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特許7523870熱伝導性シリコーン組成物及びその硬化物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-19
(45)【発行日】2024-07-29
(54)【発明の名称】熱伝導性シリコーン組成物及びその硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20240722BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20240722BHJP
   C08L 83/06 20060101ALI20240722BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20240722BHJP
   C08K 5/3495 20060101ALI20240722BHJP
   C08G 77/50 20060101ALI20240722BHJP
【FI】
C08L83/07
C08L83/05
C08L83/06
C08L83/04
C08K5/3495
C08G77/50
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021093349
(22)【出願日】2021-06-03
(65)【公開番号】P2022185620
(43)【公開日】2022-12-15
【審査請求日】2023-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塚田 淳一
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-070442(JP,A)
【文献】特開平09-141107(JP,A)
【文献】国際公開第2018/079309(WO,A1)
【文献】特開2020-066713(JP,A)
【文献】特開2019-001900(JP,A)
【文献】特開2020-041024(JP,A)
【文献】特開2020-063380(JP,A)
【文献】特開2017-165931(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/07
C08L 83/05
C08L 83/06
C08L 83/04
C08K 5/3495
C08G 77/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合したアルケニル基を有する、25℃の動粘度が10~100,000mm2/sのオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)ケイ素原子に直接結合した水素原子を1分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:ケイ素原子に直接結合した水素原子の個数が(A)成分のアルケニル基1個に対して0.5~1.5個となる量、
(C)10W/m・K以上の熱伝導率を有する熱伝導性充填材:500~7,000質量部、
(D)下記一般式(1)で表される分子鎖片末端がトリアルコキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン:10~300質量部、
【化1】
(式(1)中、R1は独立に炭素数1~6のアルキル基であり、aは5~100の数である。)
(E)白金族金属系硬化触媒:有効量
(F)ベンゾトリアゾール、下記一般式(2)で表されるベンゾトリアゾール誘導体又はその両方:(A)~(D)成分の合計質量に対し10~500ppm
【化2】
(式(2)中、R2は独立に水素原子又は炭素数1~6の一価炭化水素基であり、R3は水素原子又は一価の有機基である。)
及び
(G)下記一般式(3)で表されるオルガノポリシロキサン:1~100質量部、
【化3】
(式(3)中、R4は独立に脂肪族不飽和結合を有さない炭素原子数1~10の1価炭化水素基であり、bは2~2,000の数である。)
を含む熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項2】
(G)成分が、下記一般式(4)で表されるオルガノポリシロキサンを含む請求項1に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【化4】
(式(4)中、R5は独立に炭素原子数1~10のアルキル基であり、R6はフェニル基であり、c及びdはそれぞれ1~20の数であり、括弧内のシロキサン単位の配列順はランダム、交互またはブロックである。)
【請求項3】
更に、(H)アセチレン化合物、有機リン化合物、オキシム化合物及び有機クロロ化合物からなる群より選択される1種以上の付加反応制御剤を含む、請求項1又は2に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項4】
一般式(2)において、R3が水素原子、炭素数1~10の一価炭化水素基、又は下記式(5)で表される基である請求項1~3のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【化5】
[式(5)中、R7は炭素数1~15の一価炭化水素基、又は-(CH2e-Si(OR83{R8は独立に炭素数1~4のアルキル基又はSiR9 3基(R9は独立に炭素数1~4のアルキル基)であり、eは1~6の整数である。}であり、*は結合手を示す。]
