求める。なお、600℃という値は、花房と花房の間には当該品種では通常4枚の葉が発生するため、葉が1枚発生するのに必要な積算温度を150℃として設定している。式中のFは花房順位を示す。
[分化開始Index]F-1,N=1の場合、
[分化条件判定A]F,N
=[積算温度]N-([花芽分化期積算温度]F-1,N+600) …(19A)
その他の場合、
[分化条件判定A]F,N=-1.0 …(19B)
と求める。
【0081】
また、光合成量が花芽分化可能な状態にあるかの判定指標である[分化条件判定B](gDW/株)を次式(20)から求める。
[分化条件判定B]N=([光合成量]のN-6~N日平均値) …(20)
【0082】
なお、花芽分化が開始したことを示す[分化開始Index]は、一旦1になった場合、それ以降は1になるようにする。
すなわち、[分化開始Index]F,N-1=1であれば、
[分化開始Index]F,N=1 …(21A)
0.0≦[分化条件判定A]F,N、かつ1.0<[分化条件判定B]Nであれば、
[分化開始Index]F,N=1 …(21B)
その他の場合には、
[分化開始Index]F,N=0 …(21C)
とする。
【0083】
また、上式(19A)の[花芽分化期積算温度]は、[分化開始Index]の前日値が0、かつ当日値が1となった日の積算温度である。なお、[花芽分化期積算温度]の初期値は-1.0とし、一旦[花芽分化期積算温度]が設定された後は、同じ値とする。初期値を負値に設定するのは、花芽分化期開始以降の[花芽分化期積算温度]を正値、それより前を負値として区分するためである。この正負値による区分は、開花期積算温度でも同様に行う。
すなわち、[分化開始Index]F,N-1=0、かつ[分化開始Index]F,N=1であれば、
[花芽分化期積算温度]F,N=[積算温度]N …(22A)
その他の場合には、
[花芽分化期積算温度]F,N=[花芽分化期積算温度]F,N-1 …(22B)
である。
【0084】
更に、本シミュレーションでは、花芽分化開始後の積算温度が0~150℃の範囲にある期間を花数決定期間とし、花数決定期間であるかを示す指標となる[花数決定期間Index(1)](無次元)を以下のようにして求める。なお、花数決定期間は、葉が1枚展開する期間と定義し、1枚当たりの積算温度を150℃と仮定して、花数決定期間の積算温度を150℃としている。
すなわち、[分化開始Index]F,N=0であれば、
[花数決定期間Index(1)]F,N=-1.0 …(23A)
その他の場合には、
[花数決定期間Index(1)]F,N
=([積算温度]N-[花芽分化期積算温度]F,N)/150 …(23B)
【0085】
そして、[花数決定期間Index](無次元)は、花芽分化開始からの積算温度が0~150℃の範囲にある場合に1となるように、以下のようにして求められる。
0.0≦[花数決定期間Index(1)]F,N≦1.0であれば、
[花数決定期間Index]F,N=1 …(24A)
その他の場合には、
[花数決定期間Index]F,N=0 …(24B)
【0086】
ところで、花数決定期間における光合成量の積算値である[決定期間光合成量](gDW/株)は、次式(25)にて表される。
[決定期間光合成量]F,N=[決定期間光合成量]F,N-1+[花数決定期間Index]F,N・[光合成量]F,N …(25)
【0087】
そして、[着果数(1)](個/株)は、上式(25)の[決定期間光合成量]、[決定期間乾物生産量当たりの着果数](m2・個/gDW・株)、及び[Plant Density](株/m2)を用いて、次式(26)のように求めることができる。
[着果数(1)]F,N=[決定期間光合成量]M,N・[決定期間乾物生産量当たりの着果数]・[Plant Density] …(26)
【0088】
なお、[着果数](個/株)は、以下のように、1.0~10.0の範囲となるように補正する。
すなわち、[着果数(1)]F,N<1.0であれば、
[着果数]F,N=1.0 …(27A)
1.0≦[着果数(1)]F,N≦10.0であれば、
[着果数]F,N=[着果数(1)]F,N …(27B)
その他の場合には、
[着果数]F,N=10.0 …(27C)
とする。
【0089】
なお、開花期については、花芽分化期からの積算温度が600℃に達した時点とし、その時点での積算温度を[開花期積算温度](℃)としている。なお、600℃という値は、花芽が分化してから葉が4枚で開花し、1枚当たり150℃の積算温度が必要であると仮定して、設定している。なお、開花期積算温度は、花芽分化期積算温度が決定された後にのみ有効になるようにし、初期値を-1.0とする。また、開花期積算温度が一旦設定された後は、同じ値であるものとする。
すなわち、[花芽分化期積算温度]F,N<0であれば、