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の熱伝導性シリコーン組成物の硬化物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性シリコーン組成物及びその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
LSIやICチップ等の電子部品は使用中の発熱及びそれに伴う性能の低下が広く知られており、これを解決するための手段として様々な放熱技術が用いられている。例えば、発熱部の付近にヒートシンクなどの冷却用途の部材を配置し、両者を密接させることで冷却部材へと効率的な伝熱を促して冷却部材を冷却することにより発熱部の放熱を効率的に行うことが知られている。その際、発熱部材と冷却部材との間に隙間があると、熱伝導性の低い空気が介在することにより伝熱が効率的でなくなるために発熱部材の温度が十分に下がらなくなってしまう。このような現象を防止するために発熱部材と冷却部材の間の空気の介在を防ぐ目的として、熱伝導率がよく、部材の表面に追随性のある放熱材料として、放熱シートや放熱グリースが用いられる(特許文献1~3)。
【0003】
昨今、車載用インバータ等のパワーモジュールは入出力電流が増加傾向にあり、コイルやバスバー自体の発熱も増加傾向にある。発熱によりコイルやバスバーの温度が上昇すると電気抵抗が増加するため効率的な放熱が不可欠であり、対策として放熱材料を取り付け、直接放熱を促す手法が多く取られるようになってきている。
【0004】
一方で、コイルやバスバーには銅線などの金属配線が用いられ、表面はニッケルや錫によるメッキやエポキシコートなどにより被覆されて使用される場合が一般的である。表面の被覆によりコイルやバスバーの金属配線の腐食を抑えることができるが、曲げ加工やキズ、被覆のピンホールにより金属が露出した部分から腐食が進行してしまうことがあり根本的な解決には至っていない。特に、放熱材料中に陽イオン性不純物が存在する場合、電気的に引き寄せられこれらの部材の腐食を促進させてしまう問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第2938428号公報
【文献】特許第2938429号公報
【文献】特許第3952184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明は、金属配線の腐食を抑制可能な放熱性に優れる硬化物(放熱材料)となる熱伝導性シリコーン組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、特定の動粘度を有するアルケニル基含有オルガノポリシロキサン、特定のオルガノハイドロジェンポリシロキサン、熱伝導性充填材、分子鎖片末端がトリアルコキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン、ベンゾトリアゾール及び/又はベンゾトリアゾール誘導体並びに特定のオルガノポリシロキサンを含む熱伝導性シリコーン組成物が、金属配線の腐食を抑制可能であることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は、次の熱伝導性シリコーン組成物及び熱伝導性シリコーン硬化物を提供するものである。
【0008】
[1]
(A)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合したアルケニル基を有する、25℃の動粘度が10~100,000mm2/sのオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)ケイ素原子に直接結合した水素原子を1分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:ケイ素原子に直接結合した水素原子の個数が(A)成分のアルケニル基1個に対して0.5~1.5個となる量、
(C)10W/m・K以上の熱伝導率を有する熱伝導性充填材:500~7,000質量部、
(D)下記一般式(1)で表される分子鎖片末端がトリアルコキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン:10~300質量部、
【化1】
(式(1)中、R1は独立に炭素数1~6のアルキル基であり、aは5~100の数である。)
(E)白金族金属系硬化触媒:有効量、
(F)ベンゾトリアゾール、下記一般式(2)で表されるベンゾトリアゾール誘導体又はその両方:(A)~(D)成分の合計質量に対し10~500ppm、
【化2】
(式(2)中、R2は独立に水素原子又は炭素数1~6の一価炭化水素基であり、R3は水素原子又は一価の有機基である。)
及び
(G)下記一般式(3)で表されるオルガノポリシロキサン:1~100質量部、
【化3】
(式(3)中、R4は独立に脂肪族不飽和結合を有さない炭素原子数1~10の1価炭化水素基であり、bは2~2,000の数である。)
を含む熱伝導性シリコーン組成物。
[2]
(G)成分が、下記一般式(4)で表されるオルガノポリシロキサンを含む[1]に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【化4】
(式(4)中、R5は独立に炭素原子数1~10のアルキル基であり、R6はフェニル基であり、c及びdは1~20の数であり、括弧内のシロキサン単位の配列順はランダム、交互またはブロックである。)
[3]
更に、(H)アセチレン化合物、窒素化合物、有機リン化合物、オキシム化合物及び有機クロロ化合物からなる群より選択される1種以上の反応制御剤を含む、[1]又は[2]に記載の熱伝導性シリコーン組成物。
[4]
一般式(2)において、R3が水素原子、炭素数1~10の一価炭化水素基、又は下記式(5)で表される基である[1]~[3]のいずれか1つに記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【化5】
[式(5)中、R7は炭素数1~15の一価炭化水素基、又は-(CH2e-Si(OR83{R8は独立に炭素数1~4のアルキル基又はSiR9 3基(R9は独立に炭素数1~4のアルキル基)であり、eは1~6の整数である。}であり、*は結合手を示す。]
[5]
[1]~[4]のいずれか1つに記載の熱伝導性シリコーン組成物の硬化物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、その硬化物が放熱性能に優れ、ベンゾトリアゾール及び/又はベンゾトリアゾール誘導体と、架橋構造に関与せずブリードし易いオイル成分とを適当量配合したことにより、銅などの金属表面に安定な被膜が形成され腐食を抑制することができる。従って、本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、バスバーやコイルなどの金属配線の冷却部材への熱伝導材料(放熱材料)として好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
【0011】
[熱伝導性シリコーン組成物]
<(A)アルケニル基含有オルガノポリシロキサン>
(A)成分であるアルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上、好ましくは2~10個、より好ましくは2~5個有するオルガノポリシロキサンである。主鎖部分が基本的にジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなるのが一般的であるが、これは分子構造の一部に分枝状の構造を含んだものであってもよく、また環状であってもよいが、硬化物の機械的強度等、物性の点から直鎖状のジオルガノポリシロキサンが好ましい。
【0012】
アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基等の通常炭素原子数2~8程度のものが挙げられ、中でもビニル基、アリル基等の低級アルケニル基が好ましく、特に好ましくはビニル基である。なお、ケイ素原子に結合するアルケニル基は、オルガノポリシロキサンの分子鎖の末端、及び分子鎖の途中のいずれに存在してもよいが、得られる硬化物の柔軟性の点から分子鎖末端のケイ素原子にアルケニル基が結合しているものが好ましい。
【0013】
ケイ素原子に結合するアルケニル基以外の基としては、非置換又は置換の1価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基などのアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニリル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等のアラルキル基、並びにこれらの基の炭素原子に結合している水素原子の一部又は全部が、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、又はシアノ基などで置換された基、例えば、クロロメチル基、2-ブロモエチル基、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基、シアノエチル基、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシル基等が挙げられる。これらの中でも、(A)成分のオルガノポリシロキサンのケイ素原子に結合するアルケニル基以外の基としては、好ましくは炭素原子数が1~10、より好ましくは炭素原子数が1~6のものであり、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、クロロメチル基、ブロモエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、シアノエチル基等の炭素原子数1~3の非置換又は置換のアルキル基及びフェニル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基等の非置換又は置換のフェニル基であり、特に好ましくはメチル基である。また、ケイ素原子に結合したアルケニル基以外の基は全てが同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。
【0014】
(A)成分の25℃における動粘度は、10~100,000mm2/sの範囲であり、好ましくは100~50,000mm2/sの範囲である。動粘度が10mm2/s未満であると熱伝導性充填材との均一な混合が難しく、100,000mm2/sを超えると組成物の粘度が上昇し混練操作自体が難しくなる。なお、動粘度はオストワルド粘度計を用いた25℃における値である。
【0015】
(A)成分としては、例えば、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖片末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖され分子鎖の他方の末端がトリメチルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン・メチルビニルポリシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルポリシロキサン共重合体などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0016】