[開花期積算温度]F,N=-1.0 …(28A)
その他の場合には、
[開花期積算温度]F,N=[花芽分化期積算温度]F,N+600 …(28B)
となる。
【0090】
(d)花房乾物重量計算
花房の相対的生育段階である[Fruits Growth Index](無次元)を以下のようにして求める。開花期積算温度が無効な場合(0未満の場合)は、Fruits Growth Indexの値は-1.0とする。また、Fruits Growth Indexの初期値も-1.0とする。
すなわち、[開花期積算温度]F,N<0であれば、
[Fruits Growth Index]F,N=-1.0 …(29A)
その他の場合には、
[Fruits Growth Index]F,N
=([積算温度]N-[開花期積算温度]F,N)/600 …(29B)
とする。
【0091】
また、 [Fruits Size Index](無次元)を次式(30)により計算する。Fruits Size Indexの初期値は、ゼロとする。
【0092】
【数5】
【0093】
また、前日24時(当日0時)から当日24時における花房の相対的な変化の大きさから、花房の相対的な成長増加量として[Fruits Increase Index(1)](無次元)を次式(31)から求める。
[Fruits Increase Index(1)]F,N
=[Fruits Size Index]F,N-[Fruits Size Index]F,N-1 …(31)
【0094】
ただし、花房は、着果数が10であることを前提にしているため、次式(32)のように補正し、[Fruits Increase Index](無次元)とする。
[Fruits Increase Index]F,N
=([Fruits Increase Index(1)]F,N・[着果数]F,N)/10 …(32)
【0095】
また、全花房の[Fruits Increase Index]の総計を[Total Fruits Increase Index](無次元)とする(次式(33)参照)。なお、NFは、花房数を意味する。
【0096】
【数6】
【0097】
本シミュレーションでは、これらの値を用いて花房乾物重量である[Fruits DW](gDW/株)を求める。なお、基本的には、[Fruits DW]は、[Fruits Growth Index]が1より大きくなった後は、増加しない。また、[Fruits DW]の初期値は、ゼロとする。
[Fruits DW]F,N=[Fruits DW]F,N-1+[Fruits ΔDW]F,N …(34A)
なお、[Fruits ΔDW]F,Nは、次式(34B)で表される。
[Fruits ΔDW]F,N
=[花房分配量]N・[Fruits Increase Index]F,N/[Total Fruits Increase Index]N
…(34B)
【0098】
(e)分配率計算
作物の[分配率](無次元)は、作物成長量をもとに作物全体の値として計算される。分配率は、花房におけるソースの受け取りやすさである[花房シンク強度](無次元)、および全器官のシンク強度の合計である[シンク強度合計]から求められる。
【0099】
解体調査時などの実験データから[Total Fruits Increase Index]、[Total Leaf Increase Index]、[Total Stem Increase Index]の重みづけを行う。[果実分配調整係数]、[葉分配調整係数]、[クラウン分配調整係数]を[α]、[β]、[γ]とした。これらから、花房シンク強度、葉シンク強度、クラウンシンク強度、シンク強度合計を次式から求める。
[花房シンク強度]N=[Total Fruits Increase Index]N・[α]
…(35A)
[葉シンク強度]N=[Total Leaf Increase Index]N・[β] …(35B)
[クラウンシンク強度]N=[Total Stem Increase Index]N・[γ]
…(35C)
[シンク強度合計]N=[花房シンク強度]N+[葉シンク強度]N+[クラウンシンク強度]N +[根シンク強度] …(35D)
【0100】
[花房分配率]、[根分配率]、[葉分配率]、[クラウン分配率](無次元)を次式(36A)~(36D)から求める。
[花房分配率]N=[花房シンク強度]N/[シンク強度合計]N …(36A)
[根分配率]N=0.05 …(36B)
[葉分配率]N=[葉シンク強度]N/[シンク強度合計]N…(36C)
[クラウン分配率]N=[クラウンシンク強度]N/[シンク強度合計]N
…(36D)
【0101】
(4)果実収穫量計算について