(A)成分は、1種単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。組成物中の(A)成分の配合量は、0.5~10質量%であることが好ましく、1~5質量%であることがより好ましい。
【0017】
<(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサン>
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1分子中に2個以上、好ましくは2~30個、より好ましくは2~20個のケイ素原子に直接結合する水素原子(Si-H基)を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、(A)成分の架橋剤として作用する成分である。即ち、(B)成分中のSi-H基と(A)成分中のアルケニル基とが後述の(E)成分の白金族金属系硬化触媒により促進されるヒドロシリル化反応により付加して、得られる硬化物に架橋構造を有する3次元網目構造を与える。なお、(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンのSi-H基の数が1分子中に2個未満の場合、硬化しないおそれがある。
【0018】
(B)成分は、直鎖状、分岐状及び環状のいずれであってもよく、分子中にこれらの複数の構造を有するものであってもよい。また、Si-H基は、分子鎖末端、及び分子鎖の途中のいずれに位置していてもよく、両方に位置するものであってもよい。
【0019】
ケイ素原子に結合するSi-H基以外の有機基としては、非置換又は置換の炭素数1~12、特に脂肪族不飽和結合を有さない炭素数1~6の一価炭化水素基であることが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ドデシル基などのアルキル基、フェニル基などのアリール基、2-フェニルエチル基、2-フェニルプロピル基などのアラルキル基、クロロメチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基などのハロゲン置換炭化水素基、2-グリシドキシエチル基、3-グリシドキシプロピル基、4-グリシドキシブチル基などのエポキシ置換炭化水素基などが挙げられ、特にメチル基が好ましい。
【0020】
(B)成分としては、例えば、(CH32HSiO1/2単位と(CH32SiO2/2単位とからなる共重合体、(CH32HSiO1/2単位と(CH33SiO1/2単位と(CH32SiO単位とからなる共重合体、(CH33SiO1/2単位と(CH32SiO2/2単位と(CH3)HSiO2/2単位とからなる共重合体、(CH32HSiO1/2単位と(CH33SiO1/2単位と(CH32SiO2/2単位と(CH3)HSiO2/2単位とからなる共重合体、(CH33SiO1/2単位と(CH3)HSiO2/2単位とからなる共重合体、(CH32HSiO1/2単位と(CH32SiO2/2単位と(CH3)HSiO2/2単位とからなる共重合体、(CH33SiO1/2単位と(CH32HSiO1/2単位と(CH3)HSiO2/2単位とからなる共重合体、(CH3)HSiO2/2単位からなる環状重合体、(CH3)HSiO2/2単位と(CH32SiO2/2単位とからなる環状共重合体などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これら(B)成分の添加量は、(B)成分由来のSi-H基が(A)成分由来のアルケニル基1個に対して0.5個から1.5個となる量、好ましくは0.7~1.3個となる量である。(B)成分のSi-H基量が(A)成分由来のアルケニル基1個に対して0.5個未満であると組成物が硬化しない場合があり、または硬化物の強度が不十分で成形体としての形状を保持出来ず取り扱えない場合がある。また、(B)成分のSi-H基量が(A)成分由来のアルケニル基1個に対して1.5個を超えると架橋密度が高くなりすぎてしまい硬化物の柔軟性を損なうおそれがある。
【0022】
<(C)熱伝導性充填材>
(C)成分の熱伝導性充填材としては、熱伝導率が10W/m・K以上、好ましくは15W/m・K以上のものが使用される。熱伝導率が10W/m・Kより小さいと、熱伝導性シリコーン組成物の熱伝導率そのものが小さくなるためである。かかる熱伝導性充填材としては、アルミニウム粉末、銅粉末、銀粉末、鉄粉末、ニッケル粉末、金粉末、錫粉末、金属ケイ素粉末、窒化アルミニウム粉末、窒化ホウ素粉末、酸化アルミニウム(アルミナ)粉末、酸化マグネシウム(マグネシア)粉末、ダイヤモンド粉末、カーボン粉末、インジウム粉末、ガリウム粉末、酸化亜鉛粉末などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、(C)成分の形状は、不定形であっても球形であってもよい。
【0023】
(C)成分の平均粒径は0.1~100μmの範囲が好ましく、より好ましくは0.1~90μmの範囲である。平均粒径が0.1μmより小さいと組成物への充填性が悪化する場合があり、100μmより大きいと成形後の硬化物の表面が荒れるため熱抵抗が大きくなってしまう場合がある。なお、本発明において、平均粒径は日機装(株)製マイクロトラックMT330OEXにより測定した体積平均径[MV]である。
【0024】
(C)成分は、1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(C)の配合量は、(A)成分100質量部に対して、500~7,000質量部の範囲であり、好ましくは1,000~6,500質量部、より好ましくは2,000~6,000質量部である。500質量部より少ないと硬化物の熱伝導率が小さくなり、7,000質量部より多いと組成物の粘度が上昇し、成形性の悪化につながる。
【0025】
<(D)分子鎖片末端がトリアルコキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン>
(D)成分は、下記一般式(1)
【化6】
(式(1)中、R1は独立に炭素数1~6のアルキル基であり、aは5~100の数である。)
で表される分子鎖片末端がトリアルコキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサンである。
【0026】
式(1)中のR1で表される炭素原子数1~6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基及びヘキシル基等が挙げられ、中でもメチル基が好ましい。
【0027】
aは、5~100、好ましくは10~60の数である。aが5より小さいと熱伝導性充填材の分散性が低下し、100より大きいと熱伝導性が低下するおそれがある。
【0028】
(D)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して10~300質量部であり、好ましくは10~200質量部の範囲である。(D)成分の配合量が(A)成分100質量部に対して10質量部より少ないと、熱伝導性シリコーン組成物中の熱伝導性充填材の分散性が低下し組成物の粘度が大きくなり、配合量が300質量部を超える場合、熱伝導性充填材を希釈することになるため熱伝導性が低下するおそれがある。
【0029】
<(E)白金族金属系硬化触媒>
(E)成分の白金族金属系硬化触媒は(A)成分由来のアルケニル基と、(B)成分由来のSi-H基との付加反応を促進するための触媒であり、ヒドロシリル化反応に用いられる触媒として周知の触媒が挙げられる。その具体例としては、例えば、白金(白金黒を含む)、ロジウム、パラジウム等の白金族金属単体;H2PtCl4・nH2O、H2PtCl6・nH2O、NaHPtCl6・nH2O、KaHPtCl6・nH2O、Na2PtCl6・nH2O、K2PtCl4・nH2O、PtCl4・nH2O、PtCl2、Na2HPtCl4・nH2O(但し、式中、nは0~6の整数であり、好ましくは0又は6である)等の塩化白金、塩化白金酸及び塩化白金酸塩;アルコール変性塩化白金酸(米国特許第3,220,972号明細書参照);塩化白金酸とオレフィンとのコンプレックス(米国特許第3,159,601号明細書、同第3,159,662号明細書、同第3,775,452号明細書参照);白金黒、パラジウム等の白金族金属を酸化アルミニウム、シリカ、カーボン等の担体に担持させたもの;ロジウム-オレフィンコンプレックス;クロロトリス(トリフェニルフォスフィン)ロジウム(ウィルキンソン触媒);塩化白金、塩化白金酸又は塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサン、特にビニル基含有環状シロキサンとのコンプレックスなどが挙げられる。(E)成分の配合量は、所謂触媒量でよく、通常、(A)成分に対する白金族金属元素の質量換算で、0.1~1,000ppm程度がよい。(E)成分は前記した各種白金族金属触媒を2-エチルヘキサノール等の溶剤に溶解したものを用いてもよい。
【0030】
<(F)ベンゾトリアゾール及び/又はベンゾトリアゾール誘導体>
(F)成分は、ベンゾトリアゾール及び/又は下記一般式(2)
【化7】
(式(2)中、R2は独立に水素原子又は炭素数1~6の一価炭化水素基であり、R3は水素原子又は一価の有機基である。)
で示されるベンゾトリアゾール誘導体である。
【0031】
上記式(2)中、R2で表される炭素数1~6の一価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等のアルキル基及び、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換したもの、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフルオロプロピル基、シアノエチル基等が挙げられる。これらの中でも、合成上の観点から水素原子又はメチル基であることが好ましい。
【0032】
3で表される一価の有機基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基等の炭素数1~10の一価炭化水素基、並びに下記式(5)で示される基などが挙げられる。
【0033】
【化8】
[式(5)中、R7は炭素数1~15の一価炭化水素基、又は-(CH2e-Si(OR83{R8は独立に炭素数1~4のアルキル基又はSiR9 3基(R9は独立に炭素数1~4のアルキル基)であり、eは1~6、好ましくは1~3の整数である。}であり、*は結合手を示す。]
【0034】
7の一価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ドデシル基などのアルキル基、フェニル基などのアリール基、2-フェニルエチル基、2-フェニルプロピル基などのアラルキル基等が例示できる。
【0035】
8及びR9のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基などが例示できる。
【0036】