本シミュレーションでは、対象の農作物は、花房内において1日で収穫せず、徐々に収穫していくものであることを想定している。収穫が可能であることを示す[収穫開始Index](無次元)は、[Fruits Increase Index]が初めて1.0以上になった翌日以降に1とし、それ以前はゼロとする。初めて[収穫開始Index]が1となった日を収穫開始日とする。[収穫開始Index]は、以下のように表され、初期値はゼロである。
すなわち、[収穫開始Index]F,N-1=1であれば、
[収穫開始Index]F,N=1 …(37A)
[Fruits Source Index]F,N-1≧1.0であれば、
[収穫開始Index]F,N=1 …(37B)
その他の場合には、
[収穫開始Index]F,N=0 …(37C)
となる。
【0102】
ここで、果実の花房ごとの総収穫量は、収穫開始日における[Fruits DW] (gDW/株)である。なお、基本的には、[Fruits DW]は、[Fruits Growth Index]が1より大きくなった後は、増加しないので、収穫開始日以降であれば、同じである。果実1個に対し、積算温度60℃になる期間をかけて収穫するものとし、以下のようにして、気温1℃当たりに収穫する果実の乾物重量である[収穫果実気温DW](gDW/株・℃)を計算する。なお、[収穫果実気温DW]の初期値は-1.0とし、有効な値が一旦設定された後は、同じ値とする。
すなわち、[収穫果実気温DW]F,N-1≧0.0であれば、
[収穫果実気温DW]F,N=[収穫果実気温DW]F,N-1 …(38A)
[収穫開始Index]F,N=1、かつ[着果数]F,N-1>0.0であれば、
[収穫果実気温DW]F,N=[Fruits DW]F,N-1/([着果数]F,N-1・60)…(38B)
その他の場合には、
[収穫果実気温DW]F,N=-1.0 …(38C)
と計算する。
【0103】
そして、計算日における収穫作業前の収穫可能な果実乾物重量を[Fruits unHarvest](gDW/株)とし、[Fruits unHarvest]を以下のようにして求める。なお、[Fruits unHarvest]は、収穫開始日に前日の[Fruits DW]が与えられ、それ以降は収穫された分が減少していく。また、[Fruits unHarvest]の初期値は-1.0とし、収穫期間前後の値も-1.0である。
すなわち、[Fruits unHarvest]F,N-1≧0.0であれば、
[Fruits unHarvest]F,N
=[Fruits unHarvest]F,N-1-[Fruits HARVEST]F,N-1 …(39A)
[収穫開始Index]F,N-1=0、かつ[収穫開始Index]F,N=1であれば、
[Fruits unHarvest]F,N=[Fruits DW]F,N-1 …(39B)
その他の場合には、
[Fruits unHarvest]F,N=-1.0 …(39C)
となる。
【0104】
なお、収穫期間開始後、かつ収穫可能な果実がある場合には、以下のようにして、収穫された果実乾物重量である[Fruits HARVEST](gDW/株)が計算される。
すなわち、[収穫開始Index]F,N=1、かつ[Fruits unHarvest]F,N>0.0の場合、
[Fruits HARVEST]F,N
=min([収穫果実気温DW]F・[気温]N,[Fruits unHarvest]F,N) …(40A)
その他の場合には、
[Fruits HARVEST]F,N=0.0 …(40B)
【0105】
また、全花房の[Fruits HARVEST]総計を[果実収穫乾物重量](gDW/株)とすると、[果実収穫乾物重量]は、次式(41)にて表すことができる。
【0106】
【数7】
【0107】
この[果実収穫乾物重量]を[果実乾物率](g/gDW)で除すことで、次式(42)のように、[果実収穫生体重量](g/株)が求められる。
[果実収穫生体重量]N=[果実収穫乾物重量]N/[果実乾物率] …(42)
【0108】
そして、[果実収穫生体重量]に[圃場株数](株)を乗じることで、次式(43)のように、圃場全体の収量である[圃場果実収穫生体重量](kg)が求められる。
[圃場果実収穫生体重量]N
=0.001・[果実収穫生体重量]N・[圃場株数] …(43)
【0109】
シミュレーション部44は、環境データやパラメータを用いて上述したような生育モデルを作成し、当該生育モデルを用いて、生産者が選択した品種、栽培地点、栽培情報の組み合わせごとに生育に関するシミュレーションを実行する。そして、各組み合わせのシミュレーション結果(シミュレーションにより得られる値)を出力部45に送信する。なお、シミュレーション部44は、品目や品種に応じたパラメータを用いることで、イチゴ以外、例えばトマト、イチゴ、キュウリ、パプリカなどの果菜類のシミュレーションを行うことも可能である。
【0110】
(5)養分吸収量計算
葉、クラウン、果実、根の乾物増加量に養分含有率を乗じて、養分吸収量を求める。ここではN(窒素)を例として記載するが、他の元素でも同様な計算で求めることができる。
[Leaf ΔN]M,N=[Leaf ΔDW]M,N×[Leaf N%]M,N …(44A)
[Stem ΔN]M,N=[Stem ΔDW]M,N×[Stem N%]M,N …(44B)
[Fruits ΔN]F,N=[Fruits DW]F,N×[Fruits N%]F,N …(44C)
[Root ΔN]M,N=[Root DW]M,N×[Root N%]M,N …(44D)
【0111】
なお、上式(44A)の[Leaf ΔN]M,Nが葉の養分吸収量であり、[Leaf ΔDW]M,Nが葉の乾物増加量であり、[Leaf N%]M,Nが葉の養分含有率である。その他の式(44B)~(44D)も同様である。
【0112】
ここで、養分含有率([Leaf N%]M,N等)はその器官の生育段階(Growth index)の関数として、例えば以下の式で表される。なお、β、γは定数である。
[Leaf N%]M,N=βL×ln([Leaf Growth Index]M,N)+γL …(45A)
[Stem N%]M,N=βS×ln([Stem Growth Index]M,N)+γS …(45B)
[Fruits N%]F,N=βF×ln([Fruits Growth Index]F,N)+γF …(45C)
[Root N%]M,N=γR …(45D)
【0113】
また、葉、クラウン、花房、根の各養分吸収量は、以下の式で表される。
【0114】
【数8】
【0115】
更に、株あたりの養分吸収量[Total ΔN]Nは以下の式(47)にて表される。
[Total ΔN]N
=[Total Leaf ΔN]N+[Total Stem ΔN]N+[Total Fruits ΔN]N+[Total Root ΔN]N
…(47)
【0116】
なお、[Total ΔN]Nは株あたりの乾物重の増加量から推定した「養分吸収量」である。これに栽植密度を乗じて「面積当たりの養分吸収量」とすることができる。更に、「養分吸収量」を[肥料利用効率]で除することによって、「施肥量」とすることもできる。
【0117】
(出力部45の処理について)
出力部45は、シミュレーション部44から送信されてくるシミュレーション結果を受け付けると、シミュレーション結果を表示する画面を生成する。例えば、出力部45は、シミュレーション結果として、図11に示すような情報を表示する画面を生成する。この場合、利用者端末70の表示部193上には、図11の画面が表示されるので、生産者は、どの品種をどの栽培地点でどのように栽培すると、どのように生育するのか、どの程度の収量が得られるのかを確認することができる。また、複数の品目を異なる栽培条件で栽培したときのシミュレーション結果を並べて表示するため、生産者は、品種や栽培条件を異ならせた場合にどのような栽培結果が得られるのかを比較することができる。
【0118】
また、出力部45は、例えば、生産者が選択した品種を選択した栽培地点で栽培したときの花房別出荷量を示す、図12に示すような画面を生成し、利用者端末70に出力することもできる。生産者は、図12の画面を参照することで、頂花房、第2花房、第3花房…における収穫量の推移を確認することができる。なお、図12においては、各花房の収穫量を別々のグラフに表示しているが、各グラフを1つのグラフにまとめて表示することとしてもよい。この場合、各花房の収穫量を示す棒グラフを色分け表示等して、わかりやすく表示してもよい。更に、出力部45は、例えば図13(a)に示すように、総収量の推移をグラフ表示してもよいし、図13(b)に示すように、LAIの推移をグラフ表示してもよい。また、その他の生育に関する情報(例えば、葉面積、花房別の開花日、光合成量、生育量(クラウン、葉、果実、着果負担)、養分吸収量(施肥量)など)を数値表示したり、グラフ表示してもよい。
【0119】
また、出力部45は、例えば図14に示すように、ある栽培地点で品種A、B、Cを栽培したときの、葉、クラウン、各花房の乾物重の推移のシミュレーション結果を表示することとしてもよい。
【0120】
以上のように、出力部45は、図11に示すように、品種、栽培地点、栽培情報の組み合わせごとにシミュレーション結果を比較可能に表示してもよいし、図12図13(b)に示すように、ある品種をある栽培地点で栽培したときのシミュレーション結果を表示してもよい。また、図14に示すように、同一の栽培地点で異なる品種を栽培した場合のシミュレーション結果を比較可能に表示してもよい。更に、異なる栽培地点である品種を栽培した場合のシミュレーション結果を比較可能に表示してもよい。いずれにしても、従来のように品種の特徴を言葉や画像、平均値などで表現したカタログと比べ、品種の特徴を適切に表現することが可能となっている。したがって、生産者は、シミュレーション結果を確認することで、品種や栽培地点の選定を適切に行うことができる。また、将来において農作物がどのように生育するのかを把握することができるため、栽培管理(作業者の確保、資材等の調達など)を適切に行うことができる。