(F)成分の具体例を以下に示す。
【0037】
【化9】
【0038】
(F)成分の配合量は、(A)~(D)成分の合計質量に対して10~500ppmの範囲であり、好ましくは20~400ppm、より好ましくは30~300ppmである。(F)成分の配合量が10ppmよりも少ないと対象金属に十分な防腐食性を付与することが出来ず、500ppmよりも多いと(E)成分の白金族金属系硬化触媒を多量に配合する必要があり不経済である。
【0039】
<(G)脂肪族不飽和結合を有さないオルガノポリシロキサン>
(G)成分は、下記一般式(3):
【化10】
(式(3)中、R4は独立に脂肪族不飽和結合を有さない炭素原子数1~10の1価炭化水素基であり、bは2~2,000の数である。)
で表される脂肪族不飽和結合を含まないオルガノポリシロキサンである。(G)成分は、組成物中において架橋構造に影響を与えることなくオイルとして存在するため、上記(F)成分と共に組成物中から徐々に対象金属の表面へ移行することにより防腐食効果を高めることができる。
【0040】
4の1価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などのアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などのアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等のアラルキル基、並びにこれらの基の炭素原子に結合している水素原子の一部又は全部が、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、又はシアノ基などで置換された基、例えば、クロロメチル基、2-ブロモエチル基、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基、シアノエチル基、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシル基等が挙げられ、メチル基、フェニル基が好ましい。
【0041】
bは、2~2,000の数であり、2~200の数であることが好ましい。
【0042】
(G)成分は、下記一般式(4):
【化11】
(式(4)中、R5は独立に炭素原子数1~10のアルキル基であり、R6はフェニル基であり、c及びdはそれぞれ1~20の数であり、括弧内のシロキサン単位の配列順はランダム、交互またはブロックである。)
で表されるフェニル基含有オルガノポリシロキサンを含むことが好ましい。
【0043】
5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などが挙げられ、メチル基が好ましい。
【0044】
(G)成分の配合量は、成分(A)100質量部に対して1~100質量部の範囲であり、好ましくは2~90質量部、さらに好ましくは5~80質量部である。(G)成分の配合量が1質量部よりも少ない場合、防腐食効果が得にくくなり、100質量部よりも多い場合、ブリードオイルが多くなりすぎるため、経時での組成物の粘度や硬化物の硬度が著しく増加する場合がある。
(G)成分のうち、一般式(4)で示されるものの割合は、(G)成分総量のうち質量基準で、5~50質量%であることが好ましく、10~40質量%であることがより好ましい。
【0045】
<(H)付加反応制御剤>
本発明の熱伝導性シリコーン組成物には、さらに(H)成分として、上記(E)成分の触媒活性を抑制し、組成物のシェルフライフ、ポットライフを延長させる目的で付加反応制御剤を配合することができる。
【0046】
(H)成分としては公知の付加反応制御剤を使用することができる。例えば、1-エチニル-1-シクロヘキサノール、3-ブチン-1-オール、エチニルメチリデンカルビノールなどのアセチレン化合物、窒素化合物、有機リン化合物、オキシム化合物、有機クロロ化合物等が挙げられる。
【0047】
(H)成分の配合量としては、有効量でよいが、(A)成分100質量部に対して0.01~1質量部程度が好ましく、そのまま組成物に添加してもトルエン等の溶剤で希釈して使用してもよい。
【0048】
<(I)充填材>
本発明の熱伝導性シリコーン組成物には、さらに(I)成分として、組成物の粘度及び硬化物の硬度を調節する目的で、(C)成分以外の充填材を配合することができる。
【0049】
(I)成分としては、安価で比重が比較的小さい点で水酸化アルミニウム、シリカが好ましい。
【0050】
(I)成分の平均粒径は0.1~100μmの範囲が好ましく、より好ましくは1~80μmの範囲である。
【0051】
(I)成分を配合する場合、その配合量は、組成物の熱伝導率の点から、(A)成分100質量部に対して、100~3,000質量部であることが好ましく、500~1,500質量部であることがより好ましい。この(I)成分は、本発明の熱伝導性シリコーン組成物に、そのまま配合してもよいし、予め(C)成分と混合してから配合してもよい。
【0052】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、上記した成分に加え、本発明の目的を損なわない範囲で、更に、着色材、酸化防止剤等を配合してもよい。
【0053】
[熱伝導性シリコーン組成物の製造方法]
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、上記した各成分を均一に混合することにより製造される。混合方法は、従来公知の方法に従えばよく、混合する装置としては、トリミックス、ツウィンミックス、プラネタリミキサー(いずれも(株)井上製作所製混合機の登録商標)、ウルトラミキサー(みずほ工業(株)製混合機の登録商標)、ハイビスディスパーミックス(特殊機化工業(株)製混合機の登録商標)等が挙げられる。また、配合する全成分を一度に混合してもよく、1種又は2種以上の成分を数段階に分けて混合してもよいが、(C)成分及び(D)成分は同時に配合することが好ましい。