【0121】
(更新部46の処理について)
更新部46は、生産者から、収量の推移やLAIの推移などの実測値(実際の栽培結果)が入力された場合に、当該実測値と、対応するシミュレーション結果とを比較し、シミュレーション結果が実測値に近づくように、各種パラメータを調整し、更新する。このようにすることで、実測値に基づいてパラメータが適切に更新されるため、次回以降のシミュレーションにおいて、適切なシミュレーション結果を得ることができるようになる。
【0122】
なお、全ての生産者から入力される情報に基づいて、パラメータを更新すると、パラメータが適切に更新されないおそれがある。このため、更新部46は、予め定めた生産者(信頼度の高い生産者)から情報が入力されたときにのみ、入力された情報に基づいてパラメータを更新するようにしてもよい。この場合、更新部46は、図15に示すようなフローチャートに沿った処理を実行する。
【0123】
図15の処理では、まず、ステップS30において、更新部46は、生産者が利用者端末70を介して、実際の栽培結果(実測値)を入力するまで待機する。そして、実際の栽培結果が入力されると、ステップS32に移行し、更新部46は、予め定められた生産者(信頼度の高い生産者)からの入力であったか否かを判断する。このステップS32の判断が否定された場合には、そのまま図15の全処理を終了するが、肯定された場合には、ステップS34に移行する。ステップS34に移行した場合、更新部46は、シミュレーション結果が、実際の栽培結果に近づくようにパラメータを更新し、パラメータDB50に格納し、図15の全処理を終了する。
【0124】
なお、更新部46は、ある生産者から入力された情報を用いてパラメータを更新した場合には、更新後のパラメータを当該生産者専用のパラメータとして管理するようにしてもよい。これにより、各生産者が、実際の栽培結果に合わせて、パラメータをカスタマイズすることができるようになる。なお、ある生産者が別の生産者のパラメータを呼び出して利用できるようにしてもよい。
【0125】
なお、生産者は、パラメータを直接修正してもよい。生産者がパラメータを修正した場合には、更新部46は、パラメータDB50を修正内容に応じて更新するようにすればよい。
【0126】
これまでの説明から分かるように、本実施形態のシミュレーション部44は、農作物の品種ごとの特徴を示すパラメータを記憶部(パラメータDB50)から読み出す読み出し部として機能する。また、本実施形態のシミュレーション部44は、読み出したパラメータと、栽培環境に関する情報(環境データ)と、に基づいて、品種ごとの生育モデルを作成し、品種ごとの生育モデルから、品種ごとの生育に関する予測を実行する予測部として機能する。
【0127】
以上、詳細に説明したように、本実施形態によると、シミュレーション部44は、農作物の苗の葉数の初期値及び苗の重さ(生体重)の初期値の入力を受け付け、農作物の品種ごとの特徴を示すパラメータをパラメータDB50から読み出し、環境データ取得部42から、生産者が選択した栽培地点に対応する環境データを取得する。また、シミュレーション部44は、苗の葉数の初期値及び苗の重さの初期値と、取得した環境データと、読み出したパラメータと、に基づいて、品種ごとの生育モデルを作成し、作成した生育モデルを用いてシミュレーションを実行する。そして、出力部45は、シミュレーション結果を品種選定や栽培管理を支援する情報として出力する。このように、本実施形態では、品種ごと及び栽培地点ごとに作成した生育モデルに苗の葉数の初期値及び苗の重さの初期値を投入して農作物の生育に関するシミュレーションを行った結果を品種選定や栽培管理を支援する情報として表示するため、従来のように品種の特徴を言葉や画像、平均値などで表現したカタログと比べ、品種の特徴を適切に表現することが可能である。したがって、生産者は、品種や栽培地点の選定を適切に行うことができるとともに、将来においてどのように生育するのかを把握することができるため、栽培管理を適切に行うことができる。また、苗の葉数や苗の重さの初期値は、生産者が簡易且つ正確に把握しやすい値であるため、計測ミスや入力ミス等の発生が低減され、精度よくシミュレーションを行うことが可能である。
【0128】
また、本実施形態では、シミュレーション部44は、苗の葉数の初期値INLに基づいて、計算1日目の各葉の出葉日からの積算温度を推定し、積算温度に基づいて各葉の成長量として[Leaf Growth Index]M,1を算出する(上式(13C))。また、シミュレーション部44は、苗の重さ(生体重)の初期値[IW]と、算出した[Leaf Growth Index]M,1と、に基づいて、計算1日目の各葉の葉面積[Leaf Area]M,1を算出する(上式(13D)、(13E)(15B))。そして、シミュレーション部44は、算出した各葉の葉面積[Leaf Area]M,1を、品種ごとの生育モデルに投入する。これにより、苗の葉数の初期値及び苗の重さの初期値から、計算1日目の各葉の葉面積を簡易に計算することができるため、生産者が計算1日目の各葉の葉面積を入力しなくてもよくなる。
【0129】
また、本実施形態では、シミュレーション部44は、計算1日目より後の環境データに基づいて各葉及び各果房の成長量を推定し、推定した各成長量に基づいて各成長量の総和と該総和に対する各成長量の割合を算出するとともに、算出した結果と環境データとに基づいて乾物分配量を推定する。これにより、計算1日目以降のシミュレーションを精度よく行うことができる。
【0130】
また、本実施形態では、更新部46は、生産者が入力した実際の栽培結果(収量等)に基づいて、パラメータを更新して、パラメータDB50を更新する。これにより、栽培実績に基づいてパラメータを適切な値に更新することができる。この場合、更新部46は、シミュレーション結果が栽培実績に近づくように、パラメータを更新することで、シミュレーションの精度を向上することができる。
【0131】
また、本実施形態では、更新部46は、生産者が予め定められた生産者(信頼度が所定以上の生産者)である場合(S32:肯定)に、当該生産者が入力した栽培実績に基づいてパラメータを更新する(S34)。これにより、パラメータの更新が適切に行われる可能性を高めることができる。
【0132】
また、本実施形態では、出力部45は、生産者が選択した品種、栽培地点、栽培情報の組み合わせごとにシミュレーションを行い、シミュレーション結果を比較可能に出力する。これにより、生産者は、複数の品種、栽培地点、栽培情報の組み合わせごとのシミュレーション結果を比較して、どの品種をどのように栽培すべきかを判断することができる。
【0133】
なお、上記実施形態では、サーバ10が更新部46を備える場合について説明したが、これに限られるものではない。すなわち、サーバ10は、更新部46を備えていなくてもよい。
【0134】
なお、上記実施形態では、本発明の農業支援装置の機能をサーバ10が有する場合について説明したが、これに限らず、利用者端末70が農業支援装置の機能を有していてもよい。すなわち、スタンドアローンの利用者端末70が単独で動作することで、上記処理を実現することとしてもよい。
【0135】
なお、上記の処理機能は、コンピュータによって実現することができる。その場合、処理装置が有すべき機能の処理内容を記述したプログラムが提供される。そのプログラムをコンピュータで実行することにより、上記処理機能がコンピュータ上で実現される。処理内容を記述したプログラムは、コンピュータで読み取り可能な記憶媒体(ただし、搬送波は除く)に記録しておくことができる。
【0136】
プログラムを流通させる場合には、例えば、そのプログラムが記録されたDVD(Digital Versatile Disc)、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)などの可搬型記憶媒体の形態で販売される。また、プログラムをサーバコンピュータの記憶装置に格納しておき、ネットワークを介して、サーバコンピュータから他のコンピュータにそのプログラムを転送することもできる。
【0137】
プログラムを実行するコンピュータは、例えば、可搬型記憶媒体に記録されたプログラムもしくはサーバコンピュータから転送されたプログラムを、自己の記憶装置に格納する。そして、コンピュータは、自己の記憶装置からプログラムを読み取り、プログラムに従った処理を実行する。なお、コンピュータは、可搬型記憶媒体から直接プログラムを読み取り、そのプログラムに従った処理を実行することもできる。また、コンピュータは、サーバコンピュータからプログラムが転送されるごとに、逐次、受け取ったプログラムに従った処理を実行することもできる。
【0138】
上述した実施形態は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施可能である。
【符号の説明】
【0139】
10 サーバ(農業支援装置)
42 環境データ取得部
44 シミュレーション部(処理部)
45 出力部
50 パラメータDB(記憶部)
100 農業システム
図1
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