【0054】
[熱伝導性シリコーン硬化物の製造方法]
本発明の熱伝導性シリコーン組成物を、好ましくは80~180℃、特に90~170℃にて30~150分間、特に40~140分間加熱することにより硬化物とすることができる。
【0055】
[熱伝導性シリコーン硬化物の熱伝導率]
本発明における硬化物(成形体)の熱伝導率は、ホットディスク法により測定した25℃における測定値が3.0W/m・K以上であることが好ましく、さらに好ましくは4.0W/mK以上である。なお、硬化物(成形体)の熱伝導率の上限は特に限定されないが、例えば、酸化マグネシウムを用いた場合、その熱伝導率40W/m・K以下である。
【実施例
【0056】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0057】
[熱伝導性シリコーン組成物の調製]
下記実施例に用いられている(A)~(H)成分を下記に示す。
【0058】
(A)成分
両末端がジメチルビニルシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサン(25℃における動粘度600mm2/s)
【0059】
(B)成分
下記式で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン
【化12】
(括弧内のシロキサン単位の配列順は不定である。)
【0060】
(C)成分
(C-1):アルミナ粉末(平均粒径:1μm、熱伝導率:27W/m・K)
(C-2):アルミナ粉末(平均粒径:10μm、熱伝導率:27W/m・K)
(C-3):アルミナ粉末(平均粒径:28μm、熱伝導率:27W/m・K)
(C-4):アルミナ粉末(平均粒径:70μm、熱伝導率:27W/m・K)
(C-5):マグネシア粉末(平均粒径:55μm、熱伝導率:40W/m・K)
【0061】
(D)成分
下記式で表される分子鎖片末端がトリメトキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン
【化13】
【0062】
(E)成分
5%塩化白金酸2-エチルヘキサノール溶液
【0063】
(F)成分
(F-1):下記式で表される化合物
【化14】
(F-2):下記式で表される化合物
【化15】
【0064】
(G)成分
(G-1):下記式で表されるジメチルポリシロキサン
【化16】
(G-2):下記式で表されるメチルフェニルポリシロキサン
【化17】
(式中、括弧内のシロキサン単位の配列順は不定である。)
【0065】
(H)成分
エチニルメチリデンカルビノール
【0066】
(I)成分
(I-1):水酸化アルミニウム粉末(平均粒径:1μm、熱伝導率:3.2W/m・K)
(I-2):水酸化アルミニウム粉末(平均粒径:12μm、熱伝導率:3.2W/m・K)
(I-3):水酸化アルミニウム粉末(平均粒径:64μm、熱伝導率:3.2W/m・K)
【0067】
[実施例1~6、比較例1~5]
表1及び表2に示す配合量(質量部)で下記成分を順次加えた。5リットルプラネタリーミキサー((株)井上製作所製)を用いて、(A)及び(D)成分、並びに、(C)成分及び(I)成分を予め混合したものを60分間混練した。次に成分(B)、(E)、(F)、(G)及び(H)成分を加えて30分間混練し、熱伝導性シリコーン組成物を得た。
【0068】
[成形方法]
調製した熱伝導性シリコーン組成物を60mm×60mm×6mmの金型に流し込み、金型開口部をPETフィルム2枚ではさんだ後、プレス成形機を用い、120℃で、10分間硬化させることで熱伝導性シリコーン硬化物(熱伝導性シリコーンシート)を得た。
【0069】
[評価方法]
熱伝導率:
下記実施例1~6及び比較例1~5で得られた6mm厚のシートを2枚用いて、熱伝導率計(TPA-501、京都電子工業株式会社製の商品名)により硬化物の熱伝導率を測定した。
【0070】
硬度:
熱伝導性シリコーン硬化物の硬度をSRIS0101に規定されているアスカーC硬度計で測定した。
【0071】
銅腐食試験:
1)銅板洗浄
アセトンを含侵させたガーゼで銅板の表面の油脂をふき取った後、10質量%硫酸水溶液に15分浸漬した。取り出した銅板を純水で洗浄後乾燥させ試験に用いた。
2)試験手順
成形した熱伝導性シリコーン硬化物を上記銅板上に設置し24時間静置した。その後、熱伝導性シリコーン硬化物を除去した銅板を85℃、85%RHの高温高湿槽中に保管し、エージングを実施した。エージング時間100時間、500時間、1,000時間経過後に銅板を取り出し、銅板表面の腐食の有無を観察した。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
実施例1~6で得られた熱伝導性シリコーン硬化物は熱伝導率3.0W/m・K以上を有し銅腐食試験においてエージング時間1000時間まで腐食が確認されなかった。
対して比較例1及び3のように(F)成分を十分な量含有しない場合、銅の腐食が見られた。一方、(F)成分を過剰に添加した比較例2では、(E)成分の失活により硬化物が得られなかった。また、比較例4のように(G)成分を含まない組成では、銅腐食試験500時間で腐食が発生した。更に、比較例5のように(G)成分を過剰に加えた場合、熱伝導性充填材の割合が低下し熱伝導率が3.0W/m・Kを下回る結果となった。